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特許7184906トルクコンバータ用ロックアップクラッチ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】トルクコンバータ用ロックアップクラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16H 45/02 20060101AFI20221129BHJP
【FI】
F16H45/02 X
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020541130
(86)(22)【出願日】2019-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2019032988
(87)【国際公開番号】W WO2020050056
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-02-12
(31)【優先権主張番号】P 2018164115
(32)【優先日】2018-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000178804
【氏名又は名称】ユニプレス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088731
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】古屋 暢彦
(72)【発明者】
【氏名】森 竜太
(72)【発明者】
【氏名】多功 光良
(72)【発明者】
【氏名】中原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】麻生 幸志
(72)【発明者】
【氏名】臼井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 拓実
(72)【発明者】
【氏名】石川 靖浩
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/049741(WO,A1)
【文献】特開2002-195378(JP,A)
【文献】特表2008-538232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータのインペラシェルと、インペラシェルに固定され、原動機出力軸と一体回転されるカバーとで画成されると共に動力伝達油が循環される閉塞室内に配置され、原動機出力軸の回転を、トルクコンバータを迂回させて変速機入力軸側に伝達するトルクコンバータ用ロックアップクラッチであって、
ピストン、
カバーと一体回転する第1の摩擦板、
変速機入力軸側に一体回転可能に連結され、第1の摩擦板と軸方向に対向位置し、常態では第1の摩擦板と非締結状態である第2の摩擦板、
カバーと一体回転し、ピストンの片面に形成され、その油圧がピストンを駆動して第1の摩擦板と第2の摩擦板を摩擦締結状態とするように付勢する環状油圧室、
カバーと一体回転し、筒形状をなし、ピストンをその内周部において軸方向摺動自在に案内し、かつ環状油圧室を油圧源に連通させる油孔を形成し,かつ原動機側端部が閉鎖した有底形状をなしたピストン案内部材、
カバーとピストン案内部材との固定のためのカバーの開口部とピストン案内部材の外周部との間の全周溶接部、
ピストン及びピストン案内部材に密着するシールリング、
カバーと一体回転し、環状に形成され、ピストン、シールリング及び第1、第2の摩擦板を挟んでカバーと対峙して設けられ、カバーとの協働により、油圧室の油圧によるピストン駆動時の第1、第2の摩擦板間の摩擦締結反力を受容する摩擦締結反力受容部材、及び、
円周方向に間隔をおいて複数設けられ、カシメによりピストン案内部材と摩擦締結反力受容部材との固定を行なう締結具、
を具備して成り、ピストン案内部材と摩擦締結反力受容部材との固定のための締結具による前記カシメはピストン案内部材とカバーとの直接的固定には関与しないが、全周溶接によりカバーに固定されるピストン案内部材を介して、前記カシメが摩擦締結反力受容部材カバーに対する固定に関与するトルクコンバータ用ロックアップクラッチ。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、前記締結具は、ピストン案内部材及び摩擦締結反力受容部材に形成されるリベット孔に挿入されるリベットであるトルクコンバータ用ロックアップクラッチ。
【請求項3】
請求項2に記載の発明において、リベットの頭部はカバー側に位置するトルクコンバータ用ロックアップクラッチ。
【請求項4】
請求項2若しくは3のいずれか一項に記載の発明において、前記締結具は、ピストン案内部材に設けられ、カバーと離間方向への突起状の一体成形部であり、この突起状の一体成形部はセパレータのリベット孔に挿入されるトルクコンバータ用ロックアップクラッチ。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載の発明において、摩擦締結反力受容部材は、外周の軸方向筒状張出部において、ピストンの外周とシールリングを介し摺動するようにされ、ピストン及びピストン案内部材とで油圧室を画成するセパレータであり、ピストンは油圧室の油圧によりカバーに向け駆動されることにより、摩擦締結力を発揮するようにされるトルクコンバータ用ロックアップクラッチ。
【請求項6】
トルクコンバータのインペラシェルと、インペラシェルに固定され、原動機出力軸と一体回転されるカバーとで画成されると共に動力伝達油が循環される閉塞室内に配置され、原動機出力軸の回転を、トルクコンバータを迂回させて変速機入力軸側に伝達するトルクコンバータ用ロックアップクラッチであって、
ピストン、
カバーと一体回転する第1の摩擦板、
変速機入力軸側に一体回転可能に連結され、第1の摩擦板と軸方向に対向位置し、常態では第1の摩擦板と非締結状態である第2の摩擦板、
カバーと一体回転し、ピストンの片面に形成され、その油圧がピストンを駆動して第1の摩擦板と第2の摩擦板を摩擦締結状態とするように付勢する環状油圧室、
カバーと一体回転し、筒形状をなし、ピストンをその内周部において軸方向摺動自在に案内し、かつ環状油圧室を油圧源に連通させる油孔を形成したピストン案内部材、
ピストン及びピストン案内部材に密着するシールリング、
カバーと一体回転し、環状に形成され、ピストン、シールリング及び第1、第2の摩擦板を挟んでカバーと対峙して設けられ、カバーとの協働により、油圧室の油圧によるピストン駆動時の第1、第2の摩擦板間の摩擦締結反力を受容する摩擦締結反力受容部材、及び、
円周方向に間隔をおいて複数設けられ、カシメによりピストン案内部材と摩擦締結反力受容部材との固定を行なう締結具、
を具備して成り、カバーとピストン案内部材とは固定されており、締結具による前記カシメがピストン案内部材を介し摩擦締結反力受容部材をカバーに対して固定し、ピストン案内部材は原動機側端部が閉鎖した有底形状をなし、前記密閉空間を形成しかつカバーとピストン案内部材との前記固定を行うべくカバーの開口部とピストン案内部材の外周部との間の全周溶接部を備え、変速機入力軸の原動機出力軸側端部は開放端側よりピストン案内部材の内部空間に延出され、変速機入力軸の原動機出力軸側端部とピストン案内部材対抗内面間に配置される密封部材を備えており、内部空間は密封部材よりカバー側の第1室と、変速機入力軸側の第2室とに区画されていると共に、ピストン案内部材は円周方向に間隔をおいて複数の作動油孔と複数のトルクコンバータ油孔を備え、作動油孔は前記第1室を油圧室に連通させ、トルクコンバータ油孔は第2室を閉塞室のクラッチユニットの近接部位に連通させるトルクコンバータ用ロックアップクラッチ。
【請求項7】
トルクコンバータのインペラシェルと、インペラシェルに固定され、原動機出力軸と一体回転されるカバーとで画成されると共に動力伝達油が循環される閉塞室内に配置され、原動機出力軸の回転を、トルクコンバータを迂回させて変速機入力軸側に伝達するトルクコンバータ用ロックアップクラッチであって、
ピストン、
カバーと一体回転する第1の摩擦板、
変速機入力軸側に一体回転可能に連結され、第1の摩擦板と軸方向に対向位置し、常態では第1の摩擦板と非締結状態である第2の摩擦板、
カバーと一体回転し、ピストンの片面に形成され、その油圧がピストンを駆動して第1の摩擦板と第2の摩擦板を摩擦締結状態とするように付勢する環状油圧室、
カバーと一体回転し、筒形状をなし、ピストンをその内周部において軸方向摺動自在に案内し、かつ環状油圧室を油圧源に連通させる油孔を形成したピストン案内部材、
ピストン及びピストン案内部材に密着するシールリング、
カバーと一体回転し、環状に形成され、ピストン、シールリング及び第1、第2の摩擦板を挟んでカバーと対峙して設けられ、カバーとの協働により、油圧室の油圧によるピストン駆動時の第1、第2の摩擦板間の摩擦締結反力を受容する摩擦締結反力受容部材、及び、
円周方向に間隔をおいて複数設けられ、カシメによりピストン案内部材と摩擦締結反力受容部材との固定を行なう締結具、
を具備して成り、カバーとピストン案内部材とは固定されており、締結具による前記カシメがピストン案内部材を介し摩擦締結反力受容部材をカバーに対して固定し、ピストン案内部材は原動機側端部が閉鎖した有底形状をなし、前記密閉空間を形成しかつカバーとピストン案内部材との前記固定を行うべくカバーの開口部とピストン案内部材の外周部との間の全周溶接部を備えたトルクコンバータ用ロックアップクラッチにおけるピストン案内部材と摩擦締結反力受容部材との固定方法であって、
ピストン案内部材から締結具の先端をカバー離間側に突出させた状態において、カバーの開口部とピストン案内部材の外周部との全周溶接を行い、次いで、相対位置させた第1の摩擦板と第2の摩擦板をカバーとピストン間に位置させつつ締結具の先端をセパレータのリベット孔に挿入し、その後、セパレータから突出する締結具の先端部のカシメを行なうことでピストン案内部材とセパレータとを固定するトルクコンバータ用ロックアップクラッチにおけるピストン案内部材とセパレータとの固定方法。
【請求項8】
請求項に記載の発明において、締結具はリベットであり、ピストン案内部材のリベット孔に頭部がピストン案内部材に当接し先端部がセパレータ側に突出するように圧入されるトルクコンバータ用ロックアップクラッチにおけるピストン案内部材とセパレータとの固定方法。
【請求項9】
ピストンと、
インペラシェルに固定され、中心に開口部を有したカバーと一体回転する第1の摩擦板と、
第1の摩擦板と対向位置する第2の摩擦板と、
ピストンをその内周部において軸方向摺動自在に案内し,かつ原動機側端部が閉鎖した有底形状をなすピストン案内部材と、
ピストン及びピストン案内部材に密着するシールリングと、
ピストン、シールリング及び第1、第2の摩擦板を挟んでカバーに対峙して設けられた摩擦締結反力受容部材と、
ピストン案内部材に設けられた孔及び摩擦締結反力受容部材に設けられた孔に挿入された締結具と、
を有するトルクコンバータ用ロックアップクラッチの製造方法であって、
カバーを中心開口部においてピストン案内部材に全周溶接し、
ピストン案内部材に設けられた孔及び摩擦締結反力受容部材に設けられた孔に締結具が挿入され、且つ、カバーと摩擦締結反力受容部材との間にピストン、シールリング及び第1、第2の摩擦板が挟まれた状態で、前記締結具をカシメてピストン案内部材と摩擦締結反力受容部材との固定を行い、カシメはピストン案内部材とカバーとの直接的固定には関与しないが、全周溶接によりカバーに固定されたピストン案内部材を介してカシメは摩擦締結反力受容部材のカバーに対する固定に関与するトルクコンバータ用ロックアップクラッチの製造方法。
【請求項10】
ピストンと、
インペラシェルに固定されたカバーと一体回転する第1の摩擦板と、
第1の摩擦板と対向位置する第2の摩擦板と、
ピストンをその内周部において軸方向摺動自在に案内するピストン案内部材と、
ピストン及びピストン案内部材に密着するシールリングと、
ピストン、シールリング及び第1、第2の摩擦板を挟んでカバーに対峙して設けられた摩擦締結反力受容部材と、
ピストン案内部材に設けられた孔及び摩擦締結反力受容部材に設けられた孔に挿入された締結具と、
を有するトルクコンバータ用ロックアップクラッチの製造方法であって、
ピストン案内部材に設けられた孔及び摩擦締結反力受容部材に設けられた孔に締結具が挿入され、且つ、カバーと摩擦締結反力受容部材との間にピストン、シールリング及び第1、第2の摩擦板が挟まれた状態で、前記締結具をカシメてピストン案内部材と摩擦締結反力受容部材とを固定し、
前記締結具をカシメてピストン案内部材と摩擦締結反力受容部材とを固定する工程よりも前の工程において、
締結部の頭部のピストン案内部に設けられた孔に圧入した後に締結部の頭部とカバーとを当接させた状態でカバーにピストン案内部を固定する、トルクコンバータ用ロックアップクラッチの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の発明において、
カバーにピストン案内部を固定した後にシールリングをピストン案内部と密着させる、トルクコンバータ用ロックアップクラッチの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はトルクコンバータ用ロックアップクラッチ、特に、リベットを利用したピストン案内部材(パイロット)の固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータのロックアップ装置として、独立の油圧源を使用した交互配置の複数の円盤状のドライブプレート及びドリブンプレートを有した多板式クラッチを採用したものが知られている。この種のロックアップ装置においては、クラッチ板の駆動用のピストンは、環状に形成され、回転軸と同軸のピストン案内部材上を油密状態を確保しつつ軸方向摺動自在に取り付けられ、かつピストン案内部材はピストン駆動用の油圧の導入孔を備えている。ピストン案内部材は、クラッチの締結力に対して十分耐えられるように、カバーに対して回転方向及び軸方向の双方において強固に固定されている必要があり、そのための固定手段としてピストン案内部材の円周方向に複数のリベットを配置し、かつ溶接を採用している(特許文献1)。特許文献1の技術では、リベットはピストン案内部材の外周部(フランジ部)を挟んでピストンに対峙するクラッチ受板を介してピストン案内部材に挿入され、ピストン案内部材からのリベットの先端がカバー対向面に溶接される。カバーに対しリベットをその端面にて溶接するという構成からして、特許文献1に直接的な記載は欠如するが溶接方式としてプロジェクション溶接を採用していると考えられる。
【0003】
カバーに対するピストン案内部材のプロジェクション溶接による固定方式については、特許文献1と同一出願人に係る特許文献2に詳細な記載がある。
また、本発明の実施において関連する有底筒形状のピストン案内部材を備え、カバーが中心に開口部を有し、ピストン案内部材の外周とカバーとを開口部に沿って全周溶接し、かつクラッチ締結時にピストンを油圧によりカバーに向けて駆動する構成については特許文献3に記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2009/049741号公報
【文献】特開2008-538232号公報
【文献】特許第5835391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プロジェクション溶接は電気抵抗による発熱を被溶接部位に集中させて実施するもので相当な高温の発生を伴うものである。このような高温は、熱伝導による、ピストン案内部材とピストンとの摺動部に油密確保のため設置される熱的に脆弱な部品であるシールリングに対する損傷の懸念から、シールリングの熱的損傷防止対策を必須とする。シールリングの熱的損傷防止対策として、リベット径をリベット孔径に対して小さくすることにより隙間を設け、シールリングへの熱伝導を遮断若しくは軽減することが考えられるが、このような対策は、カバーに対するピストン案内部材の必要溶接固定強度を確保するためリベット本数の増大やピストン案内部材におけるリベット装着部におけるピストン案内部材外径の増大等を必要とする不利益(部品点数の増大、製造工数の増大、トルクコンバータの大型化)を伴う結果となる。
【0006】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、リベットを使用した締結構造にかかわらず上述の問題点を伴うことなくカバーに対するピストン案内部材の強固な固定状態を確保し得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トルクコンバータのインペラシェルと、インペラシェルに固定され、原動機出力軸と一体回転されるカバーとで画成されると共に動力伝達油が循環される閉塞室内に配置され、原動機出力軸の回転を、トルクコンバータを迂回させて変速機入力軸側に伝達するトルクコンバータ用ロックアップクラッチに関するものであり、
ピストン、
カバーと一体回転する第1の摩擦板、
変速機入力軸側に一体回転可能に連結され、第1の摩擦板と軸方向に対向位置し、常態では第1の摩擦板と非締結状態である第2の摩擦板、
カバーと一体回転し、ピストンの片面に形成され、その油圧がピストンを駆動して第1の摩擦板と第2の摩擦板を摩擦締結状態とするように付勢する環状油圧室、
カバーと一体回転し、筒形状をなし、ピストンをその内周部において軸方向摺動自在に案内し、かつ環状油圧室を油圧源に連通させる油孔を形成したピストン案内部材、
ピストン及びピストン案内部材に密着するシールリング、
カバーと一体回転し、環状に形成され、ピストン、シールリング及び第1、第2の摩擦板を挟んでカバーと対峙して設けられ、カバーとの協働により、油圧室の油圧によるピストン駆動時の第1、第2の摩擦板間の摩擦締結反力を受容する摩擦締結反力受容部材及び
円周方向に間隔をおいて複数設けられ、カシメによりピストン案内部材と摩擦締結反力受容部材との固定を行なう締結具、
を具備して構成される。
【0008】
ピストンは油圧室の油圧によりカバーに向け駆動されることにより、摩擦締結力を発揮するように構成することができる。この場合、ピストンと外周においてシールリングにより油密に摺動自在な筒状部材であり、ピストン及びピストン案内部材とで油圧室を形成するセパレータが設けられ、セパレータは本発明の摩擦締結反力受容部材として機能する。
【0009】
締結具としては、リベットにより構成することができ、カバー側よりピストン案内部材及びセパレータに圧入され、セパレータからの突出端のカシメを行い、これによりカバーに対するピストン案内部材及びセパレータの強固な固定状態を得ることができる。
【0010】
ピストン案内部材はエンジン側端部が閉鎖した形状をなし、前記密閉空間を形成するべくカバーの開口部とエンジン側端部を全周にての溶接構造とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
カシメによる固定化のため、ピストン案内部材のピストン摺動部に設置されるシール部材の熱劣化の懸念がなく、ピストン案内部材に対して締結具は無隙間とすることができるため、リベットを使用した締結構造にかかわらずリベット径及びリベット総数を増やすことなく、むしろ、より少ないリベット総数でかつより小径のリベットで、かつピストン案内部材径をそのままに、また、たとえピストン案内部材径を縮小させたとしても、ピストン案内部材(パイロット)と摩擦締結反力受容部材(セパレータ)との強固な固定状態を得ることができ、部品コスト及び工程コストの増大を防止し、トルクコンバータの大型化を防止することが可能となる。即ち、ピストン、シールリング及び第1、第2の摩擦板を挟んでカバー対峙して設けられた摩擦締結反力受容部(セパレータ)とすることにより、摩擦締結反力受容部(セパレータ)で他の部材(ピストン、シールリング等)を挟み込んで固定することになるが、このときに従来のように、摩擦締結反力受容部(セパレータ)とピストン案内部材(パイロット)との固定(接合)に溶接という熱を用いる方法を用いると、摩擦締結反力受容部(セパレー夕)又はピストン案内部材(パイロット)を介して熱がシールリングに伝達され得、その損傷等の前述の問題点が生じ得た。これに対し、本発明のように熱を用いないカシメという方法で固定することにより、熱がシールリングに伝達されることなく、しかも強固な固定状態を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1はこの発明のトルクコンバータの縦断面図であり、軸中心線A-Aの上半分を示している。
図2図2はこの発明のトルクコンバータの縦断面図であり、軸中心線A-Aの下半分を示している。
図3図3はパイロットの正面図(図5のIII方向矢視図)である。
図4図4はパイロットの背面図(図5のIV方向矢視図)である。
図5図5はパイロットの縦断面図(図4のV-V線に沿って表される矢視断面図)である。
図6図6はパイロットの別の縦断面図(図4のVI-VI線に沿って表される矢視断面図)である。
図7図7はセパレータの正面図である。
図8図8はセパレータの縦断面図(図7のVIII-VIII線に沿って表される矢視断面図)である。
図9図9はこの発明の第1の実施形態におけるロックアップクラッチの組み立て工程(a)、(b)、(c)の説明図である。
図10図10図9に後続する工程(d)、(e)の説明図である。
図11図11は別実施形態におけるこの発明のロックアップクラッチの組み立て工程(a)、(b)の説明図である。
図12図12図11に後続する工程(c)、(d)の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1及び図2はトルクコンバータを軸中心に沿った断面を2分割(図1は中心線A-Aの上側、図2は中心線A-Aの下側)にて示しており、以下図1及び図2を参照するときはトルクコンバータ全体図と称するものとする。カバー10にインペラシェル12が溶接(溶接部を15にて示す)により固定され、カバー10及びインペラシェル12内により形成される閉塞室13内に、トルクコンバータの周知の基本的構成要素であるポンプインペラ14、タービンシェル15、タービンブレード16、ステータ18、ワンウエイクラッチ20に加え、トーショナルダンパ22及びロックアップクラッチ24が配置される。閉塞室13にはトルクコンバータ油が循環されるようにされ、トルクコンバータ油はロックアップクラッチの後述クラッチパックの潤滑及び冷却ためのクラッチ油も兼ねている。
【0014】
カバー10はこの実施形態においては、軸中心に開口部10-1を形成しており、この開口部10-1において、後述のパイロット(48)が全周にて溶接(溶接部52)されることで、閉塞室13の油密を確保するようになっている。
【0015】
閉塞室13の中心部にはダンパ
ブ25が配置され、ダンパハブ25のボス部25-4上にタービンハブ26が嵌合される。ダンパハブ25は軸中心にスプライン孔25-1を形成しており、このスプライン孔25-1に変速機入力軸27の端部のスプライン27-1が嵌合される。他方、カバー10のエンジン本体側外面にボスナット28が溶接固定され、ボスナット28に、エンジン(本発明の原動機)のクランク軸に連結される図示しないドライブプレートが図示しないボルトにて固定され、カバー10はエンジンのクランク軸と共に一体回転する。周知のように、変速機入力軸27は、先端がワンウエイクラッチ20のインナーレース20-1のスプライン孔20-1aにスプライン嵌合されるステータシャフト29を挿通されている。スプライン孔20-1a に嵌合されるステータシャフト29の外周スプラインを29-1にて示す。
【0016】
トーショナルダンパ22は、この実施形態においては、ドライブプレート30と、サブプレート31と、ハブプレート32と、コイルスプリング33とを備える。ドライブプレート30は、外周において、リベット34によりサブプレート31に連結される。ドライブプレート30及びサブプレート31は、後述のように、ロックアップクラッチ24側に連結される。ドライブプレート30とサブプレート31とは、周知のように、夫々が軸方向に正対し、互いに反対方向に張り出した成形部30-1, 31-1よりなるコイルスプリング収容部37を円周方向に離間して複数形成し、入出力間での相対回転が無い中立状態においては、各コイルスプリング収容部37内にコイルスプリング33が設定荷重にて収容位置される。ハブプレート32は、これも周知の構造であるが、その内周における円周方向突起32-1が、ダンパハブ25の外周の円周方向溝25-2に係合されることで、変速機入力軸側に回転連結される。ハブプレート32は、外周において、円周方向に離間し、夫々が、円周方向に隣接するコイルスプリング33の端部間を半径方向に延設される駆動部32-2を有している。回転変動の無い中立状態では各コイルスプリング33は対応のコイルスプリング収容部37と一致した回転角度に位置され、各コイルスプリング33にセット荷重がかかる。トーショナルダンパ22は、コイルスプリング33の弾性変形によりエンジンの回転変動の吸収のための動作を行なう。即ち、中立状態からのエンジンの回転変動の方向に応じて、各コイルスプリング収容部37(成形部30-1, 31-1)において、ハブプレート32の駆動部32-2はその回転変動方向において対向したコイルスプリング収容部37の端部との間でコイルスプリング33を圧縮により弾性変形させ、弾性力による回転変動の吸収というそれ自体は周知の機能を達成する。尚、サブプレート31は、リベット35によって、タービンシェル15と共にダンパハブ26に連結されている。リベット34は鋼材、アルミニューム、その他の延性を具有する適切な金属素材よりなり、その拡径頭部を53-1にて示す。
【0017】
ロックアップクラッチ24は、クラッチパック36、外側クラッチドラム38(リベット39によりドライブプレート30に連結される)、内側クラッチドラム40、環状のピストン42、円周方向に離間して複数設けられたリターンスプリング44、環状板形状をなすセパレータ46(本発明の摩擦締結反力受容部材)、パイロット48(本発明のピストン案内部材)、及びピストン42とセパレータ46とパイロット48とで形成される油圧室50を備える。パイロット48は、ピストン42の内周において軸方向摺動自在に案内する機能を有するが、この実施形態においては、前端部48-1が閉鎖した有底筒形状(図5及び図6参照)をなし、パイロット48は、閉塞室13におけるトルクコンバータ油の密封確保のため、カバー10の軸中心の前記開口部10-1に全周にて溶接される。この溶接部を符号52にて示す。パイロット48は後端側の筒状部48-2はダンパハブ25の環状凹部25-3にシールリング54(図5及び図6の筒状部48-2に形成される溝48-7がシールリング54の装着溝となる)を介して挿入され、かつパイロット48とダンパハブ25との軸方向の対向面間にはスラストベアリング56が配置される。パイロット48の筒状部48-2は、外周にフランジ部48-3を形成しており、このフランジ部48-3にセパレータ46がリベット53(この実施形態の締結具)のカシメにより固定されている。図3及び図4に示すように、パイロット48のリベット孔70は円周方向に等間隔に8個形成されている。図5に示すように、パイロット48のフランジ部48-3に形成されるこのリベット孔70は前端(トルクコンバータ全体図のカバー10側端部)が拡径された段付形状に形成される。パイロット48のフランジ部48-3に形成される各リベット孔70に芯合するようにセパレータ46はリベット孔47を備えており、このリベット孔47も、図7に示すように、円周方向に等間隔に離間して8個形成される。
【0018】
トルクコンバータ全体図に示すように、リベット53はカバー10側よりフランジ部48-3のリベット孔70を及びセパレータ46のリベット孔47に圧入される。リベット53の頭部53-1はリベット孔70の入口側の拡径部70-1(図5)の底面に突き当るためリベット53のそれ以上の圧入は阻止されるようになっている。リベット53の頭部53-1はカバー10の対向内面に当接され、他方、セパレータ46からの突出部がカシメられ(カシメ後の拡径部を53-3にて示す)、セパレータ46のパイロット48に対する強靭な固定が実現される。カシメによるこの固定方法については後述する。セパレータ46のリベット孔47は、後面側に、カシメ後のリベットの拡径部分53-3を収容する凹部47-1を備える(図8も参照)。図5及び図6に示すように、パイロット48はフランジ部48-3の前面側においてカバー10の中心開口10-1の挿入部となる筒状部48-4を形成しており、筒状部48-4はカバー10の肉厚分だけフランジ部48-3から前方に突出しており、ロックアップクラッチ組み立て時にカバー10を装着したとき、カバー10とパイロット48の溶接部が面一となるようになっている。また、パイロット48は、フランジ部48-3の後面側の筒状部48-2がフランジ部48-3 に近接部位で幾分拡径しており、この拡径部48-2aがロックアップ組み立て状態においてセパレータ46の中心孔46-2の挿入部となる。
【0019】
トルクコンバータ全体図に示すようにクラッチパック36は、複数枚の環状板形状のドライブディスク58と、隣接するドライブディスク58間に配置された環状板形状のドリブンディスク60と、ドライブディスク58に対向してドリブンディスク60の両面に形成された摩擦材より成るクラッチフエーシング62(ドライブディスク58とで本発明の第1の摩擦板を構成すると共にドリブンディスク60とで本発明の第2の摩擦板を構成する)とを備える。ドライブディスク58は、内周の円周方向に離間した突部58-1が、夫々、内側クラッチドラム40の外周に、夫々が長手方向に延設され、円周方向に等間隔に形成された案内溝40-1に嵌合され、これによりドライブディスク58は、内側クラッチドラム40、即ちカバー10と一体回転するが、長手方向には摺動自在となっている。内側クラッチドラム40は前側端部は環状の断面略L状部40-2を有しており、この断面L状部40-2はカバー10の対向した筒状凹部10-2に圧入溶接することにより固定され、また、クラッチ油ともなるトルクコンバータ油のための油孔40-3を備える。カバー10と最近接側のドライブディスク58はカバー10に形成された環状突部10-3と正対位置しており、クラッチ締結時に、セパレータ46との協働により、クラッチ締結反力を受け止めることができる。ドリブンディスク60は、外周の円周方向に離間した突部60-1が、夫々、外側クラッチドラム38の内周に、夫々が長手方向に延設され、円周方向に間隔を複数形成された案内溝38-1に嵌合され、これによりドリブンディスク60は、外側クラッチドラム38と一体回転するが、長手方向に摺動自在となっている。また、外側クラッチドラム38は、上述のように、変速機入力軸27側の部品であるトーショナルダンパ22のサブプレート31にリベット39によって連結されている。クラッチパック36は、通常時は、リターンスプリング44が、ピストン42をカバー10離間方向に付勢し、ピストン42は当接部42-3において、セパレータ46と当接し、ドライブディスク58とクラッチフエーシング62との間に存在するクラッチ油としてのトルクコンバータ油の油膜によって非締結状態となる。油圧室50へのピストン作動油の導入により、ピストン42がリターンスプリング44に抗してカバー10に向け移動され(トルクコンバータ全体図において左行され)、クラッチパック36はピストン42の筒状駆動部42-1とカバー10の環状突部との間に挟着され、ドライブディスク58とドリブンディスク60とはクラッチフエーシング62を介して係合され、ロックアップクラッチ24は締結状態となる。このように、本発明の実施形態においては、ロックアップクラッチ24を締結状態とするため、ピストン42はカバー10に向かって移動し、この点において特許文献3と同様であり、特許文献1及び2において、締結状態がカバー10から離間方向のピストンの移動で得られることと相違する。
【0020】
ピストン42は、内周側においてはパイロット48の外周におけるフランジ部48-3にシールリング64を介して軸方向に摺動自在に嵌合され、外周側においてはシールリング66を介してセパレータ46の外周の軸方向筒状張出部46-1(図8も参照)にシールリング68を介して挿入される。ロックアップクラッチ24を締結状態とするカバー10に向けてのピストン42の移動は、ピストン42とセパレータ46とパイロット48とで形成される油圧室50への作動油圧の導入により行なわれる。
【0021】
パイロット48は油圧室50への作動油のための通路孔を備えると共に、トルクコンバータ油のための通路孔を備え、更には、セパレータ46の固定のためのリベット53の圧入孔を備えている。パイロット48のこれらの孔構造に関し説明すると、パイロット48の外周におけるフランジ部48-3に、リベット53の圧入のためのリベット孔70が図3及び図4に示すように円周方向に等間隔に8個形成される。図5及び図6に示すように、パイロット48は前端部が閉塞された中心孔48-6を備えており、中心孔48-6の開放端面側の内周面48-6aはテーパ面をなしており、このテーパ面48-6aにトルクコンバータ油孔72が開口している。トルクコンバータ油孔72も、図3に示すように円周方向に等間隔に8個形成される。トルクコンバータ油孔72は、図5及び図6に示すように、パイロット48の前端部48-1に向けて外周側に傾斜しながら延設され、フランジ部48-3の前面における凹部48-3a(図3)において夫々のリベット孔70に円周方向に近接して開口しており、この開口部位はトルクコンバータ全体図においては、Pにて示され、ピストン42の内周外面がカバー10と対向する部位であり、パイロット48のトルクコンバータ油孔72と閉塞室13とのトルクコンバータ油の流通が可能となる。ロックアップクラッチ作動油孔74の数も8個であり(図4)、ロックアップクラッチ作動油孔74は、図6に示すように、パイロット48の内周孔からパイロット48の後端面側に向けて外周側に傾斜(パイロット48の内側孔から外周に向けての傾斜は油孔72と同じであるが、後端面側に向いている点で前端面側に向いている油孔72とは反対方向の傾斜)しながら延設され、フランジ部48-3の後面における凹部48-3bにおいて、夫々のリベット孔70に円周方向に近接して開口しており、この開口位置(トルクコンバータ全体図においてQにて示す)はトルクコンバータ全体図における油圧室50の内周部であり、油圧室50に対するロックアップクラッチ作動油の流通が可能となる。トルクコンバータ全体図において、パイロット48の中心孔48-6の内周面に対するトルクコンバータ油孔72の開口部に対して、ロックアップクラッチ作動油孔74の開口部はパイロット48の閉鎖前端48-1側に離間しており、これらの開口部間にシールリング76が装着されており、変速機入力軸27の前端部27-2がシールリング76を超えて延びてきており、シールリング76の前方の作動油圧空間78とシールリング76の後方のトルクコンバータ油空間80とが分離形成される。そして、作動油圧空間78には変速機入力軸27の中心油通路82が開口すると共に、ロックアップクラッチ作動油孔74が開口する。また、トルクコンバータ油空間80にはトルクコンバータ油孔72が開口する。シールリング76の装着溝を図5図6で48-8にて示す。
【0022】
次に、本発明実施形態において、トルクコンバータ油の循環流を説明すると、トルクコンバータ油については、ステータシャフト29の外側の環状通路を矢印f1のように流入され、ステータシャフト29よりダンパハブ25のスプライン孔25-1を矢印f2のように通過し、トルクコンバータ油空間80に流入される。トルクコンバータ油空間80から、油孔72に流入され(矢印f3)、油孔72から矢印f4 のようにクラッチパック36を経て、閉塞室13を充満させ、トルクコンバータへのトルクコンバータ油の供給も行なわれる。トルクコンバータからは矢印f5のように流入側とは反対側(流入側(矢印f1側)とは図示しない手段により分離されている)のステータシャフト29の外側の環状通路に戻される(矢印f6)。
【0023】
ロックアップクラッチ作動油については、変速機入力軸27は、前述のように、軸中心に作動油孔82を有しており、作動油孔82は作動油圧空間78に開口しており、作動油圧空間78はパイロット48の油孔74を介して油圧室50に開口しており、作動油圧をピストン42に印加することができる。
【0024】
本発明のロックアップクラッチ24の動作は通常のそれと同様であり、非ロックアップ動作時は油圧室50の作動油圧は低いため、リターンスプリング44によってピストン42はセパレータ46に当接位置され、このとき、クラッチパック36はドライブディスク58とドリブンディスク60上のクラッチフエーシング62間の油膜により非締結状態をとなり、エンジンのクランク軸の回転はトルクコンバータによる流体動力伝達下で変速機入力軸27に伝達される。即ち、カバー10よりインペラシェル12に伝達され、ポンプインペラ14の回転により生じた作動油の流れはステータ18を介してタービンブレード16に導かれ、ポンプインペラ14に循環される。このような作動油の循環流により生じたタービンブレード16の回転は、タービンシェル15、トーショナルダンパ22のサブプレート31及びドライブプレート30、コイルスプリング33、ハブプレート32,ダンパハブ25を介して、変速機入力軸27に伝達される。
【0025】
ロックアップ動作時には、作動油が変速機入力軸27の軸中心の油孔82、パイロット48の油孔74を介して油圧室50に導入され、油圧室50の作動油圧は高められ、リターンスプリング44に抗してピストン42は、カバー10に向けて駆動され、クラッチパック36はドライブディスク58とドリブンディスク60上のクラッチフエーシング62間とは係合され、クラッチパック36は締結状態となる。クラッチの締結は、直接的には、ピストン42とカバー10との間でクラッチパック36が摩擦下で挟着されることにより行なわれるが、この際のクラッチの締結反力は、カバー10の突起部10-3とセパレータ46との協働により受け止められる。即ち、クラッチの締結反力は、クラッチパック36の片側はカバー10の突起部10-3により受け止められ、クラッチパック36の反対側はピストン50及び油圧室50を介してセパレータ46によって受け止められる。クラッチの締結により、エンジンのクランク軸の回転はカバー10より、ロックアップクラッチ24の内側ドラム40、クラッチパック36、外側クラッチドラム38に伝われ、外側クラッチドラム38よりトーショナルダンパ22のドライブプレート30、コイルスプリング33、ハブプレート26を介してダンパハブ25、即ち変速機入力軸27に伝達される。このとき、トルクコンバータのインペラ14、タービン16及びステータ18はカバー10と同一回転速度で連れ周りし、トルクコンバータによる動力伝達機能は生ぜず、機械的動力伝達が行なわれる。
【0026】
以上説明のように、トーショナルダンパ22は、ロックアップクラッチ24が非締結状態のトルクコンバータによる流体動力伝達動作時においても、ロックアップクラッチ24が締結状態となる機械的動力伝達動作時においても、入力側(ドライブプレート30及びサブプレート31)に対して出力側(ハブプレート32)の回転角度に相対変動が回転変動があれば、ハブプレート32により回転変動方向側端部においてコイルスプリング33が押圧され、そのときの弾性変形により抵抗により回転変動の抑制が行なわれる。
【0027】
以上説明の実施形態において、ロックアップクラッチの組み立て工程について説明すると、図9(a)はパイロット48とリベット53を準備したところを示す。
【0028】
次に、(b)の工程では、リベット53がパイロット48のフランジ部48-3における段付のリベット孔70に圧入され、リベット53の頭部53-1はパイロット48のフランジ部48-3と面一とされる。
【0029】
次に、工程(c)では、溶接されたボスナット28を備え、内側クラッチドラム40をカバー10の凹部10-2に圧入溶接固定したカバー10が、中心孔10-1において、パイロット48の前面の筒状部48-4に挿入され、カバー10はパイロット48のフランジ部48-3の前面及びリベット孔70に圧入されたリベット53の頭部53-1に当接するようにされる。そして、カバー10の中心孔10-1の内周部とパイロット48の前面の筒状部48-4との継目が全周にて溶接され、溶接後の溶肉部分を52にて示す。
【0030】
次に、図10の工程(d)では、クラッチパック36におけるドライブディスク58を内側クラッチドラム40に装着し、次いで、内側にピストン42を内外周にシールリング64, 68を装着した状態で、リターンスプリング44を介在させつつセパレータ46を中心孔46-2においてパイロット48の筒状部48-2の拡径部48-2a(図5及び図6も参照)に挿入し、セパレータ46のリベット孔70から突出させ、次に行われるこの突出部53-2のカシメの準備がされる。そして、次のカシメ工程では、専用のカシメ装置(クリンパー)のダイがリベット53の頭部53-1を挟んでカバー10側に設置され、セパレータ46のリベット孔70からの突出部53-2が、ダイに対向するクリンパーのリベット53の数だけ設置されたパンチにより一斉に圧潰され、カシメ工程が実施される。カシメにより流れた肉の部分はセパレータ46の凹部47-1に向かう。
【0031】
最後の工程である図10(e)にはリベット53のカシメ工程の実施によるカシメ部分(拡径部分)53-3 が示されている。ロックアップクラッチの組み立ての最終工程として、クラッチパック36の外側クラッチドラム38がその案内溝38-1にドリブンディスク60が係合するように装着される。外側クラッチドラム38には、その後のトーショナルダンパ22の組み立てにおいて、図2にて示すように、リベット39によりドライブプレート30に連結され、トルクコンバータ部の組み立て等の次段階の組み立て工程に進むことになる。
【0032】
図9図10の組み立て方法にあっては、パイロット48に設けられたリベット孔70及びセパレータ46に設けられたリベット孔47にリベット39が挿入され、且つ、カバー10とセパレータ46との間にピストン42、シールリング64, 68及びドライブプレート38、ドリブンプレート60が挟まれた状態で、リベット39をカシメてパイロット48とセパレータ46とを固定している。そして、リベット39をカシメてパイロット48とセパレータ46とを固定する工程よりも前の工程において、リベット39の頭部のパイロット48に設けられたリベット孔70への圧入後にリベット39の頭部とカバー10とを当接させた状態でカバー10にパイロット48を固定する。更に、カバー10にパイロット48を固定した後にシールリング64をパイロット48と密着させている。シールリング64, 68がパイロット48(ピストン案内部材)と密着(接触)した後において、パイロット48(ピストン案内部材)とセパレータ46(摩擦締結反力受容部)とのカシメ固定(非加熱での固定)が行われるので、固定のときに熱がシールリング64, 68に伝達されることなく、しかも強固な固定状態を得ることができるようになる。
【0033】
リベット53 (締結具)の頭部53-1をパイロット48(ピストン案内部材)に設けられたリベット孔70 (孔)に圧入した後にリベット53 (締結具)の頭部53-1とカバー10とを当接させた状態でカバー10にパイロット48(ピストン案内部材)が固定されるため、リベット53 (締結具)の締結が強固なり、そのため他の部材(第1、第2摩擦板50, 60, やシールリング64, 68、ピストン42など)の取付の際にリベット53(締結具)の脱落を心配することなく他の部材の取付を行うことができる。
【0034】
更に、カバー10にパイロット48(ピストン案内部材)を固定した後にシールリング64, 68をパイロット48(ピストン案内部材)と密着させており、即ち、カバー10にパイロット48(ピストン案内部材)を固定するときにはシールリング64, 68が密着していないので、カバー10とパイロット48(ピストン案内部材)との固定方法(接着方法)を自由に選択することができるようになる。例えば、カバー10とパイロット48(ピストン案内部部材)との固定に、本実施形態で示したような強固な溶接という方法をとることも可能になる。
【0035】
以上説明の実施形態において、本発明の締結具として、パイロット48に対してセパレータ46の取り付け用のリベット様突起部として一体化することができ、これを本発明の第2の実施形態としてその組み立て工程と共に以下図11及び図12により説明する。図11(a)において、この本発明の第2の実施形態におけるパイロットを148にて示す。パイロット148は、フランジ部148-3 において、パイロット中心孔開口端側(トルクコンバータ全体図のカバー10離間側)に突出するパイロット148と一体のリベット様突起部153(この実施形態における締結具)を備えている。
【0036】
図11の(b)は第1の実施形態における組み立て工程の(c)と同様であり、カバー10がパイロット148に溶接される。溶接部を52にて示す。カバー10の凹部10-2に対する内側クラッチドラム40の圧入溶接も行われる。
【0037】
次の、工程である図12(c)は第1の実施形態における組み立て工程の(d)と同様であり、外側クラッチドラム38を除いたクラッチパック36、ピストン42、リターンスプリング44、セパレータ46、シールリング64, 68の装着が行われる。これら部材の装着状態後においては、リベット様突起部153の突端はセパレータ46の中心孔46-2から突出する。
【0038】
図12の工程(d)は第1の実施形態における組み立て工程の図10(e)と同様であり、セパレータ46から突出されたリベット様突起部153の端部を加圧下で圧潰することによりカシメ部153-3を形成し(カシメにより流れた肉はセパレータ46の凹部47-1に収容される)、次いで、クラッチパック36の外側クラッチドラム38の装着を行い、以降のトルクコンバータ部の組み立ての作業に移ることなる。
この実施形態におけるリベット様突起部153の一体化は部品点数の削減を可能であることはもとより、パイロットへの圧入工程が不要であることから、部品点数及び工数の削減が可能となる利点がある。
【符号の説明】
【0039】
10…カバー
10-1…カバーの中心開口部
12…インペラシェル
13…閉塞室
14…ポンプインペラ
16…タービンブレード
18…ステータ
20…ワンウエイクラッチ
22…トーショナルダンパ
24…ロックアップクラッチ
25…ダンパハブ
27…変速機入力軸
29…ステータシャフト
36…クラッチパック
38…外側クラッチドラム
40…内側クラッチドラム
40-3…内側クラッチドラムの油孔
42…ピストン
44…リターンスプリング
46…セパレータ(本発明の摩擦締結反力受容部材)
47…セパレータのリベット孔
48, 148…パイロット(本発明のピストン案内部材)
50…油圧室
52…カバーとパイロットとの溶接部
53…リベット(本発明の締結具)
53-1…リベット頭部
53-3…リベットとのカシメ部
58…ドライブディスク
60…ドリブンディスク
62…クラッチフエーシング(ドライブディスクとで本発明の第1の摩擦板;ドリブンディスクとで本発明の第2の摩擦板)
70…パイロットのリベット孔
72…パイロットのトルクコンバータ油孔
74…パイロットのロックアップクラッチ作動油孔
78…作動油圧空間
80…トルクコンバータ油空間
82…クラッチ作動油通路
153…リベット様突起部(本発明の締結具)
153-3…パイロット一体のリベット様突起部のカシメ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12