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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】応力発光計測装置及び応力発光計測方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/00 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
G01L1/00 E
G01L1/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019080048
(22)【出願日】2019-04-19
(65)【公開番号】P2020176943
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100114306
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 史郎
(74)【代理人】
【識別番号】100148655
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 淳一
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄貴
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-180637(JP,A)
【文献】特開2018-119834(JP,A)
【文献】特許第6470863(JP,B1)
【文献】特開2018-25471(JP,A)
【文献】特開2003-287466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00-1/26、25/00
G01B 11/00-11/30
G01N 21/00-21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力発光体に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にし、前記応力発光体に加えられる応力に応じた応力発光を計測する応力発光計測装置であって、
前記応力発光体を撮像する撮像部により撮像された応力発光体の計測画像から応力発光量を取得したならば、応力発光の励起エネルギーが応力発光したときに生じていた歪み量毎に消費されるモデルを利用しつつ、過去の計測画像の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪み感度及び歪みを算出する
ことを特徴とする応力発光計測装置。
【請求項2】
応力発光体に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にし、前記応力発光体に加えられる応力に応じた応力発光を計測する応力発光計測装置であって、
前記応力発光体を撮像する撮像部と、
前記撮像部により撮像された応力発光体の計測画像を取得する計測画像取得部と、
前記計測画像から応力発光量を取得する応力発光取得部と、
前記応力発光取得部により取得された新たな計測画像の応力発光量に基づく歪み感度を算定する場合に、過去の計測画像の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪み感度を算出する歪み感度算出部と、
前記過去の計測画像の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪みを算出する歪み算出部と、
を備えたことを特徴とする応力発光計測装置。
【請求項3】
前記歪み感度算出部により算出された歪み感度及び前記歪み算出部により算出された歪みを記憶する記憶部をさらに備え、
前記歪み感度算出部及び前記歪み算出部は、前記応力発光取得部により新たな応力発光量が取得された場合に、前記記憶部に記憶された過去の計測画像の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて、歪み感度及び歪み量をそれぞれ算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の応力発光計測装置。
【請求項4】
前記応力発光取得部により取得された応力発光量を記憶する記憶部をさらに備え、
前記歪み感度算出部及び前記歪み算出部は、前記記憶部に記憶された応力発光量に基づいて歪み感度及び歪み量をそれぞれ算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の応力発光計測装置。
【請求項5】
応力発光体に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にし、前記応力発光体に加えられる応力に応じた応力発光を計測する応力発光計測装置の応力発光計測方法であって、
前記応力発光体を撮像する撮像部により撮像された応力発光体の計測画像を取得する計測画像取得ステップと、
前記計測画像から応力発光量を取得する応力発光取得ステップと、
前記応力発光取得ステップにより取得された新たな計測画像の応力発光量に基づく歪み感度を算定する場合に、過去の計測画像の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪み感度を算出する歪み感度算出ステップと、
前記過去の計測画像の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪みを算出する歪み算出ステップと、
を含むことを特徴とする応力発光計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力発光体による応力発光量から精度良く歪みを算出し、もって繰り返し歪みが発生する場合における歪み推定精度を高めることができる応力発光計測装置及び応力発光計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、計測対象の残留応力や応力集中などによる破壊を検知又は予測するために、応力分布が計測されることが多い。一般的に、応力分布の計測手法として、(1)計測対象にひずみゲージを貼り付けてひずみ量を電気的に検出する手法A、(2)赤外線カメラを用いて計測対象の振動に対する発熱作用又は吸熱作用を計測して応力分布を求める手法B、(3)計測対象の表面にランダム模様を付与して複数カメラで撮像し、応力変動を求めるデジタル画像相関法Cなどが知られている。
【0003】
ところが、上記の手法Aは、ひずみゲージは貼り付けのための手間がかかるとともに計測部位が限られるという問題がある。また、上記の手法Bは、赤外線カメラは測定範囲が限られ、繰り返し加振が必要になるという問題がある。さらに、上記のデジタル画像相関法Cは、事前に表面模様の準備が必要になるという問題がある。
【0004】
このため、非接触かつ広範囲に一括で応力計測するために、応力発光体を表面に付与した計測対象からの応力発光を撮像することにより、計測対象の応力分布を非接触で計測する技術が注目されている。例えば、特許文献1には、応力発光体の励起状態が飽和するまでの励起光照射時間を記憶しておき、この励起光照射時間分、励起光を照射することによって応力発光体の励起状態を飽和状態にし、一定条件で発光する装置が開示されている。
【0005】
ここで、応力発光体を応力発光させるためには、応力発光体に励起光を照射して該応力発光体を励起状態にする必要がある。そして、この応力発光体の励起エネルギーは、歪みに伴う発光によって消費され減少するとともに、該応力発光体の発光感度が低下する。従来技術では、応力発光体の励起エネルギーが均一に消費されることを前提としたモデルを用いて、応力発光体に生ずる歪みを逆算して分析が行われていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-180637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術のように、均一に励起エネルギーが消費されるモデルで分析を行う場合には、応力発光体に励起光を照射した後、それまでに発生した低歪み以上の高歪みが発生したならば、歪み感度が回復する現象が表れるため、発生した歪みを過大評価してしまうという問題が生ずる。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、応力発光体による応力発光量から精度良く歪みを算出し、もって繰り返し歪みが発生する場合における歪み推定精度を高めることができる応力発光計測装置及び応力発光計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、応力発光体に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にし、前記応力発光体に加えられる応力に応じた応力発光を計測する応力発光計測装置であって、前記応力発光体を撮像する撮像部により撮像された応力発光体の計測画像から応力発光量を取得したならば、応力発光の励起エネルギーが応力発光したときに生じていた歪み量毎に消費されるモデルを利用しつつ、過去の計測画像の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪み感度及び歪みを算出することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、応力発光体に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にし、前記応力発光体に加えられる応力に応じた応力発光を計測する応力発光計測装置であって、前記応力発光体を撮像する撮像部と、前記撮像部により撮像された応力発光体の計測画像を取得する計測画像取得部と、前記計測画像から応力発光量を取得する応力発光取得部と、前記応力発光取得部により取得された新たな計測画像の応力発光量に基づく歪み感度を算定する場合に、過去の計測画像の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪み感度を算出する歪み感度算出部と、前記過去の計測画像の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪みを算出する歪み算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記の発明において、前記歪み感度算出部により算出された歪み感度及び前記歪み算出部により算出された歪みを記憶する記憶部をさらに備え、前記歪み感度算出部及び前記歪み算出部は、前記応力発光取得部により新たな応力発光量が取得された場合に、前記記憶部に記憶された過去の計測画像の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて、歪み感度及び歪み量をそれぞれ算出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の発明において、前記応力発光取得部により取得された応力発光量を記憶する記憶部をさらに備え、前記歪み感度算出部及び前記歪み算出部は、前記記憶部に記憶された応力発光量に基づいて歪み感度及び歪み量をそれぞれ算出することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、応力発光体に励起光を照射して前記応力発光体を励起状態にし、前記応力発光体に加えられる応力に応じた応力発光を計測する応力発光計測装置の応力発光計測方法であって、前記応力発光体を撮像する撮像部により撮像された応力発光体の計測画像を取得する計測画像取得ステップと、前記計測画像から応力発光量を取得する応力発光取得ステップと、前記応力発光取得ステップにより取得された新たな計測画像の応力発光量に基づく歪み感度を算定する場合に、過去の計測画像の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪み感度を算出する歪み感度算出ステップと、前記過去の計測画像の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪みを算出する歪み算出ステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、応力発光体に励起光を照射した以降で、それまでに発生した歪み以上の歪みが発生した場合に、発光感度が回復する現象に伴う歪み推定精度の低下を防ぎつつ応力発光量から精度良く歪みを算出し、もって繰り返し歪みが発生する場合における歪み推定精度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施の形態に係る応力発光計測装置の構成を示す図である。
図2図2は、歪みと該歪みよって消費される応力発光ポテンシャルとの関係を示す図である。
図3図3は、応力発光ポテンシャルの消費の一例を示す図である。
図4図4は、各フレームにおける歪みと応力発光ポテンシャル消費量との関係を示す図である。
図5図5は、制御部による歪み感度及び歪みの算出処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、添付図面を参照して、本発明に係る応力発光計測装置及び応力発光計測方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
<装置構成>
図1は、本実施の形態に係る応力発光計測装置1の構成を示す図である。この応力発光計測装置1は、従来技術のように「均一に励起エネルギーが消費されるモデル」で分析を行うのではなく、「応力発光の励起エネルギーが応力発光したときに生じていた歪み量毎に消費されるモデル」を用いて分析を行う装置である。
【0018】
具体的には、どの歪み量に対応する励起エネルギーが消費されたかを記憶しておき、その結果を応力発光の分析を行う際に利用する。応力発光体に励起光を照射した後、それまでに発生した低歪み以上の高歪みが発生したならば、歪み感度が回復する現象が表れ、発生した歪みを過大評価してしまう事態を避けるためである。
【0019】
かかる履歴データを記憶する場合に、特定の歪みと歪み速度の積がどれだけの時間継続していたかによってその歪みに対応する励起エネルギーが消費されるものとし、残りの励起エネルギー量の関数である歪み感度を用いて、逐次的に応力発光を歪みに変換する分析を行うことになる。
【0020】
図1に示すように、計測対象部材101の表面には、応力発光体が含まれる応力発光塗料2が塗布されている。例えば、外部からの力Pが加わることにより発生した応力Sにより、計測対象部材101に金属疲労が生じる。なお、本実施の形態では、内部における力により発生した応力については対象外としている。また、本実施の形態では、計測対象部材101に発生する応力Sは、不定な時間間隔で連続発生するものとする。
【0021】
応力発光計測装置1は、応力発光体を含む応力発光塗料2に励起光L0を照射して応力発光体を励起状態にし、応力発光体に発生する応力Sに応じた応力発光L2を計測する。なお、応力発光体が励起状態にあると、応力発光L2とは無関係に蛍光及び燐光として自然放出する自然放出光L1を発光する。
【0022】
応力発光体は、外部からの機械刺激により発光する発光材料である。機械刺激の種類としては摩擦、衝撃、圧縮、引っ張り、ねじりなどがあり、かかる機械刺激により応力発光体に応力が発生する。応力発光体は、例えば、粒子径の制御が可能な粉末状のセラミックス微粒子であり、ユーロピウムをドープし構造制御したアルミン酸ストロンチウム(SrAl2O4:Eu)、遷移金属や希土類をドープした硫化亜鉛(ZnS:Mn)、チタン酸バリウム・カルシウム((Ba,Ca)TiO3:Pr)、アルミン酸カルシウム・イットリウム(CaYAl3O7:Ce)などである。なお、上記の応力発光体は、紫外線を励起光として可視光を発光するものであるが、紫外線や近赤外線を発光するものであってもよい。
【0023】
次に、図1に示した応力発光計測装置1の構成について説明する。図1に示すように、応力発光計測装置1は、励起光L0である紫外線を応力発光塗料2に照射する励起光照射部20と、応力発光塗料2の発光を撮像する撮像部30と、装置本体10とを有する。
【0024】
装置本体10は、入出力部11、記憶部12及び制御部13を有し、励起光照射部20及び撮像部30に接続される。入出力部11は、各種操作入力及び表示出力等を行うタッチパネル式ディスプレイなどの入出力インターフェースである。
【0025】
記憶部12は、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリ又はハードディスク装置等の二次記憶媒体等からなる記憶デバイスであり、計測画像を含む計測画像データD1、基準応力に対応する基準応力発光LMSを含む基準応力発光データD2、実測応力発光データD3、歪み感度データD4及び歪みデータD5を記憶する。
【0026】
制御部13は、応力発光計測装置1を全体制御する制御部であり、計測画像取得制御部14、応力発光取得部15、歪み感度算出部16及び歪み算出部17を有する。実際には、これらの機能部に対応するプログラムを図示しないROMや不揮発性メモリに記憶しておき、これらのプログラムをCPU(Central Processing Unit)にロードして実行することにより、計測画像取得制御部14、応力発光取得部15、歪み感度算出部16及び歪み算出部17にそれぞれ対応するプロセスを実行させることになる。
【0027】
計測画像取得制御部14は、撮像部30により撮像された応力発光塗料2の計測画像を取得し、記憶部12に計測画像データD1として記憶する。
【0028】
応力発光取得部15は、応力発光体に加えられる基準応力SS(i)(i=1,2,3・・・)に応じた基準応力発光LMS(i)を予め取得する。この基準応力発光LMS(i)は、基準応力発光データD2に含まれる。また、実測時においては、計測画像データD1から算出した応力発光LMを、実測応力発光データD3として記憶する。
【0029】
歪み感度算出部16は、それ以前に発生した歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度を基に歪み感度を算出する処理部であり、算出された歪み感度は、歪み感度データD4として記憶部12に記憶される。なお、かかる歪み感度算出部16による歪み感度の算出処理の詳細な説明については後述する。
【0030】
歪み算出部17は、それ以前に発生した歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪みを算出する処理部であり、算出された歪みは歪みデータD5として記憶部12に記憶される。なお、かかる歪み算出部17による歪みの算出処理の詳細な説明については後述する。
【0031】
このように、かかる応力発光計測装置1は、応力発光体を撮像する撮像部30により撮像された応力発光体の計測画像から応力発光量を取得したならば、応力発光の励起エネルギーが応力発光したときに生じていた歪み量毎に消費されるモデルを利用しつつ、過去の計測画像の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪み感度及び歪みを算出するよう構成している。具体的には、計測画像取得制御部14が撮像部30により撮像された応力発光塗料2の計測画像を取得し、応力発光取得部15が計測画像データD1から応力発光LMを取得し、歪み感度算出部16がそれ以前に発生した歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪み感度を算出し、歪み算出部17がそれ以前に発生した歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪みを算出するよう構成している。
【0032】
<歪み感度及び歪みの算出処理>
次に、図1に示した歪み感度算出部16よる歪み感度の算出処理及び歪み算出部17による歪みの算出処理について説明する。
【0033】
応力発光L(t)は、応力発光体に加わる応力に変化が生じた場合に生ずるものであり、一定の応力が応力発光体に定常的に加わっていたとしても応力が変化しない場合には発光しない。このため、歪みを「ε」とし、歪み速度を「∂ε(t)/∂t」とし、歪み感度を「K(ε,t)」とした場合に、応力発光L(t)は、歪みと歪み速度と歪み感度との積で表現される。具体的には、下記式(1)により、時刻tにおける応力発光L(t)が表される。
【数1】
【0034】
この式(1)を用いて歪みεを算出する場合に、従来技術では、歪み速度「∂ε(t)/∂t」及び歪み感度「K(ε,t)」を所定の係数として扱い、応力発光ポテンシャル(励起エネルギー)が均一に消費されるモデルで分析されている。
【0035】
しかし、これまでに発生した歪み以上の高歪みが発生した場合には、歪み感度が回復する現象が表れるため、歪みが繰り返し発生する状況においては、均一に励起エネルギーが消費される従来モデルで分析すると、発生した歪みを過大評価してしまう可能性がある。このため、本実施の形態では、歪みごとの応力発光ポテンシャルを意味する「反応粒子化量」が存在をすることを前提としてモデル分析を行っている。
【0036】
図2(a)は、応力発光体を含む応力発光塗料2に励起光L0を照射して応力発光体を励起状態にした状態(歪み未経験時)を示している。図中に示す応力検出限界は、計測対象部材101に物理的な破損が生ずる限界を意味する。また、一般的には飽和時に反応粒子化量(応力発光ポテンシャル)が不均一分布となるが、ここでは説明の便宜上、反応粒子化量(応力発光ポテンシャル)が均一分布となる場合を示している。また、ここでは横軸を応力としているが、応力と歪みは線形の関係にあるため、横軸を歪みとすることもできる。
【0037】
かかる図2(a)の状態において低歪みが発生したならば、図2(b)に示すように、低歪みによって反応する粒子が消費され、低歪みに対する歪み感度のみが選択的に消費される。なお、高歪みに対応する応力については、反応粒子化量(応力発光ポテンシャル)は消費されない。そして、低歪みが連続して発生し、該低歪みに対応する反応粒子化量(応力発光ポテンシャル)が全て消費されたならば、その後に低歪みが生じたとしても発光しないことになる。
【0038】
その後、高歪みが発生したならば、図2(c)に示すように、該高歪みによって反応する粒子が消費され、高歪みに対する歪み感度のみが選択的に消費される。この際、反応粒子化量(応力発光ポテンシャル)の高い領域が消費されるため、歪み感度が回復する現象が表れる。このため、応力発光ポテンシャルが均一に消費される従来モデルで分析した場合には、歪み感度が回復する現象を実際よりも高い歪みとして評価してしまう可能性が生ずることになる。
【0039】
このため、歪みが繰り返し発生する状況においては、歪みに反応する粒子の消費を考慮した歪み感度の分析が必要となる。この歪み感度K(ε,t)は、応力発光ポテンシャルの最大値(飽和値)を「Ψmax(ε)」とした場合に、式(2)に示すように、歪みεと時刻tの2変数の関数となる。
【数2】
【0040】
ここで、式(2)を用いて歪み感度K(ε,t)の分析を行う。まず、撮像部30で撮像した計測画像データD1から、t=0から一定時間(Δt)ごとの画像フレーム(i=0,1,2・・・)を取得し、応力発光L(t)を観測する。式(2)の右辺の第2項は、ε,tを変数としているので次のように置き換える。
【数3】
【0041】
式(3)において、i番目(時刻iΔt)のフレームについて歪み感度K(ε,t)を分析する場合には、M(ε,t)はi-1番目(時刻t-Δt)のフレームに対して算出した値を用いて、次のように変形することができる。Mは、過去の微小時間幅までの履歴を時間積算した値であり、時間のみの積算となる。このMは、すべての歪み領域にあらゆる時刻で定義される。
【数4】
【0042】
ここで、式(4)について各フレームでの分析を行う。なお、積分については、図3に示したフレーム間の時間変化(Δt)における台形の面積を加算していくこととする。
【0043】
i=0(t=0)
【数5】
i=1(t=Δt)
【数6】
i=2(t=2Δt)
【数7】
i≧3(t≧3Δt)
【数8】
【0044】
式(8)の右辺の第1項は直前のフレーム分析において算出済みであるため、ここで第2項について分析する。
【数9】
【0045】
式(9)の右辺の各項を参照すると、全ての項が直前のフレーム(t-Δt)以前において算出されている。以上より、式(2)は直前のフレーム(t-Δt)以前で既に算出した値及び観測したΨmax(ε)により構成されるので、次のように置き換えることができる。
【数10】
【0046】
次に、歪みの分析式である式(1)について検討する。式(1)において、i番目(時刻iΔt)のフレームについて歪みを分析する場合に、i-1番目(時刻t-Δt)のフレームに対して算出した値を用いて、次のように変形することができる。
【数11】
【0047】
式(11)に式(10)を代入して変形する。
【数12】
【0048】
式(12)において、ε(t)以外の項及び係数については全て直前のフレーム(t-Δt)以前で既に算出した値及び観測値である。すなわち、式(12)はε(t)に関する2次方程式となる。このε(t)に関する2次方程式を解くことにより、時刻tにおける歪みε(t)を算出することができる。
【0049】
なお、上記の各式の歪みεは、各フレームにおいて歪みεの分析が別途必要となる。例えば、式(4)についてM(ε,Δt)と歪みεとの関係を図示すると図4のようになる。
【0050】
図4(a)に示した「i=0(t=0)」の状態では、M(ε,Δt)は「0」となる。同様に、図4(b)に示した「i=1(t=Δt)」の状態においても、M(ε,Δt)は「0」となる。
【0051】
これに対して、図4(c)に示した「i=2(t=2Δt)」の状態では、歪みεが「a」となるまでM(ε,2Δt)が線形に増加するとともに、その後M(ε,2Δt)が線形に減少し、歪みεが「b」となった時点でM(ε,2Δt)が「0」となる。
【0052】
また、図4(d)に示した「i=3(t=3Δt)」の状態では、歪みεが「a」となるまでM(ε,3Δt)が線形に増加するとともに、その後M(ε,3Δt)が線形にやや減少し、歪みεが「b」となった時点でM(ε,3Δt)が所定値となる。
【0053】
また、図4(e)に示した「i=4(t=4Δt)」の状態では、歪みεが「a」となるまでM(ε,4Δt)が急速に増加するとともに、その後M(ε,4Δt)が線形にやや減少し、歪みεが「b」となった時点でM(ε,4Δt)が所定値となる。その後、引き続きM(ε,4Δt)が線形に減少する。
【0054】
また、図4(f)に示した「i=5(t=5Δt)」の状態では、歪みεが「a」となるまでM(ε,5Δt)が急速に増加するとともに、その後M(ε,5Δt)が線形に少し減少し、歪みεが「b」となった時点でM(ε,5Δt)が所定値となる。その後、引き続きM(ε,5Δt)が急速に減少する。
【0055】
ここで、Δtは十分小さな時間であり、実用上は、Δtが動画のフレームレートになることが多い。歪み速度に対してΔtが大きすぎると、分析上不連続な歪み変動をもたらして歪みポテンシャルの分布がとびとびの値を持ってしまい、不適切な結果を返す場合がある。その場合、歪みポテンシャルはΔtが十分小さいときと同じになるように、応力発光ポテンシャルを調整する必要が生ずる。なお、歪み速度が負になることが考えられるが、歪みポテンシャルが回復することは無いので、ここでは負になるケースを除外している。
【0056】
なお、歪み0の領域のMについては、Ψmax(0)を小さくすることで対応することができる。また、ここでは歪みεについて正の領域しか図示していないが、実際には正負ともに存在し、それぞれの応力発光ポテンシャルが区別される。
【0057】
<歪み感度及び歪みの算出処理>
次に、図1に示した制御部13による歪み感度及び歪みの算出処理手順について説明する。図5は、図1に示した制御部13による歪み感度及び歪みの算出処理手順を示すフローチャートである。
【0058】
図5に示すように、まず、応力発光取得部15は、応力発光体に加えられる基準応力SS(i)(i=1,2,3・・・)に応じた基準応力発光LMS(i)を取得し、基準応力発光データD2として記憶する(ステップS101)。
【0059】
その後、基準応力発光LMS(i)の取得を終了したか否かを判定する(ステップ102)。基準応力発光LMS(i)の取得を終了していないならば(ステップS102;No)、ステップ101に移行して上記の基準応力発光LMS(i)の取得を繰り返す。一方、基準応力発光LMS(i)の取得を終了したならば(ステップS102;Yes)、応力発光計測を開始するか否かを判定する(ステップ103)。
【0060】
応力発光計測を開始しない場合には(ステップS103;No)、ステップS103の判定処理を繰り返す。一方、応力発光計測を開始するならば(ステップS103;Yes)、励起光照射部20により励起光を照射し、計測画像取得制御部14の制御のもとに、撮像部30を介して応力発光塗料2の計測画像を撮像し、計測画像データD1として記憶する(ステップS104)。また、応力発光取得部15の制御のもとに応力発光量を算出し、実測応力発光データD3として記憶する(ステップS105)。
【0061】
基準応力発光データD2、実測応力発光データD3、歪み感度データD4及び歪みデータD5を用いて歪み感度を算出し、歪み感度データD4に記憶するとともに(ステップS106)、歪みを算出して歪みデータD5に記憶する(ステップS107)。
【0062】
その後、応力発光計測を終了するか否かを判定する(ステップS108)。応力発光計測を終了しない場合には(ステップS108;No)、ステップS104に移行して上記の各種データの取得及び算出処理を繰り返し行う。一方、応力発光計測を終了するならば(ステップS108;Yes)、本処理を終了する。
【0063】
上述してきたように、本実施の形態に係る応力発光計測装置1は、計測画像取得制御部14が撮像部30により撮像された応力発光塗料2の計測画像を取得し、応力発光取得部15が計測画像データD1から応力発光LMを取得し、歪み感度算出部16がそれ以前に発生した歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度を基に歪み感度を算出し、歪み算出部17がそれ以前に発生した歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて歪みを算出するよう構成したため、応力発光体による応力発光量から精度良く歪みを算出し、もって繰り返し歪みが発生する場合における歪み推定精度を高めることができる。
【0064】
なお、上記実施の形態では、応力発光計測において計測画像データD1を取得する都度、実測応力発光データD3、歪み感度データD4及び歪みデータD5を算出するよう構成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、必要な計測画像データD1を取得した後、まとめて実測応力発光データD3、歪み感度データD4及び歪みデータD5を算出することもできる。
【0065】
また、歪み感度データD4及び歪みデータD5を記憶部12に記憶するのではなく、実測応力発光データD3のみを記憶部12に記憶しておき、この実測応力発光データD3を用いて歪み感度データD4及び歪みデータD5をバッチ処理的にまとめて算出するよう構成することもできる。すなわち、歪み感度算出部16及び歪み算出部17は、記憶部12に記憶された過去の計測画像データD3の応力発光量から算出された歪み及びその影響を受けて変化した歪み感度に基づいて、歪み感度及び歪み量をそれぞれ算出することになる。
【0066】
また、上記実施の形態では、内部に発生する応力発光体による応力発光について考慮対象外としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、内部に発生する応力発光体による応力発光を含めたモデルにより分析を行うこともできる。応力発光体を含む応力発光塗料が透明体である場合には、かかるモデルを用いることが有用である。
【0067】
なお、上記の実施の形態で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の応力発光計測装置及び応力発光計測方法は、応力発光体による応力発光量から精度良く歪みを逆算する場合に有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 応力発光計測装置
2 応力発光塗料
10 装置本体
11 入出力部
12 記憶部
13 制御部
14 計測画像取得制御部
15 応力発光取得部
16 歪み感度算出部
17 歪み算出部
20 励起光照射部
30 撮像部
101 計測対象部材
D1 計測画像データ
D2 基準応力発光データ
D3 実測応力発光データ
D4 歪み感度データ
D5 歪みデータ
L0 励起光
L1 自然放出光
L2 応力発光
P 力
S 応力
図1
図2
図3
図4
図5