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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】衣服
(51)【国際特許分類】
   A41D 31/00 20190101AFI20221129BHJP
   A41D 31/06 20190101ALI20221129BHJP
   A41D 31/04 20190101ALI20221129BHJP
   A41D 31/02 20190101ALI20221129BHJP
【FI】
A41D31/00 502M
A41D31/06 100
A41D31/04 F
A41D31/02 A
A41D31/00 503G
A41D31/00 503F
A41D31/00 502Q
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020522110
(86)(22)【出願日】2019-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2019019958
(87)【国際公開番号】W WO2019230482
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2018103300
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019070568
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019070569
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】梅田 亮太
(72)【発明者】
【氏名】宇熊 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】尾形 暢亮
(72)【発明者】
【氏名】原毛 孝徳
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-295109(JP,A)
【文献】特開2005-264393(JP,A)
【文献】特開2012-7273(JP,A)
【文献】特開2017-218708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 31/00-31/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表地と裏地とを部分的に接着し、空気の注入および排出が可能であり、
空気注入後において、表地と裏地により凹凸が形成され、表地最外端から裏地最外端までの距離が1cm以上であり、
相互に連通する複数に分割された空気室を形成しており、
表地および裏地にウレタンフィルムがラミネートされており
表地と裏地のうち少なくともどちらか一方に総繊度が22dtex以下の合成繊維マルチフィラメントが含まれ、
前記合成繊維マルチフィラメントがポリエステル繊維であり、
表地と裏地のうち少なくともどちらか一方が編物または織物を含み、
表地と裏地とが、別生地を介して接着されており、
かつ、表地と裏地のうち少なくともどちらか一方において、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の合計濃度が0~5ng/gのフッ素系撥水剤、またはシリコーン系撥水剤、または炭化水素系撥水剤を用いて撥水加工が施されていることを特徴とする衣服。
【請求項2】
空気注入後において、表地の膨らみ量と裏地の膨らみ量とが異なる、請求項1に記載の衣服。
【請求項3】
裏地の生地面積が表地の生地面積対比1.3倍以上である、請求項1または請求項2に記載の衣服。
【請求項4】
前記ウレタンフィルムが、親水性無孔質または多孔質である、請求項1~3のいずれかに記載の衣服。
【請求項5】
前記ウレタンフィルムの厚さが15μm以下である、請求項1~4のいずれかに記載の衣服。
【請求項6】
表地および裏地のうち少なくともどちらか一方において、透湿性が2000g/m・24h以上である、請求項1~5のいずれかに記載の衣服。
【請求項7】
前記合成繊維マルチフィラメントの引張強度が4.5cN/dtex以上である、請求項1~6のいずれかに記載の衣服。
【請求項8】
前記合成繊維マルチフィラメントがリサイクル糸である、請求項1~7のいずれかに記載の衣服。
【請求項9】
前記編物が、編密度が45~130コース/2.54cmかつ55~120ウエール/2.54cmの単層丸編地である、請求項1~8のいずれかに記載の衣服。
【請求項10】
前記織物において、カバーファクターCFが1200~3000の範囲内である、請求項1~8のいずれかに記載の衣服。
【請求項11】
表地と裏地のうち少なくともどちらか一方に非捲縮糸が含まれる、請求項1~10のいずれかに記載の衣服。
【請求項12】
表地と裏地のうち少なくともどちらか一方において、目付けが79g/m以下である、請求項1~11のいずれかに記載の衣服。
【請求項13】
表地と裏地のうち少なくともどちらか一方において、生地の厚さが0.3mm以下である、請求項1~12のいずれかに記載の衣服。
【請求項14】
表地と裏地のうち少なくともどちらか一方において、生地の伸縮性が10%以上である、請求項1~13のいずれかに記載の衣服。
【請求項15】
表地と裏地との伸縮性の差が10%以上である、請求項1~14のいずれかに記載の衣服。
【請求項16】
空気注入後における表地最外端から裏地最外端までの距離が、空気注入前における表地最外端から裏地最外端までの距離の10倍以上である、請求項1~15のいずれかに記載の衣服。
【請求項17】
前記表地または裏地に空気注入口と空気排出口が独立して取り付けられている衣服であって、空気注入口に逆止弁が付いている、請求項1~16のいずれかに記載の衣服。
【請求項18】
衣服の質量が150g/1品以下である、請求項1~17のいずれかに記載の衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、裏地と表地とを部分的に接着し、空気の注入および排出が可能で衣服であって、軽量性、保温性、折り畳み性に優れ、好ましくは着用快適性および外観にも優れた衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気注入および排出が可能な空気入り衣服が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0003】
しかしながら、軽量性や保温性などの点においてまだ満足とは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実用新案登録第3162628号公報
【文献】特開2005-264393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、裏地と表地とを部分的に接着し、空気の注入および排出が可能で衣服であって、軽量性、保温性、折り畳み性に優れ、好ましくは着用快適性および外観にも優れた衣服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、衣服の構造などを巧みに工夫することにより所望の衣服が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「表地と裏地とを部分的に接着し、空気の注入および排出が可能であり、
空気注入後において、表地と裏地により凹凸が形成され、表地最外端から裏地最外端までの距離が1cm以上であり、
相互に連通する複数に分割された空気室を形成しており、
表地および裏地にウレタンフィルムがラミネートされており
表地と裏地のうち少なくともどちらか一方に総繊度が22dtex以下の合成繊維マルチフィラメントが含まれ、
前記合成繊維マルチフィラメントがポリエステル繊維であり、
表地と裏地のうち少なくともどちらか一方が編物または織物を含み、
表地と裏地とが、別生地を介して接着されており、
かつ、表地と裏地のうち少なくともどちらか一方において、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の合計濃度が0~5ng/gのフッ素系撥水剤、またはシリコーン系撥水剤、または炭化水素系撥水剤を用いて撥水加工が施されていることを特徴とする衣服。」が提供される。
【0008】
その際、空気注入後において、表地の膨らみ量と裏地の膨らみ量とが異なることが好ましい。また、裏地の生地面積が表地の生地面積対比1.3倍以上であることが好ましい。また前記ウレタンフィルムが、親水性無孔質または多孔質であることが好ましい。また、前記ウレタンフィルムの厚さが15μm以下であることが好ましい。また、表地および裏地のうち少なくともどちらか一方において、透湿性が2000g/m・24h以上であることが好ましい。
【0009】
本発明の衣服において、前記合成繊維マルチフィラメントの引張強度が4.5cN/dtex以上であることが好ましい。また、前記合成繊維マルチフィラメントがリサイクル糸であることが好ましい。また、前記編物が、編密度が45~130コース/2.54cmかつ55~120ウエール/2.54cmの単層丸編地であることが好ましい。また、前記織物において、カバーファクターCFが1200~3000の範囲内であることが好ましい。また、表地と裏地のうち少なくともどちらか一方に非捲縮糸が含まれることが好ましい。また、表地と裏地のうち少なくともどちらか一方において、目付けが79g/m以下であることが好ましい。また、表地と裏地のうち少なくともどちらか一方において、生地の厚さが0.3mm以下であることが好ましい。また、表地と裏地のうち少なくともどちらか一方において、生地の伸縮性が10%以上であることが好ましい。また、表地と裏地との伸縮性の差が10%以上であることが好ましい。また、空気注入後における表地最外端から裏地最外端までの距離が、空気注入前における表地最外端から裏地最外端までの距離の10倍以上であることが好ましい。また、前記表地または裏地に空気注入口と空気排出口が独立して取り付けられている衣服であって、空気注入口に逆止弁が付いていることが好ましい。また、衣服の質量が150g/1品以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、表地と裏地とを部分的に接着し、空気の注入および排出が可能で衣服であって、軽量性、保温性、折り畳み性、着用快適性および外観にも優れた衣服が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の衣服において、表地と裏地とが、別生地を介して接着されている様子を模式的に示す図(断面図)である。
図2】本発明の衣服において、表地と裏地とを部分的に接着するパターンの一例である。
図3】表地最外端から裏地最外端までの距離Dを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。まず、本発明の衣服は、表地(外気側生地)と裏地(裏側生地)とが部分的に接着され、空気の注入および排出が可能な衣服である。表地と裏地とが部分的に接着されることにより、空気を注入後、表地と裏地との間に空気室が形成され保温性が向上する。
【0013】
ここで、衣服に空気を注入した後において、表地と裏地により凹凸が形成され、表地最外端から裏地最外端までの距離Dが1cm以上(好ましくは1~10cm)であることが、優れた断熱効果を得る上で好ましい。特に、衣服に空気を注入した後において、当該距離Dが、衣服に空気を注入する前の10倍以上であることが好ましい。
【0014】
凹凸を付与する方法としては、一方の生地面積を他方の生地面積よりも大きくする(すなわち、どちらか一方の生地にゆとりを持たせる。)とよい。その際、小さい側の生地面積対比1.3倍以上(より好ましくは1.4~2.0倍)であることが好ましい。特に、裏地の生地面積が表地の生地面積対比1.3倍以上(より好ましくは1.4~2.0倍)であると優れた保温性が得られ、また、シワ外観を呈し好ましい。また、生地にエンボス加工等によって、生地に物理的に凹凸を与える方法も好ましい。
【0015】
空気注入後において、表地の膨らみ量と裏地の膨らみ量とを異ならせることにより優れた断熱効果が得られ好ましい。特に、裏地の膨らみ量が表地の膨らみ量よりも大きいと優れた断熱効果が得られ好ましい。
【0016】
本発明の衣服において、相互に連通する複数に分割された空気室を形成していることが好ましい。特に表地と裏地とが、格子状、ジグザグ状、飛島状などパターン状に部分接着していると外観性が向上し好ましい。例えば、図2に示すようなパターンで表地と裏地と部分接着させると、シワ外観を呈することができ好ましい。その際、接着方法は特に限定されず、熱接着、接着剤を用いた化学接着などいずれでもよい。
【0017】
また、表地と裏地とを接着させる際、表地と裏地とは、図1に示すように別生地を介して接着すると、接着部にも空気層を確保でき断熱効果が向上し好ましい。
【0018】
本発明の衣服において、表地や裏地、さらには別生地を構成する布帛は、特に限定されないが、通気性があると空気が漏れて徐々に縮んでしまうため、通気性をなくした(または通気性が極めて小さい)樹脂フィルムをラミネートした布帛または樹脂コーティングした布帛(織物または編物)が好ましい。その際、透湿性が2000g/m・24h以上(好ましくは20000~200000g/m・24h、より好ましくは30000~100000g/m・24h)であることが好ましい。
【0019】
前記樹脂フィルムまたはコーティングされた樹脂としては、親水性無孔質または多孔質であることが好ましい。樹脂としては、ウレタン、ポリエステル、ポリカーボネート、フッ素系、アクリル系などが好ましい。樹脂フィルムまたはコーティングされた樹脂の厚さとしては、軽量性の点で15μm以下(好ましくは5~15μm)が好ましい。
【0020】
樹脂フィルムまたはコーティングされた樹脂は表地および裏地の両面に積層されていてもよいし、片面に積層されていてもよい。また、樹脂フィルムを接着する方法としては、接着剤を用いた方法や熱接着方法などが例示される。
【0021】
また、前記フィルムは透湿性を有するが、前記フィルムまたはコーティングされた樹脂は多孔質、透湿性を有するポリエステルを主成分とする無孔質フィルムでもよい。ポリエステルに透湿性を付与するには、特に限定されるものではないが、ポリエチレングリコールなどの吸湿性材料をポリエステルに共重合する方法が好ましい。必要に応じて、炭化ケイ素、酸化チタン、窒化チタン、窒化ホウ素、炭化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸カリウム、酸化亜鉛、アルミナ、ホウ酸アルミニウムなどの無機微粒子やアクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系などの有機微粒子、被膜強度を向上させるためには架橋剤、酸化防止剤、増粘剤など、色を付けるため着色ようの顔料などを添加することができる。
【0022】
前記表地または裏地を構成する繊維としては特に限定されず、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、さらには、綿、ウール、絹などの天然繊維やこれらを複合したものが使用可能であるが、特にポリエステル繊維またはナイロン繊維が好ましい。マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされた、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレートなど)やナイロンなども好ましい。また、特開2004-270097号公報や特開2004-211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルであってもよい。さらに前記ポリエステルには、必要に応じて、微細孔形成剤(有機スルホン酸金属塩)、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤(三酸化二アンチモン)、蛍光増白剤、着色顔料、帯電防止剤(スルホン酸金属塩)、吸湿剤(ポリオキシアルキレングリコール)、抗菌剤、その他の無機粒子の1種以上が含まれていてもよい。ポリエステルやナイロンを1成分とする複合繊維でもよい。
【0023】
前記繊維としては、非捲縮糸(非捲縮マルチフィラメント)でもよいし捲縮糸(仮撚捲縮加工糸など)でもよい。さらには、インターレース加工やタスラン(登録商標)加工が施された空気加工糸でもよい。
【0024】
特に、前記表地と裏地のうち少なくともどちらか一方(好ましくは表地と裏地の両方)に総繊度が44dtex以下(好ましくは5~35dtex)の合成繊維マルチフィラメントが含まれることが好ましい。特にかかる合成繊維マルチフィラメントが非捲縮糸であることが好ましい。
【0025】
前記合成繊維マルチフィラメントの総繊度が44dtexよりも大きい場合は軽量性や透湿性が損なわれるおそれがある。かかる合成繊維マルチフィラメントにおいて、単繊維繊度は特に限定されないが、単繊維繊度0.9~2.8dtexが好ましい。単繊維の本数は15~300本が好ましい。
【0026】
また、前記合成繊維マルチフィラメントにおいて、引張強度が4.5cN/dtex以上(より好ましくは5.5~10.0cN/dtex)であると、布帛の引裂き強力が向上し好ましい。なお、引張強度が4.5cN/dtex以上の繊維を得るには、例えば、特開2013-119689号公報や特公平5-18935号公報などに記載の製造方法により製造するとよい。
【0027】
また、前記繊維において、単繊維横断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平、くびれ付き扁平、中空など公知の断面形状でよい。
【0028】
布帛の織編組織は特に限定されないが、使用生地が編物の場合、軽量性およびソフトな風合いの点で平編(天竺)、鹿の子編、1×1天竺などの単層丸編地が好ましい。かかる単層丸編地の編密度としては45~130コース/2.54cmかつ55~120ウエール/2.54cmの範囲内であることが好ましい。かかる編地の製編方法としては、例えば、20ゲージ以上(好ましくは46~80ゲージ)のシングル丸編機を用いて製編することができる。
【0029】
また、使用生地が織物の場合、例えば、平織、綾織、朱子織等の三原組織、変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。層数は単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。特に、軽量性およびソフトな風合いの点で平織などの単層織物であることが好ましい。また、カバーファクターCFが1200~3000の範囲内であることが好ましい。ただし、カバーファクターCFは下記式により定義される。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
織物の製織方法は通常の織機(例えば、通常のウオータージェットルーム、エアージェットルーム、レピアルームなど)を用いた通常の製織方法でよい。
【0030】
前記布帛には、エンボス加工、染色加工、減量加工、起毛加工、撥水加工、蓄熱加工、吸汗加工などの後加工を適宜施してもよい。その際、染色に用いる染料は分散染料、カチオン性染料、酸性染料など特に限定されないが、カチオン性染料を用いる場合、カチオン性染料で染色可能な繊維を選択する必要があるため、より汎用性が高い分散染料を染色に用いるほうが好適である。また、撥水加工に用いられる撥水剤としては、パラフィン系撥水剤やポリシロキサン系撥水処理剤、フッ素系撥水処理剤、フッ素フリー撥水剤などの公知のものが使用でき、その処理も一般に行われているパディング法、スプレー法などの公知の方法で行えばよい。
【0031】
前記表地および/または裏地に、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸の合計濃度が0~5ng/gのフッ素系撥水剤、シリコーン系撥水剤、炭化水素系撥水剤などを用いて撥水加工を施してもよい。その際、JIS L1092-2009 7.2はっ水度試験(スプレー法)により撥水度(級)を測定して3級以上であることが好ましい。また、表地または裏地(好ましくは裏地)に無機の機能粒子を樹脂プリントしてもよい。
【0032】
かくして得られた表地および/または裏地は、透湿性、軽量性、ストレッチ性、薄さに優れる。その際、表地および/または裏地の目付けが79g/m以下(より好ましくは30~69g/m)であることが好ましい。表地および/または裏地の生地の厚さとしては0.3mm以下(より好ましくは0.1~0.3mm)であることが好ましい。
【0033】
ここで、前記表地と裏地のうち少なくともどちらか一方において、生地の伸縮性が10%以上であることが好ましい。また、前記表地と裏地との伸縮性の差が10%以上であることが好ましい。
【0034】
本発明の衣服において、表地と裏地の接着方法は特に限定されず、熱接着、接着剤を用いた化学接着などいずれでもよい。特に、表地と裏地とが、前記のように別生地を介して接着されていることが好ましい。
【0035】
本発明の衣服は、前記の構成を有するので、軽量性、保温性、折り畳み性に優れる。さらには、着用快適性(透湿性など)や外観(シワ外観など)にも優れる。
【0036】
ここで、衣服の質量としては、150g/1品以下(より好ましくは130g/1品以下、さらに好ましくは100g/1品以下、特に好ましくは50~80g/1品)であることが好ましい。
【0037】
なお、本発明の衣服には、空気注入口や栓を取り付けてもよい。前記表地または裏地に空気注入口と空気排出口が独立して取り付けられていて空気注入口に逆止弁が付いていてもよい。また、空気の注入は人力で口から吹き込んでもよいしエアーポンプを用いてもよい。
【実施例
【0038】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
<目付け>
JISL1096-2010 8.3により測定した。
<生地の厚さ>
JISL1096-2010 8.4により測定した。
<透湿性>
JISL1099-2012 B-1法により測定した。
<引張強度>
引張試験機を用いて、糸長25cm,引張速度200cm/minの条件で、室温で測定した。
<表地最外端から裏地最外端までの距離D>
衣服に空気注入後、図3に示す距離Dを、ノギスにより測定した。
【0039】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント非捲縮糸33dtex/36fil(引張強度5.5cN/dtex)を用いて、46ゲージの編み機を使用して天竺組織のシングル丸編地を製編した後、通常の染色工程にて染色し、次いで撥水加工を施した。その後、ポリウレタン系樹脂製の透湿性(親水性)無孔質ウレタンフィルム(厚さ14μm)を、ウレタン系接着剤を用いて前記丸編地のシンカーループ面にラミネーションすることにより2層構造布帛を得た(55コース/2.54cm、65ウエール/2.54cm、目付け65.2g/m、厚さ0.16mm、透湿性77500g/m・24h)。
【0040】
得られた2層構造布帛を裏地と表地に用い、裏地全体と表地全体との使用面積比率を(裏地:表地)1.5:1に設定し、部分的に接着した空気入り衣服(ベスト、74g/1品)を作製した。
【0041】
かかる空気入り衣服は、シワ外観を呈し外観に優れるものであった。次いで、空気を注入して着用したところ、軽量性、保温性、透湿性に優れるものであった。また、着用後空気を排出した後は、折り畳み性にも優れるものであった。
【0042】
[実施例2]
経糸として非捲縮糸11dtex/10fil(引張強度5.0cN/dtex、無撚のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント)を用い、緯糸として捲縮糸11dtex/12fil(引張強度4.4cN/dtex、無撚のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント)と33dtex/36fil(引張強度4.2cN/dtex、無撚のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント)とをこの順の質量比16:2で用い、経糸密度264本/2.54cm、緯糸密度151本/2.54cmの規格で製織した。次いで、通常の染色工程にて染色し、さらに撥水加工を施した。その後、ポリウレタン系樹脂製の透湿性(親水性)無孔質ウレタンフィルム(厚さ15μm)を、ウレタン系接着剤を用いて前記織地にラミネーションすることにより2層構造布帛を得た(目付け50.0g/m、厚さ0.13mm、透湿性55100g/m・24h)。
【0043】
得られた2層構造布帛を裏地と表地に用い、裏地全体と表地全体との使用面積比率を(裏地:表地)1.5:1に設定し、部分的に接着し複数の空気室のある空気入り衣服(ベスト)を作製した。
【0044】
かかる空気入り衣服はシワ外観を呈し外観に優れるものであった。次いで、空気を注入して着用したところ、軽量性、保温性、透湿性に優れるものであった。また、着用後空気を排出した後は、折り畳み性にも優れるものであった。
【0045】
[実施例3]
ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント非捲縮糸22dtex/24fil(引張強度4.3cN/dtex)を用いて、40ゲージの編機を使用してスムース組織のダブル丸編地を製編した後、通常の染色加工にて分散染料により紺色に染色し、次いで撥水加工を施した。その後、ポリウレタン系樹脂製の非透湿性無孔質ウレタンフィルムを、ウレタン系接着剤を用いて前記丸編地の片面にラミネーションすることにより多層構造布帛を得た(62コース/2.54cm、72ウエール/2.54cm、目付け80.0g/m、厚さ0.36mm、透湿性300g/m・24h)を得た。この生地を実施例1と同様に空気入り衣服を作製した。
【0046】
次いで、空気を注入して着用したところ、軽量性、保温性に優れるものであったが、透湿性が不十分であった。
【0047】
[実施例4]
経糸として非捲縮糸11dtex/10fil(引張強度5.0cN/dtex、無撚のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント)を用い、緯糸として捲縮糸11dtex/12fil(引張強度4.4cN/dtex、無撚のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント)と33dtex/36fil(引張強度4.2cN/dtex、無撚のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント)とをこの順の質量比16:2で用い、経糸密度264本/2.54cm、緯糸密度151本/2.54cmの規格で製織した。次いで、通常の染色工程にて染色し、さらに撥水加工を施した。その後、ポリウレタン系樹脂製の非透湿性無孔質ウレタンフィルム(厚さ15μm)を、ウレタン系接着剤を用いて前記織地にラミネーションすることにより2層構造布帛を得た(目付け50.0g/m、厚さ0.13mm、透湿性200g/m・24h)。この生地を実施例2と同様に空気入り衣服を作製した。
【0048】
次いで、空気を注入して着用したところ、軽量性、保温性に優れるものであったが、透湿性が不十分であった。
【0049】
[実施例5]
経糸として非捲縮糸11dtex/10fil(引張強度5.0cN/dtex、無撚のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント)を用い、緯糸として捲縮糸11dtex/12fil(引張強度4.4cN/dtex、無撚のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント)と33dtex/36fil(引張強度4.2cN/dtex、無撚のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント)とをこの順の質量比16:2で用い、経糸密度264本/2.54cm、緯糸密度151本/2.54cmの規格でリップ織物を製織した。次いで、通常の染色工程にて染色し、さらに撥水加工を施した。その後、親水性無孔質ウレタンフィルム(厚さ15μm)を、ウレタン系接着剤を用いて前記織地にラミネーションすることにより2層構造布帛を得た(目付け50.0g/m)。
【0050】
得られた2層構造布帛の裏地にエンボス加工を施し表地と接着することにより衣服(空気注入後における表地最外端から裏地最外端までの距離が2cmである。)を作製した。
【0051】
次いで、空気を注入し、着用したところ、軽量性、保温性に優れるものであった。また、着用後空気を排出した後は、折り畳み性にも優れるものであった。
【0052】
[実施例6]
ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント非捲縮糸33dtex/36filを用いて、46ゲージの編み機を使用して天竺組織のシングル丸編地を製編した後、通常の染色工程にて染色し、さらに撥水加工を施した。その後、ポリウレタン系樹脂製の親水性無孔質ウレタンフィルム(厚さ15μm)を、ウレタン系接着剤を用いて前記丸編地のシンカーループ面にラミネーションすることにより2層構造布帛を得た(目付け65.2g/m)。
【0053】
得られた2層構造布帛を裏地と表地に用い、裏地全体と表地全体との使用面積比率を(裏地:表地)1.5:1に設定し、別生地を介して接着することにより複数の空気室のある空気入り衣服(空気注入後における表地最外端から裏地最外端までの距離が5cmである。)を作製した。
【0054】
次いで、空気を注入して着用したところ、軽量性、保温性、透湿性に優れるものであった。また、着用後空気を排出した後は、折り畳み性にも優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、表地と裏地とを部分的に接着し、空気の注入および排出が可能で衣服であって、軽量性、保温性、折り畳み性、着用快適性および外観にも優れた衣服が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【符号の説明】
【0056】
1:裏地
2:表地
3:別生地
図1
図2
図3