(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】構造物の振動抑制装置
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20221129BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20221129BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
E04H9/02 331B
E04H9/02 341B
E04H9/02 351
F16F15/02 C
F16F15/04 P
(21)【出願番号】P 2018110993
(22)【出願日】2018-06-11
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100105119
【氏名又は名称】新井 孝治
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-142429(JP,A)
【文献】特開2015-124810(JP,A)
【文献】特開平02-275144(JP,A)
【文献】特開2011-080543(JP,A)
【文献】特開2014-163102(JP,A)
【文献】米国特許第04910930(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02-15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物と地盤の間及び前記構造物の中層部の一方に設定された免震層に設けられ、当該免震層よりも下側の下層部から上側の上層部へ伝達される振動を抑制する構造物の振動抑制装置であって、
前記上層部と前記下層部の間に上下方向に互いに重なるように設けられ、鉛直荷重を支持するとともに、柔性を有し、水平方向に変形可能な複数の接続部材と、
剛性を有し、当該複数の接続部材のうちの互いに重なる各2つの接続部材の間に連結された繋ぎ材と、
前記上層部
に設けられた支持部材と、
慣性質量体を有し、一端部と他端部の間に相対変位が発生したときに、前記慣性質量体の運動による慣性質量効果を発揮するように構成されるとともに、前記一端部が前記繋ぎ材に連結され、前記他端部が前記支持部材に連結された慣性質量ダンパと、を備え
、
前記慣性質量ダンパに入力される振動に含まれる高周波数成分が、前記柔性を有する接続部材によって緩衝され
、
前記慣性質量ダンパと前記支持部材の間に設けられ、前記慣性質量ダンパの反力を緩衝する緩衝材をさらに備えることを特徴とする構造物の振動抑制装置。
【請求項2】
前記複数の接続部材の少なくとも1つは、伝達された振動を減衰する減衰機能を有することを特徴とする、請求項1に記載の構造物の振動抑制装置。
【請求項3】
前記繋ぎ材に連結され、当該繋ぎ材の水平方向の移動に伴い、慣性質量効果及び減衰効果の少なくとも一方を発揮するように構成された、前記慣性質量ダンパとは別個の第2ダンパをさらに備えることを特徴とする、請求項1又は2に記載の構造物の振動抑制装置。
【請求項4】
前記慣性質量ダンパは、前記慣性質量体の運動に伴って粘性減衰効果を発揮する粘性体を有することを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置。
【請求項5】
前記慣性質量ダンパは、前記慣性質量体の運動に伴って発生する軸線方向の反力の全体、又は前記慣性質量体の慣性質量効果による軸線方向の反力のみを制限する軸力制限機構を有することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置。
【請求項6】
前記免震層に設けられ、鉛直荷重を支持するとともに水平方向に変形可能な免震装置をさらに備えることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物と地盤の間又は構造物の中層部に設定された免震層に設けられ、構造物に伝達される振動を抑制する構造物の振動抑制装置に関し、特に慣性質量ダンパを用いた振動抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の構造物の振動抑制装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この振動抑制装置は、構造物と地盤の間に設けられた免震層と、構造物の低層部に設けられた柔層を備える。免震層には、積層ゴムなどで構成され、構造物を支持する複数の免震装置と、第1慣性質量ダンパと、オイルダンパなどから成る第1付加減衰が、互いに並列に設けられている。また、柔層の剛性は、構造物の他の部分よりも低く、かつ免震層よりも高く設定されている。柔層には、第2慣性質量ダンパと、オイルダンパなどから成る第2付加減衰が、互いに並列に設けられている。
【0003】
この振動抑制装置では、免震層に設けられた第1慣性質量ダンパと第1付加減衰によって、地震時の振動に対する免震層及び構造物の応答変位が抑制される。また、第1慣性質量ダンパ及び第1付加減衰の反力は、柔層を介してその上方に伝達される。その際、第1慣性質量ダンパの反力に含まれる高周波数成分が、剛性の低い柔層で緩衝(フィルタリング)されることにより、柔層よりも上側の構造物の応答加速度が抑制される。また、第2慣性質量ダンパ及び第2付加減衰によって、柔層の応答変位が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の振動抑制装置は、構造物と地盤の間の免震層に加えて、構造物の低層部に柔層を設けた2層構成としなければならない。また、免震層及び柔層のそれぞれに、免震装置、慣性質量ダンパ及びオイルダンパなどを設けることが必要になるため、構成部品の点数の増加によって製造コストが増大するとともに、施工工数の増加によって工期の長期化してしまう。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、単一の免震層により、構造物の応答変位及び応答加速度を良好に抑制できるとともに、低コスト化及び工期の短縮化を図ることができる構造物の振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物と地盤の間及び構造物の中層部の一方に設定された免震層に設けられ、免震層よりも下側の下層部から上側の上層部へ伝達される振動を抑制する構造物の振動抑制装置であって、上層部と下層部の間に上下方向に互いに重なるように設けられ、鉛直荷重を支持するとともに、柔性を有し、水平方向に変形可能な複数の接続部材と、剛性を有し、複数の接続部材のうちの互いに重なる各2つの接続部材の間に連結された繋ぎ材と、上層部に設けられた支持部材と、慣性質量体を有し、一端部と他端部の間に相対変位が発生したときに、慣性質量体の運動による慣性質量効果を発揮するように構成されるとともに、一端部が繋ぎ材に連結され、他端部が支持部材に連結された慣性質量ダンパと、を備え、慣性質量ダンパに入力される振動に含まれる高周波数成分が、柔性を有する接続部材によって緩衝され、前記慣性質量ダンパと前記支持部材の間に設けられ、前記慣性質量ダンパの反力を緩衝する緩衝材をさらに備えることを特徴とする。
【0008】
この構造物の振動抑制装置では、構造物と地盤の間又は構造物の中層部に免震層が設定され、この免震層よりも上側の上層部と下側の下層部との間に、複数の接続部材が上下方向に互いに重なるように設けられている。接続部材は、鉛直荷重を支持するとともに、柔性を有し、水平方向に変形可能である。また、複数の接続部材のうちの互いに重なる各2つの接続部材の間に繋ぎ材が連結され、上層部に支持部材が設けられている。これらの繋ぎ材と支持部材に、慣性質量ダンパの一端部と他端部がそれぞれ連結されている。
【0009】
この構成によれば、地震時などの振動によって構造物の上層部と下層部との間に相対変位が発生すると、複数の接続部材は、鉛直荷重を支持しながら水平方向に変形する。この接続部材の変形に伴い、接続部材の間に連結された繋ぎ材が変位し、繋ぎ材に連結された慣性質量ダンパの一端部と他端部の間に相対変位が発生する。これにより、慣性質量ダンパの慣性質量体が運動することによって、慣性質量効果が発揮され、それによる慣性質量ダンパの反力(慣性力)によって、免震層の層間変位を良好に抑制し、その上側の構造物の上層部における応答変位を良好に抑制することができる。
【0010】
また、支持部材が上層部に設けられているため、地震動などの振動が下側の接続部材から慣性質量ダンパに入力される際に、振動に含まれる高周波数成分が柔性を有する接続部材で緩衝される。その結果、慣性質量ダンパにおいて高周波数成分の少ない反力が発生し、そのような慣性質量ダンパの反力が、支持部材を介して上層部に伝達されることによって、構造物の上層部の応答加速度を良好に抑制することができる。
さらに、慣性質量ダンパと支持部材との間には、緩衝材が設けられており、上記のように高周波数成分が低減された慣性質量ダンパの反力は、緩衝材でさらに緩衝された後、支持部材を介して上層部に伝達されるので、構造物の応答加速度をさらに良好に抑制することができる。
【0011】
以上のように、本発明によれば、免震層よりも上側の構造物の応答変位及び応答加速度をいずれも良好に抑制でき、良好な振動抑制効果を得ることができる。また、従来の振動抑制装置と異なり、単一の免震層に、複数の接続部材や慣性質量ダンパなどを設けるだけでよいので、構成部品の点数及び施工工数の削減によって、低コスト化と工期の短縮化を図ることができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構造物の振動抑制装置において、複数の接続部材の少なくとも1つは、伝達された振動を減衰する減衰機能を有することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、伝達された振動が接続部材において減衰されるので、構造物の応答変位の抑制効果をさらに高めることができる。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の構造物の振動抑制装置において、繋ぎ材に連結され、繋ぎ材の水平方向の移動に伴い、慣性質量効果及び減衰効果の少なくとも一方を発揮するように構成された、慣性質量ダンパとは別個の第2ダンパをさらに備えることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、繋ぎ材の水平方向の移動に伴い、慣性質量ダンパとは別個の第2ダンパが作動することによって、慣性質量効果及び/又は減衰効果が発揮され、それによる第2ダンパの反力が、慣性質量ダンパの反力に付加される。これにより、装置全体としてダンパ反力が増強されるので、免震層の層間変位及び構造物の応答変位をさらに良好に抑制することができる。また、第2ダンパにおける慣性質量及び/又は粘性抵抗を適宜、設定することによって、所望のダンパ反力(慣性力及び減衰力)を得ることができる。
【0018】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置において、慣性質量ダンパは、慣性質量体の運動に伴って粘性減衰効果を発揮する粘性体を有することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、慣性質量ダンパが、慣性質量体による慣性質量効果に加えて、粘性体による粘性減衰効果を発揮するので、より大きな慣性質量ダンパの反力によって、構造物の応答変位をさらに良好に抑制することができる。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項1から4のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置において、慣性質量ダンパは、慣性質量体の運動に伴って発生する軸線方向の反力の全体、又は慣性質量体の慣性質量効果による軸線方向の反力のみを制限する軸力制限機構を有することを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、慣性質量ダンパの軸線方向の反力の全体、又は慣性質量効果による軸線方向の反力を、軸力制限機構で制限することによって、慣性質量ダンパの軸力の過大化を適切に防止することができる。
【0022】
請求項6に係る発明は、請求項1から5のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置において、免震層に設けられ、鉛直荷重を支持するとともに水平方向に変形可能な免震装置をさらに備えることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、接続部材が有するべき鉛直荷重の支持及び水平方向の変形などの機能を、免震装置との協働によって適切に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1実施形態による振動抑制装置を、これを適用した建物とともに概略的に示す(a)正面図、及び(b)線IIb-IIbに沿う断面図である。
【
図2】
図1の振動抑制装置のダンパユニットを示す正面図である。
【
図3】
図2の線III-IIIに沿う断面図である。
【
図5】(a)
図2のダンパユニット、(b)振動抑制装置及び建物を含む免震建物全体、及び(c)ダンパユニットの変形例をそれぞれモデル化して示す図である。
【
図6】本発明の第2実施形態によるダンパユニットを示す正面図である。
【
図7】(a)
図6のダンパユニット、及び(b)振動抑制装置及び建物を含む免震建物全体をそれぞれモデル化して示す図である。
【
図8】1組の接続部材に2つのマスダンパを連結したダンパユニットの例を示す、
図3と同様の断面図である。
【
図9】
図8のダンパユニットを用いた場合の配置例を示す、
図1(b)と同様の断面図である。
【
図10】第2実施形態の変形例によるダンパユニットを示す正面図である。
【
図12】
図10のダンパユニットをモデル化して示す図である。
【
図13】第1実施形態の変形例によるダンパユニットを示す正面図である。
【
図14】
図13のダンパユニットをモデル化して示す図である。
【
図15】本発明の第3実施形態によるダンパユニットを示す正面図である。
【
図16】
図15のダンパユニットをモデル化して示す図である。
【
図17】本発明の第4実施形態によるダンパユニットを示す正面図である。
【
図18】
図17のダンパユニットをモデル化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
図1に示すように、実施形態は、建物Sと地盤Gの間に設定された免震層Lに振動抑制装置1を設けることによって、いわゆる基礎免震建物を構成したものである。振動抑制装置1は、複数の免震装置2及び複数のダンパユニット3を備える。
【0026】
建物Sの底部には、基礎梁Bと、基礎梁Bから下方に突出する複数の上部基礎FSが一体に設けられている。これらの上部基礎FSは、互いに直交するX方向及びY方向にマトリックス状に配置されている。地盤Gには、複数の上部基礎FSに対応する位置に、複数の下部基礎FGが一体に設けられている。ダンパユニット3は、中央に位置する4組の基礎FS、FGの間にそれぞれ設置され、免震装置2は残りの基礎FS、FGの間にそれぞれ設置されている。
【0027】
図示しないが、免震装置2は、例えば鉛プラグや錫プラグを用いたプラグ入り積層ゴムや、天然ゴム系積層ゴム、鋼すべり支承、転がり支承などで構成されている。免震装置2は、建物Sの鉛直荷重を支持するとともに、地盤Gから入力される地震動に対して水平方向に変形する機能などを有する。
【0028】
図2及び
図3に示すように、各ダンパユニット3は、上下の接続部材4a、4bと、マスダンパ5と、マスダンパ5を接続部材4a、4bの間及び地盤Gにそれぞれ連結するための繋ぎ材6及び支持部材7を有する。
図1(b)に示すように、4つのマスダンパ5のうちの2つはX方向に延び、他の2つはY方向に延びるように配置されている。
【0029】
上下の接続部材4a、4bはいずれも、建物Sの鉛直荷重を支持するとともに、柔性を有し、地震動などの振動に対して水平方向に変形可能かつ復元可能なものであり、例えば上下のフランジを有する天然ゴム系積層ゴムで構成されている。上接続部材4aは、上フランジを介して上部基礎FSにねじ止めされ、下接続部材4bは、下フランジを介して下部基礎FGにねじ止めされている。なお、接続部材4a、4bとして、振動を減衰する減衰機能をさらに有するもの、例えば鉛プラグや錫プラグを用いたプラグ入り積層ゴムを用いてもよい。
【0030】
マスダンパ5は、例えば
図4に示すようなボールねじ式のものであり、内筒12、ボールねじ13、回転マス14、及び軸力制限機構15などを有する。内筒12は、鋼材で構成され、一端部が開口するとともに、他端部には、ボールジョイント16aを介して第1フランジ16が取り付けられている。
【0031】
ボールねじ13は、ねじ軸13aと、ねじ軸13aに多数のボール13bを介して螺合するナット13cを有する。ねじ軸13aの一端部は、内筒12の開口に収容され、他端部には、ボールジョイント17aを介して第2フランジ17が取り付けられている。また、ナット13cは、軸受け18を介して、内筒12に回転自在に支持されている。
【0032】
回転マス14は、比重の大きな材料、例えば鉄で構成され、円筒状に形成されている。また、回転マス14は、内筒12及びボールねじ13の外周側に同軸状に配置され、軸受け19を介して、内筒12に回転自在に支持されている。回転マス14と内筒12の間には、一対のリング状のシール20、20で密閉された空間に、シリコンオイルなどで構成された粘性体21が充填されている。
【0033】
軸力制限機構15は、ナット13cの外周側に配置されたリング状の回転すべり材15aと、回転すべり材15aをナット13cに押圧するための複数のねじ15b及びばね15cで構成されている。
【0034】
以上の構成のマスダンパ5では、内筒12とねじ軸13aの間に相対変位が発生すると、この相対変位がナット13cの回転運動に変換され、軸力制限機構15を介して回転マス14に伝達されることによって、回転マス14が回転し、回転マス14による慣性質量効果が発揮される。また、回転マス14の回転に伴い、内筒12との間に充填された粘性体21の粘性抵抗によって粘性減衰効果が発揮される。
【0035】
また、上述したマスダンパ5の作動に伴って発生する軸線方向の反力(以下、適宜「軸力」という)が、軸力制限機構15のねじ15bの締付度合に応じて定まる制限荷重に達すると、回転すべり材15aとナット13c又は回転マス14との間に滑りが発生することによって、マスダンパ5の軸力が制限される。
【0036】
繋ぎ材6は、剛性の高い部材、例えば肉厚の鋼板で構成されている。繋ぎ材6は、上接続部材4aの下フランジと下接続部材4bの上フランジとの間に挟持された状態で、両フランジにねじ止めされ、水平に延びており、その端部にフランジ6aが設けられている。マスダンパ5は、第2フランジ17がフランジ6aにねじ止めされることによって、繋ぎ材6に連結されている。
【0037】
支持部材7は、剛性の高い部材、例えばH鋼やRC、鉄骨などで構成されており、地盤Gに一体に設けられ、上方に延びている。マスダンパ5は、第1フランジ16が支持部材7の上端部にねじ止めされることによって、支持部材7に連結されている。
【0038】
次に、上述した構成の振動抑制装置1の動作について説明する。地震時に地盤Gが振動し、建物Sと地盤Gの間に水平方向(
図2の左右方向)の相対変位が発生すると、接続部材4a、4bは、免震装置2とともに、建物Sの鉛直荷重を支持しながら水平方向に変形する。
【0039】
この場合、繋ぎ材6は、下部基礎FGに対して、下接続部材4bの変形量と同じ変位量で変位し、それに伴い、繋ぎ材6に連結されたマスダンパ5のねじ軸13aが、内筒12に対して変位する。これにより、回転マス14が回転することによって、回転マス14による慣性質量効果と粘性体21による粘性減衰効果が発揮され、両効果によるマスダンパ5の反力(慣性力と粘性力の和)によって、免震層Lの層間変位が抑制されるとともに、建物Sの応答変位が抑制される。前述したように、このマスダンパ5の反力(軸力)は、軸力制限機構15によって制限され、その過大化が防止される。
【0040】
また、マスダンパ5の反力は、上接続部材4aを介して、上部基礎FSから建物Sに伝達される。その際、マスダンパ5の反力に含まれる高周波数成分が、柔性を有する上接続部材4aで緩衝される(フィルタリングされる)ことによって、建物Sの応答加速度が抑制される。
【0041】
また、以上の構成及び動作から、本実施形態のダンパユニット3をモデル化すると、
図5(a)のように表される。まず、マスダンパ5の反力は、回転マス14の慣性力と粘性体21の粘性力との和に等しいとともに、その反力全体が軸力制限機構15によって制限される。したがって、マスダンパ5のモデルは、回転マス14から成る慣性質量要素mdと粘性体21から成る粘性要素cdが互いに並列に接続されたものに、軸力制限機構15から成るすべり要素Frが直列に接続されたモデルになる。
【0042】
また、マスダンパ5の変形量(ねじ軸13aと内筒12との相対変位)は下接続部材4bの変形量と等しく、マスダンパ5の反力と下接続部材4bの反力の和は、上接続部材4aの反力と等しい。したがって、ダンパユニット3のモデルは、上述したマスダンパ5の構成要素(md、cd、Fr)と下接続部材4bから成るバネ要素K3が互いに並列に接続されたものに、上接続部材4aから成るバネ要素K4が直列に接続されたモデルになる。
【0043】
さらに、ダンパユニット3は、建物Sの基礎梁B及び上部基礎FSと地盤Gの間に、複数の免震装置2と並列に設けられている。したがって、建物Sを1質点系モデルとすると、建物S及び振動抑制装置1を含む基礎免震建物全体のモデルは、
図5(b)に示すように、建物Sの質量要素m2及びバネ要素K2と、基礎梁B及び上部基礎FSから成る質量要素m1が、互いに直列に接続されるとともに、質量要素m1と地盤Gの間に、上述したダンパユニット3の構成要素と複数の免震装置2から成るバネ要素K1が互いに並列に接続されたモデルになる。
【0044】
なお、本実施形態では、軸力制限機構15は、マスダンパ5の反力全体(慣性力+粘性力)を制限するように構成されているが、回転マス14による慣性力のみを制限するように構成することも可能である。その場合、ダンパユニット3のモデルは、
図5(c)のように表され、互いに直列に接続された慣性質量要素md及びすべり要素Frと、これに並列に接続された粘性要素cdとから成るマスダンパ5に、下接続部材4bから成るバネ要素K3が並列に接続され、さらにこれらに上接続部材4aから成るバネ要素K4が直列に接続されたモデルになる。
【0045】
以上のように、本実施形態によれば、免震層Lに設けられたダンパユニット3によって、建物Sの応答変位及び応答加速度をいずれも良好に抑制でき、良好な振動抑制効果を得ることができる。また、従来の振動抑制装置と異なり、単一の免震層Lに、免震装置2と、接続部材4a、4b及びマスダンパ5などから成るダンパユニット3を設けるだけでよいので、構成部品の点数及び施工工数の削減によって、低コスト化と工期の短縮化を図ることができる。
【0046】
また、マスダンパ5が、回転マス14による慣性質量効果に加えて、粘性体21による粘性減衰効果を発揮するように構成されているので、より大きなマスダンパ5の反力によって、建物Sの応答変位を良好に抑制することができる。さらに、上接続部材4a及び/又は下接続部材4bを、減衰機能をさらに有するもの、例えばプラグ入り積層ゴムで構成した場合には、接続部材4a、4bにおいて振動が減衰されることによって、建物Sの応答変位の抑制効果をさらに高めることができる。また、免震層Lに、ダンパユニット3とともに免震装置2が併用されているので、ダンパユニット3が有するべき鉛直荷重の支持及び水平方向の変形などの機能を、免震装置2との協働によって適切に得ることができる。
【0047】
次に、
図6及び
図7を参照しながら、本発明の第2実施形態について説明する。
図2との比較から明らかなように、第1実施形態では、マスダンパ5が連結される支持部材7が地盤G側に設けられるのに対し、第2実施形態は、支持部材7が建物S側に設けられている点が異なる。この支持部材7は、建物Sの基礎梁Bに一体に設けられ、下方に延びており、その下端部にマスダンパ5が連結されている。他の構成は、第1実施形態と同じである。
【0048】
この構成では、地震時に地盤Gが振動し、建物Sと地盤Gの間に水平方向の相対変位が発生すると、第1実施形態と同様、接続部材4a、4bは、建物Sの鉛直荷重を支持しながら水平方向に変形する。
【0049】
また、本実施形態では、支持部材7が建物S側に設けられているため、繋ぎ材6は上部基礎FSに対して、上接続部材4aの変形量と同じ変位量で変位し、それに伴い、マスダンパ5のねじ軸13aが変位することによって、回転マス14が回転する。これにより、マスダンパ5の慣性質量効果と粘性減衰効果が発揮されることによって、免震層Lの層間変位及び建物Sの応答変位が抑制される。
【0050】
また、地震動が地盤G側から下接続部材4bを介してマスダンパ5に入力される際に、地震動に含まれる高周波数成分が、柔性を有する下接続部材4bによって緩衝される。その結果、マスダンパ5において高周波数成分の少ない反力が発生し、そのようなマスダンパ5の反力が、上接続部材4a又は支持部材7を介して建物Sに伝達されることによって、建物Sの応答加速度が抑制される。
【0051】
また、第2実施形態によるダンパユニット3をモデル化すると、
図7(a)のように表される。マスダンパ5のモデルは、第1実施形態と同様、回転マス14から成る慣性質量要素mdと粘性体21から成る粘性要素cdが互いに並列に接続されたものに、軸力制限機構15から成るすべり要素Frが直列に接続されたモデルになる。
【0052】
また、マスダンパ5の変形量は上接続部材4aの変形量と等しく、マスダンパ5の反力と上接続部材4aの反力の和は、下接続部材4bの反力と等しい。したがって、ダンパユニット3のモデルは、マスダンパ5の構成要素(md、cd、Fr)と上接続部材4aから成るバネ要素K4が互いに並列に接続されたものに、下接続部材4bから成るバネ要素K3が直列に接続されたモデルになる。
【0053】
さらに、
図7(b)に示すように、建物S及び振動抑制装置1を含む基礎免震建物全体のモデルは、建物Sの質量要素m2及びバネ要素K2と、基礎梁B及び上部基礎FSから成る質量要素m1が、互いに直列に接続されるとともに、質量要素m1と地盤Gの間に、上述したダンパユニット3の構成要素と複数の免震装置2から成るバネ要素K1が互いに並列に接続されたモデルになる。
【0054】
なお、これまでに説明した第1及び第2実施形態のダンパユニット3では、1組の接続部材4a、4bに対し、1つのマスダンパ5が設置されているが、これに代えて、
図8に示すように、2つのマスダンパ5、5を互いに直交する方向に設置してもよい。この場合、
図9に示すように、一方のマスダンパ5はX方向に一致するように配置され、他方のマスダンパ5はY方向に一致するように配置される。このことは、後述する他の実施形態や変形例においても同様である。
【0055】
次に、
図10~
図12を参照しながら、上述した第2実施形態の変形例について説明する。この変形例は、第2実施形態のダンパユニット3に対し、マスダンパ5と支持部材7の間に、マスダンパ5の反力を緩衝するための緩衝材31を付加したものである。
【0056】
緩衝材31は、
図11に示すようなゴムユニットで構成されており、第1部材32、第2部材33及びゴム板34を有する。第1部材32は、第1フランジ32aと、第1フランジ32aから第2部材33側に向かって延びる挿入板32bを一体に有する。第2部材33は、第2フランジ33aと、第2フランジ33aから第1部材32側に向かって挿入板32bと平行に延びる、2枚のリブ付きの取付板33b、33bを一体に有する。
【0057】
ゴム板34は、柔性を有する軟質のゴムで構成され、取付板33b、33bの各内面に取り付けられており、第1部材32の挿入板32bは、ゴム板34、34の間に挿入され、挟持されている。緩衝材31は、第1フランジ32aがマスダンパ5の第1フランジ16にねじ止めされ、第2フランジ33aが建物S側に設けられた支持部材7にねじ止めされることによって、マスダンパ5と支持部材7の間に連結されている。
【0058】
以上の構成により、マスダンパ5の反力が緩衝材31に伝達されると、第1及び第2フランジ32a、33aの間に相対変位が発生し、ゴム板34、34が挿入板32bによるせん断によって弾性変形することにより、マスダンパ5の反力が緩衝される。
【0059】
この変形例では、第2実施形態と同様、地震動が地盤Gから下接続部材4bを介してマスダンパ5に入力される際に、地震動に含まれる高周波数成分が、柔性を有する下接続部材4bによって緩衝されるため、マスダンパ5の反力に含まれる高周波数成分が低減される。また、この変形例によれば、そのように高周波数成分が低減されたマスダンパ5の反力が、緩衝材31でさらに緩衝された後、支持部材7を介して建物S側に伝達されるので、建物Sの応答加速度をさらに良好に抑制することができる。
【0060】
また、変形例によるダンパユニット3をモデル化すると、
図12のように表される。マスダンパ5のモデルは、第2実施形態の場合と同様である。また、マスダンパ5の変形量と緩衝材31の変形量(第1及び第2フランジ32a、33a間の相対変位)の和は、上接続部材4aの変形量と等しく、マスダンパ5の反力と上接続部材4aの反力の和は、下接続部材4bの反力と等しい。したがって、ダンパユニット3のモデルは、マスダンパ5の構成要素(md、cd、Fr)と緩衝材31から成るバネ要素K5が互いに直列に接続されたものに、上接続部材4かaら成るバネ要素K4が並列に接続され、さらにこれらに下接続部材4bから成るバネ要素K3が直列に接続されたモデルになる。
【0061】
次に、
図13及び
図14を参照しながら、第1実施形態の変形例について説明する。この変形例は、第1実施形態のダンパユニット3の下接続部材4bをすべり支承41に置き換えたものである。このすべり支承41は、繋ぎ材6の下面に接着された滑性を有するすべり材42と、下部基礎FGに載置・固定されるとともに、すべり材42が接するステンレス製などのすべり板43で構成されている。
【0062】
この変形例によれば、建物Sの鉛直荷重は、上接続部材4a及びすべり支承41によって常時、支持される。また、地震時に地盤Gが振動し、建物Sと地盤Gの間に水平方向の相対変位が発生すると、地震による水平荷重がすべり支承41のすべり材42とすべり板43との間の摩擦限界に達するまでは、繋ぎ材6が下部基礎FGに対して滑らず、不動の状態に保たれるため、マスダンパ5は作動せず、上接続部材4aのみが変形する。したがって、この状態では、上接続部材4aの変形量は、建物Sと地盤Gとの相対変位に等しい。
【0063】
水平荷重が増加し、すべり支承41の摩擦限界を超えると、繋ぎ材6が下部基礎FGに対して滑り、移動することによって、回転マス14が回転する。これにより、マスダンパ5の慣性質量効果と粘性減衰効果による反力によって、免震層Lの層間変位が抑制されるとともに、建物Sの応答変位が抑制される。この場合、マスダンパ5の反力とすべり支承41の摩擦抵抗との和は、上接続部材4aの反力と等しい。
【0064】
また、マスダンパ5の反力が上接続部材4aを介して建物Sに伝達される際、マスダンパ5の反力に含まれる高周波数成分が、柔性を有する上接続部材4aで緩衝されることによって、建物Sの応答加速度が抑制される。
【0065】
また、この変形例によるダンパユニット3をモデル化すると、
図14のように表される。すなわち、マスダンパ5の構成要素(md、cd、Fr)とすべり支承41から成るすべり要素Fr2が互いに並列に接続されたものに、上接続部材4aから成るバネ要素K4が接続されたモデルになる。
【0066】
なお、この変形例では、下接続部材4bをすべり支承に置き換えているが、これに代えて、上接続部材4aをすべり支承に置き換えてもよいことはもちろんである。また、すべり支承に代えて、同様の機能を有する転がり支承などを用いることも可能である。
【0067】
次に、
図15及び
図16を参照しながら、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態のダンパユニット3に、第2のマスダンパを追加したものである。
【0068】
図15に示すように、繋ぎ材6は、上下の接続部材4a、4bの間に挟持された状態で連結・固定され、その両側に水平に延びている。また、地盤Gには、繋ぎ材6の両外側の所定位置に、第1及び第2支持部材7A、7Bがそれぞれ設けられている。第1及び第2マスダンパ5A、5Bはいずれも、第1実施形態のマスダンパ5と同様に構成され、ねじ軸13aと内筒(図示せず)との相対変位に応じた回転マス(図示せず)の回転によって、回転マスによる慣性質量効果と粘性体(図示せず)による粘性減衰効果を発揮するものである。
【0069】
第1マスダンパ5Aは、第1及び第2フランジ16、17を介して、第1支持部材7A及び繋ぎ材6のフランジ6aに連結されている。同様に、第2マスダンパ5Bは、第1及び第2フランジ16、17を介して、第2支持部材7B及び繋ぎ材6のフランジ6bに連結されている。
【0070】
本実施形態によれば、地震時に地盤Gが振動し、建物Sと地盤Gの間に水平方向の相対変位が発生すると、第1実施形態と同様、上下の接続部材4a、4bが、建物Sの鉛直荷重を支持しながら水平方向に変形するとともに、繋ぎ材6は、下部基礎FGに対して、下接続部材4bの変形量と同じ変位量で変位する。この繋ぎ材6の変位に伴い、第1及び第2マスダンパ5A、5Bのねじ軸13a、13aが同じ変位量で変位し、第1及び第2マスダンパ5A、5Bが同時に作動する。
【0071】
これにより、第1マスダンパ5Aの慣性質量効果及び粘性減衰効果による反力と、第2マスダンパ5Bの慣性質量効果及び粘性減衰効果による反力が、同時に作用し、装置全体としてより大きなダンパ反力が得られるので、免震層Lの層間変位及び建物Sの応答変位をさらに良好に抑制することができる。
【0072】
また、第1実施形態と同様、高周波数成分を含む第1及び第2マスダンパ5A、5Bの反力が、柔性を有する上接続部材4aで緩衝された後、建物S側に伝達されるので、建物Sの応答加速度を良好に抑制することができる。
【0073】
以上の構成及び動作から、第3実施形態によるダンパユニット3をモデル化すると、
図16のように表される。すなわち、第1マスダンパ5A、第2マスダンパ5B及び下接続部材4bのそれぞれの変形量は互いに等しく、これらの3つ構成要素5A、5B及び4bの反力の和は、上接続部材4aの反力と等しい。したがって、このダンパユニット3のモデルは、第1マスダンパ5Aの構成要素(md1、cd1、Fr1)と、第2マスダンパ5Bの構成要素(md2、cd2、Fr2)と、下接続部材4bから成るバネ要素K3が互いに並列に接続されたものに、上接続部材4aら成るバネ要素K4が接続されたモデルになる。
【0074】
なお、第1及び第2マスダンパ5A、5Bにおける慣性質量及び粘性抵抗は、任意に設定することが可能であり、それにより、所望のダンパ反力(慣性力と減衰力)を得ることができる。例えば、両マスダンパ5A、5Bの間で、慣性質量及び粘性抵抗の両方を同じ設定としてもよく、あるいは、それらの両方又は一方を異なる設定としてもよい。また、第2マスダンパ5Bを、粘性減衰効果をもたず、慣性質量効果のみを発揮する慣性質量ダンパとしてもよい。あるいは、第2マスダンパ5Bに代えて、繋ぎ材6の移動に伴って減衰効果を発揮するダンパ、例えばオイルダンパや摩擦ダンパを用いることも可能である。
【0075】
次に、
図17及び
図18を参照しながら、本発明の第4実施形態について説明する。
図17に示すように、本実施形態は、建物Sと地盤Gの間に3つの接続部材4c~4eを上下3段で設けるとともに、下側の2つの接続部材4d、4eの間に第1繋ぎ材6Cを介して第1マスダンパ5Cを連結し、上側の2つの接続部材4c、4dの間に第2繋ぎ材6Dを介して第2マスダンパ5Dを連結したものである。
【0076】
接続部材4c~4eはいずれも、前述した接続部材4a、4bと同様、建物Sの鉛直荷重を支持するとともに、柔性を有し、地震動に対して水平方向に変形可能かつ復元可能なものであり、例えば上下のフランジを有する天然ゴム系積層ゴムで構成されている。なお、接続部材4c~4eとして、減衰機能をさらに有する、鉛プラグや錫プラグを用いたプラグ入り積層ゴムなどを用いてもよい。上接続部材4cは、上フランジを介して上部基礎FSにねじ止めされ、下接続部材4eは、下フランジを介して下部基礎FGにねじ止めされ、中接続部材4dは、上下の接続部材4c、4eの間に配置されている。
【0077】
第1及び第2繋ぎ材6C、6Dはいずれも、前述した繋ぎ材6と同様、剛性の高い部材、例えば肉厚の鋼板で構成されている。第1及び第2マスダンパ5C、5Dはいずれも、前述したマスダンパ5と同様に構成され、ねじ軸13aと内筒(図示せず)との相対変位に応じた回転マス(図示せず)の回転によって、回転マスによる慣性質量効果と粘性体(図示せず)による粘性減衰効果を発揮するものである。
【0078】
第1繋ぎ材6Cは、下接続部材4eの上フランジと中接続部材4dの下フランジとの間に挟持された状態で、両フランジにねじ止めされ、水平に延びている。第1マスダンパ5Cは、第2及び第1フランジ17、16を介して、第1繋ぎ材6Cのフランジ6aと地盤Gに立設された支持部材7の中間部に連結されている。同様に、第2繋ぎ材6Dは、上接続部材4cの下フランジと中接続部材4dの上フランジとの間に挟持された状態で、両フランジにねじ止めされ、水平に延びている。第2マスダンパ5Dは、第2及び第1フランジ17、16を介して、第2繋ぎ材6Dのフランジ6aと支持部材7の上端部に連結されている。
【0079】
本実施形態によれば、地震時に地盤Gが振動し、建物Sと地盤Gの間に水平方向の相対変位が発生すると、接続部材4c~4eが、建物Sの鉛直荷重を支持しながら水平方向に変形する。また、第1繋ぎ材6Cは、下接続部材4eの変形量と同じ変位量で変位し、それに伴い、第1マスダンパ5Cのねじ軸13aが変位することによって、第1マスダンパ5Cが作動する。また、第2繋ぎ材6Dは、中接続部材4dの変形量と同じ変位量で変位し、それに伴い、第2マスダンパ5Dのねじ軸13aが変位することによって、第2マスダンパ5Dが作動する。
【0080】
以上により、第1マスダンパ5Cの慣性質量効果及び粘性減衰効果による反力と、第2マスダンパ5Dの慣性質量効果及び粘性減衰効果による反力が、同時に作用し、装置全体としてより大きなダンパ反力が得られるので、免震層Lの層間変位及び建物Sの応答変位をさらに良好に抑制することができる。
【0081】
また、第1実施形態と同様、高周波数成分を含む第1及び第2マスダンパ5C、5Dの反力が、柔性を有する上接続部材4cで緩衝された後、建物S側に伝達されるので、建物Sの応答加速度を良好に抑制することができる。
【0082】
以上の構成及び動作から、第4実施形態によるダンパユニット3をモデル化すると、
図18のように表される。すなわち、第1マスダンパ5Cと下接続部材4eの反力の和、第2マスダンパ5Dと中接続部材4dの反力の和と、上接続部材4cの反力は、互いに等しい。したがって、このダンパユニット3のモデルは、第1マスダンパ5Cの構成要素(md3、cd3、Fr3)と下接続部材4eから成るバネ要素K5が互いに並列に接続されたもの、第2マスダンパ5Dの構成要素(md4、cd4、Fr4)と中接続部材4dから成るバネ要素K6が互いに並列に接続されたものと、上接続部材4cら成るバネ要素K7が、互いに直列に接続されたモデルになる。
【0083】
なお、本実施形態では、第1及び第2マスダンパ5C、5Dがいずれも、地盤G側に設けられた支持部材7に連結されているが、これに代えて、建物S側(例えば基礎梁B)に設けられた支持部材7に連結してもよい。あるいは、支持部材7を地盤G側及び建物S側に別個に設け、第1マスダンパ5Cを地盤G側の支持部材7に連結し、第2マスダンパ5Dを建物S側の支持部材7に連結してもよい。
【0084】
また、本実施形態においても、第1及び第2マスダンパ5C、5Dにおける慣性質量及び粘性抵抗は、任意に設定することが可能であり、それにより、所望のダンパ反力(慣性力と減衰力)を得ることができる。例えば、両マスダンパ5C、5Dの間で、慣性質量及び粘性抵抗の両方を同じ設定としてもよく、あるいは、それらの両方又は一方を異なる設定としてもよい。
【0085】
なお、本発明は、説明した第1~第4実施形態(以下、総称する場合「実施形態」という)及び変形例に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、マスダンパ5、第1マスダンパ5A、第1及び第2マスダンパ5C、5Dを、慣性質量効果に加えて粘性減衰効果を発揮するものとして説明したが、これに代えて、粘性減衰効果をもたず、慣性質量効果のみを発揮する慣性質量ダンパを用いてもよい。また、実施形態では、マスダンパ5などに軸力制限機構15が設けられているが、これを省略してもよい。
【0086】
また、実施形態のマスダンパ5などは、一端部と他端部との間の相対変位をボールねじによって回転マスの回転運動に変換するボールねじ式のものであるが、これに代えて、流体式や、歯車モータ式、ラックアンドピニオン式のものを用いてもよい。さらに、実施形態では、ダンパユニット3とともに複数の免震装置2を免震層Lに設けているが、これらの免震装置2の全部又は一部を、ダンパユニット3に置き換えることも可能である。
【0087】
また、第4実施形態では、接続部材が3つの接続部材4c~4eによる3段構成になっているが、接続部材を4段以上とし、互いに重なる各2つの接続部材の間に、繋ぎ材及びマスダンパを連結してもよい。さらに、第2実施形態の変形例に示した緩衝材31は、あくまで例示であり、慣性質量ダンパの反力を緩衝できるものである限り、任意の構成を採用することができる。
【0088】
また、実施形態は、建物Sと地盤Gの間に免震層Lを設定した基礎免震建物の例であるが、本発明は、これに限らず、建物の低層部や中層部に免震層を設定した中間階免震建物に適用することが可能である。さらに、実施形態は、本発明による振動抑制装置を建物Sに適用した例であるが、本発明はこれに限らず、他の適当な構造物、例えば鉄塔などにも適用可能である。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することや、実施形態に関するバリエーションを適宜、組み合わせて適用することが可能である。
【符号の説明】
【0089】
S 建物(構造物)
G 地盤
L 免震層
1 振動抑制装置
2 免震装置
4a 上接続部材(接続部材)
4b 下接続部材(接続部材)
4c 上接続部材(接続部材)
4d 中接続部材(接続部材)
4e 下接続部材(接続部材)
5 マスダンパ(慣性質量ダンパ)
5A 第1マスダンパ(慣性質量ダンパ)
5B 第2マスダンパ(第2ダンパ)
5C 第1マスダンパ(慣性質量ダンパ)
5D 第2マスダンパ(慣性質量ダンパ)
6 繋ぎ材
6C 第1繋ぎ材(繋ぎ材)
6D 第2繋ぎ材(繋ぎ材)
7 支持部材
7A 第1支持部材(支持部材)
7B 第2支持部材(支持部材)
14 回転マス(慣性質量体)
16 第1フランジ(慣性質量ダンパの他端部)
17 第2フランジ(慣性質量ダンパの一端部)
21 粘性体
31 緩衝材