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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ポリウレタン
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/46 20060101AFI20221129BHJP
   C08G 69/44 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C08G18/46 015
C08G69/44
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018225692
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020084158
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】渡部 淳
(72)【発明者】
【氏名】紺野 貴史
(72)【発明者】
【氏名】畑中 慎太郎
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03284417(US,A)
【文献】特開2012-131838(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02172446(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第108586736(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105418918(CN,A)
【文献】国際公開第2007/023655(WO,A1)
【文献】特開2007-262241(JP,A)
【文献】特開2011-174037(JP,A)
【文献】米国特許第03169945(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/46
C08G 69/44
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表され、数平均分子量が500~2500、分子量分布が1.2未満であるポリエステルポリオール(I)ポリイソシアネートとの付加重合物からなるセグメント(1)と、
イソシアネート基との反応性を有する基を3個以上備える化合物であって前記ポリエステルポリオール以外の化合物(II)と、ポリイソシアネートとの付加重合物からなるセグメント(2)を有し、
前記セグメント(1)を形成するポリエステルポリオール(I)と、前記セグメント(2)を形成する化合物(II)の合計に対する、前記化合物(II)の割合が5~10重量%であるポリウレタン。
【化1】
(式(1)中、R 1 、R 2 は同一又は異なって炭素数1~10のアルキレン基を示し、nは0~3の整数を示す。R 3 ~R 7 は同一又は異なって、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、又は式(2)で表される基を示す。式(2)中、mは5又は6を示し、sは4~12の整数を示す。R 8 は水素原子を示す。尚、R 3 ~R 7 で示される基の少なくとも2つは式(2)で表される基である)
【請求項2】
前記化合物(II)の分子量が100~600である、請求項1に記載のポリウレタン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリエステルポリオール、及び当該ポリエステルポリオールを用いて得られるポリウレタンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオールを開始剤として使用し、前記開始剤に、カプロラクトン等の環状エステルを開環重合させて得られるポリエステルポリオールが、ポリウレタンの原料として利用されてきた。これは、耐水性と柔軟性に優れるポリウレタンが得られるためであった。
【0003】
しかし、前記ポリオールを開始剤として使用し、ポリオールにカプロラクトン等の環状エステルを開環重合させて得られるポリエステルポリオールを原料とするポリウレタンは、機械強度の点において不十分であり、特に耐久性が求められる用途において使用することは困難であった。
【0004】
特許文献1には、ポリオールとしてアルカノールアミン及び/又はジアミンを使用することにより得られるポリエステルポリオールが記載され、前記ポリエステルポリオールを使用して得られるポリウレタンは、耐久性に優れることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-28225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されるポリエステルポリオールを使用しても、未だ、耐久性の点で不十分であった。また、耐溶剤性の点でも劣っていた。
【0007】
従って、本発明の目的は、耐水性、柔軟性、耐久性、及び耐溶剤性に優れるポリウレタンを形成することができるポリエステルポリオールを提供することにある。
本発明の他の目的は、耐水性、柔軟性、耐久性、及び耐溶剤性に優れるポリウレタンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、少量のスズ化合物を触媒として使用し、開始剤としてのポリアミンに環状エステルを開環重合させて得られるポリエステルポリオールは分子量分布が非常に狭く、均一性に優れること、前記ポリエステルポリオールを原料として得られるポリウレタンは、耐水性及び柔軟性を有しつつ、ポリエステルポリオールが備えるアミド結合によって、ポリウレタンの分子鎖全体に亘って均一に、優れた凝集力が発揮せられることにより、優れた耐久性(特に、優れた引張強度と引裂強度)と、優れた耐溶剤性を発揮することを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表され、分子量分布が1.2未満であるポリエステルポリオールを提供する。
【化1】
(式(1)中、R1、R2は同一又は異なって2価の炭化水素基を示し、nは整数を示す。R3~R7は同一又は異なって、水素原子、1価の炭化水素基、又は式(2)で表される基を示す。式(2)中、m、sは同一又は異なって1以上の整数を示す。2m個のR8は同一又は異なって、水素原子又はアルキル基又はアルコキシ基を示す。尚、R3~R7で示される基の少なくとも2つは式(2)で表される基である)
【0010】
本発明は、また、数平均分子量が500~2500である前記のポリエステルポリオールを提供する。
【0011】
本発明は、また、式(1)中のR1、R2が、同一又は異なって2価の脂肪族炭化水素基を示す前記のポリエステルポリオールを提供する。
【0012】
本発明は、また、式(2)中のmが5又は6である前記のポリエステルポリオールを提供する。
【0013】
本発明は、また、1~20ppmのスズ化合物の存在下、下記式(11)で表される化合物を開始剤とし、当該開始剤に環状エステルを開環重合させることにより前記のポリエステルポリオールを得る、ポリエステルポリオールの製造方法を提供する。
【化2】
(式(11)中、R1、R2は同一又は異なって2価の炭化水素基を示し、nは整数を示す。R13~R17は同一又は異なって、水素原子又は1価の炭化水素基を示す)
【0014】
本発明は、また、前記のポリエステルポリオールとポリイソシアネートとの付加重合物からなるセグメントを有するポリウレタンを提供する。
【0015】
本発明は、また、更に、イソシアネート基との反応性を有する基を2個以上備える化合物であって前記ポリエステルポリオール以外の化合物と、ポリイソシアネートとの付加重合物からなるセグメントを有する前記のポリウレタンを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリエステルポリオールを原料として使用すれば、耐水性、柔軟性、耐久性、及び耐溶剤性に優れるポリウレタンを製造することができる。
そして、本発明のポリエステルポリオールを原料として得られるポリウレタンは、耐水性、柔軟性、耐久性、及び耐溶剤性を兼ね備える。そのため、各種成形品、繊維、フィルム、シート、樹脂やエラストマーの原料、改質材、塗料、接着剤等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[ポリエステルポリオール]
本発明のポリエステルポリオールは、下記式(1)で表される化合物である。本発明のポリエステルポリオールは、一分子中に少なくとも2つのアミド結合を有することを特徴とする。
【化3】
(式(1)中、R1、R2は同一又は異なって2価の炭化水素基を示し、nは整数を示す。R3~R7は同一又は異なって、水素原子、1価の炭化水素基、又は式(2)で表される基を示す。式(2)中、m、sは同一又は異なって1以上の整数を示す。2m個のR8は同一又は異なって、水素原子又はアルキル基又はアルコキシ基を示す。尚、R3~R7で示される基の少なくとも2つは式(2)で表される基である)
【0018】
1、R2における2価の炭化水素基には、2価の脂肪族炭化水素基、2価の脂環式炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、及びこれらから選択される2個以上の基が結合した2価の基が含まれる。
【0019】
前記2価の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチレン、メチルメチレン、ジメチルメチレン、エチレン、プロピレン、トリメチレン、ブチレン基等の炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基;ビニレン、プロペニレン、1-ブテニレン、2-ブテニレン、ブタジエニレン、ペンテニレン、ヘキセニレン、ヘプテニレン、オクテニレン基等の炭素数2~10の直鎖状又は分岐鎖状アルケニレン基;プロピニレン基などの炭素数2~10の直鎖状又は分岐鎖状アルキニレン基等が挙げられる。
【0020】
前記2価の脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン、1,3-シクロペンチレン、シクロペンチリデン、1,2-シクロヘキシレン、1,3-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキシレン、シクロヘキシリデン基等の炭素数3~10のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む);シクロプロペニレン、シクロブテニレン、シクロペンテニレン、シクロヘキセニレン、シクロオクテニレン基等の炭素数3~10のシクロアルケニレン基;アダマンタン-1,3-ジイル基などの橋かけ環式基等が挙げられる。
【0021】
前記2価の芳香族炭化水素基としては、例えば、1,2-フェニレン、1,3-フェニレン、1,4-フェニレン、1,4-ナフチレン、ビフェニレン基等が挙げられる。
【0022】
1、R2における2価の炭化水素基としては、なかでも2価の脂肪族炭化水素基が好ましく、特に炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基が好ましい。
【0023】
nは整数を示し、0~5の整数が好ましく、特に好ましくは0~3の整数である。
【0024】
3~R7における1価の炭化水素基としては、1価の脂肪族炭化水素基、1価の脂環式炭化水素基、1価の芳香族炭化水素基、及びこれらから選択される2個以上の基が結合した1価の基が含まれる。これらの具体例としては、上記2価の炭化水素基に対応する1価の基が挙げられる。
【0025】
3~R7における1価の炭化水素基としては、なかでも1価の脂肪族炭化水素基が好ましく、特に好ましくは炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基である。
【0026】
8におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、n-ブチル、t-ブチル基等の、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基が挙げられる。
【0027】
8におけるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、n-ブトキシ、t-ブトキシ基等の、炭素数1~5の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基が挙げられる。
【0028】
m、sは、同一又は異なって1以上の整数を示す。mとしては、なかでも2~10の整数が好ましい。sとしては、なかでも3~20の整数が好ましく、特に好ましくは4~12の整数である。尚、sが2以上の整数である場合、式(2)中の角括弧内に示されるs個の基はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0029】
本発明のポリエステルポリオールは均一性に優れ、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.2未満であり、好ましくは1.1以下である。そのため、ポリウレタンの原料として使用すると、優れた耐久性及び耐溶剤性を有するポリウレタンが得られる。
【0030】
本発明のポリエステルポリオールの数平均分子量は、例えば500~2500であり、なかでも、ポリウレタンの原料として使用した場合に優れた耐久性及び耐溶剤性を有するポリウレタンが得られる点において、好ましくは700~2000、より好ましくは800~2000、特に好ましくは800~1800、最も好ましくは800~1500、とりわけ好ましくは800~1200である。
【0031】
また、本発明のポリエステルポリオールの水酸基価は、例えば45~224程度、好ましくは56~160、より好ましくは58~150、更に好ましくは60~150、特に好ましくは62~140、最も好ましくは75~140、とりわけ好ましくは94~140である。
【0032】
本発明のポリエステルポリオールはポリウレタンの原料として好適に使用することができる。
【0033】
[ポリエステルポリオールの製造方法]
上記ポリエステルポリオールは、例えば、1~20ppmのスズ化合物の存在下、下記式(11)で表される化合物を開始剤とし、当該開始剤に環状エステルを開環重合させることにより製造することができる。
【化4】
(式(11)中、R1、R2は同一又は異なって2価の炭化水素基を示し、nは整数を示す。R13~R17は同一又は異なって、水素原子又は1価の炭化水素基を示す)
【0034】
上記式(11)中のR1、R2、nは上記式(1)中のR1、R2、nと同じである。
【0035】
上記式(11)中のR13~R17は、上記式(1)中のR3~R7に対応する基であり、上記式(11)中のR13~R17における1価の炭化水素基としては、上記式(1)中のR3~R7における1価の炭化水素基と同じ例が挙げられる。尚、R13~R17で示される基の少なくとも2つは水素原子であることが好ましい。
【0036】
上記式(11)で表される化合物としては、なかでも、1,2-エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,4-ブチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミン、N,N-ジエチル-1,3-ジアミノプロパン等の、式中のR1、R2が2価の脂肪族炭化水素基(好ましくは炭素数1~10の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基)である脂肪族ポリアミンが好ましく、とりわけ好ましくは脂肪族ジアミンである。
【0037】
本発明のポリエステルポリオールは、上記式(11)で表される化合物を開始剤として使用することを特徴とする。
【0038】
そして、前記式(11)で表される化合物に反応させる環状エステルとしては、例えば、下記式(12)で表される化合物が挙げられる。
【化5】
(式(12)中、m、tは同一又は異なって1以上の整数を示す。2m個のR8は同一又は異なって、水素原子又はアルキル基又はアルコキシ基を示す)
【0039】
上記式(12)中のtは1以上の整数であり、例えば1~3の整数、好ましくは1又は2である。R8、mは上記式(2)中のR8、mに同じである。
【0040】
前記環状エステルとしては、例えば、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、ε-カプロラクトン、メチル化ε-カプロラクトン、ラクチド、グリコリド等の炭素数1~10の環状エステルが挙げられる。
【0041】
環状エステルの使用量としては、式(11)で表される化合物1モルに対して、例えば1~100モル、好ましくは1~50モル、特に好ましくは1~20モル、特に好ましくは1~15モルである。式(11)で表される化合物に反応させる環状エステルの使用量をコントロールすることにより、得られるポリエステルポリオールの分子量を調整することができる。
【0042】
また、環状エステルの開環重合反応は、触媒としてのスズ化合物の存在下で行う。前記スズ化合物としては、例えば、オクチル酸第一スズ、ジブチルスズジラウレート、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、臭化第一スズ、ヨウ化第一スズ、ジブチルジクロロスズ、ブチルトリクロロスズ、モノブチルスズオキシド、ジブチルスズオキシド、モノブチルスズトリス(メルカプト酢酸2-エチルヘキシル)、モノブチルスズトリス(メルカプト酢酸イソオクチル)、モノブチルスズトリアセテート、モノブチルスズトリス(2-エチルヘキサノエート)等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
前記スズ化合物の使用量(2種以上を組み合わせて使用する場合はその総量)は、環状エステルと式(11)で表される化合物の総量に対して、例えば1~20ppm、好ましくは1~10ppm、特に好ましくは2~8ppm、最も好ましくは3~7ppmである。スズ化合物の使用量が上記範囲を上回ると、分子量分布が狭いポリエステルポリオールを得ることが困難となる傾向がある。一方、スズ化合物の使用量が上記範囲を下回ると、反応の進行を促進する効果が得られにくくなる傾向がある。
【0044】
環状エステルの開環重合反応における反応温度は120℃以上が好ましく、特に好ましくは120~210℃、最も好ましくは150~200℃、とりわけ好ましくは160~180℃である。反応温度が低すぎると、反応速度が遅くなる傾向がある。一方、反応温度が高すぎると、エステル交換反応による着色や生じた重合体の分解反応が進行して、色相が良好であり、分子量分布の狭いポリエステルポリオールを得ることが困難となる傾向がある。また、反応時間は、例えば3~30時間程度である。更に反応圧力は、例えば0.7~1.5気圧程度である。
【0045】
また、環状エステルの開環重合反応の反応雰囲気としては、反応を阻害しない限り特に限定されないが、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの不活性ガス雰囲気が好ましい。
【0046】
また、環状エステルの開環重合反応には、塊重合、溶液重合および懸濁重合の何れの重合方法も採用することができる。前記溶液重合に使用する溶剤としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類が、比較的沸点が高く、反応に不活性であるため好ましい。溶媒は実質的に無水のものが望ましい。
【0047】
前記重合反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法でも行うことができる。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィー等の分離精製手段やこれらを組み合わせた手段により分離精製できる。
【0048】
[ポリウレタン]
本発明のポリウレタンは、上記ポリエステルポリオールとポリイソシアネートとの付加重合物からなるセグメント(1)を有することを特徴とする。
【0049】
本発明のポリウレタンは、ポリエステルポリオールとポリイソシアネートとの付加重合物からなるセグメント(1)を有するが、当該セグメント(1)を構成するポリエステルポリオールは少なくとも2つのアミド結合を有する。そのため、2個以上のポリウレタンの分子鎖が、前記アミド結合部位において互いに水素結合を形成して物理的架橋構造を形成し易く、これにより、本発明のポリウレタンは、柔軟性を有しつつ、優れた耐久性及び耐溶剤性を有する。
【0050】
また、本発明のポリウレタンは、分子量分布が非常に狭いポリエステルポリオールを原料として使用するため、ポリエステルポリオールが備えるアミド結合によって、ポリウレタンの分子鎖全体に亘って均一に水素結合が形成され、物理的架橋構造が形成される。そのため、耐久性及び耐溶剤性に特に優れる。
【0051】
前記ポリイソシアネートとしては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシレンジイソシアネート、1,4-キシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物;前記ジイソシアネート化合物のうち芳香族イソシアネート化合物を水添して得られるジイソシアネート化合物(例えば、水添キシリレンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物);トリフェニルメタントリイソシアネート、ジメチレントリフェニルトリイソシアネート等の3価以上のイソシアネート化合物;これらを多量化させて得られる多量化ポリイソシアネート等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0052】
本発明のポリウレタンは、例えば、上記ポリエステルポリオールとポリイソシアネートとを付加反応させることにより製造することができる。
【0053】
ポリエステルポリオールとポリイソシアネートとを付加反応温度は、60~90℃が好ましい。
【0054】
また、本発明のポリウレタンは、前記セグメント(1)以外に、鎖延長剤若しくは架橋剤[例えば、イソシアネート基との反応性を有する基(例えば、水酸基、アミノ基等)を2個以上備える化合物]と、ポリイソシアネートとの付加重合物からなるセグメント(2)を有していても良い。尚、本発明のポリウレタンがセグメント(1)とセグメント(2)を有する場合、前記セグメント(1)とセグメント(2)をランダムに有していてもよく、規則的に有していてもよい。すなわち、本発明のポリウレタンは、セグメント(1)とセグメント(2)の、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0055】
前記鎖延長剤としては、イソシアネート基との反応性を有する基を2個備える化合物が好ましい。また、前記架橋剤としては、イソシアネート基との反応性を有する基を3個以上備える化合物が好ましい。
【0056】
そして、前記鎖延長剤を使用すれば、直鎖状のセグメント(2)を形成することができる。一方、前記架橋剤を使用すれば、分岐鎖状のセグメント(2)を形成することができる。
【0057】
本発明のポリウレタンが、上記セグメント(1)と共に、直鎖状のセグメント(2)を有している場合は、熱可塑性ポリウレタンとして好適に使用できる。
【0058】
一方、本発明のポリウレタンが、上記セグメント(1)と共に、分岐鎖状のセグメント(2)を有している場合は、熱硬化性ポリウレタンとして好適に使用できる。
【0059】
前記イソシアネート基との反応性を有する基を2個以上備える化合物の分子量(若しくは、重量平均分子量)は例えば100~1000であり、なかでも、セグメント(1)に比べて、よりハードなセグメント(2)を形成することができ、それにより、ポリウレタンに特に優れた耐久性(詳細には、特に優れた引張強度と引裂強度)を付与することができる点で、好ましくは100~600、特に好ましくは100~500、とりわけ好ましくは100~300である。
【0060】
前記イソシアネート基との反応性を有する基を2個以上備える化合物には、ポリオール、ポリアミン、及びアミノアルコールが含まれる。尚、これらの化合物には、上記式(1)で表されるポリエステルポリオールは含まれない。
【0061】
前記ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサメチレンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の炭素数1~10の脂肪族ポリオールや、これらのポリオールを開始剤として使用し、これに環状エステルを開環重合して得られるポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0062】
前記ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,3-ジアミノペンタン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン等の脂肪族ポリアミン;1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン等の脂環式ポリアミン等が挙げられる。
【0063】
前記アミノアルコールとしては、例えば、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0064】
セグメント(2)を形成するポリイソシアネートとしては、上記セグメント(1)を形成するポリイソシアネートと同様の化合物を使用することができる。
【0065】
付加反応に付するポリイソシアネートとポリエステルポリオールの使用量としては、ポリイソシアネートのイソシアネート基とポリエステルポリオールに含まれる水酸基とのモル比[イソシアネート基/水酸基](=NCO/OH)が、例えば0.5~2.0、好ましくは0.8~1.2となる割合である。
【0066】
ポリイソシアネートとの付加反応に、ポリエステルポリオールと、前記イソシアネート基との反応性を有する基を2個以上備える化合物とを併用する場合、これらの化合物に含まれる水酸基とアミノ基の総量と、ポリイソシアネートに含まれるイソシアネート基とのモル比[イソシアネート基/(水酸基+アミノ基)]は、例えば0.5~2.0、好ましくは0.8~1.2である。
【0067】
ポリウレタンがセグメント(1)とセグメント(2)とを有する場合、セグメント(1)とセグメント(2)の割合は、ポリウレタンの用途に応じて適宜調整することができる。より優れた耐久性が求められる用途の場合には、セグメント(2)の割合を多めに設定することが好ましい。セグメント(1)を形成するポリエステルポリオールと、セグメント(2)を形成する前記イソシアネート基との反応性を有する基を2個以上備える化合物の合計含有量に対する、前記イソシアネート基との反応性を有する基を2個以上備える化合物の添加量は、例えば1~10重量%程度、好ましくは5~10重量%である。
【0068】
セグメント(1)とセグメント(2)を有するポリウレタンの製造方法としては、ポリエステルポリオールと過剰のポリイソシアネートとを反応させて、末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(=セグメント(1))を製造し、次に前記イソシアネート基との反応性を有する基を2個以上備える化合物を反応させて、セグメント(1)とセグメント(2)とをブロックで有するポリウレタンを得るプレポリマー法や、ポリエステルポリオールと前記イソシアネート基との反応性を有する基を2個以上備える化合物とポリイソシアネートとを同時に反応させて、セグメント(1)とセグメント(2)とをランダムに有するポリウレタンを得るワンショット法等が挙げられる。
【実施例
【0069】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0070】
実施例1(ポリエステルポリオールの製造)
1,6-ヘキサメチレンジアミン116.2gとε-カプロラクトン883.8gを、オクチル酸第一スズ5ppmの存在下、窒素雰囲気下で、5つ口フラスコに仕込んだ後、170℃に昇温し、重合反応を行った。ガスクロマトグラフィーによる分析で、残存するε-カプロラクトン濃度が1.0%未満となっていることを確認してから冷却した。製品として、分子量分布(Mw/Mn)1.1、数平均分子量1000、水酸基価111.2のポリエステルポリオール(1)を得た。
【0071】
実施例2(ポリエステルポリオールの製造)
1,6-ヘキサメチレンジアミンを58.1gとε-カプロラクトンを941.9g使用した以外は実施例1と同様に行った。製品として、分子量分布(Mw/Mn)1.1、数平均分子量2000、水酸基価56.9のポリエステルポリオール(2)を得た。
【0072】
比較例1(ポリエステルポリオールの製造)
オクチル酸第一スズ5ppmに代えてテトラn-ブトキシチタン10ppmを使用した以外は実施例1と同様に行った。製品として、分子量分布(Mw/Mn)1.2、数平均分子量1000、水酸基価111.7のポリエステルポリオール(3)を得た。
【0073】
尚、分子量分布は以下の方法で測定した。
<分子量分布:Mw/Mn>
高速GPC装置を用いて、ポリスチレン標品との比較により数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を求め、その比を分子量分布の指標とした。
測定条件
測定装置:高速GPC装置「HLC-8220GPC」、東ソー(株)製
移動相:テトラヒドロフラン
【0074】
実施例3(ポリウレタンの製造)
フラスコに、ポリオール(A)としてのポリエステルポリオール(1)と、架橋剤(C)としてのトリメチロールプロパンを下記表に記載の割合で仕込み、80℃に加温して混合した。その後、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートをNCO/OH(モル比)=1.05となる割合で投入し、30秒間混合して混合液を得た。
得られた混合液を注型し、圧縮成形機を用いて120℃で15分間圧縮成形を行った。その後、圧縮成形機から取り出し、120℃で16時間2次硬化を行うことでポリウレタン(1)(=熱硬化性ポリウレタン)を得た。
【0075】
得られたポリウレタン(1)について、以下の評価を行った。
・硬度:ISO 7619-1に準拠した方法で測定した
・伸び:ISO 34に準拠した方法で測定した
・引張強度:ISO 34に準拠した方法で測定した
・引裂強度:ISO 37に準拠した方法で測定した
・耐溶剤性:ISO 1817に準拠した方法で測定した。詳細には、試験片を室温下にて溶剤に24時間浸漬し、試験前後の試験片の重量変化から耐溶剤性を評価した。
【0076】
参考例4~8、比較例2~19
下記表に記載の通りに処方を変更した以外は実施例3と同様にした。
【0077】
【表1】
【0078】
表1中の略号を以下に説明する。
A-1:実施例1で得られたポリエステルポリオール(1)
A-3:比較例1で得られたポリエステルポリオール(3)
A-4:ポリカプロラクトンジオール(数平均分子量1000、水酸基価113.1、Mw/Mn=1.2、PLACCEL 210N、(株)ダイセル製)
A-5:エチレングリコール-アジピン酸縮合系ポリエステルジオール(数平均分子量1000、水酸基価115.5、Mw/Mn=1.5、CMA1024、HUADA CHEM製)
A-6:1,6-ヘキサンジオール-アジピン酸縮合系ポリエステルジオール(数平均分子量1000、水酸基価117.3、Mw/Mn=1.4、CMA1066、HUADA CHEM製)
A-7:ポリカーボネートジオール(数平均分子量1000、水酸基価114.2、Mw/Mn=1.5、Eternacol UH-100、宇部興産(株)製)
A-8:ポリテトラメチレンエーテルグリコール(数平均分子量1000、水酸基価114.7、Mw/Mn=1.6、PolyTHF、BASF製)
B-1:4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、(Millionate MT、東ソー(株)製)
C-1:トリメチロールプロパン
C-2:ポリカプロラクトントリオール(数平均分子量550、PLACCEL 305、(株)ダイセル製)