(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】爪染色用組成物および爪の染色方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/81 20060101AFI20221129BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20221129BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20221129BHJP
A61Q 3/02 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
A61K8/81
A61K8/34
A61K8/49
A61Q3/02
(21)【出願番号】P 2020120529
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】迎田 真央
【審査官】池田 周士郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-227945(JP,A)
【文献】特開2009-057324(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0118903(KR,A)
【文献】Nail Art Salon (ID: 2603235),Mintel GNPD [online],2014年08月,[検索日;2022年4月11日], URL,https://www.gnpd.com
【文献】Nail Polish (ID:5079649),Mintel GNPD [online],2017年09月,[検索日;2022年4月11日], URL,https://www.gnpd.com
【文献】Monster-Conic Nail Polish Set (ID:2059794),Mintel GNPD [online],2013年05月,[検索日;2022年4月11日], URL,https://www.gnpd.com
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)~(
E)
(A)水に溶解性を有する染料及び/又はエタノールに溶解性を有する染料0.005質
量%~1.0質量%
(B)芳香族アルコール
(C)水系被膜形成剤
(D)水
(E)エタノール
を含有する、爪自体を染める用途の爪染色用組成物。
【請求項2】
成分(A)が赤色218号、赤色223号から選ばれる1種または2種である、請求項1
に記載の爪染色用組成物。
【請求項3】
成分(B)がベンジルアルコールである請求項1または請求項2に記載の爪染色用組成物。
【請求項4】
成分(C)がポリビニルアルコールである請求項1~請求項3いずれかに記載の爪染色用組成物。
【請求項5】
次の成分(A)~(
E)
(A)水に溶解性を有する染料及び/又はエタノールに溶解性を有する染料0.005質
量%~1.0質量%
(B)芳香族アルコール
(C)水系被膜形成剤
(D)水
(E)エタノール
を含有する爪染色用組成物を爪の上に塗布し乾燥した後に、爪上に形成された被膜を除去する爪の染色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は爪に塗布して爪自体を染色するタイプの爪染色用組成物に関する。さらに詳細には、爪の上に塗布し乾燥した後に、爪上に形成された被膜を除去して爪を染色する爪染色用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
古来、爪をメーキャップする方法としては、染色が一般的であった。例えば、鳳仙花やベニバナを使用した爪への染色が例として挙げられる。鳳仙花には爪紅という別名があり爪を赤く染色できることが知られている。さらに江戸時代になるとベニバナから作られた紅を用いて爪を染色するようになったことも知られている。ところが当時爪の染色は非常に手間がかかる問題があり、さらに明治以降に海外から伝わった溶剤系のマニキュアが一般化したため廃れていった。
【0003】
現在、爪のメーキャップ剤としては、アクリル樹脂やニトロセルロースなどの合成樹脂を顔料で着色し有機溶剤で希釈した溶剤系マニキュア(ネイルポリッシュ)が最も一般的である。ハケ等を用いて爪に塗布し、溶媒が揮発することによって強い光沢がある被膜を爪の上に作る。しかし、酢酸エチルや、アセトンのような有機溶剤が多量に配合されているため、使用中および乾燥中で刺激臭を生じるため使用中の換気をよくする必要があるなど使用性の問題がある。また、一般的な溶剤系マニキュアでは、表面が乾燥したときに形成される被膜が揮発性の有機溶剤の蒸散を妨げるため、乾燥に時間がかかる場合がある。乾燥に時間がかかると、乾燥途中で他の物体に接触し剥がれたり、ヨレを生じたりすることがある。さらに、使用されている有機顔料が有機溶剤に溶解し、親油性である爪の上層部に拡散、浸潤、固定化されてしまい、爪組織中の色素濃度が増加するとともに、爪組織の内部まで到達する。色素が爪組織の内部まで到達すると、爪は伸長方向にしか新陳代謝が行われないため、着色の消失までに長期間かかってしまい色素沈着となることが非常に問題視されている。加えて長時間有機溶剤が爪と接触するため爪にダメージを与えやすい。さらに、一度形成された被膜は容易に除去することができず、アセトンなどの多量の有機溶剤を含んだ除光液にて取り除く必要がある。それら有機溶剤によって爪の組織中の油分が脱脂され爪にダメージを与えることで二枚爪や割れ、爪の黄変に繋がる原因となる。
【0004】
一方、主にネイルサロン等で施術するジェルネイルが近年流行している。ジェルネイルに使用されている主な成分は、モノマー/オリゴマー、光重合開始材、酸化防止剤などの成分であり、ジェル状のアクリル合成樹脂をUVライト(紫外線A波)やLEDライト(紫外線/可視光)で硬化させ、爪の上にプラスチックの被膜を形成する。ジェルネイルは溶剤系マニキュアと比較し短時間で硬化するが、一度形成された硬い被膜は容易に除去することができず、アセトンなどの多量の有機溶剤を含んだ除光液で取り除いたり、やすりなどで爪を削って除去したりする必要があるため、爪に大きなダメージを与える問題がある。さらに、ジェルネイルでも爪に色素沈着が起こることが知られている。
【0005】
溶剤系マニキュアやジェルネイルの問題点である爪へのダメージを解消することを期待して、有機溶剤を使用しない水系マニキュアの開発が進められている。水系マニキュアを用いた化粧方法は、爪の上に着色した被膜を形成するものである。使用後は、水や湯による除去もしくは、そのまま指で剥離することによって被膜を除去することができ、被膜の除去後は爪に水系マニキュアの色は残らない。
【0006】
特許文献1には、赤色106号と被膜系製剤を含む水系マニキュアが例示されている。特許文献1に記載の水系マニキュアは、マニキュア被膜の美しさが損なわれない耐水性を満足する組成物であり、マニキュアの被膜を落とす際に、有機溶剤からなる除光液を必要とせず、水で落とすことが可能で爪の健康上好ましいマニキュア液との記載がある。従って、特許文献1には、水で落とせる組成物であることが記載されているため、使用された着色剤は、レーキ化して顔料化した赤色106号アルミニウムレーキであると考えられる。仮に染料であるレーキ化していない赤色106号を配合していたとすると、爪自体が染色され水で落とすことができないからである。つまり特許文献1の水性マニキュアは着色された被膜が爪の上に付着するものに過ぎず、被膜を除去してしまうと色も完全に取り除かれてしまう。また、使用されている被膜形成剤は、耐水性はあるものの充分な被膜強度が得られるような成分ではないため、剥がれやヨレなどの外観の劣化が起こりやすい。
【0007】
以上から、溶剤系マニキュア及びジェルネイルで問題となる色素沈着を起こさず、爪に対するダメージが少なく、素早く乾燥し使用性が良好な爪染色用組成物は、これまで実現することができていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の従来技術を鑑みてなされたものであり、溶剤系マニキュア及びジェルネイルの問題点である色素沈着や爪へのダメージを起こさない、良好な使用性で爪自体を染めるタイプの爪染色用組成物を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決すべく、鋭意検討を行った結果、特定の成分(A)~(D)を含む爪染色用組成物について、上記課題を全て満たすことを見出した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の爪染色用組成物は、爪の上に塗布し乾燥した後に、爪上に形成された被膜を除去すると爪が染色された状態になるという新しい化粧方法を提供できる。特に、爪に対して色素沈着を起こさない効果を有するとともに、速乾性のある被膜により、被膜と爪の接触部分でのみ染色することで爪を保護しながら爪自体を自然なツヤで着色する。また、健康上好ましくない有機溶剤を用いないことにより使用中の爪に対するダメージがなく、剥がれやすい皮膜を用いることで除去の時の爪に対するダメージがない効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳しく説明する。なお、特段注釈のない限り、以下で成分の配合量を「%」で表示する場合は質量%を意味する。
【0013】
本発明の爪染色用組成物を用いた化粧方法の原理は、爪の上に本組成物を塗布し乾燥すると、爪表面に染料を含む被膜が残り、当該被膜を除去すると爪が染色された状態になっているというものである。被膜の最下層で染料が爪と接触しており、当該接触部分でのみ爪を染色する。使用する染料の親油性は低いのに対し、爪の表層は親油性が高く、つまり染料と爪の親和性が低いため爪はごく表面の染色に限定され、爪内部への染料の拡散を防ぐことができる。また被膜の乾燥時間が短いため、すぐに被膜中の色素が移動できなくなることも、爪内部への染料の拡散が起きにくい特長をもたらす。以上のことから本発明によれば、比較的短期間、ほとんどの場合には、数日程度で色素が消失するため、色素沈着状態にならないという利点がある。
【0014】
本発明の爪染色用組成物は、放置しておくことで自然に着色が取れてくるため、溶剤系マニキュアやネイルジェルネイルに比べ除光液ややすりを用いた除去方法が不要であり爪への負担が少ない。さらに本発明の爪染色用組成物は爪自体を着色しているため、水系マニキュアで問題となる剥がれやヨレによる外観の損傷が起こらない。
【0015】
本発明の爪染色用組成物は、従来のマニキュア剤のように着色した被膜を爪上に固定化するものとは異なり、被膜は爪を覆うとともに、被膜と爪の接触部分でのみ染色することに特化させることで、染色後に簡単に除去できるようになった。
【0016】
本発明に使用される成分(A)は、化粧料に配合可能な、水またはアルコールに溶解する染料であればよい。但し、有機染料をレーキ化などの処理で水やアルコールに対し不溶化したものは顔料と同等の挙動を示すため、成分(A)には含まれない。成分(A)は例えば「医薬品等に使用することができるタール色素を定める省令」により法定色素としてリスト化されたものの中から用いることができる。なお、本発明で溶解性を有するとは、対象の溶媒に1%以上の溶解度を持つものを指す。
【0017】
成分(A)は特に限定されるものでないが、具体的にはケラチンを染色できる染料が好ましい。例えば、赤色2号、赤色3号、赤色102号、赤色104号、赤106号、赤色201号、赤色218号、赤色223号、赤色227号、黄色4号、黄色5号、黄色202号、黄色203号、青色1号、青色2号、青色202号、橙色205号、橙色207号、緑色3号、緑色204号、緑色205号等を挙げることができる。これらの中でも、エタノールに溶解性を有するフルオレッセン系染料が好ましく、特に赤色218号、赤色223号が好ましい。
【0018】
成分(A)の配合量は組成物全量に対して0.005~1.0質量%の範囲で用いられ、0.01~0.5質量%が特に好ましい。この範囲で配合することで、適度な濃さで発色し適度な期間で維持することができる。
【0019】
成分(A)は、所望の色合を提供するために、これらの1種または2種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。
【0020】
本発明で用いる成分(B)は、芳香族化合物の側鎖の炭素原子に水酸基のついた化合物であり、高い溶媒性能と水への親和性を有する。本発明において成分(B)は、成分(A)の爪に対する親和性を向上することで爪を染色しやすくする、爪の着色時間を延長するなどの効果を有する。
【0021】
成分(B)は、特に限定されるものでないが、例えばベンジルアルコール、2-フェニルエチルアルコール、ケイ皮アルコール、フェニルプロパノール、α-メチルベンジルアルコール、2-ベンジルオキシエタノール、フェノキシエタノール、フェネチルアルコール、等が挙げられ、これらの中でも、ベンジルアルコール、フェノキシエタノールが好ましく、特にベンジルアルコールが好ましい。
【0022】
成分(B)の配合量は特に限定されるものでないが、組成物全量に対して1~20質量%の範囲が好ましく、2~10質量%が特に好ましい。この範囲で配合することで、色素を爪に定着することができ、爪への着色持続が実現できる。
【0023】
成分(B)は、1種または2種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。
【0024】
本発明で用いる成分(C)の水系被膜形成剤は、水に対し親和性を有する被膜形成剤であり、
成分(C-1):水に溶解する水溶性被膜形成剤
成分(C-2):水に分散可能な被膜形成剤
に分けられる。
【0025】
成分(C-1)の「水に溶解する水溶性被膜形成剤」は、水に溶解させることで均一に塗布することができ、水や他の水溶性の揮発性溶媒が蒸発した後に、透明で均一な被膜を形成する特性をもったものである。もともと水に溶解可能であるため水やお湯を用いると容易に除去できる。さらに伸縮性のある剥がしやすい被膜を作ることもできる。
【0026】
成分(C-1)としては特に限定されるものでないが、具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が好適に用いられる。
【0027】
成分(C-1)の配合量は特に限定されるものでないが、組成物全量に対して被膜形成剤純分は5~30質量%の範囲が好ましく、10~20質量%が特に好ましい。この範囲で配合することで、適度な粘度を得ることができ、爪に塗る際に指に垂れず塗布しやすいといった効果も得られる。
【0028】
成分(C-2)の「水に分散可能な被膜形成剤」は、例えばアクリル酸やスチレンなどのモノマーを乳化重合させて、白色の被膜形成剤分散液とした樹脂エマルジョンが上市されている。その特徴は、被膜形成剤自体は、水溶性が低いため水分やその他の揮発性溶媒が蒸発すると疎水性の被膜を作る。特に、強度の高い樹脂エマルジョンを使用することで塗布後、数日間被膜を維持することも可能になる。
【0029】
成分(C-2)としては特に限定されるものではないが、具体的にはアクリル酸アルキル重合体、メタクリル酸アルキル重合体、スチレン・アクリル酸アルキル共重合体、スチレン・メタクリル酸アルキル共重合体、ビニルピロリドン・スチレン共重合体、酢酸ビニル重合体、アクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体、メタクリル酸アルキル・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸・アクリル酸アルキル共重合体、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、メタクリル酸・アクリル酸アルキル共重合体、メタクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体等を挙げることができる。なお、本明細書の重合体および共重合体は、例えば(メタ)アクリル酸アルキル(共)重合体とは、アクリル酸アルキルまたはメタクリル酸アルキルをモノマー構成単位として含む重合体や共重合体を指し、スチレン(共)重合体とは、スチレンをモノマー構成単位として含む重合体や共重合体を指す。
【0030】
成分(C-2)の配合量は特に限定されるものでないが、組成物全量に対して被膜形成剤純分が20~50質量%の範囲が好ましく、25~45質量%が特に好ましい。この範囲で配合することで、被膜が爪上で固定され、適度な硬さと厚みのある被膜の形成が実現できるといった効果も得られる。
【0031】
成分(C)は、1種または2種以上を任意に組み合わせて用いることもでき、モノマーの種類や組合せ、重合度などを変化させることで、被膜の固さや、変形しやすさ、造膜温度などを調整することができる。被膜を爪上で固定する時間設定によって、水に溶解可能である水系被膜形成剤と水に分散可能である水系被膜形成剤を併用することも可能である。
【0032】
本発明で用いる成分(D)水は、精製水、蒸留水、上水などを用いることができる。溶剤として色素を溶解し、色素を安定に配合するために用いている。他に配合された成分とも相溶性が良く均一な組成物となりやすい。また、粘度が低いため塗布しやすく均一な仕上がりを実現する。さらに蒸発するので被膜の形成が阻害されないため使用性がよい。配合量は他の成分を溶解できる量であれば特に限定されない。
【0033】
本発明で用いる成分(E)エタノールは、無色で特有の芳香をもつ揮発性・可燃性液体である。工業的には、例えばデンプン・糖蜜(とうみつ)などからアルコール発酵したり、エチレンから合成したりすることで得られる。成分(E)は本発明では、高い溶媒性能を利用し組成物を安定化している。また容易に蒸発するので短時間で被膜が形成され使用を向上することができる。さらに一定量以上配合することで、抗菌効果により保存性を向上できる。
【0034】
成分(E)エタノールの配合量は特に限定されないが、組成物全量に対して5~30質量%の範囲が好ましく、10~20質量%が特に好ましい。この範囲で配合することで、組成物の均一性が確保される。また揮発性が高いため、速乾性のある被膜形成が実現できる。
【0035】
本発明の爪染色用組成物の使用に際しては、例えばハケを用いて爪に直接塗布し放置することで乾燥させる。乾燥すると柔軟な樹脂被膜が爪を覆っていることが確認できる。樹脂被膜は、有機溶剤等を使用しなくても、水や湯で除去もしくはそのまま指で剥離することで容易に除去可能である。このとき、被膜を除去した爪自身は充分に染色されている。また、爪表面のみの染色であるため、色素沈着を起こさないことが利点である。
【実施例】
【0036】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0037】
<実験1:従来品との性能比較>
下記表1に示す処方を調製し、実施例1(本発明品)および比較例1(水系マニキュア)、比較例2(溶剤系マニキュア)を各評価項目において比較した。結果を表1に示す。各評価は20代~40代の女性で官能評価の訓練を受けた、専門パネラー10名にて評価を行い、数値は各パネラーの回答の平均値を算出した。
【0038】
(製造方法:実施例1)
(D)水に(C)ポリビニルアルコールを加熱溶解させ、室温まで冷却したのちに、(C)アクリル酸アルキル・スチレン共重合体エマルションを混合し水相とした。(B)ベンジルアルコールに(A)赤色218号およびトリイソステアリン酸ジグリセリルを加えた後、(E)エタノール、その他成分を溶解させエタノール相とした。エタノール相を水相に加え混合し、本発明品の爪染色用組成物を得た。
【0039】
(製造方法:比較例1)
(D)水に(C)ポリビニルアルコールを加熱溶解させ、室温まで冷却したのちに、(C)アクリル酸アルキル・スチレン共重合体エマルションを混合し水相とした。あらかじめ(A’)赤色202号とトリイソステアリン酸ジグリセリルをローラー処理した。(B)ベンジルアルコールに、あらかじめローラー処理した(A’)赤色202号とトリイソステアリン酸ジグリセリルを加えた後、(E)エタノール、その他成分を溶解させエタノール相とした。エタノール相を水相に加え混合し、水系マニキュアを得た。
【0040】
(製造方法:比較例2)
有機溶剤に樹脂類を溶解し、顔料を分散させたのち、ディスパーを用いて均一に分散させた。その後、増粘剤を加えてディスパーで分散させ溶剤系マニキュアを得た。
【0041】
(評価方法:乾燥するまでの時間評価)
使用時の利便性上重要と考えられる、塗布後乾燥するまでの時間を評価した。試料をハケで爪に適量を塗布した後、ティッシュペーパーでおさえても色がつかなくなるまでの時間を測定した。
【0042】
[乾燥するまでの時間評価基準]
下記の評価にて3段階評価をおこない、判定した。
(判定):(評点)
◎ :5分以上10分未満
○ :10分以上15分未満
× :15分以上
【0043】
(評価方法:外観の変化評価)
それぞれの試料を専門パネラーが実使用し、外観の変化を評価した。試料をハケで爪に適量を塗布した後、各試料の特性に合わせて爪の外観の変化を観察し、外観が変化するまでの期間を測定した。具体的には、実施例1は、乾燥して被膜が形成された直後に、40℃の湯につけて被膜を除去した時点を開始時とし、爪の着色が無くなるまでの爪の外観を評価した。比較例1(水系マニキュア)および比較例2(溶剤系マニキュア)については、着色された被膜が乾燥した時点を開始時とし、被膜の外観上の変化を確認した。いずれの実験も、使用期間中、被験者には通常の手洗いや簡易な水仕事を含む日常生活を送ってもらった。なお、以降使用する湯に関しては40℃程度の温湯を指す。
【0044】
[外観の変化評価基準]
下記の評価にて判定した。
○:開始時から1日後、着色や均一な被膜の美しい外観を保った。
×:開始時から1日後、着色や均一な被膜の美しい外観を保つことができなかった。
【0045】
(評価方法:爪のダメージ評価)
各試料について試料をハケで爪に適量を塗布した後、各試料の特性に合わせて被膜を除去した。実施例1は、乾燥して被膜が形成された直後に、湯につけて被膜を除去した。比較例1(水系マニキュア)は、朝塗布し就寝前に洗い流すことを想定した実使用状態を比較するため、塗布後乾燥して被膜が形成された後、8時間後に湯につけて被膜を除去した。比較例2(溶剤系マニキュア)は、一日使用したことを想定した実使用状態を比較するため、塗布した24時間後、市販の除光液で被膜を除去した。各試験区分について爪のダメージを官能評価した。なお、除光液は、ナリス化粧品社製のトリートメントネイルリムーバーを使用した。
【0046】
[爪のダメージの評価基準]
(判定):(評点)
○:爪へのダメージがない
×:爪へのダメージがある(爪の白化やざらつきがみられた)
【0047】
(評価方法:色素沈着)
各試料について試料をハケで爪に適量を塗布した後、各試料の特性に合わせて被膜を除去した。下記方法で爪の着色を確認および色素沈着の有無を判定した。
実施例1は、乾燥して被膜が形成された直後に、湯につけて被膜を除去した。被膜除去後、24時間おいてアセトンで爪表面をふき取り、着色の有無を確認した。比較例1(水系マニキュア)は、朝塗布し就寝前に洗い流すことを想定した実使用状態を比較するため、塗布後乾燥して被膜が形成された後、8時間後に湯につけて被膜を除去した被膜除去後、16時間おいてアセトンで爪表面をふき取り、着色の有無を確認した。比較例2(溶剤系マニキュア)は、乾燥して被膜が形成された後、24時間おいて市販の除光液にて被膜を除去した。除光液が蒸発したのを確認した後、アセトンで爪表面をふき取り、着色の有無を確認した。
【0048】
[色素沈着の評価基準]
下記の評価で判定した。
(判定):(評点)
○:アセトンで爪をふき取ると爪に着色がなくなった。
×:アセトンで爪表面をふき取った後でも爪に着色が見られた。
【0049】
【表1】
*1:Jポバール VP-20PE:日本酢酸ビ・ポバール社製
*2:ビニゾール 1012JC (45%(スチレン/アクリル酸アルキル)コポリマーアンモニウム水分散物):大同化成工業社製
【0050】
表1の結果、本発明の爪染色用組成物は素早く乾燥させることができ、さらに着色期間が一定期間保持されていながらも爪へのダメージや色素沈着が起こらない、本発明の課題点を全て充足することが確認できた。これに対し、比較例1(水系マニキュア)は外観評価について、塗布8時間後に落とせば色が残らない剤本来の使用方法に則った性質に留まらず、簡易な水仕事などでも剥がれてしまう、水仕事を行わなかった場合も8時間以内には被膜が剥がれてしまうといった外観を保持する性能の点で実施例1に劣るものであった。比較例2(溶剤系マニキュア)は、乾燥に時間がかかることで使用性が悪い点、被膜を除去する際にアセトンで爪表面をふきとった後もピンク色の着色を取り去ることはできず色素沈着が観察され、爪へのダメージも観察された。以上から、本発明品は現在主流とされている爪のメーキャップ剤に比べて非常に優秀であり、今までにない爪染色用組成物を提供できるものであることがわかる。
【0051】
<実験2>
以下に表2に記載の実施例1~16、比較例3~7について、乾燥するまでの時間、着色期間、および色素沈着について比較評価した。
【0052】
(評価方法:乾燥するまでの時間評価)
試料をハケで爪に適量を塗布した後、ティッシュペーパーでおさえても色がつかなくなるまでの時間を測定した。実際の測定した時間を示す。
【0053】
[乾燥するまでの時間の評価基準]
下記の評価にて3段階評価をおこない、判定した。
(判定):(評点)
◎ :5分以上10分未満
○ :10分以上15分未満
× :15分以上
【0054】
(評価方法:着色期間の評価)
試料をハケで爪に適量を塗布した後乾燥させた。乾燥後、湯につけて被膜を除去し、爪全体が着色している期間を測定した。具体的には、実施例1~16および比較例3~6は、乾燥して被膜が形成された直後に、湯につけて被膜を除去した時点を開始時とし、爪の着色が無くなるまでの期間を測定した。比較例7については乾燥しなかったため、塗布後15分を経過してから湯を用いて洗い流した。
【0055】
[着色期間の評価基準]
下記の評価にて判定した。
○:開始時から1日後、均一な着色を保っていた。
×:開始時から1日後、均一な着色が保てていなかった。
【0056】
(評価方法:色素沈着の評価)
各試料について専門パネラーが試料をハケで爪に適量を塗布した後乾燥させた。乾燥後、湯につけて被膜を除去した。下記方法で爪の着色を確認および色素沈着の有無を判定した。
実施例1~16、比較例3~6は、乾燥して被膜が形成された直後に、湯につけて被膜を除去した。なお、比較例7は乾燥しないため、塗布後15分経ってから湯につけて洗い流した後に乾燥させた。被膜除去後、24時間おいてアセトンで爪表面をふき取り、着色の有無を確認した。
【0057】
[色素沈着の評価基準]
下記の評価で判定した。
(判定):(評点)
○:アセトンで爪をふき取ると爪に着色がなくなった。
×:アセトンで爪表面をふき取った後でも爪に着色が見られた。
【0058】
下記表2に示す処方を調製し、各評価項目において確認した。なお、各試料は実施例1と同様の方法で作製した。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
*1:Jポバール VP-20PE:日本酢酸ビ・ポバール社製
*2:ビニゾール 1012JC (45%(スチレン/アクリル酸アルキル)コポリマーアンモニウム水分散物)大同化成工業社製
【0060】
表2の結果において、乾燥するまでの時間は比較例7で最も長く、塗布後30分してもティッシュペーパーでおさえると色が付着した。マニキュアとして乾燥が遅すぎて使用できないレベルのものであった。この原因は、被膜形成剤が配合されておらず着色剤が固定されていないためと考えられる。言い換えると、不揮発性のベンジルアルコールなどの液体成分が多いために、染料を溶解した着色液体として爪表面に存在しているから色移りが発生すると考えられる。ベンジルアルコールが同等量配合されている実施例8の場合は、揮発性の成分が蒸発した後、不揮発成分と染料を被膜中に固定することができた。そのため、12分でティッシュペーパーに色移りがなくなった。実施例1~16および比較例3~6は5分以上15分未満で乾燥したため、使用性が良かった。
【0061】
着色期間について、比較例3は水溶性染料である赤色106号をレーキ化した顔料を使用しているため、爪への着色がみられなかった。比較例4は染料が少ないため爪への着色がみられなかった。比較例6は芳香族アルコールを配合していないため、充分に染料が定着せず1日未満で色落ちしてしまった。実施例1~16および比較例5、7であれば1日以上爪の着色持続ができ良好であった。
【0062】
色素沈着について、比較例5は染料の配合量が多いため爪への着色が強くなった。前述した色素沈着の評価方法に従い爪に色が残っているかを確かめるため、アセトンで爪表面をふきとった後も、完全に着色を取り去ることはできなかった。さらに10日後も爪に着色が見られたので、色素沈着していることが確認できた。つまり色素量が多すぎるときに、色素沈着をしてしまう傾向があった。実施例1~16および比較例3~4、6及び7は、色素沈着が観察されなかった。
【0063】
また、表2の各試料では爪へのダメージについて、通常の使用に当たりいずれも自然に着色がなくなるので本来的に除光液などで除去する必要が無く、特段爪へのダメージがないものであった。
【0064】
以上実験1、実験2の結果から本発明品は、水またはエタノールに溶解性を有する染料の量が0.005~1.0質量%、芳香族アルコール、水系被膜形成剤、水を配合する必要があることがわかる。水系マニキュアおよび溶剤系マニキュアが問題として挙げていた、使用性・爪へのダメージ・色素沈着において、良好なものができたことがわかる。
【0065】
<処方例>
常法にて、各処方の組成物を作製した。いずれの処方においても、問題なく本発明の効果を示した。
【0066】
<爪染色剤(1)>
1.赤色218号(染料) 0.05質量%
2.赤色202号(顔料) 0.05質量%
3.青色1号(染料) 0.1質量%
4.ベンジルアルコール 5.0質量%
5.ポリビニルアルコール *1 2.0質量%
6.アクリル酸アルキル・スチレン共重合体エマルション *2 50.0質量%
7.エタノール 15.0質量%
8.メチルパラベン 0.3質量%
9.ポリソルベート20 1.0質量%
10.1,3-ブチレングリコール 1.0質量%
11.ジプロピレングリコール 1.0質量%
12.グリセリン 1.0質量%
13.加水分解ケラチン液 0.1質量%
14.加水分解シルク 0.1質量%
15.水溶性コラーゲン 0.1質量%
16.セリン 0.1質量%
17.アルギニン 0.1質量%
18.レチノール 0.1質量%
19.香料 0.2質量%
20.水 残余
合計 100.0質量%
【0067】
<爪染色剤(2)>
1.赤色218号(染料) 0.05質量%
2.酸化チタン(無機顔料) 0.1質量%
3.ベンジルアルコール 3.0質量%
4.ポリビニルアルコール *1 5.0質量%
5.アクリル酸アルキル共重合体エマルション *3 50.0質量%
6.エタノール 15.0質量%
7.メチルパラベン 0.3質量%
8.ポリソルベート20 1.0質量%
9.トリメチルグリシン 1.0質量%
10.トレハロース 1.0質量%
11.スクワラン 0.1質量%
12.アボカド油 0.1質量%
13.オリブ油 0.1質量%
14.マカデミアナッツ油 0.1質量%
15.オリブ油 0.1質量%
16.アルガニアスピノサ核油 0.1質量%
17.メドウフォーム油 0.1質量%
18.馬油 0.1質量%
19.ヒマワリ油 0.1質量%
20.水 残余
合計 100.0質量%
【0068】
<爪染色剤(3)>
1.赤色223号(染料) 1.0質量%
2.ベンジルアルコール 2.0質量%
3.ポリビニルピロリドン *4 5.0質量%
4.アクリル酸アルキル共重合体エマルション *3 50.0質量%
5.エタノール 5.0質量%
6.メチルパラベン 0.3質量%
7.ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体 1.0質量%
8.オレンジ油 1.0質量%
9.水 残余
合計 100.0質量%
【0069】
*1:Jポバール VP-20PE:日本酢酸ビ・ポバール社製
*2:ビニゾール 1012JC (45%(スチレン/アクリル酸アルキル)コポリマーアンモニウム水分散物)大同化成工業社製
*3:ヨドゾール GH810F (46%アクリル酸アルキルコポリマーアンモニウム水分散物) 日本エヌエスシー社製
*4:ルビスコール K-90:BASFジャパン社製