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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】電動流量調節弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20221129BHJP
   F16K 7/14 20060101ALN20221129BHJP
【FI】
F16K31/04 A
F16K7/14 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018229816
(22)【出願日】2018-12-07
(65)【公開番号】P2020091015
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000101514
【氏名又は名称】アドバンス電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】笹尾 起美仁
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/064865(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3165083(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/00-31/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング後部に配置された電動式駆動機構の直動軸によってハウジング前部の弁室内にダイヤフラムと一体に配置された弁体を弁座に対して進退して弁座との開度を調節する流量調節弁において、
前記弁体は前記弁室後部に設けられた保持チャンバーに周方向に回転不能に同軸的に嵌挿された弁体保持軸部に連結保持されており、
前記弁体保持軸部はその後部に前記直動軸の先端係合部が空間を介して係合する係合空間部を有し、かつ保持軸部側ばね受け部と駆動機構側ばね受け部との間に当該弁体保持軸部を常時弁室側に付勢するばね部材が介装されていて、
前記弁体の後退時又は停止時には、前記直動軸の先端係合部が前記弁体保持軸部の係合空間部の係止部に係着して前記ばね部材の付勢力に抗して前記弁体保持軸部を後退又は停止させて、前記弁体を前記弁座から離隔させ、
前記弁体の前進時には、前記直動軸の先端係合部が前記弁体保持軸部の係合空間部内に位置して前記ばね部材の付勢力とともに前記弁体保持軸部を前進させて、前記弁体を前記弁座に近接させるとともに、
前記ばね部材の付勢力によって前記弁体が前記弁座を閉鎖した時には、前記弁体保持軸部の係合空間部の空間には前記直動軸の先端係合部の弁室側に間隙部を有するように構成されている
ことを特徴とする電動流量調節弁。
【請求項2】
前記ハウジングの外壁部に放熱溝部が形成されている請求項1に記載の電動流量調節弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動流量調節弁に関し、特には直動型ステッピングモータによって作動される流量調節弁に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体の製造設備等で使用される流量調節弁として電動式の直動型ステッピングモータによって作動されるニードル弁が知られている(特許文献1参照)。電動式は駆動源として電気を用い電気制御による操作であることから、装置の維持管理の自由度が大きく、遠隔操作やプロセス(処理対象)によって流量変化などが簡単容易に行うことができるメリットがある。
【0003】
図9,10に示す電動式ニードル弁100は、ハウジング111後部に配置された直動型ステッピングモータ170の直動軸160によって、ハウジング111前部の弁室120内にダイヤフラム145と一体に配置された弁体140のニードル部141を弁座125に対して近接離隔して弁座125との開度を調節する流量調節弁である。符号121は被制御流体の流入部、122はその流出部、146はダイヤフラム145を固定するためのダイヤフラム固定部材、147は通気孔である。
【0004】
弁室120後部には保持チャンバー130が設けられていて、ここに弁体140と連結された軸体部150が、スプライン嵌合構造によって周方向に回転不能に同軸的に進退自在に嵌装されている。この軸体部150はその後部で前記直動型ステッピングモータ170の直動軸160と連結されているとともに、軸体部150はばね部材152によって常時後方(弁室120と反対方向)に付勢されている。したがって、ステッピングモータ170の直動軸160の前進時には、モータの駆動力によってばね部材152の付勢力に抗して軸体部150が前進し、軸体部150に連結された弁体140を弁座125方向に近接させる。ステッピングモータ170の直動軸160の後退時には、ばね部材152の付勢力によって軸体部150が後退し弁体140は後退して弁座125から離隔する。
【0005】
各図において、符号115はハウジングの外壁部112に形成された放熱溝部、135はダイヤフラムを透過した腐食性ガスにより金属製のモータや軸部材が腐食しないように必要によりパージされる気体流入ポートであり、136は同じくその気体流出ポートである。151はばね部材152のための軸体部側ばね受け部、153はダイヤフラム固定部材側のばね受け部である。また、ステッピングモータ170に関して、171はロータ、172は直動軸160を進退させるシャフト、173はステッピングモータ170の配線部である。
【0006】
上記従来の流量調節弁100では、ステッピングモータ170の駆動によって軸体部150を前進させ弁体140を弁座125方向に近接して弁の開度を調節するのであるが、ばね部材が介装されているので、全閉の場合にはモータ内のロータネジ部に上方向の荷重がかかり摩擦力が増大する。閉鎖時に強く閉まりすぎて弁座を過剰に圧迫すると、これにより、流量調節弁の耐久性やパーティクルの発生等の問題を生ずるおそれがある。
【0007】
また、閉の状態で軸体部や弁体が熱膨張した場合にも上方向の荷重がかかり摩擦力が増大する。そして、次の動作で弁を開方向に動かす駆動信号(電流)をモータ170に供給しても動かない場合がある。いわゆる、ステッピングモータが荷重に負けて動かない「脱調」である。
【0008】
さらに、従来の電動流量調節弁では弁閉する力はモータの力であり、弁座の全閉シール力を維持するためにはモータの励磁を維持する必要があるが、これには消費電流の問題だけではなく、モータが発熱し条件が悪い場合にはダイヤフラムまで伝熱して、被制御流体の温度まで上昇させてしまうという問題を惹起するおそれがある。半導体製造に使用される流体にあっては、その化学反応は流体の流量と時間、温度によって変化するため、モータの発熱はプロセスに悪影響を与える懸念が大きい。
【0009】
上のような状況から、従来の電動流量調節弁では、弁座の全閉を避けて、原点センサーとステッピングモータへの駆動パルスのカウントにより軸体部の位置を把握して、弁座の全閉の手前で「寸止め」をして使用しているのが現状である。しかしながら、このような寸止めでは、微小流量の制御や流量ゼロからの立ち上げができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】実登3165083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、電動流量調節弁の弁体の閉鎖時におけるモータへの摩擦力の増大を防止して、脱調を防ぎ、消費電流の問題だけではなく、モータの発熱に伴うプロセスへの悪影響を回避し、さらに弁座の全閉の手前で「寸止め」する必要がなく、微小流量の制御や流量ゼロからの立ち上げなどのランプ制御が可能となる新規な電動流量調節弁の構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、請求項1の発明は、ハウジング後部に配置された電動式駆動機構の直動軸によってハウジング前部の弁室内にダイヤフラムと一体に配置された弁体を弁座に対して進退して弁座との開度を調節する流量調節弁において、前記弁体は前記弁室後部に設けられた保持チャンバーに周方向に回転不能に同軸的に嵌挿された弁体保持軸部に連結保持されており、前記弁体保持軸部はその後部に前記直動軸の先端係合部が空間を介して係合する係合空間部を有し、かつ保持軸部側ばね受け部と駆動機構側ばね受け部との間に当該弁体保持軸部を常時弁室側に付勢するばね部材が介装されていて、前記弁体の後退時又は停止時には、前記直動軸の先端係合部が前記弁体保持軸部の係合空間部の係止部に係着して前記ばね部材の付勢力に抗して前記弁体保持軸部を後退又は停止させて、前記弁体を前記弁座から離隔させ、前記弁体の前進時には、前記直動軸の先端係合部が前記弁体保持軸部の係合空間部内に位置して前記ばね部材の付勢力とともに前記弁体保持軸部を前進させて、前記弁体を前記弁座に近接させるとともに、前記ばね部材の付勢力によって前記弁体が前記弁座を閉鎖した時には、前記弁体保持軸部の係合空間部の空間には前記直動軸の先端係合部の弁室側に間隙部を有するように構成されていることを特徴とする電動流量調節弁に係る。
【0013】
また、請求項2の発明は、請求項1において、前記ハウジングの外壁部に放熱溝部が形成されている電動流量調節弁に係る。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明に係る電動流量調節弁によると、ハウジング後部に配置された電動式駆動機構の直動軸によってハウジング前部の弁室内にダイヤフラムと一体に配置された弁体を弁座に対して進退して弁座との開度を調節する流量調節弁において、前記弁体は前記弁室後部に設けられた保持チャンバーに周方向に回転不能に同軸的に嵌挿された弁体保持軸部に連結保持されており、前記弁体保持軸部はその後部に前記直動軸の先端係合部が空間を介して係合する係合空間部を有し、かつ保持軸部側ばね受け部と駆動機構側ばね受け部との間に当該弁体保持軸部を常時弁室側に付勢するばね部材が介装されていて、前記弁体の後退時又は停止時には、前記直動軸の先端係合部が前記弁体保持軸部の係合空間部の係止部に係着して前記ばね部材の付勢力に抗して前記弁体保持軸部を後退又は停止させて、前記弁体を前記弁座から離隔させ、前記弁体の前進時には、前記直動軸の先端係合部が前記弁体保持軸部の係合空間部内に位置して前記ばね部材の付勢力とともに前記弁体保持軸部を前進させて、前記弁体を前記弁座に近接させるとともに、前記ばね部材の付勢力によって前記弁体が前記弁座を閉鎖した時には、前記弁体保持軸部の係合空間部の空間には前記直動軸の先端係合部の弁室側に間隙部を有するように構成されていることより、弁体を弁座に対して全閉する力ないし弁座の全閉シール力を維持するためにモータの励磁を維持する必要がなく、弁座を過剰に圧迫することがなく、またこれに伴う問題、すなわち、消費電流の問題のみならずモータの発熱による被制御流体の温度上昇に関連する種々の問題を一挙に解消することができる。さらに、従来のように弁座の全閉の手前で「寸止め」する必要がなくなり、微小流量の制御や流量ゼロからの立ち上げなどのランプ制御が可能となる。
【0015】
また、請求項2の発明に係る電動流量調節弁によると、前記ハウジング外壁部に放熱溝部が形成されていることより、簡単な構成によりハウジング内に生ずる熱の放熱が効果的に可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る電動流量調節弁の開弁時の縦断面図である。
図2図1の電動流量調節弁の閉弁時の縦断面図である。
図3図1のA-A断面図である。
図4図1に示す開弁時の要部の拡大断面図である。
図5図2に示す閉弁時の要部の拡大断面図である。
図6】弁体の移動中の状態を表す要部の拡大断面図である。
図7】電動流量調節弁を利用した回路の概略図ある。
図8】電動流量調節弁を利用した回路の流量制御のグラフである。
図9】従来の電動流量調節弁の開弁時の縦断面図である。
図10図9の電動流量調節弁の閉弁時の縦断面図である。
図11】従来の電動流量調節弁の「寸止め」の制御例を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1,2に示す本発明の一実施形態に係る電動流量調節弁10は、主に半導体製造工場や半導体製造装置等の流体管路に配設されるニードル弁であって、ハウジング11後部に配置された直動型ステッピングモータ70の直動軸60によって、ハウジング11前部の弁室20内にダイヤフラム45と一体に配置された弁体40のニードル部41が弁座25に対して進退して弁座25に近接離隔してその開度を調節するものである。符号21は被制御流体の流入部、22はその流出部、46はダイヤフラム45を固定するためのダイヤフラム固定部材、47は通気孔である。
【0018】
弁室20後部には保持チャンバー30が設けられていて、ここに前記弁体40と連結された弁体保持軸部50が、図3に示すような公知のスプライン嵌合構造によって周方向に回転不能に同軸的に進退自在に嵌装されている。弁体保持軸部50はその後部に前記直動軸60の先端係合部61が空間54を介して係合する係合空間部55を有している。そして、弁体保持軸部50の保持軸部側ばね受け部(可動側)51と駆動機構側ばね受け部(固定側)53との間に当該弁体保持軸部50を常時弁室20側に付勢するばね部材52が介装されている。符号57は係合空間部55の通気孔である。
【0019】
次に、本発明の流量調節弁10の作動について説明する。流量調節弁10は、図1,4に示す弁体40の後退時又は停止時、つまり弁座25の開放(開弁)時には、ステッピングモータ70の直動軸60の先端係合部61が弁体保持軸部50の係合空間部55の係止部56に係着してばね部材52の付勢力に抗して弁体保持軸部50を後退又は停止させて、当該弁体40を弁座25から離隔させている。開放状態で直動軸60が停止されると、弁体保持軸部50はその後退位置でばね部材52の付勢力に抗して停止状態を保持する。なお、係合空間部55の係止部56は、弁体保持軸部50に螺合または接着で接合されている。
【0020】
これに対して、弁座25の開放状態から弁座25を閉鎖する場合は図6に示すように、ステッピングモータ70の直動軸60が前進される。図2,5に示す弁座25の閉鎖(閉弁)時には、図示のように、ばね部材52の付勢力を妨げることなくばね部材52の付勢力とともに直動軸60が弁体保持軸部50とともに前進し、ばね部材52の付勢力によって弁体40が弁座25を閉鎖する。この前進時においては、直動軸60の先端係合部61と弁体保持軸部50の係合空間部55の係止部56との係着状態が維持される。そのため、弁体保持軸部50は、直動軸60の移動量を超えて移動することがなく、直動軸60の作動に応じて移動量が制御される。
【0021】
このようにして弁体保持軸部50を前進させることにより、図2,5に示すように、弁体40が弁座25に当接されて、弁座25を閉鎖(閉弁)する。そして、ばね部材52の付勢力によって弁体40が弁座25を閉鎖した時には、弁体保持軸部50の係合空間部55には直動軸60の先端係合部61の弁室20側に間隙部Sを有するように構成される。つまり、直動軸60の先端係合部61は係合空間部55の空間54の弁室20側に間隙部Sを有するので、ばね部材52の付勢力によって弁体40が弁座25を閉鎖した後は、自由(フリー)状態となっており、必要により、直動軸60の先端係合部61はこの係合空間部55の間隙部Sをさらに前進移動できるように構成されているのである。
【0022】
図からも理解されるように、ばね部材52の付勢力によって弁体40が移動され、弁体40が弁座25に当接して弁座25が閉鎖(閉弁)後に、直動軸60の先端係合部61が作動手段であるステッピングモータ70により係合空間部55の間隙部Sを有し該間隙部Sを自由(フリー)移動できるということは、弁体40の閉鎖時における弁座25との衝突や過大な摩擦等が回避ないし緩和されることを意味し、これらの衝突や摩擦等に伴う問題の発生を一挙に解決することができるのである。
【0023】
また、この流量調節弁10では、閉弁後の開弁に際しては、直動軸60の先端係合部61は、係合空間部55の空間54の弁室20側に間隙部Sに自由(フリー)状態となって位置しており、換言すれば、従来のように弁体40を弁座25に対して全閉する力ないし弁座の全閉シール力を維持するためのモータの励磁を維持する必要がないので、したがって、これに伴う問題、すなわち、消費電流の問題のみならずモータの発熱による被制御流体の温度上昇に関連する種々の問題を一挙に解消することができる。もちろん、従来のように弁座の全閉の手前で「寸止め」する必要がない。さらに、開弁方向の移動、つまり直動軸の後退移動は、負荷の無い自由(フリー)状態からスタートできるので、微小な流量の開弁制御や流量ゼロからの立ち上げなどのランプ制御が可能となる。
【0024】
図7は電動流量調節弁10を利用した回路の概略図であり、図8にその流量制御のグラフを示す。なお、この例では、電動流量調節弁10の下流側に開閉弁90が配置されており、図8に示すように、開閉弁90を開放したまま電動流量調節弁10の開閉により流体の停止を含む流量制御が可能となる。ここでは、開閉弁90は、緊急時の遮断や当該回路の停止時等に閉弁される。ちなみに、図11は先述した従来の電動流量調節弁の「寸止め」の制御例を示したグラフであるが、従来の調節弁では寸止めした後に開閉弁によってその閉弁ないし開弁がなされる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の流量調節弁によれば、上に述べたように、弁体の閉鎖時における弁座との衝突等が回避ないし緩和されこれに伴う問題の発生を抑制することができる。のみならず、電動式流量調節弁の弁体の閉鎖時におけるモータへの摩擦力の増大を防止して、脱調を防ぎ、消費電流の問題だけではなく、モータの発熱に伴うプロセスへの悪影響を回避し、さらに弁座の全閉の手前で「寸止め」する必要がなく、微小流量の制御や流量ゼロからの立ち上げなどのランプ制御が可能となるなど、電動流量調節弁の有用性を限りなく拡大するものである。
【符号の説明】
【0026】
10 電動流量調節弁(ニードル弁)
11 ハウジング
12 ハウジング外壁部
15 放熱溝部
20 弁室
21 流入部
22 流出部
25 弁座
30 保持チャンバー
40 弁体
41 ニードル部
45 ダイヤフラム
46 ダイヤフラム固定部材
50 弁体保持軸部
51 保持軸部側ばね受け部
52 ばね部材
53 駆動機構側ばね受け部
54 空間
55 係合空間部
56 係止部
60 直動軸
61 先端係合部
70 電動式駆動機構(ステッピングモータ)
90 開閉弁
S 間隙部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11