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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】力覚センサ
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/161 20200101AFI20221129BHJP
   G01L 25/00 20060101ALI20221129BHJP
   G01L 1/22 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G01L5/161
G01L25/00 A
G01L1/22 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019068597
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020165897
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】509006820
【氏名又は名称】株式会社レプトリノ
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】向井 優
(72)【発明者】
【氏名】由井 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】牧野 泰育
(72)【発明者】
【氏名】小林 岳久見
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特許第4192084(JP,B2)
【文献】実開昭58-177278(JP,U)
【文献】特許第6378381(JP,B1)
【文献】特許第6618128(JP,B2)
【文献】特許第6047703(JP,B2)
【文献】特許第5980877(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起歪体に掛かる力における複数の方向の成分を検出する力覚センサであって、
前記成分を検出するための測定用歪検出素子とは異なる、前記起歪体の塑性変形を検出するための複数の検査用歪検出素子であって、前記起歪体における応力集中領域に配置された複数の検査用歪検出素子を含み、前記起歪体に生じる応力における特定の方向の成分を検出する検査用回路を備えている、
ことを特徴とする力覚センサ。
【請求項2】
前記複数の方向の何れかの外力を前記起歪体に掛けた場合に前記起歪体に生じる応力が最大になる部分およびその近傍である前記応力集中領域に、前記検査用歪検出素子が配置されている、請求項1に記載の力覚センサ。
【請求項3】
前記特定の方向の外力を前記起歪体に掛けた場合に前記応力集中領域に塑性変形を生じさせる応力に相当する値である閾値と、前記検査用回路が検出する応力の成分とを比較することによって、前記起歪体の塑性変形が生じているか否かを判定する回路またはプロセッサをさらに含む、請求項1または2に記載の力覚センサ。
【請求項4】
前記検査用回路が検出する応力の成分と、予め決められている閾値とを比較することによって、前記起歪体の塑性変形が生じているか否かを判定する回路またはプロセッサをさらに含み、
前記閾値は、所定の力を正常な前記起歪体に掛けた場合に、前記応力集中領域において前記特定の方向に生じる応力に相当する値である、請求項1または2に記載の力覚センサ。
【請求項5】
前記複数の方向は、互いに直交する三軸の各々と平行な方向、及び、当該三軸の各々を回転軸とする回転方向の6方向である、請求項1~4のいずれか一項に記載の力覚センサ。
【請求項6】
前記起歪体は、力を受けるコア部と、前記コア部に対して固定されるフレーム部と、前記コア部と前記フレーム部とを連結するアーム部と、前記フレーム部と前記アーム部との間に介在するフレクシャと、を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の力覚センサ。
【請求項7】
起歪体に掛かる力における複数の方向の成分を検出する力覚センサの製造方法であって、
前記起歪体に力を作用させたときに応力が集中する領域を応力集中領域として特定する工程と、
前記成分を検出するための測定用歪検出素子とは異なる、前記起歪体の塑性変形を検出するための複数の検査用歪検出素子を、前記工程にて特定された応力集中領域に配置する工程と、を含んでいる、
ことを特徴とする力覚センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力覚センサに関する。
【背景技術】
【0002】
力覚センサは、産業の幅広い分野で利用されている。このような力覚センサには、例えば力を受けた起歪体の歪を歪ゲージで検出し、所定の組み合わせの歪ゲージを含むブリッジ回路により、起歪体に掛かる力における特定の方向の成分を検出する歪ゲージ式の力覚センサがある。起歪体は、例えば、力を受けるコア部と、コア部に対して固定されるフレーム部と、コア部とフレーム部とを連結するアーム部と、フレーム部とアーム部との間に介在するフレクシャとを含む。歪ゲージは、例えば、アーム部およびフレクシャの適所に配置される。ブリッジ回路は、例えば、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向の力成分と各軸周りのモーメント成分の合計6方向の力のそれぞれを検出する(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-070673号公報
【文献】特開2018-146309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
起歪体は、弾性限界を超える力を受けると塑性変形することがあり、さらには破断することがある。起歪体が塑性変形すると、力覚センサは、正常に力を検出することができなくなることがある。このため、起歪体の塑性変形を検出することは、力覚センサの信頼性を高める観点から有効である。しかしながら、従来の力覚センサでは、起歪体の塑性変形を検出する有効な手段を有していなかった。
【0005】
本発明の一態様は、起歪体の塑性変形を検出可能な力覚センサを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の態様1に係る力覚センサは、起歪体に掛かる力における複数の方向の成分を検出する力覚センサであり、起歪体における応力集中領域に配置された複数の検査用歪検出素子を含み、起歪体に生じる応力における特定の方向の成分を検出する検査用回路、を備えている。
【0007】
上記の構成によれば、起歪体において塑性変形がより生じやすい応力集中領域の応力を検出することが可能である。よって、起歪体の塑性変形を検出することができる。
【0008】
本発明の態様2に係る力覚センサは、上記態様1において、複数の方向の何れかの外力を起歪体に掛けた場合に起歪体に生じる応力が最大になる部分およびその近傍である応力集中領域に検査用歪検出素子が配置されていてもよい。
【0009】
上記の構成によれば、当該力覚センサによれば、力覚センサによる力の測定に起因する起歪体の塑性変形を確実に検出する観点からより一層効果的である。
【0010】
本発明の態様3に係る力覚センサは、上記態様1または2において、特定の方向の外力を起歪体に掛けた場合に応力集中領域に塑性変形を生じさせる応力に相当する値である閾値と、検査用回路が検出する応力の成分とを比較することによって、起歪体の塑性変形が生じているか否かを判定する回路またはプロセッサをさらに含んでもよい。
【0011】
上記の構成によれば、起歪体に塑性変形を生じ得る応力が生じたことに基づいて起歪体における塑性変形の発生を判定することから、起歪体の塑性変形の判定を迅速に実行する観点からより一層効果的である。
【0012】
本発明の態様4に係る力覚センサは、上記態様1または2において、検査用回路が検出する応力の成分と、予め決められている閾値とを比較することによって、起歪体の塑性変形が生じているか否かを判定する回路またはプロセッサをさらに含み、閾値は、所定の力を正常な起歪体に掛けた場合に、応力集中領域において前記特定の方向に生じる応力に相当する値であってもよい。
【0013】
上記の構成によれば、起歪体が塑性変形を生じたことによる異常な検出値が検出されることから、起歪体の塑性変形を確実に判定する観点からより一層効果的である。
【0014】
本発明の態様5に係る力覚センサは、上記態様1から4において、前述の複数の方向は、互いに直交する三軸の各々と平行な方向、及び、当該三軸の各々を回転軸とする回転方向の6方向であってもよい。
【0015】
上記の構成によれば、当該力覚センサによれば、力覚センサとして有用な6軸方向の力を計測することができる。
【0016】
本発明の態様6に係る力覚センサは、上記態様1から5において、起歪体は、力を受けるコア部と、コア部に対して固定されるフレーム部と、コア部とフレーム部とを連結するアーム部と、フレーム部とアーム部との間に介在するフレクシャとを含んでいてもよい。
【0017】
上記の構成によれば、フレクシャを有さない力覚センサに比べて、起歪体に掛かる力を高い精度で検出する観点からより一層効果的である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、起歪体の塑性変形を検出可能な力覚センサを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(a)は、本発明の実施形態1に係る力覚センサを構成する起歪体の構造を模式的に示す平面図であり、(b)は、当該力覚センサの検査用歪ゲージを含む検査用ブリッジ回路の一例を示す図であり、(c)は、当該検査用ブリッジ回路に接続する故障検知回路の一例を示す図である。
図2図1中のA部を拡大して示す図である。
図3図2中のB部を拡大して示す図である。
図4図2中のC部を拡大して示す図である。
図5】(a)は、実施形態1におけるコア部にX方向の外力を掛けた場合の起歪体に生じる応力の分布のシミュレーション結果を示す平面図であり、(b)は、YZ平面中のY方向に対して斜めの方向から(a)の起歪体を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図であり、(c)は、実施形態1におけるコア部にZ方向の外力を掛けた場合の起歪体に生じる応力の分布の一シミュレーション結果を示す平面図であり、(d)は、XZ平面中のX方向に対して斜めの方向から(c)の起歪体を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図であり、(e)は、実施形態1におけるコア部Z方向の外力を掛けた起歪体に生じる応力の分布の他のシミュレーション結果を示す平面図であり、(f)は、XZ平面中のX方向に対して斜めの方向から(e)の起歪体を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図である。
図6】(a)は、実施形態1におけるコア部に、Y方向を回転軸とする回転方向の外力を受けた起歪体に生じる応力の分布のシミュレーション結果を示す平面図であり、(b)は、XZ平面中のX方向に対して斜めの方向から(a)の起歪体を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図であり、(c)は、実施形態1におけるコア部に、Z方向を回転軸とする回転方向の外力を受けた起歪体に生じる応力の分布の一シミュレーション結果を示す平面図であり、(d)は、実施形態1におけるコア部に、Z方向を回転軸とする回転方向の外力を受けた起歪体に生じる応力の分布の他のシミュレーション結果を示す平面図である。
図7】本発明の実施形態1に係る故障検知回路が常時故障を検知する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8】本発明の実施形態1に係る故障検知回路が定期的に故障を検知する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施形態2に係る力覚センサを構成する起歪体の構造を模式的に示す平面図である。
図10】(a)は、実施形態2におけるコア部にX方向の外力を受けた起歪体に生じる応力の分布のシミュレーション結果を示す平面図であり、(b)は、YZ平面中のY方向に対して斜めの方向から(a)の起歪体を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図であり、(c)は、実施形態2におけるコア部にZ方向の外力を受けた起歪体に生じる応力の分布の一シミュレーション結果を示す平面図であり、(d)は、XZ平面中のX方向に対して斜めの方向から(c)の起歪体を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図であり、(e)は、実施形態2におけるコア部にZ方向の外力を受けた起歪体に生じる応力の分布の他のシミュレーション結果を示す平面図であり、(f)は、XZ平面中のX方向に対して斜めの方向から(e)の起歪体を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図である。
図11】(a)は、実施形態2におけるコア部に、Y方向を回転軸とする回転方向の外力を受けた起歪体に生じる応力の分布のシミュレーション結果を示す平面図であり、(b)は、XZ平面中のX方向に対して斜めの方向から(a)の起歪体を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図であり、(c)は、実施形態2におけるコア部に、Z方向を回転軸とする回転方向の外力を受けた起歪体に生じる応力の分布の一シミュレーション結果を示す平面図であり、(d)は、実施形態2におけるコア部に、Z方向を回転軸とする回転方向の外力を受けた起歪体に生じる応力の分布の他のシミュレーション結果を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。構成要素の数(個数、数値、量、範囲などを含む)については、特に明示した場合や原理的に明らかに特定の数に限定される場合などを除き、その特定の数に限定されず、特定の数以上でも以下でもよい。
【0021】
本実施形態の力覚センサは、起歪体に掛かる力における複数の方向の成分を検出する力覚センサである。本実施形態において、検査用歪検出素子で検出される応力の種類は、曲げ、せん断、圧縮、引張によるものであり、検査用歪検出素子は、これらおよびその二以上を検出するものであってよい。本実施形態では、力覚センサが検出する力の成分の「複数の方向」とは、互いに直交する三軸の各々と平行な方向、及び、当該三軸の各々を回転軸とする回転方向の6方向とする。互いに直交する三軸の各々と平行な方向は、三次元空間の直交座標系(x軸、y軸、z軸)で表し、これらの三方向の力成分をFx、Fy、Fzとも言い、その3軸の回転方向におけるモーメント成分Mx、My、Mzとも言う。また、当該6方向の力を検出する力覚センサを6軸力覚センサとも言う。
【0022】
図1(a)は、本発明の実施形態1に係る力覚センサを構成する起歪体の構造を模式的に示す平面図である。図1(b)は、当該力覚センサの検査用歪ゲージを含む検査用ブリッジ回路の一例を示す図である。図1(c)は、当該検査用ブリッジ回路に接続する故障検知回路の一例を示す図である。また、図2は、図1中のA部を拡大して示す図である。さらに、図3は、図2中のB部を拡大して示す図であり、図4は、図2中のC部を拡大して示す図である。
【0023】
本実施形態の力覚センサ100は、起歪体10に掛かる力の6軸方向の成分を検出する構成を有し、さらに、起歪体10における応力集中領域に配置された複数の検査用歪ゲージ16A、16Bと、起歪体10に生じる特定の方向の応力の成分を検出する検査用ブリッジ回路20とを備えている。以下、起歪体10の構成および6軸方向の応力の成分を検出するための構成を説明する。
【0024】
[起歪体]
起歪体10は、主面(表面、あるいは第1面ともいう)、その反対面(裏面、あるいは第2面ともいう)および外側面を有する。
【0025】
起歪体10は、力を受けるコア部11と、コア部11に対して固定されるフレーム部12と、コア部11とフレーム部12とを連結するビーム部とを有している。当該ビーム部は、コア部11と連結するアーム部13と、フレーム部12とアーム部13との間に介在するフレクシャ14とを有する。
【0026】
起歪体10は、コア部11およびフレーム部12を剛体とみなしたときにビーム部(アーム部13およびフレクシャ14)を弾性体とみなせるように構成されている。コア部11は、平面視したときの起歪体10の中央部である。フレーム部12は、起歪体10を平面視したときに、中央に位置するコア部11と離間してその周囲に存在する枠部である。
【0027】
コア部11は、本実施形態では、検出すべき力を受けるための部分であり、受力部とも言われる。フレーム部12は、本実施形態では、力覚センサ100が搭載される対象物に対してコア部11の位置を相対的に固定するための部分であり、固定部とも言われる。コア部11およびフレーム部12のいずれも受力部または固定部になり得る。
【0028】
コア部11の形状は、限定されないが、本実施形態においては、底面が略正方形である柱形状(すなわち、略四角柱形状)である。また、フレーム部12の形状は、限定されないが、本実施形態においては、底面が略円形から略正方形をくり抜いた形状である筒形状である。
【0029】
当該ビーム部は、コア部11の中央から放射状に延在している。ビーム部の個数は、限定されないが、本実施形態においては4である。たとえば、当該ビーム部は、平面視クロス状(十字状)に配置されている。
【0030】
アーム部13は、ビーム部における、コア部11と連結している幅太の部分である。アーム部13は、フレーム部12までは到達しておらず、フレーム部12側の端部とフレーム部12との間には隙間が形成されている。
【0031】
フレクシャ14は、アーム部13におけるフレーム部12側の端部から、アーム部13の延在方向と交差(本実施形態では直交)する方向に沿って、フレーム部12まで延在し、フレーム部12と連結している。フレクシャ14は、アーム部13に比べて細く形成されている。
【0032】
起歪体10は、例えば、NC(Numerical Control)加工機を用いて、アルミニウム合金、合金鋼、ステンレス鋼などのバネ性のある材料に、貫通孔などを形成することによって得られる。当該貫通孔は、コア部11、フレーム部12、アーム部13およびフレクシャ14のそれぞれを区画する空間を形成し、当該貫通孔の内壁面は、起歪体10における前述の第1面およびその反対側の第2面のそれぞれと直交する側面となっている。
【0033】
コア部11とアーム部13との連結箇所、アーム部13とフレクシャ14との連結箇所、およびフレクシャ14とフレーム部12との連結箇所は、力覚センサ100の特性を調整するためにフィレット状に形成されている。これらの連結箇所は、面取り状でもよい。当該特性の調整が可能な範囲において、当該連結箇所の形状は任意である。
【0034】
なお、コア部11とアーム部13との連結箇所、およびフレーム部12とフレクシャ14との連結箇所でも歪みが発生し得る。本実施形態では、前者はアーム部13に、後者はフレクシャ14にそれぞれ含まれるものとする。
【0035】
[歪ゲージ]
起歪体10は、起歪体の変形を検出するために、複数の歪検出素子を有している。歪検出素子は、起歪体の変形を検出可能な素子であれば限定されない。当該歪検出素子の例には、金属薄膜歪ゲージおよび半導体歪ゲージなどが含まれる。本実施形態では、歪検出素子は、金属薄膜歪ゲージである。
【0036】
歪ゲージは、起歪体10に掛かる力における6軸方向のいずれかの方向の成分を検出するための測定用歪ゲージ15と、応力集中領域に配置された複数の検査用歪ゲージ16A、16Bとを含む。歪ゲージは、起歪体10が歪みを生じて変形したときに、抵抗の変化を生じる素子である。本実施形態では、いずれの歪ゲージも同種であるが、歪ゲージは、当該歪を検出可能な範囲において、異なる種類のものであってもよい。
【0037】
歪ゲージには、公知のものを用いることができ、その例には、金属薄膜の配線パターンとそれを覆う可撓性を有する樹脂フィルムとを有する歪ゲージ、および、半導体薄膜で構成される歪ゲージ、が含まれる。当該金属薄膜の金属の例には、Cu(銅)-Ni(ニッケル)系合金、および、Ni-Cr(クロム)系合金、が含まれる。当該樹脂の例には、ポリイミドおよびエポキシ樹脂が含まれる。歪ゲージを固定、配置する方法は、限定されず、歪ゲージは、接着剤でアーム部13またはフレクシャ14に貼り付けられてもよい。あるいは、スパッタリング法または真空蒸着法によって前述の金属薄膜または半導体薄膜の配線をアーム部13またはフレクシャ14に直接作製することによって、歪ゲージを所望の位置に配置してもよい。
【0038】
以下、6軸方向の力の成分を検出するための測定用歪ゲージ15の配置を説明する。
【0039】
[測定用歪ゲージの配置]
測定用歪ゲージ15は、アーム部13の四面(第1面、第2面、一側面および他側面)のそれぞれに配置されている。アーム部13の各面において、二つの測定用歪ゲージ15が、アーム部13の延在方向(X方向またはY方向)における中央部に、当該延在方向に沿って並んで配置されている。このように、測定用歪ゲージ15は、ある面とその反対側の面において、アーム部13を介して互いに対向する位置に配置されている。なお、図1中では、測定用歪ゲージ15のうち、特定の位置のものを示すために、測定用歪ゲージの符号「15」の最後に「e1」などのさらなる符号を付けている。
【0040】
[測定用歪ゲージを含む測定用ブリッジ回路]
力覚センサ100は、6軸方向の力の成分を測定するための測定用ブリッジ回路(不図示)を有する。当該測定用ブリッジ回路には、6軸方向のうちの測定すべき所定の方向に応じた所定の測定用歪ゲージ15が適宜に配置されている。
【0041】
このような測定用ブリッジ回路は、例えば、特許文献1、2に記載されているように構成することが可能である。一例を挙げるなら、Z軸回りの力の成分Mzを検出するための測定用ブリッジ回路は、図1(a)における測定用歪ゲージ15e1、15e2、15h1および15h2をこの順で直列に接続した第一直列回路と、測定用歪ゲージ15f1、15f2、15g1および15g2をこの順で直列に接続した第二直列回路とを並列に接続した構成を有する。
【0042】
測定用ブリッジ回路からの出力信号は、例えば特許文献2に記載されているように処理される。測定用ブリッジ回路の出力信号は、アンプによって増幅され、次いでA/D変換器によってアナログ信号からデジタル信号に変換され、変換されたデジタル信号は、CPU(Central Processing Unit)に送られる。CPUは、校正行列を参照して、コア部に作用する力の6成分(Fx、Fy、Fz、Mx、My、Mz)を算出する。CPUは、例えば、そのまま外部に配線で接続され、また、D/A変換機にも接続されている。よって、CPUは、処理結果をデジタル信号として出力することができ、またD/A変換器を介してアナログ信号としても出力することもできる。
【0043】
コア部11に外力が掛かると、アーム部13およびフレクシャ14の一方または両方に、曲げ、せん断および捩りなどの歪みが発生する。力覚センサ100は、前述の力を検出するための構成を有することから、コア部11に作用する6軸方向の力の成分を高精度で計測することができる。力覚センサ100は、特にフレクシャ14を有することから、フレクシャ14を有さない力覚センサに比べてより一層高い精度で6軸方向の力の成分を計測することができる。
【0044】
力覚センサ100は、前述したように、検査用歪ゲージ16A、16Bおよび検査用ブリッジ回路20を有する。以下、検査用歪ゲージの配置を説明する。
【0045】
[検査用歪ゲージの配置]
検査用歪ゲージ16A、16Aは、フレクシャ14におけるコア部11側の側面上であって、フレクシャ14におけるアーム部13との連結部分に配置されている。検査用歪ゲージ16A、16Aは、アーム部13の軸に対して対称の位置に配置されている。
【0046】
検査用歪ゲージ16B、16Bは、フレクシャ14における第1面上および第2面上の各々であって、フレクシャ14におけるフレーム部12との連結部分に配置されている。検査用歪ゲージ16Bは、フレクシャ14を介して互いに対向する位置に配置されている。
【0047】
[応力集中領域]
検査用歪ゲージ16A、16Bは、いずれも、起歪体10における応力集中領域に配置されている。応力集中領域とは、コア部11またはフレーム部12に外力を掛けた場合に応力が集中する領域である一方向に向かう外力に対して応力集中領域が複数箇所生じる場合では、検査用歪ゲージは、そのいずれの箇所に配置されてもよいが、検査用歪ゲージが配置される応力集中領域は、複数の方向の何れかに平行な外力を起歪体10のコア部11に掛けた場合に、起歪体10に生じる応力が最大になる部分およびその近傍であることが、起歪体10の塑性変形をより確実に検出する観点から好ましい。応力集中領域は、起歪体10に掛ける外力の方向に応じて決まる。
【0048】
なお、応力集中領域は、起歪体10における第1面、第2面、一側面および他側面の少なくともいずれかで検出され、ある応力集中領域が上記の面の複数に現れることがある。この場合、検査用歪ゲージは、そのいずれの面に配置されてもよい。
【0049】
応力集中領域に係る上記の「近傍」とは、上記の応力が最大となる部分の周辺部である。当該「近傍」は、起歪体10の塑性変形させる観点から当該最大の応力と実質的に同等の影響を及ぼす応力が発生する点の集合で表すことが可能である。たとえば、応力集中領域は、最大の応力が生じる箇所と当該最大の応力に対する所定の割合以上(例えば90%以上)の応力が生じる領域とによって構成され得る。
【0050】
応力集中領域は、アーム部13およびフレクシャ14の一方または両方の形状に応じて適宜に調整することが可能である。一概には言えないが、たとえば、アーム部13の幅を大きくするか、フレクシャ14の幅を小さくするか、あるいかその両方を行うと、応力集中領域は、フレクシャ14におけるフレーム部12側、例えばフレクシャ14におけるフレーム部12との連結部分、に移動する傾向にある。
【0051】
応力集中領域は、コア部11に、所定の向きおよび適当な大きさを有する外力を作用させる条件のコンピュータシミュレーションによって求めることができる。あるいは、応力集中領域は、実測値に基づいて決めてもよい。
【0052】
[シミュレーション結果の一例]
図5(a)は、コア部11にX方向の外力を掛けた場合の起歪体10に生じる応力の分布のシミュレーション結果を示す平面図であり、図5(b)は、YZ平面中のY方向に対して斜めの方向から図5(a)の起歪体10を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図である。
【0053】
図5(a)および図5(b)に示されるように、コア部11へX方向から外力を掛けた場合の、最大の応力が生じる応力集中領域は、フレクシャ14におけるアーム部13との連結部分の内側面にある。
【0054】
なお、起歪体10は、図1(a)に示されるように四回対称の平面形状を有することから、起歪体10へのY方向の外力の印加による応力集中領域も、フレクシャ14におけるアーム部13との連結部分の内側面となる。
【0055】
図5(c)は、コア部11にZ方向の外力を掛けた場合の起歪体10に生じる応力の分布の一シミュレーション結果を示す平面図であり、図5(d)は、XZ平面中のX方向に対して斜めの方向から図5(c)の起歪体10を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図である。
【0056】
図5(c)および図5(d)に示されるように、コア部11へZ方向の外力を掛けた場合の、最大の応力が生じる応力集中領域は、フレクシャ14におけるアーム部13との連結部分の内側面にある。
【0057】
図5(e)は、コア部11にZ方向の外力を掛けた場合の起歪体10に生じる応力の分布の他のシミュレーション結果を示す平面図であり、図5(f)は、XZ平面中のX方向に対して斜めの方向から図5(e)の起歪体10を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図である。
【0058】
図5(e)、図5(f)に示されるシミュレーション結果では、最大の応力が生じる応力集中領域は、フレクシャ14におけるフレーム部12との連結部分の第1面にある。
【0059】
図6(a)は、コア部11に、Y方向を回転軸とする回転方向の外力を掛けた場合の起歪体10に生じる応力の分布のシミュレーション結果を示す平面図であり、図6(b)は、XZ平面中のX方向に対して斜めの方向から図6(a)の起歪体を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図である。
【0060】
図6(a)および図6(b)に示されるように、コア部11へY方向を回転軸とする回転方向の外力を掛けた場合の、最大の応力が生じる応力集中領域は、フレクシャ14におけるフレーム部12との連結部分の第1面である。
【0061】
なお、起歪体10は、前述したように四回対称の平面形状を有することから、コア部11へX方向を回転軸とする回転方向の外力を掛けた場合の応力集中領域も、フレクシャ14におけるフレーム部12との連結部分の第1面となる。
【0062】
図6(c)は、コア部11に、Z方向を回転軸とする回転方向の外力を掛けた場合の起歪体10に生じる応力の分布の一シミュレーション結果を示す平面図であり、図6(d)は、コア部11に当該回転方向の外力を掛けた場合の起歪体10に生じる応力の分布の他のシミュレーション結果を示す平面図である。
【0063】
図6(c)に示されるシミュレーション結果では、コア部11にZ方向を回転軸とする回転方向の外力を掛けた場合の、最大の応力が生じる応力集中領域は、アーム部13におけるコア部11との連結部分の第1面にある。一方、図6(d)に示されるシミュレーション結果では、コア部11にZ方向を回転軸とする回転方向の外力を掛けた場合の、最大の応力が生じる応力集中領域は、フレクシャ14におけるアーム部13との連結部分の内側面にある。
【0064】
以上のシミュレーション結果から明らかなように、起歪体10では、コア部11に6軸方向のそれぞれの向きに外力を掛けた場合に最大の応力が生じる応力集中領域は、フレクシャ14におけるアーム部13との連結部分の内側面と、フレクシャ14におけるフレーム部12との連結部分の第1面とに集約され得る。検査用歪ゲージ16Aは、前者の位置に配置されており、検査用歪ゲージ16Bは、後者の位置に配置されている。すなわち、検査用歪ゲージ16A、16Bは、いずれも、6軸方向の何れかに平行な向きの外力をコア部11に掛けた場合に、起歪体10に生じる応力が最大になる部分およびその近傍に配置されている。
【0065】
[検査用ブリッジ回路の構成]
前述したように、力覚センサ100は、検査用ブリッジ回路20を含む。検査用ブリッジ回路20は、検査用回路の一例である。検査用回路は、起歪体10に生じる応力における所望の方向の成分を検出するように構成されている範囲において限定されない。検査用回路の構成は、使用する検査用素子と検出しようとする応力の向きおよび種類に応じて適宜に決めることが可能である。
【0066】
検査用ブリッジ回路20は、検査用歪ゲージ16A、16Bを含む。たとえば、検査用ブリッジ回路20は、検査用歪ゲージ16A、16A(または検査用歪ゲージ16B、16B)の直列回路と、固定抵抗22、22の直列回路とを並列に接続した構成を有している。
【0067】
検査用歪ゲージ16A、16A(または16B、16B)は、アーム部13またはフレクシャ14が歪んだ場合に、検査用歪ゲージ16A、16A(または16B、16B)のそれぞれが当該歪を検出する。検査用ブリッジ回路20は、起歪体10における検査用歪ゲージ16A、16Bが配置されている応力集中領域の曲げ歪みを検出するように構成されている。
【0068】
[故障検知回路]
検査用ブリッジ回路20は、故障検知回路30にさらに接続されている。故障検知回路30は、検査用ブリッジ回路20が検出する応力と、予め決められている閾値とを比較することによって、起歪体10の塑性変形が生じているか否かを判定する回路である。故障検知回路は、例えば、図1(c)に示すように、抵抗31~34、増幅器35、A/D変換器36およびCPU37を含む差動増幅回路である。抵抗31および抵抗33は、互いに実質的に同じ大きさの抵抗であり、抵抗32および抵抗34も、互いに実質的に同じ大きさの抵抗である。検査用ブリッジ回路20から増幅器35へ入力されるV1とV2との差分が、抵抗31に対する抵抗32の比に応じて増幅されて増幅器35から出力される。増幅器35の出力信号は、A/D変換器36でアナログ信号からデジタル信号に変換され、CPU37で演算される。
【0069】
[故障検知方法]
故障検知回路30は、力覚センサ100の所定の状態における出力値を閾値として、故障検知回路30の出力値を当該閾値と比較して故障の検知を行う。当該閾値は、力覚センサ100の初期値(例えば納品時の値)であってよいが、力覚センサ100の使用中に更新されてもよい。
【0070】
たとえば、当該閾値は、6軸方向のいずれかの方向の外力をコア部11に掛けた場合に、応力集中領域に塑性変形を生じさせる応力に相当する値である。より具体的には、当該閾値は、検査用歪ゲージ16A、16Bが配置される応力集中領域の安全率が所定の値になる場合の故障検知回路の出力値(当該場合のA/D変換器36の出力値)とすることができる。ここで「安全率」とは、「力覚センサ100の定格容量」に対する「力覚センサ100の起歪体10が塑性変形する最小の負荷」の比である。安全率は、起歪体の材料、応力集中領域の製作誤差、力覚センサの定格容量などの諸条件により決まる。
【0071】
起歪体10における安全率は、力覚センサ100の耐久性を高める観点では高い方が好ましく、力覚センサ100の感度を高める観点では低くなる傾向にある。これらの観点から、起歪体10における安全率は、2以上であることが好ましい。
【0072】
たとえば、検査用歪ゲージ16A、16Bが配置される領域において安全率が1となるときの検査用ブリッジ回路の出力が3mV/Vとする。CPU37は、A/D変換器36の出力値が3mV/Vを超えると、起歪体10の塑性変形が生じていると判定する。このように、起歪体10において実際に塑性変形を生じさせ得る応力が生じると、CPU37は異常と判定する。よって、起歪体の塑性変形を迅速に判定することが可能である。
【0073】
あるいは、上記の閾値は、所定の外力を正常な起歪体10に掛けた場合に、応力集中領域において特定の方向に生じる応力に相当する値である。より具体的には、正常な状態の力覚センサ100の、ある特定の条件の場合におけるA/D変換器36の実際の出力値を記録しておく。ここで言う特定の条件とは、例えば、力覚センサ100を水平方向に対して90°の角度で(鉛直方向に)傾けることであってもよいし、所定の重さの治具を力覚センサ100に取り付けること、であってもよい。
【0074】
上記の閾値は、正常な状態の力覚センサ100による上記の出力値に基づいて設定される。たとえば、上記の閾値は、正常な状態の力覚センサ100による特定の条件での出力値の±5%とする。そして、A/D変換器36の実際の出力値が当該閾値を超えると、CPU37は、起歪体10の塑性変形が生じていると判定する。このような異常の判定は、力覚センサ100の通常の測定範囲の検出値に基づいている。よって、力覚センサ100による力の測定に影響を及ぼす起歪体10の塑性変形をより確実に判定することが可能である。
【0075】
故障検知回路30によって起歪体10の塑性変形を判定するタイミングは、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることが可能である。たとえば、塑性変形の判定は、力覚センサ100の電源投入後、常時実行されてもよいし、定期的に(間欠的に)実行されてもよい。あるいは、特定の条件を満たす場合(例えば所定の使用時間を経過した場合など)に自動的に実行されてもよいし、力覚センサ100の使用者が任意のタイミングで実行させてもよい。
【0076】
[故障検知の具体的な処理の流れ]
図7は、故障検知回路30が常時故障を検知する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0077】
ステップS701において、故障検知回路30は、その出力値を算出する。具体的にはA/D変換器36の出力値を求める。
【0078】
ステップS702において、CPU37は、算出された出力値を予め求められている閾値と比較して、起歪体10の塑性変形という異常が生じているか否かを判定する。具体的には、CPU37は、前述の出力値が上記の閾値を超えた場合に、当該異常が生じていると判定する。
【0079】
CPU37が異常ありと判定した場合では、ステップS703において、CPU37は、故障を検知した旨の信号を外部に送信する。ステップS702において異常ありと判定しない場合は、CPU37は、故障検知の処理をステップS701に戻す。力覚センサ100の使用者は、起歪体10の塑性変形の判定を直ちに知ることができる。
【0080】
図8は、故障検知回路30が定期的に故障を検知する処理の流れの一例を示すフローチャートである。CPU37は、故障検知を開始する所定の条件が満たされることにより故障の検知の判定を開始する。
【0081】
ステップS801において、CPU37は、故障検知回路30の出力値を算出する。具体的には、CPU37は、A/D変換器36の出力値を獲得する。
【0082】
ステップS802において、CPU37は、当該出力値と閾値とを比較して、起歪体10の塑性変形が生じているか否かを判定する。
【0083】
ステップ802において異常ありと判定した場合、ステップ803において、CPU37は、故障を検知した旨の信号を外部に送信する。ステップS802において異常ありと判定しない場合は、CPU37は、故障検知の処理を終了する。
【0084】
力覚センサ100の使用者は、所定の条件が満たされる場合に塑性変形の判定を確認することが可能となる。よって、このような故障検知の処理を含む力覚センサ100の情報処理の負荷を軽減するのに有利である。
【0085】
検査用歪ゲージ16A、16Bが配置されている位置は、上記のシミュレーション結果から明らかなように、6軸方向の向きの外力のそれぞれをコア部11に掛けた場合のいずれかの応力集中領域となっている。一方で、起歪体10は、力の測定時あるいはそれ以外の時期における過負荷により塑性変形することがある。起歪体10の塑性変形を上記のように判定することにより、起歪体10の塑性変形をより正確に検出することが可能である。
【0086】
さらには、検査用歪ゲージ16A、16Bは、上記のシミュレーション結果から明らかなように、6軸方向のそれぞれの向きの外力をコア部11に掛けた場合に、当該外力により応力が最大となる領域の全てを含む位置に配置されている。よって、検査用ブリッジ回路20は、力覚センサ100が検出する応力における6軸方向の全ての方向の成分それぞれについて、起歪体10において応力が最大となる部分の応力を検出することが可能である。したがって、例えば起歪体10の塑性変形を上記のように判定することにより、検査用ブリッジ回路によって起歪体10の塑性変形をより一層正確に検出することが可能である。
【0087】
[まとめ]
一般に、力覚センサは、起歪体における曲げやせん断など特定方向に掛かる力成分を検出する必要がある。そのため、力覚センサでは、検出する力の成分の方向を特定する観点から、起歪体に外力が掛かった場合に最も応力が集中する場所には、応力を測定するための測定用歪ゲージを配置することは、通常困難である。したがって、本実施形態は、上記の力を検出するための測定用歪ゲージを有する力覚センサに適用可能である。
【0088】
応力集中領域は、コア部に掛かる外力の向きに応じて特定の位置に出現する傾向がある。たとえば、6軸方向の向きの外力のうちFx、FyおよびMzについては、応力集中領域は、アーム部13またはフレクシャ14に帯状に広がる傾向がある。また、Fzについては、フレクシャ14の側面に存在することもある。しかしながら、応力集中領域の位置は、アーム部13およびフレクシャ14の寸法などの起歪体10の設計に応じて、フレクシャ14におけるフレーム部12との連結部位からアーム部13におけるコア部11との連結部位までの範囲内で適宜に決めることが可能である。
【0089】
測定用歪ゲージおよび検査用歪ゲージの全てを起歪体10の特定の一面(例えば第1面など)のみに配置可能であると、測定用および検査用の歪ゲージならびにブリッジ回路の全てを当該特定の一面のみに配置することが可能となる場合がある。この場合、測定用および検査用の歪ゲージならびにブリッジ回路の全てをスパッタリングなどの公知の配線作製技術によって、起歪体10の特定の一面上に一度に作製することが可能となり、生産性の観点から有利である。
【0090】
本実施形態の力覚センサ100は、起歪体10における応力集中領域に配置された検査用歪ゲージ16A、16Bおよびそれを含む検査用ブリッジ回路20を有することから、これらを有さない力覚センサに比べて、起歪体10の塑性変形を検出可能である観点から有利である。
【0091】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0092】
実施形態1では、4本のビーム部が平面視クロス状(X字状、十字状)に構成される場合について説明した。本実施形態では、3本のビーム部が平面視Y字状に構成される場合について、図9を参照して説明する。図9は、本発明の実施形態2に係る力覚センサを構成する起歪体の構造を模式的に示す平面図である。本実施形態の力覚センサは、起歪体の形状が異なり、またそれに応じて測定用歪ゲージの配置が異なる以外は、前述した実施形態1の力覚センサと同じ構成を有する。以下では、実施形態1とは相違する点を中心に説明する。
【0093】
本実施形態の力覚センサは、起歪体90を有する。起歪体90は、コア部91およびフレーム部92を剛体とみなしたときに当該ビーム部が弾性体とみなせるように構成されている。起歪体90は、平面視したときに中央に位置するコア部91を有する。
【0094】
コア部91の形状は、本実施形態においては、底面が略六角形である柱形状(すなわち、略六角柱形状)である。また、フレーム部92の形状は、本実施形態においては、底面が略円形から略六角形をくり抜いた形状である筒形状である。
【0095】
起歪体90はビーム部を有する。当該ビーム部の個数は、本実施形態においては3である。当該ビーム部は、平面視Y字状となるように配置されている。当該ビーム部は、コア部91およびフレーム部92の周方向に等間隔(コア部91の中心の周方向に120°ごと)で配置される。当該ビーム部は、コア部91の中央から放射状に延在している。ビーム部の各々の軸線は、コア部91の中心で120°の角度で交差している。ビーム部の各々は、実施形態1と同様にアーム部93およびフレクシャ94で構成されている。ビーム部は、3本以上であれば何本でもよい。
【0096】
アーム部93の第1面および第2面には、測定用歪ゲージ15と不図示の測定用ブリッジ回路とが配置されている。各面における測定用歪ゲージ15のそれぞれは、平面視したときに、アーム部93を介して、反対側の面の測定用歪ゲージ15に互いに対向する位置に配置されている。アーム部93の各面において、四つの測定用歪ゲージ15は配置されている。うち二つは、コア部91側に配置され、残りの二つはフレーム部92側に配置されている。前者は、アーム部93の軸に対し挟んで並列している(図9中の15a、15b)。後者は、アーム部93の軸に対して45°または135°の角度をなす向きに、当該軸に対して対称の位置に配置されている(図9中15A、15B)。
【0097】
アーム部93の第2面には、アーム部93を介して測定用歪ゲージ15a、15Aに対向する位置にそれぞれ測定用歪ゲージ15c、15Cが配置され、測定用歪ゲージ15b、15Bに対向する位置にそれぞれ測定用歪ゲージ15d、15Dが配置されている。
【0098】
本実施形態において、不図示の測定用ブリッジ回路は、例えば、測定用歪ゲージ15a、15dをこの順で直列に接続した第一直列回路と、測定用歪ゲージ15c、15bをこの順で直列に接続した第二直列回路とを並列に接続した構成を有する。また、不図示の測定用ブリッジ回路は、例えば、測定用歪ゲージ15A、15Dこの順で直列に接続した第一直列回路と、測定用歪ゲージ15B、15Cをこの順で直列に接続した第二直列回路とを並列に接続した構成を有する。
【0099】
本実施形態において、検査用歪ゲージおよび検出用ブリッジ回路は、実施形態1と同様に配置されている。以下、本実施形態における応力集中領域について説明する。
【0100】
[シミュレーション結果の一例]
図10(a)は、コア部91にX方向の外力を受けた起歪体90に生じる応力の分布のシミュレーション結果を示す平面図であり、図10(b)は、YZ平面中のY方向に対して斜めの方向から図10(a)の起歪体90を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図である。
【0101】
図10(a)および図10(b)に示されるように、コア部91へX方向から外力を掛けた場合の、最大の応力が生じる応力集中領域は、フレクシャ94におけるアーム部93との連結部分の内側面にある。
【0102】
なお、図示しないが、コア部91へY方向から外力を掛けた場合の、最大の応力が生じる応力集中領域は、フレクシャ94におけるアーム部93との連結部分の内側面にある。にある。
【0103】
図10(c)は、コア部91にZ方向の外力を掛けた場合の起歪体90に生じる応力の分布の一シミュレーション結果を示す平面図であり、図10(d)は、XZ平面中のX方向に対して斜めの方向から図10(c)の起歪体90を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図である。
【0104】
図10(c)および図10(d)に示されるように、コア部91へZ方向から外力を掛けた場合の、最大の応力が生じる応力集中領域は、フレクシャ94におけるアーム部93との連結部分の内側面にある。
【0105】
図10(e)は、コア部91にZ方向の外力を掛けた場合の起歪体90に生じる応力の分布の他のシミュレーション結果を示す平面図であり、図10(f)は、XZ平面中のX方向に対して斜めの方向から図10(e)の起歪体90を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図である。
【0106】
図10(e)、図10(f)に示されるシミュレーション結果では、最大の応力が生じる応力集中領域は、フレクシャ94におけるフレーム部92との連結部分の第1面にある。
【0107】
図11(a)は、コア部91に、Y方向を回転軸とする回転方向の外力を掛けた場合の起歪体90に生じる応力の分布のシミュレーション結果を示す平面図であり、図11(b)は、XZ平面中のX方向に対して斜めの方向から図11(a)の起歪体90を見た場合の当該シミュレーション結果を示す図である。
【0108】
図11(a)および図11(b)に示されるように、コア部91へY方向を回転軸とする回転方向の外力を掛けた場合の、最大の応力が生じる応力集中領域は、フレクシャ94におけるアーム部93との連結部分の、内側面と第1面との境界部にある。
【0109】
図11(c)は、コア部91に、Z方向を回転軸とする回転方向の外力を掛けた場合に起歪体90に生じる応力の分布の一シミュレーション結果を示す平面図であり、図11(d)は、コア部91に、Z方向を回転軸とする回転方向の外力を掛けた場合に起歪体90に生じる応力の分布の他のシミュレーション結果を示す平面図である。
【0110】
図11(c)に示されるシミュレーション結果では、コア部91にZ軸回転方向の外力を掛けた場合の、最大の応力が生じる応力集中領域は、アーム部93におけるコア部91との連結部分の第1面にある。一方、図11(d)に示されるシミュレーション結果では、コア部91にZ軸回転方向の外力を掛けた場合の、最大の応力が生じる応力集中領域は、フレクシャ94におけるアーム部93との連結部分の第1面にある。
【0111】
以上のシミュレーション結果から明らかなように、コア部91に6軸方向のそれぞれの向きの外力を掛けた場合に最大の応力が生じる応力集中領域は、フレクシャ94におけるアーム部93との連結部分と、フレクシャ94におけるフレーム部92との連結部分とに集約され得る。起歪体90において、検査用歪ゲージ16Aは、前者の位置に配置されており、検査用歪ゲージ16Bは、後者の位置に配置されている。すなわち、本実施形態においても、検査用歪ゲージ16A、16Bは、いずれも、6軸方向の何れかの外力をコア部11に掛けた場合に、起歪体10に生じる応力が最大になる部分およびその近傍に配置されている。
【0112】
[作用効果]
本実施形態では、前述した実施形態1と同様に応力の測定を実行することができ、また起歪体の塑性変形の有無を判定することができる。本実施形態の力覚センサは、実施形態1のそれと同じ効果を奏する。加えて、本実施形態では、測定用歪ゲージ15が起歪体90の第1面および第2面のそれぞれのみに配置される(側面には配置されない)ので、四つの測定用歪ゲージ15を一体に構成し、それを起歪体90の表面に貼り付けることが可能である。よって、本実施形態の力覚センサは、実施形態1のそれに比べて、より少ない工程で製造することが可能である。
【0113】
〔変形例〕
前述の実施形態では、本発明の力覚センサを6軸力覚センサに適用した場合について説明した。本発明の力覚センサは、6軸力覚センサに限定されない。たとえば、物体が受ける力の大きさまたは方向の少なくともいずれか一方を有する力の成分を検出(計測)する力覚センサ(慣性力を検出するのであれば、加速度センサや角速度センサなどの運動センサとも呼ばれている。)にも適用することができる。
【0114】
起歪体は、当該力覚センサの所期の目的を達成可能な構造を有していればよく、例えば、アームまたはフレクシャを有していなくてもよい。
【0115】
また、起歪体の外形も限定されない。起歪体の外形は、円形以外の形状、例えば矩形、あるいは多角形、であってもよい。
【0116】
さらに、前述の実施形態では、起歪体の中央部をコア部とし、それを囲む枠部をフレーム部とする形態を説明したが、起歪体の構造はそれに限定されない。たとえば、起歪体の中央部をフレーム部とし、それを囲む枠部をコア部としてもよい。
【0117】
6軸方向の力成分(モーメント成分を含む)を切り分けて検出するための6軸力覚センサの場合であれば、起歪体は、3本以上のビーム部を有すればよい。そして、力覚センサは、それぞれのビーム部において、曲げ歪みとせん断歪みの組みを1つ以上検出することができればよい。たとえば、測定用歪ゲージは、ビーム部において曲げ歪みおよびせん断歪みを検出することができればよく、ビーム部を構成するアーム部またはフレクシャの少なくともいずれか一方に配置されればよい。
【0118】
前述の実施形態では、検査用ブリッジ回路は、力覚センサが検出する力の複数の方向の全部の各々に対応して応力集中領域で生じた応力を検出するが、当該複数の方向の一部に対応する応力のみを検出してもよい。検査用ブリッジ回路の数は、力覚センサの使用条件に応じて適宜に決めることが可能である。
【0119】
たとえば、検査用ブリッジ回路は、力覚センサに掛かる外力の最も大きい成分の向き、あるいは外力が掛かる頻度が最も高い方向のみの応力を検出するように構成されていてもよい。このように検査用ブリッジ回路は、力覚センサに掛かる外力の実質的な方向が特定の一方向に限定される場合では、その一方向に平行な応力成分を、塑性変形の判定のために検出する回路であってよい。応力の一部の向きの成分のみを検査用ブリッジ回路が検出する構成は、力覚センサに係る情報処理の負荷を軽減する観点、および製造工数を削減する観点、から有効である。
【0120】
また、検査用ブリッジ回路の位置は、通常、検査用歪ゲージの近傍であるが、それに限定されない。たとえば、検査用ブリッジ回路を構成する固定抵抗は、アーム部の側面またはフレクシャの側面に配置されてもよいが、固定抵抗は、起歪体上になくてもよい。また、例えば、当該固定抵抗は、起歪体とは別の回路基板中に配置されていてよく、検査用ブリッジ回路は、このような起歪体から離れた位置に形成されてもよい。
【0121】
測定用の歪ゲージおよびブリッジ回路、ならびに検査用の歪ゲージおよびブリッジ回路は、作業の効率化の観点からそれぞれ一体的に構成されていてもよい。これらの歪ゲージおよびブリッジ回路の一体構造物を起歪体のアーム部またはフレクシャに貼り付けることにより、測定用あるいは検査用の歪ゲージとブリッジ回路をより簡易に配置することが可能となる。このような構成は、ブリッジ回路における歪ゲージの接続不良を低減する観点からも有効である。
【0122】
検査用の歪ゲージおよびブリッジ回路は、曲げだけでなく、圧縮または引張、あるいは曲げ、圧縮および引張の二つ以上を検出するように構成されてもよい。検出する歪の種類は、歪ゲージの配置またはブリッジ回路における歪ゲージの組み方によって適宜に設定可能である。
【0123】
起歪体における測定用および検査用の歪ゲージの配置は、本実施形態の効果が得られる範囲において限定されない。これらの歪ゲージを起歪体の片面にのみ配置してもよいし、ビーム部における種々の面に適宜に配置されてもよい。
【0124】
〔ソフトウェアによる実現例〕
本発明の実施形態では、検査用のブリッジ回路が検出する応力と、予め決められている閾値とを比較することによって、前記起歪体の塑性変形が生じているか否かを判定する。当該塑性変形の有無を判定するための制御ブロックは、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0125】
後者の場合、当該塑性変形の有無を判定するための構成は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えば前述のCPUを用いることができる。
【0126】
上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0127】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0128】
10、90、 起歪体
11、91 コア部
12、92 フレーム部
13、93 アーム部
14、94 フレクシャ
15 測定用歪ゲージ
16A、16B 検査用歪ゲージ
20 検査用ブリッジ回路
22 固定抵抗
30 故障検知回路
31、32、33、34 抵抗
35 増幅器
36 A/D変換器
37 CPU
100 力覚センサ
図1
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