(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】液体吐出装置およびそれを備えたインクジェットプリンタ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20221129BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20221129BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/14 307
B41J2/01 401
B41J2/01 451
(21)【出願番号】P 2019032285
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【氏名又は名称】古市 昭博
(72)【発明者】
【氏名】三澤 啓介
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-189899(JP,A)
【文献】特開2012-125998(JP,A)
【文献】特開2017-159463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する液体吐出ヘッドと、
前記液体の温度を検知する温度センサと、
前記液体吐出ヘッドを制御する制御装置と、を備え、
前記液体吐出ヘッドは、
内部に前記液体が貯留される圧力室が形成されたケースと、
前記ケースに設けられ、前記圧力室の一部を区画する区画板と、
前記区画板に連結され、電気信号が供給されると変形するアクチュエータと、
前記ケースに形成され、前記圧力室と連通するノズルと、を備え、
前記制御装置は、
駆動周期毎に、前記圧力室を膨張および収縮させることにより第(N-2)の液滴(ただし、Nは3以上の整数である。)を吐出するための第(N-2)駆動パルスと、前記第(N-2)駆動パルスの後方に位置し、前記圧力室を膨張および収縮させることにより第(N-1)の液滴を吐出するための第(N-1)駆動パルスと、前記第(N-1)駆動パルスの後方に位置し、前記圧力室を膨張および収縮させることにより第Nの液滴を吐出するための第N駆動パルスと、を少なくとも有する基準駆動信号を生成する駆動信号生成回路と、
前記温度センサによって検知された温度が予め定められた基準温度よりも低い場合に、前記基準駆動信号のうち少なくとも前記第(N-1)駆動パルスの駆動電圧および前記第N駆動パルスの駆動電圧を上げる第1温度補正係数を演算し、かつ、前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも高い場合に、前記基準駆動信号のうち少なくとも前記第(N-1)駆動パルスの駆動電圧および前記第N駆動パルスの駆動電圧を下げる第2温度補正係数を演算する、補正係数演算回路と、
前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも低い場合に、前記基準駆動信号を前記第1温度補正係数で補正し、かつ、前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも高い場合に、前記基準駆動信号を前記第2温度補正係数で補正する駆動信号補正回路と、
補正された前記基準駆動信号の一部または全部を前記アクチュエータに供給する駆動信号供給回路と、を備え、
前記液体吐出ヘッドのヘルムホルツ固有振動周期をTcとしたときに、前記第N駆動パルスは、前記第(N-1)駆動パルスの開始からp×Tc(ただし、pは2以上の整数である。)後のタイミングで開始され、
前記第1温度補正係数または前記第2温度補正係数によって補正された前記第(N-1)駆動パルスの最小電位における駆動電圧の変化量をΔV
min(N-1)としかつ前記第N駆動パルスの最小電位における駆動電圧の変化量をΔV
min(N)としたとき、前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも低いときにはΔV
min(N-1)<ΔV
min(N)が成立し、かつ、前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも高いときにはΔV
min(N-1)>ΔV
min(N)が成立する、液体吐出装置。
【請求項2】
前記第1温度補正係数または前記第2温度補正係数によって補正された前記第N駆動パルスの最大電位における駆動電圧の変化量をΔV
max(N)としたとき、前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも低いときにはΔV
min(N-1)<ΔV
max(N)が成立する、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも高いときにはΔV
min(N-1)>ΔV
max(N)が成立する、請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記ΔV
min(N)と前記ΔV
max(N)とは、ΔV
min(N)>ΔV
max(N)が成立する、請求項2または3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも低いときにはΔV
min(N-1)≦0.63ΔV
min(N)が成立する、請求項1から4のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも高いときにはΔV
min(N-1)≧2ΔV
min(N)が成立する、請求項1から5のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記第(N-1)駆動パルスおよび前記第N駆動パルスは、前記圧力室の膨張している状態が(1/2)×Tcの時間持続されるように構成されている、請求項1から6のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記駆動信号供給回路は、
前記アクチュエータに対して前記第(N-1)駆動パルスおよび前記第N駆動パルスを供給せずかつ前記第(N-2)駆動パルスを供給する第1ドット形成部と、
前記アクチュエータに対して前記第(N-2)駆動パルスを供給せずかつ前記第(N-1)駆動パルスおよび前記第N駆動パルスを供給する第2ドット形成部と、
前記アクチュエータに対して前記第(N-2)駆動パルスおよび前記第(N-1)駆動パルスおよび前記第N駆動パルスを供給する第3ドット形成部と、を備えている、請求項1から7のいずれか一項に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の液体吐出装置を備え、前記液体はインクである、インクジェットプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置およびそれを備えたインクジェットプリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体が貯留される圧力室と、圧力室の一部を区画する区画板と、区画板に連結されたアクチュエータと、圧力室に連通するノズルと、アクチュエータに駆動信号を供給することによりアクチュエータを駆動する制御装置と、を備えた液体吐出装置が知られている。このような液体吐出装置は、例えば、液体としてインクを吐出するインクジェットプリンタ(以下単にプリンタと称することがある)などに設けられている。
【0003】
上記液体吐出装置を備えたプリンタでは、制御装置がアクチュエータに駆動パルス信号(以下、駆動パルスという。)を供給すると、アクチュエータが変形し、それに伴って区画板が変形する。これにより、圧力室の容積が増加または減少し、圧力室内のインクの圧力が変化する。この圧力の変化に伴い、ノズルからインクが吐出される。吐出されたインクは液滴(インク滴)となって飛翔し、記録紙などの記録媒体に着弾する。その結果、記録紙上に1つのドットが形成される。そして、このようなドットを記録紙上に多数形成することにより、画像などが形成される。上記液体吐出装置では、1つのドットを形成するための駆動周期内に複数の駆動パルスを有する駆動信号を生成する、所謂、マルチドット方式によってドットのサイズの調整が行われている。
【0004】
ところで、上記のような液体吐出装置では、環境温度の変化などに伴ってインクの粘度が変化する。例えばインクの温度が高くなると、流動性が高まってインクが吐出されやすくなる。その結果、液滴の飛翔速度が変化して着弾する位置がずれたり、ドットのサイズが変化して画質の濃淡が変わったりすることがある。また、例えばインクの温度が低くなると、流動性が低下してインクが吐出されにくくなる。その結果、ドットのサイズが小さくなり画質が低下することがある。
【0005】
例えば、特許文献1には、幅広い温度域において安定的に液滴を吐出することができる液体吐出装置が開示されている。特許文献1では、インクの温度が基準温度より低い場合と高い場合とで駆動信号の補正の方法を異ならせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、本発明者の検討によれば、複数の駆動パルスによって複数の液滴を吐出してサイズの大きな1つのドットを形成するときには、吐出安定性が低下することがあった。具体的には、先に吐出された液滴の駆動パルスの残留振動によって圧力室やメニスカスの振動が大きくなり、ノズルの開口部付近にインクが付着して濡れ性の分布にムラが生じて、次に吐出される液滴に飛翔曲りが発生したり、インクミストが発生し易くなったりすることがあった。このような問題は、家庭用プリンタに比べてサイズが大きいドットを高速で形成する業務用の大判プリンタにおいて無視できないものであった。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、幅広い温度域において、安定的に液滴を吐出することができる液体吐出装置を提供することである。また、他の目的は、上記液体吐出装置を備えたインクジェットプリンタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る液体吐出装置は、液体を吐出する液体吐出ヘッドと、前記液体の温度を検知する温度センサと、前記液体吐出ヘッドを制御する制御装置と、を備えている。前記液体吐出ヘッドは、内部に前記液体が貯留される圧力室が形成されたケースと、前記ケースに設けられ、前記圧力室の一部を区画する区画板と、前記区画板に連結され、電気信号が供給されると変形するアクチュエータと、前記ケースに形成され、前記圧力室と連通するノズルと、を備えている。前記制御装置は、駆動周期毎に、前記圧力室を膨張および収縮させることにより第(N-2)の液滴(ただし、Nは3以上の整数である。)を吐出するための第(N-2)駆動パルスと、前記第(N-2)駆動パルスの後方に位置し、前記圧力室を膨張および収縮させることにより第(N-1)の液滴を吐出するための第(N-1)駆動パルスと、前記第(N-1)駆動パルスの後方に位置し、前記圧力室を膨張および収縮させることにより第Nの液滴を吐出するための第N駆動パルスと、を少なくとも有する基準駆動信号を生成する駆動信号生成回路と、前記温度センサによって検知された温度が予め定められた基準温度よりも低い場合に、前記基準駆動信号のうち少なくとも前記第(N-1)駆動パルスの駆動電圧および前記第N駆動パルスの駆動電圧を上げる第1温度補正係数を演算し、かつ、前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも高い場合に、前記基準駆動信号のうち少なくとも前記第(N-1)駆動パルスの駆動電圧および前記第N駆動パルスの駆動電圧を下げる第2温度補正係数を演算する、補正係数演算回路と、前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも低い場合に、前記基準駆動信号を前記第1温度補正係数で補正し、かつ、前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも高い場合に、前記基準駆動信号を前記第2温度補正係数で補正する駆動信号補正回路と、補正された前記基準駆動信号の一部または全部を前記アクチュエータに供給する駆動信号供給回路と、を備えている。前記液体吐出ヘッドのヘルムホルツ固有振動周期をTcとしたときに、前記第N駆動パルスは、前記第(N-1)駆動パルスの開始からp×Tc(ただし、pは2以上の整数である。)後のタイミングで開始される。前記第1温度補正係数または前記第2温度補正係数によって補正された前記第(N-1)駆動パルスの最小電位における駆動電圧の変化量をΔVmin(N-1)としかつ前記第N駆動パルスの最小電位における駆動電圧の変化量をΔVmin(N)としたとき、前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも低いときにはΔVmin(N-1)<ΔVmin(N)が成立し、かつ、前記温度センサによって検知された温度が前記基準温度よりも高いときにはΔVmin(N-1)>ΔVmin(N)が成立する。
【0010】
本発明の液体吐出装置によると、温度センサによって検知された温度が基準温度よりも低いときにはΔVmin(N-1)<ΔVmin(N)が成立する。インクの温度が基準温度よりも低い場合には、インクの粘度が高まる。このため、第(N-1)駆動パルスによって第(N-1)の液滴を吐出するときには、第(N-2)駆動パルスの残留振動はある程度減衰している。しかしながら、第(N-1)駆動パルスの駆動電圧を基準温度における駆動電圧よりも上げることによって、第(N-2)駆動パルスの残留振動をより減衰させることができる。なお、低温においても基準温度と同様の液量がノズルから吐出される必要があるが、ΔVmin(N-1)<ΔVmin(N)が成立しているため、第N駆動パルスによって吐出される第Nの液滴の量を増やすことができる。これにより、常温から低温の温度域においてノズルから安定的に液滴を吐出することができる。
【0011】
また、温度センサによって検知された温度が基準温度よりも高いときにはΔVmin(N-1)>ΔVmin(N)が成立する。インクの温度が基準温度よりも高い場合には、インクの粘度が低下する。このため、第(N-1)駆動パルスによって第(N-1)の液滴を吐出するときには、第(N-2)駆動パルスの残留振動はあまり減衰していない。このため、第(N-1)駆動パルスの駆動電圧を基準温度における駆動電圧よりも下げることによって、第(N-2)駆動パルスの残留振動を減衰させることができる。なお、高温においても基準温度と同様の液量がノズルから吐出される必要があるが、ΔVmin(N-1)>ΔVmin(N)が成立しているため、第N駆動パルスによって吐出される第Nの液滴の量を増やすことができる。これにより、常温から高温の温度域においてノズルから安定的に液滴を吐出することができる。
【0012】
また、本発明の他の側面として、上記液体吐出装置を備えたインクジェットプリンタが提供される。このインクジェットプリンタでは、マルチドット方式により、大きなサイズのドットも安定して形成することができる。したがって、例えばドットのサイズのバラつきを低減して、画質を向上することができる。また、インクミストなどに由来する記録媒体やプリンタ本体の汚れを低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マルチドット方式により、低温から高温までの幅広い温度域において、所望の量の液滴を安定的に吐出することができる液体吐出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】一実施形態に係るプリンタの主要部の正面図である。
【
図3】一実施形態に係る液体吐出ヘッドの一部の断面図である。
【
図4】一実施形態に係る液体吐出装置の構成を示すブロック図である。
【
図5】一実施形態に係る基準駆動信号の波形図である。
【
図6】基準温度よりも低いときの補正後駆動信号の波形図である。
【
図7】基準温度よりも高いときの補正後駆動信号の波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る液体吐出装置およびそれを備えたインクジェットプリンタ(以下プリンタとする)の実施形態について説明する。ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化する。
【0016】
図1は、一実施形態に係るプリンタ10の斜視図である。
図2は、プリンタ10の主要部を表す正面図である。以下の説明では、ユーザーがプリンタ10を正面から見たときに、ユーザーがプリンタ10から遠ざかる方を前方、ユーザーがプリンタ10に近づく方を後方とする。左、右、上、下とは、プリンタ10を正面から見たときの左、右、上、下をそれぞれ意味するものとする。また、図面中の符号F、Rr、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を意味するものとする。また、図面中の符号Yは主走査方向を示している。ここでは、主走査方向Yは左右方向である。符号Xは副走査方向を示している。ここでは、副走査方向Xは前後方向であり、平面視において主走査方向Yと直交している。ただし、上記方向は説明の便宜上定めた方向に過ぎず、プリンタ10の設置態様を何ら限定するものではなく、本発明を何ら限定するものでもない。
【0017】
図1に示すように、プリンタ10は、インクジェット式のプリンタである。プリンタ10は、家庭用のプリンタと比較すると主走査方向Yに長い、いわゆる大型のプリンタである。例えば、プリンタ10は、業務用のプリンタである。本実施形態では、プリンタ10は、記録媒体5上に画像を印刷する。
【0018】
記録媒体5は、例えば、記録紙である。ただし、記録媒体5は、記録紙に限定されない。例えば、記録媒体5には、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエステルなどの樹脂材料から形成されたシート、アルミや鉄等から形成された金属板、ガラス板、木材板等が含まれる。
【0019】
図2に示すように、プリンタ10は、ケーシング12(
図1も参照)と、ガイドレール13と、プラテン14と、キャリッジ11と、インクヘッド25と、キャリッジ移動機構18とを備えている。インクヘッド25は、液体吐出ヘッドの一例である。ガイドレール13は、ケーシング12内に配置されている。ガイドレール13は、主走査方向Yに延びている。ガイドレール13には、キャリッジ11が係合している。キャリッジ11には、複数のインクヘッド25が搭載されている。キャリッジ11は、キャリッジ移動機構18によって、ガイドレール13に沿って主走査方向Yに往復移動する。キャリッジ移動機構18は、ガイドレール13の左端側および右端側に配置されたプーリ29b、29aを有している。プーリ29aにはキャリッジモータ18aが連結されている。なお、キャリッジモータ18aはプーリ29bに連結されていてもよい。プーリ29aは、キャリッジモータ18aによって駆動される。両プーリ29a、29bには、それぞれ無端状のベルト16が巻き掛けられている。キャリッジ11はベルト16に固定されている。プーリ29a、29bが回転してベルト16が走行すると、キャリッジ11が左右方向に移動する。
【0020】
解像度との兼ね合いもあるが、スループットを向上する観点からは、キャリッジ11の走査速度が速めに設定されることがある。走査速度は、例えば通常印刷時には、駆動周波数14kHz程度で、概ね600~900mm/s程度に設定され得る。また、走査速度は、例えば高速印刷時には、駆動周波数20kHz程度で、概ね1000~1200mm/s程度に設定され得る。
【0021】
図1に示すように、プラテン14は、ケーシング12内に設けられている。プラテン14は、主走査方向Yに延びる。プラテン14には、記録媒体5が載置される。
【0022】
プリンタ10は、媒体搬送機構(図示せず)を備えている。媒体搬送機構は、記録媒体5を副走査方向Xに搬送する。媒体搬送機構は、複数のグリットローラ(図示せず)と、複数のピンチローラ(図示せず)と、フィードモータ(図示せず)とを備えている。グリットローラは、プラテン14に設けられている。ピンチローラは、グリットローラの上方に配置されている。ピンチローラは、グリットローラと対向する位置に配置されている。グリットローラはフィードモータ(図示せず)に連結されている。グリットローラはフィードモータによって駆動され、回転する。グリットローラとピンチローラとの間に記録媒体5が挟まれた状態でグリットローラが回転すると、記録媒体5は副走査方向Xに搬送される。
【0023】
図2に示すように、プリンタ10は、複数のインクカートリッジ21を備えている。複数のインクカートリッジ21には、色の異なるインクが貯留されている。インクは、液体の一例である。例えば、プリンタ10は、それぞれシアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインク、ホワイトインクを貯留する5つのインクカートリッジ21を備えている。上記各インクは、インクヘッド25から安定的に吐出されるように、その性状が調整されている。インクの粘度は、凡そ1mPa・s~50mPa・s程度、例えば、凡そ3mPa・s~10mPa・s程度に調整されている。上記粘度は、JIS Z8803(2001)に従って測定した値とする。粘度測定には、例えば、コーンプレート型回転式粘度計(東機産業製 TVE-25L)を用いることができる。
【0024】
図3に示すように、プリンタ10は、液体吐出装置20を備えている。液体吐出装置20は、インクヘッド25と、インクヘッド25の動作を制御する制御装置28と、サーミスタ27と、を備えている。
【0025】
図2に示すように、インクヘッド25は、各色のインク毎に設けられている。インクヘッド25は、インクを吐出する。インクヘッド25は、記録媒体5に向かってインクを吐出し、記録媒体5上にインクのドットを形成するものである。このドットが多数並べられることにより、記録媒体5上に画像などが形成される。インクヘッド25は、記録媒体5と対向する側の面(本実施形態ではインクヘッド25の下面)に、インクを吐出する複数のノズル35(
図3参照)を備えている。
【0026】
図2に示すように、各色のインクヘッド25とインクカートリッジ21とは、インク供給路22により接続されている。インク供給路22は、インクカートリッジ21からインクヘッド25へインクを供給するインク流路である。インク供給路22は、例えば可撓性を有するチューブにより構成されている。インク供給路22には、送液ポンプ23が設けられている。ただし、送液ポンプ23は必ずしも必要ではなく、省略することも可能である。インク供給路22の一部は、ケーブル類保護案内装置17により覆われている。
【0027】
図3に示すように、インクヘッド25は、開口31aを有する中空のケース31と、開口31aを塞ぐようにケース31に取り付けられた区画板32とを備えている。ケース31には、内部にインクが貯留される圧力室33が形成されている。区画板32は圧力室33の一部を区画している。区画板32は、圧力室33の内側および外側に弾性変形可能なものである。区画板32は、圧力室33の容積を増加および減少させるように変形可能に構成されている。区画板32は、典型的には樹脂フィルムである。
【0028】
図3に示すように、ケース31の側壁には、インクが流入するインク流入口34が形成されている。なお、インク流入口34は圧力室33と連通していればよく、インク流入口34の位置は何ら限定されない。圧力室33には、インク流入口34を通じてインクカートリッジ21からインクが供給され、一時的に所定量のインクが貯留される。ノズル35は、ケース31の下面31bに形成されている。ノズル35は、圧力室33と連通している。ノズル35は記録媒体5に向かってインク(液滴)を吐出する。ノズル35内部のインクの液面(自由表面)がメニスカス35aを形成している。
【0029】
圧力室33は、ヘルムホルツ固有振動周期Tcを有している。ヘルムホルツ固有振動周期Tcは、圧力室33を構成する各構成要素、例えばケース31や区画板32の材質や大きさ、形状、構成部材の配置位置、ノズル35の開口面積、インクの物性(例えば粘度)などによって一義的に特定される。ヘルムホルツ固有振動周期Tcは、インク吐出時のインクヘッド25に固有の振動周期である。ヘルムホルツ固有振動周期Tcは、例えば数μs~数十μs程度の振動周期である。液滴を吐出した後の圧力室33には、この振動周期をもった残留振動が生じることとなる。
【0030】
図3に示すように、インクヘッド25は、圧電素子36を備えている。圧電素子36は、アクチュエータの一例である。圧電素子36は、区画板32に連結されている。より詳細には、圧電素子36は、区画板32のうち圧力室33側の面と反対側の面に連結されている。圧電素子36の一部は、ケース31に設けられた固定部材39に固定されている。圧電素子36は、フレキシブルケーブル37を介して制御装置28に接続されている。圧電素子36には、フレキシブルケーブル37を介して電気信号が供給される。本実施形態において、圧電素子36は、圧電材料と導電層とを交互に積層した積層体である。圧電素子36は、制御装置28から電気信号を受けると膨張または収縮し、区画板32を圧力室33の外側または内側に弾性変形させるように機能する。ここでは、縦振動モードのピエゾ素子(PZT)を採用している。縦振動モードのPZTは、上記積層方向に伸縮自在であり、例えば放電すると収縮し、充電すると伸長するようになっている。ただし、圧電素子36の形式は特に限定されない。
【0031】
図3に示すように、サーミスタ27は、ケース31の内壁面(
図3の右側の内壁面)に設けられている。サーミスタ27は、インクヘッド25から吐出される液体(ここではインク)の温度を検知する温度センサの一例である。ここでは、ケース31の内壁面の温度を検知し、これをインクの温度と近似している。サーミスタ27は、例えばダイオードセンサや金属薄膜センサ等である。なお、サーミスタ27は、例えばケース31の外壁面やインク供給路22などに設けられていてもよい。また、温度センサは、インクの温度を直接検知可能な熱電対であってもよい。また、温度センサは、例えば、キャリッジ11やケーシング12に設けられ、プリンタ10やインクヘッド25の環境温度を検知するものであってもよい。この場合、検知された環境温度からインクの温度を外挿することができる。
【0032】
インクヘッド25では、例えば圧電素子36の電位を中間電位(基準電位)から下降させることによって、圧電素子36が収縮する。すると、これに追従して区画板32が初期位置から圧力室33の外側に弾性変形し、圧力室33が膨張する。なお、圧力室33が膨張するとは、区画板32の変形により圧力室33の容積が大きくなることをいう。次いで、圧電素子36の電位を上昇させることによって、圧電素子36が積層方向に伸長する。これにより、区画板32が圧力室33の内側に弾性変形し、圧力室33が収縮する。なお、圧力室33が収縮するとは、区画板32の変形により圧力室33の容積が小さくなることをいう。このような圧力室33の膨張および収縮により、圧力室33内の圧力が変動する。この圧力室33内の圧力変動によって、圧力室33内のインクが加圧され、液滴となってノズル35から吐出される。その後、圧電素子36の電位を中間電位に戻すことにより、区画板32が初期位置に復帰して、圧力室33が膨張する。このとき、インク流入口34から圧力室33内にインクが流入する。
【0033】
制御装置28は、キャリッジ移動機構18のキャリッジモータ18aと、媒体搬送機構のフィードモータと、送液ポンプ23と、インクヘッド25と通信可能に接続されている。制御装置28は、これらの動作を制御する。制御装置28は、典型的にはコンピュータである。制御装置28は、例えば、ホストコンピュータ等の外部機器からの印刷データ等を受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU)と、CPUが実行するプログラムを格納したROMと、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAMと、上記プログラムや各種データを格納するメモリなどの記憶装置とを備えている。
【0034】
図4に示すように、制御装置28は、駆動信号生成回路40と、補正係数演算回路50と、駆動信号補正回路60と、駆動信号供給回路70とを備えている。なお、以下の説明では、駆動信号供給回路70が圧電素子36に供給する信号のことを、供給信号と称する。詳細は後述するが、供給信号は、駆動信号生成回路40が生成する基準駆動信号の一部または全部、あるいは、駆動信号補正回路60によって補正された基準駆動信号の一部または全部からなる信号である。なお、駆動信号生成回路40、補正係数演算回路50、駆動信号補正回路60および駆動信号供給回路70のハードウェア構成は何ら限定されず、従来のものと同じでよい。
【0035】
駆動信号生成回路40は、インクヘッド25を駆動するための基準駆動信号を生成する。基準駆動信号は、複数の駆動パルスを有する。駆動パルスは、典型的には、電位を降下させて圧力室33を膨張させる波形要素と、降下させた電位を維持して圧力室33の膨張している状態を保つ波形要素と、維持された電位を上昇させて圧力室33を収縮させる波形要素とを含む波形である。基準駆動信号は、N個(ただし、Nは3以上の整数である。)の駆動パルスを有する。基準駆動信号は、駆動周期毎に、第(N-2)駆動パルスと、第(N-1)駆動パルスと、第N駆動パルスとを少なくとも有する。
【0036】
図5は、一実施形態に係る基準駆動信号Sの波形図である。横軸tは時間を表し、縦軸Vは電位を表す。txは1駆動周期を表す。駆動信号生成回路40は、
図5に示すような基準駆動信号Sを駆動周期毎に繰り返し生成するように構成されている。
図5の基準駆動信号Sは、1駆動周期内に、4つの駆動パルスP1、P2、P3、P4を有し、上記Nの数が4の場合の例である。
図5の基準駆動信号Sは、例えば、基準温度(例えば28℃)における駆動信号である。本実施形態では、後述するように、基準駆動信号Sは、4つの駆動パルスP1、P2、P3、P4を順に発生させて、第1の液滴~第4の液滴をノズル35から連続的に吐出させる。これにより、記録媒体5上に1つの大きなドットを形成することができる。
【0037】
図5に示すように、基準駆動信号Sは、第1駆動パルスP1と、第2駆動パルスP2と、第3駆動パルスP3と、第4駆動パルスP4とを有する。第2駆動パルスP2は、第(N-2)駆動パルスの一例である。第3駆動パルスP3は、第(N-1)駆動パルスの一例である。第4駆動パルスP4は、第N駆動パルスの一例である。第2駆動パルスP2は、第1駆動パルスP1より後ろに位置する(生成される)。第3駆動パルスP3は、第2駆動パルスP2より後ろに位置する(生成される)。第4駆動パルスP4は、第3駆動パルスP3より後ろに位置する(生成される)。
【0038】
図5に示すように、第1駆動パルスP1は、中間電位V
0から第1最小電位V
min1まで下降する第1下降波形T11と、第1最小電位V
min1を維持する第1最小電位維持波形T12と、第1最小電位V
min1から中間電位V
0まで上昇する第1上昇波形T13を含む。第1駆動パルスP1は、いわゆる台形型の波形である。第1駆動パルスP1によって、ノズル35から所定の吐出速度で第1の液滴(インク滴)が吐出される。
【0039】
図5に示すように、第2駆動パルスP2は、中間電位V
0から第2最小電位V
min2まで下降する第2前下降波形T21と、第2最小電位V
min2を維持する第2最小電位維持波形T22と、第2最小電位V
min2から第2電位V
2まで上昇する第2前上昇波形T23と、第2電位V
2を維持する第2維持波形T24と、第2電位V
2から第2最大電位V
max2まで上昇する第2後上昇波形T25と、第2最大電位V
max2を維持する第2最大電位維持波形T26と、第2最大電位V
max2から中間電位V
0まで下降する第2後下降波形T27とを含む。第2駆動パルスP2は、いわゆるプルプッシュプル型の波形である。第2駆動パルスP2によって、ノズル35から所定の吐出速度で第2の液滴(インク滴)が吐出される。第2の液滴は、第(N-2)の液滴の一例である。また、第2液滴が吐出された後には、圧力室33に液滴の吐出時とは逆位相の膨張収縮振動が与えられる。これにより、メニスカス35aの運動エネルギーを低減させて圧力室33を安定させることができる。
【0040】
図5に示すように、第3駆動パルスP3は、中間電位V
0から第3最小電位V
min3まで下降する第3下降波形T31と、第3最小電位V
min3を維持する第3最小電位維持波形T32と、第3最小電位V
min3から中間電位V
0まで上昇する第3上昇波形T33を含む。第3駆動パルスP3は、いわゆる台形型の波形である。第3駆動パルスP3によって、ノズル35から所定の吐出速度で第3の液滴(インク滴)が吐出される。第3の液滴は、第(N-1)の液滴の一例である。
【0041】
図5に示すように、第4駆動パルスP4は、中間電位V
0から第4最小電位V
min4まで下降する第4前下降波形T41と、第4最小電位V
min4を維持する第4最小電位維持波形T42と、第4最小電位V
min4から第4電位V
4まで上昇する第4前上昇波形T43と、第4電位V
4を維持する第4維持波形T44と、第4電位V
4から第4最大電位V
max4まで上昇する第4後上昇波形T45と、第4最大電位V
max4を維持する第4最大電位維持波形T46と、第4最大電位V
max4から中間電位V
0まで下降する第4後下降波形T47とを含む。第4駆動パルスP4は、いわゆるプルプッシュプル型の波形である。第4駆動パルスP4によって、ノズル35から所定の吐出速度で第4の液滴(インク滴)が吐出される。第4の液滴は、第3の液滴以上の速さで吐出される。第4の液滴は、第Nの液滴の一例である。また、第4液滴が吐出された後には、圧力室33に液滴の吐出時とは逆位相の膨張収縮振動が与えられる。これにより、メニスカス35aの運動エネルギーを低減させて圧力室33を安定させることができる。
【0042】
第1駆動パルスP1、第2駆動パルスP2、第3駆動パルスP3および第4駆動パルスP4は、圧力室33の容積をいったん増加させてから減少させる(圧力室33をいったん膨張させてから収縮させる)駆動パルスである。言い換えると、第1駆動パルスP1~第4駆動パルスP4は、圧力室33をいったん減圧させてから加圧させる駆動パルスである。第1駆動パルスP1~第4駆動パルスP4は、それぞれ第1の液滴~第4の液滴を吐出するための駆動パルスである。
【0043】
本実施形態では、Vmax4>Vmax2>V4>V0>V2>Vmin1>Vmin3>Vmin4>Vmin2である。ただし、Vmax4、Vmax2、V4、V0、V2、Vmin1、Vmin3、Vmin4およびVmin2の相互の大小関係は上記のものに限定されない。
【0044】
図5に示すように、基準駆動信号Sは、第1接続波形C1と、第2接続波形C2と、第3接続波形C3とを備えている。第1接続波形C1は、第1駆動パルスP1と第2駆動パルスP2とを接続する波形である。第1接続波形C1は、圧電素子36に対して少なくとも第1駆動パルスP1および第2駆動パルスP2が供給されるときに、合わせて圧電素子36に対して供給される。第2接続波形C2は、第2駆動パルスP2と第3駆動パルスP3とを接続する波形である。第2接続波形C2は、圧電素子36に対して少なくとも第2駆動パルスP2および第3駆動パルスP3が供給されるときに、合わせて圧電素子36に対して供給される。第3接続波形C3は、第3駆動パルスP3と第4駆動パルスP4とを接続する波形である。第3接続波形C3は、圧電素子36に対して少なくとも第3駆動パルスP3および第4駆動パルスP4が供給されるときに、合わせて圧電素子36に対して供給される。
【0045】
図5に示すように、本実施形態では、第4駆動パルスP4は、第3駆動パルスP3の開始からp×Tc(ただし、pは2以上の整数。)後のタイミングで開始されるように設定されている。上記pは、例えば、2である。これにより、第4駆動パルスP4の動作をヘルムホルツ固有振動周期Tcに同期させることができ、第4の液滴の吐出を安定化させることができる。また、基準駆動信号Sの全体の波形長を短くすることができるため、駆動周波数を高めることができ、高速印刷を実現することができる。なお、本明細書において「p×Tc」とは、理論上のp×Tcに厳密に一致する場合に限らず、Tcの揺らぎや誤差などを許容し得るものである。例えば、「p×Tc」は、理論上のp×Tc-(1/8)×Tc~p×Tc+(1/8)×Tcの範囲内の値であってよく、好ましくは理論上のp×Tc-(1/10)×Tc~p×Tc+(1/10)×Tcの範囲内の値である。
【0046】
図5に示すように、本実施形態では、第3駆動パルスP3および第4駆動パルスP4の放電時間(即ち放電と放電維持の合計時間)が、それぞれ、インクヘッド25のヘルムホルツ固有振動周期Tcの1/2に設定されている。即ち、第3下降波形T31の開始時間をt1とし、第3最小電位維持波形T32の終了時間をt2としたときに、t1とt2とは、次式(1):t2-t1=(1/2)×Tc;を満たすように設定されている。第4前下降波形T41の開始時間をt3とし、第4最小電位維持波形T42の終了時間をt4としたときに、t3とt4とは、次式(1):t4-t3=(1/2)×Tc;を満たすように設定されている。このように、第3駆動パルスP3および第4駆動パルスP4は、圧力室33の膨張している状態が(1/2)×Tcの時間持続されるように構成されている。これにより、圧力室33のヘルムホルツ固有振動周期Tcの振幅を増大させることができる。このように圧力室33の膨張収縮をヘルムホルツ固有振動周期Tcに同期させることで、液滴の吐出を安定化させると共に、より小さい駆動電圧で相対的に大きな液滴を吐出することができる。
【0047】
補正係数演算回路50は、基準駆動信号Sを補正するための第1温度補正係数および第2温度補正係数を演算する。
図4に示すように、補正係数演算回路50は、例えば、判定回路51と、演算回路52とを備えている。サーミスタ27で検知された温度は、判定回路51に入力される。判定回路51は、サーミスタ27によって検知された温度と基準温度とを比較し、サーミスタ27によって検知された温度が基準温度よりも低いか、同じかまたは高いかを判定する。基準温度は、例えばプリンタ10を設置する温度環境、サーミスタ27の設置位置、インクカートリッジ21に含まれるインクの粘度などによって予め定められている。基準温度は、例えば常温(例えば28℃)である。演算回路52は、サーミスタ27によって検知されたインクの温度から、インクの粘度や流動性を考慮した第1温度補正係数および第2温度補正係数を算出する。演算回路52は、サーミスタ27によって検知された温度が予め定められた基準温度(例えば28℃)よりも低い場合(例えば15℃~27℃)に第1温度補正係数を算出する。演算回路52は、サーミスタ27によって検知された温度が基準温度よりも高い場合(例えば29℃~45℃)に第2温度補正係数を算出する。第1温度補正係数および第2温度補正係数は、記録媒体5上に形成されるドットのサイズがインクの温度変化の影響を受けないように(即ち広範な温度域においてドットに含まれるインクの液量(体積)が一定になるように)基準駆動信号Sを補正する係数である。第1温度補正係数は、基準駆動信号Sのうち少なくとも第3駆動パルスP3および第4駆動パルスP4の駆動電圧を上げる(増大させる)係数である。即ち、第1温度補正係数は、圧力室33の膨張収縮を大きくするような値となる。第2温度補正係数は、基準駆動信号Sのうち少なくとも第3駆動パルスP3および第4駆動パルスP4の駆動電圧を下げる(減少させる)係数である。即ち、第2温度補正係数は、圧力室33の膨張収縮を小さくするような値となる。なお、第1温度補正係数および第2温度補正係数の算出には周知の算出方法を利用することができるので、ここでの説明は省略する。また、演算回路52は、サーミスタ27によって検知された温度が基準温度と同じ場合には第1温度補正係数および第2温度補正係数を算出しない。
【0048】
駆動信号補正回路60は、基準駆動信号Sを補正する。駆動信号補正回路60は、サーミスタ27によって検知された温度が基準温度よりも低い場合に、基準駆動信号Sを第1温度補正係数で補正する。第1温度補正係数によって補正された基準駆動信号Sは、補正後駆動信号SAとして駆動信号供給回路70に供給される。駆動信号補正回路60は、サーミスタ27によって検知された温度が基準温度よりも高い場合に、基準駆動信号Sを第2温度補正係数で補正する。第2温度補正係数によって補正された基準駆動信号Sは、補正後駆動信号SBとして駆動信号供給回路70に供給される。なお、駆動信号補正回路60は、サーミスタ27によって検知された温度が基準温度と同じ場合には、基準駆動信号Sを補正しない。即ち、基準駆動信号Sが駆動信号供給回路70に供給される。
【0049】
図6は、補正後駆動信号SAの一例である。
図6に示す例では、補正後駆動信号SAを実線で示し、基準駆動信号Sを二点鎖線で示している。
図6に示すように、補正後駆動信号SAの第1駆動パルスP1~第4駆動パルスP4の駆動電圧は、基準駆動信号Sの第1駆動パルスP1~第4駆動パルスP4の駆動電圧よりもそれぞれ高い。なお、ここで言うところの高いとは、中間電位V
0に対する差の絶対値が大きいことを言う。言い換えれば、例えば、補正後駆動信号SAの第3駆動パルスP3の第3最小電位V
min3Aは基準駆動信号Sの第3駆動パルスP3の第3最小電位V
min3よりも低く、補正後駆動信号SAの第4駆動パルスP4の第4最小電位V
min4Aは基準駆動信号Sの第4駆動パルスP4の第4最小電位V
min4よりも低く、補正後駆動信号SAの第4駆動パルスP4の第4最大電位V
max4Aは基準駆動信号Sの第4駆動パルスP4の第4最大電位V
max4よりも高い。第1温度補正係数によって補正された第3駆動パルスP3の最小電位における駆動電圧の変化量をΔV
min3としかつ第4駆動パルスP4の最小電位における駆動電圧の変化量をΔV
min4としたとき、ΔV
min3<ΔV
min4が成立する。好ましくは、ΔV
min3≦0.63ΔV
min4が成立する。ここで、ΔV
min3=V
min3A-V
min3が成立する。ΔV
min3は、ΔV
min(N-1)の一例である。ΔV
min4=V
min4A-V
min4が成立する。ΔV
min4は、ΔV
min(N)の一例である。また、第1温度補正係数によって補正された第4駆動パルスの最大電位における駆動電圧の変化量をΔV
max4としたとき、ΔV
min3<ΔV
max4が成立する。また、ΔV
min4とΔV
max4とは、ΔV
min4>ΔV
max4が成立する。なお、第1温度補正係数によって補正された第1駆動パルスP1の最小電位における駆動電圧の変化量および第2駆動パルスP2の最小電位における駆動電圧の変化量は、ΔV
min3より大きくかつΔV
min4より小さい。
【0050】
図7は、補正後駆動信号SBの一例である。
図7に示す例では、補正後駆動信号SBを実線で示し、基準駆動信号Sを二点鎖線で示している。
図7に示すように、補正後駆動信号SBの第1駆動パルスP1~第4駆動パルスP4の駆動電圧は、基準駆動信号Sの第1駆動パルスP1~第4駆動パルスP4の駆動電圧よりもそれぞれ低い。なお、ここで言うところの低いとは、中間電位V
0に対する差の絶対値が小さいことを言う。言い換えれば、例えば、補正後駆動信号SBの第3駆動パルスP3の第3最小電位V
min3Bは基準駆動信号Sの第3駆動パルスP3の第3最小電位V
min3よりも高く、補正後駆動信号SBの第4駆動パルスP4の第4最小電位V
min4Bは基準駆動信号Sの第4駆動パルスP4の第4最小電位V
min4よりも高く、補正後駆動信号SBの第4駆動パルスP4の第4最大電位V
max4Bは基準駆動信号Sの第4駆動パルスP4の第4最大電位V
max4よりも低い。第2温度補正係数によって補正された第3駆動パルスP3の最小電位における駆動電圧の変化量をΔV
min3としかつ第4駆動パルスP4の最小電位における駆動電圧の変化量をΔV
min4としたとき、ΔV
min3>ΔV
min4が成立する。好ましくは、ΔV
min3≧2ΔV
min4が成立する。ここで、ΔV
min3=V
min3-V
min3Bが成立する。ΔV
min4=V
min4-V
min4Bが成立する。また、第2温度補正係数によって補正された第4駆動パルスの最大電位における駆動電圧の変化量をΔV
max4としたとき、ΔV
min3>ΔV
max4が成立する。また、ΔV
min4とΔV
max4とは、ΔV
min4>ΔV
max4が成立する。なお、第2温度補正係数によって補正された第1駆動パルスP1の最小電位における駆動電圧の変化量および第2駆動パルスP2の最小電位における駆動電圧の変化量は、ΔV
min4より大きくかつΔV
min3より小さい。
【0051】
駆動信号供給回路70は、基準駆動信号S、補正後駆動信号SAおよび補正後駆動信号SBのいずれかの一部またはいずれかの全部をインクヘッド25の各圧電素子36に供給する。圧電素子36に供給する駆動パルスを適宜選択することにより、1駆動周期中にインクヘッド25のノズル35から吐出されるインクの液量(体積)を変更することができる。これにより、記録媒体5上に形成されるインクのドットのサイズを変更することができる。本実施形態に係るプリンタ10では、サイズの異なる3種類のドットを形成することができる。即ち、
図4に示すように、駆動信号供給回路70は、小ドット形成部71、中ドット形成部72および大ドット形成部73を有している。小ドット形成部71は、第1ドット形成部の一例である。中ドット形成部72は、第2ドット形成部の一例である。大ドット形成部73は、第3ドット形成部の一例である。小ドット形成部71は、小ドットを形成するときに、圧電素子36に対して上記駆動信号の一部である第2駆動パルスP2を供給しかつ駆動信号の他の一部である第1駆動パルスP1、第3駆動パルスP3および第4駆動パルスP4を供給しない。小ドット形成部71は、ノズル35から小ドットの液滴を吐出させる。ここでは、小ドットの液滴は第2の液滴に相当する。中ドット形成部72は、中ドットを形成するときに、圧電素子36に対して第3駆動パルスP3および第4駆動パルスP4を供給しかつ第1駆動パルスP1および第2駆動パルスP2を供給しない。中ドット形成部72は、ノズル35から中ドットの液滴を吐出させる。ここでは、中ドットの液滴は第3の液滴と第4の液滴とがマージされたものに相当する。大ドット形成部73は、大ドットを形成するときに、圧電素子36に対して第1駆動パルスP1、第2駆動パルスP2、第3駆動パルスP3および第4駆動パルスP4を供給する。大ドット形成部73は、ノズル35から大ドットの液滴を吐出させる。ここでは、大ドットの液滴は第1の液滴と第2の液滴と第3の液滴と第4の液滴とがマージされたものに相当する。例えば、小ドットはインク質量が凡そ8ng~凡そ10ngであり、中ドットはインク質量が凡そ12ng~凡そ16ngであり、大ドットはインク質量が凡そ20ng~凡そ24ngである。
【0052】
次に、プリンタ10の動作について説明する。ユーザーによってプリンタ10が起動されると、制御装置28は印刷開始準備を行う。具体的には、制御装置28から印刷データやインクヘッド25の特性を表す各種データ(例えばヘルムホルツ固有振動周期Tc)が読み出される。制御装置28はまた、圧電素子36の電位を中間電位V0まで降下させて、圧力室33を微小に膨張させる。インクヘッド25は、この状態で制御装置28から基準駆動信号S、補正後駆動信号SAおよび補正後駆動信号SBのいずれかの駆動信号が送られるまで待機する。
【0053】
ユーザーによってプリンタ10の印刷動作が指示されると、制御装置28が媒体搬送機構のフィードモータを駆動する。これにより、記録媒体5が副走査方向Xに搬送され、所定の印刷位置に配置される。制御装置28は、キャリッジ移動機構18のキャリッジモータ18aを駆動する。制御装置28は、キャリッジ11を主走査方向Yに移動させながらインクヘッド25を駆動する。より詳しくは、上記駆動信号の一部または全部は、電気信号としてインクヘッド25の圧電素子36に供給される。これにより、圧電素子36が上記駆動信号に応じた膨張収縮を引き起こし、圧力室33内に圧力変化が生じる。その結果、所定の質量をもった液滴がノズル35から所定の吐出速度で吐出される。吐出された液滴は、記録媒体5に着弾して1つのドットを形成する。このような動作の繰り返しによって1行(1パス)分の印刷がなされると、媒体搬送機構のフィードモータが駆動され、記録媒体5が次の行(パス)の印刷位置に配置される。プリンタ10は、これを繰り返して所定の印刷を行う。
【0054】
以上のように、本実施形態の液体吐出装置20によると、サーミスタ27によって検知された温度が基準温度(例えば28℃)よりも低いときにはΔVmin(N-1)<ΔVmin(N)が成立する。ここでは、ΔVmin3<ΔVmin4が成立する。インクの温度が基準温度よりも低い場合には、インクの粘度が高まる。このため、第3駆動パルスP3によって第3の液滴を吐出するときには、第2駆動パルスP2の残留振動はある程度減衰している。しかしながら、第3駆動パルスP3の駆動電圧を基準温度における駆動電圧よりも上げることによって、第2駆動パルスP2の残留振動をより減衰させることができる。なお、低温(例えば20℃~27℃)においても基準温度と同様の液量がノズル35から吐出される必要があるが、ΔVmin3<ΔVmin4が成立しているため、第4駆動パルスP4によって吐出される第4の液滴の量を増やすことができる。これにより、常温から低温の温度域(例えば15℃~28℃)においてノズル35から安定的に液滴を吐出することができる。
【0055】
また、サーミスタ27によって検知された温度が基準温度よりも高いときにはΔVmin(N-1)>ΔVmin(N)が成立する。ここでは、ΔVmin3>ΔVmin4が成立する。インクの温度が基準温度よりも高い場合には、インクの粘度が低下する。このため、第3駆動パルスP3によって第3の液滴を吐出するときには、第2駆動パルスP2の残留振動はあまり減衰していない。このため、第3駆動パルスP3の駆動電圧を基準温度における駆動電圧よりも下げることによって、第2駆動パルスP2の残留振動を減衰させることができる。なお、高温(例えば29℃~45℃)においても基準温度と同様の液量がノズル35から吐出される必要があるが、ΔVmin3>ΔVmin4が成立しているため、第4駆動パルスP4によって吐出される第4の液滴の量を増やすことができる。これにより、常温から高温の温度域(例えば28℃~45℃)においてノズル35から安定的に液滴を吐出することができる。
【0056】
本実施形態の液体吐出装置20では、サーミスタ27によって検知された温度が基準温度よりも低いときにはΔVmin3<ΔVmax4が成立する。これにより、常温から低温の温度域において第4駆動パルスP4の残留振動をより減衰させることができる。
【0057】
本実施形態の液体吐出装置20では、サーミスタ27によって検知された温度が基準温度よりも高いときにはΔVmin3>ΔVmax4が成立する。これにより、常温から高温の温度域において第4駆動パルスP4の残留振動をより減衰させることができる。
【0058】
本実施形態の液体吐出装置20では、ΔVmin4とΔVmax4とは、ΔVmin4>ΔVmax4が成立する。これにより、第4駆動パルスによって吐出された第4の液滴の液滴量を増やしつつ、第4駆動パルスの残留振動を減衰させることができる。
【0059】
本実施形態の液体吐出装置20では、サーミスタ27によって検知された温度が基準温度よりも低いときにはΔVmin3≦0.63ΔVmin4が成立する。これにより、常温から低温の温度域において安定的に液滴を吐出することができる。
【0060】
本実施形態の液体吐出装置20では、サーミスタ27によって検知された温度が基準温度よりも高いときにはΔVmin3≧2ΔVmin4が成立する。これにより、常温から高温の温度域において安定的に液滴を吐出することができる。
【0061】
本実施形態の液体吐出装置20では、第3駆動パルスP3および第4駆動パルスP4は、圧力室33の膨張している状態が(1/2)×Tcの時間持続されるように構成されている。即ち、第3駆動パルスP3および第4駆動パルスP4において、圧力室33を(1/2)×Tcのタイミングで膨張状態から収縮に切り替える。これにより、第3駆動パルスP3および第4駆動パルスP4が、圧力室33のヘルムホルツ固有振動周期Tcを増幅させるように作用する。その結果、液滴の吐出安定性が高まると共に、圧力室33の膨張収縮量が増して、より大きな液滴を吐出することができる。
【0062】
本実施形態の液体吐出装置20では、駆動信号供給回路70は、小ドット形成部71と、中ドット形成部72と、大ドット形成部73とを備えている。例えば、大ドット形成部73によって、液滴を吐出する場合には、第2駆動パルスP2の残留振動が第3駆動パルスP3に影響を与え得るが、本実施形態では、第2駆動パルスP2の残留振動を減衰させて安定的に大きな液滴を吐出することができる。
【0063】
本実施形態のプリンタ10は、液体吐出装置20を備え、液体はインクである。液体吐出装置20を備えたプリンタ10では、マルチドット方式により、大きなサイズのドットも安定して形成することができる。したがって、例えばドットのサイズのバラつきを低減して、画質を向上することができる。また、インクミストなどに由来する記録媒体5やプリンタ本体の汚れを低減することができる。
【0064】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上述の各実施形態は例示に過ぎず、本発明は他の種々の形態で実施することができる。
【0065】
上述した実施形態では、ΔVmax4は0より大きい値であるが、これに限定されない。即ち、補正後駆動信号SAおよび補正後駆動信号SBの第4駆動パルスP4の第4最大電位Vmax4Aは基準駆動信号Sの第4駆動パルスP4の第4最大電位Vmax4と同じ(ΔVmax(N)=0)であってもよい。
【0066】
上記した各実施形態では、アクチュエータとして縦振動モードの圧電素子36を用いていたが、これには限定されない。アクチュエータは横振動モードの圧電素子であってもよい。また、アクチュエータは、圧電素子に限らず、例えば磁歪素子等であってもよい。
【0067】
上記した実施形態では、吐出ヘッドがプリンタ10に搭載されるインクヘッド25であったが、これには限定されない。インクヘッド25は、例えばインクジェット方式を採用する種々の製造装置や、マイクロピペットなどの計測器具などに搭載することができ、各種用途で使用可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 プリンタ(インクジェットプリンタ)
20 液体吐出装置
25 インクヘッド(液体吐出ヘッド)
28 制御装置
32 区画板
33 圧力室
35 ノズル
36 圧電素子(アクチュエータ)
40 駆動信号生成回路
50 補正係数演算回路
60 駆動信号補正回路
70 駆動信号供給回路