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特許7184706電力変換装置、それを用いたシステム、およびその診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】電力変換装置、それを用いたシステム、およびその診断方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221129BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 F
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019089902
(22)【出願日】2019-05-10
(65)【公開番号】P2020188540
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牧 晃司
【審査官】東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-20278(JP,A)
【文献】特開2006-158065(JP,A)
【文献】特開2009-142112(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42- 7/98
H02P 21/00-27/18
G01R 31/34
G01R 31/62
G01R 31/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ回路と、キャリア信号と電圧指令値とを比較し、前記インバータ回路を駆動するPWM信号を生成するPWM信号生成部を備え、巻線を備えた回転機ないし変圧器に接続されて電力を授受する電力変換装置であって、
前記回転機ないし変圧器と授受する電流を検出する電流センサと、
前記回転機ないし変圧器の巻線の絶縁劣化を診断する診断部と、を備え、
前記診断部は、
前記キャリア信号の山ないし谷ないしその両方のタイミングで前記電流センサの電流を検出して電流検出値を得る電流サンプリング部と、
前記電流の検出タイミングが前記電圧指令値と前記キャリア信号が交差するタイミングから一定時間以内の場合に、該当する検出タイミングにおける前記電流検出値を絶縁診断用として抽出する抽出部と、
抽出した前記電流検出値から診断に用いる指標値を算出する指標値算出部と、
算出した前記指標値の正常状態からの変化で前記回転機ないし変圧器の巻線の絶縁劣化を検知する絶縁劣化検知部と、
を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記絶縁劣化検知部は、前記巻線の静電容量の変化を検知することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記指標値算出部は、前記電流検出値から低周波成分を除去した後、絶対値または二乗値を一定時間合算して得られる値を、前記指標値とすることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換装置において、
学習期間中に算出した前記指標値を用いて、絶縁劣化を検知する判定基準を決定する機能を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記指標値の算出を開始する条件を指定する機能を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電力変換装置において、
算出した前記指標値を、運転状態を規定するパラメータと共に出力する機能を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記キャリア信号は、三角波であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記キャリア信号は、最小値から最大値までの増加期間の長さと最大値から最小値までの減少期間の長さとが異なる非対称三角波であることを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電力変換装置において、
診断開始を指示するためのユーザインターフェイスを備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
請求項1に記載の電力変換装置において、
診断可否、診断進捗状況、ないし診断結果を表示または外部に通信するインターフェイスを備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
請求項1に記載の電力変換装置において、
電力変換装置は、三相電力を授受するものであることを特徴とする電力変換装置。
【請求項12】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記診断部は、電力変換装置に対して外付けされていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れか1項に記載の電力変換装置と、前記電力変換装置と接続されて電力を授受する回転機ないし変圧器とを備えることを特徴とするシステム。
【請求項14】
インバータ回路と、キャリア信号と電圧指令値とを比較し、前記インバータ回路を駆動するPWM信号を生成するPWM信号生成部を備える電力変換装置と、前記電力変換装置と接続されて電力を授受する巻線を備えた回転機ないし変圧器を備えるシステムの診断方法であって、
前記キャリア信号の山ないし谷ないしその両方のタイミングで、前記回転機ないし変圧器と授受する電流を検出する電流センサからの電流を検出して電流検出値を得るステップと、
前記電流の検出タイミングが前記電圧指令値と前記キャリア信号が交差するタイミングから一定時間以内の場合に、該当する検出タイミングにおける前記電流検出値を絶縁診断用として抽出するステップと、
抽出した前記電流検出値から診断に用いる指標値を算出するステップと、
算出した前記指標値の正常状態からの変化で前記回転機ないし変圧器の前記巻線の絶縁劣化を検知するステップと、
を備えることを特徴とするシステムの診断方法。
【請求項15】
請求項14に記載のシステムの診断方法において、
前記絶縁劣化を検知するステップは、前記巻線の静電容量の変化を検知することを特徴とするシステムの診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータや発電機といった回転機ないし変圧器と接続され、それらと電力の授受を行う電力変換装置、それを用いたシステム、およびその診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機といった回転機が突発故障により停止すると、大きな損害が発生する。特に工場設備等に用いられるモータの突発故障による停止は、生産設備の稼働率低下や生産計画の見直しを余儀なくされるなど、影響が大きい。そのため、実環境で使用している状態のまま高精度に故障予兆診断を実施し、モータの突発故障を防止するニーズが高まっている。
【0003】
一方、太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの普及に伴い、電力変換装置の下流(出力側)に位置する変圧器が増加している。そういった変圧器には電力変換装置が発生する電圧パルスが常に印加されるため、絶縁劣化の加速が懸念されており、運転中の絶縁診断が望まれている。
【0004】
そのようなニーズを受けて、特許文献1では、電力変換装置からステップ状の電圧をモータに印加し、電流を高速にサンプリングしてリンギングのピーク値や周波数を抽出し、コイル絶縁の劣化を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2014/0176152号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、電力変換装置からステップ状の電圧をモータに印加し、電流を高速にサンプリングしてリンギングのピーク値や周波数を抽出し、コイル絶縁の劣化を検出する技術が開示されている。しかしこの技術では、リンギング波形を直接計測できるほど高速にサンプリングしているので、計測機器が高価となるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術が抱える問題を解決するためになされたものであり、低コストかつ早期に回転機ないし変圧器の絶縁故障の予兆を検知する機能を備えた電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための、本発明の「電力変換装置」の一例を挙げるならば、
インバータ回路と、キャリア信号と電圧指令値とを比較し、前記インバータ回路を駆動するPWM信号を生成するPWM信号生成部を備え、巻線を備えた回転機ないし変圧器に接続されて電力を授受する電力変換装置であって、前記回転機ないし変圧器と授受する電流を検出する電流センサと、前記回転機ないし変圧器の巻線の絶縁劣化を診断する診断部と、を備え、前記診断部は、前記キャリア信号の山ないし谷ないしその両方のタイミングで前記電流センサの電流を検出して電流検出値を得る電流サンプリング部と、前記電流の検出タイミングが前記電圧指令値と前記キャリア信号が交差するタイミングから一定時間以内の場合に、該当する検出タイミングにおける前記電流検出値を絶縁診断用として抽出する抽出部と、抽出した前記電流検出値から診断に用いる指標値を算出する指標値算出部と、算出した前記指標値の正常状態からの変化で前記回転機ないし変圧器の巻線の絶縁劣化を検知する絶縁劣化検知部と、を備えるものである。
【0009】
また、本発明の「電力変換装置を用いたシステムの診断方法」の一例を挙げるならば、
インバータ回路と、キャリア信号と電圧指令値とを比較し、前記インバータ回路を駆動するPWM信号を生成するPWM信号生成部を備える電力変換装置と、前記電力変換装置と接続されて電力を授受する巻線を備えた回転機ないし変圧器を備えるシステムの診断方法であって、前記キャリア信号の山ないし谷ないしその両方のタイミングで、前記回転機ないし変圧器と授受する電流を検出する電流センサからの電流を検出して電流検出値を得るステップと、前記電流の検出タイミングが前記電圧指令値と前記キャリア信号が交差するタイミングから一定時間以内の場合に、該当する検出タイミングにおける前記電流検出値を絶縁診断用として抽出するステップと、抽出した前記電流検出値から診断に用いる指標値を算出するステップと、算出した前記指標値の正常状態からの変化で前記回転機ないし変圧器の前記巻線の絶縁劣化を検知するステップと、を備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低コストかつ早期に回転機ないし変圧器の絶縁故障の予兆を検知する機能を備えた電力変換装置を提供できる。
【0011】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施例1の電力変換装置、およびそれを用いたシステムの基本構成図である。
図2】パルス幅変調制御における電圧パルス列の代表例である。
図3】実施例1の電力変換装置において発生する代表的なリンギング電流波形である。
図4】実施例1の電力変換装置における電流サンプリングの概念図である。
図5】実施例1の電力変換装置におけるキャリア信号、PWMパルス、相電流の概略図である。
図6】実施例1の電力変換装置が備える、回転機ないし変圧器の絶縁劣化を診断するフローチャートである。
図7】実施例1の制御・診断部の詳細を示すブロック構成図である。
図8】本発明の実施例2の電力変換装置、およびそれを用いたシステムの基本構成図である。
図9】本発明の実施例3の電力変換装置におけるキャリア信号、PWMパルス、相電流の概略図である。
図10】本発明の実施例4の電力変換装置、およびそれを用いたシステムの基本構成図である。
図11】本発明の電力変換装置を組み込んだポンプ、空気圧縮機、搬送テーブルの概略図である。
図12】本発明の電力変換装置を組み込んだ太陽光発電システムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を、図面を用いて説明する。なお、実施例を説明するための各図において、同一の構成要素にはなるべく同一の名称、符号を付して、その繰り返しの説明を省略する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明の実施例1に関わる電力変換装置、およびそれを用いたシステムの基本構成図である。本システムは、直流電源11、インバータ主回路12、ゲートドライバ13、制御・診断部14、表示部15、電流センサ16a、16b、16cを備える電力変換装置10と、電力変換装置10と接続されて電力の授受を行う回転機20とを備える。直流電源11は、交流電源からの入力を整流したものでもよいし、蓄電池やコンデンサでもよい。そして、直流電源11は、電力変換装置10の外部に設けられていてもよい。回転機の電機子コイル21として、図1ではY結線の場合を示したが、Δ結線でもよい。また、ここでは給電線を3本利用する三相モータの場合を示したが、異なる相数であってもよい。
【0015】
電力変換装置10では、制御・診断部14で作成したPWMパルスに基づいて、ゲートドライバ13で駆動信号を作成し、インバータ主回路12のスイッチング素子を切り換えることにより、直流電源11から回転機20を駆動する三相交流を作成する。そして、電流センサ16a、16b、16cで検知した電流検知信号に基づいてPWMパルスの作成を制御するとともに、後述するように、制御・診断部14で絶縁故障の予兆診断を行い、表示部15で表示する。
【0016】
回転機20の電機子コイル21の絶縁部材が劣化すると、絶縁抵抗が低下するより先に、静電容量が変化する。例えば、絶縁部材が熱や振動などにより劣化すると、部材内部に空隙が発生したり、部材表面に剥離が発生したりする。すると、絶縁部材の誘電率よりも空気の誘電率のほうが一般に小さいため、コイル導体-鉄心間の静電容量は減少傾向を示す。その一方、発生した空隙や剥離に水分が入り込んだ場合は、絶縁部材の誘電率よりも水の誘電率のほうが一般に大きいため、コイル導体-鉄心間の静電容量は増加する。そして水分が無くなれば、再び減少する。劣化が進展して空隙や剥離が多いほど、水分量に伴う静電容量の増減幅は大きくなる。本発明では、こういった静電容量の変化を検出することで、絶縁劣化を早期に検知し、故障予兆とする。
【0017】
静電容量の変化は、リンギング電流波形の変化という形で検出する。リンギング電流波形は、静電容量の変化に伴ってそのピーク値や周波数が変化するので、それを捉えることが出来れば、静電容量の変化を検出できる。
【0018】
本発明では、電流センサによる電流計測は電力変換装置が回転機ないし変圧器に対してパルス幅変調された電圧パルスを印加している最中に行う。図2に、その電圧パルス列の代表例(三相電圧)を示す。
【0019】
続いて図3に、電圧パルスが印加されたときに、ある1相の電流センサで計測される代表的な電流波形を示す。図3(a)は電圧パルスの立ち上がりのタイミングの電流波形であり、図3(b)は電圧パルスの立ち下がりのタイミングの電流波形である。なお、時刻ゼロの時点の相電流の値は、必ずしもゼロではない。いずれの図においても、正常状態の場合(正常状態)と、回転機の電機子コイルの絶縁部材が劣化して、電流計測している相の電機子コイルの対地静電容量が2倍に増加した場合(劣化状態)を重ねて示している。電圧パルスの立ち上がりおよび立ち下がりにおいて、電流のリンギング(振動)が発生し、そのピーク値や周波数が正常状態と劣化状態とで異なっていることが分かる。そのため、複数点をサンプリングしてリンギング波形の全体をある程度捉えることができれば、劣化兆候を検知することができる。
【0020】
このリンギング周波数は典型的には10MHz程度であり、そのピーク値や周波数を精度よく計測して劣化兆候を早期に捉えるには、従来技術では100MHz以上の高速サンプリングが必要であった。そのため、電力変換装置が通常備える制御用マイコンでは速度が追いつかず、高価な計測機器を追加で設置する必要があった。
【0021】
そこで本発明では、図4に概念図を示すように、印加する電圧パルス幅を徐々に変えていきながら、パルス幅を一定の比率で分割するタイミング、例えば1:1であればパルス中心のタイミングで電流をサンプリングして合成すれば、リンギング電流波形を再構成できることに着目した。すなわち、電流計測のタイミングがパルス中心に固定されていても、パルス幅が変化することで、パルスの立ち上がり乃至立ち下がりの開始からの遅れ時間が互いに異なるようなタイミングで計測された電流値を収集できる。電力変換装置にてモータを駆動する場合に通常用いられるパルス幅変調制御では、図2に示したように印加する電圧パルスの幅が時々刻々変化していくため、それをそのまま活用できる。また電流計測方法も、通常用いられる、キャリア信号の山ないし谷ないしその両方のタイミングで計測する方法が踏襲できる。
【0022】
図5に、キャリア信号、PWMパルス、電流センサで検出した相電流の関係を示す。三角波から成るキャリア信号と電圧指令値(例えば、正弦波)を比較することにより、電圧指令値とキャリア信号が交差するタイミングで立ち上がり立ち下がるPWMパルスが作成される。また、キャリア信号の山または谷のタイミングで相電流をサンプリングする。そして、図に示すように、PWMパルスが細くなった(デューティ比が0%ないし100%に近づいた)ときだけ診断用データとして選択する。つまり、電流の検出タイミングが電圧指令値とキャリア信号が交差するタイミングから一定時間以内の場合に、診断用データとして選択する。これにより、制御用の電流計測の延長線上でリンギング波形のみが自然に抽出される。なお、図5において、図5(a)はキャリアの山で抽出する場合を、図5(b)はキャリアの谷で抽出する場合を示している。
【0023】
図6に、本実施例の電力変換装置が備える、回転機の絶縁劣化を診断するフローチャートを示す。最初に、ステップS100にて、診断モードを起動する。診断開始を指示するためのユーザインターフェイスを備え、例えば電力変換装置の設定項目から診断モードの起動を選択する方法のほか、診断モードを起動する機械式ボタンを押す形でもよいし、ディスプレイに表示された「診断モード」ボタンをタッチする形でもよい。あるいは、特定の日時に自動的に起動するように設定してもよいし、特定の回転機制御動作の前ないし後に自動的に起動するように設定してもよい。また、診断モードを開始する条件を指定するようにしてもよい。
【0024】
次にステップS101にて、パルス幅変調された電圧パルスが発生していることを確認する。
【0025】
次にステップS102で、キャリア信号の山ないし谷ないしその両方で電流をサンプリングする。そして、ステップS103で、電流検出タイミングがパルスの立ち上がり或いは立ち下がりから一定時間以内かを判断し、一定時間以内の場合は、ステップS104で電流サンプリング値を抽出する。なお、ステップS102~S104は複数回繰り返してもよい。
【0026】
次にステップS105にて、抽出した電流データから劣化兆候を示す指標値を算出する。相電流の基本波周波数成分は絶縁診断には使用しないため、ローパスフィルタなどで除去する。その後は、例えば二乗値ないし絶対値を一定時間合算して移動平均を計算してもよいし、リンギングのピーク値を抽出してもよい。あるいは、リンギングの周期を抽出してもよい。
【0027】
そしてステップS106にて、算出した指標値があらかじめ設定した閾値を上回ったか否か、ないし下回ったか否か、あるいは指標値をベクトル量子化クラスタリングなどの機械学習のアルゴリズムで分析したときの異常度があらかじめ設定した上限を超えているか否かを判定し、判定基準を満たした場合は劣化兆候ありと診断する。判定基準としては、予め学習期間中に算出した指標値を用いてもよい。
【0028】
最後にステップS107にて、診断結果を表示して診断を完了する。表示方法はディスプレイ、ランプ、ブザーなど人間の五感に訴えるものでもよいし、紙や電子ファイルに記録されるものでもよい。あるいは、通信ネットワークを経由して外部装置へ送信してもよい。また、診断結果だけでなく、そもそも診断が実施できたか否かの情報や、診断の進捗状況の情報を表示或いは送信してもよい。また、診断結果とともに、運転状態を規定するパラメータ、例えば回転数やトルクなどを出力するようにしてもよい。これにより、より精密な診断を行うことができる。
【0029】
図7に、図6のフローチャートを実現する、図1の制御・診断部14のブロック構成図を示す。制御・診断部14は、図7に示すように、キャリア信号と電圧指令値を比較してPWMパルスを作成するPWM信号生成部141を備えている。また、図7に示すように、電流センサで検知した相電流をPWMパルスでサンプリングする電流サンプリング部142、パルスの立ち上がり/立ち下がりから一定時間以内の電流サンプリング値を抽出する抽出部143、抽出した電流データから劣化兆候を示す指標値を算出する指標値算出部144、絶縁劣化を検知する絶縁劣化検知部145を備えている。制御・診断部14のこれらの処理部は、コンピュータにプログラムを組み込んでソフトウェアで構成することができる。
【0030】
本実施例の電力変換装置によれば、高速サンプリングを必要としないため、電力変換装置に搭載されたマイコンおよび電流センサでも診断を実行できる。また、絶縁抵抗ではなく絶縁部材の静電容量を計測するため、絶縁材料の劣化を高感度に検知できる。また、電力変換装置の通常運転における電流計測タイミングと共通であるため、通常運転中に無理なく診断用データを収集できる。さらに、診断に必要なリンギング電流波形データのみが抽出されるため、機械学習などの後処理計算や通信の負荷も少なくて済む。以上により、低コストかつ早期に回転機の絶縁故障の予兆を検知する機能を備えた電力変換装置、およびそれを用いたシステムを実現できる。
【実施例2】
【0031】
図8に、本発明の実施例2の電力変換装置を有するシステムの基本構成図を示す。実施例1との相違点は、回転機の代わりに変圧器30が電力変換装置10に接続されている点である。電力変換装置10の絶縁・診断部14などの構成は、実施例1と同様である。なお、図8ではΔ-Δ結線の場合を示したが、その他の結線、例えばΔ-Y結線やY-Δ結線でもよい。また、ここでは給電線を3本利用する三相変圧器の場合を示したが、異なる相数であってもよい。
【0032】
この電力変換装置と変圧器とから構成されるシステムに対して、実施例1の図6と同様のフローチャートで診断を実施することで、低コストかつ早期に、変圧器の絶縁故障の予兆を検知することができる。
【実施例3】
【0033】
図9に、本発明の実施例3におけるキャリア信号、PWMパルス、電流センサで検出した相電流の概略図を示す。実施例1との相違点は、キャリア信号の三角波が、図5に示すような対称形ではなく、前後非対称になっている点である。すなわち、キャリア信号として、最小値から最大値までの増加期間の長さと最大値から最小値までの減少期間の長さとが異なる非対称三角波を用いる。これはリンギング減衰時間が最小パルス幅に対しても短すぎると、パルス中心までリンギングが続かず、パルス中心での電流サンプリングでは波形を捉えることが出来ないためである。
【0034】
そこで、本実施例ではキャリア信号の三角波を前後非対称にして、電流サンプリングのタイミングをパルス中心からずらす。図は、キャリア信号の谷をPWMパルスの立ち上がりに近づけた例である。こうすることで、リンギング減衰時間が短い場合でもリンギング電流波形を捉えることが可能になり、絶縁診断を実施することができる。
【実施例4】
【0035】
図10に、本発明の実施例4に関わる電力変換装置、およびそれを用いたシステムの基本構成図を示す。実施例1との相違点は、回転機ないし変圧器と接続された電力変換装置10とは別に、診断装置40を外付けしている点である。診断装置40の診断部41は、電力変換装置10の制御部17からパルス幅やパルス発生タイミングの情報を入手し、適切なタイミングで相電流の電流サンプリングを実施する。診断結果は、表示部42で表示する。
【0036】
本実施例によれば、このような構成にすることで、制御用マイコンの性能に影響されることなく、劣化兆候を示す指標値を算出することができる。
【実施例5】
【0037】
図11に、本発明の電力変換装置を組み込んだ製品の概略図を示す。
【0038】
図11(a)は、本発明に関わる電力変換装置を組み込んだポンプの概略図である。電力変換装置10と接続されたモータ30には、ポンプ51の羽根車が接続されていて、水などの液体を吸引・送出する。
【0039】
また、図11(b)は、本発明に関わる電力変換装置を組み込んだ空気圧縮機の概略図である。電力変換装置10と接続されたモータ30に、空気を圧縮するエアエンド52が連結されていて、圧縮空気を送出する。
【0040】
また、図11(c)は、本発明に関わる電力変換装置を組み込んだ搬送テーブルの概略図である。電力変換装置10と接続されたモータ30に、ギヤやローラなど53を介して搬送テーブル54が接続されている。
【0041】
このように、本発明に関わる電力変換装置を各種産業機器に組み込むことで、それらに組み込まれたモータの突発故障を減少させることができる。
【実施例6】
【0042】
図12に、本発明に関わる電力変換装置を組み込んだ太陽光発電システムの概略図を示す。太陽光パネル55からの直流電圧を電力変換装置10にて交流に変換し、それを変圧器30で昇圧して電力系統56に接続している。
【0043】
本実施例により、電力変換装置の下流(出力側)に接続された変圧器の絶縁劣化を診断することが出来る。なお、太陽光パネルの部分を蓄電池に置き換えた蓄電システムに対しても、本発明は適用可能である。
【0044】
以上、実施例について説明したが、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0045】
10…電力変換装置
11…直流電源
12…インバータ主回路
13…ゲートドライバ
14…制御・診断部
15…表示部
16…電流センサ
17…制御部
20…回転機
21…電機子コイル
30…変圧器
40…診断装置
41…診断部
42…表示部
51…ポンプ
52…エアエンド
53…ギヤ、ローラなど
54…テーブル
55…太陽光パネル
56…電力系統
141…PWM信号生成部
142…電流サンプリング部
143…抽出部
144…指標値算出部
145…絶縁劣化検知部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12