(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】エアジェット織機の緯入れ装置
(51)【国際特許分類】
D03D 47/30 20060101AFI20221129BHJP
D03D 49/62 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
D03D47/30
D03D49/62 Z
(21)【出願番号】P 2019040415
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(72)【発明者】
【氏名】牧野 洋一
(72)【発明者】
【氏名】浅田 基文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 藤雄
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-086544(JP,A)
【文献】特開2007-009392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D29/00-51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上壁面、下壁面および奥壁面によって形成される凹部をそれぞれ有する複数の筬羽を緯入れ方向に配列して緯入れ通路を形成するとともに、筬打ち方向への前進移動と反筬打ち方向への後退移動とを交互に繰り返すように揺動動作可能に設けられる変形筬を備える、エアジェット織機の緯入れ装置であって、
前記複数の筬羽は、前記緯入れ通路の軸線に対して前記奥壁面が第1の傾斜角で緯入れ方向に向かうにつれて前記緯入れ通路側に入り込む方向に傾斜した第1の筬羽列と、前記緯入れ方向において前記第1の筬羽列の下流側に配置されるとともに、前記奥壁面が前記第1の傾斜角よりも大きい第2の傾斜角で緯入れ方向に向かうにつれて前記緯入れ通路側に入り込む方向に傾斜した第2の筬羽列とを含み、
前記変形筬の揺動動作が前記後退移動から前記前進移動へと切り替わるタイミングで緯糸の先端が通過する位置を第1の位置とした場合に、前記第1の筬羽列と前記第2の筬羽列との境界位置が、前記第1の位置またはそれよりも前記緯入れ方向の下流側に設定されて
おり、
前記緯入れ通路を飛走中の緯糸にブレーキを掛け始めるタイミングで緯糸の先端が通過する位置を第2の位置とした場合に、前記第2の位置は前記第1の位置よりも前記緯入れ方向の下流側に位置し、前記第1の筬羽列と前記第2の筬羽列との境界位置は、前記第2の位置またはそれよりも前記緯入れ方向の上流側に設定されている、エアジェット織機の緯入れ装置。
【請求項2】
前記複数の筬羽は、前記緯入れ方向において前記第1の筬羽列の上流側に配置された第3の筬羽列を含み、
前記第3の筬羽列に属する前記筬羽の前記奥壁面は、前記第1の傾斜角よりも小さい傾斜角を有する、請求項
1に記載のエアジェット織機の緯入れ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアジェット織機の緯入れ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアジェット織機は、ノズルからエアを噴射させることにより、緯糸を飛走させて緯入れする緯入れ装置を備えている。緯入れ装置には変形筬が設けられている。変形筬は、緯入れ通路形成用の凹部を有する筬羽を緯入れ方向に多数配列して構成されるものである。緯入れ通路は、ノズルから緯入れ通路へと吹き付けられるエアの流れに乗せて緯糸を飛走させるための通路である。
【0003】
また、エアジェット織機の緯入れ装置は、メインノズルと複数のサブノズルとを備えている。複数のサブノズルは、メインノズルからのエアの噴射による緯糸の飛走を補助するために、リレー方式でエアを噴射するものである。各々のサブノズルは、緯入れ通路に対して斜めにエアを吹き付ける。その際、サブノズルから緯入れ通路へと吹き付けられたエアの一部は、筬羽間の隙間を通して変形筬の後ろ側に漏れる。このようなエアの漏れは、緯糸の飛走に寄与するエア量の減少につながるため、緯糸の飛走速度を低下させる原因になる。
【0004】
そこで従来の変形筬には、各々の筬羽において、凹部の奥壁面を傾斜させる技術が採用されている。具体的には、凹部の奥壁面を、緯入れ方向へ向かうにつれて緯入れ通路側へ入り込む方向に傾斜させる。このように凹部の奥壁面を傾斜させると、サブノズルから緯入れ通路に向けてエアを吹き付けたときに、凹部の奥壁面に当たって緯入れ通路側に反射するエアの量が増える。このため、筬羽間を通して漏れるエアの量を低減することができる。
【0005】
この種の変形筬として、特許文献1には、緯入れ方向に配列された複数の筬羽のうち、メインノズル寄りの区画に配置された筬羽列に属する筬羽の奥壁面の傾斜角を、メインノズルと反対側寄りの区画に配置された筬羽列に属する筬羽の奥壁面の傾斜角よりも小さく設定した変形筬が記載されている。この変形筬を採用した場合は、メインノズルから吹き付けられるエアの影響を大きく受けるメインノズル寄りの区画において、筬羽の奥壁面から緯入れ通路側に反射するエアの量が減少する。このため、筬羽の奥壁面から反射するエアによって緯糸の先端が緯入れ通路から飛び出すといったトラブルの発生を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
エアジェット織機で発生するトラブルの一つに「エンドちぢれ」がある。エンドちぢれは、緯入れ通路を飛走中に緯糸の先端が筬羽間に入り込んで筬羽に接触し、これによって緯糸の飛走状態が不安定になって緯糸の先端側がちぢれる現象である。エンドちぢれは、緯糸の先端が変形筬の揺動動作の影響を受けて筬羽の奥壁面に近づくことにより発生しやすくなる(詳細は後述)。しかしながら、特許文献1に記載の技術は、変形筬の揺動動作の影響を考慮した構成になっていないため、エンドちぢれの発生を抑制することはできなかった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、変形筬の緯入れ通路に沿って緯糸を緯入れする際に、エンドちぢれの発生を抑制することができるエアジェット織機の緯入れ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るエアジェット織機の緯入れ装置は、上壁面、下壁面および奥壁面によって形成される凹部をそれぞれ有する複数の筬羽を緯入れ方向に配列して緯入れ通路を形成するとともに、筬打ち方向への前進移動と反筬打ち方向への後退移動とを交互に繰り返すように揺動動作可能に設けられる変形筬を備える、エアジェット織機の緯入れ装置であって、複数の筬羽は、緯入れ通路の軸線に対して奥壁面が第1の傾斜角で緯入れ方向に向かうにつれて前記緯入れ通路側に入り込む方向に傾斜した第1の筬羽列と、緯入れ方向において第1の筬羽列の下流側に配置されるとともに、奥壁面が第1の傾斜角よりも大きい第2の傾斜角で緯入れ方向に向かうにつれて前記緯入れ通路側に入り込む方向に傾斜した第2の筬羽列とを含み、変形筬の揺動動作が後退移動から前進移動へと切り替わるタイミングで緯糸の先端が通過する位置を第1の位置とした場合に、第1の筬羽列と第2の筬羽列との境界位置が、第1の位置またはそれよりも緯入れ方向の下流側に設定されており、緯入れ通路を飛走中の緯糸にブレーキを掛け始めるタイミングで緯糸の先端が通過する位置を第2の位置とした場合に、第2の位置は第1の位置よりも緯入れ方向の下流側に位置し、第1の筬羽列と第2の筬羽列との境界位置は、第2の位置またはそれよりも緯入れ方向の上流側に設定されている。
【0011】
本発明に係るエアジェット織機の緯入れ装置において、複数の筬羽は、緯入れ方向において第1の筬羽列の上流側に配置された第3の筬羽列を含み、第3の筬羽列に属する筬羽の奥壁面は、第1の傾斜角よりも小さい傾斜角を有するものであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、変形筬の緯入れ通路に沿って緯糸を緯入れする際に、エンドちぢれの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るエアジェット織機の緯入れ装置を示す側断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るエアジェット織機の緯入れ装置を示す概略正面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るエアジェット織機の緯入れ装置を示す要部斜視図である。
【
図4】発明の第1実施形態に係る変形筬を
図1のD-D位置で断面した図である。
【
図5】変形筬の揺動動作における筬の角速度と機台角度との関係を示す図である。
【
図6】本発明の第1実施形態において、緯糸先端の位置の変化を示す図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係る変形筬を用いた場合の、緯入れ通路内の風圧値の測定結果を示す図である。
【
図8】変形筬が後退移動するときに筬羽間を流れるエアを示す図である。
【
図9】変形筬が前進移動するときに筬羽間を流れるエアを示す図である。
【
図10】緯糸の先端が筬羽間に引き込まれる様子を示す図である。
【
図11】発明の第2実施形態に係る変形筬を
図1のD-D位置で断面した図である。
【
図12】本発明の第2実施形態において、緯糸先端の位置の変化を示す図である。
【
図13】本発明の第2実施形態に係る変形筬を用いた場合の、緯入れ通路内の風圧値の測定結果を示す図である。
【
図14】発明の第3実施形態に係る変形筬を
図1のD-D位置で断面した図である。
【
図15】本発明の第3実施形態に係る変形筬を用いた場合の、緯入れ通路内の風圧値の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図は、本発明の実施形態に係るエアジェット織機の緯入れ装置を示す側断面図であり、
図2はその概略正面図、
図3はその要部斜視図である。
図1~
図3に示すように、エアジェット織機の緯入れ装置は変形筬1を備えている。変形筬1はスレイ2に取り付けられている。この変形筬1は、上下一対の補強部材3,4と、これらの補強部材3,4によって保持された複数の筬羽5とを備えている。変形筬1は、織幅方向を長手方向とする長尺状の部材である。複数の筬羽5は、変形筬1の長手方向Xに所定の間隔で配列されている。変形筬1の長手方向Xで隣り合う筬羽5間には、経糸Tを通すための隙間が設けられている。一対の補強部材3,4のうち、上側の補強部材3は複数の筬羽5の上縁部を挟持し、下側の補強部材4は複数の筬羽5の下縁部を挟持している。また、下側の補強部材4は、固定用部材6によってスレイ2に固定されている。
【0016】
緯入れ方向X1において、変形筬1の上流側には、メインノズル7が配置されている。緯入れ方向X1は、メインノズル7から噴射されるエアによって緯糸Yを緯入れする場合に、緯糸Yが進む方向である。メインノズル7は、上下に分けた経糸Tの開口部分に緯糸Yを緯入れするためのノズルである。一方、変形筬1の長手方向Xには複数のサブノズル8が配置されている。これらのサブノズル8は、メインノズル7からのエアの噴射によって緯糸Yを飛走させる場合に、緯糸Yの飛走を補助するためにリレー方式でエアを噴射する。各々のサブノズル8は、ノズル支持部材9を介してスレイ2に取り付けられている。ノズル支持部材9は、ボルト11およびナット12を用いてスレイ2に固定されている。
【0017】
複数の筬羽5の前面には、それぞれ凹部15が形成されている。この凹部15は、上壁面16、下壁面17および奥壁面18によって形成されている。凹部15の奥壁面18と対向する側は開口している。奥壁面18は、筬羽5の凹部15を開口側(前面側)から見た場合に最も奥側に位置する壁面を少なくとも含む面である。変形筬1には、各々の筬羽5に形成された凹部15によって緯入れ通路Sが形成されている。緯入れ通路Sは、複数の筬羽5を緯入れ方向X1に配列することにより、各々の筬羽5が有する凹部15の列によって形成される通路である。緯入れ通路Sの中心を通る軸線Jは、変形筬1の長手方向Xと平行な軸線となっている。これに対し、各々のサブノズル8は、
図3に示すように、緯入れ通路Sの軸線Jに対して斜めにエアAsを吹き付ける。
【0018】
変形筬1は、図示しない揺動機構によって揺動動作可能に設けられている。変形筬1の揺動動作は、筬打ちのために行われる動作である。変形筬1は、筬打ち方向Fへの前進移動と反筬打ち方向Rへの後退移動とを交互に繰り返すように揺動動作する。そして、変形筬1による筬打ちは、変形筬1が前進移動するときに行われる。
【0019】
図4は、本発明の第1実施形態に係る変形筬を
図1のD-D位置で断面した図である。
図4に示すように、複数の筬羽5は、変形筬1の長手方向Xにおいて2つの筬羽列21,22に区分されている。筬羽列21は第1の筬羽列に相当し、筬羽列22は第2の筬羽列に相当するものである。筬羽列21は、変形筬1の長手方向Xに配列された複数の筬羽5aによって構成され、筬羽列22は、変形筬1の長手方向Xに配列された複数の筬羽5bによって構成されている。筬羽列22は、緯入れ方向X1において筬羽列21の下流側に配置されている。また、筬羽列21の中で最も下流側に配置された筬羽5aと筬羽列22の中で最も上流側に配置された筬羽5bとは、緯入れ方向X1で隣り合わせに配置されている。
【0020】
筬羽列21に属する筬羽5aの奥壁面18は、緯入れ方向X1に向かうにつれて緯入れ通路S側に入り込む方向に傾斜し、筬羽列22に属する筬羽5bの奥壁面18も、緯入れ方向X1に向かうにつれて緯入れ通路S側に入り込む方向に傾斜している。また、筬羽列21に属する筬羽5aの奥壁面18は、緯入れ通路Sの軸線Jに対して第1の傾斜角θ1で傾斜している。これに対し、筬羽列22に属する筬羽5bの奥壁面18は、緯入れ通路Sの軸線Jに対して第1の傾斜角θ1よりも大きい第2の傾斜角θ2で傾斜している。また、筬羽列21においては、各々の筬羽5aの奥壁面18が共通の傾斜角θ1で傾斜し、筬羽列22においては、各々の筬羽5bの奥壁面18が共通の傾斜角θ2で傾斜している。
【0021】
また、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pは、以下のように設定されている。
まず、メインノズル7および複数のサブノズル8からそれぞれ所定のタイミングでエアを噴射して緯糸Yを飛走させると、緯糸Yはエアの流れに乗って緯入れ方向X1に移動する。このとき、変形筬1の揺動動作が後退移動から前進移動へと切り替わるタイミングで緯糸Yの先端が通過する位置を第1の位置E1とすると、筬羽列21,22の境界位置Pは、第1の位置E1に設定されている。第1の位置E1は、緯入れ装置の設計上、または緯入れ装置を動作させたときの実験データ、あるいは緯入れ装置のシミュレーション結果などに基づいて特定される位置である。以下、筬羽列21,22の境界位置Pの設定に関して、さらに詳しく説明する。
【0022】
図5は、変形筬の揺動動作における筬の角速度と機台角度との関係を示す図である。
筬の角速度は、変形筬1が揺動動作するときの移動方向に応じて、負の値をとる場合と正の値をとる場合とがある。筬の角速度が負の値をとる期間は、変形筬1が後退移動する期間(以下、「後退移動期間」ともいう。)となる。後退移動期間は、機台角度が0°~180°の期間となっている。一方、筬の角速度が正の値をとる期間は、変形筬1が前進移動する期間(以下、「前進移動期間」ともいう。)となる。前進移動期間は、機台角度が180°~360°の期間となっている。この場合、変形筬1が後退移動から前進移動へと切り替わるタイミングは、機台角度が180°の時点となる。なお、変形筬1が後退移動から前進移動へと切り替わるタイミングは、緯入れ装置の設計上、機台角度が180°の時点よりも前または後にずれることもある。
【0023】
これに対し、緯糸Yの緯入れが行われる期間(以下、「緯入れ期間」という。)Taは、機台角度が80°~240°の期間となっている。このため、緯入れ期間Taの中間時点は、機台角度が160°の時点、すなわち変形筬1が後退移動している時点となる。したがって、緯入れ期間Taに緯糸Yの先端を変形筬1の長手方向Xに移動させる場合、緯入れ期間Taの中間時点で緯糸Yの先端が通過する位置が
図4の中間位置Cであるとすると、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pは、緯入れ方向X1において中間位置Cよりも下流側に設定される。なお、緯入れ期間Taの開始時点および終了時点は、緯入れ装置の設計上、上記の機台角度の範囲からずれて設定されることもある。
【0024】
図6は、本発明の第1実施形態において、緯糸先端の位置の変化を示す図である。
図6において、縦軸は変形筬の長手方向位置、横軸は機台角度を示す。変形筬の長手方向位置は、緯入れの始端を0としている。緯入れの始端は、変形筬の長手方向において、メインノズルが配置される側の変形筬の端部をいう。
【0025】
図6に示すように、緯糸の先端は、緯入れ期間Taの開始時点となる機台角度=80°の時点から、緯入れ期間Taの終了時点となる機台角度=240°の時点まで、変形筬の長手方向に移動する。また、緯糸の先端は、機台角度=180°の時点では、変形筬の長手方向で第1の位置E1を通過する。筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pは、この第1の位置E1にあわせて設定されている(
図4参照)。
【0026】
このように筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを第1の位置E1に設定した場合、緯入れ通路S内の風圧値(cmAq)の測定結果は
図7のようになる。風圧値の測定は、変形筬1を揺動動作させずに停止させたまま行う。測定の手順としては、まず、変形筬1の緯入れ通路S内の風圧測定点に対し、この風圧測定点から緯入れ方向X1の上流側に50mm離れたところに風圧測定用のサブノズルを配置する。次に、風圧測定用のサブノズルから緯入れ通路Sに向けて一定量のエアを吹き付けながら、風圧測定用のサブノズルの位置を変形筬1の長手方向Xに移動させ、この移動中に緯入れ通路S内の風圧測定点における風圧値をセンサで測定する。その際、風圧測定点の位置は風圧測定用のサブノズルの移動にしたがって移動する。測定結果をみると、緯入れ通路S内の風圧値は、緯入れの始端から第1の位置E1までは一定の値L1となっているが、第1の位置E1を過ぎるとΔLだけ増加し、そこから緯入れの終端までは一定の値L2となっている。
【0027】
このように緯入れ通路S内の風圧値が変化する理由は、次のとおりである。
まず、変形筬1の長手方向Xにおいて、筬羽列21は、第1の位置E1よりも緯入れの始端側に位置し、筬羽列22は、第1の位置E1よりも緯入れの終端側に位置している。また、筬羽列21に属する筬羽5aの奥壁面18は第1の傾斜角θ1で傾斜し、筬羽列22に属する筬羽5bの奥壁面18は第1の傾斜角θ1よりも大きい第2の傾斜角θ2で傾斜している。風圧測定用のサブノズルから緯入れ通路Sに向けてエアを吹き付けた場合、緯入れ通路S内の風圧値は、筬羽5の奥壁面18の傾斜角が大きいほど大きくなる。これは、風圧測定用のサブノズルから緯入れ通路Sに向けてエアを吹き付けた場合に、筬羽5の奥壁面18に当たって緯入れ通路S側に反射するエアの量が、奥壁面18の傾斜角が大きくなると増加し、このエア量の増加によって緯入れ通路S内の風圧値が大きくなるからである。したがって、緯入れ通路S内の風圧値は、変形筬1の長手方向Xにおいて、
図7に示すように、第1の位置E1よりも緯入れの終端側でΔLだけ大きくなる。
【0028】
続いて、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを第1の位置E1に設定することの技術的な意義について説明する。
まず、変形筬1を揺動動作させると、この揺動動作における変形筬1の移動によって各々の筬羽5間にエアの流れが生じる。具体的には、
図8に示すように、変形筬1が反筬打ち方向Rに移動している場合は、この移動方向Rと反対方向に向かって各々の筬羽5間をエアAが流れる。また、
図9に示すように、変形筬1が筬打ち方向Fに移動している場合は、この移動方向Fと反対方向に向かって各々の筬羽5間をエアAが流れる。
【0029】
一方、各々のサブノズル8から緯入れ通路Sに向けてエアを吹き付けると、このエアの一部は各々の筬羽5間の隙間を通して変形筬1の後ろ側に漏れる。その際、筬羽5間を通して漏れるエアの量は、変形筬1が反筬打ち方向Rに移動している場合と、変形筬1が筬打ち方向Fに移動している場合とで異なる。その理由は、次のとおりである。
【0030】
まず、変形筬1が反筬打ち方向Rに移動している場合に各々の筬羽5間を流れるエアA(
図8参照)は、各々のサブノズル8から緯入れ通路Sに向けて吹き付けられるエアAsの漏れを抑制するように働く。このため、変形筬1の後ろ側Bに漏れるエアの量が少なくなる。これに対し、変形筬1が筬打ち方向Fに移動している場合に各々の筬羽5間を流れるエアA(
図9参照)は、各々のサブノズル8から緯入れ通路Sに向けて吹き付けられるエアAsの漏れを促進するように働く。このため、変形筬1の後ろ側Bに漏れるエアの量が多くなる。
【0031】
ここで、仮に、変形筬1の長手方向X全体に筬羽列21だけを配置すると、変形筬1の前進移動によって筬羽5間を流れるエアA(
図9参照)の働きにより、
図10に示すように、緯糸Yの先端が奥壁面18に近づいて筬羽5間に引き込まれやすくなる。緯糸Yの先端が筬羽5間に引き込まれると、緯糸Yの先端が筬羽5に接触して飛走状態が不安定になり、緯糸Yの先端側が波状にちぢれる現象、すなわちエンドちぢれが発生してしまう。
【0032】
本第1実施形態においては、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを第1の位置E1に設定している。この第1の位置E1は、変形筬1の揺動動作が後退移動から前進移動へと切り替わるタイミングで緯糸Yの先端が通過する位置である。このため、緯糸Yの先端は、変形筬1が後退移動しているときに筬羽列21の区間を通過し、変形筬1が前進移動しているときに筬羽列22の区間を通過する。また、本第1実施形態においては、筬羽列22に属する筬羽5bの奥壁面18を、第1の傾斜角θ1よりも大きい第2の傾斜角θ2で傾斜させている。このため、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pよりも緯入れの終端側においては、サブノズル8から吹き付けたエアのうち、筬羽5bの奥壁面18に当たって緯入れ通路S側に反射するエアの量が増加する。したがって、境界位置Pよりも緯入れの終端側を緯糸Yの先端が通過する場合に、筬羽5bの奥壁面18から反射するエア量の増加により、緯糸Yが奥壁面18に近づきにくくなる。その結果、変形筬1の前進移動期間であっても、糸Yの先端が筬羽5b間に吸い込まれにくくなるため、エンドちぢれの発生を抑制することができる。また、境界位置Pよりも緯入れの終端側では、筬羽5b間の隙間を通して変形筬1の後ろ側に漏れるエアの量が減少するため、エア漏れによる飛走速度の低下を抑制することができる。
【0033】
また、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを第1の位置E1よりも緯入れ方向X1の上流側に設定した場合は、変形筬1が後退移動中に緯糸Yの先端が筬羽列22に到達することになる。その場合、筬羽列22に属する筬羽5bの奥壁面18から緯入れ通路S側に反射するエアの勢いは、変形筬1の後退移動によって筬羽5間を流れるエアA(
図8参照)によって強められる。このため、緯糸Yの先端が緯入れ通路Sから飛び出すトラブルが発生しやすくなる。これに対し、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを第1の位置E1に設定した場合は、変形筬1の後退移動中に緯糸Yの先端が筬羽列22に到達しないため、緯糸Yの先端が緯入れ通路Sから飛び出すトラブルの発生を抑制することができる。
【0034】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
まず、上記第1実施形態によって得られる効果は、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを第1の位置E1よりも緯入れ方向X1の下流側に設定した場合にも得られる。ただし、その場合は、緯糸Yの先端が第1の位置E1を通過した後に実施されるブレーキ処理を考慮して、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを設定する必要がある。以下、詳しく説明する。
【0035】
まず、エアジェット織機の緯入れ装置においては、メインノズル7および複数のサブノズル8からそれぞれ所定のタイミングでエアを噴射して緯糸Yを飛走させる場合に、飛走中の緯糸Yにブレーキを掛ける場合がある。緯糸Yにブレーキを掛け始めるタイミングは、変形筬1の揺動動作が後退移動から前進移動へと切り替わるタイミングよりも後になる。このため、飛走中の緯糸Yにブレーキを掛け始めるタイミングで緯糸Yの先端が通過する位置を第2の位置E2とすると、第2の位置E2は、第1の位置E1よりも緯入れ方向X1の下流側にずれた位置になる。
【0036】
飛走中の緯糸Yにブレーキを掛けると、緯糸Yの飛走速度が低下して緯糸Yの直進性が弱まるため、緯糸Yの先端が筬羽5間に吸い込まれやすくなる。そこで、本第2実施形態においては、緯糸Yの先端が第2の位置E2を通過しても、緯糸Yの先端が筬羽5間に吸い込まれにくくなるよう、
図11に示すように、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを第2の位置E2に設定している。第2の位置E2は、緯入れ装置の設計上、または緯入れ装置を動作させたときの実験データ、あるいは緯入れ装置のシミュレーション結果などに基づいて特定される位置である。
【0037】
図12は、本発明の第2実施形態において、緯糸先端の位置変化を示す図である。
図12に示すように、緯糸の先端は、緯入れ期間の開始時点となる機台角度=80°の時点から、緯入れ期間の終了時点となる機台角度=240°の時点まで、変形筬の長手方向に移動する。また、緯糸の先端は、機台角度=180°の時点では、変形筬の長手方向で第1の位置E1を通過し、機台角度=205°の時点では、変形筬の長手方向で第2の位置E2を通過する。そして、緯糸の先端が第2の位置E2を通過した後は、緯糸先端の位置変化の割合が小さくなる。これは、緯糸の先端が第2の位置E2を通過するタイミングで緯糸にブレーキが掛かり始め、これによって緯糸の飛走速度が低下するからである。筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pは、この第2の位置E2にあわせて設定されている。
【0038】
このように筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを第2の位置E2に設定した場合、緯入れ通路S内の風圧値(cmAq)の測定結果は、
図13に示すように、緯入れの始端から第2の位置E2までは一定の値L1となり、第2の位置E2を過ぎるとΔLだけ増加し、そこから緯入れの終端までは一定の値L2となる。この測定結果は、第2の位置E2よりも緯入れの終端側で筬羽列22の筬羽5bの奥壁面18に当たって反射するエアの量が、第2の位置E2よりも緯入れの始端側で筬羽列21の筬羽5aの奥壁面18に当たって反射するエアの量に比べて多いことを意味する。
【0039】
続いて、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを第2の位置E2に設定することの技術的な意義について説明する。
まず、変形筬1を揺動動作させると、上記
図8および
図9に示すように、変形筬1の移動方向に応じて各々の筬羽5間にエアAの流れが生じる。その際、変形筬1の筬打ち方向Fへの移動によって筬羽5間を流れるエアA(
図9参照)は、各々のサブノズル8から緯入れ通路Sに向けて吹き付けられるエアの漏れを促進するように働く。ただし、変形筬1の揺動動作が後退移動から前進移動へと切り替わるタイミングでは、変形筬1の移動速度が実質的にゼロとなり、その状態から変形筬1が前進移動を開始する。このため、変形筬1が前進移動を開始してから、変形筬1の移動速度が充分に高まるまでの期間は、変形筬1の前進移動が緯糸Yの飛走状態に及ぼす影響は小さくなる。したがって、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを、第1の位置E1よりも緯入れの終端側にずらして設定しても、エンドちぢれの発生を抑制する効果にそれほど大きな差は生じない。ただし、緯糸Yの先端が第2の位置E2を通過すると、緯糸Yにブレーキが掛かって緯糸Yの飛走速度が低下するため、緯糸Yの先端が筬羽5間に吸い込まれやすくなる。これに対し、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを第2の位置E2に設定した場合は、第2の位置E2よりも緯入れの終端側において、筬羽5bの奥壁面18に当たって緯入れ通路S側に反射するエアの量が増える。このため、緯糸Yの先端が第2の位置E2を通過しても、緯糸Yの先端が筬羽5b間に吸い込まれにくくなる。よって、エンドちぢれの発生を抑制することができる。
【0040】
(第3実施形態)
続いて、本発明の第3実施形態について説明する。
本発明の第3実施形態においては、
図14に示すように、複数の筬羽5が、変形筬1の長手方向Xで3つの筬羽列20,21,22に区画されている点が、上記第1実施形態と異なる。筬羽列21は第1の筬羽列に相当し、筬羽列22は第2の筬羽列に相当し、筬羽列20は第3の筬羽列に相当するものである。筬羽列20は、変形筬1の長手方向Xに配列された複数の筬羽5cによって構成されている。筬羽列20は、緯入れ方向X1において筬羽列21の上流側に配置されている。筬羽列20と筬羽列21との境界位置P0は、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pよりもメインノズル7に近い側に設定されている。
【0041】
3つの筬羽列20,21,22のうち、筬羽列21に属する筬羽5aの奥壁面18は第1の傾斜角θ1で傾斜し、筬羽列22に属する筬羽5bの奥壁面18は第2の傾斜角θ2で傾斜しており、この点は、上記第1実施形態と同様である。一方、筬羽列20に属する筬羽5cの奥壁面18は、緯入れ通路Sの軸線Jに対して第1の傾斜角θ1よりも小さい第3の傾斜角、具体的には傾斜角が実質的に0°に設定されている。
【0042】
このように、メインノズル7の近くに筬羽列20を配置し、この筬羽列20に属する筬羽5cの奥壁面18の傾斜角を小さく設定した場合は、緯入れ通路S内の風圧値(cmAq)の測定結果が
図15のようになる。すなわち、緯入れ通路S内の風圧値は、緯入れの始端からE0位置までは一定の値L0となり、E0位置を過ぎるとΔL1だけ増加し、そこから第1の位置E1までは一定の値L1となる。また、緯入れ通路S内の風圧値は、第1の位置E1を過ぎるとΔLだけ増加し、そこから緯入れの終端までは一定の値L2となる。この測定結果は、E0位置よりも緯入れの始端側で筬羽列20の筬羽5cの奥壁面18に当たって反射するエアの量が、E0位置よりも緯入れの終端側で筬羽列21の筬羽5aの奥壁面18に当たって反射するエアの量に比べて少ないことを意味する。また、上記の測定結果は、第1の位置E1よりも緯入れの終端側で筬羽列22の筬羽5bの奥壁面18に当たって反射するエアの量が、第1の位置E1よりも緯入れの始端側で筬羽列21の筬羽5aの奥壁面18に当たって反射するエアの量に比べて多いことを意味する。
【0043】
メインノズル7の近くに筬羽列20を配置した場合は、緯糸Yの先端が筬羽列20の区間を通過しているときに、メインノズル7から噴射されるエアが緯糸Yの飛走状態に大きな影響を与える。このため、仮に、筬羽列20に属する筬羽5cの奥壁面18の傾斜角を大きく設定すると、メインノズル7から噴射されるエアのうち、筬羽5cの奥壁面18に当たって緯入れ通路S側に反射するエアの量が増える。そうすると、緯糸Yの先端が緯入れ通路Sから飛び出すトラブルが発生しやすくなる。
【0044】
そこで本第3実施形態においては、筬羽列20に属する筬羽5cの奥壁面18の傾斜角を小さく設定している。このため、メインノズル7からのエアの噴射によって緯糸Yの先端が筬羽列20の区間を通過するときに、筬羽5cの奥壁面18に当たって緯入れ通路S側に反射するエアの量が少なくなる。したがって、筬羽5cの奥壁面18から反射するエアによって緯糸Yの先端が緯入れ通路Sから飛び出すといったトラブルの発生を抑制することができる。一方、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pは第1の位置E1に設定されているため、上記第1実施形態と同様にエンドちぢれの発生を抑制することができる。
【0045】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0046】
たとえば、第1実施形態および第3実施形態においては、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを第1の位置E1に設定し、第2実施形態においては、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pを第2の位置E2に設定したが、本発明はこれに限らない。すなわち、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pは、第1の位置E1よりも緯入れ方向X1の下流側に設定してもよく、また、第2の位置E2よりも緯入れ方向X1の上流側に設定してもよい。つまり、筬羽列21と筬羽列22との境界位置Pは、第1の位置E1と第2の位置E2との間であれば、いずれの位置に設定してもよい。
【0047】
また、第3実施形態においては、筬羽列20に属する筬羽5cの奥壁面18の傾斜角を実質的に0°に設定したが、本発明はこれに限らない。すなわち、筬羽5cの奥壁面18の傾斜角は、第1の傾斜角θ1よりも小さいという条件を満たせば、0°よりも大きい角度に設定してもよい。
【0048】
また、第1実施形態、第2実施形態および第3実施形態においては、筬羽5の凹部15を形成する上壁面16、下壁面17および奥壁面18のうち、奥壁面18を傾斜させているが、奥壁面18と同様に、上壁面16および下壁面17の一方または両方を傾斜させてもかまわない。
【符号の説明】
【0049】
1 変形筬、5,5a,5b,5c 筬羽、15 凹部、16 上壁面、17 下壁面、18 奥壁面、20 筬羽列(第3の筬羽列)、21 筬羽列(第1の筬羽列)、22 筬羽列(第2の筬羽列)、E1 第1の位置、E2 第2の位置、F 筬打ち方向、P 境界位置、R 反筬打ち方向、X1 緯入れ方向、S 緯入れ通路、θ1 第1の傾斜角、θ2 第2の傾斜角。