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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】壁面緑化用植込み材及び基盤材
(51)【国際特許分類】
   A01G 24/35 20180101AFI20221129BHJP
   A01G 24/44 20180101ALI20221129BHJP
   A01G 20/00 20180101ALI20221129BHJP
【FI】
A01G24/35
A01G24/44
A01G20/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019082438
(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公開番号】P2020178576
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183428
【氏名又は名称】住友林業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391024696
【氏名又は名称】住友林業緑化株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301050555
【氏名又は名称】アースコンシャス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 純大
(72)【発明者】
【氏名】藤田 昌志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 英
(72)【発明者】
【氏名】青山 恭久
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-195415(JP,A)
【文献】特開2011-125260(JP,A)
【文献】特許第3679069(JP,B2)
【文献】特開2005-232405(JP,A)
【文献】特開平3-39012(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0071420(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 24/00
A01G 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記を含む壁面緑化用植込み材:
(1)PET繊維の繊維粒;
(2)前記PET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒;及び
(3)ゼオライト、木炭、パーライト及びセラミックスから選択される、保肥材。
【請求項2】
(1)PET繊維の繊維粒がPET繊維を含む繊維で編み組みされた織布の廃棄屑を開繊してなる繊維屑を立体的に集合するとともに、集合された繊維間に無数の空隙が存在する状態にプレスして、プレス状態で繊維の交点をバインダーで結合してなる繊維マットを、所定の大きさであって一定の定まった形状でない不特定なランダム形状を有する、平均粒径が3~30mmになるように成形してなる繊維粒である請求項1に記載の壁面緑化用植込み材。
【請求項3】
(2)前記PET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒が、PET繊維を含む繊維で編み組みされた織布から得た繊維粒に、ポリエチレンテレフタレートをポリエチレンで被覆した芯鞘型複合繊維からなる繊維粒を混合した繊維粒である、請求項1又は2に記載の壁面緑化用植込み材。
【請求項4】
下記を含む壁面緑化用基盤材:
(a)壁面緑化用植込み材が装填可能な容器;
(b)壁面緑化用植込み材に速やかに水分を拡散するための導水マット;及び
(c)請求項1~3のいずれかに記載の壁面緑化用植込み材。
【請求項5】
(a)容器の正面が植物の茎部を貫通するための孔を複数有し、
(b)導水マットが容器の正面と正対する面に沿って組み込まれている、
請求項4に記載の壁面緑化用基盤材。
【請求項6】
(a)容器が不織布袋であり、該袋体の内部に組み込まれる、該袋体の形状を維持するための補強材をさらに含む請求項4又は5に記載の壁面緑化用基盤材。
【請求項7】
(b)導水マットが、壁面緑化用基盤材が設置された際に該壁面緑化用基盤材の底部、天井部及び垂直方向の中間部にさらに配置されている請求項4~6のいずれかに記載の壁面緑化用基盤材。
【請求項8】
導水マットがパルプ製の半合成繊維からなるマットである請求項4~7のいずれかに記載の壁面緑化用基盤材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は壁面緑化用植込み材及び基盤材に関する。
【背景技術】
【0002】
壁面緑化とは、建築物の断熱性や景観の向上などを目的として、建物の外壁等に植物を植え緑化すること又はその構造である。壁面緑化により建物の断熱性を高めることができるだけではなく、ヒートアイランド現象の改善効果や防音効果などもあることが知られているところ、従来よりコケ等の乾燥に強い植物を用いた壁面緑化が試みられている。また、近年においては、ショッピングモールの外壁等の、10mを越える高さを有する壁面における壁面緑化も普及しつつある。
建築物の外壁のみならず、室内の壁面において壁面緑化がなされることもある。
【0003】
壁面緑化に関連する技術に関連する報告も種々なされている(特許文献1~9)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-167137号公報
【文献】特開2012-183037号公報
【文献】特開2002-272281号公報
【文献】特開2002-315436号公報
【文献】特許5368041号公報
【文献】特許5682022号公報
【文献】特許3679069号公報
【文献】特許5578604号公報
【文献】特許5578605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
壁面緑化は植生基盤を実質的に地面に垂直な壁面に植生基盤を固定して植物を生長せしめるものであるため、植生基盤中の重力水が過度に速やかに流れ落ちてしまい、植物の維持・増殖に必要な水分が得られないといった問題がある。かかる問題の解決を指向して、特許文献1~9に開示されるような技術が提唱されている。しかしながらこれらの技術においても、植栽された植物の生育が十分に担保されているとはいいがたい。
例えばつる性植物を使用した工法は、擁壁や工場・倉庫・立体駐車場などで多用されるところ、緑化完成までに数年間の長期間を要し、壁面下部の緑量の低下、壁面上部の過剰繁茂、緑化を施そうとする壁面からの植物の逸脱が多く見られる。
また建築物の壁面に植物を植え付けた基盤を取り付ける壁面基盤型工法は、駅や商業施設など利用者の多い建築物に利用されるところ、施工時に緑化が完成するが、植え付ける植物の前栽培に要する期間の確保、基盤の容量不足による生育不良、給水の不均一に起因する緑化基盤上部の緑量不足、緑化基盤下部に過剰繁茂、潅水装置の不具合による枯死といった問題がある。
そこで本発明は、植栽された植物の生育がより優れる壁面緑化のための資材を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、壁面緑化において培地として用いられる資材の物性、又は壁面緑化用のパネルの構造を改変することにより上記課題が解決できる可能性があることを見出し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、少なくとも以下の発明に関する:
[1]
下記を含む壁面緑化用植込み材:
(1)PET繊維の繊維粒;
(2)前記PET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒;及び
(3)保肥材。
[2]
(1)PET繊維の繊維粒がPET繊維を含む繊維で編み組みされた織布の廃棄屑を開繊してなる繊維屑を立体的に集合するとともに、集合された繊維間に無数の空隙が存在する状態にプレスして、プレス状態で繊維の交点をバインダーで結合してなる繊維マットを、所定の大きさであって一定の定まった形状でない不特定なランダム形状を有する、平均粒径を3~30mmとする繊維粒である[1]に記載の壁面緑化用植込み材。
[3]
(2)前記PET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒が、PET繊維を含む繊維で編み組みされた織布から得た繊維粒に、ポリエチレンテレフタレートをポリエチレンで被覆した芯鞘型複合繊維からなる繊維粒である、[1]又は[2]に記載の壁面緑化用植込み材。
[4]
下記を含む壁面緑化用基盤材:
(a)壁面緑化用植込み材が装填可能な容器;
(b)壁面緑化用植込み材に速やかに水分を拡散するための導水マット;及び
(c)壁面緑化用植込み材。
[5]
(a)容器の正面が植物の茎部を貫通するための孔を複数有し、
(b)導水マットが容器の正面と正対する面に沿って組み込まれている、
[4]に記載の壁面緑化用基盤材。
[6]
(a)容器が不織布袋であり、該袋体の内部に組み込まれる、該袋体の形状を維持するための補強材をさらに含む[4]又は[5]に記載の壁面緑化用基盤材。
[7]
(b)導水マットが、壁面緑化用基盤材が設置された際に該壁面緑化用基盤材の底部、天井部及び垂直方向の中間部にさらに配置されている[4]~[6]のいずれかに記載の壁面緑化用基盤材。
[8]
導水マットがパルプ製の半合成繊維からなるマットである[4]~[7]のいずれかに記載の壁面緑化用基盤材。
[9]
(c)壁面緑化用植込み材が[1]~[3]のいずれかに記載の壁面緑化用植込み材である、[4]~[8]のいずれかに記載の壁面緑化用基盤材。
の壁面緑化用基盤材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、壁面緑化における植物の生育を高めることができる。
従来、軽量土壌等を用いた壁面緑化基盤材は湿潤時重量が大きく、下地や壁面への荷重負荷が大きいことが課題であった。また、土を使わない壁面緑化基盤材としてフェルトシート等が用いられることがあったが、植物の根が広がるまで長期間の前栽培と、植物の生育を維持するために壁面に設置した後も高頻度・大量の潅水を必要とした。
本発明においては、ある態様においては
(1)PET繊維の繊維粒;
(2)前記PET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒;及び
(3)保肥材
を用いることにより、軽量土壌等を用いた従来技術より大幅な軽量化が図られるとともに、植物の前栽培に要する期間がフェルトシート等を用いた従来技術より大幅に短縮され、かつ設置後の潅水量も大幅に節約されるといった効果を奏する。本発明の壁面緑化用植込み材がかかる効果を奏するのは、従来の繊維培地より親水性・保水性が優れるためである。
【0009】
また本発明の壁面緑化用植込み材のうち(1)PET繊維の繊維粒及び(2)前記PET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒として、PET繊維から得た繊維粒に、ポリエチレンテレフタレートをポリエチレンで被覆した芯鞘型複合繊維からなる繊維粒を混合したものを用いるものは、従来の繊維培地より親水性・保水性が一層優れるといった効果を奏する。
PET繊維から得た繊維粒に、ポリエチレンテレフタレートをポリエチレンで被覆した芯鞘型複合繊維からなる繊維粒を混合した上記好ましい繊維粒として、PET繊維から得た繊維粒が、PET繊維を含む繊維で編み組みされた織布の廃棄屑を開繊してなる繊維屑を立体的に集合するとともに、集合された繊維間に無数の空隙が存在する状態にプレスして、プレス状態で繊維の交点をバインダーで結合してなる繊維マットから得られるものはより好ましく、さらに該繊維マットを、所定の大きさであって一定の定まった形状でない不特定なランダム形状を有する、平均粒径を3~30mmとする繊維粒に破砕した繊維粒は、一層より好ましい。
かかる繊維粒からなる培地として、特許3679069号(特許文献7)に示される方法により調整されるPET繊維の一種である繊維粒(以下において「繊維培地A」ということがある)に、ポリエチレンテレフタレートをポリエチレンで被覆した芯鞘型複合繊維からなる繊維粒(以下において「繊維粒B」ということがある)を混合した培地(以下において「繊維培地C」ということがある)が例示される。前記特許3679069号(特許文献7)に示される方法により調整されるPET繊維の一種である繊維粒は、PET繊維を含む繊維で編み組みされた織布の廃棄屑を開繊してなる繊維屑を立体的に集合するとともに、集合された繊維間に無数の空隙が存在する状態にプレスして、プレス状態で繊維の交点をバインダーで結合してなる繊維マットを、所定の大きさであって一定の定まった形状でない不特定なランダム形状を有する、平均粒径を3~30mmとする繊維粒に破砕した繊維粒である。
前記繊維培地Cを用いる本発明の壁面緑化用植込み材は、植物の根張りを助長する擬似的な団粒構造を提供し、繊維マットプレートを用いた従来の基盤材(例えば特許文献8又は9(それぞれ特許5578604号及び特許5578605号))との対比において、根張りを向上するといった効果も奏する。
【0010】
また特許文献8又は9に記載の技術においては複数の積層された繊維マットプレートの前面開口部に植付保持穴が設けられているところ、本発明の基盤材においては容器の開口部(使用直前に開口することも可)から壁面緑化用植込み材に植物を植え付けることができる。従来技術では繊維マットプレートと植付保持穴に挿入される培地との間において毛細管水の伝達が途切れることがあり、植付けた植物が枯死するリスクがあった。これに対し本発明における上記好ましい壁面緑化用植込み材を用いた壁面緑化用基盤材においては壁面緑化用植込み材に実質的に直接植物の根を植付けることにより、より効率的な水分伝達を達成できる。
さらに本発明における上記好ましい壁面緑化用植込み材を用いた壁面緑化用基盤材によれば、自由に植栽が可能であり枯れた場合の補植も容易であり、根の活着に優れるといった効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の壁面緑化用植込み材において用いられる繊維粒の集合体の写真である。(A)は繊維培地Aを、(B)は繊維粒Bを、(C)は繊維培地Cを、それぞれ表す。
図2】本発明の壁面緑化用基盤材の実施例及び使用態様の例を示す三面図である。
図3】試験例1における各区において用いられた植込み材及び基盤材を模式的に示す図である。丸付き数字で番号を示したものは正面図(壁面緑化用基盤材が設置される設置面に平行な正面についての正面図)であり、その右側は側面透視図である。
図4】本発明の壁面緑化用基盤材の他の実施例及び使用態様の例である、両面植栽用の壁面緑化用基盤材の例を示す三面図である。
図5】試験例1の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
A.壁面緑化用植込み材
本発明により上記のとおり、下記の壁面緑化用植込み材が提供される。
(1)PET繊維の繊維粒;
(2)前記PET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒;及び
(3)保肥材
を混合した混合物を含む、壁面緑化用植込み材。
本発明の壁面緑化用植込み材として、実質的に
(1)PET繊維の繊維粒;
(2)前記PET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒;及び
(3)保肥材
を混合した混合物からなるものは好ましい。
【0013】
●(1)PET繊維の繊維粒
本発明の壁面緑化用植込み材におけるPET繊維とは、PET(ポリエチレンテレフタレート)を原料とする繊維である。本発明におけるPET繊維として織布の廃棄屑を用いて製造されるものは、資源のリサイクルに資するため好ましい。
本発明におけるPET繊維の繊維粒として、合成繊維(PET繊維)を含む繊維で編み組みされた織布の廃棄屑を開繊してなる繊維屑を立体的に集合するとともに、集合された繊維間に無数の空隙が存在する状態にプレスして、プレス状態で繊維の交点をバインダーで結合してなる繊維マットを、所定の大きさであって一定の定まった形状でない不特定なランダム形状を有する、平均粒径を3~30mmとする繊維粒に破砕してなる繊維粒の一種は、好ましい。PET繊維の一種である繊維培地Aを用いるものは一層好ましい(図1(A))。
なお本発明における「繊維粒」は、例えば織布の廃棄屑から得られる不定形の粒である。前記繊維粒の大きさは限定されないところ、最大径が約3mm~約40mmであってよい。
【0014】
●(2)PET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒
本発明におけるPET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒は、PET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒であればその種類や大きさは限定されない。
かかる繊維として、ポリエチレンテレフタレートをポリエチレンで被覆した芯鞘型複合繊維からなる繊維粒である繊維粒B(図1(B))は好ましい。
同繊維粒を用いた混合物である上記繊維培地C(図1(C))を用いる本発明の壁面緑化用植込み材は好ましい。繊維培地Cは、上記のとおり特許3679069号(特許文献7)に示される方法により調製される繊維培地A(図1(A))の繊維粒に、ポリエチレンテレフタレートをポリエチレンで被覆した芯鞘型複合繊維からなる繊維粒である繊維粒B(図1(B))を混合したものであり、親水性・水分拡散性を高める効果を有する。
【0015】
本発明の壁面緑化用植込み材のうち繊維培地Cを用いるものは、植物の根張りを補助する擬似的な団粒構造を提供し、植栽された植物の根張りを向上させるため好ましい。
【0016】
本発明の壁面緑化用植込み材において、PET繊維の繊維粒とPET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒との混合割合は限定されないところ、PET繊維の繊維粒の割合として前記各繊維粒の総体積に対して40~60%が例示され、45~60%は好ましい。
【0017】
本発明における(1)PET繊維の繊維粒及び(2)前記PET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒の原料となる繊維の太さは限定されないところ、太さとして約6~約30デニールが例示される。
【0018】
●(3)保肥材
本発明の壁面緑化用植込み材においては保肥材が含まれる。保肥材の種類は限定されないところ、多孔性の粒状物質は好ましく、多孔性の粒状物質として(人工)ゼオライト、木炭、パーライト及びセラミックスが挙げられる。これらの保肥材のうち、(人工)ゼオライト、木炭及びパーライトの1種又は2種以上を含むものはより好ましい。
本発明の壁面緑化用植込み材において保肥材の量は限定されないところ、(1)PET繊維の繊維粒及び(2)前記PET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒の合計重量に対して約10重量%以下の割合で混合して用いてよい。
【0019】
●(4)壁面緑化用基盤材用の資材として装填した際の壁面緑化用植込み材の構造
本発明の壁面緑化用植込み材は壁面緑化用基盤材に装填して用いられる。
本発明の壁面緑化用植込み材を壁面緑化用基盤材に装填する量は限定されず、装填する際には前記壁面緑化用植込み材を適度に圧縮してもよい。
本発明の壁面緑化用植込み材のうち、装填後に、基盤材設置面と垂直な方向に明らかな層構造を有しないものは保水性に一層優れるため好ましい。
【0020】
●(5)製造方法
本発明の壁面緑化用植込み材の製造方法は限定されず、PET繊維の繊維粒とPET繊維の繊維粒より保水性が高い繊維の繊維粒とを所望の割合で混合し、圧縮する。圧縮の程度も限定されず、本願発明における所望の効果が奏される程度であればよい。
圧縮して得られた材を壁面緑化用基盤材に装填する。装填時にも本発明の壁面緑化用植込み材は圧縮されてよい。
【0021】
B.壁面緑化用基盤材
本発明は以下の壁面緑化用基盤材にも関する:
(a)壁面緑化用基盤材が設置される設置面に平行な正面を有する容器;
(b)植込み材に速やかに水分を拡散するための導水マット;及び
(c)壁面緑化用植込み材
からなる、壁面緑化用基盤材。
【0022】
本発明の壁面緑化用基盤材1について、図を参照しながらより詳細に説明する(図2図4)。
(a)壁面緑化用植込み材が装填可能な容器(以下において「容器」ということがある)2は、壁面緑化用植込み材5を内部に収納、保持するためのシート状の形状を有する素材からなるものである。容器2の素材は限定されず、本発明の所望の効果を奏するものであればよい。かかる容器として樹脂(プラスチック)製、繊維製、木製のものが挙げられ、繊維製のものは、袋体とした場合に、設置時に孔を開けずに植栽の直前に所望の位置に切り込みを入れ孔を開けることができる利点があり好ましい。繊維製のものとして不織布製のものはより好ましい。不織布として耐候性スパンボンド不織布は好ましく、かかる不織布としてポリエステル100%の長繊維不織布(例えば東レ製アクスター(商品名))が例示される。
容器2として、上記以外の素材からなるものであっても、屋外で使用するため耐候性に優れ、カッターナイフや鋏で開口部を自在に設けることができるものは好ましい。
容器2の大きさ及び形状は限定されず、壁面緑化に適した寸法・形状であればよく、例えば、緑化する面に平行な面が一辺約10cm~約100cmの長方形であり、厚さ約3cm~約15cmである直方体であってよい。前記長方形面が高さ54cm×幅54cmの略平面であり、厚み9cmを有する直方体とされているものは運搬や設置のしやすさの面において好ましい。
容器2の正面には植物の茎部を貫通するための孔を複数設けてよい。一方孔がないものにおいては、切り込みを入れ自由に植栽ができるといった利点があることは上記のとおりである。
【0023】
容器2を繊維製の袋体とした態様においては、該容器の内部に組み込まれる、該容器の形状を維持するための補強材3(本願においてより具体的な名称である「植生マット」又は「ニードルパンチマット」ということがある)も用いられている。
補強材3は、容器の形状を保持することと、基盤材内部の乾燥を抑制する機能を有するものである。例えば、ニードルパンチにより厚み約20mmに成形されたポリエステル繊維からなる短冊状に切断したマット片を容器2の上下左右の内側面に沿って設けたものは補強材3として好ましい。壁面緑化用基盤材1を設置した際に、容器2の鉛直方向中心部付近を通る水平な面に沿って補強材3をさらに設けたものはより好ましい。
【0024】
(b)導水マット4は、壁面緑化用植込み材5に速やかに水分を拡散するための資材である。該導水マット4は基盤材1の上端部に設けられるドリップチューブ6からの点滴潅水を、基盤材1内に装填される壁面緑化用植込み材5に速やかに導水し、植栽された植物の均一な生育を可能するために設けるシート又はマットであって、例えば給水性・水分拡散性の高いパルプ製の半合成繊維が用いられる。
該導水マット4を、設置時の壁面緑化用基盤材1における底面、天井部及び背面に有するものは好ましく、該導水マット4を中央部(壁面緑化用基盤材が設置された際に該壁面緑化用基盤材の鉛直方向の中間部)にさらに有する本発明の壁面緑化用基盤材1は一層好ましい。
【0025】
なお(a)容器、及び(b)導水マット及び補強材はそれぞれ、目的に適切な素材・特性を有すればよく、例示した材質や構造に限定されない。
本発明の壁面緑化用基盤材の大きさ及び形状も限定されず、設置面(緑化の対象である面)に設置した際に、高さ54cm×幅54cmの平面と厚みとして9cmの厚みを有する直方体としてよい。
【0026】
本発明の壁面緑化用基盤材1は、建築物の壁面等の該垂直面に固定し、壁面を緑化するための支持材7によって壁面に支持・固定され、建築物の壁面の緑化に用いられる。同基盤材1を壁面に固定する支持材7は限定されず、例えば金属製のメッシュボックスである。
本発明の壁面緑化用基盤材は両面植栽用の壁面緑化用基盤材であってよい(図4)。かかる態様においても、導水マット4を設置時の壁面緑化用基盤材1における底面に有するものは好ましく、該導水マット4を中央部(壁面緑化用基盤材が設置された際に該壁面緑化用基盤材の鉛直方向の中間部)にさらに有する本発明の壁面緑化用基盤材1は一層好ましい。
【0027】
●壁面緑化用基盤材の製造方法
壁面緑化用基盤材の製造方法は限定されず、所望の部材から(a)容器、及び(b)導水マット、ならびに容器が袋体である場合には必要に応じて補強材、をそれぞれ作製し、組み立てて製造することができる。組み立て後又はその過程において、(c)壁面緑化用植込み材の装填及び任意にドリップチューブの装着を行う。
【0028】
●植物の植栽方法、使用方法
本発明の壁面緑化用基盤材を用いて壁面緑化を行う際に、植栽される植物8の植栽方法は限定されず、前記植物の根部に培地や土壌の粒が付着していてもいなくてもよい。植物の根部に培地や土壌の粒が付着している場合には、本発明の壁面緑化用植込み材の表面から所望の深さ及び大きさを有する孔を開けてよい。孔を開けずに、付着している培地や土壌の粒を植物の根部から洗浄等により除去してもよい。
植物の植栽の後、本発明の壁面緑化用基盤材は所望の設置場所に略垂直に設置される。壁面に設置された際に、本発明の壁面緑化用基盤材は下端部を該壁面から上端部より離隔させて若干傾きを与え、水分の下方への移動や設置後の植物あるいは各部材の落下を防いでよい。
【実施例
【0029】
本発明について、以下に実施例及び試験例によりさらに詳細に説明する。本発明は、いかなる意味においてもこれらの例に限定されるものではない。
【0030】
[参考試験例]各種資材における保水性の検討
繊維培地Aよりもミズゴケのほうが保水性に優れる知見のもと、ミズゴケを上回る保水性を有する資材を選定するために試験を行った。親水性についても検討を行った。
●<材料及び試験方法>
(1)保水性試験
(i)繊維培地A、繊維粒B、及び繊維培地C(繊維培地A:繊維粒B=40:60~60:40の範囲の、事前に決定した体積比で混合した培地)を準備した。
(ii)上記3つの培地をそれぞれ1Lずつ計量し、不織布製の袋に充填後、重量を計測した(「処理前重量a」とする)。
(iii)各培地について水道水を入れたバケツに浸漬し、水が十分行き渡ったところで引き上げた。
(iv)引き上げた各培地をフックに吊り下げ、浸漬65時間後の重量(「処理後重量b」とする)を計測した。
(v)a(g) 及びb(g) の重量から、処理後水分量(b-a) (g) 及び重量基準含水率[(b-a)/b ×100 (%)]を算出し、保水性の指標とした。
【0031】
(2)親水性試験
(i’)(1)保水試験における(i)及び(ii)と同じ手順で準備を行った。なお、親水性試験の処理前重量をcとする。
(ii’)各培地について水道水を入れたバケツに浸漬、速やかに引き上げ、重量を計測(「処理後重量d」とする)した。
(iii’)c(g) 及びd(g) の重量から、処理後水分量(d-c) (g) 及び重量基準含水率[(d-c)/d ×100 (%)]を算出した。
【0032】
●<結果>
(1)保水性試験
繊維粒B、繊維培地C、繊維培地Aの順で処理後の水分量(b-a)及び重量基準含水率[(b-a)/b ×100]が高かった(表1)。最も大きな値を示した繊維粒Bは、繊維自体に極めて高い保水性を持つ。ゆえに繊維粒Bを混合した繊維培地Cは繊維培地Aと比べ、明らかに保水性が向上したと考えられる。
(2)親水性試験
保水性試験の結果と同様に、繊維粒B、繊維培地C、繊維培地Aの順で処理後の水分量及び重量基準含水率が高かった(表2)。繊維粒Bは高い親水性を発揮したことから、繊維粒Bを混合した繊維培地Cも明らかに親水性が向上したと考えられる。
植物においては培地中の過度な水分は根腐れや嫌気性細菌等の発生起因となるため、培地中に適した空気層(気相)が必要である。繊維培地Cは植物の水分要求と気相要求に合致した最適な混合された培地であることが示唆された。
【表1】

【表2】
【0033】
[実施例1]
以下のようにして本発明の壁面緑化用植込み材を製造した。
すなわち、上記繊維培地Aに、ポリエチレンテレフタレートをポリエチレンで被覆した芯鞘型複合繊維からなる繊維粒(繊維粒B)を40:60~60:40の範囲の、事前に決定した割合の体積比にて均一に混合し、保肥材として人工ゼオライト、木炭及びパーライトを本発明において所望の効果が奏される量で混合して上記繊維培地Cを得た。繊維培地Aは、ポリエチレンテレフタレートをポリエチレンで被覆した芯鞘型複合繊維からなる繊維粒より体積比においてより大きい量において用いた。
【0034】
[実施例2]
以下のようにして本発明の壁面緑化用基盤材を製造した。
直方体を形成する不織布袋を1種類、補強材(ニードルパンチマット)を3種類、及び導水マット(パルプ製の半合成繊維)を2種類、それぞれ準備し組み立てて(図3)、図2に示す壁面緑化用基盤材を、長方形面が高さ54cm×幅54cmの略平面であり、厚み9cmを有する、直方体として製造した。
壁面緑化用植込み材として繊維培地Cを用いた。繊維培地Cにおける繊維培地A及び繊維粒Bの配合量は、繊維培地Aをより多く、かつ繊維培地Aの量(体積)が繊維培地Aと繊維粒Bとの総体積の60%を越えない特定の量にして繊維培地Cを構成した。
【0035】
[試験例1]本発明の壁面緑化用植込み材及び基盤材の性能評価
繊維培地Cを用いた本発明の壁面緑化用植込み材及び基盤材(実施例2)の性能を、他の壁面緑化用植込み材及び基盤材の性能と比較・検討した。
●<材料及び試験方法>
2017年8月から2018年10月までの14ヶ月間にわたり、目視による植物健全度を判定し各植込み材及び基盤材の性能(植物の生育に対する効果)を比較した。
用いた植込み材及び基盤材における植生マット(補強材)及び導水マットの有無は以下のとおりであった(表3)。壁面緑化用基盤材の製造は、実施例2において示した方法と同様な方法により行った(図2及び3)。
【表3】
【0036】
各区には下記表4に示す植物の苗を基盤材あたり下記数量ずつ植栽し、通常の潅水管理により各植物の苗の生育を調査した。試験は1連制で行った。
【表4】
【0037】
各試験区について、定期的に目視による植物健全度を0(完全枯死)~5(健全)の6段階で判定した。
【0038】
●<結果>
本発明の壁面緑化用植込み材(実施例1~4)は、14ヶ月後にも植物の生育を維持していた(図5)。
また本発明の壁面緑化用植込み材を用いた基盤材ののうち、中間部にも補強材及び導水マットを有する本発明の壁面緑化用基盤材の効果が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば壁面緑化における植物の生育を高めることができる。したがって本発明は壁面緑化産業及びその関連産業の発展に寄与するところ大である。
【符号の説明】
【0040】
1 壁面緑化用基盤材
2 容器
3 補強材
4 導水マット
5 壁面緑化用植込み材
6 ドリップチューブ
7 支持材
8 植物
図1
図2
図3
図4
図5