(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】エレベーター制御システム
(51)【国際特許分類】
B66B 5/02 20060101AFI20221129BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20221129BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B66B5/02 G
B66B3/00 R
B66B5/00 G
(21)【出願番号】P 2020042899
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田苗 俊一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一朗
(72)【発明者】
【氏名】星崎 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】主税 雅裕
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-126261(JP,A)
【文献】特開2010-277519(JP,A)
【文献】特開2003-267636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/02
B66B 3/00
B66B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋に設置されたエレベーターの運転を制御するエレベーター制御システムにおいて、
第1の気象情報データを受信するセンター装置と、前記センター装置と通信回線を介して接続され、前記建屋に設置され第2の気象情報データを取得するセンサと接続された監視装置を備え、
前記センター装置は、前記通信回線を介して前記監視装置に、前記第1の気象情報データを送信し、
前記監視装置は、
前記センサから前記第2の気象情報データを受信し、
前記第1の気象情報データおよび前記第2の気象情報データを用いて、前記エレベーターに損害を与える可能性を示す損害リスクが予め記憶された損害リスク基準値より高いかを判定し、
当該判定の結果、前記損害リスクが前記損害リスク基準値を超えたと判定した場合、
前記エレベーターの複数の退避位置候補ごとの、当該退避位置候補における損害リスクを示す複数の退避位置候補別損害リスクを、当該退避位置候補の数量分算出し、
前記エレベーターにおいて、前記損害リスク基準値より小さくなる退避位置への退避運転指令
であって、前記複数の退避位置候補別損害リスクのうち予め記憶された閾値よりも小さい退避位置候補別損害リスクの退避位置候補を、前記退避位置とする前記退避運転指令を出力することを特徴とするエレベーター制御システム。
【請求項2】
建屋に設置されたエレベーターの運転を制御するエレベーター制御システムにおいて、
第1の気象情報データを受信するセンター装置と、前記センター装置と通信回線を介して接続され、前記建屋に設置され第2の気象情報データを取得するセンサと接続された監視装置を備え、
前記センター装置は、前記通信回線を介して前記監視装置に、前記第1の気象情報データを送信し、
前記監視装置は、
前記センサから前記第2の気象情報データを受信し、
前記第1の気象情報データおよび前記第2の気象情報データを用いて、前記エレベーターに損害を与える可能性を示す損害リスクが予め記憶された損害リスク基準値より高いかを判定し、
当該判定の結果、前記損害リスクが前記損害リスク基準値を超えたと判定した場合、
複数の前記エレベーターの退避位置候補ごとの、当該退避位置候補における損害リスクを示す複数の退避位置候補別損害リスクを、当該退避位置候補の数量分算出し、
前記エレベーターにおいて、前記損害リスク基準値より小さくなる退避位置への退避運転指令であって、
前記複数の退避位置候補別損害リスクが最小の
退避位置候補位置を、前記退避位置とする前記退避運転指令を出力することを特徴とするエレベーター制御システム。
【請求項3】
請求項
1または2のいずれかに記載のエレベーター制御システムにおいて、
前記監視装置が、前記第1の気象情報データ、前記第2の気象情報データおよび前記第1の気象情報データと前記第2の気象情報データに基づく損害の影響度を用いて、前記損害リスクおよび前記退避位置候補別損害リスクを算出することを特徴とするエレベーター制御システム。
【請求項4】
請求項
3に記載のエレベーター制御システムにおいて、
前記監視装置は、前記第1の気象情報データおよび前記第2の気象情報データとして、雨量、風速、風向および気圧を用いることを特徴するエレベーター制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター制御システムを含むエレベーターの制御技術に関する。その中でも特に、災害などの外乱の損傷を回避するための制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベーターの各機器にセンサを取り付けることで、エレベーターについて外乱による損傷を回避すべく運転制御を行う技術が知られている。
【0003】
特許文献1には、エレベーター機械室に設けた気圧計の出力値から大雨予測を行い、かごを最上階へ移動(退避)した後運転を休止させて大雨によるエレベーターの損害を回避する制御技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術は、大雨によるエレベーターピット内への浸水を考慮して、かごを最上階に退避するようにしたものであるが、実際には建物の最上階や機械室(最上階上部に設置)に浸水し、エレベーターの損害を受けるケースがあり、損害を回避する制御技術としては不十分である。
【0006】
本発明の目的は、台風接近や大雨警報等の際に、損害リスクを低減する制御を行うエレベーター制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、以下の構成を採用した。
【0008】
建屋に設置されたエレベーターの運転を制御するエレベーター制御システムにおいて、
第1の気象情報データを受信するセンター装置と、前記センター装置と通信回線を介して接続され、前記建屋に設置され第2の気象情報データを取得するセンサと接続された監視装置を備え、前記センター装置は、前記通信回線を介して前記監視装置に、前記第1の気象情報データを送信し、前記監視装置は、前記センサから前記第2の気象情報データを受信し、前記第1の気象情報データおよび前記第2の気象情報データを用いて、前記エレベーターに損害を与える可能性を示す損害リスクが予め記憶された損害リスク基準値より高いかを判定し、当該判定の結果、前記損害リスクが前記損害リスク基準値を超えたと判定した場合、前記エレベーターの複数の退避位置候補ごとの、当該退避位置候補における損害リスクを示す複数の退避位置候補別損害リスクを、当該退避位置候補の数量分算出し、前記エレベーターにおいて、前記損害リスク基準値より小さくなる退避位置への退避運転指令であって、前記複数の退避位置候補別損害リスクのうち予め記憶された閾値よりも小さい退避位置候補別損害リスクの退避位置候補を、前記退避位置とする前記退避運転指令を出力することを特徴とするエレベーター制御システムである。また、本発明には、建屋に設置されたエレベーターの運転を制御するエレベーター制御システムにおいて、第1の気象情報データを受信するセンター装置と、前記センター装置と通信回線を介して接続され、前記建屋に設置され第2の気象情報データを取得するセンサと接続された監視装置を備え、前記センター装置は、前記通信回線を介して前記監視装置に、前記第1の気象情報データを送信し、前記監視装置は、前記センサから前記第2の気象情報データを受信し、前記第1の気象情報データおよび前記第2の気象情報データを用いて、前記エレベーターに損害を与える可能性を示す損害リスクが予め記憶された損害リスク基準値より高いかを判定し、当該判定の結果、前記損害リスクが前記損害リスク基準値を超えたと判定した場合、複数の前記エレベーターの退避位置候補ごとの、当該退避位置候補における損害リスクを示す複数の退避位置候補別損害リスクを、当該退避位置候補の数量分算出し、前記エレベーターにおいて、前記損害リスク基準値より小さくなる退避位置への退避運転指令であって、前記複数の退避位置候補別損害リスクが最小の退避位置候補位置を、前記退避位置とする前記退避運転指令を出力することを特徴とするエレベーター制御システムも含まれる。
【0009】
また、本発明には、上記の監視装置や、エレベーター制御システムもしくは監視装置を用いた制御方法も含まれる。さらに、この制御方法を実行するためのプログラム、これを格納した媒体も本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、外乱が発生した際に、より適切にエレベーターの退避運転制御を実行できる。このため、外乱による損害リスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るエレベーター制御システムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るエレベーター制御システムの処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態に係る広域の気象情報データから、近傍気象情報データを抽出した状態を示す模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るエレベーター1の設置位置の気象に対する影響度を示す模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る損害リスクの重み付け(相関度)を示す模式図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る建屋の構造的特性や建築環境的特性から設定する、退避候補位置別の損害リスク算出方法を示す模式図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る近傍気象情報データテーブルおよびセンサ気象情報データテーブルを示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る近傍影響度テーブルおよびセンサ影響度テーブルを示す図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る退避位置候補別影響度テーブル、損害リスク基準値テーブルおよび退避位置候補別損害リスクテーブルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係るエレベーター制御システムについて詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係るエレベーター制御システムの構成例を示すブロック図である。本実施形態では、建屋2に設置されたエレベーター1、監視装置3、センター装置4、情報端末5が互いに接続されている。そして、建屋2には、風速計21、風向計22、雨量計23、気圧計24といったセンサが設けられ、それぞれが監視装置3に接続されている。なお、これらセンサは、監視装置3に接続されておればよく、建屋2に直接接続されず、その周りに設置されていてもよい。
【0014】
また、監視装置3とエレベーター1は、通信回線(A)6を介して接続され、監視装置3、センター装置4、情報端末5は、通信回線(B)7を介して接続されている。以下、これら各装置の構成を説明する。
【0015】
まず、エレベーター1は、エレベーター1の運転やかご(図示しない)内の表示などを制御するエレベーター制御部11、およびエレベーター表示部12を備え、通信回線(A)6を介して監視装置3と通信接続する。
【0016】
次に、監視装置3の構成について説明する。監視装置3は、センター装置4との通信を行う通信処理部31、エレベーター制御部11との通信を行う通信処理部32、入力処理部33、判定処理部34、運転制御指令部35、外部通報処理部36、および記憶部37を備える。ここで、監視装置3においては、通信処理部31が、センター装置4の通信処理部41と通信回線(B)7を介して接続している。さらに、監視装置3は、エレベーター制御部11とは通信回線(A)6を介して接続される。そして、運転制御指令部35にて処理された運転制御指令に従い、エレベーター制御部11との通信処理部32を介して運転制御指令を出力する。
【0017】
また、監視装置3の入力処理部33は、建屋2の風速計21、風向計22、雨量計23、気圧計24といったセンサで検知される気象情報データを入力し、記憶部37に記録する。さらに、判定処理部34は、建屋2の風速計21、風向計22、雨量計23、気圧計24の情報と、エレベーター1の設置位置の近傍の気象情報データ(以下、近傍気象情報データ)から、エレベーター1の損害リスクを算出する。そして、損害リスクが高いと判断された場合は、損害リスクが最小となるかご停止位置を算出する。ここで、損害リスクとは、エレベーターに損害に対して、任意の時間から将来にかけて損害を与える可能性を示す指標である。このため、損害リスクは、エレベーターの設置位置における気象変化予測に応じて算出される。その一例としては、任意の時間のエレベーター設置位置の気象情報データと、近傍気象情報データに基づく将来のエレベーター設置位置の気象情報データの予測値に基づき算出される。また、損害リスクは、影響度を用いて算出してもよいし、これらに基づいて予め設定された値を用いてもよい。さらに、本実施形態では、損害リスクが予め定められた閾値(損害リスク基準値や退避位置特定用損害リスク基準値)以下のかご停止位置を求めてもよい。なお、任意の時間としては、本処理を行う際、つまり、現在であることが好適である。
【0018】
また、運転制御指令部35は、判定処理部34にて判定した損害リスクが最小となるかご停止位置にエレベーター1のかごを運転制御するための指令を出力する。
【0019】
外部通報処理部36は、運転制御指令部35にて出力したエレベーター1の運転制御指令を、予め設定したエレベーター1の管理者や保守担当者に対して、運転状態の変更情報を連絡する処理を行う。
【0020】
記憶部37は、
図7に示す以下の各種情報、テーブルを記憶する。
(1)近傍気象情報データテーブル371
センター装置4から送られてきたエレベーター1の近傍気象情報データ(風速W
x、風向D
x、降水量R
x、気圧P
x、ただしx=e, w, s, n, se, ne, sw, nw)
(2)検知気象情報データテーブル372
風速計21、風向計22、雨量計23、気圧計24で検知される検知気象情報データ(風速W、風向D、降水量R、気圧P)
(3)近傍影響度テーブル373
エレベーター1設置位置oに対する近傍のx点の風速W
x、風向D
x、降水量R
x、気圧P
xの影響度(A
Wx,, A
Dx, A
Rx, A
Px)
(4)検知影響度テーブル374
風速W、風向D、降水量(雨量)R、気圧Pによるエレベーター1の損害リスクへの影響度(B
W, B
D, B
R, B
P)
(5)退避位置候補別影響度テーブル375
退避位置候補j(j=1~m)のエレベーター1の損害リスクへの影響度(B
Wj, B
Dj, B
Rj, B
Pj)
(6)損害リスク基準値テーブル376
エレベーター1を通常の運転状態から、かごを退避位置へ退避させ休止させる制御に変更させる基準とする損害リスク基準値C
Lおよびエレベーター1の退避位置を特定するために用いる退避位置特定用損害リスク基準値C
Lj
(7)退避位置候補別損害リスクテーブル377
エレベーター1の退避位置候補ごとに算出した退避位置候補別損害リスクC
oj(t)
(8)その他各種情報
(8-1)損害リスクC(t)を算出するための係数α
(8-2)運転制御指令部35にて処理したエレベーター1の運転制御指令履歴
(8-3)外部通報処理部36通報処理部で処理した、エレベーター1の管理者や保守担当者に連絡した情報(情報端末5に送信した情報)
以上のうち、(1)~(7)の各テーブルの詳細について説明する。まず、
図7に、近傍気象情報データテーブル371および検知気象情報データテーブル372を示す。近傍気象情報データテーブル371は、
図3および
図4に示す近傍エリアの気象情報データを格納するものである。つまり、近傍エリアごと(e~nw)に、風速W
x、風向D
x、降水量R
x、気圧P
xを格納している。また、検知気象情報データテーブル372は、
図5に示す風速計21、風向計22、雨量計23、気圧計24で検知された検知気象情報データを格納している。
【0021】
次に、
図8に、近傍影響度テーブル373および検知影響度テーブル374を示す。近傍影響度テーブル373は、風速W
x、風向D
x、降水量R
x、気圧P
xの影響度であるA
Wx,, A
Dx, A
Rx, A
Pxを、近接エリアごとに格納するものである。これらの各影響度は、予め利用者などからの入力に応じた数値である。検知影響度テーブル374は、風速W、風向D、降水量(雨量)R、気圧Pによるエレベーター1の損害リスクへの影響度であるB
W, B
D, B
R, B
Pを格納している。これらの各影響度も、本テーブルも予め利用者などからの入力に応じた数値である。
【0022】
次に、
図9に、退避位置候補別影響度テーブル375、損害リスク基準値テーブル376および退避位置候補別損害リスクテーブル377を示す。退避位置候補別影響度テーブル375は、退避位置候補ごとの損害リスクへの影響度であるB
Wj, B
Dj, B
Rj, B
Pjを格納している。これらの各影響度も、本テーブルも予め利用者などからの入力に応じた数値である。また、本実施例では、退避位置候補(j)として、各階(1F~10F)を用いているが、階の途中などを用いてもよく、階には限定されない。
【0023】
また、損害リスク基準値テーブル376は、上述のとおり損害リスク基準値CLおよび退避位置特定用損害リスク基準値CLjを格納している。なお、本テーブルでは、損害リスク基準値CLと退避位置特定用損害リスク基準値CLjを1つのテーブルに記憶しているが、それぞれを別のテーブルに記憶してもよい。
【0024】
また、退避位置候補別損害リスクテーブル377は、エレベーター1の退避位置候補ごとに算出したCoj (t)を、その退避位置候補ごとに格納している。本テーブルでも退避位置候補(j)として、各階(1F~10F)を用いているが、階の途中などを用いてもよく、階には限定されない。
【0025】
次に、センター装置4の構成について説明する。センター装置4は、通信処理部41、気象情報抽出処理部42、および記憶部43を備える。まず、通信処理部41は、気象情報データサービス会社(図示しない)などから全国など広域の気象情報データを通信回線(A)6介して受信する。また、通信処理部41は、エレベーター1の管理人が所持する情報端末5、および保全作業を行う作業員が所持する情報端末5、および、監視装置3と通信回線(A)6にて接続する。そして、監視装置3からエレベーター1の管理者や保守担当者に対して運転状態の変更情報を受信する。
【0026】
気象情報抽出処理部42は、気象情報データサービス会社などから受信した、広域の気象情報データから、記憶部43に格納された近傍気象情報データを抽出し、記憶部43に格納する。なお、ここでこれら気象情報データには少なくとも、風速、風向、降水量、気圧が含まれる。
【0027】
記憶部43は、エレベーター1の設置位置情報、エレベーター1の管理者や保守担当者情報、気象情報データサービス会社から受信した、広域の気象情報データ、近傍気象情報データを格納する。
【0028】
次に、情報端末5について説明する。情報端末5には、エレベーター1の管理人が所持ないし利用するエレベーター管理人情報端末51、および保全作業を行う作業員が所持ないし利用する保守作業員情報端末52、が含まれる。それぞれの情報端末5は通信回線(B)7を介してセンター装置4と接続され、通信を行い、監視装置3からセンター装置4を介して送信された、からエレベーター1の管理者や保守担当者に対して運転状態の変更情報を受信する。
【0029】
なお、監視装置3、センター装置4、情報端末5のそれぞれは、いわゆるコンピューターで実現される。そして、各装置の機能、処理は、プログラムに従ってCPUのような演算装置で実行される。特に、監視装置3においては、31~33がインターフェース部、34~36がプログラムおよび演算装置(CPU)、37が記憶媒体で実現できる。
【0030】
次に、
図2に示すフローチャートを用いて、本実施形態に係るエレベーター制御システムの処理手順を説明する。
【0031】
まず、センター装置4は気象情報データサービス会社(図示しない)から広域の気象情報データを、通信回線(A)6を介して周期的(例えば、定期的)に受信する。そして、センター装置4の記憶部43にデータを格納する(ステップS201)。なお、広域の気象情報データとは、気象情報データサービス会社が提供する気象情報データで、建屋2が存在する地域の気象情報データが含まれていればよい。
【0032】
次に、気象情報抽出処理部42で、広域の気象情報データから、記憶部43に格納されたエレベーター1ないし建屋2の設置位置を示す情報(以下、エレベーター1の設置位置情報)に対する近傍気象情報データを抽出する。そして、抽出された気象情報データを記憶部43に格納する処理を行う(ステップS202)。
【0033】
ここで、
図3はセンター装置4で収集する広域の気象情報データから近傍気象情報データを抽出した状態を示す模式図である。
【0034】
ここで、広域の気象情報データとは、多数の気象情報データの測定点の集合体であり、地図をメッシュ状に分割した個々のグリッドに少なくとも一箇所の測定点が存在するものである。そこで、エレベーター1の設置位置情報から、エレベーター1の設置位置に最も近い気象情報データの測定点、およびその測定点を基準に東、西、南、北、南東、北東、南西、北西(e,w,s,n,se,ne,sw,nw)に隣接する測定点を特定し、抽出する。つまり、
図3において、(1)広域から(2)近傍を特定している。そして、この操作により抽出された、(2)近傍の測定時点における、エレベーター1や建屋2の近傍とその周辺地域の気象情報データを、近傍気象情報データとして抽出することができる。このように、本実施形態では、近傍とは隣接する測定点の地域を用いているが、広域よりも限定された範囲で、エレベーター1ないし建屋2が設置された地域が含まれていればよい。またさらに、本実施形態では、近傍気象情報データを、広域の気象情報データから抽出しているが、ステップS201において、センター装置4は、近傍気象情報データを受信し、これを用いてもよい。
【0035】
再び
図2に戻り、処理手順をステップS203から説明する。次に、センター装置4の通信処理部41にて、近傍気象情報データを、エレベーター1の監視装置3に送信する。そして、監視装置3が、通信処理部31にて送信された近傍気象情報データを受信する(ステップS203)。また、監視装置3では、ステップS203で受信した近傍気象情報データを記憶部37の近傍気象情報データテーブル371に格納する。
【0036】
一方、監視装置3は、周期的(例えば、定期的)に、建屋2の風速計21、風向計22、雨量計23、気圧計24のセンサで検知される検知気象情報データを入力処理部33で受け付ける。そして、監視装置3は、検知気象情報データを記憶部37の検知気象情報データテーブル372に格納する(ステップS204)。
【0037】
次に、監視装置3の判定処理部34が近傍気象情報データテーブル371に格納された近傍気象情報データと検知気象情報データテーブル372に格納された検知気象情報データを用いて、エレベーター1自体の損害リスクを算出する(ステップS205)。この損害リスクの算出方法について、
図4~6を使って説明する。
【0038】
図4は、エレベーター1の設置位置の地域的、地理的特性から設定する、近傍気象情報データが、今後のエレベーター1の設置位置の気象に対する影響度を示す模式図である。
【0039】
まず、監視装置3で受信した、監視装置3が監視する近傍気象情報データには風速Wx、風向Dx、降水量Rx、気圧Px、が含まれる。ここでxはエレベーター1の設置場所の近傍に位置する測定点をx=0とし、この測定点を基準に、東、西、南、北、南東、北東、南西、北西に隣接する測定点を上述のとおりそれぞれx=e, w, s, n, se, ne, sw, nwと表現している。
【0040】
例えば、エレベーター1が設置されている地域が、時間の経過とともに西から東に天気が変わっていく地域の場合は、現在の西側:w点の気象情報データが今後のエレベーター1設置位置の気候に最も影響を与えると考えられる。反対に、東側や北東、南東側、すなわちe点、ne点、se点の現在の気象データは今後のエレベーター1設置位置の気候への影響は小さいと考えられる。
【0041】
そこで、現在(t)のエレベーター1設置位置oに対する近傍のx点の風速W
x、風向D
x、降水量R
x、気圧P
xの影響度をそれぞれA
Wx,, A
Dx, A
Rx, A
Pxと表現すると、今後(t+1)のエレベーター1の設置位置の気象データの予測値は、以下の数1~数4で算出できる。なお、A
Wx,, A
Dx, A
Rx, A
Pxは、上述のとおり近傍影響度テーブル373に格納されている。
W’
0 (t+1)=ΣA
WxW
x(t)…(数1)
D’
0 (t+1)=ΣA
DxD
x(t) …(数2)
R’
0 (t+1)=ΣA
RxR
x(t) …(数3)
P’
0 (t+1)=ΣA
PxP
x(t) …(数4)
図5は、(a)建屋2の平面図と、(b)建屋2の構造的特性や建築環境的特性から設定する、建屋2に設置された風向とエレベーター1の損害リスクの重み付け(相関度)を示す模式図である。なお、(b)では、風速、風向、降水量、気圧(気象情報データ)のうち、風向を例に相関度を示している。
【0042】
まず、建屋2に具備される風速計21、風向計22、雨量計23、気圧計24から得られる検知気象情報データをそれぞれW、D、R、Pとする。
【0043】
建屋2によっては、建屋2の構造的特性や建築環境的特性によって、降水量、風速が同じでも、ある一定の風向の場合、エレベーター1内に雨水が浸水することがある。
図5(a)は建屋2の平面図を示しているが、建屋2の北側が通路で、東側の端にエレベーター1が設置され、かつ、エレベーターホールや通路が開放的な空間になっていることを示している。この場合、
図5(b)に示すように、北風や北東からの風が強いと雨が吹き込んでくる。雨量が多くかつ風速が強いとエレベーターホールを通じてエレベーター1の昇降路に水が浸水する恐れがある。しかし、風向きが南や南西の場合は、雨量が多い場合でも雨は殆ど吹き込まず、エレベーター1の昇降路に水が浸水する恐れは小さい。
【0044】
そこで、現在(t)の風速W、風向D、降水量(雨量)R、気圧Pによるエレベーター1の損害リスクへの影響度をそれぞれBW, BD, BR, BPとすると、現在時刻(t)におけるエレベーター1の損害リスクCo(t)は、以下の数5で算出できる。なお、これらBW, BD, BR, BPは、上述のとおり検知影響度テーブル374に格納されている。
Co(t)=f(W(t), D(t), R(t), P(t), BW, BD, BR, BP)…(数5)
なお、数5の一例として、数6を用いてもよい。
【0045】
Co(t)=W(t)*BW+D(t)*BD+R(t)*BR+P(t)*BP」…(数6)
さらに、今後(t+1)の前記エレベーター1の設置位置の気象データの予測値によるエレベーター1の損害リスクCo’(t+1)は、数7で表現できる。
Co’(t+1)=f(W’0 (t+1), D’0 (t+1), R’0 (t+1), P’0 (t+1), BW, BD, BR, BP)…(数7)
そこで、現在のエレベーター1の設置場所における風速、風向、降水量、気圧から求められるエレベーター1の損害リスクと、今後の気象変化予測による損害リスクとを勘案した、現在から今後にかけての損害リスクC(t)は係数αを用いて数8で算出できる。
C(t)=α・Co(t) +(1-α)・Co’(t+1)
=α・f(W(t), D(t), R(t), P(t), BW, BD, BR, BP)
+(1-α)・f(W’0 (t+1), D’0 (t+1), R’0 (t+1), P’0 (t+1), BW, BD, BR, BP)
(ただし、0≦α≦1) …(数8)
本実施形態では、以上の方法でエレベーター1の判定処理部34にて損害リスクを計算する。なお、本計算は一例であり、その方法を用いてもよい。
【0046】
以上で、ステップS205の説明を終わり、
図2に戻り、処理手順をステップS206から説明する。次に、損害リスクC(t)と、記憶部37の損害リスク基準値テーブル376に格納された損害リスク基準値C
Lとを判定処理部34にて比較する(ステップS206)。比較の結果、損害リスクC(t)の方が高い場合は、ステップS207に進み、低い場合は、ステップS201へ戻る。
【0047】
次に、判定処理部34は、かごの退避候補位置別の損害リスクC o
j(t)つまり、退避位置候補別損害リスクCojj(t)を計算し、エレベーター1のかごを退避させ休止させる階を判定処理部34にて確定する(ステップS207)。
【0048】
また、判定処理部34は、退避位置を決定する(ステップS208)。このように、本実施形態では、ステップS205でエレベーター1自体(全体)の損害リスクを算出し、次いで、ステップS207において、退避位置候補別に退避位置候補別損害リスクを算出している。このことで、エレベーター1全体として損害リスクが低く退避が不要な場合、複数の退避位置候補別損害リスクの算出の手間を省くことができる。但し、ステップS205の算出を省略し、ステップS207の退避位置候補別損害リスクの算出をステップS204の後に実行してもよい。
【0049】
また、本実施形態では、損害リスクおよび退避位置候補別損害リスクを制御の際に算出しているが、予め用意した条件テーブルを用いて、これらを特定してもよい。この場合、本条件テーブルは、監視装置3の記憶部37設けることが望ましい。また、その内容は、近傍気象情報データおよび検知気象情報データと、損害リスクおよび退避位置候補別損害リスクが対応付けられて記録されたものである。また、条件テーブルとして、近傍気象情報データおよび検知気象情報データと、退避位置を特定するものを用いてもよい。つまり、近傍気象情報データテーブル371、検知気象情報データテーブル372および
以下、ステップS207およびS208について、
図6を用いて説明する。
図6は、退避候補位置別の損害リスク算出方法を模式的に示したものである。
【0050】
図5で説明した通り、現在(t)の風速W、風向D、降水量R、気圧Pによるエレベーター1の損害リスクへの影響度をそれぞれB
W, B
D, B
R, B
Pとすると、現在時刻(t)におけるエレベーター1の損害リスクC
o(t)は前述の数5で算出できる。
C
o(t)=f(W(t), D(t), R(t), P(t), B
W, B
D, B
R, B
P)…(数5)
ここで、厳密には各階ごと(各位置ごと)の損害リスクが異なる。例えば、
図5で例示したように、一定の風向きが吹いている場合は、最上階のホールからの浸水リスクが最も高いが、風速が大きくなく、雨量が卓越した状態の場合は、ピット内冠水のリスクが最も高い、といったことが発生する。したがって、かごを安全な位置に退避させるためには、退避位置の複数の候補から、最も損害リスクの小さい位置を選択することが必要である。
【0051】
そこで、現在(t)の風速W、風向D、降水量R、気圧Pの退避位置候補j(j=1~m)のエレベーター1の損害リスクへの影響度をそれぞれB
Wj, B
Dj, B
Rj, B
Pjとすると、現在時刻(t)における退避位置候補jごとの退避位置候補別損害リスクC
oj(t)は、以下の数9で算出できる。なお、B
Wj, B
Dj, B
Rj, B
Pj)については、上述のとおり、退避位置候補別影響度テーブル375に格納されている。
C
oj(t)=f(W(t), D(t), R(t), P(t), B
Wj, B
Dj, B
Rj, B
Pj)…(数9)
これを退避位置候補j(j=1~m)の数量分算出し、退避位置候補別損害リスクC
oj(t)が最小のエレベーター1の損害リスクC
omin(t)となる退避位置を決定する(ステップS208)。算出された退避位置候補別損害リスクC
oj(t)は、退避位置候補別損害リスクテーブル377に格納される(
図9の例は、m=10)。
【0052】
以上のステップS207およびS208では、判定処理部34が、エレベーター1の休止可能な階それぞれにおける退避位置候補別損害リスクCoj(t)を算出する。そして、判定処理部34は、休止可能な階それぞれの退避位置候補別損害リスクCoj(t)のうち、最小の損害リスクComin(t)となる階を、退避位置として特定する。
【0053】
なお、ステップS207およびS208では、退避位置候補別損害リスクCoj(t)の算出を、階に限定しなくともよい。つまり、休止可能な位置であれば、階からずれた位置を退避候補位置して当該算出を行ってもよい。また、退避位置の特定を退避位置候補別損害リスクC oj(t)が予め定められた閾値以下の位置としてもよい。この場合、閾値として、損害リスク基準値テーブル376に格納された退避位置特定用損害リスク基準値CLjもしくは損害リスク基準値CLを用いる。また、これら以外の、他の値を用いてもよい。他の値としては、損害リスク基準値CLよりも小さな値として安全性を確保することがより望ましい。また、閾値以下の退避位置が特定できない場合には、最も小さな退避位置候補別損害リスクCoj(t)の位置を退避位置として特定する。
【0054】
なお、各退避候補位置に対する損害リスクC(t)の算出を、エレベーター1の位置から近い順に算出を行ってもよい。この場合、閾値以下となった退避位置候補別損害リスクCoj(t)の退避位置候補のうち現在位置に最も近い退避位置候補を退避位置として特定することになる。
【0055】
以上で、ステップS207およびステップS208の説明を終わり、
図2のフローチャートの説明に戻り、処理手順をステップS209から説明する。エレベーター1の監視装置3は、判定処理部34にて確定した退避位置を運転制御指令部35に伝送する。そして、運転制御指令部35は、通信処理部32を介してエレベーター制御部11に退避運転指令を送信する。この退避運転指令には、ステップS208で特定した退避位置が含まれる。エレベーター制御部11では、この指令に従い、エレベーター1のかごを指定された退避階に移動させ、エレベーター1の運転を休止する。そして、エレベーター制御部11は、エレベーター表示部12に運転休止の表示させる(ステップS209)。
【0056】
次に、エレベーター1の監視装置3は、エレベーター1の運転を休止させたことを、通信処理部32および通信回線(B)7を介してセンター装置4に送信する(ステップS210)。
【0057】
センター装置4の通信処理部41は、エレベーター1の運転を休止させたことを受信すると、記憶部43に予め格納してある、エレベーター1の管理者や保守担当者情報から連絡先情報を抽出する。連絡先情報は、エレベーター管理人情報端末51、保守作業員情報端末52を特定する情報や、エレベーター管理人や保守作業員のメールアドレスが含まれる。そして、通信処理部41は、エレベーター管理人情報端末51、保守作業員情報端末52に、エレベーター1の運転休止連絡の情報を、通信回線(B)7を介して送信する(ステップS211)。
【0058】
以上の本例のエレベーター制御システムでは、エレベーター1周辺の気象情報データとエレベーター1が設置されている建屋2の風速、風向、降水量、気圧とから、台風等の暴風雨が発生した場合にエレベーター1を損害リスクの低い階へ移動させる。この損害リスクの低い階には、最も低い階ないし位置や閾値より低い階ないし位置が含まれる。このため、エレベーター1の損傷を防止することができる。
【0059】
さらに、監視装置3は、センター装置4から得られるエレベーター1の設置位置の近傍気象情報データによって、エレベーター1の損害リスクが上昇していることを予知することができる。さらに、エレベーター1が設置されている建屋2に具備した風速計21、風向計22、雨量計23、気圧計24から得られる気象情報データによって、エレベーター1を適切な退避位置へかごを移動制御することが可能となり、損害リスクを低減することができる。
【0060】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形態様が含まれる。前述した実施の形態は、本発明を分かりやすく説明するために説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではなく、適宜、その他の構成にも応用できる。
【0061】
また、図面において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実施には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…エレベーター、11…エレベーター制御部、12…エレベーター表示部、
2…建屋、21…風速計、22…風向計、23…雨量計、24…気圧計、
3…監視装置3、31…センター装置4との通信処理部、32…エレベーター制御部11との通信処理部、33…入力処理部、34…判定処理部、35…運転制御指令部、36…外部通報処理部、37…記憶部、
4…センター装置、41…通信処理部、42…気象情報抽出処理部、43…記憶部、
5…情報端末、51…エレベーター管理人情報端末、52…保守作業員情報端末、
6…通信回線(A)、
7…通信回線(B)