(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】樹脂添加剤の製造方法および無機粒子含有樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20221129BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20221129BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20221129BHJP
C01B 21/068 20060101ALI20221129BHJP
C01B 21/064 20060101ALI20221129BHJP
C01B 21/06 20060101ALI20221129BHJP
C01B 21/072 20060101ALI20221129BHJP
C01F 5/02 20060101ALI20221129BHJP
C01F 7/021 20220101ALI20221129BHJP
C01B 32/956 20170101ALI20221129BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20221129BHJP
C01B 33/18 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K9/04
C08K3/013
C01B21/068 U
C01B21/064 M
C01B21/06 A
C01B21/072 R
C01F5/02
C01F7/021
C01B32/956
C01B33/02 Z
C01B33/18 C
(21)【出願番号】P 2022017809
(22)【出願日】2022-02-08
【審査請求日】2022-07-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504005035
【氏名又は名称】三笠産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】弁理士法人クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野上 修
(72)【発明者】
【氏名】猪野 陽佳
(72)【発明者】
【氏名】前 英雄
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 翔伍
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-106260(JP,A)
【文献】特開2017-020020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C01B,C01F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子、有機酸、およびpH調整剤を混合してpH5以上9以下の混合物を得る混合工程、
前記無機粒子の表面を前記有機酸で処理して官能基を有する表面処理層を形成する前処理工程、および
前記表面処理層が形成された前記無機粒子を、窒素を含有する後処理剤で処理して、前記無機粒子の表面に後処理層を形成する後処理工程を含
み、
前記有機酸が、酒石酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、クエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、および芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記後処理剤が、アミノ酸、アミノ基含有シランカップリング剤、およびイソシアネート基含有シランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一種である、樹脂添加剤の製造方法。
【請求項2】
前記官能基がカルボキシル基である、請求項1に記載の樹脂添加剤の製造方法。
【請求項3】
前記無機粒子が、シリカ、アルミナ、炭化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化ホウ素および窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1
または2に記載の樹脂添加剤の製造方法。
【請求項4】
前記後処理剤が、アミノ基を有するシランカップリング剤、またはアミノ基およびカルボン酸基を有するアミノ酸であり、
前記後処理層がアミド結合を有する、請求項1から
3のいずれか1項に記載の樹脂添加剤の製造方法。
【請求項5】
前記pH調整剤が炭酸アンモニウムを含む、請求項1から
4のいずれか1項に記載の樹脂添加剤の製造方法。
【請求項6】
前記前処理工程が、前記混合物を70℃以上95℃以下に加熱する加熱工程を含む、請求項1から
5のいずれか1項に記載の樹脂添加剤の製造方法。
【請求項7】
前記前処理工程が、前記加熱工程で得られた粒子にトリエタノールアミンを含む溶液を加えて調整溶液を得て、前記調整溶液から溶媒を除去して前記無機粒子を得る、調整工程を含む、請求項
6に記載の樹脂添加剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれか1項に記載の方法で得られた樹脂添加剤と、樹脂とを混合し混錬する工程を含む、無機粒子含有樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂添加剤の製造方法、樹脂添加剤および無機粒子含有樹脂組成物に関し、特に、樹脂との相溶性を向上させた樹脂添加剤の製造方法、無機粒子含有樹脂組成物の製造方法、樹脂添加剤、および樹脂添加剤を含む無機粒子含有樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂中に無機フィラーを含有させることにより、様々な機能を発現させる試みがされている。
例えば、特許文献1(特開2010-189516号公報)には、無機フィラー(金属酸化物など)を均一に分散された形態でかつ高濃度で含有する樹脂粒子(複合樹脂粒子)が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載の樹脂粒子(複合樹脂粒子)は、無機フィラー(金属酸化物粒子など)と、高分子と、水溶性多糖類などの助剤とを溶融混合して、無機フィラーを含有する樹脂粒子を分散相とし、前記助剤を連続相とする分散体を調製する際に、前記無機フィラーとして、加水分解縮合性基および反応性を有しない疎水性基を有する疎水化処理剤で表面処理された無機フィラーを選択することにより、無機フィラーを樹脂粒子中に高濃度でかつ均一に分散させるものである。
【0004】
特許文献2(特開2003-171577号公報)には、溶剤や樹脂などの有機媒体への親和性(親油性)および分散性に優れると共に撥水性を有し、さらに溶融混錬機等を用いた高温下での樹脂への分散においても黄変しない高い耐熱性を有する表面処理無機酸化物、その製造方法およびそれを用いた樹脂組成物が提案されている。
【0005】
特許文献2に記載の製造方法およびそれを用いた樹脂組成物は、表面に水酸基を有する多孔質無機酸化物の表面に存在する水酸基の3%以上に、アルコキシル基またはシラノール基を有する芳香族系珪素化合物を反応せしめてなる表面処理無機酸化物、および該表面処理無機酸化物および樹脂を含有する樹脂組成物である。
【0006】
また、特許文献3(特開2005-298740号公報)には、樹脂に配合した場合に凝集し難く、樹脂との親和性の良好な表面処理層が形成された無機粒子が提供され、また流動性が高く、硬化後の接着性、耐久性の良好な樹脂組成物が提案されている。
【0007】
特許文献3に記載の金属酸化物表面処理粒子は、金属酸化物粒子と表面処理層とからなるものである。金属酸化物粒子の表面をシランカップリング剤で処理して表面処理層を形成する。表面処理層は、該処理前の金属酸化物粒子の表面に存在した全てのOH基と該シランカップリング剤との反応により形成され、有機溶剤に不溶な反応不溶化層と、反応不溶化層の表面に形成され、有機溶剤に可溶な可溶化層と、のうち少なくとも反応不溶化層を含む。また、この金属酸化物表面処理粒子を含む金属酸化物粉体を樹脂に配合して樹脂組成物とするものである。
【0008】
さらに、特許文献4(特開2000-212328号公報)には、樹脂の熱安定化用添加剤が提案されている。
【0009】
特許文献4に記載の樹脂の熱安定化用添加剤は、シリカ、アルミナなどの無機粒子の表面をタンニン酸で処理し、更にカップリング剤で表面処理することで得られる樹脂添加剤で熱可塑性樹脂の熱安定化と同時にIZOT衝撃強度の低下を防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2010-189516号公報
【文献】特開2003-171577号公報
【文献】特開2005-298740号公報
【文献】特開2000-212328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
無機粒子は一般に樹脂との相溶性が悪く、そのため無機粒子を樹脂に混合する際の分散性が低下することが知られている。そこで、無機粒子の表面を様々な表面処理剤で表面処理し疎水化させることにより樹脂への分散性を向上させることが検討されている。
【0012】
しかしながら、上記のとおり、各種の無機粒子は樹脂へのフィラー(充填剤)として利用され、シランカップリング剤などの表面処理剤による表面処理により、樹脂への分散性が制御されている。しかし、表面処理剤の無機粒子表面への固定状態が凝集等により均一でない場合、無機粒子を樹脂に多量に配合することが難しくなる。
【0013】
例えば、無機粒子に、表面処理剤として3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES、以下アミノシランともいう。)を固定する表面処理では、アミノシランのアミノ基の影響により反応系は塩基性となり、そのため表面処理剤の自己凝集反応が顕著に起こり、無機粒子の表面に表面処理剤のオリゴマーが吸着した構造が形成されることがある。この現象においては、アミノシランのアミノ基が水素結合で無機粒子表面に吸着していることが分析によって説明されている。
【0014】
すなわち、シリカ粒子などの無機粒子の表面には、OH基(シラノール:Si-OH)が存在している。シラノールは親水性であるため、シリカ粒子を樹脂に配合した場合、シリカ粒子と樹脂とは馴染み難い。そこで、シランカップリング剤を用いてシリカ粒子の表面処理を行った場合、粒子表面にシランカップリング剤が付着すると共に、シランカップリング剤が自己縮合して不均一なポリマー層が形成される。このポリマー層の強度は低いため、硬化後のポリマー層でクラックが発生し易い。また、表面にポリマー層が形成されると、樹脂組成物の粘度は高くなり、流動性は低下する。
【0015】
そして、樹脂と無機粒子との親和性が悪い場合は、混合時の粘度が高くなり、無機粒子の配合量を上げることはできない。同時に、上記のとおり樹脂と無機粒子の境界付近に大きな亀裂が発生し、外部の気体を巻き込むことになる。また、シランカップリング剤の自己縮合が均一にできていないので、無機粒子と樹脂とを大きなトルクで混ぜると無機粒子表面のポリマー層が剥離し、無機粒子と樹脂との界面に亀裂(隙間)が発生する。それゆえ、樹脂組成物の硬化物の熱伝導率が低下し、また吸水率が高いという欠点がある。
【0016】
特に無機粒子を熱伝導材料として用い、無機粒子含有樹脂組成物を半導体の封止剤・絶縁シート・接着剤等として用いる場合、高い熱伝導性と温度耐性と低吸水性とを両立する必要がある。近年、半導体素子の高性能化に伴い高温部品の放熱性が重視されるところ、無機粒子の含有量が極めて多い樹脂組成物が求められ、かつ、吸水性が極めて低く信頼性の高い無機粒子含有樹脂組成物が求められる。しかしながら、上述のように、樹脂と無機粒子との親和性が十分でないために、無機粒子の含有率を上げつつ高熱伝導性と低吸水性とを備えることは困難であった。
【0017】
本発明は上記の欠点を解決するために成されたもので、その目的とするところは、無機粒子を樹脂に多量に配合することができ、無機粒子の配合量が多い場合であっても、良好な流動性を有し、また熱伝導率を向上させると共に、吸水率を低下させることができる樹脂添加剤の製造方法、樹脂添加剤、および無機粒子含有樹脂組成物を提供することにある。
本発明の他の目的は、樹脂に混合して硬化した後でも樹脂との界面でクラックが発生し難く、また樹脂中での凝集も起こり難い樹脂添加剤を得ることができる樹脂添加剤の製造方法、樹脂添加剤、および樹脂添加剤を含む無機粒子含有樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(1)
一局面に従う樹脂添加剤の製造方法は、無機粒子、有機酸、およびpH調整剤を混合してpH5以上9以下の混合物を得る混合工程、無機粒子の表面を有機酸で処理して官能基を有する表面処理層を形成する前処理工程、および表面処理層が形成された無機粒子を、窒素を含有する後処理剤で処理して、無機粒子の表面に後処理層を形成する後処理工程を含む。
【0019】
この場合、無機粒子の表面を有機酸で処理して官能基を有する表面処理層を形成する前処理工程、および表面処理層が形成された無機粒子を、窒素を含有する後処理剤で処理して、無機粒子の表面にアミド結合を有する後処理層を形成する後処理工程を含むので、後処理剤のアミノ基による粒子表面への吸着(加水分解反応を含む)と、アルコキシ基の自己縮合反応とを適切に制御することができる。
後処理工程において、後処理剤のアミノ基がフィラー表面のカルボキシル基(-COOH)と結合して吸着する反応と、後処理剤の自己縮合反応により高分子が形成される反応と、の2つの反応がおこる。そしてこの場合、後者の高分子が形成される反応よりも、前者の吸着する反応が優先的におこるため、後処理剤は無機粒子に効果的に吸着しつつ、縮合反応がバランスよく進行する。したがって、縮合により形成される表面処理層が無機粒子の表面に強固で均一に形成される。
【0020】
すなわち、無機粒子の表面は、一般に官能基が乏しく、水酸基等が存在する場合も不均一であるため、樹脂に対する相溶性が十分でない。そこで、一局面に従う樹脂添加剤の製造方法によれば、無機粒子の表面に存在する不均一な水酸基に有機酸を結合させて均一化し、さらに窒素を持つカップリング剤またはアミノ酸にて結合させるものである。これにより、無機粒子の表面が水酸基(カップリング剤)またはカルボキシル基(アミノ酸)により覆われるため、親水性が付与され、エポキシ樹脂など樹脂への相溶性が向上する。
【0021】
このようにして製造された樹脂添加剤は、樹脂との親和性が高くなり、硬化後も樹脂との界面でクラックが発生し難く、また樹脂中での凝集も起こり難い。また、樹脂組成物における無機粒子の体積率を高めることが容易となり、それによって熱伝導率を向上させると共に、吸水率を低下させることができる。
【0022】
したがって、本樹脂添加剤を含む無機粒子含有樹脂組成物は、高い熱伝導性と耐クラック性と低吸水性とを両立することができるため、放熱性と信頼性の高い半導体の封止剤とすることができる。
特に、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、および酸化マグネシウムは、熱伝導性材料として優れており、パワーデバイス用の絶縁グリスまたは絶縁シート、高周波部品用ケースに好適に応用できる。特に、窒化アルミニウムは、ポリイミド接着剤に含有させることで半導体用高真空装置の接着剤または被覆材として有望である。
【0023】
(2)
第2の発明に係る樹脂添加剤の製造方法は、一局面の発明に係る樹脂添加剤の製造方法であって、有機酸がヒドロキシカルボン酸であり、官能基がカルボキシル基であってもよい。
【0024】
これにより、有機酸が有するヒドロキシ基が、無機粒子表面のOH基と結合し、また有機酸が有するカルボキシル基が後処理剤と反応することによって疎水性の被膜を形成することができる。よって、製造された樹脂添加剤は樹脂との親和性が高くなり、硬化後も樹脂との界面でクラックが発生し難く、また樹脂中での凝集も起こり難い。
【0025】
(3)
第3の発明に係る樹脂添加剤の製造方法は、一局面または第2の発明に係る樹脂添加剤の製造方法であって、有機酸が、酒石酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、クエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、および芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される少なくとも一種であってもよい。
【0026】
これにより、有機酸が有するヒドロキシ基が、無機粒子表面のOH基と結合し、また有機酸が有するカルボキシル基が後処理剤と反応することによって疎水性の被膜を形成することができる。よって、製造された樹脂添加剤は樹脂との親和性が高くなり、硬化後も樹脂との界面でクラックが発生し難く、また樹脂中での凝集も起こり難い。
【0027】
(4)
第4の発明に係る樹脂添加剤の製造方法は、一局面から第3のいずれかの発明に係る樹脂添加剤の製造方法であって、無機粒子が、シリカ、アルミナ、炭化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化ホウ素および窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種であってもよい。
【0028】
使用する無機粒子として様々な無機粒子を使用することにより、熱伝導性、誘電率、強度、導電性などの無機粒子の特性を有する樹脂添加剤を製造することができる。
【0029】
(5)
第5の発明に係る樹脂添加剤の製造方法は、一局面から第4のいずれかの発明に係る樹脂添加剤の製造方法であって、後処理剤が、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤、アミノ基およびカルボン酸基を有するアミノ酸、並びに窒素原子を含むシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一種であってもよい。
【0030】
これにより、アミノ基による粒子表面への吸着(加水分解反応を含む)と、アルコキシ基の自己縮合反応とを適切に制御することによって、表面に強固で薄い表面処理層を形成することが可能である。
【0031】
(6)
第6の発明に係る樹脂添加剤の製造方法は、一局面から第5のいずれかの発明に係る樹脂添加剤の製造方法であって、後処理剤が、アミノ基を有するシランカップリング剤、またはアミノ基およびカルボン酸基を有するアミノ酸であり、後処理層がアミド結合を有してもよい。
【0032】
これにより、表面処理剤のアミノ基等が無機粒子表面の酸(カルボキシル基など)と結合する反応Aと、表面処理剤のシラノール基(アルコキシ基)の自己縮合反応Bとのバランスが良くなる、つまり反応Aが優先的に起こりながら、縮合反応Bが進行することで縮合により形成される表面処理層が均一になると推定される。その結果、無機粒子の表面に疎水性の被膜が均一に形成されるため、樹脂に対して親和性の高い処理粒子が製造される。
混合物のpHが上記範囲を外れる場合は、反応Aと縮合反応Bとのバランスが悪くなり、シラノール基の自己縮合反応を制御することができない場合がある。混合液のpHを調整するためには、炭酸アンモニウムなどのようにカルボン酸と容易に置き換わるものが好ましい。
【0033】
(7)
第7の発明に係る樹脂添加剤の製造方法は、一局面から第6のいずれかの発明に係る樹脂添加剤の製造方法であって、pH調整剤が炭酸アンモニウムを含んでもよい。
【0034】
pH調整剤として炭酸塩を用いることにより、カルボン酸と容易に置換される。さらに、pH調整剤としてアンモニウムを使用することにより、系内にナトリウム・カリウム等のイオンが残留することが防止される。
これにより、後処理剤の無機粒子に対する吸着反応が優先的に進行し、より均一で良好な表面処理層を形成することができる。
【0035】
(8)
第8の発明に係る樹脂添加剤の製造方法は、一局面から第7のいずれかの発明に係る樹脂添加剤の製造方法であって、前処理工程が、混合物を70℃以上95℃以下に加熱する加熱工程を含むものである。
【0036】
これにより、前処理工程において有機酸の官能基(-OHなど)を無機フィラーの表面に確実に結合させることができる。したがって、後処理工程において表面処理剤が無機フィラーと効果的に結合することができる。
【0037】
(9)
第9の発明に係る樹脂添加剤の製造方法は、第8の発明に係る樹脂添加剤の製造方法であって、前処理工程が、加熱工程で得られた粒子にトリエタノールアミンを含む溶液を加えて調整溶液を得て、調整溶液から溶媒を除去して無機粒子を得る、調整工程を含むものである。
【0038】
これにより、無機粒子の表面全体にトリエタノールアミンを吸着させることができるので、その後の後工程において、後処理剤を好ましく無機粒子の表面に固定することができる。
特に、無機粒子が窒化ホウ素または窒化アルミニウムの粉末の場合、粒子表面の官能基に、ヒドロキシ基またはカルボン酸基と、アミノ基またはアミド基とが混在することがあり、pHの調整を行っても、後処理剤がヒドロキシ基またはカルボン酸基に優先的に結合する場合がある。そこで、ヒドロキシ基およびカルボン酸基にトリエタノールアミンを作用させることにより、粒子表面の酸性の度合を調整することができ、これにより後処理剤を好ましく無機粒子の表面に固定することができる。
【0039】
(10)
他の局面に従う無機粒子含有樹脂組成物の製造方法は、請求項1から9のいずれかに記載の方法で得られた樹脂添加剤と、樹脂とを混合し混錬する工程を含む。
【0040】
これにより、表面に均一な被膜が形成された無機粒子を含む流動性が高い樹脂組成物を得ることができる。このようにして得られた樹脂組成物は、高い熱伝導性と耐クラック性と低吸水性とを両立することができるため、放熱性と信頼性の高い半導体の封止剤等とすることができる。
【0041】
(11)
他の局面に従う樹脂添加剤は、無機粒子と、無機粒子の表面に形成された表面処理層と、表面処理層の表面に形成された後処理層と、を有し、後処理層が窒素原子を含む後処理剤で形成されているものである。
【0042】
これにより、無機粒子の表面に強固で薄い表面処理層を形成することができる。樹脂添加剤は樹脂との親和性が高くなり、硬化後も樹脂との界面でクラックが発生し難く、また樹脂中での凝集も起こり難い。よって、樹脂組成物における無機粒子の体積率を高め、それによって熱伝導率を向上させると共に、吸水率を低下させることができる。
【0043】
(12)
第12の発明に係る樹脂添加剤は、第11の発明に係る樹脂添加剤であって、後処理剤が、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤、アミノ基およびカルボン酸基を有するアミノ酸、および窒素原子を含むシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一種であってもよい。
【0044】
これにより、後処理剤の(アミノ基による」粒子表面への吸着(加水分解反応を含む)と、アルコキシ基の自己縮合反応を適切に制御することができ、無機粒子の表面に強固で薄い表面処理層を形成することができる。
【0045】
よって、製造された樹脂添加剤は樹脂との親和性が高くなり、硬化後も樹脂との界面でクラックが発生し難く、また樹脂中での凝集も起こり難い。よって、樹脂組成物における無機粒子の体積率を高め、それによって熱伝導率を向上させると共に、吸水率を低下させることができる。
【0046】
(13)
他の局面に従う無機粒子含有樹脂組成物は、請求項11または12に記載の樹脂添加剤と、樹脂と、含むものである。樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を使用することができる。
【0047】
これにより、表面に均一な被膜が形成された無機粒子を含む流動性が高い樹脂組成物を得ることができる。このようにして得られた樹脂組成物は、高い熱伝導性と耐クラック性と低吸水性とを両立することができるため、放熱性と信頼性の高い半導体の封止剤とすることができる。
特に、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、および酸化マグネシウムは、熱伝導性材料として優れており、パワーデバイス用の絶縁グリスまたは絶縁シート、高周波部品用ケースに好適に応用できる。特に、窒化アルミニウムは、ポリイミド接着剤に含有させることで半導体用高真空装置の接着剤または被覆材として有望である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】実施例9および10で得られた粒子をエポキシ樹脂に混合した場合の充填率と粘度との関係を示す図である。
【
図2】実施例9および10で得られた粒子を熱硬化させて、得られた硬化物の熱伝導率を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例9および比較例9および10で得られた処理粒子の拡散型FTIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に、本実施の形態の樹脂添加剤の製造方法を詳細に説明する。
【0050】
本発明の樹脂添加剤の製造方法は、無機粒子の表面を有機酸で処理してカルボキシル基などの官能基を有する表面処理層を形成する前処理工程、および表面処理層が形成された無機粒子を、窒素を含有する後処理剤で処理して、無機粒子の表面にアミド結合などの結合基を有する後処理層を形成する後処理工程を含む。
有機酸としてヒドロキシカルボン酸を使用し、後処理剤としてアミノ基などの窒素原子を含むシランカップリング剤を使用する場合、本発明の樹脂添加剤の製造方法の反応機構の一例は次のとおりである。
(1)無機粒子と有機酸とを混合し、90℃に昇温することで、無機粒子表面に有機酸の官能基[-OH等]を結合させて、無機粒子の表面にカルボキシル基を形成する。
(2)次に、表面処理剤を加えると、表面処理剤のアミノ基等が無機粒子表面のカルボキシル基[-COOH] 等と結合し、アミド結合を形成する。
(3)さらに表面処理剤の濃度が高まると、シラノール基の自己縮合反応により高分子が形成されて無機粒子表面がコーティングされる。
(4)コーティングされた無機粒子は、エポキシ樹脂などの樹脂との相溶性が高く、高密度充填が可能であるので熱伝導率が高くなり、また吸水性が低下する。
特に、上記の(2)の反応と(3)の反応のバランスを適切にするために、反応系をpH5~9とすることが好ましい。このpHの範囲とすることにより、(2)の反応が優先的に起こりながら、(3)の縮合反応が進行することで、縮合により形成される表面処理層が均一になると推定される。
【0051】
すなわち、仮に(3)の縮合反応が優先的に進行すると、表面処理剤どうしの縮合が優先的となって無機粒子とは別に凝集体が形成されるなどして、無機粒子表面への均一なコーティングが困難となる。一方で、本発明の樹脂添加剤の製造方法によると、(2)の結合反応が優先的に起こりながら(3)の縮合反応が進行することで、表面処理層が無機粒子の表面に均一かつ高密度に形成される。これにより、本方法で得られた処理無機粒子は、エポキシ樹脂などの樹脂との相溶性が高くなり、樹脂粘度の上昇を抑えて高密度充填が可能となるので熱伝導率が高くなる。また、粒子と樹脂との相溶性が高く樹脂が硬化した後も亀裂等が生じにくいため、機械的物性に優れて吸水性が低く安定性に優れた樹脂成形物とすることができる。
なお、後添加剤で用いるシランカップリング剤は、アミノ基およびカルボン酸基を有するアミノ酸に代えて使用することができる。
【0052】
(無機粒子)
本発明で用いられる無機粒子は特に限定されず、本発明の目的に有効に使用し得るものであればどのような無機粒子でもよい。
例えば、シリカ、アルミナ、炭化ケイ素、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどが挙げられる。さらに、タルク、クレー、マイカ、ケイ酸アルミニウム、カオリナイトなども使用することができる。
【0053】
この無機粒子を半導体封止剤の樹脂(バインダー)の添加物として用いる場合、熱伝導性を向上させる点から、窒化アルミニウム(AlN)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ホウ素(BN)、炭化ケイ素(SiC)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化ケイ素(Si4N4)、ケイ素(Si)、酸化ケイ素(SiO2)、などを用いることができる。
そして、樹脂に添加した場合の熱伝導率を高める点からは、窒化アルミニウム(AlN)、酸化マグネシウム(MgO)、窒化ホウ素(BN)、炭化ケイ素(SiC)、酸化アルミニウム(Al2O3)とすることが好ましく、このうち、窒化アルミニウム(AlN)、炭化ケイ素(SiC)とすることがさらに好ましい。
そして、樹脂に添加した場合の吸水率を低く抑える点からは、窒化アルミニウム(AlN)、酸化マグネシウム(MgO)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si4N4)、酸化ケイ素(SiO2)とすることが好ましく、このうち、窒化ケイ素(Si4N4)、酸化ケイ素(SiO2)とすることがさらに好ましい。
【0054】
無機粒子の粒径および形状などは特に限定されず、その種類、使用目的に応じて適宜選択して使用される。
この無機粒子を半導体封止剤の樹脂(バインダー)の添加物として用いる場合、
無機粒子の中心粒子径は2μm以上50μm以下が好ましく、より好ましくは5μm以上20μm以下であり、6μm以上15μm以下がさらに好ましい。粒径を上記範囲とすることで、樹脂成形物の熱伝導率を高めつつ機械的特性を維持することができる。粒子径は種々の組み合わせをすることが可能であり、例えば、大粒径の粒子とサブミクロンの粒子を組み合わせることで無機粒子同士の接点を増加させることができる。この場合も、パーコレーションの観点から無機粒子は樹脂中に均一に充填されることが好ましく、これにより熱伝導率を向上させることができる。
なお、本実施形態の粒径の測定は、ISO 13320に準拠し、マイクロトラックベル社製マイクロトラックHRA9320-X100を用いて行った。
【0055】
この無機粒子の材料、粒径および形状は、使用される樹脂添加剤としての目的に応じて適宜選択することが可能であり、複数の材料、粒径および形状を組み合わせて使用することもできる。
例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、および酸化マグネシウムは、熱伝導性材料として優れており、パワーデバイス用の絶縁グリスまたは絶縁シート、高周波部品用ケースに好適に応用できる。特に、窒化アルミニウムは、ポリイミド接着剤に含有させることで半導体用高真空装置の接着剤または被覆材として有望である。
【0056】
(有機酸)
本発明で使用される有機酸は、典型的にはヒドロキシカルボン酸であり、官能基はカルボキシル基であり得る。
有機酸はヒドロキシル基を有するため、無機粒子表面に有する官能基(典型的にはヒドロキシ基[-OH])と結合することができ、また有機酸は官能基にカルボキシル基を有することにより、無機粒子を酸性につつ、後述する表面処理の反応を優先的に進めることができる。
また、無機粒子は純水に浸漬した場合に粒子の表面が塩基性になる場合が多い。例えば、酸化アルミニウムの場合、ゼータ電位の等電点が5~9の範囲にあり、浸漬時間に従って粒子表面が塩基性側にシフトする。そこで、有機酸を無機粒子に結合させて無機粒子の表面を酸性とすることによって、後処理剤のアミノ基が無機粒子表面に吸着しやすくなり、さらに粒子表面付近の弱酸性によってシラノール基の自己縮合反応が促進させる。
【0057】
有機酸としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、および芳香族ヒドロキシカルボン酸を使用することができる。具体的には、有機酸として、酒石酸、乳酸、サリチル酸、没食子酸、ヒドロキシ酪酸、クエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、および芳香族ヒドロキシカルボン酸からなる群から選択される少なくとも一種を使用することができる。
このうち、酒石酸、乳酸、サリチル酸、没食子酸、ヒドロキシ酪酸とすることが、溶解特に水に易溶として、pHを制御しやすい点で好ましい。
そして、表面処理層が好ましく形成されて樹脂に添加した場合に高熱伝導率と低吸水率に優れる点からは、酒石酸、乳酸とすることがより好ましい。
ただし、ここで選択される有機酸は、無機粒子の種類、後処理剤の種類、および使用される樹脂添加剤としての目的に応じて、適宜選択することができるものである。また、必要に応じて、複数の有機酸を適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0058】
この場合において、有機酸は、pH調整剤を用いてpHが5以上9以下に調整されることが好ましく、pHが5以上7以下に調整されることがより好ましい。これにより、後処理剤の無機粒子に対する吸着反応が優先的に進行して均一な表面処理層を形成することができる。
pH調整剤としては、炭酸塩を使用することができ、特に炭酸アンモニウムを用いることが好ましい。炭酸塩を用いることによりカルボン酸と容易に置換され、またアンモニウムを使用することにより、系内にナトリウム・カリウム等のイオンが残留することが防止される。
【0059】
(加熱工程)
pH調整剤で調整された有機酸と、無機粒子とを混合した混合物は、所定時間高温に加熱することにより、無機粒子の表面近傍を酸性にすることができる。この場合、加熱の温度は70℃以上95℃以下が好ましく、85℃以上93℃以下がより好ましい、また、加熱の時間は1時間以上10時間以下が好ましい。
これにより、後処理剤のアミノ基が無機粒子表面に吸着しやすくなり、さらに粒子表面付近の弱酸性によってシラノール基の自己縮合反応が促進させる。
【0060】
(調製工程)
加熱工程で得られた粒子にトリエタノールアミンを含む溶液を加えて調整溶液を得る。さらに得られた調整溶液を濾過して溶媒を除去して、乾燥させて無機粒子を得る。
このようにして、無機粒子の表面全体にトリエタノールアミンを吸着させることができる。これにより、後工程において、アミノ基を有する後処理剤を好ましく無機粒子の表面に固定することができる。
特に、無機粒子が窒化ホウ素または窒化アルミニウムなど窒化物を有する粉末の場合、粒子表面には官能基が乏しいながらも水酸基のほかアミノ基も有しており、強酸性の官能基が多い場合にはpHを安定させることが好ましい。粒子表面にトリエタノールアミンを作用させることにより酸性の度合を調整し、これにより後処理剤を好ましく無機粒子の表面に固定することができる。
なお、無機粒子が窒化ホウ素および窒化アルミニウム以外の場合は、トリエタノールアミンは必須ではない。しかし、その場合も粒子表面に強酸サイトがあったときには、自己縮合が局所的に起こりやすくなるため、強酸サイトをなくす目的でトリエタノールアミンを添加してもよい。
【0061】
(後処理剤)
本発明に使用される後処理剤としては、アミノ基またはイソシアネート基を有するシランカップリング剤、アミノ基およびカルボン酸基を有するアミノ酸、および窒素原子を含むシランカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一種を使用することができる。
(1)後処理剤がアミノ基を有するシランカップリング剤である場合
後処理剤は、アミノ基を有するため後処理によって無機粒子の表面に吸着し、さらにヒドロキシル基(アルコキシ基)を有するため粒子表面付近の弱酸性によって自己縮合反応がおこる。したがって、無機粒子の表面で後処理剤による高分子膜が形成されるので、無機粒子の表面に高密度かつ均一な有機層が形成される。
このような有機層が形成された無機粒子は、エポキシ樹脂などの樹脂との相溶性が高くなり、樹脂粘度の上昇を抑えて高密度充填が可能となるので熱伝導率が高くなる。また、樹脂が硬化した後も亀裂等が生じにくいため、機械的物性に優れて吸水性が低く安定性に優れた樹脂成形物とすることができる。
【0062】
後処理剤としては、アミノ基含有シランカップリング剤以外に、アミノ酸、イソシアネート基含有シランカップリング剤などを用いることができる。
アミノ酸としては、例えば、グリシン,アラニン,バリン,ロイシン,イソロイシン,リジン,セリン,トレオニン,フェニルアラニン,アスパラギン酸,グルタミン酸,メチオニン,アルギニン,トリプトファン,ヒスチジン,プロリン,オキシプロリン,システインなどが挙げられる。
アミノ基含有シランカップリング剤としては、例えば、2-アミノエチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-[N-(2-アミノエチル)アミノ]エチルトリメトキシシラン、3-[N-(2-アミノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノ]プロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシランなどとすることができる。
イソシアネート基含有シランカップリング剤としては、2-イソシアネートエチルトリメトキシシラン,2-イソシアネートエチルトリエトキシシラン,3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン,3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどとすることができる。
この場合において、後処理剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0063】
このうち、アミノ酸としては、アラニン、グリシン、システイン、アスパラギン酸などを用いることが好ましい。また、アミノ基含有シランカップリング剤としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランなどを用いることが好ましい。
イソシアネート基含有シランカップリング剤としては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどを用いることが好ましい。
(2)後処理剤がアミノ酸である場合、およびイソシアネート基含有シランカップリング剤である場合も、後処理剤がアミノ基を有するシランカップリング剤である場合と同様に、後処理剤は、アミノ基またはイソシアネート基を有するため後処理によって無機粒子の表面に吸着し、さらにヒドロキシル基を有するため粒子表面付近の弱酸性によって自己縮合反応がおこる。したがって、無機粒子の表面で後処理剤による高分子膜が形成されるので、無機粒子の表面に高密度かつ均一な有機層が形成される。
このような有機層が形成された無機粒子は、エポキシ樹脂などの樹脂との相溶性が高くなり、樹脂粘度の上昇を抑えて高密度充填が可能となるので熱伝導率が高くなる。また、樹脂が硬化した後も亀裂等が生じにくいため、機械的物性に優れて吸水性が低く安定性に優れた樹脂成形物とすることができる。
【0064】
無機粒子に対する後処理剤の配合割合は、無機粒子および後処理剤の種類などに応じて選択できるが、例えば、0.1重量%以上15重量%以下(例えば、0.3重量%以上12重量%以下)、好ましくは0.5重量%以上10重量%重量%以下(例えば、0.7重量%以上8重量%重量%以下)、さらに好ましくは1重量%以上7重量%重量%以下(例えば、1重量%以上5重量%重量%以下)程度であってもよい。
【0065】
(樹脂添加剤)
本発明の樹脂添加剤は、無機粒子と、無機粒子の表面に形成された表面処理層と、表面処理層の表面に形成された後処理層と、を有し、後処理層が窒素原子を含む後処理剤で形成されている。
無機粒子は上記で説明した無機粒子を使用することができ、また後処理剤は上記で説明した後処理剤を使用することができる。
【0066】
(無機粒子含有樹脂組成物)
本発明の無機粒子含有樹脂組成物は、上記の樹脂添加剤と、樹脂とを含むものである。
樹脂組成物に使用する樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、エラストマー、ゴム等が挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。
また、熱可塑性樹脂としては、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミド樹脂(ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等)、ポリエステル(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、全芳香族ポリエステル等)、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。
エラストマー、ゴムとしては、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ニトリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ネオブレンゴム、プチルゴム、ポリサルファイド、ウレタンゴムなどが挙げられる。
これらの中で、加工性の観点からは熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。具体的には、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン、ポリイミド、不飽和ポリエステルから選択される1種以上が好ましく例示される。
【0067】
無機粒子含有樹脂組成物を半導体封止剤として用いる場合、樹脂(バインダー)としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂などの樹脂を用いることが好ましい。これらのなかでも無機粒子を含有する観点からシリコーン樹脂またはエポキシ樹脂を使用することが好ましく、エポキシ樹脂を使用することがより好ましくい。
また、無機粒子として、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、酸化マグネシウムを使用した無機粒子含有樹脂組成物は、熱伝導性材料として好適に使用でき、あるいはパワーデバイス用の絶縁グリスや絶縁シート、高周波部品用ケースに使用することができる。特に、窒化アルミニウムを含む無機粒子含有樹脂組成物は、ポリイミド接着剤に含有させて半導体用高真空装置の接着剤や被覆材として好適に使用することができる。
なお、これらは単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0068】
樹脂添加剤と樹脂とは、その目的と必要な物性に応じて適宜の重量比で混合することができる。
種々の混合機、分散機、混錬機を用いて、樹脂添加剤と樹脂とを混錬すれば良い。例えば、混合は慣用の混練機(例えば、単軸もしくは二軸スクリュー押出機、ニーダー、カレンダーロール、バンバリーミキサー、ブラベンダーなど)を用いて行うことができる。
【0069】
各実施例および比較例の製造工程および測定方法を以下に詳述し、表1~2および
図1~3に測定結果を示す。
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0070】
(実施例1)
無機粒子として窒化アルミニウムAlNの粒子を前処理した後、pH調整剤として炭酸アンモニウム、有機酸として酒石酸を用い、後処理剤として3-アミノプロピルトリエトキシシランを用いて、窒化アルミニウムの処理粒子(樹脂添加剤)を得た。さらに得られた窒化アルミニウムの処理粒子をエポキシ樹脂に添加して、樹脂硬化物を得た。
【0071】
<前処理工程>
中心粒径30μmの窒化アルミニウム粒子を用意し、有機酸として酒石酸を用意した。窒化アルミニウム粒子100重量部に対して、酒石酸の含有量が0.05重量部、炭酸アンモニウムの含有量が0.026重量部、純水100重量部となるように、炭酸アンモニウムと酒石酸とを純水に加え、pH5.5の溶液を調製した。
次に、溶液に窒化アルミニウム粒子を入れ、日本コークス社製ヘンシェルミキサー(FM-20C/I)を用いて撹拌しながら6時間90℃に加熱と攪拌をして分散液を得た。(混合工程)
【0072】
次に、分散液を常温(25℃)に戻し、濾過し溶液を除去した後に、得られた窒化アルミニウム粒子を0.05(W/V)%のトリエタノールアミンの溶液中に投入して、ヘンシェルミキサーを用いて3分間撹拌した。
このようにして窒化アルミニウム粒子に対してトリエタノールアミンを吸着させ、調整液を濾過して溶液を取り除き、さらに得られた窒化アルミニウム粒子を純水で洗浄した後に、ヘンシェルミキサーを用いて120℃で60分乾燥させた。(調整工程)
本実施例においては、この調製工程は、無機粒子が窒化アルミ、窒化ホウ素、アルミナの場合のみ行った。
【0073】
<後処理工程>
このように前処理した窒化アルミニウム粒子をヘンシェルミキサーに入れ、撹拌しながら後処理剤として3-アミノプロピルトリエトキシシラン(1W/V%:信越化学社製KBE-903)を徐々に加え、100~120℃で約1時間連続して攪拌することで自己縮合反応を進め、樹脂添加剤である処理粒子を得た。
得られた処理粒子について、体積率(%)、熱伝導率(W/mk)、および吸水率(%)を測定し、表1に示した。
【0074】
<他の実施例>
以下、本発明の他の実施例について説明する。
なお、トリエタノールアミンによる調製工程は、窒化アルミ、窒化ホウ素、アルミナの場合のみ行い、それ以外の無機粒子を使用する場合は調製工程を行わなかった。
【0075】
(実施例2)
有機酸として乳酸(富士フィルム和光純薬社製)0.07重量部、炭酸アンモニウム0.025重量部を使用し、pH5.5(±0.5)の溶液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、樹脂添加剤である処理粒子を得た。
また、後処理剤として3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製KBE-9007N)1重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
なお、乳酸および炭酸アンモニウムの含有量と溶液のpHについても、実施例1と同じである。
【0076】
(比較例1)
有機酸の代わりに4%塩酸(富士フィルム和光純薬社製)0.22重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
(比較例2)
有機酸およびpH調整剤を用いなかった(純水のみ)こと以外は、実施例1と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
【0077】
(実施例3)
無機粒子として中心粒径10μmの酸化マグネシウムMgO100重量部を用い、有機酸として酒石酸0.05重量部を用い、後処理剤としてアラニン1重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
(実施例4)
有機酸として乳酸(富士フィルム和光純薬社製)0.07重量部を用い、後処理剤として3-アミノプロピルトリエトキシシラン1重量部を用いた以外は、実施例3と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
【0078】
(比較例3)
有機酸およびpH調整剤を用いなかった(純水のみ)以外は、実施例3と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
(比較例4)
有機酸の代わりに4%塩酸(富士フィルム和光純薬社製)0.22重量部を用いた以外は、実施例3と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
【0079】
(実施例5)
無機粒子として中心粒径5μmの窒化ホウ素BN100重量部を用い、後処理剤としてグリシン(富士フィルム和光純薬社製)1重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
(実施例6)
有機酸として乳酸(富士フィルム和光純薬社製)0.07重量部を用いた以外は、実施例5と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
【0080】
(比較例5)
有機酸およびpH調整剤を用いなかった(純水のみ)以外は、実施例5と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
(比較例6)
有機酸の代わりに4%塩酸(富士フィルム和光純薬社製)0.22重量部を用いた以外は、実施例5と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
【0081】
(実施例7)
無機粒子として中心粒径10μmの炭化ケイ素SiC100重量部を用い、後処理剤としてシステイン(富士フィルム和光純薬社製)1重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
(実施例8)
有機酸として乳酸(富士フィルム和光純薬社製)0.07重量部を用い、後処理剤としてN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製KBM-573)1重量部を用いた以外は、実施例7と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
【0082】
(比較例7)
有機酸およびpH調整剤を用いなかった(純水のみ)以外は、実施例7と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
(比較例8)
有機酸の代わりに4%塩酸(富士フィルム和光純薬社製)0.22重量部を用いた以外は、実施例7と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
【0083】
(実施例9)
無機粒子として中心粒径10μmの酸化アルミニウムAl2O3100重量部を用い、後処理剤としてアラニン(富士フィルム和光純薬社製)1重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
(実施例10)
有機酸としてサリチル酸(富士フィルム和光純薬社製)0.05重量部を用い、後処理剤として3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学社製KBE-9007N)1重量部を用いた以外は、実施例9と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
【0084】
(比較例9)
有機酸およびpH調整剤を用いなかった(純水のみ)以外は、実施例9と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
(比較例10)
有機酸の代わりに4%塩酸(富士フィルム和光純薬社製)0.22重量部を用いた以外は、実施例9と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表1に示した。
【0085】
(実施例11)
無機粒子として中心粒径10μmの窒化ケイ素Si3N4100重量部を用い、後処理剤としてアスパラギン酸(富士フィルム和光純薬社製)1重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表2に示した。
(実施例12)
有機酸として没食子酸・1水和物(富士化学社製)0.05重量部、炭酸アンモニウム0.01重量部を用いた以外は、実施例11と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表2に示した。
【0086】
(比較例11)
有機酸およびpH調整剤を用いなかった(純水のみ)以外は、実施例11と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表2に示した。
(比較例12)
有機酸として4%塩酸(富士フィルム和光純薬社製)0.22重量部を用いた以外は、実施例11と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表2に示した。
【0087】
(実施例13)
無機粒子として中心粒径10μmのケイ素Si100重量部を用い、後処理剤としてN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(信越化学社製KBM-602)1重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表2に示した。
(実施例14)
有機酸としてヒドロキシ酪酸(富士フィルム和光純薬社製)0.05重量部、炭酸アンモニウム0.01重量部を用いた以外は、実施例13と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表2に示した。
【0088】
(比較例13)
有機酸およびpH調整剤を用いなかった(純水のみ)以外は、実施例13と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表2に示した。
(比較例14)
有機酸の代わりに4%塩酸(富士フィルム和光純薬社製)0.22重量部を用いた以外は、実施例13と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表2に示した。
【0089】
(実施例15)
無機粒子として中心粒径10μmの酸化ケイ素SiO2100重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表2に示した。
(実施例16)
有機酸として乳酸(富士フィルム和光純薬社製)0.07重量部を用いた以外は、実施例15と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表2に示した。
【0090】
(比較例15)
有機酸およびpH調整剤を用いなかった(純水のみ)以外は、実施例15と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表2に示した。
(比較例16)
有機酸の代わりに4%塩酸(富士フィルム和光純薬社製)0.22重量部を用いた以外は、実施例15と同様にして処理粒子を得た。得られた処理粒子について、測定結果を表2に示した。
【0091】
<樹脂添加剤と無機粒子含有樹脂組成物の測定>
各実施例および比較例で得られた処理粒子(樹脂添加剤)について、無機粒子含有樹脂組成物の粘度、および、無機粒子含有樹脂組成物の硬化物の熱伝導率(W/mk)、吸水率(%)、体積率(%)を測定した。それぞれの測定方法は以下の通りである。
【0092】
(粘度測定)
エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製 JER-807)に処理粒子(樹脂添加剤)を分散させ、無機粒子含有樹脂組成物の粘度を粘度計(FUNGILAB社製Visco Basic Plus)を用いて測定した。
【0093】
(熱伝導率測定)
熱伝導率はレーザーフラッシュ法により評価した。使用した測定器機および測定条件は次のとおりである。
測定機器:アルバック理工社製 TC-7000
熱伝導率の決定方法:ハーフタイム法
測定温度:室温25℃
具体的には、実施例および比較例で得られた処理粒子をエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製 JER-807)中に分散させ(20~60vol%)、硬化させて試験片を作成した。そして試験片を切り出して、直径10mm、厚み約1mmの円盤状の検体に対して、カーボンスプレーを用いて検体表面にカーボン皮膜を形成したのち、測定装置TC-7000を用いて測定を行った。熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により熱拡散率を求め、また、検体には熱電対を取り付けて比熱を測定し、その積算値を熱伝導率とした。
【0094】
(吸水率測定)
樹脂と粒子を混錬した成形体の混錬状態を確認するため、オートクレーブ試験(120℃、12時間)により吸水率を測定した。樹脂と粒子の相溶性が優れて、樹脂の粘度が低く、円滑かつ綺麗に混ざることによって亀裂およびポアの少ない無機粒子含有樹脂組成物とすることができる。
実施例および比較例で得られた処理粒子(樹脂添加剤)をエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製 JER-807)中に分散させ(・・重量%)、硬化させて試験片を作成した。この試験片について、オートクレーブ試験(120℃、24時間)により吸水率を測定した。
具体的には、直径10mm厚み10mmの円柱状の試験片を作製し、テフロン(登録商標)製のオートクレーブ容器に水に浸漬した状態で試験片を入れて、120℃に加熱しながら2atmで24時間の加圧を行い、吸水試料を作製した。そして、初期重量に対する増加分を吸水量とした。
【0095】
(充填率、体積率)
実施例および比較例で得られた処理粒子をエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製 JER-807)に充填して無機粒子含有樹脂組成物を製造した。
樹脂組成物における処理粒子の充填率を変化させ、処理粒子の充填率と無機粒子含有樹脂組成物の粘度との関係を測定した。粘度は、B型粘度計(FUNGILAB社製Visco Basic Plus)を用いて測定し、表1および2に示した。
【0096】
<充填率に対する樹脂粘度測定>
自己縮合層が厚すぎると、立体的な障害が発生し、均一な粒子被覆が難しくなるため、表面処理剤の効果が低下する。
表面処理剤の効果を確認するため、エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製 JER-807)に粒子を分散させ、粘度の変化を測定することにより表面処理の効果と固定状態を確認した。
【0097】
実施例10(無機粒子:酸化アルミニウムAl
2O
3、イソシアネート:3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)および実施例9(無機粒子:酸化アルミニウムAl
2O
3、アミノ酸:アラニン)で得られた樹脂添加剤を、エポキシ樹脂および硬化剤(三菱ケミカル社製jER-113)の混合物に充填して無機粒子含有樹脂組成物を製造した。その際の樹脂添加剤の充填率と、無機粒子含有樹脂組成物の粘度との関係を測定した。なお、エポキシ樹脂と硬化剤との重量比は1:1とし、樹脂粘度は室温(25℃)にて測定を行った。
得られた結果を
図1に示す。粘度は、B型粘度計(FUNGILAB社製Visco Basic Plus)を用いて測定したものであり、横軸にエポキシ樹脂に対する樹脂添加剤の充填量をとり、縦軸に無機粒子含有樹脂組成物の粘度をとったものである。
図1(a)は、実施例10の後処理剤(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)の添加量を変化させたものであり、
図1(b)は、実施例9の後処理剤(アラニン)の添加量を変化させたものである。
この場合、処理粒子に対するイソシアネートの添加量は、0.003g/m
2以上0.06g/m
2以下が好ましく、0.01g/m
2以上0.03g/m
2以下がより好ましい結果となった。
【0098】
<充填率に対する熱伝導率測定>
さらに、実施例10(無機粒子:酸化アルミニウムAl
2O
3、イソシアネート:3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)および実施例9(無機粒子:酸化アルミニウムAl
2O
3、アミノ酸:アラニン)とエポキシ樹脂とから得られた無機粒子含有樹脂組成物を熱硬化させて、得られた硬化物の熱伝導率を測定した。測定結果をそれぞれ
図2(a)および(b)に示す。
熱伝導率はレーザーフラッシュ法により評価した。使用した測定器機および測定条件は次のとおりである。
測定機器:アルバック理工社製 TC-7000
熱伝導率の決定方法:ハーフタイム法
測定温度:室温25℃
具体的には、加熱して熱硬化した試験片を切り出して、直径12mm、厚み約1.0mmの円盤状の検体に成形したのち、測定装置TC-7000を用い、熱伝導率を測定した。
【0099】
<FTIR測定>
次に、実施例9、比較例9および比較例10で得られた処理粒子について、FTIRの分析を実施した。
表面処理剤の固着状態を分析するため、処理した粒子をメタノールで洗浄し、拡散型FTIR(日本分光社製FT/IR6300)を用いて粒子の結合状態と自己縮合状態を分析した。
得られたFTIRスペクトルを
図3に示す。分析の結果、有機酸である酒石酸で前処理した粒子にはアラニンの吸収ピークが確認され(実施例9)、塩酸で酸性に処理した粒子(比較例10)または純水のみで前処理しなかった粒子(比較例9)にはアラニンに起因する吸収ピークが確認されなかった。これにより、有機酸で前処理した粒子表面には、自己縮合状態の表面処理剤が固定されていることが確認できた。
このアラニンの吸収ピークは、酸化アルミニウムの前処理工程におけるアラニンの結合状態を示しており、有機酸で前処理することによりアラニンの結合であるアミド結合の存在が示された。
【表1】
【表2】
【要約】
【課題】
無機粒子を樹脂に多量に配合することができ、無機粒子の配合量が多い場合であっても、良好な流動性を有し、また熱伝導率を向上させると共に、吸水率を低下させることができる樹脂添加剤の製造方法を提供する。
【解決手段】
無機粒子、有機酸、およびpH調整剤を混合してpH5以上9以下の混合物を得る混合工程、無機粒子の表面を有機酸で処理して官能基を有する表面処理層を形成する前処理工程、および表面処理層が形成された無機粒子を、窒素を含有する後処理剤で処理して、無機粒子の表面に後処理層を形成する後処理工程を含む。
【選択図】
図1