(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導体及びその製造方法、リチウムイオン電池用電極並びにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0562 20100101AFI20221129BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20221129BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20221129BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20221129BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221129BHJP
C01G 30/00 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
H01M10/052
H01M4/62 Z
C01G30/00
(21)【出願番号】P 2018128609
(22)【出願日】2018-07-05
【審査請求日】2021-06-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発)「次世代蓄電池/無機固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池の創出/懸濁・固化プロセスの検討による電極複合体作製・機械的評価」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】松田 厚範
(72)【発明者】
【氏名】武藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】グエン フ フィ フク
(72)【発明者】
【氏名】松田 麗子
(72)【発明者】
【氏名】蒲生 浩忠
(72)【発明者】
【氏名】小久保 拓実
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/084583(WO,A1)
【文献】特開2010-092828(JP,A)
【文献】国際公開第2010/089891(WO,A1)
【文献】特開2019-125502(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105680040(CN,A)
【文献】N.V.Arkhipova, et al.,Transition Processes in Solid-Phase Electrochemical Systems Including Sulfur-Containing Components,Russian Journal of Electrochemistry,Vol.41, No.6,pp.593-597
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00-4/62
H01M 6/00-6/22
H01B 1/00-1/24
C01G 25/00-47/00;49/10-99/00
H01B 13/00;13/004-13/016;13/34
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、Sb及びSを含み、Sb及びSのモル比がS/Sb≧6である第1硫化物
と、Li、Sb及びSを含み、Sb及びSのモル比がS/Sb≦2である第2硫化物とを含有し、
前記第2硫化物がLiSbS
2
であり、ラマン分光法により、326±5cm
-1及び359±1cm
-1においてピークが検出されることを特徴とするリチウムイオン伝導体。
【請求項2】
前記第1硫化物がLi
5.0~7SbS
6~6.3である請求項1に記載のリチウムイオン伝導体。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のリチウムイオン伝導体の製造方法であって、
Liイオンを含む水溶液に、Sb及びLiのモル比が0.1≦Li/Sb≦5.0となるようにSb
2S
5を添加して、pHを7~14の範囲に調整し、懸濁液を得る工程と、
前記懸濁液を濾過し、濾液を回収する工程と、
前記濾液を凍結乾燥し、固体材料を得る工程と、
前記固体材料を130℃~270℃で熱処理する工程と
を、順次、備えることを特徴とするリチウムイオン伝導体の製造方法。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載のリチウムイオン伝導体を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用電極。
【請求項5】
請求項
4に記載のリチウムイオン電池用電極を備えることを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項6】
Liイオンを含む水溶液に、Sb及びLiのモル比が0.1≦Li/Sb≦5.0となるようにSb
2S
5を添加して、pHを7~14の範囲に調整し、懸濁液を得る工程と、
前記懸濁液を濾過し、濾液を回収する工程と、
前記濾液を凍結乾燥し、固体材料を得る工程と、
前記固体材料を130℃~270℃で熱処理する工程とを、順次、備える製造方法により得られ
、
Li、Sb及びSを含み、Sb及びSのモル比がS/Sb≧6である第1硫化物と、Li、Sb及びSを含み、Sb及びSのモル比がS/Sb≦2である第2硫化物とを含有し、前記第2硫化物がLiSbS
2
であり、ラマン分光法により、326±5cm
-1
及び359±1cm
-1
においてピークが検出されることを特徴とするリチウムイオン伝導体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン伝導性の良好なリチウムイオン伝導体及びその製造方法、リチウムイオン電池用電極並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高エネルギー密度を実現する電池として、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池、更にはマグネシウム二次電池に代表される多価イオン電池の開発が精力的に進められている。
リチウムイオン電池は、充電時には正極からリチウムがイオンとして脱離して負極へ移動して吸蔵され、放電時には負極から正極へリチウムイオンが挿入されて戻る構造の二次電池である。このリチウムイオン電池は、エネルギー密度が大きく、長寿命である等の特徴を有しているため、従来、パソコン、カメラ等の家電製品や、携帯電話機等の携帯型電子機器又は通信機器、パワーツール等の電動工具等の電源として広く用いられており、最近では、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等に搭載される大型電池にも応用されている。
このようなリチウムイオン電池において、可燃性の有機溶剤を含む電解液に代えて固体電解質を用いると、安全装置の簡素化が図られるだけでなく、製造コスト、生産性等に優れることが知られている。また、硫化物からなる固体電解質は、導電率(リチウムイオン伝導度)が高く、電池の高出力化を図るうえで有用であるといわれており、例えば、Liと、P、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga,In、Ti、Zr、V及びNbから選ばれた少なくとも1つの元素とを含む硫化物を用いた全固体型のリチウムイオン電池の開発が盛んとなっている。そして、例えば、Sbを含む硫化物として、特許文献1には、アモルファス状のLi2S-Sb2S3系組成物(Li3SbS3)を含有する硫化物固体電解質が開示されている。また、特許文献2には、LiSbS2構造を有する硫化物固体電解質材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-92828号
【文献】国際公開2010/084583
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、イオン伝導性の良好なリチウムイオン伝導体及びそれを含むリチウムイオン電池用電極並びにリチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下に示される。
[1]Li、Sb及びSを含み、Sb及びSのモル比がS/Sb≧6である第1硫化物を含有し、ラマン分光法により、326±1cm-1及び359±1cm-1においてピークが検出されることを特徴とするリチウムイオン伝導体。
[2]更に、Li、Sb及びSを含み、Sb及びSのモル比がS/Sb≦2である第2硫化物を含有する上記項[1]に記載のリチウムイオン伝導体。
[3]上記第1硫化物がLi5.0~7SbS6~6.3である上記項[1]又は[2]に記載のリチウムイオン伝導体。
[4]上記第2硫化物がLiSbS2である上記項[2]又は[3]に記載のリチウムイオン伝導体。
[5]上記項[1]乃至[4]のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導体の製造方法であって、Liイオンを含む水溶液に、Sb及びLiのモル比が1.0≦Li/Sb≦7.0となるようにSb2S5を添加して、pHを7~14の範囲に調整し、懸濁液を得る工程と、上記懸濁液を濾過し、濾液を回収する工程と、上記濾液を凍結乾燥し、固体材料を得る工程と、上記固体材料を130℃~300℃で熱処理する工程とを、順次、備えることを特徴とするリチウムイオン伝導体の製造方法。
[6]上記項[1]乃至[4]のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導体を含むことを特徴とするリチウムイオン電池用電極
[7]上記項[6]に記載のリチウムイオン電池用電極を備えることを特徴とするリチウムイオン電池。
[8]Liイオンを含む水溶液に、Sb及びLiのモル比が0.1≦Li/Sb≦5.0となるようにSb2S5を添加して、pHを7~14の範囲に調整し、懸濁液を得る工程と、前記懸濁液を濾過し、濾液を回収する工程と、前記濾液を凍結乾燥し、固体材料を得る工程と、前記固体材料を130℃~270℃で熱処理する工程とを、順次、備える製造方法により得られることを特徴とするリチウムイオン伝導体。
【発明の効果】
【0006】
本発明のリチウムイオン伝導体は、良好なイオン伝導性を有する。
本発明のリチウムイオン伝導体の製造方法の製造方法によれば、イオン伝導性に優れたリチウムイオン伝導体の製造方法を効率よく得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実験例1及び2で得られたリチウムイオン伝導体のラマンスペクトルである。
【
図2】
図1におけるリチウムイオン伝導体(A)のラマンスペクトルを、測定波数範囲150~450cm
-1の表示としてピーク分離したときのグラフを示す図である。
【
図3】実験例1及び2で得られたリチウムイオン伝導体のX線回折像を示す図である。
【
図4】実験例1で得られたリチウムイオン伝導体(A)の複数サンプルに対して行ったEDS測定により得られた、2つの主たるパターンを示す図である。
【
図5】実験例1及び2で得られたリチウムイオン伝導体の導電率の温度依存性を示すグラフである。
【
図6】リチウムイオン電池用電極を備えるリチウムイオン電池の要部断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のリチウムイオン伝導体は、上記のように、Li、Sb及びSを含む第1硫化物を含有し、ラマン分光法により測定した場合、特定の波数においてピークが検出される材料である。
本発明のリチウムイオン伝導体は、ラマンスペクトルにおいて、326±5cm
-1及び359±1cm
-1にピークを有する(
図1の実験例1のチャート参照)。従来、ラマンスペクトルにおいて、SbS
2結合は、1050cm
-1にピークを有し、SbS
3結合は、333cm
-1にピークを有し、SbS
4結合は、360cm
-1にピークを有するが、これらの波数は、上記2つのピーク波数と異なっているので、本発明のリチウムイオン伝導体は、SbS
2結合、SbS
3結合及びSbS
4結合のいずれか1つのみを含むのではなく、新規化合物を含むと考えられる。尚、本発明者らは、上記2つのピーク波数における結合種を帰属できていない。
本発明のリチウムイオン伝導体は、ラマンスペクトルにおいて、248±1cm
-1及び384±1cm
-1にピークを有することができる。
【0009】
上記第1硫化物は、Sb及びSのモル比がS/Sb≧5であり、好ましくは5.5≦S/Sb≦6.5、より好ましくは6.0≦S/Sb≦6.3の化合物である。尚、Sb及びLiのモル比は、特に限定されないが、本発明のリチウムイオン伝導体のイオン伝導性の観点から、好ましくは2.0≦Li/Sb≦7.0、より好ましくは3.0≦Li/Sb≦7.0である。
【0010】
上記第1硫化物は、好ましくはLi5.0~7SbS6~6.3であり、より好ましくはLi6.0~7.0SbS6.0~6.3である。
上記第1硫化物は、好ましくは粒状であり、その形状及びサイズは、特に限定されない。粒径は、好ましくは100~0.1μm、より好ましくは10~0.1μmである。
【0011】
本発明のリチウムイオン伝導体に含まれる第1硫化物の含有割合の下限は、本発明のリチウムイオン伝導体のイオン伝導性の観点から、好ましくは10質量%、より好ましくは1質量%である。
本発明のリチウムイオン伝導体は、第1硫化物以外の物質として、他の硫化物、酸化物、等を含むことができるが、本発明においては、他の硫化物として、Li、Sb及びSを含み、Sb及びSのモル比がS/Sb≦2である第2硫化物を更に含むことができる。この第2硫化物は、Sb及びSのモル比が、好ましくは1.0≦S/Sb≦2.0、より好ましくは1.5≦S/Sb≦2.0の化合物である。尚、Sb及びLiのモル比は、特に限定されないが、本発明のリチウムイオン伝導体のイオン伝導性の観点から、好ましくは1.0≦Li/Sb≦7.0、より好ましくは3.0≦Li/Sb≦7.0である。
【0012】
上記第2硫化物は、好ましくはLiSbS2である。
上記第2硫化物は、好ましくは粒状であり、その形状及びサイズは、特に限定されない。粒径は、好ましくは100~0.1μm、より好ましくは10~0.1μmである。
【0013】
本発明のリチウムイオン伝導体を粉末X線回折測定に供した場合、結晶に由来する明確な回折像が得られないことがあるが、上記第2硫化物がLiSbS2である場合、この化合物は結晶性物質であるので、その含有割合によって、X線回折像に反映されることがある。本発明のリチウムイオン伝導体は、全体として、非晶質であり、第1硫化物は、通常、非晶質またはガラスセラミックスである。
従来、Li及びSを含み、イオン伝導性を有する硫化物は、広く知られているが、このうち、Li、P及びSを含み、P及びSのモル比が高く、イオン伝導性を有する硫化物として、例えば、国際公開2017/159667に開示された、Li7PS6結晶構造;Li7PS6の構造骨格を有し、Pの一部をSiで置換してなる組成式Li7±4xP1-ySiyS6(xは-0.6~0.6、yは0.1~0.6)で示される結晶構造;Li7-x-2yPS6-x-yClx(0.8≦x≦1.7、0<y≦-0.25x+0.5)で示される結晶構造;Li7-xPS6-x/2Hax(HaはClもしくはBr、xが好ましくは0.2~1.8)で示される結晶構造等を有するArgyrodite型結晶が知られている。
【0014】
本発明のリチウムイオン伝導体は、好ましくは、いずれも粒状の第1硫化物及び第2硫化物の混合物である。
【0015】
本発明のリチウムイオン伝導体は、イオン伝導性に優れ、50℃~170℃の範囲において、10-4S/cmオーダー又はこれを超える導電率を示し、リチウムイオン電池を構成する正極等の電極や、電解質層等の形成材料として好適である。
【0016】
他の本発明は、上記本発明のリチウムイオン伝導体を製造する方法であって、Liイオンを含む水溶液(以下、「Liイオン含有水溶液」という)に、Sb及びLiのモル比が2.0≦Li/Sb≦7.0となるようにSb2S5を添加して、pHを7.0~14.0の範囲に調整し、懸濁液を得る工程(以下、「第1工程」という)と、上記懸濁液を濾過し、濾液を回収する工程(以下、「第2工程」という)と、上記濾液を凍結乾燥し、固体材料を得る工程(以下、「第3工程」という)と、上記固体材料を130℃~300℃で熱処理する工程(以下、「第4工程」という)とを、順次、備える方法である。
【0017】
第1工程では、Liイオン含有水溶液と、Sb2S5とが用いられる。Liイオン含有水溶液におけるLiイオン濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.01~10mol/l、より好ましくは0.1~1mol/lである。
Liイオン含有水溶液を調製する方法は、特に限定されず、通常、水酸化リチウム、炭酸リチウム等の水溶性Li化合物を水に溶解する方法が適用される。
Sb2S5の性状は、固体であり、Liイオン含有水溶液にSb2S5を添加する場合には、その粉末を用いてよいし、Sb2S5の水分散液を用いてもよい。
【0018】
第1工程で用いるSb2S5の使用量は、Sb2S5に由来するSbと、Liイオン含有水溶液に由来するLiとのモル比が0.1≦Li/Sb≦5.0、好ましくは0.2≦Li/Sb≦4.0、より好ましくは0.3≦Li/Sb≦4.0となるように設定される。上記モル比を0.5≦Li/Sb≦3.0とすることにより、Sb及びSのモル比がS/Sb≧6である第1硫化物が効率よく形成される。
【0019】
第1工程におけるSb2S5の使用方法は、特に限定されず、Sb2S5を一括してLiイオン含有水溶液に添加してよいし、分割添加又は連続添加してもよい。第1工程において、Liイオン含有水溶液を撹拌下、所定量のSb2S5を添加することにより、反応液のpHが14~7、好ましくは13~7の懸濁液を効率よく得ることができる。第1工程により得られる懸濁液は、通常、水と、水に溶解した上記本発明のリチウムイオン伝導体と、水に溶解又は不溶の未反応原料とからなる。
【0020】
第2工程では、懸濁液の濾過が行われ、上記本発明のリチウムイオン伝導体の前駆体の水溶液が濾液として回収される。濾過方法は、特に限定されず、紙又は樹脂からなる濾紙を用いた、従来、公知の方法を適用することができる。
【0021】
第3工程では、濾液の凍結乾燥が行われ、上記本発明のリチウムイオン伝導体の前駆体からなる固体材料が得られる。凍結乾燥を行う場合、濾液を、好ましくは0℃~-50℃の温度で凍結させ、その後、真空中で、濾液の媒体である水の沸点を下げて、凍結物の水分を昇華させる方法が適用される。尚、凍結乾燥に供する濾液には、必要に応じて、アセトン、ケトングループ有する有機溶剤等の水溶性有機溶剤を添加しておいてもよい。
第3工程により得られる固体材料は、通常、塊状であるが、振動等の軽い衝撃を与えることにより、容易に粉体となる。
【0022】
第4工程では、得られた固体材料の熱処理が行われる。熱処理温度は、イオン伝導性に優れたリチウムイオン伝導体が効率よく得られることから、130℃~300℃であり、好ましくは130℃~270℃である。熱処理時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは60~600分間である。尚、熱処理の雰囲気は、特に限定されず、大気中、不活性ガス雰囲気中、真空中等とすることができる。
【0023】
他の本発明は、製造原料として、Liイオン含有水溶液及びSb2S5を用いる製造方法であるが、製造時だけでなく、製造後にも硫化水素を発生させない安全性に優れた製造方法である。
【0024】
また、本発明のリチウムイオン伝導体は、上述のリチウム伝導体の製造方法おける「第1工程」と、「第2工程」と、「第3工程」と、「第4工程」とを、順次、備える製造方法により得られるものでもある。
即ち、本発明のリチウムイオン伝導体は、Liイオンを含む水溶液に、Sb及びLiのモル比が0.1≦Li/Sb≦5.0となるようにSb2S5を添加して、pHを7~14の範囲に調整し、懸濁液を得る工程(「第1工程」)と、前記懸濁液を濾過し、濾液を回収する工程(「第2工程」)と、前記濾液を凍結乾燥し、固体材料を得る工程(「第3工程」)と、前記固体材料を130℃~270℃で熱処理する工程(「第4工程」)とを、順次、備える製造方法により得られるものである。尚、本発明のリチウムイオン伝導体を特定する「第1工程」、「第2工程」、「第3工程」及び「第4工程」の内容は、上記のリチウム伝導体の製造方法おける「第1工程」、「第2工程」、「第3工程」及び「第4工程」の内容を適用することができる。
【0025】
ここで、上記のリチウムイオン伝導体は物の発明であるが、「第1工程」と、「第2工程」と、「第3工程」と、「第4工程」とを、順次、備える製造方法により得られるものであり、その物の製造方法により特定している。これは、本願発明のリチウムイオン伝導体は、以下の理由により、その構造又は特性により直接特定することが不可能である(実際的ではない)という事情が存在することから製造方法により特定している。
即ち、本発明のリチウムイオン伝導体は、後述の通り、レーザーラマン分光計によるラマンスペクトル、X線回析装置によるX線回析測定及びSEMによる元素分析を行っているが、リチウムイオン伝導体が主にアモルファスであること及びエネルギー分散型X線分析(EDS)によるリチウム元素の分析が困難であることから、本願発明のリチウムイオン伝導体を、構造又は特性により直接特定することが不可能である(実際的ではない)という事情があり、その物の製造方法により特定している。
【0026】
更に他の本発明のリチウムイオン電池用電極は、上記本発明のリチウムイオン伝導体を含むことを特徴とする。正極の場合、正極活物質からなる活物質部を備えるリチウムイオン伝導体を含み、負極の場合、負極活物質からなる活物質部を備えるリチウムイオン伝導体を含む。
本発明のリチウムイオン電池用電極は、バインダー、導電助剤、他の固体電解質等を含むことができる。
上記バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等の含フッ素樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂;エチレン・プロピレン・非共役ジエン系ゴム(EPDM等)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等が挙げられる。
上記導電助剤としては、炭素材料(グラフェン等の板状導電性物質;カーボンナノチューブ、炭素繊維等の線状導電性物質;ケッチェンブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、黒鉛等の粒状導電性物質等)、金属、金属化合物等が挙げられる。
【0027】
本発明のリチウムイオン電池用電極は、通常、上記の材料を含む混合物を、従来、公知の方法、例えば、プレス成形に供することにより得られた所定形状の成形体である。
【0028】
更に他のリチウムイオン電池は、上記本発明のリチウムイオン電池用電極を備えることを特徴とする。本発明のリチウムイオン電池は、
図6に示すように、好ましくは、正極活物質からなる活物質部を備えるリチウムイオン電池用複合粒子を含む正極11と、負極活物質からなる活物質部を備えるリチウムイオン電池用複合粒子を含む負極13と、正極11及び負極13の間に配された電解質層15と、正極11の集電を行う正極集電体17と、負極15の集電を行う負極集電体19と、これらの部材を収納する電池ケース(図示せず)とを有するものである。
上記電解質層は、電解液、ゲル電解質、固体電解質等を含むものとすることができる。
上記正極集電体及び上記負極集電体は、いずれも、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、鉄、チタン等を含む、箔、板又はメッシュであることが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は、かかる実施例に限定されるものではない。
【0030】
1.製造原料
(1)Li化合物
Sigma-Aldrich社製「水酸化リチウム」(reagent、>98%)を用いた。
(2)Sb化合物
Sigma-Aldrich社製「硫化アンチモン(V)」(technical、≧60% Sb basis)を用いた。
【0031】
2.リチウムイオン伝導体の製造
実験例1及び2
上記Li化合物1グラムを脱イオン水40ミリリットルに溶解させた。次いで、室温条件下、得られた水溶液を撹拌しながら、上記Sb化合物4.0グラム(Li/Sbモル比2.1)をゆっくりと添加し、反応させた。反応液のpHが7になったところで撹拌(反応)を終了し、懸濁液を得た。その後、この懸濁液を濾過し、約30ミリリットルの黄色透明溶液を得た。
次に、この溶液にアセトン5ミリリットルを添加し、得られた混合液を、EYELA社製凍結乾燥機「FDU-1200」(型式名)を用いて、凍結乾燥させた(-20℃、72時間)。そして、乾燥固体材料を回収し、これに軽く振動を与えたところ、自然に粉体となった。その後、この粉体を、180℃及び250℃で、いずれも、2時間に渡って、それぞれ、熱処理し、実験例1のリチウムイオン伝導体(A)と、実験例2のリチウムイオン伝導体(B)とを得た。
この一連の製造工程において、硫化水素の臭気が感じられることはなかった。
【0032】
得られたリチウムイオン伝導体(A)及び(B)について、JASCO社製顕微レーザーラマン分光計「NRS-3100」(型式名)を用いてラマン分光測定を行ったところ、
図1に示すラマンスペクトルを得た。リチウムイオン伝導体(A)では、326cm
-1及び359cm
-1においてピークが検出された。
図2は、
図1におけるリチウムイオン伝導体(A)のラマンスペクトルを、測定波数範囲150~450cm
-1の表示とし、Origin9.0(商品名、OriginLab Corporation社のソフトウェア)を用いてピーク分離したときのグラフである。326cm
-1及び359cm
-1にピークを有するリチウムイオン伝導体(A)は、新規の硫化物を含むと考えられ、分離ピークの波数(242cm
-1、307cm
-1、330cm
-1及び358cm
-1)それぞれについて、SbとSとの結合種を同定できていないが、リチウムイオン伝導体(A)は、4種の結合種を含むことが分かる。
【0033】
また、リチウムイオン伝導体(A)及び(B)について、Rigaku社製試料水平型多目的X線回折装置「Ultima IV」(型式名)を用いてX線回折測定を行ったところ、
図2に示す回折パターンを得た。実験例1で得られたリチウムイオン伝導体(A)には、LiSbS
2が含まれることが分かった。
【0034】
更に、実験例1で得られたリチウムイオン伝導体(A)の複数サンプル(5個の粉体)について、日立社製SEM装置「S4800」(型式名)により、EDSの条件で元素分析を行ったところ、2つの主たるパターン(a1)及び(a2)が得られた(
図4参照)。
図4の(a1)は、Sb及びSのモル比がS/Sb=6.3であるリチウム化合物からなる粉体であることを示す。また、
図4の(a2)は、Sb及びSのモル比がS/Sb=1.9であり、LiSbS
2からなる粉体であると考えられる。
本発明者らは、S/Sb=6.3であったリチウム化合物について、出発原料から、以下のように推定している。
Liイオンを含む水溶液にLi/Sbモル比が3となるようにSb
2S
5を添加したため、化学量論的には、2Li
3SbS
4→Li
5SbS
6+LiSbS
2となる。ここで、Argyrodite型結晶と称されるLi
7PS
6の構造骨格を有する結晶は、Li
5.5~7PS
6として知られているため、S/Sb=6.3であったリチウム化合物は、Li
5.5~7SbS
6+αであり得、また、反応式からLi
5SbS
6が想定されることを踏まえ、得られたリチウム化合物は、Li
5.0~7SbS
6+αと考えている。
【0035】
次に、リチウムイオン伝導体(A)及び(B)を用いて、下記の方法により、導電率を、30℃~170℃の範囲の温度で測定した。
各粉体を、一軸油圧プレス機を用いて、円板形状の試験片(サイズ:半径5mm×高さ0.6mm)とし、アルゴンガス雰囲気下、測定用ユニット(ガラス容器)に入れた状態で、調温器に接続したリボンヒーター及び断熱材を測定用ユニット(ガラス容器)の周りに巻き付け、東陽テクニカ社製IMPEDANCE ANALYZER「SOLATRON SI1260」(型式名)を用いて、所定の温度(30℃、50℃、70℃、90℃、110℃、130℃、150℃及び170℃)で導電率を測定した。尚、導電率の測定は、試験片を加熱して、低温側から各測定温度に設定してから1時間静置した後、行ったが、各リチウムイオン伝導体(A)及び(B)とも、それぞれ、1体の同じ試験片を用いたため、測定温度が低い順に、30℃で測定した後、25℃に降温させ、50℃に昇温し、1時間後に測定し、その後、25℃に降温させる、というように、170℃までの導電率を測定した。
この結果、リチウムイオン伝導体(A)において、昇温時の30℃、50℃、70℃、90℃、110℃、130℃、150℃及び170℃における導電率は、それぞれ、1.0×10
-5S/cm、1.1×10
-4S/cm、3.2×10
-4S/cm、8.2×10
-4S/cm、1.8×10
-3S/cm、2.8×10
-3S/cm、2.5×10
-3S/cm及び1.2×10
-3S/cmであり、設定温度に到達後、過昇温状態から降温をさせた場合のその降温時の170℃、150℃、130℃、110℃、90℃、70℃、50℃及び30℃における導電率は、それぞれ、5.3×10
-4S/cm、2.7×10
-4S/cm、2.2×10
-4S/cm、1.7×10
-4S/cm、1.2×10
-4S/cm、6.1×10
-5S/cm、3.4×10
-5S/cm及び1.8×10
-5S/cmであった。また、リチウムイオン伝導体(B)において、昇温時の50℃、70℃、90℃、110℃、130℃、150℃及び170℃における導電率は、それぞれ、4.7×10
-7S/cm、3.7×10
-6S/cm、1.8×10
-5S/cm、6.9×10
-5S/cm、2.2×10
-4S/cm、5.4×10
-4S/cm及び1.0×10
-3S/cmであった。
図5は、リチウムイオン伝導体(A)及び(B)の導電率の温度依存性を示すグラフであり、見かけの伝導の活性化エネルギーは、リチウムイオン伝導体(A)が55kJ/mol、リチウムイオン伝導体(B)が25kJ/molであった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明により製造されたリチウムイオン伝導体は、パソコン、カメラ等の家電製品や、電力貯蔵装置、携帯電話機等の携帯型電子機器又は通信機器、パワーツール等の電動工具等の電源、更には、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)等に搭載される大型電池を構成するリチウムイオン電池の構成材料、例えば、リチウムイオン電池用電極又は電解質層の構成材料として好適である。
【符号の説明】
【0037】
10:全固体形リチウムイオン電池
11:正極
13:負極
15:電解質層
17:正極集電体
19:負極集電体