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特許7184752顕微鏡特に光シート顕微鏡または共焦点顕微鏡および顕微鏡用レトロフィットキット
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】顕微鏡特に光シート顕微鏡または共焦点顕微鏡および顕微鏡用レトロフィットキット
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/08 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
G02B21/08
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019505385
(86)(22)【出願日】2017-08-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-22
(86)【国際出願番号】 EP2017069567
(87)【国際公開番号】W WO2018024786
(87)【国際公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-07-31
(31)【優先権主張番号】102016114270.0
(32)【優先日】2016-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】511079735
【氏名又は名称】ライカ マイクロシステムズ シーエムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leica Microsystems CMS GmbH
【住所又は居所原語表記】Ernst-Leitz-Strasse 17-37, D-35578 Wetzlar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン ファールバッハ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェアナー クネーベル
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0104680(US,A1)
【文献】特表2011-512879(JP,A)
【文献】特開2006-018325(JP,A)
【文献】特開2009-251236(JP,A)
【文献】特開2000-010012(JP,A)
【文献】国際公開第2016/012518(WO,A1)
【文献】特開2015-125326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射光学系(5)を備えた顕微鏡(1)であって、前記顕微鏡(1)は、光シート顕微鏡(2)または共焦点顕微鏡(3)であり、
前記照射光学系(5)は、少なくとも1つの光源(11)からの少なくとも2つの波長(27a,27b)の光を、それぞれ波長に依存するビーム路(23a,23b)に沿って、前記照射光学系(5)の照射側(29)から前記照射光学系(5)の試料側(83)へ試料を通って伝達する顕微鏡において、
前記顕微鏡(1)は、少なくともつの光学的横色収差補正素子(67)を備えた横色収差補正装置(65)を有し、
前記光学的横色収差補正素子(67)の試料側出口(84)において、それぞれ異なる前記少なくとも2つの波長(27a,27b)の前記ビーム路(23a,23b)は、互いに平行なオフセット(85)を有し、かつ/または、前記照射側(29)に対し互いに傾斜を有し、結果として前記照射光学系(5)の前記試料側(83)において、前記照射光学系(5)の光軸(41)を横断する方向で前記少なくとも2つの波長(27a,27b)の焦点(31a,31b)のオフセット(43)が生じ、
前記少なくとも2つの光学的横色収差補正素子のうち少なくとも1つの光学的横色収差補正素子(67)は、他の光学的横色収差補正素子(67)に対し相対的に傾斜可能に構成されている、
ことを特徴とする顕微鏡(1)。
【請求項2】
前記照射光学系(5)の前記試料側(83)において前記光学的横色収差補正素子(67)により引き起こされる、前記照射光学系(5)の前記光軸(41)を横断する方向における前記少なくとも2つの波長(27a,27b)の前記焦点(31a,31b)の前記オフセット(43)は、実質的に前記照射光学系(5)により引き起こされる、前記照射光学系(5)の前記光軸(41)を横断する方向における前記焦点(31a,31b)相互間のオフセット(43)とは逆方向である、
請求項1記載の顕微鏡(1)。
【請求項3】
前記少なくとも2つの光学的横色収差補正素子(67)のうち少なくとも1つは、実質的に平行平面の透過性プレート(68)として構成されている、
請求項1または2記載の顕微鏡(1)。
【請求項4】
前記少なくとも2つの光学的横色収差補正素子(67)のうちの2つは、実質的に平行平面の透過性プレート(68)として構成されており、
前記少なくとも2つの前記平行平面の透過性プレート(68)は、それぞれ異なる屈折率および/または厚さ(69,71)を有する、
請求項1から3までのいずれか1項記載の顕微鏡(1)。
【請求項5】
前記少なくとも2つの光学的横色収差補正素子(67)は、それぞれ異なる材料分散(33)を有する、
請求項1から4までのいずれか1項記載の顕微鏡(1)。
【請求項6】
前記少なくとも2つの光学的横色収差補正素子(67)は、互いに運動を伝達し合うように結合されている、
請求項1から5までのいずれか1項記載の顕微鏡(1)。
【請求項7】
縦色収差補正装置(123)が設けられており、
それぞれ異なる前記少なくとも2つの波長(27a,27b)の前記ビーム路(23a,23b)は、前記縦色収差補正装置(123)の照射側において発散(119)または収束(121)を互いに有し、前記発散(119)または前記収束(121)は、前記縦色収差補正装置(123)の試料側(83)における前記少なくとも2つの波長(27a,27b)の前記ビーム路(23a,23b)相互間の発散(119)または収束(121)とは異なる、
請求項1から6までのいずれか1項記載の顕微鏡(1)。
【請求項8】
前記縦色収差補正装置(123)は、少なくとも1つの屈折光学素子(109)および少なくとも1つの回折光学素子(95)を有する、
請求項7記載の顕微鏡(1)。
【請求項9】
前記少なくとも1つの屈折光学素子(109)および/または前記少なくとも1つの回折光学素子(95)は、可変に調整可能な焦点距離(103,105)を有する、
請求項8記載の顕微鏡(1)。
【請求項10】
前記少なくとも1つの回折光学素子(95)は、空間光変調器(101)として構成されている、
請求項8または9記載の顕微鏡(1)。
【請求項11】
前記少なくとも2つの波長(27a,27b)の前記ビーム路(23a,23b)は、前記照射光学系(5)の非近軸周辺領域(8)を延在し、
前記照射光学系(5)の前記試料側(83)に、前記ビーム路(23a,23b)を実質的に90°偏向する少なくとも1つの偏向ミラー(53)が設けられている、
請求項1から10までのいずれか1項記載の顕微鏡(1)。
【請求項12】
光シート顕微鏡(2)または共焦点顕微鏡(3)のための光学的レトロフィットキット(150)であって、
前記光学的レトロフィットキット(150)は、照射光学系(5)を備え、前記照射光学系(5)は、少なくとも1つの光源(11)からの少なくとも2つの波長(27a,27b)の光を、それぞれ波長に依存するビーム路(23a,23b)に沿って、前記照射光学系(5)の照射側(29)から前記照射光学系(5)の試料側(83)へ試料を通って伝達する光学的レトロフィットキット(150)において、
前記光学的レトロフィットキット(150)は、少なくともつの光学的横色収差補正素子(67)を備えた横色収差補正装置(65)を有し、
前記光学的横色収差補正素子(67)の試料側出口(84)において、それぞれ異なる前記少なくとも2つの波長(27a,27b)の前記ビーム路(23a,23b)は、互いに平行なオフセット(85)を有し、かつ/または、前記照射側(29)に対し互いに傾斜を有し、結果として前記照射光学系(5)の前記試料側(83)において、前記照射光学系(5)の光軸(41)を横断する方向で前記少なくとも2つの波長(27a,27b)の焦点(31a,31b)のオフセット(43)が生じ、
前記少なくとも2つの光学的横色収差補正素子のうち少なくとも1つの光学的横色収差補正素子(67)は、他の光学的横色収差補正素子(67)に対し相対的に傾斜可能に構成されている、
ことを特徴とする光学的レトロフィットキット(150)。
【請求項13】
前記照射光学系(5)の前記試料側(83)において前記光学的横色収差補正素子(67)により引き起こされる、前記照射光学系(5)の前記光軸(41)を横断する方向における前記少なくとも2つの波長(27a,27b)の前記焦点(31a,31b)の前記オフセット(43)は、実質的に前記照射光学系(5)により引き起こされる、前記照射光学系(5)の前記光軸(41)を横断する方向における前記焦点(31a,31b)相互間のオフセット(43)とは逆方向である、
請求項12記載の光学的レトロフィットキット(150)。
【請求項14】
縦色収差補正装置(123)が設けられており、
それぞれ異なる前記少なくとも2つの波長(27a,27b)の前記ビーム路(23a,23b)は、前記縦色収差補正装置(123)の照射側において発散(119)または収束(121)を互いに有し、前記発散(119)または前記収束(121)は、前記縦色収差補正装置(123)の試料側(83)における前記少なくとも2つの波長(27a,27b)の前記ビーム路(23a,23b)相互間の発散(119)または収束(121)とは異なる、
請求項12または13記載の光学的レトロフィットキット(150)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射光学系を備えた顕微鏡、特に光シート顕微鏡または共焦点顕微鏡に関する。この場合、照射光学系は、少なくとも1つの光源からの少なくとも2つの波長の光を、それぞれ波長に依存するビーム路に沿って、照射光学系の照射側から照射光学系の試料側へ伝達する。本発明はさらに、照射光学系を備えた顕微鏡用の、特に光シート顕微鏡用または共焦点顕微鏡用の、光学的レトロフィットキットに関する。この場合、照射光学系は、少なくとも1つの光源からの少なくとも2つの波長の光を、それぞれ波長に依存するビーム路に沿って、照射光学系の照射側から照射光学系の試料側へ伝達する。
【背景技術】
【0002】
例えば光シート顕微鏡または共焦点顕微鏡などのような顕微鏡は、従来技術から公知である。これらの顕微鏡に共通しているのは、照射光学系が検査すべき試料全体を照射するのではなく、限られた領域だけしか照射せず、光シート顕微鏡のケースであれば、観察光学系の光軸に沿った方向に限られた領域だけしか照射しない、ということである。よって、光シート顕微鏡を用いて検査される試料の照射領域は、実質的に二次元の構造を有する。共焦点顕微鏡における照射領域は実質的にゼロ次元であり、そのサイズは照射波長の、回折に制限される最小焦点直径のオーダにある。モデルではこれらは点状とされる。
【0003】
観察光学系の光軸に沿って制限された少なくとも1つの照射領域が有する利点とは、観察光学系によって供給される試料の画像情報が実質的に、照射された制限された試料の体積領域の画像情報から合成される、ということである。換言すれば、照射光学系により照射される各画素もしくは各平面だけが、画像形成に寄与する。
【0004】
従来技術による特定の種類の顕微鏡の場合には、照射光学系の周辺領域を介して照射が行われる。その結果、照射の品質ひいては試料の結像品質も改善すべき点が多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、本発明の課題は、照射品質も結像品質も改善された顕微鏡もしくは光学的レトロフィットキットを提供することである。特に、照射光学系の周辺領域を通して照射が行われる場合であっても、改善された品質を達成することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
冒頭で述べた顕微鏡および冒頭で述べた光学的レトロフィットキットは、上述の課題をそれぞれ以下のことにより解決する。すなわち、顕微鏡もしくは光学的レトロフィットキットは、少なくとも1つの光学的横色収差補正素子を備えた横色収差補正装置を有し、横色収差補正素子の試料側出口において、それぞれ異なる少なくとも2つの波長のビーム路が、互いに平行なオフセットを有し、かつ/または照射側に対し互いに傾斜を有し、結果として照射光学系の試料側において、照射光学系の光軸を横断する方向で少なくとも2つの波長の焦点のオフセットが生じる。
【0007】
オフセットをレンズによって傾斜に変換可能であり、同様に傾斜をレンズによってオフセットに変換可能である。
【0008】
本発明による顕微鏡および本発明による光学的レトロフィットキットが有する利点とは、照射光学系の試料側において横色収差補正装置により形成された焦点のオフセットによって、顕微鏡の照射品質も結像品質も改善される、ということである。この利点は、照射光学系の周辺領域を通して照射が行われる場合であっても達成される。
【0009】
顕微鏡のマルチスペクトル動作によって、すなわち同時に複数の波長において、照射光学系内で複数の伝達光学系が用いられると、色の結像エラー(収差とも呼ばれる)が引き起こされる可能性があり、これによって検査すべき試料の結像の品質が著しく低下するおそれがある、ということが判明した。
【0010】
誘電体材料の分散すなわちそれらの材料の波長に依存する屈折率によって、それぞれ異なる波長の同軸に延在する光ビームは、表面に対し90°とは異なる角度で誘電体材料へ入射(および/または出射)するときに、それぞれ異なる強さで屈折させられ、このことによって、例えばレンズなどのような屈折光学素子において色収差が引き起こされる。
【0011】
色収差には、横方向色収差いわゆる横色収差と、軸線方向色収差いわゆる縦色収差と、が含まれる。これら双方は、特にレンズの焦点もしくはフォーカスにおいて現れる。
【0012】
軸線方向色収差によって、それぞれ異なる波長の焦点が光軸に対し平行に延在する方向に沿って、互いにずらされるようになる。
【0013】
横方向色収差によって、それぞれ異なる波長の焦点が光軸に対し垂直に延在する方向で、互いにずらされるようになる。したがってそれぞれ異なる波長の焦点は、レンズへ同軸で入射するときに、レンズの光軸までそれぞれ異なる距離のところにある。色収差のこのような形態は、マルチスペクトル光ビームが光学素子を斜めに、もしくは周辺領域において貫通するときに、特にはっきりと現れる。
【0014】
共焦点顕微鏡または光シート顕微鏡において試料を照射するために、それぞれ異なる少なくとも2つの波長を有する光を使用する場合には、そのことによって、それぞれ異なる波長が試料における同じ領域には照射されず、照射品質および結像品質が低下してしまうことになる。
【0015】
特に横色収差は、光シート顕微鏡における結像品質を著しく低下させる可能性があり、その理由は、それぞれ異なる2つ波長により照射した場合、観察光学系の光軸に沿って互いにずらされたシート状の2つの領域が照射されるからである。ただし観察光学系は、ただ1つの平面に向けてしか鮮明にセットできないので、その結果、第2のシート状の照射平面は不鮮明に結像されることになる。
【0016】
本発明による顕微鏡もしくは本発明による光学的レトロフィットキットは、色収差により引き起こされる結像品質の低下にそれぞれ対処する。
【0017】
以下では、本発明のさらに別のそれぞれそれ自体が有利な実施形態について説明する。それらの実施形態の技術的特徴を任意に組み合わせることができ、もしくは省略することができ、ただしこれは、省略される技術的特徴により達成される技術的効果が重要でない場合に限る。
【0018】
本発明による顕微鏡の1つの実施形態によれば、照射光学系の試料側において横色収差補正装置により引き起こされる、照射光学系の光軸を横断する方向における少なくとも2つの波長の焦点のオフセットは、実質的に照射光学系により引き起こされる、照射光学系の光軸を横断する方向における焦点相互間のオフセットとは逆方向である。この実施形態は、横色収差を低減もしくは完全に相殺することができる、という利点を有する。
【0019】
さらに別の実施形態によれば、横色収差補正装置を、光軸または伝播方向を中心に回転可能とすることができる。このようにすれば、光軸に対し垂直に位置するいずれの軸に沿った横色収差も相殺することができる。
【0020】
照射光学系は、複数の伝達光学素子および/またはビーム推移を偏向する素子を含むことができる。照射光学系の照射側は、光源の光を伝達する光導波体を接続可能な光学的入口を有することができる。同様に、照射光学系の照射側に光源を設けることもできる。
【0021】
素子、光学系または装置の照射側とは、光源の方向を指す側のことである。これと同様に素子、光学系または装置の試料側とは、照射すべき試料の方向を指す側のことである。折り返された光学的構造において方向を考察する場合には、1つの素子の一方の側が必ず試料側または照射側を指すようにこの構造が展開されたものとみなすことができる。
【0022】
横色収差補正装置を、照射光学系の試料側もしくは照射側に配置することができるが、あるいは照射光学系内に、つまり例えば照射光学系の2つの光学素子の間に、ポジショニングすることができる。
【0023】
横色収差補正装置を、照射側入口と試料側出口とを備えユニットとして組み込み可能な別個のアセンブリとして構成することができ、この場合、横色収差補正装置は少なくとも2つのそれぞれ異なる波長のビーム路を、この横色収差補正装置の試料側出口で互いにずらし、かつ/または互いに傾斜させる。オフセットおよび/または傾斜は、それぞれ異なる少なくとも2つの波長のビーム路の相対オフセットおよび/または相対傾斜であり、つまり試料側出口において、少なくとも2つの波長のビーム路間で絶対的なオフセットおよび/または傾斜は形成されない。相対オフセットおよび/または相対傾斜を、少なくとも2つの波長のビーム路の場合によってはすでに存在しているオフセットおよび/または傾斜に加えることができる。
【0024】
横色収差補正装置はさらに、2つのビーム路相互間のオフセットから傾斜を生じさせる、もしくは2つのビーム路相互間の傾斜からオフセットを生じさせるレンズを含むことができる。したがって横色収差補正装置の試料側出口において結果として生じる、それぞれ異なる少なくとも2つの波長のビーム路のオフセットを、ビーム路相互間のおよび後続のレンズの傾斜によって、形成することができる。
【0025】
2つのビーム路相互間のオフセットもしくは傾斜は、それぞれビーム路相互間の相対的変化のことであると理解されたい。顕微鏡はさらに、傾斜可能なスキャン素子特にスキャンミラーを有することができ、これを少なくとも2つの波長のビーム路を共通に偏向するために用いることができ、このように偏向しても、少なくとも2つの波長のビーム路の相対オフセットもしくは相対傾斜は変化しないまま維持される。
【0026】
光シート顕微鏡の場合、いわゆる仮想光シート(Virtual lightsheet)を生成するためにスキャンミラーを使用することができる。観察すべき試料において形成される一次元の集束領域を、スキャンミラーによって移動させることができ、そのようにすることで仮想光シートを、試料の観察方向に対し垂直な1つの平面内にシーケンシャルに形成することができる。さらに複数のスキャンミラーから成るシステムを設けることができ、このシステムによって、仮想光シートを観察方向に沿ってシフトさせることができ、それによってコンピュータ支援された試料の三次元表示を生成することができる。
【0027】
照射光学系は横色収差を有する可能性があるので、照射光学系の試料側において少なくとも2つの波長の焦点が、照射光学系の光軸までそれぞれ異なる距離のところに形成されることになる。横色収差補正装置は、少なくとも2つの波長の焦点のこのような相対オフセットに対処する。特に好ましくは、横色収差補正装置は、照射光学系によるビーム路のオフセットに対し、照射光学系によるこのオフセットが相殺されるように対処する。相殺とは、横色収差補正装置を用いて少なくとも2つの波長の焦点を、これらの焦点が照射光学系の試料側において照射光学系の光軸まで実質的に等しい距離のところに存在するように互いにずらすことである、と理解されたい。複数の横色収差補正装置をカスケード接続することによって、横色収差を3つ以上の波長に対し互いに依存せずに補正することができる。
【0028】
横色収差補正装置を特に、拡開されたビームウェストの領域に配置することができ、つまり発散もしくは収束の僅かな1つもしくは複数のビーム路の区間に配置することができる。
【0029】
本発明による顕微鏡の1つの可能な実施形態によれば、横色収差補正装置は高分散薄膜フィルタを含む。これにより得られる利点とは、横色収差補正装置を構築するスペースを節約できることである。
【0030】
かかるフィルタは例えば、それぞれ異なる屈折率の誘電体材料の周期構造を含むことができ、これを例えばいわゆるチャープ構造(チャープミラーを参照)または共振器構造の形態で存在させることができる。
【0031】
顕微鏡の1つの実施形態によれば、横色収差補正装置は少なくとも1つの光学素子を含むことができ、この光学素子の試料側において、少なくとも2つの波長のビーム路を照射側に対し互いに傾斜させることができる。
【0032】
かかる光学素子は例えばプリズムおよび/または格子であり、この場合、これらの光学素子により形成される角度分散が、すなわち少なくとも2つの波長相互間の個々の波長に依存する角度が、奇数の光学素子を有する結像光学系によって、少なくとも2つの波長のビーム路のオフセットに変換される。
【0033】
この実施形態によればさらに、偏向素子例えば偏向プリズムおよび/または偏向ミラーを設けることができ、これらを用いることで、角度分散が加えられた波長を平均して再び本来の伝播方向に戻すことができる。
【0034】
偏向ミラーを用いた、もしくは少なくとも1つの偏向ミラーおよび偏向プリズムを用いた光学偏向装置のこの種の構造を、高分散薄膜フィルタを備えた横色収差補正装置のためにも用いることができる。よって、フィルタのケースにおいて、側方で互いにずらされた両方の波長のビーム路を、平均して再び本来の伝播方向に偏向することができる。
【0035】
本発明による顕微鏡のさらに別の実施形態によれば、少なくとも2つの光学的横色収差補正素子が設けられており、これらのうち少なくとも1つの光学的横色収差補正素子は、他の光学的横色収差補正素子に対し相対的に傾斜可能に構成されている。光学的横色収差補正素子の少なくとも1つを傾斜可能に配置することにより得られる利点とは、少なくとも2つの波長のビーム路のオフセットを調整できる、ということである。
【0036】
少なくとも2つの光学的横色収差補正素子を、好ましくは伝動式に駆動することができる。同様に、2つの高分散薄膜フィルタを設けることもできる。
【0037】
横色収差補正素子は好ましくは1つの軸を中心に回転可能に支承されており、この場合、軸を好ましくは光シートに対し平行に配向することができ、かつ/または照射光学系の光軸と横色収差の方向とにより規定される平面に対し垂直に位置させることができる。
【0038】
本発明による顕微鏡のさらに別の実施形態によれば、少なくとも2つの光学的横色収差補正素子のうちの少なくとも1つは、実質的に平行平面の透過性プレートとして構成されている。
【0039】
好ましくは両方の横色収差補正素子を、それぞれ平行平面の透過性プレートとして構成することができる。実質的に平行平面のプレートにより得られる利点とは、このプレートによって、それぞれ異なる波長の光が垂直に入射していないときに、それぞれ異なるスペクトル成分を互いにずらすことができ、その際にすべての波長成分に対し平行平面のプレートによって共通のオフセットが加えられる、ということである。「実質的に平行平面の」とは、透過性プレートがごく僅かな楔(いわゆる楔型光学素子)しか有し得ない、ということである。これにより得られる利点とは、フェブリーペロー効果を回避できる、ということである。僅かな楔しか有さない光学素子を、本明細書においてはやはり平行平面であるとみなすることができる。
【0040】
本発明による顕微鏡のさらに別の実施形態によれば、少なくとも2つの光学的横色収差補正素子のうちの2つが、実質的に平行平面の透過性プレートとして構成されており、この場合、少なくとも2つの平行平面の透過性プレートは、それぞれ異なる屈折率および/または厚さを有する。これら両方のプレートがそれぞれ異なる屈折率および/または厚さで構成されているならば、少なくとも2つの波長のビーム路の共通のビームオフセットを相殺することができ、ただしこのことは、少なくとも2つの波長のビーム路の相対オフセットを同様に相殺することなく行われる。
【0041】
それぞれ異なる屈折率および/または厚さの2つの平行平面の透過性プレートを、それぞれ異なる角度でビーム路に対し配向することができ、特に一方のプレートを数学的に正の方向の向きで(反時計回りに)、他方のプレートを数学的に負の方向の向きで(時計回りに)傾斜させることができる。このことによって、本来の伝播方向に対する少なくとも2つの波長のビーム路の絶対的なシフトを相殺することができる。
【0042】
本来の伝播方向に対するそれぞれ異なる角度によって、少なくとも2つの波長のそれぞれ異なる角度スプリットと、さらにそれぞれ異なるオフセットと、が形成され、これは平行平面プレートをいっそう僅かな角度スプリットといっそう僅かなオフセットでいっそう厚く構成することによって補償される。
【0043】
本発明による顕微鏡のさらに別の実施形態によれば、少なくとも2つの光学的横色収差補正素子はそれぞれ異なる材料分散を有する。かかる構成は、それぞれ異なる2つの波長相互間の比較的大きいオフセットが望まれる場合に、特に有利である。
【0044】
材料分散は、それぞれ異なる2つの波長のスプリットもしくはそれぞれ異なる2つの波長のオフセットを、互いに調整できるようにするために用いられる材料パラメータである。アッベ数が小さい高分散材料(例えばフリントガラス)を、少なくとも2つの波長のビーム路相互間の相対オフセットのために適用することができるのに対し、クラウンガラスのようにアッベ数が大きい低分散材料を、両方の波長の共通のビームオフセットを相殺するために用いることができ、ただしこの場合、少なくとも2つの波長相互間のビーム路の相対オフセットが完全に相殺されることはない。
【0045】
例えばクラウンガラスとフリントガラスは類似した屈折率を有するので、これら両方の材料から成る2つの平行平面プレートは、それぞれ異なる両方の波長の同等の絶対オフセットを形成するのに対し、いっそう高分散のフリントガラスは、少なくとも2つの波長のビーム路相互間のいっそう大きい相対オフセットを形成する。
【0046】
いっそう小さい分散を有する平行平面プレートを、本来の伝播方向に対しいっそう小さい角度でビーム路中に配置し、かつこのプレートの厚さを、いっそう大きい材料分散を有する平行平面プレートよりも厚くすれば、少なくとも2つの波長のビーム路相互間の相対オフセットをさらに大きくすることができる。
【0047】
本発明による顕微鏡のさらに別の実施形態によれば、少なくとも2つの光学的横色収差補正素子は、互いに運動を伝達し合うように結合されている。これにより得られる利点とは、少なくとも2つの波長のビーム路相互間の相対オフセットを可変に調整でき、かつこれと同時に少なくとも2つの光学的横色収差補正素子を運動伝達を伴うように結合することにより、本来の伝播方向に対するビーム路の変化した絶対オフセットを相殺できる、ということである。
【0048】
第1の光学的横色収差補正素子を通過後の少なくとも2つの波長のビーム路の相対オフセットは、光の本来の伝播方向に対する照射側の横色収差補正素子の角度に依存する。角度が大きくなると、少なくとも2つの波長のビーム路の相対オフセットが大きくなるけれども、本来の伝播方向に対するビーム路の絶対オフセットも大きくなる。試料側の光学的横色収差補正素子の運動伝達を伴う結合を、この補正素子が本来の伝播方向に対するビーム路の変化した絶対オフセットを実質的に補償するように構成することができる。
【0049】
少なくとも2つの光学的横色収差補正素子を機械的に、例えば伝動装置によって、運動伝達を伴うように結合することができる。運動伝達を伴う結合を電気的に行うこともでき、例えば2つの電動モータ特にステッピングモータを用いて行うこともできる。
【0050】
運動伝達を伴うこの種の結合を、高分散薄膜フィルタを備えた、もしくは少なくとも2つの波長のビーム路を互いに傾斜させる光学素子例えばプリズムまたは格子などを備えた顕微鏡の上述の実施形態においても、適用することができる。
【0051】
少なくとも2つの波長を互いに傾斜させる素子を、個別にかつ/または相互に伝播方向に沿ってシフト可能である。プリズムをさらに挿入方向に沿ってまたは挿入方向とは逆方向にシフト可能であり、この場合、挿入方向はプリズム基部から先端部を指す。
【0052】
このようにすることで横色収差補正装置を、少なくとも2つの波長のビーム路に取り込むことができる装置として構成することができる。これによれば横色収差補正装置の試料側出口では、少なくとも2つの波長のビーム路相互間の相対オフセットだけが発生し、ただし本来の伝播方向に対するビーム路の絶対オフセットは発生しない。
【0053】
本発明による顕微鏡のさらに別の実施形態によれば、縦色収差補正装置が設けられており、この場合、それぞれ異なる少なくとも2つの波長のビーム路は、縦色収差補正装置の照射側において発散または収束を互いに有し、この発散または収束は、縦色収差補正装置の試料側における少なくとも2つの波長のビーム路相互間の発散または収束とは異なる。これにより得られる利点とは、少なくとも2つの波長の集束位置相互間の相対的なシフトを照射光学系の光軸に沿って行えることである。
【0054】
少なくとも2つの波長の焦点を、照射光学系の光軸に沿ってもしくは光軸とは逆方向にシフトすることを、例えば両方の焦点を互いにオーバラップした状態にするために用いることができ、このようにした結果、オーバラップした焦点により規定される1つの領域を、同時に両方の波長によって照射することができるようになる。
【0055】
縦色収差補正装置を特に単独で設けることができ、つまり顕微鏡内に横色収差補正装置を伴わずに設けることができる。
【0056】
顕微鏡の照射光学系は縦色収差を有する可能性があり、この場合、縦色収差補正装置によって、縦色収差により照射光学系の試料側に発生するそれぞれ異なる波長の焦点のシフトを、互いに相対的に光軸に沿ってもしくは光軸とは逆方向に付加的にかつ所期のようにシフトすることができ、それらの焦点を例えば重なり合った状態にすることができる。さらに照射光学系の試料側に、横色収差が発生する可能性がある。
【0057】
特に有利になり得るのは、少なくとも2つの波長のビーム路の発散もしくは収束を、縦色収差補正装置によって互いに相対的に以下のように変化させることである。すなわちこの変化により、照射光学系の試料側において少なくとも2つの波長の焦点を、照射光学系の光軸においてもしくは光軸とは逆方向で重なり合うようにするのである。
【0058】
本発明による顕微鏡のさらに別の実施形態によれば、縦色収差補正装置は、少なくとも1つの屈折光学素子と少なくとも1つの回折光学素子とを有する。
【0059】
屈折光学素子を、例えば球面レンズとして構成することができる。回折光学素子はDOEとも呼ばれるが、この回折光学素子を、マイクロ構造を備えた実質的に平坦な光学素子として構成することができる。マイクロ構造はDOE上のポジションに応じて、伝達する光に対しそれぞれ異なる光学的経路長を有するので、DOEを通過した部分ビームは位相変調されており、DOEによって光の強め合う干渉または弱め合う干渉が引き起こされる。
【0060】
通常の分散を有する球面レンズは、短波長光に対し長波長光よりも短い焦点距離を有するのに対し、回折動作をするレンズに関する焦点距離の関係は逆である。
【0061】
従来技術において縦色収差を補正する目的で、少なくとも2つの波長のビーム路の発散もしくは収束において望ましい相違を、慣用のレンズを用いて達成するためには、一般に両方の色にいっそう強い発散もしくは収束を加えなければならない。
【0062】
本発明によれば、少なくとも2つの波長のビーム路の収束もしくは発散の相対的な変化を、それらのビーム路において強い絶対的な発散もしくは収束を加える必要なく、達成することができる。
【0063】
特に縦色収差補正装置は照射側と試料側とにおいて、少なくとも2つの波長のビーム路の実質的に同一の絶対的な収束もしくは発散を有することができるのに対し、それぞれ異なる少なくとも2つの波長のビーム路は、縦色収差補正装置の試料側においては、発散または収束の相対的な変化を互いに有することができる。
【0064】
本発明による顕微鏡のさらに別の実施形態によれば、少なくとも1つの屈折光学素子および/または少なくとも1つの回折光学素子は、可変に調整可能な焦点距離を有する。これにより得られる利点とは、少なくとも2つの波長のビーム路の焦点の絶対的な位置も、少なくとも2つの波長のビーム路の焦点相互間の相対的な位置も調整可能なことである。
【0065】
その際に好ましくは、屈折光学素子も回折光学素子も可変に調整可能とすることができる。これによって、2つの波長から成る種々の組み合わせに対する縦色収差の補正を、実効焦点距離すなわち例えば光シートの位置を変えることなく、実現することができるようになる。
【0066】
本発明による顕微鏡の各実施形態において、3つ以上の波長に対し縦色収差を相殺できるようにする目的で、複数の縦色収差補正装置をカスケード接続して設けることもできる。縦色収差補正装置のカスケード接続を、横色収差補正装置のカスケード接続に依存することなく、付加的にまたはこれに対する代案として、行うことができる。
【0067】
屈折光学素子を液体充填レンズとすることができ、このレンズは圧力または圧電素子を介してその焦点距離を変えることができる。
【0068】
回折光学素子好ましくは調節可能な回折光学素子を、例えば回折モアレレンズ、回折液晶レンズまたはアルバレス-ローマン(Alvarez-Lohmann)レンズなどのような調節可能な回折レンズとすることができる。
【0069】
本発明による顕微鏡のさらに別の実施形態によれば、少なくとも1つの回折光学素子は空間光変調器として構成されている。空間光変調器はSLM(英語ではspatial light modulator)とも呼ばれ、反復性があり再現可能なものとすることができ、数ms~100msの範囲のスイッチング時間で位相変調された種々のマイクロ構造を生成することができる。
【0070】
空間光変調器を透過型または反射型として構成することができる。反射型の空間光変調器は、光変調器と反射光学系との間において折り返されたビーム路と比較的長い距離とを必要とするので、好ましくは透過型の空間光変調器が設けられている。
【0071】
空間光変調器のさらに別の利点は、一般にコンピュータにより生成される回折パターンをこの変調器に加えることができ、照射光学系の試料側において焦点の所望の相対シフトを調整する目的で、それらのパターンに対し例えばコンピュータ支援により簡単に最適化を行うことができる、ということである。比較的緩慢な回折レンズを固定値にセットすることができ、この場合、事前にセットされた望ましい値に対する可変の反射型レンズの偏差を、空間光変調器により提供される可変の回折レンズによって補償することができる。
【0072】
本発明による顕微鏡のさらに別の実施形態によれば、少なくとも2つの波長のビーム路は照射光学系の非近軸周辺領域を延在し、この場合、照射光学系の試料側に、ビーム路を実質的に90°偏向する少なくとも1つの偏向ミラーが設けられている。これにより得られる利点とは、照射光学系がそれぞれ異なる少なくとも2つの照射モードを有する、ということである。
【0073】
顕微鏡は、例えば接眼レンズの形態の観察光学系を有することができ、この接眼レンズは好ましくは照射光学系に対し同軸に配置されている。回折光学系および観察光学系のビーム路を、互いに平行に配向することができる。
【0074】
照射光学系を検出光学系に対し実質的に同一線上に配置することができ、これによって照射光学系を近軸でも、または共焦点照射のためにも、使用できるようになる。このようにすれば同じ照射光学系を、この照射光学系の非近軸周辺領域と偏向ミラーとを使用することによって、試料を側方から照射するためにも試料を共焦点照射するためにも(透過光顕微鏡法/共焦点顕微鏡法)用いることができる。特に好ましくは、検査領域とは直径方向で対向する位置に配置された2つの偏向ミラーを設けることができる。これによって、試料の2つの側のうちの少なくとも一方からの照射もしくは試料の両側からの照射を実現することができる。
【0075】
少なくとも2つの波長を照射光学系を通して非近軸で伝達する場合には特に、横色収差補正を光学的横色収差補正素子によって行うことができ、その際にオプションとして光学的縦色補正素子による付加的な縦色収差補正が可能である。横色収差と縦色収差は互いに依存せず、直線的にオーバラップしている。
【0076】
顕微鏡の1つの実施形態によれば、縦色収差補正装置を、照射光学系の近軸領域のビーム路内にも非近軸領域のビーム路内にも配置させることができるので、側方からの試料照射の場合にも共焦点試料照射の場合にも縦色収差補正を行うことができる。光学的横色収差補正素子を以下のように構成することができる。すなわち、この補正素子は、照射光学系の非近軸周辺領域に延在する少なくとも2つの波長のビーム路内だけに配置されており、したがって側方からの試料照射の場合のみ、光学的横色収差補正装置によって横色収差補正を行うことができるように、構成することができる。
【0077】
上述のスキャンミラーは、近軸のビーム路も非近軸のビーム路も偏向することができる。
【0078】
冒頭で述べた顕微鏡用の光学的レトロフィットキットを、ユニットとして組み込み可能な別個のアセンブリとして構成することができ、それぞれ異なる少なくとも2つの波長により顕微鏡において試料を照射する場合に、それぞれ異なる少なくとも2つの波長のビーム路の集束位置を、照射光学系の光軸を横断する方向で互いにシフトする目的で、このキットを顕微鏡に追加装備することができる。
【0079】
特にこの光学的レトロフィットキットを、このキットのさらに別の実施形態において以下のように構成することができる。すなわち、照射光学系の試料側において横色収差補正素子により引き起こされる、照射光学系の光軸を横断する方向における少なくとも2つの波長の焦点のオフセットは、実質的に照射光学系により引き起こされる、照射光学系の光軸を横断する方向における焦点相互間のオフセットとは逆方向である、ように構成することができる。このようにすることで、既存の顕微鏡の照射光学系の横色収差を補正することができる。
【0080】
この光学的レトロフィットキットをさらに、以下のように構成することができる。すなわち、このキットを既存の顕微鏡と組み合わせれば、上述の本発明による顕微鏡の1つの実施形態と同一の顕微鏡が得られるように、構成することができる。
【0081】
したがってこの光学的レトロフィットキットは、高分散薄膜フィルタを含むことができ、少なくとも1つの光学素子を含むことができ、この光学素子の試料側において、少なくとも2つの波長のビーム路が、照射側に対し互いに傾斜させられており、少なくとも2つの光学的横色収差補正素子が設けられており、これらのうち少なくとも1つの光学的横色収差補正素子は、他の横色収差補正素子に対し相対的に傾斜可能に構成されており、少なくとも2つの光学的横色収差補正素子のうち少なくとも1つまたは2つは、実質的に平行平面の透過性プレートとして設けられており、これらのプレートはそれぞれ異なる厚さまたはそれぞれ異なる材料分散を有することができ、かつ/または運動を伝達するようにこれらのプレートを互いに結合することができる。
【0082】
本発明による光学的レトロフィットキットのさらに別の実施形態によれば、縦色収差補正装置が設けられており、この場合、それぞれ異なる少なくとも2つの波長のビーム路は、縦色収差補正装置の照射側において発散または収束を互いに有し、この発散または収束は、縦色収差補正装置の試料側における少なくとも2つの波長のビーム路相互間の発散または収束とは異なる。既存の顕微鏡の照射光学系が縦色収差を有するならば、光学的レトロフィットキットのこの実施形態によってそのような縦色収差を相殺することができる。
【0083】
特に光学的レトロフィットキットは、縦色収差補正装置だけを含むことができ、したがって既存の照射光学系の縦色収差だけを補正することができる。
【0084】
光学的レトロフィットキットの縦色収差補正装置は、本発明による顕微鏡の上述の1つの実施形態と同様に、少なくとも1つの屈折光学素子と少なくとも1つの回折光学素子とを有することができ、この場合、少なくとも1つの屈折光学素子および/または少なくとも1つの回折光学素子は、可変に調整可能な焦点距離を有することができ、その際に少なくとも1つの回折光学素子を、空間光変調器として構成することができる。
【0085】
換言すれば、既存の顕微鏡にこの光学的レトロフィットキットの実施形態を追加装備することによって、本発明による顕微鏡の上述の1つの実施形態を得ることができる。
【0086】
次に、添付の図面に基づき本発明についてさらに詳しく説明する。図面には本発明の有利な実施形態が描かれており、それらの技術的特徴は互いに任意に組み合わせられ、かつ/または省略され、ただしこれは省略される技術的特徴によって達成される技術的効果が重要でない場合に限る。理解しやすくするため、同じ技術的特徴および同じ機能を有する技術的特徴には、同じ参照符号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0087】
図1】共焦点顕微鏡における縦色収差および横色収差について概略的に示す図である。
図2】光シート顕微鏡における縦色収差および横色収差について概略的に示す図である。
図3A】横色収差補正素子の第1の実施形態を示す図である。
図3B】横色収差補正素子の第2の実施形態を示す図である。
図3C】横色収差補正素子の第3の実施形態を示す図である。
図4】ビーム路中に組み込まれた横色収差補正素子を備えた照射光学系を示す図である。
図5A】回折光学素子における縦色収差を概略的に示す図である。
図5B】調節可能な凸レンズを含む回折光学素子における縦色収差を概略的に示す図である。
図5C】縦色収差補正装置を第1の補正状態において示す図である。
図5D図5Cの縦色収差補正装置を第2の補正状態において示す図である。
図6A】第3の実施形態の横色収差補正装置の一部を示す図である。
図6B】低減された角度分散を有する図6Aの第3の実施形態の横色収差補正装置の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0088】
図1には、照射光学系5、レンズ7および別の光学素子9を備えた顕微鏡1、特に共焦点顕微鏡3が概略的に示されている。別の光学素子9は、矩形でシンボリックに表されている。
【0089】
顕微鏡1はさらに、顕微鏡1の別の実施形態では照射光学系5の一部とすることもできる光源11と、試料15aを載置可能な試料ホルダ15と、観察光学系17と、を含み、この観察光学系17を介して、照射光学系5により照射された試料15aを観察することができる。
【0090】
図1に描かれた共焦点顕微鏡3は、観察用の接眼レンズ19を備えており、共焦点顕微鏡3の別の実施形態によれば好ましくは、ディジタル画像センサおよびモニタを介した試料15aの撮影、処理および表示を行うことができる。
【0091】
特に図1には、共焦点顕微鏡のシーケンシャルな画像形成または相応に必要とされるラスタ装置および走査装置は示されていない。
【0092】
拡大図13には、レンズ7として構成された照射光学系5の屈折光学素子21が示されている。
【0093】
レンズ7を通って2つのビーム路23が延在しており、この場合、それぞれ異なるビーム路23は短波長ビーム路23aと長波長ビーム路23bとを表す。
【0094】
ビーム路23は、ビーム束25の周辺ビームに基づき概略的に表され、実線で表された短波長ビーム路23aは、第2の波長27bの長波長放射の波長27よりも短い第1の波長27aの短波長放射のビーム路23に対応する。この場合、両方の波長27a,27bの絶対波長差は、以下の説明のためにはあまり重要ではなく、以下の考察のためには両方の波長27a,27bの関係だけが必要である。
【0095】
以下では、短波長光および長波長光ならびに青色光および赤色光という名称が、第1の波長27aおよび第2の波長27bの同義語として用いられる。
【0096】
図1に示されているように、レンズ7の照射側29では青色光27aおよび赤色光27bは実質的に同一のビーム路23を有する。レンズ7は、図1に示されている顕微鏡1の実施形態の場合には、両凸レンズ7aとして構成されており、レンズ7に入射する光を集束領域31に集束させる。集束領域31は、ビーム束25の幾何光学の近似の場合のみ焦点である。
【0097】
レンズ材料35の材料の1つの材料パラメータを表す材料分散33に基づき、青色光27aは第1の集束領域31aに、赤色光27bは第2の集束領域31bに集束される。
【0098】
以下では、青色集束領域と赤色集束領域という名称は、第1の集束領域31aおよび第2の集束領域31bの同義語として用いられる。
【0099】
照射光学系5の一部であるレンズ7は、直線的にオーバラップした互いに依存しない2つの色収差37を有する。
【0100】
横方向色収差とも称する縦色収差37aは、光軸41に沿った、もしくは光軸41に対し平行な方向に沿った、青色集束領域31aと赤色集束領域31bとの間の横方向オフセット39として現れる。
【0101】
横断方向色収差とも称する横色収差37bは、光軸41に対し垂直な方向における青色集束領域31aおよび赤色集束領域31b相互間の横断方向オフセット43として表される。
【0102】
図示の実施形態によれば、図1に示されている光軸41に沿って、観察光学系の光軸41aも延在している。観察光学系17は、観察平面47内に存在する物体だけが観察光学系17によって鮮明に結像されるように、観察平面47に合わせて調整される。
【0103】
ただし、青色光27aと赤色光27bとによってそれぞれ異なる領域31a,31bが照射されるので、図示の観察平面47では青色集束領域31aは点状に照射されるけれども、赤色光27bは青色光27aよりも広いライトスポット49を照射する。
【0104】
図2にも顕微鏡1が示されており、この場合、図示された顕微鏡1は光シート顕微鏡2である。
【0105】
光シート顕微鏡2も、照射光学系5および観察光学系17を含む。図1に示した共焦点顕微鏡3との対比において基本的な相違点は、拡大図13に描かれている。
【0106】
拡大図13には、レンズ7および偏向ミラー53の形態の偏向素子51が示されており、これらは照射光学系5の一部である。光シート顕微鏡2の照射光学系5も、複数のレンズ7、複数の別の光学素子9および1つの光源11を含む。
【0107】
さらに光シート顕微鏡2は、照射光学系17特に顕微鏡対物レンズ17aを高い開口数で使用できるように、浸液57で満たされたシャーレ55を含む。
【0108】
図2に示された光シート顕微鏡2特にその照射光学系5も、縦色収差37aと横色収差37bとを有する。
【0109】
図示の光シート顕微鏡2の場合、試料15aは、光軸41に対し垂直な方向で照射される。光軸41は同時に、観察光学系の光軸41aでもある。
【0110】
図2には、浸液57中に存在する観察レンズ7bが示されている。観察レンズ7bは観察平面47を結像し、図2に示した図面の場合には、観察平面47は赤色光27bによってのみ適正に照射される一方、青色光27aにより照射される別の平面47aは、観察方向59において観察平面47の後方に位置しており、したがって観察レンズ7bによってももはや鮮明に結像することはできない。
【0111】
光シート顕微鏡2の場合、縦色収差37aによって、照射方向61に沿ってそれぞれ変化する波長27の強度のばらつきが引き起こされる。
【0112】
図2には、光シート顕微鏡2における定置された照射だけしか示されていない。光シートの形成すなわち二次元照射領域の形成は、図2には示されていない偏向素子(図4参照)を用いて、スキャン軸63を中心にビーム路23を傾斜させることによって行われる。
【0113】
図3Aには、横色収差補正装置65の第1の実施形態が示されており、この装置は実質的に平行平面の透過性プレート68の形態の2つの光学的横色収差補正素子67を含む。
【0114】
説明の都合上、照射方向61は、図3Aに記載されているように延在しているものとする。ただし光路は可逆的であるので、光路が図示の照射方向61とは逆に照射される場合、図示の横色収差補正装置65によってまったく同じ技術的効果がもたらされる。
【0115】
第1の横色収差補正素子67aの厚さ69は、第2の横色収差補正素子67bの厚さ71よりも厚い。
【0116】
さらに第1の横色収差補正素子67aは、本来の伝播方向75に対し第1の傾斜角77aで時計回り73に傾斜させられている。
【0117】
第2の横色収差補正素子67bは、本来の伝播方向75に対し第2の傾斜角77bで反時計回り79の回転方向に傾斜させられている。
【0118】
図3Aに示されている横色収差補正装置65の実施形態においてさらに、青色光27aおよび赤色光27bのビーム路23が、横色収差補正装置65の照射側29では同一であり、本来の伝播方向75を決定していることが示されている。
【0119】
第1の横色収差補正素子67aは、その材料分散33aに基づき角度分散81を生じさせ、この角度分散81によって、第1の横色収差補正素子67aの試料側81において、青色光27aと赤色光27bとの間の相対オフセット85が形成される。
【0120】
同様に、本来の伝播方向75に対する両方の波長27a,27bの絶対オフセット85aも発生する。絶対オフセット85aを求めるための基準点が、図3Aにおいて青色光27aと赤色光27bとの間の中央に定義されている。図3Aの場合、相対オフセット85は、絶対オフセット85aを基準とすると比較的大きく示されており、縮尺どおりには示されていない。絶対オフセット85aは相対オフセット85よりも大きい。
【0121】
第2の横色収差補正素子67bは、本来の伝播方向75に対し反時計回り79に傾斜させられているので、このことによって、材料分散33b(これを材料分散33aとは異ならせることができる)に基づき、絶対オフセット85aが低減されるようになり、もしくは完全に相殺されるようになる。第2の横色収差補正素子67bの照射側29において、すなわち第2の横色収差補正素子67bの試料側出口84では、第2の横色収差補正素子67bの試料側83に対し、相対オフセット85bだけしか発生していない。
【0122】
第2の横色収差補正素子67bが第1の横色収差補正素子67aの絶対オフセット85aを完全に相殺すると、特に有利である。
【0123】
第2の横色収差補正素子67bの試料側83では、青色光27aと赤色光27bとの間において、相対オフセット85bと、ほぼゼロである絶対オフセット85aと、が生じる。
【0124】
これら両方の横色収差補正素子67はそれぞれ1つの運動伝達素子133を備えており、これは同期ユニット135と接続されている。同期ユニット135は、第1の横色収差補正素子67aの可変の回転を制御し、第2の横色収差補正素子67bの逆方向の回転を同期させる。運動伝達素子133は、ステッピングモータ133aとして構成されている。
【0125】
横色収差補正装置65の別の実施形態によれば、例えば伝動装置を用いて同期合わせを行うことができる。
【0126】
図3Bには、横色収差補正装置65の第2の実施形態が示されている。この装置は、偏向プリズム87として構成された偏向素子51と、高分散薄膜フィルタ89と、偏向ミラー53として構成された偏向素子51と、を含む。
【0127】
横色収差補正装置65の照射側29において、青色光27aおよび赤色光27bは同一のビーム路23を有する。青色光27aおよび赤色光27bのビーム路23は、互いにずらされているが、これは図面上のことにすぎない。
【0128】
偏向プリズム87は、同軸に延在するこれらのビーム路23を高分散薄膜フィルタ89に向けて偏向し、高分散薄膜フィルタ89は角度分散81を発生させ、その結果として、高分散薄膜フィルタ89から出射したときに、青色光27aと赤色光27bとの間に相対オフセット85が形成される。
【0129】
高分散薄膜フィルタ89は分散構造91(例えば周期構造、チャープ構造または共振器構造)を備えているので、青色光27aは高分散薄膜フィルタ89において、赤色光27bよりも僅かな強さで偏向される。
【0130】
偏向ミラー53によって、ビーム路23aおよび23bは偏向プリズム87の方向へ偏向され、偏向プリズム87はこれら両方のビーム路23a,23bを、本来の伝播方向75に対し実質的にセンタリングして、横色収差補正装置65の試料側83において送出する。
【0131】
したがって横色収差補正装置65の試料側83において、絶対オフセット85aはほぼゼロとなり、両方のビーム路23aおよび23bは、相互間の相対オフセット85bだけを有する。
【0132】
図3Cには、横色収差補正装置65の第3の実施形態が示されている。
【0133】
この実施形態によれば、2つの横色収差補正素子67がプリズム131として構成されている。
【0134】
両方のプリズム131は、個々の回転軸151a,151bを中心に回転可能であり、かつ/または挿入方向157に沿って、もしくは挿入方向157とは逆方向に、シフト可能である。挿入方向157は、プリズム基部159から先端部161へ向かって、プリズム131の回転には左右されずに延在している。両方のプリズム131は、それぞれ異なる挿入方向157を有することができる。
【0135】
この場合、第1の横色収差補正素子67aおよび第2の横色収差補正素子67bは、互いに異なる材料分散33a,33bを有する。好ましくは、材料分散33aは材料分散33bよりも大きい。大きい材料分散33aを有するプリズム131は、第1の波長27aおよび第2の波長27bを第1の平均偏向角153aだけ偏向する。第1の波長27aと第2の波長27bとの間には、第1の材料分散33aに基づき相対スプリット155が作り出される。
【0136】
材料分散33bが比較的小さいプリズム131は、第1の波長27aも第2の波長27bも、第2の平均偏向角153bだけ偏向し、その際にこの偏向によって好ましくは第1の平均偏向角153aによる偏向が相殺され、その結果、発生した第2の伝播方向75bが、第1の伝播方向75aに対し側方に平行にシフトされただけとなり、ただしこの第1の伝播方向に75aに対し実質的に平行に配向されている。光軸41b,41cも実質的に平行にシフトされている。
【0137】
第1の波長27aおよび第2の波長27bがプリズム131を通過した後、これらの波長は相互間の相対オフセット85を有し、かつこれら双方は第1の伝播方向75aに対し共通に絶対オフセット85aを有する。
【0138】
図4には、横色収差補正装置65が設置された照射光学系5が示されている。
【0139】
照射光学系5の照射側29において、両方のビーム路23a,23bは、同一線上に本来の伝播方向75に対しセンタリングされて延在しており、集束素子7d(この図ではレンズ7dの形態で示されている)によって集束される。この場合、横色収差補正装置65は、集束素子7dと発生する中間集束領域31cとの間に配置されている。横色収差補正装置65によって、上述のように、青色光27aと赤色光27bとの相対オフセット85が導入される。
【0140】
絶対オフセット85aは、互いに逆に傾斜させられた両方の横色収差補正素子67によって実質的に相殺される。横色収差補正素子67の出射後、両方のビーム路23a,23bはレンズ7dを通って延在し、このレンズ7dによってこれらのビーム路が互いにいくらか傾斜させられる。
【0141】
図4にはさらに、スキャンミラー93として構成された偏向ミラー53が示されており、この偏向ミラー53は、図平面から手前に延びるスキャン軸63を中心に、かつスキャンミラー93内に位置するスキャン軸63aを中心に、傾斜可能である。スキャンミラー93およびその傾斜によって、図平面から手前に延びる方向に沿って、もしくは図平面内に位置し本来の伝播方向75に対し垂直に延在する方向に沿って、集束領域31の位置を変化させることができる。
【0142】
スキャンミラー93および後続のレンズ7により偏向される照射方向61で、ビーム路23a,23bは既述のレンズ7を通過させられ、波長に依存する集束領域31において集束される。
【0143】
この照射光学系5は横色収差補正装置65だけしか備えていないので、青色光27aは光軸41まで赤色光27bと同じ距離のところに集束される。存在する縦色収差37aは横色収差(図示せず)の補正とは無関係であり、この理由から引き続き発生する。
【0144】
さらに図4には、照射光学系5のレンズ7がビーム路23a,23bを、非近軸周辺領域8において対応するレンズ7中を通過させることが示されている。
【0145】
図5Aには回折光学素子95が示されており、この素子は回折光学レンズ97特に調節可能な回折レンズ99として構成されており、これを例えば空間光変調器101によって形成することができる。
【0146】
互いに同軸に延在する両方のビーム路23a,23bが、調節可能な回折レンズ99に当射すると、ビーム路23a,23bは調節可能な回折レンズ99のセッティングに応じて集束される。
【0147】
回折光学素子95は回折効果に基づくものであるので、青色光27aの焦点距離103は赤色光27bの焦点距離105よりも短くなる。これらの焦点距離103,105は、回折光学素子95の主平面107から対応する集束領域31a,31bまで測定される。
【0148】
図5Bには屈折光学素子109が示されており、これは調節可能なレンズシステム111として構成されている。調節可能なレンズシステム111は、凹レンズ7cと調節可能な凸レンズ113とを含む。
【0149】
調節可能なレンズシステム111は、図5Bに示されたセッティングは凹レンズ7cの作用を有し、つまり同軸に延在するビーム路23aおよび23bは集束されず、したがって仮想青色集束領域115(青色光27aの仮想焦点)および仮想赤色集束領域117(赤色光27bの仮想焦点)が生じるようになる。
【0150】
青色光27aは負の焦点距離105を有し、赤色光27bは負の焦点距離103を有し、ただし図示の屈折光学素子109の場合、青色光の焦点距離105の絶対値は、赤色光の焦点距離103の絶対値よりも小さい。
【0151】
図5Aの回折光学素子95も図5Bの屈折光学素子109も、関与するビーム路23a,23bの収束119(図5A)もしくは発散121(図5B)を、両方のビーム路23a,23bに共通にかつ波長に応じて、互いに相対的に変化させる。
【0152】
図5Cには縦色収差補正装置123が示されており、この装置123は、図5Aの調節可能な回折レンズ99と図5Bの調節可能なレンズシステム111とを含む。
【0153】
縦色収差補正装置123は、第1のセッティング125で示されている。この第1のセッティング125の場合、調節可能なレンズシステム111によって形成される発散121が、調節可能な回折レンズ99によって形成される収束によって実質的に相殺される。したがって縦色収差補正装置123は、著しく長い焦点距離(これは数メートルの範囲で可動である)を有する。換言すれば、縦色収差補正装置123は、伝達されるビーム路23a,23bのコリメーションを実質的に維持する。
【0154】
したがって、調節可能な回折レンズ99の正の焦点距離と、調節可能なレンズシステム111の絶対値は等しいが負の焦点距離と、のペアによっても、ビーム路23a,23bの絶対収束119もしくは絶対発散121は変化しない。
【0155】
ただし、互いに相殺される焦点距離(+50mm/-50mm、+100mm/-100mm等)の種々のペアによって、青色ビーム路23aと赤色ビーム路23bとの間に相対的な収束差もしくは発散差127を生じさせることができる。
【0156】
図5Dには、縦色収差補正装置123が第2のセッティング129で示されている。第2のセッティング129の場合にも、縦色収差補正装置123に入射するビーム路23a,23bの絶対収束119もしくは絶対発散121は変化せず、実質的にゼロに維持される。
【0157】
ただし縦色収差補正装置123は、図5Cの第1のセッティングの相対的な収束差もしくは発散差127とは異なる相対的な収束差もしくは発散差127を有する。
【0158】
第1のセッティング(図5C)の場合、青色光27aは実質的にコリメートされて延在しているのに対し、赤色光27bは収束121を有する。
【0159】
第2のセッティング129の場合、赤色光27bは実質的にコリメートされて延在しているのに対し、青色光27aは収束121を有する。
【0160】
図6Aおよび図6Bには、横色収差補正装置65の第2および第3の実施形態が示されており、両方の実施形態において、角度分散81を生じさせるためにプリズム131が用いられる。
【0161】
角度分散81は、上述の記載において平行平面プレートの例を挙げて説明したように、プリズム131の材料分散33に基づき形成される。
【0162】
本来の伝播方向75を基準としたプリズム131の配向に応じて、異なる大きさの角度分散81を形成することができる。
【0163】
図3Bに示したように偏向ミラー53を用いてビーム路23a,23bを本来の伝播方向75に戻すように偏向するのと同様に、図6Aおよび図6Bでは角度分散81が加えられたビーム路23aおよび23bを、やはり本来の伝播方向に戻すように偏向することができる。このことは図示されていないが、図3Bを参照することでここでもそれに倣って実施することができる。
【0164】
この場合、ビーム路23a、23bは以下のように偏向される。すなわち、両方のビーム路23a,23bが本来の伝播方向75に対して実質的にもはや傾斜をもたないようにし、ただし青色ビーム路23aと赤色ビーム路23bとの相対的な傾斜は引き続き存在するように、偏向される。
【0165】
光学的レトロフィットキット150は、図3A図3B図6Aおよび図6Bに示した横色収差補正装置65を含むことができる。
【0166】
同様に、図5Cおよび図5Dに示した縦色収差補正装置123を、光学的レトロフィットキット150の一部とすることができる。
【符号の説明】
【0167】
1 顕微鏡
2 光シート顕微鏡
3 共焦点顕微鏡
5 照射光学系
7 レンズ
7a 両凸レンズ
7b 観察レンズ
7c 凹レンズ
7d レンズ
8 非近軸周辺領域
9 別の光学素子
11 光源
13 拡大図
15 試料ホルダ
15a 試料
17 観察光学系
17a 顕微鏡対物レンズ
19 接眼レンズ
21 屈折光学素子
23 ビーム路
23a 短波長ビーム路
23b 長波長ビーム路
25 ビーム束
27 波長
27a 第1の波長
27b 第2の波長
29 照射側
31 集束領域
31a 第1の集束領域
31b 第2の集束領域
31c 中間集束領域
33,33a,33b 材料分散
35 レンズ材料
37 色収差
37a 縦色収差
37b 横色収差
39 横方向オフセット
41 光軸
41a 観察光学系の光軸
43 横断方向オフセット
45 中心軸
47 観察平面
47a 別の平面
49 ライトスポット
51 偏向素子
53 偏向ミラー
55 シャーレ
57 浸液
59 観察方向
61 照射方向
63,63a スキャン軸
65 横色収差補正装置
67 横色収差補正素子
67a 第1の横色収差補正素子
67b 第2の横色収差補正素子
68 平行平面プレート
69 厚さ
71 厚さ
73 時計回り
75 本来の伝播方向
75a 第1の伝播方向
75b 第2の伝播方向
77a 第1の傾斜角
77b 第2の傾斜角
79 反時計回りの回転方向
81 角度分散
83 試料側
84 試料側出口
85,85b 相対オフセット
85a 絶対オフセット
87 偏向プリズム
89 高分散薄膜フィルタ
91 分散構造
93 スキャンミラー
95 回折光学素子
97 回折光学レンズ
99 調節可能な回折レンズ
101 空間光変調器
103 青色光の焦点距離
105 赤色光の焦点距離
107 主平面
109 屈折光学素子
111 調節可能なレンズシステム
113 調節可能な凸レンズ
115 仮想青色集束領域
117 仮想赤色集束領域
119 発散
121 収束
123 縦色収差補正装置
125 第1のセッティング
127 相対的な収束差もしくは発散差
129 第2のセッティング
131 プリズム
133 運動伝達素子
133a ステッピングモータ
135 同期ユニット
150 光学的レトロフィットキット
151 回転角
153a 第1の平均偏向角
153b 第2の平均偏向角
155 相対スプリット
157 挿入方向
159 プリズム基部
161 先端部
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B