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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】床版取替装置
(51)【国際特許分類】
   E01D 24/00 20060101AFI20221129BHJP
   E01D 19/12 20060101ALI20221129BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
E01D24/00
E01D19/12
E01D22/00 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019158050
(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公開番号】P2021036108
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】509338994
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラシステム
(73)【特許権者】
【識別番号】395013212
【氏名又は名称】株式会社IHIインフラ建設
(74)【代理人】
【識別番号】110001863
【氏名又は名称】特許業務法人アテンダ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武川 哲
(72)【発明者】
【氏名】中村 善彦
(72)【発明者】
【氏名】宇野 名右衛門
(72)【発明者】
【氏名】関根 肇
(72)【発明者】
【氏名】赤松 輝雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 辰幸
【審査官】坪内 優佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-166453(JP,A)
【文献】特開2004-176486(JP,A)
【文献】特開2006-028881(JP,A)
【文献】特開2008-213732(JP,A)
【文献】国際公開第2015/114964(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
B60P 3/00- 9/00
A01D 67/00-69/12
B60G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋軸方向に走行可能な装置本体と、装置本体の前後及び左右にそれぞれ設けられた複数の走行用車輪と、装置本体に対する各走行用車輪の上下方向の位置をそれぞれ調整する複数の高さ調整機構とを備え、床版を装置本体に吊り下げて床版の新設または撤去を行う床版取替装置において、
前記各高さ調整機構は、装置本体の下部から橋軸方向に延出するように形成された可動部を有し、可動部の一端側に走行用車輪を配置するとともに、可動部の他端側を装置本体の下部に回動自在に連結し、可動部を駆動手段によって上下方向に回動させることにより走行用車輪を装置本体に対して上下方向に移動するように構成されている
ことを特徴とする床版取替装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、両端をそれぞれ可動部と装置本体の下部にそれぞれ連結された油圧シリンダからなり、油圧シリンダの直線運動によって可動部を装置本体の下部に対して回動させるように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の床版取替装置。
【請求項3】
前記床版を吊り下げる吊り下げ部と、吊り下げ部を橋軸方向に移動可能に支持する支持レールと、装置本体の上部と下部との間に設けられた柱部とを備え、
支持レールを柱部よりも装置本体の橋軸方向外側に延出するように形成し、前記可動部及び装置本体の下部を柱部よりも装置本体の橋軸方向外側に延出するように形成した
ことを特徴とする請求項1または2記載の床版取替装置。
【請求項4】
前記支持レールを互いに間隔をおいて橋軸直角方向二箇所に設け、
前記吊り下げ部は、各支持レールに係合しながら走行する複数のトロリと、各支持レールのトロリに亘って形成された支持部と、支持部に支持されたチェーンブロックとを備え、
チェーンブロックを各支持レールの間に位置するように配置した
ことを特徴とする請求項記載の床版取替装置。
【請求項5】
前記高さ調整機構の可動部と装置本体の下部に高さ調整機構の最小高さ位置で互いに当接することにより可動部の一方への回動を規制する一対のストッパ部を設けた
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載の床版取替装置。
【請求項6】
前記高さ調整機構によって可動部が他方に回動して可動部と装置本体の下部との間に生じた隙間に少なくとも一つの間隔調整部材を介在させることにより、可動部の一方への回動をストッパ部及び間隔調整部材によって規制するように構成した
ことを特徴とする請求項5記載の床版取替装置。
【請求項7】
前記装置本体の橋軸方向及び橋軸直角方向の少なくとも一方の傾斜を検知する傾斜検知手段と、
傾斜検知手段によって検知される傾斜に基づいて装置本体が橋軸方向及び橋軸直角方向の少なくとも一方に水平になるように高さ調整機構を制御する制御手段とを備えた
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項記載の床版取替装置。
【請求項8】
前記装置本体の橋軸方向一端側及び他端側においてそれぞれ装置本体の橋軸直角方向の傾斜を検知する一対の傾斜検知手段と、
橋軸方向一端側の傾斜検知手段によって検知される傾斜に基づいて装置本体の橋軸方向一端側が橋軸直角方向に水平になるように高さ調整機構を制御する制御手段と、
橋軸方向他端側の傾斜検知手段によって検知される傾斜に基づいて装置本体の橋軸方向他端側が橋軸直角方向に水平になるように高さ調整機構を制御する制御手段とを備えた
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項記載の床版取替装置。
【請求項9】
前記制御手段は、常に少なくとも一つの走行用車輪の装置本体に対する高さ方向の位置が最小高さになるように各高さ調整機構を制御する
ことを特徴とする請求項7乃至8のいずれか一項記載の床版取替装置。
【請求項10】
前記装置本体の走行用車輪が係合して走行する軌条を備え、
軌条の橋軸方向一部の区間を他の区間よりも高くなるように形成した
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項記載の床版取替装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設の床版を撤去して新たな床版を架設する床版取替施工に用いられる床版取替装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般道や高速道路等の橋梁において床版が老朽化した場合は、既設床版を主桁上から撤去して新たな床版を架設する床版取替施工が行われる。この場合、新たな床版は、工場で製作されたコンクリート製のプレキャスト床版を橋軸方向に複数枚配列して設置することにより形成される。
【0003】
ところで、既設床版の撤去及び新設床版の架設にクレーン車を用いる施工方法では、施工現場の上方に位置する交差道路や高圧電線によって上空制約がある場合や、供用中の隣接道路や近隣構造物により桁上でのクレーンの旋回や地上からのクレーン作業に制約がある場合、或いは既設橋梁の耐荷力が大型重機に対応していない場合には、大型のクレーン車を使用することができないという問題点がある。
【0004】
そこで、クレーン車を用いずに床版の取替施工を行う工法として、橋軸方向に移動可能な門型の吊り装置を用いるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
この工法では、床版取替区間の既設床版を解体し、吊り装置によって床版を吊り上げるとともに、床版を長手方向が橋軸方向となるように90゜回転し、吊り装置によって運搬車両まで移動して運搬車両の荷台に載置した後、吊り装置を橋軸方向の次の床版撤去位置に移動し、既設床版の撤去作業を橋軸方向に順次行うことにより、床版取替区間の既設床版を主桁上から撤去するようにしている。この後、新設用のプレキャスト床版を運搬車両によって吊り装置まで搬送し、プレキャスト床版を長手方向が橋軸方向となる向きで吊り装置によって吊り上げて床版設置位置まで移動するとともに、床版を長手方向が橋軸直角方向となるように90゜回転し、主桁上に吊り降ろして設置した後、吊り装置を橋軸方向の次の床版設置位置に移動し、床版設置作業を橋軸方向に順次行うことにより、床版取替区間に新たなプレキャスト床版を設置するようにしている。
【0006】
また、前述の工法では、床版撤去位置または床版設置位置まで運搬車両が乗り入れることができないため、前記吊り装置は、橋軸方向に延びる支持レールに支持されたチェーンブロックで床版を吊り上げるとともに、チェーンブロックを支持レールに沿って橋軸方向に移動し、チェーンブロックによって床版を吊り降ろすことにより、床版撤去位置または床版設置位置と運搬車両との間の床版の移動を行うように構成されている。
【0007】
ところで、縦断勾配や横断勾配の大きい施工箇所では、装置本体が傾いていると床版の吊り上げまたは吊り降ろし作業に支障を来すため、床版を吊り下げた装置本体を水平に保つことが望まれる。そこで、装置本体に対する各車輪の位置を上下方向に移動可能な高さ調整機構を備えることにより、勾配に応じて装置本体を水平になるように調整するようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-98489号公報
【文献】特開2016-166453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前記従来の高さ調整機構は装置本体と車輪との間に上下方向に伸縮するように設けられているため、高さ調整機構が設けられている分だけ装置本体の位置が高くなる。しかしながら、例えば高速道路のインターチェンジ等、勾配の大きい道路橋が立体交差するような複雑な施工場所では上方制約が厳しいため、装置全体の高さを低くすることが不可欠であり、高さ調整機構を備えることによって装置全体の高さ寸法を増加させることは好ましくないという問題点があった。
【0010】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、装置本体に対して走行用車輪を上下方向に移動させるための高さ調整機構を備えていても装置全体の高さを低くすることのできる床版取替装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記目的を達成するために、橋軸方向に走行可能な装置本体と、装置本体の前後及び左右の4箇所にそれぞれ設けられた複数の走行用車輪と、装置本体に対する各走行用車輪の上下方向の位置をそれぞれ調整する複数の高さ調整機構とを備え、床版を装置本体によって吊り下げて床版の新設または撤去を行う床版取替装置において、前記各高さ調整機構は、装置本体の下部から橋軸方向に延出するように形成された可動部を有し、可動部の一端側に走行用車輪を配置するとともに、可動部の他端側を装置本体の下部に回動自在に連結し、可動部を駆動手段によって上下方向に回動させることにより走行用車輪を装置本体に対して上下方向に移動するように構成されている。
【0012】
これにより、高さ調整機構の可動部が上下方向に回動することにより走行用車輪が装置本体に対して上下方向に移動することから、従来のように高さ調整機構自体が上下方向に伸縮するようにしたものとは異なり、高さ調整機構によって装置全体の高さ寸法を増加させることがない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高さ調整機構によって装置全体の高さ寸法を増加させることがないので、装置全体の高さを低くすることができ、例えば高速道路のインターチェンジ等、勾配の大きい車線が立体交差するような上方制約の厳しい現場においても床版取替施工が可能になるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態を示す床版取替装置の側面図
図2】床版取替装置の平面図
図3】床版取替装置の正面図
図4】吊り下げ部の正面図
図5】Y-Y線矢視方向における吊り下げ部の側面図
図6】高さ調整機構の側面図
図7】高さ調整機構の平面図
図8】高さ調整機構の動作を示す側面図
図9】高さ調整された床版取替装置の側面図
図10】高さ調整された床版取替装置の正面図
図11】床版移動工程を示す床版取替装置の側面図
図12】床版回転工程を示す床版取替装置の平面図
図13】床版設置工程を示す床版取替装置の側面図
図14】ストッパ部を備えた高さ調整機構の側面図
図15】ストッパ部を備えた高さ調整機構の側面図
図16】ストッパ部を備えた高さ調整機構の側面図
図17】床版搬入位置における床版取替装置の側面図
図18】床版搬入位置における床版取替装置及び運搬車両の正面図
図19】床版搬入位置における床版取替装置及び運搬車両の側面図
図20】本発明の第2の実施形態を示す床版取替装置の側面図
図21】制御系を示すブロック図
図22】制御部の動作を示すフローチャート
図23】高さ調整工程を示す床版取替装置の概略正面図
図24】高さ調整工程を示す床版取替装置の概略正面図
図25】高さ調整工程を示す床版取替装置の概略正面図
図26】高さ調整工程を示す床版取替装置の概略正面図
図27】走行中の床版取替装置を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1乃至図19は本発明の第1の実施形態を示すもので、床版新設施工または床版撤去施工に用いられる床版取替装置を示すものである。尚、本実施形態ではプレキャスト床版を架設する床版新設工程を示す。また、図1図9図10図13図17及び図19は、床版取替装置を図3のX-X線矢視方向から見た側面図である。
【0016】
本実施形態の床版取替装置は、橋軸方向に走行可能な門型の装置本体10と、主桁1上に架設されるプレキャスト床版2を吊り下げる吊り下げ部20と、吊り下げ部20を橋軸方向に移動可能に支持する支持レール30と、装置本体10の前後及び左右の4箇所にそれぞれ設けられた走行ユニット40と、装置本体10に対する各走行ユニット40の上下方向の位置をそれぞれ調整する高さ調整機構50とを備え、装置本体10は軌条60に沿って橋軸方向に移動するようになっている。
【0017】
装置本体10は、前後方向(橋軸方向)に直線状に延びる左右一対の上部フレーム11と、前後方向に直線状に延びる左右一対の下部フレーム12と、各下部フレーム12から上方に延びるように前後一対ずつ設けられた柱部13と、各柱部13の上端間に亘って左右方向(橋軸直角方向)に延びる前後一対の横梁14とからなる。各上部フレーム11は各下部フレーム12よりも前後方向に長く形成され、左右方向に各下部フレーム12よりも小さい間隔をおいて配置されている。各柱部13は各下部フレーム12の端部よりも装置本体10の前後方向内側寄りに位置するように設けられ、各下部フレーム12の一端側及び他端側が柱部13の下端側から装置本体10の前後方向一端側及び他端側に延出するように形成されている。各横梁14は両端を各上部フレーム11の上端に固定され、上部フレーム11を装置本体10の左右方向中央側に保持している。また、各上部フレーム11及び各下部フレーム12の一端側(図1における左側)は他端側(図1における右側)よりも前後方向に長く形成されている。尚、図では簡略して示したが、上部及び下部フレーム11,12、各柱部13及び各横梁14は、例えばH型鋼等の鋼材によって形成される。
【0018】
吊り下げ部20は、各支持レール30にそれぞれ前後一対ずつ設けられたトロリ21と、プレキャスト床版2を吊り下げるチェーンブロック22と、チェーンブロック22を支持する支持部23とから構成されている。各トロリ21は周知の電動トロリからなり、支持レール30に係合するローラ21aを図示しないモータで駆動することにより支持レール30に沿って橋軸方向に移動するようになっている。チェーンブロック22は周知の電動チェーンブロックからなり、上フック部22aと下フック部22bとを連結するチェーン22cを図示しないモータで巻き上げまたは巻き出することにより下フック部22bを昇降させるようになっている。また、下フック部22bにはプレキャスト床版2に連結される吊り天秤22dが支軸22eを介して回動自在に取り付けられており、下フック部22bは水平方向に回動自在に設けられている。
【0019】
支持部23は、左右の各トロリ21にそれぞれ連結された左右一対の第1の支持部材23aと、各第1の支持部材23aに固定された前後一対の第2の支持部材23bと、各第2の支持部材23bに固定された左右一対の第3の支持部材23cとからなる。各第1の支持部材23aは前後方向に延びるように形成され、両端側をそれぞれ前後のトロリ21に支軸23dを介して回動自在に連結されている。各第2の支持部材23bは各第1の支持部材23aに亘って左右方向に延びるように形成され、それぞれ両端側が第1の支持部材23aの上面に載置されるように互いに前後方向に間隔をおいて配置されている。各第3の支持部材23cは各第2の支持部材23bに亘って前後方向に延びるように形成され、それぞれ両端側が第2の支持部材23bの上面に載置されるように互いに左右方向に近接して配置されている。また、各第3の支持部材23cにはチェーンブロック22の上フック部22aが支軸23eを介して回動自在に連結されている。尚、図では簡略して示したが、各支持部材23a,23b,23cは、例えばH型鋼等の鋼材によって形成される。
【0020】
各支持レール30は前後方向(橋軸方向)に直線状に延びるH型鋼からなり、上部フレーム11と等しい長さに形成されている。各支持レール30は各上部フレーム11の下面に取り付けられ、各上部フレーム11と同様、互いに左右方向に間隔をおいて平行に配置されている。
【0021】
各走行ユニット40は、ユニット本体41と、ユニット本体41に回動自在に支持された前後一対の車輪42と、各車輪42を駆動するモータ43とからなる。各車輪42は幅方向両側にフランジ42aを有し、フランジ42a間に軌条60を係合するようになっている。モータ43はユニット本体41の外面に取り付けられ、図示しないベルトやギヤを介して各車輪42を駆動するようになっている。
【0022】
各高さ調整機構50は、各下部フレーム12の前後方向の端部に回動自在に連結された可動部51と、可動部51を回動させる駆動手段としての油圧シリンダ52とからなる。可動部51は前後方向に延びるように形成され、その一端側の下方には走行ユニット40が配置されている。また、可動部51の一端側には走行ユニット40のユニット本体41が支軸51aを介して回動自在に連結されている。可動部51の他端側には先端側が斜め下方に向かって延びる連結部51bが形成されており、下部フレーム12の端部にも可動部51の他端側と対称形状をなすように斜め下方に向かって延びる連結部12aが形成されている。各連結部12a,51bの下部(各連結部12a,51bの先端側)は互いに支軸51cを介して上下方向に回動自在に連結され、各連結部12a,51bの上部(各連結部12a,51bの基端側)は互いに油圧シリンダ52を介して連結さている。即ち、下部フレーム12の連結部12aの上部には油圧シリンダ52の一端が支軸52aを介して回動自在に連結され、可動部51の連結部51bの上部には油圧シリンダ52の他端が支軸52bを介して回動自在に連結されている。これにより、図8に示すように油圧シリンダ52によって可動部51の連結部51bの上部(支軸52b)を下部フレーム12の連結部12aの上部(支軸52a)から離れる方向に移動させると、可動部51が連結部51bの下部(支軸51c)を支点に回動し、可動部51の一端側が下降する。即ち、可動部51の回動により走行ユニット40が装置本体10に対して上下方向に移動するようになっている。
【0023】
ここで、本実施形態の床版取替装置を用いた床版新設施工について説明する。ここでは、既設床版が撤去された主桁1上に新たなプレキャスト床版2を設置する工程について説明する。この場合、プレキャスト床版2は、主桁1上に設置された際の橋軸方向の長さが橋軸直角方向の長さよりも短い長さに形成されている。
まず、主桁1上に既に設置されているプレキャスト床版2上に軌条60を敷設し、軌条60に床版取替装置の装置本体10を配置する。
【0024】
次に、床版搬入位置に待機させた装置本体10の内側にプレキャスト床版2を積載した運搬車両を乗り入れ、吊り下げ部20から吊り下げられた吊り天秤22dをプレキャスト床版2に連結する。この場合、例えばプレキャスト床版2に埋設された締結部材に吊り天秤22dを締結することにより、吊り天秤22dとプレキャスト床版2とを連結することができる。また、運搬車両に積載されたプレキャスト床版2は長手方向が橋軸方向となる向きで搬入される。
【0025】
続いて、図1に示すように吊り下げ部20によってプレキャスト床版2を吊り上げ、プレキャスト床版2を吊り下げた装置本体10を各走行ユニット40によって走行させて床版架設位置まで移動する。
【0026】
次に、床版架設位置まで装置本体10を移動した後、図9及び図10に示すように路面に勾配がある場合は装置本体10が水平になるように各高さ調整機構50によって装置本体10に対する各走行ユニット40の上下方向の位置をそれぞれ調整する。その際、各高さ調整機構50は装置本体10の下部フレーム12から橋軸方向に延出する可動部51を上下方向に回動することにより、装置本体10の高さ位置が調整される。
【0027】
続いて、図11に示すようにプレキャスト床版2を吊り下げた吊り下げ部20を各トロリ21によって各支持レール30の前端部まで移動させる。続いて、図12に示すように吊り下げ部20に吊り下げられたプレキャスト床版2を水平方向に90゜回転させ、図13に示すように吊り下げ部20のチェーンブロック22によってプレキャスト床版2を主桁1上に吊り降ろす。この後、装置本体10を床版搬入位置に戻し、次のプレキャスト床版2を運搬車両から吊り上げ、前述の作業を繰り返すことにより新たなプレキャスト床版2を主桁1上に順次設置する。
【0028】
このように、本実施形態によれば、装置本体10の前後及び左右の4箇所にそれぞれ装置本体10の高さを調整する高さ調整機構50が設けられているので、勾配のある路面においても各高さ調整機構50によって装置本体10を水平に保つことができ、プレキャスト床版2の設置作業を常に安定して行うことができる。
【0029】
この場合、各高さ調整機構50は、装置本体10の下部フレーム12から橋軸方向に延出するように形成された可動部51を有し、可動部51の一端側に走行ユニット40を配置するとともに、可動部51の他端側を下部フレーム12の端部に回動自在に連結し、可動部51を上下方向に回動することにより走行ユニット40を装置本体10に対して上下方向に移動するように構成されているので、従来のように高さ調整機構自体が上下方向に伸縮するようにしたものとは異なり、本実施形態の高さ調整機構50によって装置全体の高さ寸法を増加させることがない。これにより、装置全体の高さを低くすることができるので、例えば高速道路のインターチェンジ等、勾配の大きい車線が立体交差するような上方制約の厳しい現場においても床版取替施工が可能になる。
【0030】
更に、高さ調整機構50は、両端をそれぞれ可動部51と下部フレーム12の端部にそれぞれ連結された油圧シリンダ52の直線運動によって可動部51を下部フレーム12の端部に対して回動させるようにしているので、例えば油圧シリンダ52に周知の油圧ジャッキ等を用いて構成することができ、複雑な機構を用いることなく確実な駆動力を得ることができる。
【0031】
また、装置本体10の各上部フレーム11及び各支持レール30が柱部13よりも装置本体10の前後方向外側に延出するように設けられているので、支持レール30の前端部まで吊り下げ部20を移動させることにより、吊り下げ部20に吊り下げられたプレキャスト床版2を柱部13と干渉することなく水平方向に90゜回転させることができる。その際、片持ち梁状に延びる支持レール30の前端部に吊り下げ部20及びプレキャスト床版2の自重が加わるが、各可動部51及び下部フレーム12の端部側がそれぞれ柱部13よりも装置本体10の前後方向外側に延出するように設けられているので、柱部13の下端を支点に装置本体10が前傾することがない。これにより、長手方向の長さの大きいプレキャスト床版2でも吊り下げることができ、幅員の大きい道路橋の床版取替施工に極めて有利である。
【0032】
更に、互いに左右方向に間隔をおいて設けられた一対の支持レール30の間に吊り下げ部20のチェーンブロック22を配置したので、各支持レール30と干渉することなくチェーンブロック22の位置を高くすることができ、その分だけ装置本体10に対するチェーンブロック22の上端の位置を上方に配置することができる。これにより、装置本体10の高さ寸法をより一層小さくすることができ、装置全体の低背化に極めて有利である。
【0033】
また、図14に示すように、高さ調整機構50の可動部51と下部フレーム12の端部に、高さ調整機構50の変位量がない状態(最小高さ位置)で互いに当接する一対のストッパ部53を設けるようにしてもよい。これにより、装置本体10が床版架設位置等において静止している場合に、可動部51の一方への回動を各ストッパ部53によって確実に規制することができる。また、図15に示すように可動部51が他方に回動して各ストッパ部53の間が開いた場合は、図16に示すように各ストッパ部53の隙間に間隔調整部材としての間隔調整板53aを介在させることにより、可動部51の一方への回動を各ストッパ部53と共に間隔調整板53aによって確実に規制することができる。間隔調整板53aは楔状の所定厚さの板状部材からなり、各ストッパ部53の間隔と同等の厚さになるように必要な枚数だけ重ねて使用される。
【0034】
ところで、本実施形態では、前述したように床版取替装置全体の高さ寸法を小さくすることができるが、その分、床版搬入位置において運搬車両を装置本体10の内側に乗り入れるための高さ寸法を確保することができなくなる場合があるので、図17乃至図19に示すように橋軸方向一部の区間(床版搬入位置)の軌条60の高さ寸法Hを他の区間の軌条60の高さ寸法よりも大きくするようにしてもよい。この場合、床版上に設置した架台61の上に軌条60を設置することにより、路面から軌条60の上端までの高さHが確保される。これにより、床版取替装置全体の高さ寸法が小さくても床版搬入位置の路面に対して床版取替装置自体の位置を高くすることができるので、運搬車両Aを装置本体10内に乗り入れることができる。
【0035】
図20乃至図27は本発明の第2の実施形態を示すもので、前記実施形態の床版取替装置の各高さ調整機構50を制御するようにしたものである。尚、図20及び図27は床版取替装置を図3のX-X線矢視方向から見た側面図である。
【0036】
本実施形態の床版取替装置は、装置本体10の左右方向の傾斜を検知する傾斜検知手段としての前後一対の傾斜センサ70と、各高さ調整機構50の調整量の有無をそれぞれ検知する複数の調整量検知部80と、前端側及び後端側の高さ調整機構50をそれぞれ制御する二つの制御部90とを備えている。
【0037】
各傾斜センサ70は、装置本体10の前端側及び後端側にそれぞれ取り付けられた周知の計測機器からなり、装置本体10の左右方向の傾斜に応じた信号を制御部90に出力するようになっている。
【0038】
各調整量検知部80は、高さ調整機構50ごとに設けられたリミットスイッチからなり、高さ調整機構50の油圧シリンダ52のストロークに連動してオン・オフすることにより、装置本体10に対する高さ調整機構50の上下方向の調整量の有無を検知するようになっている。即ち、調整量検知部80は、油圧シリンダ52のストローク量が最も小さい状態でオン(またはオフ)となることにより、高さ調整機構50の上下方向の調整量がないことを検知するようになっている。
【0039】
各制御部90は、高さ調整機構50の油圧シリンダ52を制御するマイクロコンピュータからなり、例えば油圧シリンダ52に接続された油圧回路の油圧ポンプやバルブを制御することにより、油圧シリンダ52のストローク量を制御するようになっている。この場合、前端側の高さ調整機構50を制御する制御部90は前端側の左右の高さ調整機構50と前端側の傾斜センサ70に接続され、後端側の高さ調整機構50を制御する制御部90は後端側の左右の高さ調整機構50と後端側の傾斜センサ70に接続されている。
【0040】
ここで、制御部90の動作について、図22に示すフローチャートを用いて説明する。尚、本実施形態では、床版搬入位置で装置本体10を左右方向に水平になるように高さ調整を行った後、装置本体10を床版架設位置に向かって走行させながら装置本体10を左右方向に水平に保つように高さ調整を行うようにしており、前後方向に対しては傾斜に対する高さ調整は行わず、装置本体10は縦断勾配に沿って前後方向に傾斜したまま走行する。また、以下に示す制御例は、前端側及び後端側の高さ調整機構50をそれぞれ制御する二つの制御部90のうちの一方の制御部90の動作を示すもので、各制御部90はそれぞれ独立して同様の動作を行うものとする。
【0041】
まず、装置本体10が床版搬入位置で停止している状態で、左右の高さ調整機構50を全て上下方向の調整量なし(油圧シリンダ52のストローク量が最も小さい状態)にする(S1)。次に、傾斜センサ70によって装置本体10の左右方向の傾斜を検知し(S2)、傾斜のない状態(左右方向に水平状態)であれば(S3)、ステップS2に戻る。また、ステップS3において傾斜が検出された場合は、その傾斜方向が「左上がり」か「右上がり」かを判定する(S4)。
【0042】
ここで、図23に示すように「左上がり」の傾斜の場合、左側の高さ調整機構50の調整量の有無を左側の調整量検知部80によって判定し(S5)、左側の高さ調整機構50の調整量がないと判定した場合は、図24に示すように右側の高さ調整機構50の調整量Sを油圧シリンダ52によって増加させる(S6)。そして、ステップS2に戻り、ステップS3において装置本体10の傾斜がない状態(左右方向に水平状態)であると判定されるまでステップS2~S6の動作を繰り返し、水平状態になると装置本体10を床版架設位置に向かって走行させる。この後、ステップS3において再び傾斜が検知されると、図25に示すように傾斜方向が「右上がり」の傾斜の場合には(S4)、右側の高さ調整機構50の調整量の有無を右側の調整量検知部80によって判定し(S7)、右側の高さ調整機構50の調整量があると判定した場合は、図26に示すように右側の高さ調整機構50の調整量Sを油圧シリンダ52によって減少させる(S8)。そして、ステップS2に戻り、ステップS3において装置本体10の傾斜がない状態(左右方向に水平状態)であると判定されるまでステップS2~S4及びステップS7~S8の動作を繰り返す。
【0043】
同様に、最初の状態が「右上がり」の傾斜の場合(S4)、右側の高さ調整機構50の調整量の有無を右側の調整量検知部80によって判定し(S7)、右側の高さ調整機構50の調整量がないと判定した場合は、左側の高さ調整機構50の調整量を油圧シリンダ52によって増加させる(S9)。そして、ステップS2に戻り、ステップS3において装置本体10の傾斜がない状態(左右方向に水平状態)であると判定されるまでステップS2~S4、S7及びS9の動作を繰り返し、水平状態になると装置本体10を床版架設位置に向かって走行させる。この後、ステップS3において再び傾斜が検知されると、傾斜方向が「左上がり」の傾斜の場合には(S4)、左側の高さ調整機構50の調整量の有無を左側の調整量検知部80によって判定し(S5)、左側の高さ調整機構50の調整量があると判定した場合は、左側の高さ調整機構50の調整量を油圧シリンダ52によって減少させる(S10)。そして、ステップS2に戻り、ステップS3において装置本体10の傾斜がない状態(左右方向に水平状態)であると判定されるまでステップS2~S5及びステップS10の動作を繰り返す。
【0044】
以上のように、装置本体10は走行中においても常に左右方向の水平状態を自動で保持されながら床版架設位置に到着する。
【0045】
このように、本実施形態によれば、装置本体10の左右方向の傾斜を検知する傾斜センサ70と、傾斜センサ70による傾斜検知に基づいて左右の高さ調整機構50を制御する制御部90とを備え、装置本体10が常に左右方向に水平になるように左右の高さ調整機構50を制御するようにしたので、床版搬入位置及び床版架設位置での静止状態のみならず、床版搬入位置及び床版架設位置間の走行中においても横断勾配の変化に応じて装置本体10を水平に保つことができる。これにより、プレキャスト床版2の搬送から設置まで常にプレキャスト床版2を安定して吊り下げることができる。
【0046】
この場合、傾斜センサ70を装置本体10の前端側及び後端側にそれぞれ設け、前端側の傾斜センサ70に基づいて前端側の左右の高さ調整機構50を制御する一方の制御部90と、後端側の傾斜センサ70に基づいて後端側の左右の高さ調整機構50を制御する他方の制御部90により、装置本体10の前端側及び後端側の高さ調整をそれぞれ独立して行うようにしたので、装置本体10が前端側及び後端側との間で部材の弾性変形による撓みを生じた場合でも、各制御部90によって装置本体10の前端側及び後端側の高さ調整を確実に行うことができる。
【0047】
また、左右の高さ調整機構50の上下方向の調整量の有無を検知し、左右一方の高さ調整機構50を上下方向の調整量なしの状態(最小高さ)にしたまま他方の高さ調整機構50によって高さ調整を行うようにしたので、常に少なくとも一つの走行ユニット40の装置本体10に対する高さ方向の位置を最小高さに保つことができ、装置本体10の高さが各高さ調整機構50によって無用に高くなることがないという利点がある。
【0048】
更に、本実施形態では、装置本体10を左右方向に水平に保つように高さ調整を行うようにしており、前後方向に対しては傾斜に対する高さ調整は行わず、装置本体10は縦断勾配に沿って前後方向に傾斜したまま走行するようにしているので、装置本体10の前端側及び後端側を常に最小の高さに保つことができる。これにより、例えば、図27に示すように、上り勾配の路面を装置本体10が走行する場合において、上方に他の道路橋3が交差している場合、装置本体10の前端側を最小高さにしても装置本体10が前後方向に水平では後端側が上方の道路橋に接触するおそれがあるが、本実施形態では装置本体10の前端側及び後端側の両方を最小高さにすることができるので、上方の道路橋3に接触することなく道路橋3の下方を通過することができる。
【0049】
尚、前記実施形態では、左右方向の傾斜に基づいて左右の高さ調整のみを行うようにしたものを示したが、前後方向の傾斜に基づいて前後の高さ調整のみを行うようにしたり、或いは前後方向及び左右方向の傾斜に基づいて前後左右両方の高さ調整を行うようにしてもよい。
【0050】
更に、前記各実施形態では、主桁1上に既に設置されているプレキャスト床版2上に軌条60を敷設するようにしたものを示したが、予め工場等でプレキャスト床版2上に軌条となるレールを取り付けておくようにしてもよい。
【0051】
また、前記各実施形態では、主桁1上にプレキャスト床版2を新設する工程に本発明の床版取替装置を用いる場合を示したが、本発明の床版取替装置は、主桁上で橋軸直角方向に切断された既設床版を吊り上げて撤去する床版撤去工程に用いることもできる。
【符号の説明】
【0052】
1…主桁、2…プレキャスト床版、10…装置本体、11…上部フレーム、12…下部フレーム、13…柱部、20…吊り下げ部、21…トロリ、22…チェーンブロック、23…支持部、30…支持レール、40…走行ユニット、50…高さ調整機構、51…可動部、52…油圧シリンダ、60…軌条、70…傾斜センサ、80…調整量検知部、90…制御部、A…運搬車両。
図1
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