(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】炎検出装置
(51)【国際特許分類】
G01J 1/02 20060101AFI20221129BHJP
G01J 1/06 20060101ALI20221129BHJP
G08B 17/12 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G01J1/02 J
G01J1/06 A
G08B17/12 A
(21)【出願番号】P 2018063678
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】松熊 秀成
(72)【発明者】
【氏名】川本 裕二
(72)【発明者】
【氏名】奥山 克明
(72)【発明者】
【氏名】浅野 功
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-249047(JP,A)
【文献】特開2003-263688(JP,A)
【文献】特開平04-099926(JP,A)
【文献】特開2005-122437(JP,A)
【文献】特開2007-048225(JP,A)
【文献】特開2000-215364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 1/02- G01J 1/06
G01J 1/42
G01J 5/00- G01J 5/90
G08B 17/00
G08B 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼炎から放射される放射線エネルギーを炎検出センサにより観測すると共に、燃焼炎以外から放射される放射線エネルギーを非炎検出センサにより観測して燃焼炎を検出する炎検出装置であって、
前記非炎検出センサは、前記炎検出センサに隣接して配置され、
前記炎検出装置の外形が、前記炎検出センサの前記非炎検出センサに隣接しない側の視野範囲を前記非炎検出センサの視野範囲内に制限する形状に形成され、
前記炎検出センサと前記非炎検出センサとの間に、前記炎検出センサの
前記非炎検出センサに隣接する側の視野範囲を前記非炎検出センサの視野範囲内に制限する視野規制部材を備えたことを特徴とする炎検出装置。
【請求項2】
燃焼炎から放射される放射線エネルギーを炎検出センサにより観測すると共に、燃焼炎以外から放射される放射線エネルギーを非炎検出センサにより観測して燃焼炎を検出する炎検出装置であって、
前記非炎検出センサは、前記炎検出センサに隣接して配置され、
前記炎検出装置の外形が、前記炎検出センサの前記非炎検出センサに隣接しない側の視野範囲を前記非炎検出センサの視野範囲内に制限する形状に形成され、
前記炎検出センサは、自身の視野範囲内
の前記非炎検出センサに隣接する側に、前記非炎検出センサの視野範囲と重ならない単一視野領域を有し、
前記炎検出センサと前記非炎検出センサとの間に、前記単一視野領域を減じる視野規制部材を備えたことを特徴とする炎検出装置。
【請求項3】
請求項1
又は2記載の炎検出装置に於いて、
前記視野規制部材は、前記炎検出センサに装着される断熱カバーと一体に形成されたことを特徴とする炎検出装置。
【請求項4】
請求項
3記載の炎検出装置に於いて、
前記断熱カバーは
、
前記炎検出センサに嵌合される上下に開口したカバー本体
と、
前記カバー本体の上部開口を囲んで起立された所定高さの視野規制壁と
、
を備えたことを特徴とする炎検出装置。
【請求項5】
請求項
3又は
4記載の炎検出装置に於いて、
前記断熱カバーは
、絶縁体で構成され
たことを特徴とする炎検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有炎燃焼時のCO2共鳴により発生する赤外線放射を検出して、炎の有無を判定する炎検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有炎燃焼により発生する放射線エネルギーを検出して、炎の有無を検出する炎検出装置にあっては、炎と炎以外の赤外線放射体との識別を行うため、有炎燃焼時に発生するCO2の共鳴放射に伴い発生する赤外線波長帯域を含む複数の波長帯域における放射線強度を検出して、それら複数の波長帯域における検出値の相対比により炎の有無を検出する2波長式、3波長式等の炎検出装置や炎検出方法がよく知られている。
【0003】
ここで、従来技術における2波長式、及び、3波長式の炎検出装置について、簡単に説明する。
【0004】
図12は、燃焼炎と、その他の代表的な放射体の赤外波長域における放射線スペクトルを示す概念図であり、横軸は放射線の波長、縦軸は放射線の相対強度を示す。
【0005】
図12に示すように、燃焼炎のスペクトル特性100においては、CO
2の共鳴放射により4.5μm付近の波長帯域に放射線相対強度のピークがあり、また、このピーク波長の近傍に存在する特徴的な波長としては、例えば、長波長側の5.0μm付近に、放射線相対強度が低い波長帯域が存在する。
【0006】
以下では、特に断らない限り、CO2共鳴放射帯とは、4.5μm帯を指すものとする。
【0007】
2波長式の炎検出装置にあっては例えば、4.5μm付近の波長帯域と、5.0μm付近の波長帯域における各々の放射線エネルギーを光学波長バンドパスフィルタにより選択透過(通過)させて、4.5μm帯受光センサ(便宜上「炎検出センサ」という)と5.0μm帯受光センサ(便宜上「非炎検出センサ」という)により放射線エネルギーを受光し、これを光電変換したうえで増幅等所定の加工を施してエネルギー量に対応する電気信号(以下、「受光信号」という)とし、4.5μm帯の炎受光信号レベルと5.0μm帯の波長帯域の非炎受光信号レベルの相対比をとり、所定の閾値と比較することにより炎の有無を判定する。
【0008】
これにより、炎以外の赤外線放射体、例えば、スペクトル特性104に示す300°C程度の比較的低温の放射体、スペクトル特性106に示す人体などの低温放射体等と炎との識別が可能となる。
【0009】
また、例えば、上述した2波長に加え、CO2の共鳴放射帯に対し短波長側の、例えば、2.3μm付近の波長帯域における放射線エネルギーを他の2波長と同様の手法で検出し、これらの3波長帯域における各受光信号の相対比によって炎の有無を判定する3波長式の炎検出装置も知られており、これにより、例えばスペクトル特性102に示す太陽光(6000°C)等の高温放射体と炎の識別が可能になる。このように3波長式とすることで、炎と炎以外の赤外線放射体との識別性能をさらに向上させている。
【0010】
また、近年にあっては、炎の検出エリアを拡大するため、炎から放射される4.5μm付近の放射線エネルギーを受光する受光ユニットを例えば従来の倍数に増設し、各受光センサで光電変換しこれらを必要に応じ適宜それぞれ増幅等して加工した各受光信号を加算することで、検出エリアを拡大してもS/N比を損なうことなく、十分な検出感度が得られるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第4404329号公報
【文献】特許第4817285号公報
【文献】特許第3357330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、燃焼炎から放射される4.5μm付近の放射線エネルギーを受光する炎受光ユニットと炎以外から放射される放射線エネルギーを受光する非炎受光ユニットを設けた2波長式又は3波長式の炎検出装置にあっては、透光性窓の内側に配置する炎検出センサと非炎検出センサの配置場所の相違により、透光性窓により規制される炎検出センサの視野範囲と非炎検出センサの視野範囲が相違し、炎検出センサのみで見える範囲が生ずる場合がある。炎検出センサと非炎検出センサの視野特性が異なることによっても、同様の事象が発生する場合がある。
【0013】
このため炎検出センサのみが見える範囲に照明ランプ等の発光体が存在した場合、炎検出センサのみが発光体からの放射線エネルギーを受光し、非炎検出センサは発光体からの放射線エネルギーを受光しないため、誤って炎と判断して非火災報を出力してしまう可能性がある。
【0014】
本発明は、燃焼炎からの放射線を炎検出センサにより観測し、燃焼炎以外からの放射線を非炎検出センサにより観測して燃焼炎の有無を判断し検出する炎検出装置について、炎検出センサのみが見えている視野範囲を規制して炎の誤判断による非火災報を防止するようにした炎検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(炎検出装置)
本発明は、燃焼炎から放射される放射線エネルギーを炎検出センサにより観測すると共に、燃焼炎以外から放射される放射線エネルギーを非炎検出センサにより観測して燃焼炎を検出する炎検出装置であって、
非炎検出センサは、炎検出センサに隣接して配置され、
炎検出装置の外形が、炎検出センサの非炎検出センサに隣接しない側の視野範囲を非炎検出センサの視野範囲内に制限する形状に形成され、
炎検出センサと非炎検出センサとの間に、炎検出センサの非炎検出センサに隣接する側の視野範囲を非炎検出センサの視野範囲内に制限する視野規制部材を備えたことを特徴とする。
【0016】
(視野規制部材を一体化した断熱カバー)
視野規制部材は、炎検出センサに装着される断熱カバーと一体に形成される。
【0017】
(カバー本体と視野規制壁とを備えた断熱カバー)
断熱カバーは、
炎検出センサに嵌合される上下に開口したカバー本体と、
カバー本体の上部開口を囲んで起立された所定高さの視野規制壁と、
を備える。
【0018】
(絶縁体で構成された断熱カバー)
断熱カバーは、絶縁体で構成される。
【0019】
(単一視野領域を減じる視野規制材)
また、本発明の別の形態として、燃焼炎から放射される放射線エネルギーを炎検出センサにより観測すると共に、燃焼炎以外から放射される放射線エネルギーを非炎検出センサにより観測して燃焼炎を検出する炎検出装置であって、
非炎検出センサは、炎検出センサに隣接して配置され、
炎検出装置の外形が、炎検出センサの非炎検出センサに隣接しない側の視野範囲を非炎検出センサの視野範囲内に制限する形状に形成され、
炎検出センサは、自身の視野範囲内の非炎検出センサに隣接する側に、非炎検出センサの視野範囲と重ならない単一視野領域を有し、
炎検出センサと非炎検出センサとの間に、単一視野領域を減じる視野規制部材を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
(基本的な効果)
本発明は、燃焼炎から放射される放射線エネルギーを炎検出センサにより観測すると共に、燃焼炎以外から放射される放射線エネルギーを非炎検出センサにより観測して燃焼炎を検出する炎検出装置であって、非炎検出センサは、炎検出センサに隣接して配置され、炎検出装置の外形が、炎検出センサの非炎検出センサに隣接しない側の視野範囲を非炎検出センサの視野範囲内に制限する形状に形成され、炎検出センサと非炎検出センサとの間に、炎検出センサの非炎検出センサに隣接する側の視野範囲を非炎検出センサの視野範囲内に制限する視野規制部材を備えたため、炎検出センサと非炎検出センサの設置場所が相違することで、透光性窓で決まるそれぞれの視野範囲が相違し、炎検出センサのみで見える範囲が生じても、視野規制部材によって炎検出センサの視野範囲が非炎検出センサの視野範囲内に規制されて炎検出センサのみで見える範囲がなくなり、燃焼炎以外の発光体からの放射線エネルギーを受けた場合に、誤って炎と判断して非火災報を出力してしまうことを確実に防止できる。
【0021】
(視野規制部材を一体化した断熱カバーによる効果)
また、視野規制部材は、炎検出センサに装着される断熱カバーと一体に形成され、断熱カバーは、炎検出センサに嵌合される上下に開口したカバー本体と、カバー本体の上部開口を囲んで起立された所定高さの視野規制壁とを備えたことで、炎検出センサの視野範囲が非炎検出センサの視野範囲内に規制されると同時に、炎検出センサ周辺の気流の流通などにより炎検出センサのカバー部材等外装部の急激な温度変化を抑制する。
【0022】
すなわち、炎検出センサのみで見える範囲がなくなり、燃焼炎以外の発光体からの放射線エネルギーを受けた場合に、誤って炎と判断して非火災報を出力してしまうことを確実に防止できると同時に、外装部の温度が急激に変化することに起因して(炎検出センサが自身の外装部の温度変化に伴う赤外線放射を受光することで)炎受光信号が出力され、炎検出装置が非火災報を出力してしまうことを確実に防止できる。
【0023】
また、視野規制材と断熱カバーとを一体に形成するので、部品点数が低減し、コストも低減できる。
【0024】
(絶縁体で構成された断熱カバーの効果)
また、断熱カバーが絶縁体で構成されるので、筐体表面に印加された静電気が炎検出センサに伝達されることを防止する。
【0025】
(単一視野領域を減じる視野規制材の効果)
また、本発明の別の形態として、燃焼炎から放射される放射線エネルギーを炎検出センサにより観測すると共に、燃焼炎以外から放射される放射線エネルギーを非炎検出センサにより観測して燃焼炎を検出する炎検出装置であって、非炎検出センサは、炎検出センサに隣接して配置され、炎検出装置の外形が、炎検出センサの非炎検出センサに隣接しない側の視野範囲を非炎検出センサの視野範囲内に制限する形状に形成され、炎検出センサは、自身の視野範囲内の非炎検出センサに隣接する側に、非炎検出センサの視野範囲と重ならない単一視野領域を有し、炎検出センサと非炎検出センサとの間に、単一視野領域を減じる視野規制部材を備えたため、炎検出センサのみで見える範囲が減じられ、火災の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図4】
図1の炎検出装置に組み込まれる検出センサを組立分解状態で示した説明図
【
図6】
図5の炎検出センサの等価回路を示した回路図
【
図7】炎検出センサと非炎検出センサの配置と視野規制部材により規制された視野範囲を示した説明図
【
図8】炎検出センサに装着した断熱カバーにより規制された視野範囲を示した説明図
【
図9】
図1の実施形態に適用される光学波長フィルタ及び透光性窓の各波長における透過率を示した特性図
【
図10】燃焼炎から放射される放射線エネルギーを観測した場合に
図1の炎検出ユニットから出力される炎受光信号を示した信号波形図
【
図11】燃焼炎から放射される放射線エネルギーを観測した場合に得られる加算した炎受光信号の周波数分布を示した説明図
【
図12】燃焼炎と、その他の代表的な放射体の放射線スペクトルを示した特性図
【発明を実施するための形態】
【0027】
[炎検出装置]
(装置概要)
図1は炎検出装置の実施形態を示したブロック図であり、2波長式の炎検出装置を例にとっている。本実施形態の炎検出装置は、監視領域の炎の有無を検出する火災検出装置であるものとする。
図1に示すように、本実施形態の炎検出装置10の検出部101は、炎検出ユニット12a、非炎検出ユニット12b、MPU(マイクロ処理ユニット)15に設けられた判断部36で構成される。
【0028】
炎検出ユニット12aは、監視領域に存在する燃焼炎から放射される放射線エネルギーを観測するものであり、大別して、燃焼炎からCO2共鳴により放射される、概ね4.5μmを中心波長とする波長帯の放射線エネルギーを受光して光電変換し、炎受光信号E1を出力する。
【0029】
炎検出ユニット12aには、サファイアガラス等を用いた赤外線透光性窓18、炎検出センサ16a、前置フィルタ24a、プリアンプ26a、メインアンプ28aが設けられ、メインアンプ28aから出力された炎受光信号E1は終段アンプ30aを介して炎受光信号E1’となり、MPU15のA/D変換ポート35aでデジタル受光信号(説明の便宜上、このデジタル受光信号も「炎受光信号E1’」という)に変換して取り込まれる。
【0030】
非炎検出ユニット12bは、監視領域に存在する燃焼炎以外の発熱体等から放射される放射線エネルギーを観測するものであり、概ね5.0μm~7.0μmの波長帯域の放射線エネルギーを受光して電気信号に変換した非炎受光信号E4を出力する。
【0031】
非炎検出ユニット12bには、炎検出ユニット12aと共用する赤外線透光性窓18、非炎検出センサ16b、前置フィルタ24b、プリアンプ26b、メインアンプ28bが設けられ、メインアンプ28bから出力された非炎受光信号E2は終段アンプ30bを介して非炎受光信号E2’となり、MPU15のA/D変換ポート35bでデジタル受光信号(説明の便宜上、このデジタル受光信号も「非炎受光信号E2’」という)に変換して取り込まれる。
【0032】
判断部36は、炎受光信号E1’と非炎受光信号E2’の相対比に基づいて炎の有無を判断する。
【0033】
(装置外観と検出ユニット)
図2は炎検出装置の外観を示した説明図、
図3は
図2の炎検出装置の正面から示した説明図、
図4は
図2の炎検出装置に組み込まれる検出ユニットを組立分解状態で示した説明図である。
【0034】
図2及び
図3に示すように、炎検出装置10は、2組の検出部101を備える。すなわち、筐体50の前部に設けられたセンサ収納部52に一対の透光性窓18を設け、透光性窓18部分の各々内側に、
図1に示した炎検出ユニット12aと非炎検出ユニット12bを収容して配置している。また、透光性窓18の近傍の内部の各検出センサを見通せる位置に、各個別の試験ランプを外部試験光源として収納した試験光源用透光窓部
53を設けている。
【0035】
なお、
図1のMPU15、判断部36は2組の検出ユニット101で共用して良い。この場合、
図1のMPU15にはもうひとつの検出部101に対応する炎受光信号E1’および非炎受光信号E2’に対応するA/D変換ポートを追加して設ける。
【0036】
図2及び
図3に示した一対の透光性窓18の内側には
図4に示す検出部が収容されている。
図4に示すように、検出部は本体ケース54とカバー56を備え、内部に回路基板48をビス57により固定して収納している。
【0037】
回路基板48には炎検出センサ16aが配置されている。カバー56の、炎検出センサ16aに対向する位置には受光開口58aが形成され、透光性窓18を通った外からの光を炎検出センサ16aで受光するようにしている。
【0038】
炎検出センサ16aには断熱カバー70が装着される。断熱カバー70は、発泡性樹脂やゴム、スポンジなどの断熱性を有する材料で作られており、上下に開口した箱型のカバー本体72の上部開口を囲んで視野規制部として機能する視野規制壁74が起立されている。すなわち、断熱カバー70(の視野規制壁74)は断熱性を有するとともに、遮光性を有するものである。
【0039】
また、回路基板48には非炎受光センサ16bが配置され、カバー56の、非炎受光センサ16bに相対した位置には受光開口58bが形成され、透光性窓18を通った外からの光を非炎受光センサ16bで受光するようにしている。
【0040】
(炎検出ユニット12aの構成)
図1に示した炎検出ユニット12aにおいて、炎検出センサ16aは燃焼炎からCO
2共鳴により放射される、概ね4.5μmを中心波長とする波長帯域の放射線エネルギーを受光し電気信号に変換して出力し、前置フィルタ24aは炎検出センサ16aから出力される炎受光信号から、炎の揺らぎ周波数に対応した所定の周波数帯域の信号成分のみを選択通過させ、プリアンプ26aは前置フィルタ24aを通過した信号成分を初段増幅し、メインアンプ28aで増幅して炎受光信号E1を出力する。
【0041】
ここで、炎受光センサ16aは、サファイアガラス等の赤外線透光性の部材を用いた透光性窓18、光学波長フィルタ20a、及び受光部22aを備えている。
【0042】
炎検出ユニット12aから終段アンプ30aを介して出力された炎受光信号E1’は、MPU15に設けたA/D変換ポート35aによりデジタル受光信号E1’に変換して読み込まれ、判断部36による炎有無の判断が実行される。
【0043】
(炎検出センサ16a)
図5は炎検出センサの概略構成を示した説明図、
図6は
図5の炎受光センサの等価回路を示した回路図である。
【0044】
図5に示すように、炎検出センサ16aは、基板40a,40bの表面に支持配置された焦電体45を備え、これに受光電極25を設け、基板40の裏面側に配置されたFET27を備えてなる受光部22aと、基板40を基部38上に支持しつつ基部38を貫通して設けられた端子42と、受光部22aの前方(図示上方)にバンドパスフィルタである光学波長フィルタ20aを備えたカバー部材44とからなるパッケージ構成を有している。
【0045】
また、受光部22aの等価回路は、
図6に示すように、FET27のゲートから例えば焦電体45と高抵抗29の並列回路を介してゲート端子Gに接続し、またFET27のドレインとソースをそれぞれドレイン端子Dとソース端子Sに接続している。
【0046】
ここで、光学波長フィルタ20aは、CO2共鳴放射帯の波長を選択透過させるもので、例えば、シリコン、ゲルマニウム、サファイア等の基板上に、公知の方法でそれぞれ形成することができる。
【0047】
更に、炎受光センサ16aには、断熱カバー70が装着され、断熱カバー70はカバー本体72の上部開口を囲んで視野規制壁74を起立しており、視野規制壁74が視野規制部の機能を果す。
【0048】
更に、非炎検出ユニット12bの非炎検出センサ16bも、炎検出センサ16aと同じ構造となるが、光学波長フィルタ20bとして、概ね5.0μmを超える所定の波長帯域の放射線を良好に透過するカットオンフィルタで構成されるロングパスフィルタを使用した点で相違し、また、断熱カバーに視野規制壁は設けられていない。
【0049】
なお、本発明でいう視野ないし視野範囲とは、視野の拡がり角度(範囲)を指す。検出センサの遠方方向への視野拡がりは、アンプ増幅度の調整など公知の方法で調整することができるので、説明を省略する。
【0050】
(透光性窓18)
透光性窓18は、
図2及び
図3に示したように、炎検出センサ16a及び非炎検出センサ16bが収納された
図4の検出部の監視エリア側に相当する図示上面側であって、炎検出センサ16a及び非炎検出センサ16bの前面側に設けた、センサ収納部52の所定の開口部に配置され、例えば、サファイアガラス等の赤外線透光性の部材により形成している。このため受光部22a及び受光部22bについて、受光限界視野が透光性窓18の縁辺部で規制されつつ、それぞれ所定の拡がり角度を有する視野範囲の検知エリアが設定される。
【0051】
ここで、透光性窓18を構成するサファイアガラスは、概ね7.0μm付近以下の波長帯域の放射線を良好に透過するショートウェーブパス特性、換言すれば、概ね7.0μm付近より長波長の放射線を遮断するロングウェーブカット特性を有するフィルタ部材として機能する。また、本実施形態にあっては、透光性窓18は炎検出ユニット12aと非炎検出ユニット12bとで共用する。
【0052】
(炎検出センサ16a及び非炎受光センサ16bの視野範囲)
図7は炎検出センサと非炎検出センサの配置と視野範囲を示した説明図である。
【0053】
図7に示すように、基板48上に隣接して配置された炎検出センサ16aと非炎検出センサ16bは、透光性窓18の内側に配置されており、配置場所が物理的に同一ではなく異なっている。また、炎検出センサ16aと非炎検出センサ16bの間には遮光性を有する視野規制部材60が配置されている。なお、炎検出センサに装着された断熱カバー
70に起立した視野規制壁74の一辺が視野規制部材60を成す場合については
図8の実施形態として説明する。
【0054】
炎検出センサ16aは、視野規制部材60が設けられていない場合、炎検出装置10の断面構造で決まる視野限界線62a,62bで挟まれた視野範囲を炎検知エリアとしている。同様に、非炎検出センサ16bは視野限界線64a,64bで挟まれた視野範囲を非炎検知エリアとしている。
【0055】
ここで、炎受光センサ16aの視野限界線62aは、非炎検出センサ16bの視野限界線64aを超えて広がっている。このため視野限界線62a,64aに挟まれた領域は、炎検出センサ16aのみから見える単一視野範囲66となり、単一視野範囲66に燃焼炎以外の発熱(発光)体が存在した場合、この発光体からの放射線エネルギーは炎検出センサ16aのみで受光され、非炎検出センサ16bでは受光されず、このため誤って炎と判断されて非火災報が出力される可能性がある。
【0056】
そこで本実施形態にあっては、炎検出センサ16aと非炎検出センサ16bの間に視野規制部材60を配置し、視野限界線62aを、非炎検出センサ16bの視野限界線64aの内側となる視野限界線62cとするように、炎受光センサ16aの視野範囲を規制する。
【0057】
この場合の炎検出センサ16aの視野規制は、非炎検出センサ16bの視野限界線64aの内側で、これに略平行な視野限界線62cとなるように、視野規制部材60により視野を規制する。
【0058】
このような視野規制部材60の配置による炎検出センサ16aの視野範囲の規制により、視野規制部材60がない場合に存在した炎検出センサ16aのみから見える単一視野範囲66が存在しなくなり、単一視野範囲66の領域に存在する発光体からの放射線エネルギーを炎検出センサ16aで受光することで、誤って炎と判断されて非火災報が出力されることを確実に防止する。
【0059】
(断熱カバーによる視野範囲の規制)
図8は炎検出センサに装着した断熱カバーにより規制された視野範囲を示した説明図である。
図8に示すように、回路基板48に配置された炎検出センサ16aには、
図5に示した構造の断熱カバー70が装着されている。
【0060】
断熱カバー70はカバー本体72の上部開口を囲んで視野規制壁74を起立しており、視野規制壁74が
図7に示した視野規制部材60の機能を果たし、炎検出センサ16aの視野限界線62aを、非炎検出センサ16bの視野限界線64aの内側で、これに略平行となる視野限界線62cとするように、炎検出センサ16aの視野範囲を規制する。
【0061】
(前置フィルタ24a,24b)
図1の炎検出ユニット12aの前置フィルタ24aは、周波数選択部として機能し、炎検出センサ16aの受光部22aから出力される受光信号から、炎判断処理に用いられる特定の周波数帯域の信号成分のみを通過させる例えばアクティブフィルタであり、後段のプリアンプ26aに特定の周波数帯域の信号成分を含む受光信号を出力する。
【0062】
同様に、前置フィルタ24bは、非炎検出センサ16bの受光部22bから出力された受光信号から、炎判断処理に用いられる特定の周波数帯域の信号成分のみを通過させる例えばアクティブフィルタであり、後段のプリアンプ26bに特定の周波数帯域の信号成分を含む受光信号を出力する。
【0063】
(プリアンプ26a,26b、メインアンプ28a,28b、終段アンプ30a,30c)
プリアンプ26aは、前置フィルタ24aを介して入力される受光信号を所定の増幅率で初段増幅し、メインアンプ28a、終段アンプ30aは、プリアンプ26aからの受光信号を、後述する炎判断処理に適した信号レベルに増幅し、炎受光信号E1(或いは炎受光信号E1’)として出力する。
【0064】
同様に、プリアンプ26bは、Z年値フィルタ24bを介して重力される受光信号を所定の増幅率で初段増幅し、メインアンプ28b、終段アンプ30bは、プリアンプ26bからの受光信号を、後述する炎判断処理に適した信号レベルに増幅し、炎受光信号E2(或いは炎受光信号E2’)として出力する。
【0065】
(A/D変換ポート35a,35b)
A/D変換ポート35a,35bはMPU15の入力ポートとして設けたA/D変換器であり、炎受光信号(アナログ受光信号)E1’、非炎受光信号E2’を判断部15のデジタル処理に適したデジタル信号に変換して読み込む。
【0066】
(非炎検出センサ16bの構成)
非炎検出センサ16bは、概ね5.0μmを超える所定の波長帯域の放射線を良好に透過するカットオンフィルタで構成されるロングパスフィルタである光学波長フィルタ20bと、光学波長フィルタ20bを透過した光を受光して電気信号に変換して出力する
図6の等価回路でなる受光部22bを備え、
図5に示した炎検出センサ16aと同様な構造により、パッケージ化された構成とする。
【0067】
(非炎受光センサ16bの波長透過特性)
図9は、
図1の実施形態に適用される光学波長フィルタ及び透光性窓の各波長における透過率を示した特性図である。
【0068】
図9に示すように、
図1の透光性窓18であるサファイアガラスにより、概ね7.0μm付近以下の放射線が良好に透過するショートウェーブパス特性(又は、ロングウェーブカット特性)を有する透過率特性80が得られる。そして、光学波長フィルタ20aを構成する、概ね4.5μm付近を中心波長とするバンドパスフィルタにより、当該中心波長近傍帯域の放射線エネルギーを透過する透過特性82が得られる。透過特性80と透過特性82との組合せにより、概ね4.5μm付近を中心透過波長とする合成透過特性84をもつ狭帯域バンドパスフィルタが構成される。
【0069】
一方、光学波長フィルタ20bを構成するロングパスフィルタにより、概ね5.0μm付近を超える所定の波長帯域の放射線エネルギーを良好に透過するカットオンフィルタ特性を有する透過率特性86が得られる。透過特性80と透過特性86との組合せにより、概ね5.0μm~7.0μmの波長帯域を透過する、合成特性88をもつ広帯域バンドパスフィルタが構成される。
【0070】
(判断部36)
図10は燃焼炎から放射される放射線エネルギーを観測した場合に
図1の炎検出ユニットから出力される炎受光信号を示した信号波形図であり、
図10(A)は炎受光信号E1’を示す。
【0071】
A/D変換ポート35aは、炎受光信号E1’を、たとえば64Hzでサンプリングしてデジタル信号E1’に変換する。判断部36は、このサンプリング値を2秒間(128個)ごとに積分して炎積分値ΣE1’を算出する。
【0072】
一方、A/D変換ポート35bは、非炎受光信号E2’を、炎受光信号と同期して64Hzでサンプリングしてデジタル信号E2’に変換する。判断部36は、このサンプリング値を2秒間(128個)ごとに積分して非炎積分値ΣE2’を算出する。
【0073】
そして、炎積分値ΣE1’と非炎積分値ΣE2’との相対比(ΣE1’/ΣE2’)を算出し、算出結果が予め設定された閾値を超えた場合は、炎と判定して炎判断の第1要素とする。
【0074】
また、判断部36は、炎積分値ΣE1’の算出に使用した128個のデータを高速フーリエ変換し、8Hz以下の周波数帯域の周波数分布(相対強度の積分値ΣFL)と8Hzを超え16Hz以下の周波数分布(相対強度の積分値ΣFH)とを比較して相対比ΣFL/ΣFHを算出し、算出結果が予め設定された閾値を超えた場合は、炎有り判断の第2要素とし、炎有判断の第1要素と第2要素の両方が揃った場合にに炎有りを断定し、火災動作をおこなう。
【0075】
図11は、燃焼炎から放射される放射線エネルギーを観測した場合に
図1の検出ユニットから得られる炎受光信号E1’の、任意の2秒間について周波数分布を示した説明図である。
【0076】
図11に示すように、燃焼炎から放射される放射線エネルギーを周波数軸で観測すると、炎のちらつきに伴う周波数が実質的に8Hzまでの周波数帯域FLに存在し、これに比べ、8Hzを超える16Hzまでの高周波側の周波数帯域FHは低いレベルを示す。相対比ΣFL/ΣFHに基づく炎有り判断の第2要素は、このような炎の特徴を検出するものである。
【0077】
[本発明の変形例]
上記の実施形態は、2波長方式の炎検出装置として、燃焼炎のCO2の共鳴放射帯である4.5μm付近の波長帯域と、5.0μm付近の波長帯域における各々の放射線エネルギーを観測して炎を判定しているが、4.5μm付近の波長帯域と、2.3μm付近の波長帯域における各々の放射線エネルギーを観測して炎を判定するようにしても良い。
【0078】
また、燃焼炎のCO2の共鳴放射帯である4.5μm帯の短波長側の、例えば、2.3μm付近の波長帯域における放射線エネルギーを、5.0μm付近の波長帯域における放射線エネルギーを検出する2波長式と同様の手法で検出し、これらの3波長帯域における受光信号の相対比によって炎の有無を判定する3波長式の炎検出装置としても良い。
【0079】
また、本発明は、炎検出装置の構造にかかわらず、炎検出センサと非炎検出センサとで、センサ単体の特性としての視野範囲が異なる(炎検出センサの視野が非炎検出センサの視野よりも広い)場合に適用できる。この場合も、相互の配置間隔に伴う視野のずれを含めて補正し、炎検出センサのみが信号を検出する単一視野範囲を縮小したり、無くしたりすることが可能になる。
【0080】
また、本発明は、非炎検出センサ側に視野規制材を設けて非炎検出センサのみが信号を検出する単一視野範囲を縮小したり、無くしたりするようにしても良い。非炎検出センサにのみ見える場所に照明ランプ等の発光体が存在した場合、非炎検出センサのみが発光体からの放射線エネルギーを受光し、炎検出センサは発光体からの放射線エネルギーを受光しないため、当該照明ランプ等による非炎検出センサによる非炎受光信号E4’への寄与が炎検出センサによる炎受光信号E1’への寄与よりも大きくなり、共通の視野範囲内で炎が発生した際に、炎受光信号E1’と非炎受光信号E4’の相対比が炎有りとみなせる程度に大きくならずに失報となる恐れがある。非炎検出センサにも、もしくは非炎検出センサのみに視野規制材を設けることで非炎検出センサによる単一視野範囲を減じることにより上記失報の虞を減じることが可能となる。
【0081】
また、視野規制材をカバー56の開口部として構成しても良い。
【0082】
また、視野規制材を断熱カバーと一体に設ける場合、カバー56を省略しても良い。また、カバー56を設ける場合はカバー56を取付時に開口部58の最上端よりも視野規制壁74の最上端よりも高い又は同じ高さとすることが、視野規制壁74の視野規制を有効とするために好適である。
【0083】
さらに、本発明は、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0084】
10:炎検出装置
12a:炎検出ユニット
12b:非炎検出ユニット
15:MPU
16a:炎検出センサ
16b:非炎検出センサ
18:透光性窓
20a,20b:光学波長フィルタ
22a,22b:受光部
24a,24b:前置フィルタ
25:受光電極
26a,26b:プリアンプ
27:FET
28a,28b:メインアンプ
30a,30b:終段アンプ
35a,35b:A/D変換ポート
36:判断部
45:焦電体
60:視野規制部材
66:単一視野範囲
70:断熱カバー
72:カバー本体
74:視野規制壁