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  • 特許-生体外での腸管腫瘍の検査方法 図1
  • 特許-生体外での腸管腫瘍の検査方法 図2
  • 特許-生体外での腸管腫瘍の検査方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】生体外での腸管腫瘍の検査方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20221129BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020012211
(22)【出願日】2020-01-29
(65)【公開番号】P2021114971
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2021-01-29
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】399015388
【氏名又は名称】学校法人九州文化学園
(74)【代理人】
【識別番号】100114661
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 美洋
(72)【発明者】
【氏名】和田 守正
(72)【発明者】
【氏名】藤本 京子
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-515334(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0233563(US,A1)
【文献】P5-3ムチン様タンパク質の腫瘍形成における役割,第23回日本がん分子標的治療学会学術集会プログラム・抄録集,2019年05月15日,第112頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現の上昇を小腸における腸管腫瘍の腫瘍マーカーとして用いることを特徴とする生体外での腸管腫瘍の検査方法。
【請求項2】
前記腫瘍マーカーは、小腸の近位、中位、遠位のいずれかにおける腸管腫瘍の腫瘍マーカーであることを特徴とする請求項1に記載の生体外での腸管腫瘍の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸管腫瘍の検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌の治療には、検査によって腫瘍の早期発見が最も有効である。細胞の癌化においては、ムチンを含む細胞表層の糖質の変化が認められている。大腸や小腸などの腸管の内腔を覆う粘膜内にはムチンが主要な糖タンパク質となっている。
【0003】
このムチンは、コアタンパク質がムチン遺伝子によりコード化されている。そのうちのムチン様タンパク質遺伝子Mucl1は、突発性肺線維症の予後予測を援助する方法に用いられている(たとえば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2015-522246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、マウスの腫瘍形成機構を解析する中で、腫瘍形成とムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現が相関することを見出した。
【0006】
そこで、本発明では、腸管腫瘍の形成を早期に発見する検査方法として、ムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現が寄与し得るかを明らかにした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明では、ムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現の上昇を小腸における腸管腫瘍の腫瘍マーカーとして用いることを特徴とする生体外での腸管腫瘍の検査方法を提供するものである。
【0008】
また、請求項2に係る本発明では、前記請求項1に係る本発明において、前記腫瘍マーカーは、小腸の近位、中位、遠位のいずれかにおける腸管腫瘍の腫瘍マーカーであることを特徴とする生体外での腸管腫瘍の検査方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
そして、本発明では、以下に記載する効果を奏する。
【0011】
すなわち、本発明では、腸管腫瘍形成とムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現が相関することから、ムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現を大腸や小腸における腸管腫瘍の腫瘍マーカーとして用いて腸管腫瘍の検査を行うことで、腸管腫瘍の形成を早期に発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】腸全体における腫瘍数の減少を示すグラフ。
図2】小腸における腫瘍数の減少を示すグラフ。
図3】小腸の各部位における腫瘍数の減少を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、腸管腫瘍形成とムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現の相関を家族性大腸腫瘍疾患モデルであるApcMin/+マウスを用いて調べた。
【0014】
48匹のApcMin/+の遺伝的背景を持つマウスのうち、19匹についてムチン様タンパク質遺伝子Mucl1をホモ欠損させてMucl1遺伝子ノックアウトマウスを作成した(理化学研究所)。以下の説明では、ムチン様タンパク質遺伝子Mucl1をホモ欠損させて作成した19匹のMucl1遺伝子ノックアウトマウスを「Mucl1欠損マウス」と呼び、残りの29匹のMucl1遺伝子正常マウスを「野生型マウス」と呼ぶ。
【0015】
Mucl1欠損マウスと野生型マウスを生後4カ月で解剖し、小腸と大腸を取出した。小腸については、近位(proximal)と中位(middle)と遠位(distal)に三等分した。その後、実体顕微鏡を用いて、腫瘍の数とサイズとを計測した。
【0016】
その結果、図1に示すように、小腸及び大腸の腸管全体において、1個体当たりのMucl1欠損マウスと野生型マウスの腫瘍数を比較すると、野生型マウスの1個体当たりの腫瘍数に比べてMucl1欠損マウスの1個体当たりの腫瘍数が顕著に減少することが分かった。MannWhitneyU-testによる統計的検定を行ったところ、P値は、0.0007であり、有意差が確認された。
【0017】
1個体当たりのMucl1欠損マウスと野生型マウスの腫瘍数は、小腸・大腸のいずれにおいても野生型マウスの1個体当たりの腫瘍数に比べてMucl1欠損マウスの1個体当たりの腫瘍数が減少していた。
【0018】
特に、図2に示すように、小腸においては、1個体当たりのMucl1欠損マウスと野生型マウスの腫瘍数を比較すると、野生型マウスの1個体当たりの腫瘍数に比べてMucl1欠損マウスの1個体当たりの腫瘍数が顕著に減少することが分かった。MannWhitneyU-testによる統計的検定を行ったところ、P値は、0.0007であり、有意差が確認された。
【0019】
しかも、図3に示すように、小腸においては、三等分した近位(proximal)と中位(middle)と遠位(distal)のそれぞれについて1個体当たりのMucl1欠損マウスと野生型マウスの腫瘍数を比較すると、三等分した近位(proximal)と中位(middle)と遠位(distal)のいずれの部位においても、野生型マウスの1個体当たりの腫瘍数に比べてMucl1欠損マウスの1個体当たりの腫瘍数が顕著に減少することが分かった。MannWhitneyU-testによる統計的検定を行ったところ、P値は、近位(proximal)で0.0018であり、中位(middle)で0.0044であり、遠位(distal)で0.0021であり、いずれの部位においても有意差が確認された。
【0020】
以上の結果から、Mucl1欠損マウスでは、野生型マウスと比較して腸管腫瘍の数が優位に減少することが確認された。これは、腸管腫瘍細胞が自身の細胞を守るためにムチン(Mucl1)を分泌することを示唆している。
【0021】
以上に説明したように、今回使用したApcMin/+マウスは、ヒト大腸癌の発生に関与する癌抑制遺伝子Apcのマウスホモログが欠損しているために、マウス腸管にポリープが多発する腫瘍発生モデルマウスである。このような腸管にポリープが多発するマウスモデルにおいて、Mucl1遺伝子破壊により腸管全体や小腸での腫瘍形成が抑制されたことから、ムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現は、腸管全体や小腸における腸管腫瘍の腫瘍マーカーになる。また、ヒト大腸ポリポーシスのモデルマウスでMucl1遺伝子破壊により腫瘍形成が抑制されたことから、ムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現は、大腸における腸管腫瘍の腫瘍マーカーになると考えられる。
【0022】
このように、腸管腫瘍形成とムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現には因果関係が有り、ムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現を大腸や小腸における腸管腫瘍の腫瘍マーカーとして腸管腫瘍の検査方法において有効に利用できることが明らかとなった。
【0023】
なお、以上の結果から、ムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現が大腸や小腸における腸管腫瘍の腫瘍マーカーとしてだけでなく、癌の治療の分子標的としても利用できることが期待できる。
【0024】
以上に説明したように、本発明は、ムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現を小腸や大腸などの腸管腫瘍の腫瘍マーカーとして用いる腸管腫瘍の検査方法を提供するものである。
【0025】
そして、本発明では、腸管腫瘍形成とムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現が相関することから、ムチン様タンパク質遺伝子Mucl1の発現を大腸や小腸における腸管腫瘍の腫瘍マーカーとして用いて腸管腫瘍の検査を行うことで、腸管腫瘍の形成を早期に発見することができる。
図1
図2
図3