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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】免疫誘導剤及びそれを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20221129BHJP
   A61K 47/56 20170101ALI20221129BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20221129BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20221129BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20221129BHJP
   C07K 14/82 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
A61K39/00 G
A61K47/56
A61P37/04
A61K39/39
C07K14/47 ZNA
C07K14/82
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019509625
(86)(22)【出願日】2018-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2018011201
(87)【国際公開番号】W WO2018180819
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2017068276
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506060258
【氏名又は名称】公立大学法人北九州市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】望月 慎一
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 和朗
(72)【発明者】
【氏名】森下 博美
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/118789(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0191730(US,A1)
【文献】国際公開第2017/217531(WO,A1)
【文献】MOCHIZUKI S.et al.,Immunization with antigenic peptides complexed with β-glucan induces potent cytotoxic T-lymphocyte activity in combination with CpG-ODNs,Journal of Controlled Release,2015年,220,p.495-502
【文献】KHAN S.et al.,Distinct uptake mechanisms but similar intracellular processing of two different Toll-like receptor ligand-peptide conjugates in dendritic cells,J Biol Chem.,2007年07月20日,282(29),p.21145-59
【文献】KRAMER K.et al.,Intracellular cleavable CpG oligodeoxynucleotide-antigen conjugate enhances anti-tumor immunity,Mol Ther.,2017年01月04日,25(1),p.62-70
【文献】TIGHE H.et al.,Conjugation of immunostimulatory DNA to the short ragweed allergen Amb a 1 enhances its immunogenicicity and reduces its allergenicity,J Allergy Clin Immunol.,2000年07月,106(1 Pt 1),p.124-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本鎖ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体(ただし、ポリデオキシアデニル酸およびその誘導体、ならびに抗原提示細胞の細胞表面ターゲットに対するオリゴヌクレオチドアプタマーを除く。)に抗原性を有するペプチドが共有結合したポリヌクレオチド/ペプチドコンジュゲートを有効成分として含む免疫誘導剤であって、
前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の塩基長が30以上80以下であることを特徴とし、
前記ポリヌクレオチド/ペプチドコンジュゲートは、β-1,3-グルカンと複合体を形成していない、免疫誘導剤。
【請求項2】
前記抗原性を有するペプチドのアミノ酸長が5以上30以下であることを特徴とする、請求項1記載の免疫誘導剤。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の塩基長が30以上40以下であることを特徴とする、請求項1記載の免疫誘導剤。
【請求項4】
前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体がポリデオキシシチジル酸もしくはその誘導体又はポリデオキシチミジル酸もしくはその誘導体又はポリデオキシグアニル酸もしくはその誘導体であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の免疫誘導剤。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、DNA又はRNAのホスホジエステル結合の少なくとも一部がホスホロチオエート基で置換されたポリヌクレオチド誘導体であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の免疫誘導剤。
【請求項6】
前記DNA又はRNAのホスホジエステル結合のうち少なくとも一部がホスホロチオエート基で置換されたポリヌクレオチド誘導体において、ホスホジエステル結合の50%以上がホスホロチオエート基で置換されていることを特徴とする請求項5記載の免疫誘導剤。
【請求項7】
前記ポリヌクレオチド/ペプチドコンジュゲートを構成する前記抗原性を有するペプチドと前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体とが、アルキンとアジド誘導体との付加環化反応、マレイミド基とチオール基との反応のいずれかにより生成した共有結合を介して結合していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の免疫誘導剤。
【請求項8】
前記ポリヌクレオチド/ペプチドコンジュゲートを構成する前記抗原性を有するペプチドと前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体とが、ペプチドN末端のシステイン残基のチオール基とチオール修飾核酸のチオール基との反応により生成した共有結合を介して結合していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の免疫誘導剤。
【請求項9】
アジュバントとして、免疫賦活活性を有する物質をさらに含むことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の免疫誘導剤。
【請求項10】
前記アジュバントが、免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体であることを特徴とする請求項9記載の免疫誘導剤。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項記載の免疫誘導剤を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原ペプチド特異的免疫応答を誘導するための新規な免疫誘導剤及びそれを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ワクチンによる感染予防の基本的な原理は、人為的な擬似感染により、獲得免疫を誘導し、特定の病原体に対する抗体産生や細胞性免疫を誘導することにある。獲得免疫においては、免疫の「記憶」を担当するT細胞やB細胞が中心的な役割を果たし、DNAの再構成による抗体の可変領域の多様性が、無数の抗原への特異的な免疫反応を可能にしていることが知られている。一方、白血球、マクロファージ、樹状細胞等の食細胞が中心的な役割を果たしている自然免疫は、従来、病原体や異物を貪食する非特異的なプロセスであり、獲得免疫成立までの「一時しのぎ」としての役割のみを果たしていると考えられていたが、自然免疫の分子機構に関する研究の進展により、自然免疫においても、自己・非自己の特異的な認識が行われていることや、自然免疫が獲得免疫の成立に必須であることが明らかにされた。より具体的には、樹状細胞、マクロファージ、B細胞等の抗原提示細胞に存在するToll様受容体(TLR)ファミリーが、様々な病原体と反応し、サイトカインの産生を誘導し、ナイーブT細胞のTh1細胞への分化の促進、キラーT細胞の活性化等を通して、獲得免疫を誘導することが、最近の研究により明らかにされた。
【0003】
一連のTLRファミリーにより認識される病原体の構成成分は多岐にわたるが、その中の1つに、TLR9のリガンドである、CpG配列を有するDNA(CpG DNA)がある。CpG配列は、中心部にシトシン(C)とグアニン(G)が並ぶ6個の塩基を基本とする配列で、ほ乳類には少なく、微生物には多く見られる塩基配列である。また、ほ乳類においては、少数存在するCpG配列の殆どがメチル化を受けている。ほ乳類中に殆ど存在しない非メチル化CpG配列は、強力な免疫賦活活性を有している(例えば、非特許文献1~3参照)。エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれたCpG DNAは、ファゴソーム様小胞体に存在するTLR9により認識され、Th1反応を強く誘導する。Th1反応は、Th2反応が優位なアレルギー反応を抑制すると共に、強い抗腫瘍活性を有する。そのため、CpG DNAは、感染予防に加え、アレルギー疾患、腫瘍性疾患に対するアジュバントとしても期待されている(例えば非特許文献4参照)。
【0004】
しかし、CpG DNAを免疫療法のアジュバントとして使用する場合、細胞質や血漿中のヌクレアーゼによる分解や、タンパク質との非特異的な結合を回避しつつ、いかに標的細胞の内部にCpG DNAを到達させるかが問題となる。
【0005】
本発明者らは、新規な遺伝子キャリアとしてβ-1,3-グルカン骨格を有する多糖(以下、「β-1,3-グルカン」と略称する場合がある。)に着目し、これまでに、β-1,3-グルカンが核酸医薬(アンチセンスDNA、CpG DNA)をはじめとする種々の核酸と新しいタイプの複合体を形成することを見出してきた(例えば、特許文献1、2、非特許文献5~7参照)。
【0006】
天然では3重らせんで存在するβ-1,3-グルカンを、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性有機溶媒、或いは0.1N以上のアルカリ溶液に溶解して1本鎖に解離させた後に、1本鎖の核酸を加え、溶媒を水或いは中性に戻すことによって、核酸1分子とβ-1,3-グルカン2分子とからなる3重らせん複合体が形成することを見出した。この場合、3重らせん複合体におけるβ-1,3-グルカン分子と核酸分子とは、主として水素結合と疎水性相互作用により分子間結合を形成しているものと考えられている(非特許文献8参照)。
【0007】
上述のように、核酸をβ-1,3-グルカンと複合化することにより、ヌクレアーゼによる核酸分子の加水分解や、血漿タンパク質と核酸との非特異的な結合等の、核酸分子と生体内タンパク質との望ましくない相互作用を抑制しつつ、核酸を細胞の内部に到達させることが可能になった。β-1,3-グルカンと核酸との複合体、さらには抗原性を有するタンパク質を含む3元複合体を利用して、CpG DNAの細胞内へのデリバリーに成功した(例えば、特許文献3、4、非特許文献9~11参照)。
【0008】
しかしながら、上記従来の技術は、以下のような課題を有していた。例えば、非特許文献11記載のβ-1,3-グルカン/抗原性を有するタンパク質/CpG DNAの3元複合体の製造方法においては、過ヨウ素酸酸化により、β-1,3-グルカンの側鎖のグルコース残基上にホルミル基を生成させ、還元的アミノ化反応により、ホルミル基と抗原性を有するペプチド(以下、「抗原性ペプチド」と略称する場合がある。)のアミノ基とを反応させ、β-1,3-グルカンと抗原性ペプチドとが共有結合した複合体を形成するが、収率がきわめて低いという課題を有していた。かかる事情に鑑みて、例えば、特許文献4記載のβ-1,3-グルカン/抗原性タンパク質(抗原性ペプチド)/CpG DNAの3元複合体の製造方法においては、側鎖にホルミル基を有するβ-1,3-グルカンと抗原性ペプチドとを、アルカリ水溶液中で反応させると同時に中和を行う、或いはアルカリ水溶液中で反応させて逐次中和を行うことにより、β-1,3-グルカンの側鎖上のホルミル基と抗原性ペプチドのアミノ基との反応性及び収率を向上させている。しかしながら、ペプチドには複数のアミノ基が存在するため、反応点の制御が困難である。したがって、抗原性ペプチドの反応位置による免疫原性の違いや、β-1,3-グルカンとの反応生成物が複雑な混合物となることに起因する分離精製の困難性等の問題の発生が懸念される。また、水素結合による複合体形成を利用したβ-1,3-グルカンとDNAとの複合体の形成に比べ、β-1,3-グルカンと抗原性ペプチドの共有結合の形成に基づく複合体の形成は煩雑である。これらの点において、特許文献4記載のβ-1,3-グルカン/抗原性ペプチド/CpG DNAの3元複合体の製造方法は、生産性等の点で依然として課題を有している。
【0009】
かかる課題に鑑みて、本発明者らは、生産性に優れ、高い免疫賦活活性を有するペプチド/β-1,3-グルカン複合体として、β-1,3-グルカン骨格を有する多糖と、抗原性を有するペプチドが、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体と共有結合を介して結合したペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートとを含み、前記ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートのポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、前記β-1,3-グルカン骨格を有する多糖と、水素結合を介して結合し、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の分子鎖1本と前記β-1,3-グルカン骨格を有する多糖の分子鎖2本とからなる三重螺旋構造を有する複合体を形成していることを特徴とするペプチド/β-1,3-グルカン複合体を提案した(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第01/34207号
【文献】国際公開第02/072152号
【文献】特開2007-70307号公報
【文献】特開2010-174107号公報
【文献】国際公開第2015/118789号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Bacterial CpG DNA Activates Immune Cells to Signal Infectious Danger, H. Wagner, Adv. Immunol., 73, 329-368 (1999).
【文献】CpG Motifs in Bacterial DNA and Their Immune Effects, M. Krieg, Annu. Rev. Immunol., 20, 709-760 (2002).
【文献】The discovery of immunostimulatory DNA sequence, S. Yamamoto, T. Yamamoto, and T. Tokunaga, Springer Seminars in Immunopathology, 22, 11-19 (2000).
【文献】「標準免疫学」第2版、医学書院、2002年、333頁
【文献】Molecular Recognition of Adenine, Cytosine, and Uracil in a Single-Stranded RNA by a Natural Polysaccharide: Schizophyllan. K. Sakurai and S. Shinkai, J. Am. Chem. Soc., 122, 4520-4521 (2000).
【文献】Polysaccharide-Polynucleotide Complexes. 2. Complementary Polynucleotide Mimic Behavior of the Natural Polysaccharide Schizophyllan in the Macromolecular Complex with Single-Stranded RNA and DNA. K. Sakurai, M. Mizu and S. Shinkai, Biomacromolecules, 2, 641-650 (2001).
【文献】Dectin-1 targeting delivery of TNF-α antisense ODNs complexed with β-1,3-glucan protects mice from LPS-induced hepatitis. S. Mochizuki and K. Sakurai, J. Control. Release, 151 (2011) 155-161.
【文献】Structural Analysis of the Curdlan/Poly (cytidylic acid) Complex with Semiempirical Molecular Orbital Calculations. K. Miyoshi, K. Uezu, K. Sakurai and S. Shinkai, Biomacromolecules, 6, 1540-1546 (2005).
【文献】A Polysaccharide Carrier for Immunostimulatory CpG DNAs to Enhance Cytokine Secretion, M. Mizu, K. Koumoto, T. Anada, T. Matsumoto, M. Numata, S. Shinkai, T. Nagasaki and K. Sakurai, J. Am. Chem. Soc., 126, 8372-8373 (2004).
【文献】Protection of Polynucleotides against Nuclease-mediated Hydrolysis by Complexation with Schizophyllan, M. Mizu, K. Koumoto, T. Kimura, K. Sakurai and S. Shinkai, Biomaterials, 25, 15, 3109-3116 (2004).
【文献】Synthesis and in Vitro Characterization of Antigen-Conjugated Polysaccharide as a CpG DNA Carrier, N. Shimada, K. J. Ishii, Y. Takeda, C. Coban, Y. Torii, S. Shinkai, S. Akira and K. Sakurai, Bioconjugate Chem., 17 1136-1140 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献5に記載のペプチド/β-1,3-グルカン複合体を構成するペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲート自体の免疫誘導活性については知られていなかった。
【0013】
本発明者らは、β-1,3-グルカンと複合体を形成していないペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲート自体が、単独で高い免疫誘導活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。かくして、本発明は、生産性に優れ、高い免疫賦活活性を有する免疫誘導剤及びそれを含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、1本鎖ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体に抗原性を有するペプチドが共有結合したポリヌクレオチド/ペプチドコンジュゲートを有効成分として含む免疫誘導剤を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0015】
本発明の第1の態様に係る免疫誘導剤において、前記抗原性を有するペプチドのアミノ酸長が5以上30以下であってもよい。
【0016】
本発明の第1の態様に係る免疫誘導剤において、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の塩基長が20以上80以下であってもよい。
【0017】
本発明の第1の態様に係る免疫誘導剤において、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体がポリデオキシアデニンであってもよい。
【0018】
本発明の第1の態様に係る免疫誘導剤において、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体がポリデオキシシトシン又はポリデオキシチミジン又はポリデオキシグアニンであってもよい。
【0019】
本発明の第1の態様に係る免疫誘導剤において、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体が、DNA又はRNAのホスホジエステル結合の少なくとも一部がホスホロチオエート基で置換されたポリヌクレオチド誘導体であってもよい。
【0020】
本発明の第1の態様に係る免疫誘導剤において、前記DNA又はRNAのホスホジエステル結合のうち少なくとも一部がホスホロチオエート基で置換されたポリヌクレオチド誘導体において、ホスホジエステル結合の50%以上がホスホロチオエート基で置換されていてもよい。
【0021】
本発明の第1の態様に係る免疫誘導剤において、前記ポリヌクレオチド/ペプチドコンジュゲートを構成する前記抗原性を有するペプチドと前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体とが、アルキンとアジド誘導体との付加環化反応、マレイミド基とチオール基との反応のいずれかにより生成した共有結合を介して結合していてもよい。
【0022】
本発明の第1の態様に係る免疫誘導剤において、前記ポリヌクレオチド/ペプチドコンジュゲートを構成する前記抗原性を有するペプチドと前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体とが、ペプチドC末端のシステイン残基のチオール基とチオール修飾核酸のチオール基との反応のいずれかにより生成した共有結合を介して結合していてもよい。
【0023】
本発明の第1の態様に係る免疫誘導剤において、アジュバントとして、免疫賦活活性を有する物質をさらに含んでいてもよい。
【0024】
本発明の第1の態様に係る免疫誘導剤において、前記アジュバントが、免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体であってもよい。
【0025】
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様に係る免疫誘導剤を含む医薬組成物を提供することにより上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明のペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートは、β-1,3-グルカンと複合体を形成することなく、免疫誘導剤として用いることができる。そのため、ペプチド/β-1,3-グルカン複合体を有効成分とする従来の免疫誘導剤よりも更に生産性に優れている。また、抗原性を有するペプチド及びポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体を適宜組み合わせることにより、多様な抗原に対し免疫誘導活性を有する免疫誘導剤を容易に設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】SPDP修飾dA40(S)と、抗原性を有するペプチドとの反応後の溶液をHPLCにより分取した結果を示すクロマトグラムである。
図2】実施例2におけるフローサイトメトリーの測定結果を示す図である。
図3】実施例3におけるフローサイトメトリーの測定結果を示す図である。
図4】実施例4におけるフローサイトメトリーの測定結果を示す図である。
図5】実施例5におけるフローサイトメトリーの測定結果を示す図である。
図6】実施例6におけるフローサイトメトリーの測定結果を示す図である。
図7】実施例7におけるフローサイトメトリーの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の第一の実施の形態に係る免疫誘導剤(以下、「免疫誘導剤」と略称する場合がある。)は、1本鎖ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体に抗原性を有するペプチドが共有結合したポリヌクレオチド/ペプチドコンジュゲートを有効成分として含んでいる。
【0029】
ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートは、抗原性ペプチドと、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体とが、共有結合を介して結合した複合体である。「抗原性を有するペプチド」としては、抗原性を有するもの、すなわち、生体の免疫系において異物であると認識され、特異的な抗体産生を引き起こす(免疫応答を誘導する)ものであれば、任意のアミノ酸配列及びアミノ酸残基数を有するものを、特に制限なく用いることができる。本実施の形態に係るペプチド/β-1,3-グルカン複合体の製造に用いられる抗原性ペプチドとしては、食物アレルギー等のアレルギーの原因となるタンパク質、細菌、ウィルス等の病原体、腫瘍細胞等を起源とするタンパク質のうち、エピトープとして作用しうる部分アミノ酸配列を有するものが挙げられる。抗原性ペプチドを構成するアミノ酸残基数は、エピトープとして作用しうる限りにおいて特に制限されないが、多くの場合、5~30の範囲内であり、大部分は、8~17程度の範囲内にある。
【0030】
抗原性ペプチドは、起源となるタンパク質の酵素分解、ペプチド合成等の任意の公知の方法を用いて得ることができる。また、抗原性ペプチドのアミノ酸配列は、ペプチドアレイを用いたエピトープ解析等の任意の公知の方法を用いて決定することができる。
【0031】
抗原性ペプチドに結合させるポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体は、任意の塩基配列及び塩基数を有するポリヌクレオチド又はその誘導体を特に制限なく用いることができる。ポリヌクレオチドの具体例としては、ポリリボアデニル酸(polyA)、ポリリボシチジル酸(polyC)、ポリデオキシリボアデニル酸(poly(dA))、ポリデオキシリボチミジル酸(poly(dT))、ポリデオキシリボグアニル酸(poly(dG))が挙げられる。ポリヌクレオチドの塩基数は特に制限されないが、ポリヌクレオチドは、β-1,3-グルカンと結合能が高いポリリボアデニル酸(polyA)、ポリリボシチジル酸(polyC)、ポリデオキシリボアデニル酸(poly(dA))、ポリデオキシリボチミジル酸(poly(dT))、ポリデオキシリボグアニル酸(poly(dG))のいずれかの繰り返し配列を有していることが好ましい。塩基数は、10以上であることが好ましく、20~80であることがより好ましく、30~80であることが更に好ましい。
【0032】
ポリヌクレオチドは、生体内でヌクレアーゼによる分解を受けやすいので、生体内での安定性を向上させるために、ポリヌクレオチドの代わりにポリヌクレオチド誘導体を用いてもよい。ポリヌクレオチド誘導体の例としては、リボヌクレオチドの2’位のヒドロキシル基の全部又は一部がフッ素又はメトキシ基で置換されているもの、ポリリボヌクレオチド(RNA)又はポリデオキシリボヌクレオチド(DNA)のホスホジエステル基の全部又は一部がホスホロチオエート基で置換されているもの等が挙げられる。ポリリボヌクレオチド又はポリデオキシリボヌクレオチドのホスホジエステル基の一部がホスホロチオエート基で置換されている場合、ホスホジエステル結合の50%以上がホスホロチオエート基で置換されていることが好ましい。ホスホロチオエート基で置換されるホスホジエステル基の位置は特に制限されず、連続した複数のホスホジエステル基が置換されていてもよく、或いはホスホロチオエート基が互いに隣り合わないように置換されていてもよい。
【0033】
ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体は、抗原性ペプチドのN末端、C末端、或いは側鎖のいずれに結合していてもよいが、抗原性ペプチドのN末端側に結合していることが好ましい。両者は、適当な反応性官能基同士の反応により直接結合していてもよく、適当なスペーサーを介して結合していてもよい。反応性官能基としては、抗原性ペプチド及びポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体に存在する官能基をそのまま、或いは化学修飾により活性化したものを用いてもよいが、適当な反応性官能基を導入してもよい。また、ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体は、5’末端側が抗原性ペプチドと結合していてもよく、3’末端側が結合していてもよい。
【0034】
好ましいペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートの一例は、下記の式(A)に示すように、ペプチドのN末端側に、ホスホロチオエート化ポリデオキシアデニル酸(polyAのホスホジエステル基がホスホロチオエート基に置換されたポリヌクレオチド誘導体)の5’末端側が結合した構造を有している。
[抗原性ペプチド]-X-(dA(S))x (A)
【0035】
なお、式(A)において、dA(S)は、ホスホロチオエート化デオキシアデニル酸を表し、xは、例えば20以上80以下の整数である。Xは、スペーサー又は反応性官能基同士の反応により形成された官能基を表す。スペーサーの一例としては、アルキル基、ポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられる。反応性官能基の組み合わせの例としては、例えば、バイオチップ表面への生体分子の固定に用いられる反応性官能基同士の組み合わせが挙げられ、より具体的には、下記に示すものが挙げられる。
【0036】
(a)アルキンとアジド化合物
アルキンとアジド化合物(アジ化物)は、下記に示すような付加環化反応(フイスゲン反応)により、1,2,3-トリアゾール環を形成する。両者は、生体分子を含む多くの有機化合物に導入可能な安定な官能基であり、水を含む溶媒中でも迅速かつほぼ定量的に反応し、殆ど副反応を伴わず、余分な廃棄物を生成しないため、いわゆる「クリックケミストリー」の中心的な反応として、生化学の分野で広く用いられている。アルキン誘導体及びアジド基は、任意の公知の方法を用いて、抗原性ペプチド又はポリヌクレオチド若しくはポリヌクレオチド誘導体に導入することができる。アルキン誘導体としては、プロパルギルアルコール、プロパルギルアミン等の反応性官能基を有するものが容易に入手でき、これらをカルボキシル基やヒドロキシル基等の反応性官能基と直接反応させ、或いはカルボニルジイミダゾール等と共に反応させ、生成するアミド結合、エステル結合、ウレタン結合等を介してアルキン誘導体を導入することができる。アジド基についても、任意の公知の方法を用いて、抗原性ペプチド又はポリヌクレオチド若しくはポリヌクレオチド誘導体に導入することができる。なお、フイスゲン反応は銅触媒の存在下で行われるが、抗原性ペプチド及びリン酸ジエステル基がホスホロチオエート基等の含硫黄官能基で置換されたポリヌクレオチド誘導体には、銅イオンに配位する硫黄原子が存在するため、銅の触媒活性が低下するおそれがある。反応率を向上させるために過剰量の銅を添加することが好ましい。
【0037】
【化1】
【0038】
(b)マレイミド又はビニルスルホンとチオール基
電子求引性のカルボニル基又はスルホン基に隣接する二重結合を有するマレイミド又はビニルスルホンは、中性付近のpHで、下記に示すように、チオール基との付加反応(マイケル付加反応)により、安定なチオエーテル誘導体を生成する。適当なスペーサーを有するマレイミド及びビニルスルホン誘導体が市販されているため、抗原性ペプチド又はポリヌクレオチド若しくはポリヌクレオチド誘導体にこれらの官能基を導入することは容易である。抗原性ペプチドにチオール基を導入する場合、システインを含む抗原性ペプチドの場合には、システイン残基側鎖のチオール基を利用できる。ただし、システインは、存在比が低いアミノ酸であるため、抗原性ペプチドのN末端側にシステインを導入したものを用いる。チオール基を含むポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体としては、これらの5’末端のヒドロキシル基をチオール基に変換したチオール化ポリヌクレオチドが用いられる。
【0039】
【化2】
【0040】
(c)システイン側鎖のチオール基とチオール化ポリヌクレオチドのチオール基
上述のとおり、N末端側にシステインを導入した抗原性ペプチドのシステイン残基側鎖のチオール基と、チオール化ポリヌクレオチドのチオール基とを反応させ、ジスルフィド基を形成させる。ジスルフィド結合は、還元剤の存在下で切断されるため、上両者に比べ、安定性の点で劣る。ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体へのチオール基の導入は、任意の公知の方法を用いて行うことができるが、具体例としては、下式に示すような、アミノ化ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体と、ω-(2-ピリジルジチオ)脂肪酸のN-スクシイミジルエステルとの反応が挙げられる。
【0041】
【化3】
【0042】
免疫誘導剤を含む医薬組成物の製造には、有効成分としてのペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートに加え、任意の公知の成分(医薬用途に許容される任意の担体、賦形剤及び添加物)及び製剤方法を用いることができる。例えば、医薬組成物は、錠剤、座剤、カプセル剤、シロップ剤、ナノゲル等のマイクロカプセル剤、滅菌液剤、懸濁液剤等の注射剤、エアゾール剤、スプレー剤等の形態を取ることができる。
【0043】
医薬組成物は、免疫賦活活性を有する物質としてアジュバントを更に含んでいてもよい。アジュバントとしては、ペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートに導入された抗原性を有するペプチド等に応じて適宜選択されるが、例えば、CpG DNA等であってもよく、国際公開第2015/118789号に記載の、免疫賦活活性を有する部分塩基配列を有するポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体と、β-1,3-グルカン骨格を有する多糖とが、水素結合を介して結合し、前記ポリヌクレオチド又はポリヌクレオチド誘導体の分子鎖1本と前記β-1,3-グルカン骨格を有する多糖の分子鎖2本とからなる三重螺旋構造を有するポリヌクレオチド/β-1,3-グルカン複合体であってもよい。
【0044】
医薬組成物は、ヒトまたは温血動物(マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌ、サル等)に対し、経口及び非経口経路のいずれによっても投与可能である。非経口投与経路としては、皮下、皮内及び筋中注射、腹腔内投与、点滴、鼻粘膜や咽頭部への噴霧等が挙げられる。
【0045】
活性成分であるペプチド/ポリヌクレオチドコンジュゲートの用量は、活性、治療対象となる疾患、投与対象となる動物の種類、体重、性別、年齢、疾患の重篤度、投与方法等に応じて異なる。体重60kgの成人を例に取ると、経口投与の場合、1日当たりの用量は通常約0.1~約100mg、好ましくは約1.0~約50mg、より好ましくは約1.0~約20mgであり、非経口投与の場合、1日当たりの用量は通常約0.01~約30mg、好ましくは約0.1~約20mg、より好ましくは約0.1~約10mgである。他の動物に投与する場合には、上記用量を単位体重当たりの用量に換算後、投与対象となる動物の体重を乗じて得られた用量を用いる。
【0046】
医薬組成物は、免疫を活性化することによる細菌、ウィルス等の病原体の感染に起因する感染症、ガン等の腫瘍の治療及び予防のためのワクチン等として用いることができる。
【実施例
【0047】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:dA40(S)-ペプチドコンジュゲートの調製
アミノ基修飾dA40(S)(リン酸ジエステル基をホスホロチオエート基に置換したデオキシアデノシンの40量体)1molと、スクシイミジル6-[3’-(2-ピリジルジチオ)-プロピオンアミド]ヘキサノエート(LC-SPDP)30molをリン酸緩衝液(pH8.0)で混合させた。40℃で3時間静置させた後、NAP-5カラムを用いてSPDP修飾dA40(S)を精製した。
【0048】
SPDP修飾dA40(S)1molに対し、25molの割合で、オボアルブミン(OVA)由来の抗原性を有するペプチド(アミノ酸配列:SIINFEKL)を、30%N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中で混合させた。40℃で3時間静置させた後、HPLCでdA-ペプチドコンジュゲートを分取した。HPLCの条件はA液を0.1M酢酸トリエチルアンモニウム(TEAA;pH 7.0)、B液をアセトニトリルとし、カラムはZORBAX Eclipse Plus C18を用いて以下のグラジェント条件で行った。
0分 A:90% B:10%
~ 25分 70% 30%
~ 30分 0% 100%
【0049】
HPLCを用いて、SPDP修飾dA40(S)と、抗原性を有するペプチドとの反応後の溶液を分取した結果を図1に示す。検出はdA40(S)の260nmの吸収をモニタすることにより行った。分取後のdA40(S)のピークの溶出時間が遅れていることが分かる。これは、疎水性のペプチドと結合することで溶出時間が遅くなったためと考えられる。また、分取後のクロマトグラムには未反応のdA40(S)のピークは見られず、dA40(S)-ペプチドコンジュゲートのみのピークが検出されるため、目的のdA40(S)-ペプチドコンジュゲートが純度高く得られたことが分かる。
【0050】
実施例2:dA40(S)-ペプチドコンジュゲートによる細胞傷害性T細胞誘導の評価
抗原としてdA40(S)-ペプチドコンジュゲートを、アジュバントとしてCpG-dA/SPG複合体(国際公開第2015/118789号参照)を、マウス(C57BL/6マウス(♂、7週齢))に皮内投与した(1回)。投与から1週間後、同系統のマウスのうち、投与を行っていない個体より脾細胞を取り出し、これを2つの群に分け、一方に、抗原として、オボアルブミン(卵白アルブミン、OVA)由来の抗原性を有するペプチド(ペプチド配列;SIINFEKL)を添加し、90分静置することにより抗原保持脾細胞を作製し、ペプチドを添加していない脾細胞を抗原未保持脾細胞とした。カルボキシフルオレセインスクシイミジルエステル(CFSE)を用いて、抗原保持脾細胞及び抗原未保持脾細胞の両者を蛍光修飾した。このとき、CFSEの濃度を変えることにより、抗原保持脾細胞の方が、抗原未保持脾細胞よりも蛍光強度が高くなるようにした。投与抗原保持脾細胞、抗原未保持脾細胞をそれぞれ同数混合し、抗原及びアジュバントを投与したマウス個体に、投与から1週間後に尾静脈投与した。dA40(S)-ペプチドコンジュゲートの投与量は、ペプチド換算で20ng、アジュバントの投与量は、CpG-DNA換算で30μgであった。
【0051】
上記の尾静脈投与から24時間経過後に、マウスから脾細胞を取り出し、抗原保持脾細胞と抗原未保持脾細胞の割合を、フローサイトメトリーで定量することにより、細胞傷害性T細胞の誘導を評価した。フローサイトメトリーの測定結果を図2に示す。比較のために、dA40(S)-ペプチドコンジュゲートの代わりに、対照群としてPBS(リン酸緩衝生理食塩水)及びdA40(S)-ペプチドコンジュゲートをSPGと複合化させたdA40(S)-ペプチドコンジュゲート/SPG複合体を投与したマウス個体を用いて同様の条件で行った測定結果を併せて図2に示す。
【0052】
PBSを投与したマウス個体から採取した脾細胞には、抗原保持脾細胞と未保持脾細胞の割合が同数含まれていたが、dA40(S)-ペプチドコンジュゲート投与マウスから採取された脾細胞からは、抗原保持脾細胞のみが消失していた。このことよりdA40(S)-ペプチドコンジュゲートと、アジュバントとしてのCpG-dA/SPG複合体の投与により、ペプチド抗原特異的な免疫応答が誘導されていることが分かる。また、その効果はdA40(S)-ペプチドコンジュゲート/SPG複合体を投与した個体よりも高いことが分かる(dA40(S)-ペプチドコンジュゲート/SPG複合体投与マウスから採取された脾細胞からは、抗原保持脾細胞が検出されている。)。
【0053】
実施例3:コンジュゲートに用いるdA(S)の塩基長依存性
コンジュゲートさせるdA(S)の長さを40以外に、20、30に変えて、それぞれ、実施例1と同様の方法でコンジュゲートを作製した。DNAの長さの異なるコンジュゲート体をマウスに免疫し、前記実施例と同様に尾静脈投与した抗原保持脾細胞、抗原未保持脾細胞の割合をフローサイトメトリーで定量することにより、細胞傷害性T細胞の誘導を評価した。
【0054】
フローサイトメトリーの測定結果を図3に示す。dA(S)の塩基長を30まで短くしても抗原保持脾細胞が完全に消失していることが分かった。dA(S)の塩基長を20まで減少させると、その効果は少し弱くなっているが、ペプチド特異的な細胞障害性T細胞の活性が誘導されていることが分かる。
【0055】
実施例4:dA30(S)-ペプチドコンジュゲートの投与量依存性
コンジュゲートさせるdA(S)の塩基長を30に固定し、投与するペプチド量を変えてマウスに免疫し、実施例1と同様に、尾静脈投与したマウス個体から採取した脾細胞中の、抗原保持脾細胞、抗原未保持脾細胞の割合をフローサイトメトリーで定量することにより、細胞傷害性T細胞の誘導を評価した。
【0056】
フローサイトメトリーの測定結果を図4に示す。ペプチド換算でのdA30(S)-ペプチドコンジュゲートの投与量を20ngより低減させると、徐々にその効果がなくなっていることが分かる。一般的なペプチド免疫では数マイクログラム、dA30(S)-ペプチドコンジュゲート/SPG複合体では、少なくとも100ngの投与量を必要とするが、本発明ではその投与量を100分の1~1000分の1に減少させることに成功した。
【0057】
実施例5:ペプチド/ヌクレオチドコンジュゲートのDNAの化学構造依存性
これまでの実施例において、コンジュゲートの作製に用いているdAは、ホスホロチオエート結合のDNAを用いているが、この化学結合の一部又は全部をリン酸ジエステル結合に弛緩すると、細胞傷害性T細胞の誘導活性がどのように変化するか、ホスホロチオエート基の含有率を変えて評価した。dA30のうち、リン酸ジエステル基が全てホスホロチオエート基に置換されたdA30(All PS)、3分の1がホスホロチオエート基に置換されたdA30(1/3 PS)、ホスホロチオエート基を含まないdA30(All PO)の3種類を用意し、実施例1と同様の手順によりペプチド/コンジュゲートを作製し、マウスに免疫し、前記実施例2と同様に、尾静脈投与したマウス個体より採取した抗原保持脾細胞、抗原未保持脾細胞の割合を、フローサイトメトリーで定量することにより、細胞傷害性T細胞の誘導を評価した。
【0058】
フローサイトメトリーの測定結果を図5に示す。ホスホロチオエート結合の割合を減少させると、細胞傷害性T細胞の誘導活性も同様に低下することが分かった。この結果より、細胞の取り込みにホスホロチオエート結合の性質が深く関わっていることが示唆される。
【0059】
実施例6:オボアルブミン以外の抗原ペプチドによる効果
これまでの実施例において、用いている抗原ペプチドはオボアルブミン由来のペプチドを用いているが、このペプチドを他の抗原ペプチド配列に変えて評価した。抗原ペプチドとしてマウスメラノーマ抗原TRP2(SVYDFFVWL)を選択し、前記実施例1と同様の手順によりペプチド/コンジュゲート体を作製し、マウスに免疫し、前記実施例2と同様に、尾静脈投与したマウス個体より採取した抗原保持脾細胞、抗原未保持脾細胞の割合を、フローサイトメトリーで定量することにより、細胞傷害性T細胞の誘導を評価した。
【0060】
フローサイトメトリーの測定結果を図6に示す。TRP2ペプチドに対しても同様に細胞傷害性T細胞誘導活性を示すことが分かった。抗原性の高いペプチドであれば、ペプチド/コンジュゲート体により効率よくペプチド特異的免疫応答を誘導できることが分かった。
【0061】
実施例7:ペプチド/ヌクレオチドコンジュゲートのDNAの配列依存性
これまでの実施例において、コンジュゲートの作製に用いている核酸はdAを用いているが、この配列をポリデオキシシトシン(dC)又はポリデオキシチミジン(dT)に変えると、細胞傷害性T細胞の誘導活性がどのように変化するか、核酸の配列を変えて評価した。核酸としてdA40、dC40、dT40の3種類を用意し、実施例1と同様の手順によりペプチド/コンジュゲートを作製し、マウスに免疫し、前記実施例2と同様に、尾静脈投与したマウス個体より採取した抗原保持脾細胞、抗原未保持脾細胞の割合を、フローサイトメトリーで定量することにより、細胞傷害性T細胞の誘導を評価した。
【0062】
フローサイトメトリーの測定結果を図7に示す。核酸の配列をdC、dTに変化させても、細胞傷害性T細胞の誘導活性に影響を与えないことが分かった。この結果より、ペプチド/ヌクレオチドコンジュゲート体による細胞傷害性T細胞の誘導にはDNAの配列は依存しないことが分かった。
【0063】
なお、本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。つまり、本発明の範囲は、実施形態ではなく、請求の範囲によって示される。そして、請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【0064】
本出願は、2017年3月30日に出願された日本国特許出願2017-68276号に基づくものであり、その明細書、特許請求の範囲、図面および要約書を含むものである。上記日本国特許出願における開示は、その全体が本明細書中に参照として含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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