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▶ エスジーエル・カーボン・エスイーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】新規複合材
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20221129BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20221129BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/36 D
H01M4/36 C
H01M4/36 E
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019566252
(86)(22)【出願日】2018-06-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2018067485
(87)【国際公開番号】W WO2019002508
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2019-11-29
(31)【優先権主張番号】102017211086.4
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514194886
【氏名又は名称】エスジーエル・カーボン・エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス・レティンガー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・シュライナー
(72)【発明者】
【氏名】ベルント・ケッテラー
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-277231(JP,A)
【文献】特許第3987853(JP,B2)
【文献】特開2015-179671(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0244428(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0004846(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/587
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池のアノード用の複合材であって、前記複合材がシリコンと炭素とを備え、シリコンの割合が1~80重量%であり、前記複合材の少なくとも90重量%が低密度閾値ρ と高密度閾値ρ との間の密度範囲内にあり、密度閾値ρ 1,2
ρ 1,2=(1±δ)・ρ
の関係式によって表され、ρが前記複合材の平均密度であり、±δが高密度閾値ρ と低密度閾値ρ との間の変動範囲であり、δが0.10未満であり、
前記複合材の平均密度ρ、前記低密度閾値ρ 、前記高密度閾値ρ は、いずれも、所定の密度を有する液体中に粒子を分散させることによって、浮遊法に基づいて、又は、重液中での密度に基づいた成分の重力分離に基づいて、決定されることを特徴とするか、又は、
前記複合材の平均密度ρは、
【数1】
によって計算され、前記前記低密度閾値ρ と前記高密度閾値ρ
【数2】
によって計算され、ρは前記複合材の各成分iの密度であり、xは各成分iの質量分率であり、ρ は、前記複合材の平均粒径d50の範囲内の平均粒径d50を有するように粉砕された各成分iの粉末に対して液体としてキシロールを用いること(DIN51901-2006)によって比重から決定されることを特徴とする複合材。
【請求項2】
前記複合材が(サブ)マイクロ粒子の複合粉末物質として存在することを特徴とする請求項1に記載の複合材。
【請求項3】
前記複合材が、0.5μmから60μmの平均粒径(d50)を有する粒径分布を有することを特徴とする請求項1に記載の複合材。
【請求項4】
シリコンが、炭素に少なくとも部分的に囲まれている粒子として存在していることを特徴とする請求項1又は2に記載の複合材。
【請求項5】
複合粉末物質の平均粒径に対するシリコンの平均粒径の比が0.0005から0.1であることを特徴とする請求項4に記載の複合材。
【請求項6】
前記複合材の少なくとも3重量%が、低密度閾値ρ から高密度閾値ρ までの範囲外である密度範囲内にあり、密度閾値ρ 3,4
ρ 3,4=(1±δmin)・ρ
の関係式によって表され、ρが前記複合材の平均密度であり、±δminが高密度閾値ρ と低密度閾値ρ との間の変動範囲であり、δminが0.005以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合材。
【請求項7】
前記複合材が
d50Si・(p/pSi)>s
の条件を満たし、
d50siが、μm単位のシリコン粒子の平均粒径を表し、
が、wt%単位での前記複合材中の炭素の量を表し、
Siが、wt%単位での前記複合材中のシリコンの量を表し、
sが、0.02であるセキュリティパラメータであることを特徴とする請求項1に記載の複合材。
【請求項8】
シリコンが少なくとも部分的に結晶であることを特徴とする請求項1に記載の複合材。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池のアノード用の複合材を製造する方法であって、
(a)シリコンを提供するステップと、
(b)少なくとも一種の炭素前駆体を提供するステップと、
(c)ステップ(a)の成分とステップ(b)の成分とを備える均一に分布している混合物を生成するステップと、
(d)ステップ(c)の均一に分布している混合物に、熱分解によって前記炭素前駆体を炭素材に変換する400℃~1600℃の熱処理及び粉砕を含む更なる処理を行うことによって、複合材を生成するステップと、を備える方法。
【請求項10】
ステップ(b)の炭素前駆体が、5%を超える炭素収率を有するピッチ、タール、バイオマテリアル、ポリマー、樹脂に基づいた原材料、及びこれらの混合物から成る群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記熱処理が、1秒~240時間の持続時間にわたって最大で600℃~1450℃の温度で行われることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(a)とステップ(b)で提供される物質に加えて、少なくとも一種の添加剤が提供され、ステップ(c)で生成される混合物が前記添加剤を備えることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも一種の添加剤が、前記少なくとも一種の炭素前駆体に不溶な成分であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも一種の添加剤が、前記炭素前駆体と混和性であり、樹脂、ポリマー、重合開始剤、高分子架橋剤、及びこれらの混合物から成る群から選択されることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
リチウムイオン電池のアノード用の活物質の唯一の成分、又は少なくとも一成分としての請求項1から8のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池のアノード用の複合材の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規複合材、その製造方法、及び、そのリチウムイオン電池における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、再充電可能なエネルギーストレージシステム(二次電池)であって、化学的又は電気化学的なエネルギー蓄積体のなかでは最高のエネルギー密度、例えば、現状では最大250Wh/kgのエネルギー密度を有する。リチウムイオン電池は、特に、携帯型電子デバイス(例えば、ラップトップ型パソコン、コンピュータ、携帯電池等)の分野や、移動手段(例えば、電動型のバイクや車等)の分野において用いられる。
【0003】
電気的移動度に関して言うと、より高いエネルギー密度のリチウムイオン電池が乗り物の走行距離を延ばすために必要となる。携帯型電子デバイスについては、一回の充電での使用時間を延ばすことが必要となる。
【0004】
リチウムイオン電池は、アノード(負極)と、カソード(正極)と、アノードとカソードとを互いに分離するセパレータと、アノードとカソードとセパレータとに含浸する電解質とを備える。以下では、活物質(アノード物質とも称される)と、バインダ(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム(carboxymethyl cellulose,CMC)、スチレンブタジエンゴム(styrene‐butadiene rubber,SBR)、リチウムポリアクリル酸又はポリアクリル酸(polyacrylic acid,PAA)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride,PVDF)、これらの類似体)と、導電性添加剤(例えば、カーボンブラック、グラフェン、単層カーボンナノチューブ(single‐wall carbon nanotube,SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(multi‐wall carbon nanotube,MWCNT)、カーボンナノホーン、炭素繊維、気相成長炭素繊維、多孔質カーボン、これらの混合物)と、集電体(例えば、銅箔)との組成物のことをアノードと称する。
【0005】
活物質は電気化学反応の一部に関わる物質である。
【0006】
より高いエネルギー密度の要求を満たすためには、金属又は半金属(例えば、シリコン、ゲルマニウム、錫、鉛)から成るリチウム合金アノードが望ましい。何故ならば、これらのリチウム合金アノードは、現状でリチウムイオン電池の活物質として使用されているグラファイトよりも顕著に高い理論的比容量、つまり、リチウム貯蔵容量を有するからである。しかしながら、リチウム合金アノードを有するリチウムイオン電池は、多数回の充放電サイクル後の容量保持性が低いものであり、つまり、サイクル安定性が低いものである。容量の損失は、リチウムと合金用の金属との間の合金形成中における最大で略300%という大きな体積変化の結果である。リチオ化又はデリチオ化の各ステップにおける絶え間ない体積変化は、活物質に大きな応力をもたらす。これが、個々の粒子同士の間の電気的接触及び/又は粒子と集電体との間の電気的接触を失わせ得て、その結果として、その粒子は電池の充放電プロセスに関わらなくなって、電気的接触が失われたことに起因して不活性になる。これが容量の損失を生じさせる。更なる問題は、体積変化に伴う粒子の表面変化と、その結果としての電解質との反応に起因する粒子の表面上のパッシベーションコーティング層(所謂、固体電解質界面(solid electrolyte interphase,SEI)の再形成であり、SEIは電気的絶縁性であるが、リチウムイオンに対しては透過性である。SEIは十分に柔軟ではないので、一般的に説明されるモデルに従って表面変化を補償することができない。従って、各充放電サイクルがSEIの部分的再形成をもたらし、これが、電解質及びリチウムの不可逆的な損失につながる。カソードに直接又は間接的に起因するリチウムの損失はセルの容量の不可逆的な損失をもたらす。粒子の周りと電極の細孔中における電解質の損失とSEI残留物の蓄積はどちらも、例えばセルの徐々の「乾燥」と細孔の目詰まりに起因して、セル抵抗の増大をもたらし、更にセルの性能を低下させて、そのサイクル安定性を間接的に低下させる。大きな体積膨張、及び、電解質との反応を防ぐための多様な手法は以下のとおりである:
・ 外部圧力を用いたアノードの加圧(特許文献1、特許文献2)
・ アノード物質としてのナノシリコンの使用(純粋な形態での使用、又はグラファイトとの物理的な混合物としての使用)(特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6)
・ アノード物質としてのSi合金(特許文献7、特許文献8)
・ アノード物質としての酸化シリコン粒子(SiO)(特許文献9、特許文献10、また、例えば特許文献11には、炭素とSiOを含む混合物を備える粉末が記載されていて、0<x<1であり、そのSiOは、結晶SiOとアモルファスSiとのナノメートル複合材から成る)
・ C‐Si複合材
・ 電解質添加剤の使用(特許文献12)
・ アノード物質としての多孔質電極(特許文献13)
・ ナノSiのアノード物質としてのカーボン被覆ナノシリコン(特許文献14、特許文献15)
【0007】
純粋なナノリシコンの使用にはいくつかの欠点がある。ナノシリコンの大きな表面積は、大きなSEIを形成させるので、不可逆的損失が増える。また、不安定なSEIのみがシリコン上に形成して、SEIの連続的な再形成と成長をもたらし、その結果としての電気抵抗が生じる。更に、気を付けなれればならないのは、ナノシリコン粉末の加工性(例えば、安定性、均一な電極ペーストの作製、大きな表面積に起因したバインダに対する高い要求)の悪さである。また、集電体との接触が失われる可能性が高くなり、その結果として、導電性添加剤に対する要求が多くなり、不可逆的損失が多くなる。
【0008】
他の可能性は、シリコン粒子をカーボンマトリクスと組み合わせて、理想的にはシリコンをカーボン中に埋め込むことである。このようにして得られたC‐Si複合材は、活物質として使用可能なものであり、シリコンの体積変化を弱め、シリコンと電解質との直接的な接触が大幅に防がれる。以下では、複合材との用語が、C‐Si複合材と同義で用いられる。
【0009】
グラファイトとナノシリコンの物理的混合物と比較してのC‐Si複合材の他の重要な利点は、ナノシリコンを用いずに複合材のマイクロメートル範囲の平均粒径を達成する可能性である。従って、複合材粒子のサイズは、現状用いられているグラファイト粒子のものに匹敵し、その結果として、複合材の取り扱いと処理が、グラファイトアノード用に既に設計されている製造設備において、純粋なナノ物質の場合よりも簡単に可能となる。また、ナノシリコンの体積膨張はC‐Si複合材では減少する。物理的混合物に対する更なる利点は、より安定なSEIが形成される点である。
【0010】
しかしながら、熱処理中におけるシリコンとカーボンマトリクスとの部分的な分離が問題になることが分かっている。使用されるシリコンと追加の添加剤粒子と炭素前駆体との均質均一な混合物(所謂、未焼成(green)混合物)が事前の混合プロセスにおいて生成されていたとしても、未焼成混合物を製品にするための熱処理中に観測される分離が、シリコンを局所的に豊富にして、凝集体を形成し、また、そのため、熱処理後に物質の他の領域でシリコンが不足する。従って、カーボン中での不均一なシリコン分布が生じ、つまり、シリコンをあまり又は全く有さない局所的/微視的領域と、平均で(例えば平均的な巨視的な組成に従って)予想されるよりも顕著に多くのシリコンを有する局所的/微視的領域とが存在する。このシリコン分布の不均一性が、最終製品における所望の平均粒径以上の大きさの範囲で生じると、物質の更なる処理と製品の最終的な応用との両方において悪影響をもたらす。
【0011】
熱可塑性の炭素前駆体、例えば、ピッチが使用される場合に、特に、電池用の活物質を製造するための使用において有利な特に少量の不純物(低灰分(<1%)、低キノリン不溶分(<10%))を有するピッチの場合に、特に分離が観測される。こうしたピッチが使用される場合、炭素への変換(炭化)のための熱処理中に顕著な(メソ)相成長、つまりは異方性領域の形成が観測され得て、これが炭化プロセス中の分離をもたらす。
【0012】
C‐Si複合材を活物質として使用するために、C‐Si複合材は所望の粒径に粉砕される。複合材が粉砕されると、シリコンが存在しない領域やシリコンに乏しい領域からも粒子が生じ、その粒子はほとんど又は全くシリコンを含まない。その粒子は、シリコンを欠いているので、平均で望まれるよりも顕著に低い比容量を有して、平均以下のアノードの全容量しかもたらさない。それにもかかわらず、その粒子でSEIの形成が生じ、その結果として、その粒子は、不可逆的な形成損失をもたらす。従って、このような、シリコンが無い、又はシリコンの少ない粒子は、リチウムイオン電池用のアノードの活物質としては望ましくない。
【0013】
不均一性が生じている場合には、カーボンマトリクスの一部の領域でシリコンが局所的に不足しているか又は完全に存在せず、複合材の他の領域でシリコンが豊富になる。このことが今度は、複合材を粉砕する際にそうした領域からの粒子形成をもたらし、それら粒子は、所望よりも顕著に高いシリコン含有量や顕著に低いシリコン含有量を有する。結果として、こうした粒子ではカーボンマトリクス中へのシリコンの埋め込みが更に悪くなる。これは、アノード中に非常に高い比容量を有する粒子をもたらし、その結果として、例えば、粒子の充放電の際に、高シリコン含有量に起因して極めて顕著な体積変化が生じ、これが、例えば、C‐Si粒子の破壊、及び/又は電極構造の乱れにつながり得る。また、アノードの一部粒子中にシリコン又はリチオ化シリコンが顕著に豊富であることは、これに応じて、アノードに向かう又はアノードからの局所的に不均一な電流密度をもたらし、これは、例えば、リチウムデンドライトの形成を促進し得て、その結果として、電池が安全ではなくなり、極端な場合には、内部短絡が生じて損傷又は破壊され得る。
【0014】
混合物の熱処理後の一部領域中にシリコンが豊富であることによって生じる更なる問題は、粉末を形成するための粉砕プロセス自体に関係している。即ち、シリコンが豊富な領域中のシリコンはカーボン/カーボンマトリクス中への埋め込みが悪く、こうした領域は機械的に脆弱な点、つまり所定の破断点として機能するので、粉砕中に複合材のシリコンが豊富な領域からはシリコンが多量に放出される。従って、粉砕プロセス中に複合材に機械的な圧力がかけられると、シリコンが豊富な領域からシリコンが特に簡単に取り出されて放出され得る。小さな粒子(例えば、<1μm)を通過させる粒子保持システム(例えば、篩)を有するミルでは、例えば、使用されているナノシリコンがその保持システムを通過し得るので、最終製品におけるシリコンの顕著な損失が生じる。ナノシリコンは高価であるので、その損失が欠点となる。対照的に、全ての物質を保持するミル(例えば、閉鎖型のボールミルや、微粒子フィルタを有するミル)では、ナノシリコンの放出は、結合されていないナノシリコンが豊富な製品をもたらす。その結果として、シリコンが失われていなくても、これが欠点となる。何故ならば、高含有量のナノ粒子は、例えば、製品粉末の取り扱い性を損ない(例えば、安全性に関して)、その物質のアノードへの加工をより困難にするからである(例えば、高比表面積は、バインダに対するより高い要求、粒子を分散させるためのより多くの労力、凝集する傾向の増大、電極接着性の悪化の可能性、電極の小型化の悪化)。放出されたナノシリコンは、最終的には、電極中におけるシリコンの露出表面積の増大に起因してアノードの電気化学的特性の悪化につながり、これは、例えば、リチウム取り込み中の不均一な負荷につながり、今度はこれが、容量の損失、SEI形成の増大をもたらすので、リチウムイオン電池の寿命が短くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許出願公開第2010/0035128号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0266066号明細書
【文献】国際公開第2008/139157号
【文献】国際公開第2001/096847号
【文献】独国特許出願公開第102013211388号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1730800号明細書
【文献】米国特許第7871727号明細書
【文献】米国特許第7906238号明細書
【文献】米国特許第9281129号明細書
【文献】特開2011-142021号公報
【文献】国際公開第2014/095823号
【文献】欧州特許第2430686号明細書
【文献】米国特許第6143216号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0234721号明細書
【文献】特開2012-084521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、グラファイトよりも顕著に高い比容量を有し、グラファイトアノード用に既に設計されている製造設備において従来のグラファイト材と同様に処理可能であり、電池の動作安全性を可能な限り上昇させるリチウムイオン電池のアノード用の容易に利用可能な新規複合材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的は、シリコン及び炭素を備える複合材であって、シリコンの含有量が1~80重量%、好ましくは2~60重量%、特に好ましくは5~50重量%であり、複合材の少なくとも90重量%が低密度閾値ρ と高密度閾値ρ との間の密度範囲内にあり、密度閾値ρ 1,2が以下の関係式で表され、
ρ 1,2=(1±δ)・ρ
ここで、ρが複合材の平均密度であり、±δが高密度閾値ρ と低密度閾値ρ との間の変動範囲であり、δの量が<0.10である、複合材によって達成される。
【0018】
本発明に係る特に好ましい複合材では、シリコンの量は10~75重量%、特に15~70重量%、特に好ましくは20~65重量%、例えば20から60重量%である。
【0019】
本発明に係るリチウムイオン電池用の複合材は、成分の実質的に均一な分布を有し、その結果として、リチウム取り込み中の不均一な負荷、不均一な体積効果、粉砕中の不必要な物質損失が防がれる。
【0020】
複合材の均一性は高い方が望ましいが、本発明に係る方法を用いて得られる複合材は一般的にほぼ完全な均一性を達成するものであることが分かっている。複合材の少なくとも3重量%、5重量%、又は場合によって10重量%が低密度閾値ρ から高密度閾値ρ までの範囲外の密度範囲にある場合も多く、密度閾値ρ 3,4は以下の関係式によって表され、
ρ 3,4=(1±δmin)・ρ
ここで、ρは複合材の平均密度であり、±δminは高密度閾値ρ と低密度閾値ρ との間の変動範囲であり、δminの量は≧0.005、例えば0.01である。
【0021】
複合材の平均密度ρは以下の式によって与えられる:
【0022】
【数1】
【0023】
例えば、四成分を有する複合材(n=4)については以下の関係式が当てはまる:
【0024】
【数2】
【0025】
四成分は、例えば、以下の例3cに示されるように、シリコン、グラファイト、カーボンブラック、炭素前駆体からのアモルファスカーボンであり得る。
【0026】
従って、変動範囲±δを有する密度閾値(ρ 1,2)については以下の関係式が当てはまる:
【0027】
【数3】
【0028】
例えば、四成分を有する複合材(n=4、δ=0.2)については以下の関係式が当てはまる:
【0029】
【数4】
【0030】
は、必要な全ての熱処理を受けた後の複合材を構成する各成分iの質量分率を指称する。質量分率は、複合材の熱処理の条件の下で達成される各成分の質量収率を考慮して(例えば、使用された炭素前駆体の炭素収率を介して、より一般的には、複合材に使用される全ての炭素前駆体と添加剤(炭素前駆体と混合可能)との混合物(関連する複合材と同じ量の割合での混合物)の質量収率を介して)複合材の配合から計算される。ρは、関連する複合材と同じ条件下で熱処理された場合の複合材を構成する各成分iの密度を表す。従って、例えば、ρ(シリコン)は、使用されたシリコンの密度であり(全ての想定される不純物を含む)、ρ(添加剤a、b、c等)は、複合材に使用された不溶性添加剤a、b、c等(例えば、グラファイト、カーボンブラック、二酸化チタン等)の密度であり、ρ(アモルファスカーボン)は、その原料が関連する複合材と同じ量の割合で使用された場合における熱処理後の複合材に用いられた全ての混合可能な炭素前駆体の混合物と、それと混合可能な全ての添加剤とから得られるアモルファスカーボンの密度である。
【0031】
密度ρは、液体としてキシロールを用い(DIN51901‐2006)、可能な限り細かく粉砕され、液体にとってアクセス不能な細孔の影響を最小にするような複合材の平均粒径d50の範囲内で使用される平均粒径d50を有する各成分の粉末を用いて比重から決定される。
【0032】
パラメータδは、本発明に係る密度の変動範囲を表し、その変動範囲は、-δで用いられる場合の低密度閾値ρ と、+σで用いられる場合の高密度閾値ρ とに及ぶ。パラメータδは、<0.10、特に<0.09、好ましくは<0.08、特に好ましくは<0.07、最も好ましくは<0.06、例えば<0.05の値を有する。
【0033】
δ≧0.12の場合、不均一な分布を有する顕著な領域が物質中に生じ、その領域は、図1に示されるように、平均密度から顕著に逸脱した多様な密度を有する粒子部分をもたらす。複合材中の成分の不均一な分布は、例えば、非常に少量のシリコンや、非常に多量のシリコンや、シリコンが無い粒子という望ましくない物質の量に起因して、複合材の製造及び処理における欠点をもたらす。結果として、その製品は、望んでいたよりも低い有効容量を有する。また、例えば、電極中のシリコンの不均一な分布は、劣化を促進し得る局所的に不均一な電流密度等のリチウムイオン電池における更なる欠点ももたらす。
【0034】
本発明の範囲内において、シリコンとは、あらゆる形状、形態の多孔質シリコン、非多孔質シリコン、アモルファスシリコン、部分的に結晶性のシリコン、結晶シリコン、その混合物のことを称し、全体で最大10重量%の金属不純物又は金属成分が存在し得て、非金属不純物又は非金属成分(例えば、水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素、リン、フッ素、及び/又は硫黄の元素を備える)が全体で最大50重量%まで存在し得る。
【0035】
シリコンは好ましくは部分的に結晶性であり、又は結晶性であるので、少なくとも一部が結晶性である。シリコンが少なくとも部分的に結晶性であるか否かは、例えば、シリコンのX線回折分析(XRD,X-ray diffraction analysis)やシリコンを含有する複合材のXRDを用いて簡単に決定可能であり、具体的には、何らかの結晶性シリコンにとって典型的である少なくとも一つのX線回折信号の存在に基づいて決定される。粉末回折計、例えば、パナリティカル(PANalytical)社のEMPYREANデバイスをHigh Score Plus Softwareと共に用いて、X線回折分析を行うことができる。Cu Kαカソード(λ=1.54056Å)がX線源として機能する。粉末サンプルを室温で2θ=5~90°の範囲内で測定することができる。
【0036】
代わりに、透過型電子顕微鏡法(TEM,transmission electron microscopy)を用いて、シリコンを分析し、又はシリコンを含有する複合材を分析し、シリコンの全量のうち少なくとも1重量%を構成するものとして認識可能なシリコンの結晶領域を確認することもできる。このため、例えば、日本電子(JEOL)社のJEM-2100F透過型電子顕微鏡を200kVの電圧で使用することができる。シリコンが十分に小さい場合には、シリコンを直接分析することができる。複合材や大きなサンプル粒子については、TEM分析を行うために、ミクロトーム切片を準備しなければならない。
【0037】
複合材中に80重量%よりも多くのシリコンが存在する場合、本発明の目的にとって十分な程度でシリコンを取り囲む又は包み込む炭素の量が少な過ぎる。本発明では、炭素材中のシリコンの均一な分布を有する物質が得られ、これは、複合材の少なくとも90重量%が、低密度閾値ρ と高密度閾値ρ との間の密度範囲内にある点から明らかとされる。
【0038】
本発明の範囲内において、均一な分布を有する物質とは、炭素前駆体から形成された炭素材中において、シリコン粒子の凝集が顕著に多く又は低く存在している領域が無く、シリコン粒子が均一に分布していて、理想的には統計的に分布していることを意味する。例えば、図2dは均一な分布を示す。
【0039】
複合材中のシリコン粒子の均一な分布は、更なる処理と最終的な応用を改善し、例えば、粉砕中に生じるシリコンの物質損失を少なくし、リチウムイオン電池に使用した場合やリチウムの取り込み中において複合材が均一な負荷を受けるようにする。従って、シリコンの局所的な凝集が顕著な場合よりも、シリコンの体積効果が複合材中に、つまりは電極中に均一に分布する。更に、複合材中、つまりは電極中におけるシリコンの均一な分布は、電極/電池が充放電される際により均一に電流密度を分布させて、アノード又はカソードの電極材に対する局所的な損傷の危険性や、局所的な電流密度の最大によるリチウムデンドライトの形成の危険性を減らす。
【0040】
一般的に、複合材は粉末として存在し、これは複合粉末物質を意味する。
【0041】
複合粉末物質は、粒子として存在し、特に、(サブ)マイクロ粒子として存在する。「マイクロ」や「サブマイクロ」の接頭辞の典型的な使用に従って、本発明に関しては、「(サブ)マイクロ粒子」や「(サブ)微粒子」とは、100nmから500μmの範囲内の平均粒径(d50)を有する複合材のことを称する。
【0042】
複合材は、0.5から60μm、好ましくは1~40μm、特に好ましくは1~25μm、最も好ましくは2~15μmの平均粒径(d50)を有する粒径分布を有する。本発明の範囲内において、粒径分布とは、体積に基づいた粒径分布のことを称する。平均粒径d50とは中央値X50,3のことを称し、その中央値X50,3は、粒径分布の累積分布曲線Q(X)が50%となる値である。中央値X50,3は、レーザー粒度分布法(ISO13320‐2009)を用いて決定され、シンパテック(Sympatec)社の測定デバイスが、対応する評価ソフトウェアと共に用いられる。本発明の範囲内において、粒子の密度はサイズに依存しないものであるとされるので、体積に基づいた粒径分布は、質量に基づいた粒径分布に等しいものとされる。
【0043】
本発明によると、シリコンは、少なくとも部分的に炭素で取り囲まれた粒子として複合材中に存在する。好ましくは、複合材の平均粒径に対するシリコンの平均粒径の比は0.1以下であり、概して、0.0005から0.1の範囲内にあり、好ましくは0.0008から0.05の範囲内にある。0.1の上限を順守することで、複合材の大幅に均一な密度分布の調整が促進される。各複合粒子はシリコン粒子よりもはるかに大きくて重いので、剥き出しのまま複合粒子に付着している個々のシリコン粒子は、各複合粒子の質量及び密度には顕著に寄与しない。
【0044】
本発明によると、好ましくは、複合材が以下の条件を満たす。
【0045】
d50Si・(p/pSi)>s
【0046】
ここで、
d50Siは、「μm」単位でのシリコン粒子の平均粒径を表し、
は、重量%で表記される複合材中の炭素の量を表し、
Siは、重量%で表記される複合材中のシリコンの量を表し、
sはセキュリティパラメータであり、0.02であり、特に0.03であり、好ましくは0.04であり、特に好ましくは0.05である。
【0047】
シリコンと炭素の量は元素分析を用いて決定可能である。
【0048】
複合材中のシリコン粒子のサイズは、電子顕微鏡を用いて、例えば、高速イオン衝撃(FIB,fast ion bombardment)を用いて多数の複合材粒子断面部を形成し、それら断面部中のSi粒子の粒径を測定及び平均化することによって、決定可能である。
【0049】
d50Siが0.01μm(=10nm)である小さなシリコンナノ粒子の場合、上記不等式を満たすためには、炭素の量がシリコンの量の二倍超でなければならない。d50Siが0.03μm(=30nm)である場合には、シリコンが炭素よりも多く存在していれば、上記不等式は自動的に満たされる。
【0050】
上記条件に従ってシリコン粒子の平均粒径に対して複合材中の炭素とシリコンの量が調整されると、炭素でのシリコンの被覆又は炭素中のシリコンの埋め込みが十分な程度に保証される。その理由は、不等式に応じて炭素の量が増え、また、特に大きな比表面積を有する小さなシリコンナノ粒子が用いられる場合には、複合材の露出されたシリコン表面が少量に制限されるからである。最小量で露出されたシリコン表面は、より均一であり少ないSEI形成をもたらし、また、アノードへの又はアノードからの均一な電流密度分布をもたらし、その結果として最終的には電池がより安全になる。更に、シリコンの被覆又はシリコンの埋め込みは、シリコン粒子が複合材から抜け出すことを困難にする。個々のシリコン粒子と集電体との間の電気的接触がより確実に維持される。電気的接触が持続的に存在するため、粒子が電池の充放電プロセスに関与することが改善され、活性なままとなる。これは、SEI形成の減少と同様に、繰り返しの充放電サイクルの場合における容量の損失の発生を減らす。
【0051】
本発明の更なる態様は複合材の製造方法である。本方法は以下のステップを備える:
(a)シリコン、好ましくは結晶性であり、例えば粒子として存在するシリコンを提供するステップ、
(b)少なくとも一種の炭素前駆体を提供するステップ、
(c)ステップ(a)とステップ(b)からの成分を備える混合物を生成するステップ、
(d)ステップ(c)からの混合物に、熱処理及び粉砕を備える更なる処理を行うことによって、複合材を生成するステップ。
【0052】
本発明の範囲内において、熱処理という用語は、炭化という用語と同義に用いられる。
【0053】
ステップ(a)でのシリコンは、有利には、10nmから1μm、好ましくは20nmから0.5μm、特に好ましくは20nmから0.3μm、非常に好ましくは30nmから0.2μm、最も好ましくは40nmから180nmの平均粒径(d50)を有する粒径分布を有する。平均粒径が10nm未満の場合、シリコンは非常に反応し易く、酸化によってパッシベーション(不動態化)されていない限りは、空気中で自然発火する危険性があり、取り扱いが非常に面倒である。逆に、物質の表面が、例えば酸化によって既にパッシベーションされていると、平均粒径が非常に小さいため、表面積対体積の比が極めて好ましくないものとなり、つまり、過度に多量の物質がパッシベーション層を構成し、活物質として残る純粋なシリコンが少なくなり過ぎる。粒径が1μmを超えると、部分的な充放電の場合であっても、粒子の絶対体積変化が大きくなり、少ない回数のサイクル(例えば、始めの方の50サイクル内)で粒子が小さな破片に崩壊して、電極との接触の電気的/機械的損失や、更なるSEIの形成をもたらし、その結果として、そのような物質を有する電池の寿命/サイクル安定性が大幅に低下する。平均粒子(d50)を有する粒径分布は、ISO22412‐2017に準拠した動的光散乱を用いて測定される。
【0054】
ステップ(b)での炭素前駆体は、有利には、>5%の炭素収率を有するピッチ、タール、バイオマテリアル、ポリマー、樹脂に基づいた原材料、又はこれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは、ピッチ、炭水化物、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、フェノール樹脂、又はこれらの混合物から成る群から選択され、特に好ましくは、<400℃の軟化温度と、<1%の灰分とを有するピッチである。
【0055】
炭素前駆体とは、それからステップ(d)の熱処理を用いて炭素材を得ることができる全ての物質として理解されるものであり、その炭素収率は少なくとも5%である。炭素前駆体の炭素収率はアルキャン(Alcan)法(ISO6998-97)を用いて決定される。
【0056】
本発明の範囲内において、バイオマテリアルは、炭水化物、リグニンを包含するものとして理解される。
【0057】
好ましい炭素前駆体は熱可塑性の炭素前駆体である。このような熱可塑性の炭素前駆体は、溶融可能で炭化可能なペーストである。溶融可能で炭化可能とは、そのペーストが、0.001K/分から1000K/秒の範囲内の少なくとも一種の加熱速度で加熱された際に、更なる温度上昇で固体炭化物になる前に溶融物として存在することができる、又は100℃を超える一定温度での長期間後に溶融物として存在することができることを意味する。その溶融性は、例えば、制御された方法でペーストのサンプルを加熱して、溶融物が存在するかどうかを定期的に調べることによって試験可能であり、溶融物が存在するかどうかは、例えば、サンプルが軟らかくなっていることによって認識可能である。特定の熱可塑性の炭素前駆体は、例えば、ピッチ、タール、ビチューメン、アスファルト、ポリマー、コポリマー、例えばポリ塩化ビニル、熱可塑性のポリアクリロニトリル、特定の樹脂、バイオマテリアルである。
【0058】
ステップ(c)に従って得られる混合物は、有利には均一に分布している。ナノシリコンが用いられる場合には、ナノ粒子が細かく分布していること、つまり、混合物中で凝集して存在していないことが特に有利である。ステップ(c)における均一な分布は、後続のステップ(d)に従って可能な限り均一な製品を得るために有用な必要条件である。
【0059】
ステップ(d)で有利に選択される熱処理は、酸素を排除して、最大で400~1600℃、好ましくは400~1450℃、特に好ましくは600~1450℃、最も好ましくは800~1350℃の温度で、1秒から240時間、好ましくは1秒から72時間、特に好ましくは1秒から24時間、最も好ましくは1秒から12時間の持続期間にわたって行われるものである。本発明の範囲内において、「酸素を排除して」とは、酸素との反応の結果としての二次反応において最大10%の予想生成物が酸素と反応することを意味する。
【0060】
本発明の範囲内において、熱処理とは、サンプルが選択された温度に加熱されるプロセスのことである。本発明の範囲内において、「持続期間」とは、その温度に到達するまでの時間を称する。複合材の製造は、熱処理に加えて、他の方法ステップ、例えば、完全に混合すること、及び/又は、混合物中にガスを導入することも含み得る。
【0061】
熱処理は、炭素前駆体を熱分解によって炭素材に変換する。
【0062】
400℃未満の温度では、炭素前駆体は炭素材には完全に変換されず、これは、前駆体に応じた色々な問題、例えば、有毒な残留物、不十分な純度、異物、不十分な導電性等につながり得る。1600℃を超える温度では、炭素とシリコンの反応が速過ぎて、炭化シリコンの形成が無視できなくなる。
【0063】
1秒未満の持続期間では、炭素前駆体から放出される揮発性分解生成物の量が多過ぎて、分解生成物の除去/取り扱いが、大きな産業規模では難しくなる。240時間を超える持続期間では、分離を十分に防止することができない。
【0064】
ステップ(d)で粉砕された粒子は、有利には、0.5から60μm、好ましくは1~40μm、特に好ましくは1~30μm、最も好ましくは2~25μm、例えば4~20μmのd50を有する粒径分布を有する。
【0065】
粒径分布が0.5μm未満のd50を有する場合、複合粒子はナノシリコンよりも極僅かに大きいだけで、本発明の目的にとって好ましい複合材とは最早言えなくなる。また、そのような小さな平均粒径では従来のプロセス及び設備を用いてその複合材を電極に加工することが難しく、また、その複合材が望ましくなく高い比表面積を有し、アノードの形成中に不利に高くて不可逆的な損失をもたらす。粒径分布が60μmを超えるd50を有する場合、アノードの典型的なコーティング厚さ(例えば40~120μm)と比較して、粒子が大き過ぎて、電極の均一性(厚さ、単位面積当たりの負荷、多孔度)や、電極の平滑性が悪影響を受け、その結果として、電極の安定性、つまりは電池の安定性が低下する。粒径分布は、上述のように、レーザー粒度分布法(ISO13320‐2009)を用いて決定され、シンパテック(Sympatec)社の測定デバイスが、対応する評価ソフトウェアと共に用いられる。
【0066】
複合材の製造方法の代替実施形態では、ステップ(a)及びステップ(b)で提供される成分に加えて、少なくとも一種の添加剤が提供される。そして、ステップ(c)で生成される混合物が一般的には追加的に添加剤を備える。しかしながら、添加剤の一部、又は、添加剤の全量が、熱処理中にのみ追加され得るものともなり得る。
【0067】
添加剤は、熱処理後において、炭素前駆体と比較して熱処理中に生成される炭素の全量に対する炭素の量の寄与が数学的に少ない成分として定義される。
【0068】
以下、多様な種類の添加剤、具体的には粒子状添加剤(不溶性添加剤)と混和性添加剤を説明する。
【0069】
少なくとも一種の添加剤の使用は、炭化中の分離の抑制を改善し、及び/又は、前駆体からの炭素収率を改善する。添加剤によって達成可能な分離の低減は、炭化用のより単純な製造プロセスを可能にし、及び/又は、ステップ(d)での物質の粉砕中のシリコンの損失を低減し、及び/又は、物質の均一性とそれに関連する物性を改善し、例えば、アノードを製造するための物質の加工を改善したり、サイクル安定性を改善したりする。
【0070】
一実施形態では、少なくとも一種の添加剤は、少なくとも一種の炭素前駆体中に不溶な成分であり、好ましくは、無機物、特に好ましくは、酸化チタン、二酸化シリコン、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、酸化ホウ素、炭化シリコン、天然グラファイト、カーボンブラック、アモルファスカーボン、グラフェン、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンナノホーン、気相成長炭素繊維、これらの組み合わせから成る群から選択され、特に好ましくはグラファイト(天然グラファイト、合成グラファイト、膨張グラファイト)、カーボンブラック、グラフェン、アモルファスカーボン、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンナノホーン、気相成長炭素繊維、これらの組み合わせから成る群から選択される。
【0071】
本発明の範囲内において、無機物とは、全ての金属、半金属、標準条件下においてガス状ではないそれらの化合物であるとして理解される。同様に、無機物としては、全ての炭素材、炭素原子の異性体が挙げられる。
【0072】
本発明の範囲内において、アモルファスカーボンは全ての非グラファイト状炭素材、例えば、ハードカーボン、ソフトカーボン、活性炭、多孔質炭素、コークス等であるとして理解される。本発明の範囲内において、ソフトカーボンは、グラファイト化可能である非グラファイト状炭素材であるとして理解され、ハードカーボンは、グラファイト化不能である非グラファイト状炭素材であるとして理解される。
【0073】
C‐Si複合材に用いられるシリコンの粒径が小さくなるほど、シリコンが添加剤の機能をより多く担うことができる。
【0074】
少なくとも一種の添加剤は、有利には、10μm未満、好ましくは8μm未満、特に好ましくは6μm未満、極めて好ましくは4μm未満、最も好ましくは2μm未満の平均粒径d50又は最短軸を有する。10μmを超える粒径では、生成物粒子当たりに存在する添加剤粒子が十分ではない。このため、少なくとも一種の添加剤の好ましい効果が生じない。複数種の添加剤が用いられる場合、そのうちの一種が、10μm未満、好ましくは8μm未満、特に好ましくは6μm未満、極めて好ましくは4μm未満、最も好ましくは2μm未満の平均最短軸を有すれば十分である。
【0075】
最短軸は電子顕微鏡を用いて測定され、平均粒径d50は、添加剤に想定される粒径に応じて、レーザー粒度分布法(ISO13320‐2009)、又は、動的光散乱(ISO22412‐2017)を用いて測定される。
【0076】
少なくとも一種の添加剤は、有利には、少なくとも一種の添加剤の添加剤の量が、シリコン以外の複合材の部分の90~1重量%、好ましくは70~1重量%、特に好ましくは50~1重量%、最も好ましくは40~1重量%となるような割合で使用される。
【0077】
特定の実施形態では、あまり添加剤が使用されず、添加剤の全量は、シリコン以外の複合材の部分の1重量%未満となる。極めて少量の添加剤を使用すると熱処理中に生じるメソ相(中間相)の形成を十分に抑制できる場合も多い。これは、添加剤が混合物に極めて細かく分布している場合、例えば、添加剤が10μm未満の平均粒径d50又は最短軸を有する場合に特に当てはまる。
【0078】
少なくとも一種の添加剤の量が、シリコン以外の複合材の部分の90重量%よりも多い場合には、シリコン以外の複合材の部分の残り、つまりカーボンマトリクスが、非常に少ない量でのみ複合材に含まれることになる。結果として、カーボンマトリクスに対するシリコンの比が好ましくなく、シリコンがカーボンマトリクス中に分布している好ましい複合材が存在しない。
【0079】
添加剤を用いるステップ(d)に係る熱処理は、有利には、酸素を排除して、最大で400~1600℃、好ましくは400~1450℃、特に好ましくは600~1450℃、最も好ましくは800~1350℃の温度で、1秒から720時間、好ましくは1秒から360時間、特に好ましくは1秒から240時間、非常に好ましくは1秒から72時間、最も好ましくは1秒から24時間の持続期間にわたって行われる。
【0080】
400℃未満の温度では、炭素前駆体は炭素には完全に変換されず、これは、前駆体に応じた色々な問題、例えば、有毒な残留物、不十分な純度、異物、不十分な導電性等につながり得る。1600℃を超える温度では、炭素とシリコンの反応が速過ぎて、炭化シリコンの形成が無視できなくなる。
【0081】
1秒未満の持続期間では、炭素前駆体から放出される揮発性分解生成物の量が多過ぎて、分解生成物の除去/取り扱いが、大きな産業規模では難しくなる。720時間を超える持続期間では、分離が頻繁で十分に防止することができない。
【0082】
ステップ(d)で粉砕された粒子は、有利には、0.5から60μm、好ましくは1~40μm、特に好ましくは1~30μm、最も好ましくは2~25μm、例えば4~20μmの平均粒径d50を有する粒径分布を有する。
【0083】
粒径分布は、上述のように、レーザー粒度分布法(ISO13320‐2009)を用いて決定され、シンパテック(Sympatec)社の測定デバイスが、対応する評価ソフトウェアと共に用いられる。
【0084】
代替実施形態では、少なくとも一種の添加剤は、炭素前駆体と混和性である成分であり、樹脂、ポリマー、重合開始剤、高分子架橋剤、これらの混合物から成る群から選択され、好ましくは、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂、クレゾール樹脂、アルキルフェノール樹脂、シアン酸エステル樹脂、エポキシ樹脂、フラン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、アクリル樹脂、ビスマレイミド樹脂、シリコーン樹脂、シリコーンゴム、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、エチレンプロピレンジエンゴム、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、2,3‐ジメチル‐2,3‐ジフェニルブタン、フリーデル・クラフツ触媒、ウロトロピン、硫黄、ビスマレイミド、これらの混合物から成る群から選択される。
【0085】
混合物とは、物理的混合物と、「化学的」混合物(例えば、コポリマー)とのどちらとして理解されるものである。本発明の範囲内において、混和性とは、可溶性と、乳化性とのどちらも意味する。
【0086】
上記炭素前駆体の物質は、この代替実施形態用の添加剤としても使用可能である。炭素前駆体と混和性である添加剤は、熱処理中に、それ自体と又は炭素前駆体と反応し得て、熱分解される。添加剤が、反応性であることを保証するためには、重合可能及び/又は架橋可能でなければならない。
【0087】
少なくとも一種の添加剤の量は、有利には、シリコン以外の複合材の部分の90~1重量%、好ましくは70~1重量%、特に好ましくは50~1重量%、最も好ましくは40~1重量%である。
【0088】
少なくとも一種の添加剤の量が、シリコン以外の複合材の部分の90重量%よりも多いと、シリコン以外の複合材の部分の残り、つまりカーボンマトリクスは、非常に少ない量でのみ複合材に含まれる。結果として、シリコン対カーボンマトリクスの比が望ましくなく、シリコンがカーボンマトリクス中に均一に分布している本発明の目的の複合材が最早存在しなくなる。1重量%未満の場合には、少なくとも一種の添加剤の効果が、本発明にとって望ましい物質の均一性の改善を達成するには不十分である。
【0089】
添加剤を用いるステップ(d)の熱処理は、有利には、酸素を排除して、最大で400~1600℃、好ましくは400~1450℃、特に好ましくは600~1450℃、最も好ましくは800~1350℃の温度で、1秒から720時間、好ましくは1秒から360時間、特に好ましくは1秒から240時間、非常に好ましくは1秒から72時間、最も好ましくは1秒から24時間の持続期間にわたって行われる。
【0090】
400℃未満の温度では、炭素前駆体は炭素には完全に変換されず、これは、前駆体に応じた色々な問題、例えば、有毒な残留物、不十分な純度、異物、不十分な導電性等につながり得る。1600℃を超える温度では、炭素とシリコンの反応が速過ぎて、炭化シリコンの形成が無視できなくなる。
【0091】
1秒未満の持続期間では、炭素前駆体から放出される揮発性分解生成物の量が多過ぎて、分解生成物の除去/取り扱いが、大きな産業規模では難しくなる。720時間を超える持続期間では、分離が頻繁で十分に防止することができない。
【0092】
ステップ(d)で粉砕された粒子は、有利には、0.5から60μm、好ましくは1~40μm、特に好ましくは1~30μm、最も好ましくは2~25μm、例えば4~20μmの平均粒径d50を有する粒径分布を有する。
【0093】
粒径分布は、上述のように、レーザー粒度分布法(ISO13320‐2009)を用いて決定され、シンパテック(Sympatec)社の測定デバイスが、対応する評価ソフトウェアと共に用いられる。
【0094】
本発明に係る複合材は、リチウムイオン電池、リチウム硫黄電池、及び/又はナトリウムイオン電池のアノード用の活物質の唯一の成分、又は少なくとも一成分として使用可能である。更に考えられる活物質の成分は、例えば、天然グラファイト、合成グラファイト、膨張グラファイト、アモルファスカーボン(ハードカーボン、ソフトカーボン)、又はこれらのあらゆる混合物である。
【0095】
以下、有利な実施形態と添付図面を参照して、本発明を純粋に例示目的で説明する。本発明は図面によって限定されるものではない。
【0096】
図面は、偏光顕微鏡を用いて観測することで得られるものの概略表示である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
図1a】C‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す(基本問題)。
図1b】C‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す(基本問題)。
図1c】C‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す(基本問題)。
図1d】C‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す(基本問題)。
図1e】C‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す(基本問題)。
図1f】C‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す(基本問題)。
図2a】添加剤無しで本発明に係る熱処理を用いる場合の、又は混和性添加剤と共に本発明に係る熱処理を用いる場合のC‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す。
図2b】添加剤無しで本発明に係る熱処理を用いる場合の、又は混和性添加剤と共に本発明に係る熱処理を用いる場合のC‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す。
図2c】添加剤無しで本発明に係る熱処理を用いる場合の、又は混和性添加剤と共に本発明に係る熱処理を用いる場合のC‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す。
図2d】添加剤無しで本発明に係る熱処理を用いる場合の、又は混和性添加剤と共に本発明に係る熱処理を用いる場合のC‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す。
図3a】不溶性添加剤と共に本発明に係る熱処理を用いる場合のC‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す。
図3b】不溶性添加剤と共に本発明に係る熱処理を用いる場合のC‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す。
図3c】不溶性添加剤と共に本発明に係る熱処理を用いる場合のC‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す。
図3d】不溶性添加剤と共に本発明に係る熱処理を用いる場合のC‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す。
図3e】不溶性添加剤と共に本発明に係る熱処理を用いる場合のC‐Si複合材の形成の多様な段階を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0098】
図1a~図1fは、ナノシリコン(1)とメソ的な炭素前駆体(2)とから成る均一な未焼成混合物の反応を概略的に示す。
【0099】
図1aは、熱処理を開始する前の均一な未焼成混合物を示す。
【0100】
図1bは、熱処理中のメソ相(中間相)(3)の形成の開始を示す。
【0101】
図1cは、熱処理中に成長するシリコン無しのメソ相(3)を示し、その結果として、ナノシリコンの濃度は等方相のもののままである。
【0102】
図1dは、部分的な合体によりメソ相から生じるシリコン無しの異方性領域と、シリコンが豊富な等方性領域とを示す。熱処理が完了するまで、その構造は硬化していき、完全に炭化したC‐Si複合材を形成し、そのC‐Si複合材は、メソ相から生じたSi無しの炭素材領域(5)と、シリコンが豊富な等方性領域から生じたC‐Si複合材のSiが豊富な領域(6)とを有する。
【0103】
図1eは、分割線を用いて図示されているグリッド間隔に対応する粒径に熱処理材を分割したものを概略的に示す。
【0104】
図1fは、粉砕後に得られる粉末を概略的に示し、その粉末は、純粋に炭素材(5)から成るシリコン無しの粒子(5)と、シリコンが豊富な粒子(6)と、炭素材のみから成るシリコン無しの粒子の極限と、検出可能な炭素材が無くほぼシリコンのみから成る粒子の極限との間の量で両成分を有する粒子(4)とを有する。各粒子で可能な組成の範囲が、その粒子が含有する炭素又はシリコンの量に応じてそれぞれ密度が異なる粒子をもたらしている。
【0105】
図2a~図2dは、ナノシリコン(1)とメソ的な炭素前駆体(2)とから成る均一な未焼成混合物の反応を概略的に示す。
【0106】
図2aは、熱処理を開始する前の均一な未焼成混合物を示す。
【0107】
図2bは、本発明に係る熱処理中のメソ相(中間相)(3)の形成を示す。各メソ相(3)は図1b~図1fのものよりも小さく、熱処理中の核生成の増大を用いてそのメソ相の数を増やすことができる。
【0108】
図2cは、分割線を用いてその図示されている線のグリッド間隔に対応する粒径に熱処理後の複合材を分割したものを概略的に示す。
【0109】
図2dは、粉砕後に得られた粉末を概略的に示す。
【0110】
図1fと比較して、各成分で可能な組成の範囲が小さく、密度があまり異ならない粒子がもたらされている。
【0111】
また、図2a~図2dは、混和性添加剤を用いたプロセスを示すものでもあり、その混和性添加剤は炭素前駆体(2)と均一に混合されている。
【0112】
図3aから図3eは、ナノシリコン(1)とメソ的な炭素前駆体(2)と不溶性添加剤(7)とからなる均一な未焼成混合物の反応を概略的に示す。
【0113】
図3aは、熱処理を開始する前の均一な未焼成混合物を示す。
【0114】
図3bは、熱処理中のメソ相(中間相)(3)の形成の開始を示す。
【0115】
図3cは、メソ相の成長を示すが、添加剤によって更なる成長が抑制されていて、図1の場合と比較してメソ相の成長が抑えられている。その抑制は、本発明の目的にとって有用な効果である熱処理中の混合物の粘度に対する添加剤の効果によって、及び/又は、メソ相が小さくなるように及び/又は物質中により均一に分布するように熱処理中のメソ相の核生成を増やすことによって、生じ得るものである。
【0116】
図3dは、分割線を用いてその図示されている線のグリッド間隔に対応する粒径に複合材を分割したものを概略的に示す。
【0117】
図3eは、粉砕後に得られた粉末を概略的に示す。
【0118】
図1fや図2dと比較すると、不溶性添加剤(7)が、各粒子で可能な組成の多様性をもたらしている。各粒子の密度は、粒子中の炭素とシリコンと不溶性添加剤(7)の量から計算される。不溶性添加剤を適切に選択した結果としてメソ相の成長が抑えられていることで、図1fに示される粉末物質よりも全体的には均一な粒子の組成を得ることができる。
【0119】
以下、例を参照して本発明を説明するが、例は本発明を限定するものではない。
【0120】
[基本手順]
【0121】
(i)シリコンと炭素前駆体を提供する。
【0122】
(ii)炭素前駆体が、例えば、用いられる混合デバイスにとって十分な程度に溶融して流動性になるまで、炭素前駆体を加熱する。処理温度を低くしたり、炭素前駆体を溶解させたりするのに適した溶媒を使用することができ、その溶媒においては少なくとも高温において炭素前駆体(の大部分)が可溶性である。代わりに、炭素前駆体に適した溶媒中にシリコンを予め分散させておき、次いで炭素前駆体に加えることもできる。ナノシリコンが凝集しないようにするためのものとして、超音波処理(例えば、ソノトロードを用いる)、高速動作する特別な高剪断混合器(例えば、溶解槽/鋸歯状ディスク、Ultra‐Turrax(登録商標))、又は、例えば、ラッカー産業、ペンキ産業、セラミック産業において知られているような他の特別な分散デバイス(例えば、バスケットミル、コロイドミル、攪拌ボールミル、高圧ジェット、ノズルプロセス)等が挙げられる。
【0123】
(iii)少なくとも一つの適切な撹拌用器具(例えば、プロペラ撹拌器、溶解槽、混練器、遊星混合器、又はこれらの組み合わせ)を用いて、粉末又は分散体としてのシリコンと、溶融、液化、軟化及び/又は溶解した炭素前駆体を混合する。この混合プロセスの目的は、可能な限り均一であって、また、可能な限り凝集していないナノシリコン粒子を有する未焼成混合物を生成することであり、つまり、ナノシリコンが、炭素前駆体中に、又は炭素前駆体溶媒混合物中に均一に分布するようにすることである。
【0124】
(iv)任意選択的に、後続の熱処理ステップ用の物質量を減らすように炭素前駆体の易揮発性成分、及び/又は混合物に加えられた溶媒を蒸発及び/又は蒸留除去する。このステップは、例えば、後続の熱処理中に物質が制御不能に沸騰してこぼれたり、発泡したりすることを防止するため、溶媒を回収して再利用するため、後続ステップ中の二次燃焼の負荷を低減するため、又は熱処理が完了するまで沈殿を低減するために必要となり得る。揮発性成分や溶媒の蒸発や蒸留除去は、未焼成混合物を加熱すること(任意選択的に減圧や真空を用いる)、及び/又は容器の気体空間にガス又はガス混合物(例えば、窒素、アルゴン、二酸化炭素等)を流すことによって行われ得る。
【0125】
(v)ステップ(iii)又はステップ(iv)で生成された未焼成混合物を熱処理して、炭素前駆体を炭化させる。未焼成混合物の熱処理は、適切な容器中で(例えば、鋼鉄、グラファイト、又はセラミック製の開放坩堝中で)、酸素を排除して(例えば、窒素やアルゴン雰囲気中、又は真空中で)、この目的に適した炉(好ましくは、揮発性排気ガスを燃やすための二次燃焼機能を備える炉)の中で所定時間内に最終温度にまで加熱することによって行われる。最終温度に達した後に、任意選択的に、生成混合物を所定の期間にわたってその最終温度において炉の中に置いたままにして、熱処理を完了し得る。炉は、例えば、マッフル炉、管状炉、チャンバ炉、台車炉、回転炉、環状炉、トンネル炉、プッシャー式炉、連続引上炉、又は何らかの種類の熱生成(例えば、電気による、太陽熱による、又は、固体状、液体状及び/又は気体状の燃料の燃焼による)で連続的に又はバッチ式で動作する他の炉であり得る。その後、制御された冷却又は自然冷却を用いて、熱処理されたC‐Si複合材が<400℃に冷却され、次いで、炉から取り出される。また、C‐Si複合材の酸化を防止するために400℃未満までC‐Si複合材が空気や酸素に対して保護されているのであれば、冷却を炉の外で行うこともできる。
【0126】
(vi)破砕と粉砕によって、例えば、ジョークラッシャー、円錐状クラッシャー、ロールクラッシャー等を用いてまず押し潰しを行い、次いで、例えば、衝撃ミル、回転ミル、ビーターミル、ハンマーミル、ジェットミル、ボールミル等を用いて一段階又は多段階のすり潰しを行うことによって、例えば、粒径分布を設定するために統合された篩を有するミルを用いて、得られたC‐複合材を所望の粒径に破砕/粉砕する。
【0127】
例1(比較例、従来技術):
【0128】
基本手順のステップ(i)からステップ(iii)については、0.23kgのナノシリコン(平均粒径d50が略100~200nm、金属不純物が<3重量%、非金属不純物が5~15重量%、例えばアルファエイサー(ALFA AESAR)社やシグマアルドリッチ(SIGMA‐ALDRICH)社から市販されている)を、溶解槽攪拌器(例えばIKA社から市販されている)を用いて、5Lのガラスビーカー中の加熱油浴で1.0kgのテトラヒドロフラン(合成用、安定化、例えばVWR社から市販されている)中に激しく分散させて、油浴中の分散体を略50℃に加熱し、次いで、略60~120℃の軟化温度を有するピッチの粒、粉末又はペレット(例えば、DEZA社、KOPPERS社、RUTGERS社、BILBAINA DE ALQUITRANES社から市販されている)を全部で1.0kg、加熱された分散体に少しずつ加えた。この手順では、ピッチ‐溶媒混合物中のナノシリコンの均一な分散体が存在するようになるまで、ナノシリコンを可能な限り凝集させないように、溶解槽攪拌器(例えばIKA社から市販されている)を用いて、混合物を略1時間にわたって激しく攪拌した。バッチ式の場合には、溶解槽攪拌器の代わりに、プロペラ攪拌器やアンカー攪拌器も用いられる。混合物の攪拌が難しい場合には、混合物の粘度が混合プロセスにとって十分低くなるまで、追加のテトラヒドロフランを希釈用に加える。
【0129】
次いで、基本手順のステップ(iv)については、混合物を更に攪拌しながら大気圧での蒸留を用いて、テトラヒドロフランを混合物から除去した。このため、例えば4~5Lの三つ口フラスコに、水冷式リービッヒ冷却器と、安定な金属又はPTFEの攪拌ブレードを有する攪拌器とを取り付けた蒸留構造体を用いた。蒸留は、使用されたテトラヒドロフランの70%の量が未焼成混合物から除去されるまで、又はペーストの完全な循環および混合が160~180℃未満の混合物の温度において不可能となる程度に混合物の粘度が増大するまで、行われた。
【0130】
次いで、冷却器及び攪拌器を取り外して、基本手順のステップ(v)の準備のために、高温の未焼成混合物を、高温のまま十分大きな溶媒耐性、ピッチ耐性及び温度耐性を有する容器中に移すか、又は、大気温度に冷却後にガラスフラスコに移し、硬化した未焼成混合物を冷たいままで何らかの形状の十分大きな溶媒耐性、ピッチ耐性及び温度耐性を有する容器中に移した。例えば、未焼成混合物の体積の少なくとも二倍の大きな金属缶、金属バケツ、又はグラファイト坩堝を容器として用いた。
【0131】
次いで、基本手順のステップ(v)において容器中の未焼成混合物を、略50~200h時間内に窒素雰囲気中において、生成された排気ガスを燃やすための二次燃焼システムを有するチャンバ炉の中で700~1000℃の最終温度にまで加熱し、次いで、更に6~12時間にわたって最終温度で置いた。その後、炉の加熱を切り、受動的に冷却した。冷却中に、炉のチャンバに窒素を更に流して、酸化を防止した。炉内の温度が<200℃に下がると直ぐに、窒素を流すのを止めて、炉を開き、物質を取り出した。
【0132】
基本手順のステップ(vi)については、熱処理された物質を、例えばハンマーを用いる粗い機械的手段で破砕及び粉砕し、例えば、ハンマー、電動クラッシャー、ジャークラッシャーを用いて最大1cmのサイズの破片に破砕した。次いで、破砕された物質を、略200μmの粒径に粗くすり潰すための衝撃ミルで一次的にすり潰し、そして、細かくすり潰すための篩を有する第二衝撃ミルで目的の粒径分布にすり潰した。
【0133】
例1の結果:
0.51kgの生成物の粉末。平均粒径d50は5μm、1回目のサイクルの可逆容量は910mAh/g、1回目のサイクルの効率は84%、40回目のサイクルの可逆容量は690mAh/g、密度変動範囲δは0.12。
【0134】
物質を電気化学的に分析するため、粉砕された粉体から電極を製造し、その電極を、MACCOR社のシリーズ4000電池試験デバイスを用いて研究用のハーフセルで分析した。電極を製造するため、粉末を、CMCバインダ(略700000g/mol、ACROS社から市販されている)と、スーパーP(Super P)導電性カーボンブラック(イメリス(IMERYS)社から市販されている)と、SFG6導電性グラファイト(イメリス(IMERYS)社から市販されている)と、脱イオン水と混合して、後続のコーティングプロセスに適した粘度を有するインクを作製し、そのインクを、所望の局所的な質量負荷用に画定されたドクターブレードギャップ高さを有する卓上フィルム描画装置を用いて、銅箔(粗い、厚さ20μm、シュレンク(SCHLENK)社から市販されている)上にコーティングした。その電極コーティングの組成は以下のとおりである。活物質:導電性カーボンブラック:導電性グラファイト:バインダ=88:2:3:7の質量比。必要であれば、インクの粘度を調整するのに水が用いられる。コーティングを制御された方法で乾燥させて、2016個のボタンセル(ボタンセル製造用の器具と筐体の部品は全て宝泉(HOHSEN)社から市販されている)に適した円形の電極ディスク(直径14mm)を型抜きした。電極ディスクの質量から銅の質量を引くことによる計量で銅箔上の電極の質量を決定した。電極ディスクを乾燥させて(真空、>110℃)、次いで、アルゴンが充填されたグローブボックス中で、対向電極としての円形に型抜きされたリチウム箔(直径16mm、アルファエイサー(ALFA AESAR)社から市販されている)と、セパレータ(GF/D、ワットマン(WHATMAN)社から市販されている)と、電解質と共にボタンセル(ハーフセル)にした。電解質(混合済みのものが宇部興産(UBE)から市販されている)は以下の組成を有する。エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート(1:1、体積比)中に溶解させた1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム+2%のビニレンカーボネート+10%のフルオロエチレンカーボネート。
【0135】
電池試験デバイス(MACCOR社のシリーズ4000)を用いて制御された方法でセルに充放電(「サイクリング」)を行い、リチウム対向電極はハールセル構造の電位基準としても機能するようにした。電池試験は以下のようにして行われた。フォーメーション(3サイクル)では、充電が0.1CのCCで20mVまで、CVでC/100までであり、放電が0.1CのCCで1.5Vまで。サイクリング(フォーメーション後)では、充電が0.5CのCCで20mVまで、CVでC/20までであり、放電が0.5CのCCで1.5Vまで。ここで、CCは定電流(constant current)であり、CVは定電圧(constant voltage)である。
【0136】
リチウムイオン電池用のアノード物質としてのC‐Si複合材の使用について、そのC‐Si複合材は、単独で使用可能であり、又は、例えば、アノード物質(活物質)を形成するためのあらゆる方法でグラファイトアノード物質と混合して使用され得て、この場合、混合比を介して比容量を調整することが可能である。
【0137】
以下の例の電気化学特性も上記方法に従って決定された。
【0138】
複合材の密度範囲は、所定の密度を有する液体中に粒子を分散させることによって、浮遊法に基づいて、又は、重液中での密度に基づいた成分の重力分離に基づいて、決定された。
【0139】
複合材の密度範囲を決定するため、重液の密度を複合材の平均密度の範囲付近で異ならせ、複合材の「軽い」部分と「重い」部分とへの達成可能な分離の割合を決定した。液体の密度よりも大きな密度の粒子は沈殿し得る一方、液体と正確に同じ密度を有する粒子は懸濁し続けて、液体の密度よりも小さな密度の粒子は浮遊する。粒子と液体との間の密度差が非常に小さいため、密度に従った粒子の分離は重力場中で非常に遅く行われるので、遠心分離器を用いてプロセスを加速したが、その遠心分離器は、重液の密度に対する温度の影響を防ぐように温度調整されていた。
【0140】
適切な重液として、例えば、高密度の液体(例えば、1,2‐ジブロモプロパン、1,3‐ジブロモプロパン、1,2,3‐トリブロモプロパン)と低密度の液体(例えば、トルエン、キシロール、デカン、ドデカン)の所定の混合物が挙げられる。液体の密度、又は混合物の密度は、DIN EN ISO15212‐1(2009)に従って振動法を用いて、粒子の分離の実際の実験が行われている温度で測定されたものである。全ての実験において、易揮発性成分の蒸発によって、混合液体の組成、つまりは密度が変化しないように注意した。
【0141】
粉末の密度範囲を決定するため、略1~2gの粉末を、略15mLの体積を有する複数の遠心分離器管の中に、各遠心分離器管中に正確に同じ量になるように計量して入れ、その物質の平均密度の範囲内の正確に知られている密度を有する範囲内で重液を少なくとも10~12mLの全容量で充填し、次いで、密封した。液体の容積は粉末のかさ容積の少なくとも四倍として、液体中における密度に従って粒子の空間分離を可能とした。凝集や空気の混入を防止するため、懸濁液を超音波浴で15分間にわたって処理した。
【0142】
それぞれ僅かに異なる重油を有する複数のサンプルを準備し、重油の密度を0.01g/cmずつ異ならせた。次いで、全てのサンプルを、遠心分離器中で最大速度で少なくとも48~72時間にわたって遠心分離させた。
【0143】
粉末が底に完全に沈殿したサンプルについては、重液の密度が、全ての粉末粒子の密度よりも低い。粉末が上部に完全に浮いているサンプルについては、重液の密度が全ての粉末粒子の密度よりも大きい。従って、両者で用いられた重液の密度が、粉末粒子の密度の可能な下限と上限を示す。
【0144】
それらの間の密度範囲では、粒子が懸濁している液体を、同じサイズの三つの体積部分(上方の三分の一、中間の三分の一、下方の三分の一)に分割し、これは、ピペットを用いて順々に遠心分離器管から懸濁液の各部分を取り出すことによって行われた。次いで、三つの部分をそれぞれ一定の重量まで乾燥させて、各部分の粉末の残りを計量した(用いられた複合材の全質量の少なくとも0.1%の精度)。そうすると、底に沈殿した粒子(下方の三分の一)や、上部に浮かんだ粒子(上方の三分の一)の量を決定することができる。粒子が重液と正確に同じ密度を有している中間の部分は、この密度を有する粒子は三つ全ての部分中に均一に分布しているとみなされるので、上方の部分と下方の部分の質量を制御し、任意選択的に修正するように作用したものである。
【0145】
重液の密度を異ならせることによって、重液の密度が、連続する類似の実験において求められ、用いられている複合材の僅か5%のみが重液中に浮遊又は沈殿しているようにした。このため、僅かに異なる密度の重液を有する各実験の質量分率を、各部分中の重液の密度に対してプロットし、用いられた複合材の5重量%が上部又は下部に存在する重液の密度をデータから決定した。これらの密度は、低密度閾値ρ 、高密度閾値ρ に対応し、複合材の粒子の90重量%がρ とρ との間の密度範囲内に存在していた。複合材の平均密度ρと低密度閾値ρ 又は高密度閾値ρ との間の差の量|ρ-ρ 1,2|は、密度の変動範囲の大きさδである。複合材の平均密度ρと低密度閾値ρ 又は高密度閾値ρ との間の差の大きさ|ρ-ρ 1,2|が等しくない場合には、二つの量を大きくして、変動範囲の量δを求めた。
【0146】
以下の例の密度範囲も上記方法に従って決定されたものである。
【0147】
例2:
【0148】
ステップ(v)でより急速な熱処理を用いた以外は例1と同じにした。このため、例2のステップ(i)からステップ(iv)と、ステップ(vi)を、例1と同じ方法で行った。しかしながら、例2では、ステップ(v)の熱処理が3~12時間内で行われる。このため、容器中の未焼成混合物を、略3~12h時間内に窒素雰囲気中において、生成された排気ガスを燃やすための二次燃焼システムを有するチャンバ炉の中で800~1000℃の最終温度にまで加熱し、次いで任意選択的に、更に1~3時間にわたって最終温度で置いた。最終温度への急速な加熱の結果として、多量の熱分解ガス(そのガス用に炉とその二次燃焼システムは設計されている)が比較的短い時間内に放出された。また、突沸の危険性が高いので、十分大きな容器が用いられた。その後、炉の加熱を切り、受動的に冷却した。冷却中に、チャンバ炉に窒素を更に流して、酸化を防止した。炉内の温度が<200℃に下がると直ぐに、窒素を流すのを止めて、炉を開き、物質を取り出した。
【0149】
例2の結果:
0.53kgの生成物の粉末。平均粒径d50は5μm、1回目のサイクルの可逆容量は1110mAh/g、1回目のサイクルの効率は85%、40回目のサイクルの可逆容量は780mAh/g、密度変動範囲δは0.06.
【0150】
例3a~例3c:
【0151】
例3a:
例1とは対照的に、例3aでは、基本手順のステップ(iii)において、炭素前駆体中に不溶な粉状添加剤を未焼成混合物に加えて、添加剤がナノシリコンと同じ様に未焼成混合物中に最終的には均一に存在するように混合した。
【0152】
例3aでは、基本手順の(i)~(iii)において、0.23kgのナノシリコン(平均粒径d50が略100~200nm、金属不純物が<3重量%、非金属不純物が5~15重量%、例えばアルファエイサー(ALFA AESAR)社やシグマアルドリッチ(SIGMA‐ALDRICH)社から市販されている)を、溶解槽攪拌器(例えばIKA社から市販されている)を用いて、5Lのガラスビーカー中の加熱油浴で1.2kgのテトラヒドロフラン(合成用、安定化、例えばVWR社から市販されている)中に激しく分散させて、湯浴中の分散体を略50℃に加熱し、次いで、略60~120℃の軟化温度を有するピッチの粒、粉末又はペレット(例えば、DEZA社、KOPPERS社、RUTGERS社、BILBAINA DE ALQUITRANES社から市販されている)を全部で0.8kgと、粒径d50が3~6μmのグラファイト粉末(例えば、イメリス(IMERYS)社、GRAPHIT KROPFMUHL社、SGLカーボン社から市販されている)を0.1kg、添加剤として、加熱された分散体に少しずつ加えた。この手順では、ピッチ‐溶媒混合物中のナノシリコンとグラファイト粉末との均一な分散体が存在するようになるまで、ナノシリコンとグラファイト粉末を可能な限り凝集させないように、溶解槽攪拌器(例えばIKA社から市販されている)を用いて、混合物を略1時間にわたって激しく攪拌した。
【0153】
次いで、例1と同じ方法で基本手順のステップ(iv)~ステップ(vi)を行った。
【0154】
例3aの結果:
0.58kgの生成物の粉末。平均粒径d50は5μm、1回目のサイクルの可逆容量は1120mAh/g、1回目のサイクルの効率は86%、40回目のサイクルの可逆容量は800mAh/g、密度変動範囲δは略0.04。
【0155】
例3b:
ステップ(iii)で炭素前駆体中に不溶なnmスケールの粉状添加剤を用いたという点を除いては例3aと同じである。例3bでは、例3aのグラファイト粉末の代わりに、カーボンブラックを添加剤として用いた。
【0156】
例3bでは、基本手順の(i)~(iii)において、0.23kgのナノシリコン(平均粒径d50が略100~200nm、金属不純物が<3重量%、非金属不純物が5~15重量%、例えばアルファエイサー(ALFA AESAR)社やシグマアルドリッチ(SIGMA‐ALDRICH)社から市販されている)を、溶解槽攪拌器(例えばIKA社から市販されている)を用いて、5Lのガラスビーカー中の加熱油浴で2.0kgのテトラヒドロフラン(合成用、安定化、例えばVWR社から市販されている)中に激しく分散させて、湯浴中の分散体を略50℃に加熱し、次いで、略60~120℃の軟化温度を有するピッチの粒、粉末又はペレット(例えば、DEZA社、KOPPERS社、RUTGERS社、BILBAINA DE ALQUITRANES社から市販されている)を全部で0.8kgと、粒径d50が<1μmのカーボンブラック(例えば、イメリス(IMERYS)社、オリオン(ORION)社、キャボット(CABOT)社から市販されている)を0.1kg、添加剤として、加熱された分散体に少しずつ加えた。この手順では、ピッチ‐溶媒混合物中のナノシリコンとカーボンブラックとの均一な分散体が存在するようになるまで、ナノシリコンとカーボンブラックを可能な限り凝集させないように、溶解槽攪拌器及び/又はプロペラ攪拌器やアンカー攪拌器(例えばIKA社から市販されている)を用いて、混合物を略1時間にわたって激しく攪拌した。
【0157】
次いで、例3aと同じ方法で、基本手順のステップ(iv)~ステップ(vi)を行った。
【0158】
例3bの結果:
0.56kgの生成物の粉末。平均粒径d50は5μm、1回目のサイクルの可逆容量は1100mAh/g、1回目のサイクルの効率は83%、40回目のサイクルの可逆容量は780mAh/g、密度変動範囲δは略0.03。
【0159】
例3c:
ステップ(iii)で炭素前駆体中に不溶な二種類の添加剤を用いて、これら二種類の添加剤がナノリシコンと同様に未焼成混合物中に最終的には均一に存在するようにしたという点を除いては例3aや例3bと同じである。
【0160】
例3cでは、例3aの添加剤としてのグラファイト粉末と、例3bの添加剤としてのカーボンブラックとの組み合わせを1:1の質量比で用い、つまり、例3aのグラファイト粉末を0.05kgと、例3bのカーボンブラックを0.05kgとで用いた。例3cの残りの物質(種類、量)とステップは、例3bと同様にして用いて行った。
【0161】
例3cの結果:
0.57kgの生成物の粉末。平均粒径d50は5μm、1回目のサイクルの可逆容量は1100mAh/g、1回目のサイクルの効率は85%、40回目のサイクルの可逆容量は790mAh/g、密度変動範囲δは略0.04。
【0162】
例4a~例4c:
【0163】
例4a:
例1とは対照的に、例4aでは、メソ相(中間相)を形成しない添加剤を基本的順のステップ(iii)又はステップ(iv)において未焼成混合物に加えて、添加剤が未焼成混合物中に最終的には均一に存在するように混合した。
【0164】
例4aでは、基本手順のステップ(i)~ステップ(iii)において、0.25kgのナノシリコン(平均粒径d50が略100~200nm、金属不純物が<3重量%、非金属不純物が5~15重量%、例えばアルファエイサー(ALFA AESAR)社やシグマアルドリッチ(SIGMA‐ALDRICH)社から市販されている)を、溶解槽攪拌器(例えばIKA社から市販されている)を用いて、5Lのガラスビーカー中の加熱油浴で1.0kgのテトラヒドロフラン(合成用、安定化、例えばVWR社から市販されている)中に激しく分散させて、油浴中の分散体を略50℃に加熱し、次いで、略60~120℃の軟化温度を有するピッチの粒、粉末又はペレット(例えば、DEZA社、KOPPERS社、RUTGERS社、BILBAINA DE ALQUITRANES社から市販されている)を全部で0.55kg、加熱された分散体に少しずつ加えた。この手順では、ピッチ‐溶媒混合物中のナノシリコンの均一な分散体が存在するようになるまで、ナノシリコンを可能な限り凝集させないように、溶解槽攪拌器(例えばIKA社から市販されている)を用いて、混合物を略1時間にわたって激しく攪拌した。次いで、0.5kgのフェノール樹脂(略60~120℃の軟化温度を有するノボラック粉末)(例えば、SUD‐WEST‐CHEMIE社、オルネクス(ALLNEX)社、ヘキシオン(HEXION)社から市販されている)を添加剤として少しずつ加え、略1時間にわたって再び激しく攪拌した。次いで、基本手順のステップ(iv)~(vi)を例1と同じ方法で行った。
【0165】
添加剤の融点未満でピッチ‐溶媒混合物中に添加剤を混合することが難しい場合には、混合プロセス中に基本手順のステップ(iv)を開始してしまうこと、つまり、溶媒を少しずつ蒸発させて、混合物の温度を添加剤の融点よりも高く上昇させて、添加剤との混合を促進することが有用である。
【0166】
例4aの結果:
0.45kgの生成物の粉末。平均粒径d50は5μm、1回目のサイクルの可逆容量は1070mAh/g、1回目のサイクルの効率は82%、40回目のサイクルの可逆容量は770mAh/g、密度変動範囲δは略0.04。
【0167】
例4b:
例1とは対照的に、例4bでは、メソ相(中間相)を形成しない架橋剤を基本手順のステップ(iii)又はステップ(iv)中に未焼成混合物に加えて、添加剤が未焼成混合物中に最終的には均一に存在するように混合した。
【0168】
例4bでは、基本手順のステップ(i)~ステップ(iii)において、0.23kgのナノシリコン(平均粒径d50が略100~200nm、金属不純物が<3重量%、非金属不純物が5~15重量%、例えばアルファエイサー(ALFA AESAR)社やシグマアルドリッチ(SIGMA‐ALDRICH)社から市販されている)を、溶解槽攪拌器(例えばIKA社から市販されている)を用いて、5Lのガラスビーカー中の加熱油浴で1.0kgのテトラヒドロフラン(合成用、安定化、例えばVWR社から市販されている)中に激しく分散させて、油浴中の分散体を略50℃に加熱し、次いで、略60~120℃の軟化温度を有するピッチの粒、粉末又はペレット(例えば、DEZA社、KOPPERS社、RUTGERS社、BILBAINA DE ALQUITRANES社から市販されている)を全部で0.55kg、加熱された分散体に少しずつ加えた。この手順では、ピッチ‐溶媒混合物中のナノシリコンの均一な分散体が存在するようになるまで、ナノシリコンを可能な限り凝集させないように、溶解槽攪拌器及び/又はプロペラ攪拌器やアンカー攪拌器(例えばIKA社から市販されている)を用いて、混合物を略1時間にわたって激しく攪拌した。次いで、0.45kgの不飽和ポリエステル樹脂(例えば、ライヒホールド(REICHHOLD)社、SYNTHOPOL社、BUFA社から市販されている)を添加剤として、また、6gの2,3‐ジメチル‐2,3‐ジフェニルブタン(アクロス(ACROS)社、アクゾノーベル(AKZONOBEL)社から市販されている)を遊離基開始剤として加えて、略1時間にわたって再び激しく攪拌した。次いで、基本手順のステップ(iv)~(vi)を例1と同じ方法で行った。ステップ(v)の熱処理中に、添加剤又はその熱分解が顕著な発泡を生じさせるので、このステップで必要とされる物質用の容器は十分に大きいものとされた。
【0169】
例4bの結果:
0.49kgの生成物の粉末。平均粒径d50は5μm、1回目のサイクルの可逆容量は1100mAh/g、1回目のサイクルの効率は84%、40回目のサイクルの可逆容量は780mAh/g、密度変動範囲δは0.04。
【0170】
例4c:
例1とは対照的に、例4cでは、架橋剤を基本手順のステップ(iii)又はステップ(iv)中に未焼成混合物に加えて、添加剤が未焼成混合物中に最終的には均一に存在するように混合した。
【0171】
例1とは対照的に、例4cでは、基本手順のステップ(i)~ステップ(iii)において、略60~120℃の軟化温度を有するピッチの粒、粉末又はペレット(例えば、DEZA社、KOPPERS社、RUTGERS社、BILBAINA DE ALQUITRANES社から市販されている)を0.85kg、用いた。例4cの残りの物質(種類、量)とステップは、例1と同様にして用いて行った。基本手順のステップ(iii)では、ナノシリコンの完全な分散の後に、0.09kgの硫黄(粉末、少なくとも99%の純度、例えば、VWR社、カールルース(CARL ROTH)社、シグマアルドリッチ(SIGMA‐ALDRICH)社から市販されている)を未焼成混合物に加えて略1/2時間にわたって混合して、ステップ(iv)の開始前に添加剤が未焼成混合物中に均一に存在するようにした。ステップ(iv)の加熱中における硫黄とピッチの反応により、略120~150℃から硫化水素が放出された。基本手順のステップ(iv)又はステップ(v)における突沸を防止するために、緩やかな温度上昇、十分大きな反応容器、強力な攪拌が有効である。
【0172】
硫化水素を吸収するためにフラスコに窒素を流すことによって、ステップ(iv)中に反応ガスが水酸化ナトリウム溶液を有する洗浄瓶の中に導入され得て、又は、排気ガス浄化機能を有するように適切に設計された二次燃焼システムでステップ(v)の熱処理中に硫化水素が焼かれる。
【0173】
例4cの結果:
0.55kgの生成物の粉末。平均粒径d50は5μm、1回目のサイクルの可逆容量は1090mAh/g、1回目のサイクルの効率は82%、40回目のサイクルの可逆容量は750mAh/g、密度変動範囲δは略0.03。
【0174】
例及び図面に基づいて、特に狭い密度分布を有する本発明に係る複合材を得ることができ、特にその複合材の製造プロセス中において以下のようにすることによって、得ることができる:
‐ メソ相(中間相)又は溶融した混合物の構成要素は異方性領域の形成を促進するので、混合物の一部がメソ相(中間相)を形成するか又は溶融する温度範囲内に混合物の温度を保つことを可能な限り短くすること; 及び/又は、
‐ 粒子状の添加材(不溶性添加剤)を加えること; 及び/又は、
‐ 混和性添加剤を加えること。
【0175】
混合物中の炭素前駆体を炭素に変換するために混合物の温度を上昇させることが、製造設備の条件のために非常に遅くでしかできない場合には、本発明に係る密度分布を達成するために、添加剤を混合物に加えることが有用である。これは、例えば、大きな体積と比較的小さな表面積とを有する多量の混合物を、熱処理が行われる炉の中で加熱する場合に必要となり得る。そして、混合物の限定的な熱伝導性と高い熱容量のために、混合物がゆっくりと加熱されると、熱的に不活性な挙動がもたらされ、添加剤を加えない場合にはメソ相の形成が顕著になる危険性があり得る。そこで、添加剤がメソ相の形成を低減して、最終的には得られた複合材を均一な密度のものにする。
【0176】
しかしながら、混合物の急速な温度上昇も可能であり(例えば、混合物の質量に対して熱に晒される表面積を増大させることによって、混合物の加熱速度を上昇させるように小さな部分で又は細かく分布させて混合物を高温炉又は加熱領域に配置する場合、又は、非常に小さな体積の混合物を高速加熱炉又は高温領域内で加熱する場合)、この場合、一般的には、本発明に係る密度分布の結果となる程度にメソ相の形成を抑制するためには、添加剤を加える必要はない。
【0177】
勿論、温度を急速に上昇させる場合であっても、添加剤を混合物に加えることができる。これは、一般的に、得られる複合材の均一性の更なる向上(つまり、更に狭い密度分布)をもたらす。
【符号の説明】
【0178】
1 ナノシリコン
2 炭素前駆体
3 メソ相(中間相)
4 炭素及びシリコンを有する粒子
5 純粋な炭素材を有する粒子
6 シリコンが豊富な粒子
7 不溶性添加剤
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図1f
図2a
図2b
図2c
図2d
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e