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特許7184336クロストリジウム・ディフィシル感染症に対する酵母ベースの免疫療法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】クロストリジウム・ディフィシル感染症に対する酵母ベースの免疫療法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20221129BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20221129BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20221129BHJP
   C12N 15/81 20060101ALI20221129BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20221129BHJP
   A61K 36/064 20060101ALI20221129BHJP
   A61K 39/08 20060101ALI20221129BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20221129BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C12N1/19
C12N15/31 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/81 100Z
C12P21/02 C
A61K36/064
A61K39/08
A61P31/04
A61P1/12
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2018519059
(86)(22)【出願日】2016-10-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-13
(86)【国際出願番号】 US2016056875
(87)【国際公開番号】W WO2017066468
(87)【国際公開日】2017-04-20
【審査請求日】2019-10-11
(31)【優先権主張番号】62/240,810
(32)【優先日】2015-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511298990
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ メリーランド,ボルチモア
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フォン ハンピン
(72)【発明者】
【氏名】ガレン ジェームズ ユージーン
(72)【発明者】
【氏名】チェン ケビン
(72)【発明者】
【氏名】ヂュー イーシュアン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0272698(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0294826(US,A1)
【文献】J. Infect. Dis.,2014年,Vol. 210,p. 964-972
【文献】Biotechnol. Bioeng.,2014年,Vol. 111, No. 9,p. 1740-1747
【文献】PLOS ONE,2014年,Vol. 9, e112660,p. 1-12
【文献】Avicenna J. Med. Biotech.,2013年,Vol. 5,p. 29-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12N 1/00 - 1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの染色体部位に組込まれた、四重特異性の四量体型結合剤を産生する遺伝子を含む、操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株であって、前記結合剤は、連結された第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体、及び第四のVHペプチド単量体を含み、かつそれらのVHペプチド単量体は、それぞれ独立して、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA(TcdA)又はトキシンB(TcdB)のエピトープに対して結合特異性を有し、前記結合剤は配列番号109のアミノ酸配列又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、操作された酵母菌株。
【請求項2】
前記第一のVHペプチド単量体、前記第二のVHペプチド単量体、前記第三のVHペプチド単量体、及び前記第四のVHペプチド単量体は、それぞれ異なるエピトープに対する結合特異性を有する、或いは前記VHペプチド単量体のうち2つは、TcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつ前記VHペプチド単量体のうち2つは、TcdBのエピトープに対する結合特異性を有する、請求項1に記載の操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株。
【請求項3】
前記VHペプチド単量体は、独立して、TcdA又はTcdBのグリコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、移行ドメイン又は受容体結合ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する、請求項1又は2に記載の操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株。
【請求項4】
記第一の単量体及び前記第三の単量体は、TcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつ前記第一の単量体及び前記第三の単量体は、それぞれVHペプチド単量体AH3(配列番号7)及びAA6(配列番号5)であり、かつ前記第二の単量体及び前記第四の単量体は、TcdBのエピトープに対する結合特異性を有し、かつ前記第二の単量体及び前記第四の単量体は、それぞれVHペプチド単量体5D(配列番号1)及びE3(配列番号3)である、請求項1に記載の操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株。
【請求項5】
記結合剤は、AT分泌シグナル(MRFPSIFTAVLFAASSALA(配列番号99))及びIVS分泌シグナル(MLLQAFLFLLAGFAAKISA(配列番号103))から選択されるN末端分泌シグナルを更に含む、請求項に記載の操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株。
【請求項6】
前記結合剤は、配列番号109に示されるアミノ酸配列を、請求項に記載の操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株と、医薬品に許容可能な担体又は希釈剤とを含む医薬製剤。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株の製造方法であって、(a)サッカロマイセスボウラルディ酵母菌株を、前記結合剤をコードする発現ベクターで形質転換させることと、(b)(a)の酵母を該結合剤の産生についてスクリーニングすることとを含む、方法。
【請求項9】
請求項に記載の操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株の製造方法であって、(a)前記結合剤をコードするポリヌクレオチド配列を、サッカロマイセスボウラルディ酵母菌株のゲノム中に染色体組込みすることと、(b)(a)の酵母を該結合剤の産生についてスクリーニングすることとを含む、方法。
【請求項10】
前記発現ベクターは、プラスミドpCEV-URA3-TEF-AT-yABAB-cMyc(配列番号88)である、請求項に記載の方法。
【請求項11】
染色体組込みは、
(a)前記ABAB結合剤をコードするポリヌクレオチド配列を、プラスミドpCEV-G4-Km-TEF-AT-yABAB hAA6T83N-タグなし(配列番号90)から、(i)選択された酵母染色体組込み部位に相同な核酸配列、並びに(ii)該プラスミドのABAB結合剤をコードする配列の5’領域及び3’領域に相同な核酸配列を含むプライマーを使用して増幅させて、組込みカセットを作製することと、
(b)酵母を(a)で作製された組込みカセットと一緒にpCRI-Sb-δ1(配列番号91)又はpCRI-Sb-δ2(配列番号92)で形質転換させることで、相応の酵母染色体のδ部位内で、二本鎖切断の部位中への組込みカセットの自発的組込みを促進する条件下で二本鎖切断を誘導することと、
(c)(b)の形質転換された酵母を、ABAB結合剤の産生についてスクリーニングすることと、
により行われる、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記スクリーニングは、イムノアッセイを使用して実施される、請求項11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
少なくとも2つの染色体部位に組込まれた、VHペプチド結合剤を産生する遺伝子を含む、操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株であって、前記VHペプチド結合剤が連結された第一のV Hペプチド単量体、第二のV Hペプチド単量体、第三のV Hペプチド単量体、及び第四のV Hペプチド単量体を含み、各々のVHペプチド単量体は、独立して、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA(TcdA)又はトキシンB(TcdB)のエピトープに対して結合特異性を有し、前記第一のV Hペプチド単量体は配列番号7のアミノ酸配列を含み、前記第二のV Hペプチド単量体は配列番号1のアミノ酸配列を含み、前記第三のV Hペプチド単量体は配列番号5のアミノ酸配列を含み、前記第四のV Hペプチド単量体は配列番号3のアミノ酸配列を含む、操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株。
【請求項14】
前記VHペプチド単量体は、リンカー-1(配列番号9)、リンカー-2(配列番号11)及びリンカー-3(配列番号13)から独立して選択されるリンカーを使用して連結される、請求項13に記載の操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株。
【請求項15】
被験体におけるC.ディフィシルによって誘発された疾患症状を治療又は予防するための組成物であって、治療的有効量の請求項1~及び1314のいずれかに記載の操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株を含有し、且つ前記被験体がC.ディフィシル感染症又はC.ディフィシル感染症の発症のリスクを伴う、組成物。
【請求項16】
C.ディフィシルに感染した被験体におけるC.ディフィシルのトキシンTcdA及び/又はTcdBを中和するための組成物であって、治療的有効量の請求項1~及び1314のいずれかに記載の操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株を含有し、且つ前記被験体がC.ディフィシル感染症を伴う、組成物。
【請求項17】
被験体におけるC.ディフィシル感染症を治療又は予防するための組成物であって、治療的有効量の請求項1~及び1314のいずれかに記載の操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株を含有し、且つ前記被験体がC.ディフィシル感染症又はC.ディフィシル感染症の発症のリスクを伴う、組成物。
【請求項18】
C.ディフィシル感染症を伴う被験体における正常な腸機能を維持するための組成物であって、治療的有効量の請求項1~及び1314のいずれかに記載の操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株を含有し、且つ前記被験体がC.ディフィシル感染症又はC.ディフィシル感染症の発症のリスクを伴う、組成物。
【請求項19】
前記操作された酵母菌株と、医薬品に許容可能な担体又は希釈剤とを含む医薬製剤である、請求項1518のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記中和は、部分的又は完全な中和である、請求項16に記載の組成物。
【請求項21】
治療的有効量の抗生物質と併用投与される、請求項17に記載の組成物。
【請求項22】
前記治療的有効量の操作された酵母菌株は、被験体の体重1kg当たり10μgから100mgの間の該操作された酵母菌株である、請求項1518のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
前記操作されたサッカロマイセスボウラルディ酵母菌株は、被験体へと経口で、鼻内で、又は直腸内で投与される、請求項1518のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
C.ディフィシルにより誘発された疾患症状は、下痢である、請求項15に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載]
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与された助成金番号DK084509及びAI109776による政府の支援を受けてなされたものである。合衆国政府は本発明における一定の権利を有し得る。
【0002】
[配列表]
電子形式(ASCIIテキストファイル)の配列表は、本出願と同時に提出され、引用することにより本明細書の一部をなす。ASCIIテキストファイルのファイル名は、「2016_1343A_ST25.txt」であり、そのファイルは、2016年10月13日に作成されたものであり、ファイルサイズは407KBである。
【背景技術】
【0003】
細菌のクロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)は、院内抗生物質関連下痢症の最も一般的な原因であるだけでなく、偽膜性腸炎の病原体である[1]。アメリカ合衆国では、年間500000件を超えるC.ディフィシル関連疾患(CDI)が発生していると見積もられており、その年間死亡率は、菌株に依存して約3%~17%の範囲である。強毒性で抗生物質耐性の菌株の出現により、CDI患者における死亡発生率は、急速に高まっている[2]。
【0004】
CDIは、主に2種類のC.ディフィシルのエキソトキシンTcdA及びTcdBによって引き起こされる(したがって、TcdA陰性TcdB陰性菌株は、非病原性である)[21、22]。これらの2種類のトキシンは、構造的に類似していて、宿主細胞に類似の作用機序を示す。それらのトキシンは両方とも宿主のRho GTPアーゼを標的とし、それらの不活性化に続いて細胞骨格崩壊をもたらす。CDIの発病における2種類のトキシンの相対的な役割はよく理解されていないが、どちらのトキシンも個別に動物においてCDIを引き起こし得ることは明らかである[22、23]。
【0005】
CDI患者の治療のための選択肢は限られており、再発率は高い(患者の20%~35%)。抗生物質を使用するCDIのための最近の標準的な処置は、マイクロフローラの破壊を引き起こし、35%に迫る再燃率をもたらす[3、13]。その他の介入(例えば、プロバイオティクス、トキシン吸収性ポリマー及びトキソイドワクチン)が試みられたが、予防戦略も治療戦略も、この感染症の発生率及び重症度の増加に追いついていない。再発患者におけるCDIの更なる症状の発現(episodes:エピソード)のリスクは、50%を上回ることがあり[14]、それらの患者の一部は、何度も再発を繰り返すこととなる。再発性CDIは、同じ菌株又は新たに定着する菌株によって引き起こされることがある[15~18]。
【0006】
より新しい免疫ベースの療法は、臨床試験にて或る程度効果があることが裏付けられており、それには、重症CDIに対する免疫グロブリン静注(IVIG)[4~8]及び再発性CDIに対するヒトモノクローナル抗体が含まれる[9]。スペクトルが狭い大環状抗生物質であるフィダキソマイシンは、CDIに対する経口バンコマイシンと類似した効果を示したが、再燃率の低下についてはかなり良くなっている[10]。糞便移植は、難治性CDI及び再発性CDIに対して有効であるが、標準化することが困難であるとともに、危険を伴うものである[11、12]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CDIは、治療することが困難な苛立たしい状態であり、何ヶ月にもわたって、それどころか何年にもわたって患者を冒すため、甚大な罹患率及び死亡率が引き起こされることがある[19]。したがって、CDIの新たな治療並びにCDIを発症するリスクのある被験体における原発性CDI及び再発性CDIの両方を予防する手段が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書では、C.ディフィシルの病原性因子であるTcdA及びTcdBに選択的に結合する抗体ベースの融合タンパク質型の結合剤、並びにこれらのC.ディフィシルのトキシンへの結合剤を発現及び分泌するように遺伝子操作された共生酵母のサッカロマイセス属菌株が提供される。上記酵母及び結合剤の両方とも、被験体における原発性CDI及び再発性CDIの治療及び予防において有用性を示す。宿主腸内に上記結合剤を分泌するサッカロマイセス属菌を経口投与することで、進行中のCDIを緩和することができ、再発を抑えることができる。
【0009】
したがって、本発明は、幾つかある重要な特徴の中でも特に、C.ディフィシルのトキシンへの結合剤、該結合剤を産生するように操作されたサッカロマイセス属菌株(限定されるものではないが、サッカロマイセス・ボウラルディ(Saccharomyces boulardii)を含む)、操作された酵母菌株の作製方法、並びに上記結合剤及び操作された酵母菌株を使用する原発性CDI及び再発性CDIの治療方法及び予防方法に関する。
【0010】
結合剤
本発明の結合剤には、単純なVHペプチド単量体及び連結されたVHペプチド単量体の群(2つ、3つ、4つ又はそれより多くの単量体を含む)、並びに抗体のFcドメインに結合されたVHペプチド単量体を含むより複雑な結合剤、並びに部分IgG抗体又は完全IgG抗体に結合されたVHペプチド単量体が含まれる。
【0011】
第一の実施の形態においては、本発明は、2つ、3つ、4つ又はそれより多くの単量体を含む、VHペプチド単量体を含む結合剤及び連結されたVHペプチド単量体の群を含む結合剤であって、該単量体の各々がTcdA及び/又はTcdBに、好ましくは特異的に結合する、結合剤に関する。このように、本発明は、少なくとも1つのVHペプチド単量体を含むVHペプチド結合剤であって、各々のVHペプチド単量体が、C.ディフィシルのトキシンA(TcdA)又はトキシンB(TcdB)のエピトープに対して結合特異性を有する、結合剤を包含する。或る特定の態様において、これらの結合剤は、2つ、3つ、4つ又はそれより多くの連結されたVHペプチド単量体を含む。VHペプチド単量体には、限定されるものではないが、VHペプチド単量体5D(配列番号1)、E3(配列番号3)、AA6(配列番号5)及びAH3(配列番号7)が含まれる。
【0012】
2つ以上の単量体が連結されているこの実施の形態の態様においては、それらの単量体は、一般的に10個から20個の間のアミノ酸を含むフレキシブルなペプチドリンカーによって連結され得る。適切なリンカーには、限定されるものではないが、リンカー-1(配列番号9)、リンカー-2(配列番号11)及びリンカー-3(配列番号13)が含まれる。
【0013】
この実施の形態の或る特定の態様においては、結合剤は、TcdA及び/又はTcdBに特異的に結合する。この実施の形態の或る特定の態様においては、結合剤は、TcdA中和活性及び/又はTcdB中和活性を示す。
【0014】
この実施の形態の具体的な態様においては、結合剤は、連結された4つのVHペプチド単量体を含み、該単量体のうち2つはTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつ該単量体のうち2つはTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。TcdAのエピトープは、同一又は異なってもよい。TcdBのエピトープは、同一又は異なってもよい。
【0015】
この実施の形態の具体的な態様においては、結合剤は、配列番号19に示されるアミノ酸配列又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体(sequence variant:配列多様体)であって、TcdA結合特異性及び/又はTcdB結合特異性を維持しているか、若しくはトキシン中和活性を維持しているか、若しくはその両方を維持している、配列変異体を含む。幾つかの場合に、配列変異体の変異アミノ酸は、VHペプチド単量体の骨格領域に位置している。
【0016】
第二の実施の形態においては、本発明は、IgG抗体に結合されたVHペプチド単量体を含む結合剤であって、TcdA及び/又はTcdBに結合する、結合剤に関する。これらのIgGベースの結合剤においては、IgG抗体の軽鎖及び重鎖の可変領域が、1つ、2つ、3つ、4つ又はそれより多くのVHペプチド単量体によって置き換えられている。
【0017】
この実施の形態の或る特定の態様においては、これらの結合剤は、IgGの軽鎖及び重鎖のアミノ末端に可変領域の代わりに結合された2つ、3つ、4つ又はそれより多くの連結されたVHペプチド単量体を含む。VHペプチド単量体には、限定されるものではないが、VHペプチド単量体5D(配列番号1)、E3(配列番号3)、AA6(配列番号5)及びAH3(配列番号7)が含まれる。
【0018】
2つ以上の単量体が連結されているこの実施の形態の態様においては、それらの単量体は、一般的に10個から20個の間のアミノ酸を含むフレキシブルなペプチドリンカーによって連結され得る。適切なリンカーには、限定されるものではないが、リンカー-1(配列番号9)、リンカー-2(配列番号11)及びリンカー-3(配列番号13)が含まれる。
【0019】
第一の下位実施の形態においては、本発明は、IgG抗体と、2組の連結された第一のVHペプチド単量体及び第二のVHペプチド単量体と、2組の連結された第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体とを含む四重特異性の八量体型結合剤であって、上記IgG抗体は2つのアームを含み、各アームは、可変領域を欠いた重鎖及び可変領域を欠いた軽鎖を含み、かつ各鎖は、アミノ末端を有しており、該抗体の各アームにつき、1組の連結された第一のVHペプチド単量体及び第二のVHペプチド単量体が、該軽鎖のアミノ末端に結合されており、かつ1組の連結された第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体が、該重鎖のアミノ末端に結合されており、かつそれらのVHペプチド単量体が、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA(TcdA)又はトキシンB(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する、結合剤に関する。この結合剤は、4種の異なるトキシンのエピトープを認識するため、「四重特異性」と呼ばれる。この結合剤は、8つのVHペプチド単量体(同じ第一の単量体を2つ、同じ第二の単量体を2つ、同じ第三の単量体を2つ及び同じ第四の単量体を2つ)を有するため、「八量体型」と呼ばれる。
【0020】
この下位実施の形態においては、第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体は、それぞれ異なるエピトープに対する結合特異性を有する。
【0021】
この下位実施の形態の或る特定の態様において、VHペプチド単量体のうち2つはTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつVHペプチド単量体のうち2つはTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0022】
この下位実施の形態の或る特定の態様において、VHペプチド単量体は、独立して、TcdA又はTcdBのグリコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、移行ドメイン又は受容体結合ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。
【0023】
この下位実施の形態の特定の態様において、結合剤の軽(κ)鎖は、配列番号46に示されるアミノ酸配列(AA6/E3κ)又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含み、かつ結合剤の重鎖は、配列番号44に示されるアミノ酸配列(AH3/5D重鎖)又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含む。この結合剤が、IgGベースの結合剤である場合には、示されたアミノ酸配列を有する2つの重鎖ポリペプチド及び2つの軽鎖ポリペプチドが、ジスルフィド結合を通じて集合されて、完全な結合剤が提供されることは、当業者に明らかであろう。配列変異体は、TcdA結合特異性及び/又はTcdB結合特異性を維持しているか、又は配列変異体は、トキシン中和活性を維持しているか、又はその両方を維持している。配列変異体の変異アミノ酸は、VHペプチド単量体の骨格領域に位置していてもよい。
【0024】
第二の下位実施の形態においては、本発明は、IgG抗体と、第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体とを含む二重特異性又は四重特異性の四量体型結合剤であって、上記IgG抗体は2つのアームを含み、各アームは、可変領域を欠いた重鎖及び可変領域を欠いた軽鎖を含み、かつ各鎖は、アミノ末端を有しており、該抗体の第一のアームにつき、第一のVHペプチド単量体は、該軽鎖のアミノ末端に結合されており、かつ第二のVHペプチド単量体は、該重鎖のアミノ末端に結合されており、該抗体の第二のアームにつき、第三のVHペプチド単量体は、該軽鎖のアミノ末端に結合されており、かつ第四のVHペプチド単量体は、該重鎖のアミノ末端に結合されており、かつそれらのVHペプチド単量体は、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA(TcdA)又はトキシンB(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する、結合剤に関する。結合剤が「四重特異性」である場合に、該結合剤は、4種の異なるトキシンのエピトープを認識し、「二重特異性」の場合には、該結合剤は、2種の異なるトキシンのエピトープを認識する。結合剤は、それらが4つのVHペプチド単量体を有する場合には「四量体型」である(二重特異性の場合に、第一の単量体及び第三の単量体は同じ配列を有し、同じエピトープに結合し、かつ第二の単量体及び第四の単量体は同じ配列を有し、同じエピトープに結合する;四重特異性の場合に、各々の単量体は異なる配列を有し、異なるエピトープに結合する)。
【0025】
結合剤が二重特異性である場合、第一の単量体及び第二の単量体は、異なるエピトープに対する結合特異性を有し、第一の単量体及び第三の単量体は、同一のアミノ酸配列を有し、かつ第二の単量体及び第四の単量体は、同一のアミノ酸配列を有する。VHペプチド単量体のうち1つはTcdAのエピトープに対する結合特異性を有することができ、かつVHペプチド単量体のうち1つはTcdBのエピトープに対する結合特異性を有することができる。
【0026】
結合剤が四重特異性である場合、VHペプチド単量体の各々は、異なるエピトープに対する結合特異性を有する。VHペプチド単量体のうち2つはTcdAのエピトープに対する結合特異性を有することができ、かつVHペプチド単量体のうち2つはTcdBのエピトープに対する結合特異性を有することができる。
【0027】
この下位実施の形態の或る特定の態様において、VHペプチド単量体の各々は、TcdAのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0028】
この下位実施の形態の或る特定の態様において、VHペプチド単量体の各々は、TcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0029】
この下位実施の形態の或る特定の態様において、VHペプチド単量体は、独立して、TcdA又はTcdBのグリコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、移行ドメイン又は受容体結合ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。
【0030】
この下位実施の形態の特定の態様において、結合剤の軽(κ)鎖は、配列番号40に示されるアミノ酸配列(AA6κ)又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含み、かつ結合剤の重鎖は、配列番号36に示されるアミノ酸配列(AH3重鎖)又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含む。この結合剤が、IgGベースの結合剤である場合には、示されたアミノ酸配列を有する2つの重鎖ポリペプチド及び2つの軽鎖ポリペプチドが、ジスルフィド結合を通じて集合されて、完全な結合剤が提供されることは、当業者に明らかであろう。配列変異体は、TcdA結合特異性及び/又はTcdB結合特異性を維持しているか、又は配列変異体は、トキシン中和活性を維持しているか、又はその両方を維持している。配列変異体の変異アミノ酸は、VHペプチド単量体の骨格領域に位置していてもよい。
【0031】
この下位実施の形態の別の特定の態様において、結合剤の軽(κ)鎖は、配列番号42に示されるアミノ酸配列(E3κ)又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含み、かつ結合剤の重鎖は、配列番号38に示されるアミノ酸配列(5D重鎖)又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含む。この結合剤が、IgGベースの結合剤である場合には、示されたアミノ酸配列を有する2つの重鎖ポリペプチド及び2つの軽鎖ポリペプチドが、ジスルフィド結合を通じて集合されて、完全な結合剤が提供されることは、当業者に明らかであろう。配列変異体は、TcdA結合特異性及び/又はTcdB結合特異性を維持しているか、又は配列変異体は、トキシン中和活性を維持しているか、又はその両方を維持している。配列変異体の変異アミノ酸は、VHペプチド単量体の骨格領域に位置していてもよい。
【0032】
この実施の形態及び下位実施の形態の或る特定の態様においては、結合剤は、TcdA及び/又はTcdBに特異的に結合する。この実施の形態の或る特定の態様においては、結合剤は、TcdA中和活性及び/又はTcdB中和活性を示す。
【0033】
第三の実施の形態においては、本発明は、抗体のFcドメインに結合されたVHペプチド単量体を含む結合剤であって、TcdA及び/又はTcdBに結合する、結合剤に関する。これらのFcドメインベースの結合剤においては、1つ、2つ、3つ、4つ又はそれより多くのVHペプチド単量体が、抗体重鎖のFcドメインの各アームのヒンジ領域、C2領域及びC3領域に結合されている。したがって、ペプチド単量体は、抗体のFab領域と置き換えられている。
【0034】
この実施の形態の或る特定の態様においては、これらの結合剤は、Fcドメインのアームのアミノ末端に結合された2つ、3つ、4つ又はそれより多くの連結されたVHペプチド単量体を含む。VHペプチド単量体には、限定されるものではないが、VHペプチド単量体5D(配列番号1)、E3(配列番号3)、AA6(配列番号5)及びAH3(配列番号7)が含まれる。
【0035】
2つ以上の単量体が連結されているこの実施の形態の態様においては、それらの単量体は、一般的に10個から20個の間のアミノ酸を含むフレキシブルなペプチドリンカーによって連結され得る。適切なリンカーには、限定されるものではないが、リンカー-1(配列番号9)、リンカー-2(配列番号11)及びリンカー-3(配列番号13)が含まれる。
【0036】
第一の下位実施の形態においては、本発明は、抗体のFcドメインと、2組の連結された第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体とを含む四重特異性の八量体型結合剤であって、上記抗体のFcドメインは2つのアームを含み、各アームは抗体重鎖のヒンジ領域、C2領域及びC3領域を含み、かつ各アームはアミノ末端を有しており、該Fcドメインの各アームにつき、1組の連結された第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体が、該アームのアミノ末端に結合されており、かつそれらのVHペプチド単量体が、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA(TcdA)又はトキシンB(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する、結合剤に関する。この結合剤は、4種の異なるトキシンのエピトープを認識するため、「四重特異性」と呼ばれる。この結合剤は、8つのVHペプチド単量体(同じ第一の単量体を2つ、同じ第二の単量体を2つ、同じ第三の単量体を2つ及び同じ第四の単量体を2つ)を有するため、「八量体型」と呼ばれる。
【0037】
この下位実施の形態の或る特定の態様において、第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体は、それぞれ異なるエピトープに対する結合特異性を有する。
【0038】
この下位実施の形態の或る特定の態様において、VHペプチド単量体のうち2つはTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつVHペプチド単量体のうち2つはTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0039】
この下位実施の形態の或る特定の態様において、VHペプチド単量体は、独立して、TcdA又はTcdBのグリコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、移行ドメイン又は受容体結合ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。
【0040】
この下位実施の形態の特定の態様において、結合剤は、配列番号22に示されるアミノ酸配列(ABAB-Fc)又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含み、ここで、該配列変異体は、TcdA結合特異性及び/又はTcdB結合特異性を維持しているか、又は該配列変異体は、トキシン中和活性を維持しているか、又はその両方を維持している。この結合剤が、Fcドメインベースの結合剤である場合に、示されたアミノ酸配列を有する2つの同一のポリペプチドが、該結合剤のアームとして機能すること、及び該アームが、ジスルフィド結合を通じて集合されて、完全な結合剤が得られることは、当業者には明らかであろう。配列変異体の変異アミノ酸は、VHペプチド単量体の骨格領域に位置していてもよい。
【0041】
第二の下位実施の形態においては、本発明は、抗体のFcドメインと、2組の連結された第一のVHペプチド単量体及び第二のVHペプチド単量体とを含む二重特異性の四量体型結合剤であって、上記抗体のFcドメインは2つのアームを含み、各アームは抗体重鎖のヒンジ領域、C2領域及びC3領域を含み、かつ各アームはアミノ末端を有しており、該Fcドメインの各アームにつき、1組の連結された第一のVHペプチド単量体及び第二のVHペプチド単量体は、該アームのアミノ末端に結合されており、かつそれらのVHペプチド単量体が、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA(TcdA)又はトキシンB(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有する、結合剤に関する。この結合剤は、2種の異なるトキシンのエピトープを認識するため、「二重特異性」と呼ばれる。この結合剤は、4つのVHペプチド単量体(同じ第一の単量体を2つ及び同じ第二の単量体を2つ)を有するため、「四量体型」と呼ばれる。
【0042】
この下位実施の形態の或る特定の態様において、第一のVHペプチド単量体及び第二のVHペプチド単量体は、同じ又は異なるエピトープに対する結合特異性を有する。
【0043】
この下位実施の形態の或る特定の態様において、VHペプチド単量体は、独立して、TcdA又はTcdBのグリコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、移行ドメイン又は受容体結合ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。
【0044】
この下位実施の形態の特定の態様において、結合剤は、配列番号32に示されるアミノ酸配列(AH3/5D-Fc)又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含み、ここで、該配列変異体は、TcdA結合特異性及び/又はTcdB結合特異性を維持しているか、又は該配列変異体は、トキシン中和活性を維持しているか、又はその両方を維持している。この結合剤が、Fcドメインベースの結合剤である場合に、示されたアミノ酸配列を有する2つの同一のポリペプチドが、該結合剤のアームとして機能すること、及び該アームが、ジスルフィド結合を通じて集合されて、完全な結合剤が得られることは、当業者には明らかであろう。配列変異体の変異アミノ酸は、VHペプチド単量体の骨格領域に位置していてもよい。
【0045】
この下位実施の形態の別の特定の態様において、結合剤は、配列番号34に示されるアミノ酸配列(AA6/E3-Fc)又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含み、ここで、該配列変異体は、TcdA結合特異性及び/又はTcdB結合特異性を維持しているか、又は該配列変異体は、トキシン中和活性を維持しているか、又はその両方を維持している。この結合剤が、Fcドメインベースの結合剤である場合に、示されたアミノ酸配列を有する2つの同一のポリペプチドが、該結合剤のアームとして機能すること、及び該アームが、ジスルフィド結合を通じて集合されて、完全な結合剤が得られることは、当業者には明らかであろう。配列変異体の変異アミノ酸は、VHペプチド単量体の骨格領域に位置していてもよい。
【0046】
この実施の形態及び下位実施の形態の或る特定の態様においては、結合剤は、TcdA及び/又はTcdBに特異的に結合する。この実施の形態の或る特定の態様においては、結合剤は、TcdA中和活性及び/又はTcdB中和活性を示す。
【0047】
本発明には、本明細書で定義される様々な実施の形態及び態様において規定される各々の結合剤のヒト化された変異体が含まれる。同様に、本発明には、本明細書で定義される様々な実施の形態及び態様において規定される各々の結合剤のエピトープ結合断片が含まれる。
【0048】
ポリヌクレオチド、発現ベクター、及び宿主細胞
本発明には、本明細書で定義される様々な実施の形態及び態様において規定される各々の結合剤をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド並びにそれらの相補鎖が含まれる。また本発明には、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター(例えば、細菌及び酵母のもの)及び該発現ベクターを含む宿主細胞(例えば、細菌、酵母、哺乳動物、昆虫のもの)も含まれる。さらに、本発明には、本明細書で定義される結合剤を製造する方法であって、宿主細胞を、発現ベクターによってコードされる結合剤の発現を促進する条件下で培養することと、結合剤を細胞培養物から回収することとを含む、方法が含まれる。
【0049】
操作されたS.ボウラルディ菌株
第四の実施形態においては、本発明は、本明細書で定義される1種以上の結合剤を産生するように操作されたサッカロマイセス属酵母菌株、例えばS.セレビシエ及びS.ボウラルディに関する。好ましい態様においては、操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、上記結合剤を分泌する。
【0050】
サッカロマイセス属酵母菌株のその個性は、本発明の1種以上の結合剤を産生し、好ましくは分泌するように操作され得ることにのみ限定される。本発明の好ましい態様においては、1種以上の結合剤を産生するように操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。このように、本発明は、本明細書で定義される1種以上の結合剤を産生する操作されたS.セレビシエ菌株、及び本明細書で定義される1種以上の結合剤を分泌する操作されたS.セレビシエ菌株を含む。また、本発明は、本明細書で定義される1種以上の結合剤を産生する操作されたS.ボウラルディ菌株、及び本明細書で定義される1種以上の結合剤を分泌する操作されたS.ボウラルディ菌株を含む。
【0051】
この実施の形態の一例においては、本発明は、VHペプチド単量体を含む結合剤、又は2つ、3つ、4つ若しくはそれより多くの単量体を含む連結されたVHペプチド単量体の群を含む結合剤であって、該単量体の各々がTcdA及び/又はTcdBに、好ましくは特異的に結合する結合剤を産生する操作されたサッカロマイセス属酵母菌株に関する。このように、本発明は、少なくとも1つのVHペプチド単量体を含むVHペプチド結合剤であって、各々のVHペプチド単量体が、C.ディフィシルのトキシンA(TcdA)又はトキシンB(TcdB)のエピトープに対して結合特異性を有する結合剤を産生する操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を包含する。或る特定の態様において、これらの結合剤は、2つ、3つ、4つ又はそれより多くの連結されたVHペプチド単量体を含む。VHペプチド単量体には、限定されるものではないが、VHペプチド単量体5D(配列番号1)、E3(配列番号3)、AA6(配列番号5)及びAH3(配列番号7)が含まれる。
【0052】
この実施の形態のもう一つの例においては、本発明は、本明細書で定義される、IgG抗体に結合されたVHペプチド単量体を含む、TcdA及び/又はTcdBに結合する結合剤を産生する操作されたサッカロマイセス属酵母菌株に関する。これらのIgGベースの結合剤においては、IgG抗体の軽鎖及び重鎖の可変領域が、1つ、2つ、3つ、4つ又はそれより多くのVHペプチド単量体によって置き換えられている。
【0053】
この実施の形態の更なる例においては、本発明は、本明細書で定義される、抗体Fcドメインに結合されたVHペプチド単量体を含む、TcdA及び/又はTcdBに結合する結合剤を産生する操作されたサッカロマイセス属酵母菌株に関する。これらのFcドメインベースの結合剤においては、1つ、2つ、3つ、4つ又はそれより多くのVHペプチド単量体が、抗体重鎖のFcドメインの各アームのヒンジ領域、C2領域及びC3領域に結合されている。したがって、ペプチド単量体は、抗体のFab領域と置き換えられている。
【0054】
この実施の形態の更に別の例においては、本発明は、四重特異性の四量体型結合剤を産生する操作されたサッカロマイセス属酵母菌株であって、上記結合剤は、連結された第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体、及び第四のVHペプチド単量体を含み、かつそれらのVHペプチド単量体は、独立して、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA(TcdA)又はトキシンB(TcdB)のエピトープに対して結合特異性を有する、操作されたサッカロマイセス属酵母菌株に関する。或る特定の態様において、第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体、及び第四のVHペプチド単量体は、それぞれ異なるエピトープに対する結合特異性を有する。或る特定の態様において、VHペプチド単量体のうち2つは、TcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつVHペプチド単量体のうち2つは、TcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。或る特定の態様において、VHペプチド単量体は、独立して、TcdA又はTcdBのグリコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、移行ドメイン又は受容体結合ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。
【0055】
この実施の形態の好ましい例においては、本発明は、上記結合剤はABABであり、ここで第一の単量体及び第三の単量体は、TcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつ第一の単量体及び第三の単量体は、それぞれVHペプチド単量体AH3(配列番号7)及びAA6(配列番号5)であり、かつ第二の単量体及び第四の単量体は、TcdBのエピトープに対する結合特異性を有し、かつ第二の単量体及び第四の単量体は、それぞれVHペプチド単量体5D(配列番号1)及びE3(配列番号3)である、操作された酵母菌株に関する。或る特定の態様において、ABAB結合剤は、配列番号19に示されるアミノ酸配列又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含み、かつ該配列変異体は、TcdA結合特異性及び/又はTcdB結合特異性を維持しているか、又は該配列変異体は、トキシン中和活性を維持しているか、又はその両方を維持している。或る特定の態様において、ABAB結合剤は、AT分泌シグナル(MRFPSIFTAVLFAASSALA(配列番号99))及びIVS分泌シグナル(MLLQAFLFLLAGFAAKISA(配列番号103))から選択されるN末端分泌シグナルを更に含む。
【0056】
或る特定の態様において、ABAB結合剤は、酵母内のプラスミドから発現され、ここで該ABAB結合剤は、配列番号107に示されるアミノ酸配列又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含み、かつ該配列変異体は、TcdA結合特異性及び/又はTcdB結合特異性を維持しているか、又は該配列変異体は、トキシン中和活性を維持しているか、又はその両方を維持している。プラスミドは、限定されるものではないが、pCEV-URA3-TEF-AT-yABAB-cMyc(配列番号88)であってもよい。
【0057】
或る特定の態様において、ABAB結合剤のコーディング配列は、酵母菌株の染色体中に組み込まれており、ここで該ABAB結合剤は、配列番号109に示されるアミノ酸配列又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含み、かつ該配列変異体は、TcdA結合特異性及び/又はTcdB結合特異性を維持しているか、又は該配列変異体は、トキシン中和活性を維持しているか、又はその両方を維持している。
【0058】
この実施の形態の態様は、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA(TcdA)若しくはトキシンB(TcdB)の固有のエピトープ、又は両方に対する結合特異性を有する治療タンパク質を産生する操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を含む。好ましくは、操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。治療タンパク質は、被験体における医学的状態の改善若しくは治癒をもたらすことができるか、又は被験体において医学的状態が発生することを防止若しくは抑制することができるあらゆるタンパク質である。適切な治療タンパク質には、限定されるものではないが、(a)欠陥又は異常のあるタンパク質に置き換わるタンパク質、(b)既存の経路を増加させるタンパク質、(c)新規の機能又は活性を提供するタンパク質、(d)分子又は生物と干渉するタンパク質、及び(e)放射線核種、細胞傷害性薬物又はエフェクタータンパク質等のその他の化合物又はタンパク質を送達するタンパク質が含まれる。また治療タンパク質には、抗体及び抗体ベース薬物、Fc融合タンパク質、抗凝固薬、血液因子、骨形成タンパク質、操作された足場タンパク質、酵素、成長因子、ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、並びに血栓溶解薬も含まれる。さらに治療タンパク質は、二重特異性モノクローナル抗体(mAb)及び多重特異性融合タンパク質、小分子薬物と結合されたモノクローナル抗体、並びに最適化された薬物動態を有するタンパク質が含まれる。
【0059】
操作されたS.ボウラルディ菌株の作製方法
また本発明は、本明細書で定義される1種以上の結合剤を産生するように操作されたサッカロマイセス属酵母菌株の作製方法に関する。
【0060】
したがって、本発明は、本明細書で定義される1種以上の結合剤を産生するように操作されたサッカロマイセス属酵母菌株の製造方法であって、(a)サッカロマイセス属酵母菌株を、該結合剤をコードする発現ベクターで形質転換させることと、(b)(a)の酵母を該結合剤の産生についてスクリーニングすることとを含む、製造方法を包含する。或る特定の態様において、発現ベクターは、プラスミドpCEV-URA3-TEF-AT-yABAB-cMyc(配列番号88)である。
【0061】
したがって、本発明は、本明細書で定義される1種以上の結合剤を産生するように操作されたサッカロマイセス属酵母菌株の製造方法であって、(a)サッカロマイセス属酵母菌株のゲノムに、該結合剤をコードするポリヌクレオチド配列を染色体組込みすることと、(b)(a)の酵母を該結合剤の産生についてスクリーニングすることとを含む、製造方法を包含する。或る特定の態様において、染色体組込みは、
(a)ABAB結合剤をコードするポリヌクレオチド配列を、プラスミドpCEV-G4-Km-TEF-AT-yABAB hAA6T83N-タグなし(配列番号90)から、(i)選択された酵母染色体組込み部位に相同な核酸配列、並びに(ii)該プラスミドのABAB結合剤をコードする配列の5’領域及び3’領域に相同な核酸配列を含むプライマーを使用して増幅させて、組込みカセットを作製することと、
(b)酵母を(a)で作製された組込みカセットと一緒にpCRI-Sb-δ1(配列番号91)又はpCRI-Sb-δ2(配列番号92)で形質転換させることで、相応の酵母染色体のδ部位内で、二本鎖切断の部位中への組込みカセットの自発的組込みを促進する条件下で二本鎖切断を誘導することと、
(c)(b)の形質転換された酵母を、ABAB結合剤の産生についてスクリーニングすることと、
により行われる。
【0062】
これらの方法の或る特定の態様においては、上記結合剤を産生するように操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、酵母のura3欠損菌株等のサッカロマイセス属酵母の栄養素要求性菌株である。酵母のura3欠損菌株は、ura3選択に際して利用することができる。
【0063】
これらの方法の或る特定の態様においては、上記結合剤を産生するように操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。
【0064】
これらの方法の或る特定の態様においては、スクリーニングは、ELISA等のイムノアッセイを使用して実施される。
【0065】
医薬製剤
本発明には、本明細書で定義される1種以上の結合剤と、医薬品に許容可能な担体又は希釈剤とを含む医薬製剤が含まれる。また本発明には、本明細書で定義される1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株と、医薬品に許容可能な担体又は希釈剤とを含む医薬製剤が含まれる。或る特定の態様において、サッカロマイセス属酵母は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。
【0066】
治療方法及び予防方法
第六の実施の形態においては、本発明は、被験体におけるC.ディフィシルによって誘発された疾患症状を治療又は予防する方法であって、治療的有効量の本明細書で定義される1種以上の結合剤及び/又は1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を、C.ディフィシル感染症又はC.ディフィシル感染症の発症のリスクを伴う被験体に投与することを含む、方法に関する。好ましい態様において、サッカロマイセス属酵母は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。
【0067】
本実施の形態の或る特定の態様において、C.ディフィシルにより誘発された疾患症状は、下痢である。
【0068】
第七の実施の形態においては、本発明は、C.ディフィシルによって感染された被験体におけるC.ディフィシルのトキシンTcdA及び/又はTcdBを中和する方法であって、治療的有効量の本明細書で定義される1種以上の結合剤及び/又は1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を、C.ディフィシル感染症を伴う被験体に投与することを含む、方法に関する。好ましい態様において、サッカロマイセス属酵母は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。
【0069】
第八の実施の形態においては、本発明は、被験体におけるC.ディフィシル感染症を治療又は予防する方法であって、治療的有効量の本明細書で定義される1種以上の結合剤及び/又は1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を、C.ディフィシル感染症又はC.ディフィシル感染症の発症のリスクを伴う被験体に投与することを含む、方法に関する。好ましい態様において、サッカロマイセス属酵母は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。第八の実施の形態の或る特定の態様においては、該方法は、治療的有効量の抗生物質を被験体に投与することを更に含む。
【0070】
第九の実施の形態においては、本発明は、C.ディフィシル感染症を伴う被験体において正常な腸機能を維持する方法であって、治療的有効量の本明細書で定義される1種以上の結合剤及び/又は1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を、C.ディフィシル感染症又はC.ディフィシル感染症の発症のリスクを伴う被験体に投与することを含む、方法に関する。好ましい態様においては、サッカロマイセス属酵母は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。第九の実施の形態の或る特定の態様においては、該方法は、治療的有効量の抗生物質を被験体に投与することを更に含む。
【0071】
これらの方法の或る特定の態様においては、結合剤は、該結合剤と医薬品に許容可能な担体又は希釈剤とを含む医薬製剤において存在する。
【0072】
これらの方法の或る特定の態様においては、治療的有効量の結合剤は、被験体の体重1kg当たり10μgから100mgの間の結合剤である。
【0073】
これらの方法の或る特定の態様においては、結合剤は、被験体へと経口で、非経口で、又は直腸内で投与される。
【0074】
これらの方法の或る特定の態様においては、操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、該操作された菌株と医薬品に許容可能な担体又は希釈剤とを含む医薬製剤で存在する。好ましい態様において、サッカロマイセス属酵母は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。
【0075】
これらの方法の或る特定の態様においては、治療的有効量の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、被験体の体重1kg当たり10μgから100mgの間の操作された菌株である。好ましい態様において、サッカロマイセス属酵母は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。
【0076】
これらの方法の或る特定の態様においては、操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、被験体へと経口で、鼻内で、又は直腸内で投与される。好ましい態様において、サッカロマイセス属酵母は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。
【0077】
上記は、以下の本発明の詳細な説明をよりよく理解することができるように本発明の特徴及び技術的な利点を幅広く概説した。本発明の追加の特徴及び利点が本明細書に記載され、本発明の特許請求の範囲の主題をなす。本明細書に開示される任意の概念及び具体的な実施形態は、本発明の同じ目的を実施するため他の構造を修飾又は設計するための基礎として容易に利用可能であることが当業者に理解される。また、かかる等価な構築物は、添付の特許請求の範囲に述べられる本発明の趣旨及び範囲から逸脱しないことが当業者によって明確に理解されなければならない。本発明の構成及び操作方法の両方について、本発明の特性と考えられる新規な特徴は、更なる目的及び利点と共に、添付の図面と組み合せて考慮される場合に以下の記載からより良く理解されるであろう。しかしながら、あらゆる記載、図面、実施例等が解説及び説明の目的に対してのみ提供され、本発明の範囲を定義することは何ら意図されないことが明確に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】本発明の結合剤の作製戦略の図である。
図2】C.ディフィシルのトキシンTcdA及びTcdBの、各トキシンのグルコシルトランスフェラーゼドメイン(GT)、システインプロテアーゼドメイン(CPD)、移行ドメイン(TD)及び受容体結合ドメイン(RBD)を示す図である。異なるトキシンドメインを認識してそれらに結合するVHが示されている。下線を引いたVHは、トキシン中和活性を有するものである。
図3】単量体又は二量体のVHは強力な中和活性を有する。VHはTcdA(図3のA)又はTcdB(図3のB)によって誘発される細胞円形化をnM濃度で阻止する。(図3のC)TcdA又はTcdBに対する2つのヘテロ二量体の図である。N末端にあるHis(6)タグが精製を容易にし、フレキシブルなスペーサー(FS)が、2つのVHを隔てている。(図3のD)二量体5D/E3は、2種のVHの単純な混合物に対してその中和活性を少なくとも10倍高める。ヘテロ二量体は、TcdB(図3のE)又はTcdA(図3のF)による致死的な腹腔内負荷からマウスを十分に防御した。
図4】ABABの図である。His-タグ及びE-タグは、それぞれ精製及び検出のためのエピトープタグである。FS:フレキシブルなリンカー;ABP:アルブミン結合ペプチド。
図5A】ABABは、C.ディフィシルの胞子の負荷からマウスを防御するにあたって非常に強力であることを示す図である。
図5B】ABABは、トキシンの負荷からマウスを防御するにあたって非常に強力であることを示す図である。MK HuMabs:臨床試験中のMerck社の抗TcdAヒトモノクローナル抗体(アクトクスマブ)及び抗TcdBヒトモノクローナル抗体(ベズロトクスマブ)の混合物。
図6】両方のトキシンに対する抗トキシン血清は、マウスをCDIから防御することを示す図である。マウスに、C.ディフィシルの胞子(UK1菌株、10胞子/マウス)の接種前に4時間にわたって、TcdAに対するアルパカ抗血清(「Anti-A」)50μl、TcdBに対するアルパカ抗血清(「Anti-B」)50μl、TcdA+TcdBに対するアルパカ抗血清(「Anti-A+Anti-B」)50μl、又は免疫前血清(presera)若しくはPBS(「CTR」)100μlを腹腔内注射した。マウス生存率(図6のA;Anti-A+Anti-B対PBS、p=0.006)及び体重減少率(図6のB)が図説されている(、Anti-A+Anti-Bと対照との間でp<0.05)。
図7】ABAB及びABAB-IgG分子の図である。
図8A】個々のVHのそれぞれのトキシンへの結合と比較した、ABAB-IgGのTcdAへの結合のELISA分析を示す図である。
図8B】個々のVHのそれぞれのトキシンへの結合と比較した、ABAB-IgGのTcdBへの結合のELISA分析を示す図である。
図9A】四重特異性の抗体IgG-ABABのTcdA及びTcdBの両方への同時結合のサンドウィッチELISA分析を示す図である。図9Aは、TcdA(TxA)に引き続き、TcdB(TxB)でコーティングされたELISAプレートに添加された連続希釈されたABAB-IgGを示している。
図9B】四重特異性の抗体IgG-ABABのTcdA及びTcdBの両方への同時結合のサンドウィッチELISA分析を示す図である。図9Bは、TcdB(TxB)に引き続き、TcdA(TxA)でコーティングされたELISAプレートに添加された連続希釈されたABAB-IgGを示している。
図10A】ABAB-IgGのTcdAに対する中和活性を示す図である。
図10B】ABAB-IgGのTcdBに対する中和活性を示す図である。
図11】Merck社のTcdA及びTcdBに対する抗体(アクトクスマブ及びベズロトクスマブ)と比較した、マウスにおけるC.ディフィシル感染症に対するABAB-IgGのin vivo中和活性を示すグラフである。
図12】予防的ABAB-IgGのC.ディフィシル感染症に対する効果の研究の設計を示す図である。
図13】二重特異性のサンドウィッチ型ELISAを示す図である。(図13のA)ELISAにおけるトキシン及び抗体の配置図。(図13のB)様々なTcdA濃度のO.D.示度;125ng/mlのTcdAを、後続のELISAのために選択した。
図14】Sc-ABABによって分泌されたABABの活性を示す図である。(図14のA)S.セレビシエ培養上清中に分泌されたABABの中和効果。Sc:S.セレビシエ(BY4741)、Sc-ABAB:S.セレビシエ(BY4741)-pD1214-FAKS-ABAB、r-ABAB:組換えABAB。Sc-ABABの上清中のABABは、細胞を中毒から完全に保護することが可能である。(図14のB)個々のSc-ABABクローンからの上清のELISAのO.D.示度。
図15】様々な分泌シグナルでのABAB分泌レベルを示す図である。(図15のA)S.セレビシエにおけるELISAによって測定された、O.D.600に対する細胞密度に対して正規化されたABAB分泌。統計学的有意性は、クルスカル-ウォリスの検定に引き続き、ダンの多重比較検定によって決定した(p<0.05 **p<0.01)。(図15のB)S.ボウラルディにおけるELISAによって測定された、O.D.600に対する細胞密度に対して正規化されたABAB分泌。統計学的有意性は、マン・ホイットニーの検定によって決定した(****p<0.0001)。
図16】S.ボウラルディにおける相同組換えによる、染色体にコードされる遺伝子のねらいを定めた欠失の図である。
図17】ABABを発現するS.ボウラルディURA3Δ/Δを示す図である。(図17のA)バンコマイシン(1mg/ml)を含有するYPD中とそれを含有しないYPD中とでの増殖比較。(図17のB)ELISAによって測定される2時間インキュベートした後のS.ボウラルディ培養上清中のABAB安定性。(図17のC)ABABを発現するS.ボウラルディURA3Δ/Δの培養上清からのABABの中和活性。(図17のD)ウェスタンブロットによるABABを発現するS.ボウラルディURA3Δ/Δ培養上清中でのABAB検出。濃縮:ABABは、C末端にc-Mycタグを有し、α-c-Mycタグ抗体を使用して更に濃縮された。
図18】マウスでのCDI予防におけるABABを発現するS.ボウラルディの保護を示す図である。(図18のA)生存率、(図18のB)体重減少、(図18のC)下痢事象、感染の過程の全体を記録して表した。両側かつ95%信頼区間でのフィッシャーの正確確率検定によって決定された有意性;p値は、図18のAの場合に0.0108であり、図18のB及び図18のCに関しては、通例の二元配置のANOVA(繰り返しの措置なし)に引き続き、ダネットの多重比較検定を使用した(P≦0.05)。「Sb:EP」は、空のプラスミドを有するS.ボウラルディであり、「Sb:ABAB」は、ABABを発現するS.ボウラルディである。
図19】CDIマウスの治療におけるABABを発現するS.ボウラルディの保護を示す図である。(図19のA)生存率、(図19のB)体重減少、(図19のC)下痢事象、感染の過程の全体を記録して表した。両側かつ95%信頼区間でのフィッシャーの正確確率検定によって決定された有意性;p値は、図19のAの場合に0.0256であり、図19のB及び図19のCに関しては、通例の二元配置のANOVA(繰り返しの措置なし)に引き続き、ダネットの多重比較検定を使用した(図19のB及び図19のCの場合にP≦0.05 **P≦0.01 ****P≦0.0001)。「Sb:EP」は、空のプラスミドを有するS.ボウラルディであり、「Sb:ABAB」は、ABABを発現するS.ボウラルディである。
図20】CDI再発マウスにおけるABABを発現するS.ボウラルディの保護を示す図である。(図20のA)生存率、(図20のB)体重減少、(図20のC)下痢事象、感染の過程の全体を記録して表した。両側かつ95%信頼区間でのフィッシャーの正確確率検定によって決定された有意性;p値は、図20のAの場合に0.017であり、図20のB及び図20のCに関しては、通例の二元配置のANOVA(繰り返しの措置なし)に引き続き、ダネットの多重比較検定を使用した(図20のB及び図20のCの場合にP≦0.05 ***P≦0.001 ****P≦0.0001)。「Sb:EP」は、空のプラスミドを有するS.ボウラルディであり、「Sb:ABAB」は、ABABを発現するS.ボウラルディである。
図21】CRISPRを使用するδ部位を標的とする染色体組込みの図である。Ty1-H3(Genbankアクセッション番号M18706)を、MYA796のドラフトゲノムに対してブラストするために使用することで、δ部位配列を得た。収集された配列を使用して、共通のプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)部位及びプロトスペーサーを特定した。2つのPAM部位配列は、多重部位に関する最高のカバレッジ、並びにABAB発現カセットの簡単な組込みのためのプロトスペーサー及びPAM部位の上流及び下流に位置する共通の相同配列に基づいて選択された。PAM部位「I」は、配列番号93に示され、PAM部位「II」は、配列番号94に示されている。PCRによってABAB発現カセットを作製するためにプライマーで使用される相同組換え配列に下線が引かれている。
図22】CRISPRベースのδ部位を標的とする染色体組込みを使用するS.ボウラルディのABAB分泌を示す図である。(図22のA)ELISAによって測定されたABAB分泌。ITG:ABAB組込みカセット。低:CRISPRプラスミド対ITGの比率が2、高:CRISPRプラスミド対ITGの比率が0.25。(図22のB)ABAB分泌量の比較。M-/-Cir0:pKC、M-/-Cir+:ABAB、M-/-Cir0:ABABは、プラスミドベースである。ChIns:従来の相同組換えによるABABカセットの単独部位を標的とする染色体組込み。CRISPR1~2:部位IでのABABカセットの組込み。CRISPR3~4:部位IIでのABABカセットの組込み。
図23】CDIマウスの治療におけるABABを発現するS.ボウラルディの保護を示す図である。(図23のA)生存率、(図23のB)体重減少、(図23のC)下痢事象、感染の過程の全体を記録して表した。両側かつ95%信頼区間でのフィッシャーの正確確率検定によって決定された有意性;p値は、図23のAの場合に0.0325であり、図23のB及び図23のCに関しては、通例の二元配置のANOVA(繰り返しの措置なし)に引き続き、ダネットの多重比較検定を使用した(図23のB及び図23のCの場合にP≦0.05 **P≦0.01)。
【発明を実施するための形態】
【0079】
I.定義
特に指定のない限り、技術用語は従来の用法に従って使用される。分子生物学における一般用語の定義は例えば、Benjamin Lewin, Genes VII, Oxford University Press刊行, 2000(ISBN019879276X)、Kendrew et al.(編);The Encyclopedia of Molecular Biology, Blackwell Publishers刊行, 1994(ISBN0632021829)、及びRobert A. Meyers(編), Molecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference, Wiley, John & Sons, Inc.刊行, 1995(ISBN0471186341)、並びに他の同様の技術的参照文献に見ることができる。
【0080】
本明細書中で使用される場合、「a」又は「an」は1つ以上を意味する場合がある。本明細書中で使用される場合、「a」又は「an」という単語は、「を含む(comprising)」という単語とともに使用される場合に1つ又は2つ以上を意味する場合がある。本明細書中で使用される場合、「別の」は少なくとも2つ目又はそれ以上を意味する場合がある。さらに、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単数形の用語は複数のものを含み、複数形の用語は単数のものを含む。
【0081】
本明細書中で使用される場合、「約」は、明示されているか否かを問わず、例えば整数、分数及びパーセンテージを含む数値を指す。「約」という用語は一般に、当業者が列挙した値と同等である(例えば、同じ機能又は結果を有する)と考え得る数値の範囲(例えば、列挙した値の±5%~10%)を指す。場合によっては、「約」という用語は、最も近い有効数字まで四捨五入した数値を含み得る。
【0082】
II.本発明
C.ディフィシル関連疾患(CDI)は、主に、該細菌によって産生された2種の大きな外毒素、すなわちトキシンA(TcdA)及びトキシンB(TcdB)によって引き起こされる。これらのトキシンは、構造的に類似していて、宿主細胞に類似の作用機序を示す大型の単鎖タンパク質である(TcdAは約300kDであり、TcdBは約270kDである)。両者のトキシンとも宿主のRho GTPアーゼを標的とし、酵素不活性化に続いて、細胞骨格崩壊及びアポトーシスを起こす。腸上皮細胞において、TcdAは、Rho GTPアーゼのグルコシル化を触媒し、細胞の完全な円形化のような形態変化を伴ってアクチン細胞骨格の再構築が起こり、そして腸管バリア機能が破壊される。それらのトキシンは、動物において個別にCDIを引き起こすことができ、当該細菌のTcdA TcdB菌株は無毒性である。
【0083】
数多くの独立した研究によって、それらのトキシンに対する中和抗体は、CDIに対する防御を与えることが裏付けられている[24~33]。TcdA及びTcdBは、C.ディフィシルにとっての必須の病原性因子であるため、両者のトキシンに対して産生された中和抗体は、動物モデルにおける毒素産生C.ディフィシル感染症を防ぐ[30~33]。ヒトにおいては、抗トキシン抗体の高い血清濃度は、疾患の重症度の軽減及び再燃の発生率の低下と関連している[9、25、29]。
【0084】
したがって、全身性投与及び経口投与された抗トキシン抗体について予防的根拠はある。しかしながら、単独のエピトープを標的とするモノクローナル抗体は、一般的に親和性が低く、そのような抗体の使用は、該トキシンのエピトープ内に突然変異(mutations:変異)を誘発し、更なる菌株を生成する危険性をはらんでいる。したがって、多数の主要な保存されたトキシンエピトープを標的とする中和性抗トキシンが強く望まれている。
【0085】
本発明は、CDI及びCDIの症状の治療及び予防のための抗TcdA抗体及び抗TcdB抗体に関する既存の知識を基礎とするものである。本明細書においては、ヒト免疫グロブリン及びラクダ科免疫グロブリンから誘導される、任意に被験体において共生酵母のサッカロマイセス属菌株によって発現される抗体ベースの融合タンパク質型の結合剤が提供される。これらの結合剤は、C.ディフィシルのTcdA及び/又はTcdBを認識して特異的に結合する。これらの結合剤の一部は、トキシン中和活性を示す。これらの酵母ベースの免疫療法薬は、原発性CDI及び再発性CDI並びに原発性CDI及び再発性CDIの症状を治療又は予防するために使用することができる。好ましい態様においては、サッカロマイセス属酵母は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。
【0086】
以下で詳細に論じられるように、ラクダ科動物(ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、野生種フタコブラクダ、ラマ、アルパカ、ビクーニャ、及びグアナコ)は、軽鎖を欠いた、つまりは重鎖のみの抗体(HCAb)[34]である、通常のIgG[35]によって達成されるのと同等の結合特性を有する機能的な免疫グロブリンのクラスを産生する。VHと呼ばれるHCAbのVドメインは、通常のヒトVドメインと類似しているが、固有の配列及び構造的特徴を有している[36]。このドメインをコードするDNAは、簡単にクローニングすることができ、そして微生物中で発現させることで、元となるHCAbの抗原結合特性を維持した可溶性タンパク質単量体を得ることができる。これらのVHペプチド単量体型の結合剤は、小さく(約15kDa)、製造しやすく、かつ一般的に従来の抗体フラグメントと比べてより安定である[37~39]。VHは、それらがプロテアーゼに対して比較的耐性があり、かつ更に操作することでそのような特性を増強することができるため、腸疾患の治療のために調査されている[40]。該結合剤は、ヒト抗体、例えばIgG及びヒト抗体のフラグメント、例えばFcドメインを用いて融合タンパク質として製造することもできる。
【0087】
本発明は、CDIの治療及び予防で使用することができる結合剤の製造においてHCAbの有利な特徴を利用している。本明細書で開示されるように、VHペプチド単量体は、TcdA及びTcdBのエピトープの認識及び結合についてスクリーニングされた。エピトープへの結合を示すとともにトキシン中和活性を有するこれらの単量体を連結させることで、本発明の結合剤を製造した。結合剤には、単純なVHペプチド単量体及び連結されたVHペプチド単量体の群(2つ、3つ、4つ又はそれより多くの単量体を含む)、並びに抗体のFcドメインに結合されたVHペプチド単量体を含むより複雑な結合剤、並びにIgG抗体に結合されたVHペプチド単量体が含まれる(図1を参照)。
【0088】
さらに、サッカロマイセス・ボウラルディは、FDAによって一般に安全と認められる(GRAS)生物であり、腸の健康促進及び下痢症状による胃腸病の回復に使用するために処方箋なしで一般に入手可能である。この酵母菌株は、CDIを含む腸疾患に対する安全性及び効力の両方について、多施設無作為化二重盲検プラセボ対照臨床試験において研究されている[42~46]。S.ボウラルディによる処置は、CDIの再発を有意に減少させ[44~46]、それらの再発患者は糞便中に、再発しない患者よりも有意に少ないS.ボウラルディを有していた[43]。C.ディフィシルのトキシンに誘発される炎症に対する保護をもたらすS.ボウラルディの免疫調節効果は、記載されている[47~49]。さらに、S.ボウラルディは、正常な微生物叢の維持を助けることができ[50]、最近の臨床試験(NCT01473368)により、S.ボウラルディの処置が、抗生物質に誘発されるマイクロバイオームの変化を幾らか防ぐことができ、並行して抗生物質関連の下痢を減らすことができることが判明した。
【0089】
S.ボウラルディに遺伝的に関連しているS.セレビシエ(一般的に「醸造酵母」としても知られる)を使用することで、高収率でVHを発現することに成功している[51]。S.ボウラルディは、S.セレビシエとは生理学的に異なるが、ゲノム解析により、両者のゲノムはヌクレオチドレベルでは非常に類似していることが分かった[52、53]。したがって、S.セレビシエで使用するために以前に開発された分子遺伝学的ツールは、目下、S.ボウラルディで使用されており[54~56]、そのため、この共生菌は、CDIに対する治療剤として操作するための一つの候補となる。
【0090】
S.ボウラルディが経口治療剤として使用するのに理想的なものとなる幾つかの追加の代謝的特性が存在する。S.セレビシエとは異なり、S.ボウラルディは37℃でよく育ち、酸性的環境条件により耐性であり[57]、そのため、経口投与後にヒトの腸管中でより良く生存し、存続することに対して特に高い適性を有する。さらに、サッカロマイセス属菌による実験的口腔内定着マウスモデルは十分に特徴付けられており[58]、このモデルを使用することで、S.ボウラルディにより口腔内処置された従来のマウスにおけるサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella Typhimurium)[58、59]及びサルモネラ・エンテリティディス(Salmonella Enteritidis)[60]等の腸内病原菌による口腔内負荷に対する保護だけでなく、予め処置されたノトバイオート動物におけるCDI負荷に対する保護も報告されている[58、61]。C.ディフィシルのTcdA及びTcdBの両方を中和することが可能なVH結合剤を分泌するように遺伝子操作された共生S.ボウラルディは、この共生菌が進行中のCDI及び再発性CDIの両方を中断させる治療能力を大きく改善することができるかもしれない。
【0091】
S.ボウラルディの例外的な特性を考慮して、本明細書で定義される結合剤を発現するS.ボウラルディ菌株を作製し、試験した。実施例に記載されるように、これらの酵母ベースの免疫療法薬は、原発性CDI及び再発性CDI並びに原発性CDI及び再発性CDIの症状を治療又は予防するために使用することができる。
【0092】
H単量体及びVHヘテロ二量体
国際公開第16/127104号にて当初報告されたように、本発明者らは、C.ディフィシルの両方のトキシンの特異的ドメインに対するVH単量体をスクリーニングするための効果的なプラットフォームを確立した。免疫原性の高い非毒性のホロトキシンを免疫化のために使用し、かつ生体活性のキメラ型トキシン(通常のドメイン機能を有する)をスクリーニングのために使用することで、VH単量体の、TcdA又はTcdBの異なるドメインへの結合のパネルを作製した。これらのVH単量体の多くが強力な中和活性を有しており、それらのTcdA及びTcdBの特異的ドメインへの結合を確認した(図2)。
【0093】
H単量体の幾つかは、高度に保存されたTcdA/TcdBエピトープに結合する。例えば、E3 VH単量体は、Rho GTPアーゼ結合部位に結合し、グリコシル化を阻止し、AH3 VH単量体は、該トキシンのGTドメインに結合し、7F VH単量体は、システインプロテアーゼ開裂部位に結合し、そしてGTドメインの開裂及び放出を阻止する。幾つかのVH単量体は強力なトキシン中和活性を有しており、トキシンの細胞毒性活性をnM濃度で阻止することが可能である(図2で下線を引いた単量体、図3のA及びBも参照)。表1は、これらのVHペプチド単量体の一部の野生型及びコドン最適化された形式の両方についての配列表中のアミノ酸配列及び核酸配列を表している。最適化された形式及び最適化されていない形式の両方とも本発明の様々な結合剤の製造において使用することができるが、哺乳動物細胞での発現のためにはコドン最適化された形式が好ましい。
【0094】
本発明には、表1に引用された各々のVHペプチド単量体、並びにペプチド配列全長にわたって少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有し、かつ野生型ペプチドのトキシン結合活性及び/又は中和活性を維持しているそれらの配列変異体が含まれる。また本発明には、表1の各々のVHペプチド単量体をコードするポリヌクレオチド配列及びそれらの配列変異体、並びにそれらの相補鎖も含まれる。
【0095】
【表1】
【0096】
ペプチド単量体の結合活性を高めるために、2つのVHペプチド単量体が連結されたVHペプチドのホモ二量体型及びヘテロ二量体型の結合剤を作製した(図3のC)。ホモ二量体型の結合剤は、2種の異なるトキシンにある同一のエピトープに結合する2つの同一の単量体を含む。ヘテロ二量体型の結合剤は、同じトキシンの2種の異なるエピトープ又は2種の異なるトキシンにある異なるエピトープに結合する2つの異なる単量体を含む。VHヘテロ二量体は、ヘテロ二量体を含む個別のVHペプチド単量体の等モルの混合物と比較して、本質的に増強された中和活性を有することが分かった(図3のD)。確かにヘテロ二量体5D/E3及びAH3/AA6は、致死的な全身性のTcdB負荷又はTcdA負荷からそれぞれマウスを十分に防御することが見出されたが、5DとE3とを混合したもの、又は単独のAA6は、部分的にのみ防御性であるに過ぎなかった(図3のE及びF)。
【0097】
ホモ二量体及びヘテロ二量体におけるVH単量体は、10個から20個の間のアミノ酸の短いフレキシブルなリンカーを使用して連結される。適切なリンカーには、表2で規定されたリンカーが含まれる。また表2には、コドン最適化された形式の3種のリンカーも含まれる。最適化された形式及び最適化されていない形式の両方とも本発明の様々な結合剤の製造において使用することができるが、哺乳動物細胞における発現のためにはコドン最適化された形式が好ましい。
【0098】
【表2】
【0099】
当業者によれば、上記ペプチドの特性から逸脱することなく、フレキシブルなリンカーの配列に小さな変更を加えることができることは理解されよう。したがって、ペプチド配列の全長にわたって少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有し、かつ基礎を成すリンカーの特性を維持しているフレキシブルなリンカーの配列変異体を使用することができる。
【0100】
本発明には、先に定義されたフレキシブルなリンカーによって連結された、表1に列挙された単量体のいずれかの対を含むVHペプチドホモ二量体型の結合剤が含まれる。また本発明には、先に定義されたフレキシブルなリンカーによって連結された、表1に列挙された単量体の2つの任意の組み合わせを含むVHペプチドヘテロ二量体型の結合剤も含まれる。ヘテロ二量体の例は、表3に規定される。
【0101】
【表3】
【0102】
また本発明には、タンパク質配列の全長にわたって少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有し、かつ野生型タンパク質のトキシン結合活性及び/又は中和活性を維持しているVHペプチドホモ二量体及びヘテロ二量体の配列変異体も含まれる。さらに、本発明には、各々のVHペプチドホモ二量体、ヘテロ二量体をコードするポリヌクレオチド配列及びそれらの配列変異体、並びにそれらの相補鎖が含まれる。
【0103】
また本発明には、3つの単量体が、先の表2で定義されたフレキシブルなリンカーを使用して連結された、VHペプチドホモ三量体型及びヘテロ三量体型の結合剤も含まれる。同じ単量体を3つ含む三量体、同じ単量体を2つ及び別の単量体を1つ含む三量体、並びに異なる単量体を3つ含む三量体を含む表1の単量体の任意の組み合わせを使用することができる。タンパク質配列の全長にわたって少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有し、かつ野生型タンパク質のトキシン結合活性及び/又は中和活性を維持しているVHペプチドホモ三量体及びヘテロ三量体の配列変異体が本発明に含まれる。さらに、本発明には、各々のVHペプチドホモ三量体、ヘテロ三量体をコードするポリヌクレオチド配列及びそれらの配列変異体、並びにそれらの相補鎖が含まれる。
【0104】
ABAB
ペプチド単量体及びヘテロ二量体の成功によって、本発明者らは、4つの連結されたVHペプチド単量体を含む結合剤の開発が可能となった。このことは、調査の目標であった。それというのも、過去の研究では、殆どの病原性C.ディフィシル菌株に対する十分な防御をもたらすためにはTcdA及びTcdBの両方を同時に中和することができることが必要であると考えられるため、それが可能な単独の抗体がCDIの治療及び予防において最も有効な結合剤であることを示しているからである。各々のトキシンにある2種のエピトープを認識し結合する四重特異性の結合剤を作製することによって、該タンパク質の結合活性及び中和活性を強化することができる。したがって、4ドメイン型(四重特異性)VH結合剤が作製された。
【0105】
四重特異性の四量体型結合剤は、表1の単量体のいずれかの組み合わせから製造することができ、ここで該単量体は、表2のフレキシブルなリンカーを使用して連結される。これらの結合剤は、同じ単量体を4つ有する結合剤から、同じ単量体を3つ有する結合剤まで、同じ単量体を2つ有する結合剤まで、4つの固有の単量体を有する結合剤までの範囲及びその範囲内の別形を含む。タンパク質配列の全長にわたって少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有し、かつ野生型タンパク質のトキシン結合活性及び/又は中和活性を維持している該四量体の配列変異体が本発明に含まれる。さらに、本発明には、各々の四量体をコードするポリヌクレオチド配列及びそれらの配列変異体、並びにそれらの相補鎖が含まれる。
【0106】
ABBAは、4つの連結されたVH単量体、つまりAH3-E3-E3-AA6を含む本発明の特定の結合剤である。このように、ABBAは、2つの同じ単量体(E3)と、2つの追加の異なる単量体(AH3及びAA6)とを有する(表1を参照)。
【0107】
ABABは、4つの連結されたVH単量体を含み、その各々がTcdA又はTcdBの異なるエピトープに対して結合特異性を有する、本発明の別の特定の結合剤である。したがって、ABABは、4つの異なる中和性VH単量体からなり、2つがTcdAに対するものであり、かつ2つがTcdBに対するものである、四重特異性の四量体型結合剤である。この構造的特徴は、ABABが、各々のトキシンにある2種の異なる中和エピトープに同時に結合することを可能にする。以下に記載されるように、ABABの親和性/結合力及び中和活性は、CDIの治療のために現在臨床試験中のヒトモノクローナル抗体(HuMab)と比べて3-log超も高い。
【0108】
ABAB結合剤は、VH単量体のAH3、5D、AA6及びE3(表1)をフレキシブルなリンカー(表2)を用いて連結させることによって製造した。この結合剤は、保存された重複していないエピトープを標的とし、優れたトキシン中和活性を有する。ABAB(図4)の設計において、VHペプチド単量体AH3及びAA6を、それらの間に5Dを配置することによって隔てた。それというのも、AH3及びAA6は、互いに空間的に距離が置かれたGT及びTDにそれぞれ結合するからである(図2)。この設計により、AH3及びAA6は、TcdAに同時に結合することが可能となった。
【0109】
ABABを含む完全なアミノ酸配列は、配列番号19に規定され、そのタンパク質をコードする核酸配列は、配列番号20に規定されている。したがって、本発明には、配列番号19に規定されるABAB結合剤、並びにタンパク質配列の全長にわたって少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有し、かつ野生型タンパク質のトキシン結合活性及び/又は中和活性を維持している該ABAB結合剤の配列変異体が含まれる。配列変異体はヒト化され、及び/又はアミノ酸が、酵母による産生及び分泌に最適化されている変異体を含む。
【0110】
さらに、本発明には、ABAB結合剤をコードするポリヌクレオチド配列(例えば配列番号20)及びそれらの配列変異体、並びにそれらの相補鎖が含まれる。
【0111】
本発明により包含されるABAB結合剤の修飾物には、(i)精製を補助するためのタンパク質のアミノ末端でのHis(6)タグ(HHHHHH;配列番号66)、(ii)検出を補助するためのタンパク質のカルボキシ末端でのEタグ(GAPVPYPDPLEPR;配列番号67)、(iii)VH単量体が2時間~3時間の半減期を有し、ABPの封入が血清半減期を10時間へと増大させ得るので、該タンパク質の血清半減期を増大させるための構築物のカルボキシル末端でのアルブミン結合ペプチド(ABP)(DICLPRWGCLWD;配列番号21)(図4を参照)、並びにタンパク質のカルボキシ末端でのD7タグ(SSAPTKAKRRVVQREKT;配列番号112)の1つ以上を有する結合剤が含まれる。本発明は、ABAB結合剤がこれらのタグ及びペプチドの1つ、2つ、3つ、又は4つを有するものを含む。Hisタグ及びD7タグを含む修飾されたABAB結合剤の一例は、配列番号113に示されるアミノ酸配列を含む(コーディング配列は、配列番号114に示されている)。
【0112】
酵母菌株がABABを産生するように操作される場合に、そのタンパク質は、該タンパク質のアミノ末端に分泌シグナルを含むように修飾されてもよい。分泌シグナルは、限定されるものではないが、表4に示される配列のうちの1つであってもよい。
【0113】
【表4】
【0114】
アミノ末端分泌シグナルを含む修飾されたABAB結合剤の例には、AT-ABAB及びIVS-ABABが含まれる。
【0115】
酵母又は細菌中のプラスミドから発現される修飾されたABAB結合剤の一例は、配列番号107に示されるABAB結合剤を含み、それは、配列番号108に示されるポリヌクレオチド配列によってコードされる。
【0116】
染色体組込み後に酵母中で発現される修飾されたABAB結合剤の一例は、配列番号109に示されるABAB結合剤を含み、それは、配列番号110に示されるポリヌクレオチド配列によってコードされる。
【0117】
本発明の結合剤は各々、TcdA及び/又はTcdBに特異的に結合する。本発明の或る特定の態様においては、結合剤は、TcdA中和活性及び/又はTcdB中和活性を示す。
【0118】
明快にするために、本明細書で使用される場合に「一重特異性」、「二重特異性」、「三重特異性」、「四重特異性」等は、特定の結合剤が1種、2種、3種、4種等といった異なるエピトープにそれぞれ結合することを意味すると述べることができる。本明細書で使用される場合に、「単量体型」、「二量体型」、「三量体型」、「四量体型」等は、特定の結合剤が、1つ、2つ、3つ、4つ等の、それぞれのエピトープに結合する別々のVHペプチド単量体を有することを意味する。したがって、一重特異性の二量体型結合剤は、同じエピトープに結合する2つのVHペプチド単量体(例えばホモ二量体)を表し、二重特異性の二量体型結合剤は、2種の異なるエピトープに結合する2つのVHペプチド単量体(例えばヘテロ二量体)を有することとなる。四重特異性の八量体型結合剤は、4種の異なるエピトープを認識する8つのVHペプチド単量体を有する。
【0119】
H-Fc
キメラFc融合タンパク質は、in vivoでのタンパク質の半減期を高める能力を有することがよく知られている。この戦略は、幾つかのFDA認可薬剤、例えばエタネルセプトで利用されている。原理証明研究は、単鎖抗体が、正しく集合し、かつヒトコブラクダVH及びヒトIgGのFcドメインをコードするmini-Ig構築物を有するトランスジェニックマウスのB細胞によって発現されることを示している。またキメラ抗EGFR/EGFRvIII VHであるEG2-Fcは、in vivoで優れた腫瘍集積を示し、膠芽細胞腫のターゲティングを改善し得る薬物動態特性を有する。
【0120】
本発明には、抗体のFcドメインに結合されたVHペプチド単量体(VH-Fc)を含む結合剤であって、TcdA及び/又はTcdBに結合する、結合剤が含まれる。これらのFcドメインベースの結合剤においては、1つ、2つ、3つ、4つ又はそれより多くのVHペプチド単量体が、抗体重鎖のFcドメインのヒンジ領域、C2領域及びC3領域に結合されている。したがって、ペプチド単量体は、該抗体のFab領域と置き換えられている。
【0121】
Hペプチド単量体は、先の表1に規定されたいずれかの単量体であってもよく、該単量体には、VHペプチド単量体5D(配列番号1)、E3(配列番号3)、AA6(配列番号5)及びAH3(配列番号7)が含まれる。2つ以上の単量体が連結されている場合には、それらの単量体は、一般的に10個から20個の間のアミノ酸を含むフレキシブルなペプチドリンカーによって連結され得る。適切なリンカーには、表2に規定されるリンカー、例えばリンカー-1(配列番号9)、リンカー-2(配列番号11)及びリンカー-3(配列番号13)が含まれる。
【0122】
H-Fcが一般的に、産生後に細胞内で自己集合する2つの同一鎖から構成される場合には、本発明には、2種の異なるFc鎖を含むVH-Fc結合剤も含まれる。そのような状況において、1種以上のVH単量体の配列だけが、2つのFc鎖の間で異なっていてもよく、又はFc鎖自体が、異なる配列であってもよく、又は1種以上のVH単量体及びFc鎖の両方が、異なる配列であってもよい。
【0123】
H-Fc結合剤の1つの型は、抗体のFcドメインと、第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体とを含む八量体型結合剤であって、VHペプチド単量体が、TcdA又はトキシンB(TcdB)のエピトープに対する結合特異性を有し、上記第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体は、共に連結され、かつ両方の抗体のFcドメインのアミノ末端に結合され、かつ上記抗体のFcドメインが、抗体重鎖のヒンジ領域、C2領域及びC3領域を含む、結合剤である。この結合剤は、4つのVHペプチド単量体を有することから、該結合剤は、一重特異性(単量体の全てが同じエピトープに結合する場合)、二重特異性(単量体が2種の異なるエピトープに結合する場合)、三重特異性(単量体が3種の異なるエピトープに結合する場合)又は四重特異性(単量体が4種の異なるエピトープに結合する場合)であってもよい。
【0124】
四重特異性のVH-Fc結合剤の具体的な一例は、ABAB-Fc結合剤、つまりは抗体のFcドメインと、2組の連結された第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体とを含む四重特異性の八量体型結合剤であって、上記抗体のFcドメインは2つのアームを含み、各アームは抗体重鎖のヒンジ領域、C2領域及びC3領域を含み、かつ各アームはアミノ末端を有しており、該Fcドメインの各アームにつき、1組の連結された第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体が、該アームのアミノ末端に結合されており、かつそれらのVHペプチド単量体が、TcdA又はTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する、結合剤である(図1を参照)。この結合剤は、4種の異なるトキシンのエピトープを認識するため、「四重特異性」と呼ばれる。この結合剤は、8つのVHペプチド単量体(同じ第一の単量体を2つ、同じ第二の単量体を2つ、同じ第三の単量体を2つ及び同じ第四の単量体を2つ)を有するため、「八量体型」と呼ばれる。ABAB-Fcは、特異的な結合活性及び中和活性を示すことが判明した。
【0125】
ABAB-Fc結合剤は、ヒトIgG1のFcドメインに結合されたVHペプチド単量体AH3/5D/AA6/E3(示される順序で連結される)をコードする発現ベクターを作製することによって製造した。それらのVHペプチド単量体は、表2のフレキシブルなリンカーによって隔てられている。それぞれの鎖をコードする核酸配列は、配列番号23に規定されている。それぞれの鎖のアミノ酸配列は、配列番号22に規定されている。発現後の対となる鎖の自己集合にあたり、四重特異性の八量体型結合剤が得られた。本発明には、配列番号22のABAB-Fc結合剤、上記で定義されたABAB結合剤の修飾物並びにタンパク質配列の全長にわたって少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有し、かつ野生型タンパク質のトキシン結合活性及び/又は中和活性を維持している配列変異体が含まれる。さらに、本発明には、これらの配列変異体をコードするポリヌクレオチド配列及びそれらの相補鎖が含まれる。
【0126】
一重特異性のVH-Fc結合剤(AH3-Fc、5D-Fc、E3-Fc、AA6-Fc)及び二重特異性のVH-Fc結合剤(例えば、AH3/5D-Fc及びAA6/E3-Fc)も、このFc融合系を使用して作られた。一重特異性の結合剤に関しては、単独のVHペプチド単量体を、ヒトIgG1のFcドメインに結合させた。発現及び集合において、対となる鎖から、一重特異性の二量体型結合剤(それらの鎖が同一である場合)又は二重特異性の二量体型結合剤(それらの鎖が異なる場合)が得られた。二重特異性の結合剤に関しては、2つの連結されたVHペプチド単量体(VHホモ二量体又はヘテロ二量体)を、ヒトIgG1のFcドメインに結合させた。発現及び集合において、対となる鎖から二重特異性の四量体型結合剤(それらの鎖が同一である場合)又は四重特異性の四量体型結合剤(それらの鎖が異なる場合)が得られた。表5は、これらの幾つかの結合剤についての配列を規定している。
【0127】
【表5】
【0128】
1つの単量体との具体的な対合には、5D-Fc+5D-Fc;E3-Fc+E3-Fc;AA6-Fc+AA6-Fc;AH3-Fc+AH3-Fc;5D-Fc+E3-Fc;5D-Fc+AA6-Fc;5D-Fc+AH3-Fc;E3-Fc+AA6-Fc;E3-Fc+AH3-Fc;及びAA6-Fc+AH3-Fcが含まれる。2つの単量体との具体的な対合には、AH3-5D-Fc+AH3-5D-Fc;AA6-E3-Fc+AA6-E3-Fc;及びAH3-5D-Fc+AA6-E3-Fcが含まれる。
【0129】
抗体のFcドメインと、2組の連結された第一のVHペプチド単量体及び第二のVHペプチド単量体とを含む二重特異性の四量体型VH-Fc結合剤であって、上記抗体のFcドメインは2つのアームを含み、各アームは抗体重鎖のヒンジ領域、C2領域及びC3領域を含み、かつ各アームはアミノ末端を有しており、該Fcドメインの各アームにつき、1組の連結された第一のVHペプチド単量体及び第二のVHペプチド単量体は、該アームのアミノ末端に結合されており、かつそれらのVHペプチド単量体が、TcdA又はTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する、結合剤が製造された。この結合剤は、2種の異なるトキシンのエピトープを認識するため、「二重特異性」と呼ばれる。この結合剤は、4つのVHペプチド単量体(同じ第一の単量体を2つ及び同じ第二の単量体を2つ)を有するため、「四量体型」と呼ばれる。第一のVHペプチド単量体及び第二のVHペプチド単量体は、同じエピトープ又は異なるエピトープに対する結合特異性を有していてもよい。VHペプチド単量体は、独立して、TcdA又はTcdBのグリコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、移行ドメイン又は受容体結合ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有していてもよい。
【0130】
二重特異性の四量体型VH-Fc結合剤の具体的な一例は、配列番号32に示されるアミノ酸配列(AH3/5D-Fc)を含む。また本発明には、少なくとも95%の配列同一性を有し、トキシン中和活性を維持しているその配列変異体も含まれる。配列変異体の変異アミノ酸は、VHペプチド単量体の骨格領域に位置していてもよい。
【0131】
二重特異性の四量体型VH-Fc結合剤の具体的な一例は、配列番号34に示されるアミノ酸配列(AA6/E3-Fc)を含む。また本発明には、少なくとも95%の配列同一性を有し、トキシン中和活性を維持しているその配列変異体も含まれる。配列変異体の変異アミノ酸は、VHペプチド単量体の骨格領域に位置していてもよい。
【0132】
H-Fc結合剤は、TcdA及び/又はTcdBに特異的に結合する。本発明の或る特定の態様においては、結合剤は、TcdA中和活性及び/又はTcdB中和活性を示す。
【0133】
H-IgG
また本発明には、Fcドメインのみではなく抗体に結合されたVHペプチド単量体を含む結合剤が含まれる。VH-IgG結合剤は、抗体の可変領域を欠いたIgG抗体の軽(κ又はλ)鎖及び重鎖に結合された1つ、2つ、3つ、4つ又はそれより多くのVHペプチド単量体を含む。したがって、ペプチド単量体は、該抗体の可変領域と置き換えられている。
【0134】
Hペプチド単量体は、先の表1に規定されたいずれかの単量体であってもよく、該単量体には、VHペプチド単量体5D(配列番号1)、E3(配列番号3)、AA6(配列番号5)及びAH3(配列番号7)が含まれる。2つ以上の単量体が連結されている場合には、それらの単量体は、一般的に10個から20個の間のアミノ酸を含むフレキシブルなペプチドリンカーによって連結され得る。適切なリンカーには、表2に規定されるリンカー、例えばリンカー-1(配列番号9)、リンカー-2(配列番号11)及びリンカー-3(配列番号13)が含まれる。
【0135】
H-IgG結合剤には、IgG抗体と、第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体とを含む八量体型結合剤であって、VHペプチド単量体が、TcdA又はTcdBのエピトープに対する結合特異性を有し、上記第一のVHペプチド単量体及び第二のVHペプチド単量体は、共に連結され、かつ上記抗体の、抗体可変領域を欠いた両方の軽鎖のアミノ末端に結合され、かつ上記第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体は、共に結合され、かつ上記抗体の、抗体可変領域を欠いた両方の重鎖のアミノ末端に結合されている、結合剤が含まれる。この結合剤は、4つのVHペプチド単量体を有することから、該結合剤は、一重特異性(単量体の全てが同じエピトープに結合する場合)、二重特異性(単量体が2種の異なるエピトープに結合する場合)、三重特異性(単量体が3種の異なるエピトープに結合する場合)又は四重特異性(単量体が4種の異なるエピトープに結合する場合)であってもよい。
【0136】
四重特異性のVH-IgG結合剤の具体的な一例は、ABAB-IgG結合剤、つまりはIgG抗体と、2組の連結された第一のVHペプチド単量体及び第二のVHペプチド単量体と、2組の連結された第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体とを含む四重特異性の八量体型結合剤であって、上記IgG抗体は2つのアームを含み、各アームは、可変領域を欠いた重鎖及び可変領域を欠いた軽鎖を含み、かつ各鎖は、アミノ末端を有しており、該抗体の各アームにつき、1組の連結された第一のVHペプチド単量体及び第二のVHペプチド単量体が、該軽鎖のアミノ末端に結合されており、かつ1組の連結された第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体が、該重鎖のアミノ末端に結合されており、かつそれらのVHペプチド単量体が、TcdA又はTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する、結合剤である(図1を参照)。この結合剤は、4種の異なるトキシンのエピトープを認識するため、「四重特異性」と呼ばれる。この結合剤は、8つのVHペプチド単量体(同じ第一の単量体を2つ、同じ第二の単量体を2つ、同じ第三の単量体を2つ及び同じ第四の単量体を2つ)を有するため、「八量体型」と呼ばれる。或る特定の態様において、第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体は、それぞれ異なるエピトープに対する結合特異性を有することができる。或る特定の態様において、VHペプチド単量体のうち2つはTcdAのエピトープに対する結合特異性を有することができ、かつVHペプチド単量体のうち2つはTcdBのエピトープに対する結合特異性を有することができる。或る特定の態様において、VHペプチド単量体は、独立して、TcdA又はTcdBのグリコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、移行ドメイン又は受容体結合ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。
【0137】
四重特異性の八量体型ABAB-IgG結合剤の具体的な一例は、配列番号46に示されるアミノ酸配列を有する軽(κ)鎖(AA6/E3κ)又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体、及び配列番号44に示されるアミノ酸配列を有する重鎖(AH3/5D重鎖)又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含む。この態様においては、該配列変異体は、トキシン中和活性を維持している。配列変異体の変異アミノ酸は、VHペプチド単量体の骨格領域に位置していてもよい。この結合剤は、第一の発現ベクターが、可変領域を欠いたヒトIgG1抗体重鎖に結合されたVHペプチド単量体AH3/5D(示される順序で連結される)をコードし、第二の発現ベクターが、可変領域を欠いたヒトIgG1抗体の軽(κ)鎖に結合されたVHペプチド単量体AA6/E3(示される順序で連結される)をコードする2つの別個の発現ベクターを作製することによって製造された。AA6/E3-IgG1軽(κ)鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号47に規定されている。AH3/5D-IgG1重鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号45に規定されている。本発明には、タンパク質配列の全長にわたって少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列同一性を有し、かつ野生型タンパク質のトキシン結合活性及び/又は中和活性を維持しているABAB-IgGの配列変異体が含まれる。さらに、本発明には、これらの配列変異体をコードするポリヌクレオチド配列及びそれらの相補鎖が含まれる。
【0138】
二重特異性又は四重特異性の四量体型IgG結合剤は、本発明に含まれる。そのような結合剤は、IgG抗体と、第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体及び第四のVHペプチド単量体とを含み、上記IgG抗体は2つのアームを含み、各アームは、可変領域を欠いた重鎖及び可変領域を欠いた軽鎖を含み、かつ各鎖は、アミノ末端を有しており、該抗体の第一のアームにつき、第一のVHペプチド単量体は、該軽鎖のアミノ末端に結合されており、かつ第二のVHペプチド単量体は、該重鎖のアミノ末端に結合されており、該抗体の第二のアームにつき、第三のVHペプチド単量体は、該軽鎖のアミノ末端に結合されており、かつ第四のVHペプチド単量体は、該重鎖のアミノ末端に結合されており、かつそれらのVHペプチド単量体は、TcdA又はTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。結合剤が「四重特異性」である場合に、該結合剤は、4種の異なるトキシンのエピトープを認識し、「二重特異性」の場合には、該結合剤は、2種の異なるトキシンのエピトープを認識する。結合剤は、それらが4つのVHペプチド単量体を有する場合には「四量体型」である(二重特異性の場合に、第一の単量体及び第二の単量体は同じ配列を有し、同じエピトープに結合し、かつ第三の単量体及び第四の単量体は同じ配列を有し、同じエピトープに結合する;四重特異性の場合に、各々の単量体は異なる配列を有し、異なるエピトープに結合する)。
【0139】
結合剤が二重特異性である場合に、第一の単量体及び第三の単量体は、異なるエピトープに対する結合特異性を有し、第一の単量体及び第二の単量体は、同一のアミノ酸配列を有し、かつ第三の単量体及び第四の単量体は、同一のアミノ酸配列を有する。或る特定の態様において、VHペプチド単量体のうち1つはTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつVHペプチド単量体のうち1つはTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0140】
結合剤が四重特異性である場合に、VHペプチド単量体の各々は、異なるエピトープに対する結合特異性を有する。或る特定の態様において、VHペプチド単量体のうち2つはTcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつVHペプチド単量体のうち2つはTcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0141】
或る特定の態様において、VHペプチド単量体の各々は、TcdAのエピトープに対する結合特異性を有する。他の態様において、VHペプチド単量体の各々は、TcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。
【0142】
或る特定の態様において、VHペプチド単量体は、独立して、TcdA又はTcdBのグリコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、移行ドメイン又は受容体結合ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。
【0143】
二重特異性の四量体型IgG結合剤の具体的な一例は、配列番号40に示されるアミノ酸配列を有する軽(κ)鎖(AA6κ)及び配列番号36に示されるアミノ酸配列を有する重鎖(AH3重鎖)を含む。また本発明には、少なくとも95%の配列同一性を有し、トキシン中和活性を維持しているその配列変異体も含まれる。配列変異体の変異アミノ酸は、VHペプチド単量体の骨格領域に位置していてもよい。
【0144】
二重特異性の四量体型IgG結合剤のもう一つの具体的な例は、配列番号42に示されるアミノ酸配列を有する軽(κ)鎖(E3κ)及び配列番号38に示されるアミノ酸配列を有する重鎖(5D重鎖)を含む。また本発明には、少なくとも95%の配列同一性を有し、トキシン中和活性を維持しているその配列変異体も含まれる。配列変異体の変異アミノ酸は、VHペプチド単量体の骨格領域に位置していてもよい。
【0145】
表6は、二重特異性及び四重特異性のVH-IgG結合剤を作製するために使用される配列を規定している。その他の適切な対合には、(i)5D-IgG1-重鎖+AA6-軽(κ又はλ)鎖、及び(ii)AH3-IgG1-重鎖+E3-軽(κ又はλ)鎖が含まれる。
【0146】
【表6】
【0147】
しかしながら、本発明には、AH3、5D、AA6及びE3のいずれかに結合されたIgG1重鎖、並びにAH3、5D、AA6及びE3のいずれかに結合されたIgG1軽(κ又はλ)鎖が含まれる。さらに、重鎖及び軽(κ又はλ)鎖の全ての可能な組み合わせが、本明細書に包含される。
【0148】
ヒト化された結合剤
Hペプチド単量体は、それらの小さいサイズ及びそれらの骨格のファミリーIIIのヒトV骨格との高度の同一性のため、ヒトに投与される場合に低い免疫原性しか示さないことが期待される。小さい一価VH単量体の全身性適用は、あってもごく僅かな中和性の抗体応答しか誘発しないと思われるが、タンパク質の免疫原性は、一般的にサイズ及び複雑さに伴って増大する。VH単量体の繰り返しの及び/又は長期にわたるin vivoでの使用のための2つの大きな障壁は、それらの短いと考えられる半減期及び潜在的な免疫原性である。価数及び血中半減期を高めるために、VH単量体は、本明細書で論じられるようにヒトIgG及びFcドメインと融合させることができる。考えられる免疫原性に対処するために、VH単量体は、その発現レベル、親和性、可溶性及び安定性を損なうことなく、必要に応じてヒト化することができる。これらの戦略は、ループドナーVHの抗原特異性及び親和性を維持しながら、ヒト化されたVH単量体(hVH単量体)の良好な発現、安定性及び可溶性をもたらすはずである。
【0149】
1つ以上のヒトV遺伝子との最高の同一性を確保し、最高の結合/中和活性を有するhVH単量体を選択し、その後に、該単量体は、VH多量体(例えば、ABAB)、VH-Fc及びVH-IgG構築物へと変換され、こうして完全ヒト化された結合剤、例えば完全ヒト化されたABAB、ABAB-IgG結合剤及びABAB-Fc結合剤が作製される。これらのヒト化された結合剤のタンパク質配列は、抗体のその標的抗原への結合能を担うCDRセグメントの幾つかが非ヒト起源であるにもかかわらず、ヒト抗体変異体の配列と本質的に同一であり得る。したがって、この戦略は、in vivoでの潜在的な免疫原性の可能性を低下させることで、in vivoでのそれらの安全性及び半減期を高める。
【0150】
したがって、本発明の結合剤は、本明細書で定義されたそれぞれの結合剤の、hVHペプチド単量体を含むヒト化された形式を包含する。
【0151】
エピトープ結合断片
本発明の結合剤には、本明細書で定義されるVH-Fc結合剤及びVH-IgG結合剤のそれぞれのエピトープ結合断片が含まれる。VH-Fc結合剤及びVH-IgG結合剤は、可変領域がVH単量体によって置き換えられたヒトIgG抗体と構造の点で同等であることから、ヒト抗体フラグメントに関する用語は、そのような結合剤についても該当し得る。該フラグメントには、限定されるものではないが、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、単鎖Fv(scFv)抗体、及びFab発現ライブラリーによって生成されるフラグメント、並びに二重特異性抗体及び三重特異性抗体が含まれる。
【0152】
本発明のVH-Fc結合剤及びVH-IgG結合剤には、完全にヒト型の結合剤、ヒト化された結合剤、及びキメラ型結合剤が含まれる。結合剤は、モノクローナル型又はポリクローナル型であってもよい。さらに、結合剤は、組換え型の結合剤であってもよい。
【0153】
結合剤は、任意の種の動物において、けれども好ましくは哺乳動物、例えばヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ又はネコにおいて産生させることができる。例えば結合剤は、ヒト型若しくはヒト化されたものであってもよく、又はヒトへの投与に適したあらゆる結合剤調製物であってもよい。
【0154】
ポリヌクレオチド、発現ベクター、宿主細胞及び作製方法
本発明には、本明細書で規定される各々の結合剤をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド及びそれらの相補鎖が含まれる。
【0155】
また本発明には、上記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター及び該発現ベクターを含む宿主細胞も含まれる。適切な発現ベクターには、例えばpcDNA3.1及びpSec-His、並びに酵母細胞を本発明の結合剤の産生体及び分泌体へと形質転換するのに使用されるプラスミドが含まれる。適切な宿主細胞には、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)、ヒト胎児腎細胞293(HEK293細胞)、酵母細胞、及び昆虫細胞が含まれる。
【0156】
さらに、本発明には、本明細書で定義される結合剤を製造する方法であって、宿主細胞を、発現ベクターによってコードされる結合剤の発現を促進する条件下で培養することと、該結合剤を細胞培養物から回収することとを含む、方法が含まれる。
【0157】
操作された酵母菌株
本発明の結合剤の各々は、操作されたサッカロマイセス属酵母菌株によって産生されてもよい。したがって、本発明はまた、本明細書で定義される結合剤(限定されるものではないが、VH単量体型の結合剤(表1を参照)、VHホモ二量体型の結合剤、VHヘテロ二量体型の結合剤(表3を参照)、ABAB結合剤、VH-Fc結合剤(表5を参照)、VH-IgG結合剤(表6を参照)、及びそれらのエピトープ結合フラグメントを含む)のうちの1種以上を産生するように操作されたサッカロマイセス属酵母菌株、例えばS.セレビシエ及びS.ボウラルディに関する。好ましい態様においては、操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、結合剤を分泌する。
【0158】
サッカロマイセス属酵母菌株のその個性は、本発明の1種以上の結合剤を産生し、好ましくは分泌するように操作され得ることにのみ限定される。本発明の好ましい態様においては、1種以上の結合剤を産生するように操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。このように、本発明は、本明細書で定義される1種以上の結合剤を産生する操作されたS.セレビシエ菌株、並びに本明細書で定義される1種以上の結合剤を分泌する操作されたS.セレビシエ菌株を含む。また、本発明は、本明細書で定義される1種以上の結合剤を産生する操作されたS.ボウラルディ菌株、並びに本明細書で定義される1種以上の結合剤を分泌する操作されたS.ボウラルディ菌株を含む。適切な酵母菌株には、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、サッカロマイセス・パラドクサス(Saccharomyces paradoxus)、及びサッカロマイセス・ウニスポラス(Saccharomyces unisporus)も含まれる。
【0159】
S.ボウラルディは、FDA指定の一般に安全と認められる(GRAS)生物であり、腸の健康促進及び下痢症状による胃腸病の回復に使用するために処方箋なしで一般に入手可能である。この酵母種は、CDIを含む腸疾患に対する安全性及び効力の両方について、多施設無作為化二重盲検プラセボ対照臨床試験において研究されている[42~46]。適切なS.ボウラルディ菌株は、S.ボウラルディ菌株MYA796(ACTT、バージニア州、マナサス)である。
【0160】
本発明の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株の具体例は、VHペプチド単量体を含む結合剤、又は2つ、3つ、4つ若しくはそれより多くの単量体を含む連結されたVHペプチド単量体の群を含む結合剤であって、該単量体の各々がTcdA及び/又はTcdBに、好ましくは特異的に結合する結合剤を産生する操作されたサッカロマイセス属酵母菌株である。このように、本発明は、少なくとも1つのVHペプチド単量体を含むVHペプチド結合剤であって、各々のVHペプチド単量体が、C.ディフィシルのトキシンA(TcdA)又はトキシンB(TcdB)のエピトープに対して結合特異性を有する結合剤を産生する操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を包含する。或る特定の態様において、これらの結合剤は、2つ、3つ、4つ又はそれより多くの連結されたVHペプチド単量体を含む。VHペプチド単量体には、限定されるものではないが、VHペプチド単量体5D(配列番号1)、E3(配列番号3)、AA6(配列番号5)及びAH3(配列番号7)が含まれる。
【0161】
本発明の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株の別の具体例は、本明細書で定義される、IgG抗体に結合されたVHペプチド単量体を含む、TcdA及び/又はTcdBに結合する結合剤を産生する操作されたサッカロマイセス属酵母菌株である。これらのIgGベースの結合剤においては、IgG抗体の軽鎖及び重鎖の可変領域が、1つ、2つ、3つ、4つ又はそれより多くのVHペプチド単量体によって置き換えられている。
【0162】
本発明の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株の更なる具体例は、本明細書で定義される、抗体Fcドメインに結合されたVHペプチド単量体を含む、TcdA及び/又はTcdBに結合する結合剤を産生する操作されたサッカロマイセス属酵母菌株である。これらのFcドメインベースの結合剤においては、1つ、2つ、3つ、4つ又はそれより多くのVHペプチド単量体が、抗体重鎖のFcドメインの各アームのヒンジ領域、C2領域及びC3領域に結合されている。したがって、ペプチド単量体は、抗体のFab領域と置き換えられている。
【0163】
本発明の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株の追加の具体例は、四重特異性の四量体型結合剤を産生する操作されたサッカロマイセス属酵母菌株であって、上記結合剤は、連結された第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体、及び第四のVHペプチド単量体を含み、かつそれらのVHペプチド単量体は、独立して、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA(TcdA)又はトキシンB(TcdB)のエピトープに対して結合特異性を有する、操作されたサッカロマイセス属酵母菌株である。或る特定の態様において、第一のVHペプチド単量体、第二のVHペプチド単量体、第三のVHペプチド単量体、及び第四のVHペプチド単量体は、それぞれ異なるエピトープに対する結合特異性を有する。或る特定の態様において、VHペプチド単量体のうち2つは、TcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつVHペプチド単量体のうち2つは、TcdBのエピトープに対する結合特異性を有する。或る特定の態様において、VHペプチド単量体は、独立して、TcdA又はTcdBのグリコシルトランスフェラーゼドメイン、システインプロテアーゼドメイン、移行ドメイン又は受容体結合ドメイン中のエピトープに対する結合特異性を有する。適切なVHペプチド単量体には、AH3単量体(配列番号7)、AA6単量体(配列番号5)、5D単量体(配列番号1)、及びE3単量体(配列番号3)が含まれる。その他の単量体は、限定されるものではないが、表1に示される単量体を含む。
【0164】
好ましい例においては、本発明は、上記結合剤はABABであり、ここで第一の単量体及び第三の単量体は、TcdAのエピトープに対する結合特異性を有し、かつ第一の単量体及び第三の単量体は、それぞれVHペプチド単量体AH3(配列番号7)及びAA6(配列番号5)であり、かつ第二の単量体及び第四の単量体は、TcdBのエピトープに対する結合特異性を有し、かつ第二の単量体及び第四の単量体は、それぞれVHペプチド単量体5D(配列番号1)及びE3(配列番号3)である、操作された酵母菌株に関する。
【0165】
ABAB結合剤は、配列番号19に示されるアミノ酸配列又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含んでよく、かつ該配列変異体は、TcdA結合特異性及び/又はTcdB結合特異性を維持しているか、又は該配列変異体は、トキシン中和活性を維持しているか、又はその両方を維持している。
【0166】
ABAB結合剤は、表4に示される分泌シグナルから選択されるN末端分泌シグナルを含んでいてもよい。好ましい態様においては、N末端分泌シグナルは、AT分泌シグナル(MRFPSIFTAVLFAASSALA(配列番号99))又はIVS分泌シグナル(MLLQAFLFLLAGFAAKISA(配列番号103))である。
【0167】
ABAB結合剤は、酵母内のプラスミドから発現されていてもよい。そのプラスミドは、限定されるものではないが、pCEV-URA3-TEF-AT-yABAB-cMyc(配列番号88)であってもよい。プラスミドによりコードされるABAB結合剤は、配列番号107に示されるアミノ酸配列又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含んでよく、かつ該配列変異体は、TcdA結合特異性及び/又はTcdB結合特異性を維持しているか、又は該配列変異体は、トキシン中和活性を維持しているか、又はその両方を維持している。
【0168】
ABAB結合剤は、酵母の染色体中に組み込まれたコーディング配列から発現していてもよい。酵母染色体中に組み込まれたコーディング配列から発現されるABAB結合剤は、配列番号109に示されるアミノ酸配列又はその配列に対する少なくとも95%の配列同一性を有する配列変異体を含んでよく、かつ該配列変異体は、TcdA結合特異性及び/又はTcdB結合特異性を維持しているか、又は該配列変異体は、トキシン中和活性を維持しているか、又はその両方を維持している。
【0169】
また本発明は、クロストリジウム・ディフィシルのトキシンA(TcdA)若しくはトキシンB(TcdB)の固有のエピトープ、又は両方に対する結合特異性を有する治療タンパク質を産生する操作されたサッカロマイセス属酵母菌株に関する。好ましくは、操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。治療タンパク質は、被験体における医学的状態の改善若しくは治癒をもたらすことができるか、又は被験体において医学的状態が発生することを防止若しくは抑制することができるあらゆるタンパク質である。適切な治療タンパク質には、限定されるものではないが、(a)欠陥又は異常のあるタンパク質に置き換わるタンパク質、(b)既存の経路を増加させるタンパク質、(c)新規の機能又は活性を提供するタンパク質、(d)分子又は生物と干渉するタンパク質、及び(e)放射線核種、細胞傷害性薬物又はエフェクタータンパク質等のその他の化合物又はタンパク質を送達するタンパク質が含まれる。また治療タンパク質には、抗体及び抗体ベース薬物、Fc融合タンパク質、抗凝固薬、血液因子、骨形成タンパク質、操作された足場タンパク質、酵素、成長因子、ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、並びに血栓溶解薬も含まれる。さらに治療タンパク質は、二重特異性モノクローナル抗体(mAb)及び多重特異性融合タンパク質、小分子薬物と結合されたモノクローナル抗体、並びに最適化された薬物動態を有するタンパク質が含まれる。
【0170】
操作された酵母菌株の作製方法
また本発明は、本明細書で定義される1種以上の結合剤を産生するようにサッカロマイセス属酵母菌株を操作する方法に関する。操作された酵母菌株を作製するために使用される手段は、特に限定されるものではなく、酵母を操作して同種タンパク質及び異種タンパク質を産生するために利用可能な当業者に知られている十分に確立されている数多くの技術が存在する。これらの方法の或る特定の態様においては、S.セレビシエ又はS.ボウラルディは、結合剤を産生するように操作されている。
【0171】
一例として、サッカロマイセス属酵母は、(a)サッカロマイセス属酵母菌株を、該結合剤をコードする発現ベクターで形質転換させること、及び(b)得られた酵母を該結合剤の産生についてスクリーニングすることにより、本明細書で定義される1種以上の結合剤を産生するように操作することができる。或る特定の態様において、発現ベクターは、プラスミドpCEV-URA3-TEF-AT-yABAB-cMyc(配列番号88)である。このプラスミドは、特定のABAB結合剤をコードするが、この結合剤のためのコーディング領域は、本明細書で定義される結合剤のどのコーディング領域によって置き換えられていてもよい。
【0172】
更なる例として、サッカロマイセス属酵母は、(a)結合剤をコードするポリヌクレオチド配列を、サッカロマイセス属酵母菌株のゲノム中に染色体組込みすること、及び(b)(a)の酵母を該結合剤の産生についてスクリーニングすることにより、本明細書で定義される1種以上の結合剤を産生するように操作することができる。或る特定の態様においては、染色体組込みは、CRISPR技術を使用して行われる[85~88]。一例としては、そのような方法は、(a)ABAB結合剤をコードするポリヌクレオチド配列を、プラスミドpCEV-G4-Km-TEF-AT-yABAB hAA6T83N-タグなし(配列番号90)から、(i)選択された酵母染色体組込み部位に相同な核酸配列、並びに(ii)該プラスミドのABAB結合剤をコードする配列の5’領域及び3’領域に相同な核酸配列を含むプライマーを使用して増幅させて、組込みカセットを作製する工程と、(b)酵母を(a)で作製された組込みカセットと一緒にpCRI-Sb-δ1(配列番号91)又はpCRI-Sb-δ2(配列番号92)で形質転換させることで、相応の酵母染色体のδ部位内で、二本鎖切断の部位中への組込みカセットの自発的組込みを促進する条件下で二本鎖切断を誘導する工程と、(c)(b)の形質転換された酵母を、ABAB結合剤の産生についてスクリーニングする工程とを含んでよい。
【0173】
プラスミドpCEV-G4-Km-TEF-AT-yABAB hAA6T83N-タグなしは、特定のABAB結合剤をコードするが、この結合剤のためのコーディング領域は、本明細書で定義される結合剤のどのコーディング領域によって置き換えられていてもよい。
【0174】
結合剤の産生について酵母をスクリーニングするために使用される適切な手段は、当業者には容易に理解されるものであり、それには、限定されるものではないが、ELISA又はウェスタンブロット等のイムノアッセイが含まれる。
【0175】
治療及び予防の方法
本発明の結合剤及び操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、被験体におけるC.ディフィシルによって誘発される疾患症状を治療又は予防する方法において使用することができる。これらの方法は、一般的に、治療的有効量の本明細書で定義される1種以上の結合剤及び/又は1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を、C.ディフィシル感染症又はC.ディフィシル感染症の発症のリスクを伴う被験体に投与することを含む。この実施形態の或る特定の態様において、C.ディフィシルにより誘発された疾患症状は、下痢である。
【0176】
また本発明の結合剤及び操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、C.ディフィシルにより感染された被験体においてC.ディフィシルのトキシンTcdA及び/又はTcdBを中和するにあたり使用することもできる。これらの方法は、一般的に、治療的有効量の本明細書で定義される1種以上の結合剤及び/又は1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を、C.ディフィシル感染症を伴う被験体に投与することを含む。
【0177】
さらに、本発明の結合剤及び操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、被験体におけるC.ディフィシル感染症を治療する方法において使用することができる。これらの方法は、一般的に、治療的有効量の本明細書で定義される1種以上の結合剤及び/又は1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を、C.ディフィシル感染症を伴う被験体に投与することを含む。これらの同じ方法は、本明細書で定義されるように、CDIの治療のために使用することができる。
【0178】
本発明の結合剤及び操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、C.ディフィシル感染症を伴う被験体において正常な腸機能を維持する方法において使用することもできる。これらの方法は、一般的に、治療的有効量の本明細書で定義される1種以上の結合剤及び/又は1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を、C.ディフィシル感染症又はC.ディフィシル感染症の発症のリスクを伴う被験体に投与することを含む。
【0179】
また結合剤及び操作されたサッカロマイセス属酵母菌株は、即時的なCDIの脅威を予防するための免疫予防において使用することもできる。さらに、受動免疫予防は、即時的及び長期的なCDIの脅威の両方を予防するために使用することができる。それぞれのアプローチは、それ自体に特定の利点を伴い、特定の高リスク集団を対象とするために適している。これらの方法は、一般的に、治療的有効量の本明細書で定義される1種以上の結合剤及び/又は1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を、C.ディフィシル感染症を発症するリスクがある被験体に投与することを含む。
【0180】
本発明の方法の好ましい態様において、サッカロマイセス属酵母は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。
【0181】
本発明の各々の方法は、1種以上の結合剤及び/又は1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を、該結合剤及び/又は操作されたサッカロマイセス属酵母菌株と、医薬品に許容可能な担体又は希釈剤とを含む1種以上の医薬製剤において投与することを含み得る。好ましい態様において、サッカロマイセス属酵母は、S.セレビシエ又はS.ボウラルディである。
【0182】
本明細書で使用される場合に、用語「治療する」、「治療している」、及び「治療」は、それらの通常かつ慣例的な意味を有し、その用語には、被験体におけるC.ディフィシル感染症若しくはC.ディフィシル関連疾患(CDI)の阻止、回復若しくはそれらの症状の重症度及び/又は頻度の低下、及び/又はC.ディフィシルに感染した被験体におけるC.ディフィシルのTcdA及び/又はTcdBの生物学的活性の部分的若しくは完全な阻害及び/又はその免疫学的クリアランスの増進、及び/又は被験体におけるC.ディフィシル細胞の成長、分裂、伝播若しくは増殖、若しくはC.ディフィシル感染の1つ以上が含まれる。治療とは、本発明の方法を実施していない被験体に対する約1%~約100%の阻止、回復、低下又は阻害を意味する。好ましくは、その阻止、回復、低下又は阻害は、本発明の方法を実施していない被験体に対して約100%、99%、98%、97%、96%、95%、90%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%、5%又は1%である。
【0183】
本明細書で使用される場合に、用語「予防する」、「予防している」、及び「予防」は、それらの通常かつ慣例的な意味を有し、その用語には、被験体におけるC.ディフィシルのコロニー形成、発生若しくは進展の停止、防止、回避、軽減若しくは阻止、及び/又はC.ディフィシルに感染した被験体におけるTcdA及び/又はTcdBの生物学的活性及び/又は毒性効果の部分的若しくは完全な阻害、及び/又は被験体における細菌細胞の成長、分裂、伝播若しくは増殖、若しくは細菌感染の停止、防止、回避、軽減若しくは阻止の1つ以上が含まれる。予防は、予防処置がされていない被験体に対して、少なくとも約95%だけ停止することを意味する。好ましくは、その停止は、約100%、約99%、約98%、約97%、約96%又は約95%である。予防の成果は、日数単位(例えば、1日、2日、3日、4日、5日、6日又は7日)、週単位(例えば、1週間、2週間、3週間又は4週間)、又は月単位(例えば、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月以上)の期間にわたって継続し得る。
【0184】
本明細書で規定される治療及び予防の方法は、治療的有効量の抗生物質を被験体に投与することによっても補うことができる。好ましくは、抗生物質は、C.ディフィシルに対する抗菌活性を有することとなる。
【0185】
医薬製剤
結合剤及び操作されたサッカロマイセス属酵母菌株が被験体に直接的に投与され得る場合には、本発明の方法は、好ましくは1種以上の結合剤及び/又は1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株と、医薬品に許容可能な担体又は希釈剤とを含む医薬製剤を投与することを基礎とする。したがって、本発明には、本明細書で定義される1種以上の結合剤及び/又は1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株と、医薬品に許容可能な担体又は希釈剤とを含む医薬製剤が含まれる。
【0186】
医薬品に許容可能な担体及び希釈剤は、一般的に知られており、投与される具体的な結合剤又は操作されたサッカロマイセス属酵母菌株及び投与方法に応じて様々であってもよい。一般的に使用される担体及び希釈剤の例には、限定されるものではないが、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール及びそれらの組み合わせ、安定化剤、可溶化剤及び界面活性剤、緩衝剤及び保存剤、等張剤、増量剤並びに滑沢剤が含まれる。結合剤及び/又は操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を含む製剤は、一般的に、任意の非ヒト成分、例えば動物血清(例えばウシ血清アルブミン)の不存在下に調製及び培養されることとなる。
【0187】
1種以上の結合剤及び/又は1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を含む医薬製剤は、被験体へと当業者に既知の方法及び技術を使用して投与することができる。CDI疾患の特徴により、該製剤は、治療剤の注腸的送達、すなわち結合剤の下部GI管、例えば大腸又は結腸に対する狙いを定めた送達を使用する治療及び予防のためにより適したものになり得る。その他の送達方法には、限定されるものではないが、経口投与、鼻内投与、経肛門投与、静脈内注射又はエアロゾル投与が含まれる。他の方法には、限定されるものではないが、皮内、皮下(s.c.、s.q.、sub-Q、Hypo)、筋内(i.m.)、腹腔内(i.p.)、動脈内、髄内、心臓内、関節内(関節)、髄液包内(髄液領域)、頭蓋内、髄腔内及びくも膜下(髄液)が含まれる。
【0188】
投与の手段に応じて、投与量は、一度に全て、例えばカプセル剤若しくは液剤の経口用製剤で投与されてもよく、又はゆっくりと時間をかけて、例えば筋内若しくは静脈内投与で投与されてもよい。
【0189】
被験体に投与される単独の又は医薬製剤中の結合剤の量は、感染症の治療又は予防のために有効な量である。したがって、治療的有効量は、本発明の方法が実施される場合に被験体に投与される。一般的に、被験体の体重1kg当たりに約1μgから約1000mgの間の結合剤が投与される。また適切な範囲には、約50μg/kgから約500mg/kgの間が含まれ、かつ約10μg/kgから約100mg/kgの間も含まれる。しかしながら、被験体に投与される結合剤の量は、場所、起源、感染症の程度及び重症度、治療されるべき被験体の年齢及び状態、投与手段等に依存して広い範囲の間で変動することとなる。医師は、最終的に使用すべき適切な投与量を決定するであろう。
【0190】
被験体に投与される単独の又は医薬製剤中の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株の量は、感染症の治療又は予防のために有効な量である。したがって、治療的有効量は、本発明の方法が実施される場合に被験体に投与される。一般的に、被験体の体重1kg当たりに約1μgから約1000mgの間の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株が投与される。また適切な範囲には、約50μg/kgから約500mg/kgの間が含まれ、かつ約10μg/kgから約100mg/kgの間も含まれる。しかしながら、被験体に投与される操作されたサッカロマイセス属酵母菌株の量は、場所、起源、感染症の程度及び重症度、治療されるべき被験体の年齢及び状態、投与手段等に依存して広い範囲の間で変動することとなる。医師は、最終的に使用すべき適切な投与量を決定するであろう。
【0191】
結合剤、操作されたサッカロマイセス属酵母菌株、並びに結合剤及び/又は操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を含む医薬製剤の投与頻度は、細菌感染の位置、治療又は予防されるべき感染症の詳細、及び投与方法を含む要因に応じて変動することとなる。それぞれの製剤は、独立して、1日4回、3回、2回若しくは1回、1日置きに、2日置きに、3日置きに、4日置きに、5日置きに、1週間に1回、7日置きに、8日置きに、9日置きに、隔週で、毎月、そして隔月で投与してもよい。
【0192】
治療又は予防の期間は、治療される感染の位置及び重症度又は感染症に罹る相対リスクを基礎とすることとなり、所属医師によって最良の決定がなされることとなる。しかしながら、治療の継続は、何日間、何週間、又は何ヶ月にもわたり継続するように検討される。
【0193】
本発明のそれぞれの実施形態及び態様においては、被験体は、ヒト、非ヒトの霊長類、トリ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、伴侶動物、例えばイヌ、ネコ若しくは齧歯類又は他の哺乳動物である。本発明の方法が適用され得る被験体には、C.ディフィシル感染症により罹りやすくなる潜在的な疾患又は状態を伴う被験体が含まれる。
【0194】
本発明は、1種以上の結合剤、1種以上の操作されたサッカロマイセス属酵母菌株、又は結合剤及び/又は操作されたサッカロマイセス属酵母菌株を含む1種以上の医薬製剤を充填した1つ以上の容器を含むキットも提供する。キットは使用説明書も含み得る。医薬品又はバイオ製品の製造、使用又は販売を規制する行政機関によって指定される形式の、機関によるヒト投与のための製造、使用又は販売の認可を反映する通知もキットに更に付属し得る。
【実施例
【0195】
III.実施例
H単量体型及びヘテロ二量体型結合剤
単独のドメイン(単量体型)の、トキシンTcdA及びTcdBの特異的ドメインに対する一重特異性のVHペプチド単量体をスクリーニングするための効果的なプラットフォームを確立した。免疫原性の高い非毒性のホロトキシンを免疫化のために使用し、かつ生体活性のキメラ型トキシン(通常のドメイン機能を有する)をスクリーニングのために使用することで、VH単量体の、TcdA又はTcdBの種々のドメインへの結合のパネルを作製した。これらのVH単量体の多くが強力な中和活性を有し、それらの特異的ドメインへの結合を確認した(図2)。その非毒性のホロトキシンは、従来に記載される通り[33]、それらの酵素的グルコシルトランスフェラーゼドメインに点突然変異を有する。生体活性のキメラ型トキシンを、また従来に記載される通り[33]、TcdA及びTcdBの間で機能的ドメインを交換することによって作製した。
【0196】
H単量体の幾つかは、高度に保存されたTcdA/TcdBエピトープに結合する。例えば、VH E3単量体は、Rho GTPアーゼ結合部位に結合し、グリコシル化を阻止し、VH AH3単量体は、該トキシンのGTドメインに結合し、VH 7F単量体は、システインプロテアーゼ開裂部位に結合し、そしてGTドメインの開裂及び放出を阻止する。幾つかのVH単量体は強力な中和活性を有しており、トキシンの細胞毒性活性をnM濃度で阻止することが可能である(表1;図3のA及び図3のBを参照)。
【0197】
結合活性を高めるために、2つのドメイン(二量体型)の二重特異性のVHヘテロ二量体を作製(表3;図3のC)することで、単独のタンパク質が、トキシンの2種の異なるエピトープを標的とすることが可能となった。これらの二重特異性のVHヘテロ二量体は、同じ2つのVH単量体の等モルの混合物と比較して、本質的に増強された中和活性を有していた(図3のD)。ヘテロ二量体5D/E3及びAH3/AA6は、致死的な全身性のTcdB負荷又はTcdA負荷からそれぞれマウスを十分に防御することが見出されたが、5DとE3とを混合したもの、又はAA6単独は、部分的にのみ防御性であるに過ぎない(図3のE及びF)。
【0198】
四価の三重特異性VH結合剤(ABA)は、保存された重複していないエピトープを標的とする最高の中和活性を有するVHを遺伝子融合させることによって生成された(AH3/E3/E3/AA6)[41]。この合理的に設計されたトキシンへの結合剤は、個別の単量体と比べて本質的に高まっている結合親和性及び中和活性、並びに劇症性CDIに対する強力な治療効力を達成した。ABAは、11種の異なるTcdA陽性TcdB陽性のC.ディフィシルの臨床分離菌からのトキシンを広範に中和することが可能であるが、2種類のTcdA陰性TcdB陽性の菌株に由来するTcdBは中和することができなかった。ABAのアミノ酸配列は、配列番号111に示されている。
【0199】
ヘテロ二量体を含むVH単量体は、配列番号9~配列番号13(表2)から選択されるフレキシブルなリンカーを使用して連結させた。
【0200】
ABAB結合剤
4つのドメイン(四量体型)の四重特異性VH結合剤を、VH単量体のAH3、5D、E3及びAA6を連結させることによって、つまりABBA(AH3/5D/E3/AA6)及びABAB(AH3/5D/AA6/E3)を作製した。これらの四重特異性の四量体型結合剤は、保存された重複していないエピトープを標的とし、優れたトキシン中和活性を有する。ABAB(図4)の設計において、VHペプチド単量体AH3及びAA6を、それらの間に5D単量体を配置することによって隔てられた。それというのも、AH3及びAA6は、それぞれ互いに空間的に距離が置かれたGT及びTDに結合するからである(図2)。この設計により、AH3及びAA6は、TcdAに同時に結合することが可能となった。
【0201】
ABAB結合剤の構築において、フレキシブルなリンカーを、VH単量体の間に配置した(図4を参照)。ABABをコードする完全な核酸配列は、配列番号20に規定され、そのタンパク質のアミノ酸配列は、配列番号19に規定されている。
【0202】
或る特定の別形においては、His(6)-タグを、該タンパク質のアミノ末端に精製の補助のために設け、E-タグを、該タンパク質のカルボキシ末端に検出の補助のために設け、及び/又はアルブミン結合ペプチド(ABP、DICLPRWGCLWD;配列番号21)は、該タンパク質の血清中半減期を高めるために該構築物のカルボキシル末端に配置した(図4を参照)。
【0203】
ABABは、個々の単量体及びABAに比べて本質的に高められた結合親和性(表7)及び中和活性(表8)を示すことが分かった。表8において、ベロ細胞を、連続希釈されたAA6、AH3、ABAB又はMerck社の抗TcdA HuMab[9]の存在下で5ng/mlのTcdAに曝した。TcdAに誘発される細胞円形化から細胞を防御する抗体の最低用量を示す。
【0204】
【表7】
【0205】
【表8】
【0206】
ABABは、競合ELISAにおいて全ての4つの個々のVHペプチド単量体と競合し、そしてサンドウィッチELISAによって測定した場合にTcdA及びTcdBの両方に同時に結合し得ることも分かった。さらに、ABABは反応性が広範であり、最近の流行性菌株の殆どを代表する13種の異なるC.ディフィシル菌株由来のトキシンを中和することができる(表9)。
【0207】
【表9】
【0208】
ABABは、両方のトキシンへの結合及びそれらの中和に高い効力を示すことから、劇症性CDIの治療におけるその効力を評価した。C.ディフィシル胞子の負荷1日後に、たった40μg/kgのABABによる単回注射だけで、マウスにおける劇症性CDIが一転した。ABAB処置されたマウスは死ななかったが、コントロールマウスの50%は、感染3日後に瀕死の状態となった(図5A)。ABABは、TcdA及びTcdBでの全身性負荷後の死亡の予防においてMerck社のHuMabsと比べて4-logも強力である(図5B)[9]。このように、ABABは、C.ディフィシルのトキシン及び胞子の負荷に対して並外れたin vivo効力を有する。
【0209】
動物及びヒトの研究によって、受動投与された抗トキシン抗体がCDIに対する防御をもたらすことが裏付けられた。初期の研究でも、抗トキシン多価血清が、マウスを原発性CDI(図6のA及び図6のB)及び再発性/再燃性CDIから防御することが示された。これらの知見及び図5A及び図5Bからの結果は、仮説を支持しており、CDIの予防のための非経口ABAB免疫化戦略の開発のための根拠を与えた。ABABを全身性送達のために最適化するという目標を達成するために、図1に図説されるキメラ型及びヒト化されたABABを、すなわちVH-Fc結合剤及びVH-IgG結合剤並びにヒト化されたタンパク質hVH-Fc及びhVH-IgGを作製し、その後に、有力なタンパク質を、動物モデルにおいてin vivo中和活性及び防御について評価した。追加の結合剤の製造及び試験に関する詳細は、以下の段落に規定されている。
【0210】
ABAB-Fc
ABAB-Fc結合剤は、ヒトIgG1のFcドメインに結合されたVHペプチド単量体AH3/5D/AA6/E3(示される順序で連結される)をコードする発現ベクターを作製することによって製造した。VHペプチド単量体は、表2のフレキシブルなリンカーによって隔てられた。該タンパク質をコードする核酸配列は、配列番号23に規定されている。ABAB-Fcは、安定にトランスフェクションされたHEK293細胞系統の培養上清からプロテインAビーズを使用して、ジスルフィド結合形成及び二価の分子産生を可能にする条件下で発現及び精製した。発現レベルは、培養上清1L当たりに約20mgであった。ABAB-Fcは、TcdA及びTcdBの両方との結合及び中和において十分に機能的である(データは示していない)。ABAB-Fcのアミノ酸配列は、配列番号22に規定されている。
【0211】
一重特異性のVH-Fc結合剤(AH3-Fc、5D-Fc、E3-Fc、AA6-Fc)及び二重特異性のVH-Fc結合剤(AH3/5D-Fc及びAA6/E3-Fc)も、このFc融合系を使用して作製した。上記表5は、これらの追加の結合剤についての配列を規定している。
【0212】
ABAB-IgG
図1に図説されるように、二重特異性のVH-IgG(AH3/5D-IgG及びE3/AA6-IgG)は、単量体を、ヒトIgG重鎖及び軽(κ又はλ)鎖と個別に融合させることによって作製することができる。四重特異性のVH-IgG(ABAB-IgG)結合剤は、二量体を、ヒトIgG重鎖及び軽鎖と個別に融合させることによって作製することができる。重鎖及び軽鎖の構築物を同時トランスフェクションすることで、AH3/5D-IgG、E3/AA6-IgG及びABAB-IgGのキメラタンパク質が生成する。2つのVHを重鎖及び軽鎖へと分けると、恐らく二重特異性及び四重特異性のVHキメラ型タンパク質の収率及び安定性が改善する。これによって、VH-ヒトIgGキメラ型抗体がABABのin vivoでの安定性及び効力を補助するか否かを決定することができる。同様に、ABAB-IgGのin vivo半減期の更なる改善は、FcRn受容体に対する高められた結合親和性を有するABAB-IgG変異体において試験することもできる。
【0213】
二重特異性(AH3/5D-IgG1及びE3/AA6-IgG1)並びに四重特異性(ABAB-IgG1)のIgG1結合剤は、それぞれの結合剤の重鎖及び軽(κ)鎖をコードする発現ベクターを同時トランスフェクションすることによって製造した。それらのVHペプチド単量体を、表2のフレキシブルなリンカーによって隔てた。
【0214】
二重特異性の四量体型VH-IgG1結合剤は、第一の発現ベクターが、重鎖可変領域を欠いたヒトIgG1抗体重鎖(C1-ヒンジ-C2-C3)に結合されたVHペプチド単量体をコードし、第二の発現ベクターが、軽鎖可変領域を欠いたヒトIgG1抗体の軽(κ)鎖(CK)に結合されたVHペプチド単量体をコードする2つの別個の発現ベクターを作製することによって製造した。これらの結合剤は、得られた結合剤のそれぞれの軽鎖が第一のVH単量体に連結され、かつ得られた結合剤のそれぞれの重鎖が第二のVH単量体に連結されているため二重特異性で四量体型である。上記表6は、これらの追加の結合剤についての配列を規定している。適切な対合には、(i)AH3-IgG1-重鎖+AA6-軽(κ又はλ)鎖、(ii)5D-IgG1-重鎖+E3-軽(κ又はλ)鎖、(iii)5D-IgG1-重鎖+AA6-軽(κ又はλ)鎖、及び(iv)AH3-IgG1-重鎖+E3-軽(κ又はλ)鎖が含まれる。
【0215】
四重特異性の八量体型ABAB-IgG結合剤を製造した。これらの結合剤は、得られた結合剤のそれぞれの軽(κ又はλ)鎖が2つ(第一及び第二)の連結されたVH単量体に結合され、かつ得られた結合剤のそれぞれの重鎖が2つ(第三及び第四)の連結されたVH単量体に結合され、ここで第一の単量体、第二の単量体、第三の単量体及び第四の単量体は、異なるエピトープに結合するため、四重特異性で八量体型である。
【0216】
特定の四重特異性の八量体型ABAB-IgG(図7)結合剤は、第一の発現ベクターが、重鎖可変領域を欠いたヒトIgG1抗体重鎖(C1-ヒンジ-C2-C3)に結合されたVHペプチド単量体AH3/5D(示される順序で連結される)をコードし、第二の発現ベクターが、軽鎖可変領域を欠いたヒトIgG1抗体の軽(κ)鎖(CK)に結合されたVHペプチド単量体AA6/E3(示される順序で連結される)をコードする2つの別個の発現ベクターを作製することによって製造した。AH3/5D-IgG1重鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号45に規定されており、そのアミノ酸配列は、配列番号44に規定されている。AA6/E3-IgG1κ鎖をコードするヌクレオチド配列は、配列番号47に規定されており、そのアミノ酸配列は、配列番号46に規定されている。
【0217】
二重特異性(AH3/5D-IgG1及びE3/AA6-IgG1)及び四重特異性(ABAB-IgG1)のIgG1結合剤は、安定にトランスフェクションされたHEK293細胞系統の培養上清からプロテインAビーズを使用して、ジスルフィド結合形成及び二価の分子産生を可能にする条件下で発現及び精製した。SDS-PAGEによって、90%超の純度の精製されたABAB-IgG1が、非還元ゲルにおいて約218KDaの合計分子量(軽鎖及び重鎖を一緒にした分子量)を有することが示される(データは示していない)。還元ゲルにおいて、重鎖の分子量は68KDaであることが示され、かつ軽鎖の分子量は41KDaであることが示される。
【0218】
ABAB-IgG1のTcdA及びTcdBへの結合を確認した。図8A及び図8Bは、ABAB-IgG1の両方のトキシンへの結合と、個別の構成要素(AH3、AA6、E3及び5D)との比較を図説している。図8Aは、プレートを1μg/mlのTcdA(TxA)でコーティングした実験の結果を示している。連続希釈されたABAB-IgGを、0ng/ml、0.64ng/ml、3.2ng/ml、16ng/ml、80ng/ml、400ng/ml及び2000ng/mlの濃度で添加した。それらのプレートを洗浄し、Merck社の抗体(抗TcdA)、Fc-ABBA(ABAB-Fc)、Habab(ABAB-IgG)並びにVH抗TcdB単量体AA6及びAH3を、示された量(ng/ml)で添加した。適切な標識された抗体を検出のために使用した。図8Bは、プレートを1μg/mlのTcdB(TxB)でコーティングした実験の結果を示している。連続希釈されたABAB-IgGを、0ng/ml、0.64ng/ml、3.2ng/ml、16ng/ml、80ng/ml及び400ng/mlの濃度で添加した。それらのプレートを洗浄し、Merck社の抗体(抗TcdB)、Fc-ABBA(ABAB-Fc)、Habab(ABAB-IgG)並びにVH抗TcdB単量体E3及び5Dを、示された量(ng/ml)で添加した。適切な標識された抗体を検出のために使用した。
【0219】
予想されるように、四重特異性の抗体は、サンドウィッチELISAによって測定されるように、TcdA及びTcdBに同時に結合することができる(図9A及び図9B)。第一の実験構成においては、プレートを1μg/mlのTcdA(TxA)でコーティングした。連続希釈されたABAB-IgG(Habab)を、0ng/ml、1.6ng/ml、8ng/ml、40ng/ml、200ng/ml及び1000ng/mlの濃度で添加した。それらのプレートを洗浄し、以下の量:1.6ng/ml、8ng/ml、40ng/ml、200ng/ml及び1000ng/mlのTcdBを添加した。マウス抗TxB抗体(500×)及びヤギ抗マウスIgG-HRP(3000×)抗体を検出のために使用した。図9Aに与えられた結果は、TxBがTxAのコーティングによって検出されることを示しており、それは、IgG-ABABがTxA/Bに同時に結合することを示唆している。第二の実験構成においては、プレートを1μg/mlのTcdB(TxB)でコーティングした。連続希釈されたABAB-IgG(Habab)を、0ng/ml、1.6ng/ml、8ng/ml、40ng/ml、200ng/ml及び1000ng/mlの濃度で添加した。それらのプレートを洗浄し、以下の量:1.6ng/ml、8ng/ml、40ng/ml、200ng/ml及び1000ng/mlのTcdAを添加した。マウス抗TxA抗体(500×)及びヤギ抗マウスIgG-HRP(3000×)抗体を検出のために使用した。図9Bに与えられた結果は、TxAがTxBのコーティングによって検出されることを示しており、これもまたIgG-ABABがTxA/Bに同時に結合することを示唆している。
【0220】
培養細胞においてそれらのトキシンの細胞変性効果に対するABAB-IgG1の中和活性も調べた。TcdA(100ng/ml、図10A)を、連続希釈されたMerck社の抗TcdAヒトモノクローナル抗体、ABAB-IgG1(Hababa)及びVH抗TcdA単量体AA6及びAH3と混合してから、それを100μlの培養培地中のベロ細胞単層に添加し、37℃で24時間にわたってインキュベートした。図10Aに与えられた結果は、ABAB-IgG1が、TcdAの中和においてMerck社の抗体よりも少なくとも1000倍も強力であることを示している。同様の実験において、TcdB(10pg/ml、図10B)を、連続希釈されたMerck社の抗TcdBヒトモノクローナル抗体、ABAB-IgG1(Hababa)並びにVH抗TcdB単量体E3及び5Dと混合してから、それを100μlの培養培地中のベロ細胞単層に添加し、37℃で24時間にわたってインキュベートした。図10Bに与えられた結果は、ABAB-IgG1が、TcdBの中和においてMerck社の抗体よりも少なくとも1000倍も強力であることを示している。
【0221】
ABAB-IgG1のin vivo中和活性を、CDIのマウスモデルにおいて研究し、その結果を図11に示す。マウスを、致死用量のTcdA及びTcdBの混合物(マウス1匹当たりに25ngの各々のトキシン)で負荷し、4時間後に、ABAB-IgG(10μg/kg、30μg/kg又は100μg/kg)、Merck社の抗トキシンA抗体及び抗トキシンB抗体(10mg/kg)の混合物又はPBSを、そのマウスに投与した。それらの結果は、ABAB-IgGの中和活性が、より低い濃度でもMerck社の抗体よりも断然高いことを裏付けている。
【0222】
ABAB-IgGの動物試験
ABAB-IgG1結合剤を、予防処置アッセイ及び再負荷生存アッセイの両方で試験した。図12は、両方の研究の実験デザインを示している。6週齢~8週齢の雌のC57マウスを使用し、含まれる条件は、PBS:10ml/kg、腹腔内、n=14;ABAB-IgG:200μg/kg、腹腔内、n=10;ABAB-IgG:1mg/kg、腹腔内、n=10;ABAB-IgG:5mg/kg、腹腔内、n=10であった。
【0223】
表10は、マウスのC.ディフィシルの胞子(UK1、027/BI/NAP1流行性菌株)に対する予防的処置で見られた結果の概要を示している。ABAB-IgG又はPBSを、C.ディフィシルの胞子の投与1日前に投与した。そこから明らかなように、ABAB-IgGは、CDIに対して用量に関連した予防的防御を示した。ここで、5mg/kgでは、調べた全てのパラメータに対して完全な防御が示され、200μg/kgは、200μg/kgの二重特異性のVH融合抗体ABA[41]よりも強力であることが判明した。
【0224】
【表10】
【0225】
表11は、マウスのC.ディフィシルの胞子に対する再負荷で見られた結果の概要を示している。ABAB-IgG又はPBSを、C.ディフィシルの胞子の投与15日前に投与した。そこから明らかなように、ABAB-IgGの1用量は、胞子の再負荷によって引き起こされたCDIに対して或る程度の防御を示したが、その防御は、一次負荷の間の防御と比較して大幅に効果が低かった。これは、時間に伴う抗体レベルの降下と、一次負荷後のPBS群における抗体生成とによるものであると考えられる。
【0226】
【表11】
【0227】
IgG-ABABの腸内送達を、マウスの劇症性CDIからの保護についても試験した。開腹術後にマウス盲腸中にIgG-ABABを単回注射すると、マウスは、死の転帰をとる劇症性CDIに対して完全に保護されたが、一方でコントロールマウスの50%は、死んだ(データは示していない)。疾患の進行度及び重症度は、以前の文献[62]から改変された臨床スコアリングシステムを用いて毎日評価した。上記臨床スコアリングシステムは、4つの基準(活動性レベル、姿勢、毛皮、及び下痢)を含み、それぞれ0から4までの評点で格付けされており、足し合わせることで最大16の値で評点を付けた。正常なマウスは0の評点が付けられることとなり、死に至ったマウスには、16の評点が付けられた。11と等しいか又はそれより高い評点を有するマウスは、安楽死させるべきである。IgG-ABAB処置群における1匹のマウスだけは一過性の下痢を発症したが、PBSを注射したマウスは、重症のCDI疾患症状を発症した(データは示していない)。このように、マウスの腸内に用手的に注射によって送達されたIg-ABABは、強力な治療効果を示した。
【0228】
結合剤の発現、精製及び評価
様々な選択基準を用いて、本明細書のアプローチに記載される実験で作製された結合剤を選択する。第一に、本明細書に定義される構築物の各々は、プロテインA親和性クロマトグラフィーによる小規模組換えタンパク質の製造のための293T細胞の一過性トランスフェクションにおいて使用することができる。各々の構築物の産生収率は、定量的ELISAによって測定することができる。第二に、組換えタンパク質の結合活性をELISA及び表面プラズモン共鳴(SPR)を使用してスクリーニングすることで、それらのトキシンに対する本来の結合活性を維持している構築物を選択することができる。第三に、それらのタンパク質を、in vitroアッセイにおいて中和活性について評価する(図3)。
【0229】
観察結果を総合すると、組換え型結合剤のin vivoでの多重反応性及び/又は自己反応性が、in vivoでの安全性及び半減期に関する潜在的な問題であることが示唆される。原発急性CDIの予防のための全身性結合剤として選択されたABAB結合剤の適用には、キメラ型のヒト化されたABABタンパク質の多重反応性及び/又は自己反応性が制限されることが恐らく必要とされる。タンパク質プロテオミクスの進歩により、組換え型抗体の多重反応性及び自己反応性についてin vitroでスクリーニングすることが可能となった。それは、代用となる治療用抗体のための優れたツールである。したがって、良好な収率、高い結合親和性及び強力な中和活性を有する選択されたヒト化された結合剤を、潜在的な多重反応性及び自己反応性について、自己抗原マイクロアレイ試験及びProtoArray protein microarrays(Invitrogen)を用いて更に試験することができる。
【0230】
上記in vitroアッセイから、ABAB-Fc結合剤及びABAB-IgG結合剤の候補を、それらのin vivo毒性、血清中半減期及び免疫原性について評価することができる。
【0231】
ABABを分泌するS.セレビシエ(Sc-ABAB)の作製
CDIを伴う被験体又はCDI発症のリスクを伴う被験体の腸に結合剤をin vivoで産生及び送達するための手段を開発した。S.セレビシエはS.ボウラルディと遺伝的に類似しており[52、53]、遺伝的ツールはS.セレビシエについては容易に入手可能であるので、S.セレビシエをまずは、ABAB分泌の検証のために使用した。
【0232】
新規の二重特異性サンドウィッチ型ELISA法を、まずはABAB分泌の評価のために開発した。その設定においては、ABAB二重特異性のための結合抗原として精製されたTcdA及びTcdBが利用され、検出のためにα-TcdA抗体が利用された(図13のA)。標準化のために、プレートをTcdB(1μg/ml)でコートし、そのプレート中に連続希釈されたABBA((AH3-E3-E3-AA6))標準を加えた。その後に、連続希釈されたrTcdA(1μg/ml~7.8ng/ml)を加えた。次いで、TcdAの捕捉を、TcdAに対するモノクローナル抗体を加え、引き続きHRP結合二次抗体を加えることによって測定した。標準曲線に関する結果は、図13のBに示されている。これらの結果に基づいて、125ng/mlのrTcdAを使用して導き出された標準曲線を、酵母培養上清中のABABの分泌レベルを測定するために選択し、全ての後続のELISAのために使用した。
【0233】
E.コリ(pUC)及び酵母(2ミクロン環状物)の両方に由来する複製起点と、酵母栄養要求性選択マーカーURA3(ウラシルの合成能を与える)とを含むシャトルプラスミド(pD1214-FAKS)を、DNA 2.0社(カリフォルニア州、ニューアーク)から入手した。ABABをコードする配列(配列番号20)、並びにそれぞれABABのN末端及びC末端にあるHisタグをコードする配列(配列番号66)及びD7タグをコードする配列(配列番号112)を、強力な構成的な酵母翻訳伸長因子プロモーター(PTEF)によって転写が制御され、かつα接合因子分泌シグナルリーダー配列(FAKS)への融合によって細胞外分泌が提供されるこのプラスミドの骨格に挿入した。得られたプラスミド(pD1214-FAKS-His-hABAB-D7)の配列は、配列番号68に示される。
【0234】
プラスミドpD1214-FAKS-His-hABAB-D7を、S.セレビシエ菌株BY4741(MATa his3Δ1 leu2Δ0 Met15Δ0 ura3Δ0)、つまりURA3ノックアウトされたS288C誘導体の実験室株中に形質転換させた。次いで酵母形質転換体を、ウラシルを含まないドロップアウトミックスを含有するYNB培地(1Lの滅菌ddHO中6.8gのYNB、20gのグルコース、2gのドロップアウトミックス)中にて30℃、250rpmでO.D.が1に達するまで振盪器中で一晩培養した。次いで細胞を遠心分離して底に集め、1×SDSローディングバッファー中で超音波処理により溶解させた。超音波処理後に、全細胞溶解物を、98℃で5分間にわたり処理してから、SDSゲルにロードした。それぞれのウェルに同量の酵母コントロール細胞溶解物をロードしたが、ただし、コントロール細胞は、ウラシルを含まないYNB培地中では生存することができないため、ウラシルを補ったYNB中で培養した。
【0235】
25種の酵母形質転換体及び3種の酵母コントロールコロニーからの培養上清を遠心分離することで細胞を遠沈して、次に細胞不含の上清を、0.05%のtween 20を含むPBS中の2.5%ミルクで1:3の比率で希釈し、そして振盪器中で250rpm及び30℃で24時間インキュベートした後に上記のELISAによってスクリーニングした。図14のBは、酵母コントロールコロニーからの培養上清に対して、全ての酵母形質転換体が、培養上清中にABABを分泌したことを示している。
【0236】
細胞ベースの中和アッセイを使用して、培養上清中に分泌されたABABの生物学的活性を評価した。このアッセイにおいて、4時間で100%の細胞円形化を引き起こすために十分な量のトキシンA又はトキシンBを、PBS、BY4741コントロールコロニー由来の細胞不含の培養上清又はBY4741-ABABコロニー由来の細胞不含の培養上清と一緒に加えた。組換えABABは、ポジティブコントロールとして使用した。培養上清中に分泌されたABABの生物学的活性を、細胞円形化を抑制する中和活性のレベルによって測定した。S.セレビシエから分泌された全長ABABは、精製された組換えABABと比較して、確かにその中和活性を維持している(図14のA)。これらの結果を合わせると、S.ボウラルディによるABAB分泌の妥当性がほのめかされる。
【0237】
更なる実験において、Sc-ABABの1010CFUの用量でのマウスの強制経口投与は、マウスに悪影響を及ぼさず、マウスは生きたSc-ABABを放出することが、サブローCAF寒天上に糞便をプレーティングすることにより測定することで(データは示していない)裏付けられた。マウスから回収された分離株は、上記アッセイを使用すると、その機能的ABABを産生する能力を維持していた。
【0238】
ABAB分泌最適化
ABAB分泌レベルとin vivo治療効力とは当然のように関連している。したがって、既存のFAKS分泌シグナルを数多くの市販の分泌シグナルに置き換えることによりABAB分泌の更なる最適化の可能性を調べた。分泌配列は、細胞外輸送の前に、小胞体及びゴルジ体領域への外来タンパク質の翻訳時又は翻訳後移行を促す。α接合因子、つまりS.セレビシエにおいて分泌されるタンパク質の良好な収率を一般的にもたらす異種タンパク質分泌のためのシグナル配列が通常使用されるが[69、70]、研究によれば、イヌリナーゼ又はインベルターゼ等のその他のタンパク質からのその他の分泌配列が、或る特定の異種タンパク質を分泌するためにより適していることが実証されている[71、72]。
【0239】
11種の異なる市販の分泌シグナル(表4、DNA 2.0社、カリフォルニア州、ニューアーク)を、個々に、同じpD1214プラスミド骨格において、TEFプロモーターの制御下でABABと遺伝子融合させた。ABABと一緒に択一的な分泌シグナルをコードするプラスミドには、以下のプラスミドが含まれ、それらのプラスミドでは、FAKS分泌シグナルが、示される表4からの新しい分泌シグナルに置き換えられており、hisタグ及びD7タグは両者とも取り除かれている:
プラスミドpD1214-AKS-hABAB(配列番号70)
プラスミドpD1214-AK-hABAB(配列番号71)
プラスミドpD1214-AT-hABAB(配列番号72)
プラスミドpD1214-AA-hABAB(配列番号73)
プラスミドpD1214-GA-hABAB(配列番号74)
プラスミドpD1214-IN-hABAB(配列番号75)
プラスミドpD1214-IVS-hABAB(配列番号76)
プラスミドpD1214-KP-hABAB(配列番号77)
プラスミドpD1214-LZ-hABAB(配列番号78)
プラスミドpD1214-SA-hABAB(配列番号79)
【0240】
さらに、本来のABAB構築物(pD1214-FAKS-His-hABAB-D7)におけるhisタグ及びD7タグの両方を取り除いて、プラスミドpD1214-FAKS-hABAB(配列番号69)を作製し、培養のインキュベート温度は、in vivo試験及び臨床試験に関連する計画により良く適合させるために37℃に高めた。次いで全ての11種のプラスミドを、BY4741に形質転換させ、それぞれの選択用プレートから5種の独立したコロニーを選択して、培養上清を生成させた。分泌されたABABの量を、上記と同じELISAによって測定した。さらに、全ての群にわたる公正な比較を提供するためにE/O値を使用した。E/O値は、ELISAのO.D.値を培養O.D.値に対して標準化することによって定義される。ABABに関する最良の分泌シグナルのうちの2つは、AT及びIVSであることが判明した(表4、図15のA)。
【0241】
S.ボウラルディに関する栄養要求性突然変異菌株を入手することができなかったので、G418に対する耐性をコードするaphA1遺伝子を有する別の2μmベースのプラスミド(pCEV-G4-Km、配列番号80、Lars Nielsen及びClaudia Vickersによる寄贈(Addgene社のプラスミド番号46819))を、pD1214プラスミドの代わりに使用して、S.ボウラルディにおけるABAB分泌を確認した。S.セレビシエについての最良の2種の分泌シグナル(AT及びIVS)を、ABABと遺伝子融合させ、pCEV-G4-Kmプラスミド骨格に挿入して、プラスミドpCEV-G4-Km-TEF-AT-hABAB*(配列番号81)及びpCEV-G4-Km-TEF-IVS-hABAB*(配列番号82)を作製した。両方のプラスミドを使用してS.ボウラルディ(菌株MYA796)を形質転換し、S.ボウラルディにおけるAT及びIVSによるABAB分泌は、ELISAによって測定されるようにS.セレビシエと同等であった(図15のB)。pCEV-G4-Km-TEF-AT-hABAB(配列番号83)という、pCEV-G4-Km-TEF-AT-hABAB*とはAT配列とhABAB配列との間に分子クローニングサイト(molecular cloning site)を含む点で異なる更なる構築物を調製した。
【0242】
次いで、ABAB分泌を、AT分泌シグナルを有する構築物においてヌクレオチドレベルで酵母コドン最適化(yABAB)によって更に最適化することで、プラスミドpCEV-G4-Km-TEF-AT-yABAB(配列番号84)を作製した。PTEFとABABコーディング配列との間に40個のヌクレオチドを含む配列は、ABAB分泌のために必ずしも必要ではないことも判明し、それを取り除くことで、プラスミドpCEV-G4-Km-TEF-X40-AT-yABAB(配列番号85)を得た。AT配列とABAB配列との間に2個の制限クローニングサイトを含む更なる配列は、ABAB分泌に悪影響を及ぼすことが分かったので、この配列も、後続の研究に関してABAB分泌を最大化するために省いた(プラスミドpCEV-G4-Km-TEF-AT-RSyABAB、配列番号115)。
【0243】
次に、個々の単量体の分泌量を測定することで、AA6が最も少なく分泌されることが分かった。AA6の分泌を改善して、さらにABAB分泌を最適化するために、一群の主要アミノ酸残基を利用した。T83N突然変異は、AA6分泌を改善することが分かった。さらに、hAA6配列を有するS.ボウラルディは、酵母最適化されたyAA6配列を有するものよりも多くのAA6を分泌することが分かった。したがって、AA6内にT83N突然変異を有するABAB(AT-yABAB T83N、プラスミドpCEV-G4-Km-TEF-AT-yABAB AA6T83N、配列番号116)と、yAA6配列がhAA6 T83N配列と置き換わったABAB(AT-yABAB hAA6 T83N、プラスミドpCEV-G4-Km-TEF-AT-yABAB hAA6T83N、そのプラスミドは、配列番号90の配列を有するが、c-Mycをコードする配列を欠いている)との間で比較を行うことで、どの配列がより良好な分泌を示すかを判定した。これらの構築物の間に有意差は存在しないことが分かり、今後はAT-yABAB hAA6 T83Nを最終配列として最終的に決定した。AT-yABAB hAA6 T83Nをコードするヌクレオチド配列は、プラスミドpCEV-G4-Km-TEF-AT-yABAB hAA6T83N-タグなし(配列番号90)中に備えられている。AT-yABAB hAA6 T83Nのアミノ酸配列は、配列番号117に示される。
【0244】
栄養要求性S.ボウラルディ菌株の作製
ABABをコードする発現プラスミドを、S.ボウラルディ菌株中にクローニングすることができる。S.ボウラルディ菌株は、正常な体温を許容することができ、S.セレビシエよりも良好に酸性条件を許容することができ、それにより、新たな経口的な酵母ベースの治療戦略としての効力は改善され得る。野生型S.ボウラルディ菌株に対する2つの改変を行うことで、酵母URA3代謝選択マーカーによって与えられる発現プラスミドのin vivo安定性を保つことができる。1)URA3の両者の染色体アレルにおいて欠失を有する2倍体栄養要求性突然変異体を構築することができ、かつ2)内因性の2ミクロン環状物をS.ボウラルディからキュアリングして、意図しない組換えがABAB発現と干渉することを防ぐことができる。
【0245】
野生型サッカロマイセス属菌株において栄養要求性突然変異体を構築するための最も簡単かつ効率的な方法は、サッカロマイセス属菌において非常に高い頻度で生ずる相同組換えによる染色体にコードされた遺伝子のねらいを定めた欠失を含む。標的となる遺伝子の完全な欠失は、野生型に復帰し得る自発的突然変異の選択よりも好ましい。したがって、遺伝子欠失は、栄養不足の増殖培地を使用して、低温(30℃)でインキュベートする芽胞形成による野生型2倍体から一般的に誘導されるS.セレビシエにおける半数体状態のために好ましい。しかしながら、S.ボウラルディは、胞子欠損性であり、かつ通常の芽胞形成条件下では半数体細胞の形成が困難である[64、65]。両方の染色体遺伝子アレル(例えば、URA3)の欠失のための2段階法が使用され、そこでは、各々の欠失段階が選択され得る。その方法は、図16で図解されている。
【0246】
全ての染色体欠失は、線状DNA欠失カセットの酢酸リチウムで促進される遺伝子形質転換[73]によって実施した。酢酸リチウムベースの形質転換はS.セレビシエのプロトコルに由来するものであり、S.ボウラルディと互換性があることが判明したが、S.ボウラルディは、より一層形質転換しにくいことが分かった[55、56]。差は、約100倍である。S.セレビシアにおける形質転換効率は、グルコース濃度及び熱ショック時間の調節によって改善することができる[74]。したがって、S.ボウラルディ形質転換において最適化のために、様々なグルコース濃度及び熱ショック時間を取り入れた。S.ボウラルディのために試験した最良の条件は、前培養における2%グルコース及び42℃での20分の熱ショック時間であり、これらの条件は、全ての研究における全ての形質転換手順のために使用した。
【0247】
それぞれ酵母におけるG418及びフレオマイシンに対する耐性を与える遺伝子aphA1及びbleを含む2つの欠失カセットを、PCRによって、pCEV-G4-Km(配列番号80)及びpCEV-G4-Ph(配列番号86)(Lars Nielsen及びClaudia Vickersによる寄贈(Addgene社のプラスミド番号46820))を鋳型として使用して作製した。両方の欠失カセットは、同じ方向で2つのP1の交叉遺伝子座(locus of X-over P1)(loxP)に隣接しており、こうしてCreレコンビナーゼを使用して抗生物質耐性遺伝子を反転させることが可能となる。URA3プロモーター(PURA3)の上流であり、かつURA3の停止コドンの下流にある40塩基対の相同配列を、PCRプライマー中に導入して、S.ボウラルディにおける部位特異的遺伝子欠失のための2種類の最終欠失カセットを作製した(図16を参照)。S.ボウラルディの染色体VにおけるURA3遺伝子の正確な配列及び位置を、サッカロマイセス属菌ゲノムデータベース(SGD)からのオンラインで公表されている配列からURA3遺伝子アノテーションを使用してマッピングした。第一のURA3アレルとaphA1欠失カセットとを置き換える1番目の交叉は、G418に対する耐性を使用するために選択され[66]、第二のURA3アレルとble欠失カセットとを置き換える2番目の交叉は、フレオマイシンに対する耐性を使用するために選択される[75](図16)。両方のURA3アレルとaphA1欠失カセット及びble欠失カセットとの置換えは、両方の抗生物質に対する耐性によって明らかにされた(データは示していない)だけでなく、ウラシルを欠いた最小合成培地プレート上での増殖の欠如(データは示していない)によって明らかにされた。また酵母の表現型は、クロラムフェニコール(100μg/ml)を含むサブロープレート上での増殖によって確認された(データは示していない)。さらに、URA3染色体領域におけるURA3遺伝子、aphA1遺伝子又はble遺伝子を標的とする3つの固有のプライマーセットを設計し、鋳型として、野生型(WT)ゲノムDNA、URA3Δ::aphA1/URA3(1番目の交叉)ゲノムDNA、及びURA3Δ::aphA1/Δ::ble(2番目の交叉)ゲノムDNAを使用してPCRを実施した。URA3染色体領域におけるURA3遺伝子、aphA1遺伝子又はble遺伝子を標的とする予想されるPCR産物サイズは、それぞれ766bp、1183bp、及び662bpである。これらの3つの固有のプライマーセットを使用したWTのクローン、1番目の交叉のクローン、及び2番目の交叉のクローンからのPCR産物のDNA電気泳動により、URA3アレルの不存在、並びに2番目の交叉の菌株のaphA1欠失カセット及びble欠失カセットの組込みが確認された。
【0248】
2番目の交叉の菌株を、次いでpPL5071_TEF1-Cre_URA3(pPL5071、配列番号95)[76]で形質転換させることで、aphA1欠失カセット及びble欠失カセットを除去した。pPL5071を有する菌株は、CreレコンビナーゼをPTEF下に構成的に発現する。Creレコンビナーゼは、その際、aphA1欠失カセット及びble欠失カセットに隣接するloxp配列を標的とし、これによりaphA1欠失カセット及びble欠失カセットの切り出しが引き起こされ、URA3染色体領域においてloxp部位が1つだけ残される。aphA1欠失カセット及びble欠失カセットの切り出しに成功した菌株は、G418又はフレオマイシンいずれの存在下でも増殖することができず、両方のURA3アレルの欠損がなおも維持されるので、最小合成培地プレートにおいてはウラシルの存在下でのみ増殖することができ、ウラシルが補われない最小合成培地プレートにおいては、増殖は示されなかった。
【0249】
pPL5071の除去は、YPDにおいて増殖させ、後に増殖したコロニーについてウラシル及びピリミジン類似体の5-フルオロオロト酸(5-FOA)を含有する最小合成培地上で選択することによって達成される[77]。pPL5071を有する菌株は、URA3遺伝子を有し、その遺伝子は、チミジル酸シンテターゼの強力な阻害剤である毒性の中間体5-フルオロデオキシウリジンを合成することができ、それによりDNA合成が中断され、細胞死がもたらされ、pPL5071を失った菌株の選択が可能となる。またpPL5071の不存在は、pPL5071特異的プライマーによるPCRと、PCR産物のDNA電気泳動とによって確認された。
【0250】
2μmプラスミドは、サッカロマイセス属菌株において汎在する非常に安定な6.1kbのプラスミドである。このプラスミドは、酵母宿主生物に選択上の利益を与えず、効率的なREP1-REP2-STBプラスミド分配システムの存在により極めて安定である[68]。使用されるS.ボウラルディ菌株も、PCRにより確認されるように、このプラスミドを含む。2μmプラスミドを除去するために、pBIS-GALkFLP-URA3(配列番号87)[67]を使用して、2μmプラスミドをキュアリングし、引き続きウラシル及び5-FOAにより除去した。2μmプラスミドの消失は、PCRによって複製起点に特異的なプライマーを使用して確認された。
【0251】
これらの操作により得られるS.ボウラルディの栄養要求性菌株を、S.ボウラルディURA3Δ/Δと呼称する。
【0252】
ABABのin situ送達のための栄養要求性S.ボウラルディ菌株
ABABのin situ送達のための栄養要求性S.ボウラルディ菌株を構築するために、プラスミドpCEV-G4-Km-TEF-X40-AT-yABAB(配列番号85)のaphA1カセットを、pDプラスミドからのURA3カセットによって置き換え、プラスミドpCEV-URA3-TEF-AT-yABAB-cMyc(配列番号88)を作製した。次いでこのプラスミドを使用することで、S.ボウラルディURA3Δ/Δを形質転換させた。得られた菌株は、精製されたABABと比較した場合に細胞毒性アッセイにおいて完全に機能的なABABを分泌している(図17のC)。ウェスタンブロッティングは、HRPと結合されたα-ラマ抗体を使用してS.ボウラルディ培養上清から相応のABABバンドを示した(図17のD)。ABABのC末端は、c-Mycタグを含み、α-c-Myc抗体によって更にプルダウンされ得る(図17のD)。
【0253】
空のプラスミド(EP)コントロールのために、AT-yABAB配列を、後にpCEV-URA3-TEF-AT-yABAB-cMyc(配列番号88)から除去することで、pCEV-URA3-TEF-cMyc(配列番号89)を作製した。このプラスミドで形質転換されたS.ボウラルディURA3Δ/Δ菌株は、URA3が補われた菌株となるが、ABABは分泌しない。ABABを分泌するS.ボウラルディURA3Δ/Δ菌株はまた、バンコマイシン(1mg/ml)を含有するYPD中で培養した場合に増殖阻害を示さなかった(図17のA)。このことは、CDI患者の治療に一般的に使用されるバンコマイシンと同時にS.ボウラルディを投与することができ、S.ボウラルディがABABを分泌することで進行中のCDIが治療されることを示唆している。さらに、精製されたABABが、O.D.10でS.ボウラルディから回収される培養上清中で2時間の期間にわたり安定であることは、分泌されたABABが、S.ボウラルディから分解されずに拡散される可能性があることを示唆している。
【0254】
抗生物質処置されたマウスに経口送達されるS.ボウラルディの安全性評価
ABABを発現するS.ボウラルディURA3Δ/Δが、CDIモデル[20、33、62、78]においてマウスを保護し得るかどうかを評価する前に、安全性評価を実施することで、抗生物質処置されたマウスにおけるS.ボウラルディの安全用量を決定した。この安全性評価においては、マウスにまずは抗生物質カクテルをその毎日の飲用水中に3日間にわたり供給し、その後に通常の水に切り替えた。S.ボウラルディの経口送達1日前に、マウスにクリンダマイシンを腹腔内注射した。これによりマウスに対する抗生物質処置を終え、次いで安全性評価のためにS.ボウラルディをマウスに経口送達した。その安全性評価には、これらの抗生物質処置されたマウスの毎日の体重変化及びそれらの糞便試料中のS.ボウラルディの残存の監視が含まれる。マウスは、1010個の細胞のS.ボウラルディを経口送達した場合に、S.ボウラルディがGRAS生物であるという考えと一致して6日間の監視の間に病気の徴候を示さず、かつ着実な体重増加を示した。しかしながら、引き続いてのCDIマウス研究のためには、ペレットの再懸濁を容易にし、再懸濁時の高い粘度により生じ得るマウスへの投与量のばらつきを小さくするために、10個の細胞のS.ボウラルディだけを投与した。またS.ボウラルディは、これらの抗生物質処置されたマウスの胃腸管内に限られた定着しか示さず、最後の強制投与の3日後には、サブロープレートからは検出可能なS.ボウラルディは回収されなかった(データは示していない)。
【0255】
マウスにおける原発性CDIに対するABABを発現するS.ボウラルディの保護
ABABを発現するS.ボウラルディの保護は、確立された原発性マウスCDIモデルを使用して評価した。ABABを発現するS.ボウラルディは、マウスにおける原発性CDIに対する予防又は治療のいずれかとして送達された。簡潔には、原発性CDIは、マウスにおいて、抗生物質混合物をその飲料水中に3日間にわたり補給し、その後にC.ディフィシル胞子の負荷24時間前にクリンダマイシンを腹腔内注射することによって確立された。10個のC.ディフィシル胞子(UK1、027/BI/NAP1流行性菌株)をマウスに強制投与することで、CDIを誘発させた。予防的評価のために、通常の飲料水に切り替えた翌日に、マウスにS.ボウラルディの経口投与を開始し、それを7日間にわたり毎日続けた。治療的評価のために、胞子の負荷から6時間後、24時間後、48時間後、及び72時間後に、マウスにS.ボウラルディを経口投与した。コントロールは、PBS、及び空のプラスミドで形質転換されたS.ボウラルディを含んでいた。両者の方法において、ABABを発現するS.ボウラルディを投与したマウスは、CDIに誘発される死に対して有意に保護された(図18のA及び図19のA、PBS:ネガティブコントロール、Sb:EP:空のプラスミドで形質転換されたS.ボウラルディ、Sb:BAB:ABABを分泌するS.ボウラルディ)。CDIマウスは、一般的に約2日目から3日目に下痢による最も大きな体重低下を伴う体重減少を経て、徐々に回復した。ABABを発現するS.ボウラルディを投与したマウスの体重は、有意により早期に回復し(図18のB及び図19のB)、下痢事象の割合は、負荷から2日後に有意に低下した(図18のC及び図19のC)。
【0256】
マウスにおける再発性CDIに対するABABを発現するS.ボウラルディの保護
ABABを発現するS.ボウラルディの保護を、マウスにおける再発性CDIに対して評価した。再発性CDIを誘発させるために、マウスに、抗生物質カクテルをその毎日の飲料水中に3日間与えた。抗生物質水から3日後に、マウスを次に通常の飲料水に戻し替えた。10個のC.ディフィシル胞子(UK1、027/BI/NAP1流行性菌株)の経口送達1日前に、マウスにクリンダマイシンを腹腔内注射した。胞子の負荷から6時間後に、通常の水を、6日間にわたり0.5mg/mlのバンコマイシンを含有する水に変えて、研究の残りの間に再び通常の水に戻し替えた。マウスは、一般的に、バンコマイシン中止の4日後に、更なるC.ディフィシル胞子の負荷なくしてCDIの徴候を発現する。再発モデルの過程では、S.ボウラルディを、バンコマイシン水と一緒に12日間にわたり毎日一回経口送達した。このモデルを使用して、マウスにおけるCDI再発を抑制することに対するABABを発現するS.ボウラルディの保護効力を評価する。これらのマウスの生存率、体重減少、及び下痢事象を、毎日監視した。コントロールは、PBS、及び空のプラスミドで形質転換されたS.ボウラルディを含んでいた。ABABを発現するS.ボウラルディを投与したマウスは、再発に誘発されるCDIによる死に対して有意に保護された(図20のA、PBS:ネガティブコントロール、Sb:EP:空のプラスミドで形質転換されたS.ボウラルディ、Sb:BAB:ABABを分泌するS.ボウラルディ)。原発性CDIマウスと同様に、再発性CDIマウスも、一般的にバンコマイシン水の中止から約4日から5日後に最も大きい体重低下を伴う体重減少を経た。ABABを発現するS.ボウラルディを投与したマウスは、体重減少から有意に保護され(図20のB)、下痢再発事象の割合は、有意に低下した(図20のC)。
【0257】
染色体組込みによるABABカセットの安定性の最適化
CRISPR-Cas9ベースのシステムを使用するゲノム編集は、近年S.セレビシエ及びS.ボウラルディの両方で実証された[79~81]。さらに、大きな断片の欠失は、同時に2つのガイド配列を標的とすることによって達成することができる[82]。外来遺伝子は、選択圧がない場合に、一般的に染色体中に組み込まれた場合の方が、プラスミドを介して導入された場合よりも安定的に保持される。しかしながら、染色体組込みは、しばしば高コピーを達成するために多くの回数の組込みを必要とする。最近の刊行物で報告されているプロトコルは、S.セレビシエゲノム中のδ部位等の多コピーの共通配列を標的とすることによりCRISPRに誘導される二本鎖切断によってこの困難を乗り越えており、これらの部位に大きな断片の同時の組込みが達成された[83]。DNA二本鎖切断は、非相同的末端結合又は相同組換えのいずれかによって修復され得るが、内因性の相同配列が存在する場合に、宿主は、DNA二本鎖切断を修復するために相同組換えにより相同配列を優先的に使用する[83]。
【0258】
δ部位は、Ty因子I及びIIに属する長鎖末端反復(LTR)であり、S.セレビシエにおいて最も豊富なLTRである。S.セレビシエにおいてより一般的に見られるクラスIIトランスポゾン(レトロトランスポゾン)により代表される5つの種類のTy因子(1~5)が存在する。約51個のレトロトランスポゾン(Ty1~5)が存在し、251個のδ部位がS.セレビシエゲノム全体に存在すると見積もられている[84]。そのようなδ部位は、S.ボウラルディ染色体へのABAB発現カセット組込みのための魅力的な標的配列である。しかしながら、S.ボウラルディのδ部位について知られていることははるかに少ない。したがって、Ty1-H3(Genbankアクセッション番号M18706)[84]を、まずはS.ボウラルディ菌株MYA796(ATCC、バージニア州、マナサス)(ドラフトゲノムはNCBIから入手した)中のTy1~2因子を調査するためにプローブとして使用し、S.ボウラルディゲノム中の可能なTy1~2因子及びそれらのδ部位を特定した。驚くべきことに、MYA796には、完全なTy1~2因子は見られなかった。全体で57個のδ部位が見出された。これには、全ての16個の染色体にわたって特定されて、44個の完全なδ部位及び12個の部分的部位並びに1個の完全なδ部位を含む部分的Ty因子が含まれる(表12)。
【0259】
【表12】
【0260】
S.ボウラルディの2倍体状態のため、S.ボウラルディゲノムにわたって約114個のδ部位が存在する。CRISPRにより簡単に多重δ部位を標的とし得るために、全ての57個のδ部位の配列を、MUSCLEを使用する多重配列アライメントのために収集し、57個のδ配列の中でも多数に存在するプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)部位を特定した。2つのPAM部位を、プロトスペーサー中に均一性を有する最多数のδ配列に基づいて、上流配列及び下流配列として選択した。これらのPAM部位の配列は、図21に図示され、具体的な配列は以下の通りである:
PAM部位I
TGTTGGAATAAAAATCAACTATCATCTACTAACTAGTATTTACGTTACTAGTATATTATCATATACGGTGTTAGAAGATGACGCAAATGATGAGAAATAGTCATCTAAATTAGTGGAAGCTGAAAC(配列番号93)
PAM部位II
AATATTTATAGAATTGTGTAGAATTGCAGATTCCCTTTTATGGATTCCTAAATCCTCGAGGAGAACTTCTAGTATATCTACATACCTAATATTATAGCCTTAATC(配列番号94)。
【0261】
Pam部位I及びPam部位IIの両方において、点線により下線が引かれた配列は、上流の相同配列に相当し、単線により下線が引かれた配列は、20bpのプロトスペーサーに相当し、二重線により下線が引かれた配列は、PAM配列に相当し、波線により下線が引かれた配列は、下流の相同配列に相当する。
【0262】
δ部位内の共通の上流及び下流の相同配列を伴うこれらの2つのPAM部位は、S.ボウラルディゲノム中へのABAB発現カセットの簡単な染色体組込みを可能にする。相同組換え配列を含むABAB組込みカセットを、PCRによって、3’末端で最後の3個のヌクレオチドが除去された上流の相同配列及び5’末端で最初の2個のヌクレオチドが除去された下流の相同配列、並びにプラスミドpCEV-G4-Km-TEF-AT-yABAB hAA6T83N-タグなしを鋳型(配列番号90)として使用するPCRのために必要とされる相応のアニーリング配列を含むプライマーを使用して作製した。
【0263】
ABAB組込みカセットのPCR産物と、相応のガイド配列(pCRI-Sb-δ1(配列番号91)及びpCRI-Sb-δ2(配列番号92))を含むCRISPRプラスミドとを、PAM部位I及びPAM部位IIを標的にして独立的にかつ連続的に染色体中にABABを組み込むためにS.ボウラルディに同時形質転換した。PCR産物のCRISPRプラスミドに対する比率は、効果的な組込みクローンを作製するために重要であることが判明した(図22のA、ITG対ITG)。さらに、ITG群からの最も高いABAB分泌クローンの、同じ組込みカセット及びCRISPRプラスミドによる繰り返しの形質転換は、独立したクローンの全体のABAB分泌を更に改善しなかった(図22のA、2回目のITG)。ITG群からの最も高いABAB分泌クローン(CRISPR-2)のABAB分泌は、その際、相同組換え配列を含むABAB組込みカセット、及び部位IIを標的とするCRISPRプラスミド中のその相応のガイド配列の第二の組を同時形質転換することによって更に改善された(図22のA)。2つの最も高いABAB分泌クローンであるCRISP-3及びCRISPR-4を選択した。これらの4種の代表的なクローンのABAB分泌量及び経時的安定性は、図22のBに示される。予備的なマウスCDI研究を実施した。しかしながら、CRISPR-4は、数多くのマウスCDIモデルにおいて保護を示した以前のM-/-:ABABクローンよりも良くないことが判明した(図23)。
【0264】
本発明はその或る特定の実施形態を参照して記載されているが、当業者は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な変更を行い得ることを理解する。添付の特許請求の範囲は、記載される具体的な実施形態に限定されない。
【0265】
参考資料
本明細書で言及される全ての特許及び出版物は、本発明の属する技術分野の当業者の技術水準の指標である。各々の引用される特許及び出版物はその全体が引用することにより本明細書の一部をなす。以下の参考資料は、全て本出願で引用されている。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
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