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特許7184328カーボンナノチューブアレイの製造方法、カーボンナノチューブアレイ、及びカーボンナノチューブからなる糸
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブアレイの製造方法、カーボンナノチューブアレイ、及びカーボンナノチューブからなる糸
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/168 20170101AFI20221129BHJP
   D02G 3/16 20060101ALI20221129BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20221129BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20221129BHJP
   C01B 32/162 20170101ALI20221129BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20221129BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20221129BHJP
【FI】
C01B32/168
D02G3/16
B01J37/18
B01J23/745 M
C01B32/162
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018170388
(22)【出願日】2018-09-12
(65)【公開番号】P2019059663
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-04-02
(31)【優先権主張番号】P 2017185701
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502225707
【氏名又は名称】杉田電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】仲 健太
(72)【発明者】
【氏名】飯島 徹
(72)【発明者】
【氏名】須永 祐市
(72)【発明者】
【氏名】杉田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】鶴岡 秀志
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-231446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
D02G 3/16
B01J 37/18
B01J 23/745
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に垂直配向した多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブアレイを製造する方法であって、
金属微粒子からなる反応触媒が表面に形成された基板を反応容器内に載置し、水素ガス雰囲気下で炭素源ガスを供給し、500~1100℃の反応温度で0.5~30分間保持することによって、前記基板に垂直配向した多数のカーボンナノチューブを形成する合成工程と、
前記カーボンナノチューブが形成された基板を、水素ガス雰囲気下、水素ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気下(ただし、水素のモル分率は10%以上100%未満である)、又は真空中で、0~1000 Paの全圧で、700900℃で360分間保持することによって、前記形成されたカーボンナノチューブを熱処理する熱処理工程と、
反応容器内を冷却する冷却工程とを有し、
前記熱処理の温度T(℃)及び保持時間t(分)が、次式:
t≧230000×[1/(T+273)]-210
を満たし、
得られたカーボンナノチューブアレイが、126~171 μmの平均長さ及び139~161 mg/cm 3 の嵩密度を有することを特徴とするカーボンナノチューブアレイの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のカーボンナノチューブアレイの製造方法において、
前記水素と不活性ガスとの混合ガス中の水素のモル分率をXH2としたとき、前記熱処理の温度T(℃)が、次式:
T≧-190×XH2+890
を満たすことを特徴とするカーボンアレイの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のカーボンナノチューブアレイの製造方法において、
前記合成工程中の炭素源ガスの供給を200℃以上(ただし、前記反応温度以下の温度)で行うことを特徴とするカーボンナノチューブアレイの製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載のカーボンナノチューブアレイの製造方法において、
前記熱処理工程を、前記合成工程と同じ温度又は高い温度で行うことを特徴とするカーボンナノチューブアレイの製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のカーボンナノチューブアレイの製造方法において、
前記金属微粒子からなる反応触媒の形成は、
前記基板に触媒となる金属膜を形成した後、前記基板を水素ガス雰囲気中で200~500℃で1~10分間加熱することにより、前記金属膜内に金属微粒子を形成することによって行うことを特徴とするカーボンナノチューブアレイの製造方法。
【請求項6】
電気伝導率が103 S/m以上の、カーボンナノチューブからなる糸を製造する方法であって、
請求項1~5のいずれかに記載の製造方法によって得られたカーボンナノチューブアレイからカーボンナノチューブの短繊維を引き出して、前記カーボンナノチューブの短繊維を紡績することを特徴とするカーボンナノチューブからなる糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に垂直配向した多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブアレイの製造方法、カーボンナノチューブアレイ、及びカーボンナノチューブからなる糸に関し、詳しくは、紡績性に優れ、高品質の糸に紡績可能なカーボンナノチューブアレイの製造方法、及び前記方法によって得られたカーボンナノチューブアレイ、並びに前記カーボンナノチューブからなる糸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブアレイを基板の表面に垂直配向させて形成し、そのカーボンナノチューブアレイの一部をピンセット等により引き出すことでそのカーボンナノチューブを糸状に紡績する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2004-107196号)は、金属触媒が蒸着された基板を空気中300~400℃で10時間アニールした後、その基板を不活性ガス中で500~700℃に加熱して、さらに炭化水素ガスを導入することによってカーボンナノチューブアレイを製造する方法を開示している。
【0004】
特許文献2(特許4512750号)は、金属触媒膜が形成された基板を不活性ガス中で700℃に加熱して、さらに炭化水素ガスを導入することによってカーボンナノチューブアレイを製造する方法を開示している。
【0005】
特許文献3(特開2013-6708号)は、金属触媒膜が形成された基板を不活性雰囲気中又は還元雰囲気中で金属触媒活性化温度(例えば、500℃)以上に加熱して一定時間保持した後、金属触媒活性化温度以下(200~500℃)に降温し、炭化水素ガスを導入して一定時間保持した後、金属触媒活性化温度よりも高い温度に昇温し保持することによってカーボンナノチューブアレイを製造する方法を開示している。
【0006】
しかしながら、特許文献1~3に記載の方法は、ある程度紡績性が改良されているものの、再現性が十分ではなかったり、安定性が十分でなかったりするため、連続的に糸を紡績しようとすると途中で断絶してしまい、10 mを越えるような糸を連続的に高い品質で紡績することは困難であった。そのため、さらに高い紡績性を有するカーボンナノチューブアレイを製造する方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-107196号公報
【文献】特許4512750号公報
【文献】特開2013-6708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、良好な再現性を有し、カーボンナノチューブからなる糸を安定して紡績することのできるカーボンナノチューブアレイの製造方法、カーボンナノチューブアレイ、及びカーボンナノチューブからなる糸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、基板上に垂直配向した多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブアレイを気相合成法によって製造する際に、炭素源ガスを止めて合成反応を終了させた後、非酸化性雰囲気下で所定温度に一定時間保持することにより、得られたカーボンナノチューブアレイの紡績性が著しく向上することを見出し、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、基板上に垂直配向した多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブアレイを製造する本発明の方法は、
金属微粒子からなる反応触媒が表面に形成された基板を反応容器内に載置し、水素ガス雰囲気下で炭素源ガスを供給し、500~1100℃の反応温度で0.5~30分間保持することによって、前記基板に垂直配向した多数のカーボンナノチューブを形成する合成工程と、
前記カーボンナノチューブが形成された基板を、非酸化性雰囲気下で、400~1100℃で0.5~180分間保持することによって、前記形成されたカーボンナノチューブを熱処理する熱処理工程と、
反応容器内を冷却する冷却工程とを有することを特徴とする。
【0011】
前記熱処理の温度をT(℃)、保持時間をt(分)としたとき、次式:
t≧18000×[1/(T+273)]-17
を満たすのが好ましい。
【0012】
前記熱処理の温度T(℃)及び保持時間t(分)は、次式:
t≧30000×[1/(T+273)]-28
を満たすのがより好ましい。
【0013】
前記熱処理の温度T(℃)及び保持時間t(分)は、次式:
t≧230000×[1/(T+273)]-210
を満たすのがさらに好ましい。
【0014】
前記熱処理は水素ガス雰囲気下、水素ガスと不活性ガス(窒素ガス又はアルゴンガス)との混合ガス雰囲気下、又は真空中で、0~1000 Paの全圧で行うのが好ましい。
【0015】
前記水素と不活性ガスとの混合ガス中のモル分率をXH2としたとき、前記熱処理の温度T(℃)が、次式:
T≧-190×XH2+890
を満たすのが好ましい。
【0016】
前記合成工程中の炭素源ガスの供給は200℃以上(ただし、前記反応温度以下の温度)で行うのが好ましい。
【0017】
前記熱処理工程は、前記合成工程と同じ温度又は高い温度で行うのが好ましい。
【0018】
前記熱処理工程の保持時間は0.5~60分間であるのが好ましい。
【0019】
前記金属微粒子からなる反応触媒の形成は、
前記基板に触媒となる金属膜を形成した後、前記基板を水素ガス雰囲気中で200~500℃で1~10分間加熱することにより、前記金属膜内に金属微粒子を形成することによって行うのが好ましい。
【0020】
電気伝導率が103 S/m以上の、カーボンナノチューブからなる糸を製造する本発明の方法は、
前記製造方法によって得られたカーボンナノチューブアレイからカーボンナノチューブの短繊維を引き出して、前記カーボンナノチューブの短繊維を紡績することを特徴とする。
【0021】
本発明のカーボンナノチューブアレイは、基板上に垂直配向した多数のカーボンナノチューブからなり、
前記カーボンナノチューブの平均長さは80~350μm、及び嵩密度は100~200 mg/cm3であることを特徴とする。
【0022】
本発明のカーボンナノチューブアレイにおいて、
前記カーボンナノチューブの平均長さは110~200μm、及び嵩密度は120~180 mg/cm3であるのが好ましい。
【0023】
本発明のカーボンナノチューブアレイにおいて、
配向方向に平行な断面で撮影したSEM写真の、基板に平行な方向(水平方向)に幅20μm×基板からの高さ8μmまでの範囲を二次元フーリエ変換処理し、得られた振幅スペクトルの中心から水平方向(0°の方向)に空間周波数20μm-1までの振幅を積算した値をfv、中心から20°の方向に空間周波数20μm-1までの振幅を積算した値をf20としたとき、式:
f20/fv≦0.35
を満たすのが好ましい。
【0024】
本発明のカーボンナノチューブからなる糸は、前記カーボンナノチューブからなり、電気伝導率が103S/m以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の方法によって得られるカーボンナノチューブアレイは、紡績性に非常に優れているので、カーボンナノチューブからなる長尺の紡績糸を高い品質で作製することができる。このようにして得られたカーボンナノチューブからなる糸は、優れた強度及び導電性を有しているので、炭素繊維代替材料(補強材等)や、歪センサ、電磁波吸収材、電線用導体、人工筋肉等に応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の方法によって得られたカーボンナノチューブアレイの電子顕微鏡写真である。
図2】カーボンナノチューブアレイから作製したカーボンナノチューブの紡績糸を示す電子顕微鏡写真である。
図3】気相合成法によって製造されたカーボンナノチューブアレイにおけるカーボンナノチューブの平均長さと嵩密度との関係、並びにそれらの紡績性を示すグラフである。
図4(a)】紡績性に優れたカーボンナノチューブアレイを配向方向に平行な断面で撮影した基板付近のSEM写真である。
図4(b)】図4(a)のSEM写真から二次元フーリエ変換処理して得られた振幅スペクトルである。
図5(a)】紡績できないカーボンナノチューブアレイを配向方向に平行な断面で撮影した基板付近のSEM写真である。
図5(b)】図5(a)のSEM写真から二次元フーリエ変換処理して得られた振幅スペクトルである。
図6】f20及びfvを求める方法を説明するための図である。
図7】基板上に形成されたカーボンナノチューブアレイから紡績糸を作製する工程を示す模式図である。
図8】紡績性に優れたカーボンナノチューブアレイから糸を紡績する様子を示す模式図である。
図9】紡績性がやや低いカーボンナノチューブアレイから糸を紡績する様子を示す模式図である。
図10】紡績性がやや低いカーボンナノチューブアレイから糸を紡績した後の様子を示す写真である。
図11】カーボンナノチューブアレイの製造工程を模式的に示す断面図である。
図12(a)】本発明のカーボンナノチューブアレイを製造する方法の反応スキームを示すグラフである。
図12(b)】本発明のカーボンナノチューブアレイを製造する方法の他の反応スキームを示すグラフである。
図12(c)】本発明のカーボンナノチューブアレイを製造する方法のさらに他の反応スキームを示すグラフである。
図13】水素及び窒素の混合ガス雰囲気下で熱処理を行ったときの水素モル分率及び熱処理温度と紡績性との関係を示すグラフである。
図14】水素雰囲気下で熱処理を行ったときの熱処理温度及び保持時間と紡績性との関係を示すグラフである。
図15】カーボンナノチューブアレイからカーボンナノチューブの連続した複数の繊維を取り出している状態を示す写真である。
図16(a)】試料No.101のカーボンナノチューブアレイを示す電子顕微鏡写真である。
図16(b)】試料No.101のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
図17(a)】試料No.102のカーボンナノチューブアレイを示す電子顕微鏡写真である。
図17(b)】試料No.102のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
図18(a)】試料No.103のカーボンナノチューブアレイを示す電子顕微鏡写真である。
図18(b)】試料No.103のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
図19(a)】試料No.104のカーボンナノチューブアレイを示す電子顕微鏡写真である。
図19(b)】試料No.104のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
図20(a)】試料No.201のカーボンナノチューブアレイを示す電子顕微鏡写真である。
図20(b)】試料No.201のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
図21(a)】試料No.202のカーボンナノチューブアレイを示す電子顕微鏡写真である。
図21(b)】試料No.202のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
図22(a)】試料No.204のカーボンナノチューブアレイを示す電子顕微鏡写真である。
図22(b)】試料No.204のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
図23】試料No.401のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
図24(a)】試料No.402のカーボンナノチューブアレイを示す電子顕微鏡写真である。
図24(b)】試料No.402のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
図25(a)】試料No.403のカーボンナノチューブアレイを示す電子顕微鏡写真である。
図25(b)】試料No.403のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
図26】試料No.404のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
図27(a)】試料No.405のカーボンナノチューブアレイを示す電子顕微鏡写真である。
図27(b)】試料No.405のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
図28】試料No.406のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
図29(a)】試料No.407のカーボンナノチューブアレイを示す電子顕微鏡写真である。
図29(b)】試料No.407のカーボンナノチューブアレイから繊維を取り出している状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[1]カーボンナノチューブアレイ
(a)構成
本発明の方法によって得られるカーボンナノチューブアレイは、図1に示すように、基板上に垂直に配向して形成された多数のカーボンナノチューブ(短繊維)からなり、各カーボンナノチューブは主に二層カーボンナノチューブからなり3~7 nm程度の外径を有している。なお、本願明細書において、「カーボンナノチューブ」を「CNT」と略して表記する場合がある。
【0028】
このようなカーボンナノチューブアレイは、その端部をピンセット等により引き出すことで、そのカーボンナノチューブの短繊維を紡績して、図2に示すような紡績糸を作製することが可能である。すなわち、カーボンナノチューブアレイから引き出された個々のカーボンナノチューブは、引き出された方向に連続的に配向し、複数の繊維を形成する。それらの複数の繊維に縒りをかけることで糸が得られる。
【0029】
一般にカーボンナノチューブアレイを、後述するような気相合成法によって製造した場合、基板上のカーボンナノチューブが長くなればなるほど基板上のカーボンナノチューブの嵩密度は低くなる傾向にある。図3に、気相合成法によって製造されたカーボンナノチューブアレイにおけるカーボンナノチューブの平均長さと嵩密度との関係を示す。プロットした各点は、このカーボンナノチューブアレイを用いて紡績糸を作製したときの紡績性を示す。40 m以上の紡績糸が得られたものを黒丸(●)で示し、35 m以上40 m未満の紡績糸が得られたものを白丸(○)で示し、30 m以上35 m未満の紡績糸が得られたものを黒四角(■)で示し、1 m未満の紡績糸が得られたものを三角(△)で示し、紡績できなかったものをバツ(×)で示す。図3から明らかなように、カーボンナノチューブアレイが良好な紡績性を有するためには、基板上のカーボンナノチューブの長さが80~350μm、及び嵩密度が100~200 mg/cm3であるのが好ましく、長さが110~200μm、及び嵩密度が120~180 mg/cm3であるのがさらに好ましい。
【0030】
さらに、基板上のカーボンナノチューブが基板に対して垂直な方向に規則正しく配列しているカーボンナノチューブアレイの方が紡績性に優れている。特に基板付近のカーボンナノチューブの配向度が紡績性に大きく影響する。図4(a)に、紡績性に優れたカーボンナノチューブアレイを配向方向に平行な断面で撮影した基板付近のSEM写真(加速電圧15 kV、10000倍)を示し、図5(a)に紡績ができなかったカーボンナノチューブアレイの基板付近のSEM写真(加速電圧15 kV、10000倍)を示す。紡績性に優れたカーボンナノチューブアレイはカーボンナノチューブが規則正しく配列しているが、紡績できないカーボンナノチューブアレイはカーボンナノチューブの配列が大きく乱れている。
【0031】
図4(b)に示す紡績性に優れたカーボンナノチューブアレイの振幅スペクトルでは、水平方向の振幅スペクトルが特に大きいのに対して、図5(b)に示す紡績できなかったカーボンナノチューブアレイの振幅スペクトルでは、比較的等方的な振幅スペクトルが得られている。すなわち、紡績性に優れたカーボンナノチューブアレイ(図4(b))では水平方向の規則性が高いのに対して、紡績できなかったカーボンナノチューブアレイ(図5(b))ではランダム性が高いことが分かる。
【0032】
これらの規則性の違いを、水平方向の振幅スペクトルの大きさと20°の方向の振幅スペクトルの大きさとを求め評価した。すなわち、得られた振幅スペクトルの中心から水平方向(0°の方向)に空間周波数20μm-1までの振幅を積算した値をfv、中心から20°の方向に空間周波数20μm-1までの振幅を積算した値をf20としたとき、式:
f20/fv≦0.35
を満たす場合、特に紡績性に優れていて好ましい。図4(b)に示す紡績性に優れたカーボンナノチューブアレイの振幅スペクトルではf20/fv=0.29であり、図5(b)に示す紡績できなかったカーボンナノチューブアレイの振幅スペクトルではではf20/fv=0.43であった。f20/fvの値は、0.30以下であるのがより好ましい。
【0033】
ここで、f20及びfvを求めるために積算する振幅スペクトルの位置について、図6に示す振幅スペクトルを用いて説明する。中心から水平方向(0°の方向)に空間周波数20μm-1までを線分Aで示し、中心から20°の方向に空間周波数20μm-1までを線分Bで示す。線分A上の振幅を積算した値がfvであり、線分B上の振幅を積算した値をf20である。f20/fvの値が小さいほど元画像であるカーボンナノチューブアレイの断面の画像において水平方向の周期性が高い(カーボンナノチューブが縦方向にきれいに配列している)ことを示している。逆にf20/fvの値が大きくなるほど、水平方向の周期性が低く、カーボンナノチューブの配列が乱れていることを示している。
【0034】
(b)紡績糸
図7は基板上に形成されたカーボンナノチューブアレイ4から紡績糸を作製する工程を模式的に示す。本発明の方法によって得られたカーボンナノチューブアレイ4は図7(a)に示すように、基板上に垂直に配向して形成されている。この基板の一つの辺から、図7(b)に示すように、3~5 mmの部分をその辺に平行に割って、小さい側の基板片1aを水平方向に引き離すと、大きい側の基板片1bと小さい側の基板片1aとの間にカーボンナノチューブ3の短繊維が連続的に配向し、複数の繊維31を形成する(図7(c)参照)。このようにして引き出された複数の繊維31に、例えば、基板片1bを引き出し方向を軸にして回転させて縒りをかけ、カーボンナノチューブ3からなる紡績糸32を形成する(図7(d)参照)。このようにして得られた紡績糸32は、ボビン5等に巻き付ける。
【0035】
図8(a)、図8(b)及び図8(c)は、紡績過程で基板上のカーボンナノチューブアレイ4が紡績されて減少していく様子を順に模式的に示す。優れた紡績性を有するカーボンナノチューブアレイ4の場合、基板の端部から途切れることなくカーボンナノチューブが引き出されて複数の繊維31が形成されてゆく。このときカーボンナノチューブアレイ4が引き出されてゆく前線部4aは、ほぼ幅方向中心を頂点とする三角形状となる。このように三角形状を維持しながらカーボンナノチューブアレイ4が減少してゆくことにより、途中で途切れないで最後まで連続的にカーボンナノチューブアレイ4からなる複数の繊維31が形成される。最終的には、図8(c)に示すように、二等辺三角形の形状のカーボンナノチューブアレイ4が残る。
【0036】
図9(a)、図9(b)及び図9(c)は、紡績性がやや低いカーボンナノチューブアレイ4の紡績の進行状況を順に模式的に示す。カーボンナノチューブアレイ4が引き出されていく前線部4aがのこぎり状になっており、その頂点付近では複数の繊維31が途切れてしまっている。このような状態になると、複数の繊維31の数が少なくなるため、得られる紡績糸32が細くなってしまう。このように紡績性の低いカーボンナノチューブアレイ4の場合、さらに紡績を続けるとやがて全体が途切れてしまい、図9(d)及び図10に示すように端部がのこぎり状になって紡績が中断する。
【0037】
カーボンナノチューブからなる高品質の紡績糸を安定に得るためには、カーボンナノチューブの物性(直径、長さ、結晶性、密度、形態等)、カーボンナノチューブアレイの品質(各カーボンナノチューブの長さ、均一性、配向度等の均一性)及び基板の性状(材質、サイズ、触媒の種類・形状等)が大きく影響すると考えられる。特にカーボンナノチューブアレイにおいて、個々のカーボンナノチューブが均等に最適な形状で形成されている場合、端部のカーボンナノチューブを引き出すことで、順次隣のカーボンナノチューブが連続的に引き出されて均一な繊維状に連なり、一方向に配向した複数のカーボンナノチューブ繊維が得られる。
【0038】
これらのカーボンナノチューブが基板上に垂直配向してなるカーボンナノチューブアレイは、紡績性の観点からは、カーボンナノチューブの長さが80~350μm程度であるのが好ましく、110~200μm程度であるのがより好ましい。カーボンナノチューブアレイを形成する基板の大きさは、特に限定されないが、紡績性の観点からは、幅2 cm程度、長さ2~4 cm程度であるのが好ましい。
【0039】
本発明の方法によって得られる紡績糸の長さ及び直径は、基板の大きさやカーボンナノチューブ短繊維の長さによるが、例えば、2 cm×4 cmの基板上に形成した長さ160μm程度のカーボンナノチューブアレイから2 cmの幅でカーボンナノチューブ短繊維を紡績した場合、直径約20μmで約40~50 mの糸を得ることができる。
【0040】
本発明のカーボンナノチューブからなる糸は、電気伝導率が103 S/m以上であるのが好ましく、104S/m以上であるのがより好ましく、5×104S/m以上であるのがさらに好ましい。
【0041】
[2]カーボンナノチューブアレイの製造方法
基板上に垂直配向した多数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブアレイを製造する本発明の方法は、金属微粒子からなる反応触媒が表面に形成された基板を反応容器内に載置し、水素ガス雰囲気下で炭素源ガスを供給し、500~1100℃の反応温度で0.5~30分間保持することによって、前記基板に垂直配向した多数のカーボンナノチューブを形成する合成工程と、前記カーボンナノチューブが形成された基板を、非酸化性雰囲気下で、400~1100℃で0.5~180分間保持することによって、前記形成されたカーボンナノチューブを熱処理する熱処理工程と、反応容器内を冷却する冷却工程とを有することを特徴とする。本発明の方法により得られたカーボンナノチューブアレイは紡績性が高いため、このカーボンナノチューブアレイから高品質な紡績糸を高い再現性で得ることができる。
【0042】
前記金属微粒子からなる反応触媒の形成は、前記基板に触媒となる金属膜を形成した後、前記基板を水素ガス雰囲気中で200~500℃で1~10分間加熱することにより、前記金属膜内に金属微粒子を形成することによって行うのが好ましい。図12(a)は、本発明のカーボンナノチューブアレイを製造する方法の典型的な反応スキームを示すグラフである。このスキームに沿って以下に本発明の方法について詳細に説明する。
【0043】
(1)金属微粒子からなる反応触媒を形成する工程(第1工程)
まず、図11(a)に示すように、平板状の基板1の表面に、触媒となる金属膜2を形成する。基板1としては、(i)酸化膜を形成したシリコン、石英等のSiO2からなる表面に、さらにスパッタ等の方法でAl2O3を成膜したもの、又は(ii)Al2O3からなるサファイヤ基板を使用するのが好ましい。特にSiO2からなる表面にAl2O3を成膜してなる基板が好ましい。このとき基板表面に形成されたAl2O3膜はスピネルにもコランダムにも一致しない結晶構造を主に有するのが好ましい。Al2O3膜の結晶構造はX線回折測定によって解析することができる。これらの基板に、電子ビーム蒸着等の方法により金属膜(例えば、Fe薄膜)2を成膜する。
【0044】
金属膜(Fe薄膜)2を成膜した後の基板1を反応容器(CVD装置)内に設置し、水素ガス雰囲気下で加熱することにより、図11(b)に示すように、成膜した金属膜2内に金属微粒子2bが形成されるとともに触媒活性が発現する。前記加熱温度は200~500℃であるのが好ましく、加熱時間は1~10分間であるのが好ましい。
【0045】
(2)カーボンナノチューブを形成する合成工程(第2工程)
第1工程で触媒活性を有する金属微粒子2bを形成させた後、引き続き反応容器(CVD装置)内で、水素ガス雰囲気下で炭素源ガス(原料ガス)を供給し、反応温度まで加熱することにより、基板1上に形成された金属微粒子2bから気相合成法によってカーボンナノチューブ3が形成される(図11(c))。第2工程は、昇温過程及び合成過程を有している。これらの過程について以下に詳述する。
【0046】
(a) 昇温過程
炉内の温度を500~1100℃の反応温度まで昇温する。昇温速度は特に限定されないが、50~1000℃/minであるのが好ましく、100~500℃/minであるのがより好ましい。この昇温過程の開始と同時、又は昇温過程の途中で炭素源ガスの供給を開始するのが好ましい。特に炭素源ガスの供給は200℃以上(ただし、反応温度以下の温度)で行うのが好ましい。炭素源ガスの供給を200℃以上で行うことにより、成長初期でカーボンナノチューブが絡み合いながら成長するようになる。その結果、端部のカーボンナノチューブを引き出したときに、順次隣のカーボンナノチューブが連続的に引き出されるようになり、カーボンナノチューブの紡績性が向上する。炭素源ガスの供給は400~900℃で行うのがより好ましい。
【0047】
(b) 合成過程
反応温度まで昇温した後、水素ガス雰囲気に炭素源ガスを混合してなる混合ガス中で、前記反応温度(500~1100℃)で0.5~30分間保持することにより、供給した炭素源ガスから気相合成法によりカーボンナノチューブが合成される。炭素源ガスとしては、特に限定されないが、アセチレンガスが好ましい。雰囲気ガス(水素ガス+炭素源ガス)中の炭素源ガス(アセチレンガス)のモル分率は0.01~1であるのが好ましく、0.05~0.6であるのがより好ましい。反応温度は800~900℃であるのがより好ましい。また反応時間(反応温度に達した後の保持時間)は、5~20分であるのがより好ましい。
【0048】
(3) カーボンナノチューブの熱処理工程(第3工程)
次に前記カーボンナノチューブが形成された基板を、引き続き非酸化性雰囲気下で、400~1100℃で0.5~180分間保持する。非酸化性雰囲気としては、水素ガス雰囲気、水素ガスと不活性ガス(Ar、N2等)等の非酸化性ガスとの混合ガス雰囲気、又は真空中が好ましい。熱処理は、0~1000 Paの全圧で行うのが好ましい。水素ガス雰囲気とする場合は炭素源ガスを止めて水素ガスのみを供給し、水素ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気とする場合は炭素源ガスを止めて代わりに不活性ガスを供給する。真空にする場合は炭素源ガス及び水素ガスを止めて脱気する。このときの真空度は、10 Pa以下であるのが好ましい。
【0049】
水素ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気下で熱処理を行う場合、混合ガス中の水素のモル分率をXH2としたとき、前記熱処理の温度T(℃)は、次式:
T≧-190×XH2+890
を満たすように設定するのが好ましい。
【0050】
図13は、水素及び窒素の混合ガス雰囲気下(全圧:800 Pa)で熱処理を行ったときの水素モル分率及び熱処理温度と紡績性との関係を示すグラフである。1 m以上の紡績糸が得られたカーボンナノチューブアレイの熱処理条件を丸印(○)で示し、紡績は可能であったが得られた紡績糸が1 m未満であったカーボンナノチューブアレイの熱処理条件を三角印(△)で示した。図中に示した直線が式:T=-190×XH2+890を表す。従って、式:T≧-190×XH2+890で表される領域は、この点線及びこの点線よりも上の部分である。この領域に含まれるように水素のモル分率及び熱処理の保持温度を設定することによって良好な紡績性を有するカーボンナノチューブアレイが得られる。
【0051】
熱処理工程の保持温度(熱処理温度)は、反応温度と同じであっても異なっていてもかまわない。例えば、図12(b)に示すように、熱処理工程の保持温度を反応温度よりも低く設定しても良いし、図12(c)に示すように、熱処理工程の保持温度を反応温度よりも高く設定しても良い。熱処理工程の保持温度は、反応温度と同じ又は高いのが好ましく、生産性の観点からは反応温度と同じであるのが好ましい。
【0052】
熱処理の温度をT(℃)、保持時間をt(分)としたとき、次式(1):
t≧18000×[1/(T+273)]-17 ・・・(1)
を満たすように熱処理温度及び保持時間を設定するのが好ましい。式(1)を満たすように熱処理温度及び保持時間を設定することにより、紡績性が良好なカーボンナノチューブアレイが得られる。また次式(2):
t≧30000×[1/(T+273)]-28 ・・・(2)
を満たすように熱処理温度及び保持時間を設定することにより、より紡績性に優れたカーボンナノチューブアレイが得られる。さらに次式(3):
t≧230000×[1/(T+273)]-210 ・・・(3)
を満たすように熱処理温度及び保持時間を設定することにより、さらに紡績性に優れたカーボンナノチューブアレイが得られる。
【0053】
図14に水雰囲気下での熱処理の温度及び保持時間と紡績性との関係を示すグラフを示す。1 m以上の紡績糸が得られたカーボンナノチューブアレイの熱処理条件を丸印(●)で示し、紡績は可能であったが得られた紡績糸が1 m未満であったカーボンナノチューブアレイの熱処理条件を三角印(▲)で示し、紡績ができなかったカーボンナノチューブアレイの熱処理条件をバツ印(×)で示した。また図中の直線1は、式:t=18000×[1/(T+273)]-17で表される直線であり、直線2は、式:t=30000×[1/(T+273)]-28で表される直線であり、直線3は、式:t=230000×[1/(T+273)]-210で表される直線である。直線1よりも下の領域が紡績が不可能な領域であり、直線1よりも上の領域(式(1):t≧18000×[1/(T+273)]-17で表される領域)が紡績が可能なカーボンナノチューブアレイが得られる領域であり、直線2よりも上の領域(式(2):t≧30000×[1/(T+273)]-28で表される領域)が紡績性に優れたカーボンナノチューブアレイが得られる領域であり、直線3よりも上の領域(式(3):t≧230000×[1/(T+273)]-210で表される領域)がさらに紡績性に優れたカーボンナノチューブアレイが得られる領域である。
【0054】
熱処理工程により、紡績性が著しく向上する。その理由ははっきり分かっていないが、カーボンナノチューブの絡み合いが強くなっていると考えられている。熱処理工程の熱処理温度は500~1000℃であるのが好ましく、550~900℃であるのがより好ましい。熱処理工程の保持時間は、0.5~90分間であるのが好ましく、0.5~60分間であるのがより好ましい。
【0055】
(4) 冷却工程(第4工程)
熱処理工程が終了した後、非酸化性ガスを止めて(又は真空のまま)反応容器を冷却する。冷却は、真空下で約400℃程度まで行い、その後は窒素ガスを供給して室温まで冷却するのが好ましい。降温速度は特に限定されない。
【実施例
【0056】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
以下のようにして試料No.101~104のカーボンナノチューブアレイを作成した。
【0058】
試料No.101(本発明例)
シリコンの平板(SUMCO製6インチシリコンウェハ(100)を20 mm×40 mmに切出したもの)の表面に、熱酸化によりSiO2の薄膜(約30 nm)を形成し、さらにスパッタによりAl2O3(約15 nm)を成膜した。Al2O3を成膜した後のシリコン平板に有機溶剤洗浄及びオゾン処理を施した後、電子ビーム蒸着によりFe薄膜(1.7~2.0 nm)を形成した。
【0059】
Fe薄膜を形成したシリコン平板をCVD装置(株式会社ユーテック製)の中に設置し、真空中(10 Pa以下)で150℃及び10分間加熱し、基板に残留する空気、水分等を除去した。次にCVD装置に水素ガスを供給し、水素ガス雰囲気下で400℃まで昇温し、400℃で5分間保持することにより、Fe薄膜表面の酸化膜を還元するとともにFe微粒子を形成した。この状態で金属膜の触媒活性が向上している。
【0060】
引き続き400℃でアセチレンガスの供給を開始するとともに、1分45秒かけて800℃まで昇温し、10分間保持してカーボンナノチューブの合成を行った(第三工程)。アセチレンガスと水素ガスとの混合比は、100:692(モル分率0.126のアセチレンガス、全圧:800 Pa)であった。800℃で10分間保持した後、アセチレンガスの供給を止め合成を停止し、水素ガス雰囲気下(全圧:800 Pa)で800℃で10分間熱処理を行った。熱処理後、水素ガスの供給を止め、真空中で室温まで30分かけて降温させ、基板1上にカーボンナノチューブ3が形成されてなる試料No.101のカーボンナノチューブアレイ4を得た。これらの反応スキームを図12(a)に示す。
【0061】
試料No.102(本発明例)
アセチレンガスの供給を止めて合成を停止すると同時に水素ガスの供給も止めて、真空中(10 Pa以下)で熱処理を行った以外試料No.101と同様にしてカーボンナノチューブアレイを作製した。
【0062】
試料No.103(比較例)
熱処理行わなかった以外試料No.101と同様にしてカーボンナノチューブアレイを作製した。
【0063】
試料No.104(比較例)
水素ガス雰囲気下の代わりに空気雰囲気下で熱処理を行った以外試料No.101と同様にしてカーボンナノチューブアレイを作製した。
【0064】
【表1】
【0065】
以上のようにして得られた試料No.101~104のカーボンナノチューブアレイの紡績性を以下の方法により評価した。すなわち、図15に示すように、基板の一方の短辺(20 mmの辺)から3~5 mmの部分を短辺に平行に割って、小さい側の基板片を水平方向に2~3cm引き離したときに、両基板片の間に形成されるカーボンナノチューブからなる複数の繊維の様子を目視で観察することにより紡績性を評価した。さらに前記複数の繊維を縒って紡績糸を作製し、得られた紡績糸の長さによって紡績性を評価した。1 m以上の紡績糸が得られたものを良(○)、紡績はできたが紡績糸の長さが1 m未満であったものを可(△)、紡績が全くできなかったものを不可(×)とした。これらの評価結果を表1に示す。
【0066】
試料No.101~104のカーボンナノチューブアレイのSEM写真をそれぞれ図16(a)~図19(a)に示し、その紡績性の評価結果をそれぞれ図16(b)~図19(b)に示す。これらの結果から明らかなように、試料No.101(本発明例)及び102(本発明例)のカーボンナノチューブアレイからは、複数の繊維が途切れなく均一に形成されており、紡績性は良好であった。試料No.101(本発明例)及び102(本発明例)のカーボンナノチューブアレイを紡績したところ、どちらの試料からも40 m以上の糸が得られた。
【0067】
これに対して試料No.103(比較例)及び試料No.104(比較例)のカーボンナノチューブアレイからは、連続した繊維が形成されず、紡績は不可能であった。また図16(a)及び図19(a)の比較から、試料No.104(比較例)のカーボンナノチューブは試料No.101(本発明例)のカーボンナノチューブに比べて配向方向の長さが短い(試料No.101が約120μmに対して試料No.104は約80μm)ことがわかる。試料No.104(比較例)のカーボンナノチューブは空気雰囲気下で熱処理を行ったことにより、カーボンナノチューブの分解(酸化)が起こり、その長さが短くなった可能性が考えられる。
【0068】
[実施例2]
熱処理の条件(温度及び時間)を表2に示すように変更した以外実施例1の試料No.101と同様にして試料No.201~217のカーボンナノチューブアレイを作製した。なお試料No.205は試料No.101と同じである。
【0069】
以上のようにして得られた試料No.201~217のカーボンナノチューブアレイから実施例1と同様にして紡績糸を作製し、実施例1と同様にして紡紡績性を評価した。これらの評価結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
試料No.201、202及び204のカーボンナノチューブアレイのSEM写真をそれぞれ図20(a)~図22(a)に示し、その紡績性の評価結果をそれぞれ図20(b)~図22(b)に示す。これらの結果から明らかなように、試料No.201、202及び204のカーボンナノチューブアレイからは、複数の繊維が途切れなく均一に形成されており、紡績性は良好であった。また試料No.201、202、204、205、206及び208のカーボンナノチューブアレイからは全て40 m以上の紡績糸が得られており、非常に優れた紡績性を有していることが分かる。それ以外の試料(No.203、207、209~217)のカーボンナノチューブアレイは、紡績は可能であったが得られた糸は1 m未満であった。
【0072】
[実施例3]
紡績性の再現性を確認するために、実施例1の試料No.101と同じ条件で試料No301~312のカーボンナノチューブアレイを作製した。これらのカーボンナノチューブアレイの配向方向の長さ及び紡績により得られた紡績糸の長さを評価した。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3の結果から、カーボンナノチューブアレイを12回作製したところ、37~57 m(平均46 m)の紡績糸が得られた。本発明の方法により、優れた紡績性を有するカーボンナノチューブアレイが非常に再現良く得られたことが分かる。
【0075】
[実施例4]
試料No.401(本発明例)
カーボンナノチューブの合成温度(第三工程における保持温度)を835℃に変更し、熱処理温度を870℃に変更した以外試料No.101と同様にしてカーボンナノチューブアレイを作製した。熱処理条件を表4に示す。
【0076】
試料No.402(本発明例)
アセチレンガスの供給を止めて合成を停止すると同時に窒素ガスを供給し、水素ガスと窒素ガスの混合ガス雰囲気下(全圧:800 Pa)で熱処理を行った以外試料No.401と同様にしてカーボンナノチューブアレイを作製した。水素ガスと窒素ガスの混合比は、346:346(水素モル分率:0.5)であった。熱処理条件を表4に示す。
【0077】
試料No.403(本発明例)
水素ガスと窒素ガスの混合比を、173:519(水素モル分率:0.25)とした以外試料No.402と同様にしてカーボンナノチューブアレイを作製した。熱処理条件を表4に示す。
【0078】
試料No.404(本発明例)
水素ガスと窒素ガスの混合比を、69:623(水素モル分率:0.1)とした以外試料No.402と同様にしてカーボンナノチューブアレイを作製した。熱処理条件を表4に示す。
【0079】
試料No.405(本発明例)
熱処理温度を900℃に変更し、水素ガスと窒素ガスの混合比を、69:623(水素モル分率:0.1)とした以外試料No.402と同様にしてカーボンナノチューブアレイを作製した。熱処理条件を表4に示す。
【0080】
試料No.406(比較例)
窒素ガス100%の雰囲気下(全圧:800 Pa)で熱処理を行った以外試料No.402と同様にしてカーボンナノチューブアレイを作製した。熱処理条件を表4に示す。
【0081】
試料No.407(本発明例)
熱処理温度及び時間をそれぞれ700℃及び30分に変更した以外試料No.401と同様にしてカーボンナノチューブアレイを作製した。熱処理条件を表4に示す。
【0082】
【表4】
注(1):XH2は水素モル分率、XN2は窒素モル分率である。
【0083】
以上のようにして得られた試料No.401~407のカーボンナノチューブアレイから実施例1と同様にして紡績糸を作製し、実施例1と同様にして紡績性を評価した。これらの評価結果を表4及び図13に示す。図13中に示した点線が式:T=-190×XH2+890を表す(XH2は水素モル分率)。点線よりも上の領域(式:T≧-190×XH2+890で表される領域)に含まれるように水素モル分率及び熱処理の保持温度を設定することによって良好な紡績性を有するカーボンナノチューブアレイが得られることがわかる。
【0084】
試料No.402、403、405及び407のカーボンナノチューブアレイのSEM写真をそれぞれ図24(a)、図25(a)、図27(a)及び図29(a)に示し、試料No.401~407の紡績性の評価結果をそれぞれ図23図24(b)、図25(b)、図26図27(b)、図28及び図29(b)に示す。これらの結果から明らかなように、試料No.401(水素モル分率:1)、試料No.402(水素モル分率:0.5)及び試料No.403(水素モル分率:0.25)のカーボンナノチューブアレイからは、複数の繊維が途切れなく均一に形成されており、紡績性は良好であった。熱処理温度が870℃及び水素モル分率を0.1とした試料No.404は複数の繊維がやや途切れる部分が生じたが、熱処理温度を900℃に上げた試料No.405は水素モル分率:0.1であっても良好な紡績性が得られた。一方、窒素100%の雰囲気下で熱処理した試料No.406(比較例)のカーボンナノチューブアレイはほとんど紡績ができなかった。
【0085】
[実施例5]
熱処理の温度及び時間を表5に示すように変更した以外実施例1と同様にしてカーボンナノチューブアレイを作製し、これらのカーボンナノチューブアレイから実施例1と同様にして紡績糸を作製し、実施例1と同様にして紡績性を評価した。結果を表5及び図14に示す。
【0086】
【表5】
注(1):熱処理の温度T(℃)を絶対温度で表した値の逆数。
【0087】
図14中の直線1は、式:t=18000×[1/(T+273)]-17で表される直線であり、直線2は、式:t=30000×[1/(T+273)]-28で表される直線であり、直線3は、式:t=230000×[1/(T+273)]-210で表される直線である。直線1よりも下の領域が紡績が不可能な領域であり、直線1よりも上の領域(式(1):t≧18000×[1/(T+273)]-17で表される領域)が紡績が可能なカーボンナノチューブアレイが得られる領域であり、直線2よりも上の領域(式(2):t≧30000×[1/(T+273)]-28で表される領域)が紡績性に優れたカーボンナノチューブアレイが得られる領域であり、直線3よりも上の領域(式(3):t≧230000×[1/(T+273)]-210で表される領域)がさらに紡績性に優れたカーボンナノチューブアレイが得られる領域である。
【0088】
[実施例6]
熱処理の温度及び時間を表6-1及び表6-2に示すように変更した以外実施例1と同様にしてカーボンナノチューブアレイを作製し、カーボンナノチューブの平均長さと嵩密度とを測定した。さらにこれらのカーボンナノチューブアレイから実施例1と同様にして紡績糸を作製し、
(a)40 m以上の紡績糸が得られたものを黒丸(●)、
(b)35 m以上40 m未満の紡績糸が得られたものを白丸(○)、
(c)30 m以上35 m未満の紡績糸が得られたものを黒四角(■)、
(d)1 m未満の紡績糸が得られたものを三角(△)、及び
(e)紡績できなかったものをバツ(×)の5段階で紡績性を評価した。結果を表6-1及び表6-2及び図3に示した。
【0089】
【表6-1】
【0090】
【表6-2】
【0091】
図3から明らかなように、基板上のカーボンナノチューブの長さが80~350μm、及び嵩密度が100~200 mg/cm3であるカーボンナノチューブアレイは良好な紡績性を示した。
【符号の説明】
【0092】
1・・・基板
1a・・・基板片
1b・・・基板片
2・・・金属膜
2a・・・金属微粒子
3・・・カーボンナノチューブ
31・・・複数の繊維
32・・・紡績糸
4・・・カーボンナノチューブアレイ
5・・・ボビン
図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図5(a)】
図5(b)】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12(a)】
図12(b)】
図12(c)】
図13
図14
図15
図16(a)】
図16(b)】
図17(a)】
図17(b)】
図18(a)】
図18(b)】
図19(a)】
図19(b)】
図20(a)】
図20(b)】
図21(a)】
図21(b)】
図22(a)】
図22(b)】
図23
図24(a)】
図24(b)】
図25(a)】
図25(b)】
図26
図27(a)】
図27(b)】
図28
図29(a)】
図29(b)】