(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】アルコール飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/02 20190101AFI20221129BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20221129BHJP
C12G 3/08 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C12G3/02
C12G3/04
C12G3/08
(21)【出願番号】P 2018124842
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大橋 巧弥
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 雅子
(72)【発明者】
【氏名】岡田 啓介
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/005593(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/139181(WO,A1)
【文献】特開2011-206047(JP,A)
【文献】特開2001-211872(JP,A)
【文献】国際公開第2006/022250(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/001823(WO,A1)
【文献】山本晃司ほか,高アミノ酸米酢の開発,愛知県産業技術研究所 研究報告2005,2005年,pp.158-159
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C
C12G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有し、炭素源を含有する発酵前液を、
ビール酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する、アルコール飲料の製造方法。
【請求項2】
前記炭素源は、グルコース、フルクトース、スクロース及びマルトースから成る群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項3】
前記発酵前液は、小麦、麦芽、トウモロシ、馬鈴薯、米、大豆、酵母エキス、タンパク質の酵素分解物に含まれるアミノ酸を含有する、請求項1又は2に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項4】
発酵前液は2~20%(w/v)の炭素源を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
色素を含有させる工程を包含しない、請求項1~4のいずれか一項に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項6】
前記アルコール飲料は3.0EBC以下の色度を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項7】
前記アルコール飲料は4~6%(v/v)のアルコール濃度を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のアルコール飲料の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のアルコール飲料と蒸留酒とを混合する工程を包含する、アルコール飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルコール飲料の製造方法に関し、特に醸造酒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料とはエチルアルコールを実質的な量で含有する飲料をいう。日本の酒税法では、体積アルコール度数1%以上の飲料を酒類としている。この酒類はアルコール飲料の一例である。本願明細書において、文言「アルコール」はエチルアルコールを意味する。
【0003】
従来のアルコール飲料は、その製法から大きく醸造酒、蒸留酒、調合酒に分類される。醸造酒はビール・ワイン・日本酒などであり、比較的アルコールが低い濃度でも深い味わいや飲み応えがある。
【0004】
醸造酒の香味を決定する重要な要素に、発酵中に生成する香気成分がある。香気成分は酵母の代謝産物であり、その種類及び生成量は発酵前液がどのように発酵するかに依存して決定される。発酵前液の発酵状態は、酵母の種類、酵母に与える栄養の種類及び量、発酵温度、発酵時間、酸素量等の発酵条件に依存して変化する。尚、香味とは香りと一体となった味を意味し、香気とは香りを意味する。
【0005】
醸造酒の一種であるビールは麦芽、ホップ及び水などを原料として、ビール酵母を使用してこれらを発酵させて得られる飲料である。ビールは、麦芽香気、発酵香気及び酸味、ホップ香気及び苦味、適度なアルコール刺激を有し、嗜好性に優れた飲料である。しかしながら、ビールの香気を好まない消費者も存在し、ビールの中でも香気が少ないものに対する需要が増大する傾向にある。
【0006】
従来、ビールの香味を調節する方法として、発酵工程で酵母が資化するアミノ酸量を増大させたり、発酵時に一定時間通気を行うことにより、発酵を増進させる方法が知られている。
【0007】
特許文献1には、ビールや雑酒のような発酵アルコール飲料の製造方法において、原料の一部に該小麦グルテンや大豆タンパクのようなビール酵母高資化性アミノ酸高含有蛋白原料の分解物又はその調製物を用いることにより、ビール酵母による発酵を促進して、発酵アルコール飲料の味覚・風味を増進させることが記載されている。
【0008】
特許文献2には、とうもろこしタンパク分解物が分枝アミノ酸の1つであるロイシンを麦芽などに比べ豊富に含むこと、および、これを発酵液のアミノ酸源として添加し酵母発酵した場合、飲料中の酢酸イソアミル含量は非常に高くなり、麦芽を全くまたは少量しか原料に使用しなくても発酵飲料にビール様の風味を与えうることが記載されている。
【0009】
特許文献3には、麦汁に酵母を添加して発酵させる発酵麦芽飲料の製造において、発酵タンクへ酵母を添加した後の発酵時に、一定時間通気を行うことにより、発酵を促進し、尚且つ香味バランスのとれた優れた香味の発酵麦芽飲料を製造することが記載されている。
【0010】
アミノ酸は酵母によって代謝されることにより高級アルコール又はエステル等の香気成分に変化し、ビールに発酵香を付与する成分である。アミノ酸は酵母が増殖するために欠かせない栄養素であり、不足すると酵母の代謝機能に異常が生じ、発酵不順臭と呼ばれる不快な硫黄臭が発生しやすくなる。非特許文献1第233頁には、麦汁中のα-アミノ態窒素の必要量が20mg/リットル以上であることが記載されている。
【0011】
仮に、被糖化原料として使用する麦芽量を減らす等して麦汁中のアミノ酸量が減少した場合には、そのまま発酵を行うと、麦芽に由来する旨味、コク感が損なわれ、しかも発酵が充分に進行せず、発酵不順臭が発生する。
【0012】
そのため、醸造法を使用してアルコール飲料を製造する場合、発酵不順臭を発生させることなく、発酵香気を抑制することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2006-158268号公報
【文献】特開2012-105673号公報
【文献】特開2003-102458号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】宮地秀夫著『ビール醸造技術』、株式会社食品産業新聞社、1999年12月28日初版発行、第231~234頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、醸造由来の深い味わいや飲み応えを有し、発酵香気が抑制され、発酵不純臭を有しないアルコール飲料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、3.0mg/100ml以下のアミノ態窒素の濃度を有し、炭素源を含有する発酵前液を、酵母を用いてアルコール発酵させて発酵液を得る工程を包含する、アルコール飲料の製造方法を提供する。
【0017】
ある一形態においては、前記炭素源は、グルコース、フルクトース、スクロース及びマルトースから成る群から選択される少なくとも一種である。
【0018】
ある一形態においては、前記アミノ態窒素の濃度は、2.0mg/100ml未満である。
【0019】
ある一形態においては、発酵前液は2~20%(w/v)の炭素源を含有する。
【0020】
ある一形態においては、前記アルコール飲料の製造方法は、色素を含有させる工程を包含しない。
【0021】
ある一形態においては、前記アルコール飲料は1.0EBC以下の色度を有する。
【0022】
ある一形態においては、前記アルコール飲料は4~6%(v/v)のアルコール濃度を有する。
【0023】
また、本発明は、上記いずれかのアルコール飲料と蒸留酒とを混合する工程を包含する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の方法によれば、醸造由来の深い味わいや飲み応えを有し、発酵香気が抑制され、硫黄臭等の不快な香気を有しないアルコール飲料を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[炭素源]
本発明の方法で使用する発酵前液は炭素源を含有する。本明細書において炭素源とは、アルコール発酵を行う際に、酵母が摂取してその栄養にする炭水化物をいう。炭素源は、一般に、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース及びマルトトリオース等の単糖類、二糖類及び三糖類である。好ましい炭素源は、グルコース、マルトース及びスクロースである。より好ましい炭素源はスクロースである。使用する炭素源の種類は単一でも複数でもよい。
【0026】
発酵前液は、炭素源の他にも炭水化物を含有してよい。発酵前液が含有してよい炭水化物としては、例えば、4糖類以上の多糖類、オリゴ糖、デンプン分解物、及び食物繊維等が挙げられる。これらの炭水化物はアルコール発酵を行う際に酵母に摂取されず、アルコール発酵後にも発酵液中に残存し、得られるアルコール飲料のボディ感又は飲みごたえ感を増強する。
【0027】
発酵前液に含まれる炭素源の量は、得られるアルコール飲料のアルコール濃度を考慮して適宜決定される。本願発明のアルコール飲料は、アルコール濃度が1~10%(v/v)である。かかる場合は、発酵前液に含まれる炭素源の量は、2~20%(w/v)、好ましくは4~16%(w/v)であり、より好ましくは8~12%(w/v)である。
【0028】
[アミノ態窒素]
本発明の方法で使用する発酵前液は、アミノ態窒素の濃度が3.0mg/100ml以下に制限される。窒素源がほぼ存在しない状態にて発酵させることで、硫黄臭等の不快な香気が抑制され、軽く爽やかな香気になる。発酵前液中のアミノ態窒素の濃度が3.0~10mg/100mlの場合、不快な硫黄臭が発生しやすくなる。発酵前液に含まれるアミノ態窒素の量は、好ましくは2.0mg/100ml未満であり、より好ましくは1.0mg/100ml以下である。発酵前液はアミノ態窒素を含有しなくてもよい。
【0029】
発酵前液に使用しうるアミノ酸は、具体的には、小麦、麦芽、トウモロシ、馬鈴薯、米、大豆等のデンプン質原料に含まれるもの、酵母エキス含まれるもの、タンパク質の酵素分解物に含まれるもの等が挙げられる。
【0030】
[アルコール飲料の製造]
本発明におけるアルコール飲料の製造は、上記条件を充足する発酵前液を使用すること以外は、一般的なビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行われる。
【0031】
発酵前液の原料としては、例えば、水溶性炭水化物の水溶液を使用する。水溶性炭水化物の具体例には、糖類、デンプン分解物、及び食物繊維等が挙げられる。香味を付与又は改善することを目的として、アミノ酸及びタンパク質を実質的に含有しないスパイス類、ハーブ類、及び果物等も原料に使用してよい。
【0032】
飲用水に上記水溶性炭水化物を溶解し、要すれば、アミノ酸含有原料を添加する。その際に、炭素源及びアミノ態窒素の濃度が上記条件を充足するように、使用する原料の種類及び量を調節する。
【0033】
得られた水溶液は、ビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って、煮沸する。例えば、水溶液を煮沸釜に移し、ホップを加えて煮沸する。ホップは、煮沸開始から煮沸終了前であればどの段階で混合してもよい。煮沸した水溶液を、ワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や不溶物等を除去した後、プレートクーラーにより適切な発酵温度まで冷却する。上記煮沸の操作により、発酵前液が得られる。
【0034】
発酵前液は、次いで、発酵させる。発酵の操作は常法に従って行えばよい。例えば、冷却した糖化液に酵母を接種して、発酵タンクに移し、発酵を行う。発酵前液に摂取する酵母の種類は目的とする香味を考慮して選択する。発酵に使用する酵母は、好ましくはビール酵母であり、より好ましくは下面発酵ビール酵母である。
【0035】
発酵前液に接種する酵母の量は発酵条件に依存して変化するが、発酵前液1ml当たり5×106~50×106個、好ましくは10×106~45×106個、より好ましくは15×106~40×106個の範囲から選択される。
【0036】
発酵温度は発酵条件に依存して変化するが、0~25℃、好ましくは5~20℃、より好ましくは10~15℃の範囲から選択される。得られるアルコール飲料の香気は発酵温度が高いほど増加する。発酵温度が25℃を越えると、使用する酵母の種類に依存して発酵が正常に進行しない場合がある。
【0037】
発酵期間は発酵条件に依存して変化するが、1~20日、好ましくは2~10日、より好ましくは3~6日の範囲から選択される。
【0038】
さらに、熟成工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させる。次いで濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより酵母等を除去して、本発明のアルコール飲料が得られる。
【0039】
本発明のアルコール飲料には、更に必要に応じて、甘味料、酸味料、ビタミン類、アミノ酸、水溶性食物繊維、香料、安定化剤、乳化剤及び消泡剤等の、アルコール飲料の分野で通常用いられている添加剤を用いてもよい。但し、これらの添加剤は本発明のアルコール飲料の抑制された香味、色度が低い外観に影響を与えないことが好ましい。
【0040】
従来、ビールテイスト飲料には、ビールの外観を再現する目的で、色素が使用される。ビールテイスト飲料に使用される色素には、カラメル色素、ベニバナ色素、くちなし色素、こうりゃん色素、コチニール色素、ニンジン色素、パブリカ色素、赤キャベツ色素、ブドウ色素、紫トウモロコシ色素、エルダーベリー色素、ビート色素、ベニコウジ色素、ウコン色素、等の天然色素又は食用赤色102号、食用赤色104号、橙色201号、食用黄色5号、黄色201号などが挙げられる。色素は発酵前又は発酵後の液と混合される。
【0041】
本発明のアルコール飲料には、色度が低い外観に影響を与えない目的から、色素は使用しないことが好ましい。
【0042】
本発明のアルコール飲料は、1~10%(v/v)、好ましくは2~8%(v/v)、より好ましくは4~6%(v/v)のアルコール濃度を有する。
【0043】
発酵前液に含まれるアミノ体窒素は酵母によって資化されるため、発酵液中のアミノ体窒素濃度が発酵前液中のアミノ体窒素濃度を上回ることはない。アミノ態窒素濃度は、例えば、ニンヒドリン法(ビール酒造組合:ビール分析法、8.18(1990))により測定することができる。
【0044】
また、本発明のアルコール飲料は3.0EBC以下、好ましくは2.0EBC以下、より好ましくは1.0EBC以下の色度を有する。色度は、EBC(European Brewery Convention)のAnalytica-EBC標準法、又はこれに準じた方法により測定できる。EBCとは、ビールの分析での色度の単位で、ビールの色の濃淡を数値(EBC色度の9つのガラスディスクを持ったコンパレーターにより目視で測定する、若しくは波長430nmでの吸光度を基に算出する。)であらわしたものである。
【0045】
本発明のアルコール飲料は、不快な香りを出さずに発酵香気が抑制され、醸造由来の深い味わいや飲み応えを有している。しかし、醸造由来の深い味わいや飲み応えは、飲みやすさの側面からはマイナス要因にもなる。一方で、例えば、蒸留酒は原料や工程由来の香りのみを有する飲料の為、飲みやすくはあるが飲み応えに劣るものである。
【0046】
本発明のアルコール飲料は、蒸留酒と混合することで、醸造由来の飲み応えを有しながらも後半の味感が軽く、飲みやすく、これまでの酒類に存在しなかった香味を実現することができる。
【0047】
本発明のアルコール飲料と混合する蒸留酒としては、アルコールを含むものであれば特に限定されるものではなく、例えば、原料用アルコールであってもよく、スピリッツ、ウイスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等の蒸留酒であってもよい。本発明に用いられる蒸留酒としては、本発明の飲料の呈味性に対してあまり影響を与えることなくアルコール濃度を高められることから、原料用アルコールや、ウオッカ等の特徴的な香味が少ない蒸留酒が好ましく、原料用アルコールがより好ましい。
【0048】
本発明のアルコール飲料と蒸留酒との混合割合は、目的とする香味を考慮して適宜調節すればよいが、例えば、アルコール濃度を等しく調整した状態の体積比で、1/9~9/1、好ましくは2/8~8/2、より好ましくは4/6~6/4である。
【実施例】
【0049】
<実施例1>
飲用水にショ糖及び酵母エキスを添加することにより、12%(w/w)のエキス濃度を有し、0.1、3.0、5.2、7.4及び15.5mg/100mlのアミノ態窒素濃度をそれぞれ有する5種類の糖液を作製した。
【0050】
得られた糖液に所定量のホップを添加した後、煮沸した。次いで、糖液を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約8℃に冷却した。200L容の発酵槽に糖液を添加し、30×106個/mlになるよう下面発酵ビール酵母を接種し、10℃で7日間発酵させた。ショ糖及びホップの量、及び発酵条件を調節することで、得られた5種類のアルコール飲料1~5は全て20B.U.の苦味価及び5%(v/v)のアルコール濃度を有していた。
【0051】
ニンヒドリン法(ビール酒造組合:ビール分析法、8.18(1990))により、アルコール飲料1のアミノ態窒素濃度を測定した。結果は0.1mg/100mlであった。
【0052】
EBC(European Brewery Convention)のAnalytica-EBC標準法により、アルコール飲料1の色度を測定した。結果は0.6EBCであった。
【0053】
また、発酵温度を15℃に変更すること以外は上記と同様にしてアルコール飲料を製造した。得られた5種類のアルコール飲料6~10は全て20B.U.の苦味価及び5%(v/v)のアルコール濃度を有していた。
【0054】
得られた各アルコール飲料の香気に関し、よく訓練されたビール専門パネリスト8名により硫黄臭、及び香気の具体的な官能を評価した。硫黄臭の評価は、感じない場合の点数を1とし、液中の硫化水素濃度30ppbの場合の点数を5として5段階に採点し、パネリスト全員の採点の平均値を採用した。香気の具体的な官能はパネリストがコメントを述べた。結果を表1及び表2に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
アルコール飲料1、2、6及び7は、0.1mg/100ml及び3mg/100mlのアミノ態窒素濃度を有する発酵前液を使用して醸造されたアルコール飲料である。これらは、軽快なフルーティーな香気を示し、硫黄臭を示さなかった。
【0058】
アルコール飲料3、4、8及び9は、5.2mg/100ml及び7.5mg/100mlのアミノ態窒素濃度を有する発酵前液を使用して醸造されたアルコール飲料である。これらは、硫黄臭を示した。
【0059】
アルコール飲料5及び10は、15.5mg/100mlのアミノ態窒素濃度を有する発酵前液を使用して醸造されたアルコール飲料である。これらは、吟醸香、酵母臭等の発酵香を示した。
【0060】
<実施例2>
原料用アルコールを飲用水で希釈してアルコールの5%(v/v)水溶液を調製した。この5%(v/v)アルコール水溶液と実施例1で製造したアルコール飲料1(アルコール度数5%(v/v))とを、所定の体積割合で混合して、混合割合を変化させた混合酒を製造した。
【0061】
[表3]
アルコール飲料1とアルコール水溶液との混合割合
【0062】
得られた各アルコール飲料の香味に関し、よく訓練されたビール専門パネリスト3名により複雑味、飲み応え、飲みやすさ、及び全体バランスを評価し、採点した。複雑味とは、醸造由来の複雑で深い味わいを指す。各評価項目の採点基準は次の通りである。
【0063】
(複雑味)
5:大変強い
4:強い
3:ある程度強い
2:やや弱い
1:弱い
【0064】
(飲み応え)
5:大変強い
4:強い
3:ある程度強い
2:やや弱い
1:弱い
【0065】
(飲みやすさ)
5:大変飲みやすい
4:飲みやすい
3:ある程度強い
2:やや飲みにくい
1:飲みにくい
【0066】
(全体のバランス)
5:大変良い
4:良い
3:どちらでもない
2:やや悪い
1:悪い
【0067】
パネリスト全員の採点の平均値を評価値として採用した。結果を表4に示す。
【0068】
【0069】
表4を参照して、アルコール飲料Aは複雑味及び飲み応えに優れるが、飲みやすさに劣る。5%(v/v)アルコール水溶液Eは飲みやすさに優れるが、複雑味及び飲み応えが不足する。アルコール飲料Aと5%(v/v)アルコール水溶液Eとを、20/80~80/20の範囲の割合で混合すすることで、アルコール飲料の複雑味、飲み応え及び飲みやすさという香味のバランスをとることができた。
【0070】
<実施例3>
飲用水にショ糖及び酵母エキスを添加することにより、12%(w/w)のエキス濃度を有し、0.1mg/100mlのアミノ態窒素濃度を有する糖液を作製した。麦汁ろ過槽を用いて得られた糖液を濾過した。濾過した糖液に所定量のホップを添加した後、煮沸した。次いで、糖液を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約7℃に冷却した。2L容の発酵槽に糖液を添加し、20×106個/mlになるよう下面発酵酵母を接種し、10℃で7日間発酵させた。
【0071】
上記工程においては、ショ糖及びホップの量、及び発酵条件を調節することで、20B.U.の苦味価及び2、4、6及び8%(v/v)のアルコール濃度を有する4種類のアルコール飲料を製造した。
【0072】
原料用アルコールを飲用水で希釈してアルコールの2、4、6及び8%(v/v)水溶液を調製した。これらのアルコール水溶液と製造した同じアルコール濃度を有するアルコール飲料とを、所定の体積割合で混合して、アルコール濃度及び混合割合を変化させた混合酒を製造した。
【0073】
【0074】
得られた各アルコール飲料の香味に関し、よく訓練されたビール専門パネリスト4名により飲み応え、飲みやすさ、及び複雑味を評価し、採点した。各評価項目の採点基準は上記の通りである。パネリスト全員の採点の平均値を評価値として採用した。結果を表6に示す。
【0075】
【0076】
表6を参照して、本発明のアルコール飲料(醸造物)の割合が20~80%、且つアルコール濃度が4~6%(v/v)の混合酒において、飲み応え、飲みやすさ、香味の複雑性という3項目のバランスが良く、且つ平均点が高い結果が得られた。