(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】数値制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/404 20060101AFI20221129BHJP
B23Q 15/00 20060101ALI20221129BHJP
G05B 19/4069 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G05B19/404 F
B23Q15/00 307A
G05B19/4069
(21)【出願番号】P 2018189233
(22)【出願日】2018-10-04
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中西 義一
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-100854(JP,A)
【文献】特開昭61-293752(JP,A)
【文献】特開2019-067290(JP,A)
【文献】特表2008-511454(JP,A)
【文献】特開平05-158518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/404
B23Q 15/00
G05B 19/4069
B23Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工後のワークの計測結果を工具の工具オフセット値に反映させる数値制御装置であって、
加工シミュレーションを実行し、前記工具と前記ワークとが接触した接触点と、前記接触時の工具オフセット種類と、前記接触時の工具オフセット番号と、を関連付ける加工シミュレーション部と、
計測用プローブと
前記加工後のワークとが接触した位置に対応する前記加工シミュレーションにおける工具とワークとの接触点に関連付けられている前記工具オフセット種類及び工具オフセット番号を、前記計測結果の反映先として決定する加工工具特定部と、
前記反映先に前記計測結果を反映させる反映部と、を有することを特徴とする
数値制御装置。
【請求項2】
前記加工シミュレーション部は、前記工具と前記ワークとの接触点と、前記接触時の前記工具の面と、を関連付け、
前記加工工具特定部は、計測用プローブと
前記加工後のワークとが接触した位置に対応する前記加工シミュレーションにおける工具とワークとの接触点に関連付けられている前記工具の面に基づいて1つの前記工具オフセット種類
を選択すると共に、前記接触点に関連付けられている工具オフセット番号を選択して、前記工具オフセット種類及び前記工具オフセット番号を前記計測結果の反映先として決定することを特徴とする
請求項1記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記加工工具特定部は、前記工具の底面がワークに接触している場合は、
前記工具オフセット番号の工具長種類を反映先とし、前記工具の円筒面がワークに接触している場合は、
前記工具オフセット番号の工具径種類を反映先とすることを特徴とする
請求項1記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記加工シミュレーション部は、前記工具の
工具長方向のベクトルと、前記接触点における前記ワークの垂直ベクトルと、が略平行であれば、前記工具の底面がワークに接触したと判定することを特徴とする
請求項1記載の数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御装置に関し、特にワーク計測結果の反映先を自動決定する数値制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
数値制御装置により制御される、工作機械等の産業用機械(以下、機械という)は、ワークを加工した後に(
図1(a)参照)、機械内でワーク計測用プログラム(以下、計測プログラムという)を実行してプローブ等により加工後のワーク形状を計測し(
図1(b)参照)、計測結果を工具オフセット値に反映する、すなわち計測結果に基づいて工具オフセット値を更新することがある(
図1(c)参照)。これにより、工具オフセット値が工具の最新の状態を反映したものに保たれ、加工精度を維持することができる。例えば特許文献1には、NC加工機による加工後にワークの形状測定を行い、測定結果に基づいて工具径や工具長を補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、計測プログラムは、計測対象(計測位置)において加工時に使用された工具が何であったかを認識する手段を持たない。すなわち、初期状態では、計測結果を反映すべき工具オフセットの箇所(工具オフセット番号及び工具オフセット種類(長さ又は半径))が分からない。このため、従来はオペレータが手動で反映先(工具オフセット番号及び種類)を予め設定しておき、計測プログラムはこの設定に従って工具オフセット値を更新していた。かかる作業は、オペレータにとって負担であった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、ワーク計測結果の反映先を自動決定する数値制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の位置実施形態にかかる数値制御装置は、加工後のワークの計測結果を工具の工具オフセット値に反映させる数値制御装置であって、加工シミュレーションを実行し、前記工具と前記ワークとが接触した接触点と、前記接触時の工具オフセット種類と、前記接触時の工具オフセット番号と、を関連付ける加工シミュレーション部と、計測用プローブと前記加工後のワークとが接触した位置に対応する前記加工シミュレーションにおける工具とワークとの接触点に関連付けられている前記工具オフセット種類及び工具オフセット番号を、前記計測結果の反映先として決定する加工工具特定部と、前記反映先に前記計測結果を反映させる反映部と、を有することを特徴とする。
本発明の位置実施形態にかかる数値制御装置は、前記加工シミュレーション部は、前記工具と前記ワークとの接触点と、前記接触時の前記工具の面と、を関連付け、前記加工工具特定部は、計測用プローブと前記加工後のワークとが接触した位置に対応する前記加工シミュレーションにおける工具とワークとの接触点に関連付けられている前記工具の面に基づいて1つの前記工具オフセット種類を選択すると共に、前記接触点に関連付けられている工具オフセット番号を選択して、前記工具オフセット種類及び前記工具オフセット番号を前記計測結果の反映先として決定することを特徴とする。
本発明の位置実施形態にかかる数値制御装置は、前記加工工具特定部は、前記工具の底面がワークに接触している場合は、前記工具オフセット番号の工具長種類を反映先とし、前記工具の円筒面がワークに接触している場合は、前記工具オフセット番号の工具径種類を反映先とすることを特徴とする。
本発明の位置実施形態にかかる数値制御装置は、前記加工シミュレーション部は、前記工具の工具長方向のベクトルと、前記接触点における前記ワークの垂直ベクトルと、が略平行であれば、前記工具の底面がワークに接触したと判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ワーク計測結果の反映先を自動決定する数値制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】数値制御装置1のハードウェア構成例を示す図である。
【
図3】数値制御装置1の機能構成例を示す図である。
【
図4】加工シミュレーション部101の動作を説明する図である。
【
図5】加工シミュレーション部101の動作を説明する図である。
【
図6】加工シミュレーション部101の動作を説明する図である。
【
図8】数値制御装置1を利用したワークフロー例を説明する図である。
【
図9】数値制御装置1を利用したワークフロー例を説明する図である。
【
図10】数値制御装置1を利用したワークフロー例を説明する図である。
【
図11】数値制御装置1の動作を示すフローチャートである。
【
図12】数値制御装置1の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本実施の形態にかかる数値制御装置1は、加工シミュレーション機能を用いて、計測位置の加工時に使用されていた工具を理論的に特定することにより、計測結果の反映先となる工具オフセットの箇所(オフセット番号及び種類)を自動的に決定するものである。
【0010】
図2は、実施の形態にかかる数値制御装置1の要部を示す概略的なハードウェア構成図である。数値制御装置1は、工作機械を含む産業用機械の制御を行う装置である。数値制御装置1は、CPU11、ROM12、RAM13、不揮発性メモリ14、バス10、軸制御回路16、サーボアンプ17、インタフェース18、インタフェース19を有する。数値制御装置1には、サーボモータ50、入出力装置60、計測装置70が接続される。
【0011】
CPU11は、数値制御装置1を全体的に制御するプロセッサである。CPU11は、ROM12に格納されたシステム・プログラムをバス10を介して読み出し、システム・プログラムに従って数値制御装置1全体を制御する。
【0012】
ROM12は、例えば機械の各種制御を実行するためのシステム・プログラムを予め格納している。
【0013】
RAM13は、一時的な計算データや表示データ、入出力装置60を介してオペレータが入力したデータやプログラム等を一時的に格納する。
【0014】
不揮発性メモリ14は、例えば図示しないバッテリでバックアップされており、数値制御装置1の電源が遮断されても記憶状態を保持する。不揮発性メモリ14は、入出力装置60から入力されるデータやプログラム等を格納する。不揮発性メモリ14に記憶されたプログラムやデータは、実行時及び利用時にはRAM13に展開されても良い。
【0015】
軸制御回路16は、機械の動作軸を制御する。軸制御回路16は、CPU11が出力する軸の移動指令量を受けて、動作軸の移動指令をサーボアンプ17に出力する。
【0016】
サーボアンプ17は、軸制御回路16が出力する軸の移動指令を受けて、サーボモータ50を駆動する。
【0017】
サーボモータ50は、サーボアンプ17により駆動されて機械の動作軸を動かす。サーボモータ50は、典型的には位置・速度検出器を内蔵する。位置・速度検出器は位置・速度フィードバック信号を出力し、この信号が軸制御回路16にフィードバックされることで、位置・速度のフィードバック制御が行われる。
【0018】
なお、
図2では軸制御回路16、サーボアンプ17、サーボモータ50は1つずつしか示されていないが、実際には制御対象となる機械に備えられた軸の数だけ用意される。
【0019】
入出力装置60は、ディスプレイやハードウェアキー等を備えたデータ入出力装置であり、典型的にはMDI又は操作盤である。入出力装置60は、インタフェース18を介してCPU11から受けた情報をディスプレイに表示する。入出力装置60は、ハードウェアキー等から入力された指令やデータ等をインタフェース18を介してCPU11に渡す。
【0020】
計測装置70は、典型的にはサーボモータ50によって移動する計測用プローブを備え、計測用プローブを加工後のワークの計測点に接触させたときの座標値を検出することにより、加工後のワークの形状を測定する。計測装置70が出力する情報は、インタフェース19を介してCPU11に渡される。
【0021】
図3は、数値制御装置1の特徴的な機能構成を示すブロック図である。典型的な数値制御装置1は、加工シミュレーション部101、計測部102、加工工具特定部103、反映部104を有する。
図11及び
図12のフローチャートに沿いつつ、各処理部の動作について説明する。
【0022】
加工シミュレーション部101は、数値制御装置1が備える加工シミュレーション機能(公知技術であるため詳細な説明は省略する)を実行する。加工シミュレーションは、ワークの加工と並行して行っても良く、加工を開始する前に行っても良い。この際、加工シミュレーション部101は、工具と接触しているワークの要素に、以下に示すデータ(1)及び(2)を逐次付加する。
【0023】
(1)ワークと工具とが接触したときの工具の面(円筒面/底面)
加工シミュレーション機能において描画されるワークオブジェクトは、表面が多数の微小要素(通常は三角形のオブジェクト)により構成されている。加工シミュレーション機能は、工具オブジェクトとワークオブジェクトとが接触したとき(ワーク切削時)、微小要素を更新する(S101及びS102)ことにより、切削後のワークオブジェクトの表面を形成する。
加工シミュレーション機能において描画される工具オブジェクトは、工具の向きを示す方向ベクトルaを保持している。加工シミュレーション部101は、方向ベクトルaと、前記微小要素の垂直ベクトルbとの角度を前記微小要素の更新の際に判定する(S104乃至S106)。
図4に示すように、方向ベクトルaと垂直ベクトルbとが略平行であれば(許容すべき角度差は任意に設定され得る)、加工シミュレーション部101は、ワークと工具とが接触したときの工具の面は「底面」すなわち工具の先端であると判定する(S107。
図5参照)。その他の場合は、上記工具の面は「円筒面」すなわち工具の側面であると判断する(S108。
図6参照)。加工シミュレーション部101は、この判定結果を、微小要素オブジェクトに関連付けて保存する。
【0024】
(2)工具オフセット番号(モーダル変数)
前記微小要素の更新の際、加工シミュレーション部101は、更新後の微小要素オブジェクトに、更新時点の工具オフセットモーダル(工具オフセット番号を示すモーダル情報)を示すデータを関連付けて保存する(S103-1,S103-2)。ここで保存される工具オフセットモーダルには、工具径及び工具長のいずれかのオフセット番号が含まれる。なおモーダル情報(モーダル変数)とは、指令グループ内で有効なグローバル変数をいう。
【0025】
計測部102は、計測用プローブとワークとの接触点を求める。計測部102は、加工シミュレーション部101による加工シミュレーション時に、計測指令実行時における描画プローブオブジェクトと描画ワークオブジェクトの接触点(後に実際に計測を行う時にプローブが接触する予定となっている実ワークオブジェクト上の位置)を取得する(S109)。これは公知技術により実現可能である。その後、計測部102は、計測時の前記接触点に対応するワークオブジェクトの微小要素を特定する(S110。
図7参照)。典型的には、計測時のプローブの位置に最も近い微小要素を特定する。微小要素が三角形であれば、プローブの座標xと、3つの頂点a,b,cとの距離の和ax+bx+cxが最小となる微小要素を選択する。
【0026】
加工工具特定部103は、計測位置の加工時に使用されていた工具を特定する。加工工具特定部103は、計測部102が接触点として特定した微小要素に関連付けて保存されている工具オフセット番号と、ワークと工具とが接触したときの工具の面と、を取得する(S111及びS112)。加工工具特定部103は、微小要素に保存されているワークと工具とが接触したときの工具の面が「円筒面」であれば、上記工具オフセット番号の工具径種類を、計測結果の反映先と決定する。一方、微小要素に保存されているワークと工具とが接触したときの工具の面が「底面」であれば、上記工具オフセット番号の工具長種類を、計測結果の反映先とする(S113乃至S115)。
【0027】
なお、数値制御装置1によっては、形状に関するオフセット及び摩耗に関するオフセットの2つのオフセットを設定できることがある。この場合、形状に関するオフセットは工具の個体差を補正するため、摩耗に関するオフセットは加工を何度も行うことにより発生した工具摩耗を補正する為に使用される。このような数値制御装置1においては、加工工具特定部103は、摩耗に関するオフセットを反映先とする。例えば摩耗前の(理想の)工具径をRとし、摩耗により減少した径をrとして持つことにより、加工時には実際の工具径R’=R-rを利用する。一方、オフセットが形状/摩耗で分かれていないオプション構成の場合には、加工工具特定部103は、形状に関するオフセットを反映先とする。例えば実際の工具径R’を持っておき、摩耗による減少分を随時R’に反映する。
【0028】
反映部104は、加工工具特定部103が特定した反映先に、計測結果を反映する。反映部104はまず、加工プログラムによるワークの加工と、加工後のワークの計測とを実際に行う。その後、反映部104は、予め定められた測定点におけるワーク計測結果に基づいて、加工工具特定部103が特定した工具オフセット値を更新する(S116)。反映先は、実際の計測点に対応する(最も近い)接触点に関連付けられた工具オフセット値である。計測結果を工具オフセット値に反映させる方法は、例えば特許文献1に記載されているように公知技術であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0029】
<実施例>
具体的な例を用いて、本発明の実施の形態にかかる数値制御装置1を使用した際の、オペレータから見たワークフローについて説明する。
【0030】
(1)シミュレーション用ワーク形状データ入力
オペレータはシミュレーション用ワークの形状データを入力する。
図8は、幅100,奥行き100,高さ60の直方体であるワークをオペレータが入力した例を示している。
【0031】
(2)加工プログラム作成
オペレータは加工プログラムを作成する。
図9は、
図8の形状のワークを作成するための加工プログラムをオペレータが入力した例を示している。
【0032】
(3)計測プログラムの挿入
上記(2)で作成した加工プログラムに、加工後のワークを計測するための計測プログラムを挿入する。
図10は、加工プログラムに挿入された計測プログラムの一例を示す図であり、G2040がマクロ指令化された計測プログラムである。このうち太線で囲われた部分(引数)は、従来の計測プログラムでは入力が必要であったが、本実施の形態においては入力が不要となる情報を示している。従来は、計測結果の反映先を示すための工具オフセット箇所(工具オフセット番号及び種類)を入力することが必要であった。なお、A50.B100.・・・等は計測条件(計測時の移動速度、アプローチ距離等)を示す引数である。
【0033】
(4)加工プログラムの運転
オペレータは加工を行うために加工プログラムを実運転する。同時に、数値制御装置1は、上記加工プログラムによるシミュレーションの実行を開始する。
【0034】
(5)計測プログラムの実行
数値制御装置1は、実運転に先立ち、加工シミュレーションにおいて計測プログラムを実行する。その際、加工工具特定部103が、上述の一連の処理により、計測結果の反映先(工具オフセット番号及び種類)を求め、メモリ上に一時的に保存する。
【0035】
その後、数値制御装置1は、実運転において計測プログラムを実行する。その際、加工シミュレーション時に求めた反映先(接触点の工具オフセット値)を、計測結果に応じて更新する。
【0036】
本実施の形態によれば、数値制御装置1が計測結果の反映先を自動的に識別するので、オペレータが手動で反映先を設定することにともなう作業負荷を軽減できる。
【符号の説明】
【0037】
1 数値制御装置
11 CPU
12 ROM
13 RAM
14 不揮発性メモリ
18 インタフェース
19 インタフェース
10 バス
16 軸制御回路
17 サーボアンプ
50 サーボモータ
60 入出力装置
70 計測装置
101 加工シミュレーション部
102 計測部
103 加工工具特定部
104 反映部