(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】湿度センサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/22 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
G01N27/22 A
(21)【出願番号】P 2019563025
(86)(22)【出願日】2018-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2018046456
(87)【国際公開番号】W WO2019131302
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2017251361
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190091
【氏名又は名称】ルビコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】特許業務法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森光 紀匡
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-46547(JP,A)
【文献】特開2006-349667(JP,A)
【文献】特開2010-180408(JP,A)
【文献】特開2004-290750(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の上面に形成された第1電極と、前記第1電極の上面に形成された高分子材料からなる感湿膜と、前記感湿膜の上面に形成された第2電極とを備え、
前記感湿膜の上面に複数の凸部が形成されており、
前記第2電極に形成された空隙は、前記第2電極の下面側の空隙が前記第2電極の上面側の空隙よりも大きいことを特徴とする湿度センサ。
【請求項2】
前記感湿膜は、膜厚が0.1μm以上かつ3.0μm未満であり、且つ、
前記凸部の厚み方向の大きさと前記凸部の間隔との比は1:0.5~1:2.0であることを特徴とする請求項1記載の湿度センサ。
【請求項3】
前記感湿膜は、ビニル化合物、ビニリデン化合物、アクリル化合物、または、メタクリル化合物のいずれか一種以上が重合されてなる構成であることを特徴とする請求項1または2記載の湿度センサ。
【請求項4】
前記感湿膜は、イソボルニルアクリレート、ベンジルアクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、4-アクリロイルモルホリン、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、4-メタクリロイルモルホリン、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、または、トリメチロールプロパントリメタクリレートのいずれか一種以上が重合されてなる構成であることを特徴とする請求項1または2記載の湿度センサ。
【請求項5】
前記感湿膜は、化学式1(化1)、化学式2(化2)、または、化学式3(化3)で表される構造を有するモノマが重合されてなる構成であることを特徴とする請求項1または2記載の湿度センサ。
【化1】
【化2】
【化3】
【請求項6】
基材の上面に第1電極を形成する第1電極形成工程と、
前記第1電極の上面に高分子材料からなる感湿膜を形成する感湿膜形成工程と、
前記感湿膜の上面に複数の凸部を形成する凸部形成工程と、
前記凸部が形成された前記感湿膜の上面に第2電極を形成する第2電極形成工程とを備え
、
前記第2電極に形成された空隙は、前記第2電極の下面側の空隙が前記第2電極の上面側の空隙よりも大きいこと
を特徴とする湿度センサの製造方法。
【請求項7】
前記感湿膜を加熱処理するエージング工程をさらに備えることを特徴とする請求項6記載の湿度センサの製造方法。
【請求項8】
前記感湿膜形成工程は、ビニル化合物、ビニリデン化合物、アクリル化合物、または、メタクリル化合物のいずれか一種以上を重合する手段で前記感湿膜を形成することを特徴とする請求項6または7記載の湿度センサの製造方法。
【請求項9】
前記感湿膜形成工程は、イソボルニルアクリレート、ベンジルアクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、4-アクリロイルモルホリン、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、4-メタクリロイルモルホリン、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、または、トリメチロールプロパントリメタクリレートのいずれか一種以上を重合する手段で前記感湿膜を形成することを特徴とする請求項6または7記載の湿度センサの製造方法。
【請求項10】
前記感湿膜形成工程は、化学式4(化4)、化学式5(化5)、または、化学式6(化6)で表される構造を有するモノマを重合する手段で前記感湿膜を形成することを特徴とする請求項6または7記載の湿度センサの製造方法。
【化4】
【化5】
【化6】
【請求項11】
前記凸部形成工程は、真空度を0.2Pa以上かつ10Pa未満とした条件下でプラズマを照射することで、前記凸部の厚み方向の大きさと前記凸部の間隔との比を1:0.5~1:2.0とすることを特徴とする請求項6~10のいずれか一項記載の湿度センサの製造方法。
【請求項12】
前記第2電極形成工程は、斜め蒸着法によって電極材を物理蒸着すること、真空度を1×10
-5Pa以上かつ20Pa未満とした条件下での蒸着法によって電極材を物理蒸着すること、または、真空度を1×10
-5Pa以上かつ20Pa未満とした条件下での斜め蒸着法によって電極材を物理蒸着すること、のいずれかの手段によって、前記第2電極の下面側の空隙が前記第2電極の上面側の空隙よりも大きくなるように前記第2電極に空隙を形成することを特徴とする請求項6~11のいずれか一項記載の湿度センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量変化型の湿度センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電容量変化型の湿度センサは、主として、誘電体からなる感湿膜を第1電極(下部電極)と第2電極(上部電極)とで挟んだ構造となっており、電気抵抗変化型の湿度センサと比較して、応答時間が速い、温度依存性が小さい、湿度に対する静電容量特性の直線性が良い、相対湿度の全領域で測定が可能であるなどの利点がある。また、前記感湿膜として高分子材料を採用することで、水分の可逆吸着特性を長期的に維持できる。一方、高分子材料は、架橋反応が進行し、感湿膜形成後の経時変化や環境温度の変化等で前記感湿膜が収縮する現象が生じることがある。
【0003】
静電容量変化型の湿度センサ(以下、静電容量変化型の湿度センサを、単に「湿度センサ」と称する場合がある)は、雰囲気湿度によって前記感湿膜が湿潤されて静電容量が変化する構造上、前記第2電極(上部電極)が多孔質となっている必要がある。
【0004】
従来、誘電体セラミックス粉末とポリアミドとを水で希釈混合して発泡させたものを塗布し、加熱処理して、膜厚が20~50[μm]の感湿膜を形成し、前記感湿膜の多孔質表面に金(Au)を蒸着して多孔質電極を形成した構造の湿度センサが提案されている(特許文献1:特開昭59-91355号公報参照)。
【0005】
また、ガラス基板上に形成された第1電極上に、ポリイミドをスピンコート法によって塗布し、重合し加熱硬化して、膜厚が1.7[μm]の感湿膜を形成し、前記感湿膜にアルゴンガス圧力が1.0[Pa]の条件下で金(Au)をスパッタリングして多孔質電極を形成した構造の湿度センサが提案されている(特許文献2:特開平2-12047号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭59-91355号公報
【文献】特開平2-12047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載の湿度センサは、誘電体セラミックス粉末とポリアミドとを水で希釈混合して発泡させるため、感湿膜の膜厚が大きくなってしまう。感湿膜の膜厚が大きいと水分の浸透距離が長くなり応答時間が遅くなるという問題がある。また、多孔質表面が不均質なためピンホール等の欠陥が出来てしまい電極間でショート不良が生じるなど製造品質が安定しない等の問題がある。
【0008】
特許文献2記載の湿度センサは、感湿膜の上面は平滑面であるため、感湿膜形成後の経時変化や環境温度の変化等で前記感湿膜が収縮すると第2電極(上部電極)が収縮して空隙が閉じてしまい水分の浸透が妨げられて応答性が悪くなり、動作が長期的に安定しないという問題がある。
【0009】
近年、身体の発汗による湿度上昇の検知や、身体の呼気の検知等への湿度センサの適用が検討されつつある。特に医用市場においては、安定した特性を長期的に維持することができる湿度センサが要求される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、感湿膜形成後の経時変化や環境温度の変化等で前記感湿膜が収縮した場合に第2電極(上部電極)に形成された空隙が閉じることを防止して動作が長期的に安定する構造の湿度センサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0012】
本発明の湿度センサは、基材の上面に形成された第1電極と、前記第1電極の上面に形成された高分子材料からなる感湿膜と、前記感湿膜の上面に形成された第2電極とを備え、前記感湿膜の上面に複数の凸部が形成されており、前記第2電極に形成された空隙は、前記第2電極の下面側の空隙が前記第2電極の上面側の空隙よりも大きいことを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、前記第2電極の下面側の空隙を十分に確保しているため、前記感湿膜形成後の経時変化や環境温度の変化等によって前記感湿膜が収縮したとしても、前記第2電極の下面側の空隙が閉じることが防止されて、動作が長期的に安定する。ここで、前記第2電極の上面側は電気的導通性を確保する役割がある。
【0014】
本発明の湿度センサの製造方法は、基材の上面に第1電極を形成する第1電極形成工程と、前記第1電極の上面に高分子材料からなる感湿膜を形成する感湿膜形成工程と、前記感湿膜の上面に複数の凸部を形成する凸部形成工程と、前記凸部が形成された前記感湿膜の上面に第2電極を形成する第2電極形成工程とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、前記感湿膜の上面にナノメートルレベルの間隔で前記凸部を形成することができるので、その後、前記凸部が形成された前記感湿膜の上面に前記第2電極を形成して、原理上、前記第2電極を均質な多孔質とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の湿度センサによれば、前記第2電極の下面側の空隙を十分に確保しているため、前記感湿膜形成後の経時変化や環境温度の変化等によって前記感湿膜が収縮したとしても、前記第2電極の下面側の空隙が閉じることが防止されて、動作が長期的に安定する。また、本発明の湿度センサの製造方法によれば、原理上、前記第2電極を均質な多孔質とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る湿度センサの例を示す概略図である。
【
図2】上記実施形態の湿度センサの概略構造を示す断面図である。
【
図3】
図3Aは上記実施形態の湿度センサの第1電極形成工程における概略構造を示す断面図であり、
図3Bは前記湿度センサの感湿膜形成工程における概略構造を示す断面図であり、
図3Cは前記湿度センサの凸部形成工程における概略構造を示す断面図であり、
図3Dは前記湿度センサの第2電極形成工程における概略構造を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る湿度センサの製造手順を示すフローチャート図である。
【
図5】
図5Aは上記実施形態の湿度センサの凸部形成工程後の感湿膜の上面を走査型電子顕微鏡にて観察した像であり、
図5Bは前記凸部形成工程後の感湿膜の断面を走査型電子顕微鏡にて観察した像である。
【
図6】
図6Aは上記実施形態の湿度センサの第2電極の上面を走査型電子顕微鏡にて観察した像であり、
図6Bは前記第2電極の断面を走査型電子顕微鏡にて観察した像である。
【
図7】上記実施形態の湿度センサと比較品とについて、応答時間の長期信頼性を比較して示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態の湿度センサ1の例を示す概略図である。湿度センサ1は、基材2と、基材2の上面に形成された第1電極3(下部電極)と、第1電極3の上面に形成された高分子材料からなる感湿膜4と、感湿膜4の上面に形成された第2電極5(上部電極)とを備える。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。ここで、湿度センサ1の各部の位置関係を説明し易くするため、図中にX,Y,Zの矢印で向きを示している。湿度センサ1を実際に使用する際には、これらの向きに限定されず、どのような向きで使用しても支障ない。なお、上面と下面とは相対的な位置関係を示しており、物理的な向きは限定していない。また、上面は、主面または表面と同義である。
【0019】
図2は、本実施形態の湿度センサ1の概略構造を示す断面図である。基材2は、第1電極3、感湿膜4、及び第2電極5を支持する支持体である。一例として、基材2は、基板、フィルム、シート、ベース、フレーム、ブロック等が挙げられる。一例として、基材2は、ガラス、セラミックス、アルミナ、アクリル、エポキシ、ポリアミド、液晶ポリマー等の絶縁体、または、固体表面に絶縁膜が形成されたものからなる。第1電極3と第2電極5とは、クロム(Cr)、金(Au)、白金(Pt)、タンタル(Ta)、酸化ルテニウム(RuO
2)等の金属導体からなる。
【0020】
本実施形態は、感湿膜4は、モノマが架橋硬化する高分子材料からなる。一例として、前記モノマは、重合に寄与する官能基を有する。一例として、感湿膜4は、ビニル化合物、ビニリデン化合物、アクリル化合物、または、メタクリル化合物のいずれか一種以上が重合されてなる構成である。ビニル化合物としては、アクリル化合物やその他のビニル化合物が挙げられる。ビニリデン化合物としては、メタクリル化合物やその他のビニリデン化合物が挙げられる。これらの化合物には、重合に寄与する官能基を1つ有するもの、2つ有するもの、3つ有するもの、4つ以上有するものなどがある。
【0021】
一例として、感湿膜4は、イソボルニルアクリレート、ベンジルアクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、4-アクリロイルモルホリン、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、イソボルニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、4-メタクリロイルモルホリン、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、または、トリメチロールプロパントリメタクリレートのいずれか一種以上が重合されてなる構成である。一例として、感湿膜4は、ビニル化合物モノマまたはビニリデン化合物モノマが重合されて形成される。一例として、感湿膜4は、アクリル化合物モノマまたはメタクリル化合物モノマが重合されて形成される。アクリル化合物モノマやメタクリル化合物モノマは重合反応性が比較的高く、高い耐熱性を有する薄膜をより容易に製造することができるので、より好ましい。アクリル化合物モノマは重合反応性が特に高いので、特に好ましい。
【0022】
本実施形態は、感湿膜4の上面4aに複数の凸部41が所定の間隔W1で形成されており、凸部41の上に形成された第2電極5の部分51と、凸部41の上に形成された第2電極5の部分51とで空隙G1が形成されている。空隙G1は、第2電極5の上面5aと下面5bとに連続して形成されている。そして、側断面方向からの断面視で、第2電極5に形成された空隙G1は、第2電極の下面5bの側の空隙G12が前記第2電極の上面5aの側の空隙G11よりも大きい。
【0023】
本実施形態によれば、第2電極5の下面5bの側の空隙G12を十分に確保しているため、感湿膜4の形成後の経時変化や環境温度の変化等によって感湿膜4が収縮したとしても、第2電極5の下面5bの側の空隙G12が閉じることが防止されて、動作が長期的に安定する。ここで、第2電極5の上面5aの側は電気的導通性を確保する役割がある。
【0024】
本実施形態は、感湿膜4の膜厚T1の下限値は0.1[μm]以上である。好ましくは、膜厚T1の下限値が0.2[μm]以上である。本実施形態は、感湿膜4の膜厚T1の上限値は3.0[μm]未満である。好ましくは、膜厚T1の上限値が2.0[μm]未満である。より好ましくは、膜厚T1の上限値が1.0[μm]未満である。
【0025】
本実施形態によれば、感湿膜4の膜厚T1が0.1[μm]以上であるため、耐電圧性能が確保される。また、感湿膜4の膜厚T1が3.0[μm]未満であるため、速い応答時間が確保される。
【0026】
本実施形態は、感湿膜4の凸部41の厚み方向の大きさH1及び間隔W1は、膜厚T1よりも小さくなっており、凸部41の厚み方向の大きさH1と間隔W1との比は1:0.5~1:2.0である。
【0027】
本実施形態によれば、凸部41の厚み方向の大きさH1及び間隔W1が、膜厚T1よりも十分に小さいので、際立った耐電圧低下に至ることはない。加えて、間隔W1が膜厚T1よりも十分に小さいので、水分が感湿膜4の中に満遍なく浸透するのに必要な浸透距離が厚み方向の浸透距離に比べて著しく長くなるのが防止される。さらに、凸部41の厚み方向の大きさH1と間隔W1との比が1:0.5~1:2.0であるので、ナノメートルレベルの間隔で凸部41が形成される。このようにして形成された凸部41は、第2電極形成工程S5においてスパッタリング装置内または真空蒸着装置内で飛来する金属粒子に対し十分な射影効果が得られるスケールである。
【0028】
本実施形態は、凸部41が形成された感湿膜4の上面に第2電極5を形成するので、形成された第2電極5は、原理上、均質な多孔質となる。ここで、
図2に例示した凸部41の厚み方向の大きさH1と間隔W1とは、厳密には、ある程度の分布を持っているが、後述する実施例の結果から、従来技術と比較して均質であると言える。
【0029】
図3は、本実施形態の湿度センサ1の各製造工程における概略構造を示す断面図である。
図4は、湿度センサ1の製造手順を示すフローチャート図である。本実施形態の湿度センサ1の製造方法について、以下に説明する。
【0030】
本実施形態の湿度センサ1は、
図4に示すとおり、第1電極形成工程S1、感湿膜形成工程S2、エージング工程S3、凸部形成工程S4、及び、第2電極形成工程S5の順に製造される。
【0031】
図3Aは、第1電極形成工程S1における中間体11の概略構造を示す断面図である。第1電極形成工程S1は、前処理として、基材2を純水等によって洗浄及び乾燥を行い、マスク治具に取り付けた後、酸素プラズマを照射して、基材2の上面2aの有機物を除去するとともに、上面2aを改質する。酸素プラズマを照射することで、基材2と第1電極3との密着度が向上する。
【0032】
そして、基材2の上面2aが改質された状態でスパッタリング装置にセットし、スパッタリングによってCr等の金属粒子を物理蒸着して第1電極3を形成する。または、真空蒸着装置にセットし、真空蒸着によって第1電極3を形成して中間体11とする。
【0033】
図3Bは、感湿膜形成工程S2における中間体12の概略構造を示す断面図である。感湿膜形成工程S2は、前処理として、中間体11に酸素プラズマを照射して、基材2の上面2aの露出部分と第1電極3の上面3aを改質する。酸素プラズマを照射することで、第1電極3と感湿膜4との密着度が向上する。
【0034】
そして、酸素プラズマを照射した中間体11をスピンコート機にセットし、第1電極3にモノマの希釈液を滴下しスピンコート法によってコーティング処理し、マスク治具に取り付けて、一例として、紫外線硬化処理または電子線硬化処理を施して前記モノマを架橋硬化して感湿膜4を形成して中間体12とする。感湿膜4に未硬化樹脂が残留している場合、アセトン等の所定の溶剤で未硬化樹脂を洗い流す。前記コーティング処理は、スピンコート法に限定されず、一例として、スプレーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、インクジェット法、バーコート法、その他既知の塗布方法が適用可能である。
【0035】
または、酸素プラズマを照射した中間体11をマスク治具に取り付けて蒸着重合装置にセットし、蒸着重合法により感湿膜4を形成して中間体12とする。
【0036】
本実施形態は、一例として、前記モノマは、重合に寄与する官能基を2つないしは3つ有するものが好ましい。このようなモノマを採用することで、重合性が良く容易に薄膜の形成ができ、高い耐熱性を有する薄膜の形成ができる。一例として、前記モノマは、ビニル基またはビニリデン基を合計で2つないしは3つ有する。一例として、前記モノマは、アクリロイル基またはメタクリロイル基を合計で2つないしは3つ有する。アクリロイル基を有するモノマやメタクリロイル基を有するモノマは重合反応性が比較的高く、高い耐熱性を有する薄膜をより容易に製造することができる。アクリロイル基を有するモノマは重合反応性が特に高いので、アクリロイル基を2つないしは3つ有するモノマが特に好ましい。
【0037】
本実施形態は、感湿膜形成工程S2は、一例として、ビニル化合物モノマまたはビニリデン化合物モノマを重合する。一例として、紫外線硬化処理または電子線硬化処理を施して前記モノマを架橋硬化して感湿膜4を形成する。若しくは、感湿膜形成工程S2は、一例として、ビニル化合物オリゴマまたはビニリデン化合物オリゴマを重合する。一例として、紫外線硬化処理または電子線硬化処理を施して前記オリゴマを架橋硬化して感湿膜4を形成する。
【0038】
一例として、感湿膜4は、化学式1(化1)で表される構造を有するモノマが重合されてなる。化学式1(化1)で表される構造を有するモノマは、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートである。トリシクロデカンジメタノールジアクリレートは、重合に寄与する官能基を2つ有する。
【0039】
【0040】
一例として、感湿膜4は、化学式2(化2)で表される構造を有するモノマが重合されてなる。化学式2(化2)で表される構造を有するモノマは、トリメチロールプロパントリアクリレートである。トリメチロールプロパントリアクリレートは、重合に寄与する官能基を3つ有する。
【0041】
【0042】
一例として、感湿膜4は、化学式3(化3)で表される構造を有するモノマが重合されてなる。化学式3(化3)で表される構造を有するモノマは、日本化薬株式会社製KAYARAD R-604(商品名)である。KAYARAD R-604(商品名)は、重合に寄与する官能基を2つ有する。
【0043】
【0044】
一例として、化学式1(化1)で表される構造を有するモノマ、化学式2(化2)で表される構造を有するモノマ、または、化学式3(化3)で表される構造を有するモノマを採用することで、単官能モノマに比べて所望の薄膜を容易に製造することができる。そして、感度、応答性、及び長期安定性をバランスよく所望の値とすることができる。一例として、感湿膜4は、構造が異なる2種以上のモノマが共重合されてなる。これにより、湿度センサ1が使用される環境に応じて必要な特性(感度、応答性、長期安定性等)の最適化を図ることができる。一例として、感湿膜4は、重合に寄与する官能基を2つ以上有するモノマと重合に寄与する官能基を1つだけ有するモノマが共重合されてなる。これにより、感度及び応答性のバランスを図りつつ所望の薄膜形成が比較的容易にできるとともに、応答時間の経時変化抑制により長期安定性をさらに向上させることができる。一例として、感湿膜4は、重合に寄与する官能基を2つないしは3つ有するモノマと重合に寄与する官能基を1つだけ有するモノマが共重合されてなる。
【0045】
エージング工程S3は、中間体12を、所定温度で所定時間、加熱処理する。加熱処理はバッチ炉またはトンネル炉で行う。加熱温度は、湿度センサ1の使用温度の上限よりも高い温度、かつ、感湿膜4の耐熱温度よりも低い温度に設定する。一例として、加熱温度は100[℃]以上かつ300[℃]以下に設定される。大気圧条件下で加熱する場合は、好ましくは、加熱温度は100[℃]以上かつ250[℃]以下に設定する。真空条件下で加熱する場合は、好ましくは、加熱温度は200[℃]以上かつ300[℃]以下に設定する。そして、加熱時間は数分以上かつ数十時間以下に設定する。材料間の熱膨張率の違いからヒートショックによる剥離や亀裂が生じないように、所定の温度プロファイルで昇温及び降温する。
【0046】
本実施形態によれば、エージング工程S3を設けることで、感湿膜4を予め加熱処理して架橋を進行させて十分に収縮させることができるので、製品化後に感湿膜4が収縮する度合いを極力小さくし、感湿膜4の製品化後の収縮を防止することができる。特に、加熱処理を前述のような真空条件下で行った場合には、感湿膜4の過剰な酸化を抑えつつ架橋を進行させることができるため、製造時の感湿膜4の劣化を抑制することができる。特に、圧力がさほど低くない真空条件下、一例として、圧力が0.1[Pa]以上かつ200[Pa]以下で加熱処理を施すことにより、感湿膜4の架橋を進行させるのに必要な温度条件を比較的容易に実現することができるとともに、前述の酸化抑制効果を十分に得ることができる。そのため、極度の高真空・高温条件を必要とせず、所望の性能を有する湿度センサ1を簡便な設備で製造することが可能になる。
【0047】
凸部形成工程S4は、加熱処理された中間体12の感湿膜4の上面4aにドライエッチング処理を施して中間体13とする。
図3Cは、中間体13の概略構造を示す断面図である。ドライエッチング処理には、スパッタエッチング処理などが含まれる。
【0048】
凸部形成工程S4は、中間体12をセットし、真空度を0.2[Pa]以上かつ10[Pa]未満とした条件下で酸素プラズマを照射して、感湿膜4の上面4aを改質し、所定の間隔W1となるように凸部41を形成して中間体13とする。凸部形成工程S4は、酸素、アルゴンまたは窒素、あるいはそれらの混合ガスのプラズマを照射することができる。
【0049】
図3Dは、第2電極形成工程S5における湿度センサ1の概略構造を示す断面図である。第2電極形成工程S5は、ドライエッチング処理された中間体13をマスク治具に取り付けて、スパッタリング装置または真空蒸着装置にセットし、真空度を1×10
-5[Pa]以上かつ20[Pa]未満とした条件下で、凸部41にCr等の金属粒子を物理蒸着して第2電極5を形成して湿度センサ1とする。
【0050】
第2電極形成工程S5においてスパッタリング装置を使用する場合、真空度の下限値を0.1[Pa]以上とする。好ましくは、真空度の下限値を1[Pa]以上とする。より好ましくは、真空度の下限値を2[Pa]以上とする。
【0051】
また、第2電極形成工程S5においてスパッタリング装置を使用する場合、真空度の上限値を20[Pa]未満とする。好ましくは、真空度の上限値を10[Pa]未満とする。より好ましくは、真空度の上限値を7[Pa]未満とする。
【0052】
第2電極形成工程S5において真空蒸着装置を使用する場合、真空度の下限値を1×10-5[Pa]以上とする。好ましくは、真空度の下限値を1×10-4[Pa]以上とする。より好ましくは、真空度の下限値を5×10-4[Pa]以上とする。また、真空度の上限値を1[Pa]未満とする。好ましくは、真空度の上限値を0.1[Pa]未満とする。より好ましくは、真空度の上限値を5×10-2[Pa]未満とする。
【0053】
上述の通り、凸部形成工程S4にて形成された凸部41は、第2電極形成工程S5においてスパッタリング装置内または真空蒸着装置内で飛来する金属粒子に対し十分な射影効果が得られるスケールであるので、射影効果を利用して多孔質な第2電極5とすることができる。
【0054】
第2電極形成工程S5は、上記以外に、斜め蒸着法を適用できる。斜め蒸着法では、ドライエッチング処理された中間体13の上方に所定の開口幅で遮蔽板を設けて、特定方向からの粒子成分のみを感湿膜4の上面4aに堆積させる。前記所定の開口幅を調整することで前記粒子成分傾斜角度が決まる。そして、斜め蒸着法によって物理蒸着して第2電極5を形成する際、凸部41に形成する第2電極の部分51と、隣接する第2電極の部分51とで、空隙G1を、第2電極5の下面側の空隙G12が第2電極5の上面側の空隙G11よりも大きくなるように形成する。
【0055】
後工程として、必要に応じて、電極接合部にCr-Ni-Cu等の接合用金属粒子を物理蒸着して、リード線をはんだ付けする場合がある。また、結露を防止するために、基材2の下面にCr等の金属粒子を物理蒸着してヒーター用のパターンを形成する場合がある。ヒーター用のパターンは、第1電極形成工程S1の際に、同時形成することが可能である。
【0056】
一例として、
図4に示すフローチャート図の製造順序で、本実施形態の湿度センサ1が製造される。
図4に示す例では、エージング工程S3は、感湿膜形成工程S2の後で凸部形成工程S4の前となっているが、この例に限定されない。一例として、エージング工程S3は、凸部形成工程S4の後で第2電極形成工程S5の前に行う場合がある。一例として、エージング工程S3は、第2電極形成工程S5の後に行う場合がある。
図4に示すように、第2電極形成工程S5の前段階で感湿膜4を加熱処理するエージング工程S3を備えることで、感湿膜4を予め加熱処理して架橋を進行させて十分に収縮させ安定した状態で、第2電極5を形成するので、第2電極5を均質な多孔質で形成することができる。
【0057】
本実施形態によれば、感湿膜4の上面4aにドライエッチング処理を施して所定の間隔W1となるように凸部41を形成するので、ナノメートルレベルの間隔で凸部41を形成することができ、凸部41に第2電極5を均質に形成することができる。そして、凸部41の上に形成された第2電極の部分51同士の空隙G1を、第2電極5の下面側の空隙G12が第2電極5の上面側の空隙G11よりも大きくなるように形成することにより、感湿膜形成後の経時変化や環境温度の変化等によって架橋がさらに進行して感湿膜4が収縮しても、第2電極5の下面側の空隙G11が閉じることが防止され、その結果、長期的な動作の信頼性が安定する。ここで、第2電極5の上面5aの側は電気的導通性を確保する役割がある。
【0058】
上述の実施形態の製造方法によって、実施例として示す湿度センサ1を試作し、同時に、材料や条件等を変更した比較例、参考例1、参考例2として示す湿度センサを試作して、それぞれ応答時間の長期信頼性評価を実施した。
【0059】
(実施例) 絶縁性を有するガラスからなる基材2を、洗浄及び乾燥を行ってから、マスク治具に取り付けた後、酸素プラズマを照射して、基材2の上面2aの有機物を除去するとともに、上面2aを改質した。そして、基材2をスパッタリング装置にセットし、Cr等の金属粒子を物理蒸着して第1電極3を形成して中間体11とした。次に、中間体11に酸素プラズマを照射して、基材2の上面2aの露出部分と第1電極3の上面3aを改質した。
【0060】
次に、トリメチロールプロパントリアクリレートを、重量比で希釈倍率が6倍になるようにイソプロピルアルコール(IPA)で希釈してモノマの希釈液とし、酸素プラズマを照射した中間体11をスピンコート装置にセットし、回転数が6000[rpm]で回転させた状態で、第1電極3にモノマの希釈液を滴下しスピンコート法によってコーティングし、マスク治具に取り付けて、前記モノマをUV照射時間が180[秒]で紫外線硬化し、アセトン等の所定の溶剤で未硬化樹脂を洗い流して、感湿膜4を形成して中間体12とした。次に、中間体12を、真空度を100[Pa]以下とした条件下で、温度が240[℃]で、加熱時間が8[時間]でエージング処理した。
【0061】
次に、エージング処理された中間体12を、真空度を5[Pa]とした条件下で酸素プラズマを処理時間が1[分]で照射して、スパッタエッチング処理を施して感湿膜4の上面4aを改質するとともに所定の間隔W1となるように凸部41を形成して中間体13とした。
図5Aはスパッタエッチング処理後の感湿膜4の上面を走査型電子顕微鏡にて観察した像であり、
図5Bはスパッタエッチング処理後の感湿膜4の断面を走査型電子顕微鏡にて観察した像である。
図5Aと
図5Bとから、凸部41は、厚み方向の大きさH1及び間隔W1が、感湿膜4の膜厚T1よりも小さいことが判る。また、凸部41の厚み方向の大きさH1と間隔W1との比はおよそ1:1となっていることが判る。本実施例では、感湿膜4の膜厚T1は0.7[μm]であり、凸部41の厚み方向の大きさH1は0.1[μm]であり、凸部41の間隔W1は0.1[μm]であった。
【0062】
次に、スパッタエッチング処理された中間体13をマスク治具に取り付けて、スパッタリング装置にセットし、真空度を5[Pa]とした条件下で凸部41にCrの金属粒子を物理蒸着して第2電極5を形成して湿度センサ1とした。
図6Aは、湿度センサ1における第2電極5の上面を走査型電子顕微鏡にて観察した像である。
図6Bは、湿度センサ1における第2電極5の断面を走査型電子顕微鏡にて観察した像である。
【0063】
図6Aと
図6Bとから、凸部41に形成された第2電極の部分51と、隣接する第2電極の部分51とで空隙G1が形成されていることが判る。空隙G1は、第2電極5の上面5aと下面5bとに連続して形成されている。そして、側断面方向からの断面視で、第2電極5に形成された空隙G1は、第2電極の下面5bの側の空隙G12が前記第2電極の上面5aの側の空隙G11よりも大きいことが判る。ここで、第2電極5の膜厚は0.7[μm]であった。
【0064】
(比較例) 実施例との相違点は、凸部形成工程S4がない条件で、第2電極5を形成している点であり、その他は実施例と同様である。
【0065】
(参考例1) 比較例との相違点は、トリメチロールプロパントリアクリレートに代えて、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートをモノマとしている点であり、その他は比較例と同様である。
【0066】
(参考例2) 比較例との相違点は、トリメチロールプロパントリアクリレートに代えて、トリメチロールプロパントリアクリレートとイソボルニルアクリレートを重量比25:75で混合したものをモノマとしている点であり、その他は比較例と同様である。
【0067】
上述の実施例、比較例、参考例1、参考例2の試料を各5個作製した。そして、常温常湿の環境下に所定日数放置した各試料について、応答時間の長期信頼性評価を実施した。以下、長期信頼性評価結果について説明する。
【0068】
図7は、応答時間の長期信頼性を比較して示すグラフ図であり、縦軸は応答時間R1[秒]であり、横軸は放置日数M1[日]である。本実施例における応答性の評価は、温度が30[℃]かつ相対湿度が0[%RH]の状態から、瞬時に温度が30[℃]かつ相対湿度が60[%RH]の状態へ晒した時の静電容量変化の時定数を応答時間R1として表している。つまり、飽和容量値の63.2[%]到達時間を応答時間R1としている。
【0069】
図7に示すように、実施例は、最も応答時間R1が短くて応答時間R1の変化が小さく、試料間の特性ばらつきも小さくなっている。そして、実施例は、放置日数M1が200[日]経過後も応答時間R1が1[秒]以内を維持しており、試料間の特性ばらつきも小さい状態を維持している。
【0070】
一方、比較例は、放置日数M1が経過するにしたがって、応答時間R1が長くなり、試料間の特性ばらつきも大きくなっている。そして、比較例は、放置日数M1が150[日]経過後は応答時間R1が4[秒]を超えており、試料間の特性ばらつきも大きくなっている。
【0071】
図7に示すように、参考例1は、比較例よりも応答時間R1が短くて応答時間R1の変化が小さく、試料間の特性ばらつきも小さくなっている。これは、モノマが2官能のトリシクロデカンジメタノールジアクリレートが、モノマが3官能のトリメチロールプロパントリアクリレートに比べて応答時間の変化が小さく、経時変化による感湿膜の収縮が小さいことを示しており、モノマをトリメチロールプロパントリアクリレートに代えて、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートとすることで、応答時間の変化がさらに抑えられることを示している。このことから、上述の実施例において、モノマを、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートとすることで、応答時間の変化をさらに抑えることも可能であると結論付けられる。
【0072】
図7に示すように、参考例2は、比較例よりも応答時間R1が短くて応答時間R1の変化が小さく、試料間の特性ばらつきも小さくなっている。これは、重合に寄与する官能基を3つ有するトリメチロールプロパントリアクリレートと重合に寄与する官能基を1つだけ有するイソボルニルアクリレートとが共重合されてなる構成の感湿膜とすることにより、トリメチロールプロパントリアクリレートが単一で重合されてなる構成に比べて応答時間の変化が小さく、経時変化による感湿膜の収縮が小さいことを示しており、モノマをトリメチロールプロパントリアクリレートに代えて、重合に寄与する官能基を3つ有するトリメチロールプロパントリアクリレートと重合に寄与する官能基を1つだけ有するイソボルニルアクリレートを混合したものとすることで、応答時間の変化がさらに抑えられることを示している。このことから、上述の実施例において、モノマを、トリメチロールプロパントリアクリレートとイソボルニルアクリレート混合したものとすることで、応答時間の変化をさらに抑えることも可能であると結論付けられる。
【0073】
さらに、参考例3、参考例4、参考例5として示す湿度センサの試作を試みた。
【0074】
(参考例3) 参考例1との相違点は、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートに代えて、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートとイソボルニルアクリレートを重量比25:75で混合したものをモノマとし
ている点であり、その他は参考例1と同様である。参考例3は、参考例1と同様の方法で必要な感湿膜が形成された。これは、重合に寄与する官能基を2つ以上有するモノマと重合に寄与する官能基を1つだけ有するモノマとが共重合されてなる構成とすることにより、単一での成膜性が低いモノマを重合要素として含む構成を容易に実現できることを示している。
【0075】
(参考例4) 参考例1との相違点は、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートに代えて、4-アクリロイルモルホリンをモノマとしている点であり、その他は参考例1と同様である。しかし、参考例1と同様の方法では、成膜性が悪く必要な感湿膜が形成されなかった。
【0076】
(参考例5) 参考例1との相違点は、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートに代えて、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートと4-アクリロイルモルホリンを重量比20:80で混合したものをモノマとしている点であり、その他は参考例1と同様である。参考例5は、参考例1と同様の方法で必要な感湿膜が形成された。これは、重合に寄与する官能基を2つ以上有するモノマと重合に寄与する官能基を1つだけ有するモノマとが共重合されてなる構成とすることにより、単一での成膜性が低いモノマを重合要素として含む構成を容易に実現できることを示している。
【0077】
引き続き、比較例、参考例1、参考例5として示す湿度センサの感度を評価した。
【0078】
比較例、参考例1、参考例5の試料をそれぞれ作製した。そして、各試料について、温度が30[℃]かつ相対湿度が0[%RH]の状態から、温度が30[℃]かつ相対湿度が60[%RH]の状態へ晒した時の静電容量変化について、飽和容量値到達時における、初期値に対する変化率が大きいほど高感度であると判断して、静電容量変化率を求めた。その結果、比較例の静電容量変化率は24.0[%]、参考例1の静電容量変化率は15.2[%]、参考例5の静電容量変化率は24.2[%]であった。
【0079】
比較例の静電容量変化率は、参考例1に対し1.58倍である。よって、比較例は参考例1よりも高感度である。これは、トリメチロールプロパントリアクリレートが重合されてなる構成の感湿膜とすることによって、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート重合されてなる構成に比べて、高感度の湿度センサとなることを示している。このことから、上述の実施例の湿度センサ1は、高感度であると結論付けられる。
【0080】
参考例5の静電容量変化率は、参考例1に対し1.59倍である。よって、参考例5は参考例1よりも高感度である。これは、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートと4-アクリロイルモルホリンとが共重合されてなる構成の感湿膜とすることにより、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートが単一で重合されてなる構成に比べて、高感度の湿度センサとなることを示している。このことから、上述の実施例において、モノマを、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートと4-アクリロイルモルホリンを混合したものとした構成の湿度センサ1は、高感度であると結論付けられる。
【0081】
上述の実施例等に加えて、感湿膜4が、化学式2(化2)で表される構造を有するモノマであるトリメチロールプロパントリアクリレートが重合されてなる場合は、薄膜形成が容易となるとともに高い感度が得られるという観点で優位性があるとの発明者の研究結果がある。また、感湿膜4が、化学式1(化1)で表される構造を有するモノマであるトリシクロデカンジメタノールジアクリレート、または、化学式3(化3)で表される構造を有するモノマである日本化薬株式会社製KAYARAD R-604(商品名)が重合されてなる場合は、応答時間の変化を抑えるという観点で優位性があるとの発明者の研究結果がある。
【0082】
上述の実施例では、真空度を5[Pa]とした条件下、つまり、圧力が比較的高い真空条件下で物理蒸着して第2電極5を形成したが、この例に限定されない。例えば、圧力が比較的低い真空条件下で物理蒸着して第2電極5を形成する場合があり、また、圧力が比較的高い真空条件下で斜め蒸着法によって物理蒸着して第2電極5を形成する場合があり、圧力が比較的低い真空条件下で斜め蒸着法によって物理蒸着して第2電極5を形成する場合がある。
【0083】
また、上述の実施例では、一例として、基材2は絶縁性のガラス基板であるとしたが、この例に限定されず、セラミックスやアルミナ等の絶縁体基板を基材2とする場合があり、シリコン半導体基板上に酸化シリコン膜を形成したものを基材2とする場合があり、さらには、エポキシや液晶ポリマー等からなるフレームを基材2とする場合があり、前記フレーム内に湿度センサ1を形成することや前記フレーム上に湿度センサ1を形成することも可能である。
【0084】
そして、上述の実施例では、感湿膜4を形成するに際し、一例として、モノマを出発物質として説明したが、この例に限定されない。感湿膜4の形成のしやすさ等に応じて、出発物質を適宜設定することができる。一例として、オリゴマや高分子を出発物質としてもよい。
【0085】
本発明は、上述の実施例に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更が可能である。