(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ガラス部材
(51)【国際特許分類】
C03C 14/00 20060101AFI20221129BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20221129BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20221129BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20221129BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20221129BHJP
【FI】
C03C14/00
C03C3/091
C03C3/093
G02B5/20
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2019024506
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2021-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2018037782
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレプ ラメッシュ
(72)【発明者】
【氏名】横山 優
(72)【発明者】
【氏名】藤田 光広
(72)【発明者】
【氏名】植松 昌子
(72)【発明者】
【氏名】菊地 由希子
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-518752(JP,A)
【文献】特表2008-541335(JP,A)
【文献】特開2018-2491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
H01L33/50
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスマトリックス中に無機蛍光体が分散してなるガラス部材であって、
前記
ガラスマトリックスはSiO
2-B
2O
3系ガラスからなり、
前記SiO
2-B
2O
3系ガラス
全量中、SiO
2を
60~70wt%、B
2
O
3
を15~25wt%、Al
2O
3を4~10wt%及びMgO+ZnOを0.1~0.7wt%含有し、
その他の金属酸化物である残部が10.5wt%以下であることを特徴とするガラス部材。
【請求項2】
前記無機蛍光体の含有量が10vol%以上40vol%以下であることを特徴とする請求項1に記載のガラス部材。
【請求項3】
前記ガラス部材中のガラス領域におけるクリストバライト化率が1%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザーダイオード(LD:Laser Diode)等の発光素子の発する光の波長を変換する波長変換部材用ガラス部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LEDやLD等の半導体発光素子を光源として用いる照明装置の研究開発が盛んに行われており、省エネルギー発光装置としてその存在感が高まっている。このような省エネルギー発光装置は、例えば青色光を出射するLED上に、LEDからの光の一部を吸収して黄色光に変換する波長変換部材が配置され、LEDから出射された青色光と、波長変換部材から出射された黄色光との合成光である白色光を発する。
【0003】
波長変換部材としては、従来、樹脂マトリックス中に無機蛍光体を分散させたものが知られるが、該波長変換部材を用いた場合、LEDが発する熱や高エネルギーの短波長光により樹脂が劣化し、発光装置の輝度が低くなりやすいという問題がある。そこで、樹脂に代えてガラスマトリックス中に蛍光体を分散固定した完全無機固体からなる波長変換部材が提案されている。例えば、特許文献1には、経時的な発光強度の低下の少ない波長変換部材として、ガラスマトリックス中に無機蛍光体が分散してなり、該ガラスマトリックスがSiO2、B2O3、Al2O3、Li2O、Na2O、K2O、MgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOを含有し、該無機蛍光体が、これらの酸化物を含む酸化物蛍光体、及び窒化物蛍光体などである波長変換部材が開示されている。特許文献2には、焼成時における無機蛍光体の特性劣化を低減し、かつ、機械的強度及び耐候性に優れた波長変換材料に用いられるガラスとして、SiO2、B2O3、Al2O3、Li2O、Na2O、K2O、MgO、CaO、SrO、及びZnOを含有し、かつ、軟化点が700℃未満であるガラスが開示されている。特許文献1及び2に記載の波長変換部材は、樹脂マトリックスを用いた波長変換部材と比べて、母材となるガラスマトリックスがLEDからの熱や照射光により劣化しにくく、変色や変形といった問題が生じにくい。
【0004】
一方、特許文献3には、基板上に形成された窒化ガリウム系化合物半導体からなる発光層を備えた青色発光が可能な発光素子と、該発光素子上に設けられたコーティング部と、該コーティング部を保護するモールド部材とを有する発光ダイオードが開示されている。特許文献3に記載の発光ダイオードでは、前記コーティング部材は前記発光素子からの青色光の少なくとも一部を吸収し波長変換して蛍光を発する黄色のフォトルミネッセンス蛍光体を含むとともに、前記モールド部材にはモールド部材を乳白色にする拡散材が含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-199640号公報
【文献】特開2016-13945号公報
【文献】特開2000-208815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近、発光装置のハイパワー化に伴い、光源として用いるLEDやLDの高出力が求められている。しかしながら、光源の熱や、励起光が照射された蛍光体から発せられる熱により波長変換体の温度が上昇し、発光強度が経時的に低下したり、また、場合によっては、構成材料が劣化するなどの問題が生じている。
そこで、本発明は、波長変換部材用のガラス部材であって、LEDやLDの光を照射した場合に、発光強度の低下や、構成材料の劣化が抑制された耐久性の高いガラス部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガラス部材は、ガラスマトリックス中に無機蛍光体が分散してなるガラス部材であって、前記ガラスマトリックスはSiO2-B2O3系ガラスからなり、前記SiO2-B2O3系ガラス全量中、SiO2を60~70wt%、B
2
O
3
を15~25wt%、Al2O3を4~10wt%及びMgO+ZnOを0.1~0.7wt%含有し、その他の金属酸化物である残部が10.5wt%以下であることを特徴とする。
前記無機蛍光体の含有量はガラス部材の全体積における10vol%以上40vol%以下であることが好ましい。
前記ガラス部材のガラス領域におけるクリストバライト化率は1%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のガラス部材は、出射光強度が高く、耐久性が高いので、波長変換部材に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のガラス部材について、詳細に説明する。
本発明のガラス部材は、ガラスマトリックス中に無機蛍光体が分散してなる。前記ガラスマトリックスはSiO2-B2O3系ガラスで形成され、該SiO2-B2O3系ガラスはSiO2を主成分とし、Al2O3を4~10wt%、MgO+ZnOを0.1~0.7wt%含有する。ただし、SiO2-B2O3系ガラス全量、すなわち、SiO2、B2O3、Al2O3、MgO、ZnO及び残部の合計量を100wt%とする。
すなわち、上記ガラス部材は、少なくともSiO2、B2O3、Al2O3、ZnO及び/もしくはMgOを含む。
【0010】
上記SiO2-B2O3系ガラスの主成分であるSiO2は、ガラスネットワークを形成する成分である。SiO2の含有量は、SiO2-B2O3系ガラス全量中、具体的には60~70wt%であり、より好ましくは62~65wt%である。SiO2の含有量が過少であると、ガラス部の結晶化が進行しやすく、結晶化が進行するにつれて、ガラス部材中での光散乱が増加する。すなわち、ガラス部材内を伝播する光の光路長が長くなり、光損失が大きくなるために出射光強度が低下しやすくなる。一方、SiO2の含有量が過大であると、ガラスの溶融性が悪くなり、ガラス部材を作製するためにより高い温度でガラスを溶融させなければならず、高温熱処理による無機蛍光体の劣化のため、波長変換効率が低下しやすくなる。
【0011】
B2O3はガラスの溶融温度を低下させて溶融性を著しく改善する成分である。B2O3の含有量は、SiO2-B2O3系ガラス全量中、15~25wt%であることが好ましい。B2O3の含有量が15wt%未満であると、ガラスの溶融性を向上させる効果が十分でなく、ガラス部材を作製するのに高温で溶融させなければならず、高温熱処理による無機蛍光体の劣化のため、波長変換効率が低下しやすくなる。一方、B2O3の含有量が25wt%を超えると、ガラス部材のガラス部分における耐水性などが低下し、ガラス部材としての耐久性が低下することがある。
【0012】
Al2O3はクリストバライト化を抑制させ、耐久性や機械的強度も向上させる成分である。Al2O3の含有量は、SiO2-B2O3系ガラス全量中、4~10wt%であり、好ましくは7~9wt%である。Al2O3の含有量が4wt%未満であると、ガラスのクリストバライト化抑制効果が十分に得られないため、ガラス部材中のガラス領域がクリストバライト化しやすく、ガラス部材中での光散乱が増加する傾向にある。すなわち、クリストバライト化の進行により、多くの結晶核が成長して結晶粒の集合体となるため、光路長が長くなり、光損失が大きくなるために出射光強度が低下しやすくなる。一方、Al2O3の含有量が10wt%を超えると、ガラス部材のガラス部分における耐水性などが低下し、ガラス部材としての耐久性が低下する傾向がある。
【0013】
MgO+ZnOは、ガラスの溶融温度を低下させて溶融性を改善する成分であり、軟化点を低下させる成分でもある。SiO2-B2O3系ガラス全量中、MgO及びZnOの含有量は、合計して0.1~0.7wt%であり、好ましくは0.4~0.6wt%である。MgO及びZnOの合計含有量が0.1wt%未満であると、ガラスの溶融性を向上させる効果が十分でなく、ガラス部材を作製するのに高温でガラスを溶融させなければならず、高温熱処理による無機蛍光体の劣化のため、波長変換効率が低下しやすくなる。一方、MgO及びZnOの合計含有量が0.7wt%を超えると、ガラス部分における耐水性などが低下し、ガラス部材としての耐久性が低下する傾向がある。
【0014】
上記無機蛍光体は、一般的な無機蛍光体、例えば、ガーネット系化合物(YAG:Ceなど)、窒化物(CaAlSiN3など)、酸窒化物(αサイアロン(SiAlON)、βサイアロンなど)等の蛍光体である。
ところで、これらの無機蛍光体は、ガラスよりも屈折率が高い。例えば、波長変換用ガラス部材において、屈折率の高い無機蛍光体と、屈折率の小さいガラスとを組み合わせて用いると、無機蛍光体とガラスマトリックスの界面で励起光が散乱される。両者の屈折率の差が大きいと、無機蛍光体に対する励起光の照射効率が高くなり、波長変換効率が向上する。ただし、両者の屈折率の差が大きすぎると、励起光の散乱が過剰となり、散乱損失となって、かえって波長変換効率が低下する。
【0015】
上記ガラス部材中、無機蛍光体の含有量はガラス部材の全体積における10vol%以上40vol%以下が好ましく、14vol%以上26vol%以下がより好ましい。無機蛍光体の含有量が10vol%以上40vol%以下であるとき、ガラス部材を透過する光の波長光量が増加し、無機蛍光体による散乱や反射光量が少ないため発光強度が増加する。無機蛍光体の含有量が10vol%未満であると、所望の発光強度を得られにくいことがある。一方、無機蛍光体の含有量が40vol%を超えると、ガラスマトリックス中に分散しにくくなったり、また、気孔率が大きくなるために、励起光が効率良く無機蛍光体に照射されにくくなる。また、ガラス部材の機械的強度が低下する傾向にある。
【0016】
上記ガラス部材は、ガラスマトリックス中に上記無機蛍光体を分散してなる。前記ガラスの高温熱処理前における形状は、粉末状の無機蛍光体と均一に混合し、高温熱処理するという観点から、粉末状であることが好ましい。ガラスが粉末状である場合、レーザー回折法による、最大粒子径(Dmax)は150μm以下、平均粒子径(D50)は0.1μm以上であることが好ましい。最大粒子径(Dmax)が150μmを超えると、得られる波長変換部材において、励起光が散乱しにくくなり発光効率が低下する傾向にある。一方、平均粒子径(D50)が0.1μm未満であると、ガラス部材において、励起光が過剰に散乱して発光効率が低下しやすくなる。最大粒子径(Dmax)は30μm以下、平均粒子径(D50)は0.5μm以上10μm以下であることがさらに好ましい。また、前記ガラスの軟化点は好ましくは400~850℃、より好ましくは500~810℃である。軟化点が400℃未満であると、ガラス部材の機械的強度及び耐久性が低下する傾向がある。一方、軟化点が850℃を超えると、波長変換材料の熱処理温度が高くなるため、熱処理時に無機蛍光体が劣化しやすくなる。
【0017】
本発明のSiO2-B2O3系ガラスは、本発明の効果を損なわない範囲内で、前記したSiO2、B2O3、Al2O3、MgO及びZnO以外に、その他の金属又は金属酸化物が少量含まれていてもよい。例えば、Li2O、Na2O、及びK2O等の成分を含有してもよい。これらの成分はガラスの融点を低下させて溶融性を改善する成分であるが、ガラスの軟化点を低下させるため、耐久性を維持するために、その含有量は、SiO2-B2O3系ガラス全量中、合計で0.01~5wt%程度とする。
【0018】
上記ガラス部材のガラス相におけるクリストバライト化率は1%以下であることが好ましい。クリストバライト化率が1%以下であれば、ガラス部材中での光散乱が増加しにくいため、光損失が増加せず、出射光強度、すなわち発光効率の向上に繋がる。このようなガラス相の含有量は、ガラス部材中、60~80wt%であることが好ましい。
また、上記ガラス部材の開気孔率は、0.1%以下であることが好ましい。
【0019】
本発明のガラス部材は、ガラス及び無機蛍光体の混合物からなる成形体を焼成することにより製造する。焼成温度は、通常、ガラスの軟化点±150℃以内の範囲である。焼成温度が低すぎると、ガラスが流動せず、緻密な焼結体が得られにくい。一方、焼成温度が高すぎると、無機蛍光体がガラス中で反応して発光強度が低下したり、無機蛍光体に含まれる成分がガラス中に拡散してガラスが着色し、発光強度が低下することがある。さらに形状の変形や、組成の偏析等が起こりうる。
【0020】
焼成は大気雰囲気下で行う。これにより、ガラス部材中に残存する気泡の量を少なくすることができる。その結果、ガラス部材内の散乱因子を少なくでき、発光効率を向上させることができる。
【0021】
本発明のガラス部材は、例えば、白色LED等の一般照明や、プロジェクタ光源、自動車のヘッドランプ光源等の波長変換部材に好適に用いられる。また、その形状も特に制限されず、例えば、板状、柱状、半球状、半球ドーム状等、それ自身が特定の形状を有する部材として用いてもよいし、ガラス基板やセラミック基板等の基材表面に焼結体を被膜状に形成させて用いてもよい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により制限されるものではない。
【0023】
[実施例1~14]及び[比較例1~4]
表1に示すガラス粉末及び無機蛍光体粉末と、バインダーとを混合後、成形して、□20mm、厚み0.25mmの成形体を作製した。次に、大気中において、それぞれ800℃で30分間加熱することにより溶融し、無機蛍光体が分散したガラス部材を得た。得られたガラス部材の発光効率を測定した。本試験に係るガラス部材を□1mmの試料に加工後、青色LED素子(発光領域:□1mm、発光波長:460nm)上にシリコーン樹脂で固定した。
積分球内で、蛍光体に青色光を入射し、分光器で蛍光スペクトルを測定した。得られた蛍光スペクトルから、吸収エネルギーと蛍光エネルギーを求め、その割合を発光効率とした。
次に、ガラス部材を温度85℃、湿度85%の条件下で1000時間放置した後、上記と同様に発光効率を測定して、発光効率の低下が2%以下である場合は耐久性が良好(○)、発光効率の低下が2%を超える場合は耐久性が不良(×)とした。
クリストバライト化率は粉末X線回折法で行うθ-2θ法にて測定を行い、22°付近で現れるピークの面積(結晶成分のピーク面積+非晶成分のハローパターン面積)に対する結晶成分のピーク面積の比から算出した。クリストバライト化率が1%以内である場合は良好(〇)、1%を超える場合は不良(×)とした。
結果を表1に表す。
【0024】
【表1】
Al
2O
3の量が少ない比較例1では、クリストバライト化率が1%を超えていた。これは、ガラス内部でクリストバライト化が進行したことによるためと考えられる。
比較例3は発光効率91%で出射光強度が低下した。
一方、Al
2O
3の量が多い比較例2、及びMgO+ZnOの量が多い比較例4では、耐久性の低下が示唆された。