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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】ワイヤ送給装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/12 20060101AFI20221129BHJP
   B23K 9/133 20060101ALI20221129BHJP
【FI】
B23K9/12 304B
B23K9/133 502Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021164438
(22)【出願日】2021-10-06
(62)【分割の表示】P 2018071420の分割
【原出願日】2018-04-03
(65)【公開番号】P2022002860
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】楠本 太郎
(72)【発明者】
【氏名】廣田 周吾
(72)【発明者】
【氏名】荒金 智
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-094380(JP,A)
【文献】特開2016-022519(JP,A)
【文献】特開2009-190079(JP,A)
【文献】特開2017-030047(JP,A)
【文献】特開2015-058469(JP,A)
【文献】米国特許第06831251(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/12
B23K 9/133
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送給する第1ワイヤ送給部と、
前記第1ワイヤ送給部により送給された前記溶接ワイヤを収容するワイヤバッファと、
前記ワイヤバッファに収容された前記溶接ワイヤを溶接トーチに送給する第2ワイヤ送給部と、
前記ワイヤバッファに収容されている前記溶接ワイヤのバッファ量を取得するバッファ量取得部と、
前記第1ワイヤ送給部及び前記第2ワイヤ送給部のうち少なくともいずれかにおいて前記溶接ワイヤを移動させるモータと、
前記モータを駆動させ、前記ワイヤバッファに収容されている前記溶接ワイヤのバッファ量を調整するバッファ量調整部と、
前記バッファ量調整部によってバッファ量が調整されていた際に溶接ロボットが実行していた溶接工程に関する情報を含む前記バッファ量の調整に関する情報を、溶接命令に関する情報と関連付けて出力する出力部と、を備えるワイヤ送給装置。
【請求項2】
前記バッファ量の調整に関する情報は、前記バッファ量のずれ量、ずれの方向及び前記バッファ量の調整時間のうち少なくともいずれかを含む、
請求項1に記載のワイヤ送給装置。
【請求項3】
前記溶接命令は、少なくとも溶接開始命令及び溶接終了命令のいずれかである、
請求項1又は2に記載のワイヤ送給装置。
【請求項4】
前記出力部は、前記バッファ量の調整に関する情報をサーバへ送信する、
請求項1からのいずれか一項に記載のワイヤ送給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ送給装置及び溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
溶接ロボットによる溶接は、母材に対する溶接ワイヤの前進、後退を高速に繰り返して
行われることがある。溶接ワイヤの前進、後退がスムーズに行われるように、ワイヤを送
給する第1ワイヤ送給部と、ワイヤを前進、後退させる第2ワイヤ送給部との間には、溶
接ワイヤのバッファが設けられる(例えば、特許文献1等)。
【0003】
しかしながら、溶接ワイヤの前進、後退を繰り返し行うことにより溶接ワイヤのバッフ
ァ量が変化することがある。溶接ワイヤのバッファ量が不足したり多すぎたりすると、溶
接ワイヤの前進、後退がスムーズに行われなくなり、溶接の質が低下してしまう。そこで
、適宜ワイヤ送給部を駆動させ溶接ワイヤのバッファ量を適切な値(例えば、バッファ量
の最大値と最小値の中央値)に調整する作業が行われることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-058469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バッファ量の調整に関する情報を作業者は把握することができず、バッ
ファ量の調整が適切な時間内に行われているか等の確認を行うことができなかった。
【0006】
そこで、本発明は、バッファ量の調整に関する情報を把握することができるワイヤ送給
装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るワイヤ送給装置は、溶接ワイヤを送給する第1ワイヤ送給部と、
第1ワイヤ送給部により送給された溶接ワイヤを収容するワイヤバッファと、ワイヤバッ
ファに収容された溶接ワイヤを溶接トーチに送給する第2ワイヤ送給部と、ワイヤバッフ
ァに収容されている溶接ワイヤのバッファ量を取得するバッファ量取得部と、第1ワイヤ
送給部及び第2ワイヤ送給部のうち少なくともいずれかにおいて溶接ワイヤを移動させる
モータと、モータを駆動させ、ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤのバッファ量
を調整するバッファ量調整部と、バッファ量の調整に関する情報を出力する出力部と、を
備える。
【0008】
この態様によれば、バッファ量の調整に関する情報がワイヤ送給装置により外部に出力
されるので、作業者はバッファ量の調整に関する情報を把握することができ、バッファ量
の調整が適切に行われているか否かを確認することができる。
【0009】
上記態様において、バッファ量の調整に関する情報は、バッファ量のずれ量、ずれの方
向及びバッファ量の調整時間のうち少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0010】
この態様によれば、出力される情報に、バッファ量のずれ量、ずれの方向又はバッファ
量の調整時間が含まれることになるので、作業者は溶接の過程で生じるバッファ量のずれ
やバッファ量の調整についての詳細な情報を取得することができる。
【0011】
上記態様において、出力部は、前記バッファ量の調整に関する情報を溶接命令に関する
情報と関連付けて出力してもよい。
【0012】
この態様によれば、溶接命令ごとに、バッファ量のずれ量を把握することができるよう
になるため、例えば、バッファ量のずれ量を調整するための送給命令を追加する最適なタ
イミングを設定することが可能となる。
【0013】
上記態様において、溶接命令は、少なくとも溶接開始命令及び溶接終了命令のいずれか
であることとしてもよい。
【0014】
この態様によれば、溶接開始時におけるバッファ量のずれ量が判明するため、例えば、
溶接開始時におけるバッファ量のずれ量と溶接品質(例えば、アークスタート性能)との
相関関係を見出すことができ、溶接開始時の溶接品質を向上させることが可能となる。ま
た、溶接終了時におけるバッファ量のずれ量が判明するため、例えば、溶接終了時から次
の溶接開始時までの間にバッファ量が適切に調整されるようにバッファ量調整処理の内容
を設定することが可能となる。
【0015】
上記態様において、出力部は、バッファ量の調整に関する情報をサーバへ送信してもよ
い。
【0016】
この態様によれば、バッファ量の調整に関する情報がサーバへ送信されるので、バッフ
ァ量の調整に関する情報をサーバに保存し蓄積することができる。
【0017】
本発明の他の態様に係る溶接システムは、溶接ワイヤを送給する第1ワイヤ送給部と、
第1ワイヤ送給部により送給された溶接ワイヤを収容するワイヤバッファと、ワイヤバッ
ファに収容された溶接ワイヤを溶接トーチに送給する第2ワイヤ送給部と、ワイヤバッフ
ァに収容されている溶接ワイヤのバッファ量を取得するバッファ量取得部と、第1ワイヤ
送給部及び第2ワイヤ送給部のうち少なくともいずれかにおいて溶接ワイヤを移動させる
モータと、モータを駆動させ、ワイヤバッファに収容されている溶接ワイヤのバッファ量
を調整するバッファ量調整部と、バッファ量の調整に関する情報を出力する出力部と、を
有するワイヤ送給装置と、バッファ量の調整に関する情報を受信する受信部と、バッファ
量の調整に関する情報を表示する表示部と、を有する溶接ロボットの操作端末と、を備え
る。
【0018】
この態様によれば、バッファ量の調整に関する情報がワイヤ送給装置により外部に出力
されるので、作業者はバッファ量の調整に関する情報を把握することができ、バッファ量
の調整が適切に行われているか否かを確認することができる。また、溶接ロボットの操作
端末にもバッファ量の調整に関する情報が表示されるので、ワイヤ送給装置が設置される
位置から離れていても操作端末によりバッファ量の調整に関する情報を容易に確認するこ
とができる。
【0019】
上記態様において、バッファ量の調整に関する情報を受信するサーバをさらに備えてい
てもよい。
【0020】
この態様によれば、バッファ量の調整に関する情報がサーバへ送信されるので、バッフ
ァ量の調整に関する情報をサーバに保存し蓄積することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、バッファ量の調整に関する情報を把握することができるワイヤ送給装
置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る溶接システムを示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に係るワイヤバッファの構成を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るワイヤ送給装置によるバッファ量の調整処理及び情報の出力処理を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態に係る溶接ロボットの操作端末を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、各図において、同一
の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る溶接システム100を示すブロック図である。溶接システム
100は、ワイヤ送給装置10、ワイヤリール23、溶接トーチ24、溶接ワイヤ22、
操作端末40、サーバ50及びディスプレイ60を含む。
【0025】
ワイヤ送給装置10は、ワイヤリール23に巻かれた溶接ワイヤ22を溶接トーチ24
へ送給する装置である。ワイヤ送給装置10は、溶接ロボット等に搭載される。ワイヤ送
給装置10は、第1ワイヤ送給部11、第2ワイヤ送給部12、ワイヤバッファ20、バ
ッファ量取得部13、バッファ量調整部30、較正部31及び出力部14を有する。
【0026】
第1ワイヤ送給部11は、溶接ワイヤ22を溶接トーチ24に向けて送給する。第1ワ
イヤ送給部11は、溶接ワイヤ22を前進又は後退させるローラ(不図示)と当該ローラ
を回転させるモータ(不図示)を有している。モータが駆動することでローラが回転し溶
接ワイヤ22が前進又は後退する。ここで、溶接ワイヤ22の前進とは、溶接ワイヤ22
が溶接トーチ24側に移動することであり、溶接ワイヤ22の後退とは、溶接ワイヤ22
がワイヤリール23側に移動することをいう。
【0027】
第2ワイヤ送給部12は、溶接ワイヤ22を溶接トーチ24に向けて送給する。第2ワ
イヤ送給部12は、第1ワイヤ送給部11と同様に、溶接ワイヤ22を前進又は後退させ
るローラ(不図示)と当該ローラを回転させるモータ(不図示)を有している。モータが
駆動することでローラが回転し溶接ワイヤ22の位置が前進又は後退する。
【0028】
ワイヤバッファ20は、第1ワイヤ送給部11から送給された溶接ワイヤ22を一時的
に収容し、その後、第2ワイヤ送給部12へと溶接ワイヤ22を送る。ワイヤバッファ2
0内部に収容されている溶接ワイヤ22の量(以下、バッファ量という。)は溶接の過程
で変動することがある。例えば、第1ワイヤ送給部11により前進方向へ送給された溶接
ワイヤ22の量が、第2ワイヤ送給部12により前進方向へ送給された溶接ワイヤ22の
量よりも多い場合にはバッファ量は増加し、少ない場合にはバッファ量は減少する。
【0029】
バッファ量取得部13は、バッファ量を取得しバッファ量調整部30へ伝達する。バッ
ファ量の具体的な取得方法については、図2を用いて後述する。
【0030】
バッファ量調整部30は、バッファ量の調整を行う。バッファ量の調整とは、バッファ
量を適切な値に合わせることである。溶接ロボット等による溶接は、第2ワイヤ送給部1
2が有するモータを駆動させ母材に対する溶接ワイヤ22の前進、後退を高速に繰り返し
つつ行うことがある。このとき、ワイヤバッファ20内部に溶接ワイヤ22の一部がバッ
ファとして収容されていることにより、溶接ワイヤ22の前進、後退がスムーズに行われ
る。しかしながら、バッファ量が不足したり、多すぎたりすると溶接ワイヤ22の前進、
後退がスムーズに行われなくなるため、溶接の質が低下してしまう。そこで、バッファ量
を適切な値に保つバッファ量調整部30が必要となる。バッファ量の適切な値は、規定値
として予め定めておくことが好ましい。規定値は、例えばバッファ量の最大値と最小値の
中央値や、バッファ量の最小値に所定の値を加算したものであってもよい。バッファ量の
具体的な調整方法については、図3を用いて後述する。
【0031】
較正部31は、バッファ量取得部13の較正を行う。バッファ量取得部13の較正とは
、バッファ量取得部13が取得するバッファ量の最大値及び最小値の設定を行うことであ
る。
【0032】
まず、較正部31は、第1ワイヤ送給部11及び第2ワイヤ送給部12の少なくともい
ずれかのモータを駆動させ、バッファ量を増加させる。溶接ワイヤ22の応力が閾値に達
したときのバッファ量を最大値に設定する。なお、バッファ量の最大値の設定は、駆動さ
せているモータのトルクを計測し、トルクが閾値に達したときのバッファ量を最大値に設
定する等、任意の方法により行われてもよい。
【0033】
さらに、較正部31は、第1ワイヤ送給部11及び第2ワイヤ送給部12の少なくとも
いずれかのモータを駆動させ、バッファ量を減少させる。溶接ワイヤ22の張力が閾値に
達したときのバッファ量を最小値に設定する。なお、バッファ量の最小値の設定は、駆動
させているモータのトルクを計測し、トルクが閾値に達したときのバッファ量を最小値に
設定する等、任意の方法により行われてもよい。
【0034】
また、較正部31は、設定した最大値及び最小値に基づき規定値を設定する。上述した
ように規定値とは、例えば最大値と最小値の中央値や、最小値に所定の値を加算した値で
あってもよい。設定した規定値は、バッファ量調整部30が有する記憶部(不図示)に記
憶され、バッファ量の調整に使用される。
【0035】
出力部14は、バッファ量の調整に関する情報をバッファ量調整部30から取得し、外
部へ出力する。出力部14は、ディスプレイ又はスピーカ等で構成され視覚的又は聴覚的
に情報を出力してもよい。また、出力部14による出力には、操作端末40、サーバ50
及びディスプレイ60等の外部機器への情報の送信が含まれる。外部機器への送信は、有
線又は無線通信等により行われてもよい。
【0036】
バッファ量の調整に関する情報には、例えばバッファ量のずれ量、ずれの方向及びバッ
ファ量の調整時間が含まれる。バッファ量のずれ量とは、バッファ量取得部13が取得し
たバッファ量と規定値との差の絶対値である。ずれの方向とは、規定値に対するバッファ
量の大小である。すなわち、バッファ量が規定値に対して多い方向にずれているか又は少
ない方向にずれているかを示す。バッファ量の調整時間とは、バッファ量調整部30がバ
ッファ量の調整に要した時間である。
【0037】
操作端末40は、溶接ロボットを操作するための端末である。作業者は、操作端末40
を操作して溶接ロボットが実行する溶接の条件の設定等を行うことができる。操作端末4
0は、例えばティーチペンダントであってもよい。操作端末40は、受信部(不図示)及
び表示部を有する。受信部は、ワイヤ送給装置10が備える出力部14から送信されたバ
ッファ量の調整に関する情報を受信する。表示部は、受信部が受信したバッファ量に関す
る情報を表示する。操作端末40の表示部にバッファ量の調整に関する情報が表示される
ことにより、作業者はワイヤ送給装置10から離れた位置にいても、操作端末40により
バッファ量の調整に関する情報を容易に把握することができる。
【0038】
サーバ50は、出力部14から送信されたバッファ量の調整に関する情報を受信する。
サーバ50が受信したバッファ量に関する情報は、サーバ50内に保存及び蓄積される。
サーバ50に蓄積されたバッファ量に関する情報は、例えば機械学習の学習用データとし
て用いられてもよい。
【0039】
ディスプレイ60は、出力部14から送信されたバッファ量の調整に関する情報を受信
し、当該情報を表示する。ディスプレイ60は、例えば液晶表示装置であってもよい。デ
ィスプレイ60は、ワイヤ送給装置10が設置される位置から離れた位置に配置すること
としてもよいし、ワイヤ送給装置10に装備させることとしてもよい。
【0040】
図2は、本実施形態に係るワイヤバッファ20の構成を示す図である。ワイヤバッファ
20は、ケース25、ワイヤガイド27及び支持部26を有する。
【0041】
ケース25は、内部に溶接ワイヤ22の一部を収容する。ケース25には、入口25a
及び出口25bが形成されており、第1ワイヤ送給部11から送給された溶接ワイヤ22
は、入口25aからケース25内部を通り出口25bからケース25外部へ排出される。
ケース25から排出された溶接ワイヤ22は、第2ワイヤ送給部12へ送られる。なお、
第2ワイヤ送給部12が溶接ワイヤ22を後退方向へ送給している場合には、溶接ワイヤ
22は出口25bからケース25内部へと侵入する。
【0042】
ワイヤガイド27は、溶接ワイヤ22が内部を通過するガイドである。ワイヤガイド2
7は、例えばコイル状に形成された樹脂又は金属であってよく、バッファ量に応じて形状
が変化する。例えば、バッファ量が増加すると、ワイヤガイド27の曲りは急になり図2
に示す27aのような状態となる。一方、バッファ量が減少すると、ワイヤガイド27の
形状は直線形状に近づき図2に示す27bのような状態になる。
【0043】
支持部26は、ワイヤガイド27の略中央をケース25に対して回転可能に支持する。
本実施形態において支持部26は、円盤状に形成されており、直径方向に貫通する孔が設
けられている。当該孔の内部をワイヤガイド27の一部が通過している。バッファ量が増
加すると、支持部26は、ワイヤガイド27の動きに合わせ図2における反時計回りに回
転する。一方、バッファ量が減少すると、支持部26は、図2における時計回りに回転す
る。
【0044】
支持部26内部には、エンコーダ(不図示)が設けられている。エンコーダは、支持部
26の回転角度を検出する。バッファ量の変化に応じて支持部26の回転角度が変化する
図1に示すバッファ量取得部13は、エンコーダが検出した支持部26の回転角度から
バッファ量を取得することができる。
【0045】
なお、バッファ量の取得は、必ずしも回転角度を検出するエンコーダを用いて行われな
くともよい。例えば、ケース25の入口25a及び出口25bに溶接ワイヤ22の移動に
応じて回転するローラと当該ローラの回転数を検出するエンコーダを設けることで、エン
コーダが検出した回転数からケース25内部に侵入した溶接ワイヤ22の量とケース25
から排出された溶接ワイヤ22の量を求めることができる。ケース25に侵入した溶接ワ
イヤ22の量からケース25から排出された溶接ワイヤ22の量を差し引くことでケース
25内部のバッファ量を取得することができる。
【0046】
図3は、本実施形態に係るワイヤ送給装置10により実行されるバッファ量の調整処理
及び情報の出力処理を示すフローチャートである。まず、図3を用いてバッファ量の調整
処理について説明する。
【0047】
バッファ量取得部13がバッファ量を取得する(S10)。バッファ量取得部13は、
取得したバッファ量をバッファ量調整部30に伝達する。バッファ量調整部30は、受け
取ったバッファ量と較正部31によって予め定められている規定値を用いて、バッファ量
のずれ量及びずれの方向を算出する。具体的には、バッファ量から規定値を減算すること
により算出する。例えば、取得したバッファ量が「80」であり、規定値が「100」に
設定されている場合、バッファ量から規定値を減算すると「-20」となる。すなわち、
ずれ量は「20」、ずれの方向は「規定値より少ない方向」となる。以上より、バッファ
量は規定値より「20」不足していることがわかる。なお、ずれ量及びずれの方向を算出
する方法は、上述の方法に限られない。
【0048】
次に、バッファ量調整部30は、算出したバッファ量のずれ量及びずれの方向に基づい
て溶接ワイヤ22の移動の条件を設定する(S12)。移動の条件は、バッファ量を規定
値に合わせるように設定される。上述の例であれば、バッファ量は「20」不足している
ので、バッファ量を「20」増加させるように溶接ワイヤ22の移動の条件を設定する。
具体的には、第1ワイヤ送給部11により溶接ワイヤ22を「20」だけ前進させる又は
第2ワイヤ送給部12により溶接ワイヤ22を「20」だけ後退させる等の条件を設定す
る。なお、第1ワイヤ送給部11及び第2ワイヤ送給部12の両方を用いて溶接ワイヤ2
2を移動させる条件を設定してもよい。
【0049】
バッファ量調整部30は、設定した移動の条件に基づいて、第1ワイヤ送給部11又は
第2ワイヤ送給部12により溶接ワイヤ22を移動させ、バッファ量を規定値に合わせる
(S13)。以上がワイヤ送給装置10により行われるバッファ量の調整処理である。
【0050】
バッファ量の調整処理が終了した後、出力部14は、バッファ量の調整に関する情報を
出力する(S14)。出力部14による出力は、ディスプレイによる画面表示やスピーカ
による音声出力等で行われてもよい。また、出力部14は、操作端末40、サーバ50及
びディスプレイ60等の外部機器へバッファ量の調整に関する情報を送信してもよい。な
お、バッファ量の調整に関する情報のうち、バッファ量の調整処理が終了する前に取得で
きる情報(例えば、バッファ量のずれ量やずれの方向等)は、バッファ量の調整処理の終
了を待たずに出力部14により出力されてもよい。
【0051】
本実施形態に係るワイヤ送給装置10又は溶接システム100によれば、バッファ量の
調整に関する情報が外部に出力されるので、作業者はバッファ量の調整に関する情報を把
握することができる。また、バッファ量の調整に関する情報が溶接ロボットの操作端末4
0又はディスプレイ60に送信されるので、ワイヤ送給装置が設置される位置から離れて
いても操作端末40又はディスプレイ60によりバッファ量の調整に関する情報を容易に
確認することができる。
【0052】
さらに、本実施形態に係るワイヤ送給装置10又は溶接システム100によれば、バッ
ファ量の調整に関する情報がサーバ50へ送信されるので、当該情報をサーバ50に保存
し蓄積することができる。
【0053】
図4は、本実施形態に係る溶接ロボットの操作端末40を示す図である。作業者は、操
作端末40を介してバッファ量の調整に関する情報の確認を行うことができる。また、操
作端末40は、溶接状況の確認や溶接条件の設定等を行えるものであってもよい。操作端
末40は、表示部41及び操作ボタン45を備える。
【0054】
表示部41は、溶接工程42及びバッファ量の調整に関する情報43を表示する。表示
部41は、例えば液晶表示装置であってもよい。表示部41に表示される情報は、図4
示す溶接工程42及びバッファ量の調整に関する情報43に限られず、溶接ワイヤ22に
印加される電圧や溶接ワイヤ22を流れる溶接電流等の各種情報を含んでいてもよい。
【0055】
表示部41の上部には、溶接工程42が表示されている。溶接ロボットによる溶接は、
複数の溶接工程42に分けることができる。表示部41には、溶接ロボットが実行する順
序に従って溶接工程42が表示されている。溶接工程42のうち「1.AS」及び「5.
AS」は、母材に対して溶接ワイヤ22を送給し(スローダウン)、母材に溶接ワイヤ2
2を接触させてアークを発生させるアークスタート工程を示している。このアークスター
ト工程は、溶接開始位置に移動したときに発令される溶接開始命令が発令されることによ
り開始する。また、「2.MOVE」は、アークを発生させつつ溶接トーチを移動させる
溶接工程を示している。さらに、「3.AE」は、溶接を終了しアンチスティック処理を
行うアークエンド工程を示している。このアークエンド工程は、溶接開始位置に移動した
ときに発令される溶接終了命令が発令されることにより開始する。ここで、溶接開始命令
が発令される溶接開始位置から、溶接終了命令が発令される溶接終了位置までの区間を溶
接区間と呼ぶ。「4.MOVE」は、次の溶接対象となる母材に向かって溶接トーチ24
を移動させる移動工程を示している。
【0056】
また、溶接ロボットが実行中の溶接工程は、強調して表示されてもよい。本実施形態で
は、図4に示すように「5.AS」が二重線の枠で強調して表示されているため、溶接ロ
ボットがアークスタート工程を実行していることがわかる。なお、強調の方法は任意であ
る。
【0057】
表示部41の下部には、ワイヤ送給装置10の出力部14から受信したバッファ量の調
整に関する情報43が表示される。本実施形態では、「調整時の溶接工程」、「バッファ
量のずれ量、ずれの方向」及び「調整時間」が表示されている。
【0058】
調整時の溶接工程とは、バッファ量の調整を行った際に溶接ロボットが実行していた溶
接工程のことである。本実施形態では、図4に示すように「4.MOVE」が表示されて
いる。したがって、バッファ量の調整が、アークエンド工程が終了し、溶接ロボットによ
り移動工程が実行されているときに行われたことがわかる。
【0059】
また、表示部41には、バッファ量のずれ量、ずれの方向として「-20」が表示され
ている。表示されている「-20」のうち絶対値部分「20」は、バッファ量のずれ量を
示しており、符号部分「-」は、ずれの方向を示している。バッファ量が規定値より少な
い場合には「-」が表示され、多い場合には「+」が表示される。すなわち、本実施形態
においては「-20」と表示されていることから、バッファ量は規定値と比較して「20
」少ないことがわかる。
【0060】
また、表示部41には、調整時間として「0.5」と表示されている。調整時間とは、
バッファ量の調整に要した時間である。すなわち、本実施形態においては、バッファ量の
調整に「0.5」だけ時間を要したことが分かる。表示部41に表示させる調整時間は、
バッファ量の調整のために溶接ワイヤ22を移動した時間のみであってもよいし、バッフ
ァ量の取得等に要した時間と溶接ワイヤ22の移動に要した時間とを合計した時間であっ
てもよい。
【0061】
なお、表示部41に表示される各種情報の表示態様は図4に示す態様に限られない。例
えば、バッファ量のずれの方向であれば「不足」や「超過」などの文字で表示されていて
もよい。
【0062】
操作ボタン45は、溶接ロボットの溶接条件の入力等を受け付ける入力部である。操作
ボタン45を押下することにより入力が行われる。物理ボタン17の形状は、図4に示す
形状に限られず任意である。例えば、操作ボタンの形状は、上面視において円形等であっ
てもよい。操作ボタンの個数についても任意である。また、操作端末40に設けられる入
力部は、操作ボタン45に限られず、タッチパネルやダイヤル等の任意の入力部が設けら
れていてもよい。
【0063】
[変形例]
なお、出力部14は、バッファ量の調整に関する情報を溶接命令に関する情報と関連付
けて出力してもよい。溶接命令に関する情報には、例えば、溶接開始命令、溶接終了命令
等が含まれる。
【0064】
バッファ量の調整に関する情報を、溶接開始命令に関する情報と関連付けることにより
、それぞれの溶接開始時におけるバッファ量のずれ量が判明するため、例えば、溶接開始
時におけるバッファ量のずれ量と溶接品質(例えばアークスタート性能)との相関関係を
見出すことができ、溶接開始時の溶接品質を向上させることが可能となる。
【0065】
また、バッファ量の調整に関する情報を、溶接終了命令に関する情報と関連付けること
により、それぞれの溶接終了時におけるバッファ量のずれ量が判明するため、例えば、溶
接終了時から次の溶接開始時までの間にバッファ量が適切に調整されるようにバッファ量
調整処理の内容を設定することができる。例えば、ある溶接区間の溶接終了時にバッファ
量が「20」不足していることが出力されることにより、次の溶接区間の開始前にバッフ
ァ量を「20」増加させる溶接ワイヤ22の送給処理を行うことが可能となる。
【0066】
さらに、バッファ量の調整に関する情報を、溶接開始命令に関する情報及び溶接終了命
令に関する情報の双方と関連付けて出力してもよい。例えば、溶接終了時におけるバッフ
ァ量のずれ量から溶接開始時おけるバッファ量のずれ量を減算することにより、溶接作業
中に生じたバッファ量のずれ量を把握することが可能となる。また、溶接区間の溶接終了
時におけるバッファ量のずれ量から、次の溶接区間の溶接開始時おけるバッファ量のずれ
量を減算することにより、溶接区間の間を移動する際に生じたバッファ量のずれ量を把握
することが可能となる。これにより、例えば、溶接ロボットが移動する際に無理な姿勢を
とることにより生じた溶接ワイヤの送給経路への過剰なテンション等を検出することがで
きる。
【0067】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定
して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件
、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができ
る。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可
能である。
【符号の説明】
【0068】
10…ワイヤ送給装置、11…第1ワイヤ送給部、12…第2ワイヤ送給部、13…バ
ッファ量取得部、14…出力部、17…物理ボタン、20…ワイヤバッファ、22…溶接
ワイヤ、23…ワイヤリール、24…溶接トーチ、25…ケース、25a…入口、25b
…出口、26…支持部、27…ワイヤガイド、30…バッファ量調整部、31…較正部、
40…操作端末、41…表示部、42…溶接工程、43…情報、45…操作ボタン、50
…サーバ、60…ディスプレイ、100…溶接システム
図1
図2
図3
図4