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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】大口径レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/02 20060101AFI20221129BHJP
   G02B 13/18 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G02B13/02
G02B13/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019015796
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020122918
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】391044915
【氏名又は名称】株式会社コシナ
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】島田 博和
(72)【発明者】
【氏名】菅野 靖之
【審査官】瀬戸 息吹
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-102413(JP,A)
【文献】特開昭63-208816(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0208178(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 25/00 - 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体側から結像面側へ順に、前レンズ群,光学絞り部,後レンズ群を配し、前記前レンズ群を被写体側の正レンズと結像面側の負レンズにより構成し、かつ少なくとも正の屈折力を持たせるとともに、前記後レンズ群を被写体側の接合レンズと結像面側の正レンズの組合わせにより構成した光学レンズ系を備える大口径レンズであって、4枚のレンズにより構成する前記前レンズ群及び3枚のレンズにより構成する前記後レンズ群を備え、前記前レンズ群の全てのレンズの面を、中心側が周辺側に対して、被写体側に膨出する湾曲面により形成し、かつ前記前レンズ群の3枚の正レンズにより構成した少なくとも2枚の正レンズにおける、アッベ数νdが、νd>75の光学条件を満たし,屈折率nd1が、nd1<1.57の光学条件を満たすとともに、前記前レンズ群における少なくとも一枚のレンズの硝材に、異常部分分散値(ΔθgF=異常部分分散性)の絶対値が0.02以上の低屈折率低分散硝材を用い、最も被写体側のレンズの被写体側の面から結像面までの距離をTT,全系の焦点距離をf,としたときに、(TT/f)<1.3の光学条件を満たすことを特徴とする大口径レンズ。
【請求項2】
前記前レンズ群は、各正レンズの被写体側の面の曲率半径を、被写体側から順に、L1Ri,L2Ri,L3Riとしたときに、L1Ri>L2Ri>L3Riの光学条件を満たすことを特徴とする請求項1記載の大口径レンズ。
【請求項3】
前記後レンズ群は、非球面レンズにより構成した少なくとも一枚の正レンズを備えることを特徴とする請求項1記載の大口径レンズ。
【請求項4】
前記後レンズ群は、少なくとも一枚の正レンズを使用し、かつ屈折率nd2が、nd2>1.85の光学条件を満たす高屈折率硝材を用いることを特徴とする請求項1又は3記載の大口径レンズ。
【請求項5】
前記後レンズ群は、両凹レンズと両凸レンズを接合した一つの接合レンズと一枚の正レンズにより構成することを特徴とする請求項1に記載の大口径レンズ。
【請求項6】
撮影画角が±10~20〔°〕,Fナンバーが1.8以下となる大口径中望遠レンズに適用することを特徴とする請求項1記載の大口径レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体側から結像面側へ順に、前レンズ群,光学絞り部,後レンズ群を配した光学レンズ系を備える交換レンズ等に用いて好適な大口径レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、写真及びビデオ撮影用機器等に用いる交換レンズであって、特に、FナンバがF1.8よりも明るい大口径中望遠レンズでは、色収差が目立ち始める焦点距離域でありながら、ある程度の画角を持つ性質があり、レンズ全長を短くした場合には、色収差が大きくなるのみならず、他の諸収差にも影響を及ぼす問題がある。このため、この種の大口径レンズでは、光学性能を高める場合、レンズ全長が長くなる傾向があり、十分な光学性能を確保しつつレンズのコンパクト化を図るには限界がある。
【0003】
従来、この問題に対処したレンズ(光学系)としては、特許文献1に開示される光学系及び特許文献2に開示される光学系が知られている。同文献1の光学系は、高い光学性能を有するレンズ全長の短い光学系を得ることを目的としたものであり、具体的には、開口絞りと、該開口絞りよりも物体側に正の屈折力の前群と、該開口絞りよりも像側に正の屈折力の後群が配置された光学系において、該前群は、第lの固体材料から成る少なくとも1つの第l光学素子、該開口絞り側のレンズ面が凹形状の負レンズ、該負レンズよりも物体側に正レンズを有しており、該後群は、第2の固体材料から成る少なくとも1つの第2光学素子、該開口絞り側のレンズ面が凹形状の負レンズ、該負レンズよりも像側に正レンズを有しており、該前群と該後群の焦点距離、全系の焦点距離、該第1、第2の固体材料の該第l、第2光学素子の屈折力φF(l/mm)、φR(l/mm)を各々適切に設定するようにしたものである。
【0004】
また、同文献2の光学系は、色収差を始めとする諸収差を良好に補正することかできる光学系を得ることを目的としたものであり、具体的には、物体側から像側ヘ順に、正の屈折力の前群、開口紋り、後群から構成され、前群は正の屈折力の第1レンズ群より成り、後群は該開口絞りに隣接し合焦の際に移動する第2レンズ群を有し、第1レンズ群はn個の正レンズと1以上の負レンズを有する光学系において、材料の異常部分分散性をΔθgFとするとき、第1レンズ群に含まれる正レンズのうち少なくとも2つの正レンズの材料は、0.0100<ΔθgFなる条件式を満足し、そのうち1以上の正レンズの材料は、0.0272<ΔθgFなる条件を満足し、第1レンズ群の最も像側の屈折面は凹形状でその曲率半径、第2レンズ群の最も物体側の屈折面は凹形状でその曲率半径、全系の焦点距離を各々適切に設定するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-169129号公報
【文献】特開2013-114133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1及び2に開示される光学系をはじめ、従来における大口径レンズの光学系は、次のような問題点があった。
【0007】
第一に、諸収差を改善するため、前群の正レンズに高屈折率硝材を使用することにより、球面収差及び非点収差の補正を行っている。この場合、球面収差及び非点収差の改善はある程度できるものの、軸上色収差については、補正(改善)効果が認められないのみならず、反って、悪化させる虞れもある。なお、前群の正レンズに低屈折率低分散硝材を使用すれば、軸上色収差を改善できることが知られているが、反面、曲率半径が小さくなり、球面収差及び非点収差を悪化させてしまう。結局、硝材による改善手法では妥協的な対応となり、諸収差を改善するには限界があった。
【0008】
第二に、球面収差及び非点収差を含む諸収差を改善するには限界があることから、前群の正レンズの焦点距離も妥協せざるを得ない。この結果、バックフォーカスが長くなり、レンズ全長も長くなる傾向がある。加えて、レンズ枚数も多くなる傾向があるため、レンズ全体のコストアップ及び重量アップも無視できない。結局、大口径中望遠レンズにおいて、十分な光学性能を確保しつつ、レンズ全体のコンパクト化,低価格化及び軽量化を図る観点からは更なる改善の余地があった。
【0009】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した大口径レンズの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するため、被写体OBJ側から結像面IMG側へ順に、前レンズ群101,光学絞り部STO,後レンズ群102を配し、前レンズ群101を被写体OBJ側の正レンズL1…と結像面IMG側の負レンズL4…により構成し、かつ少なくとも正の屈折力を持たせるとともに、後レンズ群102を被写体OBJ側の接合レンズL5…と結像面IMG側の正レンズL6…の組合わせにより構成した光学レンズ系Uを備える大口径レンズ100を構成するに際して、4枚のレンズL1,L2,L3,L4により構成する前レンズ群101及び3枚のレンズL5f,L5r,L6により構成する後レンズ群102を備え、前レンズ群101の全てのレンズL1,L2,L3,L4の面(面番号:1,2,3…8)を、中心c側が周辺f側に対して、被写体OBJ側に膨出する湾曲面により形成し、かつ前レンズ群101の3枚の正レンズL1,L2,L3により構成した少なくとも2枚の正レンズL2,L3…における、アッベ数νdが、νd>75の光学条件を満たし,かつ屈折率nd1が、nd1<1.57の光学条件を満たすとともに、前レンズ群101における少なくとも一枚のレンズL2…の硝材に、異常部分分散値(ΔθgF=異常部分分散性)の絶対値が0.02以上の低屈折率低分散硝材を用い、最も被写体OBJ側のレンズL1の被写体OBJ側の面(面番号:1)から結像面IMGまでの距離LmをTT,全系の焦点距離をf,としたときに、(TT/f)<1.3の光学条件を満たすことを特徴とする。
【0011】
この場合、発明の好適な態様により、前レンズ群101の各正レンズL1,L2,L3の被写体OBJ側の面(面番号:1,3,5)の曲率半径を、被写体OBJ側から順に、L1Ri,L2Ri,L3Riとしたときに、L1Ri>L2Ri>L3Riの光学条件を満たすことが望ましい。他方、後レンズ群102には、少なくとも一枚の正レンズL5…を使用し、かつ屈折率nd2が、nd2>1.85の光学条件を満たす高屈折率硝材を用いることが望ましい。さらに、後レンズ群102には、非球面レンズL6e…により構成した少なくとも一枚の正レンズL6…を設けることができる。また、後レンズ群102は、両凹レンズと両凸レンズを接合した一つの接合レンズL5と一枚の正レンズL6により構成することができる。なお、大口径レンズ100としては、撮影画角が±10~20〔°〕,Fナンバーが1.8以下となる大口径中望遠レンズ100mに適用して最適である。
【発明の効果】
【0012】
このような構成を有する本発明に係る大口径レンズ100によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0013】
(1) 前レンズ群101を、3枚の正レンズL1,L2,L3により構成した少なくとも2枚の正レンズL2,L3…における、アッベ数νdが、νd>75の光学条件を満たし,かつ屈折率nd1が、nd1<1.57の光学条件を満たすとともに、最も被写体OBJ側のレンズL1の被写体OBJ側の面(面番号:1)から結像面IMGまでの距離LmをTT,全系の焦点距離をf,としたときに、(TT/f)<1.3の光学条件を満たすようにしたため、球面収差,非点収差及び軸上色収差を含む諸収差を総合的に改善して、大口径レンズ100の光学性能を高めることができるとともに、特に、撮影画角が±10~20〔°〕,Fナンバーが1.8以下となる大口径中望遠レンズ100mに適用した際における全長の短縮化及びレンズ枚数の少数化を実現して、レンズ全体のコンパクト化、更には軽量化及び低価格化を実現できる。
【0014】
(2) 前レンズ群101を構成するに際し、全てのレンズL1,L2,L3,L4の面(面番号:1,2,3…8)を、中心c側が周辺f側に対して、被写体OBJ側に膨出する湾曲面により形成したため、全てのレンズL1,L2,L3,L4の中心c側が一方向にオフセットする形状になり、光軸方向における各レンズL1…間の間隔(隙間空間)を最小化できる。これにより、前レンズ群101、更には大口径レンズ100における光軸方向の長さを短くすることができる。
【0015】
(3) 前レンズ群101の少なくとも一枚のレンズL2…の硝材に、異常部分分散値(ΔθgF)の絶対値が0.02以上の低屈折率低分散硝材を用いたため、軸上色収差の補正を行うことに加え、各レンズの曲率半径を大きくできる3枚の正レンズL1,L2,L3により、光軸方向の長さを短縮し、かつバックフォーカスを短くできることと併せた球面収差及び非点収差の補正により、諸収差の全体の改善(補正)を容易に行うことができる。
【0016】
(4) 好適な態様により、前レンズ群101の各正レンズL1,L2,L3の被写体OBJ側の面(面番号:1,3,5)の曲率半径を、被写体OBJ側から順に、L1Ri,L2Ri,L3Riとしたときに、L1Ri>L2Ri>L3Riの光学条件を満たすようにすれば、基本的に、光軸方向における各レンズL1…間の間隔(隙間空間)を接触しない距離でゼロに近づけることができるため、前レンズ群101、更には大口径レンズ100における光軸方向の長さに対する更なる短縮化を図ることができる。
【0017】
(5) 好適な態様により、後レンズ群102の少なくとも一枚の正レンズL5…の屈折率nd2が、nd2>1.85の光学条件を満たす高屈折率硝材を用いるようにすれば、後レンズ群102における光軸方向の長さを短くできるため、前レンズ群101を含めた光学レンズ系U全体の必要かつ十分な光学性能を確保できる。即ち、前レンズ群101における球面収差及び非点収差の補正に、後レンズ群102側における球面収差及び非点収差の補正を付加できるため、諸収差全体の改善に寄与できる。
【0018】
(6) 好適な態様により、後レンズ群102に、非球面レンズL6e…により構成した少なくとも一枚の正レンズL6…を設ければ、他のレンズL1…では補正しきれない軸外収差を補正できるため、当該軸外収差を改善する観点から光学性能の向上に寄与することができる。
【0019】
(7) 好適な態様により、後レンズ群102を、両凹レンズと両凸レンズを接合した
一つの接合レンズL5と一枚の正レンズL6により構成すれば、特に、撮影画角が±10~20〔°〕,Fナンバーが1.8以下となる大口径中望遠レンズ100mの必要かつ十分な光学性能を確保して使用するレンズ枚数を最小化できるため、レンズ全体のコンパクト化,軽量化及び低価格化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の好適実施形態の第1実施例に係る大口径レンズの光学レンズ系を示す断面構成図、
図2】同光学レンズ系の無限遠時の縦収差図、
図3】同第2実施例に係る大口径レンズの光学レンズ系を示す断面構成図、
図4】同光学レンズ系の無限遠時の縦収差図、
図5】同第3実施例に係る大口径レンズの光学レンズ系を示す断面構成図、
図6】同光学レンズ系の無限遠時の縦収差図、
図7】同第1実施例~第3実施例における光学条件に対応する数値の一覧表、
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0022】
まず、本実施形態(第1実施例)に係る大口径レンズ100の構成について、図1を参照して説明する。
【0023】
図1中、100は大口径レンズであり、特に、撮影画角が±10~20〔°〕,Fナンバーが1.8以下となる大口径中望遠レンズ100mの光学レンズ系Uを示す。この光学レンズ系Uは、大別して、被写体(物体)OBJ側から結像面(撮像素子)IMG側へ順に配した、前レンズ群101,光学絞り部STO,後レンズ群102を備えて構成する。
【0024】
前レンズ群101は、基本構成として、被写体OBJ側に配する正レンズL1…と結像面IMG側に配する負レンズL4…により構成し、かつ少なくとも正の屈折力を持たせる。具体的には、3枚の正レンズL1,L2,L3と1枚の負レンズL4により構成し、被写体OBJ側から、正レンズL1,L2,L3の順に配するとともに、正レンズL3の後方に負レンズL4を配する。
【0025】
前レンズ群101を構成するに際しては、全てのレンズL1,L2,L3,L4の面(面番号:1,2,3,4,5,6,7,8)を、中心c側が周辺f側に対して、被写体OBJ側に膨出する湾曲面により形成する。なお、面番号は被写体OBJ側から数えた番号をそれぞれ示す。
【0026】
このように、前レンズ群101を構成するに際し、全てのレンズL1…の面(面番号:1,2,3…8)を、中心c側が周辺f側に対して、被写体OBJ側に膨出する湾曲面により形成すれば、全てのレンズL1…の中心c側が一方向にオフセットする形状になるため、光軸方向における各レンズL1…間の間隔(隙間空間)を最小化できる。これにより、前レンズ群101、更には大口径レンズ100における光軸方向の長さを短くできる利点がある。
【0027】
特に、前レンズ群101における3枚の正レンズL1,L2,L3は、被写体OBJ側の面(面番号:1,3,5)の曲率半径を、被写体OBJ側から順に、L1Ri,L2Ri,L3Riとしたとき、
L1Ri>L2Ri>L3Ri … (光学条件1)
の条件を満たすように設定する。このように設定すれば、基本的に、光軸方向における各レンズL1…間の間隔(隙間空間)を、接触しない距離でゼロに近づけることができるため、前レンズ群101、更には大口径レンズ100における光軸方向の長さに対する更なる短縮化を図ることができる利点がある。
【0028】
また、前レンズ群101の少なくとも一枚のレンズL1…の硝材は、低屈折率低分散硝材を用いて製作する。例示する前レンズ群101においては、正レンズL2及びL3に、低屈折率低分散硝材を用いた。低屈折率低分散硝材としては、異常部分分散値(ΔθgF)の絶対値が、
│ΔθgF│>0.02 … (光学条件2)
の条件を満たす低屈折率低分散硝材が望ましい。なお、低屈折率低分散硝材を用いたレンズは、硬度が低くなる傾向があるため、最前部に位置する正レンズL1における使用は避けている。なお、本発明における異常部分分散値は、異常部分分散性(ΔθgF)を示す値と同義である。
【0029】
そして、この前レンズ群101は、3枚の正レンズL1,L2,L3により構成した少なくとも2枚の正レンズL2,L3におけるアッベ数νdが、
νd>75 … (光学条件3)
の条件を満たすとともに、屈折率nd1が、
nd1<1.57 … (光学条件4)
の条件を満たすようにレンズデータを設定する。
【0030】
この場合、適切な低屈折率低分散硝材を選択することにより軸上色収差の補正を行うことができる。また、これらの光学条件3及び4を満たすことにより、前レンズ群101の光軸方向の長さを短縮し、かつバックフォーカスを短くすることができる。このように、前レンズ群101の少なくとも一枚のレンズL2…の硝材に、異常部分分散値(ΔθgF)の絶対値が0.02以上の低屈折率低分散硝材を用いれば、軸上色収差の補正を行うことができるとともに、さらに、これに加え、各レンズの曲率半径を大きくできる3枚の正レンズL1,L2,L3により、光軸方向の長さを短縮し、かつバックフォーカスを短くできるため、このレンズ構成と併せた球面収差及び非点収差の補正により、諸収差の全体の改善(補正)を容易に行うことができる。
【0031】
他方、後レンズ群102は、基本構成として、被写体OBJ側に配する接合レンズL5…と、この後方の位置となる結像面IMG側に配する正レンズL6…の組合わせにより構成する。例示の後レンズ群102は、両凹レンズと両凸レンズを接合した一つの接合レンズL5と一枚の正レンズL6により構成した。
【0032】
後レンズ群102を構成するに際し、一つの接合レンズL5と一枚の正レンズL6により構成すれば、特に、大口径中望遠レンズ100mの必要かつ十分な光学性能を確保して使用するレンズ枚数を最小化できるため、レンズ全体のコンパクト化,軽量化及び低価格化に寄与できる利点がある。
【0033】
この場合、接合レンズL5は、被写体OBJ側に位置する凹レンズL5fと結像面IMG側に位置する凸レンズL5rを接合して構成する。また、最後部に位置する正レンズL6は、非球面レンズL6eにより構成する。この非球面レンズL6e…を用いることにより、他のレンズL1…では補正しきれない軸外収差を補正する。このように、後レンズ群102に、非球面レンズL6e…により構成した少なくとも一枚の正レンズL6…を設ければ、他のレンズL1…では補正しきれない軸外収差を補正できるため、当該軸外収差を改善する観点から光学性能の向上に寄与できる利点がある。
【0034】
また、後レンズ群102は、少なくとも一枚の正レンズL5…の屈折率nd2が、
nd2>1.85 … (光学条件5)
の条件を満たすようにレンズデータを設定する。このため、後レンズ群102の硝材には、高屈折率硝材を用いる。この光学条件5を満たすことにより、後レンズ群102における光軸方向の長さを短くできるとともに、前レンズ群101における球面収差及び非点収差の補正に加え、後レンズ群102側における球面収差及び非点収差の補正を行うことができる。
【0035】
このように、後レンズ群102の少なくとも一枚のレンズL5…の硝材に、高屈折率硝材を用いれば、前レンズ群101における球面収差及び非点収差の補正に加え、後レンズ群102側における球面収差及び非点収差の補正を加えることができるため、後レンズ群102におけるnd2>1.85の光学条件を容易に確保できるとともに、諸収差全体の改善を行うことができ、前レンズ群101を含めた光学レンズ系U全体の必要かつ十分な光学性能を確保できる利点がある。
【0036】
そして、以上の光学レンズ系Uにおいて、最も被写体OBJ側のレンズL1における被写体OBJ側の面(面番号:1)から結像面IMGまでの距離LmをTTとし、全系の焦点距離をfとしたときに、
(TT/f)<1.3 … (光学条件6)
の条件を満たすようにレンズデータを設定する。これにより、大口径中望遠レンズ100mにおける必要かつ十分な光学性能(諸収差)を確保しつつ、レンズ全長の短縮化により撮影画角が±10~20〔°〕,Fナンバーが1.8以下となる大口径中望遠レンズ100mの全長を短くする要請に応えることができる。
【0037】
以上の構成が、本実施形態に係る大口径レンズ100の基本構成となる。このように、大口径レンズ100の基本構成として、被写体OBJ側から結像面IMG側へ順に、前レンズ群101,光学絞り部STO,後レンズ群102を配し、前レンズ群101を被写体OBJ側の正レンズL1…と結像面IMG側の負レンズL4…により構成し、かつ少なくとも正の屈折力を持たせるとともに、後レンズ群102を被写体OBJ側の接合レンズL5…と結像面IMG側の正レンズL6…の組合わせにより構成した光学レンズ系Uを備え、特に、前レンズ群101を、3枚の正レンズL1,L2,L3により構成した少なくとも2枚の正レンズL2,L3…における、アッベ数νdが、νd>75の光学条件を満たし,かつ屈折率nd1が、nd1<1.57の光学条件を満たすとともに、最も被写体OBJ側のレンズL1の被写体OBJ側の面(面番号:1)から結像面IMGまでの距離LmをTT,全系の焦点距離をf,としたときに、(TT/f)<1.3の光学条件を満たすように構成したため、球面収差,非点収差及び軸上色収差を含む諸収差を総合的に改善して、大口径レンズ100の光学性能を高めることができる。しかも、光学性能を必要かつ十分に高めることができることに加え、特に、撮影画角が±10~20〔°〕,Fナンバーが1.8以下となる大口径中望遠レンズ100mに適用した際におけるレンズ全長の短縮化及びレンズ枚数の少数化(7枚以下)を実現できるため、レンズ全体のコンパクト化、更には軽量化及び低価格化を実現することができる。
【0038】
次に、本実施形態に係る大口径レンズ100の、より具体的な実施例について、図1図7を参照して説明する。
【0039】
まず、図1に示した本実施形態に係る大口径レンズ100(大口径中望遠レンズ100m)に対応する第1実施例について、図1及び図2を参照して説明する。
【0040】
表1及び表2は、図1に示した第1実施例に係る大口径レンズ100における全系のレンズデータである。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1において、FLは、全系の焦点距離、FNOはFナンバー、Wは半画角を示す。さらに、被写体OBJ側から数えたレンズ面の面番号をiとし、この面番号は、図1に示した符号(数字)に一致する。これに対応して、レンズ面の曲率半径R(i)、軸上面間隔D(i)、レンズの屈折率nd(i)、レンズのアッベ数νd(i)、異常部分分散値ΔθgF(i)の絶対値をそれぞれ示す。nd(i)及びνd(i)はd線(587.6〔nm〕)に対する数値である。軸上面間隔D(i)は相対向する面と面間のレンズ厚或いは空気空間を示す。なお、曲率半径R(i)と面間隔D(i)の単位は〔mm〕である。面番号のOBJは被写体、STOは光学絞り部、IMGは結像面の位置を示す。曲率半径R(i)のINFは平面であり、面番号の後にAが付いた面は面形状が非球面であることを示す。また、屈折率nd(i)とアッベ数νd(i)の空欄は空気であることを示す。
【0044】
表2は、第1実施例における非球面としての面形状(非球面係数)を示す。この場合、面の中心を原点とし、光軸方向をZとした直交座標系(X,Y,Z)において、ASPを非球面の面番号としたとき、Zは数1により表される。数1において、Rは中心曲率半径、Kは円錐定数、A4,A6,A8,A10は、それぞれ4次,6次,8次,10次の非球面係数、Hは光軸上の原点からの距離である。なお、表2において、「E」は「×10」を意味する。
【0045】
【数1】
【0046】
なお、最後部に位置するレンズの最後面から結像面IMGの間に、フィスプレート(保護ガラス)、色選択フィルタ(赤外域フィルタ)、ローパスフィルタ(高周波数カットフィルタ)などの平行平面板を配する場合もあるが、これらは本実施形態に係る大口径レンズ100の構成に影響を与えるものではない。
【0047】
さらに、図2には、第1実施例に係る大口径レンズ100における光学レンズ系Uの縦収差図を示す。この縦収差図は、左側から、(a)球面収差図(656.3nm,587.7nm,435.8nm)、(b)非点収差図(587.6nm)、(c)歪曲収差図(587.6nm)である。なお、各スケールは、±0.50mm,±0.50mm,±3.0%である。いずれも良好な収差を得ていることを確認できる。
【0048】
次に、大口径レンズ100に係る変更実施例(第2実施例,第3実施例)について、図3図6を参照して説明する。
【0049】
図3は、第2実施例に係る大口径レンズ100(大口径中望遠レンズ100m)の光学レンズ系Uの構成を示す。第2実施例に係る大口径レンズ100も、基本的な構成は図1に示した第1実施例と同じである。したがって、第2実施例の光学レンズ系Uも、図3に示すように、被写体OBJ側から結像面IMG側へ順に配した、前レンズ群101,光学絞り部STO,後レンズ群102を備える。
【0050】
第2実施例と第1実施例の異なる主たる点は、第2実施例では、第1実施例に対して、前レンズ群101のレンズL3の面(面番号:6)とレンズL4の面(面番号:7)の曲率半径を、より大きく設定するとともに、面同士(面番号:6と7)を接合して構成した点,及び後レンズ群102の非球面レンズL6e(L6)における非球面(非球面係数)を異ならせた点にある。その他、細部において異なるものの基本的な構成は同じになり、前述した光学条件1~光学条件6を満たしている。このため、図3において、図1と同一部分には同一符号(同一番号)を付してその構成を明確にするとともに、その詳細な説明は省略する。
【0051】
表3及び表4は、図3に示した第2実施例に係る大口径レンズ100における全系のレンズデータである。
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
この場合、表3は、第1実施例の表1に対応するとともに、表4は、第1実施例の表2に対応する。また、図4は、第2実施例に係る大口径レンズ100における光学レンズ系Uの縦収差図を示す。図4(a),(b),(c)は、第1実施例の図2(a),(b),(c)にそれぞれ対応する。図4(a),(b),(c)に示す縦収差図から明らかなように、いずれも良好な収差を得ていることを確認できる。
【0055】
他方、図5は、第3実施例に係る大口径レンズ100(大口径中望遠レンズ100m)の光学レンズ系Uの構成を示す。第3実施例に係る大口径レンズ100も、基本的な構成は図1に示した第1実施例と同じである。したがって、第3実施例の光学レンズ系Uも、図5に示すように、被写体OBJ側から結像面IMG側へ順に配した、前レンズ群101,光学絞り部STO,後レンズ群102を備える。
【0056】
第3実施例と第1実施例の異なる主たる点は、第3実施例では、第1実施例に対して、前レンズ群101のレンズL4の面(面番号:8)の曲率半径を、より大きく選定した点,及び後レンズ群102の非球面レンズL6e(L6)における非球面(非球面係数)を異ならせた点にある。その他、細部において異なるものの基本的な構成は同じになり、前述した光学条件1~光学条件6を満たしている。このため、図5において、図1と同一部分には同一符号(同一番号)を付してその構成を明確にするとともに、その詳細な説明は省略する。
【0057】
表5及び表6は、図5に示した第3実施例に係る大口径レンズ100における全系のレンズデータである。
【0058】
【表5】
【0059】
【表6】
【0060】
この場合、表5は、第1実施例の表1に対応するとともに、表6は、第1実施例の表2に対応する。また、図6は、第3実施例に係る大口径レンズ100における光学レンズ系Uの縦収差図を示す。図6(a),(b),(c)は、第1実施例の図2(a),(b),(c)にそれぞれ対応する。図6(a),(b),(c)に示す縦収差図から明らかなように、いずれも良好な収差を得ていることを確認できる。
【0061】
さらに、図7は、第1実施例~第3実施例で得られる各光学条件に対応する数値を一覧表で示したものである。第1実施例,第2実施例及び第3実施例のいずれも各光学条件、即ち、光学条件1,光学条件2,光学条件3,光学条件4及び光学条件6を満たしている。なお、光学条件5についての数値は省略したが、第1実施例~第3実施例共に、光学条件5を満たしていることを確認できた。
【0062】
特に、光学条件6、即ち、TT/fの数値は、第1実施例が1.23、第2実施例が1.23、第3実施例が1.22となり、いずれも1.3を下回っており、これにより、大口径中望遠レンズ100mにおける必要かつ十分な光学性能(諸収差)を確保しつつ、レンズ全長の短縮化、即ち、前レンズ群101の光軸方向の長さ、更にはバックフォーカスを短縮化により大口径中望遠レンズ100mの全長を短くするという目的を達成できる。
【0063】
以上、第1実施例~第3実施例を含む好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0064】
例えば、前レンズ群101の各正レンズL1,L2,L3における被写体OBJ側の面(面番号:1,3,5)の曲率半径を、被写体OBJ側から順に、L1Ri,L2Ri,L3Riとしたときに、L1Ri>L2Ri>L3Riの光学条件を満たすことが最適な実施形態となるが、この光学条件は、必ずしも必須となるものではない。さらに、後レンズ群102の少なくとも一枚の正レンズL5…は、屈折率nd2が、nd2>1.85の光学条件を満たすことが望ましいが、この光学条件は、必ずしも必須となるものではない。一方、後レンズ群102は、一つの接合レンズL5と一枚の正レンズL6により構成した場合を示したが、必ずしもこの枚数に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明に係る大口径レンズ(大口径中望遠レンズ)は、デジタルカメラやビデオカメラ等の各種光学機器における専用レンズ或いは交換レンズとして利用できる。
【符号の説明】
【0066】
100:大口径レンズ, 100m:大口径中望遠レンズ,101:前レンズ群,102:後レンズ群,1:レンズの面番号,2:レンズの面番号,3…:レンズの面番号,5:レンズの面番号,8:レンズの面番号,OBJ:被写体,IMG:結像面,STO:光学絞り部,L1:正レンズ,L2:正レンズ,L3:正レンズ,L4…:負レンズ,L5…:接合レンズ,L6…:正レンズ,U:光学レンズ系,νd:アッベ数,nd1:屈折率,Lm:距離,c:中心,f:周辺,L1Ri:曲率半径,L2Ri:曲率半径,L3Ri:曲率半径,L6e:非球面レンズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7