(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】フィルタの配置構造
(51)【国際特許分類】
F01M 11/03 20060101AFI20221129BHJP
F01L 1/356 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
F01M11/03 E
F01L1/356 E
(21)【出願番号】P 2020055263
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】中山 祐也
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-122419(JP,A)
【文献】特開2018-172967(JP,A)
【文献】特開2000-073716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 11/03
F01L 1/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒の吸気バルブまたは排気バルブを開閉駆動するカムシャフト内に形成され当該カムシャフトの軸端部に開口する保持穴と、
前記保持穴の軸心方向に対して交差する外側方から内側方に向かって保持穴内に潤滑油を流入させる供給油路と、
前記保持穴に収容され前記供給油路から保持穴内に流入する潤滑油を濾過するフィルタと、
前記保持穴に対し前記カムシャフトの軸端側から挿入して
前記フィルタよりも軸端側に螺着され保持穴を閉塞するボルトと
を具備するフィルタの配置構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の潤滑油を濾過するフィルタを配置する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される内燃機関(レシプロエンジン)について、吸気バルブ及び/または排気バルブの開閉タイミングを可変制御できる位相変化型の可変バルブタイミング(Variable Valve Timing)機構を備えたものが公知である(例えば、下記特許文献1を参照)。この種のVVT機構は、内燃機関の出力軸であるクランクシャフトに対する、吸気バルブを開閉駆動する吸気カムシャフト及び/または排気バルブを開閉駆動する排気カムシャフトの回転位相を変化させることにより、吸気バルブ及び/または排気バルブの開閉タイミングを進角または遅角させる。
【0003】
多く普及しているベーン式VVT機構では、内燃機関の潤滑油(エンジンオイル)を作動液とし、カムシャフトのクランクシャフトに対する回転位相をその潤滑油圧により変位させる。油圧回路上には、電磁式の切換制御弁であるOCV(Oil Control Valve)を設置し、OCVを介して潤滑油の流量及び方向を制御することで、カムシャフトをクランクシャフトに対し相対的に回動させる。
【0004】
カムシャフトの回転位相、換言すればVVT機構が具現するバルブタイミングは、フィードバック制御する。即ち、現在の回転位相と目標位相との偏差に基づき、制御バルブたるOCVに入力する制御信号のDUTY比を増減させ、偏差を縮小する方向にOCVを操作する。そして、カムシャフトの回転位相が目標位相の近傍に到達した、即ちバルブタイミングが目標タイミングとなったならば、OCVを中立位置として潤滑油の流動を遮断し、カムシャフトの回転位相の変位を禁止して、バルブタイミングを目標タイミングに維持する。
【0005】
内燃機関の潤滑油はクランクケース内のオイルパンに蓄えられており、潤滑油ポンプ(オイルポンプ)がこれを吸込んで吐出し、内燃機関の各部に向けて圧送する。潤滑油ポンプは、内燃機関のクランクシャフトに従動し、クランクシャフトからエンジントルクの供給を受けて稼働する機械式のものが多い。潤滑油ポンプとOCVとの間には、OCV及びVVT機構に流入する潤滑油を濾過して異物(デポジット)を除くためのフィルタを配する。フィルタは、内燃機関のシリンダヘッドまたはその構成部材(カムキャップ等であることがある)に保持穴を穿ち、その保持穴にフィルタを挿入し、しかる後保持穴にボルトを螺着してこれを閉塞する形で設置する(例えば、下記特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-172967号公報
【文献】特開2000-073716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
潤滑油を濾過するフィルタの目は徐々に詰まってゆくので、フィルタは適宜交換する必要がある。
【0008】
従来の内燃機関では、OCVに付随するフィルタを配設する保持穴が、シリンダヘッドまたはその構成部材における、カムシャフトの伸長する方向(複数の気筒が並ぶ方向でもある)に対して非平行な方向に開口していた。前方排気型(気筒の吸気ポート、吸気バルブ及び吸気カムシャフトが車両における後方側に位置し、気筒の排気ポート、排気バルブ及び排気カムシャフトが車両における前方側に位置する)の内燃機関を車体に横置き(クランクシャフト及びカムシャフトが車両の左右方向に伸長する)で搭載している場合、特に吸気VVT機構のOCVに付随するフィルタの交換の作業に手間を要していた。フィルタを交換しようとする作業者が、車体のボンネットを開け、エンジンルーム(エンジンコンパートメント)内にある内燃機関の後ろに手を突っ込まなければならないからである。
【0009】
本発明は、OCVに付随するフィルタの交換作業の手間を軽減することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るフィルタの配置構造は、内燃機関の気筒の吸気バルブまたは排気バルブを開閉駆動するカムシャフト内に形成され当該カムシャフトの軸端部に開口する保持穴と、前記保持穴の軸心方向に対し交差する外側方から内側方に向かって保持穴内に潤滑油を流入させる供給油路と、前記保持穴に収容され前記供給油路から保持穴内に流入する潤滑油を濾過するフィルタと、前記保持穴に対し前記カムシャフトの軸端側から挿入して前記フィルタよりも軸端側に螺着され保持穴を閉塞するボルトとを具備する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、OCVに付随するフィルタの交換作業の手間を軽減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態の内燃機関に付帯するVVT機構を示す液圧回路図。
【
図2】同実施形態の内燃機関におけるフィルタの配置構造を示す平断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、4ストロークエンジンである車両用内燃機関のクランクシャフト、カムシャフト2及びこれに付帯するVVT機構の構成を示している。この種の内燃機関では、クランクスプロケット(または、プーリ)71、吸気側スプロケット(または、プーリ)72並びに排気側スプロケット(または、プーリ)73にタイミングチェーン(または、ベルト)74を巻き掛け、このタイミングチェーン74により、クランクシャフトからもたらされる回転駆動力を吸気側スプロケット72を介して吸気カムシャフト2に、排気側スプロケット73を介して排気カムシャフトに、それぞれ伝達している。
【0014】
内燃機関の各気筒の吸気バルブの開閉タイミングを変化させる吸気VVT機構6は、吸気側スプロケット72と吸気カムシャフト2との間に介在し、クランクシャフトに対する吸気カムシャフト2の回転位相を変位させるものである。
【0015】
VVT機構6のハウジング61は、吸気側スプロケット72に固着しており、吸気側スプロケット72とハウジング61とは一体となってクランクシャフトに同期して回転する。これに対し、吸気カムシャフト2の一端部に固着したロータ62は、ハウジング61内に収納され、吸気側スプロケット72及びハウジング61に対して相対的に回動することが可能である。ハウジング61の内部には、作動液が流出入する複数の流体室が形成され、各流体室は、ロータ62の外周部に成形されたベーン621によって進角室612と遅角室611とに区画されている。
【0016】
VVT機構6の液圧(油圧)回路には、オイルパン81内に蓄えられた作動液たる内燃機関の潤滑油が、作動液ポンプたる潤滑油ポンプ82より供給される。潤滑油ポンプ82は、内燃機関のクランクシャフトから回転トルクの伝達を受けて稼働する機械式の液圧ポンプである。潤滑油ポンプ82とVVT機構6との間には、制御バルブたるOCV9を設けている。作動液の流量及び方向をこのOCV9を介して操作することで、オイルパン81から汲み上げた作動液を進角室612または遅角室611に選択的に供給することができる。さすれば、ハウジング61がロータ62に対して相対回動し、吸気バルブの開閉タイミングを進角または遅角させることができる。
【0017】
図1に示すOCV9は、いわゆる電磁式の四方向スプール弁であり、潤滑油ポンプ82の吐出口と接続する供給ポート91と、ハウジング61の進角室612と接続するAポート92と、ハウジング61の遅角室611と接続するBポート93と、オイルパン81と接続するドレインポート94、95とを有している。OCV9のスプールは、軸心方向に沿った進退動作により内部流体経路を切り換えて、Aポート92及びBポート93をそれぞれ供給ポート91、ドレインポート94、95の何れかに連通させる。また、スプール96が中立位置をとるときには内部流体経路が断絶し、Aポート92及びBポート93を供給ポート91にもドレインポート94、95にも連通させない。
図1では、スプール96が中立位置にある状態を示している。
【0018】
スプール96はソレノイド97によって駆動する。即ち、制御入力としてソレノイド97に入力するパルス電流(または、電圧)信号mのDUTY比に応じて、スプール96の進退の距離が変化する。例えば、制御信号mのDUTY比が0%で全体的にOFFのとき、スプール96は最も一端側(
図1中左方)に位置して、流路断面積が最大の状態でBポート93を供給ポート91に連通させ、かつAポート92をドレインポート94に連通させるように内部流体経路を敷設する。
【0019】
制御信号mのDUTY比が増大するにつれて、ソレノイド97に吸引されるスプール96が他端側(
図1中右方)に向かって移動する。DUTY比が50%付近に増大するまでは、OCV9の内部流体経路は切り換わらず、DUTY比の増大とともに流路断面積が減少してゆく。
【0020】
デューティが約50%の保持DUTY比となると、スプール96は中立位置をとり、OCV9の内部流体経路を完全に遮断する。
【0021】
制御信号mのDUTY比をさらに増大させると、OCV9の内部流体経路が切り換わる。つまり、スプール96が中立位置よりも他端側に変位して、Aポート92を供給ポート91に連通させ、かつBポート93をドレインポート95に連通させるように内部流体経路を敷設する。DUTY比の増大とともに流路断面積も増大してゆき、制御信号mのDUTY比が100%で全体的にONとなったとき、スプール96は最も他端側に位置して、流路断面積が最大の状態となる。
【0022】
制御信号mのDUTY比が比較的大きい場合には、潤滑油ポンプ82から吐出される作動液圧がAポート92を通じて進角室612に供給される一方、既に遅角室611に貯留していた作動液がBポート93を通じてオイルパン81に向けて流下することとなり、進角室612の容積が拡大、遅角室611の容積が縮小するようにベーン621及びロータ62が回動する。結果、吸気カムシャフト2の回転位相、換言すれば吸気カムシャフト2のクランクシャフトに対する変位角が進角して、吸気バルブの開閉タイミングが進角化する。
【0023】
逆に、制御信号mのDUTY比が比較的小さい場合には、潤滑油ポンプ82から吐出される作動液圧がBポート93を通じて遅角室611に供給される一方、既に進角室612に貯留していた作動液がAポート92を通じてオイルパン81に向けて流下することとなり、遅角室611の容積が拡大、進角室612の容積が縮小するようにベーン621及びロータ62が回動する。結果、吸気カムシャフト2のクランクシャフトに対する変位角が遅角して、吸気バルブの開閉タイミングが遅角化する。
【0024】
総じて言えば、制御信号mのDUTY比が中立より大きいほど吸気バルブタイミングが速く進角し、DUTY比が中立より小さいほど吸気バルブタイミングが速く遅角する。
【0025】
潤滑油ポンプ82とOCV9との間には、OCV9及びVVT機構6に流入する潤滑油を濾過して異物を除去するためのフィルタ1を配置する。
【0026】
図2に、本実施形態の内燃機関におけるフィルタ1の配置の構造を示す。
図2は、吸気カムシャフト2の中心軸を通る平面で切断した平断面図であり、図面の下方が内燃機関を横置きで搭載した車両の前方、図面の左方が車両の左側方(運転席に着いた運転者にとって、右手側)、図面の右方が車両の右側方(運転者にとって、左手側)である。
【0027】
本実施形態では、吸気カムシャフト2内及びVVT機構6内の中心軸近傍の部位に、吸気カムシャフト2の軸端部に開口し、かつVVT機構6を貫いて外方に開放した保持穴3を設けている。保持穴3の軸心方向は、吸気カムシャフト2の伸長する方向に対して平行または略平行である。
【0028】
それとともに、吸気カムシャフト2内に、この保持穴3の軸心方向に対して交差(または、直交)する外側方から内側方に向かって潤滑油を流入させる供給油路83を形成してある。供給油路83は、保持穴3の径方向に沿って伸び、保持穴3に連通している。潤滑油ポンプ82が吐出し圧送する潤滑油は、供給油路83を経由して保持穴3に流れ込む。尤も、潤滑油ポンプ82が吐出する潤滑油の一部は、供給油路83の上流で分岐して吸気カムシャフト2を潤滑するカムシャワー等に供給され、供給油路83には流れ込まない。
【0029】
その上で、保持穴3の内奥に、フィルタ1を挿入して配設する。フィルタ1は、多孔質材料、例えば目の細かい金属網(メッシュ)を円筒状に成形してなる。
図2中に矢印で表しているように、供給油路83を流れる潤滑油は、フィルタ1の多孔質の外周壁を通過して保持穴3内へと流入する。その際に、潤滑油に混入している異物がフィルタ1により濾し取られる。
【0030】
さらに、保持穴3に対して、外方即ちカムシャフト2の軸端側からセンターボルト9を挿入して螺着することで、保持穴3の開口を閉塞する。本実施形態では、OCV9がセンターボルトを兼ねている。即ち、本実施形態では、OCV9のハウジング90の先端部位の外周に雄ねじ98を形成する一方、保持穴3の内周における供給油路83及びフィルタ1よりも手前方の部位に雌ねじ31を形成して、雄ねじ98を雌ねじ31に螺合して緊締せしめることにより、OCV9のハウジング90を保持穴3に固着する。本実施形態では、フィルタ1とOCV9とが軸心方向に沿って並ぶ。
【0031】
供給油路83からフィルタ1を介して保持穴3内に流入した潤滑油は、保持穴3の内周に切削して形成した図示しない油路を通じてOCV9の供給ポート91へと至り、供給ポート91を通じてOCV9のハウジング90内に流れ込む。そして、
図2中に矢印で表しているように、Aポート92を通じてVVT機構6の進角室612へと向かい、またはBポート93を通じてVVT機構6の遅角室611へと向かう。
【0032】
内燃機関のクランクシャフトに従動して吸気カムシャフト2が回転するとき、その内の保持穴3に収容したフィルタ1もともに回転する。従って、フィルタ1の外周面に付着した異物には、フィルタ1の軸心から離反する方向の遠心力が作用する。その遠心力により、異物がフィルタ1から径方向に沿った外側方に脱離することが促進される。このことは、内燃機関の始動時等におけるフィルタ1の目詰まりの防止に役立つ。
【0033】
本実施形態では、内燃機関の気筒の吸気バルブを開閉駆動するカムシャフト2内に形成され当該カムシャフト2の軸端部に開口する保持穴3と、前記保持穴3の軸心方向に対して交差する外側方から内側方に向かって保持穴3内に潤滑油を流入させる供給油路83と、前記保持穴3に収容され前記供給油路83から保持穴3内に流入する潤滑油を濾過するフィルタ1と、前記保持穴3に対し前記カムシャフト2の軸端側から挿入して螺着され保持穴3を閉塞するボルトたるOCV9とを具備するフィルタ1の配置構造を構成した。
【0034】
本実施形態によれば、OCV9に付随するフィルタ1の交換作業の手間を軽減することができる。特に、内燃機関を横置きで車体に搭載している場合、カムシャフト2の軸端部及びVVT機構6が車両の側方を向いて露出した状態となる。このため、フィルタ1を交換しようとする作業者が、ボルト即ちOCV9を保持穴3から離脱させ、古いフィルタ1を保持穴3から取り出して新たなフィルタ1を保持穴3に挿入し、その後再びOCV9を保持穴3に螺着する作業を行いやすい。
【0035】
加えて、カムシャフト2の内部の領域を有効活用してフィルタ1を配設し、しかもOCV9をセンターボルトとして援用していることから、内燃機関の構成のコンパクト化及び部品点数の削減にも寄与し得る。シリンダヘッドまたはその構成部材に特段の加工を施す必要性からも解放される。
【0036】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。上記実施形態では、吸気VVT機構6のOCV9に付随するフィルタ1の配置構造を想定していたが、排気バルブの開閉タイミングを可変制御するための排気VVT機構が付帯する内燃機関にあっては、排気VVT機構のOCVに付随するフィルタの配置構造を、上記実施形態と同様にして、排気カムシャフトの軸端部に作り込むことができる。
【0037】
その他、各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、車両に搭載される内燃機関の制御に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…フィルタ
2…吸気カムシャフト
3…保持穴
6…吸気VVT機構
83…供給油路
9…ボルト、OCV