(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】高圧スライド加工装置
(51)【国際特許分類】
B21C 23/00 20060101AFI20221129BHJP
B30B 1/32 20060101ALI20221129BHJP
B30B 15/22 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B21C23/00 Z
B30B1/32 E
B30B15/22 A
(21)【出願番号】P 2019024302
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2021-12-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28~30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、戦略的基盤技術高度化支援事業(プロジェクト委託型)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】392019282
【氏名又は名称】長野鍛工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】小田切 吉治
(72)【発明者】
【氏名】瀧沢 陽一
(72)【発明者】
【氏名】湯本 学
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-246426(JP,A)
【文献】特開2015-110244(JP,A)
【文献】特開2017-144449(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 23/00-35/06
B30B 1/00- 7/04
B30B 12/00-13/00
B30B 15/10-15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に移動する昇降クランプと、
同昇降クランプの直下に配置され、その上面に金属材料を載置した状態で左右方向へ摺動可能に構成した摺動クランプと、
前記昇降クランプを前記摺動クランプに前記金属材料を介して圧接させて同金属材料を両クランプ間で挟圧する昇降シリンダと、
前記金属材料が挟圧された状態で、前記左右方向の一側へ向けて進出し前記摺動クランプを一側へ摺動させる第1水平シリンダと、
前記金属材料が挟圧された状態で、前記左右方向の他側へ向けて進出し前記摺動クランプを他側へ摺動させる第2水平シリンダと、を備え、
前記昇降シリンダによる両クランプの挟圧下で、前記第1及び/又は第2のシリンダの稼動により、前記金属材料に相当ひずみを導入すべく構成した
高圧スライド加工装置であって、
前記昇降シリンダ、第1水平シリンダ、第2水平シリンダをそれぞれ独立して駆動する制御部を備え、
同制御部は、加工硬化の進展に応じて昇降シリンダの挟圧力を上昇させる制御を行うことを特徴とする高圧スライド加工装置。
【請求項2】
上下方向に移動する昇降クランプと、
同昇降クランプの直下に配置され、その上面に金属材料を載置した状態で左右方向へ摺動可能に構成した摺動クランプと、
前記昇降クランプを前記摺動クランプに前記金属材料を介して圧接させて同金属材料を両クランプ間で挟圧する昇降シリンダと、
前記金属材料が挟圧された状態で、前記左右方向の一側へ向けて進出し前記摺動クランプを一側へ摺動させる第1水平シリンダと、
前記金属材料が挟圧された状態で、前記左右方向の他側へ向けて進出し前記摺動クランプを他側へ摺動させる第2水平シリンダと、を備え、
前記昇降シリンダによる両クランプの挟圧下で、前記第1及び/又は第2のシリンダの稼動により、前記金属材料に相当ひずみを導入すべく構成した
高圧スライド加工装置であって、
前記摺動クランプには前記金属材料を加熱又は冷却する加熱冷却部が備えられていることを特徴とする高圧スライド加工装置。
【請求項3】
上下方向に移動する昇降クランプと、
同昇降クランプの直下に配置され、その上面に金属材料を載置した状態で左右方向へ摺動可能に構成した摺動クランプと、
前記昇降クランプを前記摺動クランプに前記金属材料を介して圧接させて同金属材料を両クランプ間で挟圧する昇降シリンダと、
前記金属材料が挟圧された状態で、前記左右方向の一側へ向けて進出し前記摺動クランプを一側へ摺動させる第1水平シリンダと、
前記金属材料が挟圧された状態で、前記左右方向の他側へ向けて進出し前記摺動クランプを他側へ摺動させる第2水平シリンダと、を備え、
前記昇降シリンダによる両クランプの挟圧下で、前記第1及び/又は第2のシリンダの稼動により、前記金属材料に相当ひずみを導入すべく構成した
高圧スライド加工装置であって、
前記金属材料が挟圧される仮想の挟圧平面は、前記第1及び第2のシリンダの稼動軸線よりも上方としたことを特徴とする高圧スライド加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、いずれか一方の水平シリンダを進出させた際、いずれか他方のシリンダは、前記摺動クランプを介して前記一方のシリンダより受ける力が所定の力未満であれば前記一方のシリンダに抗してピストン位置を保持する一方、所定の力以上であれば前記一方のシリンダに屈してピストンを縮める制御を行うことを特徴とする請求項
1に記載の高圧スライド加工装置。
【請求項5】
前記制御部は、所定量の相当ひずみ導入に際し、前記第1及び第2の水平シリンダによる往復動作により相当ひずみの導入を可能としたことを特徴とする
請求項1又は請求項4に記載の高圧スライド加工装置。
【請求項6】
前記金属材料の違う位置を両クランプ間に配置するフィーダ、又は新たな別の金属材料を両クランプ間に配置するロボットを備えたことを特徴とする請求項1
~5いずれか1項に記載の高圧スライド加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料に相当ひずみを導入するための高圧スライド加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材料に相当ひずみを与えることで、新たな特性を付与する手法が幾つか知られている。
【0003】
例えばHPS(High-Pressure Sliding)法は、高圧スライド加工装置に配された上下の金型間で加工対象となる金属材料を加圧挟持しつつ、加圧方向と略直交する方向に上下の金型を相対的にスライド移動させることにより金属材料に相当ひずみを付与する手法である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このHPS法によれば、金属材料に相当ひずみを多量に導入して高密度な転位を形成することで組織をナノあるいはサブミクロンサイズに微細化し、強度、弾性、延性、剛性等の向上、結晶配向の制御等が実現される。
【0005】
従って、金属材料の加工容易性を向上したり、金属材料に新たな機能的特性を付与できるなど、様々な特性の向上が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このHPS法を実現するための高圧スライド加工装置は、例えば上記特許文献1の
図1にも示されるように、左右方向に移動する水平移動金型と、上下方向から挟圧する上下金型とを備え、水平移動金型と上金型及び下金型との間の凹凸嵌合溝構造の溝部に帯状の金属材料を配した状態で相対移動させることで相当ひずみの導入加工を行うものである。
【0008】
また、このような高圧スライド加工装置は、金属材料を挟持した状態で往復のスライド動作をさせれば、金属材料に対し効率的に相当ひずみの導入を行うことも可能であり、この点、上述の凹凸嵌合溝構造を有する従来の高圧スライド加工装置は、水平移動金型を、水平移動方向の一側端に配設したシリンダで押し引き動作させれば、一応の往復動作は可能とも思われる。
【0009】
しかし、上下方向からの非常に大きな圧力下で金属材料を左右方向へスライドさせるべく十分な押圧力を得るためには十分とは言い難く、押し動作で力を発揮するシリンダを左右両側に配する必要があった。
【0010】
また、仮に水平移動金型の両側にシリンダを配した場合、実際は相当な大きさの油圧プレス装置が移動金型の両側方のスペースを占め、更には凹凸嵌合溝構造の溝部に金属材料が配されている関係上、金属材料へのアプローチ、すなわち、金属材料の供給や、加工済金属材料の除去、未加工の金属材料の配置などの際に、凹溝両側壁や左右のプレス装置が邪魔になるなど、作業効率的な側面において未だ改善の余地が残されていた。
【0011】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、金属材料への加工の自由度が高く、しかも、加工作業時の効率に優れた高圧スライド加工装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係る高圧スライド加工装置では、(1)上下方向に移動する昇降クランプと、同昇降クランプの直下に配置され、その上面に金属材料を載置した状態で左右方向へ摺動可能に構成した摺動クランプと、前記昇降クランプを前記摺動クランプに前記金属材料を介して圧接させて同金属材料を両クランプ間で挟圧する昇降シリンダと、前記金属材料が挟圧された状態で、前記左右方向の一側へ向けて進出し前記摺動クランプを一側へ摺動させる第1水平シリンダと、前記金属材料が挟圧された状態で、前記左右方向の他側へ向けて進出し前記摺動クランプを他側へ摺動させる第2水平シリンダと、を備え、前記昇降シリンダによる両クランプの挟圧下で、前記第1及び/又は第2のシリンダの稼動により、前記金属材料に相当ひずみを導入すべく構成した。
【0013】
また、本発明に係る高圧スライド加工装置では、以下の点にも特徴を有する。
(2)前記金属材料が挟圧される仮想の挟圧平面は、前記第1及び第2のシリンダの稼動軸線よりも上方としたこと。
(3)前記金属材料の違う位置を両クランプ間に配置するフィーダ、又は新たな別の金属材料を両クランプ間に配置するロボットを備えたこと。
(4)前記昇降シリンダ、第1水平シリンダ、第2水平シリンダをそれぞれ独立して駆動する制御部を備えること。
(5)前記制御部は、いずれか一方の水平シリンダを進出させた際、いずれか他方のシリンダは、前記摺動クランプを介して前記一方のシリンダより受ける力が所定の力未満であれば前記一方のシリンダに抗してピストン位置を保持する一方、所定の力以上であれば前記一方のシリンダに屈してピストンを縮める制御を行うこと。
(6)前記制御部は、加工硬化の進展に応じて昇降シリンダの挟圧力を上昇させる制御を行うこと。
(7)前記制御部は、所定量の相当ひずみ導入に際し、前記第1及び第2の水平シリンダによる往復動作により相当ひずみの導入を可能としたこと。
(8)前記摺動クランプには前記金属材料を加熱又は冷却する加熱冷却部が備えられていること。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る高圧スライド加工装置では、上下方向に移動する昇降クランプと、同昇降クランプの直下に配置され、その上面に金属材料を載置した状態で左右方向へ摺動可能に構成した摺動クランプと、前記昇降クランプを前記摺動クランプに前記金属材料を介して圧接させて同金属材料を両クランプ間で挟圧する昇降シリンダと、前記金属材料が挟圧された状態で、前記左右方向の一側へ向けて進出し前記摺動クランプを一側へ摺動させる第1水平シリンダと、前記金属材料が挟圧された状態で、前記左右方向の他側へ向けて進出し前記摺動クランプを他側へ摺動させる第2水平シリンダと、を備え、前記昇降シリンダによる両クランプの挟圧下で、前記第1及び/又は第2のシリンダの稼動により、前記金属材料に相当ひずみを導入すべく構成したため、金属材料への加工の自由度が高く、しかも、加工作業時の効率に優れた高圧スライド加工装置を提供することができる。
【0015】
また、前記金属材料が挟圧される仮想の挟圧平面は、前記第1及び第2のシリンダの稼動軸線よりも上方とすれば、昇降クランプと摺動クランプとによる金属材料の挟持面の左右側方側に障害となる構造が殆ど無いため、作業をより効率的に行うことが可能となり、しかも、材料の送り装置やロボットなどの付帯設備を配設するスペースを確保することもできる。
【0016】
また、前記金属材料の違う位置を両クランプ間に配置するフィーダ、又は新たな別の金属材料を両クランプ間に配置するロボットを備えることとすれば、金属材料に対して相当ひずみを導入する工程を更に自動化することができる。
【0017】
また、前記昇降シリンダ、第1水平シリンダ、第2水平シリンダをそれぞれ独立して駆動する制御部を備えることとすれば、いずれかのシリンダの状態に拘わらず他のシリンダを所望の状態とすることができるため、加工自由度の高い高圧スライド加工装置とすることができる。
【0018】
また、前記制御部は、いずれか一方の水平シリンダを進出させた際、いずれか他方のシリンダは、前記摺動クランプを介して前記一方のシリンダより受ける力が所定の力未満であれば前記一方のシリンダに抗してピストン位置を保持する一方、所定の力以上であれば前記一方のシリンダに屈してピストンを縮める制御を行うこととすれば、所定の背圧をかけながら金属材料に対し相当ひずみの導入加工を行うことができる。
【0019】
また、前記制御部は、加工硬化の進展に応じて昇降シリンダの挟圧力を上昇させる制御を行うこととすれば、バリの発生を抑制することができる。
【0020】
また、前記制御部は、所定量の相当ひずみ導入に際し、前記第1及び第2の水平シリンダによる往復動作により相当ひずみの導入を可能とすれば、材料の状態に応じて相当ひずみの導入を行うことができる。
【0021】
また、前記摺動クランプには前記金属材料を加熱又は冷却する加熱冷却部が備えられていることとすれば、金属材料を加工に適した温度に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係る高圧スライド加工装置の構成を示した模式図である。
【
図2】上部金型及び下部金型近傍の構成を示した模式断面図である。
【
図3】相当ひずみの導入過程を示した説明図である。
【
図4】相当ひずみの導入過程を示した説明図である。
【
図6】高圧スライド加工装置の電気的構成を示したブロック図である。
【
図7】第1の動作例に係るタイミングチャートである。
【
図9】第2の動作例に係るタイミングチャートである。
【
図11】第3の動作例に係るタイミングチャートである。
【
図13】第4の動作例に係る相当ひずみの導入過程を示した説明図である。
【
図14】第4の動作例に係るタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、金属材料にHPS加工を施すための高圧スライド加工装置に関するものであり、特に、金属材料への加工の自由度が高く、しかも、加工作業時の効率に優れた高圧スライド加工装置を提供するものである。
【0024】
以下、本実施形態に係る高圧スライド加工装置について、図面を参照しながら説明する。
図1は本実施形態に係る高圧スライド加工装置Aの正面外観を示した模式図である。
【0025】
図1に示すように高圧スライド加工装置Aは、金属材料Mの加工を行う装置本体部10と、同装置本体部10の制御等を行う制御盤11とで構成している。
【0026】
装置本体部10は、金属材料Mを上方より挟圧する挟圧機構12と、金属材料Mを左右方向へスライドさせて相当ひずみの導入を行うスライド機構13と、これら挟圧機構12やスライド機構13を支える複数の梁14aにより構成された支持構造体14とで構成している。
【0027】
挟圧機構12は、支持構造体14の上部の梁14aに固定配置した昇降シリンダ15と、同昇降シリンダ15のピストン15aの先端に固設した上部金型16と、昇降シリンダ油圧駆動設備17とで構成している。
【0028】
昇降シリンダ15は、ピストン15aが上下方向に進退する向きで配設されており、ピストン15aを伸縮させて、上部金型16を金属材料Mに所定の圧力や速度で押し当てて挟圧したり、上部金型16を上昇させる。
【0029】
また、この昇降シリンダ15は、支持構造体14の上部に配された昇降シリンダ油圧駆動設備17の油圧回路により接続されている。昇降シリンダ油圧駆動設備17は、油圧を発生させて昇降シリンダ15を駆動させる設備である。
【0030】
また昇降シリンダ油圧駆動設備17には、制御盤11と電気的に接続された昇降シリンダ駆動回路17aが備えられている。昇降シリンダ駆動回路17aは、制御盤11からの制御信号に応じて油圧ポンプ等の駆動を行う電気的な回路であり、昇降シリンダ油圧駆動設備17から昇降シリンダ15へ油圧を供給し、ピストン15aを所定の速度や圧力で駆動させる。
【0031】
ピストン15aに配された上部金型16は、後述の下部金型32と対をなす金型であって昇降クランプとして機能する部材であり、金属材料Mと直接に接触して金属材料Mに挟圧力を与え、更には相当ひずみを与える役割を有する。上部金型16は
図2に示すように、金型ベース18と、金型本体19とで構成している。
【0032】
金型ベース18は、ピストン15aの先端に金型本体19を配するためのベースの役割を有する部材であり、上面側にはピストン15aの先端と嵌合するピストン取付凹部18aが形成されている。
【0033】
また、金型ベース18の下面側には、金型本体19の取付部となる金型本体取付凹部18bが形成されており、金型本体取付凹部18bには、側面プレート18cやウェッジプレート18d、底板プレート18e等と共に金型本体19が固設されている。
【0034】
金型本体19は、金属材料Mと接触し、後述の下部金型32と協動して挟圧を行うための部位であって、略中央部には凸状の接触面19aが形成されており、破線にて示すように、その頂部近傍にて金属材料Mを挟圧しつつ相当ひずみの付与を行う。
【0035】
また、金型ベース18の内部には、例えば紙面表裏方向へ向け、金型本体取付凹部18bを囲うように加熱管20と冷却管21とが配されており、加熱冷却部22が構築されている。
【0036】
これら加熱管20や冷却管21は、金型本体取付凹部18bに取り付けられた金型本体19の加熱や冷却を行って金属材料Mの加工時の温度を調整するためのものであり、制御盤11の制御により金型本体19の温度状態を制御可能としている。なお、加熱や冷却は公知の手段を採用することができ、例えば加熱管20は電気的乃至電磁的加熱を、また冷却管21は水冷など媒体を介した冷却を採用することができる。
【0037】
一方、スライド機構13は、
図1に示すように、加工部25と、第1水平シリンダ26と、第1水平シリンダ油圧駆動設備27と、第2水平シリンダ28と、第2水平シリンダ油圧駆動設備29とで構成している。
【0038】
加工部25は金属材料Mに対して加工を施すための部位であり、基台30と、同基台30上に固定して配した枠台31と、同枠台31上で摺動移動可能に配置した下部金型32とを備えている。
【0039】
基台30は、高圧スライド加工装置Aの設置面Gに設置された加工部25のベースとなる部分である。
【0040】
枠台31は、下部金型32の摺動を所定方向及び所定範囲内に規制するための台であり、具体的には、
図1において紙面左右方向への摺動は許容しつつ、紙面前後方向への摺動は規制する。
【0041】
下部金型32は、前述の上部金型16と対をなす金型であって摺動クランプとして機能する部位であり、上部金型16と同様に金属材料Mと直接に接触して金属材料Mに挟圧力を与え、更には相当ひずみを与える役割を有する。下部金型32は
図2に示すように、スライダ33と、金型本体34とで構成している。
【0042】
スライダ33は、金型本体34を装着した状態で、枠台31に形成された摺動凹部31aに沿って摺動し、金属材料Mに相当ひずみを導入するための移動体である。スライダ33の下面側は摺動凹部31aの幅と略同幅に形成した摺動部33aを備えており、枠台31の壁部31bにより規制された範囲内でスライダ33が摺動することとなる。
【0043】
また、スライダ33の上面側には、金型本体34の取付部となる金型本体取付凹部33bが形成されており、金型本体取付凹部33bには、側面プレート33cやウェッジプレート33d、底板プレート33e等と共に金型本体34が固設されている。
【0044】
金型本体34は、金属材料Mと接触し、前述の上部金型16と協動して挟圧を行うための部位であって、略中央部には凸状の接触面34aが形成されており、その頂部近傍にて金属材料Mを挟圧しつつ相当ひずみの付与を行う。
【0045】
また、スライダ33の内部には、前述の金型ベース18の内部と同様に、例えば紙面表裏方向へ向け、金型本体取付凹部18bを囲うように加熱管20と冷却管21とが配されており、加熱冷却部22が構築されている。なお、上部金型16及び下部金型32のいずれの加熱冷却部22においても、金型本体19,34の加熱冷却効率を良好とすべく、断熱材等により構築した断熱層を必要な箇所に適宜形成することもできる。
【0046】
図1の説明に戻り、スライド機構13を構成する第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28は、昇降シリンダ15により押圧されている下部金型32を左右水平方向へ摺動させるためのシリンダであり、下部金型32を介して同一軸線上に各ピストン26a,28aをそれぞれ対向させた状態で配設している。
【0047】
また、ピストン26a,28aの先端にはそれぞれ、プッシャー26b,28bを配設している。このプッシャー26b,28bは、第1水平シリンダ26や第2水平シリンダ28にて生起した押圧力を下部金型32へ伝達するための部材であり、下部金型32の側面に当接させて下部金型32を摺動させる。
【0048】
また、第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28は、支持構造体14の上部に配された第1水平シリンダ油圧駆動設備27及び第2水平シリンダ油圧駆動設備29にそれぞれ接続されている。第1水平シリンダ油圧駆動設備27及び第2水平シリンダ油圧駆動設備29は、油圧を発生させて第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28を駆動させる設備である。
【0049】
第1水平シリンダ油圧駆動設備27や第2水平シリンダ油圧駆動設備29には、それぞれ制御盤11と電気的に接続された第1水平シリンダ駆動回路27aや第2水平シリンダ駆動回路29aが備えられている。第1水平シリンダ駆動回路27aや第2水平シリンダ駆動回路29aは、制御盤11からの制御信号に応じて油圧ポンプ等の駆動を行う電気的な回路であり、第1水平シリンダ油圧駆動設備27や第2水平シリンダ油圧駆動設備29から第1水平シリンダ26や第2水平シリンダ28へ油圧を供給し、ピストン26aやピストン28aを所定の速度や圧力で駆動させる。
【0050】
また、上述した昇降シリンダ15や第1水平シリンダ26、第2水平シリンダ28は、制御盤11からの制御信号に応じ、昇降シリンダ油圧駆動設備17や第1水平シリンダ油圧駆動設備27、第2水平シリンダ油圧駆動設備29を介して駆動するが、いずれのシリンダも、他のシリンダの動作とは無関係に独立して所定の圧力や速度、シリンダの進退を行えるようにしている。
【0051】
すなわち、昇降シリンダ15や第1水平シリンダ26、第2水平シリンダ28はそれぞれ、独立した油圧駆動設備17,27,29を備え、制御盤11からの駆動信号に応じ独立して稼動するフリーモーションが実現されている。
【0052】
次に、このような構成を備えた高圧スライド加工装置Aの基本的な動作について説明する。まず
図3(a)に示すように、上部金型16の金型本体19と下部金型32の金型本体34との間に金属材料Mを配置し、昇降シリンダ15の駆動によりピストン15aを進出させて金型本体19を金属材料Mへ向けて下降させる。
【0053】
次いで、
図3(b)に示すように、昇降シリンダ15により所定の圧力P1で金属材料Mを挟圧し、更に水平シリンダ(ここでは、第1水平シリンダ26)を駆動させピストン26aを進出させることにより、プッシャー26bを介して下部金型32を所定の圧力又は速度(ここでは、圧力P2)で押圧する。
【0054】
ここで、このときの金属材料Mの状態について
図4を参照しつつ説明する。
図4は、
図3(b)にて破線の丸で示した部分における金属材料Mの状態を示す説明図である。
図4において金属材料Mの断面部分に示すハッチングは、導入された相当ひずみの状態を模式的に示している。
【0055】
図4(a)は圧力P2を付与する前の状態を示しており、上部金型16の金型本体19に追従する金属材料Mの上面Mu(網掛けで示す)と、下部金型32の金型本体34に追従する金属材料Mの下面Md(網掛けで示す)との間には、昇降シリンダ15による圧力P1の付与に伴って下方へ向け力F1が働くと共に、同力F1に対する抗力F1’が働き、金属材料Mが挟圧される。なおこの時点では、まだ相当ひずみは導入されていない。
【0056】
ここで第1水平シリンダ26による圧力P2の付与に伴い、下部金型32がスライドして力F2が付与されると、
図4(b)にて傾斜湾曲したハッチングで示すように上面Muと下面Mdとの間に相当ひずみが導入され、金属材料Mの肉厚内部に相当ひずみ導入部Sが形成されることとなる。
【0057】
このとき、
図3(c)に示すように、金型本体34は金型本体19の直下よりスライド分だけオフセットした位置となり、金属材料Mは金型本体19や金型本体34への追従に伴って若干変形する。
【0058】
この状態で上部金型16を上昇させることにより、相当ひずみ導入部Sが形成された金属材料Mを得ることも可能であるが、更に復路動作を行って相当ひずみ導入量を多くすることもできる。
【0059】
すなわち、
図3(c)にて白抜きの横矢印で示すように、圧力P2を加えたシリンダと対向する水平シリンダ(ここでは、第2水平シリンダ28)を駆動させピストン28aを進出させることにより、プッシャー28bを介して下部金型32を所定の圧力又は速度(ここでは、圧力P3)で押圧する。
【0060】
これにより下部金型32は紙面左方へ摺動し、
図3(d)に示すように、上部金型16と下部金型32は、
図3(a)と同様の原点位置に復帰し、金属材料Mは概ね元の状態に戻ることとなる。このときの金属材料Mには
図3(c)の段階の金属材料Mよりも多い相当ひずみが導入されている。
【0061】
このように、本実施形態に係る高圧スライド加工装置Aによれば、上述のような工程を経ることで、金属材料Mに対しHPS法により相当ひずみの導入を行うことができる。
【0062】
また特に、従来の高圧スライド加工装置の金型は、凹凸嵌合溝構造を備えた水平移動金型と上金型及び下金型との間の溝部に帯状の金属体を配して挟圧していたが、このような従来構造と比較して水平方向四方からの金属材料Mへのアプローチが容易化されている点で特徴的である。
【0063】
すなわち、
図1において金属材料Mと共に一点鎖線で示したように、金属材料Mが上部金型16と下部金型32とで挟持される面を含む仮想平面(以下、挟圧平面S1と称する。)が、第1水平シリンダ26や第2水平シリンダ28の押圧の軸線Jよりも上方であり、特に、下部金型32に直接接するプッシャー28bよりも上方としているため、
図1において紙面手前-奥行方向である前後方向に余裕があるのは勿論のこと、金属材料Mの左右方向いずれにもスペースが形成されることとなり、金属材料Mへのアプローチ極めて容易となり、金属材料Mの送り装置やロボットなど、HPS加工の自動化等に必要な付帯設備を配設することができる。
【0064】
なお、上述してきた動作は、高圧スライド加工装置Aにより金属材料Mに相当ひずみを導入するための基本動作の一例であり、本実施形態に係る高圧スライド加工装置Aは更に様々な動作を行うことも可能である。
【0065】
具体例を挙げると、例えば、昇降シリンダ15による挟圧下において、金属材料Mに対し、背圧をかけながら相当ひずみを導入することもできる。
図5は、この背圧をかけながらの相当ひずみ導入の過程を示した説明図である。
【0066】
図5(a)に示すように、昇降シリンダ15により金型本体19を介して金属材料Mを圧力P1で挟圧した状態において、背圧の設定値をPとして金属材料Mに相当ひずみの導入を行うに際し、第1水平シリンダ26により圧力P2(ただし、背圧の設定値Pを下回る値の圧力)が付与されている間は、第2水平シリンダ28のピストン28aを固定したり、第2水平シリンダ28により圧力P2と同じ圧力P3を付与することで、下部金型32の摺動を規制する。
【0067】
そして、第1水平シリンダ26からの圧力P2を徐々に高め、設定背圧Pを上回る圧力P2に達すると、第2水平シリンダ28は設定背圧Pと同じ圧力P3で下部金型32を押圧することにより、いわば第2水平シリンダ28が第1水平シリンダ26からの押圧力に押し負けるような状態で金属材料Mに背圧(設定背圧P)を付与しながら加工を行うことができる。
【0068】
また本実施形態に係る高圧スライド加工装置Aは、更に様々な動作を行うことが可能であるが、これらの動作については、高圧スライド加工装置Aの電気的構成について説明した後に追って説明する。
【0069】
次に、これらの構成等を踏まえ、高圧スライド加工装置Aの電気的構成について
図6を参照しながら説明する。なお、本実施形態に係る高圧スライド加工装置Aでは、前述の如く金属材料Mの送り装置やロボットなどの付帯設備を任意で配設し自動化や半自動化することも可能であるため、ここでは金属材料Mの送り装置40を備えた高圧スライド加工装置Aとして説明する。
【0070】
図6は、本実施形態に係る高圧スライド加工装置Aの電気的構成を示したブロック図である。制御盤11内に構築される制御部41は、その構成としてCPU45、ROM46、RAM47等を備えており、高圧スライド加工装置Aの稼動に必要なプログラムを実行可能としている。
【0071】
具体的には、ROM46はCPU45の処理において必要なプログラム等が格納されており、RAM47はそのプログラム等の実行に際し一時的な記憶領域として機能する。
【0072】
また制御部41には、操作スイッチ11aやタッチパネル11b、第1水平シリンダ圧力センサ26c、第2水平シリンダ圧力センサ28c、昇降シリンダ駆動回路17a、第1水平シリンダ駆動回路27a、第2水平シリンダ駆動回路29a、温度調整回路49、送り装置40が接続されている。
【0073】
操作スイッチ11aやタッチパネル11bは、
図1に示すように制御盤11に配設されたスイッチやパネルであり、高圧スライド加工装置Aの使用者が所望の動作をさせたり、プログラムを入力するために使用する。
【0074】
第1水平シリンダ圧力センサ26cや第2水平シリンダ圧力センサ28cは、それぞれ第1水平シリンダ26や第2水平シリンダ28に備えられた圧力センサである。これら両圧力センサ26c,28cは、抗力を検知するセンサであり、例えば他方の水平シリンダより受ける圧力を検知して背圧の制御等に資するものである。
【0075】
すなわち、制御部41は、いずれか一方の水平シリンダを進出させた際、両圧力センサ26c,28cからの情報に基づき、いずれか他方のシリンダは、前記摺動クランプを介して前記一方のシリンダより受ける力(例えば圧力P2)が所定の力(例えば設定背圧P)未満であれば前記一方のシリンダに抗してピストン位置を保持する一方、所定の力以上(例えば、圧力P2≧設定背圧P)であれば前記一方のシリンダに屈してピストンを縮める制御を行う。
【0076】
昇降シリンダ駆動回路17aや、第1水平シリンダ駆動回路27a、第2水平シリンダ駆動回路29aは、それぞれ油圧駆動設備17や第1水平シリンダ油圧駆動設備27、第2水平シリンダ油圧駆動設備29に配設された駆動回路である。これら駆動回路は、前述のように、制御部41からの制御信号に応じ、油圧ポンプを駆動させるなどして、昇降シリンダ15や第1水平シリンダ26、第2水平シリンダ28を所定の圧力や速度で独立して稼動させる。
【0077】
温度調整回路49は、制御部41からの制御信号に基づき、上部金型16の金型ベース18内に構築された加熱冷却部22や、下部金型32のスライダ33内に構築された加熱冷却部22による各金型の加熱や冷却を行うための回路である。
【0078】
具体的には、例えば金型の加熱にあたっては、各金型に配された加熱管20内に配されている発熱体に通電し、その電流や電圧を制御することにより加熱調整したり、冷却にあたっては、冷却管21に流通させる冷却水のポンプ駆動を制御することにより冷却調整が行われる。
【0079】
送り装置40は、挟圧機構12の上部金型16とスライド機構13の下部金型32との間に金属材料Mを配置したり、既に配置されている金属材料Mの挟圧位置を変更したり、加工済の金属材料Mを除いて新たな金属材料Mに取り替えを行うための装置である。この送り装置40は、ローラ等によって構成した装置でも良く、また、ロボットを採用することも可能である。特に本実施形態では、プッシャー26bやプッシャー28bの上方位置近傍、挟圧平面S1近辺において送り装置40による作業スペースが確保されており、金属材料Mの移動や置換作業が容易化されている。なお、以下の説明においてこれらの動作を単に配置、位置の変更、置換等と称する。
【0080】
次に、制御部41において所定の処理が実行されることにより実現される、本実施形態に係る高圧スライド加工装置Aの特徴的な動作について、
図7~
図14を参照しつつ説明する。なお以下の説明において、第1水平シリンダ26と第2水平シリンダ28とのいずれか一方を進出させ他方を後退させる場合、この他方の後退させるシリンダは必要に応じて前述の背圧をかけることもできる。
【0081】
図7は第1の動作例に係るタイミングチャートであり、
図8は第1の動作例における加工工程を示した説明図である。第1の動作例は、金属材料Mに対し往路のみHPS加工を行う片押加工の例である。片押加工は
図7に示すようにまず第1ステップにおいて、昇降シリンダ15、第1水平シリンダ26、第2水平シリンダ28をそれぞれ待機位置とする。
【0082】
次に第2ステップにおいて、昇降シリンダ15を進出させて
図8(a)に示すように上部金型16を降下させ、金属材料Mを下部金型32との間でクランプする。このとき、第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28は、待機位置のままである。
【0083】
次に第3ステップにおいて、昇降シリンダ15はクランプ状態のままとしつつ、第1水平シリンダ26を進出させ、
図8(b)に示すように下部金型32をスライドさせて金属材料Mに対して側方からの力を付与し相当ひずみの導入を行う。このとき、第2水平シリンダ28は、後退動作を行わせる。
【0084】
次に第4ステップにおいて、
図8(c)に示すように昇降シリンダ15を後退させて金属材料Mをクランプ状態から開放すると共に、第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28の動作を一時的に停止させる。
【0085】
次に第5ステップにおいて、昇降シリンダ15は待機位置とし、後退を完了させる。第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28は、引き続き動作を一時的に停止する。なお、昇降シリンダ15はこれ以降、第8ステップに至るまで待機位置を保持する。
【0086】
次に、第6ステップにおいて第1水平シリンダ26を後退させると共に、第2水平シリンダ28を前進させる。すなわち、
図8(d)に示すように、金属材料Mを挟圧していない状態で、第1水平シリンダ26を第3ステップで進出させた分だけ後退させつつ、第2水平シリンダ28を後退させた分だけ進出させ、第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28を待機位置の状態とする(第7ステップ)
【0087】
次に、第8ステップにおいて、送り装置40を駆動させ、金属材料Mの配置、位置の変更、置換等を行って片押加工の処理を終える。
【0088】
次に、第2の動作例として、金属材料Mに対し往復でHPS加工を行う往復加工について説明する。
図9は第2の動作例(往復加工)に係るタイミングチャートであり、
図10は第2の動作例(往復加工)における加工工程を示した説明図である。
【0089】
往復加工は
図9に示すようにまず第1ステップにおいて、昇降シリンダ15、第1水平シリンダ26、第2水平シリンダ28をそれぞれ待機位置とする。
【0090】
次に第2ステップにおいて、昇降シリンダ15を進出させて
図10(a)に示すように上部金型16を降下させ、金属材料Mを下部金型32との間でクランプする。このとき、第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28は、待機位置のままである。
【0091】
次に第3ステップにおいて、昇降シリンダ15はクランプ状態のままとしつつ、第1水平シリンダ26を進出させ、
図10(b)に示すように下部金型32をスライドさせて金属材料Mに対して側方からの力を付与し相当ひずみの導入を行う(往路動作)。このとき、第2水平シリンダ28は、後退動作を行わせる。
【0092】
次に第4ステップにおいて、昇降シリンダ15はクランプ状態のままとしつつ、第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28の動作を一時的に停止させる。
【0093】
次に第5ステップにおいて、昇降シリンダ15はクランプ状態のままとしつつ、第2水平シリンダ28を進出させ、
図10(c)に示すように下部金型32をスライドさせて金属材料Mに対して側方からの力を付与し相当ひずみの導入を行う(復路動作)。このとき、第1水平シリンダ26は、後退動作を行わせる。なお、第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28のこの動作により、両シリンダは待機位置に復帰することとなり、併せて昇降シリンダ15を退避させて待機位置へ移動させる(第6ステップ)。
【0094】
次に第7ステップにおいて、昇降シリンダ15、第1水平シリンダ26、第2水平シリンダ28を待機位置とし、送り装置40を駆動させることにより、金属材料Mの配置、位置の変更、置換等を行って往復加工の処理を終える。
【0095】
次に、第3の動作例として、金属材料Mに対し、前述の往復動作を連続的に行う場合(以下、連続往復加工)について説明する。
図11は第3の動作例(連続往復加工)に係るタイミングチャートであり、
図12は第3の動作例(連続往復加工)における加工工程を示した説明図である。
【0096】
連続往復加工は
図11に示すようにまず第1ステップにおいて、昇降シリンダ15、第1水平シリンダ26、第2水平シリンダ28をそれぞれ待機位置とする。
【0097】
次に第2ステップにおいて、昇降シリンダ15を進出させて
図12(a)に示すように上部金型16を降下させ、金属材料Mを下部金型32との間でクランプする。このとき、第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28は、待機位置のままである。
【0098】
次に第3ステップにおいて、昇降シリンダ15はクランプ状態のままとしつつ、第1水平シリンダ26を進出させ、
図12(b)に示すように下部金型32をスライドさせて金属材料Mに対して側方からの力を付与し相当ひずみの導入を行う(往路動作)。このとき、第2水平シリンダ28は、後退動作を行わせる。
【0099】
次に第4ステップにおいて、昇降シリンダ15はクランプ状態のままとしつつ、第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28の動作を一時的に停止させる。
【0100】
次に第5ステップにおいて、昇降シリンダ15はクランプ状態のままとしつつ、第2水平シリンダ28を進出させ、
図12(c)に示すように下部金型32をスライドさせて金属材料Mに対して側方からの力を付与し相当ひずみの導入を行う(復路動作)。このとき、第1水平シリンダ26は、後退動作を行わせる。なお、第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28のこの動作により、両シリンダは待機位置に復帰することとなり、併せて
図12(d)に示すように昇降シリンダ15を退避させて待機位置へ移動させる(第6ステップ)。
【0101】
次に第7ステップにおいて、昇降シリンダ15、第1水平シリンダ26、第2水平シリンダ28を待機位置とし、第8ステップにおいて送り装置40を駆動させることにより、金属材料Mの配置、位置の変更、置換等を行って、前述の第2の動作例にて説明した往復加工と同様の一連の処理を完了する。そして、この連続往復加工では、この第2ステップから第8ステップの過程を繰り返し行うことで、
図12(e)~(h)に示すように、連続的な往復加工によるHPS加工が実現される。
【0102】
次に、第4の動作例として、金属材料Mに対し、金属材料Mの挟圧位置を変更しながら、スライド方向を違えつつジグザクに相当ひずみ導入領域の形成を行う加工(以下、連続ジグザグ加工)について説明する。具体的には、
図13(a)に示すように、まず金属材料Mの所定の位置X1を挟圧して矢印の方向へ下部金型32をスライドして相当ひずみの導入を行い、次いで
図13(b)に示すように、白抜き矢印の方向へ金属材料M自体を移動させて挟圧位置を位置X2とする。
【0103】
そして、この位置X2において、位置X1とは逆方向へスライドしつつ相当ひずみの導入を行い、次いで
図13(c)に示すように白抜き矢印の方向へ金属材料Mを移動させ挟圧位置を位置X3とした上で、位置X2とは逆方向へスライドしつつ相当ひずみの導入を行うものである。
【0104】
図14は第4の動作例(連続ジグザグ加工)に係るタイミングチャートであり、
図15は第4の動作例(連続ジグザグ加工)における加工工程を示した説明図である。
【0105】
連続ジグザグ加工は
図14に示すようにまず第1ステップにおいて、昇降シリンダ15、第1水平シリンダ26、第2水平シリンダ28をそれぞれ待機位置とする。
【0106】
次に第2ステップにおいて、昇降シリンダ15を進出させて
図15(a)に示すように上部金型16を降下させ、金属材料Mを下部金型32との間でクランプする。このとき、第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28は、待機位置のままである。
【0107】
次に第3ステップにおいて、昇降シリンダ15はクランプ状態のままとしつつ、第1水平シリンダ26を進出させ、
図15(b)に示すように下部金型32をスライドさせて金属材料Mに対して側方からの力を付与し相当ひずみの導入を行う(往路動作)。このとき、第2水平シリンダ28は、後退動作を行わせる。これにより、
図13(a)に示した相当ひずみ導入部の形成が行われる。
【0108】
次に第4ステップにおいて、昇降シリンダ15はクランプ状態のままとしつつ、第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28の動作を一時的に停止させる。なお、両水平シリンダの動作は、第8ステップまで一時的に停止状態である。
【0109】
次に、第5ステップにおいて、昇降シリンダ15を退避させて待機位置へ移動させる(第6ステップ)。
【0110】
次に第7ステップにおいて送り装置40を駆動させることにより、金属材料Mの位置の変更(材料フィード)を行い、続いて昇降シリンダ15を降下させて金属材料Mをクランプする(第8ステップ)。
【0111】
次に、第9ステップにおいて第3ステップとは逆に、第2水平シリンダ28を進出させ、下部金型32をスライドさせて金属材料Mに対して側方からの力を付与し相当ひずみの導入を行う(復路動作)。このとき、第1水平シリンダ26は、後退動作を行わせる。これにより、
図13(b)に示した相当ひずみ導入部の形成が行われる。
【0112】
次に、第10ステップにおいて昇降シリンダ15はクランプ状態のままとしつつ、第1水平シリンダ26及び第2水平シリンダ28の動作を一時的に停止させ、その後昇降シリンダ15を退避させて待機位置へ移動させる(第11ステップ)。
【0113】
そして、昇降シリンダ15が待機位置に移動した後に(第12ステップ)、金属材料Mの位置の変更(材料フィード)又は金属材料Mの取出が行われる(第13ステップ)。また、この連続ジグザグ加工では、この第2ステップから第13ステップの過程を繰り返し行うことで、連続的なジグザグ加工によるHPS加工が実現される。
【0114】
上述してきたように、本実施形態に係る高圧スライド加工装置Aによれば、上下方向に移動する昇降クランプと、同昇降クランプの直下に配置され、その上面に金属材料を載置した状態で左右方向へ摺動可能に構成した摺動クランプと、前記昇降クランプを前記摺動クランプに圧接させて前記金属材料を両クランプ間で挟圧する昇降シリンダと、前記金属材料が挟圧された状態で、前記左右方向の一側へ向けて進出し前記摺動クランプを一側へ摺動させる第1水平シリンダと、前記金属材料が挟圧された状態で、前記左右方向の他側へ向けて進出し前記摺動クランプを他側へ摺動させる第2水平シリンダと、を備え、前記昇降シリンダによる両クランプの挟圧下で、前記第1及び/又は第2のシリンダの稼動により、前記金属材料に相当ひずみを導入すべく構成したため、金属材料への加工の自由度が高く、しかも、加工作業時の効率に優れた高圧スライド加工装置を提供することができる。
【0115】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0116】
11 制御盤
12 挟圧機構
13 スライド機構
15 昇降シリンダ
16 上部金型
19 金型本体
22 加熱冷却部
26 第1水平シリンダ
28 第2水平シリンダ
32 下部金型
33 スライダ
34 金型本体
40 送り装置
41 制御部
49 温度調整回路
A 高圧スライド加工装置
M 金属材料
S 相当ひずみ導入部
S1 挟圧平面