(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】多系統液圧閉成型ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
B60T 8/17 20060101AFI20221129BHJP
B60T 8/88 20060101ALI20221129BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20221129BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20221129BHJP
B60T 8/40 20060101ALI20221129BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B60T8/17 A
B60T8/88
B60T17/18
B60T13/74 D
B60T8/40 C
B60T7/12 B
(21)【出願番号】P 2020544748
(86)(22)【出願日】2019-01-07
(86)【国際出願番号】 EP2019050234
(87)【国際公開番号】W WO2019161980
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-08-25
(31)【優先権主張番号】102018202887.7
(32)【優先日】2018-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シュトレンガート
(72)【発明者】
【氏名】トーマス フリードリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ディルク ドロトレフ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ クレーマン
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102016201261(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102013227066(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に高度自動化車両又は自律車両のための多系統液圧閉成型ブレーキシステム(1)であって、
それぞれ1つのブレーキ回路(BK1,BK2)に対応付けられた少なくとも2つの車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)と、
流体容器(7)と前記少なくとも2つの車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)との間に液圧的に直列に接続された2つの多系統の圧力発生器(12,22)と、
前記圧力発生器(12,22)を前記少なくとも2つの車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)に液圧的に接続させるための、及び、前記少なくとも2つの車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)内の個々のブレーキ圧力を調整するための液圧ユニット(26)を備え、
第1の圧力発生器(12)は、プランジャシステム(12A)として構成されており、かつ、メインシステム(10)に対応付けられており、
前記メインシステム(10)は、第1のエネルギ供給部(EV1)と、前記第1の圧力発生器(12)を制御するための第1の評価・制御ユニット(14)とを含み、
第2の圧力発生器(22)は、ポンプシステム(22A)として構成されており、かつ、二次システム(20)に対応付けられており、
前記二次システム(20)は、前記第1のエネルギ供給部(EV1)から独立した第2のエネルギ供給部(EV2)と、第2の評価・制御ユニット(24)とを含み、
前記液圧ユニット(26)は、前記二次システム(20)に対応付けられており、これにより、前記液圧ユニット(26)及び前記第2の圧力発生器(22)のコンポーネントが、前記第2の評価・制御ユニット(24)によって制御され、かつ、前記第2のエネルギ供給部(EV2)によってエネルギ供給されるようになっており、
通常動作時には、
前記メインシステム(10)は、前記第1の圧力発生器(12)を用いて、前記ブレーキ回路(BK1,BK2)内の圧力を増加させ又は低減させ又は維持させ、
前記二次システム(20)は、前記第2の圧力発生器(22)及び前記液圧ユニット(26)を用いて、前記少なくとも2つの車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)内の個々のブレーキ圧力の調整を実施し、
前記メインシステム(10)に障害が発生した場合には、
前記二次システム(20)が、前記第2の圧力発生器(22)及び前記液圧ユニット(26)を用いて、前記ブレーキ回路(BK1,BK2)内の圧力を増加させ又は低減させ又は維持させ、かつ、前記少なくとも2つの車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)内の個々のブレーキ圧力の調整を実施し、
前記二次システム(20)に障害が発生した場合には、
前記メインシステム(10)が、前記第1の圧力発生器(12)を用いて、前記ブレーキ回路(BK1,BK2)及び前記少なくとも2つの車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)内の圧力を増加させ又は低減させ又は維持させ、前記少なくとも2つの車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)内の個々のブレーキ圧力の調整は、省略され
、
前記プランジャシステム(12A)は、前記第1の圧力発生器(12)が非通電の状態において通流可能となり、これによって、流体を、前記第1の圧力発生器(12)を通して前記第2の圧力発生器(22)へと圧送可能である、
ブレーキシステム(1)。
【請求項2】
前記流体容器(7)は、第1のブレーキ回路(BK1)に流体を供給するための第1の流体チャンバ(7.1)と、第2のブレーキ回路(BK2)に流体を供給するための第2の流体チャンバ(7.2)とを含む、
請求項1に記載のブレーキシステム(1)。
【請求項3】
前記プランジャシステム(12A)は、2つのピストン及び2つのチャンバ(12.1,12.2)と、1つの駆動部(12.3)とを備えるピストンシリンダユニットを有し、
前記駆動部(12.3)は、前記チャンバ(12.1,12.2)内の圧力を調整するために前記2つのピストンを、対応する戻しばねの力に対抗して移動させる、
請求項1又は2に記載のブレーキシステム(1)。
【請求項4】
第1のチャンバ(12.1)は、前記第1のブレーキ回路(BK1)に対応付けられており、
第2のチャンバ(12.2)は、前記第2のブレーキ回路(BK2)に対応付けられており、
前記ピストンシリンダユニットは、前記第1の圧力発生器(12)が非通電の状態において通流可能となり、これによって、流体を、前記流体容器(7)から前記第1の圧力発生器(12)を通して前記第2の圧力発生器(22)へと圧送可能である、
請求項3に記載のブレーキシステム(1)。
【請求項5】
前記ポンプシステム(22A)は、
前記第1のブレーキ回路(BK1)に対応付けられた第1のポンプ(22.1)と、
前記第2のブレーキ回路(BK2)に対応付けられた第2のポンプ(22.2)と、
2つの前記ポンプ(22.1,22.2)を駆動する共通の駆動部(22.3)と、
を有する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のブレーキシステム(1)。
【請求項6】
前記液圧ユニット(26)は、
それぞれの車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)につき、
それぞれ1つの入口弁(IV1,IV2,IV3,IV4)と、それぞれ1つの出口弁(OV1,OV2,OV3,OV4)とを含み、
それぞれのブレーキ回路(BK1,BK2)につき、
それぞれ1つの圧力維持・圧力制御弁(PRV1,PRV2)と、それぞれ1つの高圧切換弁(HSV1,HSV2)と、それぞれ1つの低圧貯蔵器(NS1,NS2)とを含む、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のブレーキシステム(1)。
【請求項7】
前記入口弁(IV1,IV2,IV3,IV4)と、前記圧力維持・圧力制御弁(PRV1,PRV2)とは、制御可能な常時開の電磁弁として構成されている、
請求項6に記載のブレーキシステム(1)。
【請求項8】
前記出口弁(OV1,OV2,OV3,OV4)と、前記高圧切換弁(HSV1,HSV2)とは、常時閉の電磁切換弁として構成されている、
請求項6又は7に記載のブレーキシステム(1)。
【請求項9】
第1の車輪ブレーキ(RB1)及び第2の車輪ブレーキ(RB2)が、前記第1のブレーキ回路(BK1)に対応付けられており、
第3の車輪ブレーキ(RB3)及び第4の車輪ブレーキ(RB4)が、前記第2のブレーキ回路に対応付けられている、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載のブレーキシステム(1)。
【請求項10】
特に高度自動化車両又は自律車両のための多系統液圧閉成型ブレーキシステム(1)のための動作方法であって、
前記ブレーキシステム(1)は、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のブレーキシステム(1)であり、
通常動作時には、
前記メインシステム(10)は、前記第1の圧力発生器(12)を用いて、前記ブレーキ回路(BK1,BK2)内の圧力を増加させ又は低減させ又は維持させ、
前記二次システム(20)は、前記第2の圧力発生器(22)及び前記液圧ユニット(26)を用いて、前記少なくとも2つの車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)内の個々のブレーキ圧力の調整を実施し、
前記メインシステム(10)に障害が発生した場合には、
前記二次システム(20)が、前記第2の圧力発生器(22)及び前記液圧ユニット(26)を用いて、前記ブレーキ回路(BK1,BK2)内の圧力を増加させ又は低減させ又は維持させ、かつ、前記少なくとも2つの車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)内の個々のブレーキ圧力の調整を実施し、
前記二次システム(20)に障害が発生した場合には、
前記メインシステム(10)が、前記第1の圧力発生器(12)を用いて、前記ブレーキ回路(BK1,BK2)及び前記少なくとも2つの車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)内の圧力を増加させ又は低減させ又は維持させ、前記少なくとも2つの車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)内の個々のブレーキ圧力の調整は、省略される、
動作方法。
【請求項11】
通常動作時、又は、前記二次システム(20)に障害が発生した場合に、前記ブレーキ回路(BK1,BK2)内の圧力を増加又は低減させるためには、
前記ブレーキ回路(BK1,BK2)の圧力維持・圧力制御弁(PRV1,PRV2)が、常時開の状態へと移行され、
前記プランジャシステム(12A)の駆動部(12.3)が、
前記ブレーキ回路(BK1,BK2)内の圧力を増加させるために、前記プランジャシステム(12A)のピストンを第1の方向へと移動させるように制御され、又は、
前記ブレーキ回路(BK1,BK2)内の圧力を低減させるために、前記ピストンを前記第1の方向とは逆向きの第2の方向へと移動させるように制御される、
請求項10に記載の動作方法。
【請求項12】
通常動作時、又は、前記二次システム(20)に障害が発生した場合に、前記ブレーキ回路(BK1,BK2)内の圧力を維持するためには、
前記ブレーキ回路(BK1,BK2)の圧力維持・圧力制御弁(PRV1,PRV2)が、常時開の状態へと移行され、
前記プランジャシステム(12A)の駆動部(12.3)が、前記プランジャシステム(12A)のピストンを現在の位置に維持する、
請求項10又は11に記載の動作方法。
【請求項13】
前記メインシステム(10)に障害が発生した場合に、前記ブレーキ回路(BK1,BK2)内の圧力を増加させるためには、
前記ブレーキ回路(BK1,BK2)の圧力維持・圧力制御弁(PRV1,PRV2)が閉弁され、
前記ブレーキ回路(BK1,BK2)の高圧切換弁(HSV1,HSV2)が開弁され、
前記第2の圧力発生器(22)の駆動部(22.3)が、前記第2の圧力発生器(22)のポンプ(22.1,22.2)を用いて圧力を増加させるように制御される、
請求項10乃至12のいずれか一項に記載の動作方法。
【請求項14】
前記メインシステム(10)に障害が発生した場合に、前記ブレーキ回路(BK1,BK2)内の圧力を低減させるためには、
前記ブレーキ回路(BK1,BK2)の圧力維持・圧力制御弁(PRV1,PRV2)が開弁される、
請求項10乃至13のいずれか一項に記載の動作方法。
【請求項15】
前記メインシステム(10)に障害が発生した場合に、前記ブレーキ回路(BK1,BK2)内の圧力を維持するためには、
前記ブレーキ回路(BK1,BK2)の圧力維持・圧力制御弁(PRV1,PRV2)が閉弁される、
請求項10乃至14のいずれか一項に記載の動作方法。
【請求項16】
通常動作時、又は、前記メインシステム(10)に障害が発生した場合に、対応する車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)内の個々の圧力を増加させるためには、
対応する前記液圧ユニット(26)の入口弁(IV1,IV2,IV3,IV4)が開弁され、
対応する前記液圧ユニット(26)の出口弁(OV1,OV2,OV3,OV4)が閉弁される、
請求項10乃至15のいずれか一項に記載の動作方法。
【請求項17】
通常動作時、又は、前記メインシステム(10)に障害が発生した場合に、対応する車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)内の個々の圧力を維持するためには、
対応する前記液圧ユニット(26)の入口弁(IV1,IV2,IV3,IV4)と、対応する前記液圧ユニット(26)の出口弁(OV1,OV2,OV3,OV4)とが閉弁される、
請求項10乃至16のいずれか一項に記載の動作方法。
【請求項18】
通常動作時、又は、前記メインシステム(10)に障害が発生した場合に、
対応する車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)内の個々の圧力を低減させるためには、
対応する前記液圧ユニット(26)の入口弁(IV1,IV2,IV3,IV4)が閉弁され、
対応する前記液圧ユニット(26)の出口弁(OV1,OV2,OV3,OV4)が開弁される、
請求項10乃至17のいずれか一項に記載の動作方法。
【請求項19】
車輪ブレーキ(RB1,RB2,RB3,RB4)内で漏れが検出された場合には、対応する前記液圧ユニット(26)の入口弁(IV1,IV2,IV3,IV4)が閉弁される、
請求項10乃至18のいずれか一項に記載の動作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1の上位概念に記載の、特に高度自動化車両又は自律車両ための多系統液圧閉成型ブレーキシステムに関する。本発明の対象はまた、そのような多系統液圧閉成型ブレーキシステムのための動作方法である。
【背景技術】
【0002】
従来技術からは、実際の運転タスクを少なくとも部分的に引き受けることができる、少なくとも1つの高度自動化運転機能又は自律運転機能を備えた車両が公知である。車両は、例えば道路形状、他の道路利用者又は障害物を自動的に識別し、対応する制御命令を車両内で計算して、車両内のアクチュエータに転送することによって、車両の走行経路に適正に影響が与えられることにより、車両は、高度自動化運転又は自律運転を実施することができる。運転者は、そのような高度自動化車両又は自律車両においては、通常、運転プロセスに関与していない。それでもなお、運転者がいつでも自ら運転プロセスに介入することができるようにし得る対策及び手段が設けられている。
【0003】
さらに、従来技術からは、車両の運転者による液圧式の介入によって制御されるように構成された、車両のためのブレーキシステムが知られている。これによって、ブレーキシステムに障害が発生した場合に、運転者がブレーキペダルを操作することにより、依然として車両の車輪に十分なブレーキ力を加えることができることが保証されている。上記構成は、今日のブレーキシステムの接続構成に対して著しい影響を与える。従って、例えば、タンデムマスタシリンダのサイズは、フォールバックレベルにおいて良好な性能が維持されることとして根拠付けられる。さらに、ブレーキシステムは、いわゆる連結ブレーキシステム又は補助ブレーキシステムとして構成され得る。しかしながら、これらのシステムも、依然として、フォールバックレベルとして運転者による液圧的な介入が行われるように実装されている。補助ブレーキ装置は、高度自動化車両又は自律車両には適していない。なぜなら、その場合には、自律運転機能中、もはや増幅のために運転者は存在せず、ブレーキシステムは、完全に自動的にブレーキエネルギを構築しなければならないからである。
【0004】
液圧閉成型車両ブレーキ装置を操作するための方法は、独国特許出願公開第102009001135号明細書から公知である。車両ブレーキ装置は、電気機械的なブレーキブースタと、ホイールスリップコントロールとを含む。この場合、例えば、車両速度を制限するために、又は、前方を走行する車両までの距離を調整するために、又は、駐車時など、ブレーキペダルが操作されていない状況において、車両ブレーキ装置が、ブレーキブースタによって操作される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】独国特許出願公開第102009001135号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の開示
独立請求項1に記載の特徴を有する、特に高度自動化車両又は自律車両のための多系統液圧閉成型ブレーキシステムと、独立請求項10に記載の特徴を有する、そのような多系統液圧閉成型ブレーキシステムのための対応する動作方法とは、以下のような利点を有する。即ち、運転者による機械的及び/又は液圧的な介入を伴わない、簡単かつロバストで低コストのブレーキシステムアーキテクチャが提供され、これにより、障害が発生した場合でも、適当な冗長性コンセプトによって十分なブレーキ性能が可能となるという利点を有する。
【0007】
本発明の実施形態は、必要とされるバルブの数が低減されており、ペダル移動量シミュレータが不要であり、運転者圧力を生成、増幅及び伝達するための機構が不要であるので、公知のブレーキシステムよりもコンポーネントの数が少なく、これによって、ブレーキシステムコストが低減される。さらに、複数の車輪ブレーキに対して単一の液圧接続部しか設けられておらず、ブレーキキャリパに、それぞれ異なるピストンに作用する2つの接続部を設けるという選択肢が必要とされないので、システムコストが低減される。さらに、流体容器は、1つのブレーキ回路につき単一の液圧接続部しか有していないので、複数の接続部を用いるという選択肢は、余分となる。
【0008】
さらに、車両製造業者における組み込みコストが低減される。なぜなら、本発明の実施形態は、運転者による機械的及び/又は液圧的な介入を伴わない電気的な制御に基づいて、特に右ハンドル車両及び左ハンドル車両への簡単な取り付けを可能にし、エンジンルームと車室との間の隔壁における取り付けスペースを解放するからである。いずれのブレーキシステムアクチュエータも隔壁に取り付ける必要がないので、NVH(NVH:Noise,Vibration,Harshness「騒音、振動、ハーシュネス」)の利点も得られる。さらに、コンポーネントの数が少ないことに基づき、公知のブレーキシステムに比較して重量及び体積が低減される。
【0009】
メインシステムと二次システムとに分割することにより、2つのモジュールを備えたモジュール式のコンセプトを簡単に実施することができる。
【0010】
本発明の実施形態は、特に高度自動化車両又は自律車両のための多系統液圧閉成型ブレーキシステムであって、当該ブレーキシステムは、それぞれ1つのブレーキ回路に対応付けられた、少なくとも2つの車輪ブレーキを備え、さらに、流体容器と、少なくとも2つの車輪ブレーキとの間に液圧的に直列に接続された、2つの多系統の圧力発生器を備え、さらに、圧力発生器を少なくとも2つの車輪ブレーキに液圧的に接続させるための、及び、少なくとも2つの車輪ブレーキ内の個々のブレーキ圧力を調整するための、液圧ユニットを備える、ブレーキシステムを提供する。第1の圧力発生器は、プランジャシステムとして構成されており、かつ、メインシステムに対応付けられており、メインシステムは、第1のエネルギ供給部と、第1の圧力発生器を制御するための第1の評価・制御ユニットとを含む。第2の圧力発生器は、ポンプシステムとして構成されており、かつ、二次システムに対応付けられており、二次システムは、第1のエネルギ供給部から独立した第2のエネルギ供給部と、第2の評価・制御ユニットとを含む。さらに、液圧ユニットは、二次システムに対応付けられており、これにより、液圧ユニット及び第2の圧力発生器のコンポーネントが、第2の評価・制御ユニットによって制御され、かつ、第2のエネルギ供給部によってエネルギ供給されるようになっている。
【0011】
さらに、特に高度自動化車両又は自律車両のための多系統液圧閉成型ブレーキシステムのための動作方法が提案される。本動作方法においては、通常動作時には、メインシステムが、第1の圧力発生器を用いて、ブレーキ回路内の圧力を増加させ又は低減させ又は維持させ、二次システムが、第2の圧力発生器及び液圧ユニットを用いて、少なくとも2つの車輪ブレーキ内の個々のブレーキ圧力の調整を実施する。メインシステムに障害が発生した場合には、二次システムが、第2の圧力発生器及び液圧ユニットを用いて、ブレーキ回路内の圧力を増加させ又は低減させ又は維持させ、かつ、少なくとも2つの車輪ブレーキ内の個々のブレーキ圧力の調整を実施する。二次システムに障害が発生した場合には、メインシステムが、第1の圧力発生器を用いて、ブレーキ回路及び少なくとも2つの車輪ブレーキ内の圧力を増加させ又は低減させ又は維持させ、そして、少なくとも2つの車輪ブレーキ内の個々のブレーキ圧力の調整は、省略される。
【0012】
液圧閉成型ブレーキシステムとは、個々のブレーキ圧力の調整中に車輪ブレーキから排出されたブレーキ流体を、液圧ユニットに貯蔵し、二次システムのポンプシステムを介してブレーキ回路に戻すことができるブレーキシステムであると理解される。これにより、開放型のブレーキシステムと比較して、有利には、流体容器からのブレーキ流体の追加吸引が必要とされず、従って、追加吸引プロセス中の圧力を維持するフェーズを、省略することが可能となる。
【0013】
個々の車輪ブレーキ内の個々のブレーキ圧力を調整することによって、有利には、例えば、アンチロックコントロールABS、トラクションコントロールASR、走行ダイナミクスコントロールFDR又はESPのような、車両の縦方向及び横方向の安定化のための種々の制御機能を有利に実施することができる。これらの制御機能自体は周知であるので、本明細書においては詳細には説明しない。
【0014】
本発明の実施形態によって、有利には、メインシステムに障害が発生した場合に、縦方向及び横方向の安定化を含む完全なESP機能を引き続き利用することが可能となる。第1の圧力発生器をプランジャシステムとして構成することにより、システム全体における良好なNVH性能と、より簡単及び/又は正確な監視と、制御の改良とがもたらされる。これにより、メインシステムにおける位置と、体積構築情報及び圧力構築情報との両方を、他のコンセプト(ポンプシステム)に比較してより簡単に、特により正確に検出することが可能となる。第2の圧力発生器をポンプシステムとして構成することにより、他のコンセプト(プランジャシステム)と比較して、コスト、構造スペース及び重量がさらに低減される。
【0015】
本明細書において、評価・制御ユニットとは、検出されたセンサ信号を処理又は評価する、例えば制御装置のような電気的なデバイスであると理解され得る。評価・制御ユニットは、ハードウェア及び/又はソフトウェアによって構成され得る少なくとも1つのインタフェースを有することができる。インタフェースは、ハードウェアによって構成される場合には、例えば、評価・制御ユニットの種々の機能が含まれた、いわゆるシステムASICの一部であり得る。しかしながら、インタフェースを、別個の集積回路とすること、又は、少なくとも部分的にディスクリート部品から形成することも可能である。インタフェースは、ソフトウェアによって構成される場合には、例えば、他のソフトウェアモジュールと共に1つのマイクロコントローラ上に設けられているソフトウェアモジュールであり得る。プログラムコードを備えるコンピュータプログラムも有利であり、このプログラムコードは、半導体メモリ、ハードディスクメモリ又は光学メモリのような機械可読キャリアに格納されており、評価・制御ユニットによってプログラムが実行されたときに評価を実施するために使用される。
【0016】
センサ信号を検出するために、センサユニットが設けられている。本明細書において、センサユニットとは、少なくとも1つのセンサエレメントが含まれたアセンブリであると理解され、少なくとも1つのセンサエレメントは、物理的なパラメータ又は物理的なパラメータの変化を直接的又は間接的に検出して、好ましくは電気的なセンサ信号に変換する。このことを、例えば、音波及び/又は電磁波の送信及び/又は受信によって実施することができ、及び/又は、磁界又は磁界の変化によって実施することができ、及び/又は、衛星信号、例えばGPS信号の受信によって実施することができる。そのようなセンサユニットは、例えば、車両の加速度に関連する情報を検出する加速度センサエレメントを含むことができ、及び/又は、物体及び/又は障害物及び/又は他の衝突に関連する車両周囲データを特定して、評価のために利用可能にするセンサエレメントを含むことができる。そのようなセンサエレメントは、例えば、ビデオ技術及び/又はレーダ技術及び/又はライダ技術及び/又はPMD技術及び/又は超音波技術に基づくことができる。さらに、既存のABSセンサの信号及び情報と、このために設けられた制御装置において導出されたパラメータとを評価することもできる。例えば、加速度に関連する情報及び/又は加速度に関連する情報から特定されたパラメータに基づいて、3次元空間における車両の動き及び位置を推定して、事故を識別するために評価することができる。
【0017】
車両の位置を特定するために、例えば、全地球測位衛星システムGNSS(GNSS:Global Navigation Satellite System)を使用することができる。本明細書において、GNSSは、アメリカ合衆国のNAVSTAR GPS(Global Positioning System)、ロシア連邦のGLONASS(Global Navigation Satellite System)、欧州連合のGalileo、中華人民共和国の北斗などのような、既存及び将来の全地球衛星システムの総称として使用される。
【0018】
高度自動化車両又は自律車両とは、実際の運転タスクを少なくとも部分的に引き受けることができる、少なくとも1つの高度自動化運転機能又は自律運転機能を備えた車両であると理解される。この少なくとも1つの高度自動化運転機能又は自律運転機能によって、車両は、例えば道路形状、他の道路利用者又は障害物を自動的に識別し、対応する制御命令を計算して、車両内のアクチュエータに転送し、それによって車両の走行経路に適正に影響が与えられる。運転者は、そのような高度自動化車両又は自律車両においては、基本的に、運転プロセスに関与していない。それでもなお、運転者がいつでも自ら運転プロセスに介入することができるようにし得る、例えば電気的又は電子的な操作要素の形態の対策及び手段が設けられている。運転者が操作要素を用いて生成したブレーキ要求は、その後、電気信号を介してメインシステム及び/又は二次システムに転送される。しかしながら、運転者による機械的及び/又は液圧的な介入は存在しない。
【0019】
少なくとも1つの走行機能は、軌道計画のために、ABS介入、操舵角度、位置、方向、速度、加速度などのような、内部のセンサユニットによって検出された車両データを評価し、及び/又は、例えばカメラ、レーダ、ライダ及び/又は超音波センサユニットによって検出された車両周囲データを評価し、これに応じてメインシステム及び二次システムの評価・制御ユニットを制御して、所望のブレーキ圧力を生成し及び/又は車輪ブレーキ内の個々のブレーキ圧力を調整することによって、縦方向及び/又は横方向に安定化プロセスを実現する。
【0020】
従属請求項に記載された手段及び発展形態によって、独立請求項1に記載の、特に高度自動化車両又は自律車両のための多系統液圧閉成型ブレーキシステムと、独立請求項10に記載の、特に高度自動化車両又は自律車両のためのこのような多系統液圧閉成型ブレーキシステムの動作方法とを、有利に改良することが可能である。
【0021】
流体容器が、第1のブレーキ回路に流体を供給するための第1の流体チャンバと、第2のブレーキ回路に流体を供給するための第2の流体チャンバとを含むことが、特に有利である。さらに、プランジャシステムは、2つのピストン及び2つのチャンバと、1つの駆動部とを備えるピストンシリンダユニットを有することができ、駆動部は、チャンバ内の圧力を調整するために2つのピストンを、対応する戻しばねの力に対抗して移動させることができる。第1のチャンバを、第1のブレーキ回路に対応付けることができ、第2のチャンバを、第2のブレーキ回路に対応付けることができ、ピストンシリンダユニットは、第1の圧力発生器が非通電の状態において通流可能となり、これによって、ブレーキ流体を、流体容器から第1の圧力発生器を通して第2の圧力発生器へと圧送可能である。さらに、ポンプシステムは、第1のブレーキ回路に対応付けられ得る第1のポンプと、第2のブレーキ回路に対応付けられ得る第2のポンプと、2つのポンプを駆動する共通の駆動部とを有することができる。これによって有利には、流体容器から車輪ブレーキまでの一貫した2系統構造を実現することができ、これによって、漏れ監視に対する要求を低減させることができる。
【0022】
ブレーキシステムの有利な実施形態において、液圧ユニットは、それぞれの車輪ブレーキにつき、それぞれ1つの入口弁と、それぞれ1つの出口弁とを含むことができ、それぞれのブレーキ回路につき、それぞれ1つの圧力維持・圧力制御弁と、それぞれ1つの高圧切換弁と、それぞれ1つの低圧貯蔵器とを含むことができる。入口弁と、圧力維持・圧力制御弁とは、例えば、制御可能な常時開の電磁弁として構成され得る。出口弁と、高圧切換弁とは、例えば、常時閉の電磁切換弁として構成され得る。液圧ユニットの上記の構成によって、有利には、既に周知のESPシステムを使用することが可能となり、既存のスケール効果(ESPは、何百万回も構築されている)によって、システム全体のコストを非常に低く抑えることが可能となる。さらに、第1の車輪ブレーキ及び第2の車輪ブレーキを、第1のブレーキ回路に対応付けることができ、第3の車輪ブレーキ及び第4の車輪ブレーキを、第2のブレーキ回路に対応付けることができる。この場合、これらのブレーキ回路をX型に配管することが可能であり、即ち、左前輪の車輪ブレーキと、右後輪の車輪ブレーキとが、第1のブレーキ回路に対応付けられ、右前輪の車輪ブレーキと、左後輪の車輪ブレーキとが、第2のブレーキ回路に対応付けられ、また、これらのブレーキ回路をII型に配管することも可能であり、即ち、左前輪の車輪ブレーキと、左後輪の車輪ブレーキとが、第1のブレーキ回路に対応付けられ、右前輪の車輪ブレーキと、右後輪の車輪ブレーキとが、第2のブレーキ回路に対応付けられる。
【0023】
動作方法の有利な実施形態において、通常動作時、又は、二次システムに障害が発生した場合に、ブレーキ回路内の圧力を増加又は低減させるためには、圧力維持・圧力制御弁を、常時開の状態へと移行させることができ、プランジャシステムの駆動部が、ブレーキ回路内の圧力を増加させるために、ピストンを第1の方向へと移動させるように制御されることが可能であり、又は、ブレーキ回路内の圧力を低減させるために、ピストンを第1の方向とは逆向きの第2の方向へと移動させるように制御されることが可能である。
【0024】
さらに、通常動作時、又は、二次システムに障害が発生した場合に、ブレーキ回路内の圧力を維持するためには、圧力維持・圧力制御弁を、常時開の状態へと移行させることができ、プランジャシステムの駆動部が、ピストンを現在の位置に維持することができる。
【0025】
動作方法のさらなる有利な実施形態において、メインシステムに障害が発生した場合に、ブレーキ回路内の圧力を増加させるためには、圧力維持・圧力制御弁を閉弁することができ、高圧切換弁を開弁することができ、第2の圧力発生器の駆動部が、ポンプを用いて圧力を増加させるように制御され得る。さらに、メインシステムに障害が発生した場合に、ブレーキ回路内の圧力を低減させるためには、圧力維持・圧力制御弁を開弁することができる。さらに、メインシステムに障害が発生した場合に、ブレーキ回路内の圧力を維持するためには、圧力維持・圧力制御弁を閉弁することができる。
【0026】
動作方法のさらなる有利な実施形態において、通常動作時、又は、メインシステムに障害が発生した場合に、対応する車輪ブレーキ内の個々の圧力を増加させるためには、対応する入口弁を開弁することができ、対応する出口弁を閉弁することができる。さらに、通常動作時、又は、メインシステムに障害が発生した場合に、対応する車輪ブレーキ内の個々の圧力を維持するためには、対応する入口弁と、対応する出口弁とを閉弁することができる。さらに、通常動作時、又は、メインシステムに障害が発生した場合に、対応する車輪ブレーキ内の個々の圧力を低減させるためには、対応する入口弁を閉弁することができ、対応する出口弁を開弁することができる。
【0027】
動作方法のさらなる有利な実施形態において、車輪ブレーキ内で漏れが検出された場合には、対応する入口弁を閉弁することができる。
【0028】
本発明の実施例を図面に示し、以下の記載においてより詳細に説明する。図面においては、同一の、又は、同等の機能を実行するコンポーネント又はエレメントには、同一の参照番号を付してある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】特に高度自動化車両又は自律車両のための、本発明に係る多系統液圧閉成型ブレーキシステムの実施例の概略的なブロック図である。
【
図2】
図1のブレーキシステムの概略的な液圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
発明の実施形態
図1及び
図2から見て取れるように、特に高度自動化車両又は自律車両のための、本発明に係る多系統液圧閉成型ブレーキシステム1の図示の実施例は、それぞれ1つのブレーキ回路BK1,BK2に対応付けられた、少なくとも2つの車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4を含み、さらに、流体容器7と、少なくとも2つの車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4との間に液圧的に直列に接続された、2つの多系統の圧力発生器12,22を含み、さらに、圧力発生器12,22を少なくとも2つの車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4に液圧的に接続させるための、及び、少なくとも2つの車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4内の個々のブレーキ圧力を調整するための、液圧ユニット26を含む。
図2からさらに見て取れるように、第1の圧力発生器12は、プランジャシステム12Aとして構成されており、かつ、メインシステム10に対応付けられており、
図1からさらに見て取れるように、メインシステム10は、第1のエネルギ供給部EVIと、第1の圧力発生器12を制御するための第1の評価・制御ユニット14と、を含む。
図2からさらに見て取れるように、第2の圧力発生器22は、ポンプシステム22Aとして構成されており、かつ、二次システム20に対応付けられており、
図1からさらに見て取れるように、二次システム20は、第1のエネルギ供給部EVIから独立した第2のエネルギ供給部EV2と、第2の評価・制御ユニット24と、を含む。液圧ユニット26は、二次システム20に対応付けられており、これにより、液圧ユニット26及び第2の圧力発生器22のコンポーネントが、第2の評価・制御ユニット24によって制御され、かつ、第2のエネルギ供給部EV2によってエネルギ供給されるようになっている。
【0031】
図1及び
図2からさらに見て取れるように、図示のブレーキシステム1は、2つのブレーキ回路BK1,BK2と、4つの車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4と、を含み、第1の車輪ブレーキRB1及び第2の車輪ブレーキRB2は、第1のブレーキ回路BK1に対応付けられており、第3の車輪ブレーキRB3及び第4の車輪ブレーキRB4は、第2のブレーキ回路に対応付けられている。この場合、車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4を、2つのブレーキ回路BK1,BK2へとX型に配管することが可能であり、即ち、第1の車輪ブレーキRB1は、左前輪に配置されており、第2の車輪ブレーキRB2は、右後輪に配置されており、第3の車輪ブレーキRB3は、右前輪に配置されており、第4の車輪ブレーキRB4は、左後輪に配置されている。これに代えて、車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4を、2つのブレーキ回路BK1,BK2へとII型に配管することも可能であり、即ち、第1の車輪ブレーキRB1は、左前輪に配置されており、第2の車輪ブレーキRB2は、左後輪に配置されており、第3の車輪ブレーキRB3は、右前輪に配置されており、第4の車輪ブレーキRB4は、右後輪に配置されている。
【0032】
図1及び
図2からさらに見て取れるように、図示の実施例における流体容器7は、第1のブレーキ回路BK1に流体を供給するための第1の流体チャンバ7.1と、第2のブレーキ回路BK2に流体を供給するための第2の流体チャンバ7.2と、を含む。
【0033】
図2からさらに見て取れるように、図示の実施例におけるプランジャシステム12Aは、2つのピストン及び2つのチャンバ12.1,12.2と、1つの駆動部12.3とを備えるピストンシリンダユニットを有し、駆動部12.3は、電気モータとして構成されており、チャンバ12.1,12.2内の圧力を調整するために2つのピストンを、対応する戻しばねの力に対抗して移動させる。第1のチャンバ12.1は、第1のブレーキ回路BK1に対応付けられており、第2のチャンバ12.2は、第2のブレーキ回路BK2に対応付けられている。さらに、ピストンシリンダユニットは、第1の圧力発生器12が非通電の状態において通流可能となり、これによって、ブレーキ流体を、流体容器7から第1の圧力発生器12を通して第2の圧力発生器22へと圧送可能となるように構成されている。
【0034】
図2からさらに見て取れるように、図示の実施例におけるポンプシステム22Aは、第1のブレーキ回路BK1に対応付けられた第1のポンプ22.1と、第2のブレーキ回路BK2に対応付けられた第2のポンプ22.2と、電気モータとして構成されていて、2つのポンプ22.1,22.2を駆動する共通の駆動部22.3と、を有する。
【0035】
図2からさらに見て取れるように、図示の実施例における液圧ユニット26は、それぞれの車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4につき、それぞれ1つの入口弁IV1,IV2,IV3,IV4と、それぞれ1つの出口弁OV1,OV2,OV3,OV4と、を含み、第1の入口弁IV1及び第1の出口弁OV1は、第1の車輪ブレーキRB1に対応付けられている。第2の入口弁IV2及び第2の出口弁OV2は、第2の車輪ブレーキRB2に対応付けられており、第3の入口弁IV3及び第3の出口弁OV3は、第3の車輪ブレーキRB3に対応付けられており、第4の入口弁IV4及び第4の出口弁OV4は、第4の車輪ブレーキRB4に対応付けられている。さらに、液圧ユニット26は、それぞれのブレーキ回路BK1,BK2につき、それぞれ1つの圧力維持・圧力制御弁PRV1,PRV2と、それぞれ1つの高圧切換弁HSV1,HSV2と、それぞれ1つの低圧貯蔵器NS1,NS2とを含む。第1の圧力維持・圧力制御弁PRV1と、第1の高圧切換弁HSV1と、第1の低圧貯蔵器NS1とは、第1のブレーキ回路BK1に対応付けられており、第2の圧力維持・圧力制御弁PRV2と、第2の高圧切換弁HSV2と、第2の低圧貯蔵器NS2とは、第2のブレーキ回路BK2に対応付けられている。
【0036】
図2からさらに見て取れるように、図示の実施例における入口弁IV1,IV2,IV3,IV4と、圧力維持・圧力制御弁PRV1,PRV2とは、それぞれ、制御可能な常時開の電磁弁として構成されている。図示の実施例における出口弁OV1,OV2,OV3,OV4と、高圧切換弁HSV1,HSV2とは、常時閉の電磁切換弁として構成されている。
【0037】
本発明に係るブレーキシステム1は、液圧閉成型システムとして構成されているので、図示の実施例においては、車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4内の個々のブレーキ圧力の調整中に車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4から対応する出口弁OV1,OV2,OV3,OV4を介して排出されたブレーキ流体が、対応する低圧貯蔵器NS1,NS2に貯蔵され、入口弁IV1,IV2,IV3,IV4の上流のポンプシステム22Aの対応するポンプ22.1,22.2を介して、再び、ブレーキ回路BK1,BK2へと戻される。図示の実施例においては、第1のブレーキ回路BK1の車輪ブレーキRB1,RB2から出口弁OV1,OV2を介して排出されたブレーキ流体は、第1の低圧貯蔵器NS1に貯蔵され、入口弁IV1,IV2の上流の第1のポンプ22.1を介して、再び、第1のブレーキ回路BK1へと戻される。第2のブレーキ回路BK2の車輪ブレーキRB3,RB4から出口弁OV3,OV4を介して排出されたブレーキ流体は、第2の低圧貯蔵器NS2に貯蔵され、入口弁IV3,IV4の上流の第2のポンプ22.2を介して、再び、第2のブレーキ回路BK2へと戻される。
【0038】
特に高度自動化車両又は自律車両のための、上述した多系統液圧閉成型ブレーキシステム1のための本発明に係る動作方法においては、通常動作時には、メインシステム10が、第1の圧力発生器12を用いて、ブレーキ回路BK1,BK2内の圧力を増加させ又は低減させ又は維持する。さらに、通常動作時には、二次システム20が、第2の圧力発生器22及び液圧ユニット26を用いて、車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4内の個々のブレーキ圧力の調整を実施する。メインシステム10に障害が発生した場合には、二次システム20が、第2の圧力発生器22及び液圧ユニット26を用いて、ブレーキ回路BK1,BK2内の圧力を増加させ又は低減させ又は維持させ、かつ、少なくとも2つの車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4内の個々のブレーキ圧力の調整を実施する。二次システム20に障害が発生した場合には、メインシステム10が、第1の圧力発生器12を用いて、ブレーキ回路BK1,BK2及び車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4内の圧力を増加させ又は低減させ又は維持させ、そして、車輪ブレーキRB1,RB2,RB3内の個々のブレーキ圧力の調整は、省略される。
【0039】
通常動作時、又は、二次システム20に障害が発生した場合に、ブレーキ回路BK1,BK2内の圧力を増加又は低減させるためには、圧力維持・圧力制御弁PRV1,PRV2が、常時開の状態へと移行され、プランジャシステム12Aの駆動部12.3が、ブレーキ回路BK1,BK2内の圧力を増加させるために、ピストンを第1の方向へと移動させるように制御され、又は、ブレーキ回路BK1,BK2内の圧力を低減させるために、ピストンを第1の方向とは逆向きの第2の方向へと移動させるように制御される。
【0040】
さらに、通常動作時、又は、二次システム20に障害が発生した場合に、ブレーキ回路BK1,BK2内の圧力を維持するためには、圧力維持・圧力制御弁PRV1,PRV2が、常時開の状態へと移行され、プランジャシステム12Aの駆動部12.3が、ピストンを現在の位置に維持する。
【0041】
さらに、メインシステム10に障害が発生した場合に、ブレーキ回路BK1,BK2内の圧力を増加させるためには、圧力維持・圧力制御弁PRV1,PRV2が閉弁され、高圧切換弁HSV1,HSV2が開弁される。さらに、第2の圧力発生器22の駆動部22.3が、ポンプ22.1,22.2を用いてブレーキ回路BK1,BK2内の圧力を増加させるように制御される。さらに、メインシステム10に障害が発生した場合に、ブレーキ回路BK1,BK2内の圧力を低減させるためには、圧力維持・圧力制御弁PRV1,PRV2が開弁される。メインシステム10に障害が発生した場合に、ブレーキ回路BK1,BK2内の圧力を維持するためには、圧力維持・圧力制御弁PRV1,PRV2が閉弁される。
【0042】
さらに、通常動作時、又は、メインシステム10に障害が発生した場合に、対応する車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4内の個々の圧力を増加させるためには、対応する入口弁IV1,IV2,IV3,IV4が開弁され、対応する出口弁OV1,OV2,OV3,OV4が閉弁される。通常動作時、又は、メインシステム10に障害が発生した場合に、対応する車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4内の個々の圧力を維持するためには、対応する入口弁IV1,IV2,IV3,IV4と、対応する出口弁OV1,OV2,OV3,OV4と、が閉弁される。通常動作時、又は、メインシステム10に障害が発生した場合に、対応する車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4内の個々の圧力を低減させるためには、対応する入口弁IV1,IV2,IV3,IV4が閉弁され、対応する出口弁OV1,OV2,OV3,OV4が開弁される。
【0043】
さらに、車輪ブレーキRB1,RB2,RB3,RB4内で漏れが検出された場合には、対応する入口弁IV1,IV2,IV3,IV4が閉弁される。
【0044】
本方法は、例えば制御装置(10)において、ソフトウェア若しくはハードウェアの形態で又はソフトウェアとハードウェアとの混合形態で実施可能である。
【0045】
本発明の実施形態は、運転者による機械的及び/又は液圧的な介入を伴わない、特に高度自動化車両又は自律車両のための多系統液圧閉成型ブレーキシステムと、対応する動作方法とを提供するものであり、この場合には、使用されている、液圧的に直列に配置された複数の圧力発生器が、液圧ユニットを介して液圧的に配管されることにより、車両の全ての車輪ブレーキに対して作用する。