IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社タダノの特許一覧 ▶ 国立大学法人横浜国立大学の特許一覧

<>
  • 特許-作業車両 図1
  • 特許-作業車両 図2
  • 特許-作業車両 図3
  • 特許-作業車両 図4
  • 特許-作業車両 図5
  • 特許-作業車両 図6
  • 特許-作業車両 図7
  • 特許-作業車両 図8
  • 特許-作業車両 図9
  • 特許-作業車両 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   F15B 11/04 20060101AFI20221129BHJP
   B66C 13/22 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
F15B11/04 Z
B66C13/22 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019035018
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020139549
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞田 一志
(72)【発明者】
【氏名】谷住 和也
(72)【発明者】
【氏名】野口 真児
(72)【発明者】
【氏名】川淵 直人
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特許第3626590(JP,B2)
【文献】特開2018-119667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 11/04
B66C 13/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧デバイスと、
作動油ポンプと、
作動油タンクと、
前記作動油ポンプから前記油圧デバイスへ作動油を導くメータイン回路と、
前記油圧デバイスから前記作動油タンクへ作動油を導くメータアウト回路と、
前記作動油ポンプから前記油圧デバイスを経由することなく前記作動油タンクへ作動油を導くブリードオフ回路と、
前記メータイン回路及び前記メータアウト回路及び前記ブリードオフ回路のそれぞれの開口面積をスプールの摺動によって調節する作動油制御バルブと、を備えた作業車両において、
オペレータが操作する操作具と、
前記操作具の操作量に基づいて前記油圧デバイスへ送られる作動油の目標流量を決定するコントローラと、を具備し、
前記コントローラは、前記作動油ポンプから送り出される作動油の流量と前記油圧デバイスへ送られる作動油の目標流量に基づいてブリードオフ目標流量を算出し、前記作動油ポンプから送り出される作動油の圧力と前記作動油タンクにおける作動油の圧力に基づいてブリードオフ絞り差圧を算出し、前記ブリードオフ目標流量と前記ブリードオフ絞り差圧に基づいてブリードオフ目標開口面積を算出して当該ブリードオフ目標開口面積となるように前記作動油制御バルブを制御する、ことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記コントローラは、前記ブリードオフ目標流量をQbとし、前記ブリードオフ絞り差圧をPp-Prとし、流量係数をCfとし、作動油密度をρとした場合、前記ブリードオフ目標開口面積を下記の数式を用いて算出する、ことを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【数1】
【請求項3】
前記コントローラは、前記油圧デバイスの目標作動速度と前記油圧デバイスの実作動速度に基づいて速度偏差を算出して当該速度偏差が小さくなるように前記作動油制御バルブを制御する、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記コントローラは、前記速度偏差である比例項及び前記速度偏差に基づいて算出される積分項並びに微分項にそれぞれゲインを乗じて前記速度偏差が小さくなるように前記作動油制御バルブを制御する、ことを特徴とする請求項3に記載の作業車両。
【請求項5】
前記コントローラは、前記油圧デバイスの目標作動速度がゼロになってから前記油圧デバイスの実作動速度が閾値よりも小さくなると、前記油圧デバイスへ送られる作動油を遮断するように前記作動油制御バルブを制御する、ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項6】
前記コントローラは、動作停止時に関するモードの選択状況に基づいて前記閾値を変更する、ことを特徴とする請求項5に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【0002】
従来より、代表的な作業車両であるクレーンが知られている。クレーンは、主に走行体と旋回体で構成されている。走行体は、複数の車輪を備え、自走可能としている。旋回体は、ブームのほかにワイヤロープやフックを備え、荷物を吊り上げた状態でこれを運搬可能としている。
【0003】
ところで、作動油ポンプから油圧デバイスへ作動油を導くメータイン回路と、油圧デバイスから作動油タンクへ作動油を導くメータアウト回路と、作動油ポンプから油圧デバイスを経由することなく作動油タンクへ作動油を導くブリードオフ回路と、を備えたクレーンが存在している(特許文献1参照)。かかるクレーンは、エンジンに掛かる負荷に応じて作動油ポンプの作動状態が変わっても、ブリードオフ回路の開口面積を調節することで操作性能の向上を実現している。
【0004】
この点、特許文献1に開示されたクレーンは、操作手段の操作量とブリードオフ絞り手段の前後差圧との関係をコントローラに記憶している。操作手段の操作量とブリードオフ絞り手段の前後差圧との関係は、少なくとも機種ごとに実機試験やシミュレーションを繰り返して取得する必要がある。そのため、このようなクレーンは、研究開発に要する時間並びに金銭的なコストが大きくなってしまうという問題があった。そこで、操作性能の向上を実現でき、かつ研究開発に要する時間並びに金銭的なコストを低減できる技術が求められていたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3626590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
操作性能の向上を実現でき、かつ研究開発に要する時間並びに金銭的なコストを低減できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の発明は、
油圧デバイスと、
作動油ポンプと、
作動油タンクと、
前記作動油ポンプから前記油圧デバイスへ作動油を導くメータイン回路と、
前記油圧デバイスから前記作動油タンクへ作動油を導くメータアウト回路と、
前記作動油ポンプから前記油圧デバイスを経由することなく前記作動油タンクへ作動油を導くブリードオフ回路と、
前記メータイン回路及び前記メータアウト回路及び前記ブリードオフ回路のそれぞれの開口面積をスプールの摺動によって調節する作動油制御バルブと、を備えた作業車両において、
オペレータが操作する操作具と、
前記操作具の操作量に基づいて前記油圧デバイスへ送られる作動油の目標流量を決定するコントローラと、を具備し、
前記コントローラは、前記作動油ポンプから送り出される作動油の流量と前記油圧デバイスへ送られる作動油の目標流量に基づいてブリードオフ目標流量を算出し、前記作動油ポンプから送り出される作動油の圧力と前記作動油タンクにおける作動油の圧力に基づいてブリードオフ絞り差圧を算出し、前記ブリードオフ目標流量と前記ブリードオフ絞り差圧に基づいてブリードオフ目標開口面積を算出して当該ブリードオフ目標開口面積となるように前記作動油制御バルブを制御する、ものである。
【0008】
第二の発明は、第一の発明に係る作業車両において、
前記コントローラは、前記ブリードオフ目標流量をQbとし、前記ブリードオフ絞り差圧をPp-Prとし、流量係数をCfとし、作動油密度をρとした場合、前記ブリードオフ目標開口面積を下記の数式を用いて算出する、ものである。
【数1】
【0009】
第三の発明は、第一又は第二の発明に係る作業車両において、
前記コントローラは、前記油圧デバイスの目標作動速度と前記油圧デバイスの実作動速度に基づいて速度偏差を算出して当該速度偏差が小さくなるように前記作動油制御バルブを制御する、ものである。
【0010】
第四の発明は、第三の発明に係る作業車両において、
前記コントローラは、前記速度偏差である比例項及び前記速度偏差に基づいて算出される積分項並びに微分項にそれぞれゲインを乗じて前記速度偏差が小さくなるように前記作動油制御バルブを制御する、ものである。
【0011】
第五の発明は、第一から第四の発明に係る作業車両において、
前記コントローラは、前記油圧デバイスの目標作動速度がゼロになってから前記油圧デバイスの実作動速度が閾値よりも小さくなると、前記油圧デバイスへ送られる作動油を遮断するように前記作動油制御バルブを制御する、ものである。
【0012】
第六の発明は、第五の発明に係る作業車両において、
前記コントローラは、動作停止時に関するモードの選択状況に基づいて前記閾値を変更する、ものである。
【発明の効果】
【0013】
第一の発明に係る作業車両は、オペレータが操作する操作具と、操作具の操作量に基づいて油圧デバイスへ送られる作動油の目標流量を決定するコントローラと、を具備している。そして、コントローラは、作動油ポンプから送り出される作動油の流量と油圧デバイスへ送られる作動油の目標流量に基づいてブリードオフ目標流量を算出し、作動油ポンプから送り出される作動油の圧力と作動油タンクにおける作動油の圧力に基づいてブリードオフ絞り差圧を算出し、ブリードオフ目標流量とブリードオフ絞り差圧に基づいてブリードオフ目標開口面積を算出してブリードオフ目標開口面積となるように作動油制御バルブを制御する。かかる作業車両によれば、エンジンに掛かる負荷に応じて作動油ポンプの作動状態が変わっても、ブリードオフ回路の開口面積の調節により、操作具の操作量と油圧デバイスへ送られる作動油の流量を比例させることができる。従って、オペレータの操作に対して素直な操作特性を実現できる。ひいては操作性能の向上を実現できる。また、コントローラに作動油の目標流量に関する情報やブリードオフ回路の開口面積に関する情報を記憶させればよいので、研究開発に要する時間並びに金銭的なコストを低減できる。
【0014】
第二の発明に係る作業車両において、コントローラは、ブリードオフ目標流量をQbとし、ブリードオフ絞り差圧をPp-Prとし、流量係数をCfとし、作動油密度をρとした場合、ブリードオフ目標開口面積を下記の数式を用いて算出する。かかる作業車両によれば、簡素なプログラムによって前述の効果を得ることができる。即ち、操作性能の向上を実現できる。また、研究開発に要する時間並びに金銭的なコストを低減できる。
【数1】
【0015】
第三の発明に係る作業車両において、コントローラは、油圧デバイスの目標作動速度と油圧デバイスの実作動速度に基づいて速度偏差を算出して速度偏差が小さくなるように作動油制御バルブを制御する。かかる作業車両によれば、大きな外乱を受けても、オペレータの操作に対して素直な操作特性を実現できる。ひいては操作性能の向上を実現できる。
【0016】
第四の発明に係る作業車両において、コントローラは、速度偏差である比例項及び速度偏差に基づいて算出される積分項並びに微分項にそれぞれゲインを乗じて速度偏差が小さくなるように作動油制御バルブを制御する。かかる作業車両によれば、簡素なプログラムによって前述の効果を得ることができる。即ち、操作性能の向上を実現できる。
【0017】
第五の発明に係る作業車両において、コントローラは、油圧デバイスの目標作動速度がゼロになってから油圧デバイスの実作動速度が閾値よりも小さくなると、油圧デバイスへ送られる作動油を遮断するように作動油制御バルブを制御する。かかる作業車両によれば、油圧デバイスの停止に際して適宜な高速応答と適宜な衝撃抑制の両立を実現できる。ひいては操作性能の向上を実現できる。
【0018】
第六の発明に係る作業車両において、コントローラは、動作停止時に関するモードの選択状況に基づいて閾値を変更する。かかる作業車両によれば、より高速応答を重視した操作特性やより衝撃抑制を重視した操作特性を実現できる。ひいては操作性能の向上を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】クレーンを示す図。
図2】キャビンの内部を示す図。
図3】油圧システムの構成を示す図。
図4】スプールの摺動量と各回路の開口面積との関係を示す図。
図5】第一実施形態に係る制御システムの構成を示す図。
図6】制御システムにおけるフィードフォワード制御部を示す図。
図7】制御システムにおけるフィードバック制御部を示す図。
図8】旋回体の旋回動作とパイロット油の圧力波形を示す図。
図9】第二実施形態に係る制御システムの構成を示す図。
図10】旋回体の旋回動作と旋回用モータへ送られる作動油の圧力波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本願に開示する技術的思想は、以下に説明するクレーン1のほか、他のクレーンにも適用できる。
【0021】
まず、図1及び図2を用いて、クレーン1について説明する。
【0022】
クレーン1は、主に走行体2と旋回体3で構成されている。
【0023】
走行体2は、左右一対の前輪4と後輪5を備えている。また、走行体2は、荷物の運搬作業を行う際に接地させて安定を図るアウトリガ6を備えている。なお、走行体2は、油圧デバイスによって、その上部に支持する旋回体3を旋回自在としている。
【0024】
旋回体3は、その後部から前方へ突き出すようにブーム7を備えている。そのため、ブーム7は、油圧デバイスによって旋回自在となっている(矢印A参照)。また、ブーム7は、油圧デバイスによって伸縮自在となっている(矢印B参照)。更に、ブーム7は、油圧デバイスによって起伏自在となっている(矢印C参照)。
【0025】
加えて、ブーム7には、ワイヤロープ8が架け渡されている。ブーム7の先端部分から垂下するワイヤロープ8には、フック9が取り付けられている。また、ブーム7の基端側近傍には、ウインチ10が配置されている。ウインチ10は、油圧デバイスと一体的に構成されており、ワイヤロープ8の巻き入れ及び巻き出しを可能としている。そのため、フック9は、油圧デバイスによって昇降自在となっている(矢印D参照)。なお、旋回体3は、ブーム7の側方にキャビン11を備えている。キャビン11の内部には、コントローラ20(図3参照)のほか、旋回レバー21や伸縮レバー22、起伏レバー23、巻回レバー24が設けられている。
【0026】
コントローラ20は、主に情報記憶部と情報処理部を有している。情報記憶部は、クレーン1の制御に要する様々な情報(プログラムなど)を記憶している。また、情報処理部は、各種レバー21~24の操作量を電気信号に変換し、それぞれの油圧デバイスを制御する。こうして、コントローラ20は、ブーム7の稼動(旋回動作・伸縮動作・起伏動作)及びウインチ10の稼動(巻入動作・巻出動作)を実現するのである。
【0027】
詳しく説明すると、ブーム7は、油圧デバイスによって旋回自在となっている(図1における矢印A参照)。本願においては、かかる油圧デバイスを旋回用モータ31と定義する。旋回用モータ31は、後述する作動油制御バルブ37によって適宜に稼動される。つまり、旋回用モータ31は、作動油制御バルブ37が作動油の流量及び流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、旋回用モータ31の作動速度は、センサ25(図3参照)によって検出される。
【0028】
また、ブーム7は、油圧デバイスによって伸縮自在となっている(図1における矢印B参照)。本願においては、かかる油圧デバイスを伸縮用シリンダ32と定義する。伸縮用シリンダ32は、その他の作動油制御バルブによって適宜に稼動される。つまり、伸縮用シリンダ32は、作動油制御バルブが作動油の流量及び流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、伸縮用シリンダ32の作動速度は、センサ(図示せず)によって検出される。
【0029】
更に、ブーム7は、油圧デバイスによって起伏自在となっている(図1における矢印C参照)。本願においては、かかる油圧デバイスを起伏用シリンダ33と定義する。起伏用シリンダ33は、その他の作動油制御バルブによって適宜に稼動される。つまり、起伏用シリンダ33は、作動油制御バルブが作動油の流量及び流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、起伏用シリンダ33の作動速度は、センサ(図示せず)によって検出される。
【0030】
加えて、フック9は、油圧デバイスによって昇降自在となっている(図1における矢印D参照)。本願においては、かかる油圧デバイスを巻回用モータ34と定義する。巻回用モータ34は、その他の作動油制御バルブによって適宜に稼動される。つまり、巻回用モータ34は、作動油制御バルブが作動油の流量及び流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、巻回用モータ34の作動速度は、センサ(図示せず)によって検出される。
【0031】
次に、図3及び図4を用いて、油圧システム30の構成について説明する。
【0032】
油圧システム30は、油圧デバイスの一つである旋回用モータ31を稼動させる。油圧システム30は、作動油ポンプ35と作動油タンク36を有している。また、油圧システム30は、作動油制御バルブ37を有している。
【0033】
作動油ポンプ35は、旋回用モータ31へ作動油を送り出すものである。作動油ポンプ35には、作動油制御バルブ37まで回路41がつながっている。また、作動油制御バルブ37には、旋回用モータ31まで回路42及び回路43がつながっている。そのため、作動油制御バルブ37のスプールが一方へ摺動したときは、作動油が回路41・42を通って旋回用モータ31へ流れることとなり、スプールが他方へ摺動したときは、作動油が回路41・43を通って旋回用モータ31へ流れることとなる。このとき、スプールの摺動量に応じて各回路42・43の開口面積(ポートの開口面積:図4参照)が変わるため、作動油の流量を調節することが可能となる。なお、作動油ポンプ35から旋回用モータ31へ作動油を導く回路(41・42又は41・43)を「メータイン回路」という。以降では、メータイン回路4Aとする。
【0034】
作動油タンク36は、旋回用モータ31から戻ってきた作動油を蓄えるものである。旋回用モータ31には、作動油制御バルブ37まで回路42及び回路43がつながっている。また、作動油制御バルブ37には、作動油タンク36まで回路44がつながっている。そのため、作動油制御バルブ37のスプールが一方へ摺動したときは、作動油が回路43・44を通って作動油タンク36へ流れることとなり、スプールが他方へ摺動したときは、作動油が回路42・44を通って作動油タンク36へ流れることとなる。このとき、スプールの摺動量に応じて回路44の開口面積(ポートの開口面積:図4参照)が変わるため、作動油の流量を調節することが可能となる。なお、旋回用モータ31から作動油タンク36へ作動油を導く回路(43・44又は42・44)を「メータアウト回路」という。以降では、メータアウト回路4Bとする。
【0035】
加えて、本油圧システム30においては、回路41から分岐した回路45も作動油制御バルブ37につながっている。また、回路42及び回路43から分岐した回路46も作動油制御バルブ37につながっている。更に、回路46から分岐した回路47が作動油タンク36につながっている。作動油制御バルブ37は、スプールが中立位置にあるとき及びいずれの方向へ摺動したときも回路45と回路46をつなぐものである(センターバイパス形である)。そのため、作動油制御バルブ37のスプールが中立位置にあるとき及びいずれの方向へ摺動したときも、作動油が回路45・46・47を通って作動油タンク36へ流れることとなる。このとき、スプールの摺動量に応じて回路46の開口面積(ポートの開口面積:図4参照)が変わるため、作動油の流量を調節することが可能となる。なお、作動油ポンプ35から旋回用モータ31を経由することなく作動油タンク36へ作動油を導く回路(45・46・47)を「ブリードオフ回路」という。以降では、ブリードオフ回路4Cとする。
【0036】
更に加えて、本油圧システム30においては、作動油制御バルブ37のスプールをパイロット油の圧力によって摺動させる。パイロット油を旋回レバー21の操作量に応じた圧力とするためにパイロット油圧制御バルブ38が設けられている。パイロット油圧制御バルブ38には、作動油制御バルブ37の一端側油室へ作動油を導く回路48がつながっている。そのため、オペレータが旋回レバー21を掴んで一方へ倒すと、その操作量に応じたパイロット油の圧力で作動油制御バルブ37のスプールを一方へ押すこととなる。このとき、旋回レバー21の操作量とスプールの摺動量が比例関係となる。また、パイロット油圧制御バルブ38には、作動油制御バルブ37の他端側油室へ作動油を導く回路49がつながっている。そのため、オペレータが旋回レバー21を掴んで他方へ倒すと、その操作量に応じたパイロット油の圧力で作動油制御バルブ37のスプールを他方へ押すこととなる。このときも、旋回レバー21の操作量とスプールの摺動量が比例関係となる。
【0037】
ところで、作動油ポンプ35は、エンジン39によって作動する。そのため、エンジン39に掛かる負荷が変化すると、作動油ポンプ35の作動状態も変わってしまう。つまり、エンジン39に掛かる負荷が増大すると、エンジン39の回転速度が下がるので、作動油ポンプ35の作動速度も下がってしまう。すると、作動油ポンプ35から送り出される作動油の流量が減少してしまうのである。反対に、エンジン39に掛かる負荷が減少すると、エンジン39の回転速度が上がるので、作動油ポンプ35の作動速度も上がってしまう。すると、作動油ポンプ35から送り出される作動油の流量が増加してしまうのである。なお、エンジン39の回転速度は、センサ26によって検出される。エンジン39の回転速度は、作動油ポンプ35の作動速度と同義である。更に、ブリードオフ回路4Cにおける作動油制御バルブ37の前後差圧(以降「ブリードオフ絞り差圧」とする)は、作動油ポンプ35から送り出される作動油の圧力と作動油タンク36における作動油の圧力との差に相当する。従って、本クレーン1においては、作動油ポンプ35から送り出される作動油の圧力をセンサ27によって検出し、作動油タンク36における作動油の圧力をセンサ28によって検出する。但し、作動油タンク36における作動油の圧力は、大気圧に等しいと考えると、必ずしもセンサ28が必要というわけではない。
【0038】
以下に、図5から図8を用いて、第一実施形態に係る制御システム50の構成について説明する。ここでは、説明における符号(A)・(B)・(C)・・・が図中の符号(A)・(B)・(C)・・・に合致する。
【0039】
制御システム50は、作動油制御バルブ37のスプールを適宜に摺動させる。制御システム50は、フィードフォワード制御部51とフィードバック制御部52を有している。
【0040】
まず、フィードフォワード制御部51について説明する。フィードフォワード制御部51は、旋回体3が旋回動作を開始してから停止するまで連続的に機能するものである。
【0041】
フィードフォワード制御部51は、センサ26の検出信号に基づいてエンジン39の回転速度Neを把握する(A)。そして、エンジン39の回転速度Neに基づいて作動油ポンプ35から送り出される作動油の流量を算出する(B)。同時に、フィードフォワード制御部51は、旋回レバー21の操作量に対応する旋回用モータ31の目標作動速度Stを把握する(C)。そして、旋回用モータ31の目標作動速度Stに基づいて旋回用モータ31へ送られる作動油の目標流量を算出する(D)。その後、フィードフォワード制御部51は、作動油ポンプ35から送り出される作動油の流量と旋回用モータ31へ送られる作動油の目標流量に基づいてブリードオフ目標流量Qbを算出する。
【0042】
また、フィードフォワード制御部51は、センサ27の検出信号に基づいて作動油ポンプ35から送り出される作動油の圧力Ppを把握する(E)。フィードフォワード制御部51は、かかる圧力波形に対してローパスフィルタをかける(F)。同時に、フィードフォワード制御部51は、センサ28の検出信号に基づいて作動油タンク36における作動油の圧力Prを把握する(G)。このとき、作動油タンク36における作動油の圧力は、大気圧に等しいとして機械的に0MPaとしてもよい。その後、フィードフォワード制御部51は、作動油ポンプ35から送り出される作動油の圧力Ppと作動油タンク36における作動油の圧力Prに基づいてブリードオフ絞り差圧Pp-Prを算出する。
【0043】
更に、フィードフォワード制御部51は、ブリードオフ目標流量Qbとブリードオフ絞り差圧Pp-Prからブリードオフ目標開口面積Atを算出する(H)。このとき、フィードフォワード制御部51は、下記の数式(オリフィスの数式)を用いてブリードオフ目標開口面積Atを算出するものとしている。なお、かかる数式においては、流量係数をCfとし、作動油密度をρとしている。
【数1】
【0044】
加えて、フィードフォワード制御部51は、スプールの摺動量とブリードオフ回路4Cの開口面積との関係を表す変換テーブルに基づいてスプール目標摺動量Dtを読み取る(I)。つまり、ブリードオフ回路4Cの開口面積がブリードオフ目標開口面積Atとなるスプール目標摺動量Dtを読み取るのである。その後、フィードフォワード制御部51は、パイロット油の圧力とスプールの摺動量との関係を表す変換テーブルに基づいてパイロット油目標圧力Ptを読み取る(J)。つまり、スプールの摺動量がスプール目標摺動量Dtとなるパイロット油目標圧力Ptを読み取るのである。このようにして、フィードフォワード制御部51は、パイロット油目標圧力Ptを決定する。なお、パイロット油目標圧力Ptは、パイロット油圧制御バルブ38の操作電圧Ovに変換される(K)。
【0045】
次に、フィードバック制御部52について説明する。フィードバック制御部52も、旋回体3が旋回動作を開始してから停止するまで連続的に機能するものである。
【0046】
フィードバック制御部52は、旋回レバー21の操作量に対応する旋回用モータ31の目標作動速度Stを把握する(L)。これは、旋回体3の目標旋回速度と同義である。同時に、フィードバック制御部52は、センサ25の検出信号に基づいて旋回用モータ31の実作動速度Saを把握する(M)。これは、旋回体3の実旋回速度と同義である。その後、フィードバック制御部52は、旋回用モータ31の目標作動速度Stと旋回用モータ31の実作動速度Saに基づいて速度偏差St-Saを算出する。
【0047】
また、フィードバック制御部52は、速度偏差St-Saである比例項に予め定めたゲイン(比例ゲインKp)を乗じて操作量を算出する(N)。かかる制御手法は、偏差に比例して操作量を変化させるものであるから比例制御と呼ばれる。一般的に比例制御を加えると、偏差が小さいほど操作量が小さく、偏差が大きいほど操作量が大きくなる。比例ゲインKpを適宜に定めると、偏差を収束させる動作の立ち上がりが早くなる。
【0048】
更に、フィードバック制御部52は、速度偏差St-Saに基づいて算出される積分項に予め定めたゲイン(積分ゲインKi)を乗じて操作量を算出する(O)。かかる制御手法は、偏差の積分に比例して操作量を変化させるものであるから積分制御と呼ばれる。一般的に積分制御を加えると、偏差の積分が小さいほど操作量が小さく、偏差の積分が大きいほど操作量が大きくなる。積分ゲインKiを適宜に定めると、やや時間がかかるものの偏差を収束させることが可能となる。
【0049】
加えて、フィードバック制御部52は、速度偏差St-Saに基づいて算出される微分項に予め定めたゲイン(微分ゲインKd)を乗じて操作量を算出する(P)。かかる制御手法は、偏差の微分に比例して操作量を変化させるものであるから微分制御と呼ばれる。一般的に微分制御を加えると、偏差の微分が小さいほど操作量が小さく、偏差の微分が大きいほど操作量が大きくなる。微分ゲインKdを適宜に定めると、オーバーシュートや振動現象を抑えることが可能となる。
【0050】
このような制御システム50により、コントローラ20は、常に適切な操作電圧Ovをパイロット油圧制御バルブ38のアンプに印加することができる(Q)。但し、フィードバック制御部52は、このようなPID制御に限定するものではない。例えばPI制御やPD制御、その他の制御であってもよい。
【0051】
制御システム50の効果について一例を示すと、次のようになる。即ち、旋回レバー21の操作量が同じでもエンジン39の回転速度Neが低ければ、作動油ポンプ35から送り出される作動油が減ってしまう。そこで、パイロット油の圧力を高くしてスプールの摺動量を大きくすることにより、ブリードオフ回路4Cの流量を減らすのである。これについては、図8の(A)及び(B)より、旋回動作を開始してから停止するまでパイロット油の圧力が高く維持されているのが分かる。反対に、旋回レバー21の操作量が同じでもエンジン39の回転速度Neが高ければ、作動油ポンプ35から送り出される作動油が増えてしまう。そこで、パイロット油の圧力を低くしてスプールの摺動量を小さくすることにより、ブリードオフ回路4Cの流量を増やすのである。これについては、図8の(C)及び(D)より、旋回動作を開始してから停止するまでパイロット油の圧力が低く維持されているのが分かる。
【0052】
以上のように、本クレーン1は、オペレータが操作する操作具(旋回レバー21)と、操作具(21)の操作量に基づいて油圧デバイス(旋回用モータ31)へ送られる作動油の目標流量を決定するコントローラ20と、を具備している。そして、コントローラ20は、作動油ポンプ35から送り出される作動油の流量と油圧デバイス(31)へ送られる作動油の目標流量に基づいてブリードオフ目標流量Qbを算出し、作動油ポンプ35から送り出される作動油の圧力Ppと作動油タンク36における作動油の圧力Prに基づいてブリードオフ絞り差圧Pp-Prを算出し、ブリードオフ目標流量Qbとブリードオフ絞り差圧Pp-Prに基づいてブリードオフ目標開口面積Atを算出してブリードオフ目標開口面積Atとなるように作動油制御バルブ37を制御する。かかるクレーン1によれば、エンジン39に掛かる負荷に応じて作動油ポンプ35の作動状態が変わっても、ブリードオフ回路4Cの開口面積の調節により、操作具(21)の操作量と油圧デバイス(31)へ送られる作動油の流量を比例させることができる。従って、オペレータの操作に対して素直な操作特性を実現できる。ひいては操作性能の向上を実現できる。また、コントローラ20に作動油の目標流量に関する情報やブリードオフ回路4Cの開口面積に関する情報を記憶させればよいので、研究開発に要する時間並びに金銭的なコストを低減できる。
【0053】
また、本クレーン1において、コントローラ20は、ブリードオフ目標流量をQbとし、ブリードオフ絞り差圧をPp-Prとし、流量係数をCfとし、作動油密度をρとした場合、ブリードオフ目標開口面積Atを下記の数式を用いて算出する。かかるクレーン1によれば、簡素なプログラムによって前述の効果を得ることができる。即ち、操作性能の向上を実現できる。また、研究開発に要する時間並びに金銭的なコストを低減できる。
【数1】
【0054】
更に、本クレーン1において、コントローラ20は、油圧デバイス(旋回用モータ31)の目標作動速度Stと油圧デバイス(31)の実作動速度Saに基づいて速度偏差St-Saを算出して速度偏差St-Saが小さくなるように作動油制御バルブ37を制御する。かかるクレーン1によれば、大きな外乱を受けても、オペレータの操作に対して素直な操作特性を実現できる。ひいては操作性能の向上を実現できる。
【0055】
加えて、本クレーン1において、コントローラ20は、速度偏差St-Saである比例項及び速度偏差St-Saに基づいて算出される積分項並びに微分項にそれぞれゲインを乗じて速度偏差St-Saが小さくなるように作動油制御バルブ37を制御する。かかるクレーン1によれば、簡素なプログラムによって前述の効果を得ることができる。即ち、操作性能の向上を実現できる。
【0056】
以下に、図9及び図10を用いて、第二実施形態に係る制御システム50の構成について説明する。ここでは、第一実施形態に係る制御システム50と異なる部分についてのみ説明する。
【0057】
制御システム50は、フィードフォワード制御部51とフィードバック制御部52のほか、モード別停止制御部53を有している。モード別停止制御部53は、旋回体3が旋回動作を停止する際に機能するものである。
【0058】
モード別停止制御部53は、スイッチ29の操作によって高速応答を重視したモードと衝撃抑制を重視したモードを選択し得る。但し、コントローラ20が様々な稼働環境を読み解いて自動的にモードを選択するとしてもよい。
【0059】
モード別停止制御部53は、パイロット油圧制御バルブ38の操作電圧Ovを把握する。そして、モード別停止制御部53は、かかる操作電圧Ovをパイロット油圧制御バルブ38のアンプに印加する(Q)。同時に、モード別停止制御部53は、旋回レバー21の操作量に対応する旋回用モータ31の目標作動速度Stを把握する。また、モード別停止制御部53は、センサ25の検出信号に基づいて旋回用モータ31の実作動速度Saを把握する。更に、モード別停止制御部53は、動作停止時に関するモードの選択状況を把握する。そして、モード別停止制御部53は、旋回用モータ31の目標作動速度Stがゼロになってから旋回用モータ31の実作動速度Saが閾値Tよりも小さくなると、旋回用モータ31へ送られる作動油を遮断するように作動油制御バルブ37を制御する(図10の(A)及び(C)におけるP点参照)。
【0060】
この点、モード別停止制御部53は、選択しているモードに応じて閾値Tを変更する。具体的に説明すると、高速応答を重視したモードを選択している場合は、閾値Tを通常時よりも高い位置へズラし(図10の(A)参照)、衝撃抑制を重視したモードを選択している場合は、閾値Tを通常時よりも低い位置へズラすのである(図10の(C)参照)。このようにすることで、高速応答を重視したモードを選択している場合では、旋回体3が未だ旋回動作を続けていても、旋回用モータ31へ送られる作動油を遮断するので、素早く停止させることができる。反対に、衝撃抑制を重視したモードを選択している場合では、旋回体3が旋回動作を停止する或いはほぼ停止するころに旋回用モータ31へ送られる作動油を遮断するので、滑らかに停止させることができる。
【0061】
以上のように、本クレーン1において、コントローラ20は、油圧デバイス(旋回用モータ31)の目標作動速度Stがゼロになってから油圧デバイス(31)の実作動速度Saが閾値Tよりも小さくなると、油圧デバイス(31)へ送られる作動油を遮断するように作動油制御バルブ37を制御する。かかるクレーン1によれば、油圧デバイス(31)の停止に際して適宜な高速応答と適宜な衝撃抑制の両立を実現できる。ひいては操作性能の向上を実現できる。
【0062】
また、本クレーン1において、コントローラ20は、動作停止時に関するモードの選択状況に基づいて閾値Tを変更する。かかるクレーン1によれば、より高速応答を重視した操作特性やより衝撃抑制を重視した操作特性を実現できる。ひいては操作性能の向上を実現できる。
【0063】
最後に、本願においては、油圧デバイスを旋回用モータ31とし、旋回体3の旋回動作に着目して説明を行ったが、これに限定するものではない。つまり、本願に開示する技術的思想は、油圧デバイスを伸縮用シリンダ32とし、ブーム7の伸縮動作に適用することが可能である。また、油圧デバイスを起伏用シリンダ33とし、ブーム7の起伏動作に適用することが可能である。更に、油圧デバイスを巻回用モータ34とし、ウインチ10の巻回動作に適用することが可能である。加えて、本願においては、クレーン1を用いて説明を行ったが、これに限定するものではない。つまり、本願に開示する技術的思想は、油圧デバイスを備えたあらゆる作業車両に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 クレーン
2 走行体
3 旋回体
7 ブーム
20 コントローラ
21 旋回レバー(操作具)
22 伸縮レバー(操作具)
23 起伏レバー(操作具)
24 巻回レバー(操作具)
30 油圧システム
31 旋回用モータ(油圧デバイス)
32 伸縮用シリンダ(油圧デバイス)
33 起伏用シリンダ(油圧デバイス)
34 巻回用モータ(油圧デバイス)
35 作動油ポンプ
36 作動油タンク
37 作業油制御バルブ
38 パイロット油圧制御バルブ
50 制御システム
51 フィードフォワード制御部
52 フィードバック制御部
53 モード別停止制御部
4A メータイン回路
4B メータアウト回路
4C ブリードオフ回路
At ブリードオフ目標開口面積
Qb ブリードオフ目標流量
Pp-Pr ブリードオフ絞り差圧
T 閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10