(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-28
(45)【発行日】2022-12-06
(54)【発明の名称】等速ジョイント
(51)【国際特許分類】
F16D 3/2237 20110101AFI20221129BHJP
【FI】
F16D3/2237
(21)【出願番号】P 2021500077
(86)(22)【出願日】2018-07-05
(86)【国際出願番号】 EP2018068263
(87)【国際公開番号】W WO2020007475
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504467521
【氏名又は名称】ゲー カー エヌ ドライブライン インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】GKN Driveline International GmbH
【住所又は居所原語表記】Hauptstrasse 130, D-53797 Lohmar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン マウハー
(72)【発明者】
【氏名】アンナ グレメルマイアー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング ヒルデブラント
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ヴェッカーリング
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特公平8-26899(JP,B2)
【文献】特開平3-189417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
等速ジョイントであって、
長手方向軸線(L12)と複数の外側のボール溝(22)とを備えたジョイント外側部分(12)であって、接続側(19)と開口側(20)とを有するジョイント外側部分(12)と、
長手方向軸線(L13)と複数の内側のボール溝(23)とを備えたジョイント内側部分(13)と、を含んでおり、
それぞれ1つの外側のボール溝(22)と内側のボール溝(23)とが1つの溝対(22,23)を互いに形成しており、
前記等速ジョイントは、
各溝対(22,23)内におけるそれぞれ1つのトルクを伝達するボール(14)と、前記ジョイント外側部分(12)と前記ジョイント内側部分(13)との間に配置されたボールケージ(15)であって、前記トルクを伝達するボール(14)のうちの少なくとも1つをそれぞれ収容する、周方向に分配されたケージ窓(18)を有しているボールケージ(15)と、を含んでおり、
前記ボールケージ(15)の球面状の内面(17)と前記ジョイント内側部分(13)の球面状の外面との間には、半径方向の遊びが設けられており、
前記ジョイント内側部分(13)の前記長手方向軸線(L13)と前記ジョイント外側部分(12)の前記長手方向軸線(L12)とが同軸に向けられている状態で、前記ボールケージ(15)の前記ボール(14)が、ジョイント中央平面(EM)を規定していて、前記ジョイント内側部分(13)の長手方向軸線(L13)と前記ジョイント外側部分(12)の長手方向軸線(L12)とは、屈曲角度(β)がゼロ度(0°)ではない場合に、ジョイント屈曲平面(EB)を画定しており、
前記ジョイント屈曲平面(EB)で見て、前記等速ジョイント(11)の各角度位置において、外側のボール溝(22)とボール(14)との間の外側の接触点において前記外側のボール溝(22)と当接する外側の接線(T)と、内側のボール溝(23)とボール(14)との間の内側の接触点において前記内側のボール溝(23)と当接する内側の接線(T’)との間に開放角(δ)が形成されており、
前記ボール(14)の中心点は、前記外側のボール溝(22)および前記内側のボール溝(23)に沿って移動する際に、それぞれ1つの中心線(A,A’)を規定し、
前記溝対(22,23)の少なくとも1つは、
--15°<β<15°である屈曲角度(β)
の範囲の第1の屈曲角度範囲を有しており、
-屈曲角度がゼロ度(β=0°)の場合に、前記開放角(δ)はゼロ°よりも大きく(δ>0°)、
-前記開放角(δ)は、前記第1の屈曲角度範囲の少なくとも部分範囲内では、少なくとも2°増加し、
-前記開放角(δ)は、前記第1の屈曲角度範囲内の全ての屈曲角度(β)において、12°未満である(δ<12°)、
等速ジョイント。
【請求項2】
屈曲角度がゼロ°(β=0°)の場合、前記開放角(δ)は、1°よりも大きく(δ>1°)、かつ、8°よりも小さい(δ<8°)、請求項1記載の等速ジョイント。
【請求項3】
前記少なくとも1つの溝対(22,23)は、
前記第1の屈曲角度範囲に続くβ≦-15°またはβ≧15°である屈曲角度(β)
の範囲の第2の屈曲角度範囲を有しており、前記第2の屈曲角度範囲内では少なくとも1つの開放角(δ)は、前記第1の屈曲角度範囲の最大の開放角よりも大きく、
全てのボール溝(22,23)は、前記第2の屈曲角度範囲内で、全てのボール(14)の前記開放角(δ)が、それぞれ前記ジョイント屈曲平面(EB)で見て、同じ軸方向に開いているように形成されていて、
全てのボール溝(22,23)は、全てのボール(14)の前記開放角(δ)が、ジョイントが屈曲されていない状態で、0°よりも大きい(δ>0°)ように形成されている、
請求項1または2記載の等速ジョイント。
【請求項4】
8個の溝対と8個のボールとが設けられており、前記開放角(δ)は、前記第1の屈曲角度範囲内では、最大でも6°である(δ≦6°)、または、
6個の溝対(22,23)と6個のボール(14)とが設けられており、前記開放角(δ)は、前記第1の屈曲角度範囲内では、最大でも12°であり(δ≦12°)、前記開放角(δ)は、前記第1の屈曲角度範囲内で少なくとも4°増大する、
請求項1から3までのいずれか1項記載の等速ジョイント。
【請求項5】
前記少なくとも1つの溝対(22,23)は、前記第1の屈曲角度範囲内の各屈曲角度(β)において、前記ジョイント屈曲平面(EB)において前記ジョイント外側部分(12)の前記開口側へと移動しているボール(14)の開口側の開放角(δo)と、屈曲角度(β)が同じ場合に前記ジョイント屈曲平面(EB)において前記ジョイント外側部分(12)の前記接続側へと移動しているボール(14)の接続側の開放角(δa)とが、同じ軸方向に開いているように形成されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の等速ジョイント。
【請求項6】
前記ボールケージ(15)は、前記ジョイント外側部分(12)の内面に対して前記ボールケージ(15)をガイドするための球面状の外面(16)を有しており、
前記ボールケージ(15)の前記球面状の外面(16)の中心点と、前記ボールケージ(15)の前記球面状の内面(17)の中心点との間に、軸方向のずれ(オフセット)が設けられている、
請求項1から5までのいずれか1項記載の等速ジョイント。
【請求項7】
前記ボール(14)の中心点は、前記外側のボール溝(22)および前記内側のボール溝(23)に沿って移動する際にそれぞれ1つの中心線(A,A’)を規定し、前記中心線(A,A’)はその長さにわたって、異なる曲率を有するそれぞれ少なくとも2つの溝区分(22a,22o)を有していて、
前記中心線(A,A’)は、前記第1の屈曲角度範囲内に、それぞれ少なくとも1つの曲率変更点(Pzo,Paz)を有する、
請求項1から6までのいずれか1項記載の等速ジョイント。
【請求項8】
前記外側のボール溝(22)は、前記外側の中心線(A)が中央の屈曲角度範囲では、外側の中央区分中心点(Mz)を中心とした外側の円弧によって形成されているように、形成されており、前記外側の中央区分中心点(Mz)は、ジョイント中心点(M)に対して相対的に軸方向の間隔(オフセット)を第1の軸方向で有しており、
前記内側のボール溝(23)は、前記内側の中心線が中央の屈曲角度範囲では、内側の中央区分中心点を中心とした内側の円弧によって形成されているように、形成されており、前記内側の中央区分中心点は、ジョイント中心点(M)に対して相対的に軸方向の間隔(オフセット)を第2の軸方向で有している、
請求項7記載の等速ジョイント。
【請求項9】
前記外側のボール溝(22)は、前記中心線(A)が、前記ジョイント外側部分(12)の接続側の前記溝区分(22a)では、基準半径(Rr)によって規定される円弧区分(Cr)の延長線の半径方向外側に延在するように、形成されており、
前記基準半径(Rr)は、基準半径中心点(Mr)から、前記ジョイント中央平面(EM)と前記中心線(A)との交点へと延在しており、前記基準半径中心点(Mr)は、前記ジョイント中央平面(EM)に対して相対的に、前記ジョイント外側部分(12)の開口側の方向にシフトされていて、
前記外側のボール溝(22)は、前記中心線(A)が、前記ジョイント外側部分(12)の開口側の前記溝区分(22o)では、基準半径(Rr)によって規定される円弧区分(Cr)の延長線の半径方向外側に延在するように、形成されており、
前記基準半径(Rr)は、基準半径中心点(Mr)から、前記ジョイント中央平面(EM)と前記中心線(A)との交点へと延在しており、前記基準半径中心点(Mr)は、前記ジョイント中央平面(EM)に対して相対的に、前記ジョイント外側部分(12)の開口側の方向にシフトされている、
請求項8記載の等速ジョイント。
【請求項10】
前記内側のボール溝(23)は、前記ジョイント外側部分(12)の前記長手方向軸線(L12)と、前記ジョイント内側部分(13)の前記長手方向軸線(L13)との間の角度を二分する平面に関して、前記外側のボール溝(22)に対して鏡像対称的に形成されている、請求項1から9までのいずれか1項記載の等速ジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクを伝達するための等速ジョイントであって、外側のボール溝を備えたジョイント外側部分と、内側のボール溝を備えたジョイント内側部分と、外側のボール溝と内側のボール溝とから成る対偶内にガイドされる、トルクを伝達するボールと、ボールケージとを有しており、ボールケージは、周方向で分配された窓内にボールを収容し、1つの共通の平面で保持している、等速ジョイントに関する。等速ジョイントによって、屈曲運動を行いながら、ジョイント外側部分とジョイント内側部分との間でトルク伝達が可能である。
【0002】
基本的に等速ジョイントは、固定式ジョイントおよび摺動式ジョイントの形態で区別される。固定式等速ジョイントでは、実質的に、ジョイント外側部分とジョイント内側部分との間には屈曲運動可能性しかなく、すなわち通常の許容誤差を除いては軸方向の運動は行われない。これに対して、摺動式等速ジョイントによっては、屈曲運動の他、ジョイント外側部分とジョイント内側部分との間で軸方向の摺動運動も可能とされる。
【0003】
独国特許出願公開第102012102678号明細書により、固定式ジョイントの形態の等速ジョイントが公知である。等速ジョイントの各角度位置で、ボールへの外側の接線と内側の接線との間に開放角が形成されている。溝対は、小さな屈曲角度範囲内では、少なくとも1つのジョイント屈曲角度で開放角がゼロであり、より大きな屈曲角度範囲内では、ジョイント外側部分の開口側へと移動しているボールの開口側の開放角と、同じジョイント屈曲角度でジョイント外側部分の接続側へと移動しているボールの接続側の開放角とが、ゼロではなく、同じ軸方向に開いているように形成されている。
【0004】
欧州特許出願公開第0802341号明細書により、8個のトルクを伝達するボールを備えた固定式ジョイントの形態の等速ジョイントが公知である。それぞれ1つの外側のボール溝と内側のボール溝とから成る溝対は、ジョイントの開口側に向かって開いている。1つの実施形態では、ボール溝は、長さにわたって一様の半径を有している。別の実施形態では、ボール溝は、円弧状区分とそれに続く直線部分とから成っている;このような形式の等速ジョイントは、アンダカットのないジョイント(UF-ジョイント)とも呼ばれる。
【0005】
米国特許出願公開第2010/190558号明細書により、固定式ジョイントの形態の等速ジョイントが公知である。1つの実施形態では、ジョイント外側部分のボール溝は、異なる中心点を有する2つの円弧区分と、これらの円弧区分の間に位置するまっすぐな区分とを含む。まっすぐな区分は、両円弧区分に接線状に接続されている。円弧区分は、ジョイントが屈曲する際に、開口側の方向に移動しているボールにおける開放角と、ジョイント底面の方向に移動しているボールにおける開放角とは、逆の軸方向に開くように構成されている。
【0006】
米国特許第8267802号明細書により公知の固定式等速ジョイントでは、外側のボール溝の中心点と内側のボール溝の中心点とが、球面中心点に対してシフトされている。ピッチ円半径(PCR)に対して相対的な軸方向のシフト(F)の比は、0.045~0.065である。さらに、ジョイント中央平面で互いに移行する湾曲した溝区分とまっすぐな溝区分とを有した固定式等速ジョイントが公知である。さらに、溝長さ全体にわたって一様の湾曲された溝区分を有する固定式等速ジョイントが公知である。
【0007】
等速ジョイントの構造では、部分的に矛盾する多種の要求を満たさなければならない。すなわち、最も重要な目的は、損失出力を最小にするために、もしくはジョイントの効率を最大にするために、作動時に協働するジョイント構成部分の反力をできるだけ僅かにすることである。同時に、等速ジョイントは、運転時に生じる全ての角度位置において、確実に、かつできるだけ摩耗なしで作動されるのが望ましい。
【0008】
したがって本発明の根底を成す課題は、屈曲角度が小さい場合でも確実なケージ制御を可能とし、接触するジョイント部分間では僅かな反力しか生じず、これにより摩擦損失が相応に僅かであるような等速ジョイントを提案することである。
【0009】
この課題を解決するために、等速ジョイントであって:この等速ジョイントは、長手方向軸線と複数の外側のボール溝とを備えたジョイント外側部分であって、接続側と開口側とを有するジョイント外側部分と;長手方向軸線と複数の内側のボール溝とを備えたジョイント内側部分と、を含んでおり、それぞれ1つの外側のボール溝と内側のボール溝とが1つの溝対を互いに形成しており;さらにこの等速ジョイントは、各溝対内におけるトルクを伝達するボールと;ジョイント外側部分とジョイント内側部分との間に配置されたボールケージであって、トルクを伝達するボールのうちの少なくとも1つをそれぞれ収容する周方向に分配されたケージ窓を有しているボールケージと、を含んでおり、ジョイント内側部分の長手方向軸線とジョイント外側部分の長手方向軸線とが同軸に向けられている、即ち合致している状態で、ボールケージのボールが、ジョイント中央平面(EM)を規定していて、両長手方向軸線(L12,L13)は、屈曲角度(β)がゼロ°ではない場合に、ジョイント屈曲平面(EB)を画定しており;ジョイント屈曲平面(EB)で見て、等速ジョイントの各角度位置において、外側のボール溝とボールとの間の外側の接触点において外側のボール溝と当接する外側の接線(T)と、内側のボール溝とボールとの間の内側の接触点において内側のボール溝と当接する内側の接線(T’)との間に開放角(δ)が形成されており;ボールの中心点は、外側のボール溝および内側のボール溝に沿って移動する際に、それぞれ1つの中心線(A,A’)を規定し、即ち中心線(A,A’)に沿って移動し、;溝対の少なくとも1つは、ジョイント中央平面(EM)を中心としてプラスマイナス15°までの屈曲角度(β)(β=0°±15°)を含む中央の第1の屈曲角度範囲と、この範囲に続く、数値的に15°を超える屈曲角度(β)(β<-15°またはβ>15°)を含む第2の屈曲角度範囲と、を有しており;屈曲角度がゼロ°(β=0°)の場合に、開放角(δ)はゼロ°よりも大きく(δ>0°)、開放角(δ)は、中央の第1の屈曲角度範囲の少なくとも部分範囲内では、少なくとも2°増加若しくは2°変化し、開放角(δ)は、中央の屈曲角度範囲内の全ての屈曲角度(β)において、12°未満である(δ<12°)、等速ジョイントが提案される。
【0010】
この等速ジョイントの利点は、ジョイント中央平面を中心として15°までの小さい屈曲角度の場合でも、ボールケージの確実なケージ制御が保証されていることである。比較的小さい開放角(δ)に基づき、接触しているジョイント部分間には僅かな反力しか生じず、これにより摩擦損失は相応に僅かである。
【0011】
屈曲しながら等速ジョイントが回転する際に、トルクを伝達するボールはボール溝に沿って移動する。この場合、ジョイント屈曲平面で見て、ジョイント外側部分の開口側へと移動しているボールは、ジョイント外側部分の開口側の溝区分内へ、かつジョイント内側部分の接続側の溝区分内へガイドされる。ジョイント屈曲平面で見て、ジョイント外側部分の接続側へと移動しているボールは、ジョイント外側部分の接続側の溝区分内へ、かつジョイント内側部分の開口側の溝区分内へガイドされる。
【0012】
開放角は、それぞれ外側のボール溝および内側のボール溝内でガイドされるボールとの接触領域における、外側のボール溝の外側の接線と、内側のボール溝の内側の接線との間の角度で規定されている。この場合、開放角は、ジョイント外側部分の長手方向軸線とジョイント内側部分の長手方向軸線とによって画定されるジョイント屈曲平面に、もしくはこのジョイント屈曲平面内に位置し内部にボールを収容している溝対に、関係している。ボールとボール溝との接触領域はこの場合、例えば、横断面半径がボールの半径に相当する円形の溝横断面では、ジョイント屈曲平面内に直接位置しており、または例えばボール溝の横断面が円形ではない場合には、ボールとボール溝との間のボール接触線によって画定される、ジョイント屈曲平面に対して平行にシフトされた平面に位置している。後者の場合は、開放角を成す、各ボール溝に当接する接線の投影図が、ジョイント屈曲平面で見られる。
【0013】
少なくとも1つのボール溝は、ジョイントが屈曲していない状態(β=0°)で開放角(δ)がゼロ°よりも大きい(δ>0°)ように、特に1°よりも大きい(δ>1°)ように構成されている。好適には、ジョイントが屈曲していない状態(β=0°)で開放角(δ)は8°よりも小さく(δ<8°)、特に6°よりも小さい(δ<6°)。ジョイントが屈曲していない状態での開放角が比較的小さいことにより、ボール溝とボールとの間でボール溝に沿って作用する軸方向力は僅かである。
【0014】
ジョイントが屈曲していない位置もしくはジョイント中央平面を起点として、ジョイントの屈曲が増加するにつれ、開放角は実質的に増加する。この場合、少なくとも1つの溝対は、開放角(δ)が、第1の屈曲角度範囲内では、好適には少なくとも2°増加するように構成されている。少なくとも1つの溝対は、中央の屈曲角度範囲に続いて第2の屈曲角度範囲を有している。第2の屈曲角度範囲は、数値的に15°よりも大きな、すなわちマイナス15°よりも小さく、プラス15°よりも大きい(β<-15°またはβ>15°)屈曲角度(β)を含んでいる。特に、第2の屈曲角度範囲内の少なくとも1つの開放角(δ)は、中央の屈曲角度範囲の最大の開放角よりも大きくなっている。
【0015】
等速ジョイントについて、溝対のうちの少なくとも1つは、ジョイントが屈曲していない状態でゼロ°よりも大きな開放角を有し、中央の屈曲角度範囲で少なくとも2°増加する開放角を有する本発明による形態を有している。これには、2つ以上の溝対が上記構成を有していることも含まれ、この場合ボールもしくは溝対の数は、好適には偶数であり、上記構成を有したそれぞれ2つの溝対が、互いに直径上に対向している。本開示の範囲において、少なくとも1つの、もしくは1つの、もしくは前記の溝対と言う場合、それぞれ記載された特徴は、1つの、複数の、または全ての溝対にも関連させてよいことを理解されたい。
【0016】
少なくとも1つのボール溝は、少なくとも中央の屈曲角度範囲において、開口側のボール区分における開放角と接続側のボール区分における開放角とが同じ軸方向を向くように形成されている。同じ軸方向を向く開放角とは、ジョイント屈曲平面で、接続側の方向に移動しているボールに、外側のボール溝および内側のボール溝から作用する合力が、開口側の方向に移動しているボールに作用する合力の軸方向の力成分と同じ軸方向に向いている軸方向の力成分を有していることを意味する。この構成により、ボールケージは少なくともほぼ、角度を二分する平面に沿って制御される。場合によっては、他の溝対も、好適には本発明による溝対の開放角と同じ軸方向を向いている開放角を有している。好適には全ての溝対が、ジョイントの屈曲状態で、全てのボールの開放角δが、各ジョイント屈曲平面で見て、同じ軸方向に開いているように形成されている。このことは好適には、中央の屈曲角度範囲に続く第2の屈曲角度範囲にも当てはまる。さらに、良好な製造のためには好適には、全ての外側のボール溝が互いに同様に形成されていて、全ての内側のボール溝が互いに同様に形成されている。
【0017】
溝対もしくはトルクを伝達するボールの数は、等速ジョイントに対する特別な要件を考慮して任意に選択することができる。自動車のパワートレインでは、通常、6個または8個のボールを備えた等速ジョイントが使用され、任意の別の数、奇数も考慮することができる。8個の溝対および8個のボールを備えた例としてのジョイントでは、開放角(δ)は、中央の屈曲角度範囲では好適には6°以下(δ≦6°)であり、第2の屈曲角度範囲では相応に6°よりも大きい(δ>6°)。6個の溝対および6個のボールを備えた例としてのジョイントでは、開放角(δ)は、中央の屈曲角度範囲では好適には12°以下(δ≦12°)であり、第2の屈曲角度範囲では相応に12°よりも大きい(δ>12°)。中央の屈曲角度範囲内での開放角(δ)の増加は、6ボールジョイントの場合、特に少なくとも4°であってよい(例えばδ15-δ0>4°)。
【0018】
好適な構成によれば、ボールケージは、ジョイント外側部分の内面に対してボールケージをガイドするための球面状の外面と、ジョイント内側部分の外面に対してボールケージをガイドするための球面状の内面とを有している。球面状の外面の中心点と、球面状の内面の中心点との間に、軸方向のずれ(オフセット)が設けられていてよい。このような措置により、等速ジョイントが屈曲している状態で、良好なケージ制御が達成される。しかしながら、球面状の内面と球面状の外面との中心点が一平面内に位置していることも可能である。ボールケージの外側の球面状の外面と、ジョイント外側部分の内側の球面状の面との間かつ/またはボールケージの球面状の内面とジョイント内側部分の球面状の外面との間には、好適には半径方向の遊びが設けられている。
【0019】
ボールの中心点は、外側のボール溝および内側のボール溝に沿って動く際に、ジョイント屈曲平面で見て、中心線(A,A’)を規定する、即ち中心線(A,A’)に沿って移動する。この場合、好適な構成によれば、中心線(A,A’)は、その長さにわたって、異なる曲率を有する少なくとも2つの区分を有している。異なる曲率を有する少なくとも2つの区分は、外側のボール溝および内側のボール溝の、中央の区分内にかつ/または開口側の区分内にかつ/または接続側の区分内に位置していてよい。中心線(A,A’)が、ジョイント外側部分の接続側の溝区分および開口側の溝区分のうちの少なくとも一方の内側で、異なる曲率を有する少なくとも2つの部分区分を有していてもよい。
【0020】
好適には、中心線(A,A’)は、第1の屈曲角度範囲内に少なくとも1つの曲率変更部を有している。曲率変更とはこの関連では、例えばより大きな半径を有する円弧から、より小さい半径を有する円弧への、または直線への変更のように、数学的な意味で中心線の傾きの各変化であると理解されたい。中心線は高次曲線であってもよく、この場合、曲率変更は、高次曲線に沿った傾きの変化を意味することを理解されたい。
【0021】
1つの可能な実施形態では、外側のボール溝は、外側の中心線(A)が中央の屈曲角度範囲で、外側の中央区分中心点(Mz)を中心とした外側の円弧によって形成されているように、形成されており、外側の中央区分中心点(Mz)は、ジョイント中心点(M)に対して相対的に軸方向の間隔(オフセット)を第1の軸方向で有しており、内側のボール溝は、内側の中心線(A’)が中央の屈曲角度範囲で、内側の中央区分中心点(Mz’)を中心とした内側の円弧によって形成されているように、形成されており、内側の中央区分中心点(Mz’)は、ジョイント中心点(M)に対して相対的に軸方向の間隔(オフセット)を第2の軸方向で有している。
【0022】
ジョイント外側部分の接続側の溝区分では、外側のボール溝は特に、中心線(A)が、基準半径(Rr)によって規定される円弧区分(Cr)の半径方向外側に延在するように、形成されていてよい。基準半径(Rr)は、基準半径中心点(Mr)から、ジョイント中央平面(EM)と中心線(A)との交点へと延在するように規定されてよく、この場合、基準半径中心点(Mr)は、ジョイント中央平面(EM)に対して相対的に、ジョイント外側部分の開口側の方向にシフトされている。好適には、基準半径(Rr)は、接続側の溝区分の曲率半径よりも小さい。
【0023】
ジョイント内側部分の、中央の区分に開口側で続いている溝区分は、ジョイント外側部分の接続側の溝区分に相応して形成されている。すなわち、ジョイント内側部分の開口側の溝区分は、この溝区分の中心点軌道が、ジョイント外側部分の接続側の溝区分の中心点軌道に対して、角度を二分する平面に関して鏡像対称的であるように形成されている。これは、各溝対に当てはまる。
【0024】
等速ジョイントの組込み状態で、ジョイント室をシールするためにベローズを設けることができる。ベローズは、予荷重をかけて組み付けられてよい。
【0025】
溝角度β/2としては、本開示の範囲では、ジョイント中心点Mから、トルクを伝達するボールのボール中心までの半径がジョイント中央平面EMと成す角度であると理解される。この場合、ジョイントの各角度位置で、溝角度β/2は、通常、ジョイント屈曲角度βの半分であり、すなわち例えば15°までの溝角度β/2は、30°のジョイント屈曲角度に相当する。
【0026】
等速ジョイントは、ジョイント外側部分の球面状の内面もしくはジョイント内側部分の球面状の外面に対するボールケージのガイドに基づき、固定式ジョイントの形態で構成されており、その摺動運動は、ジョイント外側部分とジョイント内側部分との間の軸方向の遊びの範囲でのみ許容される。
【0027】
次に、図面につき好適な実施例を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】本発明による等速ジョイントの第1の実施形態をジョイントが屈曲していない状態で示す縦断面図である。
【
図1B】
図1Aのジョイントを、5°の屈曲角度だけ屈曲した状態で示す図である。
【
図1C】
図1Aのジョイントを、10°の屈曲角度だけ屈曲した状態で示す図である。
【
図1D】
図1Aのジョイントを、15°の屈曲角度だけ屈曲した状態で示す図である。
【
図1E】
図1Aのジョイントのジョイント外側部分を示す縦断面図である。
【
図2】本発明による等速ジョイントのジョイント外側部分を第2の変化実施形態で示す縦断面図である。
【0029】
図1A~
図1Eおよび
図2については、以下にこれらの共通点に関して、最初にまとめて説明する。本発明による等速ジョイント11が示されている。この等速ジョイント11は、ジョイント外側部分12、ジョイント内側部分13、トルクを伝達するボール14、ならびにボールケージ15を含む。ボールケージ15は、ジョイント外側部分12内にガイドされている球面状の外面16と、ジョイント内側部分13上でガイドされている球面状のケージ内面17とを有している。ボール14は、ボールケージ15に周方向で分配されたケージ窓18において、ジョイント中央平面EMで保持されている。ジョイント外側部分12には長手方向軸線L12が示されており、ジョイント内側部分13には長手方向軸線L13が示されている。ジョイント中央平面EMとの長手方向軸線L12,L13の交点が、ジョイント中心点Mを成している。
【0030】
ボールケージ15の球面状の内面17と、ジョイント内側部分13の球面状の外面との間ならびにボールケージ15の球面状の外面16と、ジョイント外側部分12の球面状の内面と、の間にはそれぞれ遊びが設けられている。
【0031】
ジョイント外側部分12は、接続ピン24が結合されている底面19と開口20とを有している。ジョイント内側部分13は開口を有しており、この開口には、トルクを伝達するための駆動軸25のピンが相対回動不能に差し込まれている。以下、底面19の位置は、「接続側に向かう」軸方向と言い、開口20の位置は「開口側に向かう」軸方向と言う。これらの概念は、ジョイント内側部分13に関しても用いられ、この場合、軸25がジョイント内側部分13に実際に接続されていることは重要ではない。ジョイント外側部分は、底面の代わりに、例えばたわみ継手の場合のように、接続側に向かって開かれて構成されていてもよいことを理解されたい。
【0032】
ジョイント外側部分12には等速ジョイント11の外側のボール溝22が形成されていて、ジョイント内側部分13には等速ジョイント11の内側のボール溝23が形成されている。それぞれ1つの外側のボール溝22と内側のボール溝23とが互いに対向して共に1つの溝対を互いに形成しており、この溝対内に、それぞれ1つのトルクを伝達するボール14がガイドされている。互いに対向している外側のボール溝22と内側のボール溝23とは、各長手方向軸線L12,L13を中心とした半径方向平面に位置していてよい。これらの半径方向平面は、それぞれ等しい角度間隔を互いに有している。しかしながら、周方向で隣接するそれぞれ2つの溝対が、長手方向軸線L12,L13に対して平行に位置する互いに平行な平面に延在していることも考えられる。この構成は「ツインボール」ジョイントとも呼ばれる。ジョイントの屈曲の際には、すなわち、ジョイント外側部分12に対して相対的にジョイント内側部分13が屈曲運動を行う場合には、ボール14は、ジョイント中央平面EMから出て、ジョイント外側部分12の長手方向軸線L12と、ジョイント内側部分13の長手方向軸線L13との間の角度を二分する平面へと少なくともほぼガイドされる。少なくともほぼとは、これらのボール14のボール中心点によって画定される平面が、角度を二分する平面の±10%の角度範囲内に位置すること、および特にこれに相当し得ることを意味する。
【0033】
内側のボール溝の形状に少なくともほぼ相当する外側のボール溝22の形状は、特に
図1Eからわかる。ボール14は、ジョイント外側部分12における外側のボール溝22と、ジョイント内側部分13における内側のボール溝23とに接触している。この場合、ボール14は、縦断面図で見て、外側のボール溝22との接触領域で外側の接触線Kを形成しており、内側のボール溝23との接触領域で内側の接触線K’を形成している。ボール14は、ボール溝22,23の溝底部で接触して示されているが、これは必ずしも必要ではない。したがって、図示したように、外側の接触線Kと内側の接触線K’とは、溝底部に位置していてよく、すなわち、長手方向軸線L12,L13を含む1つの半径方向平面内に、または長手方向軸線に対して平行な複数の平面内に位置していてよい。外側のボール溝22および内側のボール溝23に沿って移動する際に、ボール14の中心点がそれぞれ1つの中心線A,A’を規定する。中心線A,A’は、各接触線K,K’に対して平行に延在している。ボール溝22,23を記述するために、溝底部における接触線K,K’に、またはジョイントの屈曲運動の際のボール中心点の合計により定義される中心線A,A’に関連付けることができる。この場合、ボール中心線Aとは、ジョイント外側部分12の外側のボール溝22に沿ったボール14のボール中心点の線であり、ボール中心線A’とは、ジョイント内側部分13の対応する内側のボール溝23のボール中心線である。
【0034】
以下に、本発明による等速ジョイントの独自性について、特にボール溝22,23の構成について、詳しく説明する。この場合、本発明による等速ジョイントもしくはボール溝の設計に関して以下の定義が適用される:
【0035】
接線角度αは、中心線A,A’への、もしくは任意の溝点におけるジョイント外側部分12もしくはジョイント内側部分13の接触線K,K’の接線Tと、ジョイント外側部分もしくはジョイント内側部分の長手方向軸線L12,L13との間に形成される角度として定義する。
【0036】
ジョイント屈曲角度βは、ジョイント外側部分12の長手方向軸線L12と、ジョイント内側部分13の長手方向軸線L13との間に形成される角度として定義する。ジョイント屈曲角度βは、屈曲していないジョイントではゼロである。
【0037】
溝角度β/2は、ジョイント中心点Mからボール中心までの半径がジョイント中央平面EMと形成する角度として定義する。この場合、溝角度β/2は、ジョイントの全ての角度位置で常に、ジョイント屈曲角度βの半分である。
【0038】
開放角δは、第1のボール溝22及び第2のボール溝23との接触点におけるボール14の接線T,T’によって形成される角度として定義する。この場合、本開示における体系は、技術的に可能な屈曲角度により様々な大きさとなり得る開放角は概してδで示されている、というものである;選択された具体的な屈曲角度は、各屈曲角度と、ボールの位置に関する記述とにより補完することができる(例えばδ0は、屈曲角度がゼロの場合の開放角を示し、またはδ15oは、屈曲角度が15°の場合の開口側のボールにおける開放角を示す)。
【0039】
ジョイント中央平面(中心点平面)EMは、ジョイントが屈曲していない状態における、トルクを伝達するボール14のボール中心点によって定義されている。
【0040】
ジョイント外側部分12のボール中心線Aの基準半径Rrもしくはジョイント内側部分13のボール中心線A’の基準半径Rrは、基準半径中心点Mrを中心として、各中心線A,A’とジョイント中央平面EMとの中央平面交点によって定義されている。この場合、基準半径中心点Mrは、ピッチ円半径と、溝角度β/2の正弦(sinβ/2)との積に相当する、軸方向のずれの分だけ、ジョイント中央平面EMからずらされている。
【0041】
中心線A,A’の基準半径Rrは、基準円弧Crを定義する。
【0042】
図1A)~
図1D)には、等速ジョイントが様々な角度位置で示されていて、
図1A)はジョイント外側部分12とジョイント内側部分13とが同軸に向けられている状態で、すなわち屈曲角度β=0°の状態で、
図1B)は屈曲角度が5°の状態で、
図1C)は屈曲角度が10°の状態で、
図1D)は屈曲角度が15°の状態で示されている。
図1E)には、ジョイント外側部分12が、互いに等距離をおいて延在するその中心線Aと接触線Kと共に示されている。この場合、等速ジョイント11は、6個のボール14もしくは6個の溝対22,23を含んでいるが、他の個数も勿論考えられる。ジョイント外側部分12の中心線Aは、開口側から接続側の方向で、順番に、ジョイント外側部分12の開口側から接続側へと延在する開口側区分Aoと、この開口側区分Aoに連続的に接続している中央区分Azと、この中央区分Azに連続的に接続している接続側区分Aaとを有している。
【0043】
相応に、個別には示されていない、ジョイント内側部分13の中心線A’も、開口側から接続側の方向で、順番に、開口側区分Ao’と、この開口側区分に連続的に接続している中央区分Az’と、この中央区分に連続的に接続している接続側区分Aa’とを有している。
【0044】
外側のボール溝22の中央の溝区分22zと内側のボール溝23の中央の溝区分23zとは、ジョイント中央平面EMを含む、ジョイント中央平面EMを中心として±15°のジョイント屈曲角度範囲βzの内側に位置している。
図1A)により、屈曲角度βがゼロ度の場合に外側の接触線Kに接触する外側の中央の接線Tと、内側の接触線K’に接触する内側の中央の接線T’とが互いに、ゼロ度ではない開放角δ0を成すことがわかる。好適には、屈曲していないジョイントにおける開放角δ0は、少なくとも1°であり、かつ/または最大で8°である。この場合、ボール溝22,23は、ジョイントが屈曲していない状態で開放角δ0が約6°であるように形成されている。ジョイントが屈曲していない状態での開放角δ0が比較的小さいことにより、ボール溝22,23からボール14へは比較的小さい軸方向の力しか作用せず、これはジョイントに対して摩擦低減の効果がある。
【0045】
さらに、屈曲角度βが5°、10°、および15°である状態の等速ジョイント11を示している
図1B)~
図1E)により、外側のボール溝22および内側のボール溝23が、ジョイント屈曲平面において、ジョイント中央平面EMから開口側の方向に移動しているボール14o(図面の上半側)においても、ジョイント中央平面EMから接続側の方向に移動しているボール14a(図面の下半側)においても、軸方向に開く同一の開放角δが生じるように、構成されていることがわかる。すなわち、開放角δによってボール溝22,23からボール14に作用する軸方向の合力は、同じ軸方向において作用する。
【0046】
開放角δは、それぞれ、各ボール14との外側の接触線Kに当接する外側の接線Tと、上記ボール14との内側の接触線K’に当接する内側の接線T’とによって形成される。中央の屈曲角度範囲は、この場合、ジョイント中央平面EMを中心としてプラスマイナス15度(β=0°±15°)の屈曲角度を含むように、すなわち-15°~+15°の屈曲角度範囲βzを含むように(-15°<βz<15°)、規定されている。これに続く第2の屈曲角度範囲は、数値的に15度よりも大きな屈曲角度βを、すなわち15°よりも大きなかつ-15°よりも小さな屈曲角度β(β<-15°またはβ>15°)を含んでいる。
【0047】
5°の屈曲角度βについて、ジョイント屈曲平面において開口側の方向に移動しているボール14oにおける外側の接線T5oと内側の接線T5o’との間には、この実施形態では特に約2°の第1の開放角δ5oが形成され、ジョイント屈曲平面において接続側の方向に移動しているボール14aにおける外側の接線T5aと内側の接線T5a’との間には、特に約8°の第2の開放角δ5aが形成される。
【0048】
より大きな10°の屈曲角度βの場合は、開口側のボール14oおよび接続側のボール14aにおける開放角δ10o,δ10aは、この実施形態ではそれぞれ5°の屈曲角度の場合よりも大きい。この場合、開口側のボール14oにおける開放角δ10oは特に約6.5°であり、接続側のボール14aにおける開放角δ10aは特に約10°である。
【0049】
さらにより大きな15°の屈曲角度βの場合は、開口側のボール14oおよび接続側のボール14aにおける開放角δ15o,δ15aは、それぞれ10°の屈曲角度の場合よりも大きい。この場合、開口側のボール14oにおける開放角δ15oは特に約11°であり、接続側のボール14aにおける開放角δ15aは特に約10.5°である。
【0050】
上記屈曲角度βと上記開放角δの関係は、例えば選択された溝形状に依存することがわかる。全体として、開放角δは、少なくとも中央の屈曲角度範囲βzの部分範囲の内側では、少なくとも2°増加し、(δ15-δ0>2°)、開放角δは、中央の屈曲角度範囲βz内の全ての屈曲角度βにおいて、12度未満である(δ<12°)ようになっている。
【0051】
上記開放角δは、公知の固定式ジョイントと比較して、比較的小さく、これにより、互いに動く構成部分間の摩擦損失はより小さくなる。ボール溝は好適には、開口側へと移動しているボール14oの開放角δと、接続側へと移動しているボール14aの開放角δとが少なくともほぼ同じ大きさであるように構成されている。しかしながら、開口側の開放角と接続側の開放角との互いのある程度の大きさのずれは、例えば±10%の範囲で許容される。
【0052】
中央の屈曲角度範囲から外側へさらに屈曲する場合には、すなわち屈曲角度が数値的に15°を超える場合には、開放角δがさらに増大する。30°屈曲する場合は、開口側のボール14oにおける開放角は例えば30°~40°であってよく、接続側のボール14aにおける開放角は例えば15°~30°であってよいが、これらに限定されるものではない。論理的には、開口側のボール14と接続側のボール14における開放角δは、40°よりも大きな比較的大きいジョイント屈曲角度βの場合、逆の軸方向を指向していることも考えられる。しかしながらいずれにせよ、ボール溝は、少なくとも30°の屈曲角度βまでのジョイント屈曲の際は、開口側のボール14oと接続側のボール14aの両開放角δは同じ軸方向に開いているように形成されている。このような措置により、特に屈曲角度βが大きい場合であっても、良好なケージ制御が達成される。
【0053】
図1E)には、ジョイント外側部分12の外側のボール溝22の溝形状のさらなる詳細が示されている。基準半径Rrが記載されており、その半径中心点Mrは、ジョイント中心点Mに対して軸方向および半径方向でシフトされていて、その端部は、中心線Aとジョイント中央平面EMとの交点によって定義されている。個々の溝区分22o,22z,22aもしくは個々の中心線区分Ao,Az,Aaが、異なる曲率もしくは半径を有していることが示されている。
【0054】
この等速ジョイントのボール溝22,23は、全体として2つの曲率変更を有しているが、これに限定されるものではない。曲率変更とはこの関連では、数学的な意味では中心線の傾きの各変化であると理解されたい。
【0055】
第1の曲率変更点Pzoは、開口側の溝区分22oと中央の溝区分22zとの間に形成されている。曲率変更点Pzoは、ジョイント中央平面EMよりも開口側に向かってシフトされている。ジョイント中心点Mと曲率変更点Pzoとを通って延在する直線は、ジョイント中央平面EMに対して、例えば5°未満、特に4°未満であってよい角度を成している。開口側の溝区分22oは、この場合、直線によって形成されているが、これに限定されるものではない。この直線は、長手方向軸線L12に対してほぼ平行に延在している、もしくは長手方向軸線L12に対して小さい角度を成している;円弧または高次曲線による開口側の溝区分の構成も考えられる。
【0056】
これに続く中央の溝区分22zは、円中心点Mzを中心とした半径Rzを有する円弧により形成されているが、これに限定されるものではない。円中心点Mzは、ジョイント中心点Mよりも軸方向で開口側の方向に、半径方向でボール溝の方向にシフトされている。中心点Mに対する円中心点Mzの半径方向のシフトは、軸方向のシフトよりも大きい。円中心点Mzを中心とする円弧は、両曲率変更点PzoとPazとの間の中央の中心線区分Azを規定している。曲率変更点Pazは、ジョイント中央平面EMよりも接続側に向かってシフトされている。ジョイント中心点Mと曲率変更点Pazとを通って延在する直線は、ジョイント中央平面EMに対して、例えば10°未満、特に8°未満であってよい角度を成している。
【0057】
中央の溝区分22zに続く接続側の溝区分22aは、円中心点Maを中心とする半径Raを有する円弧によって形成されている。接続側の溝区分22aの半径Raは、中央の溝区分22zの半径Rzよりも大きいことがわかる。接続側の溝区分22aの円中心点Maは、この場合、長手方向軸線L12上に位置していて、ジョイント中心点Mよりも軸方向で開口側の方向にシフトされている。また円中心点Maの半径方向のシフトを有する別の構成も考えられる。
【0058】
中央の半径Rzは、中心点Mz(Mr)を中心とする基準円弧を有する基準半径Rrを規定する、即ち基準半径Rrと一致する。この場合、幾何学的には、開口側の溝区分22oにおける中心線Aoは、基準半径Rrの基準円弧の半径方向外側に位置するという結果が生じる。これは、この場合のジョイント外側部分12のボール溝について上述したように、開口側の方向のまっすぐなボール溝によって達成される。点PzoとPazとの間に延在する中央の溝区分22zでは、中心線区分Azが基準半径Rrと一致する。移行点Pazから接続側の方向に延在している接続側の溝区分22aの相応の中心線区分Azも、基準半径Rrの基準円弧の半径方向外側に位置している。しかしながら、例えば中心線Aが接続側の方向で、基準半径Rrによって規定される基準円弧の内側または基準円弧上に延在しているといった別の溝形状もこの場合考えられることを理解されたい。
【0059】
本発明による等速ジョイント11のジョイント内側部分13(個別には図示しない)は、ジョイント外側部分12のボール中心線Aに対して相補的に形成されているボール中心線A’を有している。すなわち、ジョイント内側部分13のボール中心線A’は、ジョイント中央平面EMに関して、もしくはジョイント外側部分12の長手方向軸線L12とジョイント内側部分13の長手方向軸線L13との間の角度を二分する平面に関して、ジョイント外側部分12のボール中心線Aに対して鏡像対称的である。したがって繰り返しを避けるため、ジョイント内側部分13のボール中心線A’の溝の延在形状に関しては、ジョイント外側部分12のボール溝の説明に関連して行った説明が参照される。
【0060】
図2には、本発明による等速ジョイントのジョイント外側部分12が、第2の変化実施形態で示されている。この実施形態は、
図1の実施形態にほぼ相当し、それに関してはその説明が参照される。この場合、同じ部分もしくは変化形部分には、
図1と同じ符号が付されている。
【0061】
上記の実施形態との相違点は、移行点Pzoがこの場合、ジョイント中央平面EMに位置することにある。これにより、僅かに開いた開口側の溝区分22oが生じ、すなわちまっすぐな中心線区分Aaが長手方向軸線L12に対して、開口側の方向で開く小さな角度、例えば5°未満の角度を成している。移行点Pazは、上記の実施形態の場合よりもジョイント中央平面EMからさらに離れるようにシフトされている。この場合、この実施形態では、ジョイント中心点Mと曲率変更点Pazとを通って延在する直線は、ジョイント中央平面EMに対して、例えば10°よりも大きくかつ15°未満の角度を成しているが、これに限定されるものではない。個別には示されていないジョイント内側部分は、ジョイント外側部分12に対して相補的に形成されている。その他の詳細は、上記の実施形態と実質的に相当する。
【0062】
図示した両実施形態には、屈曲角度βがゼロ度(β=0°)の場合、開放角δはゼロ度よりも大きく(δ>0°)、さらに開放角δは、少なくとも±15°の屈曲角度範囲βzの内側では、少なくとも2°は増加(δ15-δ0>2°)しており、開放角δは全ての屈曲角度βに関して、中央の屈曲角度範囲の内側では12度未満である(δ<12°)ことが当てはまる。このようにして、ジョイント中央平面EMを中心として15°までの小さい屈曲角度βの場合でも、ボールケージ15の確実なケージ制御が保証されている。比較的小さい開放角δに基づき、接触しているジョイント部分間には僅かな反力しか生じず、これにより摩擦損失は相応に僅かである。
【符号の説明】
【0063】
11 等速ジョイント
12 ジョイント外側部分
13 ジョイント内側部分
14 ボール
15 ボールケージ
16 外側のケージ面
17 内側のケージ面
18 窓
19 接続側
20 開口側
22 外側のボール溝
22a,22z,22o 溝区分
23 内側のボール溝
24 ピン
25 駆動軸
A,A’ 中心線
Aa,Az,Ao 中心線
Cr 基準円弧
EB ジョイント屈曲平面
EM ジョイント中央平面
K 接触線
L 長手方向軸線
Paz 移行点
Pzo 曲率変更点
R,Ra,Rz 半径
Rr 基準半径
M ジョイント中心点
Ma,Mz,Mo 中心点
T,T’ 接線
β ジョイント屈曲角度
δ 開放角