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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】電荷輸送材料
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20221129BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20221129BHJP
   C07D 251/24 20060101ALI20221129BHJP
   C07D 239/26 20060101ALI20221129BHJP
   C07D 213/26 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H05B33/14 B
H05B33/22 B
C09K11/06 660
C07D251/24
C07D239/26
C07D213/26
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020506577
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010132
(87)【国際公開番号】W WO2019176971
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】P 2018045065
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】サイ リンソン
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
(72)【発明者】
【氏名】那須 圭朗
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 礼隆
(72)【発明者】
【氏名】チェン ショウシェン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ユソク
(72)【発明者】
【氏名】野村 洸子
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-182088(JP,A)
【文献】特開2005-093159(JP,A)
【文献】国際公開第2013/081088(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0029381(KR,A)
【文献】特開2006-004721(JP,A)
【文献】特開2001-181619(JP,A)
【文献】特開2007-243101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
C09K 11/06
C07D 251/24
C07D 239/26
C07D 213/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含む電荷輸送材料。
【化1】
[一般式(1)において、RおよびRは各々独立にフッ化アルキル基を表し、
ArおよびArは、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香環を表し、
およびAは、各々独立に、AまたはArへ炭素原子で結合する、置換もしくは無置換のアリール基で置換されたトリアジニル基を表し、
n1は、Arに置換可能な最大置換基数以下の自然数を表し、
n2は、Arに置換可能な最大置換基数以下の自然数を表す。]
【請求項2】
およびRが各々独立にパーフルオロアルキル基である、請求項1に記載の電荷輸送材料。
【請求項3】
およびRの炭素数が各々独立に1~3のいずれかである、請求項1または2に記載の電荷輸送材料。
【請求項4】
およびRの炭素数が各々独立に1または2である、請求項3に記載の電荷輸送材料。
【請求項5】
およびRの炭素数が1である、請求項3に記載の電荷輸送材料。
【請求項6】
およびRがトリフルオロメチル基である、請求項1に記載の電荷輸送材料。
【請求項7】
ArおよびArが各々独立に置換基を有していてもよいベンゼン環である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電荷輸送材料。
【請求項8】
ArおよびArが、AまたはAとの結合位置、並びに、RおよびRが結合しているCとの結合位置以外の位置が無置換であるベンゼン環である、請求項1~6のいずれか1項に記載の電荷輸送材料。
【請求項9】
およびAが同一の基である、請求項1~のいずれか1項に記載の電荷輸送材料。
【請求項10】
n1およびn2が、1または2である、請求項1~のいずれか1項に記載の電荷輸送材料。
【請求項11】
前記電荷輸送材料がホスト材料である、請求項1~10のいずれか1項に記載の電荷輸送材料。
【請求項12】
前記電荷輸送材料が電子輸送材料である、請求項1~10のいずれか1項に記載の電荷輸送材料。
【請求項13】
最低励起三重項エネルギー準位(ET1)が2.90eV以上である、請求項1~12のいずれか1項に記載の電荷輸送材料。
【請求項14】
最大発光波長が360~495nmである有機発光素子用である、請求項1~13のいずれか1項に記載の電荷輸送材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷輸送材料として有用な化合物とそれを用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの有機発光素子の発光効率を高める研究が盛んに行われている。特に、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する発光材料やホスト材料、正孔輸送材料、電子輸送材料などを新たに開発して組み合わせることにより、発光効率を高める工夫が種々なされてきている。その中には、2つのアクセプター性基が連結基で連結した構造を有する化合物を利用した有機エレクトロルミネッセンス素子に関する研究も見受けられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、下記式で表される化合物を、青色リン光を発光する有機エレクトロルミネッセンス素子の電子輸送材料に用いることが記載されている。
【0004】
【化1】
【0005】
特許文献2には、下記式で表される化合物を、有機発光素子の電子注入輸送層の材料として用いることが記載されている。
【0006】
【化2】
【0007】
上記の各文献に記載の化合物では、中央のジフェニルシリレン基またはシクロヘキサンジイル基の両側にある4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル基で置換されたフェニル基がアクセプター性基に相当し、これらの基が他の分子からの電子を受容して電子輸送に寄与すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国特許第2012/0015138号公報
【文献】国際公開第2016/068478号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、特許文献1、2には、4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル基で置換された2つのフェニル基が連結基を介して連結した構造を有する化合物を電子輸送材料等として使用することが記載されている。しかしながら、本発明者らが、これらの化合物について、発光層のホスト材料としての性能を検討したところ、ホスト材料としては不十分であった。
そこで、本発明者らが、2つのアクセプター性基を有する化合物群について、特に連結基の構造に着目してホスト材料としての性能を網羅的に検討したところ、2つのアクセプター性基がアルキル基で置換されたメチレン基により連結している場合、そのアルキル基に置換する置換基の種類がホスト材料としての性能に大きく影響することが判明した。この点、上記の特許文献1、2では、連結基がアルキル基で置換されている場合の、そのアルキル基の置換基種については詳細な検討を行っていない。そのため、これらの文献からは、2つのアクセプター性基がメチレン基で連結している化合物のホストとしての性能が、そのメチレン基に置換しているアルキル基の置換基種により左右されることは予測がつかない。
このような状況下において本発明者らは、2つのアクセプター性基が連結基で連結した構造を有していて、ホスト材料等の電荷輸送材料として優れた性能を示す化合物の一般式を導きだし、優れた有機発光素子の構成を一般化することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
鋭意検討を進めた結果、本発明者らは2つのアクセプター性基を連結する連結基として、フッ化アルキル基で置換されたメチレン基を採用すれば、電荷輸送材料として優れた性能がもたらされることを見いだした。そして、そのような化合物を電荷輸送材料として用いることにより、優れた有機発光素子を提供できるとの知見を得るに至った。本発明は、このような知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
【0011】
[1] 下記一般式(1)で表される化合物を含む電荷輸送材料。
【化3】
[一般式(1)において、RおよびRは各々独立にフッ化アルキル基を表し、ArおよびArは、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香環を表し、AおよびAは、各々独立に、ハメットのσp値が正の基で置換されたアリール基、フェニル基で置換されたアリール基、または、ArまたはArへ炭素原子で結合する、置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表し、n1は、Arに置換可能な最大置換基数以下の自然数を表し、n2は、Arに置換可能な最大置換基数以下の自然数を表す。]
[2] RおよびRが各々独立にパーフルオロアルキル基である、[1]に記載の電荷輸送材料。
[3] RおよびRの炭素数が各々独立に1~3のいずれかである、[1]または[2]に記載の電荷輸送材料。
[4] RおよびRの炭素数が各々独立に1または2である、[3]に記載の電荷輸送材料。
[5] RおよびRの炭素数が1である、[3]に記載の電荷輸送材料。
[6] RおよびRがトリフルオロメチル基である、[1]に記載の電荷輸送材料。
[7] ArおよびArが各々独立に置換基を有していてもよいベンゼン環である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の電荷輸送材料。
[8] ArおよびArが、AまたはAとの結合位置、並びに、RおよびRが結合しているCとの結合位置以外の位置が無置換であるベンゼン環である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の電荷輸送材料。
[9] AおよびAが、各々独立に、ArまたはArへ炭素原子で結合する、置換もしくは無置換のヘテロアリール基である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の電荷輸送材料。
[10] 前記置換もしくは無置換のヘテロアリール基が、ピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環のいずれか一つ以上を含む基である、[9]に記載の電荷輸送材料。
[11] 前記置換もしくは無置換のヘテロアリール基が、置換もしくは無置換のピリジニル基、置換もしくは無置換のピリミジニル基または置換もしくは無置換のトリアジニル基である、[9]に記載の電荷輸送材料。
[12] 前記置換もしくは無置換のヘテロアリール基がトリアジン環を含む基である、[9]に記載の電荷輸送材料。
[13] 前記置換もしくは無置換のヘテロアリール基が置換もしくは無置換のトリアジニル基である、[9]に記載の電荷輸送材料。
[14] 前記ヘテロアリール基が、置換もしくは無置換のアリール基で置換されたヘテロアリール基である、[9]に記載の電荷輸送材料。
[15] 前記ヘテロアリール基が、置換もしくは無置換のアリール基で置換されたトリアジニル基である、[9]に記載の電荷輸送材料。
[16] AおよびAが同一の基である、[1]~[15]のいずれか1つに記載の電荷輸送材料。
[17] n1およびn2が、1または2である、[1]~[16]のいずれか1つに記載の電荷輸送材料。
[18] 前記電荷輸送材料がホスト材料である、[1]~[17]のいずれか1つに記載の電荷輸送材料。
[19] 前記電荷輸送材料が電子輸送材料である、[1]~[17]のいずれか1つに記載の電荷輸送材料。
[20] 最低励起三重項エネルギー準位(ET1)が2.90eV以上である、[1]~[19]のいずれか1つに記載の電荷輸送材料。
[21] 最大発光波長が360~495nmである有機発光素子用である、[1]~[20]のいずれか1つに記載の電荷輸送材料。
[22] 下記一般式(1)で表される化合物。
【化4】
[一般式(1)において、RおよびRは各々独立にフッ化アルキル基を表し、ArおよびArは、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香環を表し、AおよびAは、各々独立に、ハメットのσp値が正の基で置換されたアリール基、フェニル基で置換されたアリール基、または、ArまたはArへ炭素原子で結合する、置換もしくは無置換のヘテロアリール基(ただし、ArまたはArへ炭素原子で結合する、置換もしくは無置換のイミダゾリル基、ArまたはArへ炭素原子で結合する、置換もしくは無置換のチアジアゾリル基、および、ArまたはArへ炭素原子で結合する、置換もしくは無置換のオキサジアゾリル基を除く)を表し、n1は、Arに置換可能な最大置換基数以下の自然数を表し、n2は、Arに置換可能な最大置換基数以下の自然数を表す。]
[23] 下記一般式(1)で表される化合物を含む層を基板上に有する有機発光素子。
【化5】
[一般式(1)において、RおよびRは各々独立にフッ化アルキル基を表し、ArおよびArは、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香環を表し、AおよびAは、各々独立に、ハメットのσp値が正の基で置換されたアリール基、フェニル基で置換されたアリール基、または、ArまたはArへ炭素原子で結合する、置換もしくは無置換のヘテロアリール基(ただし、ArまたはArへ炭素原子で結合する、置換もしくは無置換のイミダゾリル基、ArまたはArへ炭素原子で結合する、置換もしくは無置換のチアジアゾリル基、および、ArまたはArへ炭素原子で結合する、置換もしくは無置換のオキサジアゾリル基を除く)を表し、n1は、Arに置換可能な最大置換基数以下の自然数を表し、n2は、Arに置換可能な最大置換基数以下の自然数を表す。]
[24] 最低励起一重項エネルギー準位と最低励起三重項エネルギー準位との差ΔESTが0.3eV以下である化合物を前記発光層に含む、[23]に記載の有機発光素子。
[25] 遅延蛍光を放射する、[23]または[24]に記載の有機発光素子。
[26] 前記一般式(1)で表される化合物を発光層に有する、[23]~[25]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
[27] 前記発光層における一般式(1)で表される化合物の含有量が50重量%以上である、[26]に記載の有機発光素子。
[28] 前記一般式(1)で表される化合物を、発光層と陰極の間に形成される層に有する、[23]~[25]のいずれか1つに記載の有機発光素子。
【発明の効果】
【0012】
本発明の化合物は、電荷輸送材料として有用である。本発明の化合物を電荷輸送材料として用いた有機発光素子は、低い駆動電圧、高い発光効率、長い寿命の少なくとも1つを実現しうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成例を示す概略断面図である。
図2】化合物1のトルエン溶液の紫外可視吸収スペクトル、発光スペクトルおよびりん光スペクトルである。
図3】化合物1を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の外部量子効率(EQE)-電流密度特性を示すグラフである。
図4】化合物1を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の輝度比L/Lの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべてHであってもよいし、一部または全部がH(デューテリウムD)であってもよい。
【0015】
[一般式(1)で表される化合物]
本発明の電荷輸送材料は、下記一般式(1)で表される化合物を含むことを特徴とする
【化6】
【0016】
一般式(1)において、RおよびRは各々独立にフッ化アルキル基を表す。本発明における「フッ化アルキル基」とは、アルキル基の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換された構造を有する基のことを言う。RおよびRが表すフッ化アルキル基は、アルキル基の全ての水素原子がフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基であってもよいし、アルキル基の水素原子の一部だけがフッ素原子で置換された、部分フッ化アルキル基であってもよい。これらのうち、フッ化アルキル基はパーフルオロアルキル基であることが好ましい。フッ化アルキル基の炭素数は、1~20のいずれかであることが好ましく、1~10のいずれかであることがより好ましく、1~5のいずれかであることがさらに好ましく、1~3のいずれかであることがさらにより好ましく、1または2であることが一層好ましく、1であることが特に好ましい。RおよびRが表すフッ化アルキル基はトリフルオロメチル基であることが最も好ましい。フッ化アルキル基の炭素数が3以上であるとき、フッ化アルキル基は直鎖状であってもよいし、分枝状であってもよい。RおよびRが表すフッ化アルキル基は、互いに同一であっても異なっていてもよい。RおよびRが表すフッ化アルキル基が互いに異なる場合の例として、炭素原子やフッ素原子の数が異なる場合、直鎖状と分枝状とで異なる場合、分枝状のフッ化アルキル基において枝分かれの数や枝分かれの位置が異なる場合等を挙げることができる。
【0017】
ArおよびArは、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香環を表す。ArおよびArを構成する「芳香環」はヘテロ原子を含まない芳香環であり、芳香族炭化水素から、他の基との結合位置に対応する箇所の水素原子を除いた環状構造のことをいう。ArおよびArは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。ArおよびArにおける芳香環は、単環であっても、2以上の芳香環が縮合した縮合環であってもよい。芳香環の炭素数は、6~22であることが好ましく、6~18であることがより好ましく、6~14であることがさらに好ましく、6~10であることがさらにより好ましい。この芳香環の具体例として、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環を挙げることができ、ベンゼン環であることが好ましい。芳香環における、AまたはAとの結合位置、並びに、RおよびRが結合しているCとの結合位置以外の位置は、置換基で置換されていても無置換であってもよいが、無置換であることが好ましい。すなわち、ArおよびArは、AまたはAとの結合位置、並びに、RおよびRが結合しているCとの結合位置以外が無置換であるベンゼン環であることが最も好ましい。
【0018】
ArおよびArにおける芳香環の、AまたはAとの結合位置、並びに、RおよびRが結合しているCとの結合位置以外の位置に置換しうる置換基として、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数1~20のアリール置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数2~20のアルキルアミド基、炭素数7~21のアリールアミド基、炭素数3~20のトリアルキルシリル基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。より好ましい置換基は、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数1~20のアルキルチオ基、炭素数1~20のアルキル置換アミノ基、炭素数1~20のアリール置換アミノ基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基である。
【0019】
およびAは、各々独立に、ハメットのσp値が正の基で置換されたアリール基、フェニル基で置換されたアリール基、または、ArまたはArへ炭素原子で結合する、置換もしくは無置換のヘテロアリール基を表す。
ここで、「ハメットのσ値」は、L.P.ハメットにより提唱されたものであり、パラ置換ベンゼン誘導体の反応速度または平衡に及ぼす置換基の影響を定量化したものである。具体的には、パラ置換ベンゼン誘導体における置換基と反応速度定数または平衡定数の間に成立する下記式:
log(k/k0) = ρσ
または
log(K/K0) = ρσ
における置換基に特有な定数(σ)である。上式において、kは置換基を持たないベンゼン誘導体の速度定数、k0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の速度定数、Kは置換基を持たないベンゼン誘導体の平衡定数、K0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の平衡定数、ρは反応の種類と条件によって決まる反応定数を表す。本発明における「ハメットのσ値」に関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)のσ値に関する記載を参照することができる。ハメットのσ値が負である置換基は電子供与性(ドナー性)を示し、ハメットのσ値が正である置換基は電子求引性(アクセプター性)を示す傾向がある。以下の説明では、「ハメットのσ値が負である」ことを「電子供与性」と言い、「ハメットのσ値が正である」ことを「電子求引性」と言うことがある。
【0020】
n1は、Arを構成する芳香環に置換しているAの数を表し、Arに置換可能な最大置換基数以下の自然数である。n2は、Arを構成する芳香環に置換しているAの数を表し、Arに置換可能な最大置換基数以下の自然数である。AおよびAは同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。n1が2以上であるとき、複数のAは互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましく、n2が2以上であるとき、複数のAは互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0021】
およびAが表す、ハメットのσp値が正の基で置換されたアリール基、および、フェニル基で置換されたアリール基において、それらのアリール基を構成する芳香環は、単環であっても、2以上の芳香環が縮合した縮合環であっても、2以上の芳香環が連結した連結環であってもよい。2以上の芳香環が連結している場合は、直鎖状に連結したものであってもよいし、分枝状に連結したものであってもよい。このアリール基を構成する芳香環の炭素数は、6~22であることが好ましく、6~18であることがより好ましく、6~14であることがさらに好ましく、6~10であることがさらにより好ましい。このアリール基の具体例として、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基を挙げることができ、フェニル基であることが好ましい。
ハメットのσp値が正の基で置換されたアリール基において、アリール基に置換するハメットのσp値が正の基の数は1つであっても2つ以上であってもよいが、1~3つであることが好ましく、1つまたは2つであることがより好ましい。アリール基における、ハメットのσp値が正の基の置換数が2以上である場合、複数のハメットのσp値が正の基は、互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
アリール基に置換するハメットのσp値が正の基の具体例として、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、ホルミル基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基、ハロアルキル基、スルホニル基、を挙げることができ、シアノ基であることが好ましい。また、後述のArまたはArへ炭素原子で結合する置換もしくは無置換のヘテロアリール基や後掲の各式で表される具体例も、ハメットのσp値が正の基として好ましく用いることができる。
フェニル基で置換されたアリール基において、アリール基に置換するフェニル基の数は1つであっても2つ以上であってもよいが、1~3つであることが好ましく、1つまたは2つであることが好ましい。
およびAが表す、ArまたはArへ炭素原子で結合する置換もしくは無置換のヘテロアリール基は、ハメットのσp値が正の基であることが好ましく、そのヘテロアリール基が含む芳香族ヘテロ環はπ電子欠如系の芳香族ヘテロ環であることが好ましい。
また、AおよびAが表す、ArまたはArへ炭素原子で結合する置換もしくは無置換のヘテロアリール基において、そのヘテロアリール基が含むヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、硼素原子を挙げることができ、ヘテロアリール基は、少なくとも1つの窒素原子を環員として含むことが好ましい。そのようなヘテロアリール基として、窒素原子を環員として含む5員環または6員環からなる基、または窒素原子を環員として含む5員環または6員環にベンゼン環が縮環した構造を有する基を挙げることができ、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環およびトリアジン環のいずれか1つ以上を含む基であることが好ましく、ピリジン環、ピリミジン環およびトリアジン環のいずれか1つ以上を含む基であることがより好ましく、トリアジン環を含む基であることがさらに好ましい。ヘテロアリール基の具体例として、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環から水素原子を1つ除いた1価の基、または、これらの芳香族ヘテロ環同士が縮環した構造を有する基、これらの芳香族ヘテロ環にベンゼン環が縮環した構造を有する基を挙げることができ、置換もしくは無置換のピリジニル基、置換もしくは無置換のピリミジニル基、置換もしくは無置換のトリアジニル基であることが好ましく、置換もしくは無置換のトリアジニル基であることがより好ましい。ArまたはArへ炭素原子で結合するヘテロアリール基は、置換基で置換されていても無置換であってもよいが、置換基で置換されていることが好ましい。ヘテロアリール基における置換基の数は、1つであっても2つ以上であってもよいが、1~3つであることが好ましく、1つまたは2つであることがより好ましい。ヘテロアリール基が2つ以上の置換基を有するとき、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
ArまたはArへ炭素原子で結合するヘテロアリール基に置換しうる置換基として、例えばアルキル基、アリール基、シアノ基、ハロゲン原子、ヘテロアリール基等を挙げることができ、このうち、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基は、それぞれ炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数5~40のヘテロアリール基であることが好ましい。これらの中で、ヘテロアリール基の置換基として好ましいのはアリール基である。このアリール基を構成する芳香環は、単環であっても、2以上の芳香環が縮合した縮合環であっても、2以上の芳香環が連結した連結環であってもよい。2以上の芳香環が連結している場合は、直鎖状に連結したものであってもよいし、分枝状に連結したものであってもよい。このアリール基を構成する芳香環の炭素数は、6~22であることが好ましく、6~18であることがより好ましく、6~14であることがさらに好ましく、6~10であることがさらにより好ましい。アリール基の具体例として、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基を挙げることができ、フェニル基であることが最も好ましい。これらの置換基のうち置換基により置換可能なものは、これらの置換基により置換されていてもよい。
【0022】
およびAにおける、ArまたはArへ炭素原子で結合する置換もしくは無置換のヘテロアリール基は、下記一般式(2)で表される基であることが好ましい。
【化7】
【0023】
一般式(2)において、A11~A15は各々独立にNまたはC(R19)を表し、R19は水素原子または置換基を表す。A11~A15の少なくとも1つはNであり、1~3つがNであることが好ましく、3つがNであることがより好ましい。また、A11~A15のうちでは、A11、A13、A15の少なくとも1つがNであることが好ましく、A11、A13、A15の全てがNであることがより好ましい。また、A12およびA14の少なくとも一方がC(R19)であって、R19が置換基であることも好ましく、A12およびA14の両方がC(R19)であって、R19が置換基であることもより好ましい。一般式(2)で表される基がR19を複数有するとき、複数のR19は互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。R19がとりうる置換基の好ましい範囲と具体例については、上記のArまたはArへ炭素原子で結合するヘテロアリール基に置換しうる置換基の好ましい範囲と具体例を参照することができる。*は、一般式(1)におけるArまたはArへの結合位置を表す。
【0024】
n1は、Arを構成する芳香環に置換しているAの数を表し、Arに置換可能な最大置換基数以下の自然数である。n2は、Arを構成する芳香環に置換しているAの数を表し、Arに置換可能な最大置換基数以下の自然数である。芳香環の置換可能な位置は、具体的には芳香環を構成するメチン基(-CH=)であり、ここで言う「置換可能な最大置換基数」とは、この芳香環を構成するメチン基の数から1を引いた数に相当する。例えば、ArおよびArがベンゼン環である場合には、その置換可能な最大置換基数は5であり、この場合のn1およびn2は1~5のいずれかの数をとりうるが、1~3であることが好ましく、1または2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。また、n1とn2は、同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。ここで、ArおよびArがベンゼン環であって、n1およびn2が1であるとき、このベンゼン環は、AまたはAと、RおよびRが結合しているCとを連結するフェニレン基を構成する。このベンゼン環が構成するフェニレン基は、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、1,4-フェニレン基のいずれであってもよいが、1,4-フェニレン基であることが好ましい。
【0025】
以下において、AおよびAが表す、「ハメットのσp値が正の基で置換されたアリール基」におけるハメットのσp値が正の基の具体例(A-1~A-77)、および、ArまたはArへ炭素原子で結合する置換もしくは無置換のヘテロアリール基の具体例(A-1~A-77のうち芳香族ヘテロ環の炭素原子でArまたはArへ結合するもの)を例示する。ただし、本発明において、AおよびAがとりうる基は、これらのものによって限定的に解釈されるべきものではない。下記式において、*は、ハメットのσp値が正の基で置換されたアリール基におけるアリール基への結合位置を表す。さらに、芳香族ヘテロ環の炭素原子から出ている*は、ArまたはArへの結合位置も表す。*が複数存在する場合は、複数の*のうちの1つがアリール基への結合位置、または、ArもしくはArへの結合位置を表す。それ以外の残りの*は、水素原子または置換基を表す。この置換基の好ましい範囲と具体例については、上記のArまたはArへ炭素原子で結合するヘテロアリール基に置換しうる置換基の好ましい範囲と具体例を参照することができるが、Aが含む*は、一般式(1)の(An2-Ar-C(R)(R)-の条件を満たす置換基や(An2-Ar-の条件を満たす置換基、Aの条件を満たす置換基であることも好ましく、その中では一般式(1)の(An2-Ar-C(R)(R)-の条件を満たす置換基であることがより好ましい。また、Aが含む*は、一般式(1)の(An1-Ar-C(R)(R)-の条件を満たす置換基や(An1-Ar-の条件を満たす置換基、Aの条件を満たす置換基であることも好ましく、その中では一般式(1)の(An1-Ar-C(R)(R)-の条件を満たす置換基であることがより好ましい。
【0026】
【化8】
【0027】
【化9】
【0028】
【化10】
【0029】
【化11】
【0030】
【化12】
【0031】
一般式(1)の(An1-Ar-および(An2-Ar-として好ましい基は、置換もしくは無置換のアリール基で置換されたヘテロアリール基で置換されたアリール基であり、より好ましい基は置換もしくは無置換のアリール基で置換されたトリアジニル基で置換されたアリール基であり、さらに好ましい基は置換もしくは無置換のフェニル基で置換されたトリアジニル基で置換されたフェニル基である。
【0032】
以下において、一般式(1)で表される化合物の具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる一般式(1)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【化13】
【0033】
【化14】
【0034】
【化15】
【0035】
【化16】
【0036】
一般式(1)で表される化合物の分子量は、例えば一般式(1)で表される化合物を含む有機層を蒸着法により製膜して利用することを意図する場合には、1500以下であることが好ましく、1200以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、900以下であることがさらにより好ましい。分子量の下限値は、一般式(1)で表される最小化合物の分子量である。
一般式(1)で表される化合物は、分子量にかかわらず塗布法で成膜してもよい。塗布法を用いれば、分子量が比較的大きな化合物であっても成膜することが可能である。
【0037】
本発明を応用して、分子内に一般式(1)で表される構造を複数個含む化合物を、電荷輸送材料として用いることも考えられる。
例えば、一般式(1)で表される構造中にあらかじめ重合性基を存在させておいて、その重合性基を重合させることによって得られる重合体を、電荷輸送材料として用いることが考えられる。具体的には、一般式(1)のR、R、Ar、Ar、A、Aのいずれかに重合性官能基を含むモノマーを用意して、これを単独で重合させるか、他のモノマーとともに共重合させることにより、繰り返し単位を有する重合体を得て、その重合体を電荷輸送材料として用いることが考えられる。あるいは、一般式(1)で表される構造を有する化合物どうしをカップリングさせることにより、二量体や三量体を得て、それらを電荷輸送材料として用いることも考えられる。
【0038】
一般式(1)で表される構造を含む繰り返し単位を有する重合体の例として、下記一般式(11)または(12)で表される構造を含む重合体を挙げることができる。
【化17】
【0039】
一般式(11)または(12)において、Qは一般式(1)で表される構造を含む基を表し、LおよびLは連結基を表す。連結基の炭素数は、好ましくは0~20であり、より好ましくは1~15であり、さらに好ましくは2~10である。連結基は-X11-L11-で表される構造を有するものであることが好ましい。ここで、X11は酸素原子または硫黄原子を表し、酸素原子であることが好ましい。L11は連結基を表し、置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましく、炭素数1~10の置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のフェニレン基であることがより好ましい。
一般式(11)または(12)において、R101、R102、R103およびR104は、各々独立に置換基を表す。好ましくは、炭素数1~6の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1~6の置換もしくは無置換のアルコキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは炭素数1~3の無置換のアルキル基、炭素数1~3の無置換のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子であり、さらに好ましくは炭素数1~3の無置換のアルキル基、炭素数1~3の無置換のアルコキシ基である。
およびLで表される連結基は、Qを構成する一般式(1)の構造のR、R、Ar、Ar、A、Aのいずれかに結合することができる。1つのQに対して連結基が2つ以上連結して架橋構造や網目構造を形成していてもよい。
【0040】
繰り返し単位の具体的な構造例として、下記式(13)~(16)で表される構造を挙げることができる。
【化18】
【0041】
これらの式(13)~(16)を含む繰り返し単位を有する重合体は、一般式(1)の構造のR、R、Ar、Ar、A、Aのいずれかにヒドロキシ基を導入しておき、それをリンカーとして下記化合物を反応させて重合性基を導入し、その重合性基を重合させることにより合成することができる。
【化19】
【0042】
分子内に一般式(1)で表される構造を含む重合体は、一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位のみからなる重合体であってもよいし、それ以外の構造を有する繰り返し単位を含む重合体であってもよい。また、重合体の中に含まれる一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位は、単一種であってもよいし、2種以上であってもよい。一般式(1)で表される構造を有さない繰り返し単位としては、通常の共重合に用いられるモノマーから誘導されるものを挙げることができる。例えば、エチレン、スチレンなどのエチレン性不飽和結合を有するモノマーから誘導される繰り返し単位を挙げることができる。
【0043】
[一般式(1)で表される化合物の合成方法]
一般式(1)で表される化合物は、既知の反応を組み合わせることによって合成することができる。例えば、一般式(1)のAr、Arがベンゼン環、A、Aが一般式(2)で表される基である化合物は、下記の反応スキーム1により中間体b’を合成し、この中間体b’と一般式(2)の部分構造(L19に結合している基)に対応する前駆体とを、カップリング反応を応用して結合させることにより合成することが可能である。
【0044】
【化20】
【0045】
上記の反応スキーム1において、R、Rの説明については、一般式(1)における対応する説明を参照することができ、A11~A15の説明については、一般式(2)における対応する説明を参照することができる。X、Xは各々独立にハロゲン原子を表し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、Xは臭素原子であることが好ましく、Xは塩素原子であることが好ましい。
上記の反応は、公知のカップリング反応を応用したものであり、公知の反応条件を適宜選択して用いることができる。上記の反応の詳細については、後述の合成例を参考にすることができる。また、一般式(1)で表される化合物は、その他の公知の合成反応を組み合わせることによっても合成することができる。
【0046】
[有機発光素子]
本発明の一般式(1)で表される化合物は、有機発光素子の電荷輸送材料として有用である。このため、本発明の一般式(1)で表される化合物は、有機発光素子の発光層のホスト材料や電子輸送層の電子輸送材料等として効果的に用いることができ、これにより、駆動電圧が低い有機発光素子、発光効率が高い有機発光素子、または素子寿命が長い有機発光素子を実現することができる。なかでも、最低励起三重項エネルギー準位(ET1)が2.90eV以上、好ましくは2.95eV以上、さらに好ましくは3.00eV以上の化合物は、発光波長が短い有機発光素子用の材料として有用である。例えば、最大発光波長が360~550nm、特に360~495nmの有機発光素子の材料として有用である。
【0047】
本発明の一般式(1)で表される化合物を電荷輸送材料として用いることにより、有機フォトルミネッセンス素子(有機PL素子)や有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの優れた有機発光素子を提供することができる。有機フォトルミネッセンス素子は、基板上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を含むものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。具体的な有機エレクトロルミネッセンス素子の構造例を図1に示す。図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表わす。
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および各層について説明する。一般式(1)で表される化合物は、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極と陰極の間に形成される層の少なくとも1つに含まれる。なお、基板と発光層の説明は有機フォトルミネッセンス素子の基板と発光層にも該当する。
【0048】
(基板)
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については、特に制限はなく、従来から有機エレクトロルミネッセンス素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英、シリコンなどからなるものを用いることができる。
【0049】
(陽極)
有機エレクトロルミネッセンス素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な材料を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10~1000nm、好ましくは10~200nmの範囲で選ばれる。
【0050】
(陰極)
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μm、好ましくは50~200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陽極の説明で挙げた導電性透明材料を陰極に用いることで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0051】
(発光層)
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層であり、発光材料のみからなる層であってもよいし、発光材料とホスト材料を含む層であってもよい。発光材料には公知のものを用いることができ、蛍光材料、遅延蛍光材料、りん光材料のいずれであってもよいが、高い発光効率が得られることから遅延蛍光材料であることが好ましい。
ホスト材料としては、一般式(1)で表される本発明の化合物群から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。ホスト材料には、一般式(1)で表される化合物群のうち、その最低励起一重項エネルギー準位および最低励起三重項エネルギー準位の少なくとも何れか一方が発光材料よりも高い値を有するものを用いることが好ましく、最低励起一重項エネルギー準位および最低励起三重項エネルギー準位の両方が発光材料よりも高い値を有するものを用いることがより好ましい。これにより、発光材料に生成した一重項励起子、三重項励起子を発光材料の分子中に閉じ込めることが可能となり、その発光効率を十分に引き出すことが可能となる。発光は蛍光発光、遅延蛍光発光、りん光発光のいずれであってもよく、2種類以上の発光を含んでいてもよい。但し、発光の一部或いは部分的にホスト材料からの発光があってもかまわない。
発光層における発光材料の含有量は、50重量%未満とすることが好ましい。さらに、発光材料の含有量の上限値は30重量%未満とすることが好ましく、また、含有量の上限値は例えば20重量%未満、10重量%未満、5重量%未満、3重量%未満、1重量%未満、0.5重量%未満とすることもできる。下限値は0.001重量%以上とすることが好ましく、例えば0.01重量%超、0.1重量%超、0.5重量%超、1重量%超とすることもできる。
【0052】
発光層は、最低励起一重項エネルギー準位と最低励起三重項エネルギー準位との差ΔESTが0.3eV以下である化合物を含むことが好ましい。ΔESTが0.3eV以下である化合物は、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差を生じやすいため、励起三重項エネルギーを励起一重項エネルギーへ変換する材料として効果的に用いることができる。具体的には、発光層は、ΔESTが0.3eV以下である化合物を発光材料として含むことができる。この場合、ΔESTが0.3eV以下である化合物は遅延蛍光を放射する遅延蛍光材料として機能し、これにより、高い発光効率を得ることができる。遅延蛍光材料により高い発光効率が得られるのは、以下の原理による。
すなわち、有機エレクトロルミネッセンス素子においては、正負の両電極より発光材料にキャリアを注入し、励起状態の発光材料を生成し、発光させる。通常、キャリア注入型の有機エレクトロルミネッセンス素子の場合、生成したエキシトンのうち、励起一重項状態に励起されるのは25%であり、残り75%は励起三重項状態に励起される。従って、励起三重項状態からの発光である燐光を利用するほうが、エネルギーの利用効率が高い。しかしながら、励起三重項状態は寿命が長いため、励起状態の飽和や励起三重項状態のエキシトンとの相互作用によるエネルギーの失活が起こり、一般に燐光の量子収率が高くないことが多い。一方、遅延蛍光材料は、項間交差等により励起三重項状態へとエネルギーが遷移した後、三重項-三重項消滅あるいは熱エネルギーの吸収により、励起一重項状態に逆項間交差され蛍光を放射する。有機エレクトロルミネッセンス素子においては、なかでも熱エネルギーの吸収による熱活性化型の遅延蛍光材料が特に有用であると考えられる。有機エレクトロルミネッセンス素子に遅延蛍光材料を利用した場合、励起一重項状態のエキシトンは通常通り蛍光を放射する。一方、励起三重項状態のエキシトンは、デバイスが発する熱を吸収して励起一重項へ項間交差され蛍光を放射する。このとき、励起一重項からの発光であるため蛍光と同波長での発光でありながら、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差により、生じる光の寿命(発光寿命)は通常の蛍光や燐光よりも長くなるため、これらよりも遅延した蛍光として観察される。これを遅延蛍光として定義できる。このような熱活性化型のエキシトン移動機構を用いれば、キャリア注入後に熱エネルギーの吸収を経ることにより、通常は25%しか生成しなかった励起一重項状態の化合物の比率を25%以上に引き上げることが可能となる。100℃未満の低い温度でも強い蛍光および遅延蛍光を発する化合物を用いれば、デバイスの熱で充分に励起三重項状態から励起一重項状態への項間交差が生じて遅延蛍光を放射するため、発光効率を飛躍的に向上させることができる。
【0053】
また、発光層は、ΔESTが0.3eV以下である化合物をアシストドーパントとして含むこともできる。ここで、アシストドーパントとは、ホスト材料および発光材料と組み合わせて用いられ、発光材料の発光を促進するように作用する材料である。発光層が、ΔESTが0.3eV以下である化合物をアシストドーパントとして含むことにより、発光層でのキャリア再結合によってホスト材料で生じた励起三重項エネルギーやアシストドーパントで生じた励起三重項エネルギーが、アシストドーパントでの逆項間交差により励起一重項エネルギーに変換されるようになり、その励起一重項エネルギーを発光材料の蛍光発光に有効利用することが可能になる。こうしたアシストドーパントを用いる系では、発光材料として、励起一重項状態からの輻射失活により発光しうる蛍光材料や遅延蛍光材料を用いることが好ましい。また、ホスト材料としては、一般式(1)で表される本発明の化合物群から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。アシストドーパントは、ΔESTが0.3eV以下であって、発光材料よりも最低励起一重項エネルギー準位が高く、且つ、ホスト材料よりも最低励起一重項エネルギー準位が低いことが好ましい。これにより、ホスト材料で生じた励起一重項エネルギーがアシストドーパントおよび発光材料へ容易に移動し、アシストドーパントで生じた励起一重項エネルギー、および、ホスト材料からアシストドーパントへ移動した励起一重項エネルギーが発光材料へ容易に移動する。その結果、励起一重項状態の発光材料が効率よく生成されて高い発光効率を得ることができる。さらに、アシストドーパントは、ホスト材料よりも最低励起三重項エネルギー準位が低いことがより好ましい。これにより、ホスト材料で生じた励起三重項エネルギーがアシストドーパントに容易に移動して、該アシストドーパントでの逆項間交差により励起一重項エネルギーに変換される。このアシストドーパントの励起一重項エネルギーが発光材料に移動する結果、励起一重項状態の発光材料が一層効率よく生成され、極めて高い発光効率を得ることができる。
発光層が発光材料とホスト材料とアシストドーパントを含む系では、発光層におけるアシストドーパントの含有量は、ホスト材料の含有量よりも少なく、発光材料の含有量よりも多いこと、すなわち、「発光材料の含有量<アシストドーパントの含有量<ホスト材料の含有量」の関係を満たすことが好ましい。具体的には、この態様での発光層におけるアシストドーパントの含有量は、50重量%未満とすることが好ましい。さらに、アシストドーパントの含有量の上限値は40重量%未満とすることが好ましく、また、含有量の上限値は例えば30重量%未満、20重量%未満、10重量%未満とすることもできる。下限値は0.1重量%以上とすることが好ましく、例えば1重量%超、3重量%超とすることもできる。
【0054】
また、発光層に一般式(1)で表される化合物を用いる場合は、発光材料とホスト材料を用いる系、発光材料とアシストドーパントとホスト材料を用いる系のいずれにおいても、発光層における一般式(1)で表される化合物の含有量は50重量%以上であることが好ましく、60重量%超であることがより好ましく、70重量%超、80重量%超、90重量%超、95重量%超、97重量%超、99重量%超、99.5重量%超とすることもできる。含有量の上限値は、発光材料とホスト材料を用いる系では99.999重量%以下とすることが好ましく、発光材料とアシストドーパントとホスト材料を用いる系では99.899重量%以下とすることが好ましい。
【0055】
また、発光層が、ΔESTが0.3eV以下である化合物を含む場合、そのΔESTは0.2eV以下であることが好ましく、0.1eV以下であることがより好ましい。
ここで、化合物の最低励起一重項エネルギー準位(ES1)および最低励起三重項エネルギー準位(ET1)は以下の方法で算出することができ、最低励起一重項エネルギー準位(ES1)と最低励起三重項エネルギー準位(ET1)の差(ΔEST)は、ΔEST=ES1-ET1により求められる。
(1)最低励起一重項エネルギー準位ES1
測定対象化合物とmCPとを、測定対象化合物が濃度6重量%となるように共蒸着することでSi基板上に厚さ100nmの試料を作製する。もしくは測定対象化合物が1×10-5mol/Lとなるようなトルエン溶液を調製する。常温(300K)でこの試料の蛍光スペクトルを測定する。具体的には、励起光入射直後から入射後100ナノ秒までの発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長の蛍光スペクトルを得る。この発光スペクトルの短波側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値 λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をES1とする。
換算式:ES1[eV]=1239.85/λedge
発光スペクトルの測定には、励起光源に窒素レーザー(Lasertechnik Berlin社製、MNL200)を用い、検出器にストリークカメラ(浜松ホトニクス社製、C4334)を用いることができる。
(2)最低励起三重項エネルギー準位ET1
一重項エネルギーES1と同じ試料を5[K]に冷却し、励起光(337nm)をりん光測定用試料に照射し、ストリークカメラを用いて、りん光強度を測定する。励起光入射後1ミリ秒から入射後10ミリ秒の発光を積算することで、縦軸を発光強度、横軸を波長のりん光スペクトルを得る。このりん光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対して接線を引き、その接線と横軸との交点の波長値λedge[nm]を求める。この波長値を次に示す換算式でエネルギー値に換算した値をET1とする。
換算式:ET1[eV]=1239.85/λedge
りん光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線は以下のように引く。りん光スペクトルの短波長側から、スペクトルの極大値のうち、最も短波長側の極大値までスペクトル曲線上を移動する際に、長波長側に向けて曲線上の各点における接線を考える。この接線は、曲線が立ち上がるにつれ(つまり縦軸が増加するにつれ)、傾きが増加する。この傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を、当該りん光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
なお、スペクトルの最大ピーク強度の10%以下のピーク強度をもつ極大点は、上述の最も短波長側の極大値には含めず、最も短波長側の極大値に最も近い、傾きの値が極大値をとる点において引いた接線を当該りん光スペクトルの短波長側の立ち上がりに対する接線とする。
【0056】
(注入層)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0057】
(阻止層)
阻止層は、発光層中に存在する電荷(電子もしくは正孔)および/または励起子の発光層外への拡散を阻止することができる層である。電子阻止層は、発光層および正孔輸送層の間に配置されることができ、電子が正孔輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。同様に、正孔阻止層は発光層および電子輸送層の間に配置されることができ、正孔が電子輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。阻止層はまた、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止するために用いることができる。すなわち電子阻止層、正孔阻止層はそれぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備えることができる。本明細書でいう電子阻止層または励起子阻止層は、一つの層で電子阻止層および励起子阻止層の機能を有する層を含む意味で使用される。
【0058】
(正孔阻止層)
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する。正孔阻止層は電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。正孔阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0059】
(電子阻止層)
電子阻止層とは、広い意味では正孔を輸送する機能を有する。電子阻止層は正孔を輸送しつつ、電子が正孔輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
【0060】
(励起子阻止層)
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。すなわち、励起子阻止層を陽極側に有する場合、正孔輸送層と発光層の間に、発光層に隣接して該層を挿入することができ、陰極側に挿入する場合、発光層と陰極との間に、発光層に隣接して該層を挿入することができる。また、陽極と、発光層の陽極側に隣接する励起子阻止層との間には、正孔注入層や電子阻止層などを有することができ、陰極と、発光層の陰極側に隣接する励起子阻止層との間には、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層などを有することができる。阻止層を配置する場合、阻止層として用いる材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーの少なくともいずれか一方は、発光材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0061】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。使用できる公知の正孔輸送材料としては例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。
【0062】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。電子輸送材料としては、一般式(1)で表される化合物を用いることができる。一般式(1)で表される化合物以外に電子輸送層に用いることができる電子輸送材料としては例えば、ピリジン誘導体、ジアジン誘導体、トリアジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0063】
有機エレクトロルミネッセンス素子を作製する際には、一般式(1)で表される化合物を単一の層に用いるだけでなく、複数の有機層にも用いてもよい。その際、各有機層に用いる一般式(1)で表される化合物は、互いに同一であっても異なっていてもよい。例えば、一般式(1)で表される化合物を発光層に用いるとともに、上記の注入層、阻止層、正孔阻止層、電子阻止層、励起子阻止層、正孔輸送層、電子輸送層などにも一般式(1)で表される化合物を用いてもよい。これらの層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらで作製してもよい。
【0064】
以下に、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示する。ただし、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。なお、以下の例示化合物の構造式におけるR、R’、R~R10は、各々独立に水素原子または置換基を表す。Xは環骨格を形成する炭素原子または複素原子を表し、nは3~5の整数を表し、Yは置換基を表し、mは0以上の整数を表す。
【0065】
まず、発光層の発光材料としての遅延蛍光材料またはアシストドーパントとして用いることができる化合物の具体例を挙げる。
【0066】
【化21】
【0067】
好ましい遅延蛍光材料として、WO2013/154064号公報の段落0008~0048および0095~0133、WO2013/011954号公報の段落0007~0047および0073~0085、WO2013/011955号公報の段落0007~0033および0059~0066、WO2013/081088号公報の段落0008~0071および0118~0133、特開2013-256490号公報の段落0009~0046および0093~0134、特開2013-116975号公報の段落0008~0020および0038~0040、WO2013/133359号公報の段落0007~0032および0079~0084、WO2013/161437号公報の段落0008~0054および0101~0121、特開2014-9352号公報の段落0007~0041および0060~0069、特開2014-9224号公報の段落0008~0048および0067~0076に記載される一般式に包含される化合物、特に例示化合物であって、遅延蛍光を放射するものを挙げることができる。また、特開2013-253121号公報、WO2013/133359号公報、WO2014/034535号公報、WO2014/115743号公報、WO2014/122895号公報、WO2014/126200号公報、WO2014/136758号公報、WO2014/133121号公報、WO2014/136860号公報、WO2014/196585号公報、WO2014/189122号公報、WO2014/168101号公報、WO2015/008580号公報、WO2014/203840号公報、WO2015/002213号公報、WO2015/016200号公報、WO2015/019725号公報、WO2015/072470号公報、WO2015/108049号公報、WO2015/080182号公報、WO2015/072537号公報、WO2015/080183号公報、特開2015-129240号公報、WO2015/129714号公報、WO2015/129715号公報、WO2015/133501号公報、WO2015/136880号公報、WO2015/137244号公報、WO2015/137202号公報、WO2015/137136号公報、WO2015/146541号公報、WO2015/159541号公報に記載される発光材料であって、遅延蛍光を放射するものも好ましく採用することができる。なお、この段落に記載される上記の公報は、本明細書の一部としてここに引用している。
【0068】
正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0069】
【化22】
【0070】
次に、正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0071】
【化23】
【0072】
【化24】
【0073】
【化25】
【0074】
【化26】
【0075】
【化27】
【0076】
【化28】
【0077】
次に、電子阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0078】
【化29】
【0079】
次に、正孔阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0080】
【化30】
【0081】
次に、電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0082】
【化31】
【0083】
【化32】
【0084】
【化33】
【0085】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0086】
【化34】
【0087】
さらに添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0088】
【化35】
【0089】
上述の方法により作製された有機エレクトロルミネッセンス素子は、得られた素子の陽極と陰極の間に電界を印加することにより発光する。このとき、励起一重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長の光が、蛍光発光および遅延蛍光発光として確認される。また、励起三重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長が、りん光として確認される。通常の蛍光は、遅延蛍光発光よりも蛍光寿命が短いため、発光寿命は蛍光と遅延蛍光で区別できる。
一方、りん光については、有機化合物からなる発光材料では、励起三重項エネルギーは不安定であり、熱失活の速度定数が大きく、発光の速度定数が小さいことから直ちに失活するため、室温では殆ど観測できない。通常の有機化合物の励起三重項エネルギーを測定するためには、極低温の条件での発光を観測することにより測定可能である。
【0090】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX-Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。本発明によれば、陽極と陰極の間に形成される層に一般式(1)で表される化合物を含有させることにより、駆動電圧、発光効率、素子寿命の少なくとも1つが大きく改善された有機発光素子が得られる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子は、さらに様々な用途へ応用することが可能である。例えば、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いて、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造することが可能であり、詳細については、時任静士、安達千波矢、村田英幸共著「有機ELディスプレイ」(オーム社)を参照することができる。また、特に本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、需要が大きい有機エレクトロルミネッセンス照明やバックライトに応用することもできる。
【実施例
【0091】
以下に合成例および実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、紫外線可視吸収スペクトルの測定はLAMBDA950-PKA(パーキンエルマー社製)を用いて行い、発光スペクトルの測定はFluoromax-4(ホリバ・ジョバンイボン社製)を用いて行い、素子特性の評価はOLED IVL特性自動IVL測定装置ETS-170(システム技研社製)を用いて行った。また、本実施例では、発光寿命が0.05μs以上の蛍光を遅延蛍光として判定した。
【0092】
(合成例1) 化合物1の合成
【化36】
【0093】
4,4’-(パーフルオロプロパン-2,2-ジイル)ジアニリン(4.0g、12mmol)、亜硝酸tert-ブチル(2.8g、27mmol)、臭化銅(II)(6.0g、27mmol)およびアセトニトリル(30mL)を100mLのフラスコに入れ、65℃で2時間加熱した。冷却後、この混合物に5%塩酸(30mL)を加えて反応を停止させ、ジクロロメタン(20mL)で2回抽出を行った。得られた有機層を水(5mL)、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(30mL)、塩水(30mL)を順に用いて洗浄した。その有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、ろ過し、ろ液を減圧下で濃縮した。得られた粗製物を、クロロホルム:ヘキサン=1:99の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、濃縮、乾燥させることで、白色固体物としての4,4’-(パーフルオロプロパン-2,2-ジイル)ビス(ブロモベンゼン)(中間体a)を収量4.8g、収率86%で得た。
【0094】
【化37】
【0095】
中間体a(4.6g、10.0mmol)、ビス(ピナコラート)ジボラン(7.6g、30.0mmol)、[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]パラジウム(II)ジクロリド ジクロロメタン付加物(731mg、1.0mmol)および酢酸カリウム(2.9g、30mmol)を、磁気撹拌子をセットした100mLの2口フラスコに入れ、減圧下で10分間乾燥させた。この混合物に、乾燥ジオキサン(30mL)を加え、室温で30分間攪拌した後、100℃で24時間加熱した。この反応液を室温まで冷却した後、水を加えて反応を停止させ、酢酸エチルで抽出を行った。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で濃縮して粗製物を得た。この粗製物を、クロロホルム:ヘキサン=1:4の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、濃縮、乾燥させた後、ヘキサンで洗浄した。これにより、白色固体物としての2,2’-((パーフルオロプロパン-2,2-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビス(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン)(中間体b)を収量4.5g、収率80%で得た。
【0096】
【化38】
【0097】
中間体b(2.78g、5.0mmol)、2-クロロ-4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン(1.34g、5.0mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.3g、0.27mmol)、炭酸カリウム(1.38g、10.02mmol)、1,4-ジオキサン(30mL)および蒸留水(10mL)を、100mLの丸底フラスコに入れ、アルゴン下で6時間還流を行った。この反応液にクロロホルムで抽出を行い、得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、エバポレーターで濃縮を行うことにより粗製物を得た。この粗製物を酢酸エチル:石油=1:4の混合溶媒を溶離液に用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、濃縮、乾燥させることで、白色固体物としての6,6’((パーフルオロプロパン-2,2-ジイル)ビス(4,1-フェニレン))ビス(2,4-ジフェニル-1,3,5-トリアジン)(化合物1)を収量2.36g、収率86%で得た。
【0098】
(合成例2) 化合物2の合成
【化39】
【0099】
中間体b(2.78g、5.0mmol)、2-クロロー4,6-ジフェニルピリミジン(1.33g、5.0mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.3g、0.27mmmol)、炭酸カリウム(1.38g、10.0mmmol)を100mLの丸底フラスコに入れ、フラスコ内を窒素置換する。この混合物へ、1,4-ジオキサン(30mL)および蒸留水(10mL)を加え、この混合物を窒素雰囲気下、100℃で24時間還流し、撹拌する。
撹拌後、この混合物を室温に戻してから、セライトを通してろ液を得る。得られたろ液にクロロホルムを加えて抽出し、抽出した有機層をエバポレーターで濃縮して、固体を得る。得られた固体をヘキサン:酢酸エチル:クロロホルム=30:2:2の混合溶媒を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製する。目的物のフラクションを濃縮し、乾燥させたところ、粉末状白色固体(化合物2)を得る。
【0100】
(合成例3) 化合物4の合成
【化40】
【0101】
中間体b(2.78g、5.0mmol)、4-クロロー2,6-ジフェニルピリジン(1.33g、5.0mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.3g、0.27mmmol)、炭酸カリウム(1.38g、10.0mmmol)を100mLの丸底フラスコに入れ、フラスコ内を窒素置換する。この混合物へ、1,4-ジオキサン(30mL)および蒸留水(10mL)を加え、この混合物を窒素雰囲気下、100℃で24時間還流し、撹拌する。
撹拌後、この混合物を室温に戻してから、セライトを通してろ液を得る。得られたろ液にクロロホルムを加えて抽出し、抽出した有機層をエバポレーターで濃縮して、固体を得る。得られた固体をヘキサン:酢酸エチル:クロロホルム=30:2:2の混合溶媒を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製する。目的物のフラクションを濃縮し、乾燥させたところ、粉末状白色固体(化合物4)を得る。
【0102】
(合成例4) 化合物23の合成
【化41】
【0103】
合成例1の中間体bと同じ方法で合成した中間体c(3.63g、6.52mmol)、2-クロロー4,6-ジフェニルー1,3,5-トリアジン(1.75g、6.52mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.381g、0.33mmol)、炭酸カリウム(2.70g、19.6mmol)を100mLの丸底フラスコに入れ、フラスコ内を窒素置換した。この混合物へ、テトラヒドロフラン(30mL)および蒸留水(10mL)を加え、この混合物を窒素雰囲気下、90℃で24時間還流し、撹拌した。
撹拌後、この混合物を室温に戻してから、セライトを通してろ液を得た。得られたろ液にクロロホルムを加えて抽出し、抽出した有機層をエバポレーターで濃縮して、固体を得た。得られた固体をヘキサン:酢酸エチル:クロロホルム=30:2:2の混合溶媒を用いて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。目的物のフラクションを濃縮し、乾燥させたところ、粉末状白色固体(化合物23)を収量1.90g、収率38%で得た。
1HNMR(500MHZ,CDCl3,δ):9.05(s,2H),8.87(d,J=7.0Hz,2H),8.70-8.73(m,8H),7.56-7.68(m,16H);
APCl-MS m/z:766.30M+
【0104】
(実施例1)化合物1を用いた有機フォトルミネッセンス素子の調製と評価
Ar雰囲気のグローブボックス中で化合物1のトルエン溶液(濃度1x10-5mol/L)を調製した。
このトルエン溶液の紫外可視吸収スペクトル、298Kでの発光スペクトルおよび77Kでのりん光スペクトルを図2に示す。図2中、「UV-Vis」は紫外可視吸収スペクトルを示し「PL」は発光スペクトルを示し、「Phos.」はりん光スペクトルを示す。りん光スペクトルから求められた化合物1の最低励起三重項エネルギー準位は3.0eVであった。
【0105】
(実施例2) 化合物1をホスト材料として用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度3×10-4Paで積層した。まず、ITO上にHAT-CNを10nmの厚さに形成し、その上に、α-NPDを30nmの厚さに形成した。続いて、Tris-PCzを20nmの厚さに形成し、その上に、mCBPを10nmの厚さに形成した。次に、化合物1と4CzIPNを異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、4CzIPNの濃度は15重量%とした。形成した発光層の上に、化合物1を10nmの厚さに形成し、その上に、Bebqを35nmの厚さに形成した。さらにフッ化リチウム(LiF)を0.8nm蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子とした。
【0106】
(比較例1) mCBPを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
発光層を形成する際、化合物1の代わりにmCBPを用い、発光層の上に化合物1からなる層を形成する代わりに、T2Tからなる層を10nmの厚さに形成した以外は、実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0107】
実施例1および比較例1作製した各有機エレクトロルミネッセンス素子について、外部量子効率(EQE)-電流密度特性を測定した結果を図3に示し、輝度比L/Lの経時変化を測定した結果を図4に示す。図4の縦軸に示す輝度比L/Lは、その経過時間における輝度Lと初期輝度Lとの比の値であり、初期輝度Lは5000cd/mである。図3、4中、「化合物1」は化合物1をホスト材料に用いた実施例1の有機エレクトロルミネッセンス素子を示し、「mCBP」はmCBPをホスト材料に用いた比較例1の有機エレクトロルミネッセンス素子を示す。
図3、4から、化合物1をホスト材料に用いた実施例1の有機エレクトロルミネッセンス素子は、mCBPをホスト材料に用いた比較例1の有機エレクトロルミネッセンス素子に比べて、各段に高い外部量子効率を有しており、素子寿命も遥かに長いことがわかった。
【0108】
(実施例3) 化合物1を正孔阻止材料および電子輸送材料として用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度3×10-4Paで積層した。まず、ITO上にHAT-CNを10nmの厚さに形成し、その上に、α-NPDを10nmの厚さに形成した。続いて、Tris-PCzを15nmの厚さに形成し、その上に、mCBPを5nmの厚さに形成した。次に、mCBPと4CzIPNを異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、4CzIPNの濃度は20重量%とした。形成した発光層の上に、化合物1を10nmの厚さに形成し、その上に、化合物1とLiqの共蒸着膜を40nmの厚さに形成した。この時、Liqの濃度は30重量%とした。さらにLiqを2nm蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子とした。
【0109】
(比較例2) SF3-TRZを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
電子輸送層を形成する際、化合物1の代わりにSF3-TRZを用いた以外は、実施例2と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0110】
実施例2および比較例2にて作製した各有機エレクトロルミネッセンス素子について、100 mA/cmでの電圧値、最大外部量子効率EQEおよび輝度比L/Lが0.8となる時間LT80を比較した。初期輝度Lは5000cd/mである。
実施例2および比較例2の最大外部量子効率EQEはそれぞれ20%を達成した。実施例2の電圧値は比較例2のものに対しおよそ2V低駆動電圧化し、LT80は2.95倍となった。
この結果から化合物1を正孔阻止材料および電子輸送材料に用いた実施例2の有機エレクトロルミネッセンス素子は、SF3-TRZを正孔阻止材料および電子輸送材料に用いた比較例2の有機エレクトロルミネッセンス素子に比べて、低電圧駆動かつ素子寿命が遥かに長いことがわかった。
【0111】
(実施例4) 化合物1を正孔阻止材料および電子輸送材料として用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度3×10-4Paで積層した。まず、ITO上にHAT-CNを10nmの厚さに形成し、その上に、α-NPDを10nmの厚さに形成した。続いて、Tris-PCzを15nmの厚さに形成し、その上に、mCBPを5nmの厚さに形成した。次に、H-1と4CzTPNを異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、4CzTPNの濃度は20重量%とした。形成した発光層の上に、化合物1を50nmの厚さに形成し、その上にLiqを2nm蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子とした。
【0112】
(比較例3) SF3-TRZを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
化合物1を50nmの厚さに形成する代わりに、正孔阻止層としてSF3-TRZを10nmの厚さに形成し、その上に電子輸送層としてSF3-TRZとLiqを7:3で共蒸着し40nmの厚さに形成した以外は、実施例4と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0113】
実施例4および比較例3にて作製した各有機エレクトロルミネッセンス素子について、100 mA/cmでの駆動電圧を測定したところ、実施例4は7.9Vで、比較例3は8.9Vであった。また、5000cd/mにおける輝度比L/Lが0.95となる時間LT95を測定したところ、実施例4は1.8時間で、比較例3は1.0時間であった。このように、実施例4は比較例3に対して1V低駆動電圧化し、LT80は1.8倍となった。
この結果から化合物1が正孔阻止材料および電子輸送材料として有用であることがわかった。
【0114】
(実施例5) 化合物1を正孔阻止材料として用いた青色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
膜厚50nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度3×10-4Paで積層した。まず、ITO上にHAT-CNを10nmの厚さに形成し、その上に、α-NPDを15nmの厚さに形成した。続いて、Tris-PCzを15nmの厚さに形成し、その上に、PYD-2Czを5nmの厚さに形成した。次に、PYD-2CzとD-1を異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、4CzIPNの濃度は30重量%とした。形成した発光層の上に、化合物1を10nmの厚さに形成し、その上にSF3-TRZとLiqの共蒸着膜を30nmの厚さに形成した。この時、Liqの濃度は30重量%とした。さらにLiqを2nm蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子とした。
【0115】
(実施例6) 化合物23を正孔阻止材料として用いた青色発光有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
正孔阻止層を形成する際、化合物1の代わりに化合物23を用いた以外は、実施例5と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0116】
(比較例4) SF3-TRZを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
正孔阻止層を形成する際、化合物1の代わりにSF3-TRZを用いた以外は、実施例5と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0117】
実施例5、実施例6および比較例4にて作製した各有機エレクトロルミネッセンス素子について、1000cd/mにおけるEQEを測定したところ、実施例5は16.0%、実施例6は17.3%、比較例4は13.0%であった。このように、実施例5は比較例4に対して3.0%EQEが向上し、実施例6は比較例4に対して4.3%EQEが向上した。
この結果から化合物1と化合物23の最低励起三重項エネルギー準位(ET1)が高くて、青色発光有機エレクトロルミネッセンス素子に有用であることがわかった。
【0118】
化合物1~7、12、14、17、19、21~23のET1を計算化学的手法によっても算出した。なお、計算化学的手法には、Q-Chem社Q-Chem 5.1プログラムを使用した。ここで、基底一重項状態Sでの分子構造の最適化ならびに電子状態の計算にはB3LYP/6-31G(d)法を用い、最低励起三重項エネルギー準位(ET1)の計算には時間依存密度汎関数法(TD-DFT)法を用いて計算した。結果を以下の表に示す。化合物1のET1の実測値(溶液)は3.00eV、計算値は3.02eVであり、また、化合物23のET1の実測値(溶液)は3.04eV、計算値は3.03eVであった。このことから、計算値と実測値は極めて近いことが確認され、計算の精度が高いことが実証された。表1の他の化合物の計算結果から、他の化合物もET1が高く、青色発光有機エレクトロルミネッセンス素子に有用であることがわかった。
【表1】
【0119】
(実施例7) 化合物1を正孔阻止材料および電子輸送材料として用いた発光有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
膜厚100nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度3×10-4Paで積層した。まず、ITO上にHAT-CNを10nmの厚さに形成し、その上に、α-NPDを10nmの厚さに形成した。続いて、Tris-PCzを15nmの厚さに形成し、その上に、mCBPを5nmの厚さに形成した。次に、H-1と4CzTPNを異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、4CzTPNの濃度は20重量%とした。形成した発光層の上に、化合物1を10nmの厚さに形成し、その上に、化合物1とLiqの共蒸着膜を40nmの厚さに形成した。この時、Liqの濃度は30重量%とした。さらにLiqを2nm蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子とした。
【0120】
(比較例5) SF3-TRZを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
正孔阻止層と電子輸送層を形成する際、化合物1の代わりにSF3-TRZを用いた以外は、実施例7と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0121】
実施例7および比較例5にて作製した各有機エレクトロルミネッセンス素子について、5000 cd/mでの駆動電圧を測定したところ、実施例7は5.6Vで、比較例5は6.3Vであった。輝度比L/Lが0.95となる時間LT95を測定したところ、実施例7は約140時間で、比較例5は66時間であった。この結果から化合物1が正孔阻止材料および電子輸送材料として有用であることがわかった。
【0122】
(実施例8) 化合物1を正孔阻止材料として用いた発光有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
電子輸送層として化合物1とLiqの共蒸着膜を形成する代わりに、SF3-TRZとLiqの共蒸着膜を形成した以外は、実施例7と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0123】
実施例8および比較例5にて作製した各有機エレクトロルミネッセンス素子について、10000cd/mにおけるEQEを測定したところ、実施例8は11.8%、比較例5は10.4%であった。この結果から化合物1が発光効率を向上させることができる点で有用であることがわかった。
【0124】
(実施例9) 化合物1を正孔阻止材料として用いた発光有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
膜厚50nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度3×10-4Paで積層した。まず、ITO上にHAT-CNを10nmの厚さに形成し、その上に、α-NPDを15nmの厚さに形成した。続いて、Tris-PCzを15nmの厚さに形成し、その上に、PYD-2Czを5nmの厚さに形成した。次に、PYD-2CzとD-1を異なる蒸着源から共蒸着し、30nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、D-1の濃度は30重量%とした。形成した発光層の上に、化合物1を10nmの厚さに形成し、その上に、SF3-TRZとLiqの共蒸着膜を30nmの厚さに形成した。この時、Liqの濃度は30重量%とした。さらにLiqを2nm蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を100nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子とした。
【0125】
(実施例10) 化合物1を正孔阻止材料として用いた発光有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
電子輸送層としてSF3-TRZとLiqの共蒸着膜を形成する代わりに、TRZ-4DPBTとLiqの共蒸着膜を形成した以外は、実施例9と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0126】
(比較例6) SF3-TRZを用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
正孔阻止層を形成する際、化合物1の代わりにSF3-TRZを用いた以外は、実施例9と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0127】
実施例9、実施例10および比較例6にて作製した各有機エレクトロルミネッセンス素子について、1000cd/mにおけるEQEを測定したところ、実施例9は16.0%、実施例10は16.6%、比較例6は13.7%であった。この結果から化合物1が発光効率を向上させることができる点で有用であることがわかった。
【0128】
(実施例11) 化合物23を正孔阻止材料として用いた発光有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
正孔阻止層を形成する際、化合物1の代わりに化合物23を用いた以外は、実施例9と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0129】
(実施例12) 化合物23を正孔阻止材料および電子輸送材料として用いた発光有機エレクトロルミネッセンス素子の作製
電子輸送層としてSF3-TRZとLiqの共蒸着膜を形成する代わりに、化合物23とLiqの共蒸着膜を形成した以外は、実施例11と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【0130】
実施例11、実施例12および比較例6にて作製した各有機エレクトロルミネッセンス素子について、1000cd/mにおけるEQEを測定したところ、実施例11は17.3%、実施例12は14.0%、比較例6は13.0%であった。この結果から化合物23が発光効率を向上させることができる点で有用であることがわかった。
【0131】
【化42】
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の化合物は電荷輸送材料として有用である。このため本発明の化合物は、有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子用の電荷輸送材料として効果的に用いられ、これにより、低駆動電圧、高発光効率、長い素子寿命の少なくとも1つを実現した有機発光素子を提供することが可能になる。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0133】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 陰極
図1
図2
図3
図4