(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】多層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20221129BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20221129BHJP
C08G 64/42 20060101ALI20221129BHJP
C08F 220/14 20060101ALN20221129BHJP
【FI】
B32B27/36 102
B32B27/30 A
C08G64/42
C08F220/14
(21)【出願番号】P 2018107334
(22)【出願日】2018-06-05
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2017115594
(32)【優先日】2017-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184653
【氏名又は名称】瀬田 寧
(72)【発明者】
【氏名】山家英晃
(72)【発明者】
【氏名】中島耕平
【審査官】青木 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-020052(JP,A)
【文献】特開2013-022822(JP,A)
【文献】特開2017-164969(JP,A)
【文献】特開2009-196153(JP,A)
【文献】特開2007-231200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08G 64/42
C08F 220/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1アクリル系樹脂層(α1);芳香族ポリカーボネート系樹脂層(β);第2アクリル系樹脂層(α2);が、この順に直接積層され;
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂が、芳香族ジヒドロキシ化合物のポリ炭酸エステルと低結晶性又は非結晶性芳香族ポリエステルとのエステル交換体であり;
上記第1アクリル系樹脂と上記第2アクリル系樹脂が同じアクリル系樹脂であり;
該アクリル系樹脂が、重合性モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、メチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を50~95モル%、及びビニルシクロヘキサンに由来する構成単位を50~5モル%の量で含むビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体
(但し、芳香族ビニルモノマー由来の構成単位中の芳香族二重結合を有するものを除く。)、又はポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂であり;
下記式(1‐1)及び(1‐2)を満たす多層フィルム。
(Tβ-Tα
1)≦30 ・・・(1‐1)
(Tβ-Tα
2)≦30 ・・・(1‐2)
ここで、Tα
1は上記第1アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tα
2は上記第2アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tβは上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度である。温度の単位は何れも℃である。
【請求項2】
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度が100~140℃である請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物のポリ炭酸エステルが、ビスフェールAのポリ炭酸エステルである請求項1又は2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
上記低結晶性又は非結晶性芳香族ポリエステルが、
多価カルボン酸に由来する構成単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構成単位を90~100モル%の量で含み;
多価オールに由来する構成単位の総和を100モル%として、
エチレングリコールに由来する構成単位を20~80モル%、
1,4‐シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位を20~80モル%、及び
ジエチレングリコールに由来する構成単位を0~10モル%の量で含む
請求項1~3の何れか1項に記載の多層フィルム。
【請求項5】
第1アクリル系樹脂層(α1);芳香族ポリカーボネート系樹脂層(β);第2アクリル系樹脂層(α2);が、この順に直接積層され;
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂が、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を15~80.8モル%、
テレフタル酸に由来する構成単位を9.6~42モル%、
1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位を3~25モル%、及び
エチレングリコールに由来する構成単位を4~30モル%の量で含み;
上記第1アクリル系樹脂と上記第2アクリル系樹脂が同じアクリル系樹脂であり;
該アクリル系樹脂が、重合性モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、メチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を50~95モル%、及びビニルシクロヘキサンに由来する構成単位を50~5モル%の量で含むビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体
(但し、芳香族ビニルモノマー由来の構成単位中の芳香族二重結合を有するものを除く。)、又はポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂であり;
下記式(1‐1)及び(1‐2)を満たす多層フィルム。
(Tβ-Tα
1)≦30 ・・・(1‐1)
(Tβ-Tα
2)≦30 ・・・(1‐2)
ここで、Tα
1は上記第1アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tα
2は上記第2アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tβは上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度である。温度の単位は何れも℃である。
【請求項6】
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂が、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、ビスフェノールAに由来する構成単位を15~80.8モル%、
テレフタル酸に由来する構成単位を9.6~42モル%、
1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位を3~25モル%、及び
エチレングリコールに由来する構成単位を4~30モル%の量で含む、請求項5に記載の多層フィルム。
【請求項7】
下記特性(イ)及び(ロ)を満たす請求項1~6の何れか1項に記載の多層フィルム。
(イ)全光線透過率85%以上。
(ロ)レタデーションが75nm以下。
【請求項8】
下記特性(ハ)を満たす請求項1~7の何れか1項に記載の多層フィルム。
(ハ)JIS K7209:2009のA法に従い、浸漬時間24時間の条件で測定した吸水率が1質量%以下。
【請求項9】
請求項1~
8の何れか1項に記載の多層フィルムの少なくとも片面の上にハードコートを有するハードコート積層フィルム。
【請求項10】
請求項1~
8の何れか1項に記載の多層フィルムを含む物品。
【請求項11】
請求項
9に記載のハードコート積層フィルムを含む物品。
【請求項12】
請求項1~
8の何れか1項に記載の多層フィルムの製造方法であって、
(A)押出機とTダイとを備える共押出装置を使用し、第1アクリル系樹脂層(α1);芳香族ポリカーボネート系樹脂層(β);第2アクリル系樹脂層(α2)が、この順に直接積層された多層フィルムの溶融フィルムを、Tダイから連続的に共押出する工程;
(B)回転する又は循環する第1鏡面体と、回転する又は循環する第2鏡面体との間に、上記多層フィルムの溶融フィルムを、上記第1アクリル系樹脂層(α1)が、上記第1鏡面体側となるように供給投入し、押圧する工程;及び、
(C)上記工程(B)において押圧された多層フィルムを上記第1鏡面体に抱かせて次の回転する又は循環する第3鏡面体へと送り出す工程を含み、
下記式(2)~(4)を満たす上記製造方法:
(Tα1-15)≦TR1≦(Tα1+10) ・・・(2)
(Tα2-25)≦TR2<Tα2 ・・・(3)
(Tβ-25)≦TR1 ・・・(4)
ここで、TR1は上記第1鏡面体の表面温度、TR2は上記第2鏡面体の表面温度、Tα1は上記第1アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tα2は上記第2アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tβは上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度であり、温度の単位は何れも℃である。
【請求項13】
下記式(4-2)を満たす請求項
12に記載の製造方法:
(Tβ-20)≦TR1 ・・・(4-2)
ここで、TR1は上記第1鏡面体の表面温度、Tβは上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度であり、温度の単位は何れも℃である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層フィルムに関する。更に詳しくは反り変形の抑制された多層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、及びエレクトロルミネセンスディスプレイなどの画像表示装置上に設置され、表示を見ながら指やペン等でタッチすることにより入力を行うことのできるタッチパネルが普及している。
【0003】
従来、タッチパネルのディスプレイ面板や透明導電性基板には、耐熱性、寸法安定性、高透明性、高表面硬度、及び高剛性などの要求特性に合致することから、ガラスを基材とする部材が使用されてきた。一方、ガラスには、耐衝撃性が低く割れ易い、加工性が低い、ハンドリングが難しい、比重が高く重い、及びディスプレイの曲面化やフレキシブル化の要求に応えることが難しいなどの問題がある。そのためガラスに替わる材料として、ハードコート積層フィルムが盛んに研究されている。該ハードコート積層フィルムのフィルム基材としては、高表面硬度、耐擦傷性、及び耐切削加工性の観点から、第1アクリル系樹脂層、芳香族ポリカーボネート系樹脂層、第2アクリル系樹脂層が、この順に直接積層された多層フィルムが、しばしば提案されている。しかし、上記多層フィルムには、反り変形、特に湿熱処理後の反り変形を抑制することが難しいという問題があった。そこで反り変形を抑制する技術として、冷却ロールの周速度を制御する方法(特許文献1及び2)や冷却ロールを通過した後のフィルムをヒーターにより加熱する方法(特許文献3)が提案されている。しかし、これらの技術は十分に満足できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-096357号公報
【文献】特開2013-193241号公報
【文献】特開2012-121271号公報
【文献】特開2015-083370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、反り変形、特に湿熱処理後の反り変形が抑制された多層フィルムを提供することにある。本発明の更なる課題は、反り変形、特に湿熱処理後の反り変形が抑制され、吸水率が低く、透明性、色調、及び外観に優れ、レタデーションの小さい多層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究した結果、原料樹脂のガラス転移温度が特定の関係式を満たすようにすることにより、上記課題を達成できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、第1アクリル系樹脂層(α1);芳香族ポリカーボネート系樹脂層(β);第2アクリル系樹脂層(α2);が、この順に直接積層され;上記芳香族ポリカーボネート系樹脂が、芳香族ジヒドロキシ化合物のポリ炭酸エステルと低結晶性又は非結晶性芳香族ポリエステルとのエステル交換体であり;
下記式(1‐1)及び(1‐2)を満たす多層フィルムである。
(Tβ-Tα1)≦30 ・・・(1‐1)
(Tβ-Tα2)≦30 ・・・(1‐2)
ここで、Tα1は上記第1アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tα2は上記第2アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tβは上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度である。温度の単位は何れも℃である。
【0008】
第2の発明は、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度が100~140℃である第1の発明に記載の多層フィルムである。
【0009】
第3の発明は、上記芳香族ジヒドロキシ化合物のポリ炭酸エステルが、ビスフェールAのポリ炭酸エステルである第1の発明又は第2の発明に記載の多層フィルムである。
【0010】
第4の発明は、上記低結晶性又は非結晶性芳香族ポリエステルが、多価カルボン酸に由来する構成単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構成単位を90~100モル%の量で含み;
多価オールに由来する構成単位の総和を100モル%として、エチレングリコールに由来する構成単位を20~80モル%、1,4‐シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位を20~80モル%、及びジエチレングリコールに由来する構成単位を0~10モル%の量で含む;
第1~3の発明の何れか1に記載の多層フィルムである。
【0011】
第5の発明は、第1アクリル系樹脂層(α1);芳香族ポリカーボネート系樹脂層(β);第2アクリル系樹脂層(α2);が、この順に直接積層され;上記芳香族ポリカーボネート系樹脂が、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を15~80モル%、テレフタル酸に由来する構成単位を10~42モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位を3~25モル%、及びエチレングリコールに由来する構成単位を4~30モル%の量で含み;
下記式(1‐1)及び(1‐2)を満たす多層フィルムである。
(Tβ-Tα1)≦30 ・・・(1‐1)
(Tβ-Tα2)≦30 ・・・(1‐2)
ここで、Tα1は上記第1アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tα2は上記第2アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tβは上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度である。温度の単位は何れも℃である。
【0012】
第6の発明は、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂が、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、ビスフェノールAに由来する構成単位を15~80モル%、テレフタル酸に由来する構成単位を10~42モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位を3~25モル%、及びエチレングリコールに由来する構成単位を4~30モル%の量で含む、第5の発明に記載の多層フィルムである。
【0013】
第7の発明は、上記第1アクリル系樹脂と上記第2アクリル系樹脂が同じアクリル系樹脂であり、重合性モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、メチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を50~95モル%、及びビニルシクロヘキサンに由来する構成単位を50~5モル%の量で含む第1~6の発明の何れか1に記載の多層フィルムである。
【0014】
第8の発明は、下記特性(イ)及び(ロ)を満たす第1~7の発明の何れか1に記載の多層フィルムである。
(イ)全光線透過率85%以上。
(ロ)レタデーションが75nm以下。
【0015】
第9の発明は、更に下記特性(ハ)を満たす第8の発明に記載の多層フィルムである。
(ハ)JIS K7209:2009のA法に従い、浸漬時間24時間の条件で測定した吸水率が1質量%以下。
【0016】
第10の発明は、第1~9の発明の何れか1に記載の多層フィルムの少なくとも片面の上にハードコートを有するハードコート積層フィルムである。
【0017】
第11の発明は、第1~10の発明の何れか1に記載のフィルムを含む物品である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の多層フィルムは反り変形、特に湿熱処理後の反り変形が抑制されている。本発明の好ましい多層フィルムは反り変形、特に湿熱処理後の反り変形が抑制され、吸水率が低く、透明性、色調、及び外観に優れ、レタデーションが小さい。本発明の多層フィルムをフィルム基材として用いることにより、好ましくは吸水率が低く、透明性、色調、外観、表面硬度、耐擦傷性、耐切削加工性、及び耐クラック性に優れ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、及びエレクトロルミネセンスディスプレイなどの画像表示装置の部材(タッチパネル機能を有する画像表示装置及びタッチパネル機能を有しない画像表示装置を含む。)、特にタッチパネル機能を有する画像表示装置のディスプレイ面板として好適なハードコート積層フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において「フィルム」の用語は、「シート」と相互交換的に又は相互置換可能に使用する。本明細書において、「フィルム」及び「シート」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできるものに使用する。「板」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできないものに使用する。「樹脂」の用語は、2以上の樹脂を含む樹脂混合物や、樹脂以外の成分を含む樹脂組成物をも含む用語として使用する。また本明細書において、ある層と他の層とを順に積層することは、それらの層を直接積層すること、及び、それらの層の間にアンカーコートなどの別の層を1層以上介在させて積層することの両方を含む。数値範囲に係る「以上」の用語は、ある数値又はある数値超の意味で使用する。例えば、20%以上は、20%又は20%超を意味する。数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値又はある数値未満の意味で使用する。例えば、20%以下は、20%又は20%未満を意味する。更に数値範囲に係る「~」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、又は他のある数値の意味で使用する。ここで、他のある数値は、ある数値よりも大きい数値とする。例えば、10~90%は、10%、10%超かつ90%未満、又は90%を意味する。実施例以外において、又は別段に指定されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用されるすべての数値は、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとすることなく、各数値は、有効数字に照らして、及び通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。また簡略化のため、第1アクリル系樹脂層(α1)を構成するアクリル系樹脂を単に「第1アクリル系樹脂」、芳香族ポリカーボネート系樹脂層(β)を構成する芳香族ポリカーボネート系樹脂を単に「芳香族ポリカーボネート系樹脂」、第2アクリル系樹脂層(α2)を構成するアクリル系樹脂を単に「第2アクリル系樹脂」と称することがある。また、「第1アクリル系樹脂」及び「第2アクリル系樹脂」は、同じであっても異なってもよいが、これらをまとめて「アクリル系樹脂」と称することがある。
【0020】
1.多層フィルム:
本発明の多層フィルムは、第1アクリル系樹脂層(α1);芳香族ポリカーボネート系樹脂層(β);第2アクリル系樹脂層(α2);が、この順に直接積層されている。
【0021】
アクリル系樹脂は表面硬度には優れているが、切削加工性が不十分になり易いのに対し、芳香族ポリカーボネート系樹脂は切削加工性には優れているが、表面硬度が不十分になり易い。そこで上述の層構成にすることにより、両者の弱点を補い合い、表面硬度、及び切削加工性の何れにも優れた多層フィルムを容易に得ることができるようになる。
【0022】
上記(α1)層の層厚みは、特に制限されないが、表面硬度の観点から、通常10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは40μm以上、更に好ましくは60μm以上、最も好ましくは80μm以上であってよい。
【0023】
上記(α2)層の層厚みは、特に制限されないが、反り変形を抑制する観点から、上記(α1)層と同じ層厚みであることが好ましい。
【0024】
なおここで「同じ層厚み」とは、物理化学的に厳密な意味で同じ層厚みと解釈されるべきではない。工業的に通常行われる工程・品質管理の振れ幅の範囲内において同じ層厚みと解釈されるべきである。工業的に通常行われる工程・品質管理の振れ幅の範囲内において同じ層厚みであれば、多層フィルムの反り変形を十分に抑制することができるからである。Tダイ共押出法による無延伸多層フィルムの場合には、例えば設定層厚みが70μmであるとき、通常-5~+5μm程度の幅で工程・品質管理されるものであるから、層厚み65μmと同75μmとは同一と解釈されるべきである。
【0025】
上記(β)層の層厚みは、特に制限されないが、耐切削加工性の観点から、通常20μm以上、好ましくは80μm以上であってよい。
【0026】
上記多層フィルムの全厚みは、特に制限されず、所望により任意の厚みにすることができる。上記多層フィルムの取扱性の観点からは、通常20μm以上、好ましくは50μm以上であってよい。上記多層フィルムを高い剛性を必要としない用途に用いる場合には、経済性の観点から、通常250μm以下、好ましくは150μm以下であってよい。上記多層フィルムをディスプレイ面板として用いる場合には、剛性を保持する観点から、通常300μm以上、好ましくは500μm以上、より好ましくは600μm以上であってよい。また装置の薄型化の要求に応える観点から、通常1500μm以下、好ましくは1200μm以下、より好ましくは1000μm以下であってよい。
【0027】
上記(α1)層に用いる第1アクリル系樹脂、及び上記(α2)層に用いる第2アクリル系樹脂について説明する。
【0028】
上記アクリル系樹脂(上記(α1)層に用いる第1アクリル系樹脂、上記(α2)層に用いる第2アクリル系樹脂、又は上記(α1)層と上記(α2)層の両方の層に用いるアクリル系樹脂。以下、同様の意味で用いることがある。)としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を主として(通常50モル%以上、好ましくは65モル%以上、より好ましくは70モル%以上。)含む共重合体、及びこれらの変性体などをあげることができる。なお、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルの意味である。また(共)重合体とは、重合体(単独重合体)又は共重合体の意味である。
【0029】
上記(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル・(メタ)アクリル酸ブチル共重合体、(メタ)アクリル酸エチル・(メタ)アクリル酸ブチル共重合体などをあげることができる。
【0030】
上記(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を主として含む共重合体としては、例えば、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、スチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、ビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、無水マレイン酸・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、及びN-置換マレイミド・(メタ)アクリル酸メチル共重合体などをあげることができる。
【0031】
上記変性体としては、例えば、分子内環化反応によりラクトン環構造が導入された重合体;分子内環化反応によりグルタル酸無水物が導入された重合体;及び、イミド化剤(例えば、メチルアミン、シクロヘキシルアミン、及びアンモニアなどをあげることができる。)と反応させることによりイミド構造が導入された重合体(以下、ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂ということがある。);などをあげることができる。
【0032】
上記アクリル系樹脂は、好ましくは、ビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体である。透明性、色調、外観、及び耐湿性に優れ、レタデーションの小さい多層フィルムを得ることができる。
【0033】
上記アクリル系樹脂は、より好ましくは、重合性モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、メチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位(以下、「MA/MMA単位」と略すことがある。)を50~95モル%、好ましくは65~90モル%、より好ましくは70~85モル%の量で、及びビニルシクロヘキサンに由来する構成単位(以下、「VCH単位」と略すことがある。)を50~5モル%、好ましくは35~10モル%、より好ましくは30~15モル%の量で含むビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体である。ここでMA/MMA単位の含有量とVCH単位の含有量との和は、通常80モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは99モル%以上、100モル%以下であってよい。なおここで「重合性モノマー」とは、メチル(メタ)アクリレート、ビニルシクロヘキサン、及びこれらと共重合可能なモノマーを意味する。該共重合可能なモノマーは、通常、炭素・炭素二重結合を有する化合物であり、典型的にはアクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(メチル(メタ)アクリレートを除く。)、エチレン、プロピレン、及びスチレンなどのエチレン性二重結合を有する化合物である。
【0034】
上記ビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体中のMA/MMA単位、及びVCH単位などの各構成単位の含有量は、
1H-NMRや
13C-NMRを使用して求めることができる。
1H-NMRスペクトルは、例えば、試料15mgをクロロホルム-d
1溶媒0.6mLに溶解し、500MHzの核磁気共鳴装置を使用し、以下の条件で測定することができる。
図1に測定例を示す。
ケミカルシフト基準 装置による自動設定
測定モード シングルパルス
パルス幅 45°(5.0μ秒)
ポイント数 32K
測定範囲 15ppm(-2.5~12.5ppm)
繰り返し時間 10.0秒
積算回数 16回
測定温度 25℃
ウインドウ関数 exponential(BF:0.16Hz)
【0035】
13C-NMRスペクトルは、例えば、試料60mgをクロロホルム-d
1溶媒0.6mLに溶解し、125MHzの核磁気共鳴装置を使用し、以下の条件で測定することができる。
図2に測定例を示す。
ケミカルシフト基準 装置による自動設定
測定モード シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅 45°(5.0μ秒)
ポイント数 64K
測定範囲 250ppm(-25~225ppm)
繰り返し時間 5.5秒
積算回数 128回
測定温度 25℃
ウインドウ関数 exponential(BF:1.00Hz)
【0036】
ピークの帰属は、「高分子分析ハンドブック(2008年9月20日初版第1刷、社団法人日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、株式会社朝倉書店)」や「独立行政法人物質・材料研究機構材料情報ステーションのNMRデータベース(http://polymer.nims.go.jp/NMR/)」を参考に行い、ピーク面積比から上記(α)アクリル系樹脂中の各構造単位の割合を算出することができる。なお1H-NMRや13C-NMRの測定は、株式会社三井化学分析センターなどの分析機関において行うこともできる。
【0037】
上記ビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体を製造する方法は、特に制限されず、公知の方法を使用することができる。
【0038】
なお上記ビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体は、2以上のアクリル系樹脂を含む樹脂混合物であってもよい。樹脂混合物である場合は、混合物としてのMA/MMA単位の含有量及びVCH単位の含有量が上述の範囲になるようにすればよい。好ましくは混合物を構成する各アクリル系樹脂が、何れもMA/MMA単位の含有量及びVCH単位の含有量が上述の範囲になるようにすればよい。
【0039】
上記アクリル系樹脂としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0040】
上記アクリル系樹脂のガラス転移温度は、反り変形を抑制する観点、及び耐熱性の観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは115℃以上であってよい。
【0041】
本明細書においてガラス転移温度は、JIS K7121-1987に従い、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用し、250℃で3分間保持し、10℃/分で20℃まで冷却し、20℃で3分間保持し、10℃/分で250℃まで昇温するプログラムで測定される最後の昇温過程の曲線から算出した中間点ガラス転移温度である。
【0042】
上記アクリル系樹脂には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、コアシェルゴムを含ませることができる。上記コアシェルゴムを、上記アクリル系樹脂を100質量部として、通常0~50質量部、好ましくは3~30質量部の量で用いることにより、耐切削加工性や耐衝撃性を高めることができる。
【0043】
上記コアシェルゴムとしては、例えば、メタクリル酸エステル・スチレン/ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/エチレン・プロピレンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/アクリル酸エステルグラフト共重合体、メタクリル酸エステル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、及びメタクリル酸エステル・アクリロニトリル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体などのコアシェルゴムをあげることができる。上記コアシェルゴムとしては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0044】
上記アクリル系樹脂には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、上記アクリル系樹脂や上記コアシェルゴム以外の熱可塑性樹脂;顔料、無機フィラー、有機フィラー、樹脂フィラー;滑剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、及び界面活性剤等の添加剤;などを更に含ませることができる。これらの任意成分の配合量は、通常、上記アクリル系樹脂を100質量部としたとき、通常0.01~10質量部程度である。
【0045】
好ましい上記任意成分としては、離型剤をあげることができる。上記離型剤を、上記アクリル系樹脂を100質量部として、通常0.01~1質量部、好ましくは0.02~0.1質量部の量で用いることにより、溶融フィルムが上記第1鏡面体、上記第2鏡面体、及び上記第3鏡面体などに付着するなどのトラブルを抑制することができる。
【0046】
上記(α1)層に用いる第1アクリル系樹脂と、上記(α2)層に用いる第2アクリル系樹脂とは、異なるアクリル系樹脂、例えば、種類、組成、メルトマスフローレート、及びガラス転移温度などの異なるアクリル系樹脂を用いても良い。反り変形を抑制する観点から、同じアクリル系樹脂を用いることが好ましい。例えば、同一グレードの同一ロットを用いるのは、好ましい実施態様の一つである。
【0047】
上記(β)層に用いる芳香族ポリカーボネート系樹脂について説明する。
【0048】
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位、及び多価カルボン酸に由来する構成単位を含む重合体;好ましくは芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位、多価カルボン酸に由来する構成単位、及び脂肪族多価オールに由来する構成単位を含む重合体であり、典型的には、芳香族ジヒドロキシ化合物のポリ炭酸エステルと低結晶性又は非結晶性芳香族ポリエステルとのエステル交換体である。
【0049】
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度は、反り変形を抑制する観点から、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下であってよい。一方、耐熱性の観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上であってよい。
【0050】
本明細書においてガラス転移温度は、JIS K7121-1987に従い、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用し、250℃で3分間保持し、10℃/分で20℃まで冷却し、20℃で3分間保持し、10℃/分で250℃まで昇温するプログラムで測定される最後の昇温過程の曲線から算出した中間点ガラス転移温度である。
【0051】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物のポリ炭酸エステルは、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸とが重縮合した構造を有する重合体であり、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの界面重合法や、芳香族ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸ジエステルとのエステル交換反応により得ることができる。
【0052】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA(2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン)、2,2‐ビス(4‐ヒドロキシ‐3‐メチルフェニル)プロパン、2,2‐ビス(4‐ヒドロキシ‐3,5‐ジメチルフェニル)プロパン、2,2‐ビス(4‐ヒドロキシ‐3,5‐ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4‐ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3-ビス(4‐ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)‐3,3,5‐トリメチルシクロヘキサン、及び1,1‐ビス(4‐ヒドロキシ‐3‐メチルフェニル)シクロヘキサンなどをあげることができる。これらの中で耐切削加工性、耐衝撃性、強靭性、及び成形性の観点から、ビスフェノールAが好ましい。上記芳香族ジヒドロキシ化合物としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0053】
上記低結晶性又は非結晶性芳香族ポリエステルは、芳香族多価カルボン酸と脂肪族多価オールとのポリエステル系共重合体、脂肪族多価カルボン酸と芳香族多価オールとのポリエステル系共重合体、又は芳香族多価カルボン酸と芳香族多価オールとのポリエステル系共重合体であって、低結晶性又は非結晶性のポリエステルである。上記低結晶性又は非結晶性芳香族ポリエステルは、好ましくは、芳香族多価カルボン酸と脂肪族多価オールとのポリエステル系共重合体であって、低結晶性又は非結晶性のポリエステルである。
【0054】
本明細書では、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用し、試料を320℃で5分間保持した後、20℃/分の降温速度で-50℃まで冷却し、-50℃で5分間保持した後、20℃/分の昇温速度で320℃まで加熱するという温度プログラムでDSC測定を行って得られる融解曲線における融解熱量が、5J/g以下のポリエステルを非結晶性、5J/gを超えて通常60J/g以下、好ましくは40J/g以下、より好ましくは20J/g以下、更に好ましくは15J/g以下、最も好ましくは10J/g以下のポリエステルを低結晶性と定義した。
【0055】
上記芳香族多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;及び、これらのエステル形成性誘導体;などをあげることができる。上記芳香族多価カルボン酸としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0056】
上記脂肪族多価カルボン酸としては、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、トリデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸、ペンタデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、及びエイコサンジカルボン酸などの鎖状の脂肪族ジカルボン酸;1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキサンメタン-4,4’-ジカルボン酸、及びノルボルナンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;及び、これらのエステル形成性誘導体;などをあげることができる。上記脂肪族多価カルボン酸としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0057】
上記脂肪族多価オールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4,-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、及びスピログリコール(3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)などの脂肪族ジオール;及び、これらのエステル形成性誘導体;などをあげることができる。上記脂肪族多価オールとしては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0058】
上記芳香族多価オールとしては、例えば、キシリレングリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などの芳香族多価オール;及び、これらのエステル形成性誘導体;などをあげることができる。上記芳香族多価オールとしては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0059】
上記非晶性又は低結晶性芳香族ポリエステル系樹脂としては、例えば、多価カルボン酸に由来する構成単位の総和を100モル%、多価オールに由来する構成単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構成単位90~100モル%、エチレングリコールに由来する構成単位60~80モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位20~40モル%、ジエチレングリコールに由来する構成単位0~10モル%を含むグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PETG);テレフタル酸に由来する構成単位90~100モル%、エチレングリコールに由来する構成単位20~60モル%、典型的には32~42モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位40~80モル%、典型的には58~68モル%、ジエチレングリコールに由来する構成単位0~10モル%を含むグリコール変性ポリエチレンテレフタレート(PCTG);テレフタル酸に由来する構成単位50~99モル%、イソフタル酸に由来する構成単位1~50モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位90~100モル%を含む酸変性ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート(PCTA);テレフタル酸に由来する構成単位90~100モル%、イソフタル酸に由来する構成単位0~10モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位50~90モル%、2,2,4,4,-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールに由来する構成単位10~50モル%を含む共重合体;及び、テレフタル酸に由来する構成単位60~90モル%、イソフタル酸に由来する構成単位10~40モル%、エチレングリコールに由来する構成単位70~96モル%、ネオペンチルグリコールに由来する構成単位4~30モル%、ジエチレングリコールに由来する構成単位1モル%未満、ビスフェノールAに由来する構成単位1モル%未満を含む酸変性及びグリコール変性ポリエチレンテレフタレート;などの1種又は2種以上の混合物をあげることができる。
【0060】
これらの中で、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度を100~140℃にする観点から、PETG、及びPCTGが好ましい。これらの中で、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度を100~140℃にする観点から、多価カルボン酸に由来する構成単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構成単位90~100モル%を含み、多価オールに由来する構成単位の総和を100モル%として、エチレングリコールに由来する構成単位20~80モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位20~80モル%、及びジエチレングリコールに由来する構成単位0~10モル%を含むグリコール変性ポリエチレンテレフタレートが好ましい。ここでエチレングリコールに由来する構成単位、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位、及びジエチレングリコールに由来する構成単位の和は、通常80モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは99モル%以上、100モル%以下であってよい。
【0061】
上記非晶性又は低結晶性芳香族ポリエステル系樹脂としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0062】
上記非晶性又は低結晶性芳香族ポリエステル系樹脂のガラス転移温度は、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度を100~140℃にする観点から、通常50~140℃、好ましくは60~120℃、より好ましくは70~110℃、更に好ましくは75~105℃であってよい。ガラス転移温度の定義、及び測定方法については上述した。
【0063】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物のポリ炭酸エステルと上記低結晶性又は非結晶性芳香族ポリエステルを用いて、エステル交換体を製造する方法は、特に制限されず、公知の方法を使用することができる。製造に際しては、公知のエステル交換反応触媒、例えば、ナトリウム塩、リチウム塩、及びカリウム塩などのアルカリ金属塩;マグネシウム塩、及びカルシウム塩などのアルカリ土類金属塩;及び、亜鉛化合物、及びマンガン化合物などを用いることができる。上記方法としては、例えば、上記芳香族ジヒドロキシ化合物のポリ炭酸エステルと上記低結晶性又は非結晶性芳香族ポリエステルを含む組成物を;又は、上記芳香族ジヒドロキシ化合物のポリ炭酸エステルと上記低結晶性又は非結晶性芳香族ポリエステルとの和100質量部、及びエステル交換反応触媒0.0001~0.2質量部を含む組成物を;二軸押出機を使用し、ダイ出口樹脂温度200~300℃、好ましくは240~280℃の条件で溶融押出する方法をあげることができる。
【0064】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物のポリ炭酸エステルと上記低結晶性又は非結晶性芳香族ポリエステルとの配合比は、ガラス転移温度を100~140℃にする観点から、両者の和を100質量%として、上記芳香族ジヒドロキシ化合物のポリ炭酸エステルが通常30~90質量%、好ましくは50~85質量%、より好ましくは60~80質量%であってよい。上記低結晶性又は非結晶性芳香族ポリエステルが通常70~10質量%、好ましくは50~15質量%、より好ましくは40~20質量%であってよい。
【0065】
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂としては、ガラス転移温度を100~140℃にする観点から、例えば、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸との重縮合構造に由来する構成単位中のもの、及び芳香族ジヒドロキシ化合物と多価カルボン酸とのエステル重縮合構造に由来する構成単位中のものの両方を含む。以下同じ。)を通常15~80モル%、好ましくは30~70モル%、より好ましくは40~65モル%、更に好ましくは50~60モル%含むもの;芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を通常15~80モル%、好ましくは30~70モル%、より好ましくは40~65モル%、更に好ましくは50~60モル%、テレフタル酸に由来する構成単位(以下、「TPA単位」と略すことがある。)を通常10~42モル%、好ましくは14~35モル%、より好ましくは17~31モル%、更に好ましくは20~28モル%、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位(以下、「CHDM単位」と略すことがある。)を通常3~25モル%、好ましくは4~19モル%、より好ましくは5~17モル%、更に好ましくは6~15モル%、エチレングリコールに由来する構成単位(以下、「EG単位」と略すことがある。)を通常4~30モル%、好ましくは6~25モル%、より好ましくは8~21モル%、更に好ましくは9~20モル%含むもの;芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を通常15~80モル%、好ましくは30~70モル%、より好ましくは40~65モル%、更に好ましくは50~60モル%、TPA単位を通常10~42モル%、好ましくは14~35モル%、より好ましくは17~30モル%、更に好ましくは20~27モル%、CHDM単位を通常5~25モル%、好ましくは7~19モル%、より好ましくは9~17モル%、更に好ましくは11~15モル%、EG単位を通常4~19モル%、好ましくは6~16モル%、より好ましくは8~14モル%、更に好ましくは9~12モル%含むもの;芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を通常15~80モル%、好ましくは30~70モル%、より好ましくは40~65モル%、更に好ましくは50~60モル%、TPA単位を通常10~42モル%、好ましくは14~35モル%、より好ましくは18~31モル%、更に好ましくは21~28モル%、CHDM単位を通常3~14モル%、好ましくは4~11モル%、より好ましくは5~10モル%、更に好ましくは6~9モル%、EG単位を通常7~30モル%、好ましくは10~25モル%、より好ましくは12~21モル%、更に好ましくは15~20モル%含むもの;などをあげることができる。
【0066】
ここで芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位、TPA単位、CHDM単位、及びEG単位の和は、通常80モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、更に好ましくは97モル%以上、100モル%以下であってよい。
【0067】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位は、好ましくはビスフェノールAに由来する構成単位(以下、「BPA単位」と略すことがある。)であってよい。
【0068】
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂中の各構成モノマーに由来する構成単位の含有量は、
1H-NMRや
13C-NMRを使用して求めることができる。
1H-NMRスペクトルは、例えば、試料15mgをテトラクロロエタン‐d
2溶媒0.6mLに溶解し、500MHzの核磁気共鳴装置を使用し、以下の条件で測定することができる。
図3に測定例を示す。
ケミカルシフト基準 テトラクロロエタン:5.91ppm
測定モード シングルパルス
パルス幅 45°(6.72μ秒)
ポイント数 32K
測定範囲 15ppm(-2.5~12.5ppm)
繰り返し時間 15.0秒
積算回数 64回
測定温度 25℃
ウインドウ関数 exponential(BF:0.12Hz)
【0069】
13C-NMRスペクトルは、例えば、試料60mgをテトラクロロエタン‐d2溶媒0.6mLに溶解し、125MHzの核磁気共鳴装置を使用し、以下の条件で測定することができる。
ケミカルシフト基準 装置による自動設定
測定モード シングルパルスプロトンブロードバンドデカップリング
パルス幅 30°(3.70μ秒)
ポイント数 32K
測定範囲 250ppm(-25~225ppm)
繰り返し時間 3.0秒
積算回数 15000回
測定温度 25℃
ウインドウ関数 exponential(BF:1.00Hz)
【0070】
ピークの帰属は、「高分子分析ハンドブック(2008年9月20日初版第1刷、社団法人日本分析化学会高分子分析研究懇談会編、株式会社朝倉書店)」や「独立行政法人物質・材料研究機構材料情報ステーションのNMRデータベース(http://polymer.nims.go.jp/NMR/)」を参考に行い、ピーク面積比から上記芳香族ポリカーボネート系樹脂中の各構成単位の割合を算出することができる。なお1H-NMRや13C-NMRの測定は、株式会社三井化学分析センターなどの分析機関において行うこともできる。
【0071】
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。なお上記芳香族ポリカーボネート系樹脂が2種以上の芳香族ポリカーボネート系樹脂の樹脂混合物である場合は、混合物として各構成モノマーに由来する構成単位の含有量が上述の範囲になるようにすればよい。好ましくは混合物を構成する各樹脂が何れも各構成モノマーに由来する構成単位の含有量が上述の範囲になるようにすればよい。
【0072】
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、コアシェルゴムを含ませることができる。上記コアシェルゴムを、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂を100質量部として、通常0~30質量部、好ましくは0~10質量部の量で用いることにより、耐切削加工性や耐衝撃性をより高めることができる。
【0073】
上記コアシェルゴムとしては、例えば、メタクリル酸エステル・スチレン/ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/ブタジエンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/エチレン・プロピレンゴムグラフト共重合体、アクリロニトリル・スチレン/アクリル酸エステルグラフト共重合体、メタクリル酸エステル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル・スチレン/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、及びメタクリル酸エステル・アクリロニトリル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体などのコアシェルゴムをあげることができる。上記コアシェルゴムとしては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0074】
上記芳香族ポリカーボネート系樹脂には、本発明の目的に反しない限度において、所望により、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂や上記コアシェルゴム以外の熱可塑性樹脂;顔料、無機フィラー、有機フィラー、樹脂フィラー;滑剤、酸化防止剤、耐候性安定剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、及び界面活性剤等の添加剤;などを更に含ませることができる。これらの任意成分の配合量は、通常、上記芳香族ポリカーボネート系樹脂を100質量部としたとき、通常0.01~10質量部程度である。
【0075】
本発明の多層フィルムは、下記式(1‐1)及び(1‐2)を満たす。
(Tβ-Tα1)≦30 ・・・(1‐1)
(Tβ-Tα2)≦30 ・・・(1‐2)
ここで、Tα1は上記第1アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tα2は上記第2アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tβは上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度である。温度の単位は何れも℃である。
【0076】
本明細書においてガラス転移温度は、JIS K7121-1987に従い、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用し、250℃で3分間保持し、10℃/分で20℃まで冷却し、20℃で3分間保持し、10℃/分で250℃まで昇温するプログラムで測定される最後の昇温過程の曲線から算出した中間点ガラス転移温度である。
【0077】
上記(Tβ-Tα1)の値は、反り変形を抑制する観点、及び外観を良好にする観点から、通常30℃以下、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、更に好ましくは10℃以下である。一方、上記(Tβ-Tα1)の値の下限は特に制限されない。上記(Tβ-Tα1)の値は、通常-30℃以上、好ましくは-15℃以上であってよい。
【0078】
同様に、上記(Tβ-Tα2)の値は、反り変形を抑制する観点、及び外観を良好にする観点から、通常30℃以下、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、更に好ましくは10℃以下である。一方、(Tβ-Tα2)の値の下限は特に制限されない。上記(Tβ-Tα2)の値は、通常-30℃以上、好ましくは-15℃以上であってよい。
【0079】
本発明の多層フィルムは、全光線透過率(JIS K7361-1:1997に従い、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH2000(商品名)」を用いて測定。)が、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上であってよい。本発明の多層フィルムは、全光線透過率が85%以上であることにより、画像表示装置部材として好適に用いることができる。全光線透過率は高いほど好ましい。
【0080】
本発明の多層フィルムは、レタデーション(王子計測機器株式会社の平行ニコル回転法による位相差測定装置「KOBRA-WR(商品名)」を用いて測定。)が、通常75nm以下、好ましくは50nm、より好ましくは40nm以下、更に好ましくは30nm以下、更により好ましくは20nm以下、最も好ましくは15nm以下、であってよい。本発明の多層フィルムは、レタデーションが75nm以下であることにより、画像表示装置部材として好適に用いることができる。レタデーションは低いほど好ましい。
【0081】
本発明の多層フィルムは、吸水率(下記実施例の試験(ハ)に従い測定。)が、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.7質量%以下、更に好ましくは0.6質量%以下、最も好ましくは0.5質量%以下であってよい。本発明の多層フィルムは、吸水率が1質量%以下であることにより、画像表示装置部材として好適に用いることができる。吸水率は低いほど好ましい。
【0082】
本発明の多層フィルムは、黄色度指数(JIS K 7105:1981に従い、株式会社島津製作所の色度計「SolidSpec-3700(商品名)」を用いて測定。)が、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、更に好ましくは1以下であってよい。本発明の多層フィルムは、黄色度指数が3以下であることにより、画像表示装置部材として好適に用いることができる。黄色度指数は低いほど好ましい。
【0083】
2.多層フィルムの製造方法:
本発明の多層フィルムの製造方法は、特に制限されず、任意の方法で製造することができる。本発明の多層フィルムの好ましい製造方法としては、例えば、(A)押出機とTダイとを備える共押出装置を使用し、第1アクリル系樹脂層(α1);芳香族ポリカーボネート系樹脂層(β);第2アクリル系樹脂層(α2);が、この順に直接積層された多層フィルムの溶融フィルムを、Tダイから連続的に共押出する工程;(B)回転する又は循環する第1鏡面体と、回転する又は循環する第2鏡面体との間に、上記多層フィルムの溶融フィルムを、上記第1アクリル系樹脂層(α1)が、上記第1鏡面体側となるように供給投入し、押圧する工程;及び、(C)上記工程(B)において押圧された多層フィルムを上記第1鏡面体に抱かせて次の回転する又は循環する第3鏡面体へと送り出す工程;を含む方法をあげることができる。
【0084】
上記工程(A)で使用する上記共押出装置としては、特に制限されず、任意の共押出装置を使用することができる。上記共押出装置としては、例えば、フィードブロック方式、マルチマニホールド方式、及びスタックプレート方式などの共押出装置をあげることができる。
【0085】
上記工程(A)で使用する上記Tダイとしては、特に制限されず、任意のTダイを使用することができる。上記Tダイとしては、例えば、マニホールドダイ、フィッシュテールダイ、及びコートハンガーダイなどをあげることができる。
【0086】
上記Tダイの設定温度は、上記多層フィルムの溶融フィルムを、連続的に共押出する工程を安定的に行う観点から、通常240℃、好ましくは250℃以上であってよい。一方、樹脂の劣化を抑制する観点から、上記Tダイの設定温度は、通常320℃以下、好ましくは300℃以下であってよい。
【0087】
上記工程(A)で使用する上記押出機としては、特に制限されず、任意の押出機を使用することができる。上記押出機としては、例えば、単軸押出機、同方向回転二軸押出機、及び異方向回転二軸押出機などをあげることができる。
【0088】
上記第1アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、及び第2アクリル系樹脂の劣化を抑制するため、押出機内を窒素パージすることは好ましい。
【0089】
上記第1アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、及び第2アクリル系樹脂を製膜に供する前に乾燥することは好ましい。また乾燥機で乾燥されたこれらの樹脂を、乾燥機から押出機に直接輸送し、投入することも好ましい。乾燥機の設定温度は、乾燥される樹脂のガラス転移温度を勘案して適宜決定する。乾燥機の設定温度は、該ガラス転移温度をTg(℃)としたとき、通常(Tg-70)~(Tg-10)℃、好ましくは(Tg-40)~(Tg-10)℃であってよい。更に押出機に真空ベントを、通常はスクリュウ先端の計量ゾーンに相当する位置に、設けることも好ましい。
【0090】
上記第1鏡面体としては、例えば、鏡面ロールや鏡面ベルトなどをあげることができる。上記第2鏡面体としては、例えば、鏡面ロールや鏡面ベルトなどをあげることができる。
【0091】
上記鏡面ロールは、その表面が鏡面加工されたロールであり、金属製、セラミック製、シリコンゴム製などがある。上記鏡面ロールの表面には、腐食や傷付きからの保護を目的としてクロームメッキや鉄‐リン合金メッキ、PVD法やCVD法による硬質カーボン処理などを施すことができる。
【0092】
上記鏡面ベルトは、その表面が鏡面加工された、通常は金属製のシームレスのベルトであり、例えば、一対のベルトローラー相互間に掛け巡らされて、循環するようにされている。上記鏡面ベルトの表面には、腐食や傷付きからの保護を目的としてクロームメッキや鉄-リン合金メッキ、PVD法やCVD法による硬質カーボン処理などを施すことができる。
【0093】
上記鏡面加工は、限定されず、任意の方法で行うことができる。上記鏡面加工は、例えば、微細な砥粒を用いて研磨することにより、上記鏡面体の表面の算術平均粗さ(Ra)を好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下、十点平均粗さ(Rz)を好ましくは500nm以下、より好ましくは250nm以下にする方法をあげることができる。
【0094】
理論に拘束される意図はないが、上記多層フィルムの溶融フィルムは、上記第1鏡面体と上記第2鏡面体とで押圧されることにより、上記第1鏡面体及び上記第2鏡面体の高度に平滑な面状態がフィルムに転写され、ダイスジ等の不良箇所が修正されると考察できる。
【0095】
上記第1鏡面体、及び上記第2鏡面体の表面温度は、下記式(2)~(4)を満たすことが好ましい。
(Tα1-15)≦TR1≦(Tα1+10) ・・・(2)
(Tα2-25)≦TR2<(Tα2+5) ・・・(3)
(Tβ-25)≦TR1 ・・・(4)
ここで、TR1は上記第1鏡面体の表面温度、TR2は上記第2鏡面体の表面温度、Tα1は上記第1アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tα2は上記第2アクリル系樹脂のガラス転移温度、Tβは上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度である。温度の単位は何れも℃である。ガラス転移温度の定義、及び測定方法については上述した。
【0096】
上記第1鏡面体の表面温度は、上記(α1)層との剥離に伴う外観不良(剥離痕)が現れないようにする観点から、通常(Tα1+10)℃以下、好ましくは(Tα1+7)℃以下、更に好ましくは(Tα1+5)℃以下であってよい。一方、Tダイ内のせん断やエアギャップにおける伸張変形により生じた応力を十分に緩和し、反り変形を抑制する観点から、通常(Tα1-15)℃以上、好ましくは(Tα1-10)℃以上、より好ましくは(Tα1-5)℃以上であってよい。またTダイ内のせん断やエアギャップにおける伸張変形により生じた応力を十分に緩和し、反り変形を抑制する観点から、通常(Tβ-25)℃以上、好ましくは(Tβ-20)℃以上、より好ましくは(Tβ-15)℃以上、更に好ましくは(Tβ-10)℃以上であってよい。
【0097】
上記第2鏡面体の表面温度は、上記(α2)層との剥離に伴う外観不良(剥離痕)が現れないようにする観点、及び上記工程(C)を良好に行うことができるようにする観点から、通常(Tα2+5)℃以下、好ましくは(Tα2)℃以下であってよい。一方、Tダイ内のせん断やエアギャップにおける伸張変形により生じた応力を十分に緩和し、反り変形を抑制する観点から、通常(Tα2-25)℃以上、好ましくは(Tα2-15)℃以上、より好ましくは(Tα2-10)℃以上であってよい。
【0098】
更に下記式(5)を満たすことが好ましい。これは上記工程(B)において押圧された多層フィルムを上記第1鏡面体に抱かせて次の回転する又は循環する第3鏡面体へと送り出すためである。TR1をTR2よりも2℃以上高く設定することがより好ましい。
TR2<TR1 ・・・(5)
【0099】
上記工程(B)において押圧された多層フィルムは、上記工程(C)において、上記第1鏡面体に抱かせて次の回転する又は循環する第3鏡面体へと送り出される。
【0100】
上記第3鏡面体の表面温度は、特に制限されないが、反り変形を抑制する観点から、下記式(6)を満たすことが好ましい。
(Tβ-25)≦TR3 ・・・(6)
ここで、TR3は上記第3鏡面体の表面温度である。温度の単位は何れも℃である。
【0101】
上記第3鏡面体の表面温度は、反り変形を抑制する観点から、通常(Tβ-25)℃以上、好ましくは(Tβ-20)℃以上、より好ましくは(Tβ-15)℃以上、更に好ましくは(Tβ-10)℃以上であってよい。一方、上記(α2)層との剥離に伴う外観不良(剥離痕)が現れないようにする観点から、好ましくは(Tα2+5)℃以下、より好ましくは(Tα2)℃以下であってよい。
【0102】
本発明の多層フィルムの好ましい製造方法の一例を、
図4を用いて更に説明する。
図4は本発明の製造方法に使用する装置の一例を示す概念図である。第1アクリル系樹脂及び第2アクリル系樹脂として用いる(上記(α1)層と上記(α2)層の両方の層に用いる)アクリル系樹脂は、製膜に供する前に十分に乾燥した後、乾燥機から両外層用押出機1に直接輸送、投入される。芳香族ポリカーボネート系樹脂は、製膜に供する前に十分に乾燥した後、乾燥機から中間層用押出機2に直接輸送、投入される。投入されたアクリル系樹脂は、両外層用押出機1により両外層(上記(α1)層、及び上記(α2)層)として、投入された芳香族ポリカーボネート系樹脂は中間層用押出機2により中間層(上記(β)層)として、マルチマニホールド方式の2種3層共押出Tダイ3から連続的に共押出される。
【0103】
共押出Tダイ3は、通常240℃、好ましくは250℃以上、かつ通常320℃以下、好ましくは300℃以下に設定されている。両外層用押出機1、及び中間層用押出機2は何れもスクリュウ先端の計量ゾーンにおいて真空ベントされている。また窒素パージされている。
【0104】
共押出Tダイ3から連続的に共押出された第1アクリル系樹脂層(α1);芳香族ポリカーボネート系樹脂層(β);第2アクリル系樹脂層(α2);が、この順に直接積層された多層フィルムの溶融フィルム4は、回転する第1鏡面ロール5と回転する第2鏡面ロール6との間に、上記層(α1)が、第1鏡面ロール5側となるように供給投入され、押圧される。これにより溶融フィルム4には、第1鏡面ロール5及び第2鏡面ロール6の高度に平滑な面状態が転写され、ダイスジ等の不良箇所が修正されると考察できる。
【0105】
第1鏡面ロール5と第2鏡面ロール6は、通常、高度に並行に、かつ水平に配置される。共押出Tダイ3から押出された溶融フィルム4は、通常、略重力方向に搬送され、第1鏡面ロール5と第2鏡面ロール6に、通常、略同時に接する。即ち、第1鏡面ロール5と第2鏡面ロール6の間隙を含む垂直面と溶融フィルム4となす角は、通常2度未満、好ましくは1度以下、より好ましくは0.5度以下、更に好ましくは0.1度以下、最も好ましくは0度であってよい。
【0106】
第1鏡面ロール5及び第2鏡面ロール6としては上述したものを使用することができる。
【0107】
第1鏡面ロール5の表面温度は、通常(Tα+10)℃以下、好ましくは(Tα+7)℃以下、更に好ましくは(Tα+5)℃以下に設定する。一方、通常(Tβ-25)℃以上、好ましくは(Tβ-20)℃以上、より好ましくは(Tβ-15)℃以上、更に好ましくは(Tβ-10)℃以上に設定する。また通常(Tα-15)℃以上、好ましくは(Tα-10)℃以上、より好ましくは(Tα-5)℃以上に設定する。
【0108】
第2鏡面ロール6の表面温度は、通常(Tα+5)℃以下、好ましくは(Tα)℃以下に設定する。一方、通常(Tα-25)℃以上、好ましくは(Tα-15)℃以上、より好ましくは(Tα-10)℃以上に設定する。また第1鏡面ロール5の表面温度よりも低く、好ましくは2℃以上低く設定する。
【0109】
ここで、Tαは第1アクリル系樹脂及び第2アクリル系樹脂として用いるアクリル系樹脂のガラス転移温度、Tβは上記芳香族ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度である。ガラス転移温度の定義、及び測定方法については上述した。
【0110】
第1鏡面ロール5と第2鏡面ロール6により押圧された溶融フィルム4は、第1鏡面ロール5に抱かれて、その後第1鏡面ロールからリリースされ、リリースされた多層フィルム7は次の回転する第3鏡面ロール8へと送り出される。
【0111】
第3鏡面ロールの表面温度は、通常(Tβ-25)℃以上、好ましくは(Tβ-20)℃以上、より好ましくは(Tβ-15)℃以上、更に好ましくは(Tβ-10)℃以上に設定する。一方、好ましくは(Tα+5)℃以下、より好ましくは(Tα)℃以下に設定する。
【0112】
3.ハードコート積層フィルム:
本発明のハードコート積層フィルムは、本発明の多層フィルムの少なくとも片面の上に、好ましくは反り変形を抑制する観点から両方の面の上に、ハードコートを有するハードコート積層フィルムである。
【0113】
本発明のハードコート積層フィルムの有するハードコートは特に限定されない。好ましいハードコートとしては、例えば、特許第5870222号、特許第5963376号、特願2016-006936、及び特願2016-029588などに記載された技術を用いて形成されるハードコートをあげることができる。
【0114】
4.物品:
本発明の多層フィルムは、上述のように好ましい特性を有することから、物品又は物品の部材として好適に用いることができる。本発明の物品は、本発明の多層フィルムやハードコート積層フィルムを含む物品(物品の部材を含む。)である。上記物品(物品の部材を含む。)としては、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、及びエレクトロルミネセンスディスプレイなどの画像表示装置、及びこれらのディスプレイ面板、透明導電性基板、及び筐体などの部材;テレビ、パソコン、タブレット型情報機器、スマートフォン、及びこれらの筐体やディスプレイ面板などの部材;更には冷蔵庫、洗濯機、食器棚、衣装棚、及びこれらを構成するパネル;建築物の窓や扉など;車両、車両の窓、風防、ルーフウインドウ、及びインストルメントパネルなど;電子看板、及びこれらの保護板;ショーウインドウ;太陽電池、及びその筐体や前面板などの部材;などをあげることができる。
【0115】
本発明の物品を生産するに際し、得られる物品に高い意匠性を付与するため、本発明の多層フィルムやハードコート積層フィルムの正面(物品が実使用に供される際に、通常視認される側となる面。以下、同じ。)とは反対側の面の上に化粧シートを積層してもよい。このような実施態様は、本発明の多層フィルムやハードコート積層フィルムを、冷蔵庫、洗濯機、食器棚、及び衣装棚などの物品の、本体正面の開口を開閉する扉体の正面を構成するパネルや、本体平面の開口を開閉する蓋体の平面を構成するパネルとして用いる場合に、特に有効である。上記化粧シートとしては、制限されず、任意の化粧シートを用いることができる。上記化粧シートとしては、例えば、任意の着色樹脂シートを用いることができる。
【0116】
上記着色樹脂シートとしては、例えば、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステルなどのポリエステル系樹脂;アクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリ(メタ)アクリルイミド系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリメチルペンテンなどのポリオレフィン系樹脂;セロファン、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、及びアセチルセルロースブチレートなどのセルロース系樹脂;ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS樹脂)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体、スチレン・エチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体、及びスチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体などのスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル系樹脂;ポリ塩化ビニリデン系樹脂;ポリフッ化ビニリデンなどの含弗素系樹脂;その他、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリエーテルエーテルケトン、ナイロン、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン;などの着色樹脂シートをあげることができる。これらのシートは、無延伸シート、一軸延伸シート、二軸延伸シートを包含する。またこれらの1種以上を2層以上積層した積層シートを包含する。
【0117】
上記着色樹脂シートの厚みは、特に制限されないが、通常20μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは80μm以上であってよい。また物品の薄肉化の要求に応える観点から、通常1500μm以下、好ましくは800μm以下、より好ましくは400μm以下であってよい。
【0118】
上記着色樹脂シートの正面側の面の上には、所望により、意匠感を高めるため、印刷層を設けてもよい。上記印刷層は、高い意匠性を付与するために設けるものであり、任意の模様を任意のインキと任意の印刷機を使用して印刷することにより形成することができる。
【0119】
印刷は、直接又はアンカーコートを介して、本発明の多層フィルムやハードコート積層フィルムの正面とは反対側の面の上に、又は/及び上記着色樹脂シートの正面側の面の上に、全面的に又は部分的に、施すことができる。模様としては、ヘアライン等の金属調模様、木目模様、大理石等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、寄木模様、及びパッチワークなどをあげることができる。印刷インキとしては、バインダーに顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、及び硬化剤等を適宜混合したものを使用することができる。上記バインダーとしては、例えば、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル・アクリル系共重合体樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、及び酢酸セルロース系樹脂などの樹脂、及びこれらの樹脂組成物を使用することができる。また金属調の意匠を施すため、アルミニウム、錫、チタン、インジウム及びこれらの酸化物などを、直接又はアンカーコートを介して、本発明の多層フィルムやハードコート積層フィルムの正面とは反対側の面の上に、又は/及び上記着色樹脂シートの正面側の面の上に、全面的に又は部分的に、公知の方法により蒸着してもよい。
【0120】
本発明の多層フィルムやハードコート積層フィルムと上記化粧シートとの積層は、特に制限されず、任意の方法で行うことができる。上記方法としては、例えば、公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法;及び公知の粘着剤からなる層を形成した後、両者を重ね合せ押圧する方法;などをあげることができる。
【実施例】
【0121】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0122】
測定方法
(イ)全光線透過率:
JIS K 7361-1:1997に従い、日本電色工業株式会社の濁度計「NDH2000(商品名)」を用いて測定した。
【0123】
(ロ)レタデーション:
王子計測機器株式会社の平行ニコル回転法による位相差測定装置「KOBRA-WR(商品名)」を用いて測定した。
【0124】
(ハ)吸水率(吸水した水の質量百分率):
JIS K7209:2009にA法に従い、多層フィルムから採取した正方形(マシン方向50mm×横方向50mm)の試験片を用い、浸漬時間24時間の条件で測定した。
【0125】
(ニ)反り変形:
フィルムの横方向の中央部、左端部、右端部の3箇所について、フィルムのマシン方向に10m毎に5箇所の計15箇所から、マシン方向15cm×横方向7cmのサンプルを採取し、温度85℃、相対湿度85%で16時処理した後、サンプルを凸反りとなっている面を下向きにして水平面に置いた際の4隅の反り変形による浮き上がり高さを測定した。全15サンプル各4カ所のうち最も悪い(反り変形による浮き上がり高さが最も大きい)ものを反り変形による浮き上がりの高さの値とした。下記の基準により判定した。反り変形による浮き上がりの高さは、好ましくは15mm以下、より好ましくは8mm以下、更に好ましくは5mm以下、最も好ましくは3mm以下であってよい。反り変形は小さい程好ましい。
【0126】
(ホ)黄色度指数;
JIS K 7105:1981に従い、島津製作所社製の色度計「SolidSpec-3700(商品名)」を用いて測定した。
【0127】
(ヘ)表面外観:
フィルム表面(両方の面)を、蛍光灯の光の入射角をいろいろと変えて当てながら目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:表面にうねりや傷がない。間近に光を透かし見ても、曇感がない。
○:間近に見ると、表面にうねりや傷を僅かに認める。間近に光を透かし見ると、僅かな曇感がある。
△:表面にうねりや傷を認めることができる。また曇感がある。
×:表面にうねりや傷を多数認めることができる。また明らかな曇感がある。
【0128】
使用した原材料
(α)アクリル系樹脂:
(α‐1)重合性モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、メチルメタクリレートに由来する構成単位を76.8モル%の量で、及びビニルシクロヘキサンに由来する構成単位を23.2モル%の量で含むアクリル系樹脂。なお各構成単位の含有量は1H-NMRを使用して測定した。ガラス転移温度117℃。
(α‐2)エボニック社のポリ(メタ)アクリルイミド「PLEXIMID TT50(商品名)」。ガラス転移温度150℃。
【0129】
(β)芳香族ポリカーボネート系樹脂:
(β‐1)下記(β1‐1)71質量部と下記(β2‐1)29質量部との組成物を、二軸押出機を使用し、ダイ出口樹脂温度275℃の条件で溶融混練して得たエステル交換体。1H-NMRを使用して測定した各構成単位の含有量は、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、BPA単位53.4モル%、TPA単位23.5モル%、CHDM単位12.8モル%、及びEG単位10.3モル%。ガラス転移温度122℃。
【0130】
(β‐2)下記(β1‐1)60質量部と下記(β2‐2)40質量部との組成物を、二軸押出機を使用し、ダイ出口樹脂温度275℃の条件で溶融混練して得たエステル交換体。1H-NMRを使用して測定した各構成単位の含有量は、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、BPA単位39.1モル%、TPA単位30.4モル%、CHDM単位9.5モル%、EG単位19.7モル%、及びジエチレングリコールに由来する構成単位1.3モル%。ガラス転移温度117℃。
【0131】
(β‐3)下記(β1‐1)80質量部と下記(β2‐2)20質量部との組成物を、二軸押出機を使用し、ダイ出口樹脂温度275℃の条件で溶融混練して得たエステル交換体。1H-NMRを使用して測定した各構成単位の含有量は、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、BPA単位63.1モル%、TPA単位18.4モル%、CHDM単位5.7モル%、EG単位11.9モル%、及びジエチレングリコールに由来する構成単位0.8モル%。ガラス転移温度131℃。
【0132】
(β‐4)下記(β1‐1)90質量部と下記(β2‐1)10質量部との組成物を、二軸押出機を使用し、ダイ出口樹脂温度275℃の条件で溶融混練して得たエステル交換体。1H-NMRを使用して測定した各構成単位の含有量は、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、BPA単位80.8モル%、TPA単位9.6モル%、CHDM単位5.3モル%、及びEG単位4.3モル%。ガラス転移温度143℃。
【0133】
(β‐5)下記(β1‐1)70質量部と下記(β2‐3)30質量部との組成物を、二軸押出機を使用し、ダイ出口樹脂温度275℃の条件で溶融混練して得たエステル交換体。1H-NMRを使用して測定した各構成単位の含有量は、全構成モノマーに由来する構成単位の総和を100モル%として、BPA単位55.8モル%、TPA単位22.1モル%、CHDM単位17.1モル%、及び2,2,4,4,‐テトラメチル‐1,3‐シクロブタンジオールに由来する構成単位5.0モル%。ガラス転移温度142℃。
【0134】
(β1)ビスフェノールAのポリ炭酸エステル:
(β1‐1)住化スタイロンポリカーボネート株式会社の「カリバー301-4(商品名)」。ガラス転移温度151℃。
【0135】
(β2)非晶性又は低結晶性芳香族ポリエステル系樹脂:
(β2‐1)多価カルボン酸に由来する構成単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構成単位100.0モル%、多価オールに由来する構成単位の総和を100モル%として、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位55.2モル%、エチレングリコールに由来する構成単位44.8モル%からなるグリコール変性ポリエチレンテレフタレート。ガラス転移温度85℃、融解熱量9J/g。
(β2‐2)多価カルボン酸に由来する構成単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構成単位100.0モル%、多価オールに由来する構成単位の総和を100モル%として、1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位31.1モル%、エチレングリコールに由来する構成単位64.7モル%、ジエチレングリコールに由来する構成単位4.2モル%からなるグリコール変性ポリエチレンテレフタレート。ガラス転移温度81℃、融解熱量0J/g(DSCセカンド融解曲線に明瞭な融解ピークなし)
(β2‐3)多価カルボン酸に由来する構成単位の総和を100モル%として、テレフタル酸に由来する構成単位100.0モル%、多価オールに由来する構成単位の総和を100モル%として、1,4‐シクロヘキサンジメタノールに由来する構成単位77.4モル%、及び2,2,4,4,‐テトラメチル‐1,3‐シクロブタンジオールに由来する構成単位22.6モル%からなるポリエステル系共重合体。ガラス転移温度110℃、融解熱量0J/g(DSCセカンド融解曲線に明瞭な融解ピークなし)。
【0136】
例1
(A)
図4に概念図を示す構成の共押出装置を使用した。両外層用押出機1により上記(α-1)を両外層((α1)層及び(α2)層)として、中間層用押出機2により上記(β‐1)を中間層として、(α1)層;(β)層;(α2)層;が、この順に直接積層された多層フィルムの溶融フィルム4を、マルチマニホールド方式の2種3層共押出Tダイ3から連続的に共押出した。
(B)回転する第1鏡面ロール5と回転する第2鏡面ロール6との間に、溶融フィルム4を、(α1)層が、第1鏡面ロール5側となるように供給投入し、押圧した。
(C)押圧された多層フィルムは第1鏡面ロール5に抱かせて、次の回転する第3鏡面ロール8へと送り出し、全厚み250μm、(α1)層の層厚み60μm、(β)層の層厚み130μm、(α2)層の層厚み60μmの多層フィルムを得た。このとき共押出Tダイの温度は270℃、第1鏡面ロールの表面温度は120℃、第2鏡面ロールの表面温度は115℃、及び第3鏡面ロールの表面温度は120℃に設定した。また引取速度6.5m/分であった。
上記試験(イ)~(へ)を行った。結果を表1に示す。
【0137】
例2
上記(β‐1)の替わりに上記(β‐2)を用いたこと以外は、例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0138】
例3
上記(β‐1)の替わりに上記(β‐3)を用いたこと以外は、例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0139】
例4
上記(β‐1)の替わりに上記(β‐4)を用いたこと以外は、例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0140】
例4-2
上記(β‐1)の替わりに上記(β1‐1)を用いたこと以外は、例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0141】
例4-3
上記(β‐1)の替わりに上記(β‐5)を用いたこと以外は、例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0142】
例5
上記(α‐1)の替わりに上記(α‐2)を、上記(β‐1)の替わりに上記(β‐4)を用い、第1鏡面ロールの表面温度は145℃、第2鏡面ロールの表面温度は140℃、及び第3鏡面ロールの表面温度は140℃に設定したこと以外は、例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0143】
例6~10
第1鏡面ロール、第2鏡面ロール、及び第3鏡面ロールの表面温度を表1に示すように変更したこと以外は、例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0144】
【0145】
本発明の多層フィルムは、湿熱処理後の反り変形が抑制されている。本発明の多層フィルムであって、好ましい方法により製造された多層フィルムは、湿熱処理後の反り変形が抑制され、吸水率が低く、透明性、色調、及び外観に優れ、レタデーションが小さい。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【
図1】実施例で用いたアクリル系樹脂(α‐1)の
1H-NMRスペクトルである。
【
図2】実施例で用いたアクリル系樹脂(α‐1)の
13C-NMRスペクトルである。
【
図3】実施例で用いた芳香族ポリカーボネート系樹脂(β‐1)の
1H-NMRスペクトルである。
【符号の説明】
【0147】
1:両外層用押出機
2:中間層用押出機
3:マルチマニホールド形式の2種3層共押出Tダイ
4:Tダイが押出された多層フィルムの溶融フィルム
5:第1鏡面ロール
6:第2鏡面ロール
7:第1鏡面ロールから第3鏡面体へと送り出される多層フィルム
8:第3鏡面ロール