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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】電子レンジ用紙カップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 81/34 20060101AFI20221129BHJP
   B65D 3/06 20060101ALI20221129BHJP
   B65D 3/14 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B65D81/34 U
B65D3/06 B
B65D3/14 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019150346
(22)【出願日】2019-08-20
(62)【分割の表示】P 2015162937の分割
【原出願日】2015-08-20
(65)【公開番号】P2019214429
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2019-08-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2014174409
(32)【優先日】2014-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】東京UIT国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】武本 一平
(72)【発明者】
【氏名】茶園 倫光
(72)【発明者】
【氏名】吉中 努
(72)【発明者】
【氏名】高橋 麻貴子
【合議体】
【審判長】井上 茂夫
【審判官】當間 庸裕
【審判官】久保 克彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-148319(JP,A)
【文献】特開2002-211534(JP,A)
【文献】特開2003-128161(JP,A)
【文献】特開2002-284136(JP,A)
【文献】特開2002-345639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D3/06
B65D3/14
B65D81/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の胴部と,胴部の下端を閉じる底部とを備え,上記胴部の下端部が内側に屈曲されて,上記底部の外面に密着している電子レンジ用紙カップの製造方法であって,
上記胴部下端部が屈曲されていない紙カップを用意し,
屈曲されていない上記胴部下端部の外側から押し型を押し付けて,上記胴部下端部を内側に屈曲しながら,上記胴部下端部の外面に,底部中心に向かう方向にのびる複数の筋状の罫上記胴部下端部の全体にわたって規則的に間隔をあけて形成る,
電子レンジ用紙カップの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は電子レンジ用紙カップ(紙容器)に関する。電子レンジ用とは,電子レンジのみのためのものと限定する趣旨ではなく,電子レンジで使えるという意味である。
【背景技術】
【0002】
紙カップは即席食品,スナック菓子類のみならず,飲料,惣菜等の容器としても広く使用されている。これらの紙カップに食料品,飲料水等を入れたまま電子レンジで加熱,調理する場合もある。
【0003】
内容物が入った紙カップを電子レンジで加熱,調理した場合,紙カップの胴部の下端部を延ばして形成された,いわゆる糸じりの部分に焦げを生じることがあるという問題がある。特に紙が重なる接合部分で発熱量が大きくなり(放熱量は大きくならない),蓄熱し易く,焦げが発生し易いと考えられる。他方,内容物に接している部分では発生した熱が内容物によって奪われるので,焦げは発生しにくい。
【0004】
特許文献1には,胴部と底部とから構成され,胴部の下端部(糸じり)が内側に屈曲され,底部の周縁部に外面から被さるように接合されている電子レンジ用紙カップが記載されている。特許文献2には,胴部と底部の接合部分を内側にカールさせて環状脚部を形成した電子レンジ対応紙カップが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-81358号公報
【文献】特開2003-192043号公報
【0006】
胴部下端部(糸じり)を内側に屈曲するまたはカールして糸じり部分を無くすことで,電子レンジで加熱しても焦げの発生を招きにくくすることができる。しかしながら,胴部下端部を内側に屈曲すると屈曲部分にランダムに皺がよる。屈曲部分は容器の底に位置するので,カップ底面のフラット性が悪くなり,カップを自立させるときに安定性を欠くことがある。また,ランダムな皺がよると屈曲部分とカップ底面との間にランダムなすき間が生じ,屈曲部分とカップ底面との間の接着不良の問題が生じることもある。
【発明の開示】
【0007】
この発明は,電子レンジで使用しても焦げにくく,かつ安定して自立可能なフラット・ボトム・タイプの紙カップを提供することを目的とする。
【0008】
この発明はまた,屈曲部分とカップ底面との接着不良の問題を生じにくくすることを目的とする。
【0009】
この発明による電子レンジ用紙カップは,筒状の胴部と,胴部の下端を閉じる底部とを備え,上記胴部の下端部が内側に屈曲されて,上記底部の外面に密着しており,上記底部外面に密着した胴部下端部の外面に,底部中心に向かう方向にのびる複数の罫線が間をあけて形成されていることを特徴とする。
【0010】
紙カップの底部外面に被さる接合部(屈曲された胴部下端部)に,底部中心に向かう方向にのびる複数の罫線(溝部,凹み)が間をあけて形成されている。上記罫線は,接合部を屈曲して底部外面に被せる前に形成される。
【0011】
接合部に対して何らの処理も施さずに底部外面に向けて内側に屈曲すると,屈曲された接合部にはランダムに皺がよる。接合部にランダムに皺がよっていると,カップ底面のフラット性が悪くなり,カップを自立させるときに安定性を欠くことがある。この発明によると,接合部に底部中心に向かう方向にのびる複数の罫線が間隔をあけて形成されているので,この罫線によって内側に屈曲された接合部の余剰部分(内側に屈曲したときに皺になる部分)が吸収され,接合部にランダムな皺は形成されない。ほぼフラットな底面を持つ紙カップが形成される。この発明による紙カップはほぼフラットな底面を持つので安定して自立可能である。また接合部は紙カップの底部外面に沿っているので,電子レンジで加熱しても焦げは生じにくい。
【0012】
さらに,紙カップの底部外面に被さる接合部はその罫線が形成されている範囲において紙カップの底部の外面に確実に密着する。複数の罫線は接合部の全体にわたって形成されているので,紙カップの底部の全体にわたって接合部を紙カップの底部外面にしっかりと接合することができる。紙カップの底部外面と接合部との間の接着不良の問題は生じにくい。
【0013】
一実施態様では,上記紙カップの底部の最外層に断熱層が設けられている。紙カップ内に熱い内容物を入れた,または電子レンジによって内容物が熱く加熱された場合であっても,仮に指で触れたとしても熱さを感じさせない。
【0014】
上記紙カップの胴部の外面または内面の少なくとも一方に断熱層を設けてもよい。断熱効果(保温効果)を期待することができる。また胴部を手で触れたときに熱さを感じなくて済む。
【0015】
他の実施態様では,外筒部材が上記胴部の外側に被せられ,かつ固定されている。この実施態様も,断熱効果(保温効果)を期待することができ,また胴部に触れたときに熱さを感じさせない。
【0016】
好ましくは,上記外筒部材の下端に内側への返しが形成されている。たとえば外筒部材の下端部を内側に折り重ねる,または外筒部材の下端部を内側にカールさせることで,上記返しは実現される。紙カップの胴部と外筒部材との間の断熱空間が確保されるので,電子レンジ用紙カップの断熱効果を一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】電子レンジ用紙カップの一部破断正面図である。
図2図1のII-II線に沿う電子レンジ用紙カップの底面図である。
図3】紙カップの製造工程を示す。
図4】紙カップの製造工程を示す。
図5図4のV-V線に沿う拡大断面図である。
図6】胴部材と底部材の接合部分の変形例を示す紙カップ下部の断面図である。
図7】胴部材と底部材の接合部分の他の変形例を示す紙カップ下部の断面図である。
図8】胴部材と底部材の接合部分のさらに他の変形例を示す紙カップ下部の断面図である。
図9】外筒部材を被せた電子レンジ用紙カップの一部破断正面図である。
図10】外筒部材を被せた他の電子レンジ用紙カップの一部破断正面図である。
図11】変形例の電子レンジ用紙カップの一部破断正面図である。
図12図11に示す紙カップの部分拡大図である。
図13】他の変形例の電子レンジ用紙カップの一部破断正面図である。
図14図13に示す紙カップの部分拡大図である。
【実施例
【0018】
以下,図面を参照して,この発明による電子レンジ用紙カップを詳細に説明する。
【0019】
図1はこの発明の実施例による電子レンジ用紙カップの一部を破断して示す正面図である。図2図1のII-II線に沿う電子レンジ用紙カップの底面図である。図1において,分かりやすくするために,紙カップを構成する部材の厚さが強調して示されている。
【0020】
電子レンジ用紙カップ10は,紙を主強度材とする胴部材11と底部材12とから構成されている。胴部材11は上部の径が大きく,下にいくほど径の小さくなる円筒状である。胴部材11の上端部は外側(紙カップ10の内容物が入る部分から離れる向き,外方)に巻かれており,いわゆるカール部(トップカール部)11Aが形成されている。カール部11Aには蓋(図示略)が被せられるか,または接合(接着,溶着)される。
【0021】
胴部材11の下端部は内側(紙カップ10の内容物が入る部分に向かう向き,内方)にほぼ直角に屈曲され(屈曲部を符号11Bで示す),さらに屈曲部11Bの先端部は内側に折り返されている(折り返し部分を符号11Cで示す)。底部材12は円形で,その周縁部分12Aが胴部材11の下端部内にぴったりと嵌っている。底部材12の周縁部分12Aは外側に折り返されており(折り返し部分を符号12Bで示す),この底部材12の折り返し部分12Bが,胴部材11の屈曲部11Bと折り返し部分11Cとの間に挟まれている。これらの互いに挟み込んでいる部分12A,11C,12B,11Bは少なくとも部分的に,好ましくは全面的に,互いに接合(接着,溶着)(固定)されている。内容物によっては,必要に応じて胴部材11および底部材12の内面および/または外面に保護膜(樹脂膜,樹脂フイルムなど)が被覆される。保護膜の具体例としては,たとえばポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),ポリエステル,エチレン・酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。これらは熱シールによる貼り合わせにも用いることができるという利点もある。
【0022】
紙カップ10の底部材12の外面の周縁部には,胴部材11の屈曲部11Bおよび折り返し部分11Cと,底部材12の折り返し部分12Bとが,環状に被さって接合している。以下,紙カップ10の底部材12の外面の周縁部に接合する環状部分の全体を,「環状接合部20」と呼ぶ。
【0023】
図2を参照して,紙カップ10の底面を見ると,環状接合部20が底部材12の外面の周縁部に環状に設けられていることが確認される。環状接合部20の表面には,32本の罫線25が等角度間隔に環状に並んで形成されている。各罫線25はいずれも底部材12の中心に向かう方向にのびている。底部材12の中心を基準にすれば,そこから放射状に各罫線25がのびていると表現することもできる。罫線25の数は適宜調整することができる。
【0024】
図3から図5を参照して,紙カップ10の製造工程を説明する。図3および図4には上下を逆さまにした状態の紙カップが示されている。図5図4のV-V線に沿う拡大断面図である。
【0025】
図3を参照して,はじめに環状接合部20を折り曲げていない,いわば糸じりを備える紙カップが作成される。
【0026】
図4図5を参照して,1センチ程度を長さ(刃渡り)を持つやや先端が鋭利な押し型を,等角度間隔をあけながら,環状接合部20の外側から押しつけてプレスする。プレスされた部分に罫線(凹部,溝部)25が形成される。環状接合部20にはたとえば32本の罫線25が,隣接する罫線25と等角度間隔をあけながら環状に並んで形成される。外側からプレスされることで環状接合部20はその全体が内側にやや傾く。
【0027】
内側に傾いた環状接合部20の外側から超音波プレスが行われる。環状接合部20は完全に屈曲され,かつ底部材12に接合される。ほぼフラットな底面(図2参照)を持つ電子レンジ用紙カップ10が完成する。超音波プレスによって屈曲されるときに,環状接合部20に形成された罫線(凹部)25はその両側から押しつぶされるので,完成した紙カップ10において罫線25は筋(線)に見える。
【0028】
環状接合部20に対してなんらの処理も施さずに単純に内側に屈曲すると,余剰部分によって環状接合部20にはランダムに皺が入ってしまう。ランダムに皺が入るとカップの底(環状接合部20の表面)がフラットになりにくく,カップを自立させるときに安定感に欠けるものになる。これに対し,上述した紙カップ10には,複数の罫線25が等角度間隔で規則的に並んでいるので,この規則的に並ぶ罫線25によって環状接合部20を内側に屈曲したときの余剰部分が吸収されるから,ランダムな皺は環状接合部20に発生しない。紙カップ10は安定的に自立するものとなる。
【0029】
超音波プレスによって環状接合部20を外側からプレスすることによって,環状接合部20の内側のかなり広い範囲が紙カップ10の底部材12に密着する。罫線25が形成されている範囲においては紙カップ10の底部材12に確実に密着する。このため底部材12と環状接合部20との間の接着不良の問題は生じにくい。さらに紙カップ10は糸じりを持たないので,電子レンジで加熱しても焦げにくいものとなっている。
【0030】
図6および図7は環状接合部(屈曲部)についての変形例を示している。この変形例では,底部材12の周縁部12Aが外側に折り返され,この折り返し部分12Bの外面に胴部材11の下端部の屈曲部11Bが接着ないし溶着されている。図6に示す変形例では,胴部材11の屈曲部11Bの長さが長く,環状接合部20Aにおいて,底部材12の折り返し部分12Bの全体が胴部材11の屈曲部11Bによって覆われている。図7に示す変形例では,逆に環状接合部20Bにおいて,底部材12の折り返し部分12Bの長さが長い。もちろん,胴部材11の屈曲部11Bの端面と底部材12の折り返し部分12Bの端面とが面一となるように,胴部材11の屈曲部11Bおよび底部材12の折り返し部分12Bの長さを調整してもよい。
【0031】
図8はさらに他の変形例を示している。この変形例では,底部材12の外面に断熱層31が設けられている。断熱層31は,たとえば発泡剤(炭酸水素ナトリウムなど)が混入した低密度ポリエチレンなどの発泡プラスチックにより構成される。発泡剤が混入した発泡プラスチックを加熱することで発泡が生じる。なお,発泡は紙カップ10を形成した後に行われ,折り返し部分12Bなどの接合部分の発泡は抑制される。底部材12に断熱層31を設けることで,熱い内容物を入れた紙カップ10,または電子レンジで加熱した紙カップ10を手で持ったときに,指が底に触れても熱さを感じさせない。
【0032】
図9はさらに他の変形例を示すもので,胴部材11に外筒部材13が被せられている。外筒部材13は下部よりも上部の径がやや大きい筒状体であり,下端部が内側に折り返されている(折り返し部13A)。外筒部材13内に底部材12を有する胴部材11が上からすっぽりと入る(嵌入される)。外筒部材13の上端が胴部材11のカール部11Aの内側のすき間に入る。胴部材11の外面と外筒部材13の内面との間に断熱空間(すき間)が形成される。外筒部材13は,カール部11Aの位置または折り返し部13Aの位置の一方または両方において,胴部材11に接着剤によって固定される。
【0033】
胴部材11の外側に外筒部材13を設けることで,紙カップ10の胴部を手で持ったときにも熱さを感じさせない。また,紙カップ全体の断熱性(保温性)も向上する。
【0034】
図10に示すように,外筒部材13の下端部に内側に巻かれるカール部13Bを形成してもよい。胴部材11の外面と外筒部材13の内面との間の断熱空間(すき間)を大きくすることができる。
【0035】
図11は胴部材11の外面に断熱層32を設けた変形例の紙カップ10Aを示している。図12図11に示す変形例の紙カップ10Aの一部を拡大して示している。断熱層32は,たとえば低密度ポリエチレンを発泡させることで形成される。発泡は紙カップ10Aを形成した後に行われ,折り返し部分12Bなどの接合部分の発泡は抑制される。熱い内容物を入れた紙カップ10A,または電子レンジで加熱した紙カップ10Aの胴部を手で持ったときに熱さを感じずに済む。また,保温効果も期待することができる。
【0036】
胴部材11(紙層)を加熱すると胴部材11に含まれている水分が蒸発する。胴部材11から蒸発する水分を,低密度ポリエチレンを発泡させるのに利用することができる。蒸発する水分が逃げないようにするために,好ましくは胴部材11の内面には水蒸気遮断層33,たとえば中密度ポリエチレンが設けられ,これにより胴部材11に含まれている水分を低密度ポリエチレン(断熱層32)に向けて効率よく蒸発させることができる。断熱層32の外面(表面)にさらに印刷層(インク層)を形成してもよい。
【0037】
図13は胴部材11の内面に断熱層34を設けた変形例の紙カップ10Bを示している。図14図13に示す変形例の紙カップ10Bの一部を拡大して示している。たとえば,胴部材11の内面に発泡剤(炭酸水素ナトリウムなど)入りのポリエチレン層34を積層し,さらにその内面に発泡剤が混入されていないポリエチレン層35を積層する。加熱することで発泡剤入りのポリエチレン層が発泡して断熱層34が形成される。折り返し部分12Bなどの接合部分の発泡は抑制される。またフランジ11A付近については加熱しないようにすることで発泡を抑制することができる。胴部材11の外面と内面の両方に断熱層を設けることもできる。
【符号の説明】
【0038】
10,10A,10B 電子レンジ用紙カップ
11 胴部材
12 底部材
13 外筒部材
20,20A,20B 環状接合部
25 罫線
31,32,34 断熱層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14