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特許7184787鋼組成物を均質化する方法、鋼製品の製造方法、鋼要素を均質化する方法、および鋼を含む製品の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】鋼組成物を均質化する方法、鋼製品の製造方法、鋼要素を均質化する方法、および鋼を含む製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/00 20060101AFI20221129BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221129BHJP
   C22C 38/46 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
C21D8/00 D
C22C38/00 302Z
C22C38/46
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019546835
(86)(22)【出願日】2017-06-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 US2017035513
(87)【国際公開番号】W WO2018160211
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2020-04-22
(31)【優先権主張番号】15/609,377
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/464,723
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513313945
【氏名又は名称】テラパワー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ハケット,マイカ,ジェイ.
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-274715(JP,A)
【文献】特開2009-057592(JP,A)
【文献】特開平09-310121(JP,A)
【文献】特開2002-173745(JP,A)
【文献】特開2010-150587(JP,A)
【文献】特開平02-190446(JP,A)
【文献】国際公開第2000/072995(WO,A1)
【文献】特開2005-082838(JP,A)
【文献】千星聡,熱処理技術の基礎(ものづくり基礎講座第35回技術セミナー~熱処理技術とものづくり~),東北大学金属材料研究所附属研究施設関西センター,2015年,pp.1-28,http://www.kansaicenter.imr.tohoku.ac.jp/activity.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/00-8/10
C21D 9/00-9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼組成物を均質化する方法であって、
上記鋼組成物は、重量%で、C:0.17%以上0.23%以下、Si:0.07%以上0.23%以下、Mn:0.47%以上0.83%以下、Cr:10.8%以上12.2%以下、Mo:0.65%以上1.05%以下、Ni:0.45%以上0.75%以下、V:0.17%以上0.33%以下、W:0.35%以上0.65%以下、N:0.007%以上0.033%以下を含有し、Pの含有量が0.01%以下、Sの含有量が0.003%以下、Cuの含有量が0.03%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなるHT9鋼であり、
オーステナイト相の温度範囲が上限値を有する鋼組成物を作製するために複数の成分を溶解するステップであって、各成分は拡散率を有しているステップと、
上記鋼組成物を、単相のオーステナイト相の温度範囲における上半分内の第1の温度に加熱するステップと、
上記鋼組成物を、上記鋼組成物の上記オーステナイト相におけるCrの拡散率に基づいて決定される均質化の保持時間tの間、上記第1の温度に維持するステップと、
上記鋼組成物を加工するステップと、を含み、
上記均質化の保持時間tは、上記鋼組成物に含まれるCrの拡散率に基づいて、比率d/Bがd/B>0.5を満たすように、次式を使用して算出され、
【数1】

dは、Crの所定かつ所望の拡散距離であり、Bは、上記鋼組成物について予め観察されたCrの高濃度または低濃度の領域間の平均距離であり、Tは上記第1の温度であり、Dはオーステナイト相の鉄(γ-Fe)におけるCrの拡散係数であり、Qはγ-FeにおけるCrの活性化エネルギであり、かつ、kはボルツマン定数である、方法。
【請求項2】
上記第1の温度が、上記オーステナイト相の温度範囲における上部25%内にあるように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記第1の温度が、算出されたオーステナイト相の温度範囲の上限値よりも℃下回るように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記均質化の保持時間tは、上記維持のオペレーションの間に作製される上記鋼組成物のオーステナイトにおける、結果として生じる結晶粒のサイズに基づいて選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記均質化の保持時間tは、オーステナイト結晶粒がその最長軸において1000μm、500μm、100μm、または50μm以下になるように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記請求項1~5の何れかに記載の方法を含む鋼製品の製造方法。
【請求項7】
鋼組成物から作製される鋼要素を均質化する方法であって、
上記鋼組成物は、重量%で、C:0.17%以上0.23%以下、Si:0.07%以上0.23%以下、Mn:0.47%以上0.83%以下、Cr:10.8%以上12.2%以下、Mo:0.65%以上1.05%以下、Ni:0.45%以上0.75%以下、V:0.17%以上0.33%以下、W:0.35%以上0.65%以下、N:0.007%以上0.033%以下を含有し、Pの含有量が0.01%以下、Sの含有量が0.003%以下、Cuの含有量が0.03%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなるHT9鋼であり、
上記鋼組成物の第1の鋼要素を検査するステップと、
上記鋼組成物の少なくともCrにおける第1の鋼要素における不均一分布を観察するステップと、
上記第1の鋼要素におけるCrの高濃度または低濃度の領域間の平均距離Bを決定するステップと、
上記鋼組成物に関するオーステナイト相の温度範囲内で均質化温度を選択するステップと、
上記平均距離B、上記鋼組成物におけるCrの拡散率、および上記選択された均質化温度に基づいて均質化の保持時間tを算出するステップと、
上記鋼組成物の第2の鋼要素を上記均質化温度に加熱するステップと、
上記均質化の保持時間tの間、上記第2の鋼要素を上記均質化温度に維持するステップと、を含み、
上記均質化の保持時間tを算出するステップにおいて、上記保持時間tは、上記鋼組成物に含まれるCrの拡散率に基づいて、比率d/Bがd/B>0.5を満たすように、次式を使用して算出され、
【数2】

dは、Crの所定かつ所望の拡散距離であり、Tは上記均質化温度であり、Dはオーステナイト相の鉄(γ-Fe)におけるCrの拡散係数であり、Qはγ-FeにおけるCrの活性化エネルギであり、かつ、kはボルツマン定数である、方法。
【請求項8】
上記維持のオペレーションの後に、第2の鋼要素を1つ以上の鋼製品に加工するステップをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
上記d/Bが、0.75≦d/B≦10.0である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
請求項7に記載の方法を含む、鋼を含む製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願はPCT国際出願として、平成29年6月1日に出願されており、「鋼組成物を均質化する方法」と題する米国仮特許出願第62/464,723号(平成29年2月28日出願)および「鋼組成物を均質化する方法」と題する平成29年5月31日出願の米国実用特許出願第15/609,377号(両方とも、その全体が参照により本願に組み込まれる)に対する優先権の利益を主張する。
【0002】
〔序論〕
鋼は、様々な用途に有用な鉄と炭素の合金をいう。過去30年間の開発は、主として8‐9重量%のCrを有する鋼のバージョンに焦点を当ててきた。多数の鋼が開発されてきたが、商業的に実現可能になったものは非常に少ない。
【0003】
〔図面の簡単な説明〕
本願の一部を形成する以下の図面は、記載の技術を例示するものであり、任意の態様で記載されるように、本発明の範囲を限定することを意味するものではなく、該範囲は、添付の特許請求の範囲に基づくべきである。本特許又は本出願書類は、色彩を付して作成された少なくとも1つの図面を含んでいる。彩色図面を有する本特許又は本特許出願公開の写しは,請求および必要な手数料の納付により特許庁によって提供される。
【0004】
図1は、製鋼プロセスに適合する、改良された均質化の方法の一実施形態を上位レベルで示す。
【0005】
図2は、Thermo-calcTMのソフトウェアによって算出された公称HT9鋼(Fe-XCr-0.2C)の擬二元系状態図を示す。
【0006】
図3は、上記均質化のオペレーションの一実施形態を示す。
【0007】
図4の(a)‐(c)は、1050℃で5分間および15分間の焼準のみが行われた微細構造を示す。
【0008】
図5の(a)および(b)は、熱体Aについて、1050℃で2時間、または1075℃で1時間でさえも、微細構造の均質化、或いは帯形成(banding)の消失が完全ではないことを示す。
【0009】
図6の(a)および(b)は、熱体Dにおいて焼準化され焼戻された微細構造が幾つか異なることを示しており、ここで、暗い帯は、より高い密度および/またはより大きなサイズの炭化物を表す。
【0010】
図7の(a)および(b)は、熱体DのHT9に関する幾つかの焼準化のみの顕微鏡写真を示す。
【0011】
図8の(a)および(b)は、熱体Aの試料に対し、或る熱処理条件でスーパーピクラルを用いてエッチングされたものと、同じ熱処理条件でKallingNo.2を用いてエッチングされたものとの高倍率での比較を示す。
【0012】
図9の(a)‐(f)は、結果として生じる板状およびロッド状の物質が熱体Gにおける板状および管状の製品の両方について計測可能なCr偏析を依然として有していることを示す。
【0013】
図10(a)および図10(b)は、熱体CHおよびDHの板状および管状の製品を製造するために使用される主要な処理ステップにおける処理の概要を示す。
【0014】
図11は、照射によって形成された空隙に基づく深さ効果を示す代表的な透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【0015】
図12は、上記熱体に関するスエリングの結果を示す。
【0016】
図13は、480℃、188dpa、0.2appmHe/dpaで照射した後の上記4つの熱体における空隙の微細構造のTEMコラージュを示し、ここで、上記空隙は黒色の特徴として現れている。
【0017】
図14は、460℃、188dpa、0.015appmHe/dpaで照射した後の上記4つの熱体における空隙の微細構造のTEMコラージュを示す。
【0018】
図15(a)‐図15(c)は、複数の燃料要素からなる核燃料集合体の一実施形態の概略的な部分切欠き斜視図である。
【0019】
図16は、シェルを用いて構成されたシェルアンドチューブ型熱交換器を示す。
【0020】
図17は、開放型、半開放型、および閉鎖型のインペラの実施形態を示す。
【0021】
図18は、上述した鋼の実施形態から製造可能な構造部材および締結部品を示す。
【0022】
図19は、進行波炉の一実施形態を示す。
【0023】
図20は、完全な(purely)オーステナイト相よりも高い温度で均質化されたHT9の熱体の画像であり、望ましくないδ-フェライトの形成を示す。
【0024】
〔詳細な説明〕
鋼を硬化させる或る伝統的な方法は、鉄の相がフェライトからオーステナイトに変化する温度、すなわち、結晶構造がBCC(体心立方)からFCC(面心立方)に変化する温度に鋼インゴットを加熱することである。上記鋼をオーステナイトに加熱する動作は、オーステナイト化と呼ばれる。オーステナイト相では、鋼は実質的により多くの炭素を固溶することができる。上記オーステナイト相の温度範囲は、組成に応じて変化し、典型的には熱力学的算出から決定されるが、特定の組成について実験的に確認することもできる。上記温度は、上記オーステナイト相の温度範囲に到達した後、或る期間維持される。該期間は、通常は実験により決定され、上記鋼組成物の全てが上記オーステナイト相に完全に遷移したことを確実にするのに十分な長さである。完全なオーステナイト化が達成されると、上記物質は、炭素が炭化物析出物を形成する時間を与えないような高い冷却速度で急冷される。これにより、上記鋼はマルテンサイト相に遷移し、該マルテンサイト相では、結晶格子がBCCに代えてBCT(体心正方晶系)となる。このプロセスの後、鋼を熱間加工し、焼準化し(第2のオーステナイト化のステップを含み得る)、かつ、焼戻して、最終的な形状および硬度を達成し得る。
【0025】
熱間加工前の鋼組成物における初期の均質化をより緻密に制御することによって、鋼の一貫性(consistency)および強度を改良し得ることを示す実験を行った。該実験は、従来のオーステナイト化の技術が、鋼組成物内の様々な成分の拡散を考慮に入れておらず、その結果、鋼組成物を完全に均質化することができないことを示している。
【0026】
本開示に記載の方法では、鋼のインゴットをオーステナイト化する初期のステップが、異なる成分の均一な分布をインゴット全体にわたって達成するように変更される。上記従来のオーステナイト化の技術と本願に記載の進歩的な方法とを区別するために、本願に記載の方法を使用する上記初期のステップを、均質化ステップ、または単に均質化と称する。
【0027】
図1は、改良された均質化の方法の一実施形態を上位レベルで示しており、これは製鋼プロセスに適合する。図示の方法100では、上記初期の鋼組成物は、初期の溶解およびインゴット生成のオペレーション102において所望の鋼組成物を取得するのに必要な割合で様々な成分を組み合わせることによって生成される。これは、真空誘導溶解(VIM)、或いはアルゴン-酸素脱炭法(AOD)の後のVIMなど、任意の適切な技術を使用して行われてもよい。不純物を低減するためのさらなる製錬は、例えば、真空アーク再溶解(VAR)またはエレクトロスラグ再溶解(ESR)または消耗電極式真空アーク再溶解(CEVAR)または電子ビーム溶解(EBM)によって実施されてもよいし、実施されなくてもよい。また、上記鋼を粉末冶金用途に使用するために、VIMの後に粉末製造のための不活性ガスの霧化を続けてもよい。例えば、一実施形態では、上記溶解は、或る期間、真空誘導炉内で上記鋼組成物の1つ以上のインゴットのVIMを含み、上記インゴットを電極に鍛造し、CEVAR炉内で上記インゴットを再溶解してもよい。他の溶解方法もまた適切である。
【0028】
初期の溶解およびインゴット生成のオペレーション102は、上記鋼組成物の少なくとも一部がオーステナイト相を形成する温度まで上記鋼組成物を上昇させることを含む。図2は、Thermo-calcTMソフトウェアによって算出された公称HT9鋼(Fe-XCr-0.2C)の擬二元系状態図を示す。図2では、上記オーステナイト相は、ガンマ記号「γ」および温度範囲によって表され、上記オーステナイト相における上記鋼組成物の一部または全部が示されている。幾つかの実施形態では上記初期の溶解オペレーションが特定のオーステナイト化のオペレーションを含んでもよく、該オペレーションでは、初期の溶解後の上記鋼組成物は、オーステナイト化の温度まで上昇されて或る期間保持され、その間に、上記鋼組成物の少なくとも一部がオーステナイト相に遷移する。
【0029】
初期の溶解およびインゴット生成のオペレーション102は、最終的な固体鋼の製品を製造するステップの一部として、上記鋼のさらなる処理を含んでもよい。この処理は、鍛造、機械加工、切削、研削、ピルガー圧延、その他、上記鋼のインゴットを所望の形態に位置づけるための任意の操作を含んでもよい。何れの場合においても、初期の溶解およびインゴット生成のオペレーション102の製品は、上記鋼組成物における鋼のインゴット、ビレット、板体、または管体などの鋼要素である。このオペレーション102の一部として、上記鋼要素は所望の製品の形状に加工されてもよい。該加工は、上記所望の製品に応じて、大規模であってもよいし、最低限であってもよい。
【0030】
初期の溶解およびインゴット生成のオペレーション102の後、上記鋼要素は、均質化のオペレーション104で均質化される。図示のオペレーション104では、上記鋼要素は、その鋼組成物に関するオーステナイト相の温度範囲内の目標温度まで加熱され、上記鋼組成物における1つ以上の成分の拡散率に基づいて決定される均質化保持期間、上記目標温度に保持されることによって、均質化される。
【0031】
均質化のオペレーション104において、上記目標温度は上記鋼組成物に基づいて選択され、なぜならば、鋼組成物を変化させることに関して、オーステナイト相の温度範囲が上記鋼組成物の関数であるからである。一実施形態では、上記温度は、可及的に高いが、依然として上記オーステナイト温度範囲内にあるように選択される。
【0032】
図2は、Thermo-calcTMソフトウェアによって算出された公称HT9鋼(Fe-XCr-0.2C)の擬二元系状態図を示す。上記オーステナイト相の温度範囲は、単に「γ」相の領域として図示されている。上記温度の選択については、図3を参照してより詳細に説明する。
【0033】
上記目標温度まで加熱した後、上記鋼組成物は、次に、均質化のオペレーション104において上記温度に保持される。その期間の間に、上記インゴット全体にわたって上記鋼組成物中の様々な成分が十分に溶解し移動して、上記オーステナイト相中に均質な鋼組成物を取得する。上記温度は、上記鋼における成分の拡散率と、達成されるべき目標拡散距離とに基づいて決定される期間(「均質化の保持時間」または単に「保持時間」と呼ばれる)の間保持される。上記組成物の任意の所与の成分に関する拡散距離dは、時間tおよび目標温度Tの関数として以下の式によって算出されてもよい。
【0034】
【数1】
ここで、Dはオーステナイト相の鉄(γ-Fe)における上記成分の拡散係数であり、Qはγ-Feにおける上記成分の活性化エネルギであり、かつ、kはボルツマン定数である。
【0035】
一実施形態では、使用される上記保持時間は、上記選択された成分に関する所望の拡散距離を達成するために上記拡散式から算出された時間であってもよい。Cr、Mo、Mn、V、W、Ni、Si、Co、Nb、Nなどの複数の成分が任意の鋼に存在するので、特定成分に関する任意の所与の距離について、上記算出された時間は、上記成分の拡散係数および活性化エネルギの関数であると推定される。従って、温度維持のオペレーション108にて使用されるべき特定の均質化の保持時間を決定するために、上記成分および目標拡散距離が最初に選択される。
【0036】
成分の選択のために、方法100の一実施形態では、上記鋼組成物における最小拡散成分が選択される。或いは、上記保持時間は、選択された成分であって、その均一な分布が特に関心を有する成分の保持時間であってもよい。例えば、上記選択された成分は、以前の観察に基づき偏析する可能性が最も高い成分であってもよいし、或いは、上記インゴットにて最も偏析された成分であると、均質化のオペレーション104よりも前に決定された成分であってもよい。
【0037】
目標拡散距離の選択について、一実施形態では、上記所望の拡散距離は、例えば、固体のインゴット若しくは板体における高さ、幅、および長さの最小値若しくは最大値、または鋼管の壁厚など、上記鋼要素の物理的寸法に基づいて選択されてもよい。この実施形態の一例として、最長軸L(すなわち、上記インゴットの2つの表面の間に引くことができる最長の直線)を有する固体の三次元インゴットについて、オペレーション106における保持時間は、上記拡散距離dが上記インゴットの最長経路Lに等しい場合の時間tであってもよい。別の言い方をすれば、上記保持時間tは、上記選択された成分について比d/L=1を使用して上記の式によって決定される時間である。代替の実施形態では、上記保持時間は、0.5、0.75、0.9、1.0、1.1、1.25、1.5、2.0、または2.5以上である比率d/Lに由来する時間であってもよい。或いは、上記拡散距離は、上記固体の三次元インゴットにおける最短軸Sに基づいて選択されてもよく、比率d/Sは、0.5、0.75、0.9、1.0、1.1、1.25、1.5、2.0、または2.5以上で使用される。
【0038】
別の実施形態では、上記所望の拡散距離は、均質化のオペレーション104の前に上記鋼要素にて観察された特性、或いは、組成物が同じである以前の1回分の鋼要素にて観察された特性に基づいて選択されてもよい。例えば、一実施形態では、均質化されるべき上記鋼要素は、上記組成物における1つ以上の成分の帯形成または区分化(segmentation)など、上記要素内における観察可能な異方性または不均質性を示してもよい。次に、上記所望の拡散距離は、均質化して上記観察された不均質性を除去するために、一例としては、上記鋼要素における或る成分の偏析帯を除去するために、上記観察された現象に基づいてもよい。例えば、特定の成分における帯形態の区分化を上記インゴットにて観察されてもよい。以下の実施例は、Crの帯形成の形態におけるHT9鋼について上記のような観察された異方性を説明している。次に、上記所望の拡散距離は、上記特定成分の観察された帯Bどうしの間の距離の関数として選択されてもよい。別の言い方をすれば、均質化の保持時間tは、上記帯形成を示す成分について比率d/B=1を用いて算出される時間である。代替の実施形態では、上記保持時間は、比率d/Bが0.5、0.75、0.9、1.0、1.1、1.25、1.5、2.0、または2.5以上である場合の時間であってもよい。
【0039】
また、上記均質化の保持時間の上限は、均質化の方法100の間にオーステナイトが過度に大きな結晶粒に成長することを防止するように選択されてもよい。一実施形態では、上記上限はオーステナイトの結晶粒のサイズに基づいて選択されてもよく、例えば、オーステナイト結晶粒がそれらの最長軸において1000μm、500μm、100μm、または、さらには50μmよりも大きくはない場合の保持時間が挙げられる。代替の実施形態では、上記保持時間の範囲の上限は、上記選択された拡散距離と目標距離との比(例えば、d/L、d/S、d/Bなど)に基づいて選択されてもよい。例えば、上記保持時間の上限は、d/Bが10.0、5.0、4.0、2.5、2.0、または、さらには1.5である場合の時間t以下であってもよい。
【0040】
従って、一実施形態では、均質化のオペレーション104にて使用される上記均質化の保持時間は、選択された成分について、拡散距離dに関して上記の式を使用して算出される時間の長さである。ここで、dは、特性距離Bを有する観察された異方性に基づいて、比d/Bがd/B=0.5、0.75、0.9、1.0、1.1、1.25、1.5、2.0、または2.5の下限から、d/B=10.0、5.0、4.0、2.5、2.0、または、さらには1.5の上限までであるように選択される(上記上限が上記下限よりも小さい場合の組合せを除くことは言うまでもない)。
【0041】
上記均質化の保持時間が経過した後、上記均質化された鋼要素は、次に、加工用温度に冷却され、熱間加工法または冷間加工法の何れかによって所望の最終形態に加工される。これは、加工のオペレーション106によって示されている。さらに、上記加工のオペレーション106は、焼鈍、機械加工、酸化物除去、圧延、ピルガー圧延、フライス加工、および押出などの鋼加工に通常関連する1つ以上の補助ステップを含んでもよい。
【0042】
次に、均質化され加工された鋼要素に対し、最終処理のオペレーション108によって示されるように最終処理が行われてもよい。これは、当該技術分野にて現在知られている、或いは、後に開発される任意の最終処理プロセスを含んでもよい。例えば、上記鋼組成物の最終特性を達成するために焼準化および焼戻しを含む最終処理のオペレーション108が使用されてもよい。一実施形態では、最終処理のオペレーション108は、Hackett等による「IRON-BASED COMPOSITION FOR FUEL ELEMENT」という発明の名称の米国特許第9,303,295号に記載されている方法のうちの1つ以上を含んでもよく、この文献は参照により本願に組み込まれる。上記最終処理の後、上記鋼組成物の製品は、次に、室温に冷却され、使用の準備が整う。これは、冷却のオペレーション110によって示されている。
【0043】
均質化のオペレーション104の結果、非常に均質なインゴットが加工のオペレーション108への入力としてもたらされる。上記加工のオペレーション自体が上記鋼要素を幾分不均質化するので、最終製品における最終の均質性は、加工のオペレーション106の前に上記インゴットの均質性を改良することによって改良される。最終処理のオペレーション108は、上記鋼組成物を部分的に再均質化する手助けとなり得るが、製造プロセスにおけるこの段階では、その程度の再均質化ができるのみである。従って、方法100の結果、使用される最終処理には関係なく、上記最終の鋼製品の改良された均質性がもたらされ、かつ、そのようなものとして、より強い鋼要素がもたらされる。また、方法100によって、加工のオペレーション106の前に上記改良された均質化を行わない場合に達成できるよりも短く、かつ/または、費用の少ない最終処理を用いて、最終製品において同じ性能(例えば、機械的特性および照射性能)を獲得することが可能になる。
【0044】
図3は、図1の均質化のオペレーション104の一実施形態を示す。図3に示す実施形態では、均質化のために鋼要素が設けられ、該要素は検査のオペレーション302で不均質性について検査される。一実施形態では、検査のオペレーション302は、焼戻しマルテンサイトおよびδ-Fe結晶粒などに関するラス(lath)の微細構造を明らかにするために、上記鋼要素をエッチング剤で処理した後に上記鋼要素の微細構造を光学的に検査するステップを含んでもよい。
【0045】
一実施形態では、エッチング剤の処理は、浸漬式エッチングまたはスワブエッチングの前の機械的研磨を含んでもよい。使用されるエッチング剤は、特定の微細構造を明らかにするように選択されてもよい。炭素鋼および合金鋼の顕微鏡検査を支援するために、当該技術分野にて公知および公用である多くの異なるエッチング剤およびエッチング技術が存在する。エッチング剤の例としては、1)20%水性NaOH混合物を使用する電解NaOH、2)スーパーピクラル(superpicral)、3)ビレラ試薬、4)カーリングNo.2、および、5)ピクリン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、および硫酸ナトリウムの溶液が挙げられる。
【0046】
光学的検査は、微細構造中の上記結晶粒を観察できる任意の公知の技術によって行うことができる。電子プローブマイクロアナリシス法(EPMA)は、そのような技術の一例である。また、上記実施形態および関連の鋼組成物に応じて、光学顕微鏡法または走査電子顕微鏡法(SEM)も適切な方法であり得る。
【0047】
検査のオペレーション302は、検査される上記鋼要素内における上記鋼組成物の成分の不均一分布すなわち不均質性を識別する。検出された不均質性について、不均質性を有する成分および不均質性を有する特性距離Bが、特徴付けのオペレーション304において決定される。上記特性距離は、成分の高濃度または低濃度の領域(例えば、Crリッチの帯)間の距離、または上記鋼要素内における物質の異なる相を有する領域(例えば、δ-フェライト結晶粒の比較的高い密度を有する領域、または比較的大きなδ-フェライト結晶粒を有する領域)間の距離であってもよい。このような領域は、例えば実施例で観察されるような帯の形態をとってもよいし、或いは、より一般的に、上記鋼要素全体に分布したポケットまたはゾーン(zones)の形態をとってもよい。一実施形態では、上記特性距離は、隣り合う高濃度の領域間の複数の距離を計測し、計測した距離の平均を上記特性距離として使用することによって決定されてもよい。
【0048】
代替の実施形態では、上記不均一分布をモデル化してもよく、均一な分布を得るために上記不均一分布の成分における原子が移動する必要がある距離の平均量を示す特性距離を決定してもよい。このような特徴付けの技術は当該分野で知られているが、現在知られている、或いは今後開発される任意の適切な技術が使用されてもよい。さらに別の代替の実施形態では、上記特性距離は、観察された結晶粒のサイズに基づく距離であってもよい。
【0049】
検査のオペレーション302では、例えば、異なる2つの成分が異なる帯形成を示している場合など、2つ以上の不均質性が観察されてもよい。この実施形態では、特徴付けのオペレーション304の間に、成分および特性距離の複数セットを決定してもよい。この実施形態では、両方の成分を確実に均質化するために、均質化の方法300の間において最も長い保持時間を選択して使用してもよい。しかし、オーステナイトの結晶粒のサイズを最小にすることが重要である代替の実施形態では、より拡散性の高い成分に対してより短い均質化の保持時間を使用することがより望ましいと考えられる。
【0050】
次に、上記均質化の保持時間は、保持時間算出のオペレーション306において1つ以上の上記検出された不均質性について算出される。図1を参照して上述したように、保持時間を算出するための1つの方程式は、次式である。
【0051】
【数2】
ここで、dは上記組成物の任意の所与の成分に関する上記拡散距離であり、tは上記保持時間であり、Tは上記目標温度であり、Dはオーステナイト相の鉄(γ-Fe)における上記成分の拡散係数であり、Qはγ-Feにおける上記成分の活性化エネルギであり、かつ、kはボルツマン定数である。従って、或る成分、上記目標温度、および上記所望の拡散距離が与えられると、適切な保持時間tを算出することができる。
【0052】
この実施形態では、上記所望の拡散距離は、上記不均質性の上記特性距離に基づいて決定される。一実施形態では、上記所望の距離は上記特性距離Bの関数である。例えば、一実施形態では、上記所望の拡散距離が上記特性距離であるように選択される。換言すれば、d/B=1である。代替の実施形態では、上記保持時間は、上記比率d/Bが0.5、0.75、0.9、1.0、1.1、1.25、1.5、2.0、または2.5以上である場合の時間であってもよい。また、上述したように、上記均質化の保持時間の上限は、均質化の方法300の間にオーステナイトの過度に大きな結晶粒の成長を防止するように選択されてもよい。
【0053】
さらに、方法300は、均質化の温度選択のオペレーション308において、上記鋼組成物に関するオーステナイト相の温度範囲内における目標温度を選択することを含む。温度選択のオペレーション308は、この実施形態では上記保持時間算出のオペレーション306の後に続くように例示されているが、加熱のオペレーション310より前の任意の時点で実行されてもよい。
【0054】
上述のように、上記目標温度は、上記オーステナイト相の温度範囲の上部の側にあるように選択される。通常、これにより、上記鋼要素内の成分の可動性が改良され、従って、均質化を可能にするのに必要な上記保持時間が短縮される。一実施形態では、上記目標温度は、上記オーステナイト相の温度範囲の上部50%、上部25%、上部20%、上部15%、上部10%、上部5%、または、さらには上部1%である。
【0055】
例えば、図2は、Thermo-calcTMソフトウェアによって算出された公称HT9鋼(Fe-XCr-0.2C)の擬2元系状態図を示す。この状態図は、12.5重量%のCrについて、オーステナイト相(図中の記号「γ」によって識別される)の温度範囲が約1000℃‐1200℃であることを示している。加熱のオペレーション104では、HT9組成物について、上記目標温度は、オーステナイト相の温度範囲の上部50%(すなわち、1100‐1200℃)、上部25%(すなわち、1150‐1200℃)、上部20%(すなわち、1110‐1200℃)、上部15%(すなわち、1170‐1200℃)、上部10%(すなわち、1180‐1200℃)、上部5%(すなわち、1190‐1200℃)、または、さらには上部1%(すなわち、1198‐1200℃)になるように選択される。
【0056】
しかし、目標温度が高すぎると、δ-フェライト相(図中の記号「α」によって識別される)の結晶粒が形成される可能性があり、これは上記鋼組成物の均質化に有害であることが判明している。理想的な条件であれば、上記目標温度は、特定の鋼組成物について、δ-フェライト相が生成されない最も高い温度であり、すなわち、算出され或いは実験的に決定されたオーステナイト相の温度範囲のちょうど上限或いは上限以下である。しかし、現実世界での現在の製造技術の限界と、加工技術における誤差の固有のマージンとを考慮すると、上記オーステナイト相の温度範囲の上限よりも低い上記目標温度の上限を選択して、δ-フェライトの形成に対する安全性のマージンを提供してもよい。一実施形態では、目標温度の許容範囲の上限値は、算出されたオーステナイト相の温度範囲の上限値よりも5℃低くなるように選択されてもよい。安全性のより大きなマージンは、上記算出されたオーステナイト相の温度範囲の上限値よりも10℃、15℃、または、さらには20℃低くてもよい。代替の実施形態では、上記安全性のマージンが上記オーステナイト相の温度範囲における上部領域の温度に基づいてもよい。例えば、一実施形態では、上記安全性のマージンは、上記算出されたオーステナイト相の温度範囲の上限値よりも0.01%、0.02%、0.025%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、または、さらには0.075%低くてもよい。例えば、上記算出されたオーステナイト相の温度範囲の上限値が1250℃であり、かつ、上記安全性のマージンが0.02%である場合、上記均質化の温度は1225℃である。
【0057】
方法300は、加熱のオペレーション310において、上記鋼要素を上記選択された均質化温度に加熱する。これは、任意の好ましいタイプの炉で行われてもよいし、不活性雰囲気下で行われてもよいし、任意の所望の圧力で行われてもよい。次に、上記鋼要素は、温度維持のオペレーション312において、上記算出された均質化の保持時間の間、上記目標温度に保持される。この時点で均質化は完了し、そして、図1を参照して説明したように、上記鋼要素は冷却されてもよく、それからさらに処理されてもよい。
【0058】
一実施形態では、方法300における上記初期の特徴付けおよび算出ステップの幾つかは、上記鋼組成物を特徴付けるために代表的な鋼要素に対して実行されてもよい。次に、上記加熱および維持のオペレーションは、その特定の組成物における任意の鋼要素に対し、さらなる特徴付け無しに適用される。例えば、鋼の大きな熱体の一部から鋼要素を作製し、次に、例えば、検査のオペレーション302、特徴付けのオペレーション304、算出オペレーション306、および選択のオペレーション308のような上記特徴付けおよび算出のオペレーションを上記鋼要素に対し行って、上記鋼の熱体の残りから作製された上記鋼要素について適切な均質化のパラメータ(温度、保持時間)を決定してもよい。同様に、後に生成されるが、上記分析した鋼要素と同じまたは同じに近い鋼組成を有する追加の熱体に対し、同じ均質化のパラメータを使用してもよい。
【0059】
〔実施例〕
HT9鋼の試料を製造し、均質化の時間および温度の変化の影響を決定し、それらを拡散距離と相関させるために評価した。下記の表1は、評価したHT9鋼の表である。まず、3つの合金タイプのHT9鋼(組成物A、B、およびD)を50kVA型真空誘導炉で溶解した。これらのインゴットの組成物には、HT9鋼の公称組成物(合金熱体A)と、HT9鋼にてCr当量が低範囲である組成物(合金熱体B)と、HT9鋼にてCr当量が高範囲であり、Mo含有量を変更した組成物(合金熱体D)とが含まれている。
【0060】
【表1】
【0061】
上記鋳造構造を均質化するために、上記3つの熱体A、B、およびDの各50kgのVIMインゴットを1200℃で48時間加熱した。次に、約70t×100w×450L(mm)に鍛造した。均質化のための炉の温度は、PID温度コントローラによって、かつ、較正された熱電対を使用することによって制御された。次に、上記鍛造された板体を1200℃で2時間均熱し、70t×100w×450L(mm)から約24t×110w×1,050L(mm)まで熱間圧延した。
【0062】
次に、表面加工を容易にするために、上記熱間圧延された鋼の板体の一部を800℃で1時間焼鈍し、任意の酸化皮膜を除去するために、上記板体の表面を、面ごとに約0.3mmだけ機械加工で切削した。次に、上記板体を、複数のステップによって5.4mmの厚さに冷間圧延した。冷間圧延の間の中間経路において、冷間加工された構造を軟化させるために、上記板体を800℃で1時間焼鈍した。この場合も、中間の熱処理のための上記炉の温度は、炉の上記PID温度コントローラによって、かつ較正された熱電対を使用することによって制御される。
【0063】
冷間圧延の後、のこ引き(sawing)を容易にするために上記板体を800℃で1時間焼鈍し、最終的な熱処理のために小片に切断した。切断後、各熱体からの小片の1つに対して最終的な熱処理を行った。複数の上記試料は、マルテンサイトの構造を取得するために、1000℃および1025℃でそれぞれ30分間、1050℃で5、15、30、および60分間、1075℃で15および30分間、並びに1100℃で10分間焼準のための熱処理が行われ、それから室温に空冷された。焼準の熱処理のための炉の温度は、PID温度コントローラによって、かつ較正された熱電対を使用することによって制御された。さらに、新たな熱電対が、上記熱処理のバッチにおいて上記小片の1つの表面上にスポット溶接によって取り付けられた。熱電対が取り付けられた上記小片を含む上記バッチは、上記焼準化の温度で上記炉に配置され、小片に取り付けられた熱電対が上記焼準化の温度に到達した後、最終の焼準化熱処理時間をカウントし始めた。所定時間保持した後、上記バッチを上記炉から取り出した。
【0064】
複数の上記焼準化された試料は、マルテンサイトの構造を焼戻しするために、625℃で3時間、650℃で1時間および3時間、675℃で2時間、700℃で1時間および2時間、725℃で0.5時間、および750℃で0.5時間熱処理されて、それから室温に空冷された。最終の焼戻し熱処理のための炉の温度は、PID温度コントローラによって、かつ較正された熱電対を使用することによって制御された。この場合も、上記バッチにおける上記試料の1つは、上述のように熱電対が取り付けられた小片を含んでいた。上記バッチは、上記焼戻し温度に保たれた上記炉に配置され、小片に取り付けられた熱電対が上記焼戻し温度に到達した後、最終焼戻し処理時間をカウントし始めた。30分間保持した後、上記焼戻しされたバッチを上記炉から取り出した。
【0065】
鋼要素の試料の調製は、始めにSiCで1200グリットまで機械研磨され、続いて3μmのダイヤモンドペーストで研磨され、Leco0.05μmコロイダルシリカで仕上げられた。次に、上記試料は、1)電解NaOH、2)スーパーピクラル、3)ビレラ試薬、および4)カーリングNo.2のうちの1つを用いてエッチングされ、続けて浸漬式エッチングまたはスワブエッチングが行われる。1)電解NaOHの場合、20%水性NaOH混合物が使用され、先端にPtが設けられたピンセットがグラファイト対向電極から約1インチにあり、該ピンセットに上記試料が保持されて20Vで20秒間浸漬される。2)スーパーピクラルの場合、100mLエタノール溶液における4gのピクリン酸および4mLのHClが使用され、エッチング時間は20秒以下である。3)ビレラ試薬の場合、100mLエタノール溶液における1gのピクリン酸が5mL塩酸と共に使用される。
【0066】
従来のオーステナイト結晶粒界のためのエッチング溶液は、54gのピクリン酸、135gのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(C1225SONa)、4.05gの塩化ナトリウム、1.90gの硫酸ナトリウムを含み、残りが蒸留水であり、溶液の総体積は2.7リットルであった。次に、上記粒界を出現させるために、試料を、約1分間或いは必要に応じて、上記溶液に浸漬した。これらの高純度(例えば、小バッチ)の熱体では、SおよびPの濃度が極めて低いため、上記粒界をエッチングすることは特に困難であった。
【0067】
図4の(a)‐(c)は、1050℃で5分間および15分間の焼準のみが行われた微細構造を示す。その画像は、熱体Aのものであり、左から右に伸びる帯状領域を示し、(電子プローブマイクロ分析EPMAによって確認された)組成勾配を表しており、これは、エッチング速度に影響を及ぼすと考えられる。図4の(a)は1050℃で5分間、図4の(b)は15分間、図4の(c)は30分間の熱処理を示す。顕微鏡写真の左から右の方向は、上記板体を作製したときに使用された圧延方向に対応する。上記試料の幾つかの領域は期待通りにエッチングされたが、その他の領域はエッチングされなかった。図4の(c)に示す1050℃、30分間のオーステナイト化について、帯形成の最も明瞭な例が示される。これらの場合の各々において、エッチングの帯は、上記HT9の試料が完全には均質化されていないことを示す。
【0068】
これらの結果と合致して、FFTF MOTAプログラムからのHT9アーカイブ試料もまた、1038℃で5分間の均質化が完全なマルテンサイト構造をもたらすには不十分であったことを示していることが注目される。図4(c)は、上記均質化温度での時間を30分間に単に増加させるだけではHT9を均質化するには不十分であることを示唆している。
【0069】
図5の(a)および(b)は、熱体Aについて、1050℃で2時間(図5の(a))、または1075℃で1時間(図5の(b))でさえも、微細構造の均質化、或いは帯形成(banding)の消失が完全ではないことを示す。図5の(a)および(b)における微妙なコントラスト差の帯は、不均一性が持続することを示唆している。
【0070】
図4および図5は焼準化のみなされた微細構造であるが、焼準化され焼戻しされた微細構造においても上記帯形成が出現している。750℃、30分間の焼戻し処理は、上記帯形成を最も明確に示している。上記帯は、オーステナイト化の後に残る高濃度Crの領域であり、その後の焼戻し処理により、よりクロムリッチのM23炭化析出物がこれらの領域に形成されると推測される。
【0071】
図6の(a)および(b)は、熱体Dにおいて焼準化され焼戻された微細構造が幾つか異なることを示しており、ここで、暗い帯は、より高い密度および/またはより大きなサイズの炭化物を表す。図6の(a)は、1050℃で30分間焼準化され、空冷され、かつ750℃で30分間焼戻しされたHT9の画像を示す。図6の(b)は、1075℃で15分間焼準化され、空冷され、750℃で30分間焼戻しされたHT9の画像を示す。これらの帯は、高濃度炭化物の帯および低濃度炭化物の帯であり、機械的特性、および、おそらくは、上記HT9物質の照射性能に影響を及ぼす傾向にある。
【0072】
図7の(a)および(b)は、熱体DのHT9に関する幾つかの焼準化のみの顕微鏡写真を示す。上記δ-フェライト結晶粒は、透明であり、該結晶粒の境界の周囲に炭化物の暗いリングを有するブロック形状またはレンチキュラー形状によって示される。上記δ-フェライト結晶粒が上記加工の方向に沿って帯状に配列するという傾向によって、これらの領域は、δ-フェライト形成をより容易にする(クロムは強力なフェライト安定剤である)クロム組成勾配(セクション5.3参照)を有する傾向にあることが示される。本質的に、熱体Dは、同じクロム組成勾配のさらなる証拠を提供し、熱体Aの加熱における帯形成をもたらした。
【0073】
図8の(a)および(b)は、熱体Aの試料に対し、或る熱処理条件でスーパーピクラルを用いてエッチングされたものと、同じ熱処理条件でKallingNo.2を用いてエッチングされたものとの高倍率での比較を示す。この場合も、その後に1050℃、30分間でオーステナイト化したところ、スーパーピクラルのエッチングは帯状の構造(図8の(a))を有し、KallingNo.2のエッチングはオーバーエッチングの構造(図8の(b))を有している。前者は、大部分が未エッチングのままである帯を有するマルテンサイトのラス構造を示す一方、後者は、上記画像においてより低いコントラストを示し、マルテンサイトのラス構造の一部を示しているが、オーバーエッチングの状況ゆえに、より少ないディテールを概略的に示している。
【0074】
この研究の一部として、HT9の熱体(熱体Gと称する)を作製した。熱体Gは、0.20重量%のC、0.21重量%のSi、0.64重量%のMn、0.004重量%のP、0.002重量%のS、11.47重量%のCr、0.89重量%のMo、0.56重量%のNi、0.312重量%のV、0.48重量%のW、0.004重量%未満のNb、および0.0206重量%のNの組成を有している。熱体Gから管状および板状の物質を製造している間に、上記板体および管体を製造する元であるインゴットの物質の一部を切断し、分析した。上記板体および管体の両方について、上記インゴットを1200℃で2時間均質化し、続いて熱間鍛造した。次に、板状の物質の場合には、上記インゴット(直径200mm)を、厚さ70mmに鍛造し、1200℃で2時間均熱することにより再び均質化し、それから厚さ25mmに熱間圧延し、700℃で1時間軟化させた。管状の物質の場合、鍛造は直径35mmの円形とし、続いて1100℃で1時間均熱することにより均質化し、700℃で1時間軟化させた。これらの均質化の時間および温度は、当該業界で現在使用されている典型的な値を示す。
【0075】
得られた板状およびロッド状の物質は、熱体Gの両方の板状製品について、図9の(a)‐(f)に示すように、測定可能なCr偏析を未だ有していた。上記鍛造され熱間圧延された製品に関する元素マッピングの結果は、1200℃で2時間均質化した後でさえも、著しいCr偏析を示した。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、これは、上記均質化温度が、図2に示されるような完全なオーステナイト相の温度範囲よりも高く、これにより、上記均質化のオペレーション中にδ-フェライト相が形成されると考えられる。
【0076】
図20は、この結論の証拠を提供する。図20は、真空誘導溶解、真空アーク再溶解、および1200℃で48時間の均質化後のHT9鋼を示す。画像は、200倍の倍率における上記試料の長手方向の向きを示す。フェライト(δ-フェライト)およびマルテンサイトの二重相は、均質化の時間を長時間保持するだけでは、温度を制御することなくδ-フェライトの形成を防止するには不十分であることを示していることが理解できる。この場合、二重相の微細構造は、1200℃がHT9におけるこの特定の熱体に関する単相の温度範囲ではなかったという証拠である。
【0077】
図9の(a)および(b)の検査に基づいて、Crの帯形成は不均一分布の成分として特定され、上記特性距離(この場合、帯間の平均距離)は100μmであると決定された。その情報から、上記2つの実施例におけるCrのd/B比は、1100℃で1時間の均質化についてはd/B=0.2であり、1200℃で2時間の均質化については0.5であると決定された。この結果は、Crが均質化の間に上記鋼要素全体に拡散するのに十分な時間を有しておらず、それ故に帯形成が観察されることを明確に示している。
【0078】
Cr偏析を消去するための溶液を決定するために、熱間圧延された板体および鍛造されたバーを1180℃で20時間および48時間の合計2回均質化して、Cr偏析に基づき増加するd/B比率の影響を観察した。この熱処理後のEPMA/WDSマッピングの結果を図9の(c)‐(f)に示す。
【0079】
図9の(a)‐(f)は、厚さ25mmに熱間圧延された熱体Gの板体、または直径35mmに鍛造されたロッド(バーとも呼ばれる)におけるCr含有量に関するEPMA/WDSマッピングを示す。図9の(a)は、700℃で1時間焼準化された板体のものである。図9の(b)は、1100℃で1時間焼準化され、700℃で1時間焼戻しされたロッドである。図9の(c)は、1180℃で20時間焼準化された板体のものである。図9の(d)は、1180℃で20時間焼準化されたロッドである。図9の(e)は、1180℃で48時間焼準化された板体である。図9の(f)は、1180℃で48時間焼準化されたロッドである。
【0080】
上記偏析は、d/B=1.5に対応する20時間後に大部分が消失するが(図9の(c)および(d))、或る程度の帯形成は依然として観察される。1180℃で48時間の均質化は、2.2のd/B比率に対応し、さらにより効果的であると考えられた(図9の(e)および(f))。
【0081】
これらの実施例に関するd/B比の算出を以下の表2に示す。これらの算出は、上記特性距離Bを100μmに設定したオーステナイト相内の実施例の上記鋼組成物におけるCrの拡散について行われた。
【0082】
【表2】
【0083】
これらの算出から、或る成分の比率に関して1.5以上のd/Bを選択することにより、加工および熱処理の前に上記鋼組成物のより大きな均質性がもたらされ、従って、典型的な均質化の時間および温度で観察される製品よりも良好な品質の製品がもたらされることが経験上理解できる。さらに、上記分析により、1180℃で48時間の均質化における帯形成の明らかな消失によって証明されるように、d/Bを2.0以上(例えば2.2)に増加させることによって、さらなる改良が可能であることが示される。
【0084】
実施例は、最適なd/B比率を特定するものではない。なぜなら、最適なd/B比率はより完全な均質化処理のための追加コストによっても決定されるからである。しかし、上記実施例は、d/B≦0.5が比較的劣った鋼要素をもたらし、d/B>0.5が改良された結果を与えることを実証している。さらに、d/B≧1.0、1.5、2.0、および、さらには2.2の場合、徐々に良好な結果を与える。1180℃で48時間の均質化にて帯形成の明らかな除去を考慮すると、d/B>2.2の場合、要素がこの時点で完全に均質化され得るので、上記鋼要素の性能における任意の追加の改良も提供しなくてもよい。
【0085】
〔上記方法を用いて製造された鋼のスエリング性能〕
既知の歴史的試料に対する空隙スエリング性能の改良を調査するために、上述の方法の実施形態を用いて、HT9鋼の幾つかの熱体を製造した。熱体FD(これは、上記の熱体Dと同じ鋼試料であり、明確にするために名前を変えたに過ぎない)、熱体CH、および熱体DHとして識別される、HT9鋼の3つの熱体を調製した。熱体CHおよびDHは同じ鋼組成であり、最終的な熱処理におけるわずかな変化においてのみ異なる。歴史的HT9と本願に記載の組成物の実施形態との相対的な比較のために、高速流動試験施設(FFTF)で使用されるACO-3ダクトからの熱体84425の歴史的HT9試料を、スエリングについて同じプロトコルを使用して試験した。
【0086】
各熱体の最終の板状製品の実際の組成は、分析によって決定され、表3に示される。上記歴史的試料の実際の組成も決定され、表3に同様に示される。
【0087】
【表3】
【0088】
〔試料の調製〕
熱体FDは、先の議論において熱体Dを示すものと同じ鋼熱体であり、その調製は上述されている。ACO-3試料の調製に関する情報は、文献「Irradiation Dose And Temperature Dependence Of Fracture Toughness In High Dose HT9 Steel From The Fuel Duct Of FFTF, by Thak Sang Byun, et al., Journal of Nuclear Materials 432 (2013) pp. 1-8」にて見出すことができる。
【0089】
図10(a)および図10(b)は、熱体CHおよびDHの板状および管状の製品を製造するために使用される主要な処理ステップにおける処理の概要を示す。初期の処理ステップ(真空誘導溶解(VIM)、真空アーク再溶解(VAR)、および均質化)を両方の熱体に適用した。上記熱体CHおよびDHの製造中、d/B=2.2を用いて、1180℃で48時間の均質化処理を決定し、該均質化処理は、上記板体の熱間圧延後、若しくは上記管体の第2または第3の冷間圧延ステップ後の何れかで行われた。
【0090】
重イオン照射試験は、組成物のスエリング性能を決定するために、上記3つの熱体それぞれと、上記歴史的対照試料との板体上で行った。二重イオン(Fe++およびHe++)の照射ビームを用いてイオンビーム実験室で照射を行って、(n,α)反応からのHeの生成と、それに続く中性子環境での空隙の形成をシミュレートした。高エネルギの5MeVのFe++イオンと低電流のHe++イオンとが、440、460、および480℃の鋼試料に対し、188dpaの照射線量レベルで向けられた。~2MeVのHe++イオンは、厚さが~3μmであるAl箔を透過させて、それらのエネルギを低下させ、かつ、上記鋼における適切な深さに上記He+を堆積させた。正確なHe++ビームエネルギは、上記アルミ箔の正確な厚さに依存する。上記Al箔は、上記ビームの入射角を変化させて、上記鋼の注入深さを300‐1000nmの範囲で変更するために、上記He++ビームに対して回転される。上記入射角は、0‐60°の中から5つの異なる間隔で変更され、各入射角に対して異なる保持時間であり、300‐1000nmの上記鋼中へのほぼ均一な(±10%)He濃度を累積的に提供する5つの異なる深さのプロファイルを生成する。
【0091】
上記照射は、3MVのペレトロン加速器を用いて、上記3つの熱体および上記歴史的対照試料に対して行われた。上記試料に対する通常のビーム電流が~100‐400nAである、デフォーカスされた5MeVのFe++イオンビームと、x方向に0.255kHz、y方向に1.055kHzでラスタ走査される、3mm径にフォーカスされた~2MeVのHe++ビームとの組合せを用いて、試料は照射された。それぞれの照射の前に、1×10-7torr未満の圧力にステージをガス抜きした。ビーム電流は、試料の正面直近におけるファラデーカップを用いて30‐60分毎に記録され、積分電荷(電流×時間)は、Quick Kinchin-Peaseモードおよび40eV変位エネルギを用いて、600nmの深さでのSRIM(Stopping Range of Ions in Matter)計算における損傷率の出力に基づく線量に変換された。
【0092】
試料は、SiC紙を用いて#4000の微細グリットまで機械的に研磨され、続いて、ダイヤモンド溶液を用いて0.25μmまで最終研磨され、照射前に0.02コロイダルシリカ溶液の機械的最終研磨が行われた。機械的研磨の後、90%メタノールおよび10%過塩素酸の溶液において、温度が-40℃と-50℃と間であり、試料と白金メッシュ陰極との間に35V電位が印加されて、上記試料が20秒間電解研磨された。
【0093】
温度制御の実現は、照射試料に固定された一連の熱電対を使用することによってなされた。該一連の熱電対は、二次元撮像パイロメータを上記照射温度で較正するために加熱されてから使用される。温度は、上記撮像パイロメータを使用して、上記照射中に±10℃に制御された。
【0094】
照射された試料の調製は、FIB(cross-section focused ion beam)リフトアウト法を用いて、各試料の照射表面から完成された。上記リフトアウト法により、照射損傷領域全体が画像化されることが可能となり、空隙画像化分析が所望の深さでのみ一貫して実行されることが可能となる。
【0095】
図11は、照射によって形成された空隙に基づく深さ効果を示す代表的な透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。空隙の画像化は、JEOL 2100F TEMで行われた。空隙の計測により、図11に示すように、試料内には、損傷ゾーン深さが300‐700nm内にある空隙のみが含まれていた。このように分析を行うことにより、表面効果や表面組成の変化の影響を受ける表面(0‐300nm)における全ての空隙は考慮しなかった。従って、Fe++イオンの自己格子間注入によって影響を受け得る損傷曲線の端部(>700nm)における全ての空隙もまた考慮されなかった。損傷曲線の端部における自己格子間イオンは、空隙核形成を引き起こす空孔/格子間バイアスに影響を及ぼすことによって、空隙核形成を抑制する傾向がある。
【0096】
電子エネルギ損失分光法(EELS)を用いて試料の厚さを計測して、ゼロエネルギ損失の区分を計測し、試料の厚さを決定した。試料の厚さおよび画像領域を用いて、空隙密度およびスエリング計測を行うことができる。
【0097】
上述のように、上記照射には、上述の組成物の実施形態との相対的なスエリング比較のために、FFTFからのアーカイブされたACO-3ダクトHT9物質からの試料が含まれている。上述の4つの熱体(CH、DH、FD、およびACO-3)に対して重イオン照射を行って、異なる熱体間のスエリング挙動の相対的な比較を生成した。また、上記スエリングの反応は、443℃で155 dpaの線量に照射されたFFTFプログラムからのACO-3ダクト壁からのHT9のアーカイブ(熱体84425)と比較することができ、これにより、上記空隙のTEM画像化に基づく~0.3%のスエリングが実証された。
【0098】
上記提示の組成物の実施形態と、上記歴史的なACO-3鋼との間のスエリング性能の差を定量化するために、論文「Void Swelling And Microstructure Evolution At Very High Damage Level In Self-Ion Irradiated Ferritic-Martensitic Steels, by E. Getto, et al., Journal of Nuclear Materials 480 (2016) pp. 159 - 176」のセクション2.2で特定された処理を使用して、図12のスエリング%データを測定した。上記セクションは、参照により本願に組み込まれる。本開示にてスエリング%が使用される任意の場合において、スエリング%は、上記組み込まれたセクションにて特定される処理によって算出される。
【0099】
図12は、上記熱体に関するスエリングの結果を示す。図12は、アーカイブされたACO-3に対する、実施形態の組成物の空隙スエリング性能の差を明確に示す。比較的低い温度および比較的高い温度(440℃および500℃)では、何れの熱体においてもスエリングがほとんど検出されなかった。しかし、460℃および480℃の温度では、上記提示の組成物における上記3つの熱体の各々は、上記歴史的なACO-3鋼よりもスエリングの著しい改良を示している。
【0100】
図13は、480℃、188dpa、0.2appmHe/dpaで照射した後の上記4つの熱体における空隙の微細構造のTEMコラージュを示し、ここで、上記空隙は黒色の特徴として現れている。ACO-3試料は、空隙の不均一分布を示し、多数の空隙を有する大きなクラスタを示した。上記提示の組成物の熱体は、それぞれ、ACO-3よりも明確な改良を示している。ACO-3と上記提示の組成物の熱体との間の差は、著しく、かつ、ACO-3と本願記載の鋼組成の実施形態との間の空隙インキュベーションの差を反映している。
【0101】
図14は、460℃、188dpa、0.015appmHe/dpaで照射した後の上記4つの熱体における空隙の微細構造のTEMコラージュを示す。再び、上記提示の組成物の熱体は、それぞれ、上記ACO-3よりも明確な改良を示している。
【0102】
或る場合には、濃度、量、その他の数値データは、本願において範囲形式で表現され、或いは提示されている。そのような範囲形式は、単に簡便性のために使用されており、従って、範囲の限界として明示的に記載された数値を含むだけでなく、その範囲内に包含される個々の数値或いは部分範囲の全ても、各数値および部分範囲が明示的に記載されているかのように含むように柔軟に解釈されるべきであると理解されるべきである。一例として、「4パーセント‐7パーセント」の数値範囲は、4パーセント‐7パーセントの明示的に記載された値だけでなく、示された範囲内の個々の値および部分範囲も含むように解釈されるべきである。従って、この数値範囲には、4.5、5.25、および6などの個々の値、並びに4‐5、5‐7、および5.5‐6.5などの部分範囲が含まれる。これと同じ原理は、ただ1つの数値を記載する範囲に適用される。形式9.0‐12.0で示される場合の範囲は、範囲の限界を含む(すなわち、9.0‐12.0は、9.0を有する組成物と12.0を有する組成物とを含む)。さらに、そのような解釈は、記載されている範囲または特性の広さに関係なく適用されるべきである。
【0103】
上記技術の広い範囲を示す数値範囲およびパラメータは近似値であるにもかかわらず、具体的な実施例にて示される数値は、可及的正確に報告されている。しかし、任意の数値は、それぞれの試験計測において見出される標準偏差から必然的に生じる特定の誤差を本質的に含む。
【0104】
〔産業上の利用〕
本願に記載の方法を用いて製造された、良好に均質化された鋼は、高い性能が有益である任意の使用に適している。さらに、耐スエリング性、クリープ強度および破壊靱性が有益である場合の使用もまた、本願に記載の鋼に適している。特に、上述の実施形態を用いて製造された鋼は、該鋼が核放射線に晒される任意の用途において、改良された性能を有し得る。例えば、炉心の構成要素、格納容器、配管および構造支持体は、本願に記載の鋼が高温で使用される例である。
【0105】
本願に記載の実施形態を使用して作製される鋼の特別な用途としては、核燃料用の被覆材が挙げられる。燃料の被覆は、燃料要素(「燃料棒」または「燃料ピン」と呼ばれる場合もある)の外層を指し、核分裂生成物が燃料から原子炉内に漏れるのを防ぐためのものである。核燃料被覆用に開発された鋼は、高中性子束および高温に晒されるため、幾つかの共通要件、すなわち、良好な耐スエリング性、照射クリープおよび熱クリープの高い強度、並びに、優れた相安定性を備えている。空隙スエリングとは、空孔欠陥が蓄積してナノメートル規模の空洞となる傾向のことであり、構成部品に対してバルク(bulk)寸法の変化(膨張)をもたらしうる。こうした変化は、構成要素の機能性を損なうほど深刻なものになりうる。一方、印加される応力が上記欠陥の束(defect flux)の原動力となる点において、照射クリープは熱クリープと同様である。但し、照射クリープの欠陥は放射線照射に起因するものであり、温度に直接起因するものではない。また、照射クリープは、応力に線形依存していることが一般に認識されている。しかし、照射クリープによる影響は、クリープ変形が寸法変化をもたらす点において、熱クリープと同じである。
【0106】
高中性子束に対抗するために必要なものの例が、共通グレードの304鋼および316鋼などのオーステナイト系ステンレス鋼の反応によって示される。このような鋼は、長い間、原子炉の環境下にて適用されてきたが、その固溶化焼なましの条件が大多数の原子炉への適用には不十分であることはすぐに認識された。なぜなら、このような鋼は、たとえ、1原子当たりの弾き出し(dpa)を僅かにもたらす短時間の放射線照射であっても、該照射後、1原子当たりの弾き出しに対する空隙スエリング率が1%にまで高くなりうるためである。物質内の放射線量は「dpa」を単位として測定される。「dpa」とは、物質内の各原子がその格子位置から弾き出された回数の測定値である。高線量下での適用において耐スエリング性を向上させるため、オーステナイト系ステンレス鋼が数多く改良されてきたが、このような鋼は、非常に高い線量下では、寸法安定性を維持することや、燃料被覆に関して必要な性能を満たすことはできない。ほとんどの原子は、永久的損傷なしに格子位置に速やかに戻るため、バルク特性が著しく低下するまでには、平均して1原子につき複数回の弾き出しが発生しうる。改良型オーステナイト系ステンレス鋼、例えばD9鋼(316鋼+Tiおよび他の溶質添加物。常に20%冷間加工の条件下で作製される)ならば、バルクのスエリングが厳しい限界を迎えるまでに約100dpaの照射損傷に耐えることもできる。
【0107】
しかしながら、多くの現代の原子炉設計では、改良型オーステナイト系ステンレス鋼から作られる設計よりも性能が向上した燃料被覆によって利益を享受するであろう。実施形態において、炉心構成要素、具体的には約200、300、400、または500dpa以上のピーク放射の線量に耐えられる燃料被覆が好適であろう。今のところ、現在入手可能なこのような鋼はない。そのため、原子炉設計は、現在入手可能な鋼の低い性能を補うために制限される。例えば、本願に記載の鋼の諸実施形態は、550℃以上の原子炉の公称の出口温度において、40年以上にも及ぶ燃料寿命期間のあいだ鋼が使用され続けるような、十分な耐クリープ性を有し得る。同様に、諸実施形態は、同様に向上した耐スエリング性を有し、40年以上にも及ぶ燃料寿命期間のあいだ、5%以下の体積スエリング、および360℃に上げた温度での照射後の破損または故障に耐えるのに十分な破壊靱性を示してもよい。
【0108】
図15(a)は、複数の燃料要素からなる核燃料集合体の一実施形態の概略的な部分切欠き斜視図である。図15(a)は、一実施形態に係る核燃料集合体10の一部を示す図である。当該燃料集合体は、核分裂性核燃料集合体(fissile nuclear fuel assembly)または核燃料親物質集合体(fertile nuclear fuel assembly)であってもよい。当該集合体は、フレームまたはハウジング16内の燃料要素(「燃料棒」または「燃料ピン」)11を含んでもよい。燃料要素11の外側の周囲の循環を可能にするように、螺旋リブ12は、上記要素11の外側の周囲における或るスタンドオフ空間および循環経路を確保するように提供され得る。
【0109】
図15(b)は、一実施形態に係る燃料要素11の一部を示す図である。この実施形態に示すように、燃料要素11は、被覆材13、燃料14、および、場合によっては、少なくとも1つの空隙15を含んでもよい。
【0110】
燃料は、外側の被覆材13によって空洞内部に密封されてもよい。場合によっては、図15(b)に示すように、複数の燃料物質は、軸方向に積み重ねられてもよいが、必ずしもそうである必要はない。例えば、燃料要素は、1つの燃料物質のみを含有してもよい。一実施形態において、空隙(複数の空隙)15は、燃料物質と被覆材との間に存在してもよいが、必ずしも空隙(複数の空隙)が存在している必要はない。一実施形態において、空隙は、加圧されたヘリウム雰囲気等の加圧された雰囲気で満たされている。さらなる実施形態において、空隙は、ナトリウムで満たされていてもよい。
【0111】
燃料は、任意の核分裂性物質を含有してもよい。核分裂性物質は、金属および/または金属合金を含有してもよい。一実施形態において、当該燃料は、金属燃料であってもよい。金属燃料は、比較的高い重金属負荷と優れた中性子経済をもたらすことができ、これは核分裂反応炉の増殖および燃焼工程にとって望ましいことが十分に理解され得る。用途に応じて、燃料は、U、Th、Am、Np、およびPuから選択される少なくとも1種類の元素を含有してもよい。用語「元素(element)」は、本願において元素記号として表される場合、周期表において見出される元素に言及してもよく、燃料要素(fuel element)の「要素(element)」と混同されるべきではない。
【0112】
図15(c)は、1つ以上のライナーが被覆と燃料との間に設けられている、燃料要素の実施形態を示す。特に高い燃焼度において、燃料および被覆の要素は拡散しがちであり得ることがあり、これにより、望ましくない合金化を招き、それゆえ、(例えば、燃料および/または被覆層の脱合金化、もしくは低下した機械的性質を有する新たな合金の形成によって)燃料物質および被覆材の品質低下を招く。図示されたライナー16は、燃料14と被覆13との間のバリア層として機能して、各要素のこのような原子間の拡散を軽減してもよい。例えば、ライナー16を用いて、燃料の要素と被覆材の要素とのあいだの原子間の拡散を軽減し、それによって、燃料および/または被覆材が異質の(望ましくないこともある)要素によって劣化するのを防いでもよい。ライナー16は、一層でもよいし、複数の層(例えば、少なくとも2、3、4、5、6、またはそれ以上の層)を含んでもよい。当該ライナーが複数の層を含む場合、これらの層は、同一または異なる物質を含んでもよく、かつ/または、同一または異なる性質を有してもよい。例えば、一実施形態において、少なくとも幾つかの層は、被覆と同一の鋼を含んでもよいが、ライナー16の幾つかの層は、異なる物質を含む。
【0113】
熱交換器シェル、管体、および管シートは、上述の鋼の諸実施形態によって製造され得る、プロセス用機器の構成要素の別の例である。図16は、シェルを用いて構成されたシェルアンドチューブ型熱交換器を示す。交換器800は、シェル802、U字型管804一式、管シート806、多数のバッフル808、および多様なアクセスポート810を備える。これらの構成要素はいずれも、上述の、耐高温・耐放射線の鋼の諸実施形態から製造可能である。また、図16は、1種類の熱交換器に過ぎず、本願に開示する鋼の諸実施形態は、いかなる熱交換器の設計(例えば、空冷式の熱交換器、二重管式熱交換器、およびプレートフレーム熱交換器)にも適している。
【0114】
ポンプインペラは、上述の鋼の諸実施形態から製造可能なプロセス用機器の構成要素の別の例である。ある原子炉の設計において、ポンプインペラは、炉心内部にあって高線量の放射線にさらされてもよい。図17は、開放型、半開放型、および閉鎖型のインペラの諸実施形態を示す。開放型のインペラ902は、羽根の中心部906に取り付けられる羽根904のみで構成される。半開放型のインペラ908の実施形態は、羽根912の片面および羽根の中心部914の一方の側に取り付けられた円盤910を用いて構成される。閉鎖型のインペラ916は、羽根918の両側に取り付けられた円盤920を有する。図17は、インペラの設計の幾つかの代表的な諸実施形態しか示さないが、本願に開示される鋼の諸実施形態は、いかなるインペラの設計(例えば、渦巻型インペラ、遠心型インペラ、プロペラ、シュレッダー型インペラ、閉鎖チャネルインペラ、斜流インペラ、ラジアルインペラ、半軸流インペラ、および軸流インペラ等)にも適していると理解される。
【0115】
構造部材および締結部品は、上述の鋼の諸実施形態から製造可能な構成要素の、さらに他の例である。本願に開示する鋼の諸実施形態から作られるナット、ボルト、U字型ボルト、ワッシャ、およびリベットの例を図18に示しており、高温の環境下および高放射線量の環境下においても特に役立つであろう。
【0116】
図19は、上述の技術を用いて製造された場合に性能が改良される多数の鋼部品を示す進行波炉の一実施形態を示す。図19は、進行波炉の主要な鋼部品の多く(原子炉ヘッド、原子炉容器、保護容器、および遮蔽ドーム等)を示しているが、多くの付属の原子炉構成要素(構造部材、フランジ、蓋板、配管、柵、骨組み、連接棒、および支持体等)をも示している。図19に示される原子炉構成要素は何れも、また、炉心内またはその近くに配置されるこれらの構成要素は特に、上述の方法の諸実施形態を用いて製造可能である。
【0117】
進行波炉1900は、原子炉および保護容器1904の底部に配置された炉心1908に多数の核燃料ピンを保持するように設計されている。原子炉ヘッド1902は、原子炉および保護容器1904内に放射性物質を密封する。図示の実施形態では、炉心1908は、原子炉ヘッド1902を通してのみアクセス可能である。例えば、容器内燃料操作機1916が設けられる。燃料操作機1916により、燃料ピンおよび他の機器を炉心1908から持ち上げると共に、原子炉ヘッド1902に配置された大小の回転プラグ1918一式を介して容器から取り外すことを可能になる。この設計により、容器1904を、任意の貫通孔がない一体物にすることが可能になる。
【0118】
また、原子炉ヘッド1902の下に熱シールドを設けて、原子炉ヘッド1902の上方の遮蔽ドーム1906内の領域の温度を低下させてもよい。この領域は、図示されるように、遮蔽ドーム1906における1つ以上のハッチ1920によってアクセスされ得る。また、図示のように、遮蔽ドーム1906内の異なる位置に、追加のアクセスハッチを設けてもよい。
【0119】
運転温度において液体であるナトリウムは、炉心1908から熱を除去するための一次冷却材である。原子炉および保護容器1904は、ポンプ1910を使用して炉心1908を通って循環されるナトリウムで、あるレベルまで充填される。2つのナトリウムポンプ1910が設けられている。ポンプ1910は、それぞれ、インペラ1910Aを含む。インペラ1910Aは、炉心1908の近傍に配置されるとともに、原子炉ヘッド1902を通って延伸するシャフト1910Bによって、原子炉ヘッド1902の上方に配置されるモータ1910Cに接続される。
【0120】
ポンプ1910は、原子炉および保護容器1904内に配置された1つ以上の中間熱交換器1912を通してナトリウムを循環させる。中間熱交換器1912は、一次冷却用ナトリウムから二次冷却材に熱を移送する。新たな二次冷却材は、(1つ以上の二次冷却材入口1922を介して)遮蔽ドーム1906および原子炉ヘッド1902を通って、中間熱交換器1912に管で運ばれて加熱される。次に、加熱された二次冷却材は、原子炉ヘッド1902を通って戻り、1つ以上の二次冷却材出口1924で遮蔽ドーム1906から排出する。一実施形態では、加熱された二次冷却材が発電システムに移送されて、蒸気を発生させるために使用される。二次冷却材は、冷却用ナトリウムまたは他の冷却塩(冷却用マグネシウムナトリウム等)であってもよい。
【0121】
添付の特許請求の範囲にかかわらず、本開示は、以下の項目によっても定義される。
【0122】
<1>鋼組成物を均質化する方法であって、
オーステナイト相の温度範囲が上限値を有する鋼組成物を作製するために複数の成分を溶解するステップであって、各成分は拡散率を有しているステップと、
上記鋼組成物を、完全なオーステナイト相の温度範囲における上半分内の第1の温度に加熱するステップと、
上記鋼組成物を、上記鋼組成物の上記オーステナイト相における拡散率であって、上記複数の成分の少なくとも1つの上記拡散率に基づいて決定される第1の期間の間、上記第1の温度に維持するステップと、
上記鋼組成物を加工するステップと、を含む方法。
【0123】
<2>上記第1の温度が、上記オーステナイト相の温度範囲における上部25%、上部20%、上部15%、上部10%、上部5%、または上部1%内にあるように選択される、項目1に記載の方法。
【0124】
<3>上記第1の温度が、算出されたオーステナイト相の温度範囲の上限値よりも5、10、15、または20℃下回るように選択される、項目1または2に記載の方法。
【0125】
<4>所望の拡散距離と上記複数の成分のうちの1つの拡散率とに基づいて上記第1の期間を算出するステップをさらに含む、上記項目の何れかに記載の方法。
【0126】
<5>上記第1の期間tを、少なくとも部分的に、次式を使用して算出するステップをさらに含み、
【0127】
【数3】
dは、選択された成分の所定かつ所望の拡散距離であり、Tは上記第1の温度であり、Dはオーステナイト相の鉄(γ-Fe)における上記選択された成分の拡散係数であり、Qはγ-Feにおける上記選択された成分の活性化エネルギであり、かつ、kはボルツマン定数である、上記項目の何れかに記載の方法。
【0128】
<6>上記加熱のオペレーションの前に、上記鋼組成物における第1の成分の不均一分布を観察するステップをさらに含み、
上記第1の期間を算出するステップは、該算出のオペレーションで使用するために、不均一に分布した上記第1の成分を選択するステップをさらに含む、上記項目の何れかに記載の方法。
【0129】
<7>上記加熱のオペレーションの前に、上記鋼組成物における第1の成分の不均一分布の特性距離を決定するステップをさらに含み、
上記第1の期間を算出するステップは、上記不均一分布の上記特性距離に基づいて、所望の拡散距離dを選択するステップをさらに含む、上記項目の何れかに記載の方法。
【0130】
<8>上記第1の期間を算出するステップは、
上記加熱のオペレーションの前に上記鋼組成物における第1の成分の不均一分布の特性距離Bを決定するステップをさらに含み、
上記第1の期間を算出するステップは、d/Bの所望の比に基づいて所望の拡散距離dを選択するステップをさらに含む、上記項目の何れかに記載の方法。
【0131】
<9>上記d/Bの所望の比が、d/B≧0.75、0.9、1.0、1.1、1.25、1.5、2.0、または2.5の下限から、d/L≦10.0、5.0、4.0、2.5、2.0、または1.5の上限までである、項目8に記載の方法。
【0132】
<10>上記第1の期間は、上記維持のオペレーションの間に作製される上記鋼組成物のオーステナイトにおける、結果として生じる結晶粒のサイズに基づいて選択される、上記項目の何れかに記載の方法。
【0133】
<11>上記第1の期間は、オーステナイト結晶粒がその最長軸において1000μm、500μm、100μm、または50μm以下である鋼組成を達成するように選択される、上記項目の何れかに記載の方法。
【0134】
<12>上記項目1~11の何れかに記載の方法によって作製された鋼製品。
【0135】
<13>鋼組成物から作製される鋼要素を均質化する方法であって、
上記鋼組成物の第1の鋼要素を検査するステップと、
上記鋼組成物の少なくとも第1の成分における第1の鋼要素における不均一分布を観察するステップと、
上記不均一分布に関する特性距離を決定するステップと、
上記鋼組成物に関するオーステナイト相の温度範囲内で均質化温度を選択するステップと、
上記不均一分布に関する上記特性距離、上記鋼組成物における上記第1の成分の拡散率、および上記選択された均質化温度に基づいて均質化の保持時間を算出するステップと、
上記鋼組成物の第2の鋼要素を上記均質化温度に加熱するステップと、
上記均質化の保持時間に基づく第1の期間の間、上記第2の鋼要素を上記均質化温度に維持するステップと、を含む方法。
【0136】
<14>上記第1の鋼要素内の不均一分布を観察するステップは、上記第1の鋼要素内にて上記第1の成分の濃度が異なる領域を特定するステップを含む、項目13に記載の方法。
【0137】
<15>上記不均一分布に関する特性距離を決定するステップは、
上記第1の鋼要素内にて上記第1の成分の濃度が異なる領域間の距離を計測するステップをさらに含む、項目13または14に記載の方法。
【0138】
<16>上記不均一分布に関する特性距離を決定するステップは、
上記第1の鋼要素内にて上記第1の成分の濃度が高い領域間の複数の距離を計測するステップと、
上記濃度が高い領域間の平均距離を選択するステップと、
上記平均距離を上記特性距離として使用するステップと、をさらに含む、項目13‐15の何れかに記載の方法。
【0139】
<17>上記維持のオペレーションの後に、第2の鋼要素を1つ以上の鋼製品に加工するステップをさらに含む、項目13‐16の何れかに記載の方法。
【0140】
<18>上記不均一分布に関する特性距離を決定するステップは、上記第1の成分の上記不均一分布の特性距離Bを決定するステップを含み、均質化の保持時間を算出するステップは、d/Bの所望の比に基づいて所望の拡散距離dを選択するステップをさらに含む、項目13‐17の何れかに記載の方法。
【0141】
<19>
上記d/Bの所望の比が、d/B≧0.75、0.9、1.0、1.1、1.25、1.5、2.0、または2.5の下限から、d/L≦10.0、5.0、4.0、2.5、2.0、または1.5の上限までである、項目18に記載の方法。
【0142】
<20>
項目13‐19の何れかに記載の方法によって作製された鋼を含む製品。
【0143】
本願に記載されるシステムおよび方法は、言及される目的および利点、並びにその中に固有のものを達成するように十分に適合されることが明らかである。本開示の目的のために様々な実施形態を説明してきたが、本開示によって十分に企図される範囲内にある様々な変更および修正を行うことができる。当業者には容易に示唆され、本開示の精神に包含される多数の他の変化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
図1】製鋼プロセスに適合する、改良された均質化の方法の一実施形態を上位レベルで示す。
図2】Thermo-calcTMのソフトウェアによって算出された公称HT9鋼(Fe-XCr-0.2C)の擬二元系状態図を示す。
図3】上記均質化のオペレーションの一実施形態を示す。
図4】(a)‐(c)は、1050℃で5分間および15分間の焼準のみが行われた微細構造を示す。
図5】(a)および(b)は、熱体Aについて、1050℃で2時間、または1075℃で1時間でさえも、微細構造の均質化、或いは帯形成(banding)の消失が完全ではないことを示す。
図6】(a)および(b)は、熱体Dにおいて焼準化され焼戻された微細構造が幾つか異なることを示しており、ここで、暗い帯は、より高い密度および/またはより大きなサイズの炭化物を表す。
図7】(a)および(b)は、熱体DのHT9に関する幾つかの焼準化のみの顕微鏡写真を示す。
図8】(a)および(b)は、熱体Aの試料に対し、或る熱処理条件でスーパーピクラルを用いてエッチングされたものと、同じ熱処理条件でKallingNo.2を用いてエッチングされたものとの高倍率での比較を示す。
図9】(a)‐(f)は、結果として生じる板状およびロッド状の物質が熱体Gにおける板状および管状の製品の両方について計測可能なCr偏析を依然として有していることを示す。
図10(a)】熱体CHおよびDHの板状および管状の製品を製造するために使用される主要な処理ステップにおける処理の概要を示す。
図10(b)】熱体CHおよびDHの板状および管状の製品を製造するために使用される主要な処理ステップにおける処理の概要を示す。
図11】照射によって形成された空隙に基づく深さ効果を示す代表的な透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
図12】上記熱体に関するスエリングの結果を示す。
図13】480℃、188dpa、0.2appmHe/dpaで照射した後の上記4つの熱体における空隙の微細構造のTEMコラージュを示し、ここで、上記空隙は黒色の特徴として現れている。
図14】460℃、188dpa、0.015appmHe/dpaで照射した後の上記4つの熱体における空隙の微細構造のTEMコラージュを示す。
図15(a)】複数の燃料要素からなる核燃料集合体の一実施形態の概略的な部分切欠き斜視図である。
図15(b)】複数の燃料要素からなる核燃料集合体の一実施形態の概略的な部分切欠き斜視図である。
図15(c)】複数の燃料要素からなる核燃料集合体の一実施形態の概略的な部分切欠き斜視図である。
図16】シェルを用いて構成されたシェルアンドチューブ型熱交換器を示す。
図17】開放型、半開放型、および閉鎖型のインペラの実施形態を示す。
図18】上述した鋼の実施形態から製造可能な構造部材および締結部品を示す。
図19】進行波炉の一実施形態を示す。
図20】完全なオーステナイト相よりも高い温度で均質化されたHT9の熱体の画像であり、望ましくないδ-フェライトの形成を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6(a)-6(b)】
図7(a)-7(b)】
図8(a)】
図8(b)】
図9(a)】
図9(b)】
図9(c)】
図9(d)】
図9(e)】
図9(f)】
図10(a)】
図10(b)】
図11
図12
図13
図14
図15(a)】
図15(b)】
図15(c)】
図16
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図20