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特許7184858ポリイミドフィルム、金属張積層板及び回路基板
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  • 特許-ポリイミドフィルム、金属張積層板及び回路基板 図1
  • 特許-ポリイミドフィルム、金属張積層板及び回路基板 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルム、金属張積層板及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20221129BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B32B27/34
H05K1/03 610N
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020153905
(22)【出願日】2020-09-14
(65)【公開番号】P2021054062
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-02-10
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2019178131
(32)【優先日】2019-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(72)【発明者】
【氏名】安藤 智典
(72)【発明者】
【氏名】須藤 芳樹
【合議体】
【審判長】山崎 勝司
【審判官】石田 智樹
【審判官】藤井 眞吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-200759(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061727(WO,A1)
【文献】特開2019-65180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非熱可塑性ポリイミドを含む非熱可塑性ポリイミド層と、該非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に積層されている、熱可塑性ポリイミドを含む熱可塑性ポリイミド層と、を有するポリイミドフィルムであって、
下記の条件(i)~(iii)、(v)及び(vi)
(i)熱膨張係数が10~30ppm/Kの範囲内であること;
(ii)酸素透過度が4.59×10-14mol/(m・s・Pa)以下であること;
(iii)前記非熱可塑性ポリイミド及び前記熱可塑性ポリイミドを構成する全モノマー成分から誘導される全モノマー残基に対し、下記式(1)によって算出されるビフェニル骨格を有するモノマー残基の割合が65mo1%以上であること;
(v)前記ポリイミドフィルムの全体の厚みが30~60μmの範囲内であること;
(vi)前記ポリイミドフィルムの全体の厚みT1に対する前記熱可塑性ポリイミド層の合計厚みT2の比率T2/T1が0.17以下であること;
を満たすことを特徴とするポリイミドフィルム。
【数1】
[式(1)において、Mは、第i層のポリイミド層を構成するポリイミドにおける全モノマー成分から誘導される全モノマー残基のうち、ビフェニル骨格を有するモノマー残基が占める割合(単位;mol%)であり、Lは、第i層のポリイミド層の厚み(単位;μm)であり、Lはポリイミドフィルムの厚み(単位;μm)であり、nは2以上の整数である。]
【請求項2】
前記(i)~(iii)、(v)及び(vi)の条件に加え、更に下記の条件(iv);
(iv)前記熱可塑性ポリイミドにおける全モノマー成分から誘導される全モノマー残基のうち、ビフェニル骨格を有するモノマー残基が占める割合が30mol%以上であること;
を満たすことを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に設けられている金属層と、を備えた金属張積層板であって、
前記絶縁樹脂層が、前記金属層の表面に接する熱可塑性ポリイミド層と、間接的に積層された非熱可塑性ポリイミド層と、を有するとともに、請求項1に記載のポリイミドフィルムからなることを特徴とする金属張積層板。
【請求項4】
絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に設けられている配線層と、を備えた回路基板であって、
前記絶縁樹脂層が、前記配線層に接する熱可塑性ポリイミド層と、間接的に積層された非熱可塑性ポリイミド層と、を有するとともに、請求項1に記載のポリイミドフィルムからなることを特徴とする回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルム、金属張積層板及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、高い絶縁性、寸法安定性、易成形性、軽量等の特徴を有するために、回路基板などの材料として電子、電気機器や電子部品に広く用いられている。特に近年、電気、電子機器の高性能、高機能化に伴い、情報の高速伝送化が要求されており、これらに使用される部品や部材にも高速伝送への対応が求められている。そのような用途に使用されるポリイミド材料について、高速伝送化に対応した電気特性を有するように、低誘電率化、低誘電正接化を図る試みがなされている。
【0003】
ポリイミド材料の低誘電率化・低誘電正接化に関する従来技術の多くは、低誘電率・低誘電正接の樹脂(フッ素系樹脂、液晶ポリマーなど)との多層化や低誘電率・低誘電正接のフィラーの配合といった異種材料との複合化、多孔質化、エステル構造の導入等が主なものであった。しかし、複合化や多孔質化については、加工性が低下するなどの問題があり、エステル構造を導入したものは、フィルム強度が低下するため多量に使用できないという問題がある。
【0004】
また、特許文献1、2では、ポリイミドの原料モノマー構成を工夫することによって、誘電特性の改善を図り、高周波用回路基板への適用が可能なポリイミドフィルムが提案されている。
【0005】
一方、近年では、回路基板が150℃を超える環境で使用されることも想定されるようになってきている。たとえば、車載用電子機器に用いられるフレキシブルプリント基板(FPC;Flexible Printed Circuits)は、150℃程度の高温環境に繰り返し晒されることがある。
また、車載用電子機器以外のデバイス、たとえば、高速処理を行うことができるCPU(Central Processing Unit)を有するノートパソコンやスーパーコンピュータ等においても、さらなる小型化、軽量化を図るためフレキシブルプリント基板が用いられることが増えている。このようなデバイスにおいても、CPUが発する熱により、フレキシブルプリント基板は高温環境に繰り返し晒される。高温環境での使用に起因するフレキシブルプリント基板の劣化の代表的な要因は、配線層と絶縁樹脂層との接着性の低下による配線層の浮きや剥がれである。
【0006】
このような背景から、今後、フレキシブルプリント基板は、低誘電正接化と、高温環境下での耐熱接着性(ピール強度保持率の維持)の両立が必要になることが予想され、特に、使用環境の変化に応じて、従来よりもさらに長期間に亘って耐熱接着性の維持が要求されると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2017/159274
【文献】WO2018/061727
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、低誘電正接化と、優れた長期耐熱接着性との両立が図られ、繰り返し高温環境に晒される場合であっても金属層との接着性が低下しにくいポリイミドフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ポリイミド層を構成するポリイミドにおいて、ビフェニル骨格を有するモノマー残基の含有比率を高めることによって、複数層のポリイミド層が積層されたポリイミドフィルムの低誘電正接化と酸素透過度の抑制による優れた長期耐熱接着性との両立が可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明のポリイミドフィルムは、非熱可塑性ポリイミドを含む非熱可塑性ポリイミド層と、該非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に積層されている、熱可塑性ポリイミドを含む熱可塑性ポリイミド層と、を有するものである。
本発明のポリイミドフィルムは、下記の条件(i)~(iii)を満たすことを特徴とする。
(i)熱膨張係数が10~30ppm/Kの範囲内であること。
(ii)酸素透過度が5.5×10-14mol/(m・s・Pa)以下であること。
(iii)前記非熱可塑性ポリイミド及び前記熱可塑性ポリイミドを構成する全モノマー成分から誘導される全モノマー残基に対し、下記式(1)によって算出されるビフェニル骨格を有するモノマー残基の割合が50mo1%以上であること。
【0011】
【数1】
【0012】
式(1)において、Mは、第i層のポリイミド層を構成するポリイミドにおける全モノマー成分から誘導される全モノマー残基のうち、ビフェニル骨格を有するモノマー残基が占める割合(単位;mol%)であり、Lは、第i層のポリイミド層の厚み(単位;μm)であり、Lはポリイミドフィルムの厚み(単位;μm)であり、nは2以上の整数である。
【0013】
本発明のポリイミドフィルムは、前記(i)~(iii)の条件に加え、更に下記の条件(iv)を満たすものであってもよい。
(iv)前記熱可塑性ポリイミドにおける全モノマー成分から誘導される全モノマー残基のうち、ビフェニル骨格を有するモノマー残基が占める割合が30mol%以上であること。
【0014】
本発明のポリイミドフィルムは、全体の厚みが30~60μmの範囲内であってもよい。この場合、前記ポリイミドフィルムの全体の厚みT1に対する前記熱可塑性ポリイミド層の合計厚みT2の比率T2/T1が0.17以下であってもよい。
【0015】
本発明の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に設けられている金属層と、を備えた金属張積層板である。そして、本発明の金属張積層板は、前記絶縁樹脂層が、前記金属層の表面に接する熱可塑性ポリイミド層と、間接的に積層された非熱可塑性ポリイミド層と、を有するとともに、上記いずれかのポリイミドフィルムからなることを特徴とする。
【0016】
本発明の回路基板は、絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に設けられている配線層と、を備えた回路基板である。そして、本発明の回路基板は、前記絶縁樹脂層が、前記配線層に接する熱可塑性ポリイミド層と、間接的に積層された非熱可塑性ポリイミド層と、を有するとともに、上記いずれかのポリイミドフィルムからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のポリイミドフィルムは、ビフェニル骨格を有するモノマー残基の含有率を50モル%以上とすることによって、酸素透過度が抑制されており、低誘電正接化と長期耐熱接着性の向上が両立されている。そのため、本発明のポリイミドフィルムを回路基板材料として利用することによって、高速伝送への対応とともに、繰り返し高温環境に晒される使用環境であっても、長期間にわたり金属層との接着性が維持された回路基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態に係るポリイミドフィルムの構成を示す模式的断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係るポリイミドフィルムの別の構成例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
[ポリイミドフィルム]
本発明の一実施の形態に係るポリイミドフィルムは、非熱可塑性ポリイミドを含む非熱可塑性ポリイミド層と、該非熱可塑性ポリイミド層の少なくとも一方の面に積層されている、熱可塑性ポリイミドを含む熱可塑性ポリイミド層と、を有するポリイミドフィルムである。ここで、「非熱可塑性ポリイミド」とは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定された30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、かつ、ガラス転移温度+30℃以内の温度域での貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上を示すものを意味する。「熱可塑性ポリイミド」とは、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定された30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、かつ、ガラス転移温度+30℃以内の温度域での貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満を示すものを意味する。
【0021】
図1及び図2は、本実施の形態に係るポリイミドフィルムの構成例を示している。図1に示すポリイミドフィルム100は、非熱可塑性ポリイミド層110の片面に熱可塑性ポリイミド層120Aが積層された2層構造の態様である。図2に示すポリイミドフィルム101は、非熱可塑性ポリイミド層110の片面に熱可塑性ポリイミド層120Aが、他方の面に熱可塑性ポリイミド層120Bが積層された3層構造の態様である。なお、本実施の形態のポリイミドフィルムは、図1図2に例示する積層構造に限るものではなく、例えば、4層以上のポリイミド層を備えていてもよい。
【0022】
非熱可塑性ポリイミド層110の樹脂成分は、非熱可塑性ポリイミドからなることが好ましく、熱可塑性ポリイミド層120A,120Bの樹脂成分は、熱可塑性ポリイミドからなることが好ましい。ポリイミドフィルム100,101と金属箔を積層して金属張積層板とする場合、金属箔は、熱可塑性ポリイミド層120A,120Bの片側、又は両側に積層することができる。
【0023】
また、非熱可塑性ポリイミド及び熱可塑性ポリイミドは、いずれも、「モノマー残基」として、酸二無水物残基及びジアミン残基を含むものである。「酸二無水物残基」とは、テトラカルボン酸二無水物から誘導された4価の基を意味し、「ジアミン残基」とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基を意味する。
【0024】
本実施の形態のポリイミドフィルム100,101において、非熱可塑性ポリイミド層110は低熱膨張性のポリイミド層を構成し、熱可塑性ポリイミド層120A,120Bは高熱膨張性のポリイミド層を構成する。低熱膨張性のポリイミド層は、熱膨張係数(CTE)が好ましくは1ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内、より好ましくは3ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内のポリイミド層をいう。また、高熱膨張性のポリイミド層は、CTEが好ましくは35ppm/K以上、より好ましくは35ppm/K以上80ppm/K以下の範囲内、更に好ましくは35ppm/K以上70ppm/K以下の範囲内のポリイミド層をいう。使用する原料の組合せ、厚み、乾燥・硬化条件を適宜変更することで所望のCTEを有するポリイミド層とすることができる。
【0025】
本実施の形態のポリイミドフィルム100,101は、下記の条件(i)~(iii)を満たすものである。
(i)熱膨張係数が10~30ppm/Kの範囲内であること。
本実施の形態のポリイミドフィルム100,101は、例えば回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、反りの発生や寸法安定性の低下を防止するために、フィルム全体の熱膨張係数(CTE)が10ppm/K以上30ppm/K以下の範囲内であることが重要であり、好ましくは10ppm/K以上25ppm/K以下の範囲内がよく、15~25ppm/Kの範囲内がより好ましい。CTEが10ppm/K未満であるか、又は30ppm/Kを超えると、反りが発生したり、寸法安定性が低下したりする。
【0026】
(ii)酸素透過度が5.5×10-14mol/(m・s・Pa)以下であること。
ポリイミドフィルム100,101の酸素透過度を5.5×10-14mol/(m・s・Pa)以下に制御することによって、例えば回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、繰り返し高温に晒される環境であっても、長期間に亘って配線層との接着性が維持され、優れた長期耐熱接着性が得られる。ポリイミドフィルム100,101の酸素透過度が5.5×10-14mol/(m・s・Pa)を超える場合は、例えば回路基板の絶縁樹脂層として適用し、繰り返し高温に晒された場合に、絶縁樹脂層を透過した酸素によって配線層の酸化が進み、配線層と絶縁樹脂層との接着性が低下してしまう。
【0027】
(iii)非熱可塑性ポリイミド及び熱可塑性ポリイミドを構成する全モノマー成分から誘導される全モノマー残基に対し、下記式(1)によって算出されるビフェニル骨格を有するモノマー残基(以下、「ビフェニル骨格含有残基」と記すことがある)の割合が50mo1%以上であること。
【0028】
【数2】
【0029】
式(1)において、Mは、第i層のポリイミド層を構成するポリイミドにおける全モノマー成分から誘導される全モノマー残基のうち、ビフェニル骨格含有残基が占める割合(単位;mol%)であり、Lは、第i層のポリイミド層の厚み(単位;μm)であり、Lはポリイミドフィルムの厚み(単位;μm)であり、nは2以上の整数である。
【0030】
ポリイミドフィルム100,101を構成するポリイミドの全モノマー成分から誘導される全モノマー残基に対し、式(1)によって算出されるビフェニル骨格含有残基の割合が50mo1%以上であることによって、モノマー由来の剛直構造によりポリマー全体に秩序構造が形成されやすくなり、酸素透過度を低下させるとともに、分子の運動抑制により誘電正接を低下させることができる。ビフェニル骨格含有残基の割合が50mo1%未満では、誘電正接が十分に低下しない。また、ポリイミドフィルムの厚みを薄くすると酸素透過度が十分に低下しない。このため、例えば回路基板に使用したときに、長期耐熱接着性が不十分になるとともに、高速伝送への適応が困難となる。かかる観点から、式(1)によって算出されるビフェニル骨格含有残基の割合は、60mo1%以上であることが好ましく、65mo1%以上であることがより好ましい。一方、回路基板材料として用いられるポリイミドフィルムに必要な物性を維持するため、式(1)によって算出されるビフェニル骨格含有残基の割合は80mo1%以下とすることが好ましい。
【0031】
ここで、ビフェニル骨格とは、下記の式(a)に示すように、2つのフェニル基が単結合した骨格である。従って、ビフェニル骨格含有残基とは、例えば、ビフェニルジイル基、ビフェニルテトライル基などを挙げることができる。これらの残基に含まれる芳香環は、任意の置換基を有していてもよい。
ビフェニルジイル基の代表例としては、下記の式(b)で表されるものを挙げることができる。ビフェニルテトライル基の代表例としては、下記の式(c)で表されるものを挙げることができる。なお、ビフェニルジイル基及びビフェニルテトライル基において、芳香環における結合手は、式(b)及び式(c)に示す位置に限定されるものではなく、また、上記のとおり、これらの残基に含まれる芳香環は、任意の置換基を有していてもよい。
【0032】
【化1】
【0033】
ビフェニル骨格含有残基は、原料モノマーに由来する構造であり、酸二無水物から誘導されるものでもよいし、ジアミン化合物から誘導されるものでもよい。
【0034】
ビフェニル骨格を有する酸二無水物残基の代表例としては、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4'-ビフェノール-ビス(トリメリテート無水物)などの酸二無水物から誘導される残基を挙げることができる。これらの中でも、特に、BPDAから誘導される酸二無水物残基(以下、「BPDA残基」ともいう。)は、ポリマーの秩序構造を形成しやすく、分子の運動抑制により誘電正接や吸湿性を低下させることができるため好ましい。また、BPDA残基は、ポリイミド前駆体のポリアミド酸としてのゲル膜の自己支持性を付与できる。
【0035】
ビフェニル骨格を有するジアミン化合物の代表例としては、芳香環を2つのみ有するジアミン化合物が挙げられ、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EB)、2,2’-ジエトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EOB)、2,2’-ジプロポキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-POB)、2,2’-ジ-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-NPB)、2,2’-ジビニル-4,4’-ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)などを挙げることができる。これらのジアミン化合物から誘導される残基は、剛直構造を有しているため、ポリマー全体に秩序構造を付与する作用を有している。これらのジアミン化合物から誘導される残基を含有することによって、酸素透過度が低く、低吸湿性のポリイミドが得られ、分子鎖内部の水分を低減できるため、誘電正接を下げることができる。
【0036】
本実施の形態のポリイミドフィルム100,101は、上記(i)~(iii)の条件に加え、更に次の条件(iv)を満たすことが好ましい。
(iv)熱可塑性ポリイミドにおける全モノマー成分から誘導される全モノマー残基のうち、ビフェニル骨格含有残基の占める割合が30mol%以上であること。
熱可塑性ポリイミドを構成する全モノマー残基のうち、ビフェニル骨格含有残基の占める割合が30mol%以上であることによって、モノマー由来の剛直構造により、ポリマー全体に秩序構造が形成されるので、熱可塑性でありながら、酸素透過度及び吸湿性が低く、長期耐熱接着性に優れ、誘電正接が低いポリイミドが得られる。なお、非熱可塑性ポリイミド層110の両側に熱可塑性ポリイミド層120A,120Bを有する場合は、熱可塑性ポリイミド層120A,120Bのいずれか片方が上記条件(iv)を満たせばよいが、両方の熱可塑性ポリイミド層120A,120Bが共に上記条件(iv)を満たすことが好ましい。
【0037】
<厚み>
本実施の形態のポリイミドフィルム100,101の全体の厚みT1は、使用する目的に応じて、所定の範囲内に設定することが可能であり、例えば30~60μmの範囲内にあることが好ましく、35~50μmの範囲内にあることがより好ましい。厚みT1が上記下限値に満たないと、酸素透過度を十分に下げることが困難となり、繰り返し高温に晒された場合に配線層と絶縁樹脂層との接着性が低下してしまう懸念がある。一方、厚みT1が上記上限値を超えると、ポリイミドフィルムを曲げた際にクラックが生じ破れるなどの不具合が生じる。
【0038】
また、ポリイミドフィルム100,101の全体の厚みT1に対する熱可塑性ポリイミド層120A,120Bの合計厚みT2(ここで、T2は図1のT2Aを、図2のT2A+T2Bを意味する)の比率T2/T1が0.17以下であることが好ましく、0.10~0.15の範囲内であることがより好ましい。この比の値が0.17より大きいと、酸素透過度が大きくなるとともに、誘電正接の低下が困難となる。そのため、例えば回路基板に使用したときに、長期耐熱接着性が不十分になるとともに、高速伝送への適応が困難となる。
比率T2/T1の下限は特に限定されない。比率T2/T1が小さくなるほど、酸素透過度及び誘電正接の低減が図りやすくなるからである。ただし、比率T2/T1が小さくなるほど、相対的に熱可塑性ポリイミド層120A,120Bの占める厚み割合が小さくなることから、比率T2/T1の下限は、ポリイミドフィルム100,101と配線層との接着信頼性が確保できる値として、例えば0.02程度が好ましい。
【0039】
さらに、非熱可塑性ポリイミド層110の厚みT3は、使用する目的に応じて、所定の範囲内に設定することが可能であり、例えば25~49μmの範囲内にあることが好ましく、30~49μmの範囲内にあることがより好ましい。厚みT3が上記下限値に満たないと、ポリイミドフィルム100,101の誘電特性の改善効果が小さくなるとともに、酸素透過度が大きくなり、繰り返し高温に晒された場合に配線層と絶縁樹脂層との接着性が低下してしまう懸念がある。
【0040】
一般にポリイミドは、酸二無水物とジアミン化合物を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環(イミド化)させることにより製造できる。例えば、酸二無水物とジアミン化合物をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~30重量%の範囲内、好ましくは10~20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0041】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500cps~100,000cpsの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。ポリアミド酸をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0042】
次に、非熱可塑性ポリイミド及び熱可塑性ポリイミドについて、より具体的に説明する。
【0043】
<非熱可塑性ポリイミド>
ポリイミドフィルム100,101において、非熱可塑性ポリイミド層110を構成する非熱可塑性ポリイミドは、酸二無水物残基及びジアミン残基を含むものである。非熱可塑性ポリイミドは、全モノマー成分から誘導される全モノマー残基のうち、ビフェニル骨格含有残基を60mo1%以上含有することが好ましく、70mo1%以上含有することがより好ましい。非熱可塑性ポリイミド中のビフェニル骨格含有残基を60mo1%以上とすることによって、ポリイミドフィルム100,101を構成するポリイミド全体におけるビフェニル骨格含有残基の含有比率を高め、酸素透過度を下げ、低誘電正接化を図ることができる。
【0044】
(酸二無水物残基)
非熱可塑性ポリイミドは、全酸二無水物残基のうち、ビフェニル骨格を有する酸二無水物残基を35mo1%以上含有することが好ましく、50mo1%以上含有することがより好ましい。さらに好ましくは、式(c)で表されるビフェニルテトライル基を上記の量で含有することがよい。
【0045】
非熱可塑性ポリイミドは、上記のビフェニル骨格を有する酸二無水物残基のほかに、発明の効果を損なわない範囲で、一般にポリイミドの原料として用いられる酸二無水物の残基を含有することができる。そのような酸二無水物残基として、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物(TAHQ)、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される酸二無水物残基が挙げられる。
【0046】
(ジアミン残基)
非熱可塑性ポリイミドは、全ジアミン残基のうち、ビフェニル骨格を有するジアミン残基を70mo1%以上含有することが好ましく、85mo1%以上含有することがより好ましい。さらに好ましくは、式(b)で表されるビフェニルジイル基を上記の量で含有することがよい。式(b)で表されるビフェニルジイル基は、剛直構造を有し、ポリマー全体に秩序構造を付与する作用を有しているため、酸素透過度を下げるとともに、分子の運動抑制により誘電正接を低下させることができる。
【0047】
非熱可塑性ポリイミドは、上記のビフェニル骨格を有するジアミン残基のほかに、発明の効果を損なわない範囲で、一般にポリイミドの原料として用いられるジアミン化合物の残基を含有することができる。そのようなジアミン残基として、例えば、1,4-ジアミノベンゼン(p-PDA;パラフェニレンジアミン)、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート(APAB)、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4'-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリン、4,4’-[オキシビス(3,1-フェニレンオキシ)]ビスアニリン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2'-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド、4,4'-ジアミノベンズアニリド、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)-2,5-ジ-tert-ブチルベンゼン、6-アミノ-2-(4-アミノフェノキシ)ベンゾオキサゾール、2,6-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエン、2,4-ジアミノ-3,5-ジエチルトルエン、2,4-ジアミノ-3,3’-ジエチル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、ビス(4-アミノ-3-エチル-5-メチルフェニル)メタン等の芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミン等の脂肪族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基などが挙げられる。
【0048】
非熱可塑性ポリイミドにおいて、上記酸二無水物残基及びジアミン残基の種類や、2種以上の酸二無水物残基又はジアミン残基を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、酸素透過度、誘電特性、熱膨張係数、貯蔵弾性率、引張弾性率等を制御することができる。また、非熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0049】
非熱可塑性ポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される芳香族テトラカルボン酸残基及び芳香族ジアミンから誘導される芳香族ジアミン残基を含むことが好ましい。非熱可塑性ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基を、いずれも芳香族基とすることで、ポリイミドフィルム100,101の高温環境下での寸法精度を向上させることができる。
【0050】
非熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、33重量%以下であることが好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が33重量%を超えると、極性基の増加によって吸湿性が増加する。上記酸二無水物とジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、非熱可塑性ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保することができる。
【0051】
非熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、50,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0052】
<熱可塑性ポリイミド>
ポリイミドフィルム100,101において、熱可塑性ポリイミド層120A,120Bを構成する熱可塑性ポリイミドは、酸二無水物残基及びジアミン残基を含むものである。熱可塑性ポリイミドは、上記の条件(iv)のとおり、全モノマー成分から誘導される全モノマー残基のうち、ビフェニル骨格含有残基を30mo1%以上含有することが好ましく、40mo1%以上含有することがより好ましい。熱可塑性ポリイミド中のビフェニル骨格含有残基を30mo1%以上とすることによって、ポリイミドフィルム100,101を構成するポリイミド全体における、ビフェニル骨格含有残基の含有比率を高め、酸素透過度を低減するとともに、低誘電正接化を図ることができる。一方で、熱可塑性ポリイミドは、金属層との接着性を確保するためにポリイミド分子鎖の柔軟性を向上させ、熱可塑性を付与する必要があることから、ビフェニル骨格含有残基の含有量の上限を65mol%以下とすることが好ましい。
【0053】
(酸二無水物残基)
熱可塑性ポリイミドは、全酸二無水物残基のうち、ビフェニル骨格を有する酸二無水物残基を60mo1%以上含有することが好ましい。より好ましくは、式(c)で表されるビフェニルテトライル基を上記の量で含有することがよい。
【0054】
熱可塑性ポリイミドは、上記のビフェニル骨格を有する酸二無水物の残基のほかに、発明の効果を損なわない範囲で、一般にポリイミドの原料として用いられる酸二無水物の残基を含有することができる。そのような酸二無水物残基として、非熱可塑性ポリイミドについて例示した酸二無水物の残基が挙げられる。
【0055】
(ジアミン残基)
熱可塑性ポリイミドは、全ジアミン残基のうち、ビフェニル骨格を有するジアミン残基を1mo1%以上含有することが好ましく、5mo1%以上含有することがより好ましい。さらに好ましくは、式(b)で表されるビフェニルジイル基を上記の量で含有することがよい。式(b)で表されるビフェニルジイル基は、剛直構造を有し、ポリマー全体に秩序構造を付与する作用を有しているため、分子の運動抑制により誘電正接や吸湿性を低下させることができる。更に、熱可塑性ポリイミドの原料として使用することで、酸素透過度が低く、長期耐熱接着性に優れたポリイミドが得られる。
【0056】
熱可塑性ポリイミドは、上記のビフェニル骨格を有するジアミン残基のほかに、発明の効果を損なわない範囲で、一般にポリイミドの原料として用いられるジアミン化合物の残基を含有することができる。そのようなジアミン残基として、非熱可塑性ポリイミドについて例示したジアミン化合物の残基が挙げられる。
【0057】
熱可塑性ポリイミドにおいて、上記酸二無水物残基及びジアミン残基の種類や、2種以上の酸二無水物残基又はジアミン残基を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張係数、引張弾性率、ガラス転移温度等を制御することができる。また、熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0058】
熱可塑性ポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される芳香族テトラカルボン酸残基及び芳香族ジアミンから誘導される芳香族ジアミン残基を含むことが好ましい。熱可塑性ポリイミドに含まれる酸二無水物残基及びジアミン残基を、いずれも芳香族基とすることで、ポリイミドフィルム100,101の高温環境下でのポリイミドの劣化を抑制することができる。
【0059】
熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、30重量%以下であることが好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が30重量%を超えると、ガラス転移温度以上の温度での弾性率が低下しにくくなり、また極性基の増加によって低吸湿性も悪化する。
【0060】
熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、50,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0061】
ポリイミドフィルム100,101において、熱可塑性ポリイミド層120A,120Bは接着層として機能し、銅箔などの金属層との密着性を向上させることができる。そのため、熱可塑性ポリイミドは、ガラス転移温度が200℃以上350℃以下の範囲内が好ましく、200℃以上320℃以下の範囲内がより好ましい。
【0062】
熱可塑性ポリイミドは、例えば回路基板の配線層に接する接着層となるため、銅の拡散を抑制するために完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm-1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm-1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出される。
【0063】
<ポリイミドフィルムの形態>
本実施の形態のポリイミドフィルム100,101は、上記条件を満たすものであれば特に限定されるものではなく、絶縁樹脂からなるフィルム(シート)であってもよく、例えば、銅箔などの金属箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂シート等の基材に積層された状態の絶縁樹脂のフィルムであってもよい。
【0064】
<誘電正接>
ポリイミドフィルム100,101は、例えば、回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、高周波信号の伝送時における誘電損失を低減するために、フィルム全体として、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定したときの10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が、0.004以下であることが好ましい。回路基板の伝送損失を改善するためには、特に絶縁樹脂層の誘電正接を制御することが重要であり、誘電正接を上記範囲内とすることで、伝送損失を下げる効果が増大する。従って、ポリイミドフィルム100,101を、例えば高周波回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合、伝送損失を効率よく低減できる。10GHzにおける誘電正接が0.004を超えると、ポリイミドフィルム100,101を回路基板の絶縁樹脂層として適用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスが大きくなるなどの不都合が生じやすくなる。10GHzにおける誘電正接の下限値は特に制限されないが、ポリイミドフィルム100,101を回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合の物性制御を考慮する必要がある。
【0065】
<誘電率>
ポリイミドフィルム100,101は、例えば回路基板の絶縁樹脂層として適用する場合において、インピーダンス整合性を確保するために、フィルム全体として、10GHzにおける誘電率が4.0以下であることが好ましい。10GHzにおける誘電率が4.0を超えると、ポリイミドフィルム100,101を回路基板の絶縁樹脂層として適用した際に、誘電損失の悪化に繋がり、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスが大きくなるなどの不都合が生じやすくなる。
【0066】
<フィラー>
本実施の形態のポリイミドフィルム100,101は、必要に応じて、非熱可塑性ポリイミド層110又は熱可塑性ポリイミド層120A,120B中に、無機フィラーや有機フィラーを含有してもよい。具体的には、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム等の無機フィラーやフッ素系ポリマー粒子や液晶ポリマー粒子等の有機フィラーが挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。なお、有機フィラーを含有する場合、有機フィラーは非熱可塑性ポリイミド層110又は熱可塑性ポリイミド層120A,120Bを構成する全モノマー成分に該当しないものとする。
【0067】
[ポリイミドフィルムの製造方法]
本実施の形態のポリイミドフィルム100,101の製造方法の好ましい態様として、例えば、以下の[1]~[3]を例示することができる。
[1]支持基材に、ポリアミド酸溶液を塗布・乾燥することを複数回繰り返した後、イミド化してポリイミドフィルム100,101を製造する方法。
[2]支持基材に、ポリアミド酸溶液を塗布・乾燥することを複数回繰り返した後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、イミド化してポリイミドフィルム100,101を製造する方法。
[3]多層押出により、同時にポリアミド酸溶液を多層に積層した状態で塗布・乾燥した後、イミド化を行うことによってポリイミドフィルム100,101を製造する方法(以下、多層押出法)。
【0068】
上記[1]の方法は、例えば、次の工程1a~1c;
(1a)支持基材にポリアミド酸溶液を塗布し、乾燥させる工程と、
(1b)支持基材上でポリアミド酸を熱処理してイミド化することによりポリイミド層を形成する工程と、
(1c)支持基材とポリイミド層とを分離することによりポリイミドフィルム100,101を得る工程と、
を含むことができる。
【0069】
上記[2]の方法は、例えば、次の工程2a~2c;
(2a)支持基材にポリアミド酸溶液を塗布し、乾燥させる工程と、
(2b)支持基材とポリアミド酸のゲルフィルムとを分離する工程と、
(2c)ポリアミド酸のゲルフィルムを熱処理してイミド化することによりポリイミドフィルム100,101を得る工程と、
を含むことができる。
【0070】
上記[1]の方法又は[2]の方法において、工程1a又は工程2aを複数回繰り返し行うことによって、支持基材上にポリアミド酸の積層構造体を形成することができる。なお、ポリアミド酸溶液を支持基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0071】
上記[3]の方法は、上記[1]の方法の工程1a、又は[2]の方法の工程2aにおいて、多層押出により、同時にポリアミド酸の積層構造体を塗布し、乾燥させる以外は、上記[1]の方法又は[2]の方法と同様に実施できる。
【0072】
本実施の形態で製造されるポリイミドフィルム100,101は、支持基材上でポリアミド酸のイミド化を完結させることが好ましい。ポリアミド酸の樹脂層が支持基材に固定された状態でイミド化されるので、イミド化過程におけるポリイミド層の伸縮変化を抑制して、ポリイミドフィルム100,101の厚みや寸法精度を維持することができる。
【0073】
[金属張積層板]
本実施の形態の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に設けられている金属層と、を備えており、絶縁樹脂層の一部分又は全部が、上記実施の形態のポリイミドフィルム100,101を用いて形成されていればよい。絶縁樹脂層と金属層との接着性を高めるために、絶縁樹脂層における金属層に接する層は、熱可塑性ポリイミド層120A,120Bであることがよい。
【0074】
金属層の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。なお、後述する回路基板における配線層の材質も金属層と同様である。
【0075】
金属層の厚みは特に限定されるものではないが、例えば銅箔に代表される金属箔を用いる場合、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5~25μmの範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から金属箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。なお、銅箔を用いる場合は、圧延銅箔でも電解銅箔でもよい。また、銅箔としては、市販されている銅箔を用いることができる。
【0076】
また、金属箔は、例えば、防錆処理や、接着力の向上を目的として、例えばサイディング、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等による表面処理を施しておいてもよい。
【0077】
次に、金属張積層板について、金属層が銅箔により形成された銅張積層板を例に挙げ、より詳しく説明する。銅張積層板において、銅箔は、絶縁樹脂層の片面又は両面に設けられている。つまり、銅張積層板は、片面銅張積層板(片面CCL)でもよいし、両面銅張積層板(両面CCL)でもよい。
【0078】
銅張積層板は、例えば上記実施の形態のポリイミドフィルム100,101を含んで構成される樹脂フィルムを用意し、これに金属をスパッタリングしてシード層を形成した後、例えば銅メッキによって銅箔層を形成することによって調製してもよい。
また、銅張積層板は、上記実施の形態のポリイミドフィルム100,101を含んで構成される樹脂フィルムを用意し、これに銅箔を熱圧着などの方法でラミネートすることによって調製してもよい。
さらに、銅張積層板は、銅箔の上にポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を含有する塗布液をキャストし、乾燥して塗布膜とした後、熱処理してイミド化し、ポリイミド層を形成することによって調製してもよい。
【0079】
[回路基板]
上記実施の形態の金属張積層板は、主にFPCなどの回路基板材料として有用である。金属張積層板の金属層を常法によってパターン状に加工して配線層を形成することによって、本発明の一実施の形態である回路基板を製造できる。
すなわち、本実施の形態の回路基板は、絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に設けられている配線層と、を備えており、絶縁樹脂層の一部分又は全部が、上記実施の形態のポリイミドフィルム100,101を用いて形成されていればよい。また、絶縁樹脂層と配線層との接着性を高めるために、絶縁樹脂層における配線層に接する層は、熱可塑性ポリイミド層120A,120Bであることがよい。
【実施例
【0080】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0081】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV-II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%~90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0082】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
ガラス転移温度は、5mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、動的粘弾性測定装置(DMA:ユー・ビー・エム社製、商品名;E4000F)を用いて、30℃から400℃まで昇温速度4℃/分、周波数11Hzで測定を行い、弾性率変化(tanδ)が最大となる温度をガラス転移温度とした。なお、DMAを用いて測定された30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、ガラス転移温度+30℃以内の温度域での貯蔵弾性率が1.0×10Pa未満を示すものを「熱可塑性」とし、30℃における貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上であり、ガラス転移温度+30℃以内の温度域での貯蔵弾性率が1.0×10Pa以上を示すものを「非熱可塑性」とした。
【0083】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から265℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。
【0084】
[吸湿率の測定]
ポリイミドフィルムの試験片(幅;4cm×長さ;25cm)を2枚用意し、80℃で1時間乾燥した。乾燥後直ちに23℃/50%RHの恒温恒湿室に入れ、24時間以上静置し、その前後の重量変化から次式により求めた。
吸湿率(重量%)=[(吸湿後重量-乾燥後重量)/乾燥後重量]×100
【0085】
[誘電率及び誘電正接の測定]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名;E8363C)及びスプリットポスト誘電体共振器(SPDR共振器)を用いて、周波数10GHzにおけるポリイミドフィルムの誘電率および誘電正接を測定した。なお、測定に使用した材料は、温度;24~26℃、湿度;45~55%の条件下で、24時間放置したものである。
【0086】
[イミド基濃度の計算]
イミド基部(-(CO)-N-)の分子量をポリイミドの構造全体の分子量で除した値をイミド基濃度とした。
【0087】
[銅箔の表面粗度の測定]
銅箔の表面粗度は、AFM(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名;Dimension Icon型SPM)、プローブ(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名;TESPA(NCHV)、先端曲率半径10nm、ばね定数42N/m)を用いて、タッピングモードで、銅箔表面の80μm×80μmの範囲で測定し、十点平均粗さ(Rzjis)を求めた。
【0088】
[酸素透過度の測定]
温度23℃±2℃、湿度65%RH±5%RHの条件下でJIS K7126-1の差圧法に準拠し、酸素ガスの透過度の測定を実施した。なお、蒸気透過率測定装置として、GTRテック社製、GTR-30XAD2及びヤナコテクニカルサイエンス社製、G2700T・Fを用いた。
【0089】
[初期ピール強度の測定]
銅張積層板(銅箔/多層ポリイミド層)の銅箔を10mm間隔で樹脂の塗工方向に幅1mmに回路加工した後、幅;8cm×長さ;4cmに切断した。ピール強度は、テンシロンテスター(東洋精機製作所社製、商品名;ストログラフVE-1D)を用いて、切断した測定サンプルのポリイミド層面を両面テープによりアルミ板に固定し、回路加工された銅箔を180°方向に50mm/分の速度で剥離していき、ポリイミド層から10mm剥離したときの中央値強度を求め、初期ピール強度とした。
【0090】
[加熱後ピール強度の測定]
銅張積層板(銅箔/多層ポリイミド層)の銅箔を10mm間隔で樹脂の塗工方向に幅1mmに回路加工した後、幅;8cm×長さ;4cmに切断した。切断したサンプルを150℃に設定させた熱風オーブン(大気雰囲気下)に保管し、1000時間後に取り出しを行った。ピール強度は、テンシロンテスター(東洋精機製作所社製、商品名;ストログラフVE-1D)を用いて、取り出した測定サンプルのポリイミド層面を両面テープによりアルミ板に固定し、回路加工された銅箔を180°方向に50mm/分の速度で剥離していき、ポリイミド層から10mm剥離したときの中央値強度を求めた。
【0091】
[ポリイミド層の厚みの測定]
銅張積層板について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムを短冊状に切り出し、樹脂包埋した後、ミクロトームにてフィルム厚み方向の切断を行い約100nmの超薄切片を作製した。作製した超薄切片について、日立ハイテクテクノロジー社製SEM(SU9000)のSTEM機能を用いて、加速電圧30kVで観察を行い、各ポリイミド層の厚みを各5点測定し、その平均値を各ポリイミド層の厚みとした。
【0092】
実施例及び参考例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3',4,4'‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
m‐TB:2,2'‐ジメチル‐4,4'‐ジアミノビフェニル
TPE-R:1,3-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
TPE-Q:1,4-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
DAPE:4,4’-ジアミノ-ジフェニルエーテル
PDA:パラフェニレンジアミン
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
ビスアニリン-P:1,4-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン(三井化学ファイン社製、商品名;ビスアニリン-P)
DDA:炭素数36の脂肪族ジアミン(クローダジャパン社製、商品名;PRIAMINE1074、アミン価;210mgKOH/g、環状構造及び鎖状構造のダイマージアミンの混合物、ダイマー成分の含有量;95重量%以上)
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
【0093】
(合成例1)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、12.061gのm-TB(0.0568モル)、0.923gのTPE-Q(0.0032モル)及び1.0874gのビスアニリン-P(0.0032モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、6.781gのPMDA(0.0311モル)及び9.147gのBPDA(0.0311モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液aを得た。ポリアミド酸溶液aの溶液粘度は29,800cpsであった。
【0094】
次に、銅箔1(電解銅箔、厚み;12μm、樹脂側の表面粗さRzjis;2.1μm)の上に、ポリアミド酸溶液aを硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を30分以内で行い、イミド化を完結した。得られた銅張積層板について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルムa(非熱可塑性、Tg;316℃、吸湿率;0.61重量%)を調製した。また、ポリイミドフィルムaを構成するポリイミドのイミド基濃度は31.6重量%であった。
【0095】
(合成例2)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、11.825gのm-TB(0.0557モル)、0.905gのTPE-Q(0.0031モル)及び1.653gのDDA(0.0031モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、6.649gのPMDA(0.0305モル)及び8.968gのBPDA(0.0305モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液bを得た。ポリアミド酸溶液bの溶液粘度は27,800cpsであった。
【0096】
次に、銅箔1の上に、ポリアミド酸溶液bを硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を30分以内で行い、イミド化を完結した。得られた銅張積層板について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルムb(非熱可塑性、Tg;258℃、吸湿率;0.54重量%)を調製した。また、ポリイミドフィルムbを構成するポリイミドのイミド基濃度は30.9重量%であった。
【0097】
(合成例3)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、11.920gのm-TB(0.0562モル)及び2.897gのTPE-Q(0.0099モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、11.354gのPMDA(0.0521モル)及び3.829gのBPDA(0.0130モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液cを得た。ポリアミド酸溶液cの溶液粘度は31,200cpsであった。
【0098】
次に、銅箔1の上に、ポリアミド酸溶液cを硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を30分以内で行い、イミド化を完結した。得られた銅張積層板について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルムc(非熱可塑性、Tg;375℃、吸湿率;0.81重量%)を調製した。また、ポリイミドフィルムcを構成するポリイミドのイミド基濃度は33.2重量%であった。
【0099】
(合成例4)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、1.548gのPDA(0.0143モル)及び11.465gのDAPE(0.0573モル)並びに重合後の固形分濃度が15重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、10.764gのPMDA(0.0494モル)及び6.223gのBPDA(0.0212モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液dを得た。ポリアミド酸溶液dの溶液粘度は23,500cpsであった。
【0100】
次に、 ポリアミド酸溶液dをTダイ金型のスリットから硬化後厚みが25μmとなるようにキャスティングし、乾燥炉中の平滑なベルト状の金属支持体上に押出して薄膜を形成し、130℃で所定時間加熱後、支持体から剥離して自己支持性フィルムを得た。さらに、この自己支持性フィルムの幅方向の両端部を把持して連続加熱炉へ挿入し、100℃から最高加熱温度が380℃となる条件で当該フィルムを加熱、イミド化して、ポリイミドフィルムd(非熱可塑性、Tg;>400℃、吸湿率;1.14重量%)を調製した。また、ポリイミドフィルムdを構成するポリイミドのイミド基濃度は36.2重量%であった。
【0101】
(合成例5)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、15.591gのBAPP(0.0380モル)並びに重合後の固形分濃度が12重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、8.409gのPMDA(0.0386モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液eを得た。ポリアミド酸溶液eの溶液粘度は2,350cpsであった。
【0102】
次に、銅箔1の上に、ポリアミド酸溶液eを硬化後の厚みが約10μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を30分以内で行い、イミド化を完結した。得られた銅張積層板について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルムe(熱可塑性、Tg;320℃、吸湿率;0.55重量%)を調製した。また、ポリイミドフィルムeを構成するポリイミドのイミド基濃度は23.6重量%であった。
【0103】
(合成例6)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、1.847gのm-TB(0.0087モル)及び10.172gのTPE-R(0.0348モル)並びに重合後の固形分濃度が12重量%となる量のDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、2.889gのPMDA(0.0132モル)及び9.092gのBPDA(0.0309モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液fを得た。ポリアミド酸溶液fの溶液粘度は2,210cpsであった。
【0104】
次に、銅箔1の上に、ポリアミド酸溶液fを硬化後の厚みが約10μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を30分以内で行い、イミド化を完結した。得られた銅張積層板について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルムf(熱可塑性、Tg;226℃、吸湿率;0.41重量%)を調製した。また、ポリイミドフィルムfを構成するポリイミドのイミド基濃度は27.4重量%であった。
【0105】
[実施例1]
銅箔2(電解銅箔、厚み;12μm、樹脂側の表面粗さRzjis;0.6μm)の上に、ポリアミド酸溶液fを硬化後の厚みが2.5μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。その上にポリアミド酸溶液aを硬化後の厚みが25μmとなるように均一に塗布した後、120℃で3分間加熱乾燥して溶媒を除去した。更に、その上にポリアミド酸fを硬化後の厚みが2.5μmとなるように均一に塗布した後、120℃で1分間加熱乾燥して溶媒を除去した。その後、140℃から360℃まで段階的な熱処理を行い、イミド化を完結して、銅張積層板1を調製した。
得られた銅張積層板1を用いて初期ピール強度及び加熱後ピール強度を測定した結果、それぞれ1.06kN/m及び0.69kN/mであった。各測定結果を表1に示す。
【0106】
銅張積層板1について、塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム1aを得た。得られたポリイミドフィルム1aについて、CTE及び誘電特性、酸素透過度の評価を実施した結果、CTE;22ppm/K、誘電率;3.56、誘電正接;0.0032、酸素透過度;4.59×10-14 mol/(m・s・Pa)であった。各測定結果を表2に示す。
【0107】
[実施例2~実施例4、比較例1及び参考例1~2]
表1に記載したポリアミド酸溶液を用いるとともに、厚み構成を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~4、比較例1及び参考例1~2の銅張積層板2~4、銅張積層板5及び銅張積層板6~7ならびにポリイミドフィルム2a~4a、ポリイミドフィルム5a及びポリイミドフィルム6a~7aを得た。各測定結果を表1及び表2に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
比較例2
ポリアミド酸溶液dをTダイ金型のスリットから硬化後厚みが30μmとなるようにキャスティングし、乾燥炉中の平滑なベルト状の金属支持体上に押出して薄膜を形成し、130℃で所定時間加熱後、支持体から剥離して自己支持性フィルムを得た。さらに自己支持性フィルムを連続的に搬送しながら、自己支持性フィルムの大気面にダイコーターを用いてポリアミド酸溶液eを硬化後厚みが2.5μmとなるように塗布し、120℃の乾燥炉で所定時間乾燥させた。次いで、ポリアミド酸溶液eを塗布面と反対の面についても前記同様にポリアミド酸溶液eを硬化後厚みが2.5μmとなるように塗布し、120℃の乾燥炉で所定時間乾燥させた。
この自己支持性フィルムの幅方向の両端部を把持して連続加熱炉へ挿入し、100℃から最高加熱温度が380℃となる条件で当該フィルムを加熱、イミド化して、ポリイミドフィルム8bを得た。このポリイミドフィルム8bの片面に銅箔、もう一方の面にテフロン(登録商標)フィルムを重ね合わせ、温度320℃、圧力340MPaの条件で15分間熱圧着して、圧着後にテフロン(登録商標)フィルムを剥がすことで、銅張積層板8を調製した。
得られた銅張積層板8を用いて初期ピール強度及び加熱後ピール強度を測定した結果、それぞれ1.15kN/m及び1.01kN/mであった。
【0111】
銅張積層板8について、実施例1と同様にして銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム8aを得た。得られたポリイミドフィルム8aについて、CTE及び誘電特性、酸素透過度の評価を実施した結果、CTE;22ppm/K、誘電率;3.65、誘電正接;0.0073、酸素透過度;1.17×10-14 mol/(m・s・Pa)であった。
【0112】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0113】
100,101…ポリイミドフィルム、110…非熱可塑性ポリイミド層、120A,120B…熱可塑性ポリイミド層

図1
図2