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特許7184317テラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振方法、テラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振装置及び分光器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】テラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振方法、テラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振装置及び分光器
(51)【国際特許分類】
   H01L 39/22 20060101AFI20221129BHJP
   G01N 21/3581 20140101ALI20221129BHJP
【FI】
H01L39/22 D
G01N21/3581
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018032280
(22)【出願日】2018-02-26
(65)【公開番号】P2019149418
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】柏木 隆成
(72)【発明者】
【氏名】門脇 和男
(72)【発明者】
【氏名】南 英俊
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0264312(US,A1)
【文献】特開2018-017684(JP,A)
【文献】特開2012-191520(JP,A)
【文献】国際公開第2011/039829(WO,A1)
【文献】特開2012-098264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 39/22
G01N 21/3581
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度、バイアス電圧をそれぞれ個別に、所定の範囲内で変化させ、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振されるテラヘルツ帯域電磁波の周波数と強さを測定することによって、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子に関するパラメータの相関関係を取得するパラメータ相関関係取得工程と、
前記パラメータ相関関係取得工程で取得した前記パラメータの相関関係に基づいて、前記テラヘルツ帯域電磁波の周波数を入力データとし、入力データに合う環境温度、バイアス電圧、バイアス電流を出力データとして出力する制御パターンを作成する周波数制御パターン作成工程と、
前記周波数制御パターン作成工程で作成した前記制御パターンに、入力データとして所望のターゲット周波数帯域を入力し、前記制御パターンから前記ターゲット周波数帯域内の各周波数に合う環境温度、バイアス電圧及びバイアス電流を出力データとして取得し、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度を前記制御パターンから取得した環境温度に設定し、前記制御パターンから取得したバイアス電圧及びバイアス電流を前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子に印加するテラヘルツ帯域電磁波発振工程と、
を備え、
前記周波数制御パターン作成工程において、特定の周波数を発振させることが可能な環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせのうち、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振されるテラヘルツ帯域電磁波の強さが最も強い組み合わせを出力データとして出力するように前記制御パターンを作成する、
テラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振方法。
【請求項2】
前記周波数制御パターン作成工程において、特定の周波数を発振させることが可能かつ小さい周波数間隔に適する環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせの前記制御パターンと、特定の周波数を発振させることが可能かつ大きい周波数間隔に適する環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせの前記制御パターンとを作成する、
請求項1に記載のテラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振方法。
【請求項3】
テラヘルツ帯域電磁波を発振可能なテラヘルツ帯域電磁波発振素子と、
前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度、バイアス電圧をそれぞれ個別に、所定の範囲内で変化させ、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振されるテラヘルツ帯域電磁波の周波数と強さを測定することによって、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子に関するパラメータの相関関係を取得するパラメータ相関関係取得部と、
前記パラメータ相関関係取得部で取得された前記パラメータの相関関係に基づいて、前記テラヘルツ帯域電磁波の周波数を入力データとし、入力データに合う環境温度、バイアス電圧、バイアス電流を出力データとして出力する制御パターンを作成する周波数制御パターン作成部と、
前記周波数制御パターン作成部で作成された前記制御パターンに、入力データとして所望のターゲット周波数帯域を入力し、前記制御パターンから前記ターゲット周波数帯域内の各周波数に合う環境温度、バイアス電圧及びバイアス電流を出力データとして読み出し、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度を前記制御パターンから取得した環境温度に設定し、前記制御パターンから取得したバイアス電圧及びバイアス電流を前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子に印加するテラヘルツ帯域電磁波発振素子設定部と、
を備え、
前記周波数制御パターン作成部は、特定の周波数を発振させることが可能な環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせのうち、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振されるテラヘルツ帯域電磁波の強さが最も強い組み合わせを出力データとして出力する前記制御パターンを作成する、
テラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振装置。
【請求項4】
請求項3に記載のテラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振装置と、
前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振装置に設けられた前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振され、かつ所定の位置に配置可能とされた試料を通過して前記試料の情報を含むテラヘルツ帯域電磁波を検出するテラヘルツ帯域電磁波検出部と、
を備える、
分光器。
【請求項5】
テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度、バイアス電圧をそれぞれ個別に、所定の範囲内で変化させ、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振されるテラヘルツ帯域電磁波の周波数と強さを測定することによって、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子に関するパラメータの相関関係を取得するパラメータ相関関係取得工程と、
前記パラメータ相関関係取得工程で取得した、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度、バイアス電圧、バイアス電流、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振されたテラヘルツ帯域電磁波の周波数、出力の組み合わせをデータテーブル化し、所望のターゲット周波数帯域を示す入力データに合う環境温度、バイアス電圧、バイアス電流を当該データテーブルから読み出し、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度を前記データテーブルから取得した環境温度に設定すると共に、前記データテーブルから読み出したバイアス電圧及びバイアス電流を前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子に印加するテラヘルツ帯域電磁波発振工程と、
を備え、
前記テラヘルツ帯域電磁波発振工程において、特定の周波数を発振させることが可能な環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせのうち、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振されるテラヘルツ帯域電磁波の強さが最も強い組み合わせを前記データテーブルから読み出す、
テラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振方法。
【請求項6】
テラヘルツ帯域電磁波を発振可能なテラヘルツ帯域電磁波発振素子と、
前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度、バイアス電圧をそれぞれ個別に、所定の範囲内で変化させ、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振されるテラヘルツ帯域電磁波の周波数と強さを測定することによって、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子に関するパラメータの相関関係を取得するパラメータ相関関係取得部と、
前記パラメータ相関関係取得で取得した、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度、バイアス電圧、バイアス電流、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振されたテラヘルツ帯域電磁波の周波数、出力の組み合わせをデータテーブル化し、所望のターゲット周波数帯域を示す入力データに合う環境温度、バイアス電圧、バイアス電流を当該データテーブルから読み出し、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度を前記データテーブルから取得した環境温度に設定すると共に、前記データテーブルから読み出したバイアス電圧及びバイアス電流を前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子に印加するテラヘルツ帯域電磁波発振素子設定部と、
を備え、
前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子設定部は、特定の周波数を発振させることが可能な環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせのうち、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振されるテラヘルツ帯域電磁波の強さが最も強い組み合わせを前記データテーブルから読み出す、
テラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振方法、テラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振装置及び分光器に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ(THz)オーダーの周波数を有する電磁波(以下、THz波という)の周波数は、0.1GHzから10THzまでと言われ、分子間の振動や結晶格子の振動などの周波数とほぼ等しい。そのため、物質の同定をはじめとする、非破壊検査、セキュリティ、医療診断、気象観測、環境モニター、天文学、高速大容量通信等の幅広い分野におけるTHz波の活用が期待されている。
【0003】
近年、THz波を発振する素子として、高温超伝導体を備えた発振素子が注目されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、高温超伝導体が有する固有ジョセフソン接合を利用したTHz波発振素子が開示されている。特許文献2に開示されたTHz波発振素子は、超伝導体の交流ジョセフソン効果に伴うジョセフソンプラズマによって、テラヘルツ波を発振する。また、特許文献2に開示されたTHz波発振素子は、ジョセフソン接合を積層した構造体が有する固有周波数とジョセフソンプラズマとを共振させることで、高いピーク強度を有するテラヘルツ波を発振する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-251863号公報
【文献】特開2009-043787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献2に開示されたTHz波発振素子では、基板上に配置された高温超伝導体の単結晶を、基板側及び単結晶を挟んで基板とは反対側のそれぞれから排熱することによって、広い周波数帯域のTHz波が得られることが知られている(例えば、特開2016-51871)。
【0006】
物質の同定などの幅広い分野では、THz波の周波数を変えながら測定対象試料(以下、単に試料という場合がある)からの周波数ごとの応答の有無を測定する。この際、試料の応答が発せられる周波数(以下、応答周波数という場合がある)が未知であっても、試料に、広い周波数帯域のTHz波を照射することによって、照射した周波数帯域内に応答周波数が存在する確率が高くなり、試料からの応答を検出し易くなる。また、THz波を用いることによって測定時の分解能を高くすることができる。そのため、任意の応答周波数が判明すれば、応答周波数及びその近傍の周波数帯域をターゲットとして、試料にターゲットの周波数帯域のTHz波を照射することによって、試料からの応答を詳細に解析できる。このように試料からの応答の有無を検出するためのTHz波の発振源として、THz波発振素子を活用することが期待される。
【0007】
しかしながら、THz波発振素子から発振されるTHz波の周波数は、高温超伝導体に印加する電圧と環境温度によって変化する。従来は、THz波発振素子から広く、かつターゲットとする任意の周波数帯域のTHz波を発振させることが難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、上述の事情を勘案したものであって、THz波発振素子から広く、かつターゲットとする任意の周波数帯域のTHz波を発振させるTHz波発振素子の発振方法、THz波発振素子の発振装置、及びこのTHz波発振素子の発振装置を備えた分光器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るTHz波発振素子の発振方法は、テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度、バイアス電圧をそれぞれ個別に、所定の範囲内で変化させ、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振されるテラヘルツ帯域電磁波の周波数と強さを測定することによって、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子に関するパラメータの相関関係を取得するパラメータ相関関係取得工程と、前記パラメータ相関関係取得工程で取得した前記パラメータの相関関係に基づいて、前記テラヘルツ帯域電磁波の周波数を入力データとし、入力データに合う環境温度、バイアス電圧、バイアス電流を出力データとして出力する制御パターンを作成する周波数制御パターン作成工程と、前記周波数制御パターン作成工程で作成した前記制御パターンに、入力データとして所望のターゲット周波数帯域を入力し、前記制御パターンから前記ターゲット周波数帯域内の各周波数に合う環境温度、バイアス電圧及びバイアス電流を出力データとして取得し、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度を前記制御パターンから取得した環境温度に設定し、前記制御パターンから取得したバイアス電圧及びバイアス電流を前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子に印加するテラヘルツ帯域電磁波発振工程と、を備える。
【0010】
本発明に係るTHz波発振素子の発振方法では、前記周波数制御パターン作成工程において、特定の周波数を発振させることが可能な環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせのうち、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振されるテラヘルツ帯域電磁波の強さが最も強い組み合わせを出力データとして出力するように前記制御パターンを作成してもよい。
【0011】
本発明に係るTHz波発振素子の発振方法では、前記周波数制御パターン作成工程において、特定の周波数を発振させることが可能かつ小さい周波数間隔に適する環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせの前記制御パターンと、特定の周波数を発振させることが可能かつ大きい周波数間隔に適する環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせの前記制御パターンとを作成してもよい。
【0012】
本発明に係るTHz波発振素子の発振装置は、テラヘルツ帯域電磁波を発振可能なテラヘルツ帯域電磁波発振素子と、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度、バイアス電圧をそれぞれ個別に、所定の範囲内で変化させ、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振されるテラヘルツ帯域電磁波の周波数と強さを測定することによって、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子に関するパラメータの相関関係を取得するパラメータ相関関係取得部と、前記パラメータ相関関係取得部で取得された前記パラメータの相関関係に基づいて、前記テラヘルツ帯域電磁波の周波数を入力データとし、入力データに合う環境温度、バイアス電圧、バイアス電流を出力データとして出力する制御パターンを作成する周波数制御パターン作成部と、前記周波数制御パターン作成部で作成された前記制御パターンに、入力データとして所望のターゲット周波数帯域を入力し、前記制御パターンから前記ターゲット周波数帯域内の各周波数に合う環境温度、バイアス電圧及びバイアス電流を出力データとして読み出し、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子の環境温度を前記制御パターンから取得した環境温度に設定し、前記制御パターンから取得したバイアス電圧及びバイアス電流を前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子に印加するテラヘルツ帯域電磁波発振素子設定部と、を備える。
【0013】
また、本発明に係る分光器は、上述のテラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振装置と、前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振装置に設けられた前記テラヘルツ帯域電磁波発振素子から発振され、かつ所定の位置に配置可能とされた試料を通過して前記試料の情報を含むテラヘルツ帯域電磁波を検出するテラヘルツ帯域電磁波検出部と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、THz波発振素子から広く、かつターゲットとする任意の周波数帯域のTHz波を発振させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係るTHz波発振素子の一実施形態の側面図である。
図2図1に示すTHz波発振素子の特性を示すグラフであり、(a)は電流-電圧特性(I-V特性)の一例を示し、(b)及び(c)は(a)に示すI-V特性の測定時にTHz波発振素子から放射されるTHz波の出力を示すグラフである。
図3図1に示すTHz波発振素子から発振されるTHz波の周波数の環境温度依存性の一例を示すグラフである。
図4図1に示すTHz波発振素子から発振されるTHz波の周波数のバイアス電圧依存性の一例を示すグラフである。
図5】本発明に係るTHz波発振素子の発振装置の一実施形態の概略図である。
図6】本発明に係る分光器の一実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る一実施形態のTHz波発振素子の発振方法、THz波発振素子の発振装置及び分光器について、図面を参照しつつ、説明する。なお、以下の説明で用いる図面は模式的なものであり、長さ、幅、及び厚みの比率等は実際のものと同一とは限らず、適宜変更することができる。
【0017】
[THz波発振素子の発振方法]
図1に示すように、本発明に係る一実施形態のTHz波発振素子(テラヘルツ帯域電磁波発振素子)1は、THz波(テラヘルツ帯域電磁波)を発振する超伝導体2と、超伝導体2の上面2a側に設けられたカバー9、基板5、スペーサー12、レンズ14と、超伝導体2の底面2b側に設けられたカバー8、基板4と、を備える。
【0018】
超伝導体2は、超伝導層と絶縁層との積層構造を複数有し、ジョセフソン接合を積層した構造を有する。超伝導体2を構成する物質は、例えばBiSrCaCu8+δ(以下、Bi2212とする)である。Bi2212では、CuO層が超伝導層として機能し、Bi層が絶縁層として機能する。ジョセフソン効果によって、絶縁層を介して各超伝導層間に超伝導電流が流れる。
【0019】
基板4,5は、平板状に形成され、X方向及びY方向において超伝導体2より大きい長さと幅を有する。基板4の上面4aに、金などの金属のストライプ膜6が設けられる。ストライプ膜6は、X方向において上面4aと同じ長さを有し、Y方向において基板4の幅より狭い所定の幅を有する。基板5の底面5bに、金などの金属のストライプ膜7が設けられる。ストライプ膜7は、X方向において基板4の幅より狭い所定の幅を有し、Y方向において底面5bと同じ長さを有する。
【0020】
超伝導体2は、Z方向においてストライプ膜6,7に挟まれている。基板4,5は、サファイアなどの絶縁体で構成される。ストライプ膜6,7に、不図示の電源が接続される。ストライプ膜6,7を通して、超伝導体2に、任意の電圧(以下、バイアス電圧Vsupという)及び電流(以下、バイアス電流Iという)を印加できる。
【0021】
カバー8は、基板4の下側に設けられる。カバー8は、平板状に形成され、X方向及びY方向において基板4より大きい長さと幅を有する。カバー9は、X方向及びY方向においてカバー8とほぼ同じ長さと幅を有する。カバー9の底面9bに、凹部10が形成されている。超伝導体2及び基板5と、基板4の少なくとも上側とは、凹部10の内部に嵌っている。カバー9の上面9aの中央部に、貫通孔11が形成されている。貫通孔11は、凹部10に連通し、X方向及びY方向において凹部10より小さい。カバー8,9は、銅などの金属や熱伝導の高いセラミックスなどの絶縁体でできている。
【0022】
スペーサー12は、貫通孔11の底部に露出する基板5の上面5aからZ方向の奥側に立ち上がり、貫通孔11の周壁面の全体を覆うように設けられる。スペーサー12の中央部に、貫通孔13が形成されている。つまり、スペーサー12は、環状に形成されている。スペーサー12は、金属や樹脂などで構成される。
【0023】
レンズ14は、貫通孔13の底部に露出する基板5の上面5aに設けられる。レンズ14は、いわゆる平凸レンズである。レンズ14の底面14bは、平坦になっている。レンズ14の上面14aは、Z方向の奥側に向って凸になるように湾曲する。レンズ14は、シリコンなどのようにTHz波を通過させることができる素材でできている。なお、レンズ14の種類は、THz波発振素子1の使用目的及びTHz波の発振させる方向等に応じて、平凸レンズ以外のものが適宜選択される場合がある。
【0024】
図2(a)は、THz波発振素子1の試作サンプルにおいて、超伝導体2の周囲の温度(以下、環境温度とする)T(K)を15K,50K,70Kのそれぞれに設定した際の電流-電圧特性(以下、I-V特性と記載する)を示すグラフである。環境温度は、THz波発振素子1の不図示の温度調節装置の内部に設置し、正確に制御した。なお、図2に示す特性では、接触抵抗などの影響は差し引かれている。
【0025】
図2(a)のグラフに示すI-V特性に、バイアス電流が循環するにつれて大きなヒステリシスが現れる。I-V特性のヒステリシスは、環境温度が超伝導転移温度に近づくにつれて、急速に収束する。THz波発振素子1は、前述のように多くのジョセフソン接合が積層した構造を有する。これらのジョセフソン接合がすべて動作していると、図2(a)のグラフに示すI-V特性は、一番外側(図2の紙面の最も右側)を通るものになり、本実施形態ではこのような特性をouter-branchと称する。これに対し、前述のジョセフソン接合の一部しか動作していない場合、印加電流の増減に対して図2(a)のグラフに示すI-V特性にヒステリシスが現れる。このヒステリシスは、特に図2(a)のグラフに示すI-V特性の低電流・低電圧領域で観測される。本実施形態ではこのようなI-V特性をinner-branchと称する。
【0026】
図2(b),(c)は、図2(a)に示すI-V特性の測定時にTHz波発振素子1から放射されるTHz波の出力を示すグラフである。図2の右側及び下側のグラフに示すように、環境温度を15Kにすると、約4V,6Vのバイアス電圧によって、THz波発振素子1からTHz波が発振される。環境温度を50Kにすると、約2.2Vのバイアス電圧によって、THz波発振素子1からTHz波が発振される。このときのTHz波の発振は、環境温度を15Kにしたときに約3.5Vのバイアス電圧によるTHz波の発振より強い。環境温度をTHz波発振素子1の超伝導転移温度に近い70Kにすると、1.3V付近のバイアス電圧では依然として、THz波発振素子1から強いTHz波が発振される。
【0027】
得られたI-V特性をふまえ、THz波発振素子1から発振されるTHz波について解析を続ける。図3は、THz波の発振が観測されたI-V特性のデータプロットに関し、異なるバイアス点で観測されたTHz波の周波数を環境温度の関数としてプロットしたグラフである。ここで、バイアス点は、環境温度、バイアス電圧及びバイアス電流の組み合わせに依存するTHz波発振素子1の発振条件を表す。図3に示すように、より高い環境温度にしたときに低い周波数のTHz波が得られ、より低い環境温度にしたときに高い周波数のTHz波が得られる。試作サンプルで得られた最低周波数は、環境温度を71Kにしたときの0.30THzであった。試作サンプルで得られた最高周波数は、環境温度を13Kにしたときの1.14THzであった。このようにTHz波発振素子1から発振されるTHz波の周波数fの環境温度依存性は、図2の左上のグラフに示すI-V特性の環境温度依存性に起因する。環境温度の変化に伴うバイアス電圧の変化は、交流ジョセフソン効果の関係式:f=(2e/h)Vsup/Nと一致する。前述の関係式のeは電気素量であり、hはプランク定数であり、Vsupはバイアス電圧であり、Nは発振素子内部で動作しているジョセフソン接合数である。
【0028】
図4は、THz波発振素子1から発振されるTHz波の周波数fのバイアス電圧依存性を示すグラフである。図4に示すように、特定のNの値に対し、周波数fは交流ジョセフソン効果の関係式に従い、バイアス電圧Vにほぼ比例する。ただし、図4に示すグラフの複数のプロットの一部は、交流ジョセフソン効果の関係式を表す破線上から外れている。このように交流ジョセフソン効果の関係式から外れたプロットは、I-V特性のinnner-branchに起因する。
【0029】
以上に例示したTHz波発振素子1から発振されるTHz波の周波数fにおける環境温度T、バイアス電圧Vsup及びバイアス電流Iの依存性は、複雑であり、試作サンプルによっては特性が異なる場合がある。したがって、THz波発振素子1からターゲットとする周波数のTHz波を発振させるために、本実施形態のTHz波発振素子の発振方法は、パラメータ相関関係取得工程と、周波数制御パターン作成工程と、THz波発振工程(テラヘルツ帯域電磁波発振工程)とを備える。
【0030】
パラメータ相関関係取得工程では、先ず、THz波発振素子1の環境温度、バイアス電圧及びバイアス電流を初期値に設定する。次に、環境温度、バイアス電圧をそれぞれ個別に、適切な範囲内で変化させ、各値に対してTHz波発振素子1から発振されるTHz波の周波数と出力を測定する。THz波の周波数と出力の測定には、例えばFTIR(Fourier-transform infrared)分光器(型番:FARIS-1、日本分光株式会社製)を用いることができる。THz波発振素子1から発振されるTHz波の周波数と出力を測定することによって、THz波発振素子1に関するパラメータの相関関係を取得する。
【0031】
次に、周波数制御パターン作成工程では、パラメータ相関関係取得工程で得た、THz波発振素子1の環境温度、バイアス電圧、バイアス電流、THz波発振素子1から発振されたTHz波の周波数、出力の組み合わせをデータテーブル化する。データテーブル作成後、THz波の周波数を入力データとし、入力データに合う環境温度、バイアス電圧、バイアス電流を出力データとして出力する制御パターンを作成する。
【0032】
次に、THz波発振工程は、試料に照射するTHz波の周波数帯域を広めに設定し、ターゲット周波数帯域とする。続いて、周波数制御パターン作成工程で作成した制御パターンに入力データとしてターゲット周波数帯域を入力し、試料に照射するTHz波の周波数間隔を設定する。続いて、制御パターンからターゲット周波数帯域の最も低い周波数に合う環境温度、バイアス電圧及びバイアス電流を出力データとして取得し、THz波発振素子1の環境温度を取得した環境温度に設定し、取得したバイアス電圧及びバイアス電流をTHz波発振素子1に印加する。
【0033】
続いて、ターゲット周波数帯域の最も低い周波数から予め設定した周波数間隔でシフトした周波数を新たに入力データとし、入力データに合う環境温度、バイアス電圧及びバイアス電流を出力データとして取得し、THz波発振素子1の環境温度を取得した環境温度に設定し、取得したバイアス電圧及びバイアス電流をTHz波発振素子1に印加する。入力データがターゲット周波数帯域の最も高い周波数に達するまで、同様の作業を繰り返す。
【0034】
前述の作業の繰り返しによって、ターゲット周波数帯域を一旦入力すれば、THz波発振素子1から、ほぼ自動的に広いターゲット周波数帯域のTHz波を発振させることができる。すなわち、本発明のTHz波発振素子の発振方法によれば、THz波発振素子から広く、かつターゲットとする任意の周波数帯域のTHz波を発振させることができる。なお、周波数間隔は、THz波を発振させる度に入力可能であってもよく、あらかじめ設定されていてもよい。
【0035】
前述の作業の繰り返しながら、ターゲット周波数帯域内で周波数を変化させつつ、THz波を試料に照射した際に、試料から透過するTHz波を検出することにより、試料からの周波数ごとの応答の有無を測定できる。このことにより、試料の分析や同定を行うことができる。
【0036】
また、図2から図4に示すように、THz波の特定の周波数を発振させることが可能な環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせは、複数存在する場合がある。そのため、周波数制御パターン作成工程では、特定の周波数を入力データとしたとき、特定の周波数を発振させることが可能な環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせのうち、THz波発振素子1から発振されるTHz波の強さが最も強い組み合わせを出力データとして出力するように制御パターンを作成することが好ましい。
【0037】
前述のように制御パターンでTHz波発振素子1から発振されるTHz波の強さが最も強い出力データが出力されることによって、試料により強いTHz波を照射することができる。このことにより、試料からの周波数ごとの応答の有無を高感度に測定できる。
【0038】
さらに、図2から図4に示すグラフからわかるように、環境温度を固定すると、その時に変化させることのできる周波数の範囲は小さくなるが、その周波数の範囲はバイアス電圧によって制御できる。一方で、環境温度を変化させると、THz波発振素子1から発振されるTHz波の中心周波数が大きく変化する。そのため、周波数制御パターン作成工程では、特定の周波数を発振させることが可能かつ小さい周波数間隔に適する環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせの制御パターンと、特定の周波数を発振させることが可能かつ大きい周波数間隔に適する環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせの制御パターンを作成することが好ましい。THz波発振工程では、周波数間隔をさらに入力データとし、ターゲット周波数帯域及び周波数間隔に合う環境温度、バイアス電圧及びバイアス電流を出力データとして取得し、THz波発振素子1の環境温度を取得した環境温度に設定し、取得したバイアス電圧及びバイアス電流をTHz波発振素子1に印加することが好ましい。
【0039】
前述のように周波数間隔に合わせた制御パターンを用意することによって、試料の応答周波数及びその近傍の周波数帯域をターゲットとし、試料にターゲットの周波数帯域のTHz波を所望の周波数間隔で照射することによって、試料からの応答を詳細に解析できる。
【0040】
[THz波発振素子の発振装置]
図5は、本発明に係る一実施形態のTHz波発振素子の発振装置(以下、単に「発振装置」という場合がある)50の概略図である。なお、図5では、THz波発振素子1の具体的な構成の図示は省略する。
【0041】
図5に示すように、発振装置50は、THz波発振素子1と、パラメータ相関関係取得部52と、周波数制御パターン作成部54と、入力部56と、THz波発振素子設定部(テラヘルツ帯域電磁波発振素子印加部)58とを備える。
【0042】
パラメータ相関関係取得部52は、THz波発振素子1の環境温度、バイアス電圧及びバイアス電流を所定の初期値に設定する。次に、パラメータ相関関係取得部52は、環境温度、バイアス電圧をそれぞれ個別に、適切な範囲内で変化させつつ、各値に対してTHz波発振素子1から発振されるTHz波の周波数と出力を測定する。THz波の出力を測定するために、例えば前述のFTIR分光器60をTHz波発振素子1の出力側に接続することができる。THz波発振素子1から発振されるTHz波の周波数と出力を測定することによって、THz波発振素子1に関するパラメータの相関関係を取得する。なお、FTIR分光器60は、THz波発振素子1に関するパラメータの相関関係を取得した後は基本的に不要であるため、THz波発振素子1に関するパラメータの相関関係の取得時のみにTHz波発振素子1の出力側に接続可能であればよい。
【0043】
周波数制御パターン作成部54は、パラメータ相関関係取得部52から、測定で得られたTHz波発振素子1に関するパラメータ(環境温度、バイアス電圧、バイアス電流、THz波の周波数、THz波の出力)を受信する。周波数制御パターン作成部54は、前述のパラメータから、THz波の周波数を入力データとし、入力データに合う環境温度、バイアス電流、バイアス電圧を出力データとした制御パターンのデータテーブルDTを作成する。
【0044】
周波数制御パターン作成部54では、THz波の特定の周波数を発振させることが可能な環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせが複数存在する場合、THz波発振素子1から発振されるTHz波の強さが最も強い組み合わせが出力データとして出力されるように、制御パターンが作成されることが好ましい。このことによって、THz波発振素子1から確実に強いTHz波が発振される。
【0045】
また、周波数制御パターン作成部54では、特定の周波数帯域内で異なる周波数間隔でTHz波を発振させることができる環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせの制御パターンを複数作成することが好ましい。このことによって、測定対象の試料及び測定内容に適した周波数間隔でTHz波発振素子1からTHz波が安定して発振される。
【0046】
入力部56は、不図示のユーザから入力されたTHz波の所望のターゲット周波数帯域を受信し、THz波発振素子設定部58に送信(出力)する。
【0047】
THz波発振素子設定部58は、データテーブルDTから入力部56から受信したTHz波のターゲット周波数帯域のうち最も低い周波数を入力データとして、入力データに合う環境温度、バイアス電圧、バイアス電流をデータテーブルDTから読み出す。続いて、THz波発振素子設定部58は、THz波発振素子1をデータテーブルDTから読み出した環境温度に設定すると共に、THz波発振素子1にデータテーブルDTから読み出したバイアス電流、バイアス電圧を印加する。その後、THz波発振素子設定部58は、データテーブルDTにおける周波数の間隔に応じて入力データの周波数を高くし、その都度、入力データに合う環境温度、バイアス電圧、バイアス電流をデータテーブルDTから読み出し、THz波発振素子1をデータテーブルDTから読み出した環境温度に設定すると共に、THz波発振素子1にデータテーブルDTから読み出したバイアス電流、バイアス電圧を印加する。THz波発振素子設定部58は、同様の動作を、入力データの周波数がTHz波のターゲット周波数帯域のうち最も高い周波数に達するまで続ける。一連の動作によって、THz波発振素子1から所望のターゲット周波数帯域のTHz波が発振される。なお、上述したように測定対象の試料に照射するTHz波の周波数を低い周波数から高い周波数へ変化させる測定方法は一例である。本発明に係る発振装置50では、測定対象の試料に照射するTHz波の周波数を、例えば高い周波数から低い周波数へ変化させてもよく、ターゲット周波数帯域からランダムに抽出してもよい。試料に照射するTHz波の周波数をどのように変化させるかということについては、測定対象の試料のスペクトルの解析方法に依存して適宜決められる。
【0048】
また、発振装置50では、試料に照射するTHz波の周波数帯域をデータテーブルDTの周波数の範囲内で、かつ広めに予め設定し、第1段階の周波数帯域としてもよい。この場合、続いて、THz波発振素子設定部58は、第1段階の周波数帯域内の各周波数を入力データとして、入力データに合う環境温度、バイアス電圧、バイアス電流をデータテーブルDTから読み出し、THz波発振素子1をデータテーブルDTから読み出した環境温度に設定すると共に、THz波発振素子1にデータテーブルDTから読み出したバイアス電流、バイアス電圧を印加する。この際に、FTIR分光器60でTHz波の出力を測定し、試料の応答がみられるTHz波の周波数を検出し、応答検出周波数とする。次に、THz波発振素子設定部58は、応答検出周波数のうち最も低い周波数から最も高い周波数までの帯域をターゲット周波数帯域として、上述と同様の動作によってTHz波発振素子1から所望のターゲット周波数帯域のTHz波を発振させてもよい。このような構成では、入力部56を省略できる。
【0049】
上述のパラメータ相関関係取得部52、周波数制御パターン作成部54、及びTHz波発振素子設定部58は、例えば、THz波発振素子1に接続されたコンピュータ等の制御機器に組み込まれたプログラムである。入力部56には、例えばキーボードやディスプレー、マウス、タッチパネル等が用いられる。
【0050】
[分光器]
図6は、本発明に係る一実施形態の分光器80の概略図である。なお、図6では、発振装置50におけるTHz波発振素子1以外の構成の図示は省略する。
【0051】
図6に示すように、分光器80は、発振装置50と、THz波検出部(テラヘルツ帯域電磁波検出部)82とを備える。発振装置50とTHz波検出部82との間の所定の位置に、測定対象の試料Sが配置可能とされる。THz波検出部82には、発振装置50から発振され、且つ測定対象の試料Sを通過して試料Sの情報を含むTHz波が照射される。THz波検出部82としては、例えば、THz波に感度を有するディテクタが用いられる。上述したように発振装置50のTHz波発振素子1から所望のターゲット周波数帯域のTHz波が発振されることによって、THz波検出部82にターゲット周波数帯域内のそれぞれの周波数のTHz波に対し、試料Sの情報を含むTHz波がTHz波検出部82で検出される。
【0052】
なお、分光器80は少なくともTHz波の発振源として発振装置50を含むと共に、試料Sの情報を含むTHz波がTHz波検出部82で検出可能であればよく、発振装置50におけるTHz波の出射部からTHz波検出部82までの分光器80の構成は図6に示す構成に限定されない。
【0053】
以上説明した本実施形態のTHz波発振素子の発振方法は、パラメータ相関関係取得工程と、周波数制御パターン作成工程と、テラヘルツ帯域電磁波発振工程とを備える。パラメータ相関関係取得工程を行うことによって、THz波発振素子1へのバイアス電流、バイアス電圧及びTHz波発振素子1の環境温度とTHz波発振素子1から発振されるTHz波の周波数との相関関係が得られる。周波数制御パターン作成工程を行うことによって、THz波発振素子1から発振されるTHz波の周波数を入力データとしたときのTHz波発振素子1へのバイアス電流、バイアス電圧及びTHz波発振素子1の環境温度が出力データとして得られる。これらのことをふまえて、テラヘルツ帯域電磁波発振工程を行うことによって、所望のターゲット周波数帯域内のそれぞれの周波数を入力データとして、この入力データに確実に対応するバイアス電流、バイアス電圧及び環境温度を出力データとして得ると共に、これらの出力データに合わせてTHz波発振素子1を制御し、THz波発振素子1から所望の周波数のTHz波を発振させることができる。バイアス電圧、バイアス電流、環境温度の何れかを変化させるかということによって、THz波発振素子1から発振されるTHz波を周波数の可動範囲は変わるので、そのことをふまえて前述の相関関係から出力データを適宜選択することによって、THz波発振素子1から広く、かつターゲットとする任意の周波数帯域のTHz波を発振させることができる。
【0054】
また、本実施形態のTHz波発振素子の発振方法では、周波数制御パターン作成工程において、特定の周波数を発振させることが可能な環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせのうち、THz波発振素子1から発振されるTHz波の強さが最も強い組み合わせを出力データとして出力するように制御パターンを作成することが好ましい。このことによって、測定対象の試料に対してより強いTHz波を照射し、試料からの周波数ごとの応答の有無を高感度に測定できる。
【0055】
また、本実施形態のTHz波発振素子の発振方法では、特定の周波数を発振させることが可能かつ小さい周波数間隔に適する環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせの制御パターンと、特定の周波数を発振させることが可能かつ大きい周波数間隔に適する環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせの制御パターンとを双方作成することが好ましい。このことによって、試料の応答周波数及びその近傍の周波数帯域をターゲットとし、試料にターゲット周波数帯域のTHz波を所望の細かい周波数間隔で照射し、試料からの応答を詳細に解析できる。
【0056】
また、本実施形態の発振装置50及び分光器80では、本実施形態のTHz波発振素子の発振方法と同様の原理によって、THz波発振素子1から広く、かつターゲットとする任意の周波数帯域のTHz波を発振させることができる。さらに、発振装置50のTHz波発振素子1から発振されるTHz波を試料Sに照射し、試料Sを通過したTHz波を検出することによって、試料Sに対するTHz帯の分光測定を行うことができる。
【0057】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0058】
例えば、本発明のTHz波発振素子の発振方法で用いるTHz波発振素子は、図1に示すTHz波発振素子1に限定されない。本発明のTHz波発振素子の発振方法で用いるTHz波発振素子は、超伝導体2を備え、環境温度、バイアス電圧、バイアス電流の組み合わせによって発振されるTHz波の周波数が変化する素子を全て含む。
【符号の説明】
【0059】
1…THz波発振素子(テラヘルツ帯域電磁波発振素子)
50…発振装置(テラヘルツ帯域電磁波発振素子の発振装置)
80…分光器
82…THz波検出部(テラヘルツ帯域電磁波検出部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6