(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】染料、顔料製造に使用されるカルボキシ金属フタロシアニンの製造プロセス
(51)【国際特許分類】
C09B 47/06 20060101AFI20221129BHJP
C09B 47/24 20060101ALI20221129BHJP
C07D 487/22 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C09B47/06
C09B47/24
C07D487/22
(21)【出願番号】P 2019518971
(86)(22)【出願日】2017-09-12
(86)【国際出願番号】 BR2017050268
(87)【国際公開番号】W WO2018064735
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-08-25
(31)【優先権主張番号】BR1020160233070
(32)【優先日】2016-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BR
(73)【特許権者】
【識別番号】519120787
【氏名又は名称】ゴールデン テクノロジー エルティーディーエー
(73)【特許権者】
【識別番号】519120798
【氏名又は名称】ウニベルシダデ デ サンパウロ-ユーエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】マティアス、ティアゴ アラウジョ
(72)【発明者】
【氏名】小林 長夫
(72)【発明者】
【氏名】アラキ、コーイチ
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-097497(JP,A)
【文献】特開平10-101673(JP,A)
【文献】LI, D. et al.,Catalysis Communications,2014年,vol.45,pp.95-99
【文献】FANG, Y. et al.,Mater. Res. Bull.,2010年,vol.45,pp.1728-1731
【文献】SAKAMOTO, K. et al.,Prog. Org. Coat.,1997年,vol.31,pp.139-145
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 47/06
C09B 47/24
C07D 487/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料及び顔料製造に使用するカルボキシ金属フタロシアニン製造プロセスであって、前記製造プロセスは前記金属フタロシアニンの環の形成の第1段階を含み、前記第1段階では塩化鉄(III)(FeCl
3)、尿素(CH
4N
2O)、ピロメリット酸無水物及びモリブデン酸アンモニウム四水和物((NH
4)
6Mo
7O
24.4H
2O)を混合し、ジフェニルエーテルにおいて温度を180
oCに上げて環化反応を起こさせ、前記反応で、前駆体テトライミド鉄フタロシアニンTI-FePc、いくつかの固体副生成物、主に水酸化酸化鉄、モリブデン化合物、尿素及びジフェニルエーテルの分解物が生成され、前記プロセスは第1段階で生成された固体不純物の大半を除去する第2段階を含み、精製段階(前記第2段階)は反応媒体において生成された有機・無機物質を溶解する塩酸溶液を用いて前記第1段階で得られた固体の処理を含み、前記精製段階では前駆体TI-FePcは固体状態を維持し、第3段階では精製された前駆体TI-FePcを水酸化ナトリウム溶液で加水分解し、前記第3段階が完了すると8つの陰電荷によって反応媒体において可溶性オクタカルボキシ鉄フタロシアニン中間体OC-FePc溶液が得られ、第4段階では沈殿剤として塩化カルシウム溶液を付加することでカルシウムオクタカルボキシ鉄フタロシアニンCaOC-FePcを分離し、得られた水酸化ナトリウムを含む溶液は硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)の添加によりCa
2+イオンをCaSO
4として沈殿及び分離させ、前記溶液は前記第3段階のTI-FePc中間体の加水分解に使用され、第5段階では塩酸による酸性化、CaOC-FePcのオクタカルボキシ鉄フタロシアニンHOC-FePc生成物への転換、及び、酸性溶液を前記第2段階又は前記第5段階で再利用するための再生を含む、製造プロセス。
【請求項2】
前記第1段階は、環化反応及び35%の収率でテトライミド鉄フタロシアニン(TI-FePc)中間体を生成することを特徴とする、請求項1記載の染料及び顔料製造に使用するカルボキシ金属フタロシアニン製造プロセス。
【請求項3】
前記第5段階で得られた固体は、機能的顔料として使用できることを特徴とする、請求項1記載の染料及び色素顔料製造に使用するカルボキシ金属フタロシアニン製造プロセス。
【請求項4】
前記第5段階で使用された塩酸溶液を処理してTI-FePcの精製に再利用できることを特徴とする、請求項1記載の染料及び顔料製造に使用するカルボキシ金属フタロシアニン製造プロセス。
【請求項5】
前記第4段階後、カルボキシル酸誘導体HOC-FePcを得るために固体CaOC-FePcをHCl溶液に反応させてCa
2+イオンをH
+に置換し、HOC-FePcに置換させ、目標とする生成物を塩化カルシウムの酸性溶液から分離し、前記溶液は同段階のほかのバッチのCa
2+イオンのプロトン化/置換に再利用するか又は前記第2段階のTI-FePc中間体の精製で使用することができ、同溶液を硫酸で処理し、CaSO
4の沈殿物を分離することを特徴とする、請求項1記載の染料及び顔料製造に使用するカルボキシ金属フタロシアニン製造プロセス。
【請求項6】
前記第3段階で使用した水酸化ナトリウム溶液を処理してTI-FePcの加水分解に再利用することを特徴とする、請求項1記載の染料及び顔料製造に使用するカルボキシ金属フタロシアニン製造プロセス
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明特許出願は織物業界等で使用されるカルボキシ金属フタロシアニンに基づく機能的染料、顔料の製造プロセスに関する。
【0002】
序文
本発明特許出願は染料、顔料の製造に使用可能なカルボキシ金属フタロシアニンの革新的な製造プロセス及び得られるカルボキシ金属フタロシアニンに関する。
【0003】
フタロシアニン(Pc)は炭素及び窒素の原子1、3において非局在化18π電子を有する平面構造芳香族の大環状化合物系である。その構造は四角形に類似し、4つのイソインドールがイミン化架橋によって結合され、空洞を持つ円形を形成し、4基の内部窒素を持つ。この大環状化合物系の中心空洞は2H+(フリーベースフタロシアニン)を収容又は金属イオン、特に多様な酸化状態の遷移金属イオンを結合し、金属フタロシアニン(MPcs)を生成する。これらの大環状化合物は周期表4の金属元素の大半と化合物を生成することができる。
【0004】
その特異な電子及び分子構造は光化学的、電気化学的、触媒的に活性化され、これらの特性は中心金属イオンとその酸化状態、環の外周における置換基、分子間会合の形態及び度合に従って制御/調整することができ、化学、技術の面において探求されている多くの特性を生み出す。例えば、集合してπ雲(πスタッキング)による強度な分子間相互作用による積層構造を形成し、ドープすることで優れた伝導体と化することができる。また、フリーベースフタロシアニン及びその金属錯体が有する強い色彩とその熱・光化学的安定性の組み合わせが染料、顔料として特に織物製品及び印刷業界、一般染料業界等で幅広く使用される基となる。さらに、その電子的特性、酸化還元反応により、フタロシアニン及びその金属誘導体は分子電子、太陽光セル、光電池、フォトニック装置、エレクトロクロミックディスプレー、ガスセンサー、非線形光学、光線力学療法、液体結晶、触媒作用、電極触媒作用、ナノテクノロジー等、多くの技術分野で使用されている材料である。
【0005】
鉄、ニッケル、コバルト、亜鉛、マグネシウム等のイオンによって金属化された未置換フタロシアニンは、環化反応の簡易性と高効率のため、特に顔料の分野における需要に対応するために大量に製造されている。然し、その基礎反応の効率は環の外周に存在する置換基の数及び種類に依存し、カルボン酸/カルボン酸塩等の反応性置換基の場合は大幅に減少する。環に結合したカルボン酸塩基の数によって収率は更に減少する傾向にあり、経済的に競争力が低下する。しかし、これらの分子は特有の触媒特性を有し、特に酸化反応、具体的には酸素分子の活性化反応に関する特性である。また、新しい使用法及び製品の開発において重要な殺生物剤特性及び臭気除去特性が報告されている。したがって、カルボキシル化金属フタロシアニンの効率的な大量生産プロセスと、結果的には低製造コストによって、特に織物分野を含む多くの分野に向けた染料、顔料及び機能的添加剤等、新しい製品及び用途の開発を可能にする。
【0006】
フタロシアニンは1、2-ジシアノベンゼン(フタロニトリル)、ベンゼン-1、2-ジカルボン酸、無水カルボン酸、ベンゼン1、2-ジカルボキシアミド、フタルイミド、1、3-ジイミノイソインドリン
1、5、6等、多くの前駆体を凝縮して合成することができる。フリーベースフタロシアニンは強塩基のフタロニトリルを過熱したアルコール
5で反応させて合成することができる。また、金属マグネシウム
5の存在下においてフタロニトリルを加熱して事前に得られたMgPc濃縮強酸を媒体とする脱金属によって得ることもできる。MPcs(M=金属イオン)は高沸騰点の適切な溶剤を用いてフタロニトリル(
図1)と無水金属塩を加熱して得ることができる。もし、出発試薬が無水物、アミン、フタルイミド又は1、3-ジイミノイソインドリン等のカルボン酸誘導体である場合で、金属フタロシアニンがそれぞれの金属塩、触媒及び溶解温度が133
oCの高沸騰点溶剤として働き、場合によっては窒素原子の源
5ともなる尿素を用い、これらの誘導体をニトロベンゼンで加熱して生成することができる。
【0007】
カルボン酸基(カルボキシ金属フタロシアニン)で置換したPcs及びMPcsは上記の前駆体を任意の位置にカルボン酸又はその誘導体、もしくはニトリルと置換して製造される。したがって、環化プロセスにおいてそれぞれのイミド誘導体が生成され、反応の収率を向上させるための保護基として働き、次にアルカリ環境において加水分解されて該当するカルボン酸誘導体が生成される
2、7、8。例えば、イミドに基よってテトラ置換されたMPc(
図2)は酸無水物又はトリメリット酸(1、2、4-トリカルボキシ安息香酸)と、望む金属塩基、尿素及び触媒との約200
oCでの反応において生成される。次に、イミド基は強塩基で加水分解され、それぞれのオクタカルボキシ金属フタロシアニン(OC-MPcs)が生成される。
【0008】
オクタカルボキシ金属フタロシアニンの調合方法として使用可能なルートのうち、最も効率的なのは目標とする金属塩基と触媒、一般的には触媒としてのモリブデン酸アンモニウム又はDBU(1、8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene)、を用いて高沸騰点の溶剤でピロメリット酸無水物又は1、2、4、5-テトラシアノベンゼンと加熱誘発させる方法である。フタルイミド4基と対称的に置換されたMPcが生成され、後に強塩基のカルボン酸塩8基の強酸塩で加水分解され、最後に
図3が示すように、酸性化及び沈殿によってカルボキシル酸基に変換される。
【0009】
カルボン酸塩基はOC-MPcに陰電荷及び可溶性を与える。これらの官能基は同官能基と繊維の結合のために、また適切な特性を有する置換基の結合の部位として使用することができる。強度な無機酸の添加がプロトン化によって負電荷を中和し、
図32、9、10が示すように難溶カルボキシル酸誘導体を生成する。
【0010】
テトラ置換及びオクタ置換MPcの製造プロセスはそれぞれ
図2、3が示すように2つの段階で行われる。第1段階は大環状環が形成される環化反応を含み、MPc(不溶性)とプロセスで発生した不純物の混合による黒ずんだ固体が生成される。第2段階の加水分解では、フタルイミド基と質量約50%の水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの強塩基濃縮水溶液とを反応させ、カルボン酸塩基を遊離させる。この高濃度は、可溶化し、第1段階で生じた有機不純物
7、11を除去する作用も持つため必要である。最後に、染料を沈殿させるためにpH 2.0まで溶液を酸
性化させる。
【0011】
日本国大阪市のオリエント化学工業株式会社名義の1998年付日本国特許10-101673番では、製造プロセスの第1段階、即ち、環化及び大環状環の形成段階で使用される溶液はポリエチレングリコールジアルキルエーテルで、特許によると反応完了後に蒸発による除去を行う必要がなく、高収率、低コストで、安全で容易な方法で尿素による方法で金属フタロシアニンの製造を可能にする。もちろん、溶液及び分解物質はプロセスの第2段階で除去され、これらは水酸化ナトリウムの残留溶液における有機負荷の大部分に相当する。
【0012】
しかし、加水分解段階で使用される塩基の量の多さと高濃度によって、酸性化段階において大量の酸が消費され、また、大量の塩類が生成され、目指す生成物と共に沈殿し、反応の副生成物であり、必要とするオクタカルボキシ金属フタロシアニン及びテトラカルボキシ金属フタロシアニンの誘導体と副生成物との分離が困難となる。カルボキシフタロシアニンは塩化ナトリウムと同時沈殿して微粒子が生成され、例え水によって塩類(混合物の大半)を可溶化する可能性を考慮しても従来の濾過方法又はデカンテーション方法では分離が困難となる。ここで強調すべきことは、これら二つの要素は、製造コストの高騰と、処理廃棄する必要がある低価格の汚染残留物が発生することにより、遷移金属イオンによるオクタカルボキシ金属フタロシアニン及びテトラカルボキシ金属フタロシアニンの合成物の大量生産において課題を残す。さらに、塩化ナトリウム及び塩化カリウムは有毒ではないにも関わらず、淡水、塩水の池、小川等へ大量に廃棄することは容認しがたい環境へのインパクトを生じ、環境管理当局の管理対象となる。したがって、当該生成物の生成プロセスにおいて塩類及び残留物発生を最小限に抑え又は発生させずにコストを低減させ、有りえる環境へのインパクトを最小限化させ、更に持続可能なプロセスを生み出すための製造方法の開発が必要である。これは、新規ルートの開発と各製造プロセス規準の最適化によって達成することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
日本の方法によるオクタカルボキシ鉄フタロシアニン(HOC-FePc)の製造案を
図4に示す。第1段階は環化反応及びフタロシアニンの環形成である。塩化鉄(III)(FeCl
3)、ピロメリット酸無水物、尿素(CH
4N
2O)、モリブデン酸アンモニウム((NH
4)
6Mo
7O
24.4H
2O)及びポリエチレングリコールジアルキルエーテルからなる試薬は混合されて180
oCに加熱される。この段階では、尿素が窒素原子のドナーとして働き、酸無水物基をイミド基に変換するため、HOC-FePcの前駆体であるテトライミドフタロシアニン(TI-FePc)が生成される。この第1段階においては、反応の収率が比較的低いため(<50%)大量の不純物が生成され、尿素、触媒、溶液及び試薬から発生するものを含み、大量の固体副生成物が発生する。この段階で得られた中間生成物であるテトライミドフタロシアニン(TI-FePc)は多くの有機溶液及び水に溶けない固体であり、不溶性酸化物、水酸化物又は鉄等のアルカリ環境で難溶性を示す大量の汚染物質が含まれていることに注意しなければならない。したがって、イミド基の加水分解と可溶性OC-FePcを生成するカルボン酸塩基を生成する第2段階で使用される100
oCの水酸化ナトリウムの濃縮溶液(日本のプロセスでは1グラムのHOC-FePcに対して41.6グラムのNaOHを使用。
図4)を使用する場合でも上記種類の汚染物質を除去するためには不十分である可能性がる。カルボキシル基のカルボン酸の酸化及びプロトン化するための次の塩酸処理において難溶性物質HOC-FePcを生成し、物理的方法で分離することができ、仮に鉄の酸化物、水酸化物系のこれらの汚染物質は除去される。しかし、このプロセスにおいては添加されたNaOHの過剰分を全て中和させ、生成物の沈殿に適した状態にするためにpHを約1下げる目的で過剰な塩酸を添加すると大量の塩化ナトリウムが生成され(1グラムのHOC-FePcに対して61グラムのNaCl)、目的とする生成物と共に沈殿し、青色のペーストが生成される。塩酸の使用量は非常に大きく、製造される1グラムのHOC-FePcに対してHClの37%溶液が102.75グラム使用される。したがって、塩で飽和された生成物はNaOH溶液で抽出され、HCl溶液にて沈殿させる。
【0014】
もう一つの改善すべき重要な様態はプロセスの収率である。市販品と本特許出願に基づいて製造された生成物との分光測光調査による比較では、市販品の青色固体には大量の不純物が含まれていることが明らかである。
図6が示すように。不純物の質量百分率では2/3を超え、報告されている42%の収率(1998年付日本国特許10-101673番に基づく)は現実とは程遠く、純粋生成物の比率で修正すると約14%にまで減少する。本特許出願では、プロセスを更に効率化させ持続可能にし、更に顔料として使用するための適切な不溶性生成物の製造を可能にするための選択肢を示す。
【0015】
要約
前に述べたように、オクタカルボキシ鉄フタロシアニン(HOC-FePc)の製造プロセスにおいて副生成物及び残留物の生成を最小限化する必要がある。文献に記載されている大半の方法及び1998年付日本国特許10-101673番の方法は水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの質量50%の溶液を大量に使用するため、溶液を中和し、生成物を分離するために大量の塩酸溶液を必要とし、結果的には残留物7、11として大量の塩化ナトリウム又は塩化カリウムを発生させる。同種分子の構造的・化学的特性を利用して高純度の生成物が得られる更に効率的な新しい合成ルートを開発し、従来の方法及び1998年付日本国特許10-101673番の方法と比較すると低コストでほとんど残留物(特に塩類)を発生させないため、更に持続可能なプロセスとした。この革新はプロセスに戦略的な次の二つの段階を追加することで得られた。a)環化反応後に得られた前駆体であるテトライミド鉄フタロシアニン(TI-FePc)を塩酸溶液で精製して水酸化酸化鉄の不純物の大半を除去する、b)塩化カルシウム等のカルシウム塩を沈殿剤として使用した水酸化ナトリウムの水溶液を用いた加水分解後に生成物を分離することで、加水分解段階でNaOHのアルカリ溶液の再利用を可能にし、望ましくない塩化ナトリウムの大量生成を避ける。要するに、上記の二つの戦略的段階を取り入れることで塩基及び酸類の二重節約につながり、また、望ましくない副生成物であり、HOC-FePc生成物の分離を困難にする塩類の生成を避けることができる。また、もう一つの難溶性物質CaOC-FePcの製造も可能にする。鉄イオンは容易に他の金属イオンと置換することが可能で、また、カルシウムイオンも他の2価カチオンと置換することもできるため染料及び顔料の原材料を作り出すことができる。
【0016】
目的
上記の現状技術に鑑みて、本特許出願ではカルボキシ金属フタロシアニンの製造に向けたプロセスを提供することを目的の一つとし、従来のプロセスと比較して当該分子製造の更らなる効率化と、低生産コスト及び発生する残留物を極度に低くする製造プロセスを開発した。
【0017】
本特許出願のもう一つの目的は高純度のカルボキシ金属フタロシアニン及び顔料としての使用に適した不溶性誘導体を得ることである。
【0018】
染料及び顔料に使用されるカルボキシ金属フタロシアニンの製造プロセスを説明する本特許出願の内容及び同プロセスにおいて得られるカルボキシ金属フタロシアニンについて、参照先を含む詳細な説明を下記の図に示す。
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、金属フタロシアニンを調合するための有機前駆体を示す。フタロニトリル(a)、ベンゼン-1、2-ジカルボン酸(b)、無水フタル酸(c)、ジイミノイソインドリン(d)。
【
図2】
図2は、テトラカルボキシフタロシアニン酸を調合するための有機前駆体を示す。Mを含むHTC-MPc=他の金属元素を含み、Fe(II)又はFe(III)又はCo(II)又はCo(III)又はCu(I)又はCu(II)又はZn(II)又はNi(II)又はMn(II)又はMn(III)又はCr(II)又はCr(III)又はMg(II)。
【
図3】
図3は、オクタカルボキシフタロシアニン酸を調合するための有機前駆体を示す。Mを含むHOC-MPc=他の金属元素を含み、Fe(II)又はFe(III)又はCo(II)又はCo(III)又はCu(I)又はCu(II)又はZn(II)又はNi(II)又はMn(II)又はMn(III)又はCr(II)又はCr(III)又はMg(II)。
【
図4】
図4は、OC-FePc及びHOC-FePcを製造する従来の合成ルートを示す。
【
図5】
図5は、TI-FePc、OC-FePc、HOC-FePc及びCaOC-FePcを製造する新規合成ルートを示す。
【
図6】
図6は、NaOHの0.1 mol L
-1溶液に入ったOC-FePcサンプル2体における電子吸収スペクトルを表示したグラフを示す。実線は日本の特許方法にて製造された市販のサンプルのスペクトルを示し、点線は新規の方法で製造されたサンプルを示したもの。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図の説明文
図4:
4.1-「第1段階」
4.2-「不純物」
4.3-「過剰」
4.4-「第2段階・加水分解」
4.5-「過剰」
4.6-「過剰」
4.7-「過剰」
4.8-「不純物」
4.9-「第3段階・沈殿」
4.10-「第4段階・再精製」
4.11-「不純物」
図5:
5.1-「ジフェニルエーテル」
5.2-「第1段階」
5.3-「ジフェニルエーテル」
5.4-「不純物」
5.5-「第2段階・精製」
5.6-「第3段階・加水分解」
5.7-「過剰」
5.8-「第4段階・沈殿」
5.9-「濾過」
5.10-「過剰」
5.11-「第5段階・Ca
2+の置換」
【0025】
製造プロセスの革新は、文献及び1998年付日本国特許10-101673番に記載されている一般的なプロセスに次の二つの戦略的段階を導入することにある。a)環化反応後に得られた前駆体であるテトライミド鉄フタロシアニン(TI-FePc)を塩酸溶液で精製して水酸化酸化鉄の不純物の大半を除去する、b)塩化カルシウム等のカルシウム塩を沈殿剤として使用した水酸化ナトリウムの水溶液を用いた加水分解後に生成物を分離することで、加水分解段階でNaOHのアルカリ溶液の再利用を可能にし、望ましくない塩化ナトリウムの大量生成を避ける。前駆体テトライミド鉄フタロシアニン(TI-FePc)の水酸化ナトリウムによる精製及びCaOC-FePc生成物の塩化カルシウム沈殿剤による分離、及び酸・塩基溶液のリサイクルと再利用は
図5に示し、具体的な説明を下記に記する。実際、新規プルセスは5つの段階に分けることができる。
- 第1段階:環化反応及び約35%の収率でテトライミド鉄フタロシアニン(TI-FePc)中間体を生成。
- 第2段階:第5段階で再生したHCl溶液で不溶解TI-FePcを精製。
- 第3段階:第4段階で再生した溶液による塩基性加水分解の反応でオクタカルボキシ鉄フタロシアニン(OC-FePc)中間体の生成。
- 第4段階:カルシウムイオンによる沈殿、CaOC-FePc顔料の分離及び第3段階で再利用されたNaOH溶液の再生。
- 第5段階:塩酸による酸
性化、CaOC-FePcのHOC-FePc生成物への転換及び第2、5段階で再利用する酸性溶液の再生。
【0026】
金属フタロシアニンの環化第1段階では、塩化鉄(III)(FeCl3)、尿素(CH4N2O)、モリブデン酸アンモニウム四水和物((NH4)6Mo7O24.4H2O)及びピロメリット酸無水物は密に混合され、ジフェニルエーテルにおいて温度を180oCに上げ、環化反応を起こさせる。反応の収率が35%と、比較的低いため、前駆体テトライミド鉄フタロシアニンTI-FePc以外に、主に水酸化酸化鉄、モリブデン化合物及び尿素とジフェニルエーテル溶液の分解物を含む多くの固体副生成物が生成される。この状態は低い収率によって悪化し、使用される従来の方法では生成物に飽和している大量の不純物を除去するには不十分となる。
【0027】
ポリエチレングリコールジアルキルエーテル溶液をジフェニルエーテル(本特許出願)に置換することは、1998年付日本国特許10-101673番に記載されているプロセスと比較して、金属フタロシアニンの生成反応において150%までの高い収率を得ることができ、最も有利であることが示された。さらに、最終生成物の純度を上げ、使用する水酸化ナトリウムの量を最小にするために、第1段階で生成された固体不純物の大半を除去するために精製段階(第2段階)が追加された。これらはTI-FePcの分子をおおい、このイミド誘導体の加水分解反応の速度を低下させている可能性がある。この精製プロセス(第2段階)は、反応媒体において生成された有機、無機物質を溶解させるために第1段階で得られた固体を塩酸溶液で処理することにある。前駆体TI-FePcの精製中は固体状態を維持しているため塩酸溶液から分離することが容易になる。注目すべきことは、この溶液は中和させる必要がなく、塩酸溶液は処理してTI-FePcの精製に再利用することもできる。但し、このプロセスに適した低汚染溶液は第5段階で得られることを認識する必要がある。反応液の再利用手順は
図5において点線矢印で表示されている。
【0028】
第3段階では、精製された前駆体TI-FePcは水酸化ナトリウムで加水分解される。前駆体の純度が高いため、この段階は従来の方法より更に希釈された塩基溶液を用いて行うことができる。この新規方法では染料1グラムの製造に僅か2.0グラムの水酸化ナトリウムを使用するため、1998年付日本国特許10-101673番に記載されている方法と比較して約95%の節約となる。この段階が完了すると8つの陰電荷によって反応媒体において可溶性OC-FePc溶液が得られる。次の段階(第4段階)では、分子のカルボキシル基を中和するための無機酸を添加する必要はなく、沈殿剤として塩化カルシウム溶液を付加することでCaOC-FePcを分離することができる。プロトン化のために無機酸を付加するのではなく、OC-FePcの分子に選別的に結合して接続するカチオンを使用し、NaOH溶剤を中和する必要なく鉄フタロシアニンの分離を可能にする不溶性固体としたCaOC-FePcを生成させる。得られた水酸化ナトリウムを含む溶液は硫酸ナトリウム(Na2SO4で、Ca2+イオンをCaSO4(s)として沈殿及び分離する)を添加して再生することができ、第3段階のTI-FePc中間体の加水分解に使用される。この段階で得られた固体は機能的顔料としての使用も可能である。最後に、カルボキシル酸誘導体HOC-FePcを得るためには、Ca2+イオンをH+に置換する必要がある。これは、固体CaOC-FePcをHCl溶液に反応させて行われる。このようにして、目標とする生成物は塩化カルシウムの酸性溶液から分離され、同溶液はこの段階で次のバッチのCa2+イオンのプロトン化/置換での使用又は第2段階のTI-FePc中間体の精製で使用することができる。但し、その前に溶液を硫酸で処理し、CaSO4の沈殿物を分離する必要がる。このようにして、新規プロセスで使用される全ての酸・塩基溶液は再利用され、試薬の大きな節約につながる。
【0029】
実際に、新規方法は塩基(NaOH)及び酸類においても約95%の節約を可能にする。塩酸溶液の消費に関しては、本プロセスでは前駆体の精製及びOC-FePcのプロトン化に使用される。バッチ毎に37%のHCl溶液に対して15グラム使用されると推定され、日本国の方法と比較して85%の節約となる。さらに、大半の部分は低価格の酸類、即ち、硫酸で代用した。水酸化ナトリウム及び塩酸溶液は次のバッチで再利用されるため、プロセスにおいて望ましくない塩化ナトリウムは生成されない。プロセスにおいて生成される唯一の塩類は塩化カルシウム又は硫酸カルシウム自体であり、少量である。カルシウム塩を沈殿剤として使用する戦略は、同試薬は低価格(塩酸の価格の約1/5)であり、プロセスのコストアップにつながるものではなく、また無毒でもある。
【0030】
前に記したように、これらの試薬の節約は製造プロセスに塩化カルシウムを使用した結果あり、水酸化ナトリウム溶液及び塩酸溶液の再生と再利用を可能にし、塩化ナトリウム等の望ましくない種類の大量発生を防止することができる。二つのバッチにおいて2グラムのHOC-FePcが製造されるとした場合、水酸化ナトリウム及び塩酸での節約はそれぞれ97%と92%に達する。
【0031】
経済的に最も実行可能である合成ルートと共に、高純度の生成物を得ることが望まれる。サンプルの純度は紫外(UV)可視(vis)吸収分光法等の技法で容易に確認することができる。金属フタロシアニンは可視領域及び紫外領域
1、5共に独特の電子スペクトルを示し、これらの分子を織物業界で染料及び顔料として使用することを可能にする。その電子スペクトルはQ帯と称する600~700 nm部分に高い吸収帯を呈し、また、600 nm付近に低強度の第2帯を呈する。紫外領域ではソーレー帯と称する350 nm付近に中強度の帯を呈する。OC-FePcの二つのサンプル、一つは市販品で、もう一つは本プロセスに従って製造されたもので、これらのサンプルにおける吸収の電子スペクトルを
図6に示した。グラフは二つのサンプルの純度比較を容易にするために波長に対するモル吸光係数(ε)で表示されている。実線で表示されているのは1998年付日本国特許10-101673番の方法に基づいて製造された市販品サンプルのスペクトルである。682と620 nmの部分で最高強度の帯が見られ、また、金属フタロシアニンのスペクトルでは異常な654 nmの肩が見られる。また、682 nmの帯より強度な紫外帯が344 nmに見られる。点線で表示されているのは新規プロセス(本特許出願)で得られたサンプルのスペクトルである。両スペクトル間に類似する点が見られ、例えば682と620 nmにおける最大吸光があり、同じ化合物であることを示している。しかし、金属フタロシアニンに求められるように
1、5、351 nmでのソーレー帯は682 nmの帯より低強度である。フタロシアニンの誘導体では600~700 nm域の帯は通常、紫外領域
1、5の帯より高い強度であることに注目する必要がある。したがって、1998年付日本国特許10-101673番の方法に基づいて製造されたサンプルには不純物が存在する可能性を強く示唆していると確認できる。両サンプルのスペクトル間の顕著な相違点は本特許出願(点線)に記載されているプロセスで製造されたサンプルにおいては全ての吸光帯でのモル吸光係数(ε)が高いことである。モル吸光係数(ε)は各物質固有の特性であると認識したうえで、下記の計算式で得ることができる。
A=εbC
ここで、Aは一定の波長におけるサンプルの吸光率で、εは同波長でのモル吸光係数(L mol
-1 cm
-1)、Cは溶液の濃度(mol L
-1)、bはサンプルの光路で、一般的には1.00
cm。
【0032】
図6に示されているように、新規プロセスにおいて得られた生成物の682 nmでのモル吸光係数は日本国プロセスで得られた生成物より約3.34倍高い。εは各物質固有の特性であるにも関わらず、ある化合物の溶液での実濃度はその化合物の純度に直接影響される。実際に、不純物はサンプルに含有する相対的数量に比例してεの数値を減少させる。したがって、εの数値が低いのは一定の質量における化合物の量が低いことによる。言い換えると、日本国の特許に記載されている方法にて製造されたサンプルには、本特許出願で提案するプロセスで製造された生成物と比較すると約70%の高い量の不純物が含まれている。つまり、同じ質量のHOC-FePcを得るためには、1998年付日本国特許10-101673番の方法に基づいて製造された生成物の3倍の質量の重さが必要となる。存在する不純物を差し引くと、1998年付日本国特許10-101673番において使用されるプロセスの収率は約12%である反面、新規プロセスの収率は約36%である。このように、新規プロセスは、経済的に高い実行可能性と効率的であると同時に高い純度の生成物を生成し、その結果、機能材料(染料及び顔料)の製造をより競争力のあるものにする。
【0033】
図4、5にはここに記述されたそれぞれ日本国のプロセスと新規プロセスを比較した図式が示されている。HOC-FePc調合の典型的な例を下記に示す。
【0034】
例
例1:
FeCl2.4H2O 2.8グラム、ピロメリット酸無水物10.0グラム、モリブデン酸アンモニウム1.4グラム、尿素22.9グラムを入念に粉砕し、ジフェニルエーテル40グラムを攪拌しながら固体混合物を添加し、反応混合物を180oCまで加熱し4時間その状態を維持した。黒ずんだ固体を濾過し、エタノールで洗浄して100 ml のNaOH 1.5M溶液で6時間還流し、300 mlの水で希釈した。その後、CaCl2の溶液(30 mlの水に4.8グラム)を添加し、沈殿させ濾過して分離した。次に、濾過した固体を100 mlのHCI 3.0Mで30分間攪拌しながら処理し、濾過し、水で洗い、乾燥させた。収量はHOC-FePc 3.0グラムであった。
【0035】
例2:
FeCl3 7.40グラム、ピロメリット酸無水物10.0グラム、モリブデン酸アンモニウム1.4グラム、尿素22.9グラムを入念に粉砕し、ジフェニルエーテル40グラムを攪拌しながら固体混合物を添加し、反応混合物を180oCまで加熱し4時間その状態を維持した。黒ずんだ固体を濾過し、エタノールで洗浄して100 ml のHCI 3.0Mで6時間攪拌しながら処理し、濾過し、100 ml のNaOH 1.5M溶液で6時間還流した。CaCl2の溶液(300 mlの水に4.8グラム)を添加し、沈殿させ濾過して分離した。次に、固体を100 mlのHCI 3.0Mで30分間攪拌しながら処理し、固体を濾過し、水で洗い、乾燥させた。収量はHOC-FePc 4.0グラムであった。
【0036】
例3:
FeCl3 3.70グラム、ピロメリット酸無水物10.0グラム、モリブデン酸アンモニウム1.4グラム、尿素22.9グラムを入念に粉砕し、ジフェニルエーテル40グラムを攪拌しながら固体混合物を添加し、反応混合物を180oCまで加熱し4時間その状態を維持した。黒ずんだ固体を濾過し、エタノールで洗浄して100 ml のHCI 3.0Mで6時間攪拌しながら処理し、濾過し、100 ml のNaOH 1.5M溶液で6時間還流した。CaCl2の溶液(300 mlの水に4.8グラム)を添加し、沈殿させ濾過して分離した。次に、固体を100 mlのHCI 3.0Mで30分間攪拌しながら処理し、固体を濾過し、水で洗い、乾燥させた。純度は洗浄工程を再度実施して上げることができる。収量はHOC-FePc 1.5グラムであった。
【0037】
例4:
CoCl2.6H2O 5.45グラム、ピロメリット酸無水物10.0グラム、モリブデン酸アンモニウム1.4グラム、尿素22.9グラムを入念に粉砕し、ジフェニルエーテル40グラムを攪拌しながら固体混合物を添加し、反応混合物を180oCまで加熱し4時間その状態を維持した。黒ずんだ固体を濾過し、エタノールで洗浄して100 ml のHCI 3.0Mで6時間攪拌しながら処理し、濾過し、100 ml のNaOH 1.5M溶液で6時間還流した。CaCl2の溶液(300 mlの水に4.8グラム)を添加し、沈殿させ濾過して分離した。次に、固体を100 mlのHCI 3.0Mで30分間攪拌しながら処理し、固体を濾過し、水で洗い、乾燥させた。純度は洗浄工程を再度実施して上げることができる。収量はHOC-CoPc 4.0グラムであった。
【0038】
例5:
Zn(CH3CO2).2H2O 5.0グラム、ピロメリット酸無水物10.0グラム、モリブデン酸アンモニウム1.4グラム、尿素22.9グラムを入念に粉砕し、ジフェニルエーテル40グラムを攪拌しながら固体混合物を添加し、反応混合物を180oCまで加熱し4時間その状態を維持した。黒ずんだ固体を濾過し、エタノールで洗浄して100 ml のHCI 3.0Mで6時間攪拌しながら処理し、濾過し、100 ml のNaOH 1.5M溶液で6時間還流した。CaCl2の溶液(300 mlの水に4.8グラム)を添加し、沈殿させ濾過して分離した。次に、固体を100 mlのHCI 3.0Mで30分間攪拌しながら処理し、固体を濾過し、水で洗い、乾燥させた。純度は洗浄工程を再度実施して上げることができる。収量はHOC-ZnPc 2.0グラムであった。
【0039】
例1、2、3、4、5の工程は下記の変更が行われる可能性がるが、これらの変更は反応の収率及び最終生成物の純度に影響する可能性がある。勿論、プロセスにおいて金属イオンの塩を他の金属元素と置換すると、異なる金属とのオクタカルボキシ金属フタロシアニンが生成され、異なる染料及び顔料が生成される。
【0040】
例1、2、3、4、5における試薬の比率は触媒(モリブデン酸アンモニウム)のモル数に関連して表記されており、即ち、モリブデン酸アンモニウム1モル、例1では塩化鉄(II)四水和物12.43モルに対する、例2ではFeCl3 40.47モル、例3ではFeCl3 20.23モル、例4ではCoCl2.6H2O 20.23モル、例5ではZn(CH3CO2).2H2O 20.23モル、ピロメリット酸無水物40.47モル、尿素336.58モル、ジフェニルエーテル207.45モルとなる。触媒間の非率は塩化鉄(II)四水和物に対して1~50モルの範囲で変化し、例2~5で使用される他の塩類はピロメリット酸無水物において1~162モル、尿素において1~1500モル、ジフェニルエーテルにおいて0~2000モル変化することができ、TI-FePc中間体の製造に向けた適切な配合の反応混合物を生成する。
【0041】
例1~5では、モリブデン酸アンモニウムを1、8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene(DBU)、1、5-diazabicyclo[4.3.0]non-5-ene(DBN)、トリエチルアミン、2-アミノエタノール、ジエチルアミン又はトリエタノールアミンと置換することができる。
【0042】
例1~5では、塩化鉄(II)四水和物は他の金属塩、特にFe(II)、 Fe(III)、 Co(II)、 Co(III)、 Cu(II)、 Ni(II)、 Mn(II)、 Mn(III)、 Cr(II)、 Cr(III)、 Zn(II)等の遷移金属塩(無水又は水和物)及び代表的なMg(II)、Li(I)でアニオンとしてハロゲン化合物、カルボン酸塩(ギ酸塩、酢酸塩、シユウ酸塩)硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、トリフルオロ酢酸塩、トリフラート、テトラフルオロホウ酸塩、ヘキサフルオロホウ酸塩を持つ金属塩と置換することができる。
【0043】
例1~5では、ピロメリット酸無水物を1、2、4、5-テトラシアノベンゼン、安息香酸、1、2、4、5-テトラカルボキシル、1、2、4、5-テトラカルボキサミドベンゼン及びピロメリット酸ジイミドと置換することができる。
【0044】
例1~5では、ピロメリット酸無水物をトリメリット酸無水物(1、2、4-トリカルボキシ安息香酸-1、2-無水物又は1、2、4-トリカルボキシ安息香酸の1、2-無水物)(
図2)又は1、2、4-トリカルボキシ安息香酸、塩化1、2-トリメリット酸無水物又はベンゼン1、2、4-トリカルボキシアミドと置換することができる。
【0045】
例1~5では、反応温度を50~250oCの範囲内で変化させることができる。
【0046】
例1~5では、反応時間を1~12時間の範囲内で変化させることができる。
【0047】
例1~5では、ジフェニルエーテル溶液をジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ニトロベンゼン、2-アミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリオール、ジアリルエステルポリオール、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル等の高沸騰点を持つ他の溶液と置換することができる。
【0048】
例1~5での洗浄工程を行うには、メタノール、アセトン、アセトニトリル、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチルアルコール等の溶剤を使用することができる。
【0049】
例1~5では、処理に使用される塩酸溶液の容量は10~3000 mlの範囲内で変化させることができ、その濃度は0.001~12Mの範囲内で変化させることができる。塩酸は硫酸、硝酸、過塩素酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、トリフルオロ酢酸等の強酸と置換することができる。反応時間は30分から12時間の範囲内で変化させることができる。例1~5では、塩基の濃度が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等において0.001~25Mの範囲内で変化させることができる。
【0050】
例1~5では、加水分解温度を50~120oCの範囲内で変化させることができ、反応時間を0.1~24時間の範囲内で変化させることができる。
【0051】
例1~5では、CaCl2の質量を0.1~10.0グラムの範囲内で変化させることができ、塩類を溶解させるための容積は1~1000 mlの範囲内で変化させることができる。
【0052】
例1~5では、塩化カルシウムを硝酸塩、臭化物、ギ酸塩、酢酸塩、トリフル酸等の塩類(無水又は水和物)又はCa(II)、 Ba(II)、 Mg(II)、 Sr(II)等の水酸化物(無水又は水和物)、若しくは遷移金属塩又はランタニド塩等と置換することができる。
【0053】
例1~5では、沈殿剤を塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、トリフル酸等の強酸と置換することができる。
【0054】
例1~5では、塩酸(又は他の酸)の容量は10.0~1000 mlの範囲内で変化させることができ、その濃度は0.001~16Mの範囲内で変化させることができる。
【0055】
例1~5では、酸処理時間を0.1~6時間の範囲内で変化させることができる。
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