(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】組電池用熱伝達抑制シート、シート構造体および組電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/658 20140101AFI20221129BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20221129BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20221129BHJP
H01M 10/6555 20140101ALI20221129BHJP
H01M 10/653 20140101ALI20221129BHJP
H01M 50/20 20210101ALI20221129BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/6555
H01M10/653
H01M50/20
(21)【出願番号】P 2018205319
(22)【出願日】2018-10-31
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000153591
【氏名又は名称】株式会社巴川製紙所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直己
(72)【発明者】
【氏名】安藤 寿
(72)【発明者】
【氏名】畑中 清成
(72)【発明者】
【氏名】森永 栄徳
【審査官】大濱 伸也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-161720(JP,A)
【文献】特表2017-523584(JP,A)
【文献】特開2004-235110(JP,A)
【文献】特開2010-053196(JP,A)
【文献】特開2005-005167(JP,A)
【文献】特開2015-204209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52-10/667
H01M 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルが熱伝達抑制シートを介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池に用いられる熱伝達抑制シートであって、
吸熱材及び/または断熱材を含有する平板状シートと、吸熱材及び/または断熱材を含有する波板状シートとが一体化されてな
り、
前記波板状シートの片面または両面において、隣接する波の山同士を、前記波の底部から頂部に向かう立壁を有する連結部により、前記波の進行方向に沿って連結していることを特徴とする組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項2】
前記波板状シートは、前記平板状シートの片面または両面に形成されている、請求項1に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項3】
前記波板状シートは、前記平板状シートの片面のみに形成されている、請求項1または2に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項4】
前記波板状シートは、前記平板状シートの両面に形成されている、請求項1または2に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項5】
前記連結部が、前記波の底部から頂部に至るまで形成されている、請求項
1に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項6】
前記連結部が、前記波の底部から波高の途中まで形成されている、請求項
1に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項7】
前記連結部が、前記波板状シートの両面において、前記波の底部から波高の途中まで形成されている、請求項
1に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項8】
前記平板状シートの厚さは、前記波板状シートの厚さよりも厚い、請求項1~
7のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項9】
前記波板状シートおよび前記平板状シートの少なくとも一方は、シート厚み方向に複数の貫通孔を有する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項10】
前記波板状シートおよび前記平板状シートの少なくとも一方は、前記吸熱材を必須として含有し、
前記吸熱材は、無機水和物及び/または脱水剤である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項11】
前記吸熱材は、前記無機水和物を必須として含有し、
前記無機水和物は、熱分解開始温度が200℃以上である、請求項
10に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項12】
前記無機水和物は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、水酸化鉄、水酸化マンガン、水酸化ジルコニウムおよび水酸化ガリウムからなる群のうち少なくとも1つである、請求項
11に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項13】
前記無機水和物が水酸化アルミニウムである、請求項
12に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項14】
前記吸熱材は、前記脱水剤を必須として含有し、
前記脱水剤は、シリカゲル、活性アルミナ、活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂、硫酸塩水和物、亜硫酸塩水和物、リン酸塩水和物、硝酸塩水和物、酢酸塩水和物および金属水和塩からなる群のうち少なくとも1つである、請求項
10に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項15】
前記波板状シートおよび前記平板状シートの少なくとも一方は、前記断熱材を必須として含有し、
前記断熱材は、無機繊維及び/または無機粒子である、請求項1~
9のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項16】
前記断熱材は、前記無機繊維を必須として含有し、
前記無機繊維は、シリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維およびガラス繊維からなる群のうち少なくとも1つである、請求項
15に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項17】
前記断熱材は、前記無機粒子を必須として含有し、
前記無機粒子は、TiO
2及びSiO
2のうち少なくとも1つである、請求項
15に記載の組電池用熱伝達抑制シート。
【請求項18】
請求項1~
17のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シートを複数重ね合わせて一体化してなるシート構造体。
【請求項19】
前記重ね合わせ方向に隣接する前記波板状シート同士において、該波板状シートの波形が互いに逆位相の関係を有する、請求項
18に記載のシート構造体。
【請求項20】
前記複数の組電池用熱伝達抑制シートのうち少なくとも1つは、前記波板状シートにおける波形の方向が他のものと異なる、請求項
18または
19に記載のシート構造体。
【請求項21】
前記複数の電池セルが、請求項1~
17のいずれか1項に記載の組電池用熱伝達抑制シート、及び/または、請求項
18~
20のいずれか1項に記載のシート構造体を介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池。
【請求項22】
前記複数の電池セル間に介在する、前記組電池用熱伝達抑制シートまたは前記シート構造体のうち少なくとも1つは、前記波板状シートにおける波形の方向が他のものと異なる、請求項
21に記載の組電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電気自動車またはハイブリッド車などを駆動する電動モータの電源となる組電池に好適に用いられる組電池用熱伝達抑制シート、シート構造体および組電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から電動モータで駆動する電気自動車またはハイブリッド車などの開発が盛んに進められている。この電気自動車またはハイブリッド車などには、駆動用電動モータの電源となるための、複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池が搭載されている。
【0003】
この電池セルには、鉛蓄電池やニッケル水素電池などに比べて、高容量かつ高出力が可能なリチウムイオン二次電池が主に用いられているが、電池の内部短絡や過充電などが原因で1つの電池セルに熱暴走が生じた場合(すなわち、異常時)、隣接する他の電池セルへ熱の伝播が起こることで、他の電池セルの熱暴走を引き起こすおそれがある。
【0004】
上記のような熱暴走の伝播を抑制するための技術として、例えば、特許文献1には、1以上の蓄電素子を備える蓄電装置であって、前記1以上の蓄電素子のうちの1つである第一蓄電素子の側方に配置された第一板材および第二板材であって、互いの面が対向するように配置された第一板材および第二板材を備え、前記第一板材と前記第二板材との間には、前記第一板材および前記第二板材よりも熱伝導率の低い物質の層である低熱伝導層(例えば、空気層)が形成されていることにより、第一蓄電素子からの輻射熱、または、第一蓄電素子に向かう輻射熱は2枚の板材によって遮断され、かつ、これら2枚の板材の一方から他方への熱の移動は低熱伝導層によって抑制されるため、蓄電素子と他の物体との間の効果的な断熱を実現することができることが開示されている。
【0005】
また、熱暴走の伝播を抑制するための他の技術として、特許文献2には、断熱緩衝部材が、積み重ねられた電池セルの間に配置されることで、複数個の電池セルのうち1つの電池セルに熱的な異常が発生した場合においても、電池セル間では熱的に絶縁を図ることができ、他の電池セルに熱的な異常が連鎖するという現象を抑制することができる旨が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-211013号公報
【文献】特開2009-163932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、組電池化した電池セルに対し充放電サイクルを行う場合(すなわち、通常使用時)において、電池セルの充放電性能を十分に発揮させるためには、電池セル表面の温度を所定値以下(例えば、150℃以下)に維持する必要がある。
【0008】
しかしながら、特許文献1においては、熱暴走時の熱の伝播抑制のため、複数の電池セル間に単に断熱層を設けるものであるため、通常使用時に発熱する電池セルを効果的に冷却することができなかった。
また、特許文献2においては、断熱緩衝部材の表面に凹凸を形成することで、電池セル間においては断熱が図れるとともに、電池セルの積層時にはこの溝により通風効果を図ることができるとあるものの、断熱緩衝部材はポリカーボネート樹脂製またはポリプロピレン樹脂製のシートからなるため、このシートに溝を設けた場合、後述するように、通常使用時に発熱する電池セルを冷却するには十分であるとは言えなかった。
更に、特許文献1及び特許文献2においては、組電池とする際の組み付けを容易にするシートの剛性や、電池セルの熱膨張による、隣接する電池セル間の寸法変動(寸法変化)にも対応可能なシートの柔軟性について言及されていない。
【0009】
本発明は、このような事情に着目してなされたものであり、複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池を構成するに当たり、異常時における電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、通常使用時における電池セルを効果的に冷却することができ、更に、組電池とする際の組み付けを容易にする剛性や、電池セルの熱膨張に対応可能な柔軟性を有する、組電池用熱伝達抑制シート、シート構造体および組電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る組電池用熱伝達抑制シートの要旨は、複数の電池セルが熱伝達抑制シートを介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続された組電池に用いられる熱伝達抑制シートであって、吸熱材及び/または断熱材を含有する平板状シートと、吸熱材及び/または断熱材を含有する波板状シートとが一体化されてなることにある。
【0011】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記波板状シートは、前記平板状シートの片面または両面に形成されている。
【0012】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記波板状シートは、前記平板状シートの片面のみに形成されている。
【0013】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記波板状シートは、前記平板状シートの両面に形成されている。
【0014】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記波板状シートの片面または両面において、隣接する波の山同士を、前記波の底部から頂部に向かう立壁を有する連結部により、前記波の進行方向に沿って連結している。
【0015】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記連結部が、前記波の底部から頂部に至るまで形成されている。
【0016】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記連結部が、前記波の底部から波高の途中まで形成されている。
【0017】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記連結部が、前記波板状シートの両面において、前記波の底部から波高の途中まで形成されている。
【0018】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記平板状シートの厚さは、前記波板状シートの厚さよりも厚い。
【0019】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記波板状シートおよび前記平板状シートの少なくとも一方は、シート厚み方向に複数の貫通孔を有する。
【0020】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記波板状シートおよび前記平板状シートの少なくとも一方は、前記吸熱材を必須として含有し、前記吸熱材は、無機水和物及び/または脱水剤である。
【0021】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記吸熱材は、前記無機水和物を必須として含有し、前記無機水和物は、熱分解開始温度が200℃以上である。
【0022】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記無機水和物は、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化亜鉛、水酸化鉄、水酸化マンガン、水酸化ジルコニウムおよび水酸化ガリウムからなる群のうち少なくとも1つである。
【0023】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記無機水和物が水酸化アルミニウムである。
【0024】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記吸熱材は、前記脱水剤を必須として含有し、前記脱水剤は、シリカゲル、活性アルミナ、活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂、硫酸塩水和物、亜硫酸塩水和物、リン酸塩水和物、硝酸塩水和物、酢酸塩水和物および金属水和塩からなる群のうち少なくとも1つである。
【0025】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記波板状シートおよび前記平板状シートの少なくとも一方は、前記断熱材を必須として含有し、前記断熱材は、無機繊維及び/または無機粒子である。
【0026】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記断熱材は、前記無機繊維を必須として含有し、前記無機繊維は、シリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維およびガラス繊維からなる群のうち少なくとも1つである。
【0027】
上記組電池用熱伝達抑制シートにおける好ましい実施形態において、前記断熱材は、前記無機粒子を必須として含有し、前記無機粒子は、TiO2及びSiO2のうち少なくとも1つである。
【0028】
また、本発明の一態様に係るシート構造体の要旨は、上記いずれか1つに記載の組電池用熱伝達抑制シートを複数重ね合わせて一体化してなることにある。
【0029】
上記シート構造体における好ましい実施形態において、前記重ね合わせ方向に隣接する前記波板状シート同士において、該波板状シートの波形が互いに逆位相の関係を有する。
【0030】
上記シート構造体における好ましい実施形態において、前記複数の組電池用熱伝達抑制シートのうち少なくとも1つは、前記波板状シートにおける波形の方向が他のものと異なる。
【0031】
また、本発明の一態様に係る組電池の要旨は、前記複数の電池セルが、上記いずれか1つに記載の組電池用熱伝達抑制シート、及び/または、上記いずれか1つに記載のシート構造体を介して配置され、該複数の電池セルが直列または並列に接続されたことにある。
【0032】
上記組電池における好ましい実施形態において、前記複数の電池セル間に介在する、前記組電池用熱伝達抑制シートまたは前記シート構造体のうち少なくとも1つは、前記波板状シートにおける波形の方向が他のものと異なる。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る組電池用熱伝達抑制シートは、複数の電池セル間に配置される場合において、波板状シート及び平板状シートが断熱材や吸熱材を含む材料で形成されているため、異常時における電池セル間の熱の伝播を抑制することができる。また、電池セルの表面と波板状シートとの間に、波の進行方向に垂直な方向に向かうトンネル状の空間が複数形成されるため、通常使用時における電池セルを効果的に冷却することができる。
更に、本発明に係る組電池用熱伝達抑制シートは、波板状シートと平板状シートを一体化して補強したものであり、波板状シートにおける波の潰れを抑制することでシート全体の剛性が高められているため、組電池とする際の組み付けを容易にすることができる。加えて、波板状シートの波部分により柔軟性が増すため、電池セルの熱膨張による寸法変動を効果的に吸収できる。
【0034】
また、組電池用熱伝達抑制シートを積層した本発明に係るシート構造体によれば、組電池の仕様、例えば電池セルの個数や寸法等の変化に容易に対応可能であり、組電池とする際の組み付け性が更に向上する。加えて、通常使用時における、組電池における個々の電池セルの冷却性能を向上させたり、異常時における、電池セル間の熱の伝播をより効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態(本実施形態)に係る組電池用熱伝達抑制シートを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す組電池用熱伝達抑制シートを、波の進行方向に沿って示す要部拡大断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の第1変形例に係る組電池用熱伝達抑制シートの斜視図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の第2変形例に係る組電池用熱伝達抑制シートの斜視図である。
【
図5】
図5は、本実施形態の第3変形例に係る組電池用熱伝達抑制シートの斜視図である。
【
図6A】
図6Aは、本実施形態の第4変形例に係る組電池用熱伝達抑制シートの斜視図である。
【
図6B】
図6Bは、本実施形態の第4変形例に係る組電池用熱伝達抑制シートの他の例を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、本実施形態の第5変形例に係る組電池用熱伝達抑制シートの斜視図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートが3層に積層されてなるシート構造体を示す斜視図である。
【
図9】
図9は、重ね合わせ方向に隣接する波板状シート同士において、波板状シートの波形が互いに逆位相の関係を有するシート構造体の斜視図である。
【
図10】
図10は、本実施形態に係る組電池用熱伝達抑制シートを適用した組電池の構成を模式的に示す断面図である。
【
図12】
図12は、複数の組電池用熱伝達抑制シート間において、波板状シートにおける波形の方向が互いに異なる場合の、
図11相当の斜視図である。
【
図13】
図13は、
図1の組電池用熱伝達抑制シートの一製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明者らは、高温の熱が発生する異常時における電池セル間の熱の伝播を抑制しつつ、比較的低温の熱が発生する通常使用時における電池セルを冷却することができ、更に、組電池とする際の組み付けを容易にし、加えて、電池セルの熱膨張にも対応可能な組電池用熱伝達抑制シートを提供するため、鋭意検討を行ってきた。
【0037】
その結果、吸熱材及び/または断熱材を含有する平板状シートと、吸熱材及び/または断熱材を含有する波板状シートとが一体化されてなる組電池用熱伝達抑制シートを用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。
【0038】
すなわち、本発明に係る組電池用熱伝達抑制シートは、波板状シートと平板状シートを一体化して補強したものであり、波板状シートにおける波の潰れを抑制することでシート全体の剛性を高めることができ。組電池を組み立てる際の電池セルの組み付け性を向上させることができる。
【0039】
また、波板状シートの波の波高方向への柔軟性により、通常使用時の電池セルの熱膨張による寸法変動や、組電池にする際の電池セル間の隙間のバラツキを効果的に吸収できる。
【0040】
更に、波板状シート及び平板状シートを構成する吸熱材及び/または断熱材により、異常時における、ある電池セルに熱暴走が生じた熱が隣接する他の電池セルに伝播するのを効果的に抑制することができる。
【0041】
加えて、電池セルの表面と波板状シートとの間に、波の進行方向に垂直な方向に向かうトンネル状の空間が複数(望ましくは、多数)形成され、更に、このトンネル状の空間が外気に通じているため、電池セルからの熱が外に逃げやすくなり、通常使用時における電池セルの冷却性能が高められる。
【0042】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以降の説明において組電池用熱伝達抑制シートを「熱伝達抑制シート」と略称する。
【0043】
<1.熱伝達抑制シートの構成>
[1-1.基本構成]
図1は、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10の斜視図である。
本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、吸熱材及び/または断熱材を含有する平板状シート20と、吸熱材及び/または断熱材を含有する波板状シート30とを有し、平板状シート20の片面のみに波板状シート30が形成されている。別の表現として、波板状シート30の片面のみに平板状シート20が形成されているとも言える。これにより、平板状シート20と波板状シート30との間には、波板状シート30の波31の進行方向(すなわち、紙面の左右方向)に垂直な方向に向かうトンネル状の空間36が複数形成される。
【0044】
また、
図10に示すように、組電池100においては、電池セル50の表面と波板状シート30との間にも、同様のトンネル状の空間37が複数形成される。なお、波板状シート30における、波31の進行方向に垂直な方向の両端面26,26は開口しており、空間36,37は外気に通じている。
【0045】
ここで、平板状シート20は、吸熱材及び/または断熱材を含有していることから、異常時において、熱暴走を起こした電池セル50からの熱を吸熱及び/または断熱して、他の電池セル50に伝播することを抑制する。
また、組電池100において、平板状シート20は、電池セル50と面で接していることから、熱暴走を起こした電池セル50からの多量の熱を効率よく平板状シート20で受け取ることができるため、電池セル間の熱の伝播を抑制する効果を十分に発揮することができる。
【0046】
なお、平板状シート20で吸熱及び/または断熱されなかった熱が、平板状シート20を通じて放熱されたとしても、波板状シート30も平板状シート20と同等の吸熱及び/または断熱性能を有するため、波板状シート30により吸熱及び/または断熱される。
【0047】
更に、平板状シート20と波板状シート30との間に形成されるトンネル状の空間36を通じ、平板状シート20からの熱を外気に逃がすことができる。すなわち、本実施形態の熱伝達抑制シート10は、異常時における電池セル50からの熱を、平板状シート20と波板状シート30とで二重に熱伝播を抑制するとともに、外気に効果的に逃がすことができる。
【0048】
一方、電池セル50の表面と波板状シート30との間に、波31の進行方向に垂直な方向に向かうトンネル状の空間37が複数形成されるため、通常使用時における電池セル50を効果的に冷却することができる。
【0049】
また、本実施形態に係る熱伝達抑制シート10は、波板状シート30と平板状シート20を一体化して補強したものであり、波板状シート30における波31の潰れを抑制することでシート全体の剛性を高めることができ。その取り扱い性が向上する。その結果、組電池100を組み立てる際の電池セル50の組み付け性を向上させることができる。
【0050】
更に、波板状シート30の波部分により柔軟性が増しており、波板状シート30が波高方向に変形しやすいため、電池セル50の熱膨張による寸法変動を効果的に吸収することができる。
【0051】
上記の冷却性能や熱伝達抑制性能を高める上で、平板状シート20または波板状シート30の表面は、微細な凹凸形状を有することが好ましい。微細な凹凸形状とすることにより、電池セル50からの熱と、空間37の空気との接触面積が増えて、電池セル50からの熱を外気へとより逃がしやすくなる。その結果、上記特許文献2に示すような、表面に凹凸形状を有しない溝部が形成された断熱シートに比べ、通常使用時における電池セル50をより効果的に冷却することができる。
【0052】
図2は、熱伝達抑制シート10を、波31の進行方向に沿ってその一部を拡大して示す断面図である。平板状シート20または波板状シート30の表面に凹凸形状22,32を有することは、熱伝達抑制シート10に含まれる無機粒子や無機繊維等(下記で説明する、吸熱材としての無機水和物や脱水剤、断熱材としての無機粒子や無機繊維を含む)の固体材料34が、その形状を維持したまま結着してシート状をなしていることを示す。後述するように、数μmレベルの多数の固体材料34から形成される熱伝達抑制シート10は、ポリカーボネートやポリプロピレンなどの樹脂からなる断熱シートとは異なり、その表面は、数μmサイズのピッチ及び深さを有する多数の凹凸形状22,32を有している。
【0053】
ここで、凹凸のピッチ及び深さの下限はそれぞれ0.5μmであり、好ましくは1.0μm以上である。また、凹凸のピッチ及び深さの上限はそれぞれ100μmであり、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、更に好ましくは40μm以下である。
【0054】
凹凸のピッチまたは深さが0.5μm未満であると、熱伝達抑制シート10中に生じる空隙が小さくなり過ぎて、対流が起きにくくなることで、熱と接触しづらくなるため、熱を効果的に外へ逃がすことができないおそれがある。一方、凹凸のピッチまたは深さが100μmを超えると、固体材料34の平均粒径が大きすぎて、固体材料34の比表面積が低下するため、熱を効果的に外へ逃がすことができないおそれがある。
なお、凹凸のピッチとは、隣接する凹部同士または凸部同士の中心間距離をいい、凹凸の深さとは、凹部の底部と凸部の頂部との間の距離をいう。
【0055】
[1-2.第1変形例]
図3は、本実施形態の第1変形例に係る熱伝達抑制シート10の斜視図である。本変形例の熱伝達抑制シート10は、上記基本構成で説明したものと同様、吸熱材及び/または断熱材を含有する平板状シート20と、吸熱材及び/または断熱材を含有する波板状シート30とを有し、平板状シート20と波板状シート30が一体に形成されている。
【0056】
ただし、本変形例の熱伝達抑制シート10は、平板状シート20の板厚tpが、波板状シート30の板厚twより厚くなっている点において異なる。平板状シート20の板厚tpがより厚く形成されることで、平板状シート20における吸熱性能及び/または断熱性能が強化されるとともに、シート全体の剛性が更に向上する。
なお、その他の構成及び効果は、上記基本構成で説明したものと同様である。
【0057】
[1-3.第2変形例]
図4は、本実施形態の第2変形例に係る熱伝達抑制シート10の斜視図である。本変形例の熱伝達抑制シート10は、吸熱材及び/または断熱材を含有する平板状シート20の両面に、吸熱材及び/または断熱材を含有する波板状シート30が一体に形成されている。これにより、平板状シート20の両面側(すなわち、紙面の上下方向)に、平板状シート20と波板状シート30との間で形成されるトンネル状の空間36、及び電池セル50と波板状シート30との間で形成されるトンネル状の空間37が多数形成されるため、電池セル50の冷却性能がより向上する。
なお、その他の構成及び効果は、上記基本構成で説明したものと同様である。
【0058】
ところで、上記基本構成で説明したような、波板状シート30が平板状シート20の片面のみに形成されている熱伝達抑制シート10は、上述の通り、吸熱材及び/または断熱材を含有する平板状シート20が電池セル50と面で接していることから、異常時において、熱暴走を起こした電池セル50からの多量の熱を平板状シート20で受け取ることができるため、電池セル間の熱の伝播を抑制する効果をより高く発揮できる仕様である。その一方で、第2変形例に係る熱伝達抑制シート10は、組電池100において、電池セル50の両面が波板状シート30と対面する構成となることから、通常使用時における電池セルを冷却する効果をより高く発揮できる仕様である。
【0059】
[1-4.第3変形例、第4変形例]
図5は、本実施形態の第3変形例に係る熱伝達抑制シート10の斜視図であり、
図6Aは、本実施形態の第4変形例に係る熱伝達抑制シート10の斜視図である。なお、
図5及び
図6Aにおいて、本来は波板状シート30の下部(紙面の下方向)に平板状シート20が形成されているが、説明の都合上、平板状シート20の図示を省略している。
図5に示すように、熱伝達抑制シート10は、吸熱材及び/または断熱材を含有する波板状シート30の一方の側の面30a(同図では「上面側」)において、隣接する波31の山31a,31b同士を、連結部35にて波31の進行方向、すなわち紙面の左右方向に連結したものである。連結部35がリブのように作用して、熱伝達抑制シート10の波31の潰れを抑制するとともに、シート全体の剛性を高める。その結果、組電池100(
図10参照)を組み立てる際の組み付け性が更に向上する。
【0060】
図5では、連結部35は、波板状シート30の波31と平行な方向の長さ(図中、「幅W」で示す)のほぼ中央に、波31の進行方向に沿って筋状に一本形成されているが、間隔を空けて複数本形成してもよい。
【0061】
連結部35は、波31の底部38から頂部39に向かう立壁を有しており、波31の進行方向に沿って形成される。そして、連結部35は、
図5に示すように、波31の底部38から頂部39に至るまで、すなわち、波31の底部38から頂部39に達するように形成されていてもよい(第3変形例)。また、
図6Aに示すように、波31の底部38から波高の途中まで、すなわち、波31の底部38から波高の任意の位置(例えば
図6Aでは、波高のほぼ中央の位置)まで形成されていてもよい(第4変形例)。連結部35は、上記のように波31の補強部材として機能するが、
図5のように、波31の頂部39まで達するように形成されることにより、補強効果が最も高まるものの、波31の幅Wと平行な空間37が、連結部35が形成された位置にて、波の進行方向と直交する方向において途中で分断されるため、連結部35が無い場合に比べて電池セル50の冷却性能が低下するおそれがある。
【0062】
これに対し、
図6Aのように、連結部35が波高の途中まで形成されている場合には、電池セル50と連結部35の上方部分との間に空間部分が形成されるため、トンネル状の空間37が、連結部35が形成された位置にて、波の進行方向において途中で分断されることがない。このため、
図5のように連結部35が頂部39まで形成される場合と比べると、若干補強効果が低下するものの、電池セル50の冷却性能がより一層高いものとなる。なお、連結部35の底部38からの高さにより、補強効果と冷却性能との配分を調整することができ、両者のバランスを考慮すると連結部35の底部38からの高さは、波高の半分(中央の位置)が好ましい。
【0063】
なお、波板状シート30の連結部35が形成されていない側の面30b(同図では「下面側」)には、波31の幅Wの全長にわたる1本のトンネル状の空間36が形成されるため、波板状シート30の連結部35が形成されていない側の面30bと接する電池セル50の冷却性能は、
図5及び
図6Aに示す場合の双方において、高いまま不変である。
【0064】
また、
図5では、波板状シート30の一方の側の面30aにおいてのみ連結部35が形成されているが、他方側の面30bにおいてのみ連結部35が形成されるものであってもよいし、一方側の面30aと他方側の面30bの両方に形成されるものであってもよい。
更に、連結部35は、
図5で示すような、隣接する波31の山31a,31b同士の全部を連結するようなものであってもよいが、例えば、上記した補強効果と冷却性能とのバランスを鑑みて、隣接する波31の山31a,31b同士の一部を連結するようなものであってもよい。
【0065】
なお、
図6Aでは、波板状シート30の一方の側の面30aにおいてのみ、連結部35が、波31の底部38から波高の途中まで形成されているものを示しているが、
図6Bに示すように、波板状シート30の両面30a,30bそれぞれに、連結部35が、波31の底部38から波高の途中まで形成されていることが好ましい。連結部35が、波板状シート30の両面30a,30bに形成されることで、補強効果がより向上するとともに、波板状シート30の両面30a,30bにおいて、連結部35が形成された位置にて、トンネル状の空間37が波の進行方向において途中で分断されることがないため、電池セル50の冷却性能を高く維持することが可能となる。
【0066】
なお、波板状シート30における波31の形状は、図示されるような正弦波状の断面を有する場合以外にも、例えば、底部38や頂部39が平坦面であってもよいし、波31の傾斜面が平面であってもよい。また、底部38と頂部39が平坦面で、更に傾斜面が平面である台形状の断面を有していてもよい。あるいは、波31の傾斜面が両側とも平面である、のこぎり歯状の断面を有していてもよい。ただし、電池セル50の変形等による応力は波31の波高方向に加わるため、応力を緩やかに緩和するためには、図示されるような正弦波状の断面を呈することが好ましい。
【0067】
[1-5.第5変形例]
図7は、本実施形態の第5変形例に係る熱伝達抑制シート10の斜視図である。本変形例の熱伝達抑制シート10は、上記基本構成で説明したものと同様、吸熱材及び/または断熱材を含有する平板状シート20と、吸熱材及び/または断熱材を含有する波板状シート30とを有し、平板状シート20と波板状シート30が一体に形成されている。
【0068】
ただし、本変形例の熱伝達抑制シート10は、平板状シート20において、その厚み方向に貫通する複数の貫通孔24が形成されている。これにより、貫通孔24を介して、平板状シート20における波板状シート30と対面しない側の面から、空間36に向けて空気の流通がおこるため、電池セル50の冷却性能が更に向上する。
なお、貫通孔24は、波板状シート30にも設けられてもよい。この場合、冷却性能の更なる向上が期待できる。また、貫通孔24は、図示されるような円形の他、楕円や多角形等にすることも可能である。更に、貫通孔24の各々の大きさ(開口面積)が全て同じでも、個々に異なっていてもよい。また更に、貫通孔24は、格子状に等間隔に形成されていてもよいし、ランダムに形成されていてもよい。
【0069】
貫通孔24の開口率、すなわち、貫通孔24が形成されていない場合の平板状シート20や波板状シート30の面積に対する、貫通孔24の開口面積の合計の比率にも制限はないが、開口率が大きくなるほどシート全体の剛性が低くなる。また、平板状シート20は、電池セル50と面で接するため、開口率が大きいと、異常時の熱の伝播を抑制する効果が低下するおそれがある。このため、強度や冷却性能、異常時における熱の伝播を抑制する効果のバランスを考慮して適宜設定される。
なお、その他の構成及び効果は、上記基本構成で説明したものと同様である。
【0070】
<2.熱伝達抑制シートの構成材料>
熱伝達抑制シート10は、吸熱材及び/または断熱材を含有する。すなわち、これらは、いずれか一方のみを含有しても良く、両方を含有してもよい。
【0071】
吸熱材は、電池セル50の異常時において、ある電池セル50で発生した熱により熱伝達抑制シート10が加熱されると、熱伝達抑制シート10はその熱を吸収しつつ、水分を放出する。この吸熱作用により、電池セル50の発熱量を低減することができる。これにより、ある電池セル50に熱暴走が生じた場合、隣接する他の電池セル50への熱の伝播を効果的に抑制する。
【0072】
また、断熱材は、熱伝達抑制シート10における熱移動を有効に低減して断熱効果を発揮する。
【0073】
更に、熱伝達抑制シート10は、吸熱材や断熱材の他にも、後述する各種材料を含有してもよい。以下、各構成材料について詳述する。
【0074】
[2-1.吸熱材]
このような吸熱材の具体的な材料としては、加熱により水分を放出することのできる無機水和物や脱水剤が好ましい。熱伝達抑制シート10が、加熱により水分を放出する材料を含有することで、吸熱層としての役割を担うことができる。
熱伝達抑制シート10が吸熱層の役割を果たす場合、電池セル50の異常時において、ある電池セル50で発生した熱により熱伝達抑制シート10が加熱されると、熱伝達抑制シート10はその熱を吸収しつつ、水分を放出する。この吸熱作用により、電池セル50の発熱量を低減することができる。よって、ある電池セル50に熱暴走が生じた場合、隣接する他の電池セル50への熱の伝播を効果的に抑制することができる。
【0075】
無機水和物としては、熱分解開始温度が200℃以上であることが好ましい。異常時における電池セルの温度範囲は、一般的に200℃以上であるため、熱分解開始温度が200℃以上の無機水和物を用いることで、異常時に効果的に水分を放出し、熱を吸収することができる。また、脱水剤としては、電池セル50の正常な作動温度である、150℃以下の温度で脱水可能な脱水剤を用いることが好ましい。
【0076】
(2-1-1.無機水和物)
上記無機水和物として、例えば、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化亜鉛(Zn(OH)2)、水酸化鉄(Fe(OH)2)、水酸化マンガン(Mn(OH)2)、水酸化ジルコニウム(Zr(OH)2)、水酸化ガリウム(Ga(OH)3)などが挙げられる。
これらの無機水和物は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0077】
なお、水酸化アルミニウムの熱分解開始温度は約200℃であり、水酸化マグネシウムの熱分解開始温度は約330℃であり、水酸化カルシウムの熱分解開始温度は約580℃であり、水酸化亜鉛の熱分解開始温度は約200℃であり、水酸化鉄の熱分解開始温度は約350℃であり、水酸化マンガンの熱分解開始温度は約300℃であり、水酸化ジルコニウムの熱分解開始温度は約300℃であり、水酸化ガリウムの熱分解開始温度は約300℃である。
【0078】
このような熱分解開始温度が異なる2種以上の無機水和物を併用すれば、温度上昇した電池セル50を広い温度領域で冷却することができ、熱暴走時における電池セル50間の熱の伝播を効果的に抑制することが可能となるため、好ましい。
【0079】
例えば水酸化アルミニウムの場合、水酸化アルミニウム中には約35%の結晶水を有しており、下記式に示すように、熱分解時に結晶水を放出することで、消炎機能(吸熱反応)を発揮することができる。
2Al(OH)3→Al2O3+3H2O
この機能により、電池セル50で発生した高温の熱を吸収することができ、電池セル50の温度上昇を低減することができる。
【0080】
例えば水酸化アルミニウムのような、熱分解温度が200℃以上である無機水和物は、電池セル50の熱暴走が生じた場合の、電池セル50表面の上昇温度と温度範囲が大きく重複している。このため、異常時における電池セル50の温度上昇に伴い、熱分解により脱水反応(吸熱反応)を生ずることで、効果的に電池セル50間の熱の伝播を抑制することができる。
【0081】
特に、水酸化アルミニウムの場合には、上記無機水和物の中で熱分解開始温度が低め(熱分解開始温度:約200℃)であるため、異常時の初期段階(比較的低めの温度)から、電池セル50の冷却を行うことができるため、好ましい。
【0082】
無機水和物の配合量としては、熱伝達抑制シート10を構成する材料の合計質量に対して、好ましい上限が90質量%であり、より好ましい上限は65質量%である。この配合量が90質量%を超えると、熱伝達抑制シート10としての十分な強度を保つことができないおそれがある。
【0083】
(2-1-2.脱水剤)
上記脱水剤としては、150℃以下の温度で脱水可能な脱水剤を用いることも好ましい。通常使用時における電池セル50の温度範囲である、常温(20℃程度)から最大150℃程度までの温度範囲内で脱水可能な脱水剤を有することで、通常使用時に電池セル50の温度が比較的低温で上昇した場合に、脱水剤が水分を放出するため、通常使用時における電池セル50を効果的に冷却することができる。
【0084】
上記効果を得るための具体的な材料としては、例えば、シリカゲル、活性アルミナ、活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂などのような水分吸着剤、あるいは、硫酸塩水和物、亜硫酸塩水和物、リン酸塩水和物、硝酸塩水和物、酢酸塩水和物、金属水和塩などが挙げられる。これらの脱水剤は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0085】
ここで、硫酸塩水和物としては、例えば、硫酸アンモニウムアルミニウム12水和物、硫酸ナトリウムアルミニウム12水和物、硫酸アルミニウム27水和物、硫酸アルミニウム18水和物、硫酸アルミニウム16水和物、硫酸アルミニウム10水和物、硫酸アルミニウム6水和物、硫酸カリウムアルミニウム12水和物、硫酸鉄7水和物、硫酸鉄9水和物、硫酸カリウム鉄12水和物、硫酸マグネシウム7水和物、硫酸ナトリウム10水和物、硫酸ニッケル6水和物、硫酸亜鉛7水和物、硫酸ベリリウム4水和物、硫酸ジルコニウム4水和物等が挙げられる。
亜硫酸塩水和物としては、例えば、亜硫酸亜鉛2水和物、亜硫酸ナトリウム7水和物等が挙げられる。
リン酸塩水和物としては、例えば、リン酸アルミニウム2水和物、リン酸コバルト8水和物、リン酸マグネシウム8水和物、リン酸マグネシウムアンモニウム6水和物、リン酸水素マグネシウム3水和物、リン酸水素マグネシウム7水和物、リン酸亜鉛4水和物、リン酸二水素亜鉛2水和物等が挙げられる。
【0086】
硝酸塩水和物としては、例えば、硝酸アルミニウム9水和物、硝酸亜鉛6水和物、硝酸カルシウム4水和物、硝酸コバルト6水和物、硝酸ビスマス5水和物、硝酸ジルコニウム5水和物、硝酸セリウム6水和物、硝酸鉄6水和物、硝酸鉄9水和物、硝酸ニッケル6水和物、硝酸マグネシウム6水和物等が挙げられる。
酢酸塩水和物としては、例えば、酢酸亜鉛2水和物、酢酸コバルト4水和物等が挙げられる。
金属水和塩としては、例えば、塩化コバルト6水和物、塩化鉄4水和物等の塩化物塩、ホウ砂(四ホウ酸ナトリウム5水和物、四ホウ酸ナトリウム10水和物)、八ホウ酸二ナトリウム四水物、ホウ酸亜鉛3.5水和物等のホウ酸塩等が挙げられる。
【0087】
なお、例えば、150℃以下の温度範囲内における高温側(75℃~150℃)での水分吸着量が大きいゼオライトと、上記高温側での水分吸着量が小さいシリカゲルを併用すれば、温度上昇した電池セル50を広い温度領域で冷却することが可能となるため、好ましい。
【0088】
脱水剤のうち、より多くの水分を放出することができ、かつ、脱水温度範囲が広いという特性を有する観点から、特にゼオライトを用いることが好ましい。ゼオライトとしては、特に種類に限定されるものではなく、例えば、β型ゼオライト、Y型ゼオライト、フェリエライト、ZSM-5型ゼオライト、モルデナイト、フォージサイト、ゼオライトAおよびゼオライトL等が挙げられる。
【0089】
ゼオライトは、3次元網目構造を有するアルミノケイ酸塩である。水分を吸着するゼオライトは安定的に存在するため、通常、常温条件下で3次元網目構造の隙間に水分などを吸着している。しかし、ある温度以上の熱が与えられることにより、ゼオライトに吸着されていた水分がゼオライトから脱着する。
しかし、水分を吸着していないゼオライトは不安定であるため、脱水したゼオライトは高い吸着作用を有するため、温度が低下した後は再び水分を吸着する。
【0090】
例えばゼオライトのように、150℃以下の温度で脱水可能な脱水剤は、充放電サイクルを行う場合の電池セル50表面の上昇温度と温度範囲が大きく重複しているため、通常使用時における電池セル50の温度上昇に伴い、水分を放出することで効果的に電池セル50を冷却することができる。
【0091】
また、特にゼオライトの場合には、電池セル50が冷却され、熱伝達抑制シート1内の脱水剤の温度が低下した後は、熱伝達抑制シート1周囲の水分を再び吸着することとなるため、繰り返し行われる充放電サイクルに対して何度でも再利用することができる。
【0092】
脱水剤の配合量としては、熱伝達抑制シート10を構成する材料の合計質量に対して、好ましい上限が90質量%であり、より好ましい上限は65質量%である。
これに対し、脱水剤の配合量の好ましい下限は10質量%であり、より好ましい下限は35質量%である。この配合量が10質量%未満では、十分な脱水効果が得られないおそれがある。また、この配合量が90質量%を超えると、熱伝達抑制シート1としての十分な強度を保つことができないおそれがある。
【0093】
なお、上記で説明した、熱分解開始温度が200℃以上の無機水和物と、150℃以下の温度で脱水可能な脱水剤は、それぞれ単独で用いてもよいが、これらを併用することが好ましい。これらを併用することにより、異常時の熱伝達抑制と、通常使用時の冷却を両立する効果をより一層発揮することができる。すなわち、構造面からの上記課題の両立に加え、異常時と通常使用時にそれぞれ吸熱作用を発揮する材料を併用することによる、材料面からの上記課題の両立も図ることが可能となる。
【0094】
[2-2.断熱材]
断熱材の具体的な材料としては、無機繊維及び無機粒子のうち少なくともいずれか一方を含むものであれば良く、これらのうちいずれか一方を含むことで断熱材としての効果を発揮させることができる。ただし、無機繊維および無機粒子の両方を含むことにより、無機繊維が絡み合って生じた構造中の連続した空隙を無機粒子が分断することができるため、熱伝達抑制シート1における対流伝熱を有効に低減することが可能となり、断熱効果をより効果的に発揮することができる。
【0095】
(2-2-1.無機繊維)
無機繊維としては、例えば、シリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維、ジルコニア繊維およびチタン酸カリウムウィスカ繊維などが挙げられる。これらの無機繊維は、耐熱性、強度、入手容易性などの点で好ましい。無機繊維は、単独で使用してもよいし2種以上組み合わせて使用してもよい。無機繊維のうち、取り扱い性の観点から、特にシリカ-アルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ロックウール、アルカリアースシリケート繊維、ガラス繊維が好ましい。
【0096】
無機繊維の断面形状は、特に限定されず、円形断面、平断面、中空断面、多角断面、芯断面などが挙げられる。中でも、中空断面、平断面または多角断面を有する異形断面繊維は、断熱性が若干向上されるため好適に使用することができる。
【0097】
無機繊維の平均繊維長の好ましい下限は0.1mmであり、より好ましい下限は0.5mmである。一方、無機繊維の平均繊維長の好ましい上限は50mmであり、より好ましい上限は10mmである。無機繊維の平均繊維長が0.1mm未満であると、無機繊維同士の絡み合いが生じにくく、得られる熱伝達抑制シート10の機械的強度が低下するおそれがある。一方、50mmを超えると、補強効果は得られるものの無機繊維同士が緊密に絡み合うことができなったり、単一の無機繊維だけで丸まったりし、それにより連続した空隙が生じやすくなるので断熱性の低下を招くおそれがある。
【0098】
無機繊維の平均繊維径の好ましい下限は1μmであり、より好ましい下限は2μmであり、更に好ましい下限は3μmである。一方、無機繊維の平均繊維径の好ましい上限は10μmであり、より好ましい上限は7μmである。無機繊維の平均繊維径が1μm未満であると、無機繊維自体の機械的強度が低下するおそれがある。また、人体の健康に対する影響の観点より、無機繊維の平均繊維径が3μm以上であるが好ましい。一方、無機繊維の平均繊維径が10μmより大きいと、無機繊維を媒体とする固体伝熱が増加して断熱性の低下を招くおそれがあり、また、熱伝達抑制シート10の成形性が悪化するおそれがある。
【0099】
この無機繊維は、熱伝達抑制シート1を構成する材料の合計重量に対して、10~70質量%の範囲で必要に応じて使用することができる。
【0100】
(2-2-2.無機粒子)
無機粒子としては、例えば、TiO2粉末、SiO2粉末、BaTiO3粉末、PbS粉末、ZrO2粉末、SiC粉末、NaF粉末およびLiF粉末などが挙げられる。これらの無機粒子は、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0101】
無機粒子を組み合わせて使用する場合、好ましい組み合わせとしては、TiO2粉末とSiO2粉末との組み合わせ、TiO2粉末とBaTiO3粉末との組み合わせ、SiO2粉末とBaTiO3粉末との組み合わせ、または、TiO2粉末とSiO2粉末とBaTiO3粉末との組み合わせが挙げられる。
【0102】
なお、TiO2粉末は、赤外線に対する屈折率が高く、高温域での断熱性を向上させる効果がある。また、SiO2粉末は、固体熱伝達率が低く、微小粒子で細かい空隙を作りやすいため、対流が抑制され低温域での断熱性を向上させる効果がある。よって、TiO2粉末およびSiO2粉末を併用することにより、低温域から高温域に至る広い温度領域での断熱性が期待できるため、これらの組合せが特に好ましい。
【0103】
熱伝達抑制シート10を構成する材料として無機粒子および無機繊維の両方を含む場合、無機繊維の配合量としては、熱伝達抑制シート10を構成する材料の合計重量に対して、好ましい上限が50質量%であり、更に好ましい上限は40質量%である。一方、無機繊維の配合量の好ましい下限は5質量%であり、更に好ましい下限は10質量%である。この配合量が5質量%未満では、無機繊維による補強効果が得られず、熱伝達抑制シート10の取り扱い性、機械的強度が低下するおそれがあり、また、良好な成形性が得られないおそれがある。一方、この配合量が50質量%を超えると、熱伝達抑制シート10を構成する無機繊維が絡み合った構造において連続した空隙が多く存在することになり、対流伝熱、分子伝熱、輻射伝熱が増大するため、断熱特性が低下するおそれがある。
【0104】
熱伝達抑制シート10を構成する材料として無機粒子および無機繊維の両方を含む場合、無機粒子の配合量としては、熱伝達抑制シート10を構成する材料の合計重量に対して、好ましい上限が95質量%であり、更に好ましい上限は90質量%である。これに対し、無機粒子の配合量の好ましい下限は50質量%であり、更に好ましい下限は60質量%である。無機粒子の配合量が上記範囲にあると、無機繊維による補強効果を維持しつつ、無機繊維の交絡構造中の連続した空隙を分断することによる、対流伝熱の低減効果を得ることができる。
【0105】
無機粒子の平均粒径の好ましい下限は0.5μmであり、より好ましい下限は1μmである。一方、上記無機粒子の平均粒径の好ましい上限は20μmであり、より好ましい上限は10μmである。上記無機粒子の平均粒径が0.5μm未満では熱伝達抑制シート1の製造が困難になるばかりでなく、輻射熱の散乱が不十分になり、熱伝達抑制シート1の熱伝達率が上昇(すなわち、断熱性が低下)してしまうおそれがある。一方、無機粒子の平均粒径が20μmを超えると、熱伝達抑制シート10中に生じる空隙が極めて大きくなってしまうため、対流伝熱および分子伝熱が増大し、この場合も熱伝達率が上昇してしまう。
【0106】
なお、無機粒子の形状としては、平均粒径が上記範囲内にあれば特に限定されず、例えば、球体、楕円体、多面体、表面に凹凸や突起を有する形状および異形体などの任意の形状が挙げられる。
【0107】
また、無機粒子において、波長1μm以上の光に対する屈折率の比(比屈折率)が1.25以上であることが好ましい。上記無機粒子は、輻射熱の散乱材として極めて重要な役割を有しており、屈折率が大きいほど、輻射熱をより効果的に散乱させることができる。また、比屈折率については、フォノン伝導の抑制について極めて重要であり、この値が大きいほど抑制効果が良好である。
【0108】
フォノン伝導を抑制することができる材料としては、一般的に、結晶内に格子欠陥を有している物質もしくは、複雑な構造を有している物質が知られている。前述のTiO2やSiO2、BaTiO3は格子欠陥を有しやすく、複雑な構造を有しているので、輻射熱の散乱だけでなく、フォノンの散乱にも効果的であると考えられる。
【0109】
更に、無機粒子として、波長10μm以上の光に対する反射率が70%以上である無機粒子を好適に使用することができる。波長10μm以上の光は、いわゆる赤外線~遠赤外線波長領域の光であり、この波長領域の光に対する反射率が70%以上であることで、輻射伝熱をより有効に低減させることができる。
【0110】
無機粒子の固体熱伝達率は、室温で20W/m・K以下であることが好ましい。室温での固体熱伝達率が20W/m・Kより大きい無機粒子を原料として用いると、熱伝達抑制シート1中において固体伝熱が支配的になり、熱伝達率が上昇(断熱性が低下)してしまうおそれがある。
【0111】
なお、本実施形態において、無機繊維とはアスペクト比が3以上である無機材料をいう。一方、無機粒子とはアスペクト比が3未満である無機材料をいう。また、アスペクト比とは、物質の短径aに対する長径bの比(b/a)を意味する。
【0112】
熱伝達抑制シート10を構成する材料として、有機バインダーを必要に応じて使用してもよい。有機バインダーは、成形時の強度向上を目的とする上で有用であり、例えば高分子凝集剤やアクリルエマルジョンなどを好適に使用することができる。
有機バインダーの配合量としては、熱伝達抑制シート1を構成する材料の合計重量に対して0.5~5.0質量%の範囲で必要に応じて使用することができる。
【0113】
熱伝達抑制シート10を構成する波板状シート30の厚さとしては特に限定されないが、0.05~5mmの範囲にあることが好ましく、組電池100の体積エネルギー密度からは薄いほど好ましいことを考慮すると1mm以下がより好ましい。波板状シート30の厚さが0.05mm未満であると、充分な機械的強度を熱伝達抑制シート10に付与することができない。一方、波板状シート30の厚さが5mmを超えると、熱伝達抑制シート1の成形自体が困難となるおそれがある。
【0114】
熱伝達抑制シート10は、高温での強度維持を目的として無機バインダーを含んでいてもよい。無機バインダーとしては、例えば、コロイダルシリカ、合成マイカ、モンモリロナイトなどが挙げられる。無機バインダーは、単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0115】
この無機バインダーは、熱伝達抑制シート10の構成材料の合計重量に対し、1~10質量%の範囲で必要に応じて使用することができる。無機バインダーの使用態様としては、例えば、原料中に混合したり、もしくは得られた断熱材へ含浸したりして使用することができる。
【0116】
更に、熱伝達抑制シート10の構成材料として有機弾性物質を必要に応じて使用してもよい。この有機弾性物質は、熱伝達抑制シート10に柔軟性を持たせる場合において有用であり、例えば、天然ゴムのエマルジョンやアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などの合成ゴムラテックスバインダーを好適に使用することができる。特に、熱伝達抑制シート10を湿式成形法にて製造する場合には、有機弾性物質を使用することにより柔軟性を向上させることができる。
【0117】
有機弾性物質の配合量は、熱伝達抑制シート10の構成材料の合計重量に対し0~5質量%の範囲であることが好ましい。有機弾性物質は、その配合量が5質量%を超えると、700℃以上の高温域で使用する際に有機弾性物質が焼失し、空隙が著しく増大するため、断熱性が低下してしまうおそれがある。
【0118】
<3.シート構造体>
本発明は、上記の熱伝達抑制シート10を積層したシート構造体を含む。
図8に示すシート構造体40は、複数の熱伝達抑制シート10を、波板状シート30の波高方向に重ね合わせて構成されている。図示されるシート構造体40は、各熱伝達抑制シート10における波板状シート30の位相が合わされて(すなわち、同位相)、3層に積層されている。熱伝達抑制シート10を積層することで、単層の熱伝達抑制シート10と比較して、剛性がより向上するとともに、吸熱性能及び断熱性能もより向上する。また、熱伝達抑制シート10を積層することで、隣接する電池セル50の間隔に応じて、より多様な対応が可能になる。
【0119】
なお、
図8に示すシート構造体40は、平板状シート20と波板状シート30とで形成される空間36が同一方向を向いているが、少なくとも1つの波板状シート30(例えば、真ん中)の波の方向を、他の波板状シート30の波の方向と異なる方向(例えば直交する方向)に向け、空間36の空気流の方向を互いに変えて、熱を分散して逃がして冷却するようにしてもよい。
【0120】
あるいは、
図9に示すシート構造体40のように、重ね合わせ方向に隣接する波板状シート30同士において、波板状シート30の波形が互いに逆位相の関係を有するように積層してもよい。このように構成することで、シート構造体40の剛性を更に向上させることができる。
【0121】
なお、シート構造体40においても、波板状シート30に連結部35を形成してもよい。
【0122】
<4.組電池>
本発明は、上記熱伝達抑制シート10やシート構造体40を、電池セル間に配置した組電池も含む。
図10及び
図11に示すように、複数の電池セル50が、熱伝達抑制シート10を介して配置され、複数の電池セル50同士が直列または並列に接続された状態(接続された状態は図示を省略する。また、直列と並列の併用であっても構わない。)で、電池ケース60に格納されて組電池100が構成される。
【0123】
図示される組電池100は、各熱伝達抑制シート10の波板状シート30の波の方向が同一方向に向けられて電池セル50間に配置された例である。なお、熱伝達抑制シート10は、シート構造体40で置き換えることもできる。また、一方を熱伝達抑制シート10とし、他方をシート構造体40としてもよい。
【0124】
ここで、組電池100を組み立てる際、隣接する電池セル50の間隔は、組み付け誤差を有する。しかし、本発明の熱伝達抑制シート10によれば、波板状シート30の波が変形することによる柔軟性を有するため、各電池セル50間の寸法差を吸収することができ、組み付けが容易になる。また、熱伝達抑制シート10が波板状シート30のみの場合と比べて、平板状シート20により剛性が高められているため、組み付け性がより向上する。
【0125】
図12は、組電池100の他の形態を示す斜視図である。図示される組電池100では、各熱伝達抑制シート10における波板状シート30の波の方向が、互いに異なる方向(例えば、直交)に向けられて電池セル50の間に配置されている。これにより、電池セル50からの熱を、互いに異なる方向へ分散して逃がすことができるため、
図10及び
図11のように一方向のみに熱を逃がす場合と比べ、より効果的に熱を逃がすことができる。
その他の構成及び効果は、
図10及び
図11に示した組電池100と同様である。
【0126】
<5.熱伝達抑制シートの製造方法>
続いて、熱伝達抑制シート10の製造方法について、
図13を参照して説明する。なお、ここでは、
図1に示す熱伝達抑制シート10を例にして説明する。
【0127】
熱伝達抑制シート10は、乾式成形法または湿式成形法により型成形して製造される。
【0128】
[5-1.乾式成形法を用いて製造する場合]
乾式成形法では、吸熱材及び/または断熱材、更に必要に応じて上記した他の材料を所定の割合でV型混合機などの混合機に投入する。そして、混合機に投入された材料を充分に混合した後、所定の型内に混合物を投入し、プレスすることにより平板状の熱伝達抑制シート素材10Aを得る。プレス時には、必要に応じて加熱してもよい。
【0129】
上記プレス圧は、0.98MPa以上の範囲であることが好ましい。プレス圧が0.98MPa未満であると、得られる熱伝達抑制シート素材10Aにおいて、強度を保つことができずに崩れてしまうおそれがある。
【0130】
[5-2.湿式成形法を用いて製造する場合]
湿式成形法では、吸熱材及び/または断熱材、更に必要に応じて上記した他の材料を水中で混合撹拌して充分に分散させ、その後、凝集剤を添加して、一次凝集体を得る。必要に応じて有機弾性物質のエマルジョンなどを所定の範囲内で上記水中に添加した後、高分子凝集剤を添加することにより凝集体を含むスラリーを得る。
【0131】
次に、上記凝集体を含むスラリーを所定の型内へ投入して湿潤した熱伝達抑制シート素材10Aを得た後、乾燥することにより、目的の熱伝達抑制シート素材10Aが得られる。
【0132】
このように、熱伝達抑制シート素材10Aは、乾式成形法または湿式成形法のいずれによっても得られるが、一体成形の容易性や機械的強度の点から湿式成形法を用いることが好ましい。
【0133】
[5-3.平板状シート20と波板状シート30の一体化]
得られた熱伝達抑制シート素材10Aは、
図13に示すように、所望のエンボス形状を有し、対向配置された2つのエンボスローラー70で上下から挟みこんで、熱伝達抑制シート素材10Aを波形に形成して波板状シート30とする。次いで、一対のエンボスローラー70の下流側に配置されたフラットローラー72により、波板状シート30の下面に、平板状シート20となる熱伝達抑制シート素材10Aを接着剤等により接着することで、平板状シート20と波板状シート30が一体化された熱伝達抑制シート10が得られる。
【0134】
なお、熱伝達抑制シート素材10Aは、湿潤した熱伝達抑制シート素材10Aを用いることもでき、その場合は、湿潤した波板状シート30の下面に、平板状シート20となる湿潤した熱伝達抑制シート素材10Aを加圧して製造する。
【0135】
[5-4.連結部の形成]
図5に示すような波31を補強するための連結部35を形成する場合には、上記のエンボスローラー70及びフラットローラー72からなるユニットを2列、あるいは複数列、ある間隔を空けて隣接する。ユニットとユニットとの間は、ギア歯が存在しないため平坦面のままとなり、この平坦面が連結部35となる。
【0136】
また、
図6Aに示すような、連結部35が波31の底部38から波高の途中まで形成されていている熱伝達抑制シート10を製造する場合には、例えば、上下一対のエンボスローラー70,70における軸方向中央部分が、
図6Aおける連結部35の形状に合ったギア歯を有するエンボスローラー70,70を用いることができる。
【0137】
なお、本発明は、前述した各実施形態や変形例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【符号の説明】
【0138】
10 (組電池用)熱伝達抑制シート
10A 熱伝達抑制シート素材
20 平板状シート
22 (平板状シートの表面における)凹凸形状
24 貫通孔
26 波板状シートの両端面
30 波板状シート
31 波
31a,31b 波の山
32 (波板状シートの表面における)凹凸形状
34 固体材料
35 連結部
36,37 空間
38 波の底部
39 波の頂部
40 シート構造体
50 電池セル
60 電池ケース
70 エンボスローラー
72 フラットローラー
100 組電池
tp 平板状シートの厚さ
tw 波板状シートの厚さ