(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】水中の炭化水素汚染の測定
(51)【国際特許分類】
G01N 33/18 20060101AFI20221129BHJP
G01N 21/3577 20140101ALI20221129BHJP
【FI】
G01N33/18 B
G01N21/3577
(21)【出願番号】P 2020561877
(86)(22)【出願日】2018-05-04
(86)【国際出願番号】 IB2018000577
(87)【国際公開番号】W WO2019211640
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2021-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】505056845
【氏名又は名称】アーベーベー・シュバイツ・アーゲー
【氏名又は名称原語表記】ABB Schweiz AG
【住所又は居所原語表記】Bruggerstrasse 66, 5400 Baden, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリー エル. バウス
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-086902(JP,A)
【文献】特表2009-524814(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0010209(US,A1)
【文献】特表2018-509615(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0016813(US,A1)
【文献】特表平09-502265(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0370896(US,A1)
【文献】BLAIR, D. S. et al.,Quantitative Monitoring of Volatile Organic Compounds in Water Using an Evanescent Fiber Optic Chemical Sensor,ENVIRONMENTAL SCIENCE & TECHNOLOGY,1998年,Vol.32, No.2,pp.294-298
【文献】LAI, W. et al.,Photonic crystal slot waveguide absorption spectrometer for on-chip near-infrared spectroscopy of xylene in water,APPLIED PHYSICS LETTERS,2011年,Vol.98, No.2,pp.023304-1-23304-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/18
G01N 21/3577
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の炭化水素汚染を測定する赤外線分析を実行するための方法であって、前記方法は、
光源からの光を提供するステップであって、前記光が5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の近赤外線(NIR)放射出力を含むステップと、
前記光源からの光を、実験水サンプルを通過するように導くステップと、
前記実験水サンプルを透過した前記光を検出するステップであって、前記光は、0.5mm~10mmの光路長を有する前記実験水サンプルを通過する赤外線ビームを有する、前記光を検出するステップと、
前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の前記実験水サンプルを通過した光の損失を判定するステップと、
前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の前記光の損失のみに基づいて、前記実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを判定するステップと、
前記実験水サンプル中の前記炭化水素汚染レベルを示す出力を形成するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記方法は、
前記光の損失と、水中の炭化水素汚染の既知のレベルに関連する前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の既知の光の損失と、を比較するステップと、
前記光の損失および前記既知の光の損失に基づいて、炭化水素汚染レベルを判定するステップと、
をさらに含む、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、前記光が前記実験水サンプルに到達する前または前記実験水サンプルを透過した後に、異なる波長に一意的に関連する波数に前記光を変調するステップをさらに含み、前記変調は、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の少なくともいくつかの波数に変調することを含む、
請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、前記光が前記実験水サンプルに到達する前または前記実験水サンプルを透過した後に、1つもしくは2つの波長または波長帯域のみを有するように前記光源を選択するステップをさらに含み、前記波長または波長帯域は、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲で生じる、
請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記光源は、波数を調整可能なレーザまたは異なる可変波長を有する複数のレーザであり、前記波数を調整可能なレーザは、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の少なくともいくつかの波数への調整を可能にし、または、前記複数のレーザは、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の少なくともいくつかの波数で光を出力する、
請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記赤外線分析は、分散ダイオードアレイ分光計を用いて実行される、
請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記赤外線分析は、分散走査分光計を用いて実行される、
請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記赤外線分析は、フーリエ変換赤外線スペクトラムアナライザを使用して実行される、
請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記方法は、
前記光源からの光を、参照水サンプルを通過するように導くステップと、
前記参照水サンプルを出ていく前記光を検出するステップと、
5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の前記参照水サンプルを通過した前記光の損失を判定するステップと、
前記参照水サンプルを通過した前記光の損失を、前記実験水サンプルを通過した前記光の損失から差し引いて、光の損失差を形成するステップと、
前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の前記光の損失差に基づいて、前記実験水サンプル中の前記炭化水素汚染レベルを判定するステップと、
をさらに含む、
請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記方法は、
前記光の損失差と、水中の炭化水素汚染の既知のレベルに関連する前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の既知の光の損失と、を比較するステップと、
前記比較に基づいて、前記炭化水素汚染レベルを判定するステップと、
をさらに含む、
請求項
9記載の方法。
【請求項11】
前記方法は、前記光を検出する前に、7000cm
-1を上回る波数での透過を阻止するように動作可能な長波フィルタで前記光をフィルタリングするステップをさらに含む、
請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、
既知の炭化水素汚染レベルで水サンプルを測定して、前記既知の炭化水素汚染レベルに関連する前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の既知の光の損失特性を取得するステップと、
前記光の損失および前記既知の光の損失特性に基づいて、前記実験水サンプル中の前記炭化水素汚染レベルを判定するステップと、
をさらに含む、
請求項1記載の方法。
【請求項13】
水中の炭化水素汚染を測定する赤外線分析を実行するための装置であって、前記装置は、
5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の近赤外線(NIR)スペクトル出力を含む出力を提供する光源と、
実験水を受容するように構築され、前記光源からの光を受け取るように配置されたサンプルセルであって、0.5mm~10mmの実験水サンプル光路長を有するサンプルセルと、
前記サンプルセルを透過した光を受け取るように配置された検出器であって、少なくとも前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の放射を検出するように動作可能である検出器と、
前記検出器に通信可能に結合されたコントローラであって、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲で前記サンプルセルを通過した光の損失を判定し、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の前記光の損失に基づいて実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを判定し、前記実験水サンプル中の前記炭化水素汚染レベルを示す出力を形成するように動作可能であるコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の前記光の損失のみに基づいて、前記実験水サンプル中の前記炭化水素汚染レベルを判定するように動作可能である装置。
【請求項14】
前記装置は、前記光が前記実験水サンプルに到達する前または前記実験水サンプルを透過した後に、異なる波長に一意的に関連する波数に前記光を変調するように構築され、前記変調は、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の少なくともいくつかの波数に変調することを含む、
請求項
13記載の装置。
【請求項15】
前記光源は、前記光が前記実験水サンプルに到達する前または前記実験水サンプルを透過した後に、1つもしくは2つの波長または波長帯域のみを生成するように構築され、前記波長または波長帯域は、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲で生じる、
請求項
13記載の装置。
【請求項16】
前記光源は、波数を調整可能なレーザまたは異なる可変波長を有する複数のレーザであり、前記波数を調整可能なレーザは、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の少なくともいくつかの波数への調整を可能にし、または、前記複数のレーザは、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の少なくともいくつかの波数で光を出力する、
請求項
13記載の装置。
【請求項17】
前記赤外線分析は、分散ダイオードアレイ分光計を使用して実行される、
請求項
13記載の装置。
【請求項18】
前記赤外線分析は、分散走査分光計を使用して実行される、
請求項
13記載の装置。
【請求項19】
前記赤外線分析は、フーリエ変換赤外線スペクトラムアナライザを使用して実行される、
請求項
13記載の装置。
【請求項20】
前記装置は、前記光源と前記サンプルセルとの間に配置された光変調器、または、前記サンプルセルと前記検出器との間に配置された光変調器をさらに備え、前記光変調器は、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の少なくともいくつかの波数に前記光を変調するように動作可能である、
請求項
13記載の装置。
【請求項21】
前記光変調器は、フーリエ変換赤外線スペクトラムアナライザである、
請求項
20記載の装置。
【請求項22】
水中の炭化水素汚染を測定する赤外線分析を実行するための装置であって、前記装置は、
5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の近赤外線(NIR)スペクトル出力を含む出力を提供する光源と、
実験水を受容するように構築され、前記光源からの光を受け取るように配置されたサンプルセルであって、0.5mm~10mmの実験水サンプル光路長を有するサンプルセルと、
前記サンプルセルを透過した光を受け取るように配置された検出器であって、少なくとも前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の放射を検出するように動作可能である検出器と、
前記検出器に通信可能に結合されたコントローラであって、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲で前記サンプルセルを通過した光の損失を判定し、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の前記光の損失に基づいて実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを判定し、前記実験水サンプル中の前記炭化水素汚染レベルを示す出力を形成するように動作可能であるコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の1つのみもしくは2つの個別の波長または波長帯域での前記光の損失のみに基づいて、前記実験水サンプル中の前記炭化水素汚染レベルを判定するように動作可能である、装置。
【請求項23】
前記装置は、前記サンプルセルと前記検出器との間に配置された長波フィルタをさらに備え、前記長波フィルタは、前記光を検出する前に7000を上回る波数での透過を阻止するように動作可能である、
請求項
13記載の装置。
【請求項24】
前記コントローラは、参照水サンプルで満たされたときの前記サンプルセルを通過した光の損失と、前記実験水サンプルで満たされたときの前記サンプルセルを通過した光の損失と、を比較するように動作可能である、
請求項
13記載の装置。
【請求項25】
水中の炭化水素汚染を測定する赤外線分析を実行するための装置であって、前記装置は、
光源と、
実験水を受容するように構築され、前記光源からの光を受け取るように配置されたサンプルセルであって、0.5mm~10mmの実験水サンプル光路長を有するサンプルセルと、
前記サンプルセルを透過した光を受け取るように配置された検出器であって、少なくとも5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の放射を検出するように動作可能である検出器と、
前記光源と前記サンプルセルとの間に配置された光変調器、または、前記サンプルセルと前記検出器との間に配置された光変調器であって、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の少なくともいくつかの波数に前記光を変調するように動作可能である光変調器と、
前記検出器に通信可能に結合されたコントローラであって、プログラム命令を実行して前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲で前記サンプルセルを通過した光の損失を判定し、前記5700cm
-1~6300cm
-1の範囲の前記光の損失のみに基づいて実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを判定し、前記実験水サンプル中の前記炭化水素汚染レベルを示す出力を形成するように構成されたコントローラと、
を備える装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、概して、炭化水素汚染に関連し、より詳細には、水中の炭化水素汚染を測定するための装置および方法に関するがこれに限定されない。
【背景技術】
【0002】
水中の炭化水素汚染を測定するための方法および装置は、依然として関心のある分野である。いくつかの既存の装置には、特定の用途に対して、さまざまな短所、欠点および不都合が存在する。例えば、いくつかの方法および装置では、水中の炭化水素汚染を測定するための現在の方法は、既知の量の水からの溶媒または膜による炭化水素の抽出に続いて、時間のかかる、クロロフルオロカーボンなどの赤外線透過溶媒を使用して抽出された炭化水素を赤外線分析することによる炭化水素量の判定を利用している。したがって、この技術領域には、さらなる貢献の必要性が残存している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の一実施形態は、水中の炭化水素汚染を測定する赤外線分析を実行するための独自の方法である。別の実施形態は、水中の炭化水素汚染を測定する赤外線分析を実行するための独自の装置である。他の実施形態には、水中の油汚染の赤外線分析のための装置、システム、装置、デバイス、ハードウェア、方法およびこれらの組み合わせが含まれる。本出願のさらなる実施形態、形状、特徴、態様、利益および利点は、本明細書により提供される説明および図面から明らかになるであろう。
【0004】
本明細書における説明は、添付の図面を参照しており、図面では、いくつかの図を通じて同様の参照番号は同様の部分を指している。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】本発明の実施形態による、水中の炭化水素汚染を測定するための装置の非限定的な実施例のいくつかの態様を概略的に示す図である。
【
図2】10μmおよび100μmサンプル光路長に基づく近赤外線スペクトルにおける水の吸光の非限定的な実施例のいくつかの態様を示すプロットである。
【
図3】近赤外線スペクトルにおける水の吸光および炭化水素の吸光の非限定的な実施例のいくつかの態様を示すプロットであり、水の低い吸光および炭化水素の高い吸光の領域を強調している。
【
図4】近赤外線における5mm光路長の水サンプルの透過度スペクトルの非限定的な実施例のいくつかの態様を示す図であり、約5700cm
-1~6300cm
-1の領域で約5%の透過度を示している。
【
図5】領域の高周波数側と低周波数側との両方での水の吸光によって定義される、約5700cm
-1~6300cm
-1における透過度領域の非限定的な実施例のいくつかの態様を示す図である。
【
図6】水中の20ppmのイソプロパノールの4つのトレースおよび純粋に対する吸光度の3つのトレースに対する吸光度スペクトルの非限定的な実施例のいくつかの態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明の基本方式の理解を促進する目的のために、図面に示されている実施形態がここで参照され、これを説明するために特定の言語が使用される。それにもかかわらず、これによって本発明の範囲を限定することを意図しないことが理解されるであろう。説明された実施形態における任意の変更およびさらなる修正、ならびに本明細書に説明される本発明の基本方式のさらなる適用は、本発明が関連する当業者が通常行いうるように企図されている。
【0007】
図1を参照すると、本発明の実施形態による、水中の炭化水素汚染を測定するための装置10の非限定的な実施例のいくつかの態様が概略的に示されている。装置10は、光源12、サンプルセル14、検出器16およびコントローラ18を含む。いくつかの実施形態では、例えば、サンプルセルと検出器16との間の光路に配置されたフィルタ20を含んでもよい。他の実施形態では、フィルタを含まなくてもよく、またはフィルタ20に加えてもしくはその代わりに他のフィルタを含んでもよい。いくつかの実施形態では、光源12は、1つ以上のフィルタを含んでもよく、または1つ以上のフィルタを光源12とサンプルセルとの間に配置して、サンプルセルが1つ以上の所望の波長もしくは波長帯域のみでの光を受け取るようにすることができる。いくつかの実施形態では、第2のまたは後続のサンプルセル(単数または複数)22が含まれていてよいが、他の実施形態では、単一のサンプルセルのみが使用されてもよい。いくつかの実施形態では、分光器、分光計、スペクトラムアナライザ、分散ダイオードアレイ分光計、調整可能な波長源もしくはデバイス、または調整可能なレーザ24が含まれていてもよい。
【0008】
装置10は、サンプルセル14内に含まれる実験サンプルに光を通過させることによって(例えば、実験サンプルは、微量またはそれ以上の炭化水素量などの、炭化水素で汚染されているか、汚染されている可能性のある水サンプルである)、およびサンプルを透過した光を分析し、波数もしくは周波数としてまたは近赤外線(NIR)スペクトルの周波数もしくは波数の範囲内で表される特定の波長または逆波長での光の損失を判定することによって、水中の炭化水素汚染、例えば水中の油および/または油脂汚染を測定するように動作可能である。いくつかの実施形態では、実験サンプル分析の結果は、炭化水素汚染の存在を判定するため、およびいくつかの実施形態では炭化水素汚染の量を判定するために、参照サンプル、例えば純水の赤外線分析の結果と比較される。例えば、特定の波数での参照サンプルに関連する光の損失を、同じ波数での実験サンプルに関連する光の損失から差し引くことができ、これにより、実験サンプル中の不純物に関連する光の損失が算出される。本明細書で論じられるように、分析されるNIR波数は、炭化水素の吸光に関連付けられるものであり、したがって、これらの周波数に関連付けられる光の損失は、炭化水素汚染を反映している。いくつかの実施形態では、例えば、参照サンプルを分析し、参照サンプルをサンプルセルから洗い流し、これを実験サンプルと置き換え、続いて実験サンプルを分析することにより、参照サンプルおよび実験サンプルの順次分析にサンプルセル14を使用することができる。他の実施形態では、分析の順序を逆にすることができる。
【0009】
いくつかの実施形態では、実験サンプルはサンプルセル14に含まれていてよく、参照サンプルはサンプルセル22に含まれていてよく、両サンプルは別々に分析されてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、例えば、光路内に配置されたサンプルセル14内の参照サンプルを分析し、サンプルセル14を、実験サンプルを含むサンプルセル22と置き換えてこれが光路内に配置されるようにし、次いで、実験サンプルを分析することによって、単一の光路を使用してサンプルを順次分析することができる。他の実施形態では、順序を逆にすることができる。いくつかの実施形態では、それぞれが同じ光学特性を有する二重光路を使用してもよく、これにより、サンプルセルを置き換える必要がなくなる。
【0010】
本発明のいくつかの実施形態におけるスペクトル分析は、赤外線源、例えば、光源12によって生成された光を、サンプルを通過するように導くこと、ならびに例えば、光を異なる波長または周波数に分離する分光計またはスペクトラムアナライザ、および光を測定可能な信号に変換する赤外線検出器によって判定されるように、異なる波長に対するサンプルによる光の損失を測定すること、を含む。いくつかの実施形態では、サンプルによる光の損失は、参照スペクトル、例えば、同じサンプルセルまたは同じタイプのサンプルセル内の、すなわち同じ光学特性を有する純水サンプルなどの、参照サンプルの分析、を使用することによって、光強度の他の変動から分離される。例えば、上述のように、参照サンプルの分析は、いくつかの実施形態では参照サンプルで置き換えられる、実験サンプルがない場合を除いて、同じ光路を使用することができる。水中の油または他の炭化水素不純物など、実験サンプル中の不純物を判定する場合は、純水サンプルを参照サンプルとして使用してもよい。
【0011】
赤外線分析を使用して水中の炭化水素汚染を測定することは可能であるが、以前の装置および方法では、非常に低い濃度、例えば数十パーツパーミリオン(ppm)以下で測定される微量を直接測定することは可能ではない。例えば、10μm(0.01mm)の水のフィルムは、広いスペクトル範囲にわたって赤外線透過性であり、一般的な赤外線透過分光法で分析することができる。水と炭化水素との混合物のサンプルは、サンプルを通過する赤外線ビームの光路長が10μm以下に制限されている場合、赤外線分析によって分析することができる。ランベルト・ベールの法則により、測定された吸光度は、吸収媒体の濃度および厚さに比例する。水サンプルの光路長は非常に短く(例えば、10μm)、一般的な赤外線透過分光法によっては相対的に高濃度の炭化水素しか測定できない。水中の典型的な測定可能な炭化水素濃度は、>1%である。現在の赤外線分光計は、既存の方法論を使用して測定可能な炭化水素濃度を微量またはppmレベルまで拡張するために必要とされうる非常に高い感度および安定性を有していない。水中の炭化水素汚染の微量またはppmレベルには、例えば、数十パーツパーミリオン、すなわち、100ppm以下の範囲の汚染が含まれ、場合によっては、1~20ppm(0.0001%~0.0020%)以下の低さである。赤外線ビームの光路長を、例えば100μm(0.1mm)に増大すると、より低濃度の炭化水素の測定を可能にすることができるが、残念ながら、水サンプルの光路長が長くなると水がもはや透明でなくなりうるため、既存の方法論を使用した微量の炭化水素汚染の測定が損なわれ、または妨げられうる。例えば、
図2を参照すると、10μmおよび100μmの光路長での水の吸光度が示され、それぞれ、参照記号30および32によって示されている。光路長を10μmから100μmに増大すると、炭化水素汚染の濃度が10分の1に低下しうるが、水サンプルは広いスペクトル範囲にわたってもはや透明ではなくなり、赤外線分析機能が大幅に低下しうる。サンプル光路長をさらに長くすると、水サンプルが透明であるスペクトル領域がさらに大幅に減少し、既存の方法論を使用したより少量の汚染の測定がさらに損なわれ、または妨げられることを理解されたい。
【0012】
従来、水中の炭化水素のppmレベル濃度を判定する慣例では、最初に既知の量の水から炭化水素を抽出し、次いで抽出される炭化水素の量の判定を実行することを含む。抽出は、例えば、溶媒抽出または膜抽出によって行うことができる。クロロフルオロカーボン(CFC)などの赤外線透過溶媒を使用すると、CFCサンプルを通過する数cmの光路長を使用した赤外線分析によって抽出された炭化水素を測定することが可能になる。
【0013】
本発明者らは、分析前に水から炭化水素を抽出するという時間のかかるステップを必要とすることなく、NIRスペクトル内の特定の領域が、水中の微量レベルの炭化水素汚染の赤外線分析に特に有用でありうることを突き止めた。
【0014】
一形態では、装置10は、スペクトル分解された低レベルの吸光度を測定するように構築され、例えば、適切な明るさの赤外線源および適切に高感度の赤外線検出器要素と組み合わせたFTIR分光計、または適切に安定した調整可能なレーザもしくは高感度で安定した分光データを提供することができる他のデバイスなどである。赤外線スペクトルの大部分が透明でなくなるように、水および炭化水素サンプルを通過する光路長を増大することにより、大部分の炭化水素(油、脂肪、油脂)が特徴的な吸収帯を有するスペクトル領域と一致する透明度の限られたスペクトル領域を保持しながら、微量の炭化水素汚染の測定を実行することができる。例えば、
図2~
図5を参照すると、多くの炭化水素に起因する最も強い特性スペクトル吸収帯のうちの1つは、約3450nm(2900cm
-1)でのC-Hストレッチ帯域であると考えられうるが、このスペクトル領域では、2770nm(3600cm
-1)での水のO-Hストレッチ帯域の広い性質により水の吸光(
図2)は依然として非常に高く、したがって、これは、水中の炭化水素汚染の微量またはppmレベルの判定に適したスペクトル領域を提供しない。
【0015】
一方、近赤外線の1770nm(5700cm
-1)でのC-Hストレッチ帯域の第1高調波は、この領域の残留水の吸光と比べて強い。炭化水素の最低濃度を測定できるように、水の透過度を小さいが適切なレベルに制限することによってサンプル光路長は最大化される。
図3は、3つの異なる炭化水素に対する水の吸光40および炭化水素の吸光42、44および46を示している。
図3に示すように、約5700cm
-1~約6300cm
-1の領域、特に、約5700cm
-1~約6000cm
-1の領域、すなわち、C-Hストレッチの1次高調波を含む領域は、相対的に低い水の吸光を含むだけでなく、炭化水素の吸光度の水の吸光度に対する比率が最大である、相対的に高い炭化水素の吸光の領域も含む。絶対的なスケールでは、炭化水素の吸光はこれらの領域で低く、したがって、既存の方法論を使用した赤外線分析には従来では望ましい領域ではない。しかしながら、本発明者らは、以前は利用されていなかった、この領域における炭化水素の吸光度の水の吸光度に対する相対的に高い比率により、微量レベルの炭化水素汚染の測定を可能にすることを発見した。
図4および
図5は、5mm光路長の水サンプルの透過度50を示しており、水の透過度は、5700cm
-1の領域で約5%である。(例えば、炭化水素の)C-Hストレッチの1次高調波の吸光度は、より短波の近赤外線帯域よりもはるかに強いため、
図4の7000cm
-1よりも高い周波数における高い透過度は有用ではない。いくつかの実施形態では、光学フィルタ、例えば、1500nm長波フィルタなどの光学フィルタ20を使用して、約7000cm
-1を上回る領域を阻止し、これにより、
図5に示されるように、約5700cm
-1~約6300cm
-1近くの狭い透過度領域を生じる。
図4および
図5では、C-Hストレッチの高調波を下回る領域、例えば約5500cm
-1を下回る領域もまた、明瞭化のためにフィルタリング除去されている。C-Hストレッチの高調波に対する1次高調波付近の水の吸光度に対する炭化水素の吸光度の比率が高いことにより、特に光路長が例えば5mmに増大した場合、少量または微量の炭化水素汚染量に対する赤外線分析の感度をさらに高めることができ、これにより、低ppm範囲での、例えばいくつかの実施形態では5ppm以下まで、および他の実施形態では1ppm以下までの微量の炭化水素汚染の測定が可能になる。
【0016】
図3を参照すると、約4200cm
-1~約4400cm
-1の範囲の炭化水素の吸光は、絶対的な意味では約5700cm
-1~約6300cm
-1の領域よりも大きいが、約4200cm
-1~4400cm
-1の範囲の、水の吸光に対する炭化水素の吸光の比率は、約5700cm
-1~約6300cm
-1の領域、特に、約5700cm
-1~約6000cm
-1の領域における水の吸光に対する炭化水素の吸光の比率ほどは大きくはなく、これにより、後者のNIR領域は、微量の炭化水素汚染を検出するのに特に適している。約5700cm
-1~約6300cm
-1に近い透過度の小領域の外側での放射の全吸収は、高感度の近赤外線検出器を使用する場合の、過負荷および過剰ノイズを回避するFTIR分光計に適している。
図6は、水中の20ppmイソプロパノールの4つのトレース62、64、66、68、およびサンプル光路長5mmでの純水に対する吸光度の3つのトレース70、72、74の吸光度スペクトルを示している。
図6の例の検出限界は、<5ppmと推定される。より低い検出限界は、他の実施形態において、例えば、光源特性および検出器特性、ならびにそのように装備された実施形態に対する分光計特性に応じて、達成されうることを理解されたい。
【0017】
したがって、本発明の実施形態は、約5700cm-1~約6300cm-1のスペクトル範囲、または約5700~6300の波数範囲で、水サンプルの赤外線分析を実行することを対象とする。いくつかの実施形態では、赤外線分析は、約5700~6300の波数範囲の周波数でのみ実行される。いくつかの実施形態では、より狭い領域は、例えば、約5700~6000の間の波数で、またはその波数のみでの赤外線分析で使用することができる。
【0018】
光源12は、サンプルセル14内に配置されたサンプルの赤外線分析のためにサンプルセル14に光または放射を供給するように動作可能であり、約5700cm-1~6300cm-1のNIRスペクトルの光を含む。この範囲外の光もまた、光源12によって供給されうる。一形態では、光源12は、フィラメントベースの白熱光源、例えば、石英ハロゲン自動車用電球などの市販の石英ハロゲン電球である。他の実施形態では、光源12は他の形態をとることができ、例えば、1つ以上のレーザおよび/もしくは発光ダイオード(LED)、または約5700cm-1~約6300cm-1の範囲にわたる赤外光、およびいくつかの実施形態では、約5700cm-1~6000cm-1の範囲にわたる赤外光を生成することができる任意の光源でありうる。
【0019】
分光器24は、光源12から受け取った光の周波数を変調するように構築されている。例えば、分光器24は、光を別個の周波数または波長に分離し、所望の範囲内、例えば、約5700cm-1~6300cm-1の範囲で、およびいくつかの実施形態では約5700cm-1から6000cm-1の範囲で、順次、光または放射の所望の周波数または波数を走査するように構成されている。いくつかの実施形態では、分光器24は、光源12から受け取った光または放射を、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の周波数によってのみ、他の実施形態では約5700cm-1~6000cm-1の範囲の周波数によってのみ、変調するように動作可能である。周波数の増分は、用途のニーズによって変化しうる。例えば、いくつかの実施形態では、分光器24は、周波数範囲を10cm-1の増分で走査することができるが、他の実施形態では、100cm-1の増分を使用することができる。いくつかの実施形態では、所望の範囲内の特定の選択周波数のみを使用してもよい。一形態では、分光器24は、分散ダイオードアレイ分光計または可変フィルタ分光計である。別の形態では、光源12は、分光器24が必要とされない場合、調整可能なダイオードレーザでありうる。特定の形態では、分光器24は、フーリエ変換赤外線(FTIR)スペクトラムアナライザである。適切な分光器24の非限定的な例は、カナダ国ケベック州のABB Bomem社によって製造された、MB3000 FTIRスペクトラムアナライザなどの市販のFTIRスペクトラムアナライザである。他の実施形態では、他の分光器またはスペクトラムアナライザを使用することができる。
【0020】
一形態では、分光器24は、光源12と分析されているサンプルセル、例えば、サンプルセル14との間の光路に配置され、これにより、長波長赤外領域での自己発光など、サンプルによる自己発光のスペクトル分析を回避する。他の実施形態では、分光器24は、サンプルセルと検出器16との間、例えば、サンプルセルとフィルタ20との間、またはフィルタ20と検出器16との間の光路に配置されうる。いくつかの実施形態では、分光器は使用しなくてもよい。例えば、いくつかの実施形態では、検出器16は、光源12から発せられる光または放射を変調または分散するための分光器を必要とすることなく、離散周波数または周波数帯域を測定するように構築および動作可能でありうる。いくつかの実施形態は、セル14内の実験サンプル中の炭化水素汚染物質の存在および量を確認するために、2つの離散波長または2つの離散波長帯域における光の損失のみを測定することができ、これにより、炭化水素汚染物質の種類または化学的性質を判定することを可能にしうる詳細なスペクトル分析を中止することができる。例えば、個別のNIRレーザおよび/またはLEDおよび/または他の光源などの複数のエミッタを使用することができ、各エミッタは、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の、またはいくつかの実施形態では約5700cm-1~6000cm-1の範囲の、個別の周波数または周波数帯域で、光または放射を放つ。
【0021】
サンプルセル14は、分析すべきサンプルSとして、例えば、純水(参照サンプル)または表面上汚染された水(実験サンプル)のいずれかとして、所望の量の水を受け入れて保持するように構築されている。赤外線分析中、サンプルセル14は、例えば、分光器24によって分解または変調されるように、光源12によって生成された光を受け取るために、光路内に配置および位置決めされる。一形態では、サンプルセル14は、石英で形成され、すなわち、石英窓14Aを有する。他の実施形態では、他の赤外線透過材料、例えば、いくつかの実施形態では、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の周波数で、または他の実施形態では、約5700cm-1~6000cm-1の範囲の周波数で、透明である材料を、窓14Aとして使用することができる。一形態では、サンプルセル14は、5mmまたは約5mmの水サンプルを通過する光路長PLを有する。他の実施形態では、光路長は、用途の必要性に応じて変化させることができ、例えば、0.5mm~20mmの範囲で、またはより好ましくは0.5mm~10mmの範囲で、またはさらにより好ましくは2mm~8mmの範囲であってよい。他の実施形態では、光路長はこれらの範囲外であってもよい。そのように装備された実施形態のサンプルセル22は、サンプルセル14と同様である。
【0022】
検出器16は、サンプルおよびサンプルセルを透過した光または放射を受け取るように配置された光または電磁放射検出器である。検出器16は、いくつかの実施形態では少なくとも約5700cm-1~6300cm-1の範囲で、他の実施形態では少なくとも約5700cm-1~6000cm-1の範囲で、赤外線放射を検出するように動作可能である。検出器16はまた、他の周波数での光または放射を検出することができる。検出器16は、光または放射の検出に応じて電子信号を形成するように動作可能であり、信号は、検出器16によって受け取られる光または放射の振幅または強度を示す。適切な検出器の例は、少なくとも2000nmの波長カットオフを有する市販のTE冷却拡張波長InGaAs検出器である。いくつかの実施形態では、検出器16は、自身が検出するIR放射の周波数を分解するように構成されてもよい。
【0023】
コントローラ18は、検出器16および分光器24に通信可能に結合されている。コントローラ18は、分光器24による光の変調を制御するように動作可能である。いくつかの実施形態では、コントローラ18はまた、光源12に通信可能に結合され、光源12の出力を制御するように動作可能である。コントローラ18は、検出器16によって出力された信号を受信し、その信号を使用して約5700cm
-1~6300cm
-1の範囲でサンプルセルを通過した光の損失を判定するように動作可能である。一形態では、光の損失は、例えば、
図6の吸光度スペクトルなど、吸光度に関して測定されて示される。他の実施形態では、光の損失は、例えば、透過度を含む他の形態をとりうる。いくつかの実施形態では、光の損失の判定は、サンプルセルまたはサンプルを光路に導入する前の光の初期特性、例えば所望の周波数での振幅を確立する初期較正量または参照値に基づきうる。いくつかの実施形態では、コントローラ18は、約5700cm
-1~6300cm
-1の範囲でのみ光の損失を判定するように動作可能である。他の実施形態では、コントローラ18は、約5700cm
-1~6000cm
-1の範囲でのみ光の損失を判定するように動作可能でありうる。さらに他の実施形態では、コントローラ18は、他の周波数においても同様に光の損失を判定するように動作可能でありうる。
【0024】
コントローラ18は、光の損失に基づいて実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを判定するように動作可能である。いくつかの実施形態では、コントローラ18は、参照水サンプル、例えば、純水で満たされたときのサンプルセルを通過した光の損失と、実験水サンプル、すなわち、表面上汚染された水で満たされたときのサンプルセルを通過した光の損失と、を比較して、光の損失差を判定し、その差に基づいて炭化水素汚染レベルを判定するように動作可能である。さまざまな実施形態では、コントローラ18は、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の光の損失に基づいて、または約5700cm-1~6000cm-1の範囲の光の損失に基づいて、または約5700cm-1~6300cm-1の範囲の光の損失のみに基づいて、または約5700cm-1~6000cm-1の範囲の光の損失のみに基づいて、炭化水素汚染レベルを判定するように動作可能である。コントローラ18は、実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを示す出力を形成するように動作可能である。出力は、例えば、ディスプレイ(図示せず)上に表示されてもよく、および/または印刷された出力であってもよい。
【0025】
フィルタ20は、光学フィルタである。一形態では、フィルタ20は、サンプルセルと検出器16との間の光路に配置される。一形態では、フィルタ20は、約7000を上回る波数、すなわち、約7000cm-1を上回る周波数において透過を阻止するように動作可能である。一形態では、フィルタ20は、1500nm長波フィルタである。他の実施形態では、1500nm長波フィルタに加えて、またはその代わりに、他のフィルタを使用してもよい。いくつかの実施形態では、フィルタを使用して、所望の範囲を下回る、例えば、約5000~5500cm-1を下回る波数を阻止することも、代わりに阻止することもできるため、いくつかの実施形態では、フィルタ20の一部と見なすことができる。
【0026】
水中の炭化水素汚染を測定する赤外線分析を実行するための方法論の非限定的な例には、光源12からサンプルセル、例えば実験水サンプルを含むサンプルセル14へと、およびこれを通過して光を導くことが含まれる。光には、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の近赤外線放射が含まれる。いくつかの実施形態では、光には、約5700cm-1~6000cm-1の範囲の近赤外線放射が含まれる。水サンプルから、または水サンプルを透過した光は、検出器16によって検出される。次いで、実験水サンプルを通過した光の損失、すなわち、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の光の損失が判定される。いくつかの実施形態では、実験水サンプルを通過した約5700cm-1~6000cm-1の範囲の光の損失が判定されうる。いくつかの実施形態では、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の光の損失のみ、または約5700cm-1~6000cm-1の範囲の光の損失のみが判定されうる。
【0027】
次いで、実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルが、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の光の損失に基づいて判定される。いくつかの実施形態では、実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルは、約5700cm-1~6000cm-1の範囲の光の損失に基づいて判定されうる。他の実施形態では、炭化水素汚染レベルは、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の光の損失のみに基づいて、または他の実施形態では、約5700cm-1~6000cm-1の範囲の光の損失のみに基づいて判定される。次いで、炭化水素汚染レベルを示す出力が形成され、これには、例えば、ディスプレイ(図示せず)に汚染レベルを表示すること、および/または、印刷デバイス(図示せず)を使用して汚染レベルを印刷することが含まれうる。
【0028】
いくつかの実施形態では、実験サンプル中の炭化水素汚染レベルの判定は、実験サンプルを通過した光の損失だけでなく、参照サンプル、例えば純水を通過した光の損失にも基づく。例えば、光源12からの光は、参照水サンプル、例えば、純水を通過するように導くことができ、参照水サンプルを出ていく光が検出されうる。次に、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の、またはいくつかの実施形態では約5700cm-1~6000cm-1の範囲の、参照水サンプルを通過した光の損失が判定される。参照水サンプルを通過した光の損失が、実験水サンプルを通過した光の損失から差し引かれ、光の損失差が形成される。次いで、実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルが、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の光の損失差に基づいて判定される。いくつかの実施形態では、実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルは、約5700cm-1~6000cm-1の範囲の光の損失差に基づいて判定されうる。他の実施形態では、炭化水素汚染レベルは、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の光の損失差のみに基づいて、または他の実施形態では、約5700cm-1~6000cm-1の範囲の光の損失差のみに基づいて判定される。さらに他の実施形態では、炭化水素汚染レベルは、5700cm-1~6300cm-1の範囲で選択された1つのみもしくは2つの別個の波長または波長帯域での光の損失に基づいて判定される。
【0029】
さまざまな実施形態では、実験サンプル(および参照サンプルを使用する実施形態の場合は参照サンプル)に到達する前に光を変調すること、またはいくつかの実施形態では、実験サンプル(および参照サンプルを使用する実施形態の場合は参照サンプル)を透過した後の光を変調することを含みうる。変調は、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の、またはいくつかの実施形態では約5700cm-1~6000cm-1の範囲の、所望の光周波数によって変調または走査すること、例えば、サンプルを所望の範囲内の異なる周波数に順次露光させることを含む。例えば、光は、例えば上述のように、フーリエ変換IRスペクトラムアナライザによって変調されうる。他の実施形態では、光源12は、サンプルに導かれた異なる波長に固有の変調周波数を用いて光を変調してもよい。さらに他の実施形態では、光は変調されなくてもよく、むしろ、検出器16が構築され、サンプルを透過して検出器で受け取られる周波数成分の振幅を分解するように動作可能でありうる。いくつかの実施形態では、光または放射は、フィルタ20、例えば、約7000cm-1を上回る波数での透過を阻止するように動作可能な1500nm長波パスフィルタを使用して、検出器16に到達する前にフィルタリングされる。他の実施形態では、他のフィルタパラメータを使用してもよい。いくつかの実施形態はまた、約5000~5500cm-1を下回る光または放射をフィルタリング除去することができる。他の実施形態では、他のフィルタパラメータを使用してもよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、実験サンプルの汚染レベルはまた、測定または判定された光の損失(またはいくつかの実施形態では光の損失差)と、既知の光の損失(例えば、既知の光の損失値またはプロファイルもしくは特性)とを、所望の範囲(例えば、約5700cm
-1~6300cm
-1の範囲、またはいくつかの実施形態では約5700cm
-1~6000cm
-1の範囲)で比較することによっても判定される。この場合、実験サンプルの汚染レベルの判定は、この比較に基づく。例えば、既知の光の損失値またはプロファイルは、既知の炭化水素汚染レベルを有するサンプルを測定して、約5700cm
-1~6300cm
-1の範囲(またはいくつかの実施形態では約5700cm
-1~6300cm
-1の範囲)の対応する光の損失特性を得ることで取得することができ、これにより、既知の炭化水素汚染レベルまたは既知の光の損失特性に関連する光の損失特性が得られる。次に、実験サンプルに関連する光の損失特性(または光の損失差特性)と既知の光の損失特性とを比較して、例えば比較により、およびいくつかの実施形態では補間を用いて、実験サンプルの汚染レベルを判定することができる。既知の光の損失特性の例、すなわち水中の20ppmイソプロパノールの4つのトレース62、64、66、68、およびサンプル光路長5mmでの純水に対する吸光度の3つのトレース70、72、74の吸光度スペクトルが、
図6に示されている。
【0031】
一形態では、炭化水素汚染レベルの判定は、約5700cm-1~6300cm-1の範囲(または他の実施形態では約5700cm-1~6000cm-1の範囲)の光の損失(またはいくつかの実施形態では光の損失差)に基づいて行われる。いくつかの実施形態では、炭化水素汚染レベルの判定は、約5700cm-1~6300cm-1の範囲(または他の実施形態では約5700cm-1~6000cm-1の範囲でのみ)の光の損失(またはいくつかの実施形態では光の損失差)のみに基づいて行われる。
【0032】
本発明の実施形態は、水中の炭化水素汚染を測定する赤外線分析を実行するための方法を含み、方法は、光源からの光を提供することであって、光が約5700cm-1~6300cm-1の範囲の近赤外線(NIR)放射出力を含むことと、光源からの光を、実験水サンプルを通過するように導くことと、実験水サンプルを透過した光を検出することと、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の実験水サンプルを通過した光の損失を判定することと、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の光の損失に基づいて、実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを判定することと、実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを示す出力を形成することと、を含む。
【0033】
一改良では、方法は、光の損失と、水中の既知のレベルの炭化水素汚染に関連する約5700cm-1~6300cm-1の範囲の既知の光の損失と、を比較することと、光の損失と既知の光の損失とに基づいて、炭化水素汚染レベルを判定することと、をさらに含む。
【0034】
別の改良では、方法は、光が実験サンプルに到達する前または実験サンプルを透過した後に、異なる波長に一意的に関連するスイッチング周波数で光を変調することをさらに含み、変調は、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の少なくともいくつかの周波数による変調を含む。
【0035】
さらに別の改良では、方法は、光が実験サンプルに到達する前または実験サンプルを透過した後に、1つもしくは2つの波長または波長帯域のみを有するように光源を選択することであって、波長または波長帯域が、約5700cm-1~6300cm-1の範囲で生じることをさらに含む。
【0036】
さらに別の改良では、光源は、調整可能なレーザ、または異なる可変波長を有する複数のレーザであり、調整可能なレーザは、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の少なくともいくつかの周波数による調整を可能にし、または複数のレーザは、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の少なくともいくつかの周波数で光を出力する。
【0037】
なおもさらに別の改良では、光源は、約5700cm-1~6300cm-1の範囲で生じる異なる波長に一意的に関連するスイッチング周波数で光を変調する1つ以上の固定波長レーザである。
【0038】
さらなる改良では、赤外線分析は、分散ダイオードアレイ分光計を用いて実行される。
【0039】
なおもさらなる改良では、赤外線分析は、分散走査分光計を用いて実行される。
【0040】
なおもさらなる改良では、赤外線分析は、フーリエ変換赤外線スペクトラムアナライザを使用して実行される。
【0041】
なおもさらにさらなる改良では、方法は、光源からの光を、参照水サンプルを通過するように導くことと、参照水サンプルを出ていく光を検出することと、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の参照水サンプルを通過した光の損失を判定することと、参照水サンプルを通過した光の損失を、実験水サンプルを通過した光の損失から差し引いて光の損失差を形成することと、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の光の損失差に基づいて、実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを判定することと、をさらに含む。
【0042】
別のさらなる改良では、方法は、光の損失の差と、水中の既知のレベルの炭化水素汚染に関連する約5700cm-1~6300cm-1の範囲の既知の光の損失と、を比較することと、この比較に基づいて炭化水素汚染レベルを判定することと、をさらに含む。
【0043】
なおも別のさらなる改良では、実験水サンプルの光路長は、0.5mm~10mmである。
【0044】
なおも別のさらなる改良では、実験水サンプルの光路長は、約5mmである。
【0045】
なおも別のさらなる改良では、方法は、光を検出する前に、約7000を上回る波数での透過を阻止するように動作可能な長波フィルタで光をフィルタリングすることをさらに含む。
【0046】
追加の改良では、方法は、既知の炭化水素汚染レベルで水サンプルを測定して、既知の炭化水素汚染レベルに関連する約5700cm-1~6300cm-1の範囲の既知の光の損失特性を取得することと、光の損失および既知の光の損失特性に基づいて、実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを判定することと、をさらに含む。
【0047】
本発明の実施形態は、水中の炭化水素汚染を測定する赤外線分析を実行するための装置を含み、装置は、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の近赤外線(NIR)スペクトル出力を含む出力を提供する光源と、水を受容するように構築され、光源からの光を受け取るように配置されたサンプルセルであって、約0.5mm以上のサンプル光路長を有する、サンプルセルと、サンプルセルを透過した光を受け取るように配置された検出器であって、少なくとも約5700cm-1~6300cm-1の範囲の放射を検出するように動作可能である、検出器と、検出器に通信可能に結合されたコントローラであって、約5700cm-1~6300cm-1の範囲でサンプルセルを通過した光の損失を判定し、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の光の損失に基づいて実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを判定し、かつ、実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを示す出力を形成する、ように動作可能である、コントローラと、を備える。
【0048】
一改良では、装置は、光が実験サンプルに到達する前または実験サンプルを透過した後に、異なる波長に一意的に関連するスイッチング周波数で光を変調するように構築され、変調は、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の少なくともいくつかの周波数による変調を含む。
【0049】
別の改良では、光源は、光が実験サンプルに到達する前または実験サンプルを透過した後に、1つもしくは2つの波長または波長帯域のみを生成するように構築され、波長または波長帯域は、約5700cm-1~6300cm-1の範囲で生じる。
【0050】
さらに別の改良では、光源は、調整可能なレーザ、または異なる可変波長を有する複数のレーザであり、調整可能なレーザは、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の少なくともいくつかの周波数による調整を可能にし、または複数のレーザは、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の少なくともいくつかの周波数で光を出力する。
【0051】
さらに別の改良では、光源は、約5700cm-1~6300cm-1の範囲で生じる異なる波長に一意的に関連するスイッチング周波数で光を変調する1つ以上の固定波長レーザである。
【0052】
なおもさらに別の改良では、赤外線分析は、分散ダイオードアレイ分光計を使用して実行される。
【0053】
さらなる改良では、赤外線分析は、分散走査分光計を使用して実行される。
【0054】
なおもさらなる改良では、赤外線分析は、フーリエ変換赤外線スペクトラムアナライザを使用して実行される。
【0055】
なおもさらなる改良では、サンプル光路長は、0.5mm~10mmである。
【0056】
なおもさらなる改良では、サンプル光路長は、5mmである。
【0057】
別のさらなる改良では、装置は、光源とサンプルセルとの間に、またはサンプルセルと検出器との間に配置された光変調器をさらに備え、光変調器は、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の少なくともいくつかの光周波数によって光を変調するように動作可能である。
【0058】
なおも別のさらなる改良では、光変調器は、フーリエ変換赤外線スペクトラムアナライザである。
【0059】
さらに別のさらなる改良では、コントローラは、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の光の損失のみに基づいて、実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを判定するように動作可能である。
【0060】
なおもさらに別のさらなる改良では、コントローラは、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の1つのみもしくは2つの個別の波長または波長帯域での光の損失のみに基づいて、実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを判定するように動作可能である。
【0061】
追加の改良では、装置は、サンプルセルと検出器との間に配置された長波フィルタをさらに備え、フィルタは、光を検出する前に約7000を上回る波数での透過を阻止するように動作可能である。
【0062】
別の追加の改良では、コントローラは、参照水サンプルで満たされたときのサンプルセルを通過した光の損失と、実験水サンプルで満たされたときのサンプルセルを通過した光の損失と、を比較するように動作可能である。
【0063】
さらに別の追加の改良では、コントローラは、参照水サンプルで満たされたときのサンプルセルを通過した光の損失と、実験水サンプルで満たされたときのサンプルセルを通過した光の損失と、の差に基づいて、実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを判定するように動作可能である。
【0064】
本発明の実施形態は、水中の炭化水素汚染を測定する赤外線分析を実行するための装置を含み、装置は、光源と、水を受容するように構築され、光源からの光を受け取るように配置されたサンプルセルであって、約2mm~約8mmのサンプル光路長を有する、サンプルセルと、サンプルセルを透過した光を受け取るように配置された検出器であって、少なくとも約5700cm-1~6300cm-1の範囲の放射を検出するように動作可能である、検出器と、光源とサンプルセルとの間に、またはサンプルセルと検出器との間に配置された光変調器であって、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の少なくとも1つもしくは2つの光周波数または光周波数の範囲によって光を変調するように動作可能である、光変調器と、検出器に通信可能に結合されたコントローラであって、プログラム命令を実行して約5700cm-1~6300cm-1の範囲でサンプルセルを通過した光の損失を判定し、約5700cm-1~6300cm-1の範囲の光の損失のみに基づいて実験水サンプル中の炭化水素汚染レベルを判定し、かつ実験水サンプルの炭化水素汚染レベルを示す出力を形成する、ように構成された、コントローラと、を備える。
【0065】
本発明を図面および前述の説明において詳細に図示および説明してきたが、これらは例示的であって、特性を限定するものではないと見なされるべきであり、好ましい実施形態のみが図示および説明されており、本発明の精神に含まれる全ての変更および修正が保護されるべきであると望まれることが理解されよう。上述の説明で利用した、好ましい、好ましくは、好まれる、またはより好まれる、などの単語の使用は、このように説明された特徴がより望ましいものでありうることを示しているが、それにもかかわらず、これらは必須ではなく、これらを欠く実施形態も本発明の範囲内にあるものと考えられてよく、その範囲は以下の特許請求の範囲によって規定されることを理解されたい。特許請求の範囲を読む際に、「1つの(a)」、「1つの(an)」、「少なくとも1つ」、または「少なくとも1つの部分」などの語が使用されている場合、各請求項において特に反対の記載がない限り、各請求項を1つの項目のみに限定する趣旨ではないことを意図している。「少なくとも一部」および/または「一部」なる語が使用される場合、特に反対の記載がない限り、項目は、項目の一部および/または全体を含むことができる。
【0066】
特に指定または限定されていない限り、「取り付けられた」、「接続された」、「支持された」および「結合された」なる語、ならびにその変化形は広義にて使用され、直接および間接両方の取り付け、接続、支持および結合を包含する。さらに、「接続された」および「結合された」は、物理的または機械的な接続もしくは結合に限定されない。