(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ウェビング巻取装置
(51)【国際特許分類】
B60R 22/353 20060101AFI20221129BHJP
B60R 22/415 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B60R22/353
B60R22/415
(21)【出願番号】P 2019099508
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】杉山 元規
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/143644(WO,A1)
【文献】実開昭60-20951(JP,U)
【文献】実開昭61-67056(JP,U)
【文献】特開2003-246258(JP,A)
【文献】特開2014-141137(JP,A)
【文献】米国特許第3880379(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員に装着されるウェビングが巻取られ、前記ウェビングが引出されることで引出方向へ回転されるスプールと、
引出方向の回転が規制されることで前記スプールの引出方向の回転が規制されるVギアと、
前記スプールに対して軸方向他方側に配置され、前記スプールの引出方向の回転を減速して伝達する減速ギア群と、
前記減速ギア群によって伝達された回転を、前記スプールに対して軸方向他方側から一方側へ伝達する橋渡し軸と、
前記橋渡し軸によって伝達された回転によって回転するカムと、
前記カムが非係合位置まで回転することでロック位置へ変位され、ロック位置へ変位することで前記Vギアの引出方向の回転が規制されるパウルと、
を備えたウェビング巻取装置。
【請求項2】
前記橋渡し軸は、前記スプールに対して軸方向一方側と他方側との両方で軸支されている、
請求項1に記載のウェビング巻取装置。
【請求項3】
前記Vギアの内側に配置され、ロック位置へ変位されることで前記Vギアの引出方向の回転が規制され、マグネットを含んで構成されたロック部材と、
前記Vギアに対して軸方向一方側に配置され、前記マグネットに作用することで前記ロック部材をロック位置へ変位させるコイルと、
を備える請求項1又は請求項2に記載のウェビング巻取装置。
【請求項4】
前記橋渡し軸と前記カムとが同軸上に配置されている、
請求項1~請求項3の何れか1項に記載のウェビング巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員に装着されるウェビングが巻取られるウェビング巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ALR(Automatic Locking Retractor)機構を有するウェビング巻取装置が開示されている。このALR機構は、ウェビングが最も引出された全引き状態と、シートに乗員が着座していない状態でウェビングに設けられたタングをバックルに装着した状態である空ラッチ状態との間で作動可能である。このALR機構は、スプールの回転を減速して伝達する減速ギア群と、当該ギア群により回転されるカム(コントロールディスク)と、当該カムにより作動されるALRパウル(切替パウル)と、を含んで構成されている。ALRパウルとVギアとの係合状態が切り替わることでALR機構の作動と非作動とが切り替わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1記載のウェビング巻取装置では、スプールに対して軸方向一方側と他方側のうちの一方側にVギア及びギア群の両方が配置されている。
【0005】
本発明は、スプール軸方向の体積バランスを取ることが容易なウェビング巻取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様に係るウェビング巻取装置は、乗員に装着されるウェビングが巻取られ、前記ウェビングが引出されることで引出方向へ回転されるスプールと、引出方向の回転が規制されることで前記スプールの引出方向の回転が規制されるVギアと、前記スプールに対して軸方向他方側に配置され、前記スプールの引出方向の回転を減速して伝達する減速ギア群と、前記減速ギア群によって伝達された回転を、前記スプールに対して軸方向他方側から一方側へ伝達する橋渡し軸と、前記橋渡し軸によって伝達された回転によって回転するカムと、前記カムが非係合位置まで回転することでロック位置へ変位され、ロック位置へ変位することで前記Vギアの引出方向の回転が規制されるパウルと、を備えたウェビング巻取装置である。
【0007】
第2の態様に係るウェビング巻取装置は、第1の態様において、前記橋渡し軸は、前記スプールに対して軸方向一方側と他方側との両方で軸支されている
【0008】
第3の態様に係るウェビング巻取装置は、第1又は第2の態様において、前記Vギアの内側に配置され、ロック位置へ変位されることで前記Vギアの引出方向の回転が規制され、マグネットを含んで構成されたロック部材と、前記Vギアに対して軸方向一方側に配置され、前記マグネットに作用することで前記ロック部材をロック位置へ変位させるコイルと、を備える。
【0009】
第4の態様に係るウェビング巻取装置は、第1~第3の何れかの態様において、前記橋渡し軸と前記カムとが同軸上に配置されている。
【発明の効果】
【0010】
第1の態様では、ウェビングが引出されることでスプールが引出方向に回転されると、スプールに対して軸方向他方側に配置された減速ギア群によって、スプールの引出方向の回転が減速されて伝達される。減速ギア群によって伝達された回転は、橋渡し軸によって、スプールに対して軸方向他方側から一方側へ伝達される。すると、橋渡し軸によって伝達された回転によって、カムが回転する。カムが非係合位置まで回転するとパウルがロック位置へ変位され、パウルがロック位置へ変位するとVギアの引出方向の回転が規制される。その結果、スプールの引出方向の回転が規制される。
以上のとおり、この態様では、Vギアと減速ギア群のうち、Vギアがスプールに対して軸方向一方側に配置され、減速ギア群がスプールに対して軸方向他方側に配置されている。したがって、スプールに対して軸方向一方側にVギア及びギア群の両方が配置される態様と比較して、軸方向の体積バランスが取れた巻取装置とすることが容易となる。
【0011】
第2の態様では、橋渡し軸が、スプールに対して軸方向一方側と他方側との両方で軸支されているので、橋渡し軸が安定して軸支される。
【0012】
第3の態様では、ウェビング巻取装置は、ロック部材を備える。ロック部材がロック位置へ変位されることで、Vギアの引出方向の回転が規制される。また、ウェビング巻取装置は、コイルを備える。コイルにより、ロック部材をロック位置へ変位させることができる。したがって、ウェビングのスプールからの引き出しを制限する機構を電気的に作動させることができる。
また、減速ギア群がスプールに対して軸方向他方側に配置され、コイルがVギアに対して軸方向一方側に配置されている。したがって、減速ギア群が、コイルとロック部材との間に位置しない。このため、コイルとロック部材との間にギア群が配置される態様と比較して、コイルとロック部材との軸方向の距離を近くすることが容易となる。コイルとロック部材との軸方向の距離が近くなると、電磁アクチュエータの作動効率が向上する。
【0013】
第4の態様では、橋渡し軸とカムとが同軸上に配置されているので、橋渡し軸をスプールの近くに配置しやすく、ウェビング巻取装置の大型化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態のウェビング巻取装置を分解して示す分解斜視図であって、ロック機構側(軸方向一方側)から見た図である(但し、ALR機構は不図示)。
【
図2】実施形態のウェビング巻取装置を分解して示す分解斜視図であって、ロック機構とは反対側(軸方向他方側)から見た図である(但し、ALR機構は不図示)。
【
図3】ロック機構を示す平面図であって、小パウルがWパウルの変位を制限している状態を示す図である。
【
図4】ロック機構を示す平面図であって、小パウルがセンサホルダに契合した状態を示す図である。
【
図5】ロック機構を示す平面図であって、小パウルが中立位置に配置されている状態を示す図である。
【
図6】実施形態のALR機構を分解して示す分解斜視図である。
【
図7】ALR機構が作動していない状態のVギア、ALRパウル及びカムの関係を示す軸方向から見た概略図である。
【
図8】ALR機構が作動している状態のVギア、ALRパウル及びカムの関係を示す軸方向から見た概略図である。
【
図9】実施形態のウェビング巻取装置におけるスプール、減速ギア、橋渡しカム、Vギア、マグネット及びコイルの配置関係を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係るウェビング巻取装置10について説明する。
【0016】
図1~
図9を用いて、本発明の実施形態に係るウェビング巻取装置について説明する。
【0017】
図1及び
図2に示されるように、本実施形態のウェビング巻取装置10は、フレーム12と、スプール14と、ウェビング16と、ロック機構18と、を備えている。なお、以下、単に軸方向、径方向、周方向を示す場合は、特に断りのない限り、スプール14の回転軸方向、回転径方向、回転周方向を示すものとする。
【0018】
フレーム12は、車体に固定される板状の背板12Aを備えている。また、背板12Aの幅方向(軸方向)両端部からは脚片12B,12Cが略直角に延出されている。脚片12B側には、後述するロック機構18が設けられている。また、脚片12Bには、後述するロックベース20及びメインロック22(
図3参照)が内周部に配置される開口12Dが形成されている。この開口12Dの内縁には、メインロック22が係合する複数のロック歯12Eが周方向に沿って形成されている。また、脚片12C側には、スプール14を巻取方向へ回転付勢する図示しない巻取付勢機構が設けられている。
【0019】
スプール14は、略円筒状に形成されており、フレーム12の脚片12Bと脚片12Cとの間において当該フレーム12に回転可能に支持されている。なお、スプール14の内部には、フォースリミッタ機構を構成する公知のトーションシャフトが配置されている。
図1に示されるように、スプール14の軸方向一方側(矢印Z方向側)の端部には、図示しないトーションシャフトを介してスプール14に結合されたロックベース20が設けられている。このロックベース20の径方向の中心部には、後述するVギア24が支持されるVギア支持部20Aが軸方向一方側へ向けて立設されている。
【0020】
ウェビング16は、乗員の身体に装着されるものであり、その長手方向一端部である基端部がスプール14に係止されている。スプール14は、巻取付勢装置の一部を構成するゼンマイばねの付勢力によって、一方の回転方向である巻取方向(
図1等の矢印Cの方向)へ回転付勢されている。そして、スプール14が、巻取方向へ回転されることで、ウェビング16が基端側からスプール14に巻取られるようになっている。また、ウェビング16がスプール14から引出されることで、スプール14が他方の回転方向である引出方向(
図1等の矢印Cとは反対側)へ回転されるようになっている。
【0021】
次に、ロック機構18について説明する。
【0022】
図1及び
図2に示されるように、ロック機構18は、ロックベース20に支持されたメインロック22(
図3参照)と、ロックベース20に回転可能に支持されたVギア24と、Vギア24に支持された第1パウルとしてのWパウル26及び第2パウルとしての小パウル28と、コイル30と、を主要な要素として構成されている。
【0023】
メインロック22は、略矩形ブロック状に形成されている。このメインロック22の基端側は、ロックベース20に設けられたメインロック支持部に傾動可能に支持されている。また、メインロック22の先端側における径方向外側には、フレーム12のロック歯12Eに係合するメインロック側係合歯が形成されている。なお、メインロック22の構成は、公知の構成と同様であるため、当該メインロック22の基端側や先端側のメインロック側係合歯の図を用いての説明は省略する。そして、メインロック22がメインロック支持部を支持部として径方向外側へ傾動(変位)されることで、メインロック側係合歯がフレーム12のロック歯12Eに係合するようになっている。また、
図3に示されるように、メインロック22には、軸方向一方側に向けて突出するVギア係合凸部22Aが設けられている。
【0024】
Vギア24は、円板状に形成されている。このVギア24の径方向の中心には、ロックベース20の回転中心に設けられたVギア支持部20A(
図1参照)が挿通される支持孔24Aが形成されている。この支持孔24Aにロックベース20のVギア支持部20Aが挿通されることで、Vギア24がVギア支持部20Aを支持部として回転可能となっている。
【0025】
また、Vギア24において支持孔24Aが形成された部分の径方向外側には、後述するWパウル26を支持するWパウル支持部24Bが軸方向一方側に向けて立設されている。また、Vギア24において支持孔24Aが形成された部分の径方向外側かつWパウル支持部24Bに支持されたWパウル26が配置される部分の周方向一方側(矢印C方向側)には、後述する小パウル28を支持する小パウル支持部24Cが軸方向一方側へ向けて立設されている。さらに、Vギア24において支持孔24Aが形成された部分の径方向外側かつWパウル支持部24Bに支持されたWパウル26及び小パウル支持部24Cに支持された小パウル28と軸方向にオーバーラップしない部分には、メインロック22のVギア係合凸部22Aが内部に配置される長孔状の作動溝24Dが形成されている。なお、以上説明したVギア24は、当該Vギア24とロックベース20との間に設けられた図示しないスプリングによってロックベース20に対して引出方向へ回転付勢されると共に、スプリングによるロックベース20に対する引出方向への回転が係止されている。
【0026】
また、Wパウル26の周方向一方側(矢印C方向側)には、当該Wパウル26を付勢するコイルバネ32が係止されている。なお、このコイルバネ32は、Wパウル26とVギア24に設けられたコイルバネ係止部24Eとの間で圧縮されている。また、Wパウル26の周方向一方側(矢印C方向側)の端部には、後述する小パウル28と当接する小パウル当接部26Bが周方向一方側に向けて凸設されている。
【0027】
また、Wパウル26の周方向他方側(矢印C方向とは反対側)の端部には、後述するホルダ38(
図1参照)に形成されたパウル係合歯38Aに係合する単一のWパウル側係合歯26Cが形成されている。そして、
図5に示されるように、Wパウル26がコイルバネ32の付勢力に抗してVギア24のWパウル支持部24Bを支軸部として一方側へ傾動(Wパウル側係合歯26C側が径方向外側へ変位するように傾動)されることで、Wパウル側係合歯26Cがホルダ38のパウル係合歯38Aに係合するようになっている。なお、コイルバネ32の付勢力によってWパウル26の傾動が制限されている状態の当該Wパウル26の位置を「許容位置」とし、Wパウル側係合歯26Cがホルダ38のパウル係合歯38Aに係合可能な状態のWパウル26の位置を「ロック位置」とする。ここで、本実施形態では、スプール14の引出方向への回転速度が所定の速度を越えた際に、Wパウル26に作用する遠心力がコイルバネ32の付勢力を上回ることで、Wパウル26が一方側へ傾動されるようになっている。
【0028】
図3に示されるように、小パウル28は、Wパウル26よりも小型のL字(への字)のブロック状に形成されている。この小パウル28の周方向の中間部には、Vギア24の小パウル支持部24Cが挿通される支持孔28Aが形成されている。この支持孔28AにVギア24の小パウル支持部24Cが挿通されることで、小パウル28が小パウル支持部24Cを支軸部として傾動(変位)可能となっている。
【0029】
また、小パウル28の周方向一方側(矢印C方向側)の端部は、当該小パウル28を後述する中立位置側へ付勢する付勢部材としての板バネ34の一方側の端部が係止される板バネ係止部28Bとされている。なお、板バネ34の他方側の端部は、Vギア24に設けられた板バネ係止部24Fに係止されている。
【0030】
また、小パウル28の周方向他方側(矢印C方向とは反対側)の端部の径方向外側には、後述するホルダ38に形成されたパウル係合歯38Aに係合する単一の小パウル側係合歯28Cが形成されている。そして、小パウル28が板バネ34の付勢力に抗してVギア24の小パウル支持部24Cを支軸部として一方側(矢印Aとは反対方向側)へ傾動(小パウル側係合歯28C側が径方向外側へ変位するように傾動)されることで(
図4の状態にされることで)、小パウル側係合歯28Cがホルダ38のパウル係合歯38Aに係合するようになっている。
【0031】
また、小パウル28の周方向他方側(矢印C方向とは反対側)の端部の径方向内側には、Wパウル制限部28Dが周方向他方側に向けて突設されている。そして、
図3に示されるように、小パウル28が板バネ34の付勢力に抗してVギア24の小パウル支持部24Cを支軸部として他方側(矢印A方向側)へ傾動されることで、Wパウル制限部28DとWパウル26の小パウル当接部26Bとが周方向に近接して配置されるようになっている。そしてさらに、Wパウル26の小パウル当接部26BがWパウル制限部28Dに当接することで、Wパウル26の許容位置からロック位置側への傾動が制限されるようになっている。
【0032】
なお、Wパウル制限部28DとWパウル26の小パウル当接部26Bとが周方向に近接して配置されている状態の小パウル28の位置を第一位置としての「Wパウル制限位置(
図3に示された位置)」とし、小パウル側係合歯28Cがホルダ38のパウル係合歯38Aに係合可能な状態の小パウル28の位置を第二位置としての「ロック位置(
図4に示された位置)」とする。さらに、Wパウル制限位置とロック位置との間から板バネ34の付勢力のみによって小パウル28の傾動が制限されている状態の当該小パウル28の位置を「中立位置(
図5に示された位置)」とする。
図5に示されるように、小パウル28が中立位置に配置されている状態では、小パウル側係合歯28Cがホルダ38のパウル係合歯38Aに係合しないようになっていると共にWパウル26の小パウル当接部26BがWパウル制限部28Dに当接しないようになっている。
【0033】
また、小パウル28の周方向一方側(矢印C方向側)には、マグネット36が固定(一例として内包)されている。このマグネット36のS極及びN極は、軸方向に向けられている。
【0034】
図1及び
図2に示されるように、小パウル28の軸方向一方側には、コイル30が設けられている。このコイル30は、スプール14の回転軸の周りに周方向に巻回されることによって形成されている。なお、コイル30の大部分は、樹脂材料を用いて円板状に形成されたコイル収容体40内に配置されている。そして、このコイル収容体40から延出する図示しないコイル30の末端部から当該コイル30への通電がなされるようになっている。また、コイル30の周方向の一部は、小パウル28の周方向一方側(矢印C方向側)
の部分(マグネット36が固定された部分)と軸方向に隣接して配置されている。そして、コイル30への一方向への通電がなされることで、小パウル28がWパウル制限位置へ傾動され、コイル30へ他方向への通電がなされることで、小パウル28がロック位置へ傾動されるようになっている。
【0035】
以上説明したVギア24、Wパウル26、小パウル28及びコイル30等は、フレーム12の脚片12Bに取り付けられるホルダ38内に配置される。そして、ホルダ38がフレーム12の脚片12Bに取付けられた状態では、Wパウル26及び小パウル28とホルダ38の被係合部としてのパウル係合歯38Aとが径方向に対向して配置されるようになっている。
【0036】
次に、
図6~
図8を用いて、ALR機構19について説明する。
【0037】
図6に示されるように、ALR機構19は、減速ギア群50と、橋渡しカム60と、ALRパウル70と、を主要な要素として構成されている。なお、
図6は、本実施形態のALR機構19における減速ギア群50及び橋渡しカム60の配置関係を主に説明するための概略図である。そのため、
図1及び
図2に示すウェビング巻取装置10とは若干構造が異なっている。
【0038】
減速ギア群50は、スプール14に対して軸方向他方側(Z方向とは反対側)に配置されている。具体的には、減速ギア群50は、フレーム12の脚片12Bに対して軸方向他方側に配置されている。減速ギア群50は、スプール14の回転を減速して伝達するように機能するギア群であり、第1ギア51と、第2ギア52と、第3ギア53と、第4ギア54と、から構成されている。
【0039】
第1ギア51は、スプール14から軸方向他方側に突設された回転軸12F(
図2参照)に取り付けられており、スプール14の回転に連動して回転するようになっている。
【0040】
第1ギア51には、二段歯車である第2ギア52の大歯車52Aが噛み合っている。第2ギア52の大歯車52Aの軸方向他方側には、第2ギア52の小歯車52Bが形成されている。第2ギア52の大歯車52Aと小歯車52Bとは、第2ギア52の軸回りを一体に回転する。
【0041】
第2ギア52の小歯車52Bには、二段歯車である第3ギア53の大歯車53Aが噛み合っている。第3ギア53の大歯車53Aの軸方向一方側には、第3ギア53の小歯車53Bが形成されている。第3ギア53の大歯車53Aと小歯車53Bとは、第3ギア53の軸回りを一体に回転する。
【0042】
第3ギア53の小歯車53Bには、第4ギア54が噛み合っている。第4ギア54は、橋渡しカム60の橋渡し軸61の軸方向他方側の端部に取り付けられており、橋渡しカム60は、第4ギア54の回転に連動して回転する。
【0043】
橋渡しカム60は、橋渡し軸61と、カム62と、を有している。カム62は、橋渡し軸61の軸方向一方側に設けられており、橋渡し軸61に連動して回転する。
【0044】
橋渡し軸61は、軸方向を長手方向として配置されている。橋渡し軸61の軸方向他方側は、フレーム12の軸方向他方側の脚片12Bに回転可能に支持されており、橋渡し軸61の軸方向一方側は、フレーム12の軸方向一方側の脚片12Bに回転可能に支持されている。カム62は、フレーム12の軸方向一方側の脚片12Bよりも軸方向一方側に配置される。
なお、本実施形態のウェビング巻取装置10は、公知のセレクタブルフォースリミッタ機構(SFL機構、図示省略)を備えており、橋渡しカム60は、スプール14とSFL機構との間の空間を利用して配置される。
【0045】
減速ギア群50を構成する第1ギア51、第2ギア52、第3ギア53及び第4ギア54の各回転軸は、何れも、スプール14の軸と平行である。図示は省略するが、スプール14の軸方向から見て、減速ギア群50を構成する第1ギア51、第2ギア52、第3ギア53及び第4ギア54の各回転軸は、この順に一直線上に配置されている。橋渡しカム60は、スプール14に対し、車両上下方向下方側に位置している。
【0046】
ALRパウル70は、軸方向から見て長手状に形成されている。ALRパウル70の長手方向の中間部には、ALRパウル70の傾動中心となるALRパウル支持部71が形成されている。ALRパウル70のALRパウル支持部71がフレーム12の脚片12Bに回転可能に支持されることで、ALRパウル70がALRパウル支持部71を軸支部として傾動可能となっている。
【0047】
ALRパウル70の長手方向一方側(
図7の左側)には、Vギア24の外歯24Sに係合するVギア側係合歯73が形成されている。ALRパウル70がロック位置(
図8に示す位置)に変位することで、ALRパウル70のVギア側係合歯73がVギア24の外歯24Sに係合し、Vギア24の引出方向の回転が規制される。
【0048】
ALRパウル70の長手方向一方側には、スプリング75が係止されている。スプリング75によって、ALRパウル70は、ALRパウル支持部71の周りを回転方向一方側(
図7の時計回り方向)に付勢されている。このため、ALRパウル70は、スプリング75の付勢力によって、ロック位置側へ付勢されている。
【0049】
ALRパウル70の長手方向他方側(
図7の右側)には、カム62と係合するカム側係合部72が形成されている。通常時(ウェビング16が完全には引出されていない状態)では、
図7に示されるように、ALRパウル70のカム側係合部72がカム62の大径部62Aと係合している。ALRパウル70のカム側係合部72がカム62の大径部62Aと係合している状態では、ALRパウル70のVギア側係合歯73が、Vギア24の外歯24Sと係合しない位置に位置している。つまり、ALRパウル70のカム側係合部72がカム62の大径部62Aと係合することで、ALRパウル70がロック位置へ変位することが防止され、ALRパウル70が許容位置(
図7に示される位置)に保持されている。
【0050】
ウェビング16の引出作業が行われると、減速ギア群50及び橋渡しカム60を介して回転力が伝達され、カム62が減速して回転される。ウェビング16が全量近く引出されるまでスプール14が回転されると、
図8に示されるように、カム62の大径部62AがALRパウル70のカム側係合部72と係合しない位置まで、カム62が回転される。つまり、減速ギア群50は、スプール14にウェビング16が最も巻取られた状態(以下「前格納状態」という。)から、ウェビング16がスプール14から最も引出された状態(以下「全引出状態」という。)までに要するスプール14の回転を、略1回転弱に減速してカム62を回転させる。
【0051】
ALRパウル70のカム側係合部72とカム62の大径部62Aとの係合が解除されると、スプリング75によって回転方向一方側に付勢されているALRパウル70は、
図8に示されるように回転方向一方側に回転(傾動)し、ロック位置まで変位(傾動)する。すると、ロック位置では、ALRパウル70のVギア側係合歯73が、Vギア24の外歯24Sに係合可能な位置に変位する。
【0052】
図1に示されるように、本実施形態のウェビング巻取装置10によれば、ウェビング16がスプール14から引出されることで、ウェビング16が車両用シートに着座した乗員に装着される。また、車両用シートに着座した乗員がウェビング16の装着を解除すると、図示しない巻取付勢機構によってスプール14が巻取方向へ回転されて、ウェビング16がスプール14に巻取られる。
【0053】
ここで、車両へ乗員が乗り込んで、当該乗員が車両用シートに着座したことがセンサによって検出されると、
図3に示されるように、コイル30への一方向への通電が成される。これにより、小パウル28が中立位置からWパウル制限位置へ傾動されて、小パウル28のWパウル制限部28DとWパウル26の小パウル当接部26Bとが周方向に近接して配置される。この状態では、Wパウル26の許容位置からロック位置側への傾動が制限されるため、車両用シートに着座した乗員は、ウェビング16をスプール14から速やかに引出して当該ウェビング16を装着することができる。このように、本実施形態では、ウェビング16の装着時におけるスプール14の回転の不要なロックを防止又は抑制することができる。
【0054】
なお、車両用シートに着座した乗員へのウェビング16の装着が完了した状態では、コイル30への通電が停止される。その結果、小パウル28が、板バネ34の付勢力によってWパウル制限位置から中立位置へ傾動される。
【0055】
また、車両の減速加速度が所定の減速加速度を上回ったことが当該車両に設けられたセンサ等によって検出されると(つまり車両の緊急時等には)、
図4に示されるように、コイル30へ他方向への通電がなされる。これにより、小パウル28が中立位置からロック位置へ傾動されて、小パウル28の小パウル側係合歯28Cがホルダ38のパウル係合歯38Aに係合する。その結果、ホルダ38のパウル係合歯38Aに係合した小パウル28および当該小パウル28を支持するVギア24の回転も制限される。
【0056】
そして、車両の減速により、車両用シートに着座した乗員の身体がシート前方側へ移動して、ウェビング16がスプール14から引出されると、スプール14がメインロック22と共に引出方向へ回転される。これにより、メインロック22のVギア係合凸部22Aが、回転が制限されたVギア24の作動溝24Dに沿って移動され(二点鎖線矢印で示される方向へ移動され)、メインロック22のメインロック側係合歯がフレーム12のロック歯12E(
図1参照)に係合する。その結果、スプール14の引出方向への回転が制限され、ウェビング16のスプール14からの引出しが制限される。これにより、車両用シートに着座した乗員の身体がウェビング16によって拘束される。
【0057】
なお、車両の緊急時から車両の通常走行に戻ると、コイル30への通電が停止される。その結果、小パウル28が、板バネ34の付勢力によってロック位置から中立位置へ傾動される。また、図示しない巻取付勢機構によってスプール14が巻取方向へ回転されて、スプール14から引出されたウェビング16が当該スプール14に巻取られる。
【0058】
また、配線の断線等により、コイル30への通電ができない状態で、車両が急減速をして、車両用シートに着座した乗員の身体がシート前方へ移動すると、ウェビング16がスプール14から急激に引出される。これにより、Vギア24がWパウル26と共に引出方向へ回転される。そして、スプール14の引出方向への回転速度が所定の速度を超えると、Wパウル26に作用する遠心力がコイルバネ32の付勢力を上回り、
図5に示されるように、Wパウル26が許容位置からロック位置に傾動されて、Wパウル26のWパウル側係合歯26Cがホルダ38のパウル係合歯38Aに係合する。その結果、ホルダ38のパウル係合歯38Aに係合したWパウル26および当該Wパウル26を支持するVギア24の回転も制限される。そしてさらに、車両用シートに着座した乗員の身体がシート前方へ移動して、ウェビング16がスプール14からさらに引出されると、スプール14がメインロック22と共に引出方向へ回転される。これにより、メインロック22のVギア係合凸部22Aが、回転が制限されたVギア24の作動溝24Dに沿って移動され(二点鎖線矢印で示される方向へ移動され)、メインロック22のメインロック側係合歯がフレーム12のロック歯12Eに係合する。その結果、スプール14の引出方向への回転が制限され、ウェビング16のスプール14からの引き出しが制限される。これにより、車両用シートに着座した乗員の身体がウェビング16によって拘束される。このように、本実施形態では、コイル30が通電できない状態であっても、車両の急減速時に車両用シートに着座した乗員の身体をウェビング16によって拘束することができる。
【0059】
(ALR機構)
また、乗員によってウェビング16が引出されると、スプール14が引出方向に回転される。これにより、スプール14の軸方向他方側に設けられた回転軸12Fから、減速ギア群50の第1ギア51、第2ギア52、第3ギア53、第4ギア54の順に回転が減速されながら伝達される。第4ギア54が回転すると、これに連動して橋渡しカム60も回転する。ウェビング16がほぼ完全に引出される状態までスプール14が引出方向に回転されると、カム62が非係合位置(
図8参照)まで回転される。これにより、ALRパウル70のカム側係合部72とカム62の大径部62Aとの係合が解除され、ALRパウル70がスプリング75の付勢力によって傾動する。ALRパウル70が傾動することで、ALRパウル70のVギア側係合歯73がVギア24の外歯24Sと係合する位置まで変位する。この状態では、Vギア24の引出方向の回転が制限される。
そしてさらに、ウェビング16が引出されようとすると、スプール14がメインロック22と共に引出方向へ回転される。これにより、メインロック22のVギア係合凸部22Aが、回転が制限されたVギア24の作動溝24Dに沿って移動され(二点鎖線矢印で示される方向へ移動され)、メインロック22のメインロック側係合歯がフレーム12のロック歯12Eに係合する。その結果、スプール14の引出方向への回転が制限され、ウェビング16のスプール14からの引き出しが制限される。
このように、本実施形態では、ウェビング16が所定の長さ以上引出されると(本実施形態では全量近くまで引出されると)、ALRパウル70が作動するように構成されている。そして、ALRパウル70の作動後は、ウェビング16の引出が不能となり巻取のみが可能となる。その後、ウェビング16が所定の長さまで巻取られるまで、スプール14の引出方向の回転が制限されることで、ウェビング16が引出されないようになっている。
【0060】
以上説明したように、本実施形態では、ウェビング16が引出されることでスプール14が引出方向に回転されると、スプール14に対して軸方向他方側に配置された減速ギア群50によって、スプール14の引出方向の回転が減速されて伝達される。減速ギア群50によって伝達された回転は、橋渡し軸61によって、スプール14に対して軸方向他方側から一方側へ伝達される。すると、橋渡し軸61によって伝達された回転によって、カム62が回転する。カム62が非係合位置まで回転するとALRパウル70がロック位置へ変位され、ALRパウル70がロック位置へ変位するとVギア24の引出方向の回転が規制される。その結果、スプール14の引出方向の回転が規制される。
以上のとおり、本実施形態では、
図9に示されるように、Vギア24と減速ギア群50のうち、Vギア24がスプール14に対して軸方向一方側に配置され、減速ギア群50がスプール14に対して軸方向他方側に配置されている。したがって、スプール14に対して軸方向一方側にVギア24及び減速ギア群50の両方が配置される態様と比較して、軸方向の体積バランスが取れた巻取装置とすることが容易となる。
【0061】
また、本実施形態では、橋渡し軸61が、スプール14に対して軸方向一方側と他方側との両方で軸支されているので、橋渡し軸61が安定して軸支される。
【0062】
また、本実施形態では、ウェビング巻取装置10は、小パウル28を備える。小パウル28がロック位置へ変位されることで、Vギア24の引出方向の回転が規制される。また、ウェビング巻取装置10は、コイル30を備える。コイル30により、小パウル28をロック位置へ変位させることができる。したがって、ウェビング16のスプール14からの引き出しを制限する機構を電気的に作動させることができる。
また、減速ギア群50がスプール14に対して軸方向他方側に配置され、コイル30がVギア24に対して軸方向一方側に配置されている。したがって、減速ギア群50が、コイル30と小パウル28との間に位置しない。このため、コイル30と小パウル28との間に減速ギア群50が配置される態様と比較して、コイル30と小パウル28との軸方向の距離を近くすることが容易となる。コイル30と小パウル28との軸方向の距離が近くなると、電磁アクチュエータの作動効率が向上する。
【0063】
また、本実施形態では、橋渡し軸61とカム62とが同軸上に配置されているので、橋渡し軸61をスプール14の近くに配置しやすく、ウェビング巻取装置10の大型化を防止することができる。
【0064】
なお、上記実施形態では、ウェビング巻取装置10が、小パウル28とコイル30とを備える例、つまり電磁アクチュエータによって制御されるロック機構を備える例を説明したが、本発明はこれに限定されない。ウェビング巻取装置は、小パウル28やコイル30を備えなくてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、橋渡し軸61とカム62とが一体に形成された例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、橋渡し軸とカムとの間に、他のギアが介在していても良い。
【0066】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内において上記以外にも種々変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0067】
10…ウェビング巻取装置、12…フレーム、14…スプール、16…ウェビング、24…Vギア、28…小パウル(ロック部材)、30…コイル、36…マグネット(ロック部材)、50…減速ギア群、60…橋渡しカム、61…橋渡し軸、62…カム、70…ALRパウル(パウル)