(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】刈刃付き電動作業機
(51)【国際特許分類】
A01D 34/68 20060101AFI20221129BHJP
A01D 34/76 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
A01D34/68 K
A01D34/76 C
(21)【出願番号】P 2021519051
(86)(22)【出願日】2019-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2019018802
(87)【国際公開番号】W WO2020230208
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000104065
【氏名又は名称】カーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】平松 伸也
(72)【発明者】
【氏名】小川 浩一
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-222026(JP,A)
【文献】特開2001-46784(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021427(WO,A1)
【文献】米国特許第4995227(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 34/00-34/90
A01B 33/00-33/16
A01G 3/00- 3/08
B62D 51/00-51/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈刃と、
前記刈刃を回転駆動する電動モータと、
前記電動モータと前記刈刃との間で動力を断接するクラッチと、
前記クラッチを操作する操作手段と、
前記電動モータの運転を制御する制御手段とを備えており、
前記操作手段により、前記電動モータの動力が前記刈刃に伝達されない前記クラッチを切った状態と前記電動モータの動力が前記刈刃に伝達される前記クラッチが繋がった状態とを切り換え可能であり、
前記制御手段は、前記クラッチを切った状態の解除以降に前記電動モータの通電を停止させ、前記通電の停止から規定時間経過後に前記電動モータを再起動させることにより、前記クラッチが繋がった瞬間を含む期間において、前記電動モータの回転を停止させることを特徴とする刈刃付き電動作業機。
【請求項2】
前記制御手段は、前記クラッチを切った状態の解除を、前記操作手段の動きを検知するセンサからの信号に基づいて認識する請求項1に記載の刈刃付き電動作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈刃が電動モータで駆動される刈刃を備えた刈刃付き電動作業機において、消費電力低減のための制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芝や草を刈り取るために、芝刈機や草刈機が用いられている。芝刈機や草刈機においては、水平方向に配置された刈刃を備え、刈刃を駆動源で回転させるものが知られており、刈刃の駆動源としては、エンジンや電動モータが用いられている。例えば特許文献1に記載の歩行型草刈機は、前後車輪と上下方向の軸芯回りに回転する刈刃の駆動源として、電動モータ8が用いられている。
【0003】
この歩行型草刈機は、電動モータ8の出力軸47にカップリング52を介して連結された伝動軸53と、この伝動軸53から刈刃駆動軸48に動力を断接可能に伝達する刈刃クラッチ54とからなる刈刃系動力伝達経路50を備えている(特許文献1の
図1参照)。この構成によれば、草刈時には、刈刃クラッチ54が繋がると、電動モータ8の出力軸47の回転が刈刃クラッチ54を介して刈刃6に伝達されて刈刃6が回転駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の歩行型草刈機のように、駆動源に電動モータを用いた場合、バッテリの一度の充電における運転の長時間化が課題となる。この場合、歩行型草刈機のように作業者が歩行しながら機体を移動させる作業機では、大型のバッテリの搭載は困難であることから、運転の長時間化には消費電力削減が求められる。
【0006】
本発明は、前記のような従来の問題を解決するものであり、バッテリを大型化させることなく、運転の長時間化を図ることができる刈刃付き電動作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の刈刃付き電動作業機は、刈刃と、前記刈刃を回転駆動する電動モータと、前記電動モータと前記刈刃との間で動力を断接するクラッチと、前記クラッチを操作する操作手段と、前記電動モータの運転を制御する制御手段とを備えており、前記操作手段により、前記電動モータの動力が前記刈刃に伝達されない前記クラッチを切った状態と前記電動モータの動力が前記刈刃に伝達される前記クラッチが繋がった状態とを切り換え可能であり、前記制御手段は、前記クラッチを切った状態の解除以降に前記電動モータの通電を停止させ、前記通電の停止から規定時間経過後に前記電動モータを再起動させることにより、前記クラッチが繋がった瞬間を含む期間において、前記電動モータの回転を停止させることを特徴とする。
【0008】
前記本発明の刈刃付き電動作業機によれば、クラッチが繋がった瞬間の急激な電流上昇をなくし消費電力を削減することができるので、バッテリを大型化させることなく、運転の長時間化を図ることができる。
【0009】
前記本発明の刈刃付き電動作業機においては、前記制御手段は、前記クラッチを切った状態の解除を、前記操作手段の動きを検知するセンサからの信号に基づいて認識することが好ましい。この構成によれば、簡単な構成で確実にクラッチを切った状態の解除を認識することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果は前記のとおりであり、クラッチが繋がった瞬間の急激な電流上昇をなくし消費電力を削減することができるので、バッテリを大型化させることなく、運転の長時間化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る刈刃付き電動作業機の外観斜視図。
【
図2】
図1に示した刈刃付き電動作業機のモータボックスの内部を示す斜視図。
【
図3】
図1に示した刈刃付き電動作業機をハンドル側から見たときの斜視図。
【
図4】
図1に示した刈刃付き電動作業機を裏面側から見た斜視図。
【
図5】
図1に示した刈刃付き電動作業機のハウジングデッキの内部に配置されたクラッチの構造を示す断面図。
【
図6】
図5に示したクラッチの拡大図であり、クラッチを切った状態を示す断面図。
【
図7】
図5に示したクラッチの拡大図であり、クラッチが繋がった状態を示す断面図。
【
図8】本発明の一実施形態に係る制御手段による電動モータの制御を示すブロック図。
【
図9】本発明の一実施形態に係るクラッチレバー及びクラッチ作動検知センサの近傍を示す外観斜視図。
【
図10】本発明の一実施形態に係る刈刃付き電動作業機において運転開始から運転終了までの工程を示すフローチャート。
【
図11】比較例についての電動モータの電流I及び電圧Vの波形を示した図。
【
図12】本発明の実施例についての電動モータの電流I及び電圧Vの波形を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る刈刃付き電動作業機1(以下単に「作業機1」という。)の外観斜視図であり、
図2はモータボックス2の内部を示す斜視図であり、
図3は作業機1をハンドル側から見たときの斜視図であり、
図4は作業機1を裏面側から見た斜視図である。
【0013】
本実施形態においては、作業機1は歩行式芝刈機の例で説明するが、後に説明するとおり、本発明はクラッチを介して刈刃を回転駆動する電動モータの制御に関するものであり、この制御の適用対象は同様の刈刃回転機構を有するものであればよく、例えば乗用式芝刈機であってもよく、草刈機であってもよい。
【0014】
最初に
図1~4を参照しながら、作業機1の概要を説明する。
図1において、モータボックス2の前方に前輪3が取り付けられており、後方に後輪4が取り付けられている。
図2に示したように、モータボックス2の内部には電動モータ5が搭載されている。電動モータ5により後輪4及び刈刃9(
図4参照)が回転駆動される。
図1において、モータボックス2の後方には電動モータ5の電源であるバッテリ6が搭載されている。
【0015】
モータボックス2の下方にハウジングデッキ7があり、ハウジングデッキ7の後方にグラスバッグ8が取り付けられている。
図4に示したように、ハウジングデッキ7内には刈刃9が配置されている。詳細は後に説明するが、刈刃9に電動モータ5の回転がクラッチ20(
図5参照)を介して伝達されて、刈刃9が回転する。刈刃9の回転と一体にフィン付きディスク35が回転して、ハウジングデッキ7からグラスバッグ8に向かう空気の流れが生じる。このことにより、刈刃9の回転により刈り取られた芝は排気口19を経てグラスバッグ8に送られて、ここに集められる。
【0016】
作業機1は、作業者が歩行しながら使用するものであり、
図1において、機体には操作棹10が取り付けられており、操作棹10の端部には操作ハンドル11、クラッチレバー12(クラッチの操作手段)及び変速レバー13が取り付けられている。また、一対の操作棹10の間にはフレーム15が架け渡され、フレーム15には電動モータ5の回転数等を表示するディスプレイ16が固定されている。
図3に示したように、ディスプレイ16には、メインスイッチ17が取り付けられており、メインスイッチ17を回転させることにより、主電源をONにすることができる。
【0017】
図1において、主電源がONの状態で、変速レバー13をスライドさせることにより(矢印a方向)、電動モータ5を起動させることができ、電動モータ5の回転を段階的に高めることができる。操作ハンドル11の近傍には操作レバー14が取り付けられており、電動モータ5が回転中の状態において、操作レバー14の操作により、後輪4が駆動され作業機1が前進する。
【0018】
電動モータ5が回転していても、クラッチレバー12を操作しない限り、刈刃9の回転駆動は停止しており、芝刈りを行う際には、クラッチレバー12でクラッチ20(
図5参照)を操作して、電動モータ5の動力が刈刃9に伝達されないクラッチ20を切った状態から電動モータ5の動力が刈刃9に伝達されるクラッチ20が繋がった状態に切り換える必要がある。
【0019】
以下、
図5~
図7を参照しながら、クラッチ20の動作について説明する。
図5はハウジングデッキ7の内部に配置されたクラッチ20の構造を示す断面図であり、
図6及び
図7はクラッチ20の拡大図であり、
図6はクラッチ20を切った状態を示しており、
図7はクラッチ20が繋がった状態を示している。
【0020】
図5に示したように、クラッチ20はハウジングデッキ7の内部に配置されており、ハウジングデッキ7の上側に配置された電動モータ5(
図2参照)のモータ軸21がドライブディスク22と連結されている。モータ軸21とドライブディスク22とは、キー(図示せず)で結合されており、モータ軸21の回転と一体にドライブディスク22も回転する。
【0021】
図6において、モータ軸21には、上側ベアリング23を介して、ブレーキディスク支持板24が取り付けられている。ブレーキディスク支持板24には、円環状のブレーキディスク25が上下方向移動可能に取り付けられている。この構成では、モータ軸21が回転しても、モータ軸21とブレーキディスク支持板24との間には上側ベアリング23が介在しているので、ブレーキディスク支持板24及びこれと一体のブレーキディスク25は回転しない。
【0022】
刈刃9はブレードホルダ26の下側に固定されており、ブレードホルダ26とドライブディスク22との間には下側ベアリング27が介在している。ブレードホルダ26の上側には摩擦板28が上下スライド可能に回り止め結合されており、摩擦板28が回転すれば、これと一体にブレードホルダ26及び刈刃9が回転する。
【0023】
ブレードホルダ26と摩擦板28との間には、スプリング29が介在しており、摩擦板28はスプリング29の伸縮に伴い上下方向にスライドする。
図6の状態では、摩擦板28がブレーキディスク25により押圧されて下側にスライドしており、スプリング29が縮んでいる。このため、摩擦板28はドライブディスク22から離れている。この状態はクラッチ20を切った状態であり、モータ軸21の回転と一体にドライブディスク22が回転していても、ドライブディスク22の回転は摩擦板28に伝達されず、刈刃9も回転しない。
【0024】
これに対し、
図7の状態はブレーキディスク25による摩擦板28の押圧が解除されており、その結果スプリング29が伸びてスプリング29の反発力により、摩擦板28がドライブディスク22を押圧している。この状態はクラッチ20が繋がった状態であり、ドライブディスク22の回転は摩擦板28に伝達され、刈刃9は回転し芝刈りが可能になる。
【0025】
作業機1は、ブレーキディスク25を下側へ押し下げてクラッチ20を切った状態(
図6の状態)と、クラッチ20を切った状態が解除されクラッチ20が繋がった状態(
図7の状態)とを切り換える切り換え機構(図示せず)を備えている。この切り換え機構はクラッチレバー12(
図1参照)の操作により作動する。
【0026】
図1において、クラッチレバー12上部の操作ボタン18を押した状態でクラッチレバー12を前側に倒すと、切り換え機構が作動し、ブレーキディスク25が下側へ押し下げられた状態が解除され、
図7のように摩擦板28がドライブディスク22を押圧したクラッチ20が繋がった状態になり、刈刃9が回転する。操作ボタン18を押しクラッチレバー12を前側に倒した状態を維持する限り刈刃9は回転するが、クラッチレバー12から作業者の手が離れると、クラッチレバー12が元の状態に復帰し、クラッチ20を切った状態になり刈刃9の回転が停止する。
【0027】
作業機1は、電動モータ5の運転を制御する制御手段30(コンピュータ)を内蔵しており、以下、制御手段30による電動モータ5の制御について説明する。
図8は制御手段30による電動モータ5の制御を示すブロック図であり、
図9は、クラッチレバー12及びクラッチ作動検知センサ31の近傍を示す外観斜視図であり、
図10は運転開始から運転終了までの工程を示すフローチャートである。
【0028】
図8において、制御手段30にはクラッチ作動検知センサ31からの信号が入力され、制御手段30はこの信号に応じて、電動モータ5の運転を制御する。
図9に示したように、クラッチ作動検知センサ31はクラッチレバー12の下部に設けている。クラッチ作動検知センサ31は検知ボタン32を備えており、
図9の状態(クラッチレバー12を操作していない状態)では、検知ボタン32はクラッチレバー12に固定された押圧板33により押圧されている。
【0029】
図9において、操作ボタン18を押し(矢印b)、そのままクラッチレバー12を前方に倒す(矢印c)ことにより、クラッチ20を切った状態が解除されて、クラッチ20は切った状態から繋がった状態になる。クラッチレバー12の動きと一体に押圧板33が検知ボタン32から離れる方向に移動するので、押圧板33で押圧されていた検知ボタン32が浮き上がり、クラッチ作動検知センサ31から出力される信号値が変化する。
【0030】
すなわち、クラッチ20を切った状態の解除時に検知ボタン32が浮き上がるようにクラッチ作動検知センサ31と押圧板33との位置関係を設定しておけば、変化したときのクラッチ作動検知センサ31の信号値がクラッチ20を切った状態の解除を示す信号値となり、制御手段30はクラッチ20を切った状態の解除を認識することが可能になる。
【0031】
以下、
図10を参照しながら、作業機1の運転開始から運転終了までの動作について説明する。
図10において、運転を開始させるときは(ステップ100)、メインスイッチ17(
図3参照)を回転させることにより、主電源をONにする(ステップ101)。この状態で変速レバー13(
図1参照)をスライドさせることにより、電動モータ5が起動し(ステップ102)、電動モータ5が回転する(ステップ103)。この状態で、
図1において、操作レバー14の操作により、後輪4が駆動され作業機1が前進する。
【0032】
一方、クラッチレバー12(
図1参照)を操作しない限り、クラッチ20は切った状態であり刈刃9は回転せず、刈刃9を回転させるには、クラッチレバー12の操作によりクラッチ20を切った状態を解除し、クラッチ20を繋ぐ必要がある。前記のとおり、
図8において、制御手段30にはクラッチ作動検知センサ31からの信号が入力され、制御手段30はクラッチ20の切った状態の解除を認識することできる。制御手段30はクラッチ20を切った状態の解除を認識すると(
図10のステップ105)、解除認識から規定時間経過までの間、電動モータ5の通電を停止(回転駆動を停止)させる(
図10のステップ106)。
【0033】
この制御は、クラッチ20が繋がった瞬間を含む期間において、電動モータ5の通電を停止させるというものであり、電動モータ5の通電停止期間は、クラッチ20が繋がった瞬間を含んでいればよい。本実施形態では、クラッチ20を切った状態の解除から規定時間経過までの間、電動モータ5の回転が停止するが、クラッチ20を切った状態の解除からクラッチ20が繋がるまでは瞬時であるので、規定時間が0.5秒程度の僅かな時間であっても、電動モータ5の回転停止期間に、クラッチ20が繋がった瞬間が含まれることになる。
【0034】
電動モータ5の回転停止の規定時間は、特に限定はないが、例えば0.5秒から1秒の範囲内である。規定時間経過後は制御手段30は電動モータ5を再起動させ(ステップ107)、電動モータ5が再び回転する(ステップ103)。この状態ではクラッチ20は繋がった状態になっており、電動モータ5の回転により刈刃9が回転する。
【0035】
以後、クラッチ20を切った状態になっても電動モータ5の回転は継続し、クラッチ20を切った状態が解除されると規定時間の間、電動モータ5の回転は停止するが再起動により、電動モータ5の回転が再開する(ステップ105~ステップ107)。作業を終えるときは、主電源をOFFにして(ステップ104)、運転を終了させる(ステップ108)。
【0036】
前記のようなクラッチ20作動時の電動モータ5の運転制御は、本願発明者らが消費電力削減を図るために実験を繰り返した結果、クラッチ20が繋がった瞬間の電流の変化が大きいことを見出して、導き出したものである。以下、比較例及び実施例の測定結果を参照しながら、本発明についてさらに具体的に説明する。
【0037】
比較例は、構造上の基本構成は前記実施形態に係る作業機1と同様の作業機であるが、クラッチ20を切った状態の解除から規定時間経過までの間、電動モータ5の通電を停止させる制御(以下、「通電停止制御」という。)は実行されない仕様である。すなわち、電動モータ5はクラッチ20の動作に関係なく回転が継続する。実施例は、比較例に対し通電停止制御を追加した仕様である。比較例及び実施例について、電圧測定用プローブ及び電流測定用プローブを接続し、データロガーを用いて電圧値及び電流値を時系列的に測定した。
【0038】
比較例及び実施例について、1サイクルを10秒とし、クラッチ20が繋がった状態を9秒、クラッチ20を切った状態を1秒とした。
図11は比較例についての電動モータ5の電流I及び電圧Vの波形を示している。横軸は経過時間t(s)であり、縦軸は電流I(A)及び電圧V(V)を共用している(
図12についても同じ)。
【0039】
比較例に係る
図11において、測定開始後の期間T1はクラッチ20が繋がった状態であり、刈刃9が回転している。期間T1に続く期間T2(1秒間)はクラッチ20を切った状態であり、電動モータ5の回転は継続しているが、刈刃9の回転は停止している。期間T2においては、電圧Vは上昇し電流Iは下降している。期間T2に続く期間T3(9秒間)はクラッチ20が繋がった状態である。期間T3の初期においては、電圧Vが下降し(A部)、電流Iが急激に上昇している(B部)。これは、クラッチ20が繋がることにより急激に負荷が増加したことに起因していると考えられる。電流Iはその後下降し、最終的には安定する(C部)。
【0040】
実施例に係る
図12において、期間T1及び期間T2における電流及び電圧の波形は比較例に係る
図11と同様であるが、期間T3における波形は
図11と
図12とでは大きく異なっている。
図12において期間T3の初期には電流値がゼロ近傍まで下降している(D部)。これは通電停止制御が実行され、電動モータ5への通電を停止させたためである。電流値が完全なゼロになっていないのは、センサー類への通電や三相モータの特性によるものと推測される。通電停止時間は0.5秒に設定しており、電動モータ5への通電停止から0.5秒経過すると、電動モータ5が再起動し同時に刈刃9も回転する。再起動後は電流は全体として上昇後(E部)下降し(F部)、最終的には安定する(G部)。
【0041】
比較例に係る
図11と実施例に係る
図12とを比較すると、実施例に係る
図12は比較例に係る
図11における期間T3の急激な電流上昇が認められないので、実施例は比較例に比べ消費電力削減が見込まれる。消費電力削減の効果を確認するために、比較例及び実施例について、バッテリ満充電からバッテリ放電により電動モータ5が停止するまで間の運転時間を測定した。前記の実験と同様に、1サイクルは10秒とし、クラッチ20が繋がった状態を9秒、クラッチ20を切った状態を1秒とした。実験結果を以下の表1に示す。
【0042】
【0043】
表1の結果によれば、比較例のサイクル数が309回であったのに対し、実施例のサイクル数は434回となり、実施例は比較例に比べサイクル数が4割増加し(運転時間が4割増加)、消費電力削減の効果を確認することができた。この結果によれば、クラッチ20が繋がった瞬間の急激な電流上昇が消費電力を増大させる大きな要因であることが理解できる。一方、実施例のように電動モータ5を再起動させると、再起動時に大きな負荷が加わることにも関わらず比較例に比べ消費電力が削減されている。これは、電動モータは起動時に大きなトルクを発生するという特性があり、電動モータ5の再起動は消費電力を大きく増大させる要因にはなっていないと考えられる。
【0044】
したがって、本発明によれば、クラッチ20が繋がった瞬間の急激な電流上昇をなくし消費電力を削減することができるので、バッテリを大型化させることなく、運転の長時間化を図ることができる。
【0045】
また、消費電力削減の効果は、クラッチ20が繋がった瞬間の急激な電流上昇を抑えることによるものであるので、クラッチ20の断接頻度が高くなるほど、消費電力削減の効果が高まることになる。この点、
図1に示したような歩行式芝刈機は狭いエリアで使用されるため、クラッチ20の断接頻度が高く、より効果的に消費電力削減を図ることができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらは一例であり、適宜変更したものであってもよい。例えば、前記実施形態では、クラッチ20の操作手段として、クラッチレバー12を用いていたが、クラッチ20が操作できればよく、レバー構造に限るものではない。
【0047】
また、前記実施形態では、クラッチ20を切った状態の解除の検知はクラッチレバー12の操作によるクラッチ作動検知センサ31から出力される信号値の変化によるものであったが、クラッチ20を切った状態の解除の検知ができればよく、他の方法であってもよい。
【0048】
さらに、前記実施形態における通電停止制御は、クラッチ20を切った状態が解除されたときに電動モータ5の通電を停止させる制御であったが、通電停止時期はこれに限るものではなく、少なくともクラッチ20が繋がった瞬間に通電が停止していればよい。
【符号の説明】
【0049】
1 刈刃付き電動作業機
3 前輪
4 後輪
5 電動モータ
9 刈刃
12 クラッチレバー(クラッチの操作手段)
18 操作ボタン
20 クラッチ
22 ドライブディスク
28 摩擦板
30 制御手段
31 クラッチ作動センサ