(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】圧力センサ素子および圧力センサ
(51)【国際特許分類】
G01L 7/08 20060101AFI20221129BHJP
G01L 19/06 20060101ALI20221129BHJP
H01L 29/84 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G01L7/08
G01L19/06 A
H01L29/84 B
H01L29/84 A
(21)【出願番号】P 2018219540
(22)【出願日】2018-11-22
【審査請求日】2021-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 祐希
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 里奈
(72)【発明者】
【氏名】新村 悠祐
【審査官】公文代 康祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-004592(JP,A)
【文献】特開平08-159900(JP,A)
【文献】特開平08-193904(JP,A)
【文献】特開2009-264890(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0180502(US,A1)
【文献】特開平06-241930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 7/00-23/32
G01L 27/00-27/02
H01L 29/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象の流体の圧力を受ける第1主面及びこの第1主面の反対側に位置する第2主面を有するダイアフラムと、
筒状を呈し前記ダイアフラムの外周縁とその内周壁で接続するハウジングと、
を備え、
前記ハウジングは、固定要素を通じた締付力が自身の外周壁に作用することで前記流体が流れる配管と圧着するように構成され、
前記ダイアフラムは、
前記締付力に起因する力であって、前記内周壁を通じて
前記第1主面および前記第2主面の少なくとも1つに沿って作用する力に対して所定の剛性を有する剛性領域と、この剛性領域よりも前記力に対して変形し易い変形領域とから形成され
、
前記剛性領域の少なくとも一部は、前記ダイアフラムの中央部から前記ダイアフラムの外周縁へ至る領域として形成されている
ことを特徴とする圧力センサ素子。
【請求項2】
請求項1に記載の圧力センサ素子において、
前記変形領域は、前記力に対する剛性が異なる少なくとも2つの領域を含んでいる
ことを特徴とする圧力センサ素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の圧力センサ素子において、
前記変形領域の少なくとも一部は、前記第1主面および第2主面の少なくとも1つに形
成されかつ前記剛性領域に比べて相対的に膜厚が薄い薄肉部である
ことを特徴とする圧力センサ素子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の圧力センサ素子において、
前記変形領域の少なくとも一部の膜厚中心は、前記剛性領域の少なくとも一部の膜厚中心から前記ダイアフラムの膜厚方向へオフセットしている
ことを特徴とする圧力センサ素子。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の圧力センサ素子において、
前記変形領域の少なくとも一部は、前記ダイアフラムの外周縁から中心に向けて形成された溝を含む
ことを特徴とする圧力センサ素子。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の圧力センサ素子において、
前記変形領域の少なくとも一部は、前記ダイアフラムの外周縁から中心に向かう直線と交わるように形成された溝を含む
ことを特徴とする圧力センサ素子。
【請求項7】
請求項6に記載の圧力センサ素子において、
前記変形領域の少なくとも一部は、同一の前記直線と交わるように形成された少なくとも2つの溝を含む
ことを特徴とする圧力センサ素子。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の圧力センサ素子において、
前記ダイアフラムの外周縁は円形状であって、前記変形領域は、前記外周縁と同心円上に形成された溝を含む
ことを特徴とする圧力センサ素子。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の圧力センサ素子において、
前記剛性領域の少なくとも一部は、前記ダイアフラムの中心から外周縁に至る直線状の剛性領域として形成されている
ことを特徴とする圧力センサ素子。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の圧力センサ素子と、
前記第2主面上に配設され、前記ダイアフラムの変形に対応する所定の値を出力するセンシング部と、
前記所定の値に基づいて前記流体の圧力を算出する圧力算出部と、
を備える
ことを特徴とする圧力センサ。
【請求項11】
請求項10に記載の圧力センサにおいて、
前記ダイアフラムは、前記センシング部が配置されるセンシング領域を有し、
前記変形領域は、前記センシング領域と前記外周縁との間に形成されている
ことを特徴とする圧力センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力センサ素子および圧力センサに関し、特にサニタリー用圧力センサ素子および圧力センサに関する。
【背景技術】
【0002】
流体の圧力を検出する圧力センサのうち、衛生的な配慮が必要とされる食品分野や医薬品分野等の製造現場等で用いられるサニタリー用圧力センサに対しては、一般的に耐食性、清浄性、信頼性および汎用性等に関して厳しい要件が課せられている。
【0003】
例えば、耐食性の要件から、サニタリー用圧力センサは、圧力の測定対象の流体(例えば液体)が接触する接液部分にステンレス鋼(SUS)、セラミックスおよびチタン等の耐食性の高い材料を用いなければならない。また、清浄性の要件から、サニタリー用圧力センサは、洗浄しやすいフラッシュダイアフラム構造を有し、且つ蒸気洗浄に対する高い耐熱衝撃性を有していなければならない。また、信頼性の要件から、サニタリー用圧力センサは、封入剤を使用しない構造(オイルフリー構造)およびダイアフラムが破れ難い構造(バリア高剛性)を有していなければならない。
【0004】
このように、サニタリー用圧力センサは、使用する材料や構造が他の圧力センサに比べて制限されるため、高感度化が容易ではない。例えば、ダイアフラムが破れ難い構造を実現するためには、ダイアフラムの膜厚を大きくする(ダイアフラムの厚みに対する径のアスペクト比を小さくする)必要があるが、ダイアフラムの膜厚を大きくするとダイアフラムの変形が微小となり、センサ感度が低下するという問題が生じる。このため、サニタリー用圧力センサでは、ダイアフラムの微小な変形を精度良く検出するための技術が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1、2には、拡散抵抗から成るひずみゲージが形成されたSi等の半導体チップ(ビーム部材)に、ダイアフラムの中心部分の変位のみを伝達し、上記半導体チップの歪に基づくピエゾ抵抗効果による拡散抵抗の抵抗値の変化を検出することでセンサの高感度化を狙った荷重変換型の圧力センサが記載されている。
【0006】
この特許文献1、2に記載の従来の荷重変換型の圧力センサでは、平面視長方形状の半導体チップの中心部分をダイアフラムの中心部分において支持するとともに、上記半導体チップの両端を実質的に変動しない位置に固定している。例えば、特許文献1では、短冊状の半導体チップの中心をピボットと呼ばれる棒状部材によってダイアフラムの中心において支持するとともに、半導体チップの長手方向の両端を、絶縁架台を介してダイアフラムの外周縁に形成された厚肉部分に固定している。また、特許文献2では、矩形状の半導体チップの中心をダイアフラムの中心に固定するとともに、半導体チップの長手方向の両端を変動しない台座上に固定している。
【0007】
ここで、サニタリー用圧力センサでは、測定対象の流体が流れる配管との接続部分に継手(例えばフェルール継手)が一般的に採用されている。この配管とサニタリー用圧力センサとの接続は、クランプバンド(以下、単に「クランプ」とも称する。)と呼ばれる接続部材を用いることによって実現される。具体的には、配管の継手とサニタリー用圧力センサの継手とを対向させて配置し、その2つの継手をクランプのリング状の固定部によって挟み込み、ネジによって固定部を締め付けることによって、配管とサニタリー用圧力センサとを接続する。
【0008】
クランプを用いて配管とサニタリー用圧力センサとを接続した場合、サニタリー用圧力センサのダイアフラムが少なからず変形し、ひずみゲージを構成する各抵抗の抵抗値が変化することにより、センサ出力のゼロ点(オフセット)がシフトするおそれがある。上記特許文献1、2に記載された平面視長方形状の半導体チップを有する圧力センサの場合、クランプを締め付けるネジの位置によって、ひずみゲージを構成する各抵抗の抵抗値のずれ量が変化するため、クランプを締め付ける位置によってゼロ点のシフト量がばらつく(以下、このばらつきを単に「ゼロ点のシフト量のばらつき」とも称する。)。したがって、このような圧力センサにあっては、センサ出力のゼロ点を補償するために、クランプを締め付ける位置によってゼロ点の補正量を変えるか、または、ユーザに対して、クランプを締め付ける位置を予め指定しなければならない。
【0009】
そこで、特許文献3に記載された圧力センサにおいては、以下に示す構成によって、配管と圧力センサとをクランプを用いて接続したときの、センサ出力におけるゼロ点のシフト量のばらつきを抑えることを可能にしている。
すなわち、測定流体の圧力を受ける第1主面とこの第1主面の反対側に位置する第2主面とを備えるダイアフラムにおいて、前記第2主面の中心に第1構造体を配設し、また、この第1構造体と離間する位置にあってかつ平面視において前記第2主面の中心を通り互いに直交する2本の直線上に少なくとも2つの第2構造体を設け、さらに、これら第1構造体および少なくとも2つの第2構造体によって2組の抵抗対(例えば、第1抵抗と第2抵抗とからなる抵抗対と、第3抵抗と第4抵抗とからなる抵抗対)が配設されたホイートストンブリッジ回路からなるひずみゲージを備えた半導体チップを支持する。当該構成に加えて、上記2組の抵抗対を、それぞれ平面視で第1構造体と少なくとも2つの第2構造体との間の領域にあって、かつ各組の一方の抵抗同士、例えば、第1抵抗と第4抵抗、および第2抵抗と第3抵抗とを、ともに同一方向に延在するように配置する。このような構成によれば、ダイアフラムが変形すると、第1抵抗と第4抵抗および第2抵抗と第3抵抗が同一の方向に伸縮するため、センサ出力におけるゼロ点のシフト量のばらつきを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2004-45140号公報
【文献】特開昭63-217671号公報
【文献】特開2018-4592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した特許文献3に記載の発明は、クランプ締付位置が変わることによるダイアフラムの変形態様のばらつき(以下、単に「ダイアフラムの変形態様のばらつき」と称することがある。)を容認した上で、上述したような構造的な工夫、すなわち、ひずみゲージ含む半導体チップを積載する構造体をダイアフラム上に立設しかつひずみゲージを構成する抵抗の配置を工夫することで、クランプ締付位置が変わることによるゼロ点のシフト量のばらつきを、いわば間接的に抑制するものである。しかしながら、ダイアフラムの変形態様のばらつき自体を抑制できれば、上記工夫を要することなくゼロ点のシフト量のばらつきを低減することができる。
【0012】
そこで本発明では、ダイアフラムの変形態様のばらつき自体を抑制することで、ゼロ点のシフト量のばらつきを抑えた圧力センサ素子およびこれを含む圧力センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る圧力センサ素子(1)は、測定対象の流体の圧力を受ける第1主面及びこの第1主面の反対側に位置する第2主面を有するダイアフラム(20)と、筒状を呈し前記ダイアフラムの外周縁(20E)とその内周壁(30A)で接続するハウジング(30)とを備え、前記ダイアフラムは、前記内周壁を通じて作用する力に対して所定の剛性を有する剛性領域と、この剛性領域(25)よりも前記力に対して変形し易い変形領域(薄肉部24)とから形成されていることを特徴とする。
【0014】
前記圧力センサ素子において、前記変形領域は、前記力に対する剛性が異なる少なくとも2つの領域を含んでいるように構成してもよい。
【0015】
また、前記圧力センサ素子において、前記変形領域の少なくとも一部は、前記第1主面および第2主面の少なくとも1つに形成されかつ前記剛性領域に比べて相対的に膜厚が薄い薄肉部(24)であるように構成してもよい。
【0016】
さらに、前記圧力センサ素子において、前記変形領域の少なくとも一部の膜厚中心は、前記剛性領域の少なくとも一部の膜厚中心から前記ダイアフラムの膜厚方向へオフセットするように構成してもよい。
【0017】
また、前記圧力センサ素子において、前記変形領域の少なくとも一部は、前記ダイアフラムの外周縁から中心に向けて形成された溝を含むように構成してもよい。
【0018】
さらに、前記圧力センサ素子において、前記変形領域の少なくとも一部は、前記ダイアフラムの外周縁から中心に向かう直線と交わるように形成された溝を含むように構成してもよい。
【0019】
また、前記圧力センサ素子において、前記変形領域の少なくとも一部は、同一の前記直線と交わるように形成された少なくとも2つの溝を含むように構成してもよい。
【0020】
さらに、前記圧力センサにおいて、前記ダイアフラムの外周縁は円形状であって、前記変形領域は、前記外周縁と同心円上に形成された溝を含むように構成してもよい。
【0021】
また、前記圧力センサ素子において、前記剛性領域の少なくとも一部は、前記ダイアフラムの中心から外周縁に至る直線状の剛性領域として形成されるように構成してもよい。
【0022】
さらに、前記圧力センサ素子を含み、前記第2主面上に配設され、前記ダイアフラムの変形に対応する所定の値を出力するセンシング部(50)と、前記所定の値に基づいて前記流体の圧力を算出する圧力算出部(80)とを備える圧力センサ(10)であってもよい。
【0023】
また、前記圧力センサにおいて 前記ダイアフラムは、前記センシング部が配置されるセンシング領域(23)を有し、前記変形領域が、前記センシング領域と前記外周縁との間に形成されるように構成してもよい。
【0024】
なお、上記説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、クランプを用いて配管と圧力センサとを接続する際、このクランプの締付位置がダイアフラムの変形態様に及ぼす影響を小さくすることができる。これによって、「センサ出力におけるゼロ点のシフト量のばらつき」を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る圧力センサ素子およびこれを含む圧力センサの断面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明の実施の形態に係る圧力センサ素子が備えるダイアフラムの平面図である。
【
図2C】
図2Cは、本発明の実施の形態に係る圧力センサ素子が備える別の仕様のダイアフラムの垂直断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態に係る圧力センサの構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施の形態に係る圧力センサ素子と配管との接続態様を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態に係る圧力センサ素子と配管とを接続する際に用いられるクランプの概要図である。
【
図6A】
図6A(a)は、従来のダイアフラムの平面図であり、
図6A(b)は、従来のダイアフラムの変形態様を表すコンター図である。
【
図6B】
図6Bは、圧力センサが備える従来のダイアフラムの変形態様を表すコンター図である。
【
図6C】
図6Cは、圧力センサが備える従来のダイアフラムの変形態様を表すコンター図である。
【
図7A】
図7Aの(a)は、本発明の実施の形態に係る圧力センサ素子が備えるダイアフラムの平面図であり、同(b)、(c)および(d)は、このダイアフラムの変形態様を表すコンター図である。
【
図7B】
図7Bの(a)は、本発明の実施の形態に係る圧力センサ素子が備えるダイアフラムの平面図であり、同(b)、(c)および(d)は、このダイアフラムの変形態様を表すコンター図である。
【
図7C】
図7Cの(a)は、本発明の実施の形態に係る圧力センサ素子が備えるダイアフラムの平面図であり、同(b)、(c)および(d)は、このダイアフラムの変形態様を表すコンター図である。
【
図7D】
図7Dの(a)は、本発明の実施の形態に係る圧力センサ素子が備えるダイアフラムの平面図であり、同(b)、(c)および(d)は、このダイアフラムの変形態様を表すコンター図である。
【
図7E】
図7Eの(a)は、本発明の実施の形態に係る圧力センサ素子が備えるダイアフラムの平面図であり、同(b)、(c)および(d)は、このダイアフラムの変形態様を表すコンター図である。
【
図7F】
図7Fの(a)は、本発明の実施の形態に係る圧力センサ素子が備えるダイアフラムの平面図であり、同(b)、(c)および(d)は、このダイアフラムの変形態様を表すコンター図である。
【
図7G】
図7Gの(a)は、本発明の実施の形態に係る圧力センサ素子が備えるダイアフラムの平面図であり、同(b)、(c)および(d)は、このダイアフラムの変形態様を表すコンター図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施の形態に係る圧力センサ素子が備えるダイアフラムの変形態様を表すコンター図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施の形態に係る圧力センサの一部を構成するセンシング部のひずみゲージの構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
≪圧力センサ素子およびこれを含む圧力センサの構成≫
はじめに、本実施の形態に係る圧力センサ素子1およびこれを含む圧力センサ10の構成を、
図1ないし4を参照しながら説明する。なお、説明文中の前後方向、上下方向および左右方向は、
図4に示された圧力センサ素子1の紙面に対する奥行き方向、上下方向および左右方向としてそれぞれ定義されるものとする。
【0028】
圧力センサ素子1は、
図1に示すように、ダイアフラム20と、このダイアフラム20の外周縁20Eに接続してこれを支持するハウジング30とから構成されている。
【0029】
また、圧力センサ10は、圧力センサ素子1を含み、さらに、ダイアフラム20の変形(量)を電気的信号として検出し所定の値を出力するセンシング部50と前記所定の値に基づいて前記流体の圧力を算出する圧力算出部80とを備える。
【0030】
ダイアフラム20は、測定対象である流体Fから圧力Pを受ける薄膜状の要素であって、例えば、円盤状に薄く成形されたステンレス鋼(SUS)からなるが、セラミックスまたはチタン等の耐食性の高い他の材料を用いてダイアフラム20を成形してもよい。ダイアフラム20の下面21は、流体Fと接して圧力Pを受ける接液面(本発明における「第1主面」に相当する。)であり、また、ダイアフラム20の上面22は、センシング部50が配設される変形測定面(本発明における「第2主面」に相当する。)であり、大気圧を受ける受圧面としても機能する。
【0031】
上面22には、
図1および
図2Aに示すように、その略中央に、後述するセンシング部50を構成する半導体チップ51が配設されるセンシング領域23(図中の破線で囲まれた領域)が設けられている。このセンシング領域23は、例えば円形状を呈する外周縁20Eの略1/3の直径をもつ円形領域として形成されている。
また、このセンシング領域23と外周縁20Eとの間に、凹部からなる薄肉部24が設けられている。
【0032】
凹部からなる薄肉部24は、円筒状を呈するハウジング30の内周壁を通じて作用する力、具体的には後述する「クランプ締付力Fc」に対して変形し易い「変形領域(「変形領域24」と称することもある。)」を形成している。この薄肉部24は、後述するように、平面視における配置パターンに関して種々の形態をとり得る。ここでは、
図2Aで示される配置パターン(この配置パターンは、後述する
図7Fに示す配置パターン6に相当する。)に基づいてその構成を説明する。
【0033】
薄肉部24は、例えば、
図2Aに示すように、平面視において、円形状を呈するダイアフラム20の外周縁20Eと同心の円周上(同心円に沿って)に配設された略円弧状を呈する24個の凹部から形成されている。これら凹部のうち最も半径の大きな同心円(例えば、半径がダイアフラム外周縁20Eの半径の略4/5の同心円)上にあってその表面積が最大の8つの凹部によって第1薄肉部群24aが形成され、また、2番目に半径の大きな同心円(例えば、半径がダイアフラム外周縁20Eの半径の略3/5の同心円)上にあってその表面積が2番目に大きな8つの凹部によって第2薄肉部群24bが形成され、さらに、最も半径の小さな同心円(例えば、半径がダイアフラム外周縁20Eの半径の略2/5の同心円)上にあってその表面積が最小の8つの凹部によって第3薄肉部群24cが形成されている。第1薄肉部群24a、第2薄肉部群24bおよび第3薄肉部群24cをそれぞれ構成する前記8つの凹部は、いずれも、平面視において略45度の等間隔で配置されている。このように、薄肉部24(第1薄肉部群24a、第2薄肉部群24bおよび第3薄肉部群24c)を構成する複数の凹部は、全てダイアフラム20の外周縁20Eから中心に向かう直線と交わる溝として形成されている。
【0034】
3つの同心円上にある第1薄肉部群24a、第2薄肉部群24bおよび第3薄肉部群24cを形成する凹部は、例えばダイアフラム上面22の一部を切削した切削溝からなり、それぞれの周方向の長さ(凹部1個あたりの周方向の長さ)は、例えば各同心円の周長の略3/32(換言すれば、第1薄肉部群24a、第2薄肉部群24bおよび第3薄肉部群24cの各郡を構成する8つの凹部の周方向の合計長は、各同心円の周長の略3/4)であり、その溝幅(半径方向の長さ)は、例えばダイアフラム20の半径の略1/15である。また、薄肉部24の膜厚T2は、例えば剛性領域25の膜厚T1の略1/10(例えば後述するように、T1は略0.5mm、T2は略0.05mm)であり、したがって、切削溝からなる凹部の溝深さ(上下方向の長さ=溝の高さ)は、剛性領域25の膜厚T1の略9/10である(溝深さは略0.95mm)。
なお、薄肉部群24を形成する凹部の周方向長さ、溝幅、溝深さは、上記値に限定されるわけではなく、詳細については後述するクランプ締付力Fcの大きさ、ダイアフラムを形成する材料のヤング率、および測定対象である流体Fの圧力P等の諸条件を考慮して適宜設定され得る。
【0035】
また、上面22のその他の部分は、薄肉部24よりも肉厚であって所定の剛性(薄肉部24よりも高い剛性)を有する剛性領域25として形成されている。この剛性領域25のうちの一部は、
図2Aに示すように、平面視において略45度の等間隔でセンシング領域23から外周縁20Eに至る放射状に延在した8本の直線状の剛性領域(後述する剛性領域25f)を形成している。
【0036】
このような凹部からなる薄肉部24がダイアフラム20の上面22に形成されることで、ダイアフラム20の下面21および上面22に沿って作用する水平方向の力に対する剛性(軸剛性および曲げ剛性)は低下する。この結果、クランプ締付力Fcがハウジング30の内周壁30Aを通じて外周縁20Eに印加されると、この力が加わる方向に沿ってダイアフラム20が伸縮するように変形しまたは曲がり易くなる。
【0037】
なお、変形領域24は、薄肉部24のみによって構成されるわけではない。例えば、膜厚を剛性領域25の膜厚T1と同値としつつ、膜厚中心のみを上下方向にオフセットした凹部形状であってもよい。このような膜厚中心がオフセットした凹部(より具体的には、膜厚中心が、後述するクランプ締付力Fcが作用する水平面に対して上下方向へオフセットした凹部)には曲げモーメントが作用するため、当該凹部から構成された変形領域24は、例え膜厚が同一であっても、専ら圧縮力または引張力のみが働く部分(より具体的には、膜厚中心が、後述するクランプ締付力Fcが作用する水平面内に含まれる部分としての剛性領域25)に比べて変形し易くなる。このような、膜厚中心のみがオフセットした凹部形状の一例として、
図2Cに示す垂直断面形状、すなわち、三角形状が連続する略蛇腹状の垂直断面形状をもつ凹部がある。この様な略蛇腹状の垂直断面形状をもつ変形領域24がダイアフラム20に形成されることで、ダイアフラム20の下面21および上面22に沿った水平方向の力に対する軸剛性(および/または曲げ剛性)を低下させることができる。この結果、クランプ締付力Fcがハウジング30の内周壁30Aを通じて外周縁20Eに印加されると、この力が加わる方向に沿ってダイアフラム20が伸縮する(または曲がる)ようにして変形し易くなる。
【0038】
ダイアフラム20とともに圧力センサ素子1を構成するハウジング30は、円筒状を呈した要素であって、耐食性の高い金属材料、例えばステンレス鋼(SUS)から形成されており、ダイアフラム20の外周縁20Eに接続してダイアフラム20を支持する。なお、ステンレス鋼(SUS)以外の耐食性の高い材料、例えばセラミックスまたはチタン等を用いてハウジング30を成形してもよい。ハウジング30の外周壁30Bの下部には、
図1および
図4に示すように、半径方向外側に向かって突出したフェルールフランジ部30fが設けられている。このフェルールフランジ部30fの上端面は、錐面からなるテーパ上面Pfとして形成されている。
【0039】
このフェルールフランジ部30fは、配管Hの接合端部に設けられたフェルールフランジ部Hfと重なり合うように接合し、後述するクランプ100によって、例えば
図4に示すように、上下方向および左右方向に作用する力によって挟持されることで互いが連結する構造(いわゆるフェルール継手構造)を構成している。なお、配管Hに設けられたフェルールフランジ部Hfの下端面は、例えばテーパ下面Phfとして形成されている。このテーパ下面Phfは、例えば接合するフェルールフランジ部30fのテーパ上面Pfと、その接合面に対して面対称の関係にある。
【0040】
ハウジング30の内周壁30Aは、その下部でダイアフラム20の外周縁20Eと接続し、ダイアフラム20と共に、流体Fが流れる配管Hの内部と隔絶された円柱状の空間を形成している。また、この空間には、次に述べるセンシング部50が配設されている。
【0041】
圧力センサ10の構成要素であるセンシング部50は、ダイアフラム20の変形(量)を検出し、この変形(量)に対応した電気的信号を出力するように構成されている。
本実施の形態におけるセンシング部50は、例えば、
図1に示すように、ダイアフラム20の上面22上に立設された複数の構造体51a、51b、51c、51eと、これら構造体51a、51b、51c、51eによって支持された半導体チップ51とから構成されている。この半導体チップ51は、例えば平面視略正方形に形成され、Si等の半導体材料からなる基板Bと、この基板Bの上に形成されたホイートストンブリッジ回路53から成るひずみゲージ52とを含む。
【0042】
ひずみゲージ52として機能するホイートストンブリッジ回路53は、
図9に示すように、ダイアフラム20上に貼設された抵抗素子R1ないしR4(例えば拡散抵抗)を具備し、ダイアフラム20の変形(量)を、以下のようにして電圧値の形で検出する。すなわち、ダイアフラム20が変形すると、この上に貼設された抵抗素子R1ないしR4の長さが変化して、その抵抗値Rが増減する。この抵抗値Rの変化を、一定の電流Iが流れたホイートストンブリッジ回路53を用いて、互いが並列に接続された2組の抵抗対(抵抗素子R1と抵抗素子R2とからなる抵抗対および抵抗素子R3と抵抗素子R4とからなる抵抗対)の接点Aと接点Bとの間の電圧値の変化として検出する。
【0043】
なお、上述の構造体51a、51b、51c、51eによって支持された半導体チップ51は、本発明者らが創作した特許文献3に記載の半導体チップに準じたものであるが、これら構造体51a、51b、51c、51eを介さずに、半導体チップ51を直接上面22に貼設してもよい。
【0044】
圧力センサ10の構成要素である圧力算出部80は、例えばセンシング部50から出力されるダイアフラム20の変形(量)に対応した電圧値から、所定の較正曲線を用いて測定対象の流体Fの圧力Pを時系列的に算出する演算部である。
【0045】
圧力算出部80は、例えば、CPUおよびメモリ等のハードウェア資源とからなる制御部に含まれ、圧力センサ素子1と物理的に離間した位置に配設されている。圧力算出部80における演算は、前記ハードウェア資源と前記メモリ内に記憶された所定の演算プログラムとが協働することによって実行される。
【0046】
≪本実施の形態に係る圧力センサ素子が備えるダイアフラムにおける変形領域および剛性領域の配置≫
次に、本実施の形態に係る圧力センサ素子1が備えるダイアフラム20上に形成された変形領域および剛性領域の配置について、
図7A(a)ないし
図7G(a)を参照しながら、より詳細に説明する。
【0047】
上述したように、薄肉部24から構成される変形領域の配置パターンは、
図1および2に示すパターン以外にも、例えば、
図7A(a)ないし
図7E(a)および
図7G(a)で示すような種々の形態をとり得る。
【0048】
図7A(a)に示す変形領域の配置パターン(以下、「配置パターン1」と称する。)においては、薄肉部24が、平面視において、略22.5度の等間隔で、ダイアフラム20の中心から外周縁20Eに至る放射状に延在した16個の凹部(切削溝)によって形成されている。各凹部は、外周縁20Eのやや内側にあって、その長さ(半径方向の長さ)はダイアフラム20の直径の略1/5で、幅(周方向の長さ)は、ダイアフラム外周縁20Eの周長の略1/100である。
また、ダイアフラム20の中央部にはセンシング領域23が設けられており、このセンシング領域23を含めた薄肉部24以外の(ダイアフラム20の上面22の)領域は、全て凹部よりも膜厚が厚い剛性領域25として形成されている。配置パターン1においては、剛性領域25の少なくとも一部が、前記16個の凹部の間に介在するようにしてダイアフラム20の中心から外周縁20Eに至る直線部分として形成されている。
【0049】
図7B(a)に示す変形領域の配置パターン(以下、「配置パターン2」と称する。)においては、薄肉部24が、平面視において、円形の外周縁20Eのやや内側に位置する同心円(半径がダイアフラム外周縁20Eの半径の略4/5の同心円)状に延在し、かつ溝幅(半径方向の長さ)が、ダイアフラム外周縁20Eの半径の略1/14であるの凹部(切削溝)から形成されている。ダイアフラム20の中央部にはセンシング領域23が設けられており、このセンシング領域23を含めた薄肉部24以外の(ダイアフラム20の上面22の)領域は、全て凹部よりも膜厚が厚い剛性領域25によって形成されている。このように、配置パターン2を持つダイアフラム20においては、センシング領域23の全周を薄肉部24が囲うようにしてこれを支持している。
【0050】
図7C(a)に示す変形領域の配置パターン(以下、「配置パターン3」と称する。)においては、薄肉部24が、平面視において、円形の外周縁20Eのやや内側に位置する同心円(半径がダイアフラム外周縁20Eの半径の略4/5の同心円)上にあって、かつ平面視略90度の等間隔で設けられた4つの略四半円状の切削溝からなる凹部(合計4個の凹部)によって形成されている。これら凹部の1個あたりの周方向の長さは、例えば同心円の周長の略3/16(すなわち、4つの凹部の周方向の合計長は、同心円の周長の略3/4)であり、また、その溝幅(半径方向の長さ)は、例えばダイアフラム20の半径の略1/15である。
ダイアフラム20の中央部にはセンシング領域23が設けられており、このセンシング領域23を含めた薄肉部24以外の(ダイアフラム20の上面22の)領域は、全て凹部よりも膜厚が厚い剛性領域25によって形成されている。
この配置パターン3においては、ダイアフラム20の中心から前記4つの凹部の間を通って外周縁20Eへと延在する直線状の剛性領域25cが、平面視略90度の間隔で4本形成されている。なお、上記直線状の剛性領域25cの幅(周方向の長さ)は、例えば外周縁20Eの周長の略1/16である。
【0051】
図7D(a)に示す変形領域の配置パターン(以下、「配置パターン4」と称する。)においては、薄肉部24が、平面視において、円形の外周縁20Eの内側に位置する2つの同心円(半径がダイアフラム外周縁20Eの半径の略4/5の外側の同心円および半径がダイアフラム外周縁20Eの半径の略3/5の内側の同心円)上にあって、かつそれぞれの同心円上において平面視略90度の等間隔で設けられた4つの略四半円状の切削溝からなる凹部(合計8個の凹部)によって形成されている。これら凹部の1個あたりの周方向の長さは、例えば各同心円の周長の略3/16(すなわち、同一同心円上にある4つの凹部の周方向の合計長は、各同心円の周長の略3/4)であり、その溝幅(半径方向の長さ)は、例えばダイアフラム20の半径の略1/15である。
ダイアフラム20の中央部にはセンシング領域23が設けられており、このセンシング領域23を含めた薄肉部24以外の(ダイアフラム20の上面22の)領域は、全て凹部よりも膜厚が厚い剛性領域25によって形成されている。
この配置パターン4においては、ダイアフラム20の中心から前記8個の凹部の間(より具体的には、2つの同心円上にある各4個の凹部の間)を通って外周縁20Eへと延在する直線状の剛性領域25dが、平面視略90度の等間隔で4本形成されている。なお、前記直線状の剛性領域25dの幅(周方向の長さ)は、例えば配置パターン3と同様に、外周縁20Eの周長の略1/16である。
【0052】
図7E(a)に示す変形領域の配置パターン(以下、「配置パターン5」と称する。)においては、薄肉部24が、平面視において、円形の外周縁20Eの内側に位置する3つの同心円(半径がダイアフラム外周縁20Eの半径の略4/5の同心円、半径がダイアフラム外周縁20Eの半径の略3/5の同心円および半径がダイアフラム外周縁20Eの半径の略2/5の同心円)上にあって、かつそれぞれの同心円上において平面視略90度の等間隔で設けられた4つの略四半円状の切削溝からなる凹部(合計12個の凹部)によって形成されている。これら凹部の1個あたりの周方向の長さは、例えば各同心円の周長の略3/16(すなわち、同一同心円上にある4つの凹部の周方向の合計長は、各同心円の周長の略3/4)であり、その溝幅(半径方向の長さ)は、例えばダイアフラム20の半径の略1/15である。
ダイアフラム20の中央部にはセンシング領域23が設けられており、このセンシング領域23を含めた薄肉部24以外の(ダイアフラム20の上面22の)領域は、全て凹部よりも膜厚が厚い剛性領域25によって形成されている。
この配置パターン5においては、ダイアフラム20の中心から前記12個の凹部の間(より具体的には、3つの同心円上にある各4個の凹部の間)を通って外周縁20Eへと延在する直線状の剛性領域25eが、平面視略90度の等間隔で4本形成されている。なお、前記直線状の剛性領域25eの幅(周方向の長さ)は、例えば配置パターン3および4と同様に、外周縁20Eの周長の略1/16である。
【0053】
図7F(a)に示す変形領域の配置パターン(以下、「配置パターン6」と称する。)は、上述した
図1および
図2Aに示す配置パターンと同一であり、薄肉部24が、平面視において、円形の外周縁20Eの内側に位置する上記3つの同心円の周上にあって、かつかつそれぞれの同心円上において平面視略45度の等間隔で設けられた8つの略円弧状の切削溝からなる凹部(合計24個の凹部)によって形成されている。上述したように、これら凹部は、所定の周方向の長さ(凹部1個あたりの周方向の長さ)および溝幅(半径方向の長さ)を有し、また、ダイアフラム20の中央部には、センシング領域23が設けられており、このセンシング領域23を含めた薄肉部24以外の(ダイアフラム20の上面22の)領域は、全て凹部よりも膜厚が厚い剛性領域25によって形成されている。
この配置パターン6においては、ダイアフラム20の中心から前記24個の凹部の間(より具体的には、3つの同心円上にある各8個の凹部の間)を通って外周縁20Eへと延在する直線状の剛性領域25fが、平面視略45度の等間隔で8本形成されている。なお、前記直線状の剛性領域25fの幅(周方向の長さ)は、例えば外周縁20Eの周長の略1/32である。
【0054】
図7G(a)に示す変形領域の配置パターン(以下、「配置パターン7」と称する。)では、薄肉部24が、平面視において、円形の外周縁20Eの内側に位置する3つの同心円(半径がダイアフラム外周縁20Eの半径の略4/5の同心円、半径がダイアフラム外周縁20Eの半径の略3/5の同心円および半径がダイアフラム外周縁20Eの半径の略2/5の同心円)上にあって、かつそれぞれの同心円上において平面視略45度の等間隔で設けられた8つの略円弧状の切削溝からなる凹部(合計24個の凹部)によって形成されている。これら凹部の1個あたりの周方向の長さは、例えば各同心円の周長の略3/32(すなわち、同一同心円上にある8つの凹部の周方向の合計長は、各同心円の周長の略3/4)であり、その溝幅(半径方向の長さ)は、例えばダイアフラム20の半径の略1/15である。
ダイアフラム20の中央部にはセンシング領域23が設けられており、このセンシング領域23を含めた薄肉部24以外の(ダイアフラム20の上面22の)領域は、全て凹部よりも膜厚が厚い剛性領域25によって形成されている。
この配置パターン7においては、配置パターン6と異なり、中央に位置する同心円上にある8つの凹部が、他の2つの同心円上にある16個の凹部と、平面視において略22.5度ずれた位置に配設されている。このため、前記24個の略円弧状の凹部の間(より具体的には、3つの同心円上にある各8個の凹部の間)に形成される架橋状の剛性領域25がダイアフラム20の半径方向へ直線状に配置されておらず、この結果として、ダイアフラム20の中心から外周縁20Eに至る直線状の剛性領域25が延在しないパターンとなっている。なお、前記架橋状の剛性領域25の幅(周方向の長さ)は、例えば外周縁20Eの周長の略1/32である。
【0055】
≪圧力センサ要素が備えるダイアフラムの変形態様≫
本発明者らは、後述する
図6A(b)ないし
図6Cに示される従来のダイアフラム20´にみられる変形態様、すなわち、外周縁に沿った領域おいて、局所的に大きく変位する部分(
図6A(b)、
図6Bおよび
図6C中の位置S1ないし位置S4)がみられ、かつ当該部分がクランプ締付位置の変化に同調して移動するといった変形態様に着目し、ダイアフラムの変形態様のばらつきを抑えるには、上記局所的に大きく変位する部分を極力なくすこと、および/またはその影響が、センシング領域23があるダイアフラム中心部に及ばないようにすること(以下、このことを「クランプ締付力Fcの分散」と称することがある。)が有効であり、そのためには、外周縁20Eとセンシング領域23との間に変形領域を設けることが有効であると考えた。当該理解のもと、上述した配置パターン1ないし7の薄肉部24を例に挙げ、以下に述べるように、これらダイアフラム20と、
図6A(a)に示す変形領域を持たない従来のダイアフラム20´とに関して、クランプ締付位置が
図5に示すP1、P2およびP3にあるときのそれぞれの変形態様を、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いて解析し、その効果を検証した。
【0056】
ここで、「クランプ締付力Fcの分散」を図るには、クランプ締付力Fcが印加される方向、すなわち、ダイアフラムの外周縁20Eからセンシング領域23が配設された中心部に向かう方向に延伸する変形領域を外周縁20Eとセンシング領域23との間に設けること(配置パターン1)、または、前記方向に延伸する直線と交わり所定の方向(例えば外周縁20Eに沿った方向)へ延在する変形領域を外周縁20Eとセンシング領域23との間に設けること(配置パターン2ないし7)が効果的と考えられる。
他方、「クランプ締付力Fcの分散」を図るべく過度に剛性を低くすると、変形態様(変形挙動)が大きくなるため、僅かならばらつきを増幅しかねない。このため、「クランプ締付力Fcの分散」を図るとともに「クランプ締付力Fcに対する剛性」に配慮することも重要と本発明者らは考えた。配置パターン1および配置パターン3ないし7は、当該理解に基づいて創作されたパターン例である。
【0057】
なお、それぞれの解析における境界条件は、配置パターン(平面視における変形領域としての薄肉部24の配置パターン)を除いた各種条件、例えばダイアフラム20、ハウジング30およびクランプ100の材質(ヤング率などの物性値)やサイズ(直径、高さ、膜厚T1およびT2、切削溝幅)、ならびに入力(クランプ締付力Fc)等といった条件は同一とする。本実施の形態におけるダイアフラム20およびハウジング30においては、上述したように、その材質はステンレス鋼である。また、変形領域としての薄肉部24の膜厚T2は略0.05mm、剛性領域25の膜厚T1は略0.5mmであり、クランプ締付力Fc、より具体的には、クランプ締付力Fcの値を管理するネジ部104の締付トルクは、略3N・mである。
【0058】
<圧力センサ素子と配管との接続態様>
はじめに、ダイアフラム20を変形させる要因となる、クランプ100を用いた圧力センサ素子1と配管Hとの接続態様について説明する。
【0059】
図4は、クランプ100を用いて圧力センサ素子1と配管Hとの接続態様を示す断面図であり、
図5は、クランプ100および圧力センサ素子1を平面視から見たときの様子を示した概略図である。
【0060】
クランプ100は、
図5に示すように、一対の環状部101aおよび101bと、これらの一端とそれぞれ接続する蝶番部102と、これらの各他端とそれぞれ接続する締付部103とネジ部104とから構成されている。
【0061】
環状部101aおよび101bは、
図5に示すように、半管状を呈し、かつその垂直断面は、
図4に示すように、略コの字状を呈していている。
また、環状部101aおよび101bは、ネジ部104を締めると、蝶番部102を中心に互いが接近するように回動する。これにより、環状部101aおよび101bは、ハウジング30の外周壁30Bに形成されたフェルールフランジ部30fと配管Hの接合端部に設けられたフェルールフランジ部Hfとを上下に重ね合わせるようにして挟持する。
【0062】
ここで、フェルールフランジ部30fの上端面およびフェルールフランジ部Hfの下端面は、上述したように、それぞれテーパ上面Pfおよびテーパ下面Phfで形成されている。このため、これらフェルールフランジ部には、上記挟持された状態にあるとき、垂直方向の力と水平方向の力とが作用する。垂直方向の力は、フェルールフランジ部30fとフェルールフランジ部Hfとを上下方向に圧着させるように作用し、これによって圧力センサ素子1と配管Hとを強固に接続する。これに対し水平方向の力は、ハウジング30の内周壁30Aを通じてダイアフラム20の外周縁20Eを水平方向、特に、蝶番部102と締付部103とを結ぶ線と直交する方向(例えば、クランプ締付位置が位置P1にあるときには、
図4における左右方向)へダイアフラム20を強く押圧するように作用する。このため、ダイアフラム20は、後述する態様で変形する。
【0063】
なお、上記水平方向に作用する力を「クランプ締付力Fc」と称することがある。このクランプ締付力Fcは、ネジ部104に作用する軸力に起因する力であって、ネジ部104(より具体的にはネジ部104を構成する雄ネジ)の締付トルクによってその値が管理される。本実施の形態では、上述したように、当該締付トルクを略3N・mに設定している。なお、
図5、
図6Aないし
図6C、および
図7Aないし
図7G、ならびに
図8において、クランプ締付力Fcを便宜的にネジ部104に作用する軸力として表示している。
また、環状部101aおよび101bによってフェルールフランジ部30fおよびフェルールフランジ部Hfが挟持された状態を「クランプ締付状態」と称し、クランプ締付状態にあるときの締付部103の位置を「クランプ締付位置」と称することがある。
【0064】
<従来のダイアフラムの変形態様>
次に、クランプ締付位置が、
図5に示す位置P1、P2およびP3にあるときの、従来の圧力センサ素子が備えるダイアフラム20´の変形態様について説明する。
【0065】
図6A(b)は、
図5に示す位置P1でクランプ100を締め付けたときの、従来のダイアフラム20´の変形態様を表したコンター図(等値線図)である。この図における色の濃淡は、変形(量)の大きさの程度を表し、変形(量)が大きい領域ほど濃い色で表示され、変形(量)が小さい領域ほど淡い色で表示されている。
【0066】
この
図6A(b)からも解るように、クランプ締付位置に近接しかつクランプ100の蝶番部102と締付部103とを結ぶ直線上にある位置S1およびこの位置S1と対向する(ダイアフラム20の中心に対して点対称にある)位置S2、ならびにこれら位置S1および位置S2と平面視において略90度離間する位置S3および位置S4が最も大きく変形する。なお、位置S1および位置S2は同一方向に変位し、位置S3および位置S4も同一方向に変位する。また、位置S1および位置S2の変位方向と位置S3および位置S4の変位方向とは逆向きである。
【0067】
図6Bは、クランプ締付位置を、位置P1から平面視において略45度回転させた位置P2に移動させたときの、従来のダイアフラム20´の変形態様を表すコンター図であり、
図6Cは、クランプ締付位置を、位置P1から平面視において略90度回転させた位置P3に移動させたときの、従来のダイアフラム20´の変形態様を表すコンター図である。これらの図からも解るように、クランプ締付位置の移動(回転)と同調するように、最大変位部分(位置S1ないし位置S4)も移動(回転)する。
【0068】
これら
図6Aないし
図6Cを比較すると、クランプ締付位置が変わることで各図中の破線で囲まれたセンシング領域23内の変形態様も変化していることが解る。この事実から、クランプ締付位置の変化は、センサ出力におけるゼロ点のシフト量のばらつきを誘発する要因であることが解る。
<本実施の形態に係る圧力センサ素子が備えるダイアフラムの変形態様>
次に、クランプ締付位置が、
図5に示す位置P1、P2およびP3にあるときの、本実施の形態に係る圧力センサ素子1が備えるダイアフラム20の変形態様について、
図7Aないし
図7Gおよび
図8を参照しながら説明する。
【0069】
図7Aないし
図7Gの(b)、(c)および(d)は、上述した
図7Aないし
図7Gの(a)で示される配置パターン1ないし7を持つダイアフラム20の変形態様を示したコンター図である。
図7Aないし
図7Gの(b)は、クランプ締付位置が位置P1にあるときのダイアフラム20の変形態様を表し、同(c)は、クランプ締付位置が位置P2にあるときのダイアフラム20の変形態様を表し、同(d)は、クランプ締付位置が位置P3にあるときのダイアフラム20の変形態様を表している。
【0070】
図7A(a)に示す配置パターン1、すなわち、薄肉部24が中心から外周縁20Eに向けて放射状に延在する16個の凹部(切削溝)によって形成された配置パターン1を持つダイアフラム20にあっては、
図7Aの(b)、(c)および(d)に示すように、外周縁20Eに沿って局所的に大きく変位する部分が残存し、かつクランプ締付位置が変わるとこれら部分も同調して移動する傾向がみられるものの、センシング領域23内の変形態様は、殆ど変化していないことが解る。このように、配置パターン1には、外周縁20Eに沿って局所的に大きく変位するといった変形態様の影響がダイアフラム中心部(センシング領域23)に及ばないようにする効果が認められる。したがって、配置パターン1を持つダイアフラム20によれば、「クランプ締付力Fcの分散」が好適に図られることでセンシング領域23の変形態様のばらつきが効果的に抑制され、「ゼロ点のシフト量のばらつき」を略完全に抑えることができる。また、同図から、配置パターン1を持つダイアフラム20によれば、「クランプ締付力Fcに対する剛性」が図られることで、センシング領域23の変形(量)も比較的良好に抑えられていることが解る。
【0071】
このように、配置パターン1を持つダイアフラム20においては、「クランプ締付力Fcの分散」と「クランプ締付力Fcに対する剛性」とのバランスが好適に図られることで、ゼロ点のシフト量のばらつきの抑制とセンシング領域23の変形(量)の低減とが高い次元で両立されている。
【0072】
また、
図7B(a)に示す配置パターン2、すなわち、薄肉部24が外周縁20Eと同心円の凹部(切削溝)によって形成された配置パターン2を持つダイアフラム20にあっては、
図7Aの(b)、(c)および(d)に示すように、外周縁20Eに沿って局所的に大きく変位する部分が残存するものの、その数は4つから2つに減少しており、かつその面積も小さくなっている。また、クランプ締付位置が変わってもセンシング領域23内の変形態様は殆ど変化していない。このように、配置パターン2には、外周縁20Eに沿って局所的に大きく変位する部分を減少させる効果があり、かつ、その影響がダイアフラム中心部に及ばないようにする効果が認められる。したがって、配置パターン2を持つダイアフラム20によれば、「クランプ締付力Fcの分散」が好適に図られることでセンシング領域23の変形態様のばらつきが抑制され、「ゼロ点のシフト量のばらつき」を良好に抑えることができる。
【0073】
なお、配置パターン2においては、センシング領域23を含むダイアフラム20の殆どの領域が、その全周にわたってクランプ締付力Fcに対して剛性(特に曲げ剛性)の低い薄肉部24によって支持されていることから、センシング領域23が比較的大きく変位している。本発明者らは、この比較的大きな変位を抑えるには、上述したように、「クランプ締付力Fcの分散」だけでなく「クランプ締付力Fcに対する剛性」にも配慮すべきと考え、ダイアフラム20の中心から外周縁20Eに向けて直線状に延在する剛性領域25(上記剛性領域25cないし25f)を設けることが有効であるとの理解に至った。
【0074】
上記理解に基づく配置パターンの1つである
図7C(a)に示す配置パターン3、すなわち、薄肉部24が、円形の外周縁20Eのやや内側に位置する同心円上にあってかつ平面視略90度の等間隔で設けられた4つの略四半円状の切削溝からなる凹部(合計4個の凹部)によって形成され、かつこれら4つの略四半円状の切削溝の間を通ってダイアフラム20の中心から外周縁20Eへと延在する4本の剛性領域25cによって「クランプ締付力Fcに対する剛性」の向上が図られた配置パターン3を持つダイアフラム20にあっては、
図7Cの(b)、(c)および(d)に示すように、クランプ締付位置が位置P1および位置P3にあるとき、すなわち、剛性領域25cの延長線上にあるときは、外周縁20Eに沿って局所的に大きく変位する部分はみられず、クランプ締付位置が位置P2にあるとき、すなわち、剛性領域25cの延長線上にないときに限って僅かな領域に2つ残存するのみである。この結果、配置パターン3を持つダイアフラム20の変形態様の変化は、従来のダイアフラム20´に比べて小さく抑えられている。また、ダイアフラム20の変形(量)も、中心部にやや大きな変位が残るものの、全体的には低減されている。
このように、ダイアフラム20の中心から外周縁20Eに向けて直線状に延在する4本剛性領域25cを、前記4個の凹部からなる薄肉部24の間に介在させるように配設した配置パターン3によれば、「クランプ締付力Fcの分散」と「クランプ締付力Fcに対する剛性」とを良好に図ることができる。したがって、配置パターン3を持つダイアフラム20によれば、従来のダイアフラム20´との比較で「ゼロ点のシフト量のばらつき」を改善することができ、また、ダイアフラム20の変形(量)を好適に抑制することができる。
【0075】
同じく上記理解に基づく配置パターンの1つである
図7D(a)に示す配置パターン4、すなわち、薄肉部24が円形の外周縁20Eの内側に位置する2つの同心円上にあってかつそれぞれの同心円上において平面視略90度の等間隔で設けられた4つの略四半円状の切削溝からなる凹部(合計8個の凹部)によって形成され、かつこれら8つの略四半円状の切削溝の間を通ってダイアフラム20の中心から外周縁20Eへと延在する直線状の4本の剛性領域25dによって「クランプ締付力Fcに対する剛性」の向上が図られた配置パターン4を持つダイアフラム20にあっては、
図7Dの(b)、(c)および(d)に示すように、外周縁20Eに沿って局所的に大きく変位する部分は、配置パターン3と同様、クランプ締付位置が位置P1およびP3にあるとき、すなわち、剛性領域25dの延長線上にあるときにはみられず、クランプ締付位置が位置P2にあるとき、すなわち、剛性領域25dの延長線上にないときに限って僅かな領域に2つ残存しているのみである。この結果、ダイアフラム20の変形態様の変化は、従来のダイアフラム20´に比べて良好に抑えられている。特にセンシング領域23内に限れば、変形態様の変化は殆どみられない。また、ダイアフラム20の変形(量)も、良好に抑制されている。
このように、ダイアフラム20の中心から外周縁20Eに向けて直線状に延在する4本の剛性領域25dを、前記8個の凹部からなる薄肉部24の間(より具体的には、2つの同心円上にある各4個の凹部の間)に介在させるように配設した配置パターン4によれば、「クランプ締付力Fcの分散」と「クランプ締付力Fcに対する剛性」とを、より好適に図ることができる。このため、配置パターン4を持つダイアフラム20によれば、従来のダイアフラム20´との比較で、「ゼロ点のシフト量のばらつき」を改善することができ、また、ダイアフラム20の変形(量)も好適に抑制することができる。
【0076】
同じく上記理解に基づく配置パターンの1つである
図7E(a)に示す配置パターン5、すなわち、薄肉部24が、円形の外周縁20Eの内側に位置する3つの同心円上にあって、かつそれぞれの同心円上において平面視略90度の等間隔で設けられた4つの略四半円状の切削溝からなる凹部(合計12個の凹部)によって形成され、かつこれら12つの略四半円状の切削溝の間を通ってダイアフラム20の中心から外周縁20Eへと延在する4本の剛性領域25eによって「クランプ締付力Fcに対する剛性」の向上が図られた配置パターン5を持つダイアフラム20にあっては、
図7Eの(b)、(c)および(d)に示すように、外周縁20Eに沿って局所的に大きく変位する部分は、配置パターン3および4と同様に、クランプ締付位置が位置P1およびP3、すなわち、剛性領域25eの延長線上にあるときにはみられず、クランプ締付位置が位置P2にあるとき、すなわち、剛性領域25eの延長線上にないときに限って僅かな領域に2つ残存しているのみである。この結果、配置パターン5を持つダイアフラム20の変形態様の変化は、従来のダイアフラム20´に比べて良好に抑えられている。特にセンシング領域23内に限れば、殆ど変形態様の変化はみられない。また、ダイアフラム20の変形(量)も、良好に抑制されている。
このように、ダイアフラム20の中心から外周縁20Eに向けて直線状に延在する4本の剛性領域25eを、前記12個の凹部からなる薄肉部24の間(より具体的には、3つの同心円上にある各4個の凹部の間)に介在させるように配設した配置パターン5によれば、「クランプ締付力Fcの分散」と「クランプ締付力Fcに対する剛性」とを、より好適に図ることができる。このため、配置パターン5を持つダイアフラム20によれば、従来のダイアフラム20´との比較で、「ゼロ点のシフト量のばらつき」を改善することができ、また、ダイアフラム20の変形(量)も好適に抑制することができる。
【0077】
同じく上記理解に基づく配置パターンの1つである
図7F(a)に示す配置パターン6、すなわち、薄肉部24が、平面視において、円形の外周縁20Eの内側に位置する3つの同心円上にあって、かつそれぞれの同心円上において平面視略45度の等間隔で設けられた8つの略円弧状の切削溝からなる凹部(合計24個の凹部)によって形成され、かつこれら24つの略円弧状の切削溝の間を通ってダイアフラム20の中心から外周縁20Eへと延在する8本の剛性領域25fによって「クランプ締付力Fcに対する剛性」の向上が図られた配置パターン6を持つダイアフラム20にあっては、
図7Fの(b)、(c)および(d)に示すように、外周縁20Eに沿って局所的に大きく変位する部分が、全てのクランプ締付位置(位置P1、P2およびP3)においてみられず、変形態様の変化が、センシング領域23だけでなくダイアフラム20の全域にわたって略完全に抑えられている。また、ダイアフラム20の変形(量)も、良好に抑制されている。
このように、ダイアフラム20の中心から外周縁20Eに向けて直線状に延在する8本の剛性領域25fを、前記24個の凹部からなる薄肉部24の間(より具体的には、3つの同心円上にある各8個の凹部の間)に介在させるように配設した配置パターン6によれば、「クランプ締付力Fcの分散」と「クランプ締付力Fcに対する剛性」とを高い次元で両立させることができる。このため、配置パターン6を持つダイアフラム20によれば、「ゼロ点のシフト量のばらつき」を略完全に抑えることができ、また、ダイアフラム20の変形(量)も好適に抑制することができる。
ここで、配置パターン5と配置パターン6との比較結果から、ダイアフラム20の中心から外周縁20Eに向けて直線状に延在する剛性領域25の数を増やすことで、「クランプ締付力Fcの分散」がより効果的に図られ、ダイアフラム20の変形態様の変化のばらつきがより好適に抑えられることが解る。
【0078】
なお、配置パターン6を持つダイアフラム20にあっては、
図8に示すコンター図からも解るように、クランプ締付位置が位置P4にあるとき、すなわち、ダイアフラム20の中心から外周縁20Eへと延在する8本の剛性領域25fの延長線上にないときでも、ダイアフラム20の変形態様のばらつきは殆どみられず、また、センシング領域23の変形(量)自体も良好に抑えられている。このことからも、配置パターン6を持つダイアフラム20によれば、「ゼロ点のシフト量のばらつき」を略完全に抑制できることがわかる。
【0079】
図7G(a)に示す配置パターン7を持つダイアフラム20、すなわち、薄肉部24が、円形の外周縁20Eの内側に位置する3つの同心円上にあって、かつそれぞれの同心円上において平面視略45度の等間隔で設けられた8つの略円弧状の切削溝からなる凹部(合計24個の凹部)によって形成されているダイアフラム20にあっては、
図7Gの(b)、(c)および(d)に示すように、外周縁20Eに沿って局所的に大きく変位する部分が、全てのクランプ締付位置(位置P1、P2およびP3)においてみられず、変形態様の変化が、センシング領域23だけでなくダイアフラム20の全域にわたって略完全に抑えられている。また、ダイアフラム20の変形(量)も、良好に抑制されている。
このように、複数の同心円上に配設された前記24個の凹部からなる薄肉部24によって構成された配置パターン7によれば、「クランプ締付力Fcの分散」と「クランプ締付力Fcに対する剛性」とを高い次元で両立させることができる。このため、配置パターン7を持つダイアフラム20によれば、「ゼロ点のシフト量のばらつき」を略完全に抑えることができ、また、ダイアフラム20の変形(量)も比較的好適に抑制することができる。
ただし、配置パターン6のようにダイアフラム20の中心から外周縁20Eに向けて直線状に延在する剛性領域25が形成されていない配置パターン7にあっては、「クランプ締付力Fcに対する剛性」が相対的に低くなることから、ダイアフラム全体の変位(量)が、配置パターン6を持つダイアフラム20に比べて大きくなっている。
【0080】
≪本実施の形態の効果≫
上述したように、本発明に係る圧力センサ素子1が備えるダイアフラム20にあっては、上記配置パターン1ないし7を持つダイアフラム20において、いずれも従来の圧力センサ素子1が備えるダイアフラム20´に比べて変形態様のばらつきが抑制され、「ゼロ点のシフト量のばらつき」を改善することができる。
特に、8本の剛性領域25fを備える配置パターン6を持つダイアフラム20においては、「クランプ締付力Fcの分散」と「クランプ締付力Fcに対する剛性」とを高い次元でのバランスさせることでセンシング領域23だけでなくダイアフラム20の全域における変形態様のばらつきが抑制され、「ゼロ点のシフト量のばらつき」を略完全に抑えることができ、かつセンシング領域23の変位(量)も好適に抑制することができる。
また、変形領域としての薄肉部24の間にダイアフラム20の中心から外周縁20Eに向けて直線状に延在する剛性領域25(例えば、上記剛性領域25cないし25f)を配設することで、「クランプ締付力Fcの分散」と「クランプ締付力Fcに対する剛性」とを高い次元でバランスさせることができ、この結果、「ゼロ点のシフト量のばらつき」の抑制とセンシング領域23の変位(量)の抑制とを両立させることができる。
【0081】
加えて、「ゼロ点のシフト量のばらつき」が抑えられることで、ゼロ点のずれ量が圧力感度に及ぼす影響を低減させることができ、測定精度の高い圧力センサ素子1およびこれを含む圧力センサ10を提供することができる。
【0082】
≪本実施の形態の変形例≫
上述した実施の形態では、ダイアフラム20の上面22上に薄肉部24を配設しているが、この薄肉部24を下面21上に設けてもよい。また、下面21と上面22とに薄肉部24を設けてもよい。上下面に薄肉部24を設ける場合、各面で異なる配置パターンの薄肉部24を設けてもよい。例えば、下面21には配置パターン1の薄肉部24を設け上面22には配置パターン6の薄肉部24を設けてもよい。
【0083】
また、薄肉部24を形成する凹部が、ダイアフラム20の外周縁20Eの同心円またはこの同心円上にある平面視略円弧状の形態でなくてもよい。例えば、ダイアフラム20の中心と外周縁20Eとを結ぶ所定の直線と直交するように形成された平面視略直線を呈した凹部からなる薄肉部24をダイアフラム20の下面21および上面22の少なくとも1つの表面に配設するように構成してもよいし、非同心円または非同心円上にある平面視略円弧状の形態、または任意の曲線であってもよい。
【0084】
さらに、変形領域24を構成する凹部の形態に関し、切削溝ではなく、上述したような膜厚中心が上下方向にオフセットした凹部状の領域、例えば、
図2Cに示す略蛇腹状の垂直断面形状(略三角形の垂直断面形状)を有する凹部状の領域を変形領域24として構成してもよい。このとき、ダイアフラム20の膜厚は均一であってもよいし、均一でなくてもよい。また、このような略蛇腹状の垂直断面形状をもつ変形領域24を、切削以外の加工法、例えばプレスによって成形してもよい。プレス成形により、ダイアフラム20およびこれを備える圧力センサ素子1ならびに圧力センサ素子1を含む圧力センサ10の製造コストを低く抑えることができる。
【0085】
また、変形領域を構成する薄肉部24の膜厚や溝幅・溝長を変えるなどしてその断面形状を変化させることで、当該変形領域が数種の異なる剛性をもつ領域からなるように構成してもよい。
【0086】
さらに、本実施の形態では、ダイアフラム20およびハウジング30の形状が略円形状および略円筒形状を呈し、また、半導体チップ51の形状が略正方形を呈していることを想定している関係で、変形領域の配置パターン1ないし7は、いずれも比較的対称性の高いパターン(ダイアフラム20の中心点に対して点対称かつダイアフラム20の中心点を通る少なくとも4本の中心線に対して線対称のパターン)となっているが、このような対称性の高い配置パターンに限定されるわけではない。例えば、ダイアフラム20およびハウジング30の形状が非円形状および非円筒形状であり、または、半導体チップ51の形状が長方形等の場合には、変形領域24(薄肉部24)の配置パターンをダイアフラム20の中心点に対して非点対称とし、または、中心点を通る中心線に対して非線対称の配置パターン等としてもよい。
【0087】
また、記実施の形態においては、ダイアフラム変形による圧力検出手法(センシング原理)として、ひずみゲージ52を含む半導体チップ51(半導体ひずみゲージ式)を用いているが、これに限定されるわけではなく、例えば、静電容量式、金属歪みゲージ式、抵抗ゲージをスパッタ等により成膜した方式を用いた圧力検出手法(センシング原理)であってもよい。
【0088】
以上、本発明に係る実施の形態を説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、明細書および図面に直接記載のない構成であっても、本発明の作用・効果を奏する以上、本発明の技術的思想の範囲内である。さらに、前記記載および各図で示した実施の形態は、その目的および構成等に矛盾がない限り、互いの記載内容を組み合わせることも可能である。
【符号の説明】
【0089】
1…圧力センサ素子、10…圧力センサ、20…ダイアフラム、20E…ダイアフラム外周縁、21…ダイアフラムの下面、22…ダイアフラムの上面、23…センシング領域、24…薄肉部(変形領域)、24a、24b、24c…薄肉部(変形領域)、25…剛性領域、30…ハウジング、30A…ハウジング内周壁、30B…ハウジング外周壁、30f…フェルールフランジ部、50…センシング部、51…半導体チップ、51a、51b、51c、51e…構造体、52…ひずみゲージ、53…ホイートストンブリッジ回路、80…圧力算出部。