IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

<>
  • 特許-二次電池 図1
  • 特許-二次電池 図2
  • 特許-二次電池 図3
  • 特許-二次電池 図4
  • 特許-二次電池 図5
  • 特許-二次電池 図6
  • 特許-二次電池 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20221129BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20221129BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M4/133
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/485
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019053347
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2020155335
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】中野 広幸
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
(72)【発明者】
【氏名】奥田 匠昭
【審査官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-530882(JP,A)
【文献】特表2014-534596(JP,A)
【文献】特開2018-152229(JP,A)
【文献】特開平06-290771(JP,A)
【文献】特開2020-119839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維の束又は棒状炭素からなる負極と、前記負極の表面を被覆するポリマー層と、前記ポリマー層の表面を被覆する正極とを備え、
前記ポリマー層が、フッ化ビニリデンに由来する重合単位とヘキサフルオロプロピレンに由来する重合単位とを有する共重合体によって構成されており、
前記正極が、正極活物質として、LiMnMzO2±δ(1.0<x≦1.3、0<y≦0.6、x+y+z=2であり、MはNi、Co、Ti及びNbからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、0≦δ<0.2である)で表される複合酸化物を有する、
二次電池。
【請求項2】
前記炭素繊維の束又は前記棒状炭素の径が80μm以上300μm以下である、
請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記複合酸化物の酸素の一部がフッ素で置換されている、
請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記複合酸化物が岩塩型結晶相を有する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記ポリマー層の厚みが5μm以上30μm以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は二次電池等を開示する。
【背景技術】
【0002】
二次電池として、例えば、電極等を捲回してなる捲回型電池や、電極等を積層してなる積層電池が知られている。捲回型や積層型の電池構造においては、電極を厚くして集電体やセパレータ等の堆積を相対的に減少させることで電池の容量を高めることができるものの、電極を厚くした場合、電極の厚さ方向へのイオン伝導が律速となり、電池の出力が低下する虞がある。
【0003】
この問題を解決するために、正極活物質、負極活物質及び電解質等を3次元的に組み合わせた3次元構造を持つ二次電池が検討されている。例えば、特許文献1には、ワイヤ型の内部集電体の表面に内部電極層、分離層、外部電極層をこの順に被覆してなる、ケーブル型二次電池が開示されている。具体的には、銅ワイヤ上に黒鉛を含むスラリーをコーティングしてワイヤ型内部電極(負極)を形成し、当該ワイヤ型内部電極を螺旋状に巻き取ったうえで、セパレータシートや正極活物質層のシートを順次巻き付けて二次電池を構成している。
【0004】
電極に用いられる材料を工夫することで、電池の高出力化等を狙った技術も検討されている。例えば、特許文献2には、比表面積の大きい炭素繊維集合体からなる電極が開示されている。また、特許文献3には、三次元的周期構造を有するナノヘテロ構造体からなるリチウム二次電池用電極材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-076621号公報
【文献】特開2011-049067号公報
【文献】特開2013-077563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
繊維状或いは棒状の負極を芯材として、その表面にセパレータとしてのポリマー層を被覆し、さらにその表面に正極を被覆して二次電池を構成した場合、正極と負極とが至近配置されるとともに、両極の対向面積を増大させることができ、電池の出力を高めることができるものと考えられる。しかしながら、本発明者の新たな知見によると、このような二次電池においては、充放電後に抵抗が大きく上昇してしまう場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、炭素繊維の束又は棒状炭素からなる負極と、前記負極の表面を被覆するポリマー層と、前記ポリマー層の表面を被覆する正極とを備え、前記ポリマー層が、フッ化ビニリデンに由来する重合単位とヘキサフルオロプロピレンに由来する重合単位とを有する共重合体によって構成されており、前記正極が、正極活物質として、LiMn2±δ(1.0<x≦1.3、0<y≦0.6、x+y+z=2であり、MはNi、Co、Ti、Nb及びRuからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、一部元素がドープ元素で置換されていてもよい)で表される複合酸化物を有する、二次電池を開示する。
【0008】
本開示の二次電池においては、前記炭素繊維の束の径が80μm以上300μm以下であってもよい。
【0009】
本開示の二次電池においては、前記複合酸化物の酸素の一部がフッ素で置換されていてもよい。
【0010】
本開示の二次電池においては、前記複合酸化物が岩塩型結晶相を有していてもよい。
【0011】
本開示の二次電池においては、前記ポリマー層の厚みが5μm以上30μm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本開示の二次電池によれば、ポリマー層にPVdF-HFP系共重合体を用い、且つ、正極活物質として所定のLi過剰マンガン含有複合酸化物を用いることで、電池の充放電後の抵抗上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】二次電池10の構成を説明するための概略図である。
図2】負極1の構成を説明するための概略図である。
図3】結束電池100の構成を説明するための概略図である。
図4】二次電池20の構成を説明するための概略図である。
図5】二次電池10の製造工程を説明するための概略図である。
図6】Li1.16Co0.10Ni0.20Mn0.542±δを含む平板塗工正極を作用極とした二極式評価セルの充放電曲線を示す図である。
図7】実施例1に係る二次電池の3サイクル目の充放電曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.二次電池10
図1に二次電池10の構成を概略的に示す。図1(A)が二次電池10の外観を説明するための概略図、図1(B)が図1(A)におけるIB-IB断面の構成を説明するための概略図である。
【0015】
図1に示すように、二次電池10は、炭素繊維1aの束からなる負極1と、負極1の表面を被覆するポリマー層2と、ポリマー層2の表面を被覆する正極3とを備える。二次電池10においては、ポリマー層2が、フッ化ビニリデンに由来する重合単位とヘキサフルオロプロピレンに由来する重合単位とを有する共重合体によって構成されており、正極3が、正極活物質3aとして、LiMn2±δ(1.0<x≦1.3、0<y≦0.6、x+y+z=2であり、MはNi、Co、Ti、Nb及びRuからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、一部元素がドープ元素で置換されていてもよい)で表される複合酸化物を有する。
【0016】
1.1.負極1
図2に負極1の構成を概略的に示す。図2(A)が負極1の外観を説明するための概略図、図2(B)が炭素繊維1aの束の径を説明するための概略図である。
【0017】
図2に示すように、負極1は炭素繊維1aの束からなる。「炭素繊維1aの束」とは、例えば、複数の炭素繊維が実質的に同じ方向を向いて束ねられたものといえる。炭素繊維1aの束は後述するポリマー層2によって束ねられていてもよいし、その他の材料によって束ねられていてもよい。
【0018】
負極1において、1本の炭素繊維1aの繊維径や長さは特に限定されるものではない。例えば、繊維径2μm以上300μm以下で、長さ100mm以上の炭素繊維を電池に適した長さに切断した繊維1aを採用してもよい。炭素繊維1aの繊維径等は電子顕微鏡等で確認できる。尚、「繊維径」は「最小外接円の直径」として特定される。すなわち、炭素繊維1aの長手方向と直交する平面で炭素繊維1aを切断した場合の断面形状を電子顕微鏡等によって特定し、当該断面形状に外接し得る最小の円の直径を「繊維径」とみなす。
【0019】
炭素繊維1aの種類は特に限定されるものではなく、どのような種類の炭素繊維1aを採用したとしても一定の効果を確保できる。特に、黒鉛を含む炭素繊維1aを採用した場合に、負極1の性能を一層向上させ易い。
【0020】
炭素繊維1aは折れ易く、1本の炭素繊維1aのみでは負極1として十分な強度を確保することが難しい場合がある。そのため、二次電池10においては、炭素繊維1aを束ねることで、負極1としての強度を確保している。束ねられる炭素繊維1aの数は特に限定されるものではなく、2本以上であればよい。炭素繊維1aの束の径も特に限定されるものではない。例えば、当該束の径を40μm以上400μm以下としてもよい。本発明者の知見では、特に、炭素繊維1aの束の径が80μm以上300μm以下である場合に、電池の性能を一層向上させ易い。尚、「炭素繊維の束の径」とは、上記の繊維径と同様に、「最小外接円の直径」として特定される。すなわち、図2(B)に示すように、炭素繊維1aの束の長手方向と直交する平面で炭素繊維1aの束を切断した場合の断面形状を電子顕微鏡等によって特定し、当該断面形状に外接し得る最小の円の直径Dを「炭素繊維の束の径」とみなす。
【0021】
1.2.ポリマー層2
ポリマー層2は負極1と正極3との間においてセパレータとして機能し得る。また、ポリマー層2は電解液に含浸された状態においてリチウムイオン伝導性を発現し得る。ポリマー層2はフッ化ビニリデンに由来する重合単位(VdF単位)とヘキサフルオロプロピレンに由来する重合単位(HFP単位)とを有する共重合体によって構成されることが重要である。これにより、高いリチウムイオン伝導性等を確保可能である。共重合体におけるVdF単位とHFP単位との重合比は特に限定されるものではない。また、共重合体の分子量についても特に限定されるものではない。ポリマー層2における共重合体の重合比や分子量によらず、後述の密着効果が得られるものと考えられる。共重合体の重合比の一例としては、VdF単位とHFP単位との全数を100%として、VdF単位が40%以上99%以下であってもよい。また、共重合体の分子量の一例としては、例えば、重量平均分子量が10万以上150万以下であってもよい。尚、上記課題を解決できる範囲で、共重合体には、VdF単位及びHFP単位以外の重合単位が含まれていてもよい。また、上記課題を解決できる範囲で、ポリマー層2には、VdF単位とHFP単位とを有する共重合体以外の共重合体が含まれていてもよい。
【0022】
図1に示すように、ポリマー層2は負極1の表面(一端、他端及び側面を有する束において、主に束の側面)を被覆している。ポリマー層2の厚みは特に限定されるものではない。本発明者の知見では、ポリマー層2の厚みが5μm以上30μm以下である場合、電池の性能を一層高め易い。当該厚みの上限は20μm以下であってもよい。
【0023】
1.3.正極3
正極3はポリマー層2の表面を被覆する。すなわち、正極3はポリマー層2を介して負極1と対向するように配置される。
【0024】
1.3.1.正極活物質3a
正極3は、正極活物質3aとして、LiMn2±δ(1.0<x≦1.3、0<y≦0.6、x+y+z=2であり、MはNi、Co、Ti、Nb及びRuからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、酸素の一部が他のアニオン元素で置換されていてもよい)で表される複合酸化物を有する。
【0025】
LiMn2±δにおいて、xは1.0<x≦1.3である。1.0<xであれば、複合酸化物中のリチウムが一般的な組成に対して過剰となり、電池の初回充電時にLi基準で4.5V付近に酸素の酸化還元反応を生じさせ易く、結晶構造内のリチウムイオンの輸送経路が多くなる。また、x≦1.3であれば、Liが過剰になり過ぎることがなく、正極の性能(容量等)を高め易い。xは1.0<x≦1.2であってもよいし、1.16≦x≦1.3であってもよいし、1.16≦x≦1.2であってもよい。
【0026】
LiMn2±δにおいて、yは0<y≦0.6である。0<y≦0.6であれば、電池の初回充電時、Li基準で4.5V付近に酸素の酸化還元反応を生じさせ易い。yは0.4≦y≦0.6であってもよいし、0<y≦0.54であってもよいし、0.4≦y≦0.54であってもよい。
【0027】
LiMn2±δにおいて、zはx+y+z=2で決まる値である。この関係が成立する場合であれば、複合酸化物の結晶構造を安定化させ易く、電池の初回充電時、Li基準で4.5V付近に酸素の酸化還元反応を生じさせ易い。
【0028】
LiMn2±δにおいて、MはNi、Co、Ti、Nb及びRuからなる群より選ばれる少なくとも1つである。正極活物質3aの性能をより高める観点から、MはNi、Co及びTiからなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよいし、Ni及びCoからなる群より選ばれる少なくとも1つであってもよいし、Tiであってもよい。
【0029】
LiMn2±δにおいて酸素の量は不定である。酸素の量はx、y及びzに応じて変動し得るほか、酸素欠陥の有無等によっても変動し得る。例えば、0≦δ<0.2の範囲にあってもよい。
【0030】
LiMn2±δにおいて、一部元素が他のドープ元素によって置換されていてもよい。「ドープ元素」とは、Li、Mn、M及びOと比較して少量の元素をいう。例えば、Li、Mn、M、O及びドープ元素の合計を100mol%として、ドープ元素が10mol%以下を占めていてもよい。本発明者の知見によると、LiMn2±δで表される複合酸化物の酸素の一部をフッ素で置換することで、後述の密着性向上効果がさらに高まる。
【0031】
LiMn2±δで表される複合酸化物に含まれる結晶相は特に限定されるものではない。例えば、当該複合酸化物は岩塩型結晶相を有していてもよいし、これ以外の結晶相を有していてもよい。或いは、非晶質の複合酸化物を採用してもよい。特に、岩塩型結晶相を有する場合に、正極活物質としての性能を高め易い。
【0032】
正極活物質3aの形状は特に限定されるものではなく、電池の正極活物質として機能し得る種々の形状を採用し得る。例えば、正極活物質3aは粒子状であってもよい。粒子状の正極活物質3aを採用する場合、その一次粒子径は、例えば、1nm以上500μm以下であってもよい。下限は5nm以上であってもよいし、10nm以上であってもよいし、50nm以上であってもよい。上限は100μm以下であってもよいし、50μm以下であってもよい。正極活物質3aは1次粒子同士が集合して2次粒子を形成していてもよい。この場合、2次粒子の粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば、0.5μm以上1000μm以下であってもよい。下限は1μm以上であってもよく、上限は500μm以下であってもよい。
【0033】
正極活物質3aは1種の複合酸化物を単独で用いてもよく、組成の異なる複合酸化物を2種以上混合して用いてもよい。また、正極3は、上記課題を解決できる範囲で、正極活物質3aに加えて、正極活物質3a以外の正極活物質を含んでいてもよい。正極3に含まれる正極活物質の中にLiMn2±δで表される複合酸化物に該当する部分があればよい。
【0034】
正極3における正極活物質の含有量は特に限定されるものではなく、目的とする電池の性能に応じて適宜決定すればよい。例えば、正極活物質と後述の導電助剤及びバインダーとの合計を100質量%として、正極活物質の含有量を60質量%以上99質量%以下としてもよい。下限は80質量%以上であってもよく、上限は98質量%以下であってもよい。
【0035】
1.3.2.その他の成分
正極3には、正極活物質のほか、導電助剤が含まれていてもよい。導電助剤は、電池の正極において導電助剤として機能するものであればよい。例えば、炭素からなる導電助剤や金属からなる導電助剤が挙げられる。炭素からなる導電助剤としては、アセチレンブラックやケッチェンブラックやファーネスブラック等のカーボンブラック、気相法炭素繊維やカーボンナノチューブやカーボンナノファイバー等の繊維状炭素、或いは、黒鉛等が挙げられ、金属からなる導電助剤としては、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等が挙げられる。導電助剤は1種の導電助剤のみからなるものであってよいし、2種以上を導電助剤の混合物であってもよい。導電助剤の形状や大きさは特に限定されるものではなく、電池の正極に含まれる導電助剤として一般的な形状や大きさを採用し得る。例えば、導電助剤が粒子状である場合、その粒子径は5nm以上1μm以下であってもよい。或いは、導電助剤が繊維状である場合、その繊維径が5nm以上1μm以下であってもよく、アスペクト比が20以上であってもよい。正極3における導電助剤の含有量は特に限定されるものではなく、目的とする電池の性能に応じて適宜決定すればよい。例えば、正極活物質と導電助剤とバインダーとの合計を100質量%として、導電助剤の含有量を0.5質量%以上20質量%以下としてもよい。下限は1質量%以上であってもよく、上限は10質量%以下であってもよい。
【0036】
正極3には、正極活物質のほか、バインダーが含まれていてもよい。バインダーは、電池の正極においてバインダーとして機能するものであればよい。例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、これらの共重合体、或いは、これらと他の重合単位との共重合体等が挙げられる。バインダーは1種のみからなっていてもよいし、2種以上の混合物であってもよい。正極3におけるバインダーの含有量は特に限定されるものではなく、目的とする電池の性能に応じて適宜決定すればよい。例えば、正極活物質と導電助剤とバインダーとの合計を100質量%として、バインダーの含有量を0.5質量%以上20質量%以下としてもよい。下限は1質量%以上であってもよく、上限は10質量%以下であってもよい。
【0037】
1.4.その他の構成
二次電池10は負極1、ポリマー層2及び正極3のほかに、電解液を備え得る。電解液はキャリアイオンとしてリチウムイオンを含み得る。電解液は水系電解液であっても非水系電解液であってもよい。電解液の組成は二次電池の電解液の組成として公知のものと同様とすればよい。例えば、電解液として、カーボネート系溶媒にリチウム塩を所定濃度で溶解させたものを用いることができる。
【0038】
二次電池10は、負極1や正極3に対して集電端子が接続されていてもよい。また、負極1、ポリマー層2及び正極3等を電池ケースに収容してもよい。また、図3に示すように、複数の二次電池10を束ねて結束電池100を構成してもよい。この場合、結束電池100における二次電池10の数や結束方法は特に限定されるものではない。
【0039】
二次電池10を用いた単セル形状は、コイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、扁平型、角形型等、種々の形状を採用でき、また、電池の大きさも自動車用等の大型電池から、携帯端末用等の小型電池まで広く採用できる。
【0040】
2.二次電池20
図4に二次電池20の構成を概略的に示す。図4(A)が二次電池20の外観を説明するための概略図、図4(B)が図4(A)におけるIVB-IVB断面の構成を説明するための概略図、図4(C)が負極11の構成を説明するための概略図である。図4において、図1と同様の構成については同符号を付す。
【0041】
図4に示すように、二次電池20は、棒状炭素11aからなる負極11と、負極11の表面を被覆するポリマー層2と、ポリマー層2の表面を被覆する正極3とを備える。二次電池20においては、ポリマー層2が、フッ化ビニリデンに由来する重合単位とヘキサフルオロプロピレンに由来する重合単位とを有する共重合体によって構成されており、正極3が、正極活物質3aとして、LiMn2±δ(1.0<x≦1.3、0<y≦0.6、x+y+z=2であり、MはNi、Co、Ti、Nb及びRuからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、一部元素がドープ元素で置換されていてもよい)で表される複合酸化物を有する。
【0042】
棒状炭素11aは、図4(C)に示すように円柱状であってもよいし、角柱状であってもよいし、その他の形状であってもよい。棒状炭素11aの径は特に限定されるものではない。本発明者の知見では、棒状炭素11aの径が80μm以上300μm以下である場合に、電池の性能を一層向上させ易い。尚、「棒状炭素の径」とは、上記の繊維径や束径と同様に、「最小外接円の直径」として特定される。棒状炭素11aの長さも特に限定されるものではない。例えば、100mm以上の棒状炭素を電池に適した長さに切断して使用することができる。
【0043】
3.二次電池の製造方法
図5を参照しつつ、二次電池10の製造方法の一例について説明する。図5に示すように、二次電池10を製造する場合、例えば、炭素繊維1aを複数本用意し、これらを束ねて負極1を構成する。上記共重合体を溶解させた溶液を負極1の表面に塗布して乾燥させることで、炭素繊維1aの束を固定するとともに、負極1の表面にポリマー層2を形成する。ポリマー層2の表面に正極活物質3a等を含むスラリーを塗布して乾燥させることで、ポリマー層2の表面に正極3を形成し、二次電池10とする。正極3を形成後、任意に加圧プレスして電極を高密度化させてもよい。その後、得られた二次電池10に必要な端子等を取り付け電解液とともに電池ケースに収容して密封してもよい。二次電池20を製造する場合も同様である。或いは、これ以外の方法で二次電池10、20を製造することも可能である。
【0044】
4.作用効果
二次電池10、20においては、負極1と正極3とを至近配置することができるとともに、両極の対向面積を増大させることができる。そのため、電池の出力を高めることができるものと考えられる。また、二次電池10、20においては、ポリマー層2に上記のP(VdF-HFP)系共重合体が採用されるとともに、正極3における正極活物質3aとして上記のLi過剰マンガン含有複合酸化物が採用される。Li過剰マンガン含有酸化物は、上述の通り、電池の初回充電時、Li基準で4.5V付近に酸素の酸化還元反応を起こし易い。この酸化還元反応によってポリマー層2と正極3との密着性が向上するものと考えられ、電池の充放電後における抵抗上昇を抑制することができる。
【0045】
従来の捲回型や積層型の電池においては、電極内における反応が不均一となり、電極の一部が過充電状態となり、正極活物質からの酸素の放出などの副反応が生じ易い。これに対し、二次電池10、20によれば、負極1と正極3とが多方向から対向し、しかも対向面積を増大させることができることから、電極内における不均一な反応を最小限に抑えることができるものと考えられる。さらに、二次電池10、20によれば、電極の充填率や密度を高めることができ、仮に正極活物質から酸素の放出が生じても、当該酸素が電極外に放出されることなく、その後の放電で正極活物質中に吸蔵させることができるものと考えられる。
【0046】
尚、高出力と高容量との両立を図るべく、正極活物質、負極活物質及び固体電解質を組み合わせた3次元構造を持つ全固体電池とすることも考えられるが、3種の固体を3次元的に適切に配置することは難しい場合がある。また、3次元構造を持つ全固体電池においては、活物質の膨張・収縮による歪みを吸収し難く、長期的な安定性に課題がある。これに対し、二次電池10、20によれば、負極1、ポリマー層2及び正極3を適切な位置に容易に配置することができ、また、全固体電池と比較してある程度の隙間や柔軟性を有し得ることから、活物質の膨張・収縮による歪みを吸収し易い。
【実施例
【0047】
以下、実施例を示しつつ本開示の技術についてさらに説明するが、本開示の技術は以下の形態に限定されるものではない。
【0048】
1.Li1.16Co0.10Ni0.20Mn0.542±δを用いた場合
1.1.実施例1
1.1.1.正極活物質の合成
あらかじめ不活性ガスを通気させて溶存酸素を取り除いたイオン交換水に、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、及び硫酸コバルトを、Ni、Mn、Coの各元素が0.2:0.54:0.1のモル比になるように溶解させ、これら金属元素の合計モル濃度が2mol/Lとなるように混合水溶液を調整した。一方、同様に溶存酸素を取り除いたイオン交換水を用いて2mol/Lの濃度の水酸化ナトリウム水溶液と、0.352mol/Lの濃度のアンモニア水とをそれぞれ調整した。
【0049】
溶存酸素を取り除いたイオン交換水を槽内温度50℃に設定された反応槽に入れ、800rpmで攪拌子を攪拌させた状態で、そこに水酸化ナトリウム水溶液を滴下して液温25℃を基準としたpHが12となるように調整した。
【0050】
反応槽に混合水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液と、アンモニア水とをpH12に制御しつつ加え、共沈生成物の複合水酸化物を得た。水酸化ナトリウム水溶液のみを適宜加えてpHを12に保ち、2時間攪拌を継続した。その後、60℃で2時間静置することで、複合水酸化物の粒子を成長させた。反応終了後、複合水酸化物をろ過、水洗して取り出し、120℃のオーブン内で一晩乾燥させて複合水酸化物の粉末試料を得た。
【0051】
得られた粉末試料と水酸化リチウム粉末とを、リチウムのモル数(Li)と繊維金属元素(Ni、Mn、Co)の総モル数(Me)との比(Li/Me)が1.38となるように混合して混合粉末を得た。得られた混合粉末を6MPaの圧力で加圧成形して、直径約2cm、厚さ約5mmのペレットを得た。得られたペレットを、電気炉内に配置し、空気雰囲気で950℃の温度まで5℃/minで昇温させ、950℃で7時間焼成し、その後、自然放冷させた。約8時間後、炉内温度が100℃以下となっていることを確認して、ペレットを取り出した。
【0052】
焼成後のペレットに対して、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)を用いて組成分析を行った結果、ペレットに含まれる複合酸化物の組成式はLi1.16Co0.10Ni0.20Mn0.542±δであった。
【0053】
1.1.2.平板塗工正極の作製
得られた複合酸化物と、導電助剤としてカーボンブラックと、バインダーとしてPVdFとを、質量比で、90:7:3となるように混合し、ここにN-メチル-2-ピロリドンを適量添加して正極スラリーを得た。得られた正極スラリーをアルミニウム箔(厚さ15μm)に均一に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを作製した。得られた塗布シートをロールプレスで高密度化させて、平板塗工正極を得た。
【0054】
1.1.3.二極式評価セルの作製及び充放電試験
得られた平板塗工正極を2cmに打ち抜いて円盤状の電極を得た。得られた電極を作用極とし、リチウム金属箔(厚さ300μm)を対極として、両電極の間に非水電解液を含浸させたポリプロピレンからなるセパレータを挟んで、二極式評価セルを作製した。非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を体積比で30:40:30で混合した混合溶媒に、LiPFを1Mの濃度で溶解させたものを用いた。
【0055】
作製した二極式評価セルに対して、20℃の温度環境下、0.1Cのレートで4.6-2.0Vの範囲で充放電試験を行った。このときの充放電曲線を図6に示す。図6に示すように、初回充電時、4.5V付近に酸素の酸化還元反応に由来する電位平坦部が存在することが分かる。
【0056】
1.1.4.評価用の二次電池の作製
図1に示すような二次電池(以下「3次元構造電池」と称する場合がある。)を作製した。具体的には、黒鉛を含む炭素繊維(繊維径:10μm、日本グラファイトファイバー社製XN-90-60S)を束ね、当該炭素繊維の束に、N-メチルピロリドンにポリ(フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン)(PVdF-HFP)を溶解させた溶液を塗布し、ヒートガンで乾燥させることにより、炭素繊維の束を固定しつつ、炭素繊維の束の表面を10μmの厚みを有するポリマー層で被覆した。その後、ポリマー層の表面に、上記と同様にして作製した正極スラリーを塗布して乾燥させることで、ポリマー層の表面を正極で被覆して、電極体を得た。得られた電極体を加圧プレスで高密度化させた後で、上記と同様にして作製した非水電解液とともに、ラミネート袋に挿入・封止することで、実施例1に係る評価用の3次元構造電池を得た。実施例1に係る3次元構造電池において、炭素繊維の束の径は200μmであった。
【0057】
1.1.5.充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定
3次元構造電池を25℃の温度環境下、上限電圧4.6V、加限電圧2.0Vの範囲で、C/10レートの定電流で充放電を3サイクル行った。このときの3サイクル目の充放電曲線を図7に示す。
【0058】
充放電を3サイクル行った後の電池について、25℃の温度条件で、電池容量を50%(SOC50%)に調整し、0.5C、1C、2C、4C、6Cの電流を流して2秒後の電池電圧を測定した。流した電流と電圧とを直線近似し、その傾きからIV抵抗(電池の内部抵抗)R1を求めた。
【0059】
引き続き、3次元構造電池を40℃の温度環境下、0.5Cレート、4.6-2.0Vの範囲で定電流充放電を10サイクル行った。10サイクル後の電池について上記と同様にしてIV抵抗R2を求めた。
【0060】
上記のIV抵抗R1及びR2から、抵抗増加率((R2-R1)/R1)を求めた。
【0061】
1.2.実施例2
束ねる炭素繊維の数を調整して炭素繊維の束の径を300μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0062】
1.3.実施例3
束ねる炭素繊維の数を調整して炭素繊維の束の径を80μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0063】
1.4.実施例4
PVdF-HFP溶液の塗布量を調整してポリマー層の厚みを20μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0064】
1.5.実施例5
PVdF-HFP溶液の塗布量を調整してポリマー層の厚みを5μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0065】
1.6.実施例6
束ねる炭素繊維の数を調整して炭素繊維の束の径を40μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0066】
1.7.実施例7
束ねる炭素繊維の数を調整して炭素繊維の束の径を400μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0067】
1.8.実施例8
PVdF-HFP溶液の塗布量を調整してポリマー層の厚みを30μmとしたこと以外は、実施例1と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0068】
1.9.実施例9
Li1.16Co0.10Ni0.20Mn0.542±δとNHFとを100:0.5の質量比で混合し、アルゴン雰囲気下、400℃で2時間焼成することで、Li1.16Co0.10Ni0.20Mn0.542±δの酸素の一部をフッ素に置換した正極活物質を得た。得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0069】
1.10.比較例1
1.10.1.負極の作製
長さ5mm程度の炭素繊維と、バインダーとしてPVdFとを、質量比で95:5となるように混合し、ここにN-メチルピロリドンを適量添加して負極スラリーを得た。得られた負極スラリーを銅箔(厚さ10μm)上に塗布し、加熱乾燥させて塗布シートを得た。得られた塗布シートをロールプレスに通して高密度化させた後、27mm幅×42mm長の形状に切り出して負極とした。
【0070】
1.10.2.正極の作製
上記の平板塗工正極を25mm幅×40mm長の形状に切り出して正極とした。
【0071】
1.10.3.ポリマー層の作製
PVdF-HFPをN-メチルピロリドンに溶解させた溶液を、ガラス基板に塗布して乾燥後、剥離することで、厚さ10μmのPVdF-HFP膜を得た。
【0072】
1.10.4.平板型積層電池の作製
上記の正極と、負極とを、PVdF-HFP膜を挟んで対向させ、積層型電極体を得た。この電極体を上記と同様の非水電解液とともにアルミニウムラミネート型袋に封入し、比較例1に係る平板型積層電池を得た。
【0073】
1.10.5.電池の評価
平板型積層電池に対して、実施例1と同様の条件で充放電試験を行い、充放電サイクル後の抵抗増加率を測定した。
【0074】
2.Li1.2Ni0.2Mn0.62±δを用いた場合
2.1.実施例10
正極活物質の合成において、硫酸コバルトを用いずに、硫酸ニッケル及び硫酸マンガン、を、Ni、Mnの各元素が0.3:0.6のモル比になるように溶解させた混合溶液を得たこと以外は実施例1と同様にして複合酸化物を得た。得られた複合酸化物の組成式はLi1.2Ni0.2Mn0.62±δであった。得られた複合酸化物を正極活物質として用い、、実施例1と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0075】
2.2.実施例11
Li1.2Ni0.2Mn0.62±δとNHFとを100:0.5の質量比で混合し、アルゴン雰囲気下、400℃で2時間焼成することで、Li1.2Ni0.2Mn0.62±δの酸素の一部をフッ素に置換した正極活物質を得た。得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0076】
2.3.比較例2
正極活物質としてLi1.2Ni0.2Mn0.62±δを用いたこと以外は比較例1と同様にして平板型積層電池を作製し、充放電サイクル後の抵抗増加率を測定した。
【0077】
3.Li1.2Mn0.4Ti0.42±δを用いた場合
3.1.実施例12
3.1.1.正極活物質の合成
原料としてLiCOと、TiO(アナターゼ型)と、Mnとを用い、これらを直径10mmのジルコニアボール500gが入った容積500mLのジルコニア製ポットに投入した。これを遊星型ボールミル(FRITSCH社製pulverisette6)にセットし、公転回数500rpmで20時間処理を行った。得られた混合粉末をアルゴン雰囲気下、900℃で12時間焼成することで、複合酸化物としてLi1.2Mn0.4Ti0.42±δを得た。
【0078】
3.1.2.3次元構造電池の作製及び評価
正極活物質としてLi1.2Mn0.4Ti0.42±δを用いたこと以外は実施例1と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0079】
3.2.実施例13
ジルコニア製ポットに上記原料とともに、LiFを0.5質量%加えて実施例12と同様の条件でボールミル処理及び焼成を行うことで、Li1.2Mn0.4Ti0.42±δの酸素の一部をフッ素に置換した正極活物質を得た。得られた正極活物質を用いて、実施例12と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0080】
3.3.比較例3
正極活物質としてLi1.2Mn0.4Ti0.42±δを用いたこと以外は比較例1と同様にして平板型積層電池を作製し、充放電サイクル後の抵抗増加率を測定した。
【0081】
4.Li0.55Mn0.9Al0.052±δを用いた場合
4.1.比較例4
4.1.1.正極活物質の合成
原料としてLiCOと、Al(OH)と、MnOとを用い、これらを混合後、空気中で900℃で12時間焼成し、その後、700℃で48時間保持させることで、複合酸化物としてLi0.55Mn0.9Al0.052±δ(スピネル型Li1.1Mn1.8Al0.14±2δ)を得た。
【0082】
4.1.2.3次元構造電池の作製及び評価
正極活物質としてLi0.55Mn0.9Al0.052±δを用いたこと以外は実施例1と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0083】
4.2.比較例5
Li0.55Mn0.9Al0.052±δとNHFとを100:0.5の質量比で混合し、アルゴン雰囲気下、400℃で2時間焼成することで、Li0.55Mn0.9Al0.052±δの酸素の一部をフッ素に置換した正極活物質を得た。得られた正極活物質を用いて、実施例1と同様にして3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0084】
4.3.比較例6
正極活物質としてLi0.55Mn0.9Al0.052±δを用いたこと以外は比較例1と同様にして平板型積層電池を作製し、充放電サイクル後の抵抗増加率を測定した。
【0085】
5.ポリマー層の共重合体を変えた場合
5.1.比較例7
ポリアクリロニトリル(PAN)とポリビニルアルコール(PVA)とを、PAN:PVA=5:95の質量比でジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させ、70℃で24時間攪拌することでポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液を炭素繊維束に塗布し、水に浸漬させることでDMSOを除去した。その後、70℃で5時間真空乾燥させることで、炭素繊維束の表面を厚さ20μmのポリマー層で被覆した。その後、実施例1と同様にして評価用の3次元構造電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。3次元構造電池における炭素繊維束の径は200μmであった。
【0086】
5.2.比較例8
比較例7と同様にしてポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液をガラス基板に塗布し、水に浸漬させることでDMSOを除去した。その後、70℃で5時間真空乾燥させることで、厚さ20μmのPAN-PVA膜を得た。PVdF-HFP膜に替えて、PAN-PVA膜を用いたこと以外は、比較例1と同様にして平板型積層電池を作製し、充放電サイクル及びサイクル後の抵抗増加率の測定を行った。
【0087】
6.評価結果
実施例1~9及び比較例1の結果を下記表1に、実施例10、11及び比較例2の結果を下記表2に、実施例12、13及び比較例3の結果を下記表3に、比較例4~6の結果を下記表4に、比較例7、8の結果を下記表5に示す。表1においては、比較例1の抵抗増加率を基準(1.00)として、実施例1~9の抵抗増加率を規格化した。また、表2においては、比較例2の抵抗増加率を基準(1.00)として、実施例10、11の抵抗増加率を規格化した。また、表3においては、比較例3の抵抗増加率を基準(1.00)として、実施例12、13の抵抗増加率を規格化した。また、表4においては、比較例6の抵抗増加率を基準(1.00)として、比較例4、5の抵抗増加率を規格化した。さらに、表5においては、比較例8の抵抗増加率を基準(1.00)として、比較例7の抵抗増加率を規格化した。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
表1に示す結果から、ポリマー層にPVdF-HFP系共重合体を用い、且つ、正極活物質としてLi1.16Co0.10Ni0.20Mn0.542±δを用いた場合、平板対向型電池である比較例1と比較して、3次元構造電池である実施例1~9のいずれについても、充放電サイクル後の抵抗増加率が顕著に低下することが分かる。また、3次元構造電池において、炭素繊維の束径やポリマー層の厚みを調整することで、抵抗増加率をより一層低減できることが分かる。また、3次元構造電池の正極において、酸素の一部をフッ素に置換した正極活物質を用いることで、抵抗増加率をより一層低減できることが分かる。
【0094】
表2に示す結果から、ポリマー層にPVdF-HFP系共重合体を用い、且つ、正極活物質としてLi1.2Ni0.2Mn0.62±δを用いた場合、平板対向型電池である比較例2と比較して、3次元構造電池である実施例10及び11のいずれについても、充放電サイクル後の抵抗増加率が顕著に低下することが分かる。また、3次元構造電池の正極において、酸素の一部をフッ素に置換した正極活物質を用いることで、抵抗増加率をより一層低減できることが分かる。
【0095】
表3に示す結果から、ポリマー層にPVdF-HFP系共重合体を用い、且つ、正極活物質としてLi1.2Mn0.4Ti0.42±δを用いた場合、平板対向型電池である比較例3と比較して、3次元構造電池である実施例12及び13のいずれについても、充放電サイクル後の抵抗増加率が顕著に低下することが分かる。また、3次元構造電池の正極において、酸素の一部をフッ素に置換した正極活物質を用いることで、抵抗増加率をより一層低減できることが分かる。
【0096】
表4に示す結果から、ポリマー層にPVdF-HFP系共重合体を用い、且つ、正極活物質としてLi0.55Mn0.9Al0.052±δを用いた場合、平板対向型電池である比較例6と比較して、3次元構造電池である比較例4及び5のいずれについても、充放電サイクル後の抵抗増加率が上昇することが分かる。また、3次元構造電池の正極において、酸素の一部をフッ素に置換した正極活物質を用いたとしても、抵抗増加率の上昇を抑えることはできないことが分かる。
【0097】
表5に示す結果から、ポリマー層にPAN-PVA系共重合体を用い、且つ、正極活物質としてLi1.16Co0.10Ni0.20Mn0.542±δを用いた場合、平板対向型電池である比較例8と比較して、3次元構造電池である比較例7は、充放電サイクル後の抵抗増加率が上昇することが分かる。
【0098】
実施例1~13は、3次元構造電池のポリマー層にPVdF-HFP系共重合体を採用し、且つ、3次元構造電池の正極において正極活物質として所定のLi過剰マンガン含有複合酸化物を採用している。当該複合酸化物を正極活物質として用いた場合、例えば図6に示すように、電池の初回充電時、Li基準で4.5V付近に酸素の酸化還元反応に由来する電位平坦部が存在する。この酸化還元反応によって、ポリマー層と正極との密着性が高まり、結果として、充放電サイクル後の抵抗増加を顕著に抑制できたものと考えられる。一方で、正極活物質としてLi0.55Mn0.9Al0.052±δを用いた場合(比較例4~6)は所望の効果が得られない。Li0.55Mn0.9Al0.052±δは上記の酸化還元反応を伴わないためと考えられる。また、ポリマー層にPAN-PVA系共重合体を採用した場合(比較例7、8)も所望の効果が得られない。上記の密着性向上効果はポリマー層にPVdF-HFP系共重合体を用い、且つ、正極活物質として所定のLi過剰マンガン含有複合酸化物を採用した場合に特有に認められる効果といえる。
【0099】
7.補足
上記のメカニズムからすると、3次元構造電池の負極として炭素繊維の束に替えて棒状の炭素を採用した場合においても、同様の効果が奏されるものと考えられ、また、炭素の種類(黒鉛の有無等)によらず、同様の効果が奏されるものと考えられる。また、上記のメカニズムからすると、ポリマー層はVdF単位とHFP単位とを含んでいればよく、その共重合比や分子量に特に制限はない。さらに、上記のメカニズムからすると、正極活物質として充電時に4.5V付近に酸素の酸化還元反応を伴うものを採用することが有効と考えられ、そのような複合酸化物は上記実施例に係る具体的な複合酸化物に限定されるものではない。例えば、LiMn2±δ(1.0<x≦1.3、0<y≦0.6、x+y+z=2であり、MはNi、Co、Ti、Nb及びRuからなる群より選ばれる少なくとも1つであり、一部元素がドープ元素で置換されていてもよい)で表される複合酸化物を有する正極活物質であれば、所望の効果を発揮できるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本開示の二次電池は、車搭載用等の大型電源から携帯端末用等の小型電源まで広く利用可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 負極
1a 炭素繊維
2 ポリマー層
3 正極
3a 正極活物質
10 二次電池
11 負極
11a 棒状炭素
20 二次電池
100 結束電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7