(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】灯油組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/22 20060101AFI20221129BHJP
C10L 1/04 20060101ALI20221129BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20221129BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G01N33/22 B
C10L1/04
G01N31/00 P
G01N31/22 121
(21)【出願番号】P 2018240571
(22)【出願日】2018-12-25
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 史弥
(72)【発明者】
【氏名】三浦 靖智
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-031512(JP,A)
【文献】特開2008-024840(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0307428(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
品質評価対象の灯油組成物を、試験容器内に入れ、所定の品質評価温度で気液平衡状態にし、次いで、該試験容器内の気相を採取し、採取した気相中の硫化水素濃度を測定する気相硫化水素濃度測定工程と、
該品質評価対象の灯油組成物の臭気の不快感の有無を該気相中の硫化水素濃度により判断する工程であり、該気相中の硫化水素濃度が所定の合格基準値以下であった場合には、該品質評価対象の灯油組成物を合格品とし、該気相中の硫化水素濃度が所定の合格基準値を超えていた場合には、該品質評価対象の灯油組成物を不合格品とする品質評価工程と、
該品質評価工程で不合格と判断された該品質評価対象の灯油組成物と同一ロットの灯油組成物(A)に、該品質評価工程で不合格と判断された該品質評価対象の灯油組成物とは異なるロットの灯油組成物(B)を混合することにより、合格品を得る混合工程と、
を有することを特徴とする灯油組成物の製造方法。
【請求項2】
前記気相硫化水素濃度測定工程において、硫化水素ガス検知管を用いて、前記試験容器内の気相を採取すると共に、採取した気相中の硫化水素濃度を測定することを特徴とする請求項
1記載の灯油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、灯油組成物の臭気の不快度判定方法、灯油組成物の品質管理方法及び灯油組成物の製造方法に関し、詳しくは、灯油組成物から発生する臭気の不快度を判定する方法、不快臭の少ない灯油組成物の品質管理方法及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
灯油は、家庭用の暖房用燃料として広く使われているが、ストーブ、ファンヒーターへの給油等の灯油を取り扱う際に発生する臭気によって使用者が不快に感じる場合がある。
【0003】
そして、灯油は揮発成分を含んでいるため、従来は、常温で、揮発する灯油中の成分が、不快臭のもとであると考えられていた(特許文献1等)。
【0004】
そのため、従来は、灯油の不快臭を減らすには、揮発成分量をコントロールすることが重要であると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、本発明者らが、この灯油から生じる臭気の不快感について、鋭意検討を行ったところ、灯油の性状により、臭気を強く感じるものや、それほど強く臭気を感じないものがあるが、灯油の臭気の強さと、不快感とには、必ずしも相関がないことがわかった。
【0007】
そのため、灯油から生じる臭気の不快度を適切に判定する方法がなく、灯油から生じる不快臭が少ないという観点での品質管理が難しかった。また、不快臭の原因が不明確であったため、不快臭の少ない灯油を効率よく製造することが困難であった。
【0008】
従って、本発明の目的は、灯油組成物の臭気の不快度を適切に判定する方法を提供することにある。また、本発明の目的は、灯油組成物から生じる不快臭が少ないという観点での品質管理を行うことができる灯油組成物の品質管理方法を提供することにある。また、本発明の目的は、不快臭の発生の少ない灯油を効率よく製造することができる灯油組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の本発明により解決される。
すなわち、本発明(1)は、品質評価対象の灯油組成物を、試験容器内に入れ、所定の品質評価温度で気液平衡状態にし、次いで、該試験容器内の気相を採取し、採取した気相中の硫化水素濃度を測定する気相硫化水素濃度測定工程と、
該気相中の硫化水素濃度により、該品質評価対象の灯油組成物の不快度を判定する不快度判定工程と、
を有することを特徴とする灯油組成物の臭気の不快度判定方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明(2)は、前記気相硫化水素濃度測定工程において、硫化水素ガス検知管を用いて、前記試験容器内の気相を採取すると共に、採取した気相中の硫化水素濃度を測定することを特徴とする(1)の灯油組成物の臭気の不快度判定方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明(3)は、品質評価対象の灯油組成物を、試験容器内に入れ、所定の品質評価温度で気液平衡状態にし、次いで、該試験容器内の気相を採取し、採取した気相中の硫化水素濃度を測定する気相硫化水素濃度測定工程と、
該品質評価対象の灯油組成物の臭気の不快感の有無を該気相中の硫化水素濃度により判断する工程であり、該気相中の硫化水素濃度が所定の合格基準値以下であった場合には、該品質評価対象の灯油組成物を合格品とし、該気相中の硫化水素濃度が所定の合格基準値を超えていた場合には、該品質評価対象の灯油組成物を不合格品とする品質評価工程と、
を有することを特徴とする灯油組成物の品質管理方法を提供するものである。
【0012】
また、本発明(4)は、前記気相硫化水素濃度測定工程において、硫化水素ガス検知管を用いて、前記試験容器内の気相を採取すると共に、採取した気相中の硫化水素濃度を測定することを特徴とする(3)の灯油組成物の品質管理方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(5)は、前記気相硫化水素濃度測定工程及び前記品質評価工程を行い、気相中の硫化水素濃度が所定の合格基準値以下と判断された灯油組成物と同一ロットの灯油組成物を合格品として出荷することを特徴とする(3)又は(4)いずれかの灯油組成物の品質管理方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(6)は、品質評価対象の灯油組成物を、試験容器内に入れ、所定の品質評価温度で気液平衡状態にし、次いで、該試験容器内の気相を採取し、採取した気相中の硫化水素濃度を測定する気相硫化水素濃度測定工程と、
該品質評価対象の灯油組成物の臭気の不快感の有無を該気相中の硫化水素濃度により判断する工程であり、該気相中の硫化水素濃度が所定の合格基準値以下であった場合には、該品質評価対象の灯油組成物を合格品とし、該気相中の硫化水素濃度が所定の合格基準値を超えていた場合には、該品質評価対象の灯油組成物を不合格品とする品質評価工程と、
該品質評価工程で不合格と判断された該品質評価対象の灯油組成物と同一ロットの灯油組成物(A)に、該品質評価工程で不合格と判断された該品質評価対象の灯油組成物とは異なるロットの灯油組成物(B)を混合することにより、合格品を得る混合工程と、
を有することを特徴とする灯油組成物の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(7)は、前記気相硫化水素濃度測定工程において、硫化水素ガス検知管を用いて、前記試験容器内の気相を採取すると共に、採取した気相中の硫化水素濃度を測定することを特徴とする(6)の灯油組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、灯油組成物の臭気の不快度を適切に判定する方法を提供することができる。本発明によれば、灯油組成物から生じる不快臭が少ないという観点での品質管理を行うことができる灯油組成物の品質管理方法を提供することができる。また、本発明によれば、不快臭の発生の少ない灯油を効率よく製造することができる灯油組成物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例の不快度と気相中の硫化水素濃度との関係を示すグラフである。
【
図2】実施例の不快度と臭気強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の灯油組成物の臭気の不快度判定方法は、品質評価対象の灯油組成物を、試験容器内に入れ、所定の品質評価温度で気液平衡状態にし、次いで、該試験容器内の気相を採取し、採取した気相中の硫化水素濃度を測定する気相硫化水素濃度測定工程と、
該気相中の硫化水素濃度により、該品質評価対象の灯油組成物の不快度を判定する不快度判定工程と、
を有することを特徴とする灯油組成物の臭気の不快度判定方法である。
【0019】
本発明の灯油組成物の臭気の不快度判定方法は、気相硫化水素濃度測定工程と、不快度判定工程と、を有する。
【0020】
本発明の灯油組成物の臭気の不快度判定方法に係る気相硫化水素濃度測定工程では、先ず、品質評価対象の灯油組成物を、試験容器内に入れ、試験容器内の品質評価対象の灯油組成物を、所定の品質評価温度で気液平衡状態にする。
【0021】
本発明の灯油組成物の臭気の不快度判定方法に係る気相硫化水素濃度測定工程において、品質評価対象となる灯油組成物は、特に制限されず、通常、石油精製プロセスにて生成する灯油組成物であればよい。品質評価対象の灯油組成物としては、例えば、JIS K2203に規定の1号灯油又は2号灯油に相当する性状のものが挙げられる。品質評価対象の灯油組成物の物性値の例を挙げると、蒸留性状95%流出温度が210~300℃、引火点が40~50℃、銅版腐食(50℃、3h)が1以下、煙点が23~25.5、硫黄分が0.0003~0.0080質量%、密度が0.7850~0.7950である。また、灯油組成物が保管される場所の温度は、通常20~30℃程度である。また、灯油組成物が溶剤や洗浄剤等に使用される場合、使用環境の温度は、通常20~30℃程度である。
【0022】
現在、灯油組成物中の硫化水素濃度については規制値がなく、人体に対して十分に無害な範囲まで制限されて市場に出荷されている。そして、硫化水素は、非常に少量であっても、不快臭に対して大きく影響を与えるため、人体に対して十分に安全な硫化水素濃度に管理されていても、不快臭に対して影響を与える濃度との観点からは、市場に出荷されている灯油組成物中の硫化水素濃度のバラツキ範囲は大きい。このようなことから、現在、市場に出荷されている灯油組成物には、不快に感じるものと不快に感じないものが混在する状態となっている。そのため、本発明では、不快臭に対して影響を与える硫化水素濃度との観点から、不快度を判定している。
【0023】
品質評価対象となる灯油組成物が入れられる試験容器は、所定の品質評価温度で、灯油組成物の気液平衡状態を維持できるものであれば、特に制限されない。試験容器としては、例えば、灯油保管用のポリタンク、ねじ口瓶等が挙げられる。試験容器には、密閉可能な気相吸引口が設けられていることが好ましい。
【0024】
本発明の灯油組成物の臭気の不快度判定方法に係る気相硫化水素濃度測定工程において、品質評価対象となる灯油組成物を、試験容器内で、気液平衡状態にするときの温度は、灯油組成物が取り扱われる場所の気温等の取り扱い温度に応じて設定される。灯油組成物が取り扱われる場所の取り扱い温度が非常に低い場合には、所定の品質評価温度は、その取り扱い温度に応じて低く設定され、また、灯油組成物が取り扱われる場所の取り扱い温度が比較的高い場合には、所定の品質評価温度は、その取り扱い温度に応じて高く設定される。例えば、灯油組成物の取り扱いが25℃前後で行われる場合には、所定の品質評価温度を25℃と設定する。また、例えば、出荷先での灯油組成物の保管及びストーブやファンヒーターへの給油が行われる場所の平均気温を25℃と見積もる場合には、所定の品質評価温度を20~30℃の範囲内でいずれかの温度を選択し、所定の品質評価温度と設定する。
【0025】
そして、本発明の灯油組成物の臭気の不快度判定方法に係る気相硫化水素濃度測定工程では、試験容器に、品質評価対象の灯油組成物を入れ、試験容器内で、品質評価対象の灯油組成物を、所定の品質評価温度において、気液平衡状態にする。試験容器内で品質評価対象の灯油組成物を気液平衡状態にする方法としては、特に制限されず、例えば、試験容器内に品質評価対象の灯油組成物を、所定の気相分の体積が残るような量入れ、密閉後、試験容器を所定の品質評価温度の場所にて放置して、試験容器内で、品質評価対象の灯油組成物を気液平衡状態にする方法や、所定の品質評価温度にされた試験容器に、所定の品質評価温度にされた品質評価対象の灯油組成物を、所定の気相分の体積が残るような量入れ、密閉後、試験容器を所定の品質管理温度に保持されている水浴に入れ、所定時間放置した後、試験容器を振とうさせる方法が挙げられる。所定の気相分の体積は、適宜選択される。なお、品質評価対象の灯油組成物の保存容器から、試験容器内に品質評価対象の灯油組成物を移す場合には、灯油組成物を移す方法としては、灯油組成物を移す際に、灯油組成物中の硫化水素の揮散が少ない方法ほど好ましい。
【0026】
本発明の灯油組成物の臭気の不快度判定方法に係る気相硫化水素濃度測定工程では、次いで、試験容器内の気相を採取し、採取した気相中の硫化水素濃度を測定する。試験容器内の気相を採取し、採取した気相中の硫化水素濃度を測定する方法としては、特に制限されず、例えば、チューブを用いて、ガスサンプリングバッグに試験容器内の気相を採取し、次いで、ガスサンプリングバッグ内の気相を、GS-SCD(ガスクロマトグラフ-化学発光硫黄検出器)等の硫化水素の定量分析が可能な分析装置にて分析し、気相中の硫化水素濃度を測定する方法や、硫化水素ガス検知管を用いて、試験容器内の気相を吸引して採取すると同時に、検知管内の検知剤に気相を接触させて、気相中の硫化水素濃度を測定する方法が挙げられる。これらのうち、試験容器内の気相を採取し、採取した気相中の硫化水素濃度を測定する方法としては、硫化水素ガス検知管を用いて、試験容器内の気相を吸引して採取すると同時に、検知管内の検知剤に気相を接触させて、気相中の硫化水素濃度を測定する方法が、大型の分析装置を使用せず且つ試験容器の存在する場所で硫化水素濃度の測定が可能なので、簡便且つ迅速に気相中の硫化水素濃度を測定できる点で好ましい。硫化水素ガス採取器、検知管としては、特に制限されず、市販のものが適用可能である。硫化水素ガス検知管の規格としては、JIS K 0804が挙げられる。
【0027】
本発明の灯油組成物の臭気の不快度判定方法に係る不快度判定工程は、気相硫化水素濃度測定工程を行い得られる気相中の硫化水素濃度の測定結果により、品質評価対象の灯油組成物の不快度を判定する工程である。
【0028】
本発明の灯油組成物の品質管理方法に係る不快度判定工程では、予め定められている気相中の硫化水素濃度に対応する不快度尺度の値に基づいて、気相硫化水素濃度測定工程を行い得られる気相中の硫化水素濃度に対応する不快度尺度を決定し、品質評価対象の灯油組成物の不快度を判定する。例えば、表1に示すように、予め気相中の硫化水素濃度に対応する不快度尺度の値を定めておき、気相硫化水素濃度測定工程を行い得られる気相中の硫化水素濃度より、それに対応する不快度を決定する。
【0029】
【0030】
なお、気相中の硫化水素濃度と不快度尺度との対応関係は、灯油組成物の取り扱われ方等、灯油組成物の用途に応じて設定される。
【0031】
本発明の灯油組成物の品質管理方法は、品質評価対象の灯油組成物を、試験容器内に入れ、所定の品質評価温度で気液平衡状態にし、次いで、該試験容器内の気相を採取し、採取した気相中の硫化水素濃度を測定する気相硫化水素濃度測定工程と、
該品質評価対象の灯油組成物の臭気の不快感の有無を該気相中の硫化水素濃度により判断する工程であって、該気相中の硫化水素濃度が所定の合格基準値以下であった場合には、該品質評価対象の灯油組成物を合格品とし、該気相中の硫化水素濃度が所定の合格基準値を超えていた場合には、該品質評価対象の灯油組成物を不合格品とする品質評価工程と、
を有することを特徴とする灯油組成物の品質管理方法である。
【0032】
本発明の灯油組成物の品質管理方法は、気相硫化水素濃度測定工程と、品質評価工程とを有する。
【0033】
本発明の灯油組成物の品質管理方法に係る気相硫化水素濃度測定工程は、本発明の灯油組成物の臭気の不快度判定方法に係る気相硫化水素濃度測定工程と同様である。
【0034】
本発明の灯油組成物の品質管理方法に係る品質評価工程は、品質評価対象の灯油組成物の臭気の不快感の有無を該気相中の硫化水素濃度により判断する工程であり、気相中の硫化水素濃度が所定の合格基準値以下であった場合には、品質評価対象の灯油組成物を合格品とし、気相中の硫化水素濃度が所定の合格基準値を超えていた場合には、品質評価対象の灯油組成物を不合格品とする工程である。
【0035】
本発明の灯油組成物の品質管理方法に係る品質評価工程において、気相中の硫化水素濃度の合格基準値は、灯油組成物の取り扱われ方等、灯油組成物の用途に応じて設定される。例えば、家庭用ヒーターに使用される1号品の場合には、気相中の硫化水素濃度の合格基準値は比較的高めに設定され、また、溶剤や洗浄剤として使用される2号品の場合には、気相中の硫化水素濃度の合格基準値は比較的低めに設定される。
【0036】
本発明の灯油組成物の品質管理方法では、品質評価工程において合格品と判断された灯油組成物が、小口の保管容器(例えば、灯油保管用ポリタンク)から採取した灯油組成物であった場合に、品質評価対象とした灯油組成物が充填されていた小口の保管容器内の灯油組成物のみを合格品として出荷することができる。また、本発明の灯油組成物の品質管理方法では、品質評価工程において合格品と判断された灯油組成物が、小口の保管容器から採取した灯油組成物であった場合に、品質評価対象とした灯油組成物と同一ロットの灯油組成物を合格品として出荷することができる。また、本発明の灯油組成物の品質管理方法では、品質評価工程において合格品と判断された灯油組成物が、灯油組成物の貯蔵タンクから採取した灯油組成物であった場合に、品質評価対象とした灯油組成物と同一ロットの灯油組成物を合格品として出荷することができる。なお、品質評価対象の灯油組成物と同一ロットの灯油組成物とは、品質評価対象の灯油組成物が、貯蔵タンクに貯蔵されていたときに、品質評価対象の灯油組成物と一緒に貯蔵されていた貯蔵タンク内の灯油組成物を指す。
【0037】
従来は、灯油組成物からの不快臭の原因が、灯油組成物の取り扱い時等に発生する揮発成分であると考えられていたので、灯油組成物の不快臭を減らすために、揮発成分量をコントロールして、臭気の強さをコントロールすることが必要であると考えられていた。しかし、本発明者らが、灯油組成物から生じる臭気の不快感について、鋭意検討を行ったところ、灯油組成物の性状により、臭気を強く感じるものや、それほど強く臭気を感じないものがあるが、灯油組成物の臭気の強さ、言い換えると、揮発成分量と、不快感とには、必ずしも相関がなく、気相に揮発する硫化水素の量が、灯油組成物から生じる臭気の不快感と、よく相関することを見出した。つまり、本発明者らは、灯油組成物から生じる揮発成分の大部分を占める揮発性の炭化水素ではなく、灯油組成物から生じる揮発成分に含まれる少量の硫化水素が不快臭の原因となっていることを見出した。
【0038】
そして、本発明の灯油組成物の臭気の不快度判定方法及び本発明の灯油組成物の品質管理方法では、不快臭の発生に強く影響を与える気相中の硫化水素濃度に着目しているので、灯油組成物の臭気の不快度の判定及び不快臭が少ない灯油組成物の品質管理を適切に行うことができる。更に、本発明の灯油組成物の品質管理方法では、灯油組成物の取り扱い時の温度に応じて、品質評価温度を設定し、且つ、灯油組成物の用途に応じて、硫化水素濃度の合格基準を設定するので、灯油組成物の取り扱い温度や用途に応じた品質管理を行うことができる。
【0039】
一方、灯油組成物の揮発成分量や蒸気圧の分析、液相の灯油組成物中の硫黄分含有量や硫化水素含有量の測定から、不快の度合を推測する方法では、実際に灯油組成物が取り扱われる状態で、使用者が不快と感じるか否かを判断することが困難である。
【0040】
本発明の灯油組成物の製造方法は、品質評価対象の灯油組成物を、試験容器内に入れ、所定の品質評価温度で気液平衡状態にし、次いで、該試験容器内の気相を採取し、採取した気相中の硫化水素濃度を測定する硫化水素濃度測定工程と、
該品質評価対象の灯油組成物の臭気の不快感の有無を該気相中の硫化水素濃度により判断する工程であり、該気相中の硫化水素濃度が所定の合格基準値以下であった場合には、該品質評価対象の灯油組成物を合格品とし、該気相中の硫化水素濃度が所定の合格基準値を超えていた場合には、該品質評価対象の灯油組成物を不合格品とする品質評価工程と、
該品質評価工程で不合格と判断された該品質評価対象の灯油組成物と同一ロットの灯油組成物(A)に、該品質評価工程で不合格と判断された該品質評価対象の灯油組成物とは異なるロットの灯油組成物(B)を混合することにより、合格品を得る混合工程と、
を有することを特徴とする灯油組成物の製造方法である。
【0041】
本発明の灯油組成物の製造方法に係る気相硫化水素濃度測定工程及び品質評価工程は、本発明の灯油組成物の品質管理方法に係る気相硫化水素濃度測定工程及び品質評価工程と同様である。
【0042】
本発明の灯油組成物の製造方法に係る混合工程では、品質評価工程で不合格と判断された品質評価対象の灯油組成物と同一ロットの灯油組成物(A)に、品質評価工程で不合格と判断された品質評価対象の灯油組成物とは異なるロットの灯油組成物(B)を混合することにより、合格品を得る工程である。
【0043】
混合工程において、品質評価対象とした灯油組成物と同一ロットの灯油組成物(A)とは、品質評価対象の灯油組成物が、貯蔵タンクに貯蔵されていたときに、品質評価対象の灯油組成物と一緒に貯蔵されていた貯蔵タンク内の灯油組成物を指す。また、品質評価対象とした灯油組成物とは異なるロットの灯油組成物(B)とは、(i)品質評価対象の灯油組成物が貯蔵されていた貯蔵タンクとは別の貯蔵タンクに貯蔵されていた灯油組成物、又は(ii)品質評価対象の灯油組成物が貯蔵されていた貯蔵タンクと同一の貯蔵タンクに貯蔵されていたが、品質評価対象の灯油組成物とは一緒には貯蔵されていなかった灯油組成物を指す。
【0044】
混合工程では、灯油組成物(A)に灯油組成物(B)を混合することにより、合格品と判断される灯油組成物を得る。そのため、灯油組成物(B)としては、灯油組成物(A)と同一の気相硫化水素濃度測定工程を行い気相中の硫化水素濃度を測定した場合に、気相中の硫化水素濃度が、灯油組成物(A)の気相中の硫化水素濃度より低いものが用いられる。つまり、灯油組成物(B)を、灯油組成物(A)と同一の気相硫化水素濃度測定工程を行い気相中の硫化水素濃度を測定した場合に、灯油組成物(B)の気相中の硫化水素濃度は、灯油組成物(A)の気相中の硫化水素濃度より低い。
【0045】
混合工程において、灯油組成物(A)と灯油組成物(B)の混合割合は、灯油組成物(A)及び灯油組成物(B)の気相硫化水素濃度測定工程における気相中の硫化水素濃度、合格品の合格基準値等により、適宜選択され、混合後の灯油組成物が合格品と判断されるように、灯油組成物(A)と灯油組成物(B)の混合割合が選択される。
【0046】
本発明の灯油組成物の製造方法では、灯油組成物の取り扱い時の温度及び灯油組成物の用途に応じて、不快臭が発生するおそれのある灯油組成物のみを的確に選択し、不快臭が発生し難い灯油組成物と混合することにより、不快臭の発生が少ない灯油組成物を得ることができるので、不快臭の発生が少ない灯油を効率よく製造することができる。
【0047】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【実施例】
【0048】
(実施例)
<試験対象灯油組成物>
試験対象の灯油組成物として、試験対象灯油組成物A~Gを用意した。
【0049】
<気液平衡状態の気相中の硫化水素濃度の測定>
密閉可能な気相吸引口及び通気口が取り付けられている1Lの試験容器に、試験対象灯油組成物Aを、空液比が1:1となるように張り込み、密閉した。次いで、試験容器を25℃±1℃に保たれた水浴中で、少なくとも2時間放置した。
放置後、試験容器を30秒間、激しく振とうさせ、振とうを止めた後、速やかに、気相吸引口に硫化水素ガス検知管を取り付け、試験容器内の気相を硫化水素ガス検知管内に導入し、硫化水素濃度を測定した。その結果を表2に示す。
また、試験対象灯油組成物B~Gについても、同様に行った。その結果を表2に示す。
【0050】
<試験対象灯油組成物の臭気強度及び不快度の評価>
密閉可能な気相吸引口及び通気口が取り付けられている1Lの試験容器に、試験対象灯油組成物Aを、空液比が1:1となるように張り込み、密閉した。同時に、密閉可能な気相吸引口及び通気口が取り付けられている1Lの試験容器に、表3に示す性状のリファレンス灯油組成物を、空液比が1:1となるように張り込み、密閉した。次いで、両試験容器を25℃±1℃に保たれた水浴中に、少なくとも2時間放置した。
放置後、両試験容器を30秒間、激しく振とうさせ、振とうを止めた後、速やかに、両試験容器の通気口を開け、試験対象灯油組成物Aが入れられた試験容器の通気口に、鼻を近づけ、臭いをかぎ、臭気強度の評価を行った。また、リファレンス灯油組成物が入れられた試験容器の通気口と試験対象灯油組成物Aが入れられた試験容器の通気口に、交互に鼻を近づけ、それぞれの臭いをかぎ、不快度の評価を行った。
上記評価試験を、被験者を変えて、表2に示す被験者人数分行った。その結果を表2に示す。
また、試験対象灯油組成物B~Gについても、同様に行った。その結果を表2に示す。
【0051】
<臭気強度の評価>
「無臭」が「0点」、「やっと感知できる程度」が「1点」、「何の臭いかわかる弱い臭い」が「2点」、「楽に感知できる臭い」が「3点」、「強い臭い」が「4点」、「強烈な臭い」が「5点」との評価基準で行った。
【0052】
<不快度の評価>
リファレンス灯油組成物の不快度を「0」としたときに、リファレンス灯油組成物と比べ、「非常に不快」が「-3点」、「不快」が「-2点」、「やや不快」が「-1点」、「どちらでもない」が「0点」、「やや快」が「1点」、「快」が「2点」、「非常に快」が「3点」との評価基準で行った。
【0053】
【0054】
【0055】
上記結果に基づき、不快度と気相中の硫化水素濃度との関係を
図1に、不快度と臭気強度との関係を
図2に示す。その結果、
図1に示すように、不快度と気相中の硫化水素濃度との間には、良い相関見られた。一方、
図2に示すように、不快度と臭気強度との間には、相関があるとまでは言えない結果であった。