(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】分散測定装置、パルス光源、分散測定方法、および分散補償方法
(51)【国際特許分類】
G01M 11/00 20060101AFI20221129BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20221129BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20221129BHJP
G01J 3/453 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
G01M11/00 T
H01S3/10 Z
H01S3/00 G
G01J3/453
(21)【出願番号】P 2019072687
(22)【出願日】2019-04-05
【審査請求日】2021-11-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人 科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム「超短パルスレーザー応用の先進化が可能で顕微光学系に実装可能な波形制御装置の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 向陽
(72)【発明者】
【氏名】重松 恭平
(72)【発明者】
【氏名】井上 卓
【審査官】後藤 慎平
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-193557(JP,A)
【文献】特開2000-346748(JP,A)
【文献】特開2004-173026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00-11/08
G01J 3/00-4/04
G01J 7/00-9/04
H01S 3/10
H01S 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象から出力された第1光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を形成するパルス形成部と、
前記パルス形成部から出力された前記光パルス列を受け、該光パルス列の相互相関又は自己相関を含む相関光を出力する相関光学系と、
前記相関光の時間波形を検出する光検出部と、
前記時間波形の特徴量に基づいて、前記測定対象の波長分散量を推定する演算部と、
を備える、分散測定装置。
【請求項2】
光源から出力された第1光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を形成するパルス形成部と、
前記パルス形成部から出力されたのち測定対象を通過した前記光パルス列を受け、該光パルス列の相互相関又は自己相関を含む相関光を出力する相関光学系と、
前記相関光の時間波形を検出する光検出部と、
前記時間波形の特徴量に基づいて、前記測定対象の波長分散量を推定する演算部と、
を備える、分散測定装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記相関光に含まれる複数の光パルスの時間間隔に基づいて前記測定対象の波長分散量を推定する、請求項1または2に記載の分散測定装置。
【請求項4】
前記パルス形成部は、前記第1光パルスに含まれる複数の波長成分を波長毎に空間的に分離する分光素子と、前記分光素子から出力された前記複数の波長成分の位相を相互にずらす空間光変調器と、前記空間光変調器から出力された前記複数の波長成分を集光する集光光学系とを有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の分散測定装置。
【請求項5】
前記空間光変調器は、第1の偏光方向に変調作用を有する偏光依存型の空間光変調器であり、
前記パルス形成部は、前記第1の偏光方向の成分及び前記第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向の成分を含む前記第1光パルスを入力し、
前記第1光パルスのうち前記第1の偏光方向の成分は、前記空間光変調器において変調され、前記光パルス列として前記パルス形成部から出力され、
前記第1光パルスのうち前記第2の偏光方向の成分は、前記空間光変調器において変調されずに前記パルス形成部から出力され、
前記相関光学系は、前記第1の偏光方向の成分と前記第2の偏光方向の成分とから、前記光パルス列の相互相関を含む前記相関光を生成する、請求項4に記載の分散測定装置。
【請求項6】
前記相関光学系は非線形光学結晶及び蛍光体の少なくとも一方を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の分散測定装置。
【請求項7】
前記光パルス列を二分岐する光分岐部品と、
前記光分岐部品において分岐された一方の前記光パルス列と他方の前記光パルス列とに対して時間差を与える遅延光学系と、を更に備え、
前記相関光学系は、時間遅延した前記一方の光パルス列と、前記他方の光パルス列とから自己相関を含む前記相関光を生成する、請求項1~6のいずれか1項に記載の分散測定装置。
【請求項8】
前記演算部は、前記測定対象の波長分散がゼロであると仮定して予め算出された前記時間波形の特徴量と、前記光検出部により検出された前記時間波形の特徴量とを比較して前記測定対象の波長分散量を推定する、請求項1~7のいずれか1項に記載の分散測定装置。
【請求項9】
請求項1または2に記載の分散測定装置と、
前記測定対象に入力される、又は前記測定対象から出力された光パルスに対し、前記分散測定装置により求められた波長分散量を補償するパルス形成装置と、
を備える、パルス光源。
【請求項10】
請求項4または5に記載の分散測定装置を備え、
前記空間光変調器は、前記測定対象に入力される、又は前記測定対象から出力された光パルスに対し、前記分散測定装置により求められた波長分散量を補償するパルス形成装置の一部を構成する、パルス光源。
【請求項11】
測定対象から出力された第1光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を形成するパルス形成ステップと、
前記光パルス列の相互相関又は自己相関を含む相関光を生成する相関光生成ステップと、
前記相関光の時間波形を検出する検出ステップと、
前記時間波形の特徴量に基づいて、前記測定対象の波長分散量を推定する演算ステップと、
を含む、分散測定方法。
【請求項12】
光源から出力された第1光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を形成するパルス形成ステップと、
前記パルス形成ステップから出力されたのち測定対象を通過した前記光パルス列の相互相関又は自己相関を含む相関光を生成する相関光生成ステップと、
前記相関光の時間波形を検出する検出ステップと、
前記時間波形の特徴量に基づいて、前記測定対象の波長分散量を推定する演算ステップと、
を含む、分散測定方法。
【請求項13】
前記演算ステップでは、前記相関光に含まれる複数の光パルスの時間間隔に基づいて前記測定対象の波長分散量を推定する、請求項11または12に記載の分散測定方法。
【請求項14】
前記パルス形成ステップでは、前記第1光パルスに含まれる複数の波長成分を波長毎に空間的に分離し、空間光変調器を用いて前記複数の波長成分の位相を相互にずらしたのち、前記複数の波長成分を集光する、請求項11~13のいずれか1項に記載の分散測定方法。
【請求項15】
前記空間光変調器は、第1の偏光方向に変調作用を有する偏光依存型の空間光変調器であり、
前記パルス形成ステップでは、前記第1の偏光方向の成分及び前記第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向の成分を含む前記第1光パルスを入力し、前記第1光パルスのうち前記第1の偏光方向の成分を前記空間光変調器において変調して前記光パルス列とし、前記第1光パルスのうち前記第2の偏光方向の成分を前記空間光変調器において変調せずに出力し、
前記相関光生成ステップでは、前記第1の偏光方向の成分と前記第2の偏光方向の成分とから、前記光パルス列の相互相関を含む前記相関光を生成する、請求項14に記載の分散測定方法。
【請求項16】
前記相関光生成ステップでは非線形光学結晶及び蛍光体の少なくとも一方を用いる、請求項11~15のいずれか1項に記載の分散測定方法。
【請求項17】
前記相関光生成ステップでは、前記光パルス列を二分岐し、分岐された一方の前記光パルス列を、他方の前記光パルス列に対して時間遅延させ、時間遅延した前記一方の光パルス列と、前記他方の光パルス列とから、前記光パルス列の自己相関を含む前記相関光を生成する、請求項11~16のいずれか1項に記載の分散測定方法。
【請求項18】
前記演算ステップでは、前記測定対象の波長分散がゼロであると仮定して予め算出された前記時間波形の特徴量と、前記検出ステップにより検出された前記時間波形の特徴量とを比較して前記測定対象の波長分散量を推定する、請求項11~17のいずれか1項に記載の分散測定方法。
【請求項19】
請求項11または12に記載の分散測定方法を用いて前記測定対象の波長分散量を推定するステップと、
前記測定対象に入力される、又は前記測定対象から出力された光パルスに対し、前記波長分散量を補償するためのパルス形成を行うステップと、
を含む、分散補償方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散測定装置、パルス光源、分散測定方法、および分散補償方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1および非特許文献1は、レーザ光パルスの波長分散を測定する方法を開示する。これらの文献に記載された測定手法は、MIIPS(Multiphoton Intrapulse Interference Phase Scan)と呼ばれる。
図38は、MIIPSによる測定装置の構成例を概略的に示す図である。この測定装置100は、測定対象であるパルス光源101、空間光変調素子(SLMなど)を含むパルス制御光学系(パルスシェーパ)102、SHG結晶103aを含む光学系103、分光器104、及び演算部105を備える。まず、パルス光源101から出力された光パルスに対し、パルス制御光学系102において正弦波状の位相スペクトル変調を与える。そして、パルス制御光学系102から出力された光をSHG結晶103aに入力し、SHG結晶103aにおいて変調パターンに応じた二次高調波(SHG)を発生させる。このSHGを分光器104に入力し、分光器104においてSHGの発光スペクトルを取得し、演算部105がこの発光スペクトルを解析する。このような構成において、正弦波状の位相スペクトル変調パターンの位相シフト量σを関数とした発光スペクトルを取得し、その2次元データ(MIIPS trace)に表れる特徴量を基に、波長分散量を算出することができる。また、測定された波長分散の逆分散をパルス制御光学系102の空間光変調素子の変調パターンに与えることにより、光パルスの分散補償を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Bingwei Xu et al., “Quantitative investigation of the multiphoton intrapulseinterference phase scan method for simultaneous phase measurement and compensationof femtosecond laser pulses”, Journal of the Optical Society of America B, Vol.23, No. 4, pp. 750-759, April 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図38に示された測定装置100では、正弦波状の位相変調パターンの位相シフト量に応じた、発光スペクトルの変化を基に分散を測定する。そのため、発光スペクトルを測定することが必須となる。通常、発光スペクトルの測定には、分光素子および光検出器の組み合わせ、または波長-強度特性を検出し得る光検出器(分光器)が必要となる。従って、光学系が複雑になってしまう。
【0006】
本発明の一側面は、波長分散を簡易な構成によって測定可能な分散測定装置、パルス光源、分散測定方法、および分散補償方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の一側面に係る分散測定装置は、測定対象から出力された第1光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を形成するパルス形成部と、パルス形成部から出力された複数の第2光パルスを受け、該複数の第2光パルスの相互相関又は自己相関を含む相関光を出力する相関光学系と、相関光の時間波形を検出する光検出部と、時間波形の特徴量に基づいて、測定対象の波長分散量を推定する演算部と、を備える。
【0008】
また、本発明の別の側面に係る分散測定装置は、光源から出力された第1光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を形成するパルス形成部と、パルス形成部から出力されたのち測定対象を通過した複数の第2光パルスを受け、該複数の第2光パルスの相互相関又は自己相関を含む相関光を出力する相関光学系と、相関光の時間波形を検出する光検出部と、時間波形の特徴量に基づいて、測定対象の波長分散量を推定する演算部と、を備える。
【0009】
本発明の一側面に係る分散測定方法は、測定対象から出力された第1光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を形成するパルス形成ステップと、複数の第2光パルスを受け、該複数の第2光パルスの相互相関又は自己相関を含む相関光を出力する相関光生成ステップと、相関光の時間波形を検出する検出ステップと、時間波形の特徴量に基づいて、測定対象の波長分散量を推定する演算ステップと、を含む。
【0010】
また、本発明の別の側面に係る分散測定方法は、光源から出力された第1光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を形成するパルス形成ステップと、パルス形成ステップから出力されたのち測定対象を通過した複数の第2光パルスを受け、該複数の第2光パルスの相互相関又は自己相関を含む相関光を出力する相関光生成ステップと、相関光の時間波形を検出する検出ステップと、時間波形の特徴量に基づいて、測定対象の波長分散量を推定する演算ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一側面に係る分散測定装置、パルス光源、分散測定方法、および分散補償方法によれば、波長分散を簡易な構成によって測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る分散測定装置の構成を概略的に示す図である。
【
図4】(a)~(c)帯域制御したマルチパルスの例を示す図である。
【
図5】(a)~(c)比較例として、帯域制御されていないマルチパルスの例を示す図である。
【
図6】相関光学系4の構成例として、光パルス列Pbの自己相関を含む相関光Pcを生成するための相関光学系4Aを概略的に示す図である。
【
図7】相関光学系4の別の構成例として、光パルス列Pbの相互相関を含む相関光Pcを生成するための相関光学系4Bを概略的に示す図である。
【
図8】相関光学系4の更に別の構成例として、光パルス列Pbの相互相関を含む相関光Pcを生成するための相関光学系4Cを概略的に示す図である。
【
図9】相関光Pcの特徴量を概念的に説明するための図である。(a)パルスレーザ光源2が波長分散を有しない場合の相関光Pcの時間波形の例を示す。(b)パルスレーザ光源2が波長分散を有する場合の相関光Pcの時間波形の例を示す。
【
図10】演算部6のハードウェアの構成例を概略的に示す図である。
【
図11】分散測定装置1Aを用いた分散測定方法を示すフローチャートである。
【
図12】(a)単パルス状の被測定光パルスPaのスペクトル波形を示す。(b)被測定光パルスPaの時間強度波形を示す。
【
図13】(a)SLM14において矩形波状の位相スペクトル変調を与えたときのパルス形成部3からの出力光のスペクトル波形を示す。(b)パルス形成部3からの出力光の時間強度波形を示す。
【
図14】SLM14の変調パターンを演算する変調パターン算出装置20の構成を示す図である。
【
図15】位相スペクトル設計部22及び強度スペクトル設計部23の内部構成を示すブロック図である。
【
図16】反復フーリエ変換法による位相スペクトルの計算手順を示す図である。
【
図17】位相スペクトル設計部22における位相スペクトル関数の計算手順を示す図である。
【
図18】強度スペクトル設計部23におけるスペクトル強度の計算手順を示す図である。
【
図19】ターゲット生成部29におけるターゲットスペクトログラムの生成手順の一例を示す図である。
【
図20】強度スペクトル関数A
IFTA(ω)を算出する手順の一例を示す図である。
【
図21】(a)スペクトログラムSG
IFTA(ω,t)を示す図である。(b)スペクトログラムSG
IFTA(ω,t)が変化したターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)を示す図である。
【
図22】(a)帯域制御したマルチパルスを生成するための変調パターンを示すグラフである。(b)(a)の変調パターンにより作成された光パルス列Pbを示すグラフである。
【
図23】
図22(a)の変調パターンにより作成された光パルス列Pbを示すスペクトログラムである。
【
図24】(a)帯域制御していないマルチパルスを生成するための変調パターンを示すグラフである。(b)(a)の変調パターンにより作成された光パルス列Pdを示すグラフである。
【
図25】
図25(a)の変調パターンにより作成された光パルス列Pdを示すスペクトログラムである。
【
図26】(a)中心波長が互いに異なる光パルス列Pbのピーク時間間隔の平均値と、被測定光パルスPaの2次分散量との関係をプロットしたグラフである。(b)中心波長が互いに等しい光パルス列Pdのピーク時間間隔の平均値と、被測定光パルスPaの2次分散量との関係をプロットしたグラフである。
【
図27】中心波長が互いに異なる光パルス列Pbのピーク強度と、被測定光パルスPaの2次分散量との関係をプロットしたグラフである。
【
図28】中心波長が互いに異なる光パルス列Pbの半値全幅と、被測定光パルスPaの2次分散量との関係をプロットしたグラフである。
【
図29】(a)中心波長が互いに異なる光パルス列Pbのピーク時間間隔の差と、被測定光パルスPaの3次分散量との関係をプロットしたグラフである。(b)中心波長が互いに等しい光パルス列Pdのピーク時間間隔の差と、被測定光パルスPaの3次分散量との関係をプロットしたグラフである。
【
図30】中心波長が互いに異なる光パルス列Pbのピーク強度と、被測定光パルスPaの3次分散量との関係をプロットしたグラフである。
【
図31】中心波長が互いに異なる光パルス列Pbの半値全幅と、被測定光パルスPaの3次分散量との関係をプロットしたグラフである。
【
図32】第1変形例としてパルス形成部3Aの構成を示す図である。
【
図35】第4変形例としてパルス光源30Aの構成を示す図である。
【
図36】第4変形例に係る分散補償方法を示すフローチャートである。
【
図37】第5変形例としてパルス光源30Bの構成を示す図である。
【
図38】MIIPSによる測定装置の構成例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一側面に係る分散測定装置は、測定対象から出力された第1光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を形成するパルス形成部と、パルス形成部から出力された光パルス列を受け、該光パルス列の相互相関又は自己相関を含む相関光を出力する相関光学系と、相関光の時間波形を検出する光検出部と、時間波形の特徴量に基づいて、測定対象の波長分散量を推定する演算部と、を備える。
【0014】
本発明の別の側面に係る分散測定装置は、光源から出力された第1光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を形成するパルス形成部と、パルス形成部から出力されたのち測定対象を通過した光パルス列を受け、該光パルス列の相互相関又は自己相関を含む相関光を出力する相関光学系と、相関光の時間波形を検出する光検出部と、時間波形の特徴量に基づいて、測定対象の波長分散量を推定する演算部と、を備える。
【0015】
本発明の一側面に係る分散測定方法は、測定対象から出力された第1光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を形成するパルス形成ステップと、光パルス列の相互相関又は自己相関を含む相関光を生成する相関光生成ステップと、相関光の時間波形を検出する検出ステップと、時間波形の特徴量に基づいて、測定対象の波長分散量を推定する演算ステップと、を含む。
【0016】
本発明の別の側面に係る分散測定方法は、光源から出力された第1光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を形成するパルス形成ステップと、パルス形成ステップから出力されたのち測定対象を通過した光パルス列の相互相関又は自己相関を含む相関光を生成する相関光生成ステップと、相関光の時間波形を検出する検出ステップと、時間波形の特徴量に基づいて、測定対象の波長分散量を推定する演算ステップと、を含む。
【0017】
これらの装置及び方法では、パルス形成部(パルス形成ステップ)において、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列が、第1光パルスから生成される。そして、第1光パルスが測定対象から出力されたものであるか、又は光パルス列が測定対象を通過する。このような場合、本発明者の知見によれば、例えば非線形光学結晶などを用いて光パルス列の相互相関又は自己相関を含む相関光を生成すると、その相関光の時間波形における種々の特徴量(例えばパルス間隔、ピーク強度、パルス幅など)は、測定対象の波長分散量と顕著な相関を有する。従って、上記の装置及び方法によれば、演算部(演算ステップ)において測定対象の波長分散量を精度良く推定することができる。更に、上記の装置及び方法によれば、
図38に示した測定装置100と異なり発光スペクトルを測定する必要がないので、光検出部(検出ステップ)の光学系を簡略化することができ、測定対象の波長分散を簡易な構成によって測定することができる。
【0018】
上記装置において、演算部は、相関光に含まれる複数の光パルスの時間間隔に基づいて測定対象の波長分散量を推定してもよい。同様に、上記方法において、演算ステップでは、相関光に含まれる複数の光パルスの時間間隔に基づいて測定対象の波長分散量を推定してもよい。本発明者は、時間波形における種々の特徴量のうち特にパルス間隔が、測定対象の波長分散量と顕著な相関を有することを見出した。従って、これらの装置及び方法によれば、測定対象の波長分散量をより精度良く推定することができる。
【0019】
上記装置において、パルス形成部は、第1光パルスに含まれる複数の波長成分を波長毎に空間的に分離する分光素子と、分光素子から出力された複数の波長成分の位相を相互にずらす空間光変調器と、空間光変調器から出力された複数の波長成分を集光する集光光学系とを有してもよい。同様に、上記方法において、パルス形成ステップでは、第1光パルスに含まれる複数の波長成分を波長毎に空間的に分離し、空間光変調器を用いて複数の波長成分の位相を相互にずらしたのち、複数の波長成分を集光してもよい。例えばこれらのような装置及び方法によって、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の第2光パルスを含む光パルス列を容易に形成することができる。
【0020】
上記装置において、空間光変調器は、第1の偏光方向に変調作用を有する偏光依存型の空間光変調器であり、パルス形成部は、第1の偏光方向の成分及び第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向の成分を含む第1光パルスを入力し、第1光パルスのうち第1の偏光方向の成分は、空間光変調器において変調され、光パルス列としてパルス形成部から出力され、第1光パルスのうち第2の偏光方向の成分は、空間光変調器において変調されずにパルス形成部から出力され、相関光学系は、第1の偏光方向の成分と第2の偏光方向の成分とから、光パルス列の相互相関を含む相関光を生成してもよい。同様に、上記方法において、空間光変調器は、第1の偏光方向に変調作用を有する偏光依存型の空間光変調器であり、パルス形成ステップでは、第1の偏光方向の成分及び第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向の成分を含む第1光パルスを入力し、第1光パルスのうち第1の偏光方向の成分を空間光変調器において変調して光パルス列とし、第1光パルスのうち第2の偏光方向の成分を空間光変調器において変調せずに出力し、相関光生成ステップでは、第1の偏光方向の成分と第2の偏光方向の成分とから、光パルス列の相互相関を含む相関光を生成してもよい。例えばこれらのような装置及び方法によって、光パルス列の相互相関を含む相関光を容易に生成することができる。
【0021】
上記装置において、相関光学系は非線形光学結晶及び蛍光体の少なくとも一方を含んでもよい。同様に、上記方法において、相関光生成ステップでは非線形光学結晶及び蛍光体の少なくとも一方を用いてもよい。例えばこれらのような装置及び方法によって、光パルス列の相互相関又は自己相関を含む相関光を容易に生成することができる。
【0022】
上記装置は、光パルス列を二分岐する光分岐部品と、光分岐部品において分岐された一方の光パルス列と他方の光パルス列とに対して時間差を与える遅延光学系と、を更に備え、相関光学系は、時間遅延した一方の光パルス列と、他方の光パルス列とから自己相関を含む相関光を生成してもよい。同様に、上記方法において、相関光生成ステップでは、光パルス列を二分岐し、分岐された一方の光パルス列を、他方の光パルス列に対して時間遅延させ、時間遅延した一方の光パルス列と、他方の光パルス列とから、光パルス列の自己相関を含む相関光を生成してもよい。例えばこれらのような装置及び方法によって、光パルス列の自己相関を含む相関光を容易に生成することができる。
【0023】
上記装置において、演算部は、測定対象の波長分散がゼロであると仮定して予め算出された時間波形の特徴量と、光検出部により検出された時間波形の特徴量とを比較して測定対象の波長分散量を求めてもよい。同様に、上記方法において、演算ステップでは、測定対象の波長分散がゼロであると仮定して予め算出された時間波形の特徴量と、検出ステップにより検出された時間波形の特徴量とを比較して測定対象の波長分散量を求めてもよい。これらの装置及び方法によれば、測定対象の波長分散量をより精度良く推定することができる。
【0024】
本発明の一側面に係るパルス光源は、上述した分散測定装置と、測定対象に入力される、又は測定対象から出力された光パルスに対し、分散測定装置により求められた波長分散量を補償するパルス形成装置と、を備える。また、本発明の別の側面に係るパルス光源は、上述した分散測定装置を備え、分散測定装置の空間光変調器は、測定対象に入力される、又は測定対象から出力された光パルスに対し、分散測定装置により求められた波長分散量を補償するパルス形成装置の一部を構成する。また、本発明の一側面に係る分散補償方法は、上述した分散測定方法を用いて測定対象の波長分散量を推定するステップと、測定対象に入力される、又は測定対象から出力された光パルスに対し、波長分散量を補償するためのパルス形成を行うステップと、を含む。これらのパルス光源及び分散補償方法では、上述した分散測定装置又は分散測定方法を備える(用いる)ので、波長分散を簡易な構成によって測定し、補償することができる。
【0025】
[実施の形態の詳細]
以下、添付図面を参照しながら本発明による分散測定装置、パルス光源、分散測定方法、および分散補償方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る分散測定装置の構成を概略的に示す図である。この分散測定装置1Aは、測定対象であるパルスレーザ光源2の波長分散を測定する装置であって、パルス形成部3、相関光学系4、光検出部5、及び演算部6を備える。パルス形成部3の光入力端3aは、空間的に又は光ファイバ等の光導波路を介して、パルスレーザ光源2と光学的に結合されている。相関光学系4の光入力端4aは、空間的に又は光ファイバ等の光導波路を介して、パルス形成部3の光出力端3bと光学的に結合されている。光検出部5は、空間的に又は光ファイバ等の光導波路を介して、相関光学系4の光出力端4bと光学的に結合されている。演算部6は、パルス形成部3及び光検出部5と電気的に接続されている。
【0027】
測定対象であるパルスレーザ光源2は、コヒーレントな被測定光パルスPaを出力する。パルスレーザ光源2は、例えばフェムト秒レーザであり、一実施例ではLD直接励起型Yb:YAGパルスレーザといった固体レーザ光源である。被測定光パルスPaは、本実施形態における第1光パルスの例であり、その時間波形は例えばガウス関数状である。被測定光パルスPaの半値全幅(FWHM)は、例えば10~10000fsの範囲内であり、一例では100fsである。この被測定光パルスPaは、或る程度の帯域幅を有する光パルスであって、連続する複数の波長成分を含む。一実施例では、被測定光パルスPaの帯域幅は10nmであり、被測定光パルスPaの中心波長は1030nmである。
【0028】
パルス形成部3は、被測定光パルスPaから複数の光パルス(第2光パルス)を含む光パルス列Pbを形成する部分である。光パルス列Pbは、被測定光パルスPaを構成するスペクトルを複数の波長帯域に分け、それぞれの波長帯域を用いて生成したシングルパルス群である。なお、複数の波長帯域の境界では、互いに重なり合う部分があってもよい。以下の説明では、光パルス列Pbを「帯域制御したマルチパルス」と称することがある。
【0029】
図2は、パルス形成部3の構成例を示す図である。このパルス形成部3は、回折格子12、レンズ13、空間光変調器(SLM)14、レンズ15、及び回折格子16を有する。回折格子12は本実施形態における分光素子であり、パルスレーザ光源2と光学的に結合されている。SLM14はレンズ13を介して回折格子12と光学的に結合されている。回折格子12は、被測定光パルスPaに含まれる複数の波長成分を、波長毎に空間的に分離する。なお、分光素子として、回折格子12に代えてプリズム等の他の光学部品を用いてもよい。被測定光パルスPaは、回折格子12に対して斜めに入射し、複数の波長成分に分光される。この複数の波長成分を含む光P1は、レンズ13によって各波長成分毎に集光され、SLM14の変調面に結像される。レンズ13は、光透過部材からなる凸レンズであってもよく、凹状の光反射面を有する凹面鏡であってもよい。
【0030】
SLM14は、被測定光パルスPaを光パルス列Pbに変換するために、回折格子12から出力された複数の波長成分の位相を相互にずらす。そのために、SLM14は、演算部6(
図1を参照)から制御信号を受けて、光P1の位相変調と強度変調とを同時に行う。なお、SLM14は、位相変調のみ、または強度変調のみを行ってもよい。SLM14は、例えば位相変調型である。一実施例では、SLM14はLCOS(Liquid crystal on silicon)型である。なお、図には透過型のSLM14が示されているが、SLM14は反射型であってもよい。
【0031】
図3は、SLM14の変調面17を示す図である。
図3に示すように、変調面17には、複数の変調領域17aが或る方向Aに沿って並んでおり、各変調領域17aは方向Aと交差する方向Bに延びている。方向Aは、回折格子12による分光方向である。この変調面17はフーリエ変換面として働き、複数の変調領域17aのそれぞれには、分光後の対応する各波長成分が入射する。SLM14は、各変調領域17aにおいて、入射した各波長成分の位相及び強度を他の波長成分から独立して変調する。なお、本実施形態のSLM14は位相変調型であるため、強度変調は、変調面17に呈示される位相パターン(位相画像)によって実現される。
【0032】
SLM14によって変調された変調光P2の各波長成分は、レンズ15によって回折格子16上の一点に集められる。このときのレンズ15は、変調光P2を集光する集光光学系として機能する。レンズ15は、光透過部材からなる凸レンズであってもよく、凹状の光反射面を有する凹面鏡であってもよい。また、回折格子16は合波光学系として機能し、変調後の各波長成分を合波する。すなわち、これらのレンズ15及び回折格子16により、変調光P2の複数の波長成分は互いに集光・合波されて、帯域制御したマルチパルス(光パルス列Pb)となる。
【0033】
図4は、帯域制御したマルチパルスの例を示す図である。この例では、3つの光パルスPb
1~Pb
3からなる光パルス列Pbが示されている。
図4(a)は、スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。
図4(b)は、光パルス列Pbの時間波形を表している。各光パルスPb
1~Pb
3の時間波形は例えばガウス関数状である。
図4(a)及び
図4(b)に示すように、3つの光パルスPb
1~Pb
3のピーク同士は時間的に互いに離れており、3つの光パルスPb
1~Pb
3の伝搬タイミングは互いにずれている。言い換えると、一の光パルスPb
1に対して別の光パルスPb
2が時間遅れを有しており、該別の光パルスPb
2に対して更に別の光パルスPb
3が時間遅れを有している。但し、隣り合う光パルスPb
1,Pb
2(又はPb
2,Pb
3)の裾部分同士が互いに重なっていてもよい。隣り合う光パルスPb
1,Pb
2(又はPb
2,Pb
3)の時間間隔(ピーク間隔)は、例えば10~10000fsの範囲内であり、一例では2000fsである。また、各光パルスPb
1~Pb
3のFWHMは、例えば10~5000fsの範囲内であり、一例では300fsである。
【0034】
図4(c)は、3つの光パルスPb
1~Pb
3を合成したスペクトルを表している。
図4(c)に示すように3つの光パルスPb
1~Pb
3を合成したスペクトルは単一のピークを有するが、
図4(a)を参照すると3つの光パルスPb
1~Pb
3の中心波長は互いにずれている。
図4(c)に示す単一のピークは、ほぼ被測定光パルスPaのスペクトルに相当する。隣り合う光パルスPb
1,Pb
2(又はPb
2,Pb
3)のピーク波長間隔は、被測定光パルスPaのスペクトル帯域幅によって定まり、概ね半値全幅の2倍の範囲内である。一例では、被測定光パルスPaのスペクトル帯域幅が10nmの場合、ピーク波長間隔は5nmである。具体例として、被測定光パルスPaの中心波長が1030nmである場合、3つの光パルスPb
1~Pb
3のピーク波長はそれぞれ1025nm、1030nm、及び1035nmであることができる。
【0035】
図5は、比較例として、帯域制御されていないマルチパルスの例を示す図である。この例では、3つの光パルスPd
1~Pd
3からなる光パルス列Pdが示されている。
図5(a)は、
図4(a)と同様に、スペクトログラムであって、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。
図5(b)は、光パルス列Pdの時間波形を表している。
図5(c)は、3つの光パルスPd
1~Pd
3を合成したスペクトルを表している。
図5(a)~(c)に示すように、3つの光パルスPd
1~Pd
3のピーク同士は時間的に互いに離れているが、3つの光パルスPd
1~Pd
3の中心波長は互いに一致している。本実施形態のパルス形成部3は、このような光パルス列Pdを生成するものではなく、
図4に示されたような、中心波長が互いに異なる光パルス列Pbを生成するものである。
【0036】
再び
図1を参照する。相関光学系4は、パルス形成部3から出力された光パルス列Pbを受け、光パルス列Pbの相互相関又は自己相関を含む相関光Pcを出力する。本実施形態では、相関光学系4はレンズ41、光学素子42及びレンズ43を含んで構成されている。レンズ41は、パルス形成部3と光学素子42との間の光路上に設けられ、パルス形成部3から出力された光パルス列Pbを光学素子42に集光する。光学素子42は、例えば二次高調波(SHG)を発生する非線形光学結晶、及び蛍光体の少なくとも一方を含む発光体である。非線形光学結晶としては、例えばKTP(KTiOPO
4)結晶、LBO(LiB
3O
5)結晶、BBO(β-BaB
2O
4)結晶等が挙げられる。蛍光体としては、例えばクマリン、スチルベン、ローダミン等が挙げられる。光学素子42は、光パルス列Pbを入力し、光パルス列Pbの相互相関又は自己相関を含む相関光Pcを生成する。レンズ43は、光学素子42から出力された相関光Pcを平行化または集光する。
【0037】
ここで、相関光学系4の構成例について詳細に説明する。
図6は、相関光学系4の構成例として、光パルス列Pbの自己相関を含む相関光Pcを生成するための相関光学系4Aを概略的に示す図である。この相関光学系4Aは、光パルス列Pbを二分岐する光分岐部品として、ビームスプリッタ44を有する。ビームスプリッタ44は、
図1に示されたパルス形成部3と光学的に結合されており、パルス形成部3から入力した光パルス列Pbの一部を透過し、残部を反射する。ビームスプリッタ44の分岐比は例えば1:1である。ビームスプリッタ44により分岐された一方の光パルス列Pbaは、複数のミラー45を含む光路4cを通ってレンズ41に達する。ビームスプリッタ44により分岐された他方の光パルス列Pbbは、複数のミラー46を含む光路4dを通ってレンズ41に達する。光路4cの光学長と光路4dの光学長とは互いに異なる。従って、複数のミラー45及び複数のミラー46は、ビームスプリッタ44において分岐された一方の光パルス列Pbaと、他方の光パルス列Pbbとに対して時間差を与える遅延光学系を構成する。更に、複数のミラー46の少なくとも一部は移動ステージ47上に搭載されており、光路4dの光学長は可変となっている。故に、この構成では、光パルス列Pbaと光パルス列Pbbとの時間差を可変とすることができる。
【0038】
この例では、光学素子42は非線形光学結晶を含む。レンズ41は、光パルス列Pba,Pbbのそれぞれを光学素子42に向けて集光するとともに、光学素子42において光パルス列Pba,Pbbの光軸を所定の角度でもって互いに交差させる。これにより、非線形光学結晶である光学素子42では、光パルス列Pba,Pbbの交点を起点として二次高調波が生じる。この二次高調波は、相関光Pcであって、光パルス列Pbの自己相関を含む。この相関光Pcはレンズ43にて平行化または集光された後、光検出部5に入力される。
【0039】
図7は、相関光学系4の別の構成例として、光パルス列Pbの相互相関を含む相関光Pcを生成するための相関光学系4Bを概略的に示す図である。この相関光学系4Bでは、光パルス列Pbが光路4eを通ってレンズ41に達すると共に、シングルパルスである参照光パルスPrが光路4fを通ってレンズ41に達する。光路4fは、複数のミラー48を含み、U字状に屈曲している。更に、複数のミラー48の少なくとも一部は移動ステージ49上に搭載されており、光路4fの光学長は可変となっている。故に、この構成では、光パルス列Pbと参照光パルスPrとの時間差(レンズ41に到達するタイミング差)を可変とすることができる。
【0040】
この例においても、光学素子42は非線形光学結晶を含む。レンズ41は、光パルス列Pb及び参照光パルスPrを光学素子42に向けて集光するとともに、光学素子42において光パルス列Pbの光軸と参照光パルスPrの光軸とを所定の角度でもって互いに交差させる。これにより、非線形光学結晶である光学素子42では、光パルス列Pb及び参照光パルスPrの交点を起点として二次高調波が生じる。この二次高調波は、相関光Pcであって、光パルス列Pbの相互相関を含む。この相関光Pcはレンズ43にて平行化または集光された後、光検出部5に入力される。
【0041】
図8は、相関光学系4の更に別の構成例として、光パルス列Pbの相互相関を含む相関光Pcを生成するための相関光学系4Cを概略的に示す図である。この例において、パルス形成部3のSLM14は、第1の偏光方向に変調作用を有する偏光依存型の空間光変調器である。これに対し、パルス形成部3に入力される被測定光パルスPaの偏向面は、SLM14が変調作用を有する偏光方向に対して傾斜しており、被測定光パルスPaは、第1の偏光方向の偏光成分(図中の矢印Dp
1)と、第1の偏光方向に対して直交する第2の偏光方向の偏光成分(図中の記号Dp
2)とを含む。また、被測定光パルスPaの偏波は、上記の偏波(傾斜した直線偏光)だけではなく、楕円偏光でも良い。
【0042】
被測定光パルスPaのうち第1の偏光方向の偏光成分は、SLM14において変調され、光パルス列Pbとしてパルス形成部3から出力される。一方、被測定光パルスPaのうち第2の偏光方向の偏光成分は、SLM14において変調されずに、そのままパルス形成部3から出力される。この変調されなかった偏光成分は、シングルパルスである参照光パルスPrとして、光パルス列Pbと同軸でもって相関光学系4に提供される。相関光学系4は、光パルス列Pbと参照光パルスPrとから、光パルス列Pbの相互相関を含む相関光Pcを生成する。この構成例では、SLM14において光パルス列Pbに遅延を与え、且つその遅延時間を可変とすることにより(図中の矢印E)、光パルス列Pbと参照光パルスPrとの時間差(レンズ41に到達するタイミング差)を可変とすることができ、相関光学系4において光パルスPbの相互相関を含む相関光Pcを好適に生成することができる。
【0043】
図9は、相関光Pcの特徴量を概念的に説明するための図である。
図9(a)は、パルスレーザ光源2が波長分散を有しない(波長分散がゼロである)場合の相関光Pcの時間波形の例を示す。
図9(b)は、パルスレーザ光源2が波長分散を有する(波長分散がゼロではない)場合の相関光Pcの時間波形の例を示す。なお、これらの例は、相関光学系4に入力する光パルス列Pbが、
図4(b)に示された3つの光パルスPb
1~Pb
3を含む場合を示している。この場合、相関光Pcは、光パルスPb
1~Pb
3にそれぞれ対応する3つの光パルスPc
1~Pc
3を含んで構成される。ここで、光パルスPc
1~Pc
3のピーク強度をぞれぞれPE
1~PE
3とし、光パルスPc
1~Pc
3の半値全幅(FWHM)をぞれぞれW
1~W
3とし、光パルスPc
1,Pc
2のピーク時間間隔(パルス間隔)をG
1,2とし、光パルスPc
2,Pc
3のピーク時間間隔をG
2,3とする。
【0044】
図9(a)に示すように、パルスレーザ光源2が波長分散を有しない場合、相関光Pcの時間波形は光パルス列Pbの時間波形とほぼ同一となる。この例では、ピーク強度についてはPE
2がPE
1及びPE
3よりも大きく、PE
1とPE
3とがほぼ等しい。また、半値全幅についてはW
1とW
2とW
3とが互いにほぼ等しい。ピーク時間間隔についてはG
1,2とG
2,3とがほぼ等しい。これに対し、
図9(b)に示すように、パルスレーザ光源2が波長分散を有する場合、相関光Pcの時間波形は光パルス列Pbの時間波形から大きく変化する。この例では、光パルスPc
1~Pc
3のピーク強度PE
1~PE
3が
図9(a)と比較して大きく低下しており、且つ、光パルスPc
1~Pc
3の半値全幅W
1~W
3が
図9(a)と比較して顕著に拡大している。更に、ピーク時間間隔G
1,2が
図9(a)と比較して格段に長くなっている。
【0045】
このように、パルスレーザ光源2が波長分散を有する場合、相関光Pcの時間波形の特徴量(ピーク強度PE1~PE3、半値全幅W1~W3、ピーク時間間隔G1,2,G2,3)が、パルスレーザ光源2が波長分散を有しない場合と比較して大きく変化する。そして、その変化量は、パルスレーザ光源2の波長分散量に依存する。従って、相関光Pcの時間波形の特徴量の変化を観察することにより、パルスレーザ光源2の波長分散量を精度良く且つ容易に知ることができる。
【0046】
再び
図1を参照する。光検出部5は、相関光学系4から出力された相関光Pcを受け、相関光Pcの時間波形を検出する部分である。光検出部5は、例えばフォトダイオードなどの光検出器(フォトディテクタ)を含んで構成されている。光検出部5は、相関光Pcの強度を電気信号に変換することにより、相関光Pcの時間波形を検出する。検出結果である電気信号は、演算部6に提供される。
【0047】
演算部6は、光検出部5から提供された相関光Pcの時間波形の特徴量に基づいて、パルスレーザ光源2の波長分散量を推定する。上述したように、本発明者の知見によれば、光パルス列Pbの相互相関又は自己相関を含む相関光Pcを生成した場合、その相関光Pcの時間波形における種々の特徴量(例えばパルス間隔、ピーク強度、パルス幅など)は、測定対象の波長分散量と顕著な相関を有する。従って、演算部6は、相関光Pcの時間波形の特徴量を評価することによって、測定対象であるパルスレーザ光源2の波長分散量を精度良く推定することができる。
【0048】
図10は、演算部6のハードウェアの構成例を概略的に示す図である。
図10に示すように、この演算部6は、物理的には、プロセッサ(CPU)61、ROM62及びRAM63等の主記憶装置、キーボード、マウス及びタッチスクリーン等の入力デバイス64、ディスプレイ(タッチスクリーン含む)等の出力デバイス65、他の装置との間でデータの送受信を行うためのネットワークカード等の通信モジュール66、ハードディスク等の補助記憶装置67などを含む、通常のコンピュータとして構成され得る。
【0049】
コンピュータのプロセッサ61は、波長分散量算出プログラムによって、上記の演算部6の機能を実現することができる。言い換えると、波長分散量算出プログラムは、コンピュータのプロセッサ61を、演算部6として動作させる。波長分散量算出プログラムは、例えば補助記憶装置67といった、コンピュータの内部または外部の記憶装置(記憶媒体)に記憶される。記憶装置は、非一時的記録媒体であってもよい。記録媒体としては、フレキシブルディスク、CD、DVD等の記録媒体、ROM等の記録媒体、半導体メモリ、クラウドサーバ等が例示される。
【0050】
補助記憶装置67は、パルスレーザ光源2の波長分散がゼロであると仮定して理論的に予め算出された相関光Pcの時間波形の特徴量を記憶している。この特徴量と、光検出部5により検出された時間波形の特徴量とを比較すれば、パルスレーザ光源2の波長分散に起因して相関光Pcの特徴量がどの程度変化したかがわかる。従って、演算部6は、補助記憶装置67に記憶された特徴量と、光検出部5により検出された時間波形の特徴量とを比較して、測定対象の波長分散量を推定することができる。
【0051】
図11は、以上の構成を備える分散測定装置1Aを用いた分散測定方法を示すフローチャートである。この方法では、まず、パルス形成ステップS1において、光パルス列Pbを形成するために必要な設計情報を準備する。設計情報とは、例えばパルスレーザ光源2の波長分散がゼロであると仮定した場合の、ピーク時間間隔、ピーク強度、半値全幅、パルス数、帯域制御量などである。そして、パルスレーザ光源2から出力された被測定光パルスPaから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の光パルスPb
1~Pb
3を含む光パルス列Pbを形成する。例えば、被測定光パルスPaに含まれる複数の波長成分を波長毎に空間的に分離し、SLM14を用いて複数の波長成分の位相を相互にずらしたのち、複数の波長成分を集光する。これにより、光パルス列Pbを容易に生成することができる。
【0052】
次に、相関光生成ステップS2において、非線形光学結晶及び蛍光体の少なくとも一方を含む光学素子42を用いて、光パルス列Pbの相互相関又は自己相関を含む相関光Pcを生成する。例えば、
図6に示したように光パルス列Pbを二分岐し、分岐された一方の光パルス列Pbbを、他方の光パルス列Pbaに対して時間遅延させ、時間遅延した一方の光パルス列Pbbと、他方の光パルス列Pbaとから、光パルス列Pbの自己相関を含む相関光Pcを生成する。
【0053】
続いて、検出ステップS3において相関光Pcの時間波形を検出したのち、該時間波形の特徴量に基づいて、演算ステップS4においてパルスレーザ光源2の波長分散量を推定する。例えば、相関光Pcのピーク強度E1~E3、半値全幅W1~W3、及びピーク時間間隔G1,2,G2,3のうち少なくとも一つに基づいて、パルスレーザ光源2の波長分散量を推定する。また、パルスレーザ光源2の波長分散がゼロであると仮定して理論的に予め算出された相関光Pcの時間波形の特徴量と、検出ステップS3において検出された時間波形の特徴量とを比較して、パルスレーザ光源2の波長分散量を推定する。なお、パルスレーザ光源2の波長分散がゼロであると仮定した相関光Pcの時間波形の特徴量として、光パルス列Pbの設計に用いた特徴量をそのまま用いてもよい。
【0054】
図8を参照して説明したように、SLM14は、第1の偏光方向に変調作用を有する偏光依存型のSLM14であってもよい。その場合、パルス形成ステップS1において、第1の偏光方向の成分、及び第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向の成分の双方を含む被測定光パルスPaを入力し、被測定光パルスPaのうち第1の偏光方向の成分をSLM14において変調して光パルス列Pbとし、被測定光パルスPaのうち第2の偏光方向の成分をSLM14において変調せずに参照光パルスPrとしてもよい。そして、相関光生成ステップS2において、第1の偏光方向を有する光パルス列Pbと、第2の偏光方向を有する参照光パルスPrとから、光パルス列Pbの相互相関を含む相関光Pcを生成してもよい。
【0055】
ここで、
図2に示されたパルス形成部3のSLM14における、帯域制御したマルチパルスを生成するための位相変調について詳細に説明する。レンズ15よりも前の領域(スペクトル領域)と、回折格子16よりも後ろの領域(時間領域)とは、互いにフーリエ変換の関係にあり、スペクトル領域における位相変調は、時間領域における時間強度波形に影響する。従って、パルス形成部3からの出力光は、SLM14の変調パターンに応じた、被測定光パルスPaとは異なる様々な時間強度波形を有することができる。
図12(a)は、一例として、単パルス状の被測定光パルスPaのスペクトル波形(スペクトル位相G11及びスペクトル強度G12)を示し、
図12(b)は、該被測定光パルスPaの時間強度波形を示す。また、
図13(a)は、一例として、SLM14において矩形波状の位相スペクトル変調を与えたときのパルス形成部3からの出力光のスペクトル波形(スペクトル位相G21及びスペクトル強度G22)を示し、
図13(b)は、該出力光の時間強度波形を示す。
図12(a)及び
図13(a)において、横軸は波長(nm)を示し、左の縦軸は強度スペクトルの強度値(任意単位)を示し、右の縦軸は位相スペクトルの位相値(rad)を示す。また、
図12(b)及び
図13(b)において、横軸は時間(フェムト秒)を表し、縦軸は光強度(任意単位)を表す。この例では、矩形波状の位相スペクトル波形を出力光に与えることにより、被測定光パルスPaのシングルパルスが、高次光を伴うダブルパルスに変換されている。なお、
図13に示されるスペクトル及び波形は一つの例であって、様々な位相スペクトル及び強度スペクトルの組み合わせにより、パルス形成部3からの出力光の時間強度波形を様々な形状に整形することができる。
【0056】
図14は、SLM14の変調パターンを演算する変調パターン算出装置20の構成を示す図である。変調パターン算出装置20は、例えば、パーソナルコンピュータ;スマートフォン、タブレット端末などのスマートデバイス;あるいはクラウドサーバなどのプロセッサを有するコンピュータである。なお、
図1に示された演算部6が変調パターン算出装置20を兼ねてもよい。変調パターン算出装置20は、SLM14と電気的に接続され、パルス形成部3の出力光の時間強度波形を所望の波形に近づけるための位相変調パターンを算出し、該位相変調パターンを含む制御信号をSLM14に提供する。変調パターンは、SLM14を制御するためのデータであり、複素振幅分布の強度あるいは位相分布の強度のテーブルを含むデータである。変調パターンは、例えば、計算機合成ホログラム(Computer-Generated Holograms(CGH))である。
【0057】
本実施形態の変調パターン算出装置20は、所望の波形を得る為の位相スペクトルを出力光に与える位相変調用の位相パターンと、所望の波形を得る為の強度スペクトルを出力光に与える強度変調用の位相パターンとを含む位相パターンをSLM14に呈示させる。そのために、変調パターン算出装置20は、
図14に示すように、任意波形入力部21と、位相スペクトル設計部22と、強度スペクトル設計部23と、変調パターン生成部24とを有する。すなわち、変調パターン算出装置20に設けられたコンピュータのプロセッサは、任意波形入力部21の機能と、位相スペクトル設計部22の機能と、強度スペクトル設計部23の機能と、変調パターン生成部24の機能とを実現する。それぞれの機能は、同じプロセッサにより実現されてもよいし、異なるプロセッサにより実現されてもよい。
【0058】
コンピュータのプロセッサは、変調パターン算出プログラムによって、上記の各機能を実現することができる。故に、変調パターン算出プログラムは、コンピュータのプロセッサを、変調パターン算出装置20における任意波形入力部21、位相スペクトル設計部22、強度スペクトル設計部23、及び変調パターン生成部24として動作させる。変調パターン算出プログラムは、コンピュータの内部または外部の記憶装置(記憶媒体)に記憶される。記憶装置は、非一時的記録媒体であってもよい。記録媒体としては、フレキシブルディスク、CD、DVD等の記録媒体、ROM等の記録媒体、半導体メモリ、クラウドサーバ等が例示される。
【0059】
任意波形入力部21は、操作者からの所望の時間強度波形の入力を受け付ける。操作者は、所望の時間強度波形に関する情報(例えばパルス間隔、パルス幅、パルス数など)を任意波形入力部21に入力する。所望の時間強度波形に関する情報は、位相スペクトル設計部22及び強度スペクトル設計部23に与えられる。位相スペクトル設計部22は、与えられた所望の時間強度波形の実現に適した、パルス形成部3の出力光の位相スペクトルを算出する。強度スペクトル設計部23は、与えられた所望の時間強度波形の実現に適した、パルス形成部3の出力光の強度スペクトルを算出する。変調パターン生成部24は、位相スペクトル設計部22において求められた位相スペクトルと、強度スペクトル設計部23において求められた強度スペクトルとをパルス形成部3の出力光に与えるための位相変調パターン(例えば、計算機合成ホログラム)を算出する。そして、算出された位相変調パターンを含む制御信号SCが、SLM14に提供される。SLM14は、制御信号SCに基づいて制御される。
【0060】
図15は、位相スペクトル設計部22及び強度スペクトル設計部23の内部構成を示すブロック図である。
図15に示されるように、位相スペクトル設計部22及び強度スペクトル設計部23は、フーリエ変換部25、関数置換部26、波形関数修正部27、逆フーリエ変換部28、及びターゲット生成部29を有する。ターゲット生成部29は、フーリエ変換部29a及びスペクトログラム修正部29bを含む。これらの各構成要素の機能については、後に詳述する。
【0061】
ここで、所望の時間強度波形は時間領域の関数として表され、位相スペクトルは周波数領域の関数として表される。従って、所望の時間強度波形に対応する位相スペクトルは、例えば、所望の時間強度波形に基づく反復フーリエ変換によって得られる。
図16は、反復フーリエ変換法による位相スペクトルの計算手順を示す図である。まず、周波数ωの関数である初期の強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
0(ω)を用意する(図中の処理番号(1))。一例では、これらの強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
0(ω)はそれぞれ入力光のスペクトル強度及びスペクトル位相を表す。次に、強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
n(ω)を含む周波数領域の波形関数(a)を用意する(図中の処理番号(2))。
【数1】
添え字nは、第n回目のフーリエ変換処理後を表す。最初(第1回目)のフーリエ変換処理の前においては、位相スペクトル関数Ψ
n(ω)として上述した初期の位相スペクトル関数Ψ
0(ω)が用いられる。iは虚数である。
【0062】
続いて、上記関数(a)に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印A1)。これにより、時間強度波形関数b
n(t)及び時間位相波形関数Θ
n(t)を含む周波数領域の波形関数(b)が得られる(図中の処理番号(3))。
【数2】
続いて、上記関数(b)に含まれる時間強度波形関数b
n(t)を、所望の波形に基づく時間強度波形関数Target
0(t)に置き換える(図中の処理番号(4)、(5))。
【数3】
【数4】
続いて、上記関数(d)に対して時間領域から周波数領域への逆フーリエ変換を行う(図中の矢印A2)。これにより、強度スペクトル関数B
n(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
n(ω)を含む周波数領域の波形関数(e)が得られる(図中の処理番号(6))。
【数5】
【0063】
続いて、上記関数(e)に含まれる強度スペクトル関数B
n(ω)を拘束するため、初期の強度スペクトル関数A
0(ω)に置き換える(図中の処理番号(7))。
【数6】
以降、上記の処理(2)~(7)を複数回繰り返し行うことにより、波形関数中の位相スペクトル関数Ψ
n(ω)が表す位相スペクトル形状を、所望の時間強度波形に対応する位相スペクトル形状に近づけることができる。最終的に得られる位相スペクトル関数Ψ
IFTA(ω)が、所望の時間強度波形を得るための変調パターンの基になる。
【0064】
しかしながら、上述したような反復フーリエ法では、時間強度波形を制御することはできるが、時間強度波形を構成する周波数成分(帯域波長)を制御することはできないという問題がある。そこで、本実施形態の変調パターン算出装置20は、以下に説明する算出方法を用いて、変調パターンの基になる位相スペクトル関数及び強度スペクトル関数を算出する。
図17は、位相スペクトル設計部22における位相スペクトル関数の計算手順を示す図である。まず、周波数ωの関数である初期の強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Φ
0(ω)を用意する(図中の処理番号(1))。一例では、これらの強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Φ
0(ω)はそれぞれ入力光のスペクトル強度及びスペクトル位相を表す。次に、強度スペクトル関数A
0(ω)及び位相スペクトル関数Φ
0(ω)を含む周波数領域の第1波形関数(g)を用意する(処理番号(2-a))。但し、iは虚数である。
【数7】
【0065】
続いて、位相スペクトル設計部22のフーリエ変換部25は、上記関数(g)に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印A3)。これにより、時間強度波形関数a
0(t)及び時間位相波形関数φ
0(t)を含む時間領域の第2波形関数(h)が得られる(フーリエ変換ステップ、処理番号(3))。
【数8】
【0066】
続いて、位相スペクトル設計部22の関数置換部26は、次の数式(i)に示されるように、時間強度波形関数b
0(t)に、任意波形入力部21において入力された所望の波形に基づく時間強度波形関数Target
0(t)を代入する(処理番号(4-a))。
【数9】
【0067】
続いて、位相スペクトル設計部22の関数置換部26は、次の数式(j)に示されるように、時間強度波形関数a
0(t)を時間強度波形関数b
0(t)で置き換える。すなわち、上記関数(h)に含まれる時間強度波形関数a
0(t)を、所望の波形に基づく時間強度波形関数Target
0(t)に置き換える(関数置換ステップ、処理番号(5))。
【数10】
【0068】
続いて、位相スペクトル設計部22の波形関数修正部27は、置き換え後の第2波形関数(j)のスペクトログラムが、所望の波長帯域に従って予め生成されたターゲットスペクトログラムに近づくように第2波形関数を修正する。まず、置き換え後の第2波形関数(j)に対して時間-周波数変換を施すことにより、第2波形関数(j)をスペクトログラムSG0,k(ω,t)に変換する(図中の処理番号(5-a))。添え字kは、第k回目の変換処理を表す。
【0069】
ここで、時間-周波数変換とは、時間波形のような複合信号に対して、周波数フィルタ処理または数値演算処理(窓関数をずらしながら乗算して、各々の時間に対してスペクトルを導出する処理)を施し、時間、周波数、信号成分の強さ(スペクトル強度)からなる3次元情報に変換することをいう。また、本実施形態では、その変換結果(時間、周波数、スペクトル強度)を「スペクトログラム」と定義する。
【0070】
時間-周波数変換としては、例えば、短時間フーリエ変換(Short-Time Fourier Transform;STFT)やウェーブレット変換(ハールウェーブレット変換、ガボールウェーブレット変換、メキシカンハットウェーブレット変換、モルレーウェーブレット変換)などがある。
【0071】
また、所望の波長帯域に従って予め生成されたターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)をターゲット生成部29から読み出す。このターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)は、目標とする時間波形(時間強度波形とそれを構成する周波数成分)と概ね同値であり、処理番号(5-b)のターゲットスペクトログラム関数において生成される。
【0072】
次に、位相スペクトル設計部22の波形関数修正部27は、スペクトログラムSG0,k(ω,t)とターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)とのパターンマッチングを行い、類似度(どの程度一致しているか)を調べる。本実施形態では、類似度を表す指標として、評価値を算出する。そして、続く処理番号(5-c)では、得られた評価値が、所定の終了条件を満たすか否かの判定を行う。条件を満たせば処理番号(6)へ進み、満たさなければ処理番号(5-d)へ進む。処理番号(5-d)では、第2波形関数に含まれる時間位相波形関数φ0(t)を任意の時間位相波形関数φ0,k(t)に変更する。時間位相波形関数を変更した後の第2波形関数は、STFTなどの時間-周波数変換により再びスペクトログラムに変換される。以降、上述した処理番号(5-a)~(5-d)が繰り返し行われる。こうして、スペクトログラムSG0,k(ω,t)がターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)に次第に近づくように、第2波形関数が修正される(波形関数修正ステップ)。
【0073】
その後、位相スペクトル設計部22の逆フーリエ変換部28は、修正後の第2波形関数に対して逆フーリエ変換を行い(図中の矢印A4)、周波数領域の第3波形関数(k)を生成する(逆フーリエ変換ステップ、処理番号(6))。
【数11】
この第3波形関数(k)に含まれる位相スペクトル関数Φ
0,k(ω)が、最終的に得られる所望の位相スペクトル関数Φ
TWC-TFD(ω)となる。この位相スペクトル関数Φ
TWC-TFD(ω)が、変調パターン生成部24に提供される。
【0074】
図18は、強度スペクトル設計部23におけるスペクトル強度の計算手順を示す図である。なお、処理番号(1)から処理番号(5-c)までは、上述した位相スペクトル設計部22におけるスペクトル位相の計算手順と同様なので説明を省略する。強度スペクトル設計部23の波形関数修正部27は、スペクトログラムSG
0,k(ω,t)とターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)との類似度を示す評価値が所定の終了条件を満たさない場合、第2波形関数に含まれる時間位相波形関数φ
0(t)は初期値で拘束しつつ、時間強度波形関数b
0(t)を任意の時間強度波形関数b
0,k(t)に変更する(処理番号(5-e))。時間強度波形関数を変更した後の第2波形関数は、STFTなどの時間-周波数変換により再びスペクトログラムに変換される。以降、処理番号(5-a)~(5-c)が繰り返し行われる。こうして、スペクトログラムSG
0,k(ω,t)がターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)に次第に近づくように、第2波形関数が修正される(波形関数修正ステップ)。
【0075】
その後、強度スペクトル設計部23の逆フーリエ変換部28は、修正後の第2波形関数に対して逆フーリエ変換を行い(図中の矢印A4)、周波数領域の第3波形関数(m)を生成する(逆フーリエ変換ステップ、処理番号(6))。
【数12】
【0076】
続いて、処理番号(7-b)では、強度スペクトル設計部23のフィルタ処理部が、第3波形関数(m)に含まれる強度スペクトル関数B
0,k(ω)に対し、入力光の強度スペクトルに基づくフィルタ処理を行う(フィルタ処理ステップ)。具体的には、強度スペクトル関数B
0,k(ω)に係数αを乗じた強度スペクトルのうち、入力光の強度スペクトルに基づいて定められる各波長毎のカットオフ強度を超える部分をカットする。全ての波長域において、強度スペクトル関数αB
0,k(ω)が入力光のスペクトル強度を超えないようにするためである。一例では、波長毎のカットオフ強度は、入力光の強度スペクトル(本実施形態では初期の強度スペクトル関数A
0(ω))と一致するように設定される。その場合、次の数式(n)に示されるように、強度スペクトル関数αB
0,k(ω)が強度スペクトル関数A
0(ω)よりも大きい周波数では、強度スペクトル関数A
TWC-TFD(ω)の値として強度スペクトル関数A
0(ω)の値が取り入れられる。また、強度スペクトル関数αB
0,k(ω)が強度スペクトル関数A
0(ω)以下である周波数では、強度スペクトル関数A
TWC-TFD(ω)の値として強度スペクトル関数αB
0,k(ω)の値が取り入れられる(図中の処理番号(7-b))。
【数13】
この強度スペクトル関数A
TWC-TFD(ω)が、最終的に得られる所望のスペクトル強度として変調パターン生成部24に提供される。
【0077】
変調パターン生成部24は、位相スペクトル設計部22において算出された位相スペクトル関数ΦTWC-TFD(ω)により示されるスペクトル位相と、強度スペクトル設計部23において算出された強度スペクトル関数ATWC-TFD(ω)により示されるスペクトル強度とを出力光に与えるための位相変調パターン(例えば、計算機合成ホログラム)を算出する(データ生成ステップ)。
【0078】
ここで、
図19は、ターゲット生成部29におけるターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)の生成手順の一例を示す図である。ターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)は、目標とする時間波形(時間強度波形とそれを構成する周波数成分(波長帯域成分))を示すので、ターゲットスペクトログラムの作成は、周波数成分(波長帯域成分)を制御するために極めて重要な工程である。
図19に示されるように、ターゲット生成部29は、まずスペクトル波形(初期の強度スペクトル関数A
0(ω)及び初期の位相スペクトル関数Φ
0(ω))、並びに所望の時間強度波形関数Target
0(t)を入力する。また、所望の周波数(波長)帯域情報を含む時間関数p
0(t)を入力する(処理番号(1))。
【0079】
次に、ターゲット生成部29は、例えば
図16に示された反復フーリエ変換法を用いて、時間強度波形関数Target
0(t)を実現するための位相スペクトル関数Φ
IFTA(ω)を算出する(処理番号(2))。
【0080】
続いて、ターゲット生成部29は、先に得られた位相スペクトル関数Φ
IFTA(ω)を利用した反復フーリエ変換法により、時間強度波形関数Target
0(t)を実現するための強度スペクトル関数A
IFTA(ω)を算出する(処理番号(3))。ここで、
図20は、強度スペクトル関数A
IFTA(ω)を算出する手順の一例を示す図である。
【0081】
まず、初期の強度スペクトル関数A
k=0(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
0(ω)を用意する(図中の処理番号(1))。次に、強度スペクトル関数A
k(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
0(ω)を含む周波数領域の波形関数(o)を用意する(図中の処理番号(2))。
【数14】
添え字kは、第k回目のフーリエ変換処理後を表す。最初(第1回目)のフーリエ変換処理の前においては、強度スペクトル関数A
k(ω)として上記の初期強度スペクトル関数A
k=0(ω)が用いられる。iは虚数である。
【0082】
続いて、上記関数(o)に対して周波数領域から時間領域へのフーリエ変換を行う(図中の矢印A5)。これにより、時間強度波形関数b
k(t)を含む周波数領域の波形関数(p)が得られる(図中の処理番号(3))。
【数15】
【0083】
続いて、上記関数(p)に含まれる時間強度波形関数b
k(t)を、所望の波形に基づく時間強度波形関数Target
0(t)に置き換える(図中の処理番号(4)、(5))。
【数16】
【数17】
【0084】
続いて、上記関数(r)に対して時間領域から周波数領域への逆フーリエ変換を行う(図中の矢印A6)。これにより、強度スペクトル関数C
k(ω)及び位相スペクトル関数Ψ
k(ω)を含む周波数領域の波形関数(s)が得られる(図中の処理番号(6))。
【数18】
続いて、上記関数(s)に含まれる位相スペクトル関数Ψ
k(ω)を拘束するため、初期の位相スペクトル関数Ψ
0(ω)に置き換える(図中の処理番号(7-a))。
【数19】
【0085】
また、逆フーリエ変換後の周波数領域における強度スペクトル関数C
k(ω)に対し、入力光の強度スペクトルに基づくフィルタ処理を行う。具体的には、強度スペクトル関数C
k(ω)により表される強度スペクトルのうち、入力光の強度スペクトルに基づいて定められる各波長毎のカットオフ強度を超える部分をカットする。一例では、波長毎のカットオフ強度は、入力光の強度スペクトル(例えば初期の強度スペクトル関数A
k=0(ω))と一致するように設定される。その場合、次の数式(u)に示されるように、強度スペクトル関数C
k(ω)が強度スペクトル関数A
k=0(ω)よりも大きい周波数では、強度スペクトル関数A
k(ω)の値として強度スペクトル関数A
k=0(ω)の値が取り入れられる。また、強度スペクトル関数C
k(ω)が強度スペクトル関数A
k=0(ω)以下である周波数では、強度スペクトル関数A
k(ω)の値として強度スペクトル関数C
k(ω)の値が取り入れられる(図中の処理番号(7-b))。
【数20】
上記関数(s)に含まれる強度スペクトル関数C
k(ω)を、上記数式(u)によるフィルタ処理後の強度スペクトル関数A
k(ω)に置き換える。
【0086】
以降、上記の処理(2)~(7-b)を繰り返し行うことにより、波形関数中の強度スペクトル関数Ak(ω)が表す強度スペクトル形状を、所望の時間強度波形に対応する強度スペクトル形状に近づけることができる。最終的に、強度スペクトル関数AIFTA(ω)が得られる。
【0087】
再び
図19を参照する。以上に説明した処理番号(2)、(3)における位相スペクトル関数Φ
IFTA(ω)及び強度スペクトル関数A
IFTA(ω)の算出によって、これらの関数を含む周波数領域の第3波形関数(v)が得られる(処理番号(4))。
【数21】
ターゲット生成部29のフーリエ変換部29aは、上の波形関数(v)をフーリエ変換する。これにより、時間領域の第4波形関数(w)が得られる(処理番号(5))。
【数22】
【0088】
ターゲット生成部29のスペクトログラム修正部29bは、時間-周波数変換により第4波形関数(w)をスペクトログラムSGIFTA(ω,t)に変換する(処理番号(6))。そして、処理番号(7)では、所望の周波数(波長)帯域情報を含む時間関数p0(t)を基にスペクトログラムSGIFTA(ω,t)を修正することにより、ターゲットスペクトログラムTargetSG0(ω,t)を生成する。例えば、2次元データにより構成されるスペクトログラムSGIFTA(ω,t)に現れる特徴的パターンを部分的に切り出し、時間関数p0(t)を基に当該部分の周波数成分の操作を行う。以下、その具体例について詳細に説明する。
【0089】
例えば、所望の時間強度波形関数Target
0(t)として時間間隔が2ピコ秒であるトリプルパルスを設定した場合について考える。このとき、スペクトログラムSG
IFTA(ω,t)は、
図21(a)に示されるような結果となる。なお、
図21(a)において横軸は時間(単位:フェムト秒)を示し、縦軸は波長(単位:nm)を示す。また、スペクトログラムの値は、図の明暗によって示されており、明るいほどスペクトログラムの値が大きい。このスペクトログラムSG
IFTA(ω,t)において、トリプルパルスは2ピコ秒間隔で時間軸上に分かれたドメインD
1、D
2、及びD
3として現れる。ドメインD
1、D
2、及びD
3の中心(ピーク)波長は800nmである。
【0090】
仮に出力光の時間強度波形のみを制御したい(単にトリプルパルスを得たい)場合には、これらのドメインD
1、D
2、及びD
3を操作する必要はない。しかし、各パルスの周波数(波長)帯域を制御したい場合には、これらのドメインD
1、D
2、及びD
3の操作が必要となる。すなわち、
図21(b)に示されるように、波長軸(縦軸)に沿った方向に各ドメインD
1、D
2、及びD
3を互いに独立して移動させることは、それぞれのパルスの構成周波数(波長帯域)を変更することを意味する。このような各パルスの構成周波数(波長帯域)の変更は、時間関数p
0(t)を基に行われる。
【0091】
例えば、ドメインD
2のピーク波長を800nmで据え置き、ドメインD
1及びD
3のピーク波長がそれぞれ-2nm、+2nmだけ平行移動するように時間関数p
0(t)を記述するとき、スペクトログラムSG
IFTA(ω,t)は、
図21(b)に示されるターゲットスペクトログラムTargetSG
0(ω,t)に変化する。例えばスペクトログラムにこのような処理を施すことによって、時間強度波形の形状を変えずに、各パルスの構成周波数(波長帯域)が任意に制御されたターゲットスペクトログラムを作成することができる。
【0092】
以上に説明した本実施形態の分散測定装置1A及び分散測定方法によって得られる効果について説明する。本実施形態の分散測定装置1A及び分散測定方法では、パルス形成部3(パルス形成ステップS1)において、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の光パルスPb
1~Pb
3を含む光パルス列Pbが、パルスレーザ光源2から出力された被測定光パルスPaから生成される。このような場合、例えば非線形光学結晶などを用いて光パルス列Pbの相互相関又は自己相関を含む相関光Pcを生成すると、相関光Pcの時間波形における種々の特徴量(例えばピーク強度PE
1~PE
3、半値全幅W
1~W
3、ピーク時間間隔G
1,2、G
2,3など)は、パルスレーザ光源2の波長分散量と顕著な相関を有する。従って、本実施形態によれば、演算部6においてパルスレーザ光源2の波長分散量を精度良く推定することができる。更に、本実施形態によれば、
図38に示した測定装置100と異なり発光スペクトルを測定する必要がないので、光検出部5の光学系を簡略化することができ、パルスレーザ光源2の波長分散を簡易な構成によって測定することができる。また、発光スペクトルの測定に通常用いられる、分光器および光検出器の組み合わせ、または波長-強度特性を検出し得る光検出器は一般的に高価であり、本実施形態によれば、それが不要になることで装置の低コスト化に寄与できる。
【0093】
本実施形態のように、演算部6は(演算ステップS4では)、光パルス列Pbのピーク時間間隔G1,2、G2,3に基づいて被測定光パルスPaの波長分散量を求めてもよい。下記の実施例に示すように、本発明者は、時間波形における種々の特徴量のうち特にピーク時間間隔G1,2、G2,3が、パルスレーザ光源2の波長分散量と顕著な相関を有することを見出した。従って、光パルス列Pbのピーク時間間隔G1,2、G2,3に基づいて被測定光パルスPaの波長分散量を推定することにより、パルスレーザ光源2の波長分散量をより精度良く推定することができる。
【0094】
図2に示したように、パルス形成部3は、被測定光パルスPaに含まれる複数の波長成分を波長毎に空間的に分離する回折格子12と、回折格子12から出力された複数の波長成分の位相を相互にずらすSLM14と、SLM14から出力された複数の波長成分を集光するレンズ15を有してもよい。同様に、パルス形成ステップS1では、被測定光パルスPaに含まれる複数の波長成分を波長毎に空間的に分離し、SLM14を用いて複数の波長成分の位相を相互にずらしたのち、複数の波長成分を集光してもよい。この場合、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の光パルスPb
1~Pb
3を含む光パルス列Pbを容易に形成することができる。
【0095】
図8に示したように、SLM14が、第1の偏光方向に変調作用を有する偏光依存型のSLMである場合、パルス形成部3は(パルス形成ステップS1では)、第1の偏光方向の偏光成分、及び第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向の偏光成分を含む被測定光パルスPaを入力してもよい。この場合、被測定光パルスPaのうち第1の偏光方向の偏光成分は、SLM14において変調されて光パルス列Pbとしてパルス形成部3から出力される。また、被測定光パルスPaのうち第2の偏光方向の偏光成分は、SLM14において変調されずにパルス形成部3から出力される。相関光学系4は(相関光生成ステップS2では)、これらの偏光成分から、光パルス列Pbの相互相関を含む相関光Pcを容易に生成することができる。
【0096】
本実施形態のように、相関光学系4は非線形光学結晶及び蛍光体の少なくとも一方を含んでもよい。同様に、相関光生成ステップS2では、非線形光学結晶及び蛍光体の少なくとも一方を用いて相関光Pcを生成してもよい。この場合、光パルス列Pbの相互相関又は自己相関を含む相関光Pcを容易に生成することができる。
【0097】
図6に示したように、分散測定装置1Aは、光パルス列Pbを二分岐するビームスプリッタ44と、ビームスプリッタ44において分岐された一方の光パルス列Pbbと他方の光パルス列Pbaとに対して時間差を与える遅延光学系と、を更に備え、相関光学系4は、時間遅延した一方の光パルス列Pbbと、他方の光パルス列Pbaとから自己相関を含む相関光Pcを生成してもよい。同様に、相関光生成ステップS2では、光パルス列Pbを二分岐し、分岐された一方の光パルス列Pbbを、他方の光パルス列Pbaに対して時間遅延させ、時間遅延した一方の光パルス列Pbbと、他方の光パルス列Pbaとから、光パルス列Pbの自己相関を含む相関光Pcを生成してもよい。例えばこれらのような装置及び方法によって、光パルス列Pbの自己相関を含む相関光Pcを容易に生成することができる。
【0098】
本実施形態のように、演算部6は(演算ステップS4では)、パルスレーザ光源2の波長分散がゼロであると仮定して予め算出された相関光Pcの時間波形の特徴量と、光検出部5により検出された相関光Pcの時間波形の特徴量とを比較して、被測定光パルスPaの波長分散量を求めてもよい。この場合、パルスレーザ光源2の波長分散量をより精度良く推定することができる。
【0099】
(実施例)
本発明者は、上記実施形態の実施例として、数値計算によるシミュレーションを行った。被測定光パルスPaとして、帯域幅10nm、中心波長1030nmのシングルパルスを仮定した。この被測定光パルスPaを、
図4に示した3つの光パルスPb
1~Pb
3を含む光パルス列Pbに変換するために、上記実施形態において述べた方法を用いて、SLM14に呈示させる変調パターンを算出した。このとき、ピーク時間間隔G
1,2,G
2,3を2000fs、中心波長をそれぞれ1025nm、1030nm、及び1035nmとした。
図22(a)は、算出した変調パターンを示すグラフである。同図において、横軸は波長(単位:nm)を表し、左の縦軸は光強度(任意単位)を表し、右の縦軸は位相(rad)を表す。また、図中のグラフG31はスペクトル位相の変調パターンを示し、図中のグラフG32はスペクトル強度の変調パターンを示す。
【0100】
図22(b)は、本シミュレーションにより作成された光パルス列Pbの時間波形を示すグラフである。
図23は、本シミュレーションにより作成された光パルス列Pbのスペクトログラムである。
図22(b)では、横軸に時間(単位:fs)を示し、縦軸に光強度(任意単位)を示している。また、
図23では、横軸に時間、縦軸に波長を示しており、光強度を色の濃淡で表している。これらの図に示すように、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる3つの光パルスPb
1~Pb
3を含む光パルス列Pbが得られた。
【0101】
また、本シミュレーションでは、比較のため、被測定光パルスPaを、
図5に示した3つの光パルスPd
1~Pd
3を含む光パルス列Pdに変換するために、上記実施形態において述べた方法を用いて、SLM14に呈示させる変調パターンを算出した。これらのピーク時間間隔を光パルスPb
1~Pb
3と同じとし、各光パルスPd
1~Pd
3の中心波長を1030nmとした。
図24(a)は、算出した変調パターンを示すグラフである。図中のグラフG41はスペクトル位相の変調パターンを示し、図中のグラフG42はスペクトル強度の変調パターンを示す。
図24(b)は、本シミュレーションにより作成された光パルス列Pdの時間波形を示すグラフである。
図25は、本シミュレーションにより作成された光パルス列Pdのスペクトログラムである。これらの図に示すように、互いに時間差を有し中心波長が互いに等しい3つの光パルスPd
1~Pd
3を含む光パルス列Pdが得られた。
【0102】
[2次分散によるパルス列の特徴量の変化]
パルスレーザ光源2の2次分散がパルス列の特徴量に与える影響を調べるために、被測定光パルスPaの2次分散量を変化させて、光パルス列Pb,Pdの時間波形の変化を調べた。
図26(a)及び
図26(b)は、被測定光パルスPaの2次分散量と、ピーク時間間隔G
1,2,G
2,3の平均値(G
1,2+G
2,3)/2との関係をプロットしたグラフである。
図26(a)は中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbの場合を示し、
図26(b)は各パルスの中心波長が互いに等しい光パルス列Pdの場合を示す。これらの図において、横軸は被測定光パルスPaの2次分散量(単位:fs
2)を表し、縦軸はピーク時間間隔G
1,2,G
2,3の平均値(単位:fs)を表す。
【0103】
図26(a)を参照すると、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbの場合、2次分散量の増減に伴って、ピーク時間間隔G
1,2,G
2,3の平均値が単調に(ほぼ線形に)増減することがわかる。更に詳細にデータを調べると、中央の光パルスPb
2のピーク時間に対して、左右の光パルスPb
1,Pb
3のピーク時間が、分散量に応じて互いに対称に移動する傾向があることが確認された。この例では、ピーク時間間隔G
1,2,G
2,3の50fsの増加(または減少)は、5000fs
2の2次分散量の増加(または減少)に相当する。一方、
図26(b)を参照すると、各パルスの中心波長が互いに等しい光パルス列Pdの場合、2次分散量の増減にかかわらず、ピーク時間間隔G
1,2,G
2,3の平均値はほぼ一定であることがわかる。このことから、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbのピーク時間間隔G
1,2,G
2,3に基づいて、パルスレーザ光源2の2次分散量を精度良く且つ容易に推定できることがわかる。
【0104】
図27は、被測定光パルスPaの2次分散量と、ピーク強度E
1~E
3との関係をプロットしたグラフであって、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbの場合を示す。三角形のプロットはピーク強度E
1を表し、円形のプロットはピーク強度E
2を表し、四角形のプロットはピーク強度E
3を表す。この図において、横軸は被測定光パルスPaの2次分散量(単位:fs
2)を表し、縦軸はピーク強度(任意単位)を表す。
【0105】
図27を参照すると、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbにおいて、2次分散量の増減に伴いピーク強度E
1~E
3も増減することがわかる。このことから、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbのピーク強度E
1~E
3に基づいて、パルスレーザ光源2の2次分散量を精度良く且つ容易に推定できることがわかる。
【0106】
図28は、被測定光パルスPaの2次分散量と、半値全幅W
1~W
3との関係をプロットしたグラフであって、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbの場合を示す。三角形のプロットは半値全幅W
1を表し、円形のプロットは半値全幅W
2を表し、四角形のプロットは半値全幅W
3を表す。この図において、横軸は被測定光パルスPaの2次分散量(単位:fs
2)を表し、縦軸は半値全幅(単位:fs)を表す。
【0107】
図28を参照すると、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbにおいて、2次分散量の増減に伴い半値全幅W
1~W
3も増減することがわかる。このことから、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbの半値全幅W
1~W
3に基づいて、パルスレーザ光源2の2次分散量を精度良く且つ容易に推定できることがわかる。
【0108】
[3次分散によるパルス列の特徴量の変化]
パルスレーザ光源2の3次分散がパルス列の特徴量に与える影響を調べるために、被測定光パルスPaの3次分散量を変化させて、光パルス列Pb,Pdの時間波形の変化を調べた。
図29(a)及び
図29(b)は、被測定光パルスPaの3次分散量と、ピーク時間間隔G
1,2,G
2,3の差(G
1,2-G
2,3)/2との関係をプロットしたグラフである。
図29(a)は中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbの場合を示し、
図29(b)は各パルスの中心波長が互いに等しい光パルス列Pdの場合を示す。これらの図において、横軸は被測定光パルスPaの3次分散量(単位:fs
3)を表し、縦軸はピーク時間間隔G
1,2,G
2,3の差(単位:fs)を表す。
【0109】
図29(a)を参照すると、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbの場合、3次分散量の増減に伴って、ピーク時間間隔G
1,2,G
2,3の差が単調に増減することがわかる。一方、
図29(b)を参照すると、各パルスの中心波長が互いに等しい光パルス列Pdの場合、3次分散量の増減にかかわらず、ピーク時間間隔G
1,2,G
2,3の差はほぼ一定であることがわかる。このことから、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbのピーク時間間隔G
1,2,G
2,3に基づいて、パルスレーザ光源2の3次分散量を精度良く且つ容易に推定できることがわかる。
【0110】
更に詳細にデータを調べると、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbの場合、中央の光パルスPb2のピーク時間に対して、左右の光パルスPb1,Pb3のピーク時間が、分散量に応じて互いに非対称に移動する傾向があることが確認された。このような特徴は2次分散量のときとは異なるものであり、この差異すなわちピーク時間間隔G1,2,G2,3の相対的な変化の傾向に基づいて、分散次数を区別することが可能となる。
【0111】
図30は、被測定光パルスPaの3次分散量と、ピーク強度E
1~E
3との関係をプロットしたグラフであって、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbの場合を示す。三角形のプロットはピーク強度E
1を表し、円形のプロットはピーク強度E
2を表し、四角形のプロットはピーク強度E
3を表す。この図において、横軸は被測定光パルスPaの3次分散量(単位:fs
3)を表し、縦軸はピーク強度(任意単位)を表す。
【0112】
図30を参照すると、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbにおいて、3次分散量の増減に伴いピーク強度E
1~E
3も増減することがわかる。このことから、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbのピーク強度E
1~E
3に基づいて、パルスレーザ光源2の3次分散量を精度良く且つ容易に推定できることがわかる。
【0113】
図31は、被測定光パルスPaの3次分散量と、半値全幅W
1~W
3との関係をプロットしたグラフであって、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbの場合を示す。三角形のプロットは半値全幅W
1を表し、円形のプロットは半値全幅W
2を表し、四角形のプロットは半値全幅W
3を表す。この図において、横軸は被測定光パルスPaの3次分散量(単位:fs
3)を表し、縦軸は半値全幅(単位:fs)を表す。
【0114】
図31を参照すると、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbにおいて、3次分散量の増減に伴い半値全幅W
1~W
3も増減することがわかる。このことから、中心波長がパルス毎に異なる光パルス列Pbの半値全幅W
1~W
3に基づいて、パルスレーザ光源2の3次分散量を精度良く且つ容易に推定できることがわかる。
【0115】
(第1変形例)
図32は、上記実施形態の第1変形例として、パルス形成部3Aの構成を示す図である。このパルス形成部3Aは、パルス伸展器18を有し、更に、SLM14(
図2を参照)に代えてフィルタ19を有する。パルス伸展器18はパルスレーザ光源2と回折格子12との間の光路上に設けられ、被測定光パルスPaのパルス幅を拡大する。パルス伸展器18としては、例えばガラスブロック、回折格子対、プリズムペアなどが挙げられる。フィルタ19は、光強度フィルタであって、レンズ13を介して回折格子12と光学的に結合されている。回折格子12により分光された光P1は、レンズ13によって各波長成分毎に集光され、フィルタ19に達する。フィルタ19は、各波長成分に対応する光学的な開口(または、吸収率若しくは反射率が周囲と異なるフィルタ)を有しており、被測定光パルスPaを構成する波長帯域の中から複数の波長成分を選択的に通過させる。なお、これら複数の波長成分の伝搬タイミングはパルス伸展器18によって互いにずれている。フィルタ19を通過した各波長成分は、レンズ15によって回折格子16上の一点に集められる。これらのレンズ15及び回折格子16により、フィルタ19を通過した複数の波長成分は互いに集光・合波されて、帯域制御したマルチパルス(光パルス列Pb)となる。
【0116】
上記実施形態の分散測定装置1Aは、パルス形成部3に代えて、本変形例のパルス形成部3Aを備えてもよい。その場合でも、上記実施形態と同様の効果を好適に奏することができる。
【0117】
(第2変形例)
図33は、上記実施形態の第2変形例の構成を示す図である。本変形例では、測定対象である光学部品7が、パルス形成部3の前段すなわちパルスレーザ光源2とパルス形成部3との間の光路上に配置されている。この場合、パルスレーザ光源2の波長分散はゼロまたはゼロに近い。または、パルスレーザ光源2の波長分散が既知であれば、ゼロでなくてもよい。本変形例では、パルスレーザ光源2から出力された光パルスが、波長分散を有する光学部品7を通過し、被測定光パルスPaとしてパルス形成部3に入力される。このような構成においては、光学部品7の波長分散を簡易な構成により測定することができる。
【0118】
(第3変形例)
図34は、上記実施形態の第3変形例の構成を示す図である。本変形例では、測定対象である光学部品7が、パルス形成部3の後段すなわちパルス形成部3と相関光学系4との間の光路上に配置されている。本変形例では、光パルス列Pbがパルス形成部3から出力されたのち光学部品7を通過する。そして、相関光学系4は、光学部品7を通過した光パルス列Pbを受け、該光パルス列Pbの相互相関又は自己相関を含む相関光Pcを出力する。
【0119】
本変形例の分散測定方法は、次の通りである。まず、
図11に示されたパルス形成ステップS1において、光パルス列Pbを形成するために必要な設計情報を準備する。そして、パルスレーザ光源2から出力された光パルスから、互いに時間差を有し中心波長が互いに異なる複数の光パルスPb
1~Pb
3を含む光パルス列Pbを形成する。例えば、
図2に示したように、パルスレーザ光源2から出力された光パルスに含まれる複数の波長成分を波長毎に空間的に分離し、SLM14を用いて複数の波長成分の位相を相互にずらしたのち、複数の波長成分を集光する。これにより、光パルス列Pbを容易に生成することができる。その後、光パルス列Pbは、波長分散を有する光学部品7を通過する。
【0120】
次に、相関光生成ステップS2において、非線形光学結晶及び蛍光体の少なくとも一方を含む光学素子42を用いて、光学部品7を通過した光パルス列Pbの相互相関又は自己相関を含む相関光Pcを生成する。例えば、
図6に示したように光パルス列Pbを二分岐し、分岐された一方の光パルス列Pbbを、他方の光パルス列Pbaに対して時間遅延させ、時間遅延した一方の光パルス列Pbbと、他方の光パルス列Pbaとから、光パルス列Pbの自己相関を含む相関光Pcを生成する。以降、検出ステップS3及び演算ステップS4については上記実施形態と同様である。
【0121】
本変形例では、パルス形成部3から出力された光パルス列Pbが、波長分散を有する光学部品7を通過し、相関光学系4に入力される。このような構成においても、光学部品7の波長分散を簡易な構成により測定することができる。つまり、測定対象は、パルス形成部3の前段及び後段のいずれに配置されてもよい。
【0122】
(第4変形例)
図35は、上記実施形態の第4変形例として、パルス光源30Aの構成を示す図である。パルス光源30Aは、光源31と、光分岐部品32と、分散測定装置1Aと、パルス形成部33と、集光レンズ34とを備える。光源31は、例えば上記実施形態のパルスレーザ光源2、または第1変形例の光学部品7を含む。光分岐部品32は、光源31と光学的に結合され、光源31から光パルスPfを受け、光パルスPfを分岐する。分岐された一方の光パルスPfaは、光分岐部品32と光学的に結合された分散測定装置1Aのパルス形成部3に入力される。分岐された他方の光パルスPfbは、光分岐部品32と光学的に結合されたパルス形成部33に入力される。
【0123】
パルス形成部33は、本実施形態のパルス形成装置であって、光源31から出力された光パルスPfbに対し、分散測定装置1Aにより求められた波長分散を補償する(逆分散を与える)。そのために、パルス形成部33は、位相変調を行うSLM33aを含み、前述したパルス形成部3と同様の構成を有する。SLM33aは、分散測定装置1Aの演算部6(または他のコンピュータ)によって制御される。SLM33aに呈示される変調パターンのデータは、演算部6(または他のコンピュータ)によって作成される。SLM33aは、例えば位相変調型である。一実施例では、SLM33aはLCOS型である。なお、図には透過型のSLM33aが示されているが、SLM33aは反射型であってもよい。パルス形成部33から出力された分散補償後の光パルスPfbは、集光レンズ34によって集光されつつ被照射物35に照射される。
【0124】
図36は、本変形例に係る分散補償方法を示すフローチャートである。まず、光源31から光パルスPfを出力し、分岐した光パルスPfaをパルス形成部3に入力する(ステップS11)。そして、分散測定装置1Aを用いて、光源31の波長分散量を推定する(ステップS12)。次に、光パルスPfbに対し、波長分散量を補償するための位相変調を、パルス形成部33を用いて行う(ステップS13)。分散補償後の光パルスPfbは、例えばレーザ加工、顕微鏡観察などの用途において、被照射物35に照射される(ステップS14)。
【0125】
本変形例に係るパルス光源30A及び分散補償方法によれば、上記実施形態の分散測定装置1Aを備える(分散測定方法を用いる)ので、波長分散を簡易な構成によって測定し、補償することができる。なお、この例では、分散測定対象である光源31から出力された光パルスPfbに対し、パルス形成部33において波長分散量を補償するための位相変調を行っているが、このような形態に限られない。例えば、パルス形成部33を分散測定対象の前段に配置して、分散測定対象に入力される光パルスに対し波長分散量を補償するための位相変調をパルス形成部33にて行ってもよい。
【0126】
(第5変形例)
図37は、上記実施形態の第5変形例として、パルス光源30Bの構成を示す図である。パルス光源30Bは、光源31と、分散測定装置1Aと、光分岐部品32と、集光レンズ34とを備える。本変形例では、光分岐部品32がパルス形成部3と相関光学系4との間の光路上に配置されている。そして、パルス形成部3のSLM14(
図2を参照)は、分散測定装置1Aによる波長分散量の測定ののち、光源31から出力された光パルスPfに対し、波長分散量を補償するための位相変調を更に行う。言い換えると、パルス形成部3が、第4変形例のパルス形成部33の機能を兼ね備えており、SLM14は、波長分散を補償するためのパルス形成部の一部を構成する。この場合であっても、第4変形例と同様に、波長分散を簡易な構成によって測定し、補償することができる。なお、この例では、分散測定対象である光源31から出力された光パルスPfに対し、パルス形成部3において波長分散量を補償するための位相変調を行っているが、このような形態に限られない。例えば、パルス形成部3を分散測定対象の前段に配置して、分散測定対象に入力される光パルスに対し波長分散量を補償するための位相変調をパルス形成部3にて行ってもよい。
【0127】
本発明による分散測定装置、パルス光源、分散測定方法、および分散補償方法は、上述した実施形態および各変形例の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0128】
上記実施形態では、
図2に示したように回折格子12及びSLM14を用いて光パルス列Pbを形成する方式を例示し、第1変形例ではパルス伸展器18及びフィルタ19を用いて光パルス列Pbを形成する方式を例示したが、パルス形成部3及びパルス形成ステップS1において光パルス列Pbを形成する方式はこれらに限られない。例えば、SLM14に代えて可変型ミラーを用いてもよい。或いは、SLM14に代えて、電子的に位相を制御できる液晶ディスプレイ、音響光学変調器などを用いてもよい。また、上記実施形態では、非線形光学結晶又は蛍光体を用いて相関光Pcを生成する方式を例示したが、相関光学系4及び相関光生成ステップS2において相関光Pcを生成する方式はこれらに限られない。
【符号の説明】
【0129】
1A…分散測定装置、2…パルスレーザ光源、3,3A…パルス形成部、3a…光入力端、3b…光出力端、4,4A,4B,4C…相関光学系、4a…光入力端、4b…光出力端、4c~4f…光路、5…光検出部、6…演算部、7…光学部品、12…回折格子、13,15…レンズ、14…空間光変調器(SLM)、16…回折格子、17…変調面、17a…変調領域、18…パルス伸展器、19…フィルタ、20…変調パターン算出装置、21…任意波形入力部、22…位相スペクトル設計部、23…強度スペクトル設計部、24…変調パターン生成部、25…フーリエ変換部、26…関数置換部、27…波形関数修正部、28…逆フーリエ変換部、29…ターゲット生成部、29a…フーリエ変換部、29b…スペクトログラム修正部、30…パルス光源、31…光源、32…光分岐部品、33…パルス形成部、34…集光レンズ、41,43…レンズ、42…光学素子、44…ビームスプリッタ、45,46,48…ミラー、47,49…移動ステージ、61…プロセッサ、64…入力デバイス、65…出力デバイス、66…通信モジュール、67…補助記憶装置、100…測定装置、101…パルス光源、102…パルス制御光学系、103…光学系、103a…SHG結晶、104…分光器、105…演算部、Pa…被測定光パルス、Pb,Pd…光パルス列、Pb1~Pb3,Pd1~Pd3…光パルス、Pba,Pbb…光パルス列、Pc…相関光、Pc1~Pc3…光パルス、Pf…光パルス、Pr…参照光パルス、SC…制御信号。