(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】シリコン・炭素複合粉末
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20221129BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221129BHJP
H01M 4/583 20100101ALI20221129BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20221129BHJP
C01B 32/00 20170101ALI20221129BHJP
C01B 33/029 20060101ALI20221129BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20221129BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20221129BHJP
C23C 16/24 20060101ALI20221129BHJP
C23C 16/26 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/583
H01M10/0525
C01B32/00
C01B33/029
C01B33/02 Z
C01B32/05
C23C16/24
C23C16/26
(21)【出願番号】P 2018132563
(22)【出願日】2018-07-12
【審査請求日】2020-12-18
(32)【優先日】2017-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ユリア リュビナ
【審査官】松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-188873(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
C01B 33/00- 33/193
C01B 32/00- 32/991
C23C 16/00- 16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン・炭素複合粉末であって、
前記シリコン・炭素複合粉末は、SiH
4
、Si
2
H
6
、Si
3
H
8
および/またはオルガノシランのガス流、およびエチレン、エタン、プロパンおよびアセチレンからなる群から選択される少なくとも1種の炭化水素のガス流を、同時に反応器内に供給し、そこで、プラズマ援用化学気相成長を使用して前記流を反応させるステップを有する製造方法によって得られたものであり、
a) SiとCとが粒子全体にわたって分布しており、且つ
b) 粒子表面上の(C/Si)
表面の質量比が、粒子全体内の(C/Si)
全体の質量比よりも大きく、(C/Si)
表面/(C/Si)
全体の比が、3以上130以下である
ことを特徴とする、前記シリコン・炭素複合粉末。
【請求項2】
(C/Si)
全体の質量比が、0.01以上3以下であることを特徴とする、請求項1に記載のシリコン・炭素複合粉末。
【請求項3】
SiおよびCがアモルファスであることを特徴とする、請求項1または2に記載のシリコン・炭素複合粉末。
【請求項4】
平均直径が300nm以下であることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のシリコン・炭素複合粉末。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載のシリコン・炭素複合粉末の製造方法であって、SiH
4、Si
2H
6、Si
3H
8および/またはオルガノシランのガス流、およびエチレン、エタン、プロパンおよびアセチレンからなる群から選択される少なくとも1種の炭化水素のガス流を、同時に反応器内に供給し、そこで、前記流を、プラズマ援用化学気相成長を使用して反応させることを特徴とする、前記方法。
【請求項6】
炭化水素対SiH
4および/またはオルガノシランの体積比が0.01~3であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記炭化水素がエチレン、エタンまたはプロパンであることを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
オルガノシランがCH
3SiH
3、(CH
3)
2SiH
2または(CH
3)
3SiHであることを特徴とする、請求項5から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
リチウムイオン電池を製造するための、請求項1から4までのいずれか1項に記載のシリコン・炭素複合粉末の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコン・炭素複合粉末、その製造方法、およびリチウムイオン電池のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムの合金化/脱合金化の間の大きな体積膨張/収縮は、リチウムイオン電池において、クラックの形成、引き続く活物質粒子の粉末化、および永続的な容量損失をもたらすことが知られている。
【0003】
その大きな体積変化を克服し、より良好な容量保持およびSiアノードに対するサイクル寿命を得るために、様々な手段が使用されている。それらの中でも最も有望な手段は、ナノサイズのSi粒子が活性なシェル、好ましくは炭素シェルによって取り囲まれているナノ複合材構造を作ることである。
【0004】
さらには、サイクリングの間にSi系アノードが経る大きな体積変化に起因するクラックの形成は、電極表面が電解質に露出することをもたらす。これは、厚い固体電解質界面(solid electrolyte interface; SEI)層の連続的な形成をみちびく。SEIの過剰な成長は、低いクーロン効率、イオン輸送に対するより高い抵抗、および電極の低い電子伝導性を引き起こし、最終的にはセルのドライアウトをもたらす。ナノサイズのSi粒子が炭素シェルに取り囲まれている複合材料が、SEIの形成を抑制するためにも有利であることが証明されている[Dimitrijevic et al., J. Power Sources 206 (2012) 343]。
【0005】
シリコン・炭素複合材料を製造するために、様々な方法が用いられている。それらの方法は、ボールミリングまたは機械的ミリング、熱分解、化学気相成長/熱気相成長およびゲルの化学反応を含む。
【0006】
国際公開第2013078645号(WO2013078645A1)は、メソポーラスシリコン粒子と前記シリコン粒子上に備えられた炭素コーティングとを含み、前記シリコン粒子が2つの孔径分布2~4nmおよび20~40nmを有する、シリコン・炭素複合材を特許請求している。前記炭素コーティングの厚さは5~10nmであり、且つその炭素は複合材の総質量に対して10~50質量%の量で含有される。ボールミリング下でSiCl4とLi13Si4とをメカノケミカル反応させることによりメソポーラスシリコン粒子を製造する段階、および引き続き熱処理および洗浄する段階、および前記メソポーラスシリコン粒子を化学気相成長を使用して炭素で被覆する段階を含む、シリコン・炭素複合材の製造方法も特許請求されている。
【0007】
Ngらは、Angew.Chem.,Int. Ed. 2006, 45, 6896内で、空気中、400℃での噴霧熱分解法を使用する、炭素被覆されたSiナノ複合材を開示している。このナノ複合材中の炭素は、おそらくアモルファス性のものである。シリコンの大部分がナノ結晶質Siに相応するが、少量のアモルファスシリコンが存在するようである。シリコンは、約10nmの厚さのアモルファスまたは部分的にアモルファスの炭素層によって取り囲まれている。
【0008】
Ngらはさらに、J. Phys. Chem. C 2007, 111, 11131内で、充電式リチウムイオン電池内のアノード材料としてのSiナノ複合材を製造するための低温噴霧熱分解を開示している。そのナノサイズのSi粒子(<100nm)がさらに、クエン酸/エタノール溶液中で噴霧熱分解され、球状のSiナノ粒子の表面上に炭素コーティングの均質な層がもたらされる。
【0009】
Yangらは、Electrochemistry Communications 28 (2013) 40内で、炭素マトリックス中に埋め込まれたSi含有複合材を開示している。シリコン・炭素のナノ複合粉末は、噴霧熱分解によって製造される。後にナノ複合材中でSiとCとの両方を形成する活性なオルガノシランを含むエアロゾルを、管状炉内、900℃で反応させる。Siの質量分率は40%であると見積もられる。重要なことに、その方法は、炭素とアモルファスSiとが良好に分布している均一なサイズの粒子を生じさせる。
【0010】
Zhangらは、Nanoscale, 2013, 5, 5384内で、Liイオン電池内のアノード材料としてのアモルファスシリコン・炭素ナノスフェアの製造を報告している。それらのナノスフェアは、SiとCとの両方の前駆体としてのメチルトリクロロシラン(CH3SiCl3)を使用する900℃での化学気相成長によって合成された。そのSi・Cのナノスフェアは、約60質量%のアモルファスC、および約40質量%のSiで構成され、直径400~600nmおよび表面積43.8m2/gを有することが判明した。
【0011】
Soriceらは、ACS Appl. Mater. Interfaces 2015, 7, 6637内で、2つのステージのレーザー熱分解反応器内での1段階の連続法による炭素被覆シリコンナノ粒子の形成について報告している。第1のステージで形成された結晶化シリコンコアが、第2のステージで主に炭素からなる連続的なシェルによって被覆された。Si/C界面に炭化ケイ素は存在しない。第1のステージにおいて、レーザービームがSiH4流と相互作用し、シリコンナノ粒子の合成をもたらす。Arキャリアガス流がそれらを第2のステージに搬送し、そこではエチレン(C2H4)が同軸状に挿入される。レーザービームは2つのミラーによって第2のステージへと搬送され、焦点を外して、C2H4流とシリコンコアとの間の相互作用の時間を最大化させる。この第2の相互作用は、シリコンナノ粒子の小さな集塊の周りの炭素シェルの堆積をもたらす。シリコンナノ粒子の直径は30nm付近に調節された。レーザー出力および焦点合わせは、シリコンコアの結晶構造に有利に調節された。
【0012】
Yuらは、Ind. Eng. Chem. Res. 2014, 53, 12697内で、炭素源としてトルエンまたはアセチレンを用いた、ダイナミック化学気相成長(CVD)法による結晶質Siナノ粒子上の均一な炭素コーティングの形成を報告している。
【0013】
Chaukulkarらは、ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 19026内で、炭素被覆シリコンナノ粒子のプラズマ合成を報告している。石英の管状反応器内で、RF出力50Wで、上流でSiH4が注入された。C2H2は、SiH4注入点の下流で、石英管内に注入された。
【0014】
それら全ての方法が、シリコン・炭素複合材アノードについて、純粋なSiアノードに比べてより良好なサイクリング性能をもたらす一方で、容量の劣化については未だに改善が必要である。
【0015】
電圧が50mV未満になると、シリコンのリチウム化の間に結晶質LixSi(x≧3.75)が形成することが報告されている。IaboniおよびObrovacによって、J. Electrochemical Soc. 2016, 163, A255内で報告されているとおり、リチウム化に際するLixSi(x≧3.75)相への転移は、高い内部応力をもたらし、粒子の破損およびセルの劣化をみちびく。
【0016】
LixSi(x≧3.75)の形成を防止するための方法の1つは、Si含有電極のサイクリング電圧を50mVより上に制限することである。しかしながら、これはセルのエネルギー密度の著しい低減をもたらす。より低いエネルギー密度を有すること以外にも、Si含有電極の電圧の制限は実用的ではないことがあり、なぜなら、高密度の合金電極は、グラファイトまたは他の形態の炭素とブレンドされることがあるからである。そのような電極においては、グラファイトまたは炭素が活性であるように、合金相は低電圧でサイクルされなければならない。従って、電圧を制限することなく、LixSi(x≧3.75)の形成を防止することが望ましい。
【0017】
LixSi(x≧3.75)の形成の抑制を、Si含有合金およびSi/SiOx(x≦2)複合材内に見出されるような、活性なSi相と不活性なマトリックス相とを含む粒子において実現できる。しかしながら、不活性な相は材料の比容量を低減させるので望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【非特許文献】
【0019】
【文献】Dimitrijevic et al., J. Power Sources 206 (2012) 343
【文献】Ng et al., Angew.Chem.,Int. Ed. 2006, 45, 6896
【文献】Ng et al., J. Phys. Chem. C 2007, 111, 11131
【文献】Yang et al., Electrochemistry Communications 28 (2013) 40
【文献】Zhang et al., Nanoscale, 2013, 5, 5384
【文献】Sorice et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 2015, 7, 6637
【文献】Yu et al., Ind. Eng. Chem. Res. 2014, 53, 12697
【文献】Chaukulkar et al., ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 19026
【文献】Iaboni and Obrovac, J. Electrochemical Soc. 2016, 163, A255
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明の課題は、上記の従来技術における問題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の主題は、シリコン・炭素複合粉末であって、
a) SiとCとが粒子全体にわたって分布しており、且つ
b) 粒子表面上の(C/Si)表面の質量比が、粒子全体内の(C/Si)全体の質量比よりも大きい、
前記シリコン・炭素複合粉末である。
【0022】
このシリコン・炭素複合粉末において、LixSi(x≧3.75)の形成は、電圧対容量の測定によって証明されるとおり、抑制される。さらには、このシリコン・炭素複合粉末の表面でC含有率がより高いことは、過剰なSEI成長を防止する観点で有利である。
【0023】
本発明のシリコン・炭素複合粉末は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって検出できるコアシェル構造を示さないという意外な特性を有する。
【0024】
粒子表面上の(C/Si)表面の質量比および(C/Si)全体の質量比は両方とも、透過型電子顕微鏡(TEM)内のエネルギー分散型X線分析(EDX)によって測定される。
【0025】
好ましい実施態様において、(C/Si)表面/(C/Si)全体の比は、3≦(C/Si)表面/(C/Si)全体≦130である。他の好ましい実施態様において、(C/Si)表面/(C/Si)全体の比は、10≦(C/Si)表面/(C/Si)全体≦50である。
【0026】
(C/Si)全体の質量比は好ましくは0.01≦(C/Si)全体≦3、より好ましくは0.3≦(C/Si)全体≦1である。
【0027】
先行技術とは対照的に、本発明の粉末においては、SiおよびCが粒子全体にわたって分布している。コアシェル構造は透過型電子顕微鏡(TEM)では検出できなかった。さらに、本発明の粉末中で炭化ケイ素は検出できていない。
【0028】
本発明の粉末のSiおよびCは、結晶質であっても、またはアモルファスであってもよい。リチウムイオン電池の一部として後に使用するために、SiおよびCがアモルファスであることが好ましい。
【0029】
本発明の粉末の粒子は、離散していても、または凝集された形態であってもよい。好ましくは、平均粒径は300nm以下、より好ましくは20~100nmである。
【0030】
本発明はさらに、シリコン・炭素複合粉末の製造方法であって、SiH4、Si2H6、Si3H8および/またはオルガノシランのガス流、およびエチレン、エタン、プロパンおよびアセチレンからなる群から選択される少なくとも1種の炭化水素のガス流を、同時に反応器内に供給し、そこで、前記流を、プラズマ援用化学気相成長を使用して反応させる、前記方法を提供する。
【0031】
炭化水素対SiH4および/またはオルガノシランの比は広い範囲にわたって選択できる。好ましくは、その比は0.01~3である。
【0032】
オルガノシランは、CH3SiH3、(CH3)2SiH2、(CH3)3SiH、C2H5SiH3、(C2H5)2SiH2、(C2H5)3SiH、(CH3)4Si、(C2H5)4Si、C3H7SiH3、(C3H7)4Si、C4H9SiH3、(C4H9)2SiH2、(C4H9)3SiH、(C4H9)4Si、C5H11SiH3、(C5H11)2SiH2、(C5H11)3SiH、(C5H11)4Si、C6H13SiH3、(C6H13)4Si、(C7H15)SiH3、(C7H15)2SiH2、(C7H15)3SiH、(C7H15)4Siからなる群から選択できる。CH3SiH3、(CH3)2SiH2および(CH3)3SiHが最も好ましい。
【0033】
エチレン、エタンおよびプロパンが好ましい炭化水素である。アセチレンはより反応性の出発材料であり、SiCの形成を回避するように注意しなければならない。つまり、低濃度のアセチレンを使用するか、またはプラズマ援用化学気相成長のための設定を変化させるかのいずれかである。
【0034】
シランと炭化水素とを含む反応混合物の平均滞留時間を使用して、粒子の平均直径に影響を及ぼすことができる。プラズマ内での滞留時間を短くすると、通常、粒径が減少する。従って、4秒の滞留時間は、300nmの平均粒径をもたらし、より短い1秒の滞留時間は、100nm未満の平均粒径をもたらす。
【0035】
0.5秒の滞留時間を使用して、粒子の平均直径50nm未満を有する粉末が得られる。
【0036】
本発明のさらなる主題は、リチウムイオン電池を製造するためのシリコン・炭素複合粉末の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明および比較例の材料のXRDパターンを示す図である。
【実施例】
【0038】
例1(本発明による)
高周波(RF)非熱プラズマを化学気相成長(CVD)法に適用し、粉末材料を製造した。その構成は、RFプラズマ源、石英の管状反応器、ポンプ、プロセスガス入口、ガス排気部および粉末収集チャンバーからなる。石英の管状反応器を、ベース圧力10~100mbarに排気する。プラズマ源の周波数は13.56MHzであり、且つRF出力を50~200Wに設定する。SiH4およびエチレンをAr中で希釈して、マスフローコントローラを介して連続的に注入する。ガス混合物中のシランの濃度は20体積%である。CHx/SiH4の比は0.16である。ガス流の速度および圧力を使用して、プラズマ中での滞留時間を調節する。
【0039】
より長い4秒の滞留時間により、粒子の平均直径300nm未満を有する粉末が得られる。より短い1秒の滞留時間により、粒子の平均直径100nm未満を有する粉末が得られる。0.5秒の滞留時間を使用して、一次粒子の平均直径50nm未満を有する粉末が得られる。
【0040】
得られたシリコン・炭素複合粉末中で、SiおよびCは粒子全体にわたって分布している。透過型電子顕微鏡(TEM)内のエネルギー分散型X線分析(EDX)によって測定した際、粒子表面上の(C/Si)表面の質量比は3.5であり、且つ粒子全体内の(C/Si)全体の質量比は1.0である。シリコン・炭素複合粉末中での(C/Si)表面/(C/Si)全体の比は3.5である。
【0041】
例2~4: 例1に記載された条件を使用してさらなる実施態様を行う。例1とは対照的に、例2~4においては、炭素前駆体ガスCHxの種類を表のように変化させた。シリコン・炭素複合粉末のパラメータの変化を表に示す。
【0042】
例5(比較): 例1に記載された条件を使用してさらなる実施態様を行う。例1とは対照的に、SiH4のみを石英の管状反応器内に導入する。炭素前駆体ガスは使用しない。得られる粉末はシリコンのみを含有する。従って、粒子表面上の(C/Si)表面の質量比、および粒子全体内の(C/Si)全体の質量比はゼロである。
【0043】
例5のシリコン粉末と、例1~4のシリコン・炭素複合粉末との間の違いは、
図1に示されるX線回折(XRD)パターンにおいても明らかである(x軸=2θ[度]、y軸=強度[a.u.])。例5で製造されたシリコン粉末のXRDパターン(A)は、ナノ結晶質Siに起因する28.4°付近のより鋭いピークおよびアモルファスSiに起因するより広いピーク(アモルファスハロー)によって特徴付けられる。相の定量分析によると、結晶質シリコンの量は20体積%である。
【0044】
シリコン・炭素複合粉末(B)のXRDパターンにおけるアモルファスハローの強度は低下しており、且つ、シリコン粉末(A)と比較してわずかに高回折角側にシフトしている。28.4°付近のより鋭いピークは、ナノ結晶質Siに起因し、それはシリコン・炭素複合粉末(B)中に4体積%の量で存在する。アモルファスハロー強度の低下およびハローのシフトは、粒子全体に分布したSiおよびCを有するシリコン・炭素複合粉末の形成を示す、つまり、アモルファスハローはSiとCとの混合物から生じる。
【0045】
比較例5によって製造されたシリコン粉末と、スチレン・ブタジエンゴムの水溶液と、カーボンナノチューブとを含有する電極スラリーを、ボールミル内で製造し、引き続き銅箔上に被覆して乾燥させた。その粉末コーティングからディスクを打ち抜き、Li金属対向電極、および炭酸エチレン/炭酸ジメチル電解質中1MのLiPF
6を有するコインセル内に組み込んだ。
図2(x軸=容量[mAh/g]; y軸=電圧[V])は、比較例5によるシリコン粉末について、電気化学的セルの試験結果を示す。Li
xSi(x≧3.75)相の脱リチウムの結果として形成する特徴的な電圧のプラトーが存在する。対照的に、例1~4により製造されたシリコン・炭素複合粉末を含有する電極中では、電極の安定性に対して有害な相であるLi
xSi(x≧3.75)の形成は効果的に抑制され、そのことは
図3において特徴的な電圧のプラトーがないことによって確認される。
図2および3において、1、2、3、20、50の数字は、1回目、2回目・・・の負荷サイクルを表す。
図2における「*」は、Li
xSi(x≧3.75)化合物の脱リチウム化に関連するプラトーを表す。
【0046】
例6(比較): 例1に記載された条件を使用してさらなる実施態様を行う。例1とは対照的に、アセチレンが炭素前駆体ガスCH
xとして石英の管状反応器内に導入され、CH
x/SiH
4の比は1である。比較例6の主な反応生成物はアモルファスSiCであり、ほぼ結晶質のSiはほんの一部だけであり、それは望ましくない。TEM中のEDX分析によれば、C/Si比における著しい違いはなく(表を参照のこと)、粒子表面上の(C/Si)
表面の質量比、および粒子全体内の(C/Si)
全体の質量比は1.3である。比較例6(C)の材料についてのXRDパターンにおけるアモルファスハローは、高回折角側にシフトしており、アモルファスSiCの形成を示す。この種の材料は、電池用途のためにはあまり好ましくない。
【表1】